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  • 特許-柿入り味噌の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】柿入り味噌の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20250626BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20250626BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L27/00 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024083565
(22)【出願日】2024-05-22
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523443157
【氏名又は名称】中田 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭子
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-165571(JP,A)
【文献】西日本新聞,福岡県/富有柿みそ 人気じわり うきは市商工会女性部が発売5年 コロナ禍でも… 「絶妙な味 堪能して」/筑後,日経テレコン[online],2021年11月10日,p.16,[2025年3月3日検索]
【文献】西日本新聞,佐賀県◎くう・うまか=甘い「柿みそ」味わって 味菜さざんか/食 彩々 SAGAワイド,日経テレコン[online],2007年03月03日,p.33,[2025年3月3日検索]
【文献】佐賀新聞,産直自慢 柿みそ(東脊振村),日経テレコン[online],2000年10月15日,p.13,[2025年3月3日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
味噌に柿が添加される調味料である柿入り味噌の製造方法であって、
生食用に栽培される柿の果実より果皮、種子、へたの不可食部位を取り除いて柿の果肉を取り出し、前記柿の果肉を加熱により重量比において前記柿の果肉の状態と比較して50~90%に低下させて水分量を減少させペースト状の形態である加工果肉を得る果肉加工工程と、
前記加工果肉と、味噌とを混錬するに際し、前記加工果肉は前記味噌に対して重量比において50~170%の重量割合で配合される混合工程と、
前記混合工程の後に、前記味噌による前記加工果肉の発酵を促す熟成工程と、を有し、
前記柿入り味噌の全体において、塩分量は味噌のみと比較して1/3から1/2である、
ことを特徴とする柿入り味噌の製造方法。
【請求項2】
前記果肉加工工程において、前記柿の果肉加熱に電子レンジが用いられる請求項1に記載の柿入り味噌の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柿入り味噌の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
味噌は、大豆と、米、麦、または大豆を原料に作られる麹(こうじ)を混合して得られる発酵食品であり、味噌汁としての喫食に加え、各種料理の調味料として広範に利用されている。味噌には大豆のタンパク質、アミノ酸、麹に由来する糖分、その他コウジカビ(Aspergillus sp.)の発酵により産生される化合物が含まれる。さらにはコウジカビ自体の整腸作用等から、近年、和食、日本料理の健康作用への注目が高まっている。
【0003】
味噌の製造過程では、他の雑菌の繁殖を抑制するため塩を加えることが不可欠である。また、塩を加えなければ保存性が低下してしまう。従って、味噌への塩の添加自体は不可避である。近時、平均寿命の増加に伴い、食塩、油脂の過剰摂取に起因する動脈硬化、脳梗塞等の循環器系疾患が問題視されている。これらの疾患への予防として、1日の食事からの塩の摂取を抑制すること(減塩)が効果的と考えられている。
【0004】
そのため、減塩に寄与する調味料の一例として柿チャツネが提案されている(特許文献1参照)。ただし、専ら柿の加工品であることから、日常の広範な料理への利用は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-165571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、味噌の健康効果、日常の料理への活用の多様性を念頭に置きつつ、味噌の減塩のあり方を鋭意模索しているうちに、味噌の美味しさを損なうことなくよりおいしくするとともに、減塩を可能とする新規の味噌を作製することに成功した。
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、柿を添加することにより味噌の減塩に活用し、柿の風味を通じて味噌単独の状態よりも美味しさを付加した新規の味噌の調味料として柿入り味噌の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、実施形態の柿入り味噌の製造方法は、柿の果実より柿の果肉を取り出し、柿の果肉の水分量を減少させて加工果肉を得る果肉加工工程と、加工果肉と、味噌とを混錬する混合工程とを有することを特徴とする。
