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特許7702164可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石、可変磁力モータ、車両及び家庭用電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石、可変磁力モータ、車両及び家庭用電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20250626BHJP
   H02K 15/03 20250101ALI20250626BHJP
【FI】
H01F1/057 160
H02K15/03
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023567776
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2022045683
(87)【国際公開番号】W WO2023112894
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2021201427
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、元素戦略磁性材料研究拠点、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】タン シン
(72)【発明者】
【氏名】セペリ アミン ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179796(JP,A)
【文献】特開2020-031144(JP,A)
【文献】特開2020-027933(JP,A)
【文献】特開2020-107849(JP,A)
【文献】特開2017-157832(JP,A)
【文献】特開平05-175025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-Fe14-B(RはNdとSmを含み、さらにLa、Ceの少なくとも1種類の希土類元素を含む)系熱間加工磁石において、原子%で、
が(Nd1-s-x-ySmLaCe)12.2%以上14.5%以下であって、(0.0<s≦0.2、0.0≦x+y≦0.2)であり、
Bが5%以上6.5%以下であり、
Coが0.0%以上5.0以下であり、
Gaが0.0%以上1.0以下であり、
残余をFe及び不可避的不純物とする可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石。
【請求項2】
さらに、
残留磁束密度μMrが1.0T以上、1.4T以下であり、
保磁力μHcが0.1T以上、0.7T以下の範囲である
請求項に記載の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石。
【請求項3】
請求項1乃至の何れかに記載の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石を使用した可変磁力モータ。
【請求項4】
請求項に記載の可変磁力モータを使用した車両。
【請求項5】
請求項に記載の可変磁力モータを使用した家庭用電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石、可変磁力モータ、車両及び家庭用電子機器に関する。
本願は、2021年12月13日に、日本に出願された特願2021-201427号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来の永久磁石モータには、残留磁化が大きく保磁力が大きい高性能なNd-Fe-B系永久磁石が使用されている。Nd-Fe-B系永久磁石については、例えば特許文献1で組成が開示されており、特許文献2、3では電気自動車用のモータに適した改良が提案されている。Nd-Fe-B系永久磁石は、様々な回転数で動作する永久磁石モータの中で永久に磁化される。自動車の加速時には強力な永久磁石が必要であるが、中高速のモータ回転時には高トルクが不用となるため、永久磁石の大きな磁束は不用となる。
【0003】
問題は、モータの回転速度が大きくなると、コイルに磁束を弱めるための電流が必要になり、そのために追加の電圧が必要になることである。供給電圧には上限があるため、従来の永久磁石モータでは動作速度に制限があるという課題があった[非特許文献1-2]。
この問題を解決するために、モータの回転数に応じて永久磁石の磁化を制御し、モータの中・高速運転時に磁束弱化電流を低減できるVMF(Variable-Magnetic-Force)モータが実証された。これにより、広範囲の回転数で高出力のモータを効率的に動作させることができる。VMFモータに使用される永久磁石の磁化は、所望の磁束に応じて運転中に変化させる必要があるため、永久磁石には、コイルから発生する限られた磁界で永久磁石の磁化を変化させることができるように、0.2~0.65T程度の適度な保磁力を持つことが求められている[非特許文献1-2]。
さらに、保磁力に近いところで磁化が鋭く変化し、フラットなマイナー磁化曲線が本質的に望まれている。さらに、これらの磁石には大きな残留磁化が求められている。
【0004】
従来のNd-Fe-B系焼結磁石がVMFモータの用途に使用できない理由は2つあった[非特許文献1-2]。1つ目の理由は、従来のNd-Fe-B系焼結磁石がVMFモータには必要のない大きな保磁力を有すること。2つ目の理由は、従来のNd-Fe-B系焼結磁石の小磁化曲線が磁化を維持できず、磁場の増加に伴って磁石の磁化が増加するため、永久磁石の磁束を容易に制御できず、VMFモータには有益ではないことである。
近年、水素化不均化脱離再結合(HDDR)処理した(Nd、Sm)Fe-B粉末を用いた焼結磁石は、保磁力が0.2Tと小さく、マイナーループの形状を部分的に解決できる。しかし、(Nd,Sm)-Fe-B焼結磁石の残留磁化は1.06Tしかなく、磁石の最大磁束を制限していた。
【0005】
VFMモータのためのもう一つの有望な材料は、熱間加工Nd-Fe-B系永久磁石であり、1.4-1.5Tの大きな残留磁化を維持しながら、Ndの総含有量を調整することにより、1.2-1.4Tの小さな保磁力を達成することができる。
異方性熱間加工ネオジム磁石の保磁力の下限は、化学量論的組成に比べてわずかにNdが多い合金では、0.9-1.0T程度であると報告されている。合金中のNd含有量をさらに減らすと、Ndに富む粒界相がなくなるが、これは熱間加工磁石のテクスチャーと大きなエネルギー密度を達成するために決定的に重要である。熱間加工ネオジム磁石のネオジムリッチ相を維持したまま保磁力を低下させるもう一つの方法は、LREをネオジムに置換することであり、2-14-1母相の結晶異方性を低下させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-190404号
【文献】国際公開第2019/230457号
【文献】特開2021-44361号
【非特許文献】
【0007】
【文献】K. Sakai, K. Yuki, Y. Hashiba, N. Takahashi, and K. Yasui, in Proc. 2009 Int. Conf. Elect. Mach. Syst., (2009) 1-6.
