(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-24
(45)【発行日】2025-07-02
(54)【発明の名称】タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/575 20060101AFI20250625BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250625BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20250625BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250625BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20250625BHJP
A61P 11/10 20060101ALI20250625BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20250625BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250625BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250625BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20250625BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250625BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P11/00
A61P31/14
A61P29/00
A61P11/14
A61P11/10
A61P1/12
A61P27/02
A61P17/00
A61P13/12
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2023571408
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 KR2022007007
(87)【国際公開番号】W WO2022245089
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】10-2021-0064758
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521165873
【氏名又は名称】シャペロン インク.
【氏名又は名称原語表記】SHAPERON INC.
【住所又は居所原語表記】#606(Jagok-dong), Gangnam ACE Tower 174-10, Jagok-ro Gangnam-gu, Seoul 06373 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ソン、スンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ソンエ
【審査官】星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0103469(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0111284(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-0785656(KR,B1)
【文献】Frontiers in Immunology,2018年,Vol. 9,p.1-15,DOI: 10.3389/fimmu.2018.01984
【文献】Frontiers in Pharmacology,2020年,Vol. 11, Article1095,p.1-12,DOI:doi.org/10.3389/fphar.2020.01095
【文献】Science Bulletin,2019年,Vol. 64, Issue3,p.180-188,DOI:doi.org/10.1016/j.scib.2018.08.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/575
A61P 11/00
A61P 31/14
A61P 29/00
A61P 11/14
A61P 11/10
A61P 1/12
A61P 27/02
A61P 17/00
A61P 13/12
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記タウロデオキシコール酸が、下記[化学式2]で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【化1】
【請求項3】
前記塩が、ナトリウム塩であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩が、TNF-α、IL-1β、IL-8、IL-6またはそれらの組み合わせからなる群から選択される炎症性サイトカインの生成を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩が、cAMPを増加させることでNF-κBの活性化を抑制し、P2X7の機能を抑制することでNLRP3炎症複合体の活性化を抑制するGPCR19作用剤であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による下気道感染疾患が、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染により誘発される発熱、咳、痰、身体のうずき、咽喉痛、下痢、結膜炎、頭痛、皮膚発疹、呼吸困難、急性気管支炎、肺炎、肺化膿症、腎不全、腎機能障害、敗血症性ショック、敗血症及びサイトカイン放出症候群からなる群から選択される少なくとも1つの症状を有する疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療用組成物に関し、より詳細には、タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含んだ下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年初めてその存在が確認されてからこれまで2億人以上の感染者が確認され、4百万人以上が死亡した、世界中で深刻に人類の保健を脅かす流行病である。COVID-19は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって伝播される重症急性呼吸器症候群疾患である。SARS-CoV-2は、コロナウイルス群(Coronaviridae)に属し、サスコロナウイルス(SARS-CoV;重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)、マーズコロナウイルス(Middle East respiratory syndrome coronavirus;MERS-CoV、中東呼吸器症候群コロナウイルス)と類似したウイルスと知られている。いまだに明確な感染源である宿主と感染経路は特定されていないが、コウモリとの接触による感染の可能性が高く、人同士の密接接触による伝播が可能であると報告されている。
【0003】
SARS-CoV-2は、ヒトと様々な動物に感染され得るウイルスであって、遺伝子サイズ27~32kbのRNAウイルスである。SARS-CoV-2は、潜伏期が約2週間程度であり、主に発熱を伴う咳、呼吸困難、息切れ、痰などの呼吸器症状を見せ、その他にも、頭痛、寒気、鼻水、筋肉痛だけでなく食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消火器症状も示されることがある。
【0004】
また、SARS-CoV-2は、下気道感染を誘発する。下気道感染は、気管支炎、肺炎、肺膿症などの声帯を中心として下方に位置した呼吸器に病原体が侵入して現れる疾患であって、肺炎が代表的な下気道感染症である。肺炎にかかると、肺に炎症が生じて肺の正常な機能に障害が生じて発生する肺症状と身体全般にわたった全身的な症状が現れる。肺症状としては、呼吸器系の刺激による咳、炎症物質の排出による痰、息をする機能の障害による呼吸困難などが現れ、吐き気、嘔吐、下痢のような消火器症状も現れてもよい。また、頭痛、疲労感、筋肉痛、関節痛などの身体全般にわたった全身疾患が発生することがある。
