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特許7702326加工コスト見積方法及び加工コスト見積システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】加工コスト見積方法及び加工コスト見積システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20250626BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20250626BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20250626BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G05B19/418 Z
G06F30/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021159104
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049397
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2024-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【弁理士】
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】白木 翔平
(72)【発明者】
【氏名】河口 浩二
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-071910(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043926(WO,A1)
【文献】特開2007-087295(JP,A)
【文献】特開2006-350720(JP,A)
【文献】特開2001-344292(JP,A)
【文献】特開2006-079205(JP,A)
【文献】特開2013-218652(JP,A)
【文献】特開2003-316830(JP,A)
【文献】特開2012-203753(JP,A)
【文献】特開平08-166979(JP,A)
【文献】特開平08-161378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の初期設計形状を示す初期設計データに基づいて初期設計材質からなる材料を加工し、前記初期設計形状の製品を生成するときの加工コストを算出する算出工程と、
前記算出工程により算出された加工コストと目標コストとを比較する比較工程と、
前記比較工程により前記加工コストが前記目標コストを超えた場合、前記初期設計形状を変更する変更工程と、
前記変更工程による変更後の形状の製品を生成するときの加工コストを前記算出工程により算出し、算出した加工コストが前記目標コスト内に収まるまで前記変更工程を繰り返す繰り返し工程と、
前記繰り返し工程により前記加工コストが前記目標コスト内に収まったときの前記変更後の形状を複数、前記加工コストと共に提示する提示工程と、
を含む加工コスト見積方法であって、
前記初期設計形状は、複数の部分形状により構成され、
前記変更工程による変更対象の形状は、前記複数の部分形状のうちの一部又は全部であり、
前記複数の部分形状には優先順位を付けることができ、
前記複数の部分形状に前記優先順位が付けられているときには、前記変更工程では、前記優先順位に従って前記初期設計形状を構成する前記複数の部分形状のうちの一部又は全部を変更し、
前記加工コスト見積方法はさらに、
前記加工コストが前記目標コストを超えた金額に応じて、前記複数の部分形状に付けられた前記優先順位を更新する更新工程を含
工コスト見積方法。
【請求項2】
前記複数の部分形状のそれぞれには、前記変更工程による変更の可否を対応付けることができ、
前記変更工程では、前記変更の否が対応付けられた部分形状については変更しない、
請求項に記載の加工コスト見積方法。
【請求項3】
前記変更工程による変更対象には、前記製品の角R、穴の数、穴の大きさ、材質、公差、表面処理、熱処理及び表面粗さが含まれる、
請求項1又は2に記載の加工コスト見積方法。
【請求項4】
前記算出工程では、前記初期設計材質を他の材質に変更したときの加工コストを算出し、
前記提示工程では、前記他の材質に変更する前及び後の前記加工コストを提示する、
