(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】臭気拡散のシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/06 20060101AFI20250626BHJP
【FI】
G01M9/06
(21)【出願番号】P 2021139447
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2024-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 雅之
(72)【発明者】
【氏名】田添 由起
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰広
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-094692(JP,A)
【文献】特開2020-175317(JP,A)
【文献】特開2001-091416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0239954(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0020613(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00-10/00
G01N 33/00
G01N 33/48-33/98
G01P 13/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出装置を用いて臭気成分の拡散をシミュレーションする、臭気拡散のシミュレーション方法であって、
前記放出装置は、粒子を含有する混合気体を収容する収容部及び放出部を備え、該放出部は、前記混合気体を放出する放出口及び該放出口と前記収容部とを連通する流路を備えており、
下記A)~C)工程を具備
し、
A)前記放出装置から空間に放出された前記混合気体中の前記粒子の画像を経時的に取得する工程
B)個々の前記画像について、1画素以上からなる単位区分ごとに、該単位区分に含まれる画素パラメータを前記臭気成分の想定濃度に換算する工程
C)前記想定濃度を用いて、前記単位区分ごとの前記想定濃度が色情報として反映されたシミュレーション画像を作成する工程
前記想定濃度の換算に、呼気中に含まれる前記臭気成分の濃度を用いる、シミュレーション方法。
【請求項2】
放出装置を用いて臭気成分の拡散をシミュレーションする、臭気拡散のシミュレーション方法であって、
前記放出装置は、粒子を含有する混合気体を収容する収容部及び放出部を備え、該放出部は、前記混合気体を放出する放出口及び該放出口と前記収容部とを連通する流路を備えており、
下記A)、B)、D)及びE)工程を具備
し、
A)前記放出装置から空間に放出された前記混合気体中の前記粒子の画像を経時的に取得する工程
B)個々の前記画像について、1画素以上からなる単位区分ごとに、該単位区分に含まれる画素パラメータを前記臭気成分の想定濃度に換算する工程
D)前記単位区分ごとの前記想定濃度を前記臭気成分の嗅覚強度に換算する工程
E)前記嗅覚強度を用いて、前記単位区分ごとの前記嗅覚強度が色情報として反映されたシミュレーション画像を作成する工程
前記想定濃度の換算に、呼気中に含まれる前記臭気成分の濃度を用いる、シミュレーション方法。
【請求項3】
前記嗅覚強度の尺度がLabeled Magnitude Scale(LMS)、Visual analog scale (VAS)、Magnitude estimate (ME)、及びCategory-ratio scale (CR)からなる群から選ばれる何れか1種である、請求項2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記画素パラメータが、輝度、明度、彩度、
及びRGB値からなる群から選ばれる何れか1種である、請求項1~
3の何れか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記粒子が液滴である、請求項1~
4の何れか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記液滴が、グリコール類及び水を含有する液体又はオイルを含有する液体を微粒子化させて得られたものである、請求項
5に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記グリコール類が、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及び1,3-ブチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項
6に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記放出装置における前記放出部は、流路と放出口を備えており、
前記流路の少なくとも一部が人体の咽頭腔及び口腔を模して形成されており、前記放出口が人体の口唇を模して形成されている、請求項1~
7の何れか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記収容部が、前記混合気体を収容する収容袋と、該収容袋を収容する収容本体と、該収容本体の内部の圧力を変動させる圧力変動部とを備えており、
前記圧力変動部は、ポンプにより該収容本体の内部の圧力を上昇させることで、前記収容袋を収縮させて、該収容袋から前記混合気体を前記放出部に送る、請求項1~
8の何れか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記臭気成分が、インドール、スカトール、イソ吉草酸、酪酸、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、アリルメルカプタン、ジアリルジスルフィド、アリルメチルスルフィド、アリルメチルジスルフィド、アセトアルデヒド、イソプレン、フルフリルチオール、メントール、カルボン、及びリモネンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1~
9の何れか1項に記載のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放出装置を用いて臭気成分の拡散をシミュレーションする、臭気拡散のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間における気体の拡散動態を把握する技術として、気体の流れを可視化する技術が知られている。例えば、特許文献1には、プロジェクタが投影した模様を背景とし、該模様に応じて光を遮断するパターンを制御しながら、シュリーレン法を利用して撮影を行うことで、ヒトの呼気を可視化する撮影方法が開示されている。
また、特許文献2には、呼吸活動のモニタリング及び分析を目的として、被験者から放出された呼気の二酸化炭素を可視化する方法が開示されている。斯かる方法では、赤外線サーマルイメージング装置、赤外線イメージング装置及び可視光イメージング装置によって取得された画像を用いて、二酸化炭素(CO2)分布を経時的に視覚化し、該分布に基づき呼気の流れの三次元モデルを作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6796306号公報
【文献】米国特許出願公開第2020/0138292号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生活の質を向上させる観点から、室内の臭気の拡散動態について関心が高まっている。室内の臭気の種類はペット由来のにおい(臭気)や芳香剤のにおい等、多岐にわたるが、近年の密閉性の高い居住環境ではヒトの口臭も室内の臭気の原因となり得る。口臭は、主に会話をする際に感じられる臭気であり、不快な印象を与えることが多い臭気である。例えば、ニンニクを含む料理や、アルコール飲料、コーヒーに由来する臭気がヒトの口から発せられた場合、周囲の人に心理的な悪影響を与えることがある。そのため、自身の口臭の有無や、他人に口臭が知覚されているか否かについて不安に感じることもあり、口臭が人の印象や行動に与える影響は小さくない。
口腔衛生の観点から、食品又は飲料由来の臭気成分等、口臭の原因となる臭気成分については詳細な分析がなされている。その一方で、ヒトの口腔から発せられた臭気成分がどのように拡散しているかの拡散動態に関する知見は不十分である。口臭等の臭気を呈する臭気成分の拡散動態を正確に把握することは、室内等の空間における臭気制御の技術開発の観点からも重要であり、詳細な検討が望まれている。
【0005】
