(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-24
(45)【発行日】2025-07-02
(54)【発明の名称】ネットワークコントローラ、推定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/079 20130101AFI20250625BHJP
【FI】
H04B10/079 150
(21)【出願番号】P 2023546633
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2021033039
(87)【国際公開番号】W WO2023037454
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹井 健生
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049616(WO,A1)
【文献】特開2010-278562(JP,A)
【文献】SASAI T. et al.,Simultaneous Detection of Anomaly Points and Fiber types in Multi-span Transmission Links Only by Receiver-side Digital Signal Processing,2020 Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC),米国,OSA,2020年03月,Th1F.1
【文献】SASAI T. et al.,Digital Backpropagation for Optical Path Monitoring: Loss Profile and Passband Narrowing Estimation,2020 European Conference on Optical Communications (ECOC),IEEE,2020年12月
【文献】SASAI T. et al.,Revealing Raman-amplified Power Profile and Raman Gain Spectra with Digital Backpropagation,2021 Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC),米国,OSA,2021年03月,M3I.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光送信機と、光受信機とが光伝送路を介して通信する光伝送システムに備えられるネットワークコントローラであって、
前記光送信機と、前記光受信機と、前記光伝送路とを含む光伝送システムにおける光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定するシミュレーション部と、
前記シミュレーション部により推定された前記デバイスの特性と、実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特性
を推定して出力する理想出力推定部と、
を備え、
前記光伝送システムにおける光伝送路の状態は、前記シミュレーションモデル毎に異な
り、
前記シミュレーション部により推定された前記デバイスの特性と、理想的なデバイスの特性を表す理想出力とを対応付けた1以上の第1データセットと、前記実空間で事前に取得した前記デバイスの特性と、理想的なデバイスの特性を表す理想出力とを対応付けた1以上の第2データセットとを記憶する記憶部をさらに備え、
前記理想出力推定部は、前記第1データセットと前記第2データセットとを任意の割合で混ぜて、前記理想出力と、前記デバイスの特性とに基づく演算を行うことで、二乗誤差を最小化するデジタルフィルタを構築し、構築した前記デジタルフィルタに、通信時に前記実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を入力することによって、前記理想的なデバイスの特性を推定するネットワークコントローラ。
【請求項2】
光送信機と、光受信機とが光伝送路を介して通信する光伝送システムに備えられるネットワークコントローラであって、
前記光送信機と、前記光受信機と、前記光伝送路とを含む光伝送システムにおける光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定するシミュレーション部と、
前記シミュレーション部により推定された前記デバイスの特性と、実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特性
を推定して出力する理想出力推定部と、
を備え、
前記光伝送システムにおける光伝送路の状態は、前記シミュレーションモデル毎に異な
り、
前記理想出力推定部は、前記シミュレーション部により推定された前記デバイスの特性それぞれと、前記実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性との尤度を算出し、算出した尤度が最も高い前記シミュレーション部により推定されたデバイスの特性を、前記理想的なデバイスの特性として推定するネットワークコントローラ。
【請求項3】
前記光送信機から送信された光信号を受信した前記光受信機の出力に基づいて、前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定するデジタル信号処理部をさらに備える、
