(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物、ヒト皮膚組織モデル動物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20250626BHJP
A01K 67/027 20240101ALI20250626BHJP
【FI】
C12N5/071
A01K67/027
(21)【出願番号】P 2018216875
(22)【出願日】2018-11-19
【審査請求日】2021-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 メールアドレス: nagasek@cc.saga-u.ac.jp narisawa@cc.saga-u.ac.jp dainichi@kuhp.kyoto-u.ac.jp harada8874@gmail.com norisaito@yokohamah.johas.go.jp uekirjk@juntendo.gmc.ac.jp itoutai@hama-med.ac.jp m-fukuyama@ks.kyorin-u.ac.jp yshimo@yamaguchi-u.ac.jp tmatsu@life.shimane-u.ac.jp yuzo.yoshida1@to.shiseido.co.jp etsuko-k@juntendo.ac.jp mterao@derma.med.osaka-u.ac.jp h-takada@nms.ac.jp kyohya@med.kitasato-u.ac.jp kyono@med.akita-u.ac.jp 公開日:平成30年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄三
(72)【発明者】
【氏名】相馬 勤
(72)【発明者】
【氏名】岸本 治郎
(72)【発明者】
【氏名】松崎 貴
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】北田 祐介
【審判官】小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/021245(WO,A1)
【文献】特開2008-125540(JP,A)
【文献】特開2018-042469(JP,A)
【文献】池袋AGAクリニック, 用語集[online], 2023年02月21日検索, https://ikebukuro-aga-clinic.jp/glossary/mouhou/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物を製造する方法であって、
(1)初代細胞またはその継代培養細胞である成人由来の、遺伝子導入されてないヒト毛乳頭細胞を含むスフェロイドを調製する工程、
(2)前記スフェロイドと、ヒト表皮細胞と、ヒト真皮線維芽細胞とを混合して培養する工程、
ここで当該工程は多孔膜を備える培養基材の上で培養する工程である、
を含み、
前記工程(1)が、Wntシグナル活性化剤を添加した培地で実施される、方法。
【請求項2】
前記Wntシグナル活性化剤が、Wntリガンドファミリータンパク質またはWntシグナル伝達アゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Wntリガンドファミリータンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Wntシグナル伝達アゴニストが、CHIR99021またはBIOである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)が、ハンギングドロップ法によって実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト表皮細胞が、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体で刺激された前記ヒト表皮細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞外マトリックスタンパク質が、ラミニンまたはそのフラグメントを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法により得られる組成物を、非ヒト哺乳類動物に適用する工程、
を含む、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物およびその製造方法に関する。また、本発明は、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物が適用された毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は皮膚に存在する毛包によって産生される。毛包とは、毛を取り囲む組織層であり、外胚葉由来の毛母(毛母細胞)、内毛根鞘、外毛根鞘や、中胚葉由来の真皮毛根鞘、毛乳頭などから構成されている。毛乳頭を取り囲む毛母細胞が、毛乳頭から供給される栄養やタンパク質によって誘導されて分裂を繰り返し、角質化することによって毛を形成する。
【0003】
毛髪の発育に問題が生じることで薄毛・脱毛症が生じる。薄毛・脱毛症には、壮年性脱毛症、円形脱毛症、休止期脱毛症などがあり、最も頻度が多いのが壮年性脱毛症である。壮年性脱毛症は、男性において、主に男性ホルモンの影響によって引き起こされるものであり、男性型脱毛症とも呼ばれる。毛は、成長期、退行期及び休止期からなるヘアサイクルを繰り返しながら生え替わる。男性型脱毛症は、このヘアサイクルの中でも成長期が短くなり、細く短い毛髪の割合が増えることで引き起こされる症状である。
【0004】
現在、壮年性脱毛症の治療として、外用剤のミノキシジルや、経口薬のフィナステリドが主に用いられている。これらの治療法は、いずれも有効性や安全性が確認されているが、必ずしも全ての壮年性脱毛症に有効というわけではない。
【0005】
その他、壮年性脱毛症の治療として、自家植毛術が実施されている。自家植毛術とは、側頭部や後頭部から採取した毛根を含む毛髪を、自己の脱毛部に移植する術式である。しかしながら、当該術式は、自己の毛髪を別の場所へ植え替える術式であるため、毛髪の総数を増やすものではない。
【0006】
近年、様々な疾患に対する再生医療技術が開発されており、毛髪再生分野においても新たな技術が開発されつつある。新規の毛髪再生技術を開発するためには、発毛効果を正しく評価するための評価系の確立が重要であり、様々な研究グループが、毛包を有する再構成皮膚を開発している(例えば、特許文献1及び非特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ehama R.,et al.,Hair follicle regeneration using grafted rodent and human cells.J Invest Dermatol.2007 Sep;127(9):2106-2115.Epub 2007 Apr 12.
