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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】レジン製造方法及び絶縁構造製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/122 20250101AFI20250626BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20250626BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
H02K15/122
H01F5/06 Q
H01F41/12 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022068876
(22)【出願日】2022-04-19
(65)【公開番号】P2023158851
(43)【公開日】2023-10-31
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 優
(72)【発明者】
【氏名】岡本 徹志
(72)【発明者】
【氏名】謝 錦霞
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/024181(WO,A1)
【文献】特開2017-022265(JP,A)
【文献】国際公開第2022/044420(WO,A1)
【文献】特開2022-041198(JP,A)
【文献】特開2011-116645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0361245(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/122
H01F 5/06
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体の外周部に形成される絶縁構造に含浸されるレジンを製造する方法であって、
ナノフィラーの単体の表面の化学的修飾を行う化学的修飾化工程と、
前記化学的修飾化工程後の前記ナノフィラーに反応性希釈剤を混合する工程と、
前記反応性希釈剤を混合後の前記ナノフィラーにエポキシ樹脂及び重合促進剤を加えてせん断混合して混合物を生成するエポキシ樹脂混合工程と、
前記エポキシ樹脂混合工程後の混合物に、酸無水物硬化剤を混合する硬化剤混合工程と、
を含むレジン製造方法。
【請求項2】
前記化学的修飾化工程は、高エネルギーのイオン注入、フッ素プラズマ処理、フッ素化合物処理、あるいはシランカップリング処理のいずれかである、
請求項1に記載のレジン製造方法。
【請求項3】
前記化学的修飾化工程は、前記ナノフィラーの表面の疎水化であり、
前記疎水化は、前記ナノフィラー表面の水酸基の除去である、
請求項2に記載のレジン製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は、脂環式エポキシ樹脂を含む、
請求項1に記載のレジン製造方法。
【請求項5】
記反応性希釈剤としてのブチルグリシジルエーテルを含む、
請求項1に記載のレジン製造方法。
【請求項6】
導電体の外周部に形成される絶縁構造を製造する方法であって、
ナノフィラーを含むレジンを製造するレジン製造工程と、
前記導電体の外周部に巻回された非導電性のテープ状部材に前記レジンを含浸させる工程と、
を含み、
前記レジン製造工程は、
ナノフィラーの単体の表面の化学的修飾を行う化学的修飾化工程と、
前記化学的修飾化工程後の前記ナノフィラーに反応性希釈剤を混合する工程と、
前記反応性希釈剤を混合後の前記ナノフィラーにエポキシ樹脂及び重合促進剤を加えてせん断混合して混合物を生成するエポキシ樹脂混合工程と、
前記エポキシ樹脂混合工程後の混合物に、酸無水物硬化剤を混合する硬化剤混合工程と、
を含む、
絶縁構造製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジン製造方法及び絶縁構造製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機、発電機等の回転電機に用いられるコイルには、コイル内の導電体に流れる電流が外部に漏洩することを防止する絶縁構造が設けられる。