【文献】N. Limsuwan, et. al., “Design and evaluation of a variable-flux flux-intensifying interior permanent magnet machine,” IEEE Trans. Ind. Appl., 50 (2014) 1015-1024.
【文献】日置敬子、他『熱間加工ネオジム磁石の粒界拡散法による高性能化』、電気製鋼、第92巻第11頁から第18頁(2021)
【文献】佐々木泰祐、大久保忠勝、宝野和博『ネオジム焼結磁石の微細組織―粒界相および界面組織』、日本金属学会誌、第81巻第2頁から第10頁(2017)
【文献】宝野和博、大久保忠勝、H. Sepehri-Amin、『Nd-Fe-B磁石の高保磁力化をめざした微細組織制御』、日本金属学会誌、第76巻第2頁から第11頁(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のNd-Fe-B系焼結磁石がVMFモータの用途に使用できない理由は、(i)従来組成のNd-Fe-B系焼結磁石はVMFモータには必要のない大きな保磁力を有することと、(ii)傾斜したマイナーループは磁束の制御を困難にするため、VMFモータには有益ではないことにあった。ここで、マイナーループとは、磁気飽和曲線とは異なり、磁気が飽和しないループ曲線をいう。
本発明は上記の課題を解決したもので、VMFモータに必要とされる程度の小さな保磁力を有し、永久磁石の磁束を容易に制御できる可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石、可変磁力モータ、車両及び家庭用電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、(Nd,LRE)-Fe-B(LRE=Y、La、Ce)の熱間加工磁石のVMF応用の可能性を探るために、(Nd0.8LRE0.2Fe14B熱間加工磁石の磁気特性とマイナーループを評価することで、本発明を想到するに至った。
また、本発明者は、(Nd,Sm,LRE)-Fe-B(LRE=La、Ce)の熱間加工磁石のVMF応用の可能性を探るために、(Nd0.8Sm0.1LRE0.1Fe14B熱間加工磁石の磁気特性とマイナーループを評価することで、本発明を想到するに至った。
【0010】
[1]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石は、例えば表3に示すように、R-Fe14-B(RはNd、La、Ce、Yから選ばれる少なくとも1種類の希土類元素)系熱間加工磁石において、原子%で、
が(Nd1-x-y-zLaCe)12.2%以上14.5%以下であって、(0.0≦x≦0.2、0.0≦y+z≦0.3)であり、
Bが5%以上6.5%以下であり、
Coが0.0%以上5.0以下であり、
Gaが0.0%以上1.0以下であり、
残余をFe及び不可避的不純物とする。
[2]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[1]において、好ましくは、残留磁束密度μMrが1.3T以上であり、保磁力μHcが0.1T以上、1.6T以下の範囲であるとよい。
【0011】
[3]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石は、例えば表3に示すように、R-Fe14-B(RはNdとLaを含み、さらに任意的にCe、Yの少なくとも1種類の希土類元素を含む)系熱間加工磁石において、原子%で、
が(Nd1-x-y-zLaCe)12.2%以上14.5%以下であって、(0.05≦x≦0.4、0.0≦y+z≦0.3)であり、
Bが5%以上6.5%以下であり、
Coが0.0%以上5.0以下であり、
Gaが0.0%以上1.0以下であり、
残余をFe及び不可避的不純物とする。
[4]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[3]において、好ましくは、残留磁束密度μMrが1.0T以上1.30T以下であり、保磁力μHcが0.15T以上、1.2T以下の範囲であるとよい。
【0012】
[5]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石は、例えば表3に示すように、R-Fe14-B(RはNdとLaを含み、さらにCe、Yの少なくとも1種類の希土類元素を含む)系熱間加工磁石において、原子%で、
が(Nd1-x-y-zLaCe)12.2%以上14.5%以下であって、(0.2≦x≦0.35、0.1≦y+z≦0.4)であり、
Bが5%以上6.5%以下であり、
Coが0.0%以上5.0以下であり、
Gaが0.0%以上1.0以下であり、
残余をFe及び不可避的不純物とするとよい。
[6]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[5]において、好ましくは、さらに、残留磁束密度μMrが1.0T以上1.25T以下であり、保磁力μHcが0.15T以上、1.1T以下の範囲であるとよい。
【0013】
