(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20250626BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20250626BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20250626BHJP
B60C 9/28 20060101ALI20250626BHJP
B60C 11/01 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
B60C9/18 M
B60C9/18 G
B60C9/20 L
B60C9/08 E
B60C9/08 N
B60C9/28 Z
B60C11/01 A
(21)【出願番号】P 2021210405
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2024-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】甲藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 耕平
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-074279(JP,A)
【文献】特開2010-006125(JP,A)
【文献】特開2021-138312(JP,A)
【文献】特開平04-283108(JP,A)
【文献】特開平06-143922(JP,A)
【文献】特開2009-179147(JP,A)
【文献】特開2018-008664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重荷重用空気入りタイヤであって、
路面に接するトレッド部と、
前記トレッド部に連なり、前記トレッド部のタイヤ径方向の内側に位置するタイヤサイド部と、
前記タイヤサイド部に連なり、前記タイヤサイド部の前記タイヤ径方向の内側に位置するビード部と、
前記トレッド部から前記タイヤサイド部を経て前記ビード部に至り、タイヤの骨格を形成するカーカスプライと、
前記トレッド部に配置され、前記カーカスプライの前記タイヤ径方向の外側に位置するベルト層と、を備え、
前記カーカスプライは、
タイヤ赤道線を含む第1部位と、前記第1部位のタイヤ幅方向の外側且つ前記タイヤ径方向の内側に配置され前記第1部位の曲率よりも前記タイヤ幅方向及び前記タイヤ径方向に沿った断面における曲率が大きい第2部位と、の境界である第1曲率変化部と、
前記第2部位と、前記第2部位の前記タイヤ径方向の内側に配置され前記第2部位の曲率よりも前記断面における曲率が小さい第3部位と、の境界である第2曲率変化部と、
を有し、
前記タイヤ幅方向の内側端が前記第1曲率変化部に位置して前記カーカスプライと前記ベルト層との間に配置されるクッションゴムをさらに備えており、
正規リムに装着されて正規内圧が充填された無負荷の状態における前記重荷重用空気入りタイヤの前記断面において、前記タイヤ赤道線から前記第1曲率変化部までの前記タイヤ幅方向の距離をW1、前記タイヤ赤道線から前記第2曲率変化部までの前記タイヤ幅方向の距離をW2、前記タイヤ赤道線から前記トレッド部のトレッド端までの前記タイヤ幅方向の距離をTWとした場合に、前記カーカスプライの断面形状が関係式0.5≦W1/TW≦0.8および関係式W1/TW<W2/TW<1を満たす、重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ赤道線の位置における前記カーカスプライの前記タイヤ径方向の高さ位置から前記第1曲率変化部の前記タイヤ径方向の高さ位置までの前記タイヤ径方向の距離をa1、前記タイヤ赤道線の位置における前記カーカスプライの前記タイヤ径方向の高さ位置から前記第2曲率変化部の前記タイヤ径方向の高さ位置までの前記タイヤ径方向の距離をa2とした場合に、関係式a1/W1≦0.06<a2/W2≦0.15を満たす、請求項
1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド部と前記タイヤサイド部とが連なるショルダー領域におけるタイヤ表面には、前記タイヤ表面から前記タイヤ幅方向の外側に突出しタイヤ周方向に延びる複数の突起が設けられており、