一般に、呼気中には気体の容積比で%レベルからpptレベルまでの極めて広い濃度範囲で多種多様な揮発性物質が含まれている。臭気成分はにおい(臭気)を呈する揮発性物質であり、該臭気成分が空間に放出されると、濃度分布(密度分布)が様々に変化しながら拡散していく。この拡散時の濃度分布の動態は、臭気成分の種類によって異なっている。しかも臭気成分はごく微量であってもにおいを知覚できる。そのため、特許文献1及び2の技術では、ごく微量の臭気成分を拡散させたときの該成分の検出やその拡散動態を把握することは困難である。また特許文献1の技術は、凹面鏡など特殊な器具を用いるので計測領域も限られる上、セッティングや調整等に膨大な時間と熟練した技術が必要であり、再現性良く拡散モデルを作成することが困難である。特許文献2の技術も計測可能な濃度範囲が狭く、口臭等のにおいが知覚できる範囲(空間)における臭気成分の拡散状態を把握できるものではない。
【0006】
本発明は、空間における臭気成分の拡散動態を高精度に把握できる、臭気拡散のシミュレーション方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、放出装置を用いて臭気成分の拡散をシミュレーションする、臭気拡散のシミュレーション方法に関する。
前記放出装置は、粒子を含有する混合気体を収容する収容部及び放出部を備え、該放出部は、前記混合気体を放出する放出口及び該放出口と前記収容部とを連通する流路を備えていることが好ましい。
前記シミュレーション方法は、下記A)~C)工程を具備することが好ましい。
A)前記放出装置から空間に放出された前記混合気体中の前記粒子の画像を経時的に取得する工程
B)個々の前記画像について、1画素以上からなる単位区分ごとに、該単位区分に含まれる画素パラメータを前記臭気成分の想定濃度に換算する工程
C)前記想定濃度を用いて、前記単位区分ごとの前記想定濃度が色情報として反映されたシミュレーション画像を作成する工程
【0008】
また本発明は、放出装置を用いて臭気成分の拡散をシミュレーションする、臭気拡散のシミュレーション方法に関する。
前記放出装置は、粒子を含有する混合気体を収容する収容部及び放出部を備え、該放出部は、前記混合気体を放出する放出口及び該放出口と前記収容部とを連通する流路を備えていることが好ましい。
下記A)、B)、D)及びE)工程を具備することが好ましい。
A)前記放出装置から空間に放出された前記混合気体中の前記粒子の画像を経時的に取得する工程
B)個々の前記画像について、1画素以上からなる単位区分ごとに、該単位区分に含まれる画素パラメータを前記臭気成分の想定濃度に換算する工程
D)前記単位区分ごとの前記想定濃度を前記臭気成分の嗅覚強度に換算する工程
E)前記嗅覚強度を用いて、前記単位区分ごとの前記嗅覚強度が色情報として反映されたシミュレーション画像を作成する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明の臭気拡散のシミュレーション方法によれば、空間における臭気成分の拡散動態を高精度に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明に係る臭気拡散のシミュレーション方法の一実施形態を示す概略説明図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、
図1に示すシミュレーション方法における単位区分を説明するための説明図であって、
図2(a)は原画像であり、
図2(b)及び(c)は原画像に単位区分を設定した画像である。
【
図3】
図3は、
図1に示すシミュレーション方法のうち、濃度シミュレーション方法を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すシミュレーション方法のうち、嗅覚強度シミュレーション方法を説明するための説明図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すシミュレーション方法に用いられる放出装置の放出部を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図5に示す放出部を備えた放出装置を示す模式図である。
【
図8】
図8は、
図1に示すシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置のブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す装置が実行するシミュレーション方法のフロー図である。
【
図10】
図10(a)~(c)は、実施例1の放出直後及び到達時における原画像、第1シミュレーション画像及び第2シミュレーション画像である。
【
図11】
図11は、実施例2の第1シミュレーション画像である。
【
図12】
図12は、実施例2の第2シミュレーション画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本実施形態の臭気拡散のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ともいう。)は、空間を拡散する臭気成分の濃度動態をシミュレーションする「濃度シミュレーション方法」と、空間を拡散する臭気成分のにおいの感覚強度の分布動態をシミュレーションする「嗅覚強度シミュレーション方法」とを含む。これら濃度シミュレーション方法及び嗅覚強度シミュレーション方法それぞれは、放出装置10を用いて臭気成分の拡散をシミュレーションする。
放出装置10は、粒子を含有する混合気体3を収容する収容部11(
図7参照)と、該混合気体3を放出する放出部20とを備えている。放出部20は、混合気体3を放出する放出口21及び該放出口21と収容部11とを連通する流路25を備えている。放出装置10の構造については後で詳述する。
【0012】
本実施形態の濃度シミュレーション方法を説明する。本実施形態の濃度シミュレーション方法は、下記A)~C)工程を具備する(
図1参照)。また、本実施形態の濃度シミュレーション方法は、A)工程、B)工程、及びC)工程の順に行う。
A)工程:放出装置10から空間に放出された混合気体3中の粒子の画像4を経時的に取得する工程
B)工程:前記A)工程で取得した個々の画像4について、1画素以上からなる単位区分rごとに、該単位区分rに含まれる画素パラメータを臭気成分の想定濃度に換算する工程
C)工程:想定濃度を用いて、単位区分rごとの想定濃度が色情報として反映された第1シミュレーション画像6を作成する工程
【0013】
A)工程では、放出装置10が有する放出部20から混合気体3を放出し、該混合気体3の粒子の画像4を取得する。A)工程で取得される画像4を、以下「原画像4」ともいう。
本実施形態のA)工程は、暗所に放出した混合気体3を照明で照らしながら原画像4を撮像することが好ましい。具体的には、光が遮断された暗室に、放出装置10、照明、及び撮像装置31を設置し、暗室内に放出され且つ拡散する混合気体3の粒子の画像4を撮像する。これにより、混合気体3を鮮明に撮像でき、シミュレーション画像をより高精度に作成できる。
照明には、LEDライトやレーザーライト等の公知の照明を用いることができる。暗室としては、専用の部屋を用いてもよく、黒色の遮光カーテン等により光を部分的に遮断した部屋や、遮光性テント等の遮光性の仕切りにより区画された空間であってもよい。
原画像4の取得は、撮像装置31により行う。原画像4は、カラー画像でもよくモノクロ画像でもよい。
【0014】
原画像4の撮像環境は、空調を稼働させないようにする等して気流の影響を生じさせない環境としてもよく、生活環境や労働環境を想定して空調による気流を発生させた環境としてもよい。また、夏や冬等の季節を想定して温度や湿度を調整した環境としてもよい。
臭気成分の拡散性の特徴をより容易に把握する観点から、原画像4の撮像環境は、気流の影響を生じさせない環境であることが好ましい。
【0015】
混合気体3は粒子を含む気体であり、空気に該粒子を含ませることにより得られる。混合気体3に含まれる粒子は、可視光を散乱するものを好ましく用いることができる。斯かる粒子としては、例えば液滴、粉体等が挙げられる。液滴および粉体の粒径は0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
空間における拡散性の観点から、混合気体3に含まれる粒子は、液滴であることが好ましい。液滴は、液体を微粒子化させて得られたものである。液滴の生成に用いられる液体としては、水、グリコール類、オイル等を含有した液体が挙げられる。オイルとしては、オリーブオイル等の植物油、セバシン酸エステルなどの油、リモネンなどの香料(アロマオイル)の他、灯油、軽油、流動パラフィン等が挙げられる。
また、混合気体3として、ドライアイス、タバコ、線香等の各種の煙を用いることもできる。
粉体としては、金属パウダー、炭酸水酸化マグネシウム、酸化シリカ、酸化チタンなどが挙げられる。
【0016】
ミスト状の混合気体3をより安定して放出させる観点から、液滴は、グリコール類及び水を含有する液体を微粒子化させて得られたものであることが好ましい。