[7]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石は、例えば表5に示すように、R-Fe14-B(RはNdとSmを含み、さらにCe、Laの少なくとも1種類の希土類元素を含む)系熱間加工磁石において、原子%で、Rが(Nd1-s-x-ySmLaCe)12.2%以上14.5%以下であって、(0.0<s≦0.2、0.0≦x+y≦0.2)であり、Bが5%以上6.5%以下であり、Coが0.0%以上5.0以下であり、Gaが0.0%以上1.0以下であり、
残余をFe及び不可避的不純物とするとよい。
[8]本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[7]において、好ましくは、さらに、残留磁束密度μMrが1.0T以上1.4T以下であり、保磁力μHcが0.1T以上、0.7T以下の範囲であるとよい。
【0014】
[9]可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[1]~[8]を使用した可変磁力モータ。
[10]可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[1]~[6]を使用した車両。車両は、例えば自動車、またはオートバイとすることができる。上記可変磁力モータを使用した車両。
[11]可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石[1]~[6]を使用した家庭用電子機器。前記家庭用電子機器は、例えば洗濯機、冷蔵庫、冷凍庫、掃除機の何れかであるとよい。上記可変磁力モータを使用した家庭用電子機器。
【発明の効果】
【0015】
本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石によれば、VMFモータに必要とされる程度の小さな保磁力を有し、永久磁石の磁束を容易に制御できる可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の熱間加工磁石についての平坦なマイナー磁化曲線と平坦因子(Flatness factor)の説明図である。
図2】(a)は本発明の一実施例を示すNd0.8LRE0.2熱間加工磁石の減磁曲線、(b)は本発明の一実施例を示すNd0.8LRE0.2熱間加工磁石の保磁力の温度依存性を示している。
図3】各種の熱間加工磁石について撮影した高倍率断面BSE-SEM画像で、(a)はLREフリー、(b)はNd0.8Ce0.2、(c)はNd0.80.2、および(d)は本発明の一実施例を示すNd0.8La0.2を示している。
図4】(a)はNd-Fe-B焼結磁石のマイナーループを表している。(b)はNd-Fe-B、(c)はNd0.8Ce0.2-Fe-B、および(d)はNd0.8La0.2のR-Fe-B熱間加工磁石のマイナーループを表している。 (e)はNd-Fe-B焼結磁石、および(f)はNd0.8La0.2-Fe-B熱間加工磁石のSQUID-VSMおよびKerrデータに基づいて測定された選択されたマイナーループである。
図5】(a)Nd-Fe-B焼結磁石と(b)Nd0.8La0.2-Fe-B熱間加工磁石の磁場下での磁区の変化を示している。
図6】本発明の各種異方性熱間加工磁石についての磁気特性を説明する図で、横軸は保磁力μHc(T)、縦軸は残留磁束密度μMr(T)である。
図7】(a)は(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石のFirst order reversal curve(FORC)、(b)は(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のFORCである。
図8】(a)は(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石のBSE-SEM像であり、(b)は(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のBSE-SEM像であり、それぞれ左側の像が低倍率像であり、右側の像が高倍率像である。
図9】(a)は粒界拡散工程を施した(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石及び粒界拡散工程を施していない(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のヒステリシス曲線であり、(b)はそれぞれの保磁力の温度依存性を示すグラフである。
図10】(a)及び(b)は(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石そのもののBSE-SEM像であり、(c)及び(d)がNd-Cu拡散処理された(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石BSE-SEM像であり、(a)及び(c)が低倍率像であり、(b)及び(d)が高倍率である。
図11】Nd-Cu拡散処理された(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のFORCであり、(a)は室温のものであり、(b)は460Kのものである。