【0003】
上記のような絶縁構造として、導電体の外周部にマイカ等を含む絶縁テープを巻回し、絶縁テープ内の空間に金属酸化物等からなるフィラーを含むレジンを含浸させる構造が知られている。フィラーは、絶縁テープ内に生じた電気トリーの進展を抑制し、絶縁性能を向上させるように機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2013/0131218号明細書
【文献】特開2006-246599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、回転電気の絶縁の電界強度は、およそ3kV/mm程度であり、これを増加することが出来れば、巻線の占積率を大きくでき、単機出力の向上を図ることができる。
また、上記のようなフィラーによる電気トリーの進展抑制効果は、フィラーの分散性に大きく依存する。すなわち、フィラーの分散性が低いと、絶縁構造内でフィラーが凝集し、電気トリーが進展しやすい領域(樹脂のみの領域)が増加するため、電気トリーの進展抑制効果が小さくなる。
【0006】
また、フィラーを含むレジンの粘度は、絶縁構造の生産性に大きく影響する。例えば、レジンの粘度が意図せずに増加すると、レジンを絶縁テープ等に含浸させる作業が困難となる。
【0007】
上記のように、高性能な絶縁構造を効率的に製造するためには、フィラーの分散性及び粘度の安定性が高いレジンを製造することが重要となる。
【0008】
そこで、本発明は、電気トリーの進展抑制効果が高い高性能な絶縁構造を効率的に製造できるようにするレジン製造方法及び絶縁構造製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、導電体の外周部に形成される絶縁構造に含浸されるレジンを製造するレジン製造方法であって、ナノフィラーの単体の表面の化学的修飾を行う化学的修飾化工程と、化学的修飾化工程後のナノフィラーに反応性希釈剤を混合する工程と、反応性希釈剤を混合後のナノフィラーにエポキシ樹脂及び重合促進剤を加えてせん断混合して混合物を生成するエポキシ樹脂混合工程と、エポキシ樹脂混合工程後の混合物に、酸無水物硬化剤を混合する硬化剤混合工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る回転電機の構成を示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係る絶縁コイルの構成を示す斜視図である。
図3図3は、実施形態に係る絶縁コイルの構成を示す断面図である。
図4図4は、実施形態に係る主絶縁テープの構成を模式的に示す断面図である。
図5図5は、実施形態に係る主絶縁部の内部構造を模式的に示す断面図である。
図6図6は、実施形態に係わる効果を示す図である。
図7図7は、実施形態に係るナノフィラーによる効果を模式的に示す断面図である。
図8図8は、実施形態に係る絶縁コイルの絶縁構造の製造方法における手順を示すフローチャートである。
図9図9は、実施形態に係る絶縁構造の製造方法に使用される含浸装置の前半段階における状態を示す図である。
図10図10は、実施形態に係る絶縁構造の製造方法に使用される含浸装置の後半段階における状態を示す図である。
図11図11は、実施形態に係るレジンの製造方法における手順を示すフローチャートである。
図12図12は、電気トリーの抑制試験の試験方法を示す図である。
図13図13は、実施形態及び従来例の電気トリーの長さの計測結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本明細書において、実施形態に係る構成要素及び当該要素の説明が、複数の表現で記載されることがある。構成要素及びその説明は、一例であり、本明細書の表現によって限定されない。構成要素は、本明細書におけるものとは異なる名称でも特定され得る。また、構成要素は、本明細書の表現とは異なる表現によっても説明され得る。
【0012】
<回転電機の構成>
図1は、実施形態に係る回転電機1の構成を示す断面図である。
回転電機1は、回転子10及び固定子20を有する。回転電機1は、例えば、電動機、発電機等の構成要素となるものである。
【0013】