請求項1
又は2に記載のネットワークコントローラ。
【請求項4】
光送信機と、光受信機とが光伝送路を介して通信する光伝送システムに備えられるネットワークコントローラが行う推定方法であって、
前記光送信機と、前記光受信機と、前記光伝送路とを含む光伝送システムにおける光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定し、
推定された前記デバイスの特性と、実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特
性を推定
して出力し、
前記光伝送システムにおける光伝送路の状態は、前記シミュレーションモデル毎に異な
り、
推定された前記デバイスの特性と、理想的なデバイスの特性を表す理想出力とを対応付けた1以上の第1データセットと、前記実空間で事前に取得した前記デバイスの特性と、理想的なデバイスの特性を表す理想出力とを対応付けた1以上の第2データセットとを任意の割合で混ぜて、前記理想出力と、前記デバイスの特性とに基づく演算を行うことで、二乗誤差を最小化するデジタルフィルタを構築し、構築した前記デジタルフィルタに、通信時に前記実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を入力することによって、前記理想的なデバイスの特性を推定する、推定方法。
【請求項5】
光送信機と、光受信機とが光伝送路を介して通信する光伝送システムに備えられるネットワークコントローラが行う推定方法であって、
前記光送信機と、前記光受信機と、前記光伝送路とを含む光伝送システムにおける光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定し、
推定された前記デバイスの特性と、実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特
性を推定
して出力し、
前記光伝送システムにおける光伝送路の状態は、前記シミュレーションモデル毎に異な
り、
推定された前記デバイスの特性それぞれと、前記実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性との尤度を算出し、算出した尤度が最も高い推定されたデバイスの特性を、前記理想的なデバイスの特性として推定する推定方法。
【請求項6】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のネットワークコントローラとしてコンピュータを機能するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークコントローラ、推定方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムには、光ファイバ、光アンプ、光フィルタ等の様々なデバイスが組み込まれている。従来では、これらのデバイス特性をOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)や光スペクトルアナライザ等のアナログ測定器により測定していた。しかしながら、アナログ測定器を用いた測定は、光ノード、光ファイバ毎に測定器が必要であり、設備コスト、運用コストが大きくなってしまう。
【0003】
そこで、近年、アナログ測定器による測定に代わり、受信側のデジタル信号処理により、光伝送システム内の様々なデバイスの特性を抽出する技術が提案されている(例えば、非特許文献1~4参照)。非特許文献1~4に記載の技術では、光伝送システムの受信信号に対し、デジタル信号処理のみで伝送システム中の様々なデバイスの応答を推定することが可能になる。例えば、非特許文献1~4に記載の技術では、光ファイバ損失又は分散分布、光アンプゲインスペクトル及び光フィルタ応答等が推定可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】T. Sasai, et al., “Simultaneous detection of anomaly points and fiber types in multi-span transmission links only by receiver-side digital signal processing”, in OFC2020, Paper Th1F.1.
【文献】T. Sasai, et al., “Physics-oriented learning of nonlinear Schrodinger equation: optical fiber loss and dispersion profile identification”, arXiv:2104.05890.
【文献】T. Sasai, et al., “Digital backpropagation for optical path monitoring: loss profile and passband narrowing estimation”, ECOC2020, Paper Tu2D.1.