図12】本発明の熱間加工磁石が使用される可変磁力モータの一例を示す要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、上限値と下限値の境界値も含むものとするのを原則とする為、数値範囲を示す『~』については『以上』及び『以下』の趣旨とするが、上限値と下限値の境界値を含まない場合は、『未満』または『超え』と表記することにする。
【0018】
<熱間加工磁石の製造工程>
(Nd0.8LRE0.214.0Fe75.7Co4.52Ga0.545.24at%(LRE=Y、La、Ce)の組成を持つ合金インゴット(以下、Nd0.8LRE0.2と表記)を、高純度元素の誘導溶解により作製し、低炭素鋼鋳型に鋳造した。このインゴットを30m/sのCuホイールで液体急冷し、等方的なナノ結晶リボンを得た。急冷したリボンを650℃で380MPaの真空中でホットプレスして成形し、さらにアルゴン雰囲気中で780℃で75%の高さまで熱間プレスした。
<Nd-Fe-B焼結磁石の製造工程>
Nd14.0Fe75.7Co4.52Ga0.545.24at%合金のインゴットを誘導溶解により作製した。インゴットからストリップキャスト法によりストリップキャストフレークを作成した。ストリップキャスト法とは、材料となる金属を溶解させ,その溶湯を銅ロール上に注いで急冷凝固させる鋳造方法をいう。ストリップキャストフレークとは、焼結磁石用RE-Fe-B系合金の急冷凝固薄片である。ホイールスピードは1~5m/sである。ストリップキャストフレークに150~220℃の温度で1~5時間水素還元を行った。その後、水素還元された粉末から平均粒径1~5μmのジェットミル粉末を調製した。このジェットミル粉末を磁場で整列させて、グリーンコンパクトを作製した。焼結は、真空下で900~1150℃の温度で2~9時間行った。焼結後の焼鈍は,500~680℃で1~5時間行った。
【0019】
<磁気特性の測定>
室温での磁気特性はBHトレーサーを用いて測定し、最大印加磁場7Tのもとで超伝導量子細線振動サンプル磁束計(SQUID-VSM)を用いて温度依存保磁力とマイナーループを求めた。また、カールツァイス社製CrossBeam1540EsBを用いたSEMで微細構造を調べた。
異方性磁石の異方性磁場は、ダイナクール物性測定システム(PPMS)を用いて、最大印加磁場14Tのもとで測定した。また、磁区伝播を調べるために、光磁気カー効果(MOKE)顕微鏡を用いた。試料は2.5mm×0.6mm×3mm(c軸)の大きさに切り出し、パルス磁化装置を用いて最大磁場5Tで予磁した。純粋な磁区のコントラストは、MOKE顕微鏡を用いて最大磁場1.3Tで再び磁石を飽和させた後、背景情報を差し引くことで得られた。
【0020】
図1は、本発明の熱間加工磁石についての平坦なマイナー磁化曲線と平坦因子(Flatness factor)の説明図で、横軸は保磁力μHc、縦軸は残留磁束密度μMrを表している。飽和磁束密度Jsと、J-H減磁曲線での保磁力μHcを用いて、次の平坦因子が定義される。J-H減磁曲線は、外部磁場によって磁石の磁化の大きさがどの位変化するかを表しているのを示している。
ここで、Fは平坦因子、0.5Jsは飽和磁束密度Jsの半値、H0.5Jsは飽和磁束密度Jsの50%に相当する磁界の値であって、残留磁束密度μMrがゼロにおける保磁力μHcの値、HJ-Hmagは残留磁束密度μMrがゼロのときの飽和J-H曲線の保磁力または保磁力値Hcである。
【数1】
【0021】
<Nd0.8LRE0.2熱間加工磁石(LRE=Ce、La、Y)の磁気特性の測定>
図2(a)は、Nd0.8LRE0.2熱間加工磁石(LRE=Ce、La、Y)の室温減磁曲線である。LREフリーの磁石では、保磁力1.40T、残留磁化(μ0Mr)1.38Tが得られた。一方、Nd0.80.2-Fe-Bでは、保磁力1.22T、残留磁化1.32TとLREフリー磁石よりも低い値となった。図2(b)は、Nd0.8LRE0.2熱間加工磁石の保磁力および保磁力係数(β)の300Kから500Kまでの温度依存性を示す。LREフリーの試料では、βの値は-0.424%/Kと測定された。
Nd0.8Ce0.2試料では、β値は-0.454%/Kに減少した。しかし、Nd0.80.2試料ではβ=-0.423%/Kとなり、LREなしの試料に比べて保磁力の熱安定性が低下しなかった。Nd0.8LRE0.2-Fe-B試料では、Ceを置換した磁石が最も大きな室温保磁力を示したが、Yを添加した試料は保磁力の熱的安定性が高く、室温保磁力は中程度で、高温(>420K)ではNd0.80.2試料の方がNd0.8Ce0.2試料よりも大きな保磁力を得ることができた。
【0022】
図3は、LREを含まない磁石とLREを添加した高温加工磁石から得られた後方散乱電子(BSE)SEM像である。すべての試料において、灰色のコントラストを示す2:14:1結晶粒が、薄いREリッチ粒間相に包まれている(明るく写っている)。プレートレット状の2-14-1粒は、熱間加工後、c軸が負荷方向に平行になるように配向していた。BSE-SEM像に基づいて試料の平均結晶粒径を算出し、表1にまとめた。表1は、Nd0.8LRE0.2熱間加工サンプルの平均結晶粒径Dc、Dab、異方性磁場Haおよび飽和磁化μMsを示している。
【0023】
【表1】
【0024】