回転子10は、ロータシャフト11及び回転子鉄心12を有する。ロータシャフト11は、その両端付近が軸受5により回転可能に軸支されている。軸受5は、回転電機1の外郭を構成するフレーム6と一体に設けられた軸受ブラケット7に固定されている。回転子鉄心12は、ロータシャフト11の外周面に固定され、ロータシャフト11と共に回転する。
【0014】
固定子20は、固定子鉄心21及び絶縁コイル22を有する。固定子鉄心21は、回転子鉄心12の径方向外側に隙間をあけて配置されている。絶縁コイル22は、固定子鉄心21に組み込まれ回転電機1に必須となる磁界を生じさせる部材であり、その外周部には後述する絶縁構造が設けられている。絶縁コイル22は、固定子鉄心21内を貫通するように組み付けられる。
【0015】
<絶縁コイルの構成>
図2は、実施形態に係る絶縁コイル22の構成を示す斜視図である。図3は、実施形態に係る絶縁コイル22の構成を示す断面図である。
【0016】
絶縁コイル22は、積層導体31(導電体)、ターン絶縁部33、及び主絶縁部35を有する。ターン絶縁部33及び主絶縁部35により、絶縁コイル22の絶縁構造が構成される。
【0017】
積層導体31は、複数の導線31Aが積層されて構成されている。本実施形態に係る積層導体31は、14本(積層数7、列数2)の導線31Aが束ねられて構成されている。なお、積層導体31の構成はこれに限定されるものではなく、使用状況に応じて適宜設計されるべきものである。積層導体31は、例えば、14本より多くの導線31Aから構成されてもよいし、1本の導線31Aのみを積層し構成されていてもよい。
【0018】
各導線31Aの外面には、ターン絶縁部33が設けられている。その結果、積層導体31の外面は、ターン絶縁部33により覆われた状態となる。ターン絶縁部33の外側には、主絶縁部35が設けられている。主絶縁部35は、主絶縁テープ40(テープ状部材)が巻回されることにより構成されている。
【0019】
本実施形態に係る主絶縁テープ40は、ハーフラップ方式により螺旋状に巻回されている。主絶縁テープ40の幅をWとするとき、螺旋のピッチはW/2となる。すなわち、主絶縁テープ40は、前回のターンで巻かれた主絶縁テープ40と半分重なるように巻回されている。積層導体31の長手方向全体への巻回が一通り完了した後、更にその上に重ねるように主絶縁テープ40を巻回してもよい。これにより、主絶縁テープ40を多層状に形成できる。主絶縁テープ40の層数が増加するほど絶縁性能を向上させることができる。主絶縁テープ40の巻回数は求められる絶縁性能等に応じて適宜選択されればよい。
【0020】
図4は、実施形態に係る主絶縁テープ40の構成を模式的に示す断面図である。
【0021】
主絶縁テープ40は、主絶縁層41、繊維強化層42、及び重合体層43を有する。
【0022】
主絶縁層41は、非導電性の材料から構成され、主絶縁テープ40の絶縁機能を実現するための主要な部分である。繊維強化層42は、主絶縁層41を支持し、主絶縁テープ40全体としての強度を確保する機能を有する部分である。重合体層43は、接合用高分子を含み、繊維強化層42に浸透し、繊維強化層42と主絶縁層41とを接合させる機能を有する部分である。
【0023】
主絶縁層41は、例えば、マイカ、石綿、磁器粉末等の無機質を主成分として含む。繊維強化層42は、例えば、ガラス繊維、ポリエステル繊維等を主成分として含み、通常は網目状に編み込まれている。また、繊維強化層42は、繊維に限らず、不織布として構成される場合や、ポリエステル、ポリイミド等の高分子フィルムから構成される場合もある。重合体層43は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等を主成分として含む。
【0024】
主絶縁層41の厚みは、例えば、100μm程度である。繊維強化層42の厚みは、主絶縁層41より薄く、例えば、30μm以下程度である場合が多い。なお、図4においては、主絶縁テープ40の構成要素として重合体層43が図示されているが、重合体層43は繊維強化層42に浸み込むため、重合体層43のみの厚みは殆ど存在しない。従って、主絶縁層41と繊維強化層42は、通常互いに殆ど接した状態となる。主絶縁テープ40は、通常は、主絶縁層41を絶縁対象である積層導体31に対面させ、繊維強化層42を外側にして巻回されるが、その逆の場合もある。
【0025】
<主絶縁部の内部構造>
図5は、実施形態に係る主絶縁部35の内部構造を模式的に示す断面図である。