前記複数の突起が、タイヤ径方向外側端に位置する第1突起と、前記第1突起に隣り合う第2突起とを備え、
前記断面において、前記第1曲率変化部と前記第2曲率変化部との間に位置する前記カーカスプライの曲率半径R2、および前記第2曲率変化部と、前記第1突起のタイヤ径方向位置と前記第2突起のタイヤ径方向位置との中点となるタイヤ径方向位置に配置された前記カーカスプライの部位との間に位置する前記カーカスプライの曲率半径R3が、関係式R2/R3≦0.5を満たす、請求項
1または請求項
2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ幅方向で曲率が変化する2つの曲率変化部を有するカーカスプライと、ベルト層とカーカスプライとの間に配置されるクッションゴムとを備える重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気入りタイヤとして、タイヤの接地面形状を適正化することでショルダー部分におけるタイヤ転動時の路面に対するすべりが抑制されて耐偏摩耗性能を向上し得る、とされるタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような空気入りタイヤでは、接地面形状の変動を抑制するために、タイヤの周方向接地長を基にした条件を規定することで、トレッド端あるいはショルダー部における早期偏摩耗を防止できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、タイヤの走行距離が延びることに伴い接地面形状が変動(走行成長と呼んでもよい、以下同)した後のタイヤの周方向接地長が適正化されるようにすることでショルダー端における接地圧を確保した場合、耐偏摩耗性能は向上し得るが、ショルダー部におけるゴム層の厚さが増すため、タイヤ転動時に発生するショルダー部における発熱量が増大してショルダー部の熱劣化が進み、タイヤの耐久性が低下する恐れがあった。
【0006】
本発明は、タイヤの走行距離が延びることに伴う接地面形状の変動後の耐偏摩耗性能を向上させつつ、ゴム層の発熱によるタイヤの耐久性低下を抑制し得る重荷重用空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤは、路面に接するトレッド部と、前記トレッド部に連なり、前記トレッド部のタイヤ径方向の内側に位置するタイヤサイド部と、前記タイヤサイド部に連なり、前記タイヤサイド部の前記タイヤ径方向の内側に位置するビード部と、前記トレッド部から前記タイヤサイド部を経て前記ビード部に至り、タイヤの骨格を形成するカーカスプライと、前記トレッド部に配置され、前記カーカスプライの前記タイヤ径方向の外側に位置するベルト層と、を備える。前記カーカスプライは、タイヤ赤道線を含む第1部位と、前記第1部位のタイヤ幅方向の外側且つ前記タイヤ径方向の内側に配置され前記第1部位の曲率よりも前記タイヤ幅方向及び前記タイヤ径方向に沿った断面における曲率が大きい第2部位と、の境界である第1曲率変化部と、前記第2部位と、前記第2部位の前記タイヤ径方向の内側に配置され前記第2部位の曲率よりも前記断面における曲率が小さい第3部位と、の境界である第2曲率変化部と、を有する。前記重荷重用空気入りタイヤは、前記タイヤ幅方向の内側端が前記第1曲率変化部に位置して前記カーカスプライと前記ベルト層との間に配置されるクッションゴムをさらに備える。正規リムに装着されて正規内圧が充填された無負荷の状態における前記重荷重用空気入りタイヤの前記断面において、前記タイヤ赤道線から前記第1曲率変化部までの前記タイヤ幅方向の距離をW1、前記タイヤ赤道線から前記第2曲率変化部までの前記タイヤ幅方向の距離をW2、前記タイヤ赤道線から前記トレッド部のトレッド端までの前記タイヤ幅方向の距離をTWとした場合に、前記カーカスプライの断面形状が関係式0.5≦W1/TW≦0.8および関係式W1/TW<W2/TW<1を満たす。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、前記カーカスプライの前記第2部位の曲率半径を小さくすることで、トレッド端に隣接するタイヤ幅方向位置における接地圧が低減されてタイヤ幅方向における接地圧が均一化され、走行成長に伴う接地面形状の変動が抑制される。また、ゴム層の厚さを増す必要がないため、タイヤ転動時のショルダー部における発熱によるタイヤの耐久性低下も抑制し得る。さらに、前記第2部位のベルト層とカーカスプライとの間にクッションゴムが配置されるため、トレッド端近傍におけるこの領域のタイヤ幅方向における接地圧がより一層均一化され、偏摩耗を効率よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、重荷重用空気入りタイヤ100のタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0011】