液滴の生成に用いられるグリコール類としては、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及び1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。これら成分のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。液滴は、例えば液滴の原料となる液体や固体を加熱によって揮散させる方法や、超音波振動によって霧化させる方法によって生成することができる。斯かる生成に、フォグマシン又はスモークマシン等の公知の装置を用いることができる。
【0017】
本実施形態のA)工程では、液滴と、空気等の気体とを混合させて混合気体3を得る。当該混合気体3は液滴による可視光の散乱によって、半透明又は不透明の白色のミストとなる。
液滴を含む混合気体3は、白色以外の他の色に着色されていてもよい。斯かる混合気体3は、液滴の原料に着色料を加え、これを加熱や超音波振動によって揮散又は霧化させることにより、有色にすることができる。着色料は、水溶性色素又は難水溶性色素を特に制限なく用いることができる。着色料としては、例えば、赤色2号(CI Acid Red 27)等が挙げられる。混合気体3が着色されている場合、原画像4の取得は、暗所でなくてもよい。
【0018】
A)工程では、混合気体3の粒子の画像4を経時的に取得する。すなわち、原画像4を複数枚取得する。原画像4は、混合気体3の放出開始から好ましくは15~200ミリ秒間隔、より好ましくは30~100ミリ秒間隔で取得する。これにより、混合気体3における粒子の拡散動態をより高精度に把握できる。
A)工程では、経時的に原画像4を撮像してもよく、混合気体3(粒子)が放出されて拡散される様子の動画を取得し、該動画から経時的に原画像4を取得してもよい。
【0019】
本実施形態のB)工程は、原画像4を単位区分rごとに分割するB1)工程、該単位区分rごとに画素パラメータを算出するB2)工程、及び単位区分rの画素パラメータを臭気成分の想定濃度に換算するB3)工程を含む。また、本実施形態のB)工程は、B1)工程、B2)工程、及びB3)工程の順に行う。
【0020】
B1)工程では、A)工程で取得された個々の原画像4を単位区分rごとに分割する。
B1)工程で設定される単位区分rは、原画像4における1画素以上からなる連続した領域である。単位区分rは、その形状や該単位区分rを構成する画素数を任意に設定できる。
例えば、
図2(a)に示す原画像4について、
図2(b)に示すように8個の単位区分rに分割してもよく、
図2(c)に示すように32個の単位区分rに分割してもよい。また、単位区分rは、
図2(b)及び(c)に示すように正方形であってもよく、ひし形、長方形、三角形、五角形以上の多角形等であってもよい。
原画像4に設定される単位区分rは、1画素からなる領域であってもよい。すなわち、原画像4を構成する各画素が単位区分rとして設定されてもよい。この場合、原画像4を単位区分rごとに分割するB1)工程を行わずに、B2)工程を行う。
【0021】
混合気体3に含まれる粒子の拡散動態をより詳細に捉える観点から、B1)工程で設定される単位区分rは、好ましくは1画素以上10,000画素以下、より好ましくは4画素以上1,600画素以下からなる。
上記と同様の観点から、B1)工程では、原画像4を好ましくは100個以上、より好ましくは200個以上の単位区分rに分割する。
【0022】
図3に、本実施形態のA)工程で取得された原画像4と、該原画像4に基づき作成した画素パラメータ画像5と、該画素パラメータに基づき作成された第1シミュレーション画像6を示す。画素パラメータ画像5は、後述するB2)工程で算出した画素パラメータを単位区分rごとに反映させた画像である。なお、B2)工程で算出した画素パラメータから画素パラメータ画像5を作成しなくとも、第1シミュレーション画像6は得られるが、説明容易の観点から、
図3に画素パラメータ画像5を示す。
【0023】
B2)工程では、原画像4における各単位区分rの画素パラメータを算出する。画素パラメータは、単位区分rにおける輝度、明度、彩度、RGB値等の色情報の変数である。RGB値はフルカラーを表現するための光の三原色の各成分(赤、青、緑)の値である。画素パラメータとして採用される色情報の変数は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて採用してもよい。原画像4がモノクロ画像である場合は、画素パラメータとして輝度を採用でき、原画像4がカラー画像である場合は、画素パラメータとして明度、彩度、RGB値の何れかを採用できる。
本実施形態のB2)工程は、画素パラメータとして輝度を採用している。これにより、単位区分rにおける混合気体3(粒子)をより高精度に捉えることができる。
【0024】
B2)工程では、全原画像4における各単位区分rの画素パラメータを算出する。本実施形態においては、単位区分rを構成する画素の画素パラメータの平均値を、該単位区分rの画素パラメータとして算出する。単位区分rが1画素からなる領域である場合は、該1画素の画素パラメータを、単位区分rの画素パラメータとする。各単位区分rの画素パラメータは、256階調(8ビット)~65,536階調(16ビット)で表現される。
【0025】
本実施形態のB2)工程では単位区分rを構成する各画素の輝度からその平均値を算出し、これを該単位区分rの輝度(画素パラメータ)とする。この単位区分rの輝度は、本実施形態では8ビットで処理されるので、白黒の濃度(輝度)が256階調(0~255階調)で表現される。このB2)工程で算出された画素パラメータを反映した画像が、
図3に示す画素パラメータ画像5である。斯かる画素パラメータ画像5では、各単位区分rの輝度が256階調の白黒の濃度で表現されている。
【0026】
B1)工程及びB2)工程、又はB2)工程は、画像解析ソフトウェアを用いて実施してもよい。斯かるソフトウェアとして、株式会社ライブラリー製のGray-val(Ver.3.71)を用いることができる。
【0027】
B3)工程では、単位区分rごとに、画素パラメータを臭気成分の想定濃度に換算する。より詳細には、シミュレーションの目的成分となる臭気成分を設定し、該臭気成分の換算基準濃度に基づき、各単位区分rの画素パラメータを該臭気成分の想定濃度に換算する。「想定濃度」は、空間中に放出される又は拡散される臭気成分の濃度として想定し得る濃度であり、換算基準濃度に基づき算出される。本実施形態の換算基準濃度は、後述するように研究論文や発表等で報告された数値(濃度)に基づく臭気成分の濃度である。
【0028】
本実施形態のB3)工程では、呼気中に含まれる臭気成分をシミュレーションの目的成分に設定する。例えば、後述する実施例2では、口臭に影響を与える硫化水素やメチルメルカプタンを、前記目的成分に設定している。口臭に影響を与える臭気成分としては、硫化水素やメチルメルカプタンの他、インドール、スカトール、イソ吉草酸、酪酸、ジメチルスルフィド、アセトアルデヒド、イソプレン、アリルメルカプタン、ジアリルジスルフィド、アリルメチルスルフィド、アリルメチルジスルフィド、フルフリルチオール、メントール、カルボン、リモネン等が挙げられる。アリルメルカプタン、ジアリルジスルフィド、アリルメチルスルフィド、及びアリルメチルジスルフィドは、ニンニクやネギ類を摂取した後の口臭に影響を与える臭気成分である。フルフリルチオールはコーヒーの香りのキー成分であり、コーヒーを摂取した後の口臭に影響を与える臭気成分である。メントール及びカルボンは清涼菓子のキー成分であり、リモネンはマウスウォッシュ等の口腔ケア製品に用いられる香料である。上述した臭気成分のうち1種又は2種以上を、シミュレーションの目的成分とすることができる。
本実施形態においては、シミュレーションの目的成分として呼気中に含まれる臭気成分i及び臭気成分iiを設定する(
図3参照)。
【0029】
目的成分となる臭気成分を設定したら、次にその臭気成分の換算基準濃度を設定する。本実施形態では、呼気中に含まれる臭気成分の換算基準濃度を設定する。この換算基準濃度には、口臭に関連する研究論文や発表に基づく濃度を採用できる。例えば、後述する実施例1では、酒類由来の口臭の原因として知られるアセトアルデヒドの呼気中の濃度を、換算基準濃度として設定している。斯かる濃度は、清酒を摂取して2時間後の被験者の呼気を捕集管に吸着させ、該捕集管にトラップされたアセトアルデヒドの濃度をGC-O/MS分析により測定した値であり、実際に呼気中に含まれ得る濃度と推定できる。これにより、口臭に影響を与える臭気成分(アセトアルデヒド)の呼気中の濃度をシミュレーションに反映することができる。
【0030】
臭気成分の換算基準濃度の設定後、該換算基準濃度に基づき、各単位区分rの画素パラメータを想定濃度に換算する。斯かる換算は、先ず、B2)工程で算出した全原画像4における単位区分rの画素パラメータのうち最大値となる単位区分r(以下、「基準区分r1」ともいう。)を特定する。次いで、この基準区分r1における臭気成分の濃度を、換算基準濃度と同じ値に設定する。換言すると、全原画像4kの単位区分rにおける臭気成分の最大濃度を換算基準濃度に設定して、単位区分rにおけるシミュレーションの濃度スケールを研究論文や発表に基づく濃度(数値)に調整する。次いで、下記式(1)により各単位区分rにおける臭気成分の想定濃度を算出する。