【文献】Lee LF.,et al.,A simplified procedure to reconstitute hair-producing skin.Tissue Eng.Part C Methods.2011 Apr;17(4):391-400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
毛髪再生の分野において毛包由来の細胞を用いた治療法が開発されつつあるが、開発された治療法の効果を正しく評価するためには、長期間その構造を維持することができる、ヒト毛包を含む再構成されたヒト皮膚による評価系の確立が重要である。ところが、現在までのところ、安定的に入手可能な材料を用いることによって、再現性よく、ヒト毛包を含む再構成されたヒト皮膚を提供することは未だ困難状況にある。
【0010】
したがって、本発明は、安定的に入手可能な材料を用いることによって、再現性よく、ヒト毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物が適用された毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、スフェロイド形成を経た非胎児由来のヒト毛乳頭の細胞群を組成物中に含めることによって、安定的かつ再現性良く、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0012】
[1] 毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物であって、
ヒト表皮細胞と;
ヒト真皮細胞と、
を含み、
ここで前記ヒト真皮細胞が、スフェロイド形成を経た非胎児由来のヒト毛乳頭細胞の細胞群を含むことを特徴とする、組成物。
[2] 前記非胎児由来のヒト毛乳頭細胞が、Wntシグナル活性化剤で刺激された非胎児由来のヒト毛乳頭細胞である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記Wntシグナル活性化剤が、Wntリガンドファミリータンパク質またはWntシグナル伝達アゴニストである、[2]に記載の組成物。
[4] 前記Wntリガンドファミリータンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、[3]に記載の組成物。
[5] 前記Wntシグナル伝達アゴニストが、CHIR99021またはBIOである、[3]に記載の組成物。
[6] 前記ヒト真皮細胞が、ヒト線維芽細胞を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
【0013】
[7] 非ヒト哺乳動物に、[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物が適用された、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物。
【0014】
[8] 毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物を製造する方法であって、
(1)非胎児由来のヒト毛乳頭細胞を含むスフェロイドを調製する工程、
(2)前記スフェロイドと、ヒト表皮細胞と、ヒト真皮細胞とを混合して培養する工程、
を含む、方法。
[9] 前記工程(1)が、Wntシグナル活性化剤の存在下で実施される、[8]に記載の方法。
[10] 前記Wntシグナル活性化剤が、Wntリガンドファミリータンパク質またはWntシグナル伝達アゴニストである、[9]に記載の方法。
[11] 前記Wntリガンドファミリータンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、[10]に記載の方法。
[12] 前記Wntシグナル伝達アゴニストが、CHIR99021またはBIOである、[10]に記載の方法。
[13] 前記工程(1)が、ハンギングドロップ法によって実施される、[8]~[12]のいずれか1項に記載の方法。
[14] 前記非胎児由来のヒト毛乳頭細胞が、成人由来のヒト毛乳頭細胞である、[8]~[13]のいずれか1項に記載の方法。
[15] 前記ヒト真皮細胞が、ヒト線維芽細胞を含む、[8]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16] 前記ヒト表皮細胞が、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体で刺激された前記ヒト表皮細胞である、[8]~[15]のいずれか1項に記載の方法。
[17] 前記細胞外マトリックスタンパク質が、ラミニンまたはそのフラグメントを含む、[16]に記載の方法。
[18] 前記工程(2)は、多孔膜を備える培養基材の上で培養する工程である、[8]~[17]のいずれか1項に記載の方法。
【0015】
[19] [8]~[18]のいずれか1項に記載の方法により得られる組成物を、非ヒト哺乳類動物に適用する工程、
を含む、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物の製造方法。
【0016】