(1)タイヤの全体概略構成
図1は、本実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤ100のタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面図である。なお、
図1は、タイヤ赤道線CLを基準とした一方側のみを示す。重荷重用空気入りタイヤ100の構成は、タイヤ赤道線CLに対して対称な構造であって良い。また、
図1では、断面ハッチングの図示は省略されている(以下同)。
【0012】
トレッド部10には、タイヤに対する要求性能に応じたトレッドパターンが形成される。本実施形態では、タイヤは、特に長距離走行をするトラック・バス(TB)に好適に用い得る重荷重用空気入りタイヤである。
【0013】
なお、重荷重用空気入りタイヤは、必ずしもトラック・バス用ではなく、例えば、バン・小型トラック等の他の車種に用いられても構わない。
【0014】
一実施形態に係る重荷重用空気入りタイヤ100は、路面に接するトレッド部10と、トレッド部10に連なりトレッド部10のタイヤ径方向の内側に位置するタイヤサイド部20と、タイヤサイド部20に連なりタイヤサイド部20のタイヤ径方向の内側に位置するビード部30と、トレッド部10からタイヤサイド部20を経てビード部30に至り、タイヤの骨格を形成するカーカスプライ40と、トレッド部10に配置されカーカスプライ40のタイヤ径方向の外側に位置するベルト層15と、を備える。
【0015】
カーカスプライ40は、
図1に示すように、タイヤ赤道線CLを含む第1部位P0-P1と第1部位P0-P1のタイヤ幅方向の外側かつタイヤ径方向の内側に配置され第1部位P0-P1の曲率よりもタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面における曲率が大きい第2部位P1-P2と、の境界である第1曲率変化部P1と、第2部位P1-P2と第2部位P1-P2のタイヤ径方向の内側に配置され第2部位P1-P2の曲率よりも断面における曲率が小さい第3部位P2-P3と、の境界である第2曲率変化部P2と、を有する。
【0016】
重荷重用空気入りタイヤ100は、さらに、タイヤ幅方向の内側端が第1曲率変化部P1に位置してカーカスプライ40とベルト層15との間に配置されるクッションゴム17aを備える。
【0017】
トレッド部10は、路面(不図示)に接する部分であるトレッド面を有するトレッドゴム11を備える。トレッド面には、重荷重用空気入りタイヤ100の使用環境や装着される車両の種類に応じたパターンが形成される。本実施形態では、
図1に示すように、一例として、タイヤ周方向に延びる周方向溝13がタイヤ赤道線位置CLと、タイヤ赤道線CLからタイヤ幅方向で離れた位置に配置されたパターンが図示されている。
【0018】
タイヤサイド部20は、タイヤサイドゴムを含み、トレッド部10に連なり、トレッド部10のタイヤ径方向内側に位置する。タイヤサイド部20は、トレッド部10の側部、具体的にはタイヤ幅方向外側端から、ビード部30のタイヤ径方向外側端までの領域である。タイヤサイド部20は、サイドウォールなどと呼ばれることもある。
【0019】
トレッド部10とタイヤサイド部20とが連なるショルダー領域には、タイヤ表面からタイヤ幅方向外側に突出し、タイヤ周方向に延びる複数の突起19が設けられる。突起19は断面三角形状を成している。
【0020】
ビード部30は、タイヤサイド部20に連なり、タイヤサイド部20のタイヤ径方向内側に位置する。そして、ビード部30は、ビードコア31とビードフィラー33を備え、円環状に形成されている。ビードフィラー33は、ビードコア31からタイヤ径方向外側に先細になりかつゴム材からなるものである。
【0021】