図5において、積層導体31(導線31A)の長手方向に沿った断面が示されている。図5は、主絶縁テープ40の巻回が2回なされ、主絶縁部35に第1回目の巻回によるテーピング層Aと第2回目の巻回によるテーピング層Bとが含まれる場合を示している。
【0026】
主絶縁部35は、主絶縁層41及び含浸部50を有する。テーピング層A及びテーピング層Bのそれぞれにおいて、長手方向に互いに隣接する主絶縁層41同士は、幅の半分ずつ互いに重なり合っている。これは上記ハーフラップ方式の巻き方によるものである。
【0027】
含浸部50は、主絶縁層41と繊維強化層42とを接合させる重合体層43又はその周囲に、ナノフィラー55を含むレジンが浸透して形成された部分である。図5においては、繊維強化層42又はその周囲に浸み込んで形成された重合体層43を強調するために、主絶縁層41の厚さが薄く表現され、繊維強化層42を示す線が省略されている。図5に示すように、主絶縁層41の周囲は、ナノフィラー55が分散された含浸部50(重合体層43)で覆われた状態となる。また、ナノフィラー55を含むレジンは、主絶縁層41の内部にも浸透しているが、図5ではその表現が省略されている。
【0028】
図6は、実施形態に係わる効果を示す図である。
ナノフィラー55は、非導電性のナノサイズの粒子であり、例えば金属酸化物を含む
粒子である。ナノフィラー55を構成する具体的な物質例については後述する。このナノフィラー55はレジン中で凝集せずに均一に分散し、なおかつ粒子間距離が約100nm以下となるように粒子径と充填率を選択することが重要である。特に粒子間距離が重要であり、粒子径と粒子充填率に基づいて粒子間距離を設定することが望まれる。この根拠として、図6に示す通り、レジン中に分散したナノフィラー間の距離が約100nm以下(50nm以下が好ましい)であり、ある程度の充填率(2wt%以上が好ましい)であると、エポキシ樹脂中を進展する電気トリーの進展が比較的抑制されることが幾つかの試験等により実験的に確かめられている。図6に示す電気トリーの進展が抑制されるとは、進展した電気トリー形状がブッシュ状に成長する状態を指し、電気トリーの進展が抑制されない場合には数本の電気トリーが接地電極方向に枝状(ブランチ状)に成長する状態を指す。
【0029】
図7は、実施形態に係るナノフィラー55による効果を模式的に示す断面図である。
【0030】
図7において、含浸部50に電気トリーTが発生している状態が示されている。電気トリーTは、積層導体31と固定子20とに加わる電圧により生じる電気的な劣化現象である。電気トリーTが進展して主絶縁部35の表層部にまで達すると、絶縁破壊が起き、回転電機1はその運転を停止することになる。
【0031】
含浸部50内に分散しているナノフィラー55は、電気トリーTの直線的な進展を抑制し、電気トリーTの進展速度を低下させる進展抑制効果を有する。これにより、主絶縁部35の絶縁性能を向上させることができる。このような進展抑制効果は、ナノフィラー55の含有量だけでなく、分散性に強く依存して変化する。進展抑制効果は、含浸部50内におけるナノフィラー55の分散性(分散の均一性)が高い程大きくなる。従って、進展抑制効果(絶縁性能)を向上させるためには、ナノフィラー55の分散性が高いレジンを使用することが重要となる。
【0032】
<絶縁構造の製造方法>
図8は、実施形態に係る絶縁コイル22の絶縁構造の製造方法における手順を示すフローチャートである。図9は、実施形態に係る絶縁構造の製造方法に使用される含浸装置60の前半段階における状態を示す図である。
【0033】
先ず、積層導体31に主絶縁テープ40を巻回し(図2参照)、レジン含浸前の絶縁コイル22を形成する(S101)。その後、レジン含浸前の絶縁コイル22を固定子鉄心21内に挿入して組み付け、固定子ユニット90(図9参照)を形成する(S102)。その後、含浸装置60内に固定子ユニット90を設置し(S103)、含浸装置60内を真空引きする(S104)。
【0034】
図9に示すように、含浸装置60は、気密容器61、排気配管62、排気弁62A、供給配管63、供給弁63A、及び処理槽64を有する。ステップS103において、気密容器61内に載置された処理槽64内に固定子ユニット90が設置される。その後、ステップS104において、気密容器61内が真空引きされる。真空引きを行う際には、供給弁63Aを閉じ、排気配管62に接続された吸引装置により気密容器61内の空気を吸引する。この結果、絶縁コイル22の内部は、ターン絶縁部33及びその周囲に巻回された主絶縁テープ40内の空間も、全て真空状態となる。