[20] [8]~[18]のいずれか1項に記載の方法により得られる、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物。
【0017】
[21] [19]の方法により得られる、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安定的かつ再現性良く、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成させることが可能な組成物およびその製造方法を提供することが可能となる。また、当該組成物が適用された毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物およびその製造方法を提供することが可能となる。本発明により提供される評価系は、開発中の薬剤、再生医療技術、または美容技術の効果、特に発毛効果を、再現性良く評価することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施態様における本発明の組成物を適用することにより得られたSCIDマウスの皮膚を示す写真である。(A)再構成した皮膚の外観写真。(B)(A)の発毛部分の拡大図。
【
図2】
図2は、一実施態様における本発明の組成物を適用することにより得られたSCIDマウスの皮膚の組織解析結果を示す。(A)H&E染色した、再構成した皮膚の組織切片。(B)(A)の点線部分の拡大図。多数の毛包が再構成皮膚に含まれていることが示されている。
【
図3】
図3は、一実施態様における本発明の組成物を適用することにより得られたSCIDマウスの皮膚の組織解析結果を示す。(A)ヒトAlu配列特異的プローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより染色した、再構成した皮膚の組織切片の染色像。(B)再構成皮膚とホスト組織の境界部分におけるin situハイブリダイゼーションによる染色像。再構成皮膚はヒト細胞より成ることが示されており、ヒト再構成皮膚であることが分かる。
【
図4】
図4は、一実施態様における本発明の組成物を適用することにより得られたSCIDマウスの皮膚の組織解析結果を示す。(A)ヒトAlu配列特異的プローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより染色した、再構成した皮膚の組織切片の染色像。(B)毛幹を特異的に認識する抗体AE13により染色した、再構成した皮膚の組織切片の染色像。毛および毛包はヒト細胞より成ることが示されており、ヒト毛包であることが分かる。
【
図5】
図5は、Wnt
シグナル伝達アゴニスト(CHIR99021)で刺激した毛乳頭(DP)スフェロイドを示す。(A)赤色蛍光色素PKH-26で標識した毛乳頭(DP)スフェロイド(左:微分干渉像、右:蛍光像)。(B)再構成した皮膚の組織切片の蛍光像。左列:赤色蛍光像(DPスフェロイド由来)、右列:抗Pan-keratin抗体(緑)およびDAPI(青)からの蛍光像。上段及び下段はそれぞれ同一の組織切片の像を示す。再構成皮膚に形成された毛包はWnt
シグナル伝達アゴニスト(CHIR99021)で刺激した毛乳頭(DP)スフェロイドに由来することが分かる。これにより、再構成皮膚におけるヒト毛包を形成にWnt
シグナル伝達アゴニスト(CHIR99021)で刺激した毛乳頭(DP)スフェロイドが不可欠であることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。また、以下の本発明を実施するための形態について説明された内容は、特に限定されない限り、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物及びその製造方法、並びに毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物及びその製造方法において、相互に適用される。
【0021】
1.毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物
【0022】
一実施形態において、本発明の毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物は、
ヒト表皮細胞と;
ヒト真皮細胞と、を含み、
ここで前記ヒト真皮細胞が、スフェロイド形成を経た非胎児由来のヒト毛乳頭細胞の細胞群を含むことを特徴としている。
【0023】
本明細書において「毛包を有するヒト皮膚組織を再構成する組成物」とは、皮膚に適用された場合、その部位において、毛包の構造を有するヒト皮膚様の組織を再構成させる能力を有する組成物をいう。
【0024】
「毛包(Hair Follicle:HF)」とは、一般に、上皮系細胞であるの毛母(毛母細胞)、内毛根鞘、外毛根鞘や、間葉系細胞である真皮毛根鞘、毛乳頭などを含む、毛を取り囲む組織層をいう。本発明の組成物を適用することによって、このようなヒト毛包を有するヒト皮膚様の組織を、適用部位において再構成することができる。また、再構成された毛包から発毛する。
【0025】