請求項1~のいずれか1項に記載の加工コスト見積方法。
【請求項5】
製品の初期設計形状を示す初期設計データを記憶するメモリと、
ディスプレイと、
前記メモリに記憶された前記初期設計データに基づいて初期設計材質からなる材料を加工し、前記初期設計形状の製品を生成するときの加工コストを算出する算出処理と、前記算出処理により算出された加工コストと目標コストとを比較する比較処理と、前記比較処理により前記加工コストが前記目標コストを超えた場合、前記初期設計形状を変更する変更処理と、前記変更処理による変更後の形状の製品を生成するときの加工コストを前記算出処理により算出し、算出した加工コストが前記目標コスト内に収まるまで前記変更処理を繰り返す繰り返し処理と、前記繰り返し処理により前記加工コストが前記目標コスト内に収まったときの前記変更後の形状を複数、前記加工コストと共に前記ディスプレイに表示する表示処理と、を実行するコントローラと、
を備え、
前記初期設計形状は、複数の部分形状により構成され、
前記変更処理による変更対象の形状は、前記複数の部分形状のうちの一部又は全部であり、
前記複数の部分形状には優先順位を付けることができ、
前記複数の部分形状に前記優先順位が付けられているときには、前記変更処理では、前記優先順位に従って前記初期設計形状を構成する前記複数の部分形状のうちの一部又は全部を変更し、
前記コントローラはさらに、
前記加工コストが前記目標コストを超えた金額に応じて、前記複数の部分形状に付けられた前記優先順位を更新する更新処理を実行する、
加工コスト見積システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料を加工し、設計形状の製品を生成するときの加工コストを見積もる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、少ない試行回数で見積結果をユーザの希望価格又は希望納期の範囲内に近づけるようにした自動見積方法が記載されている。より具体的には、特許文献1に記載の自動見積方法では、アイテム群価格・納期決定工程でアイテム群の価格又は納期が決定された後に、報知工程で複数のアイテムのうち少なくとも1つについての製造条件が報知される。そして、報知される製造条件は、その製造条件を変更した場合に決定されるアイテム群の価格又は納期がその製造条件を変更する前に決定されたアイテム群の価格又は納期よりも希望価格又は希望納期に近くなるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-3698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の自動見積方法では、報知される製造条件は、ユーザの希望価格により近い価格のアイテム群を決定するものであり、設計形状をより価格の低い形状に変更することは考慮されていない。
【0005】
本開示は、材料を加工し、初期設計形状の製品を生成するときの加工コストが目標コストを超えた場合、目標コスト内に収まるように初期設計形状を変更し、変更後の形状を複数提示することが可能となる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の加工コスト見積方法は、製品の初期設計形状を示す初期設計データに基づいて初期設計材質からなる材料を加工し、初期設計形状の製品を生成するときの加工コストを算出する算出工程と、算出工程により算出された加工コストと目標コストとを比較する比較工程と、比較工程により加工コストが目標コストを超えた場合、初期設計形状を変更する変更工程と、変更工程による変更後の形状の製品を生成するときの加工コストを算出工程により算出し、算出した加工コストが目標コスト内に収まるまで変更工程を繰り返す繰り返し工程と、繰り返し工程により加工コストが目標コスト内に収まったときの変更後の形状を複数、加工コストと共に提示する提示工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、材料を加工し、初期設計形状の製品を生成するときの加工コストが目標コストを超えた場合、目標コスト内に収まるように初期設計形状を変更し、変更後の形状を複数提示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施の形態に係る加工コスト見積方法を実現するPCの制御構成を示すブロック図である。
図2】加工コスト見積もり処理の手順を示すフローチャートである。
図3】初期設計形状の製品の一例を示す正面図((a))、平面図((b))及び側面図((c))である。