【0009】
さらに、柿入り味噌の製造方法において、混合工程の後に熟成工程が加えられることとしてもよい。
【0010】
さらに、柿入り味噌の製造方法において、果肉加工工程は、柿の果肉を加熱により重量比において50~90%に低下させて水分量を減少させることとしてもよい。
【0011】
さらに、柿入り味噌の製造方法において、加工果肉と味噌との混錬に際し、加工果肉は味噌に対して重量比において30~70%の重量割合で配合されることとしてもよい。
【0012】
さらに、柿入り味噌の製造方法において、加工果肉はペースト状の形態であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の柿入り味噌の製造方法によると、柿の果実より柿の果肉を取り出し、柿の果肉の水分量を減少させて加工果肉を得る果肉加工工程と、加工果肉と、味噌とを混錬する混合工程とを有するため、柿を添加することにより味噌の減塩に活用し、柿の風味を通じて味噌単独の状態よりも美味しさを付加した新規の味噌の調味料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の柿入り味噌の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態の柿入り味噌の製造方法は、図1の工程図として概要が構成される。簡潔には味噌に柿が添加される新規の調味料となる。ただし、柿をそのまま味噌と混ぜたとしても柿自体の水分により味噌が腐敗したり保存性が低下したりして好ましくない。そこで、柿自体への加工が必要となる。
【0016】
始めに、柿の果実が用意される。柿は一般に生食用に栽培される品種が該当する。例えば、柿の品種として富有柿、次郎柿等が用いられる。そこで柿の果実より柿の果肉が取り出される。つまり、柿の果実より果皮、種子、へた等の不可食部位が取り除かれる。その後、柿の果肉より水分量が減少される。柿の果肉の状態では水分過剰であることを考慮しての措置である。柿の果肉より水分量が減少されて加工果肉が得られる(「果肉加工工程」)。なお、原料となる柿として渋柿が使用可能である。柿渋は渋を抜いた状態に加工して用いられる。
【0017】
柿の果肉から水分量を減少させる方法としては、加熱が用いられる。加熱に際しては鍋で煮込むことが通常である。他に、電子レンジ等の調理器具を用いても水分量が減少される。そのほか、柿の果肉に対し、天日干し(自然乾燥)、温風の吹き付け、さらには、凍結乾燥等の公知の乾燥手法が採用可能である。
【0018】
鍋で煮込む等の加熱は、加熱に伴って柿の果肉が崩れやすくなり、流動性のあるペースト状となること、また、短時間で済むことから、柿の果肉から水分量を減少させる方法として好ましい。柿の果肉は加熱効率を考慮して適度な大きさに切り分けられる。なお、加工果肉として、最初からある程度水分量が減少した干し柿を用いることとしてもよい。
【0019】
柿の果肉から水分量を減少させて加工果肉に調製する段階において、加工果肉の水分量はもとの柿の果肉の状態と比較して50~90%に低下する(減少重量は正味10~50%(重量%)である)。加工果肉の水分量を極度に減少させてしまうと、加工果肉は味噌と合わせる際に混ざりにくくなる。また、水分過多では、自明ながら腐敗の原因となる。重量減少に幅がある要因としては、加工前の柿の果肉自体の水分量が影響する。収穫後の水分の多い状態から干し柿のように当初から水分を減少させた状態まで柿の果肉の水分量にばらつきがあるためである。
【0020】
こうして調製された加工果肉(柿の果肉より水分量を減少させた加工物)と、味噌とが組み合わせられ、双方は混錬される(「混合工程」)。ここで、加工果肉は味噌と同様にペースト状の形態であるため、双方は混錬により混然一体となる。いちおう、ここまでの製造方法の工程をへることにより、柿入り味噌は完成する。なお、混錬された柿の加工果肉と味噌との双方の馴染み、さらには、味噌による加工果肉の発酵を促すため、混合工程の後に、さらに「熟成工程」が付加される。
【0021】
熟成工程は、柿の加工果肉と味噌の混錬物を冷暗所にて所定期間保管(静置)する工程である。熟成工程の期間は味噌自体の性質等により加減される。例えば、八丁味噌等の製造期間の長い豆味噌の場合には、他の米味噌よりも熟成工程は延長され、その期間を通じて柿の加工果肉に対しての発酵、熟成が促される。熟成工程は瓶詰め、袋詰め(真空包装)等の容器内での保存形態とすることもできる。
【0022】
混合工程における柿の加工果肉と味噌との混錬に際し、加工果肉は味噌に対して重量比において50~170%の重量割合で配合される。つまり、味噌が1kgのとき、加工果肉は0.5から1.7kgの重量比として配合される。
【0023】