粒径は、合金組成に使用したLREの種類によって異なる。最大の平均結晶粒径は、LREを含まない試料で得られた(c面に沿って約421nm(Dc)、c面に垂直な方向に約110nm(Dab))。平均粒径が最も小さかったのはNd0.8La0.2サンプルで、幅(Dc)が約186nm、高さ(Dab)が約59nmとなり、粒界の体積分率が大きくなった。また、明るいコントラストを持つREリッチな3重点の面積割合も、LREフリーのサンプルの10.3%からNd0.8La0.2サンプルの4.6%へと大幅に減少した。その結果、図3(d)では、粒界が薄暗く写っている。
【0025】
図4(a)は、SQUID-VSMで測定したNd11.73Pr2.87Fe77.69Co1.04Cu0.09Al0.49B6.09(at。%)の組成を持つN50タイプの市販のNd-Fe-B焼結磁石のFORCを示している。
外部磁場を7.0Tから第2象限で異なる値に減少させた後、再び7Tに飽和させた。これにより、磁石のFORCを評価できた。図4(a)に見られるように、焼結磁石の磁化値は、第2象限の磁場の増加に伴って容易に変化する。これは、Nd-Fe-B焼結磁石の磁束を簡単に制御できないため、VMFモータの用途には適さないことを意味する。対照的に、図4(b-d)に示された、熱間加工したNd-Fe-Bおよび(Nd0.8LRE0.2)-Fe-B磁石のFORCは、焼結磁石の場合と比較してはるかに平坦である。これは、ドーパント(Ce、Y、La)とは無関係に、熱間加工したNd-Fe-B磁石の超微細な結晶粒に起因するものと思われる、マイナーループの磁化値は外部磁場の変化に対してより強固である。(Nd0.8La0.2)-Fe-B熱間加工磁石の場合、平坦なFORCが観察されるだけでなく、0.5Tの中程度の保磁力と、保磁力値の周りの磁化遷移が鋭いことに注意してほしい。SQUID-VSMで測定された保磁力値は、B-Hトレーサーの保磁力値よりもわずかに小さい。その理由は、B-Hトレーサーのサンプルとは異なり、SQUID-VSM測定には少量のサンプルが必要であり、磁石の表面を研磨すると保磁力がわずかに低下する為である。
【0026】
ここでは、MOKE顕微鏡を使用して、磁区伝搬に基づいてFORCの形状を制御する方法について説明する。図5に示すように、サンプルの磁化を飽和させた後、磁場を減少させて、逆磁区を観察した。その後、磁壁の伝搬がどのように行われるかを理解するために、磁場を飽和磁化に向けて再び増加させた。印加磁場の実験計画は、図4に示すFORCを模倣している。図5(a)に示すMOKE画像では、黒のコントラストを持つ逆磁区の面積率は、-0.86Tで73%と決定されている。明確な多磁区構造が現れ、0.2Tでは反転した磁区の面積率が59%に減少している。磁場をさらに0.47Tに上げると、多磁区構造の磁壁が容易に変位するため、これにより、逆磁区の面積割合は33%と大幅に減少した。これは、X線磁気円二色性(XMCD)によって観察されるものと一致している。
【0027】
MOKEデータの磁区のコントラストに基づいて、各磁場で正規化された磁化値をプロットした。MOKEデータから構築されたFORCを図4(e)にプロットして、SQUID-VSM測定からのFORCと比較する。MOKEデータからのFORCは、SQUID-VSMデータからのFORCと同じ傾向を示す。つまり、焼結磁石の外部磁場の増加とともに徐々に磁化が増加する。一方、図5(b)に示すMOKEの結果から、(Nd0.8La0.2)-Fe-B熱間加工磁石では、磁化曲線の第2象限の-0.52Tから0.24Tまで磁場を上げても、磁区はなかなか伝播しないことがわかる。(Nd0.8La0.2)-Fe-B熱間加工磁石のMOKE画像から得られた正規化磁化曲線を図4(f)に示す。MOKE画像は、FORCの磁化値を制御する理由が、超微細粒サイズ(Nd0.8La0.2)-Fe-Bの熱間加工磁石の粒界相でのピン止め効果であることを明確に説明している。
【0028】
表2は、比較例としてのNd-Fe-B焼結磁石及びNd-Fe-B熱間加工磁石、並びに本発明の一実施例である(Nd0.6La0.3Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石の磁気特性を示すものである。磁気特性としては、保磁力μ、残留磁束密度μ並びに平坦因子Fを表している。
【0029】
【表2】
【0030】
<小括:Nd0.8LRE0.2熱間加工磁石(LRE=Ce、La、Y)の磁気特性>
以上の結果から、Ceは高い室温保磁力を得るためにNdの代替となり得ること、Yは保磁力の熱安定性を向上させること、LaはCeやYに比べて外部特性に悪影響を及ぼすことがわかった。本発明で報告された温度依存性保磁力は、Nd0.8LRE0.2-Fe-B(LRE=Ce、Y)熱間加工磁石において、360K以下の温度で0.8T以上の保磁力を維持できることを示しており、風力タービンなどの中温(90℃)での応用の可能性を示している。さらに、LRE置換磁石の用途を拡大するために、Nd0.8LRE0.2-Fe-B熱間加工磁石をVMF(可変磁力)モータに適用し、幅広い回転数でモータの効率を向上させる可能性についても検討している。VMF用途の永久磁石の要件を満たすためには、0.2~0.65Tの適度な保磁力、高い残留磁化、平坦なFORCが望ましい。