図4図3の初期設計形状の一部を加工する様子を示す平面図((a))、斜視図((b))及び断面図((c))である。
図5図4の初期設計形状の一部を他の形状に変更し、変更後の形状を加工する様子を示す平面図((a))、斜視図((b))及び断面図((c))である。
図6図3の初期設計形状とは異なる他の初期設計形状の一部を加工する様子を示す斜視図((a))及びその一部を他の形状に変更し、変更後の形状を加工する様子を示す斜視図((b))である。
図7図3及び図6の初期設計形状とはさらに異なる他の初期設計形状の一部を示す斜視図((a))及びその一部を図6(a)に示す工具で加工したときの表面粗さの様子を示す図((b),(c))である。
図8】タップ規格に応じた穴開け加工時間の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本開示の一実施の形態に係る加工コスト見積方法を実現するPC1の制御構成を示している。
【0010】
PC1は、ユーザIF10、ディスプレイ20、CPU30、メモリ40及び通信IF50を備えている。そして、ユーザIF10、ディスプレイ20、CPU30、メモリ40及び通信IF50は、バス60を介して相互に接続されている。なお、IFは、interfaceの略語である。
【0011】
ユーザIF10は、典型的には、キーボードとマウスにより構成される。
【0012】
ディスプレイ20は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、表示装置を駆動する駆動回路などにより構成されている。ディスプレイ20として、タッチパネル方式のものを用いた場合には、ユーザは、画面上の入力ボタンをタッチ操作することで、入力操作をすることができる。したがって、この場合には、ディスプレイ20は、ユーザIF10としての役割も果たすことになる。
【0013】
CPU30は、図2を用いて後述する加工コスト見積もり処理のプログラムを含む各種アプリケーションプログラム(以下「アプリ」と略す)やファームウェア等を実行する。
【0014】
メモリ40は、ROM、RAM、HDD、SSD及び光ディスクドライブなどを含んでいる。メモリ40のデータ記憶領域40aは、CPU30が加工コスト見積もり処理のプログラムなどを実行する際に必要なデータなどを記憶する領域である。また、メモリ40の制御プログラム領域40bは、OS、情報処理プログラム、その他各種のアプリやファームウェアなどを記憶する領域である。
【0015】
通信IF50は、PC1を通信ネットワーク(図示せず)に接続するものである。通信ネットワークとしては、例えば、有線又は無線LAN、WAN、USB、Bluetooth(登録商標)、NFCのネットワークなどを挙げることができる。したがって、加工コスト見積もり処理のプログラムがメモリ40に記憶されていないときには、通信IF50を介して、例えば外部のサーバ(図示せず)からダウンロードすることができる。
【0016】
図2は、PC1、特にCPU30が実行する加工コスト見積もり処理の手順を示している。加工コスト見積もり処理は、工作機械を用いて初期設計材料からなる材料を切削加工し、初期設計形状の製品を生成するときの加工コストを算出し、算出した加工コストが目標コストを超えた場合、加工コストが目標コストに収まるように初期設計形状を変更し、変更後の設計形状を複数表示するものである。加工コスト見積もり処理は、PC1のユー
ザが、例えばユーザIF10から加工コスト見積もり処理の起動開始を指示したことに応じて開始される。なお、以降、各処理の手順の説明において、ステップを「S」と表記する。
【0017】
図2において、まずCPU30は、製品の初期設計データを読み込む(S10)。初期設計データは、製品の初期設計形状を示す三次元データである。例えば、読み込み可能な初期設計データが上記サーバに複数個記憶されている場合には、その複数個の初期設計データの各名称をディスプレイ20に表示し、その中からユーザIF10を介していずれかの名称が選択されると、CPU30は、その名称の初期設計データをサーバからダウンロードしてメモリ40に読み込むようにすればよい。読み込んだ初期設計データは、例えば、メモリ40のワーク領域(図示せず)に記憶される。
【0018】
図3は、読み込んだ3次元の初期設計データを2次元の図面で表現したものであり、図3(a)~図3(c)はそれぞれ、正面図、平面図及び側面図を示している。この初期設計データは、製品である金属ブロック100の初期設計形状を示し、初期設計材質からなる材料、例えばアルミの角棒を切削加工して生成する製品の初期設計形状を示している。なお、図3において方向に言及する場合には、図中に示される矢印の方向を用いるものとする。この事情は、図4及び図5についても同様である。