カーカスプライ40は、重荷重用空気入りタイヤ100の骨格を形成する。カーカスプライ40は、タイヤ径方向に沿って放射状に配置されたカーカスコード(不図示)を有するラジアル構造である。ただし、カーカスプライ40はラジアル構造に限定されず、カーカスコードがタイヤ径方向に交錯するように配置されたバイアス構造であってもよい。本実施形態のカーカスプライ40は、
図1に示すように、トレッド部10からタイヤサイド部20を経てビード部30に至り、ビード部30のビードコア31のまわりでカーカスプライ40がタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返されている。
【0022】
カーカスプライ40のカーカスコードは、スチールコードであってよく、アラミド、ナイロン、レーヨン、ポリエステル等の有機繊維コードからなる複数のプライで構成されてもよい。
【0023】
ベルト層15は、トレッド部10のタイヤ径方向内側に設けられる。なお、ベルト層15は、トレッド部10内で、カーカスプライ40のタイヤ径方向外側に位置する。ベルト層15は、コードが交錯する一対の交錯ベルトと、交錯ベルトのタイヤ径方向外側に設けられる補強ベルトを含む。なお、ベルト層15は、
図1に示すようにタイヤ周方向に沿って複数重ねて形成される。
【0024】
ベルト層15のベルトコードとして、スチールコードの他、アラミド、ナイロン、レーヨン、ポリエステルなどの有機繊維コードを用いることができる。
【0025】
クッションゴム17aは、タイヤ幅方向の内側端が第1曲率変化部P1に位置してカーカスプライ40とベルト層15との間に配置される。
【0026】
本実施形態では、クッションゴム17aのタイヤ幅方向内側端が、カーカスプライ40とベルト層15とのタイヤ径方向距離が広がり始めるタイヤ幅方向位置、即ちカーカスプライ40とベルト層15との曲率に差が生じる境界である第1曲率変化部P1に配置される。
【0027】
そして、クッションゴム17aのタイヤ幅方向外側端が、ベルト層15の最もタイヤ幅方向外側に位置する端部位置か、該端部位置よりもタイヤ幅方向外側に配置される。
【0028】
タイヤ幅方向およびタイヤ径方向に沿った断面におけるクッションゴム17aの断面形状は、
図1に示すように、タイヤ幅方向中央側からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ径方向幅が大きくなる略三角形状になっている。本実施形態では、クッションゴム17aの径方向下端と上端が、それぞれカーカスプライ40とベルト層15とに接している。
【0029】
クッションゴム17aは、例えば軟質な架橋ゴムからなるものでよい。クッションゴム17aは、ベルト層15の端部近傍で生じる応力を吸収することで、ベルト層15の端部を起点とするトレッド部10の損傷を抑制しつつトレッド端TE近傍における偏摩耗を抑制する。クッションゴム17aを構成する軟質な架橋ゴムの弾性率は、1.0~4.5MPaであってよい。
【0030】
トレッド端TEは、トレッド部10が路面と接触する面のタイヤ幅方向における最も外側の位置をいう。トレッド端TEは、例えば、正規内圧に設定された重荷重用空気入りタイヤ100に正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させた状態におけるトレッド部10の接地端を基準としてよい。
【0031】
ここで、正規内圧とは、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のYearBookにおける最大負荷能力に対応する空気圧であり、正規荷重とは、JATMA YearBookにおける最大負荷能力(ロードインデックス)に対応する最大負荷能力(最大荷重)である。また欧州ではETRTO、米国ではTRA、その他各国のタイヤ規格が対応する。
【0032】
また、本実施形態では、タイヤ径方向外側にも第2クッションゴム17bが配置され、ベルト層15のタイヤ幅方向外側端を覆っている。第2クッションゴム17bは、前記ベルト層15のタイヤ幅方向外側端を被覆してタイヤ幅方向外側でタイヤ径方向内側に配置されたクッションゴム17aと接触することで、プライ端の剥離を防止している。
【0033】
重荷重用空気入りタイヤ100は、リムホイールのリムフランジ(不図示)にビード部30が係止されるように組み付けられる。なお、リムホイールに組み付けられることで形成された内部空間には、空気が充填される。ただし、該内部空間に充填される気体は、空気に限らず窒素ガス等の不活性ガスでもよい。
【0034】
(2)カーカスプライのプロファイル