【0005】
SARS-CoV-2は、特徴的にサイトカイン放出症候群(Cytokine Release syndrome)またはサイトカインストーム(Cytokine storm)を誘発したりもする。サイトカインストームは、癌、自己免疫疾患、感染性疾患などによって誘発され得る全身性炎症症候群であって、サイトカインの過多分泌と免疫細胞の過活性化を特徴とする。このようなサイトカインストームは、全身的な免疫反応を誘発して高熱、リンパ節障害、肝臓と脾腫、血球減少症、高フェリチン血症、中枢神経系異常などを招き、治療しない場合、多発性器官障害へ進行されることがある。また、全身的な免疫系の過敏反応により多くの臓器の2次機能不全を誘発して患者を死亡に至らせる(非特許文献1)。現在、COVID-19が誘発するサイトカインストームによる臓器不全が主な死亡原因であると明らかにされ、病理学的にサイトカインストームを引き起こす主な原因は、NLRP3炎症複合体(inflammasome)の過度な活性化である。現在、サイトカインストームを防止するために患者に一般的にコルチコステロイド系列のステロイドを併用投与しているが、全身的な免疫系の過度な抑制副作用と代謝副作用によって限界がある実情である。
【0006】
現在までCOVID-19入院患者の治療を目的として米国FDAで正式に承認した薬物は、抗ウイルス剤であるレムデシビル(Remdesivir)が代表的であり、感染による全身炎症と、それによる組織損傷を防止するための薬物はまだ制限的である。現在は、保全的な管理療法のための薬剤として、デキサメタゾンのようなステロイド剤が死亡危険を下げるために用いられており、抗炎症用途の薬物としては、IL-6受容体遮断剤であるトシリズマブ(Tocilizumab)とJAK抑制剤であるバリシチニブ(Baricitinib)が緊急承認を受けて用いられているが、様々な副作用が報告されている。米国NIHの公式COVID-19ガイドラインである「COVID-19 Treatment Guidelines Panel」によれば、FDA及びNIHの専門家議員は、副腎皮質ステロイド剤であるデキサメタゾンを始めとしたステロイド製剤とトシリズマブ、バリシチニブの副作用と危険性について言及し、臨床医の細心な注意が必要であるという限界と警告を下している。例えば、ステロイド製剤に対しては、全身代謝副作用のため10日以上の長期投与を禁止しており、日和見真菌感染またはウイルスの再活性化のような2次感染の危険性を大きく高めると警告している。トシリズマブの場合は、計5件の大掛かりの臨床試験を分析したところ、治療効能に対する評価が臨床試験ごとに異なる場合が多かったが「REMAP-CAP」と「RECOVERY trials」の2件の臨床試験でのみ意味のある治療効果を確認しており、ステロイド併用なしには効果が低い限界点を確認し、使用時に必須的にステロイドと併用することを条件として条件付き緊急承認を受け、肝酵素の数値上昇、好中球減少症、血栓症、2次感染上昇の副作用のおそれの警告を受けた。バリシチニブの場合は、2件の大規模臨床実験を分析したところ、「ACTT-2 trial」においては治療効果を確認したが、「COV-BARRIER trial」においては重症の患者群においてのみ治療効果を確認するなどの薬効の解析に対する限界があったため、ステロイドと併用することを条件として条件付き緊急承認を受けており、深刻な感染と血栓に関連する副作用の危険性が観察されて使用に警告を受けている。従って、今後ともCOVID-19による全身炎症を有効に減少させながら副作用が少ない治療剤の開発は引き続き必要である。また、エンデミックでCOVID-19の様相が変わっても全身炎症によって入院する患者は続けて発生すると予想され、変異によるリバイバルの可能性があるため、安全性、有効性が担保された抗炎症剤は必要である。
【0007】
SARS-CoV-2感染後のP2X7受容体の活性化によるNLRP3炎症複合体の過度な活性化がCOVID-19患者の肺炎の主な原因である。P2X7受容体は免疫細胞、肺上皮細胞及び中枢神経系細胞などに全身的に分布されており、SARS-CoV-2を含む病原体の感染が起こると、(1)ウイルススパイクタンパク質とウイルス進入受容体であるACE2の相互作用が起こり、(2)アンジオテンシン2の上昇により、(3)ComC調節子が活性化される。前記一連の反応に加えてウイルスの増殖によって誘導された細胞の壊死と、それによって放出されたATPがP2X7受容体を活性化させてNLRP3炎症複合体の過度な活性化を誘発するようになり、これによる全身炎症反応が患者を死亡に至らせるか、肺線維症のようなひどい後遺症を起こす。
【0008】
P2X7受容体はP2Xnプリン受容体群に属する複合体で構成されたイオンチャネル受容体であり、P2X7を刺激すれば、カリウムイオンの細胞外放出と、カルシウムイオン及びナトリウムイオンの細胞内へのはやい移動が促進される。感染のような疾病状態で細胞が壊死され、それにより細胞外ATPの濃度が大きく上昇して、P2X7受容体が活性化する。活性化されたP2X7はNLRP3炎症複合体を活性化し、これは、カリウムイオンの排出と細胞内のイオン不均衡によって増幅される。NLRP3炎症複合体が活性化されたpro-IL-1β/18が活性化され、組織に遊離されて死滅された細胞とともに周辺組織の炎症反応を深化させる。
【0009】
しかしながら、P2X7によるNLRP3炎症複合体の活性化機序に対する詳細な理解にもかかわらず、P2X7拮抗剤が開発されていない。一個体において様々なP2X7の亜型とヒトとの間に様々なP2X7の多型性は、P2X7拮抗剤の開発に主な障壁として作用する。
【0010】
胆汁酸(bile acid)は、脂質、有害な代謝産物及び腸内の栄養素の吸収のための胆汁分泌において重要な生理的な分子であって、ヒトの肝臓の静脈周囲の肝細胞(perivenous hepatocytes)で生産される。人体で形成される1次胆汁酸は、ケノデオキシコール酸(chenodeoxycholic acid)とコール酸(cholic acid)である。ケノデオキシコール酸は、タウロケノデオキシコール酸(taurochenodeoxycholate)とグリコケノデオキシコール酸(glycochenodeoxycholate)のような計8種類の接合された胆汁酸を生成するために、タウリン(taurine)またはグリシン(glycine)と接合される。また、1次胆汁酸に対する腸内微生物の影響により2次胆汁酸として、デオキシコール酸(deoxycholic acid)、リトコール酸(lithocholic acid)、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid)などが形成される。コール酸はデオキシコール酸に転換され、ケノデオキシコール酸はリトコール酸またはウルソデオキシコール酸に転換される。また、デオキシコール酸にタウリンが接合されてタウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)が形成される。このような胆汁酸は、食物脂質の吸収とコレステロールの恒常性(homeostasis)及び全身内分泌機能調節で信号分子として重要な役割を果たし、様々な信号伝達経路を調節して免疫系及び代謝系の活性を調節することが知られている。例えば、2次胆汁酸で非常に少量のみが存在するウルソデオキシコール酸は、肝臓の機能改善という薬理的効果が立証され、肝疾患の治療剤として応用されている。一部でbile acidの抗炎症作用が報告されているが、詳細な作用機序と特に炎症複合体の活性制御に関する報告は極めて制限されている。
【0011】
そこで、本発明者は、SARS-CoV-2のようなコロナウイルスによる下気道感染疾患において優れた治療効果を示し、安全で副作用が少ない新たな治療剤を開発するために努力した結果、タウロデオキシコール酸の塩を利用して炎症を誘発した骨髄由来のマクロファージでタウロデオキシコール酸がGPCR19と結合してGPCR19の発現を増加させてP2X7の発現を減少させるだけでなく、GPCR19-P2X7の複合体の形成を増加させてP2X7の活性化を抑制することを確認した。GPCR19はP2X7受容体とケラチン細胞、ミクログリアそしてマクロファージなどで細胞膜に相互間に結合された複合体で存在し、炎症が誘導された細胞におけるGPCR19の発現は格段に減り、P2X7受容体の発現は格段に高くなって炎症反応が増幅される。このような炎症組織でタウロデオキシコール酸がGPCR19と結合してP2X7の活性化を抑制することでNLRP3炎症複合体の活性化が抑制されて主な炎症反応が遮断されることを確認した。あわせて、タウロデオキシコール酸の塩を利用して敗血症の動物モデルで炎症が緩和されることを確認し、COVID-19患者から臨床的な症状が緩和され、治療期間が短縮されることを確認した。これにより、タウロデオキシコール酸及びその薬学的に許容される塩をCOVID-19を含む下気道感染疾患の予防または治療用組成物の有効成分として利用できることを明らかにすることで、本発明の完成に至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Fajgenbaum et、al.N Engl J Med.2020 Dec 3;383(23):2255~2273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