Nd-Fe-B焼結磁石は、保磁力が比較的大きいため、この用途には選択できない。さらに、VMFモータでは磁化のFORCの形状に大きなばらつきがあるため、磁化の値を正確に調整することができない。
【0031】
本発明では、図4図5に示すように、磁化のFORCの形状を制御するためには、磁壁の伝搬をより良く制御する必要があることを示している。粒径を小さくすると、従来のNd-Fe-B焼結磁石でよく見られた多磁区構造が、熱間加工磁石では単磁区構造に変化する。また、超微細結晶粒磁石では粒界の体積分率が大きくなり、これが再磁化過程で磁壁の伝播に対するピンニングサイトとして働く。この結果、VFMアプリケーションに必要なフラットなFORCが得られる。したがって、超細粒の熱間加工磁石は、VMFアプリケーションに使用するための魅力的な選択肢となる。発明者は、LaをNdに20%置換することで、磁石のコストを削減するだけでなく、磁石の保磁力をVMFモータの用途に適した範囲であるμHc=0.48Tに低減できることを実証した。
この適度な保磁力は、前述の表2に示すように、マトリックス(Nd、La)Fe14B相の固有の磁気特性を制御したことによるものである。また、(Nd0.8La0.2)Fe-B熱間加工磁石の残留磁化が1.2Tと大きいことも、VFMモータの高出力化につながるメリットである。
【0032】
結論として、(Nd0.8LRE0.2Fe14B高温加工磁石のVMF(可変磁力)モータへの応用の可能性を探った。(Nd0.8Ce0.2Fe14B磁石は、LREフリー磁石と比較して高い保磁力1.41Tと低い残留磁化1.30Tを示し、(Nd0.80.2Fe14B磁石は、保磁力の熱安定性(β=-0.423%/K)の低下はなく、適度な保磁力1.22Tと残留磁化1.32Tを示した。
NdをLaに20%置換した場合、保磁力は0.48T、残留磁化は1.2Tとなり、VMFモータへの応用に適した値に調整された。本発明の注目すべき結果は、(Nd0.8La0.2Fe14磁石のFORCの形状がフラットであることであり、これはMOKE顕微鏡によって明らかにされた超微細熱間加工磁石の結晶粒界の大きな体積分率に由来する。また、FORCはピンニング効果によりフラットになっている。
本発明は、低コストの(Nd0.8La0.2Fe14B熱間加工磁石が、VMFモータへの応用のための優れた候補となり得ることを示している。
【0033】
<Nd0.8LRE0.2熱間加工磁石(LRE=Ce、La、Y)の磁気特性の測定>
図6は、本発明の各種異方性熱間加工磁石についての磁気特性を説明する図で、横軸は保磁力μHc(T)、縦軸は残留磁束密度μMr(T)である。
【0034】
表3は、図6に示した各種異方性熱間加工磁石についての磁気特性をプロットした測定点の元素組成を説明する表である。
【0035】
【表3】
【0036】
表4は本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B異方性熱間加工磁石についての望ましい磁気特性を有する組成範囲の説明である。(Nd1-x-y-zLaCe12.2-14.5-Febal-Co0.0-5.0-Ga0.0-1.0-B5-6.5(at.%)におけるLaCeを組成範囲のパラメータとして用いる。
磁気特性の好ましい第1の範囲としては、残留磁束密度μMrが1.3T以上であると共に、保磁力μHcが0.1T以上、1.6T以下の範囲であり、このような組成範囲は、LaCe(0.0≦x≦0.2、0.0≦y+z≦0.3)である。
磁気特性の好ましい第2の範囲としては、残留磁束密度μMrが1.1T以上1.3T以下であると共に、保磁力μHcが0.15T以上、1.1T以下の範囲であり、このような組成範囲は、LaCe(0.05≦x≦0.4、0.0≦y+z≦0.3)である。
磁気特性の最適範囲としては、残留磁束密度μMrが1.0T以上1.25T以下であると共に、保磁力μHcが0.15T以上、0.7T以下の範囲であり、このような組成範囲は、LaCe(0.2≦x≦0.35、0.1≦y+z≦0.4)である。
【0037】
【表4】
【0038】
<Nd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)の製造工程>
(Nd0.8Sm0.1LRE0.112.9Fe76.31Co4.47Ga0.505.82(at%)(LRE=La、Ce)の組成を持つ合金インゴット(以下、Nd0.8Sm0.1LRE0.1と表記)を、高純度元素の誘導溶解により作製し、低炭素鋼鋳型に鋳造した。このインゴットを30m/sのCuホイール速度で液体急冷し、等方的なナノ結晶リボンを得た。急冷したリボンを630℃で380MPaの真空中でホットプレスして成形し、さらにアルゴン雰囲気中で750℃で75%の高さまで熱間プレスした。
こうして得られたNd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)についてさらに、粒界拡散法を施した実施例では、このNd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)を、4wt%(当該熱間加工磁石の重量に対して)のNd80Cu20合金で被覆し、その後、650℃で3時間熱処理を行った。Nd80Cu20合金を拡散材として粒界拡散法を施したNd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)では、粒界にCuを検出することができる。粒界におけるCuの検出は走査透過型電子顕微鏡でのEDS分析によって行うことができる。