【文献】T. Sasai, et al., “Revealing Raman-amplified power profile and Raman gain spectra with digital backpropagation”, in OFC2021, Paper M3I.5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1~4に記載の技術では、アナログ測定器に比べ、簡易に測定ができるものの、デバイスの特性の推定精度や分解能が劣るという問題があった。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、光伝送システムを構成するデバイスの特性を高精度に推定することができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、光送信機と、光受信機とが光伝送路を介して通信する光伝送システムに備えられるネットワークコントローラであって、前記光送信機と、前記光受信機と、前記光伝送路とを含む光伝送システムにおける光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定するシミュレーション部と、前記シミュレーション部により推定された前記デバイスの特性と、実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特性の出力を推定する理想出力推定部と、を備え、前記光伝送システムにおける光伝送路の状態は、前記シミュレーションモデル毎に異なるネットワークコントローラである。
【0008】
本発明の一態様は、光送信機と、光受信機とが光伝送路を介して通信する光伝送システムに備えられるネットワークコントローラが行う推定方法であって、前記光送信機と、前記光受信機と、前記光伝送路とを含む光伝送システムにおける光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に前記光伝送路に設けられるデバイスの特性を推定し、推定された前記デバイスの特性と、実空間で得られた前記光伝送路に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特性の出力を推定し、前記光伝送システムにおける光伝送路の状態は、前記シミュレーションモデル毎に異なる、推定方法である。
【0009】
本発明の一態様は、上記のネットワークコントローラとしてコンピュータを機能するためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、光伝送システムを構成するデバイスの特性を高精度に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態における光伝送システムの概要を説明するための図である。
【
図2】第1の実施形態における光伝送システムの構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態におけるデジタル信号処理部の機能構成の一例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態における非線形光学補償部の機能構成を表す概略ブロック図である。
【
図5】第1の実施形態におけるネットワークコントローラの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態における光伝送システムの概要を説明するための図である。
【
図7】第2の実施形態における光伝送システムの構成を示す図である。
【
図8】第2の実施形態におけるネットワークコントローラの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】デジタル信号処理部の機能構成の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における光伝送システムの概要を説明するための図である。第1の実施形態では、光伝送システムを構成するデバイスの特性の推定精度を向上させる方法として、デジタルフィルタを用いる。なお、以下の説明では、デバイスの特性として、光ファイバの損失分布を例に説明するが、光ファイバの分散分布、アンプゲインスペクトル及び光フィルタ応答についても同様の手法が適用可能である。以下の説明では、非特許文献1~4に記載の技術をDLM(Digital longitudinal monitoring)と記載する。
【0013】
デバイスの特性の推定精度向上のために、DLMにより得られる出力(以下「DLM出力」という。)を理想的な出力に変換するデジタルフィルタを設計することが考えられる。しかし、あらゆる伝送路デバイスの特性を精度良く出力するフィルタを構成するには、あらゆる光伝送路を実際に用意し、伝送路デバイス特性のデータセット(DLM出力と理想出力のセット)を膨大な量用意することが必要であり、現実的ではない。
【0014】
そこで、第1の実施形態では、デジタルフィルタを構成するためのデータセット不足を解消するため、
図1の下図に示す通り、光伝送システムのシミュレーションモデル(光伝送路のデジタルツイン)を構築する。なお、光伝送路モデルは豊富に研究されており、例えば下記参考文献1の技術が利用できる。光フィルタモデルには、使用する光フィルタに合わせて任意のフィルタ形状を使用可能であり、例えばガウシアンフィルタが用いられてもよい。
(参考文献1:E. Ip et al., “Compensation of Dispersion and Nonlinear Impairments Using Digital Backpropagation”, J. Lightw. Technol., 26(20),2008)
【0015】