現在までCOVID-19の治療のための効果が優れた特異的な抗ウイルス剤は開発されていない。また、ウイルスの細胞内への浸透力を中和させる抗体治療剤は、軽症患者においてのみ制限的な有効性を示している。しかし、SARS-CoV-2感染後のP2X7受容体の活性化によるNLRP3炎症複合体の過度な活性化が中等度及び重度のCOVID-19患者の肺炎の主な原因として注目されているが、様々なP2X7の多型性によってP2X7拮抗剤の開発に困難性がある。
【0014】
前記問題を解決するために、本発明においては、今まで知られていないGPCR19及びP2X7の相互作用機序を糾明し、それらの相互作用を調節してNLRP3炎症複合体を抑制することでCOVID-19による肺炎を治療できる根本的な治療法を提供しようとした。
【0015】
そこで、本発明の目的は、タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、下気道感染疾患の予防または治療用組成物を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を個体に投与するステップを含む、下気道感染疾患の予防または治療方法を提供することである。
【0017】
本発明のまた他の目的は、下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物を作製するためのタウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩の用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的を達成するために、本発明は、タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、下気道感染疾患の予防または治療に用いるための薬学的組成物を提供することである。
【0020】
また、本発明は、タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を個体に投与するステップを含む、下気道感染疾患の予防または治療方法を提供する。
【0021】
あわせて、本発明は、下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物を作製するためのタウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩の用途を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明者らは、タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)の塩が炎症を誘発した骨髄由来のマクロファージでGPCR19及びP2X7の相互作用を調節してNLRP3炎症複合体の活性化を抑制することで過度な炎症反応を阻害することを確認した。また、タウロデオキシコール酸の塩が敗血症の動物モデルから炎症反応を緩和し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)及びそれによる肺炎患者に誘発される臨床的な症状を改善し、回復期間を短縮させることを確認したので、前記タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩は、COVID-19を含む下気道感染疾患の予防または治療用組成物の有効成分として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】タウロデオキシコール酸ナトリウム(sodium taurodeoxycholate;以下、「TDCA」という)が炎症複合体活性の開始ステップを制御することを示している。体外(in vitro)マウス骨髄由来のマクロファージ(mouse bone marrow-derived macrophages;mBMDM)モデルで脂質多糖体であるリポ多糖類(lipopolysaccharide;LPS)を処理して炎症開始信号を誘導した後、TDCAによるcAMP変化(
図1A)、ASC、NLRP3、カスパーゼ(Caspase)1、IL-1β転写の抑制(
図1B)、TNF-α生成の抑制(
図1C)を示した図である。
【
図1B】タウロデオキシコール酸ナトリウム(sodium taurodeoxycholate;以下、「TDCA」という)が炎症複合体活性の開始ステップを制御することを示している。体外(in vitro)マウス骨髄由来のマクロファージ(mouse bone marrow-derived macrophages;mBMDM)モデルで脂質多糖体であるリポ多糖類(lipopolysaccharide;LPS)を処理して炎症開始信号を誘導した後、TDCAによるcAMP変化(
図1A)、ASC、NLRP3、カスパーゼ1、IL-1β転写の抑制(
図1B)、TNF-α生成の抑制(
図1C)を示した図である。
【
図1C】タウロデオキシコール酸ナトリウム(sodium taurodeoxycholate;以下、「TDCA」という)が炎症複合体活性の開始ステップを制御することを示している。体外(in vitro)マウス骨髄由来のマクロファージ(mouse bone marrow-derived macrophages;mBMDM)モデルで脂質多糖体であるリポ多糖類(lipopolysaccharide;LPS)を処理して炎症開始信号を誘導した後、TDCAによるcAMP変化(
図1A)、ASC、NLRP3、カスパーゼ1、IL-1β転写の抑制(
図1B)、TNF-α生成の抑制(
図1C)を示した図である。
【
図2A】TDCAが自分の受容体であるGPCR19とP2X7Rの発現を調節するだけでなく、二つの受容体との間の物理的な結合を調節していることを示す図である。in vitro mBMDMモデルにおいてLPSとATPまたはBzATPを処理して炎症活性信号を誘導した後、TDCAによるGPCR19、P2X7R及びそれらの相互結合の変化(
図2A)、P2X7Rの作用剤であるBzATPを処理した後にTDCAがIL-1βの生成を抑制すること(
図2B)を示した図である。
【
図2B】TDCAが自分の受容体であるGPCR19とP2X7Rの発現を調節するだけでなく、二つの受容体との間の物理的な結合を調節していることを示す図である。in vitro mBMDMモデルにおいてLPSとATPまたはBzATPを処理して炎症活性信号を誘導した後、TDCAによるGPCR19、P2X7R及びそれらの相互結合の変化(
図2A)、P2X7Rの作用剤であるBzATPを処理した後にTDCAがIL-1βの生成を抑制すること(
図2B)を示した図である。
【
図3A】犬から敗血症モデルの作製及びTDCAの投与方法を模式化した図である。
【
図3B】犬の敗血症モデルにおいてTDCAの投与による生存率(
図3B)、血圧(
図3C)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN、
図3D)、クレアチニン(creatinine、
図3E)、IL-1β(
図3F)、IL-8(
図3G)の変化を示した図である。
【
図3C】犬の敗血症モデルにおいてTDCAの投与による生存率(
図3B)、血圧(
図3C)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN、
図3D)、クレアチニン(creatinine、
図3E)、IL-1β(
図3F)、IL-8(
図3G)の変化を示した図である。
【
図3D】犬の敗血症モデルにおいてTDCAの投与による生存率(
図3B)、血圧(
図3C)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN、
図3D)、クレアチニン(creatinine、
図3E)、IL-1β(
図3F)、IL-8(
図3G)の変化を示した図である。
【
図3E】犬の敗血症モデルにおいてTDCAの投与による生存率(