【0035】
上記のように真空引きを行った後、図9に示すように、処理槽64内の固定子ユニット90をレジン47で浸漬する(S105)。このとき、排気弁62Aを閉じ、供給配管63から処理槽64内にレジン47を供給する。レジン47は、固定子ユニット90全体が浸漬されるように供給される。
【0036】
上記のようにレジン47で固定子ユニット90を浸漬した後、含浸装置60(気密容器61)内を加圧する(S106)。
【0037】
図10は、実施形態に係る絶縁構造の製造方法に使用される含浸装置60の後半段階における状態を示す図である。
加圧は、図10に示すように、供給弁63Aを開き、供給配管63から気密容器61内に加圧ガス65を供給することにより行われる。加圧ガス65は、レジン47と反応しない物質であることが好ましく、例えば、窒素ガス、乾燥空気等の不活性ガスであることが好ましい。
【0038】
このように気密容器61内を加圧することにより、ナノフィラー55を含むレジン47が絶縁コイル22のターン絶縁部33及び主絶縁テープ40内に含浸される。
【0039】
その後、含浸装置60から固定子ユニット90を取り出し(S107)、主絶縁テープ40を含む絶縁コイル22の内部に含浸されたレジン47を固化させる(S108)。
レジン47を固化させる方法は、利用するエポキシ樹脂の性質に応じて決定されるが、例えば、熱硬化性エポキシ樹脂を利用する場合には、固定子ユニット90を所定温度の乾燥炉内に所定時間収容する方法等が行われ、最終的に固定子20となる(図1参照)。
【0040】
その後、固定子20は、外郭を構成するフレーム6に取り付けられる。なお、回転電機1の仕様によっては、フレーム6に予め取り付けられた固定子鉄心21内に絶縁コイル22を組み付ける場合もある。この場合、フレーム6と固定子鉄心21と絶縁コイル22とが組み付けられたものを固定子ユニット90として扱う。
【0041】
<レジンの製造方法>
以下に、主絶縁テープ40内に含浸させるレジン47の製造方法について説明する。上述したように、ナノフィラー55による電気トリーTの進展抑制効果(主絶縁部35の絶縁性能)を向上させるためには、主絶縁テープ40内にナノフィラー55が高い分散性(均一性)で分散された含浸部50を形成することが必要となる。そして、そのような含浸部50を形成するためには、ナノフィラー55の分散性が高いレジン47を製造して使用することが重要となる。
【0042】
本実施形態に係るレジン47は、エポキシ樹脂、ナノフィラー55、反応性希釈剤、重合促進剤(硬化促進剤)及び酸無水物系硬化剤(硬化剤)を混合させて生成される組成物である。
【0043】
エポキシ樹脂は、炭素原子2個と酸素原子1個からなる三員環を1分子中に2個以上含み硬化し得る化合物を含む。エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等を主成分として含む。エポキシ樹脂は、これらの化合物を単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。特に、エポキシ樹脂は、反応性希釈剤との化学親和性の観点から、脂環式エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0044】
ナノフィラー55は、非導電性の金属酸化物等を含む。ナノフィラー55は、例えば、アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、三酸化ビスマス、二酸化セリウム、一酸化コバルト、酸化銅、三酸化鉄、酸化ホルミウム、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化錫、酸化イットリウム、酸化亜鉛等を主成分として含む。ナノフィラー55は、これらの化合物を単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0045】