【0019】
金属ブロック100は、角棒を切断して生成したワークをフライス加工することにより生成される。金属ブロック100を構成する形状としては、主として、切欠き100d、溝100c、キリ穴100b及びネジ穴100a,100eが挙げられる。
【0020】
切欠き100dは、スクエアエンドミルを用いて生成される。図4は、スクエアエンドミル200を用いて切欠き100dを生成する様子を示している。図4(a)は、その平面図を示し、図4(b)は、その斜視図を示し、図4(c)は、図4(a)のA-A断面図を示している。切欠き100dは、平面視U字状をなしているので、2つのコーナー100d1の角Rの大きさに応じた外径φaのスクエアエンドミル200を用いる必要がある。溝100cも、スクエアエンドミルを用いて生成されるが、溝100cの幅、図3(c)では上下方向の幅の大きさに応じた外径のスクエアエンドミルが用いられる。
【0021】
キリ穴100bは、その径に応じた直径のドリルを用いて生成される。ネジ穴100a,100eは、その径に応じた外径のタップを用いて生成される。
【0022】
図2に戻り、CPU30は、加工情報の受付を行う(S12)。加工情報とは、具体的には、金属ブロック100を構成する各形状をどの工具を用いてどう加工するかを示す情報である。この情報の入力は、例えば、読み込んだ初期設計データに基づいて金属ブロック100の三次元形状をディスプレイ20に表示し、ユーザが金属ブロック100を構成する各形状を1つずつ指定しながら、その形状を加工するために用いる工具と工程を決定することにより行うことが考えられる。この他に、各形状のそれぞれについてその形状を加工するために用いる工具と工程を予め決定しておき、テーブルデータとして、初期設計データに対応付けて、例えばメモリ40や外部のサーバに記憶しておいたものを読み出して受け付けるようにしてもよい。受け付けた加工情報は、上記S10で読み込んだ初期設計データと同様に、メモリ40の上記ワーク領域に記憶される。
【0023】
次にCPU30は、拘束形状の受付を行う(S14)。拘束形状とは、後述するS24の形状変更を行わない形状のことである。金属ブロック100を構成する各形状はそれぞれ、S24の形状変更により形状変更しても良いか否かを指定できるようになっている。つまり、拘束形状は、S24の形状変更による形状変更の禁止が指定されている形状を意味する。形状変更の許可/禁止の指定は、上記加工情報の入力と同様に、ユーザが各形状
を1つずつ指定しながら、各形状について形状変更の許可/禁止を指定するようにしてもよいし、各形状のそれぞれについてその形状変更の許可/禁止を予め指定しておき、テーブルデータとして、初期設計データに対応付けてメモリ40や外部のサーバに記憶しておいてもよい。受け付けた拘束形状は、メモリ40の上記ワーク領域に記憶される。
【0024】
次にCPU30は、変更項目の優先順位付けを行う(S16)。優先順位付けの情報も、メモリ40の上記ワーク領域に記憶される。S24の形状変更では、後述するように、複数の変更項目から1つずつ変更項目を選択し、選択した変更項目について形状変更を行うようにしている。変更項目の優先順位付けとは、各変更項目に対して、選択する優先順位を付けることである。変更項目の優先順位付けも、上記形状変更の許可/禁止の指定や上記加工情報の入力と同様に、ユーザが各変更項目を1つずつ指定しながら、各変更項目に優先順位を付けて行くようにしてもよいし、各変更項目のそれぞれについて優先順位を予め決定しておき、テーブルデータとして、初期設計データに対応付けてメモリ40や外部のサーバに記憶しておいてもよい。
【0025】
次にCPU30は、目標コストの受付を行う(S18)。目標コストの受付は、ユーザがユーザIF10から入力したものをそのまま受け付ければよい。受け付けた目標コストは、メモリ40の上記ワーク領域に記憶される。
【0026】
次にCPU30は、加工コストの算出を行う(S20)。加工コストは、ワークを切削加工した時間に応じた費用、ワークの材料費、及び金属ブロック100の表面処理や熱処理にかかる費用などを合算して算出する。S24の形状変更が1回もなされていないときには、CPU30は、上記S10で読み込んだ初期設計データと上記S12で受け付けた加工情報に基づいて加工コストを算出する。
【0027】