本発明において、「表皮細胞」とは、表皮を構成する細胞であり、分化段階の異なる細胞(主にケラチノサイト)を含んでいる。生体において、表皮は、分化段階の異なる表皮細胞が層状に重なって形成されている。表皮の最深部は基底層と呼ばれ、円柱状の細胞が一層を形成している。表皮細胞は分化段階が進むにつれて扁平な形状に変化しながら外層へと移動する。基底層は真皮との境界面に位置し、その上層には有棘層が存在する。有棘層より分化段階が進んだ表皮細胞は、ケラトヒアリン顆粒、ラメラ顆粒を有する顆粒層を形成する。顆粒層は、生体組織においては2~3層程度で構成されている。顆粒層よりさらに分化段階が進むと、細胞核が消失し、角層を形成する。表皮は、表皮細胞の他にも、メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞等が含まれている。本発明の組成物は、表皮細胞の他、表皮に含まれるその他の細胞が含まれていてもよい。
【0026】
一実施態様において、本発明の組成物に含まれる表皮細胞は、ヒト由来の表皮細胞である。ヒト表皮細胞は、市販されているヒト表皮細胞であってもよく、生体組織を細かく刻み、コラゲナーゼ、トリプシン等のタンパク質分解酵素で処理されて得られた初代ヒト表皮細胞であってもよく、得られた初代ヒト表皮細胞を継代して増殖させた線維芽細胞であってもよい。一実施態様において、本発明の組成物に含まれる表皮細胞は、ヒト胎児、新生児(例えば、0歳~2歳)、未成年(例えば、3歳~17歳)、又は成人(例えば、18歳以上、20歳以上、25歳以上、30歳以上、35歳以上、40歳以上)由来等であってもよい。また、一実施態様において、本発明の組成物に含まれる表皮細胞は、多能性幹細胞または組織幹細胞から分化した表皮細胞であってもよい。多能性幹細胞は、iPS細胞、ES細胞またはMuse細胞などであってもよく、これらの多能性幹細胞から、公知の方法によって分化誘導することによって得られる表皮細胞を用いてもよい。
【0027】
一実施態様において、本発明の組成物に含まれる表皮細胞は、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体で刺激された表皮細胞である。細胞外マトリックスタンパク質としては、例えば、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、エラスチンなどが挙げられる。表皮細胞を刺激するための細胞外マトリックスタンパク質は、天然型の細胞外マトリックスタンパク質であってもよく、それらの誘導体(組換え体)であってもよい。また、表皮細胞を刺激する機能を有する、細胞外マトリックスタンパク質のフラグメントであってもよい。細胞外マトリックスタンパク質で刺激された表皮細胞が本発明の組成物中に含まれることにより、当該組成物はヒト毛包を有するヒト皮膚様の組織を再構成する能力がより高くなり、好ましい。
【0028】
一実施態様において、表皮細胞を刺激するための細胞外マトリックスタンパク質は、ラミニンまたはそのフラグメントを含む。ラミニンは、α鎖(LAMA1、LAMA2、LAMA3、LAMA4、LAMA5)、β鎖(LAMB1、LAMB2、LAMB3、LAMB4)、γ鎖(LAMC1、LAMC2、LAMC3)の組み合わせにより構成されるタンパク質であり、現在までのところ17種類(ラミニン1~15並びにラミニン212/222及びラミニン522)の組み合わせが知られている。例えば、α鎖、β鎖及びγ鎖の組み合わせが、LAMA5、LAMB1及びLAMC1のラミニンは、「ラミニン511」といわれる。ラミニン511は、別名ラミニン10とも呼ばれる。一実施態様において、表皮細胞を刺激するための細胞外マトリックスタンパク質は、ラミニンのフラグメントであってもよく、例えば、ラミニン511-E8断片を用いることができる。
【0029】
本明細書において、「真皮細胞」とは、皮膚において、表皮と皮下組織との間に存在する真皮に含まれる細胞であり、主に線維芽細胞が含まれる。真皮は、線維芽細胞の他、コラーゲン、弾性線維(エラスチン)、細胞外マトリックス、ヒアルロン酸などによって構成されている。
【0030】
一実施態様において、本発明の組成物に含まれる真皮細胞は、ヒト由来の真皮細胞である。ヒト真皮細胞は、市販されているヒト真皮細胞であってもよく、生体組織を細かく刻み、コラゲナーゼ、トリプシン等のタンパク質分解酵素で処理されて得られた初代ヒト真皮細胞であってもよく、得られた初代ヒト真皮細胞を継代して増殖させた真皮細胞であってもよい。一実施態様において、本発明の組成物に含まれる真皮細胞は、ヒト胎児、新生児(例えば、0歳~2歳)、未成年(例えば、3歳~17歳)、又は成人(例えば、18歳以上、20歳以上、25歳以上、30歳以上、35歳以上、40歳以上)由来等であってもよい。また、一実施態様において、本発明の組成物に含まれる真皮細胞は、多能性幹細胞または組織幹細胞から分化した表皮細胞であってもよい。多能性幹細胞は、iPS細胞、ES細胞またはMuse細胞などであってもよく、これらの多能性幹細胞から、公知の方法によって分化誘導することによって得られる真皮細胞を用いてもよい。
【0031】