R=〔Gx/Gmax×100(%)〕×J・・・(1)
R:単位区分rにおける臭気成分の想定濃度
Gx:単位区分rにおける画素パラメータの階調
Gmax:基準区分r1における画素パラメータの階調
J:換算基準濃度
【0031】
例えば、
図3に示す画素パラメータ画像5において、符号r1で示す単位区分に比して、符号r2で示す単位区分は、画素パラメータ(輝度)の階調が低い。この画素パラメータ画像5において符号r1で示す区分を基準区分r1とした場合、同図に示す符号r2で示す単位区分の臭気成分の濃度は、基準区分r1の臭気成分の濃度よりも低くなる。具体的には基準区分r1の階調が250であるのに対し、単位区分r2の階調は175であるので、前述の式(1)を用いると、単位区分r2における臭気成分の濃度は、想定濃度の最大値である換算基準濃度Jの70%〔250/175×100(%)〕となる。
このようにして、B3)工程では、全原画像4における全単位区分rの臭気成分の想定濃度を算出する。
【0032】
本実施形態においては、前述したように臭気成分i及び臭気成分iiを目的成分に設定する。これら臭気成分i,iiは、呼気中の濃度が異なっており、臭気成分iが臭気成分iiよりも呼気中に高濃度に含まれていることが報告されている(臭気成分i>臭気成分ii)。そのためB3)工程で設定される換算基準濃度は、臭気成分iが臭気成分iiよりも高い値となっている。この場合、臭気成分iと臭気成分iiとでは、濃度スケールが異なるので、後述するC)工程で異なる第1シミュレーション画像6が得られる。
【0033】
C)工程では、B3)工程で得られた各単位区分rにおける臭気成分の想定濃度を色情報に換算し、該色情報が反映された第1シミュレーション画像6を作成する。具体的には、B3)工程で換算した想定濃度に基づき色相、明度、彩度等の色情報を異ならせて、各単位区分rを配色することにより、第1シミュレーション画像6を作成する。各単位区分rの配色は適宜設定することができる。例えば、各単位区分rの配色の色が複数の色(例えば16色)に設定されている場合は、想定濃度が高いほど暖色系の色に、想定濃度が低いほど寒色系の色になるように設定することができる。あるいは、配色の色が2色(例えば白黒)に設定されている場合は、想定濃度が低いほど一方の色(例えば黒)が濃くなるように、想定濃度が高いほど他方の色(例えば白)が濃くなるように設定することができる。
また、想定濃度を色情報として反映する際、設定する色は、嗅覚強度に対応付けることが好ましい。例えば、殆どにおいを知覚できない濃度の場合は黒に設定し、においを所定の強度で知覚できる濃度の場合は白に設定し、これらの間を段階的に変化させた色(白黒の濃淡)に設定することができる。
【0034】
C)工程における想定濃度から色情報への変換には、C++やPython等のプログラム言語で記述された画像処理プログラムを用いることができる。例えば、各単位区分rにおける臭気成分の想定濃度を纏めた表計算形式のデータセットに対し、画像処理プログラムを実行することによって、各単位区分rの色情報を算出する。斯かるプログラムは、後述するE)工程の色情報の変換にも用いることができる。
【0035】
本実施形態のC)工程では、呼気中の濃度が異なる2種類の臭気成分i,iiの第1シミュレーション画像6を作成する。
図3に示すこれら臭気成分i,iiの第1シミュレーション画像6では、各単位区分rの配色をグレースケールの濃淡で示しており、想定濃度が低いほど黒が濃くなるように設定している。前述したように臭気成分iは臭気成分iiよりも換算基準濃度が高いので、臭気成分iの第1シミュレーション画像6が臭気成分iiのそれよりも明るい(白い)配色分布が多い画像となっている。
このように、同じ原画像4を用いても、目的成分と該目的成分の換算基準濃度に応じて、異なる濃度分布のシミュレーション画像が得られる。
【0036】
C)工程では、単位区分rの想定濃度に基づき、全原画像4それぞれについて第1シミュレーション画像6を作成する。得られた第1シミュレーション画像6を経時的に表示したシミュレーション動画を作成することで、臭気成分の濃度分布の変化を動的に把握できる。すなわち、臭気成分の拡散動態を把握できる。
第1シミュレーション画像6で示される臭気成分の濃度分布は、研究論文や発表等の報告値(換算基準濃度)に基づいて濃度スケールが調整された分布であるので、該シミュレーション画像6には現実的な濃度分布が反映されている。これにより、検出限界を下回るようなごく微量の臭気成分を検出せずとも、拡散状態の該臭気成分の濃度分布を可視化(イメージング)することができる。斯かる点は、特に広い範囲(空間)で微量の臭気成分を拡散させた場合の濃度分布を把握するのに有用である。また、第1シミュレーション画像6を用いたシミュレーション動画によって、ごく微量の臭気成分の拡散動態をシミュレーションすることができる。このように、本実施形態の濃度シミュレーション方法を用いることで、空間における臭気成分の拡散動態を高精度に把握することができる。
【0037】
本実施形態の濃度シミュレーション方法では、呼気中に含まれる臭気成分i,iiを目的成分としてシミュレーションを行ったが、目的成分は、シミュレーションの目的に応じて適宜設定できる。すなわち、口臭に影響を与える臭気成分以外に、においの原因となる臭気成分を目的成分として設定してもよい。また、目的成分の換算基準濃度も適宜設定できる。
例えば、たばこのにおいの原因となる臭気成分、エアコンの内部に発生したカビ由来の臭気成分、アロマディフューザーから放出される臭気成分(香気成分)等を目的成分として設定し、該目的成分が空間内に放出され得る濃度や拡散し得る濃度を、換算基準濃度として設定してもよい。換算基準濃度としては、目的成分となる臭気成分に関連する研究分野の研究論文や発表等の報告に基づく数値(濃度)を採用できる。
【0038】
次に、本実施形態の嗅覚強度シミュレーション方法を説明する。以下の嗅覚強度シミュレーション方法の説明では、前述した濃度シミュレーション方法と同様の構成についての説明を省略する。特に説明しない構成は、前述した濃度シミュレーション方法についての説明が適宜適用される。
【0039】
本実施形態の嗅覚強度シミュレーション方法は、
図1に示すように、前記C)工程に代えて下記D)及びE)工程を具備する。すなわち、嗅覚強度シミュレーション方法は、前記のA)工程及びB)工程とともに、下記D)工程及びE)工程を具備する。また、本実施形態の嗅覚強度シミュレーション方法は、A)工程、B)工程、D)工程及びE)工程の順に行う。
D)工程:単位区分rごとの想定濃度を臭気成分の嗅覚強度に換算する工程
E)工程:嗅覚強度を用いて、単位区分rごとの嗅覚強度が色情報として反映された第2シミュレーション画像7を作成する工程
【0040】
図4に、本実施形態のA)工程で取得された原画像4と、該原画像4に基づき作成した画素パラメータ画像5と、各単位区分rの画素パラメータに基づき作成された第2シミュレーション画像7を示す。なお、本実施形態のシミュレーション方法も、画素パラメータ画像5を作成しなくとも、第2シミュレーション画像7は得られる。説明容易の観点から、
図4に画素パラメータ画像5を示す。
本実施形態の嗅覚強度シミュレーション方法は、前述した濃度シミュレーション方法と同様の方法でA)工程及びB)工程を行う。当該嗅覚強度シミュレーション方法の説明は、B)工程後、すなわちB3)工程後のD)工程及びE)工程について詳述する。
【0041】
本実施形態のD)工程は、B3)工程で得られた各単位区分rにおける臭気成分の想定濃度を、該臭気成分の嗅覚強度に換算する。D)工程では、全原画像4における全単位区分rそれぞれについて、該単位区分rの想定濃度に基づき臭気成分の嗅覚強度を算出する。「嗅覚強度」は、ある気相濃度(濃度)の臭気成分に対する、ヒトの嗅覚による感覚量に基づくにおい(香り)の強度である。
【0042】
本実施形態のD)工程では、目的成分となる臭気成分の気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルに基づき、想定濃度から嗅覚強度を換算することができる。
気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルは、例えば以下の方法により作成できる。先ず、異なる気相濃度の臭気成分のサンプルを用意し、該サンプルのにおいをパネラーによって官能評価することにより得られる。斯かる官能評価は、例えばフッ素樹脂製袋内で臭気成分を所定の気相濃度に揮発させ、これを識別用希釈混合装置(例えば、株式会社島津製作所製「FDL-1」)に接続し、該装置から出される濃度ごとの嗅覚強度をパネラーが官能評価することにより行われる。臭気成分の気相濃度について、例えば3Lポリエチレン製におい袋(アズワン社製)に1種の臭気成分を0.5mL加え、さらに無臭の空気で充満させて12時間静置した該におい袋内の気相を回収し、無臭の空気で希釈させることによって、臭気成分を様々な気相濃度に調整することができる。