味噌に対する柿の加工果肉の配合が少なすぎる場合、味噌の減塩効果が期待できない。また、柿の加工果肉に起因するうま味の向上が伴わない。また、味噌に対する柿の加工果肉の配合が多すぎる場合、味噌の風味が加工果肉により希釈されすぎて味噌から逸脱する。また、塩分含有量が低下しすぎて雑菌が繁殖しやすくなり塩分の静菌効果が減退する。そこで、味噌に対する柿の加工果肉の配合は、前述の重量比の範囲とされる。
【0024】
実施形態の製造方法を通じて得られる柿入り味噌によると、重量比においておおよそ半分以上が味噌以外の成分、すなわち柿に代替される。このため、柿入り味噌全体でみると、塩分量は味噌のみと比較して1/3から1/2に減少する。従って、柿入り味噌は味噌の減塩に大きく貢献する。また、果実である柿にはカリウムが含まれ、味噌単独では摂取できないミネラル分が補填される。特に、ヒトの発汗、血液のミネラルバランスにはカリウムが必要であるため、柿入り味噌からカリウム分が補填される利点は大きい。
【0025】
また、実施形態の工程から自明なとおり、柿の果実から加工果肉が調製されるため、柿の果実の美醜、大小は問われない。そのため、生産地において生食用に出荷できない柿の転用が可能である。よって、従前廃棄されていた柿が柿入り味噌の原料となり、廃棄量の減少、生産者の収入増加が見込まれる。結果、過疎地域の産品としての活用が期待される。
【0026】
実施形態の製造方法を通じて得られる柿入り味噌は、当初の味噌の形質を有しているため、通常の味噌と同様に味噌汁、味噌の料理にそのまま利用される。料理への使用量を通常の味噌と同等とすると、塩分量の抑制は可能である。さらに、柿入り味噌に、ニンニク、トウガラシ、ユズ、フキノトウ、アボガド、コリアンダ等が加えられて薬味、調味料としても利用可能である。
【実施例
【0027】
[柿入り味噌の作成]
実施形態の柿入り味噌の製造方法について、次のとおり柿入り味噌を作成するとともに出来上がった柿入り味噌の成分分析を行った。
【0028】
始めに生食用の柿(市販品)を調達し、果実より果皮、種子、へたを除去し柿の果肉のみとした。これを細かく刻み、電子レンジを用いて柿の果肉の水分量を減少させ柿の加工果肉を得た。水分の減少量は、およそ20%であった。
【0029】
市販の米麹味噌を用意し、味噌重量の1.5倍重量(柿の加工果肉:40重量%、味噌:60重量%)の柿の加工果肉を添加し混錬して柿入り味噌に仕上げ、しばらく、静置した。
【0030】
原料として用いた市販の米麹味噌の成分(100g当たり)は次のとおりである。
エネルギー 187kcal
タンパク質 10.4g
脂質 5.6g
炭水化物 23.8g
食塩相当量 11.9g
【0031】
作成した柿入り味噌の成分(100g当たり)は次のとおりである。
エネルギー 143kcal
タンパク質 7.2g
脂質 3.2g
炭水化物 23.1g
食塩相当量 6.86g
【0032】
[考察]
測定結果から、柿入り味噌における食塩量は60%以下に抑制(40%の減塩)が認められた。また、柿による代替の影響からタンパク質、脂質の抑制も明らかとなった。従って、減塩の味噌としての活用に期待が高まる。加えて、味噌のみよりも総カロリーが低減される。
【0033】
さらに、発明者は柿入り味噌を用い、前出の市販の米麹味噌と同量の使用量にて味噌汁を作成し喫食した。結果、塩味の大きな減退、味覚への影響は生じなかった。この結果については、味噌の量自体は減少しても柿に起因するうま味が増して、味を均衡させているものと類推される。
【0034】
これより、作製した柿入り味噌を用いた調理例を示す。
柿入り味噌は各種の胡麻味噌和えに使用した。
従来の味噌を使う和え物は、砂糖等の甘味を多く使用していた。これに対し柿入り味噌の場合、柿の甘味が活用できるため、砂糖等の甘味料を不使用に、もしくは、最小量とすることができた。加えて、柿入り味噌の味噌田楽を調理した。
【0035】
また、柿入り味噌の原料として、麹味噌を使用して作製する柿味噌は、特に豚肉との相性がよい(味の馴染みがよい)。そこで、豚肉の味噌漬けを簡単に作ることができ、豚肉の肉質が柔らかくなった。併せて、魚の味噌漬けを調理した。
【0036】
次に、柿入り味噌の原料として、赤味噌(豆味噌)を使用して作製する柿味噌は、牛肉の味噌漬けに適する。おそらく、豆由来のアミノ酸等の影響が左右すると考えられる。
【0037】
さらに、柿入り味噌は公知の甜麺醤等の味噌調味料の代替となり、減塩、減糖目的の調味料として好ましい。そこで、当該柿入り味噌を用い、回鍋肉、麻婆豆腐を調理した。さらに、純粋に植物由来のパテ(ペースト)を作製した。具体的には、アボカドを電子レンジ等により加熱して当該柿入り味噌を混ぜ合わせて作った。柿入り味噌の甘さと旨味にアボガドの油脂分が加わり、肉類が無くてもおいしくなった。
【要約】
【課題】柿を添加することにより味噌の減塩に活用し、柿の風味を通じて味噌単独の状態よりも美味しさを付加した新規の味噌の調味料として柿入り味噌の製造方法を提供する。
【解決手段】柿の果実より柿の果肉を取り出し、柿の果肉の水分量を減少させて加工果肉を得る果肉加工工程と、加工果肉と味噌とを混錬する混合工程とを有する。果肉加工工程では、柿の果肉を加熱により重量比において50~90%に低下させて水分量が減少させられ、加工果肉と味噌との混錬に際し、加工果肉は味噌に対して重量比において30~70%の重量割合で配合される。
【選択図】図1
図1