第1の実施形態では、実際の光伝送システムのように、デジタルツイン上であらゆる光伝送路の状態(損失量、損失位置、分散量etc等)を仮想的に再現し、DLM出力を得て、DLM出力と理想出力のデータセットを複数保持する。ここで、理想出力とは、デジタルツイン上でユーザが与えた光ファイバの損失分布等(DLMの推定対象が光ファイバの分散分布、アンプゲインスペクトル及び光フィルタ応答等の場合はそれら)のことであり、DLMの推定対象である伝送路の状態のことである。そして、保持している複数のデータセットに基づいてデジタルフィルタを構築することによって、上記のデータセット不足を解消する。これにより、結果としてデバイスの特性を精度よく出力するデジタルフィルタを構築することができる。以下、具体的な構成について説明する。
【0016】
図2は、第1の実施形態における光伝送システム100の構成を示す図である。光伝送システム100は、光送信機1と、光受信機2と、光伝送路3と、ネットワークコントローラ6とを備える。光送信機1と、光受信機2とは、光伝送路3を介して通信可能に接続される。光伝送路3は、例えば光ファイバFで構成される。光伝送路3には、伝搬中に減衰する光信号を増幅して中継する1以上の中継ノード31Aが光増幅器(以下「光アンプ」ともいう。)として伝送路の途中に挿入される。なお、光伝送路3には、光フィルタが設けられてもよい。
【0017】
光送信機1は、外部の情報源から与えられる送信情報を符号化して電気信号を生成し、生成した電気信号を光信号に変換して光伝送路3を介して光受信機2に送信する。
【0018】
光受信機2は、コヒーレント受信器21と、デジタル信号処理部22とを備える。コヒーレント受信器21は、ベースバンド光信号を偏波面が直交する2つの光信号に分離する。これらの光信号と局発光源(不図示)の局発光が90°ハイブリッド回路(不図示)に入力され、両光を互いに同相及び逆相で干渉させた1組の出力光、直交(90°)及び逆直交(-90°)で干渉させた1組の出力光の計4つの出力光が得られる。これらの出力光はフォトダイオード(不図示)によりそれぞれアナログ信号に変換される。コヒーレント受信器21は、これらのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0019】
光伝送路3を光信号が伝搬する際に、信号の光パワーに比例して信号の位相が回転する非線形光学効果によって信号波形が歪む。デジタル信号処理部22は、コヒーレント受信器21が出力するデジタル信号を受信信号として取り込み、取り込んだ受信信号に対して非線形光学補償を行う。
【0020】
デジタル信号処理部22は、受信された光信号をもとに光伝送路3におけるデバイスの特性を推定してDLM出力としてネットワークコントローラ6に通知する。例えば、デジタル信号処理部22は、伝搬方向における光信号の強度分布を示す信号パワープロファイルをDLM出力として生成する。デジタル信号処理部22は、生成したDLM出力をネットワークコントローラ6に供給する。
【0021】
ネットワークコントローラ6は、実空間の光伝送システムを構成する光送信機1と光受信機2と光伝送路3とを含む複数のシミュレーションモデルを構築する。この際、ネットワークコントローラ6は、あらゆる光伝送路の状態(損失量、損失位置、分散量etc等)を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築する。ネットワークコントローラ6は、構築したシミュレーションモデルそれぞれにより得られた仮想DLM出力と、仮想DLM出力に対応する理想出力とを含むデータセットと、光受信機2から得られたDLM出力とに基づいて、理想的なDLM出力を推定する。
【0022】
図3は、第1の実施形態におけるデジタル信号処理部22の機能構成の一例を示す図である。デジタル信号処理部22は、非線形光学補償部23、適応等化部24、周波数オフセット補償部25、キャリア位相雑音補償部26、係数更新部27、および伝送特性推定部28を備える。
【0023】
図4は、第1の実施形態における非線形光学補償部23の機能構成を表す概略ブロック図である。非線形光学補償部23は、複数の線形補償部231-1~231-N及び複数の非線形補償部232-1~232-Nを備える。1つの線形補償部231及び1つの非線形補償部232が線形補償及び非線形補償を行う1つのセットであり、非線形光学補償部23はこのセットによる処理をNステップ行うためにN個のセットを備えている。
【0024】
線形補償部231-1は、フーリエ変換部233-1、波長分散補償部234-1及び逆フーリエ変換部235-1を備える。フーリエ変換部233-1は、時間領域の受信信号に対してFFTを行うことによって、時間領域の受信信号から周波数領域の受信信号に変換する。
【0025】
波長分散補償部234-1は、周波数領域の受信信号に対して、所定の値(例えば、exp^(-jβkω2))を乗算することによって波長分散補償を行う。なお、“^”の記号は、“^”以降の値がexpの上付きであることを意味する。例えば、exp^(-jβkω2)の場合には、(-jβkω2)がexpの上付きであることを意味する。“^”については以降の説明においても同様である。波長分散補償部234-1は、処理開始時には初期値として設定された分散係数βkを用いて波長分散補償を行い、係数更新部27から分散係数βkが更新される度に更新後の分散係数βkを用いて波長分散補償を行う。
【0026】
逆フーリエ変換部235-1は、波長分散補償部234-1から出力された信号に対してIFFTを行うことによって、波長分散補償された受信信号を時間領域の受信信号に変換する。