反応性希釈剤は、エポキシ樹脂と反応することでエポキシ樹脂の粘度を低下させるものである。反応性希釈剤は、分子骨格に反応基を持つことで、熱硬化性樹脂組成物の硬化物における骨格の一部となることができる化合物を含む。反応性希釈剤は、例えば、ブチルグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、アルキレンモノグリシジルエーテル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、アルキレンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,12-ドデカンジオールジグリシジルエーテル、o-クレジルグリシジルエーテル、1,2-エポキシテトラデカン等を主成分として含む。反応性希釈剤は、これらの化合物を単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。特に、反応性希釈剤は、エポキシ樹脂に脂環式エポキシ樹脂が含まれる場合には、ブチルグリシジルエーテルを含むことが好ましい。
【0046】
重合促進剤は、例えば、エポキシ化合物と酸無水物系硬化剤との架橋反応を加速できる化合物を含む。硬化促進剤は、例えば、第三級アミン類、リン化合物、金属キレート化合物、アンモニウムイオン化合物、イミダゾール化合物等を主成分として含む。硬化促進剤は、これらの化合物を単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0047】
酸無水物系硬化剤は、例えば、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサハイドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、4-メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水メチルハイミック酸等を主成分として含む。酸無水物系硬化剤は、これらの化合物を単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0048】
レジン47は、例えば、エポキシ樹脂、ナノフィラー55、反応性希釈剤、重合促進剤及び酸無水物系硬化剤を下記割合で含む。wt%は質量基準の濃度の百分率である。
エポキシ樹脂 :30wt%~60wt% …(1)
酸無水物系硬化剤:30wt%~60wt% …(2)
反応性希釈剤 :5wt%~30wt% …(3)
重合促進剤 :(1)のエポキシ樹脂の質量に対し、0.1~2.0wt%
ナノフィラー :(1)~(3)の混合物全体に対し2wt%~30wt%
【0049】
図11は、実施形態のレジンの製造方法における手順を示すフローチャートである。例えば、先ず、ナノフィラー55を30wt%及び溶剤としての反応性希釈剤を70wt%の割合で混合する(S201)。
次に、ナノフィラー表面の化学的修飾を行う(化学的修飾化工程:S202)。例えば、工程S201で製造した混合物にナノフィラー表面の疎水化剤を加え疎水化反応を行う。例えば、ナノフィラー55表面の-OH(水酸基)を除去して、ナノフィラー55表面の疎水化処理等を行う。例えば疎水化剤としてはヘキサメチルジシラザン等のシランカップリング剤が一例として挙げられる。
この場合において、化学的修飾化を促進し、安定化するために、混合後、しばらく撹拌を継続したり、混合、撹拌した後しばらく静置したりするようにしてもよい。
さらに反応促進のため、温度を上昇させるようにしてもよい。
【0050】
この化学的修飾化工程は、ナノフィラー55の粒子表面の反応性を抑制(ポットライフの改善)することで、後に混合するエポキシ樹脂とナノフィラー55との間の反応性を抑制することで、レジン内部での電気トリーの成長を抑制するために行われる。この化学的修飾工程は、例えば粒子表面修飾工程であり、ナノフィラー55の粒子表面とレジンとの反応性を抑制することで、ナノフィラー近傍のレジンに加わる応力を緩和してレジン内部での電気トリーの成長を抑制するために行われる。ナノフィラー近傍のレジンの応力を緩和することで、将来的なマイクロクラックの発生を抑制して、その結果、不平等電界の発生が抑制され、電気トリーの成長も抑制される。この一例として、ナノフィラー表面に存在する-OH基を除去する疎水化処理や、表面での反応性の低いメチル基、エチル基等で修飾する方法などが挙げられる。例えば、この場合において、疎水化度としては、24%以下とされるが、ナノフィラー55の分散性の観点からは、8~15%が望ましい。