次に、カーカスプライ40のプロファイルについて説明する。
図1に示すように、タイヤ幅方向およびタイヤ径方向に沿った断面において、カーカスプライ40は、赤道線CLからのタイヤ幅方向距離がW1の位置に、タイヤ幅方向内側と外側とでカーカスプライ40の曲率が異なる第1曲率変化部P1を有する。さらに、第1曲率変化部P1とトレッド部10のトレッド端TEとの間に位置する赤道線CLからのタイヤ幅方向距離がW2の位置に、タイヤ幅方向内側と外側でカーカスプライ40の曲率が異なる第2曲率変化部P2を有する。
【0035】
即ち、カーカスプライ40は、
図1に示すように、カーカスプライ40のタイヤ赤道線CL上のタイヤ幅方向位置の点をP0とすると、タイヤ赤道線CLを含む第1部位P0-P1と、第1部位P0-P1のタイヤ幅方向の外側かつタイヤ径方向の内側に配置され第1部位P0-P1の曲率よりもタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面における曲率が大きい第2部位P1-P2と、の境界である第1曲率変化部P1を有する。即ち、第1部位P0-P1における曲率半径R1は、第2部位P1-P2における曲率半径R2よりも大きくなっており、カーカスプライ40は、第1曲率変化部P1を境にタイヤ幅方向外側が大きく湾曲している。
【0036】
さらに、第2部位P1-P2と、第2部位P1-P2のタイヤ径方向の内側に配置され第2部位P1-P2の曲率よりも断面における曲率が小さい第3部位P2-P3と、の境界である第2曲率変化部P2を有する。即ち、第2部位P1-P2における曲率半径R2は、第3部位P2-P3における曲率半径R3よりも小さくなっており、カーカスプライ40は、第2曲率変化部P2を境にタイヤ径方向内側における湾曲が小さくなっている。
【0037】
正規リム(不図示)に装着され正規内圧が充填されて無負荷の状態にある重荷重用空気入りタイヤ100のタイヤ幅方向およびタイヤ径方向に沿った断面において、カーカスプライ40の断面形状は、関係式1:0.5≦W1/TW≦0.8および関係式2:W1/TW<W2/TW<1を満たしてよい。ここで、W1はタイヤ赤道線CLから第1曲率変化部P1までのタイヤ幅方向距離であり、W2はタイヤ赤道線CLから第2曲率変化部P2までのタイヤ幅方向距離であり、TWはタイヤ赤道線CLからトレッド端TEまでのタイヤ幅方向距離である。
【0038】
ここで、正規リムとは、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のYearBookにおける標準リムに対応するリムホイールである。また欧州ではETRTO、米国ではTRA、その他各国のタイヤ規格が対応する。
【0039】
カーカスプライ40の断面形状は、関係式3:a1/W1≦0.06<a2/W2≦0.15を満たしてよい。ここで、a1はタイヤ赤道線CLにおけるカーカスプライ40の高さ位置から第1曲率変化部P1の高さ位置までのタイヤ径方向距離であり、a2はタイヤ赤道線CLにおけるカーカスプライ40の高さ位置から第2曲率変化部P2の高さ位置までのタイヤ径方向距離である。
【0040】
なお、カーカスプライ40のタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面における断面形状は、タイヤ赤道線CLと交わるカーカスプライ40の位置P0、第1曲率変化部P1、及び第2曲率変化部P2を通り滑らかに連続している。
【0041】
カーカスプライ40のタイヤ赤道線CL上の位置P0から第1曲率変化部P1までのカーカスプライ40(第1部位P0-P1)の断面形状の曲率半径R1および第1曲率変化部P1から第2曲率変化部P2までのカーカスプライ40(第2部位P1-P2)の断面形状の曲率半径R2は、カーカスプライ40の位置P0、第1曲率変化部P1、及び第2曲率変化部P2の3点を通る滑らかな断面形状を成し、関係式1,2,3を満たす範囲とすることで、取り得る曲率半径R1,R2の範囲を定めることができる。
【0042】
カーカスプライ40の断面形状は、関係式R2/R3≦0.5を満たすものであってよい。ここで、R3は第2曲率変化部P2から複数の突起19が設けられる領域のタイヤ幅方向内側位置に位置する部位P3までのカーカスプライ40(第3部位P2-P3)の断面形状の曲率半径である。なお、カーカスプライにおいて、第3部位P2-P3のタイヤ径方向内側端となる部位P3のタイヤ径方向位置は、複数の突起19に含まれるタイヤ径方向外側端に位置する第1突起19aのタイヤ径方向位置と、第1突起19aに隣り合う第2突起19bとの、タイヤ径方向位置の中間位置に設定されてよい。本実施形態では、