毛の皮膚内部最深部の膨らんだ部分を毛球部(hair bulb)といい、毛球部の中央部にある間葉系細胞からなる部分を毛乳頭(dermal papilla:DP)という。また、毛乳頭を構成する細胞を「毛乳頭細胞」という。毛乳頭には毛細血管や神経が入り込んでいて、食物からの栄養や酸素を取り入れ、毛の発生や成長を司っている。毛乳頭に接したところに毛母細胞(hair matrix cell)があり、毛はこの部位で産生される。毛母細胞は、毛乳頭に入り込んでいる毛細血管から栄養や酸素を取り込み、分裂を繰り返すことにより毛を形成する。
【0032】
一実施態様において、本発明の組成物に含まれる毛乳頭細胞は、ヒト由来の毛乳頭細胞である。一実施態様において、ヒト毛乳頭細胞は、ヒト毛包(好ましくはヒト頭皮毛包)を単離し、単離されたヒト毛包から毛乳頭領域の組織をさらに単離し、培養することによって増殖させることができる。具体的には、例えば、頭皮を5mmほどの短冊状に切り、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等で洗浄した後、必要によりタンパク質分解酵素等を用いまたは外科的に処理し、表皮層および真皮層を除き、皮下脂肪層のみにし、次いで毛包を物理的手段、例えばピンセット等で単離する。毛包から毛球部を切り取り、この毛球部下部から毛乳頭を露出させて毛乳頭(細胞)を単離することができる。
【0033】
毛乳頭細胞の培養は、動物細胞の培養に用いられる市販の栄養培地をそのまま、または改性したもので培養(初代培養および継代培養)することができる。毛乳頭細胞の培養に使用できる代表的な培地としては、ウシ胎児血清を含むダルベッコ変性イーグル培地、チャン培地(Chang’s medium)、MesenPRO培地(Thermo fisher社)等が挙げられる。培地には、さらに必要に応じて細胞増殖因子、ホルモンやその他の微量栄養素を加えることができる。これらの具体的なものとしては、トランスフエリン、インスリン、トリヨードチロニン、グルカゴン、ハイドロコーチゾン、テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、セレン等が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物に含まれるヒト毛乳頭細胞は、非胎児由来のヒト毛乳頭細胞であり、例えば、未成年(例えば、3歳~17歳)、又は成人(例えば、18歳以上)由来の毛乳頭細胞である。本発明によれば、従来では困難であった非胎児由来のヒト毛乳頭細胞を用いても、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成させることができるようになる。
【0035】
他の実施態様において、本発明の組成物に含まれる毛乳頭細胞は、多能性幹細胞または組織幹細胞から分化した毛乳頭細胞であってもよい。多能性幹細胞は、iPS細胞、ES細胞またはMuse細胞などであってもよく、これらの多能性幹細胞から、分化誘導することによって得られる毛乳頭細胞を用いてもよい。
【0036】
一実施態様において、本発明の組成物は、スフェロイド形成を経た非胎児由来のヒト毛乳頭細胞の細胞群を含んでいる。本明細書において、「スフェロイド」とは、細胞同士が集合または凝集した球状の細胞集合体をいう。スフェロイドを形成する方法としては、例えば、細胞接着性の低い表面を有するU底のウェル中に細胞を浮遊させた状態でスフェロイドを形成させる方法、所定の凹凸構造面上に細胞を接着させた状態でスフェロイドを形成させる方法、ハンギングドロップ法、培地を含む細胞培養チャンバーを回転させながら大量の細胞を培養することでスフェロイドを作製する方法などがある。本発明の組成物に含まれるヒト毛乳頭細胞の細胞群は、好ましくは、ハンギングドロップ法によって形成されたスフェロイドである。スフェロイド形成を経た非胎児由来のヒト毛乳頭細胞の細胞群が組成物に含まれることにより、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成する効率が上昇する。
【0037】
1個あたりのスフェロイド形成したヒト毛乳頭細胞の細胞群に含まれるヒト毛乳頭細胞の数は、例えば1×10個~1×105個であってもよく、好ましくは1×102個~1×104個、より好ましくは1×102個~5×103個である。また、スフェロイド形成したヒト毛乳頭細胞の細胞群の平均直径は、20μm~1000μm、好ましくは、50μm~300μm、より好ましくは70μm~200μmである。
【0038】
一実施態様において、本発明の組成物に含まれる非胎児由来のヒト毛乳頭細胞は、Wntシグナル活性化剤で刺激された非胎児由来のヒト毛乳頭細胞である。Wntシグナルとは、β-カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。本シグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWnt3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ-カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。Wntシグナルはβ-カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。Wntシグナルがもつその未分化状態維持機能により、分化を抑制する目的でES細胞の培養の際に利用されている(例えば、Noburo Sato et al.,Nature Medicine Vol.10,No.1,Jan.2004)。Wntシグナル活性化剤で刺激された非胎児由来のヒト毛乳頭細胞が本発明の組成物に含まれることにより、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成する効率が上昇する。