【0051】
次に、ステップS203のせん断混合工程として、レジン及び重合促進剤を加え、例えば、レジン、反応性希釈剤及び重合促進剤が合わせて90wt%となり、ナノフィラー55が10wt%となるようにし、せん断混合し、粘度10P(ポアズ:dPa・s)未満の混合物とする。
せん断混合工程は、混合物にせん断応力を発生させることが可能な適宜な装置を使用して行われるが、例えば、3本ロールミル混合機、プラネタリーミキサー(遊星式撹拌機)、ラボプラストミル(登録商標)混合機、ミラクルKCK(登録商標)混合機等を使用して行われる。上記説明では、せん断混合を行う場合について説明したが、ナノフィラー55をレジン中に均一に分散できるのであればこれに限られるものではない。
【0052】
次に、せん断混合工程(S203)により生成された混合物に対し、ナノフィラー55の分散性の評価を行う(分散性評価工程:S204)。
ナノフィラー55の分散性を評価する方法として、例えば、レーザーポインターを混合物に向けて照射する方法がある。
【0053】
この場合において、混合物中のナノフィラー55はレーザーポインターの光を散乱させるため(チンダル現象)、レーザーポインターを混合物に向けて照射すると、光の軌跡が混合物中に現れる場合がある。例えば、635nm~690nmの波長を有する赤色の光を照射光として混合物に照射した場合、ナノフィラー55の分散性が低く、かつ、ナノフィラー55の集合体の粒径が当該波長より大きい場合には、混合物中に照射光の軌跡が明瞭に現れる。
【0054】
これに対し、ナノフィラー55の分散性が高く、ナノフィラー55の集合体の粒径が当該波長より小さい場合には、光の軌跡は、光度が低く、ほとんど視認できない。
従って、混合物中に現れる照射光の軌跡の光度が低いほど、混合物中におけるナノフィラー55の分散性が高いと評価できる。
【0055】
本実施形態におけるステップS201~ステップS203の工程を経て生成された混合物に対して赤色の光を照射した場合における混合物中の光の軌跡は、ほとんど視認することができず、その光度は極めて低くなっており、ナノフィラー55の分散性が非常に高くなる。レーザーポインターを利用する場合は、硬化剤混合工程に移行する混合物の領域を網目状又は賽の目状に区切り、区切られた全ての領域に対しレーザ光を照射する様にして、区切られた単位ごとに混合物中に現れる光の軌跡の光度が閾値以下である場合に混合物が所定の分散性基準を満たしているか判断するようにしてもよい。光度は光度計等で測定することが出来る。分散性評価工程で分散性が低く所定の基準を満たしていないと判定された場合(S204;分散性低)は、分散性が低く所定の基準を満たしていないと判定された混合物を破棄処理し(S207)、ステップS201に戻る。
このようにすることにより分散性に偏在がある混合物が次工程に進むことが防止できる。尚、上流工程の品質がよく、必要がない場合は、ステップS204やステップS207を省略してもよい。尚、混合物の分散性が区切られた領域の単位で評価でき、区切られた特定領域のみを次工程に進むことができる製造装置の場合は、分散性の良い領域であると判断された領域のみを次工程であるステップS205に進むようにしてもよい。
【0056】
なお、レーザーポインターを用いる方法は、簡易且つ便利であるが、混合物中のナノフィラー55のブラウン運動等からその粒径を測定する各種粒度測定装置を用いるようにすることも可能である。
【0057】
分散性評価工程で分散性が高い所定の基準を満たしていると判定された場合(S204;分散性高)は、次の硬化剤混合工程S205に進む。硬化剤混合工程S205においては、せん断混合工程(S203)により生成された混合物に対して酸無水物硬化剤を添加して混合し、撹拌する。
【0058】
ここで、酸無水物硬化剤は、使用したエポキシ樹脂と化学当量的に同程度混合される。この硬化剤混合工程は、組成物が所定の粘度(例えば、含浸用のレジン47として実用上適切な粘度)となるように行われる。また、硬化剤混合工程における撹拌は、高速撹拌が可能な適宜な装置を使用して行うことができる。例えば、ディスパー混合機、同心二軸混合機、プラネタリーミキサー、ビーズミル混合機等を使用して行われる。
【0059】
その後、硬化剤混合工程(S205)により生成された混合物を収集する(S206)。収集された混合物は、上述したように含浸用のレジン47として使用される。