【0043】
本実施形態のD)工程では、嗅覚強度の尺度にLabeled Magnitude Scale(LMS)を用いる。LMSは、B. G. Greenら(Chem. Senses., 1993, 18(6), 683-702)によって言語標識と対数尺度を組み合わせて開発された感覚強度尺度であり、味覚、嗅覚、触覚等の感覚強度の定量化に利用されている。LMSは、0~100の評価尺度に心理的強度を表す言語ラベル(Barely Detectable: 1.4、Weak: 6.1、Moderate: 17.2、Strong: 35.4、Very Strong: 53.3、Strongest Imaginable: 100)が対数的な間隔で標識されたものである。
【0044】
本実施形態における気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルは、下記式(2)により表される。下記式(2)の嗅覚強度は、LMSの評価スコアである。
【0045】
【0046】
式(2)における係数p、q、及びrは、臭気成分ごとに決定される変数であって、気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルにおける予測値が、パネラーの評価によって得られた嗅覚強度の平均値に近似するように、該予測値と該平均値との間の残差の二乗和を最小にする最小二乗法によって決定される。最小二乗法には、例えばMicrosoft社のExcel 2010(ver14.0)のアドインプログラムであるソルバーを用いることができる。
【0047】
本実施形態のD)工程では、前記式(2)により求めた臭気成分の気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルに基づき、各単位区分rの想定濃度における嗅覚強度を求め、これを該単位区分rの嗅覚強度にする。このようにして想定濃度から嗅覚強度を換算することができる。斯かる換算を、全原画像4における全単位区分rについて行う。
【0048】
D)工程では、嗅覚強度の尺度として、LMS、Visual analog scale (VAS)、Magnitude estimate (ME)、及びCategory-ratio scale (CR)等の公知のものを用いることができる。何れの尺度であっても、D)工程では、該尺度を適用した気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルに基づき、想定濃度から嗅覚強度への換算を行う。
においの感覚強度の評価をより高精度にする観点から、嗅覚強度の尺度としてはLMSを用いることが好ましい。
【0049】
本実施形態では、
図4に示すように、前述した臭気成分i及び臭気成分iiをシミュレーションの目的成分に設定する。これら臭気成分i,iiは、前述したように臭気成分iが臭気成分iiよりも呼気中に高濃度に含まれている他、臭気成分iiが臭気成分iよりもにおいが知覚され易いことが報告されている。すなわち、臭気成分iiは、臭気成分iと同じ気相濃度でも、該臭気成分iよりも強くにおいが感じられる。そのためD)工程において用いられる臭気成分iの気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルと、臭気成分iiの気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルとは異なっている。換言すると、臭気成分iと臭気成分iiとでは、においの感覚強度のスケールが異なるので、後述するE)工程で異なる第2シミュレーション画像7が得られる。
【0050】
E)工程では、D)工程で得られた各単位区分rにおける臭気成分の嗅覚強度を色情報に換算し、該色情報が反映された第2シミュレーション画像7を作成する。具体的には、D)工程で換算した嗅覚強度に基づき色相、明度、彩度等の色情報を異ならせて、各単位区分rを配色することにより、第2シミュレーション画像7を作成する。各単位区分rの配色は、嗅覚強度の程度に応じて、前述したC)工程と同様に適宜設定することができる。
【0051】
本実施形態のE)工程では、においの感覚強度が異なる2種類の臭気成分i,iiの第2シミュレーション画像7を作成する。
図4に示すこれら臭気成分i,iiの第2シミュレーション画像7では、各単位区分rの配色をグレースケールの濃淡で示しており、嗅覚強度が低いほど黒が濃くなるように設定している。前述したように臭気成分iiは臭気成分iよりもにおいの感覚強度が高いので、臭気成分iiの第2シミュレーション画像7が臭気成分iのそれよりも明るい(白い)配色分布が多い画像となっている。
このように、同じ原画像4を用いても、目的成分と該目的成分のにおいの感覚強度に応じて、異なるシミュレーション画像が得られる。
【0052】
E)工程では、単位区分rの嗅覚強度に基づき、全原画像4それぞれについて第2シミュレーション画像7を作成する。得られた第2シミュレーション画像7を経時的に表示したシミュレーション動画を作成することで、臭気成分についてにおいの感覚強度の分布変化を動的に把握できる。すなわち、臭気成分の拡散に伴うにおいの感覚強度(以下、単に「感覚強度」という)の動態を把握できる。
第2シミュレーション画像7で示される臭気成分の感覚強度の分布は、研究論文や発表等の報告値(換算基準濃度)に基づくものであるので、該シミュレーション画像7には現実的な濃度分布とそれに対応する感覚強度とが反映されている。これにより、拡散に伴う臭気成分のにおいの強度の分布を可視化(イメージング)することができる。また、第2シミュレーション画像7を用いたシミュレーション動画によって、臭気成分の拡散に伴うにおいの感覚強度分布の動態をシミュレーションすることができる。このように、本実施形態の嗅覚強度シミュレーション方法では、感覚強度と関連付けた形で臭気成分の拡散動態をシミュレーションできる。
【0053】
C)工程又はE)工程で得られたシミュレーション画像6,7を用いてシミュレーション動画を作成する際には、画像解析ソフトウェアを用いて実施してもよい。斯かるソフトウェアとして、株式会社ライブラリー製のCosmos32(Ver.6.52)を用いることができる。
【0054】
次に本実施形態の濃度シミュレーション方法及び嗅覚強度シミュレーション方法の双方に用いられる放出装置10について、
図5~
図7を参照しながら説明する。
図5及び
図6には、本実施形態の放出装置10が具備する放出部20が示されている。本実施形態の放出部20は、流路25と放出口21を備えており、該流路25と放出口21を介して混合気体3を空間に放出する。
【0055】
本実施形態の放出部が備える放出口21は、
図5及び
図6に示すように、人体の口唇を模して形成されている。
本実施形態の放出部20が備える流路25は、放出口21と連続する第1流路26、及び放出部20の導入口22と連続する第2流路27を有している。放出部20の導入口22は、収容部11から導入される混合気体3を、該放出部20に導入する開口である。当該導入口22には、放出部20と収容部11とを接続する管28が挿入されている。
本実施形態の放出部20における流路25は、少なくともその一部が人体の咽頭腔及び口腔を模して形成されている。具体的には、第1流路26が口腔を模して形成されており、第2流路27が咽頭腔を模して形成されている。
このように本実施形態の放出部20は、呼気が放出される際の流路の構造に、ヒトの解剖学的な構造を採用することで、ヒトの呼気に近い条件で混合気体3を放出部20から放出することができる。
【0056】
本実施形態の放出部20は、3Dプリンタ等を利用して作製することができる。例えばヒトの頭部のMRIデータから起こした3Dデータ(三次元座標情報)を3Dプリンタに入力し、該頭部の内部(口腔及び咽頭腔)まで再現した立体造形物を作製する。
このような放出部20が備える流路25には、呼気が流通する鼻腔、口腔、咽頭腔、咽頭を含む調音・発声器官を模した部分を形成してもよい。また当該流路25に、肺及び気管を含む呼吸器官を模した部分を形成してもよい。流路25において調音・発話器官や呼吸器官を模した部分は、ヒトが発話する際の内部構造を再現してもよい。
会話中の口臭拡散の再現性を向上させる観点から、放出部20における流路25は、発話時の調音・発話器官又は呼吸器官の三次元構造を模して形成されたものであることが好ましい。例えば、鼻腔、口腔、咽頭腔、咽喉、気管、肺等に加えて、舌、歯列、鼻等、特に発声に関わる人体の内部の器官の三次元構造を模して形成されていることが好ましい。通常、発話時は鼻咽腔が閉じているので、放出部20の流路25の一部として形成される鼻咽腔は閉鎖状態とすることができる。
上記と同様の観点から、本実施形態の放出口21は、発話時を模した口唇の形状を模したものであることが好ましい。