非線形光学補償部23は、逆フーリエ変換部235から出力された信号系列に対して、所定の値(例えば、exp^(-jφk))を乗算することによって非線形光学効果の補償を行う。具体的には、非線形光学補償部23は、処理開始時には初期値として設定された位相回転量φkを用いて非線形光学効果の補償を行い、係数更新部27から位相回転量φkが更新される度に更新後の位相回転量φkを用いて非線形光学効果の補償を行う。
【0027】
線形補償部231-Nは、線形補償部231-1と同様の処理を行う。また、非線形補償部232-Nは、非線形補償部232-1と同様の処理を行う。
【0028】
図3に戻って、光受信機2の説明を続ける。適応等化部24は、光伝送路3において光信号の波形に生じた歪みを補償する機能部である。すなわち、適応等化部24は、光伝送路3において符号間干渉(シンボル間干渉)によって光信号に生じた符号誤りを訂正する機能部である。適応等化部24は、設定されたタップ係数に応じて、FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)によって適応等化処理を実行する。
【0029】
周波数オフセット補償部25は、適応等化処理が実行された4つのデジタル信号に対して、周波数オフセットを補償する処理を実行する。
【0030】
キャリア位相雑音補償部26は、周波数オフセットが補償された4つのデジタル信号に対して、位相オフセットを補償する処理を実行する。
【0031】
係数更新部27は、非線形光学補償部23において使用される全係数(例えば、分散係数βk、位相回転量φk等)を全ステップにおいて更新する。第1実施形態では、例えば係数更新部27は、キャリア位相雑音補償部26からの出力信号と、トレーニング信号とに基づいて、非線形光学補償部23において使用される全係数(例えば、分散係数βk、位相回転量φk等)を全ステップにおいて更新する。係数更新部27は、更新した係数を、非線形光学補償部23の各機能部に設定する。第1実施形態において出力信号と比較されるトレーニング信号は、電気信号に変換された送信信号である。
【0032】
伝送特性推定部28は、光伝送路3の伝送特性を推定する。例えば、伝送特性推定部28は、最適化された位相回転量φkを用いて損失分布を推定する。伝送特性推定部28は、推定した損失分布を示す情報をDLM出力としてネットワークコントローラ6に供給する。なお、伝送特性推定部28は、最適化された分散係数βkを用いて分散分布を推定してもよい。この場合、伝送特性推定部28は、分散分布を示す情報をDLM出力としてネットワークコントローラ6に供給する。
【0033】
次に、
図2に戻ってネットワークコントローラ6の具体的な構成について説明する。ネットワークコントローラ6は、シミュレーション部61、記憶部62及び理想出力推定部63を備える。
【0034】
シミュレーション部61は、光伝送システム100におけるあらゆる光伝送路3の状態(損失量、損失位置、分散量etc等)を仮想的に再現するための1以上のシミュレーションモデルを構築する。シミュレーション部61は、構築した1以上のシミュレーションモデルそれぞれにより、1以上の仮想DLM出力と、1以上の仮想DLM出力それぞれに対応する理想出力を取得する。
【0035】
記憶部62には、シミュレーション部61により得られた、1以上の仮想DLM出力と、1以上の仮想DLM出力それぞれに対応する理想出力とを対応付けた1以上の第1データセットが記憶される。さらに、記憶部62には、実環境で得られた1以上のDLM出力と、1以上のDLM出力それぞれに対応する理想出力とを対応付けた1以上の第2データセットが記憶される。理想出力は、人手で対応付けられてもよいし、シミュレーション部61により自動的に対応付けられてもよい。記憶部62は、磁気記憶装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0036】
理想出力推定部63は、フィルタ構築部631と、理想出力部632とで構成される。フィルタ構築部631は、記憶部62に記憶されている第1データセット及び第2データセットを用いてデジタルフィルタを構築する。理想出力部632は、フィルタ構築部631により構築されたデジタルフィルタと、光受信機2から得られたDLM出力とに基づいて光伝送システム100の理想的なデバイスの特性の出力を推定する。
【0037】
図5は、第1の実施形態におけるネットワークコントローラ6の処理の流れを示すフローチャートである。なお、
図5の処理の開始時には、シミュレーション部61により得られたシミュレーション結果が記憶部62に記憶されているものとする。
フィルタ構築部631は、記憶部62に記憶されている第1データセット及び第2データセットを用いてデジタルフィルタを構築する(ステップS101)。具体的には、フィルタ構築部631は、第1データセットと、第2データセットを任意の割合で混ぜて、例えば以下の式(1)を元に変形した式(2)に基づいて、二乗誤差||y-Ah||
2を最小化する最適なFIRフィルタhを構築する。
【0038】
【0039】
【0040】
なお、ここで使用するデジタルフィルタは任意である。上記の例では、FIRフィルタのような線形フィルタを構築する構成を示したが、ボルテラフィルタやニューラルネットワークのような非線形フィルタを用いてもよい。ボルテラフィルタやニューラルネットワークのような非線形フィルタを用いた方がフィルタの表現力が向上し、より精度の高いフィルタを構成できる可能性がある。