【0039】
Wntシグナル活性化剤は、Wntリガンドファミリータンパク質またはWntシグナル伝達アゴニストであってもよい。Wntリガンドファミリータンパク質としては、例えばWnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16等が挙げられ、これらのWntリガンドファミリータンパク質を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
Wntシグナル伝達アゴニストとしては、例えばグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)阻害剤、R-スポンジン1~4、ノリン(Norrin)などが挙げられる。GSK-3阻害剤としては、例えば、CHIR99021、ビス-インドロ(インジルビン)化合物(BIO)((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、そのアセトキシム類似体BIO-アセトキシム(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)類似体(4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、オキソチアジアゾリジン―3-チオン類似体(2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、チエニルα-クロロメチルケトン化合物(2-クロロ-1-(4,4-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(α-4-ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)ユレア)やGSK-3βペプチド阻害剤、例えばH-KEAPPAPPQSpP-NH2などが挙げられる。
【0041】
Wntシグナル活性化剤の添加量は特に制限されるものではなく、当業者により適宜決定され得る。例えば、Wntシグナル活性化剤としてCHIR99021を毛乳頭細胞に使用する場合、その量は例えば0.1μM~10μM程度で刺激し得るが、そのような量に限定されるものではない。
【0042】
本発明の組成物は、上記の細胞の他、例えば、生体適合可能な物質を含んでもよい。生体適合可能な物質とは、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、細胞培養培地、生体適合性ハイドロゲル(キトサンゲル、コラーゲンゲル、ゼラチン、ペプチドゲル、ラミニンゲル及びフィブリンゲルなど)等であってもよく、これらに限定されない。
【0043】
本発明の組成物は、好ましくは、多孔膜を備える培養基材の上で調整される。多孔膜を備える培養基材は、例えば、セルカルチャーインサートを用いることができる。本発明の組成物の製造方法は、後述する。
【0044】
本発明の組成物を、ヒトや非ヒト哺乳動物に適用することにより、適用された部位に毛包を有するヒト皮膚組織を再構築させることができる。
【0045】
2.毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物
【0046】
一実施態様において、本発明の組成物は、非ヒト哺乳動物に適用される。これにより、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物が得られる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、チンパンジーあるいはそれらの免疫系が抑制された非ヒト哺乳類動物などが挙げられるが、好ましくは疫系が抑制された非ヒト哺乳類動物である。発明の毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物の製造方法は、後述する。
【0047】
本発明の毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物に、発毛または育毛効果が期待される候補物質を適用し、例えば、毛包からの発毛状態や、毛包組織の状態、発毛に関連するマーカー等を観察することによって、候補物質の発毛または育毛効果を評価することができる。候補因子としては、例えば、低分子化合物、ペプチド、核酸、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の細胞、組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物若しくは抽出物又は培養産物などであってもよい。また、例えば、本発明の組成物に含まれるヒト毛乳頭細胞のドナーや、培養条件などの違いによって、形成される毛包および/または毛包からの発毛に与える影響を評価するものであってもよい。