図3B)、血圧(
図3C)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN、
図3D)、クレアチニン(creatinine、
図3E)、IL-1β(
図3F)、IL-8(
図3G)の変化を示した図である。
【
図3F】犬の敗血症モデルにおいてTDCAの投与による生存率(
図3B)、血圧(
図3C)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN、
図3D)、クレアチニン(creatinine、
図3E)、IL-1β(
図3F)、IL-8(
図3G)の変化を示した図である。
【
図3G】犬の敗血症モデルにおいてTDCAの投与による生存率(
図3B)、血圧(
図3C)、血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN、
図3D)、クレアチニン(creatinine、
図3E)、IL-1β(
図3F)、IL-8(
図3G)の変化を示した図である。
【
図4】COVID-19肺炎患者にてTDCAを有効成分とした注射製剤であるNuSepin 0.2mg/kgの治療効率をプラセボと比べた図である。NEWS2の臨床評価に影響を及ぼす様々な変数を反映してプラセボに対比してNuSepin 0.2mg/kgの治療効果の割合をCox危険比例モデルで分析した。そのとき、抗ウイルス治療剤投与群と内院時の中等または重度患者にてプラセボに対比してNuSepin 0.2mg/kgの統計的に意味のある治療効果を示した。
【
図5】COVID-19肺炎患者にてNuSepin 0.2mg/kgの静脈注射剤のプラセボに対比して治療日の短縮効果を示した図である。臨床開始日にNEWS2が5以上である中等度以上の患者にてNuSepin 0.2mg/kg投薬群とプラセボ群との間にNEWS2基盤の臨床評価指数で判断した治療効率をKaplan-Meier survival curveで比較分析し、またCox危険比例モデルで回復割合(recovery rate;RR)を計算した。
図5の左側グラフは、intention-to-treatment(ITT)分析群を対象として治療期間中に回復した患者の割合を示したグラフであり、
図5の右側グラフは、臨床試験期間に臨床プロトコル違反がない患者のみで構成されたper-protocol(PP)分析群に対する治療期間中に回復した患者の割合を示したグラフである。
【
図6】COVID-19肺炎患者にてNuSepin 0.2mg/kgまたはプラセボの静脈注射による酸素呼吸器依存度の減少を示した図である。入院時NEWS2>5以上である中等及び重度患者にてNuSepin 0.2mg/kg投薬群とプラセボ群との間の補助的な酸素治療療法が必要でない患者の累積分率をKaplan-Meier survival curveとCox危険比例モデルで分析した図である。
【
図7】COVID-19肺炎患者にてNuSepin 0.2mg/kgによる補助酸素呼吸器の種類に従い、臨床状態の好転度の向上効果を示した図である。全体試験患者群と臨床試験開始日を基準としてNEWS2臨床点数が5以上である中等度以上の患者にて臨床9日目にNuSepin 0.2mg/kgを投薬した患者と、プラセボを投薬した患者との間の酸素呼吸器依存度の好転度を比較するために、呼吸器の種類による臨床指標であるordinal scaleの開始日(baseline)に対比した減少率を比べた図である。
【
図8】COVID-19肺炎患者にてNuSepin 0.2mg/kgによる血液内の炎症指標であるCRPとサイトカインの減少効果を示した図である。COVID-19肺炎臨床試験において、NuSepin 0.2mg/kg投薬群及びプラセボ群の臨床開始日当時(day1)の血中CRP、IL-8、TNF-α、IL-6と、臨床4日目のCRPまたは臨床終了日(EoS)の血中サイトカインの濃度を比べた図である。また、観察時点でCRPまたはサイトカインの濃度が正常範囲である患者の分率をプラセボ群とNuSepin 0.2mg/kg群と比べた。
【
図9】TDCAが過度な炎症反応を抑制する機序を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0025】
本発明における「予防」なる用語は、本発明の組成物の投与によって下気道感染疾患の発生、拡散及び再発を抑制または遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」なる用語は、本発明の組成物の投与によって前記疾患の症状が好転するか、有利に変更されるあらゆる行為を意味する。
【0026】
本発明は、タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0027】
また、本発明は、タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、下気道感染疾患の予防または治療に用いるための薬学的組成物を提供することである。
【0028】
また、本発明は、タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩を個体に投与するステップを含む、下気道感染疾患の予防または治療方法を提供する。
【0029】
あわせて、本発明は、下気道感染疾患の予防または治療用薬学的組成物を作製するためのタウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩の用途を提供する。
【0030】
本発明において、前記タウロデオキシコール酸は、動物の死体、例えば、牛、豚、羊、犬、ヤギまたはウサギのような動物から分離したもの、市販されるもの、合成したものをすべて限定されることなく用いてもよい。
【0031】
前記タウロデオキシコール酸は胆汁酸の一種であって、タウリンが接合されたデオキシコール酸(taurine-conjugated deoxycholic acid)の形態であり、下記[化学式1]で表される化学構造を有し、より具体的に、下記[化学式2]で表される化学構造を有する:
【0032】
【0033】
【0034】
本発明において、前記タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩は炎症性サイトカイン、例えば、TNF-α、IL-1β、IL-8またはIL-6の生成を抑制してもよい。
【0035】
また、前記タウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩は、GPCR19作用剤であって、
図9の模式図のように、cAMPを増加させることでNF-κBの活性化を抑制し、P2X7の機能を抑制することでNLRP3炎症複合体の活性化を抑制して前記炎症性サイトカインの生成を抑制してもよい。
【0036】
本発明において、前記下気道感染疾患は、コロナウイルス感染により誘発される発熱、咳、痰、身体のうずき、咽喉痛、下痢、結膜炎、頭痛、皮膚発疹、呼吸困難、急性気管支炎、肺炎、肺化膿症、腎不全、腎機能障害、敗血症性ショック、敗血症及びサイトカイン放出症候群からなる群から選択される少なくとも1つの症状を有する疾患であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0037】
また、前記コロナウイルスは、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)及び新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよく、具体的に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0038】
本発明は、タウロデオキシコール酸だけでなく、その薬学的に許容される塩、それから作製され得る溶媒和物、水和物、ラセミ体、または立体異性体をすべて含む。
【0039】
本発明のタウロデオキシコール酸は薬学的に許容される塩の形態で用いてもよく、塩としては、薬学的に許容される遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸または亜リン酸などの無機酸類と、脂肪族モノ及びジカルボキシレート、フェニル置換されたアルカノエート、ヒドロキシアルカノエート及びアルカンジオエート、芳香族酸類、脂肪族及び芳香族スルホン酸類などの無毒性有機酸から得られる。このような薬学的に無毒な塩類としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-二酸塩、ヘキサン-1,6-二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、クロルベンゼンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩またはマンデル酸塩が挙げられる。