次にCPU30は、上記S18で受け付けた目標コストと上記S20で算出した加工コストとを比較し(S22)、加工コストが目標コストを超えている場合(S22:NO)、CPU30は、形状変更を行う(S24)。形状変更を行う変更項目には、本実施形態では、角R、穴の数、材質、公差、表面処理、熱処理及び表面粗さの7つの変更項目がある。そして、各変更項目には、上述のように優先順位が付けられている。今、この順序で1~7の優先順位が付けられているとすると、まずCPU30は、変更項目として角Rを選択する。角Rは、製品の形状に含まれるコーナー部、つまり、金属ブロック100では上記2つのコーナー100d1(図3参照)の角Rを示している。そして、CPU30は、角Rの大きさをより大きく変更する。
【0028】
図5は、2つのコーナー100d1(図4参照)の角Rの大きさをより大きく変更したときの切欠き110dを生成する様子を示している。図5(a)は、その平面図を示し、図5(b)は、その斜視図を示し、図5(c)は、図5(a)のA-A断面図を示している。図5に示すように、切欠き110dを構成する2つのコーナー110d1の角Rの大きさは、2つのコーナー100d1の角Rの大きさより大きくなっている。このように角Rの大きさを変更するのは、使用するスクエアエンドミル210をより外径の大きなもの、図5では外径φbに変更するためである。同じ種類のスクエアエンドミルでは、外径が大きいほど工具としての剛性がより高いので、ワークへの切込み長を長くすることができる。図4(c)と図5(c)とを比較すれば分かるように、スクエアエンドミル210の切込み長は、スクエアエンドミル200の切込み長より長くなっている。このように切込み長を長くすると、切欠き110dを生成する時間が切欠き100dを生成する時間より短くなる。その結果、ワークの切削加工時間が短縮され、加工コストを減額することができる。
【0029】
次にCPU30は、変更項目として穴の数を選択する。穴は、製品に含まれる穴、つま
り、金属ブロック100では上記キリ穴100b及びネジ穴100a,100eである。そして、CPU30は、穴の数を少なくする方に変更する。上述のように、キリ穴100bは、ドリルを用いて生成され、ネジ穴100a,100eは、タップを用いて生成される。キリ穴100bもネジ穴100a,100eも、穴を開けるための加工時間がかかるので、穴の数が少なくなれば、その分の加工時間が短縮され、加工コストを減額することができる。なお、変更項目として穴の数ではなく、穴の径の大きさを用いるようにしてもよい。また、穴の数も径も両方変更できるようにしてもよい。
【0030】
図8は、タップ規格に応じた穴開け加工時間の一例を示している。図8中、タップ規格Mn(n=3,4,5,6,8,10)の“n”は、ネジの外径(mm)を示している。図8に示すように、同じ加工範囲では、螺着されるネジの外径がより大きくなるネジ穴を開けるタップを用いた方が加工時間が短縮される。したがって、ネジ穴の径の大きさを変更することにより、加工コストを減額することができる。この事情は、キリ穴についても同様である。
【0031】
次にCPU30は、変更項目として材質を選択する。材質は、ワークの材質である。そして、CPU30は、材質をその値段がより安いものに変更する。あるは、加工時間が短縮されるようにより柔らかい材質に変更するようにしてもよい。これにより、加工コストを減額することができる。
【0032】
以下同様に、CPU30は、公差、表面処理、熱処理及び表面粗さの各変更項目を順に選択して、加工コストが減額されるように変更する。表面処理の具体例としては、塗装、メッキ処理、アルマイト処理、ショットブラスト処理などを挙げることができる。
【0033】
図6(a)は、上記S10で読み込んだ初期設計データとは異なる初期設計データにより示される初期設計形状の一部をポケット加工する様子を示している。図6(b)は、その一部を他の形状に変更し、変更後の形状をポケット加工する様子を示している。
【0034】
図6(a)の製品120には、初期設計データでは横断面が矩形状の穴120aが形成されている。そして、穴120aの底面の端部120a1は凹状のR加工を施すようになっている。このような形状の穴120aを形成するために使用する工具は、例えば、ボールエンドミル300である。ボールエンドミル300は、刃部300bの先端300b1が球面形状になっているエンドミルである。ボールエンドミル300を用いることにより、端部120a1にR加工を施すことができるが、ポケット加工の効率が悪い。
【0035】