【0057】
放出装置10は、前述したように混合気体3を収容する収容部11を備えている。本実施形態の収容部11は、
図7に示すように、管28を介して放出部20と接続されており、該管28を通じて混合気体3を放出部20に導入可能に構成されている。具体的には、収容部11は、混合気体3を収容する収容袋13と、該収容袋13を収容する収容本体12と、該収容本体12の内部の圧力を変動させる圧力変動部14とを備えている。
圧力変動部14は、ポンプ17と、流量コントローラー15とを備えており、配管を介してポンプ17により外部から取り込んだ空気を収容本体12の内部に導入可能に構成されている。このポンプ17からの空気の導入によって、収容本体12の内部の圧力を上昇させることで、収容袋13を収縮させて、該収容袋13から混合気体3を放出部20に送る。
本実施形態におけるポンプ17は、例えばダイヤフラムポンプ等の公知のものを用いることができる。
【0058】
ヒトの身体は、横隔膜の拳上と内助間筋肋骨部の収縮等により肺の体積が収縮することで肺内の空気を排出する。本実施形態の収容部11は、収容袋13、収容本体12、及びポンプ17を備えることで、ヒトの肺や胸腔、横隔膜を模倣した構成となっている。例えば収容袋13が肺を、収容本体12が胸腔に対応している。収容本体12は、合成樹脂製の容器により構成されていてもよい。また、放出部20と収容部11とを接続する管28は、気管を模したシリコンチューブで構成されてもよい。
また、圧力変動部14により収容本体12に導入される空気の量と導入回数(サイクル)は、収容袋13から放出部20へ送られる混合気体3の量がヒトの呼気量と同じになるように調整されている。具体的には、流量コントローラー15により、収容本体12に導入される空気の量と導入回数(サイクル)が制御されている。これにより、ヒトの呼気を再現している。圧力変動部14による空気の導入量や導入回数は、ヒトの年齢や性別等の呼気に合わせて調整されてもよい。
【0059】
次に、
図1に示すシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置30を、図面を参照しながら説明する。本実施形態のシミュレーション装置30は、上述したシミュレーション方法に好適に用いられる。
図8に、本実施形態のシミュレーション装置のブロック図を示す。
【0060】
本実施形態のシミュレーション装置30は、撮像装置31及び本体処理部32を備えている(
図8参照)。撮像装置31と本体処理部32とは互いに通信可能に接続される。
撮像装置31としては、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等を用いることができる。撮像装置31の撮像素子(イメージセンサー)は、CCDであってもよく、C-MOSであってもよい。
【0061】
本体処理部32には、公知の汎用コンピュータを用いることができる。汎用コンピュータは、CPU、ROM、RAM、HDD(Hard Disk Drive)等を含んで構成される。本体処理部32が行う処理は、CPUがROMやディスクなどに格納されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される。前記処理は、GPU(Graphics Processing Unit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)により実現されてもよく、ASICとFPGAの組み合わせにより実現されてもよい。
【0062】
また、本体処理部32には、専用のソフトウェアやハードウェア、オンプレミス型のサーバー構成等といったOS(Operating System)等を設けずに、クラウドサーバーによるSaaS(Software as a Service)、Paas(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)を用いることができる。斯かる構成により、本体処理部32により作成したシミュレーション画像6,7やそれを基に作成されたシミュレーション動画を、汎用のウェブブラウザを介してユーザーに提供することができる。例えば、ユーザーが所有するスマートフォン等の別体の情報端末P1,P2を該ユーザーが操作し、該情報端末P1,P2とシミュレーション装置30との間で行われる情報の授受を、前記ウェブブラウザを介して行ってもよい。
【0063】
本体処理部32は、通信部33、記憶部34、及びシミュレーション処理部35を備えている(
図8参照)。本実施形態の本体処理部32は、ネットワークNを介して、ユーザーが所有する情報端末P1,P2と通信可能に接続されている。
通信部33は、アクセス情報を受信し、当該情報を記憶部34に保存する。アクセス情報は、撮像装置31やユーザーが所有する情報端末P1,P2それぞれからのアクセスに用いられた情報であり、原画像4のデータの取得、シミュレーション画像6,7及びシミュレーション動画を作成するための諸条件(目的成分やその換算基準濃度)のデータの取得、更新等の演算処理及び加工処理といった各処理に要する情報を含む。例えば、個々のユーザーが入力するシミュレーションの諸条件に関する情報(例えば目的成分)や、当該情報を作成するためにユーザー等が行った端末操作の情報、その他ユーザー等が入力した個人情報等の入力情報等が含まれる。
また、通信部33は、ユーザーの端末操作に応じて、本体処理部32が生成又は演算した各情報(シミュレーション画像6,7)を該ユーザーが所有する情報端末P1,P2に送信する。
【0064】
記憶部34は、撮像装置31によって取得された原画像4のデータや、通信部33及びシミュレーション処理部35それぞれの制御によって、該シミュレーション処理部35が演算及び加工処理する際に必要な各種プログラム、データ、パラメータ等を記憶する。記憶部34は、前述したアクセス情報の他、通信部33を介して情報端末P1,P2に送信された出力情報等を記憶する。
【0065】
本実施形態のシミュレーション装置30は、予め取得した原画像4のデータを記憶部34に記憶させており、ユーザーが入力したシミュレーション条件に応じて、該条件に適合する原画像4のデータを読み込む。そのため、後述する
図9に示すフロー図では、原画像4を取得するA)工程に対応する工程を実行しない。
記憶部34は、原画像4のデータを記憶する際、原画像4とその取得時間(タイムスタンプ)とを関連付けて、複数の原画像4を経時的な序列順に対応させて記憶する。原画像4を動画から取得する場合は、該動画及び該動画の再生開始からの経過時間に関連付けて、原画像4を記憶する。動画から原画像4を取得するための処理は、後述する画像変換部36(シミュレーション処理部35)が実行し、取得された原画像4を記憶部34に保存する。
【0066】
また、記憶部34は、各種臭気成分を、その換算基準濃度、気相濃度-嗅覚強度の曲線モデル、及びにおいの質に関連付けて記憶することができる。
斯かる記憶部34には、データベースシステムやファイルシステムが用いられてもよい。記憶部34は、ROM及びRAMで構成される主記憶装置、不揮発性メモリ等で構成される補助記憶装置、HDD、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等各種の記録媒体によって構成される。
【0067】
シミュレーション処理部35は、画像変換部36、想定濃度換算部37、嗅覚強度換算部38、及びシミュレーション画像作成部39を備えている(
図8参照)。
画像変換部36は、ユーザーが設定したシミュレーション条件のデータを記憶部34から読み込み、該条件に基づきシミュレーションに用いる原画像4を特定して、該原画像4を、単位区分rごとに分割する処理を行う。単位区分rの形状や該単位区分rに含まれる画素数は、本シミュレーション装置30のユーザーにより予め設定される。また、シミュレーションに用いる原画像4も、該ユーザーが予め設定した条件により選択される。例えばユーザーは、シミュレーションの目的に応じて、年齢や性別等に合わせた呼気量分の混合気体3を放出する動画の原画像4を選択し、これをシミュレーションに用いる原画像4として設定することができる。
【0068】
原画像4に設定された各単位区分rは、該原画像4における該単位区分の領域情報、該単位区分rにおける画素パラメータの情報とともに記憶部34に記憶される。例えば、下記表1に示すように、原画像4ごとに設定された単位区分rと、該単位区分rの領域情報及び画素パラメータ(輝度)の情報とが関連付けられて記憶される。
【0069】
想定濃度換算部37は、ユーザーが設定した臭気成分(目的成分)を記憶部34から読み込み、該臭気成分の換算基準濃度Jに基づき、全原画像4における各単位区分rの画素パラメータを想定濃度に換算する処理を行う。また想定濃度換算部37は、換算した想定濃度を下記表1のように、単位区分rに関連付けて記憶部34に記憶させる。
【0070】