【0040】
本発明による酸付加塩は、通常の方法、例えば、タウロデオキシコール酸を過剰量の酸水溶液に溶解し、その塩を水混和性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを用いて沈殿させて作製する。また、その混合物から溶媒や過剰量の酸を蒸発させて乾燥させるか、または析出した塩を吸引濾過させて作製してもよい。
【0041】
また、塩基を用いて薬学的に許容される金属塩を形成することができる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、例えば、化合物を過剰量のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物溶液に溶解し、溶解しない化合物の塩を濾過して濾液を蒸発、乾燥させて得る。そのとき、金属塩としては、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩を作製することが製薬上適合しており、より具体的に、ナトリウム塩を作製することが適合している。また、これに対応する銀塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を好適な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得る。
【0042】
前記組成物を製剤化する場合は、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製される。
【0043】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤などが含まれ、これらの固形製剤は、本発明のタウロデオキシコール酸またはその薬学的に許容される塩に少なくとも1つの賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調製される。また、通常の賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム タルクなどの滑沢剤も用いられる。経口投与のための液体製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが含まれ、通常用いられる通常の希釈剤である水、流動パラフィン以外にも種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが用いられる。
【0044】
非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤、坐剤などが含まれる。
【0045】
非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、ゼラチンなどが用いられる。
【0046】
本発明に係る組成物は、薬剤学的に有効な量を投与する。本発明における「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療に適用できる合理的な利益/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、同時用いられる薬物が含まれる要素、並びにその他医学分野で公知の要素により決定される。本発明の組成物は、単独でまたは他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤と順次または同時に投与してもよく、単一または多重投与してもよい。前記要素を全て考慮して副作用なく最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者により容易に決定される。
【0047】
具体的には、本発明に係る化合物の有効量は、患者の年齢、性別、体重により異なり、一般的には体重1kg当たり0.01~100mg、より具体的には、0.1~15mgを毎日または隔日投与するか、1日1~3回に分けて投与してもよい。しかしながら、投与経路、重症度、性別、体重、年齢などにより増減するので、前記投与量がいかなる方法であれ本発明を限定するものではない。
【0048】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0049】
しかしながら、これらの実施例及び実験例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
骨髄由来マクロファージの作製及び炎症調節複合体の刺激による炎症性サイトカインの分析
<1-1>骨髄由来マクロファージの作製
骨髄由来マクロファージは、下記のような方法で作製した。
【0051】
具体的に、C57BL/6Nマウスから抽出した骨髄を10%FBS、100U/mLのペニシリンストレプトマイシン、55μMの2-メルカプトエタノール、そして10ng/mLの組換えネズミ顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を添加したRPMI培地で7日間分化した。7日目に流動細胞分析器を利用して分化されたマクロファージの割合を測定したところ、94~96%と測定された。
【0052】
<1-2>炎症開始(inflammation priming)信号に由来した炎症性サイトカインIL-1β、TNF-αの生成抑制能の分析
実施例<1-1>の骨髄由来マクロファージを培養皿に様々な密度で培養した後収集した(4×104、5×105、1×106細胞/ウェル、それぞれ96-ウェル、24-ウェル、そして12-ウェル培養皿)。翌日、炎症開始信号に関連する因子としてNLRP3炎症複合体の構成要素であるASC、NLRP3、カスパーゼ1、炎症開始信号に由来した炎症性サイトカインIL-1βの評価のために、骨髄由来マクロファージにサルモネラ菌(Salmonella enterica serotype enteritidis)に由来した10ng/mLのLPSとともに300μMのBzATP、または300μMのBzATP及び400ng/mLのタウロデオキシコール酸ナトリウム(sodium taurodeoxycholate;以下、「TDCA」と名付ける)を1時間処理した。時間が終了した後、細胞を収集して-80℃に保管した後、qRT-PCR分析を実施した。
【0053】
また、炎症性サイトカインTNF-αの評価のために骨髄由来マクロファージに10ng/mLのLPSを3時間にかけて処理して炎症開始信号を活性化した後、様々な濃度(0.25.100、400ng/mL)のTDCAを追加して1時間にかけて培養した。時間が終了した後、上澄み液を収集して-80℃に保管した後、ELISA分析を実施した。
【0054】
<1-3>炎症活性(inflammation activation)信号に由来した炎症性サイトカインIL-1βの生成抑制能の分析
実施例<1-1>の骨髄由来マクロファージを培養皿で様々な密度で培養した後収集した(4×104、5×105、1×106細胞/ウェル、それぞれ96-ウェル、24-ウェル、そして12-ウェル培養皿)。翌日、炎症活性信号に関連する因子としてTGR5及びP2X7、前記信号に由来した炎症性サイトカインIL-1βの評価のために、骨髄由来マクロファージに10ng/mLのLPS及び300μMのBzATPを3時間にかけて処理した後、指定された互いに異なる濃度(0、25、100、400ng/mL)のTDCAを1時間処理した。時間が終了した後、上澄み液を収集して-80℃に保管した後、ELISA分析を実施した。
【実施例2】
【0055】
敗血症動物モデルにて炎症性サイトカインの分析
<2-1>敗血症動物モデルの作製
各実験群当たり体重30~35kgのMongrel dogで構成された2つの処理群に
図3Aに示されたプロトコルに従って、LPS 0.5mg/kg/mLを静脈投与して敗血症を誘発し、以後、TDCA 2mg/kg/2mL(プラセボ群はPBSを投薬)を1時間後に静脈注射し、TDCA 1mg/kg/2mLを12時間及び24時間後に静脈投与した。LPS投与後の血圧を1時間ごとにモニタリングし、0、1、3、6、12、18、24、36、48h時点で採血し、48時間に動物を犠牲して実験を完了した。
【0056】
<2-2>生存率の分析
実施例<2-1>の敗血症を誘発した2つの処理群において、48時間の間に死亡したビーグル犬の数を確認して生存率を確認した。
【0057】
<2-3>血圧及び腎臓機能の分析