これに対して、図6(b)の製品130にように、穴120aと横断面が矩形状であることは異ならないが、その底面の端部にR加工が施されない穴130aに変更すれば、そのポケット加工を、刃部220bの先端が平坦であるスクエアエンドミル220を用いて行うことができる。スクエアエンドミル220によるポケット加工は、ボールエンドミル300によるポケット加工に対して加工効率が良いので、ポケット加工の加工時間が短縮され、これにより加工コストが減額される。
【0036】
図7(a)は、上記S10で読み込んだ初期設計データとは異なる初期設計データにより示される製品140の初期設計形状の一部140aを示している。この一部の形状140aは、凸状のR形状である。形状140aを加工するために用いる工具としては、例えば、フォームド刃と呼ばれる特殊な形状の刃を備えたエンドミルがある。しかし、加工できるR形状は限られているので、このエンドミルを用いてR形状を加工する場合には、形状140aとは若干R形状が異なるものになることがある。つまり、形状140aのR形状に近い加工ができるエンドミルを選択して用いることになる。
【0037】
図7(b)及び図7(c)は、形状140aを上記図6(a)に示したボールエンドミル300で加工する様子を示している。そして、図7(b)と図7(c)との違いは、加工後の表面粗さの違いである。表面粗さが荒いほど、ボールエンドミル300による加工時間が短縮化されるので、これにより加工コストは低減化される。
【0038】
このようにして、CPU30は、優先順位に従って変更項目を選択し、選択した変更項目に属するもので変更可能な形状が製品に含まれている場合、加工コストが減額するような形状に変更する。但し、CPU30は、メモリ40の上記ワーク領域に記憶されている上記拘束形状を参照し、形状変更の禁止が指定されている形状の変更は行わない。また、優先順位は、上記S16で順位付けた優先順位から変更するようにしてもよい。例えば、上記S22の比較により、加工コストが目標コストを大幅に超えた場合には、加工コストの減額幅の大きい変更項目が早く選択されるように、その優先順位を上げるようすることが考えられる。
【0039】
CPU30は、形状変更後、処理を上記S20に戻し、形状変更後の製品について加工コストを算出する。ここで、CPU30が処理をS24からS20に戻すタイミングであるが、1つの変更項目を選択し、その変更項目に対して形状変更を行う毎であってもよいし、選択可能な変更項目のうちの2つ以上の変更項目に対して形状変更を行う毎であってもよい。
【0040】
次にCPU30は、目標コストと算出した加工コストとを比較し、加工コストが目標コスト内に収まっている場合(S22:YES)、CPU30は、変更後の形状と加工コストをディスプレイ20に表示する。変更後の形状は、例えば、3次元画像で表示すればよいが、2次元画像で表示するようにしてもよい。このとき、変更した形状が分かるように、変更した形状の色を変えたり、強調表示したりすることが好ましい。また、変更前の形状も、変更後の形状に対応付けて表示するようにしてもよい。さらに、加工コストを表示するときに、形状変更により減額された金額も併せて表示することが好ましい。さらに、キリ穴やネジ穴については1箇所当たりの加工費を表示させ、穴の数や径を変更したときに減額された金額も表示する。また、表面粗さや公差についても、指定された値とそれよりも粗く又は緩く変更したときに減額された金額も表示する。さらに、材質についても、より単価の安い素材で製品を製作したときの材料費を表示する。
【0041】
次にCPU30は、S26の処理を所定回数繰り返したか否かを判断し(S28)、まだ所定回数繰り返していない場合(S28:NO)、CPU30は、処理を上記S24に進め、再度形状変更を行う。このとき、再度の形状変更によりその前の形状変更と同じ結果が得られないように、CPU30は、形状変更の条件を変更した後、処理をS24に戻す。形状変更の条件は、例えば、既に選択した変更項目は選択しないようにするという条件や、同じ変更項目を選択したときには、その変更項目で既に変更した領域の形状を除外して、他の領域の形状を変更するという条件などを挙げることができる。
【0042】
そして、S26の処理を所定回数繰り返した場合(S28:YES)、CPU30は、加工コスト見積もり処理を終了する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の加工コスト見積もり処理は、製品の初期設計形状を示す三次元データに基づいて初期設計材質からなる材料を切削加工し、初期設計形状の製品を生成するときの加工コストを算出する算出処理と(S20)、算出処理により算出された加工コストと目標コストとを比較する比較処理と(S22)、比較処理により加工コストが目標コストを超えた場合、初期設計形状を変更する変更処理と(S24)、変更処理による変更後の形状の製品を生成するときの加工コストを算出処理により算出し、算出した加工コストが目標コスト内に収まるまで変更処理を繰り返す繰り返し処理と(S22