嗅覚強度換算部38は、臭気成分とその気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルのデータを記憶部34から読み込み、全原画像4における各単位区分rの想定濃度を嗅覚強度に換算する処理を行う。また嗅覚強度換算部38は、換算した嗅覚強度を下記表1のように、単位区分rに関連付けて記憶部34に記憶させる。
下記表1は、本実施形態における画像変換部36、想定濃度換算部37、嗅覚強度換算部38及び後述するシミュレーション画像作成部39それぞれが導出した処理結果のデータセットの例である。
【0071】
【0072】
シミュレーション画像作成部39は、前記データセットの各単位区分rにおける想定濃度を読み込み、該想定濃度を色情報に変換して、第1シミュレーション画像6を作成する。シミュレーション画像作成部39は、想定濃度から変換した色情報(表1の「色情報1」)を表1に示すデータセットに記録し、これと対応する単位区分rに関連付けて記憶部34に記憶させる。また、第1シミュレーション画像6を、基になった原画像4の経時的な序列順又は動画の再生開始からの経過時間と、シミュレーション条件とに関連付けて記憶部34に記憶させる。さらにシミュレーション画像作成部39は、第1シミュレーション画像6を時系列順に並べて構成された濃度シミュレーション動画を作成し、そのシミュレーション条件に関連付けて記憶部34に記憶させる。
【0073】
またシミュレーション画像作成部39は、前記データセットの各単位区分rにおける嗅覚強度を読み込み、該嗅覚強度を色情報に変換して、第2シミュレーション画像7を作成する。シミュレーション画像作成部39は、嗅覚強度から変換した色情報(表1の「色情報2」)を表1に示すデータセットに記録し、これと対応する単位区分rに関連付けて記憶部34に記憶させる。また、第2シミュレーション画像7を、基になった原画像4の経時的な序列順又は動画の再生開始からの経過時間に関連付けて記憶部34に記憶させる。さらにシミュレーション画像作成部39は、第2シミュレーション画像7を時系列順に並べて構成された嗅覚強度シミュレーション動画を作成し、そのシミュレーション条件に関連付けて記憶部34に記憶させる。
【0074】
シミュレーション画像作成部39は、前記データセットの各単位区分rにおける画素パラメータ(輝度)を読み込み、該画素パラメータを反映した画素パラメータ画像5を作成してもよい。この場合、シミュレーション画像作成部39は、画素パラメータ画像5を、これと対応する原画像4に関連付けて記憶部34に記憶させる。画素パラメータ画像5は、各単位区分rの画素パラメータを色情報に変換して作成することができる。
【0075】
次に、本実施形態のシミュレーション装置30を用いたシミュレーション方法を説明する。
図9には、当該シミュレーション方法の流れを示すフロー図が示されている。
【0076】
本実施形態のシミュレーション方法において、先ず、ユーザーが端末操作によりシミュレーションの目的成分となる臭気成分を入力する(ステップS1)。さらに、ユーザーが端末操作によりシミュレーション条件を入力する(ステップS2)。ステップS1及びS2では、情報端末P1,P2から送信された臭気成分及びシミュレーション条件に関する情報をシミュレーション装置30が受信する。ステップS1及びS2における情報の入力は、情報端末P1,P2のOSが備える文字入力機能を利用してもよいし、音声入力を利用してもよい。
【0077】
ステップS2で入力されるシミュレーション条件は、混合気体3の放出条件等のシミュレーションに用いられる原画像4を選択するための条件や、単位区分rを構成する画素数等の単位区分rの設定条件である。続くステップS3では、斯かるシミュレーション条件に応じて、シミュレーション処理部35(画像変換部36)が、シミュレーションに用いる原画像4を選択する。例えばシミュレーション条件として性別及び年齢等を入力すると、これに対応した呼気量分の混合気体3を放出する動画の原画像4を選択する。
【0078】
続くステップS4では、シミュレーション方法を選択する。具体的には、ユーザーの端末操作に応じて、濃度シミュレーション方法又は嗅覚強度シミュレーション方法を選択する。
【0079】
ステップS4で濃度シミュレーション方法を選択した場合、ステップS5に進む。ステップS5では、シミュレーションに用いられる全原画像4について、単位区分rごとの画素パラメータを想定濃度に換算する。斯かるステップS5において、画像変換部36及び想定濃度換算部37が、前述したB)工程を実行する。
続くステップS6では、ステップS5で換算した単位区分ごとの想定濃度を色情報に換算する。そして、ステップS7において、ステップS6で換算した単位区分rごとの色情報を該単位区分rに反映させて、第1シミュレーション画像6を作成する。斯かるステップS6及びステップS7において、シミュレーション画像作成部39が、前述したC)工程を実行する。
ステップS7において、シミュレーションに用いる全原画像4について第1シミュレーション画像6を作成した後、ステップS12に進む。
【0080】
ステップS4で嗅覚強度シミュレーション方法を選択した場合、ステップS8に進む。ステップS8では、シミュレーションに用いられる全原画像4について、単位区分rごとの画素パラメータを想定濃度に換算する。斯かるステップS8において、画像変換部36及び想定濃度換算部37が、前述したB)工程を実行する。
続くステップS9では、ステップS8で換算した単位区分ごとの想定濃度を嗅覚強度に換算する。斯かるステップS9において、嗅覚強度換算部38が、前述したD)工程を実行する。続くステップS10では、ステップS9で換算した単位区分rごとの嗅覚強度を色情報に換算する。そして、ステップS11において、ステップS10で換算した単位区分rごとの色情報を該単位区分rに反映させて、第2シミュレーション画像7を作成する。斯かるステップS10及びステップS11において、シミュレーション画像作成部39が、前述したE)工程を実行する。
ステップS11において、シミュレーションに用いる全原画像4について第2シミュレーション画像7を作成した後、ステップS12に進む。
【0081】
ステップS12では、ステップS7又はステップS11で作成したシミュレーション画像6,7を時系列順に並べてシミュレーション動画を作成する。続くステップS13では、ステップS7又はステップS11で得られたシミュレーション画像又はステップS12で得られたシミュレーション動画のデータを、ユーザーが所有する情報端末P1,P2に送信して、
図9に示す処理を終了する。
【0082】
上述した実施形態のシミュレーション装置30やこれを用いたシミュレーション方法は、ネットワークNを介して、例えば口臭外来を有する医療機関等に利用されてもよい。この場合、医師等のユーザーが、医療機関に設置された情報端末を操作して、上述した実施形態のシミュレーション装置30やこれを用いたシミュレーション方法を利用する。
【0083】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。
上述した実施形態の放出装置10は、放出部20における流路25が、ヒトの口腔及び咽頭腔を模して形成された部分を有していたが、該流路25の形状や構成はシミュレーション目的に応じて適宜変更してもよい。例えば、犬や猫等、前記流路25がヒト以外の動物の口腔及び咽頭腔を模して形成された部分を有していてもよく、放出口が該動物の口唇を模して形成されていてもよい。この場合、ヒト以外の動物の呼気を再現することができる。
また、放出部20を市販のエアコンやアロマディフューザー等の気体や気流を発生させる装置の構造と同様の構造にしてもよい。この場合、当該装置が放出する臭気成分を含んだ空気の拡散動態を再現することができる。
また、放出装置10における放出部20の構造を、放出口21を備えた管に置換する等して、簡素な構造にしてもよい。
上述した実施形態のシミュレーション方法は、1種類の臭気成分の濃度分布又は感覚強度分布を反映した第1シミュレーション画像6又は第2シミュレーション画像7を作成するものであったが、2種類以上の臭気成分の濃度分布又は感覚強度分布をシミュレーション画像に反映してもよい。この場合、臭気成分の濃度分布又は感覚強度分布を反映した色情報を、臭気成分ごとに異ならせてイメージングさせてもよい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0085】
〔原画像の取得〕
図7に示す放出装置10を用いて、混合気体3を放出部20から放出し、該混合気体3が拡散していく様子を撮影した。動画の撮影は暗室で行い、多数のLEDを搭載した広角照射が可能なライトを放出部20の後方に設置し、前方に向かって光を照射することで、放出部20から放出される混合気体3に光を照射した状態で、混合気体3を拡散させた。