実施例<2-1>の敗血症を誘発した2つの処理群において、48時間にかけて時間別に血圧を測定した。
【0058】
また、腎臓機能の検査にて血中尿素窒素(Blood urea nitrogen;BUN)及びクレアチニン(ceratinine)検査を実施した。具体的に、実施例<2-1>の敗血症を誘発した2つの処理群において48時間にかけて時間別に血液を採取して血清を分離した後、血清内のBUNとクレアチン濃度を測定した。
【0059】
<2-4>炎症性サイトカインIL-1β及びIL-8の分析
実施例<2-1>の敗血症を誘発した2つの処理群において、48時間にかけて時間別に血液を採取して血清を分離した後、血清内の炎症性サイトカインIL-1βを測定した。
【実施例3】
【0060】
TDCAの人体安全性の確認-臨床1相試験
<3-1>臨床試験対象者の選定
韓国内の健康な成人男性志願者40人を臨床試験の対象者とした。臨床試験はソウル大学病院(ソウル,韓国)の主体の下で実施し、[表1]の選定基準をすべて満たすヒトを対象とした。
【0061】
【0062】
ただし、下記[表2]に示した項目に該当する被験者は除いた。
【0063】
【0064】
また、臨床試験進行の途中、[表3]の基準に該当する被験者は中途脱落した。
【0065】
【0066】
<3-2>臨床1相試験の進行及び管理
臨床試験対象者にて薬物安全性/耐薬性(tolerability)及び薬物動力学(pharmacokinetic;PK)を評価するために無作為化、二重盲検、標準治療基盤のプラセボ対照群試験群を割り当てた。また、治療剤としては、TDCAが含まれた注射型臨床製剤であるNuSepinを用いた。
【0067】
[試験方法]
健康な男性資源者に限って臨床試験用医薬品の最初の投薬日(1d)から4週間以内(-28d~-4d)にスクリーニング検査を行い、本臨床試験に適合していると判断される試験対象者を選定した。選定された試験対象者は、臨床試験用医薬品の投薬4日前の午後にソウル大学病院臨床試験センターに入院し、NuSepin0.1、0.2、0.4、0.8、1.6mg/kgの容量投与またはプラセボ群のうちの一つに無作為化した後、TDCAベースラインの確認のための薬動力学採血を3日間(-3d~-1d)行った。そして、臨床試験用医薬品投薬日(1d)の午前に薬動力学分析用の採血、安全性評価などの定められた検査を行った後、空腹状態で試験薬またはプラセボを静脈投与した。試験対象者は定められた日程に従って臨床試験を行い、投薬1日後(2d)に退院し、すべての臨床試験日程を終えた対象者は、4d~6dの間に終了訪問(post-study visit)検査を行った。
【0068】
[評価方法]
●安全性及び耐薬性の評価
-自・他覚症状などの異常反応のモニタリング
-身体検査
-バイタルサイン
-心電図(12-Lead ECG)検査
-臨床実験室検査
-局所毒性評価
-連続ECG、SpO2のモニタリング
●薬動力学的な評価
臨床試験用医薬品を静脈投与した後の最大24時間までHY209の薬動力学的な評価のための採血が行われた;
-採血時刻:投薬前-3d 0時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、-2d 0時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、-1d 0時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、1d投薬直前(0h)、投薬開始後15分、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間(2d)
-評価変数:AUCinf、AUClast、Cmax、Tmax、t1/2
-非臨床資料によって算出された推定値によって算出された薬物の半減期は、約1時間程度であると推定した。
【0069】
[資料分析]
●安全性及び耐薬性の分析
異常反応は重症度及び臨床試験用医薬品との因果関係に基づいて容量群及び治療群別に記述し、異常反応が発生した試験対象者の数の頻度、百分率を比べて評価した。バイタルサイン、心電図検査、臨床実験室検査、身体検査、自・他覚症状などの異常反応モニタリング、連続ECG、SpO2モニタリングなどを総合的に検討し、臨床的に意味があると判断された項目に限って必要に応じて統計分析を進行した。
【0070】
●薬動力学の評価
本臨床試験を完了した対象者を対象にして適切且つ検証された薬動力学ソフトウェア(例えば、Phoenix WinNonlin(登録商標)(Version8.0以上、Pharsight、CA、USA)を用いて非区画分析方法で薬動力学変数を求め、容量群及び治療群別に技術統計量(平均、標準偏差など)を求めた。
【実施例4】
【0071】
TDCAの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者対象治療剤として薬効の確認-臨床2相試験
<4-1>臨床2相試験対象者の選定
臨床試験対象者としては、ヨーロッパルーマニアで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者のうち[表4]の基準をすべて満たすヒトを対象にした。
【0072】
【0073】
ただし、下記[表5]に示した項目に該当する被験者は除いた。
【0074】
【0075】
また、臨床試験が進行しているところ、[表6]の基準に該当する被験者は中途脱落した。
【0076】
【0077】
<4-2>臨床試験の進行及び管理
募集された臨床試験患者を対象として治療剤の効能を評価するために、無作為化、二重盲検、標準治療基盤のプラセボ対照群試験群を割り当てて臨床試験を進行した。また、治療剤としては、TDCAを有効成分として含む治療剤であるNuSepinを用いた。
【0078】
[進行ステップ]
患者スクリーニング(Day-5~0)
臨床試験参加を希望する患者は、患者情報シート及び事前同意様式に署名した後、選別検査を行った。選別番号は各患者に付与され、人口統計学的な情報、患者病歴、過去及び現在の薬物服用歴、現在の病歴、バイタルサイン(血圧、心拍数、体温、呼吸数、意識レベル)、身体検査、心電図、実験室検査、COVID-19 PCR test、動脈血ガス分析及び肺浸潤の評価のための胸部x-rayまたはCT撮影を行った。妊娠可能期女性の場合、血清妊娠検査を行った。
【0079】
患者基準設定(Day1)
バイタルサイン(血圧、心拍数、体温、呼吸数、意識レベル)のモニタリング後の経皮的な酸素飽和度(SpO2)、身体検査、臨床試験の包含/除外基準の評価を行った。患者の臨床的状態は、6段階の尺度で評価した。
【0080】
患者はNuSepin 0.1、0.2mg/kgまたは抗ウイルス剤を利用した標準治療を並行するプラセボ群の一つに無作為化した。以後、薬物投与は、1日目から14日目または退院日まで1日2回静脈投薬した。投薬期間の間、薬物異常反応(AE)及び患者が投薬を受ける薬物のすべての内容を収集し、記録して管理した。
【0081】
臨床評価の進行(Day2~Day14)
試験基準日から2~14日間のバイタルサイン(血圧、心拍数、体温、呼吸数、意識レベル)、SpO2、身体検査を定期的にモニタリングし、患者の臨床的状態を評価し、実験室検査(血清化学分析、血液検査、検尿、肝臓/腎臓機能検査、炎症パラメータ)、12-lead ECG、薬物異常反応及び患者投与薬物の変化を収集して記録した。研究者及び臨床医の判断によって参加者の早期退院可否を決め、早期退院対象者は、後続管理と最終終了試験過程を経て研究データを収集した。
【0082】
後続管理
投薬実験14日以後の臨床試験用医薬品の投薬終了後のバイタルサインのモニタリング(血圧、心拍数、体温、呼吸数、意識レベル)、SpO2の測定、6段階の臨床状態の評価、身体検査、12-lead ECG、小便妊娠テスト(妊娠可能期女性)、実験室分析(血清化学、検尿、肝臓/腎臓機能検査、炎症指標検査)、そして薬物異常反応と投薬期間中の薬物変化に対する収集を終了した。
【0083】
臨床試験の終了
最終的に、28日目に臨床追跡訪問(Clinical follow-up visit)、身体検査、SpO2の測定、実験室分析(血清化学、血液検査、検尿、肝臓/腎臓機能検査、炎症指標検査)を行って薬物異常反応、併用薬物の変化及び生存状態に関する情報を収集した。
【0084】
[臨床評価指標]
1.NEWS2(National Early Warning Score 2)