【0048】
3.毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物を製造する方法、及びそれにより得られる毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物
【0049】
一実施形態において、本発明の毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物を製造する方法は、
(1)非胎児由来のヒト毛乳頭細胞を含むスフェロイドを調製する工程、
(2)前記スフェロイドと、ヒト表皮細胞と、ヒト真皮細胞とを混合して培養する工程、
を含んでいる。
【0050】
本発明の組成物を製造する方法において、非胎児由来のヒト毛乳頭細胞を含むスフェロイドを調製する工程は、例えば、細胞接着性の低い表面を有するU底のウェル中に細胞を浮遊させた状態でスフェロイドを形成させる方法、所定の凹凸構造面上に細胞を接着させた状態でスフェロイドを形成させる方法、ハンギングドロップ法、培地を含む細胞培養チャンバーを回転させながら大量の細胞を培養することでスフェロイドを作製する方法などが適用可能であるが、好ましくは、ハンギングドロップ法である。
【0051】
ハンギングドロップ法とは、細胞を含む培養液の液滴を培養皿の蓋の天井側に点着させたり、あるいは特殊な培養器具(例えば、Elplasia MPc(クラレ社、日本))により液滴を作製して、表面張力により培養液内の細胞を液滴の状態で培養する方法である。このように培養することで、細胞は培養基材表面との接触により受ける影響を最小限にすることができる。
【0052】
非胎児由来のヒト毛乳頭細胞を含むスフェロイドと、ヒト表皮細胞と、ヒト真皮細胞は、目的に応じて、それぞれの細胞数(又はスフェロイドの数)を調整することができるが、例えば、スフェロイド:ヒト表皮細胞:ヒト真皮細胞が、10~10000:0.1×106~100×106:0.1×106~100×106、好ましくは20~3000:1×106~10×106:1×106~10×106、より好ましくは50~1000:3×106~6×106:3×106~6×106で混合して培養してもよい。
【0053】
一実施態様において、上記工程(1)は、Wntシグナル活性化剤の存在下で実施される。Wntシグナル活性化剤によって活性化したヒト毛乳頭細胞は、毛包の再構成がより促進される。Wntシグナル活性化剤でヒト毛乳頭細胞を処理する時間は、6時間~120時間、好ましくは12時間~108時間、より好ましくは24時間~96時間、さらに好ましくは36時間~84時間である。
【0054】
一実施態様において、本発明の方法に用いられるヒト表皮細胞が、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体で刺激されたヒト表皮細胞である。ヒト表皮細胞を刺激する方法としては、例えば、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体を添加した培地で培養する方法や、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体をコーティングした培養基材の上で培養する方法などが挙げられる。好ましくは、細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体をコーティングした培養基材の上で培養する方法である。コーティングする方法は、公知の方法に従えばよく、特に限定されない。細胞外マトリックスタンパク質またはその誘導体で刺激されたヒト表皮細胞を用いることにより、毛包の再構成がより促進される。
【0055】
一実施態様において、本発明の方法に含まれる工程(2)は、多孔膜を備える培養基材の上で培養する工程である。多孔膜を備える培養基材は、例えば、市販のセルカルチャーインサートを用いることができる。多孔膜の平均孔径は、適宜選択することができ、例えば、約0.01μm~約100μm、好ましくは0.05μm~50μm、より好ましくは0.1μm~25μm、最も好ましくは1μm~10μmである。
【0056】
一実施態様において、工程(2)は、前記スフェロイドと、ヒト表皮細胞と、ヒト真皮細胞とを混合した懸濁液を、多孔膜を備える培養基材の上に適用し、所定時間(例えば、培地等の液体成分が排出される時間、例えば0.5時間~3時間)、培養する。これにより、培養基材上にシート状の組成物が形成される。
【0057】
一実施態様において、上記の方法を実施することによって、毛包を有するヒト皮膚組織を再構成するための組成物を得ることができる。
【0058】
4.毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物の製造方法
本発明は、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物の製造方法を提供する。一実施態様において、毛包を有するヒト皮膚組織モデル動物は、上記の組成物を、非ヒト哺乳類動物に適用すること工程、を含む方法により製造される。