放出装置10が備える放出部20は、前述したように、人体の口腔を模して形成された第1流路26と、人体の咽頭腔を模して形成された第2流路27とを有し、且つ放出口21が人体の口唇を模して形成されたものを用いた。斯かる放出部20は、30代成人男性の母音/a/発話時の声道、鼻腔および歯列部、口唇等が表されたMRI画像を基にした3Dプリンタの立体造形物からなる。MRI画像は、コロナ社「音声生成の計算モデルと可視化」(鏑木 時彦 編著)のサポートページにて公開されているものを用いた。通常、発話時は鼻腔と咽頭腔の間は遮断されるため、放出部20における鼻咽腔に対応する部分は閉鎖状態とした。
放出部20と収容部11とを接続する管28には、内径15mmのシリコンチューブを用いた。
収容部11が備える収容本体12には、16L容積のプラスチック容器を用いた。この収容本体12に、12Lの混合気体3を内包する収容袋13を収容した。
圧力変動部14が備えるポンプ17(ダイヤフラムポンプ)によって、収容本体12に空気を間欠的に導入した。具体的には、6秒間に亘って1000mLの空気を導入し、その後6秒間空気の導入を停止するサイクルを繰り返すように制御した。斯かる制御は流量コントローラー15を用いて行った。このようにして、収容部11から放出部20へ混合気体3を送り、放出部20の放出口21から混合気体3を放出させた。
混合気体3は、ポリエチレングリコールと水とを含む液体を用いて、フォグマシン(Antari社 Z-800II)により発生させた液滴を粒子として含むものを用いた。
【0086】
臭気成分が会話相手の鼻に到達するまで拡散動態をシミュレーションするため、会話相手となる観察対象者Sを、前記の放出部20から前方1mに離間した位置に配し、その状態で放出装置10から混合気体3を放出した。混合気体3は、放出部20と観察対象者Sとの間の空間を拡散していき、当該観察対象者Sまで達した。その後、観察対象者Sの体温による上昇気流に乗って混合気体3が上昇し、該観察対象者Sの鼻に到達することが目視で観察された。また、斯かる混合気体3の拡散の様子をデジタルビデオカメラで撮影した。
【0087】
〔実施例1〕
上記混合気体3の拡散の様子を撮影した動画データについて、再生開始から2秒のフレーム画像を抽出し、これを混合気体3の「放出直後」の原画像4とした〔
図10(a)参照〕。これに加え、再生開始から8秒のフレーム画像を抽出し、これを観察対象者Sの位置まで到達した「到達時」の混合気体3の原画像4とした〔
図10(a)参照〕。
【0088】
図10(a)に示す原画像4それぞれについて、上述した濃度シミュレーション方法及び嗅覚強度シミュレーション方法を行った。
目的成分となる臭気成分として、アセトアルデヒドを設定した。アセトアルデヒドは、飲酒由来の口臭の原因成分として知られている。単位区分rは、400画素からなる正方形の領域とした。また、
図10(a)に示す原画像において最高輝度を示した単位区分を、基準区分r1として設定した。
アセトアルデヒドの換算基準濃度は、「飲酒後呼気の不快臭に関与する成分」(著:根来 宏明、におい・かおり環境学会誌 46巻5号 平成27年)に記載の呼気中アセトアルデヒドの濃度(700ng/L)とした。
次いで、
図10(a)に示す原画像4それぞれについて、各単位区分rの輝度を想定濃度に換算した。斯かる換算に前記式(1)を用いた。そして、単位区分rの想定濃度を色情報に換算し、該色情報を反映した第1シミュレーション画像6を作成した〔
図10(b)参照〕。
また、各単位区分rにおける想定濃度を嗅覚強度に換算した。嗅覚強度の尺度は前述したLMSを用い、アセトアルデヒドの気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルに基づいて、単位区分rの想定濃度を嗅覚強度に換算した。そして、単位区分rの嗅覚強度を色情報に換算し、該色情報を反映した第2シミュレーション画像7を作成した〔
図10(c)参照〕。
得られた第1及び第2シミュレーション画像を、放出部と観察対象者Sとを撮像した画像に重ね合わせて示す〔
図10(b)及び(c)参照〕。第1シミュレーション画像には、想定濃度と色情報の関係を表す強度指標(想定濃度の最大値:1864ng/L)を併せて示す〔
図10(b)参照〕。第2シミュレーション画像には、嗅覚強度と色情報の関係を表す強度指標(LMSの最大値:17.2)を併せて示す〔
図10(c)参照〕。本実施例の第1シミュレーション画像及び第2シミュレーション画像は、想定濃度又は嗅覚強度が低いほど黒が濃くなるよう、想定濃度が高いほど白が濃くなるよう、白黒の濃淡で配色されるように設定して作成した。
【0089】
〔実施例2〕
実施例1で用いた動画データについて、再生開始2秒後から5秒後までの映像から1秒間隔でフレーム画像を抽出し、これを原画像4とした。すなわち、再生開始から2秒、3秒、4秒及び5秒の時点のフレーム画像を原画像4として取得した。
これら原画像4それぞれについて、上述した嗅覚強度シミュレーション方法を行った。
目的成分となる臭気成分として、硫化水素及びメチルメルカプタンをそれぞれ設定した。再生開始から2秒、3秒、4秒及び5秒の時点の原画像において最高輝度を示した単位区分を、基準区分r1として設定した。
硫化水素の換算基準濃度は、Tangerman A., Winkel E.G. Intra- and extra-oral halitosis: Finding of a new form of extra-oral blood-borne halitosis caused by dimethyl sulphide. J. Clin. Periodontol. 2007;34:748-755.の文献において、口臭が認められた被験者の呼気に含まれる硫化水素の濃度の平均値(29.4ng/L)とした。
同様に、メチルメルカプタンの換算基準濃度は、前記文献において、口臭が認められた被験者の呼気に含まれるメチルメルカプタンの濃度の平均値(23.2ng/L)とした。
次いで、再生開始から2秒、3秒、4秒及び5秒の時点の原画像4それぞれについて、各単位区分rの輝度を想定濃度に換算した。斯かる換算に前記式(1)を用いた。そして、単位区分rの想定濃度を色情報に換算し、該色情報を反映した第1シミュレーション画像6を作成した。
また、各単位区分rにおける想定濃度を嗅覚強度に換算した。嗅覚強度の尺度は前述したLMSを用い、硫化水素又はメチルメルカプタンの気相濃度-嗅覚強度の曲線モデルに基づいて、単位区分rの想定濃度を嗅覚強度に換算した。そして、単位区分rの嗅覚強度を色情報に換算し、該色情報を反映した第2シミュレーション画像7を作成した。本実施例の第1シミュレーション画像を
図11に、また第2シミュレーション画像を
図12に示す。本実施例の第1シミュレーション画像及び第2シミュレーション画像は、想定濃度又は嗅覚強度が低いほど黒が濃くなるよう、想定濃度が高いほど白が濃くなるよう、白黒の濃淡で配色されるように設定して作成した。
図11では、硫化水素及びメチルメルカプタンの各第1シミュレーション画像について、想定濃度と色情報の関係を表す強度指標(想定濃度の最大値:50ng/L)のスケールを同じにして示している。また、
図12では、硫化水素及びメチルメルカプタンの各第2シミュレーション画像について、嗅覚強度と色情報の関係を表す強度指標(嗅覚強度の最大値:17.2)のスケールを同じにして示している。
【0090】
図10(b)に示す第1シミュレーション画像より、放出直後及び到達時における拡散したアセトアルデヒドの濃度分布を、実際に想定し得る濃度で把握することができる。また、
図10(c)に示す第2シミュレーション画像より、拡散状態のアセトアルデヒドのにおいの感覚強度の分布も把握することができる。
図10(c)に示す第2シミュレーション画像によれば、観察対象者Sの鼻に、アセトアルデヒドが知覚可能な状態で到達することがシミュレートされている。
また、
図11及び
図12に示すシミュレーション画像より、異なる臭気成分についての拡散状態における濃度分布や、においの感覚強度の分布を把握することができる。例えば、硫化水素及びメチルメルカプタンの第1シミュレーション画像では、濃度分布に大きな差が見られないが(
図11参照)、第2シミュレーション画像では、硫化水素のにおいの感覚強度が低い分布で示される一方、メチルメルカプタンのにおいの感覚強度は高い分布で示されている。斯かる結果から、硫化水素よりもメチルメルカプタンの方が、呼気の拡散動態において口臭に大きく寄与していることを視覚的に把握することができる。
このように、本発明のシミュレーション方法は、空間における臭気成分の拡散動態を高精度に把握できることが示された。
【符号の説明】
【0091】
3 混合気体
4 原画像
5 画素パラメータ画像
6 第1シミュレーション画像
7 第2シミュレーション画像
10 放出装置
11 収容部
12 収容本体
13 収容袋
14 圧力変動部
15 流量コントローラー
17 ポンプ
20 放出部
21 放出口
22 導入口
25 流路
26 第1流路
27 第2流路
28 管
30 シミュレーション装置
31 撮像装置
32 本体処理部
33 通信部
34 記憶部
35 シミュレーション処理部
36 画像変換部
37 想定濃度換算部
38 嗅覚強度換算部
39 シミュレーション画像作成部
P1,P2 情報端末
r 単位区分
r1 基準区分