NEWS2臨床指数は、酸素呼吸器の必否、体温、血圧、心拍数、体温、呼吸数、意識レベル、酸素飽和度の測定データに基づいて[表7]の基準によって点数化し、それを総合して患者の病症の程度を評価して、治療段階を評価/決定するのに用いられる臨床評価指数である。臨床評価指標として、NEWS2を1~15日及び終了日に評価して記録した。NEWS2指数が5以上であれば、中等度以上の危険群患者に分類されてハイリスク群の患者として下位集団の分析(subgroup analysis)及び層化分析(Stratification Analysis)を進行した。そして、NEWS2指数が0点である完全寛解状態を24時間維持するまで所要された時間をNEWS2基盤の治療日として記録して分析した。
【0085】
【0086】
2.OS(Ordinal scale)
OSは酸素呼吸治療療法の深化度に従い、[表8]の基準によって6段階に分けられて点数化する臨床指標であり、点数が低くなるほど患者の状態が好転していくことを意味する。COVID-19肺炎患者の臨床評価の指標としてOSを1~15日及び終了日に評価して記録した。
【0087】
【0088】
3.酸素呼吸治療の終了日
COVID-19肺炎患者の呼吸器機能回復の指標として、最終的に酸素呼吸治療を終了することを1~15日及び終了日にわたって観察/記録した。
【0089】
4.CRP、IL-6、IL-8、TNF-α
COVID-19肺炎患者にて急性炎症因子としてCRPを、炎症性サイトカインとしてIL-6、IL-8、TNF-αの血中濃度を1~15日及び終了日にわたって測定/記録した。
【0090】
<実験例1>in vitro mBMDMモデルからTDCAの炎症に関連する因子の抑制能の確認
炎症性信号によるサイトカイン放出症候群をTDCAが抑制できるかを確認するために、in vitro mBMDMモデルを利用して実験を進行した。
【0091】
<1-1>炎症開始信号からTDCAの炎症性サイトカインIL-1β及びTNF-α抑制能の確認
実施例<1-2>に記載されている方法と同様の方法でmBMDMを分離/抽出し、LPSなどで炎症刺激を引き起こした細胞にTDCAを処理してin vitro上でTDCAによる炎症信号の抑制効能を確認した。
【0092】
具体的に、NF-κB pathwayによる炎症因子に関連する遺伝子転写を抑制する細胞内cAMPの濃度調節効果を確認するために、mBMDM細胞で対照群、100ng/mLのLPSを30分処理した実験群、100ng/mLのLPSと400ng/mLのTDCAを同時に30分処理した実験群を用意した後、各実験群細胞のcAMPの濃度を化学発光(chemiluminescent)分析法で測定した。
【0093】
その結果、
図1Aに示すように、LPSによる炎症信号によって減少されたcAMPがTDCAによって回復することを確認した。
【0094】
引き続き、炎症状況においてTDCAによる炎症に関連する因子の転写抑制効能を確認するために、mBMDMに10ng/mLのLPSと300μMのBzATPを1時間処理した実験群と、10ng/mLのLPS、300μMのBzATP、400ng/mLのTDCAを同時に1時間処理した実験群において、炎症に関連する因子であるASC、NLRP3、カスパーゼ1、IL-1βの転写発現をqRT-PCR実験によって測定し、炎症状況に対比してTDCAがどのくらい発現を減少させるかの減少率を分析した。
【0095】
その結果、
図1Bに示すように、LPS+BzATPによる炎症状況において、TDCAの処理によって細胞内ASC、NLRP3、カスパーゼ1、IL-1βの転写発現がすべて減少することを確認した。
【0096】
また、炎症性サイトカインであるTNF-αの発現に及ぼすTDCAの影響を確認するために、mBMDMに10ng/mLのLPSを3時間にかけて処理した後、それぞれ0、25、100、400ng/mLのTDCAを1時間処理した実験群において、TNF-αをELISAによって測定して比較分析した。
【0097】
その結果、
図1Cに示すように、LPSによって生成されたTNF-αがTDCAの処理によって減少されることを確認した。
【0098】
前記結果によって
図9に示した模式図のように、TDCAによって増加されたcAMPがNF-κBを抑制してASC、NLRP3、カスパーゼ1のような炎症因子の発現を減少させ、結果として、炎症性サイトカインであるTNF-αの発現を抑制する炎症信号の抑制効果があることを確認した。
【0099】
<1-2>炎症活性信号におけるTDCAの炎症性サイトカインIL-1β抑制能の確認
実施例<1-3>に記載されている方法と同様の方法により、mBMDMを分離/抽出して炎症刺激を引き起こした細胞でTDCAによるGPCR19-P2X7の発現及び相互作用の変化と炎症性サイトカインIL-1βの抑制効能を確認した。
【0100】
具体的に、TDCAによるGPCR19、P2X7の発現及び相互作用の変化を観察するために、定常状態のmBMDM、10ng/mLのLPSと300μMのBzATP刺激を同時に注入したmBMDM、10ng/mLのLPS+300μMのBzATP刺激状態で400ng/mLのTDCAを処理したmBMDMに免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡によってGPCR19(緑色蛍光信号)とP2X7(赤色蛍光信号)の発現とパターンを確認した。
【0101】
その結果、
図2Aに示すように、炎症信号が活性化されれば、GPCR19の発現が減少し、同時にP2X7の発現は増加し、そのとき、TDCAを処理すれば、GPCR19の減少とP2X7の増加が抑制されることを確認した。あわせて、炎症信号の活性時には、GPCR19-P2X7のco-localization蛍光信号(黄色蛍光信号)が減少し、TDCAの処理によって再度増加することを確認した。
【0102】
また、TDCAの炎症性サイトカインIL-1βの抑制効能を確認するために、LPS+ATPまたはLPS+BzATPで炎症を活性化させたmBMDMにTDCAを0、25、100、400ng/mLを処理した後、IL-1βの濃度をELISAによって測定した。
【0103】
その結果、
図2Bに示すように、炎症が活性化されて生成されたIL-1βの濃度が処理したTDCAの量に比例して減少することを確認した。
【0104】
前記結果によって、
図9に示した模式図のように炎症が活性化された後、TDCAによってGPCR19、P2X7Rの発現が調節され、二つのタンパク質との間の相互結合が増加し、それによる信号伝達によってNLRP3炎症複合体の活性化が抑制され、炎症性サイトカインIL-1βの生成が阻害されることがわかる。
【0105】
<実験例1>の結果によって、
図9に示した模式図のような機序でTDCAが免疫細胞の過度な炎症反応を抑制し、TNF-α及びIL-1βの生成を阻害することがわかる。これは、TDCAがSARS-CoV-2感染によるサイトカインストームを予防、治療できることを示唆する。
【0106】
<実験例2>in vivo全身炎症誘発動物モデルからTDCAの治療効果の確認
COVID-19肺炎患者は、全身炎症によるサイトカインストームによって臓器不全あるいは死亡危険が高くなるため、in vivoで全身炎症反応時にTDCAにてこれを抑制できることを確認する実験を進行した。
【0107】
具体的に、<実施例2>に記載されている方法と同様の方法にて、犬でLPSを静脈投与して全身炎症を誘発させた大型動物モデルにTDCAを12時間おきで2mg/kg、1mg/kg、1mg/kgをそれぞれ3回投薬したとき、TDCA投薬動物実験群で死亡率及び臓器不全指標が減少し、サイトカインストームが減少する治療効果を確認した。
【0108】
その結果、
図3Bに示すように、全身炎症誘発動物実験において、プラセボ実験群は、実験終了時点である48時間に半分が死亡したのに対し、TDCAを投薬した動物は48時間まで全員生存して生存率向上の治療効果を見せた。
図3Cに示すように、心血管系不全の指標である血圧の観察においてプラセボ動物群では低血圧ショックが起こるが、TDCAを投薬した動物群は、血圧が低血圧ショックが抑制される様相を見せた。あわせて、
図3Dと3Eに示すように、腎臓不全の指標であるBUNとcreatineの血中数値がプラセボ群においては上昇するのに対し、TDCA投薬群においては上昇が抑制される治療効果を見せた。また、
図3Fと3Gに示すように、サイトカインストームの原因に属するIL-1βとIL-8がLPSによる全身炎症によって誘発され、そのとき、TDCAを投薬した動物は、プラセボ群よりサイトカインが抑制される治療様相を見せた。
【0109】
前記の結果は、全身炎症が誘発された生体内でTDCAによる死亡率、臓器不全の危険性、サイトカインストーム減少の治療効果を提示し、結果として、COVID-19肺炎患者の危険病因である全身炎症による死亡、臓器不全、組織損傷などをTDCAで防止/治療できることを示唆する。