【0059】
一実施態様において、本発明の組成物を非ヒト哺乳類動物に適用する工程は、例えば、非ヒト哺乳類動物の任意の部位(例えば背部)の皮膚を任意の大きさに切開し、切開された部位に組成物を移植することによって実施することができる。切開部位の大きさは、適用される組成物の大きさおよび形態(懸濁液形態、またはシート形態等)等によって、適宜設定できるため、特に限定されない。また、切開部位の深さは、適用される非ヒト哺乳類動物の皮膚の厚さに依存するために限定されない。切開によって皮膚が除去された部位に、本発明の組成物を適用し、切開部位周辺の皮膚とともに縫合することで、組成物を移植することができる。組成物を適用後は、任意のドレッシング材等によって適用部位を保護し、物理的に組成物が脱落することを防止する。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0061】
<実施例1:再構成皮膚の作製>
(1)細胞の準備
毛乳頭細胞はヒト毛包(20~65歳、男性)よりメスとピンセットを用いて、毛乳頭領域を単離したのち、培養ディッシュに静置し、MesenPRO培地(Thermo fisher社)により培養を行い、毛乳頭細胞を得た。ヒト線維芽細胞及び表皮細胞は岩井化学薬品より市販の細胞を購入し準備した。
【0062】
(2)細胞の調整
単離したヒト毛乳頭細胞に対してCHIR99021(Axon Medchem社)3μM を添加し培養を行った後、Elplasia MPc(クラレ社、日本)を用いたハンギングドロップ法によりスフェロイドを形成させた。
【0063】
ヒト表皮細胞はiMatrix-511(ニッピ社)でコーティングした培養フラスコ上で、Epilife培地(Thermo fisher社)により培養を行った。
【0064】
ヒト線維芽細胞はDMEM培地とF12培地を3:1で混合し、5%FBS及び40ng/ml bFGF(PeproTech社)、20ng/ml EGF(PeproTech社)、B27(登録商標)サプリメント(Thermo Fisher Scientific K.K.)を含む培地で培養した。
【0065】
(3)再構成皮膚の形成
ヒト線維芽細胞300万~600万個、ヒト表皮細胞 300万~600万個、ヒト毛乳頭スフェロイド100~1000個を含む混合物を市販のセルカルチャーインサート(コーニング社)に静置し、溶液が排出され、細胞のみが残存するまで37℃インキュベーターで短時間培養し、移植物を調整した。
【0066】
(4)移植物の移植
麻酔下のSCID個体(チャールズリバー社)の背部皮膚を約1~2cm×約1~2cmの大きさで切開し、調整した移植物を切開部位に適用し、それを周囲の皮膚と縫合した。その後、ドレッシング材及び包帯により移植部を保護した。約10日後、ドレッシング材を除去し、約2~3か月後に、再構成皮膚の有無を確認し、カメラ付き実体顕微鏡で写真撮影を行った。その結果、移植片の移植部位に発毛を認めた(
図1)。
【0067】
<実施例2:再構成皮膚の組織解析>
再構成皮膚を摘出し、4%パラホルムアルデヒド溶液で一晩固定したのち、パラフィン包埋組織ブロックを作成した。ミクロトームで4μmの厚さの組織切片を作成したのち、各種組織染色を実施した。親水処理を施した組織切片を、一般的な手法でH.&E.染色し、AxioScan(zeiss社)で写真撮影した(
図2)。
【0068】
また、再構成された毛包を含む組織が、ヒト細胞で構成される組織であるかどうかを確認するために、ヒトゲノム特異的繰り返し配列(Alu配列)をプローブとしたin situハイブリダーゼーション(以下ISH)を一般的な手法により実施し、同様に写真撮影を実施した(
図3)。
【0069】
さらに毛幹を特異的に認識する抗体AE13(Abcam社)の免疫染色とAlu-ISHの二重染色を実施した(
図4)。免疫染色及びISHの基本手技は「ポストゲノム研究時代の免疫染色/in situ ハイブリダイゼーション」(羊土社)を参考にして実施した。
【0070】
その結果、毛包を含む、再構成された皮膚組織が、移植したヒト細胞由来であることが確認された。また、毛幹が形成されていることも確認することができた。
【0071】
<実施例3:蛍光標識した毛乳頭スフェロイドの追跡実験>
CHIR99021 3uM存在下での培養した毛乳頭細胞を赤色蛍光色素PKH-26(シグマアルドリッチ社)で、附属のプロトコールに従い標識した(
図5)。標識した毛乳頭スフェロイドを含む再構成皮膚を作製した結果、毛包形成の基となる毛乳頭部位に赤色の蛍光が認められた。このことから、再構成皮膚で認められた毛包は毛乳頭スフェロイドにより誘導形成されたものであると結論づけられた(
図5)。
【0072】
<実施例4:スフェロイド化した毛乳頭細胞の有無、及びCHIR99021刺激の有無による、毛包を有するヒト皮膚組織の再構成の能力の確認>
スフェロイド化した毛乳頭細胞の有無、及びCHIR99021刺激の有無の条件以外は、実施例1に記載した方法に従って、SCIDマウスに毛包を有するヒト皮膚組織の再構成を試みた。結果を以下に示す。
【表1】