:NO)、繰り返し処理により加工コストが目標コスト内に収まったときの変更後の形状を複数、加工コストと共にディスプレイ20に表示する表示処理と(S26,S28)、を含む。
【0044】
このように、本実施形態の加工コスト見積もり処理では、加工コストが目標コストを超えた場合、初期設計形状を変更し、加工コストが目標コスト内に収まるまで設計形状の変更を繰り返し、加工コストが目標コスト内に収まったときの変更後の形状を複数、加工コストと共にディスプレイ20に表示するようにしたので、ユーザは表示された複数の変更後の形状と加工コストの中から、ユーザの意図に合う変更後の形状を選択することができる。これにより、従来、加工コストが目標コストに収まるように、ユーザの感覚で形状変更を繰り返し、これにより時間を費やしていた形状変更を迅速に行うことができるようになり、効率よく形状変更を行うことが可能となる。
【0045】
ちなみに、本実施形態において、三次元データは、「初期設計データ」の一例である。切削加工は、「加工」の一例である。ディスプレイ20に表示は、「提示」の一例である。
【0046】
また、初期設計形状は、複数の部分形状により構成され、変更処理による変更対象の形状は、複数の部分形状のうちの一部又は全部である。これにより、形状変更をより細かく行うことができる。
【0047】
また、複数の部分形状には優先順位を付けることができ、複数の部分形状に優先順位が付けられているときには、変更処理では、優先順位に従って初期設計形状を構成する複数の部分形状のうちの一部又は全部を変更する。これにより、優先順位に応じた形状変更がなされ、ユーザの形状変更の意図に近い形状に変更されたものが、複数表示されることになる。
【0048】
また、加工コストが目標コストを超えた金額に応じて、複数の部分形状に付けられた優先順位を更新する更新処理をさらに含む。これにより、少ない繰り返し回数で、加工コストが目標コスト内に収まったときの変更後の形状を複数表示することができる。
【0049】
また、複数の部分形状のそれぞれには、変更処理による変更の可否を対応付けることができ、変更処理では、変更の否が対応付けられた部分形状については変更しない。これにより、形状変更ができない部分形状を除外して形状変更を行うことができるので、柔軟な形状変更を行うことが可能となる。
【0050】
また、算出処理では、初期設計材質を他の材質に変更したときの加工コストを算出し、表示処理では、他の材質に変更する前及び後の加工コストを表示する。これにより、ユーザは材質を変更したときの加工コストの減額の程度を知ることができる。
【0051】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものでなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0052】
(1)上記実施形態では、初期設計データの一例として、三次元データを挙げたが、これに限らず、二次元データであってもよく、本開示の方法を同様に適用することができる。
【0053】
(2)上記実施形態では、加工の一例として、切削加工を挙げたが、これに限らず、板金加工や研削加工などの他の加工態様にも、本開示の方法を同様に適用することができる。
【0054】
(3)上記実施形態では、提示の一例として、ディスプレイ20に表示することを挙げたが、これに限らず、音声でユーザに知らせるようにしてもよい。また、ディスプレイ20に表示することに加えて、音声で知らせるようにしてもよい。
【0055】
(4)上記実施形態では、加工コスト見積もり処理をPC1により実行するようにしたが、これに限らず、製品を生成する工作機械により実行するようにしてもよい。その場合、ユーザIF10、ディスプレイ20及びメモリ40がそれぞれ別体で設けられることもある。
【符号の説明】
【0056】
1…PC、10…ユーザIF、20…ディスプレイ、30…CPU、40…メモリ、50…通信IF、100…金属ブロック、100a,100e…ネジ穴、100b…キリ穴、100c…溝、100d…切欠き、100d1…コーナー、200…スクエアエンドミル、300…ボールエンドミル。
図1
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図8