【0041】
なお、デジタルフィルタの構築の方法も任意である。上記の例のような最小二乗法を用いた最適フィルタでも良いし、勾配法を用いて最適化されたフィルタでもよい。勾配法における目的関数も二乗誤差以外ものを用いてもよい。例えば式(2)内のATAに任意の正則化項λRを加えても良い。Rは任意の行列である。
【0042】
デジタルフィルタが構築された後、光伝送システム100のユーザは、光送信機1と光受信機2との通信を開始させる。これにより、光受信機2では、光送信機1から送信された光信号に対してデジタル信号処理を行うことでDLM出力を取得することができる。光受信機2は、取得したDLM出力をネットワークコントローラ6に出力する。ネットワークコントローラ6の理想出力部632は、光受信機2により得られたDLM出力を入力とする(ステップS102)。
【0043】
理想出力部632は、入力したDLM出力を、フィルタ構築部631により構築されたデジタルフィルタに入力することで理想的なデバイスの特性の出力を推定する(ステップS103)。例えば、デジタルフィルタが高精度なフィルタである場合、入力されたDLM出力から雑音が除去されて、デバイスの特性がより明確に表れた出力結果を得ることができる。理想出力部632は、推定した理想的なデバイスの特性の出力の情報を外部に出力する。
【0044】
以上のように構成された光伝送システム100によれば、光送信機1と、光受信機2と、光伝送路3とを含む光伝送システム100における複数の光伝送路の状態を異なる仮想空間に仮想的に再現することで複数のシミュレーションモデルを構築して、シミュレーションモデル毎に光伝送路3に設けられるデバイスの特性を推定するシミュレーション部61と、シミュレーション部61により推定されたデバイスの特性と、実空間で得られた光伝送路3に設けられるデバイスの特性とに基づいて、理想的なデバイスの特性の出力を推定する理想出力推定部63と備える。これにより、あらゆる光伝送路の状態を踏まえて、理想的なデバイスの特性の出力を推定することができる。そのため、伝送システムを構成するデバイスの特性を高精度に推定することが可能になる。
【0045】
さらに、光伝送システム100では、シミュレーション部61によるシミュレーションによってあらゆる伝送路デバイスの特性を推定している。そして、光伝送システム100では、第1データセットと、第2データセットとを用いてデジタルフィルタを構築し、構築したデジタルフィルタに、実空間で得られた光伝送路に設けられるデバイスの特性の出力を入力することによって、理想的なデバイスの特性の出力を推定する。上述したように、デバイスの特性の推定精度向上のためには、あらゆる伝送路デバイスの特性を精度良く出力するフィルタを構成する必要があり、あらゆる光伝送路を実際に用意し、伝送路デバイス特性のデータセットを膨大な量用意することは現実的ではない。それに対して、本発明では、シミュレーションによってあらゆる伝送路デバイスの特性を推定しているため、より多くのデータセットを用意することができる。その結果、デバイスの特性を精度よく出力するデジタルフィルタを構築することができる。そのため、光伝送システム100では、構築したデジタルフィルタを用いることにより、光伝送システムを構成するデバイスの特性を高精度に推定することが可能になる。
【0046】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、光伝送システムを構成するデバイスの特性の推定精度を向上させる方法として、最尤推定の手法を用いる。
【0047】
図6は、第2の実施形態における光伝送システムの概要を説明するための図である。第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、デジタルツイン上であらゆる光伝送路の状態(損失量、損失位置、分散量etc等)を仮想的に再現し、DLM出力を得て、DLM出力と理想出力のデータセットを複数保持する。そして、ネットワークコントローラにおいて、保持している複数のDLM出力と、実際に得られたDLM出力との尤度をそれぞれ算出し、最大の尤度を与えるDLM出力を特定する。特定したDLM出力を出力した光伝送路の状態(理想出力)が、求める伝送路の状態となる。以下、具体的な構成について説明する。
【0048】
図7は、第2の実施形態における光伝送システム100aの構成を示す図である。光伝送システム100aは、光送信機1と、光受信機2と、光伝送路3と、ネットワークコントローラ6aとを備える。光伝送システム100aは、ネットワークコントローラ6aの構成以外は光伝送システム100と同様である。そのため、第1の実施形態との相違点について説明する。
【0049】
ネットワークコントローラ6aは、シミュレーション部61、記憶部62a及び理想出力推定部63aを備える。
【0050】
記憶部62aには、シミュレーション部61により得られた、1以上の仮想DLM出力と、1以上の仮想DLM出力それぞれに対応する理想出力が記憶される。記憶部62aは、磁気記憶装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0051】
理想出力推定部63aは、尤度算出部633と、理想出力部632aとで構成される。尤度算出部633は、1以上の仮想DLM出力それぞれと、光受信機2から得られたDLM出力とを尤度を算出する。理想出力部632aは、尤度算出部633により算出された複数の尤度のうち、最大の尤度を与える仮想DLM出力を特定する。理想出力部632aは、特定した仮想DLM出力に対応する光伝送路の状態(理想出力)を、光伝送システム100aの理想的なデバイスの特性の出力として推定する。