図1に示すように、部位P3が、第1突起19aのタイヤ径方向位置と第2突起19bのタイヤ径方向位置との中点(タイヤ径方向における中心位置)となるタイヤ径方向位置に配置されている。
【0043】
(3)作用・効果
トラック、バス用の重荷重用タイヤでは、一般的にタイヤ赤道線からとトレッド端近傍のタイヤ幅方向内側の位置までの周方向接地長に対して、トレッド端近傍の周方向接地長が短くなり、トレッド端近傍の接地圧がタイヤ赤道線側よりも相対的に低くなる。この場合、タイヤ転動時にトレッド端近傍が引きずられることになり、トレッド端近傍にステップ状に摩耗する段付き摩耗などの異常摩耗が生じ得る。また、このような段付き摩耗が抑制される条件でタイヤを使用した場合でも、タイヤの走行距離が延びることに伴う周方向接地長の変動により、タイヤ赤道線とトレッド端近傍との中間位置が相対的に大きく走行成長することで周方向接地長が長くなり、トレッド端近傍での接地圧が前記中間位置よりも相対的に低くなるため偏摩耗が生じ得る。
【0044】
本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ100は、カーカスプライ40が、タイヤ赤道線CLを含む第1部位P0-P1と、第1部位P0-P1のタイヤ幅方向の外側且つタイヤ径方向の内側に配置され第1部位P0-P1の曲率よりもタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面における曲率が大きい第2部位P1-P2と、の境界である第1曲率変化部P1と、第2部位P1-P2と、第2部位P1-P2のタイヤ径方向の内側に配置され第2部位P1-P2の曲率よりも前記断面における曲率が小さい第3部位P2-P3と、の境界である第2曲率変化部P2と、を有する。即ち、第1部位P0-P1の曲率半径R1が、第2部位P1-P2の曲率半径R2よりも大きくなっており、第2部位P1-P2の曲率半径R2が、第3部位P2-P3の曲率半径R3よりも小さくなっている。
【0045】
タイヤの内圧による走行成長は、曲率半径が相対的に大きい部分(第1部位P0-P1及び第3部位P2-P3)で促進され、曲率半径が相対的に小さい部分(第2部位P1-P2)で抑制されるため、タイヤ赤道線CLとトレッド端近傍TEとの中間位置での過度な走行成長が抑制される。このことにより、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ100では、ゴム層の厚さを増すことなく、タイヤ幅方向における周方向接地長を適正化し得る。言い換えると、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ100によれば、走行成長後の耐偏摩耗性能を向上させつつ、ゴム層の発熱によるタイヤの耐久性低下を抑制し得る。
【0046】
さらに、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ100は、タイヤ幅方向の内側端が第1曲率変化部P1に位置してカーカスプライ40とベルト層15との間に配置されるクッションゴム17aを備える。
【0047】
第1曲率変化部P1のタイヤ幅方向外側、具体的に、第2部位P1-P2の少なくとも一部に、クッションゴム17aが配置されるため、クッションゴム17aが設置された位置で接地圧がさらに低減され、タイヤ転動時にトレッド端TE近傍が引きずられることによって生じる偏摩耗が抑制される。
【0048】
また、
図1に示すように、クッションゴム17aのタイヤ径方向外側位置におけるタイヤ幅方向外側端がベルト層15のタイヤ幅方向外側端まで配置されている場合、ベルト層15のタイヤ幅方向外側端の動きを抑制して近傍のゴム層の損傷を防止し得る。
【0049】
また、正規リムに装着されて正規内圧が充填された無負荷の状態における前記重荷重用空気入りタイヤの前記断面において、カーカスプライ40の断面形状が関係式0.5≦W1/TW≦0.8および関係式W1/TW<W2/TW<1を満たす場合、トラック、バス用の重荷重用タイヤ100のトレッド端TE近傍に隣接するショルダー陸部のタイヤ幅方向内側近傍の走行成長を効果的に抑制することができる。
【0050】