粒界拡散法に用いる拡散材として、RE-M(RE:Pr,Nd、Tb、Dy、M:Ga、Cu、Al)を例示することができる。
熱間加工磁石について粒界拡散法を施したものであるか否かは、粒界に拡散材の構成元素が含まれているか否かを調査することによって判断できる。
【0039】
<Nd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)の磁気特性の測定>
図7は、Nd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)のFORCを示すものであり、(a)はLRE=Ceのとき、すなわち、(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石のFORCであり、(b)はLRE=Laのとき、すなわち、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のFORCである。
(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石及び(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のそれぞれの平坦因子Fは、0.83、0.87であった。これらの平坦因子Fは、表1に示した(Nd0.6La0.3Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石の平坦因子F(=0.75)に対して優れている。
また、(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石の保磁力μ及び残留磁束密度μはそれぞれ、0.16T、1.29Tであり、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石の保磁力μ及び残留磁束密度μはそれぞれ、0.26T、1.35Tであった。
【0040】
図8(a)及び(b)はそれぞれ、(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石のBSE-SEM像、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のBSE-SEM像である。それぞれ左側が低倍率(スケールバーが5μm)であり、右側が高倍率(スケールバーが500nm)である。
(Nd0.8Sm0.1Ce0.1)-Fe-B熱間加工磁石のオリジナルのフレークの界面領域で灰色のコントラストの(Sm,Ce)Fe相が観察される。これは、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石においてはCeをLaに置換することで(Sm,Ce)Fe相の生成が抑制されている。結果として、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のリボン内部でREリッチ三重点の面積分率が増加する。これによって、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石で達成した高めの保磁力とFORC(First-order Reversal Curve;一次反転曲線)の平坦性とを説明できる。
【0041】
FORCの平坦性向上のために、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石に対して粒界拡散処理を実施した。図9(a)はヒステリシス曲線であり、図9(b)は保磁力の温度依存性である。
図9(a)は、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石そのものと、4wt%のNd-Cu拡散工程を施した(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石の室温特性を示す。Nd-Cu拡散工程実施後、保磁力μは0.56Tに向上し、残留磁束密度μは、1.29Tに低下した。
室温で保磁力が向上したおかげで、適用温度(460K)での0.15Tの保磁力が達成することができた。この保磁力は実用化に望ましい値である。言い換えると、Nd-Cu拡散処理された(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石は、使用温度 (300-460K) 範囲全体での使用に対して望ましい保磁力を持つことができる。
【0042】
図10(a)及び(b)は、(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石そのもののBSE-SEM像であり、図10(c)及び(d)は、Nd-Cu拡散処理された(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のBSE-SEM像である。それぞれ上側が低倍率(スケールバーが5μm)であり、下側が高倍率(スケールバーが500nm)である。