【0060】
上記製造方法により、ナノフィラー55の表面を化学的修飾化することにより、ナノフィラー55が高い分散性で分散され、応力が緩和されたレジン47を製造できる。
この結果、ナノフィラー55による電気トリーTの進展抑制効果(絶縁性能)を向上させることができる。また、ナノフィラー55の高い分散性により、レジン47の粘度を長期間にわたって安定化でき、レジン47の可使寿命を向上させることができる。
【0061】
尚、上記図11の手順では反応性希釈剤とナノフィラーの混合後に、ナノフィラーの表面の化学的修飾化を実施しているが、ナノフィラー単体に化学的修飾化を実施し、その後、反応性希釈剤を混合する工程としてもよい。例えばナノフィラー単体の化学的修飾化としては高エネルギーのイオン注入(アルゴンガス等のプラズマ照射等)でもよいし、フッ素プラズマ処理やフッ素化合物に処理、あるいはシランカップリング処理でもよい。
【0062】
<電気トリー抑制効果の評価>
以下に、上述した実施形態及び従来例のそれぞれの製造方法により製造されたレジンが含浸された絶縁構造の電気トリー抑制効果についての比較の一例を示す。
【0063】
図12は、電気トリーの抑制試験の試験方法を示す図である。
先ず、針状の電極111が埋め込まれた状態で実施形態に係るレジン47を硬化させ、電極111と対抗する部位を設置電極とする試験片101を準備した。
【0064】
試験片101は、シリコーンオイル102で浸漬されている。
【0065】
電圧発生器112から各電極111に高電圧(15kVp、18kVp、21kVp)を印加し、試験片101において、電気トリー(Electrical Treeing)の長さをマイクロスコープで計測した。次に同様な構造の試験片を従来の製造方法によるレジン47で構成した試験片101で電圧を印加し、電気トリー長の比較をした。
【0066】
図13は、実施形態及び従来例の電気トリーの長さの計測結果を説明する図である。
図13に示すように、実施形態に係るレジン47が含浸された試験片101においては、印加電圧=15kVpにおいては、電気トリーの長さ=0.5mmであった。
【0067】
印加電圧=18kVpにおいては、電気トリーの長さ=0.3mmであり、印加電圧=21kVpにおいては、電気トリーの長さ=0.4mmであった。
従来例に係るレジン47が含浸された試験片101においては、印加電圧=15kVpにおいては、電気トリーの長さ=3.2mmであった。
【0068】
印加電圧=18kVpにおいては、電気トリーの長さ=4.2mmであり、印加電圧=21kVpにおいては、接地電極付近まで電気トリーが伸びて飽和した。
以上の説明のように、本実施形態によれば、従来例と比較して電気トリーの進展の抑制効果が得られることが明らかであった。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、ナノフィラー55の分散性及び粘度の安定性が高いレジン47を製造することが可能となる。これにより、電気トリーの進展抑制効果をより確実に得られる高性能な絶縁構造を効率的に製造することが可能となる。
【0070】
上述の本発明の実施形態は、発明の範囲を限定するものではなく、発明の範囲に含まれる一例に過ぎない。本発明のある実施形態は、上述の実施形態に対して、例えば、具体的な用途、構造、形状、作用、及び効果の少なくとも一部について、発明の要旨を逸脱しない範囲において変更、省略、及び追加がされたものであっても良い。
【符号の説明】
【0071】
1…回転電機、5…軸受、6…フレーム、7…軸受ブラケット、10…回転子、11…ロータシャフト、12…回転子鉄心、20…固定子、21…固定子鉄心、22…絶縁コイル、31…積層導体(導電体)、31A…導線、33…ターン絶縁部、35…主絶縁部、40…主絶縁テープ(テープ状部材)、41…主絶縁層、42…繊維強化層、43…重合体層、47…レジン、50…含浸部、55…ナノフィラー、60…含浸装置、61…容器、62…排気配管、62A…排気弁、63…供給配管、63A…供給弁、64…処理槽、65…加圧ガス、90…固定子ユニット、101…試験片、102…シリコーンオイル、111…電極、112…電圧発生器、113…接地電極、T…電気トリー。
図1
図2
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図13