また、タイヤ赤道線CLの位置(P0)におけるカーカスプライ40のタイヤ径方向の高さ位置から第1曲率変化部P1のタイヤ径方向の高さ位置までのタイヤ径方向の距離をa1、タイヤ赤道線CLの位置(P0)におけるカーカスプライ40のタイヤ径方向の高さ位置から第2曲率変化部P2のタイヤ径方向の高さ位置までのタイヤ径方向の距離をa2であるときに、関係式a1/W1≦0.06<a2/W2≦0.15を満たす場合、トラック、バス用の重荷重用タイヤ100のタイヤ赤道線CLからトレッド端TEまでの接地圧を、タイヤ幅方向においてより均一化することができる。
【0051】
また、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ100には、トレッド部10とタイヤサイド部20とが連なるショルダー領域におけるタイヤ表面には、タイヤ表面からタイヤ幅方向の外側に突出しタイヤ周方向に延びる複数の突起19が形成されている。前記断面において、第1曲率変化部P1と第2曲率変化部P2との間に位置するカーカスプライ40の第2部位(P1-P2)の曲率半径R2と、第2曲率変化部P2とカーカスプライ40の複数の突起19が設けられる領域のタイヤ幅方向内側位置との間に位置するカーカスプライ40の曲率半径R3が、関係式R2/R3≦0.5を満たす場合、トレッド端TEまでより確実に接地圧を確保可能になり、タイヤ幅方向における耐偏摩耗性能を向上し得る。
【0052】
(4)実施例
本発明の効果を確認するために、
図1の基本構造を有するサイズ11R22.5のバス・トラック用重荷重用空気入りタイヤを表1の仕様に基づいて、耐偏摩耗性能及び発熱耐久性能を予測した。トレッドパターンは、同一である。表1 に示すパラメータ以外は実質的に共通である。このうち、タイヤ1のみは試作し性能試験を行った。タイヤ2~4については接地面形状の実測値に基づき性能を予測した。
【0053】
【0054】
実施例の重荷重用タイヤは、それぞれ、従来のケースラインを用い周方向接地長が適正化前であるタイヤ1、従来のケースラインを用いゴム層の厚さで新品時の接地端の周方向接地長を長くするタイヤ2、本実施形態のケースラインを搭載し、周方向接地長が適正化前であるタイヤ3と、本実施形態のケースラインを搭載し、新品時の接地端の周方向接地長を長くするタイヤ4である。
【0055】
なお、表1に示された各実験例のタイヤのカーカスプロファイルの各寸法は、下記リムにリム組みして、正規状態においてCTスキャンにより測定される測定値である。
リム: 8.25×22.5
重荷重用タイヤの評価の方法は、次の通りである。
【0056】
<耐偏摩耗性能>
各実験例のタイヤを、リム(8.25×22.5)、内圧(775kPa)、荷重(25.80kN)の条件にて車両の全輪に装着し、実使用速度にてロードテストして50%摩耗するまで走行した状態でのショルダー部における肩落ち摩耗の発生状況を評価した。従来タイヤ1は偏摩耗が課題となっている。そこで、判定基準の指数として、タイヤ1の肩落ち摩耗量を1とした場合に、優◎が0.6以下、良〇が0.8以下、可△が1以下、不可×が1以上として評価した。
【0057】
<発熱耐久性能>
上記車両を用い、90km/hrで故障するまで走行した場合の時間を評価した。従来タイヤ1の発熱耐久性は市場要求を十分満足している。そこで、判定基準の指数として、タイヤ1の故障までの走行時間を1とした場合に、優◎が1以上、良〇が0.8以上、可△が0.6以上、不可×が0.6未満として評価した。
【0058】
【0059】
表2に示されるように、従来のケースラインを搭載したタイヤ1、タイヤ2では、耐偏摩耗性能と発熱耐久性能との両方で高い評価を得るのが困難であるのに対して、本実施形態の条件を満たすケースラインを搭載したタイヤ3、タイヤ4では耐偏摩耗性能と発熱耐久性能とを両立し得る。
【0060】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0061】
100 重荷重用タイヤ
10 トレッド部
15 ベルト層
17a クッションゴム
19 突起
20 タイヤサイド部
30 ビード部
40 カーカスプライ
CL タイヤ赤道線
P0 カーカスプライのタイヤ赤道線上の位置
P1 第1曲率変化部
P2 第2曲率変化部
W1 P0-P1間距離
W2 P0-P2間距離
TW P0-TE間距離
a1 P0-P1のタイヤ径方向距離
a2 P0-P2のタイヤ径方向距離
R2 P1-P2間曲率半径
R3 P2-P3間曲率半径