【0043】
図10からわかるように、粒界拡散工程後に、リボン内部でREリッチ三重点領域の面積分率が増加し、薄い粒界相が熱間加工磁石でより見えやすくなっている。
これによって、図11(a)で示されているように、Nd-Cu拡散処理された(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石で達成した高めの保磁力とFORCのより良好な平坦性とを説明できる。
【0044】
図11は、Nd-Cu拡散処理された(Nd0.8Sm0.1La0.1)-Fe-B熱間加工磁石のFORCであり、(a)は室温のもの、(b)は460Kのものである。
【0045】
Nd-Cu粒界拡散工程後、平坦因子は0.87から0.95に向上した。この値は、VMFモーター用途でこれまでに報告されている平坦因子の最大値であり、高温 (460K) でも平坦因子0.94を維持している。
【0046】
表5に、Nd0.8Sm0.1LRE0.1熱間加工磁石(LRE=Ce、La)の磁気特性をまとめる。
【0047】
【表5】
【0048】
サンプル1~18について、可変磁力モータ用R-Fe-B異方性熱間加工磁石として好ましい磁気特性を有するものを分類する。(Nd1-x-y-zLaCe12.2-14.5-Febal-Co0.0-5.0-Ga0.0-1.0-B5-6.5(at.%)におけるLaCe、及び、(Nd1-s-x-ySmLaCe12.2-14.5-Febal-Co0.0-5.0-Ga0.0-1.0-B5-6.5(at.%)におけるSmLaCeを組成範囲のパラメータとして用いる。
【0049】
(1)残留磁束密度μMrが1.1T以上で、かつ、保磁力μHcが0.2T以上、0.65T以下の範囲であるものとして、サンプル11,12,19,20が挙げられる。
これらのサンプルに基づくと、好ましい組成範囲としてLaCe(0.2≦x≦0.4、0.0<y+z≦0.3)、SmLaCe(0.0<s≦0.2、0.0<x+y≦0.2)を挙げることができる。より好ましい組成範囲としてLaCe(0.15≦x≦0.35、0.05≦y+z≦0.25)、SmLaCe(0.05≦s≦0.15、0.05≦x+y≦0.15)を挙げることができる。
【0050】
(2)残留磁束密度μMrが1.1T以上で、かつ、保磁力μHcが0.2T以上、0.8T以下の範囲であるものとして、サンプル6,10,11,12,19,20が挙げられる。
これらのサンプルに基づくと、好ましい組成範囲としてLaCe(0.1≦x≦0.4、0.0≦y+z≦0.3)、SmLaCe(0.0<s≦0.2、0.0<x+y≦0.2)を挙げることができる。より好ましい組成範囲としてLaCe(0.15≦x≦0.35、0.0≦y+z≦0.25)、SmLaCe(0.05<s≦0.15、0.05≦x+y≦0.15)を挙げることができる。
【0051】
(3)残留磁束密度μMrが1.1T以上で、かつ、保磁力μHcが0.2T以上、0.9T以下の範囲であるものとして、サンプル5,6,9,10,11,12,15,19,20が挙げられる。
これらのサンプルに基づくと、好ましい組成範囲としてLaCe(0.0≦x≦0.4、0.0≦y+z≦0.4)、SmLaCe(0.0<s≦0.2、0.0<x+y≦0.2)を挙げることができる。より好ましい組成範囲としてLaCe(0.0≦x≦0.35、0.15≦y+z≦0.35)、SmLaCe(0.05<s≦0.15、0.05≦x+y≦0.15)を挙げることができる。
【0052】
(4)残留磁束密度μMrが1.1T以上で、かつ、保磁力μHcが0.2T以上、0.65T以下の範囲であり、かつ、平坦因子Ffが0.7以上であるものとして、サンプル11,19,20が挙げられる。
これらのサンプルに基づくと、好ましい組成範囲としてLaCe(0.2≦x≦0.4、0.0<y+z≦0.2)、SmLaCe(0.0<s≦0.2、0.0<x+y≦0.2)を挙げることができる。より好ましい組成範囲としてLaCe(0.25≦x≦0.35、0.05≦y+z≦0.15)、SmLaCe(0.05<s≦0.15、0.05≦x+y≦0.15)を挙げることができる。
【0053】
図12は、本発明の熱間加工磁石が使用される可変磁力モータの一例を示す要部構成図である。可変磁力モータは、低磁力モードと高磁力モードを巻線型固定子と永久磁石型回転子から構成されている。巻線型回転子は、回転する部分で、ロータとも呼ばれ、巻線が設けてある。巻線型回転子は、ベアリング(図示せず)を介して出力軸となるシャフトに取付けられている。永久磁石型固定子は、ロータを回転させるための力を発生させる部分で、永久磁石が設けてある。永久磁石は、磁界の発生源となるもので、モータの構成する素材として重要である。ブラケット(図示せず)は、ベアリングを支持し、巻線型固定子を覆うように一体になっている部分である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石によれば、VMFモータに必要とされる程度の小さな保磁力を有し、永久磁石の磁束を容易に制御できる可変磁力モータ用R-Fe-B熱間加工磁石が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12