【0110】
<実験例3>TDCAの人体安全性の確認
TDCAの薬物安全性/耐薬性(tolerability)及び薬物動力学(pharmacokinetic;PK)を確認するために、<実施例3>に記載した方法と同様の方法により臨床試験を進行した。
【0111】
その結果、臨床試験対象者のうち3人に副作用が示され、1人に軽症のIMD(immunomodulatory drugs)に関連する副作用が示され、前記副作用はいずれも強くはなく、治療なしに回復することを確認した。また、濃度依存的にPK特性を示すことを確認した。
【0112】
前記の結果によってTDCAが優れた人体安全性及び耐薬性を示すことがわかる。
【0113】
<実験例4>TDCAのCOVID-19肺炎患者の臨床治療効能の確認
実際のCOVID-19肺炎患者にてTDCAによる治療効能があるかを確認するために、TDCAを有効成分として含んだ注射型臨床医薬品であるNuSepinの臨床試験を進行し、臨床評価のモニタリングと治療時点を確認して効能を評価した。
【0114】
具体的に、<実施例4>において記載した方法と同様の方法により臨床患者を募集して実験を進行し、プラセボ対照群20人とNuSepin 0.2mg/kgの静脈投与群22人の臨床薬効の評価資料を収集した。臨床患者の基本的な人口統計学的な指標は、[表9]のとおりであり、疾病の重症度分布は[表10]のとおりであった。
【0115】
【0116】
【0117】
また、
図4に示すように、NuSepin投薬患者のプラセボ群に対比してNEWS2臨床指標基盤の治療日(NEWS2が0点を24時間維持するまで所要された日数)を年齢、性別、基底疾患、重症度、併用薬物などの基底要因を反映してCox危険比例モデルで治療比(Recovery rate ratio)を計算して治療効果を確認した。具体的に、抗ウイルス剤の使用とNEWS2 5点以上の中等度以上の危険群患者が変因である場合、NuSepinによる意味のある治療効果の差があることを確認した。詳しく説明すれば、抗ウイルス剤の変因要素の反映時のNuSepin投薬患者は、プラセボ群に対比して治療比が3.7[95% C.I. 1.4~10.2]であり、p=0.01で意味のある治療増加効果を見せ、NEWS2≧5の中等度変因要素を反映して分析すれば、NuSepin投薬群のプラセボ群に対比する治療比が2.7[95% C.I. 1.2~6.4]であり、p=0.02で意味のある治療増加効果を見せた。抗ウイルス剤の併用と危重症(NEWS2≧5)変数を同時に反映して分析すれば、NuSepin投薬患者は、プラセボ群に対比して治療比が3.4[95% C.I. 1.5~7.4]であり、p=0.003で意味のある治療増加効果があることを確認した。
図5に示したカプランマイヤー生存曲線(Kaplan-Meier survival curve)の比較図は、NEWS2 5以上の中等度以上の患者群でNEWS2基盤の治療日の累積パターンを比べた結果であって、NuSepin投薬群がプラセボ対照群より治療日がさらに短縮する治療効果があることを示している。具体的には、中等度以上のITT(intend to treated)患者を対象として比較するとき、プラセボ群は、NEWS2基盤の治療日の中央値が12.5[95% C.I. 8.0~25.0]日であるのに対し、NuSepin投薬群は、9.0[95% C.I. 7.0~12.0]日であって、治療日を算術的に3.5日短縮させ、治療比は1.9[95% C.I. 0.9~4.3]に向上することを確認した。そして、PP(Per protocol)患者を対象として比較するとき、プラセボ群は、NEWS2基盤の治療日が12.5[95% C.I. 8.0~25.0]日であるのに対し、NuSepin投薬群は、9.0[95% C.I. 7.0~11.0]日であって、治療日を3.5日短縮させ、Log-Rank検定で計算された統計有意性は、p=0.016で統計的に意味のある差であることを確認した。また、そのとき、コックス-危険比例モデルによって計算された治療比は、2.7[95% C.I. 1.2~6.4]であり、p=0.02で意味のある治療増加効果を確認した。
【0118】
また、
図6に示すように、酸素呼吸治療の終了日までかかる時間を評価指標として重症度(NEWS2≧5)を調整変数として治療比を計算したところ、中等度以上の患者にてNuSepin投薬群がプラセボ群より酸素呼吸治療をさらに早く終了する治療効果があることを確認した。具体的には、プラセボ群は9日[95% C.I. 7.9~10.1]に終了するのに対し、投薬群は8日[95% C.I. 7.4~8.6]に終了し、酸素呼吸治療日が1日短縮され、コックス-危険比例モデルによって計算された治療比は、2.2[95% C.I. 1.0~4.6]であり、統計有意性はp=0.04で意味があることを確認した。
【0119】
また、
図7に示すように、呼吸器基盤のOS臨床指標の好転効果を確認するために、臨床試験開始日に対比して臨床試験9日目のOS点数の減少率を比較確認し、その結果、NuSepin投薬群がプラセボより減少率が高いことから好転効果があることを確認した。具体的に、全体患者にてプラセボ群はOS点数の減少率が平均30.9%減少されたのに対し、NuSepin投薬群は43.9%減少された。そして、NEWS2 5以上の中等度以上の患者からは、プラセボ群は24.3%減少されたのに対し、NuSepin投薬群からは41.7%減少し、Wilcoxon Rank sum検定にて計算された統計有意性はp=0.028で、プラセボ群とNuSepin投薬群の薬効の差が意味があることを確認した。
【0120】
また、
図8に示すように、全体患者にてNuSepin投薬群がプラセボ群よりCRP及びサイトカインの数値が正常に戻る患者の割合が高い治療効果があることを確認した。具体的に、臨床4日目でCRPがプラセボ群は20%が正常化水準(10mg/mL未満)に到達したのに対し、投薬群は52%が正常化された。臨床試験の最終日に血中TNF-α数値が、プラセボ群は、11%が正常化水準(6pg/mL未満)に到達したのに対し、投薬群は、35%が正常化された。また、終了日時点にプラセボ群のTNF-α平均数値(±SEM)は24.8(±12.3)であるのに対し、NuSepin投薬群は、平均7.4(±0.7)で低く、Wilcoxon Rank sum検定にて計算された統計有意性はp=0.007で、プラセボ群とNuSepin投薬群の薬効の差が意味があることを確認した。臨床試験の最終日に血中IL-8数値が、プラセボ群は、33%が正常化水準(10mg/mL未満)に到達したのに対し、投薬群は55%が正常化された。また、プラセボ群は、臨床終了時点のIL-8数値が開始日より有意に減少されていないのに対し、NuSepin投薬群は、臨床開始時点でIL-8数値が22.1(±4.0)から終了日に12.8(±2.2)に減少し、Wilcoxon Rank sum検定にて計算された統計有意性はp<0.05で、治療薬物による意味のある減少であることを確認した。IL-6の場合は、臨床試験終了時点で、プラセボ群は33%が正常化水準(3.3pg/mL未満)に到達したのに対し、投薬群は60%が正常化された。
【0121】
前記の臨床2相の実験結果によって、NuSepinがCOVID-19肺炎患者の治療日を短縮させて全身炎症を抑制する薬効有効性があることを確認した。
【0122】
あわせて、表11に示すように、臨床実験中にNuSepin 0.1mg/kg及び0.2mg/kg投薬によって発生した深刻な副作用事例はなく、副作用事例は少ないだけでなく、プラセボ群と比べても差がなかった。発生した副作用は病症が非常に軽微であり、臨床試験途中にすべて回復する一時的な症状であると確認された。これによって、本実験の治療剤であるTDCAの安全性と優れた耐薬性を確認した。
【0123】
【0124】
結果として、<実験例4>の結果は、
図9に示した模式図のような機序でTDCAが免疫細胞の過度な炎症反応を抑制してCOVID-19肺炎患者に有効な治療効果を示すことを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によるタウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid;TDCA)またはその薬学的に許容される塩は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染によって誘発される臨床的な症状を治療し、炎症の緩和と炎症性サイトカインの抑制効能による早期完治効果を示すので、新型コロナウイルス感染症を含む下気道感染疾患の予防または治療用組成物の有効成分として利用することができる。