【0052】
図8は、第2の実施形態におけるネットワークコントローラ6aの処理の流れを示すフローチャートである。なお、
図8の処理の開始時には、シミュレーション部61により得られたシミュレーション結果が記憶部62に記憶されているものとする。
尤度算出部633は、光受信機2により得られたDLM出力を入力とする(ステップS201)。尤度算出部633は、入力したDLM出力と、記憶部62aに記憶されている仮想DLM出力それぞれとの尤度を算出する(ステップS202)。例えば、尤度算出部633は、入力したDLM出力と、記憶部62aに記憶されている仮想DLM出力それぞれとの尤度を、以下の式(3)に基づいて算出してもよい。
【0053】
【0054】
式(3)において、aはDLM出力を表し、a´は仮想DLM出力を表す。なお、尤度算出部633は、式(3)に示す二乗誤差(負号つき)に限らず、別の方法で尤度を算出してもよい。
【0055】
尤度算出部633は、算出した各尤度の情報を理想出力部632aに出力する。理想出力部632aは、尤度算出部633から出力された各尤度の情報の中から、最大の尤度を与える仮想DLM出力を特定する。理想出力部632aは、特定した仮想DLM出力に対応する光伝送路の状態を、光伝送システム100aの理想的なデバイスの特性の出力として推定する(ステップS203)。理想出力部632aは、推定した理想的なデバイスの特性の出力の情報を外部に出力する。
【0056】
以上のように構成された光伝送システム100aでは、まずシミュレーション部61により推定されたデバイスの特性それぞれと、実空間で得られた光伝送路に設けられるデバイスの特性との尤度を算出する。そして、光伝送システム100aでは、算出した複数の尤度のうち、最大の尤度を与える仮想DLM出力を特定する。そして、光伝送システム100aでは、特定した仮想DLM出力に対応する光伝送路の状態(理想出力)を、光伝送システム100aの理想的なデバイスの特性の出力として推定する。このように、実空間で得られたDLM出力に近い光伝送路の状態を推定することができる。そのため、伝送システムを構成するデバイスの特性を高精度に推定することが可能になる。
【0057】
(第1の実施形態及び第2の実施形態に共通する変形例)
上述した構成では、DLM出力の計算を光受信機2で行う構成を示したが、DLM出力の計算をネットワークコントローラ6,6aで行うように構成されてもよい。このように構成される場合、光受信機2のデジタル信号処理部22の機能がネットワークコントローラ6,6aに実装される。
【0058】
各実施形態においてDLM出力を得るための構成は、上述したデジタル信号処理部22の構成に限定される必要はない。デジタル信号処理部22は、DLM出力を得ることができる構成であれば他の構成であってもよい。
図9は、デジタル信号処理部22aの機能構成の別例を示す図である。デジタル信号処理部22aは、波長分散補償部29、適応等化部24、周波数オフセット補償部25、キャリア位相雑音補償部26、波長分散付加部30、非線形光学補償部23、係数更新部27、及び伝送特性推定部28を備える。デジタル信号処理部22aは、デジタル信号処理部22の構成に、波長分散補償部29及び波長分散付加部30をさらに備える。
【0059】
適応等化部24、周波数オフセット補償部25、キャリア位相雑音補償部26、非線形光学補償部23、係数更新部27、及び伝送特性推定部28の機能は、
図3と同じであるため説明を省略する。波長分散補償部29は、光伝送路3で生じた波長分散による歪みを補償する。具体的には、波長分散補償部29は、周波数領域の受信信号に対して、所定の値(例えば、exp^(-jβ
kω
2))を乗算することによって波長分散補償を行う。波長分散付加部30は、波長分散補償部29で補償した波長分散を再度、信号に付加する機能部である。具体的には、波長分散付加部30は、周波数領域の受信信号に対して、波長分散補償部29で乗算した値の逆数(例えば、exp^(+jβ
kω
2))を乗算することによって波長分散の付加を行う。
【0060】
上述した光送信機1、光受信機2、及びネットワークコントローラ6,6aの一部または全部の機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0061】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0062】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、光伝送システムを構成するデバイスの特性を推定する技術に適用できる。
【符号の説明】
【0064】
100,100a…光伝送システム、1…光送信機、2…光受信機、21…コヒーレント受信器、22…デジタル信号処理部、23…非線形光学補償部、231…線形補償部、232…非線形補償部、233…フーリエ変換部、234…波長分散補償部、235…逆フーリエ変換部、24…適応等化部、25…周波数オフセット補償部、26…キャリア位相雑音補償部、27…係数更新部、28…伝送特性推定部、29…波長分散補償部29、30…波長分散付加部、3…光伝送路、31A…中継ノード、6,6a…ネットワークコントローラ、61…シミュレーション部、62,62a…記憶部、63,63a…理想出力推定部、631…フィルタ構築部、632,632a…理想出力部、633…尤度算出部