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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】メタクリル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20250626BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C08L33/12
C08K3/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022577042
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046601
(87)【国際公開番号】W WO2022158190
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2021007319
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 翔太
【審査官】藤原 研司
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂と、
シリカ複合酸化物粒子がシリカで被覆された被覆粒子と
を含有する、メタクリル樹脂組成物であって、
該メタクリル樹脂組成物を成形した幅75mm、長さ90mm、厚さ3mmである成形体が、下記式(1)~(3)を満たす、メタクリル樹脂組成物
Haze <4 (1)
Haze <4 (2)
Haze 25 /Haze <3.2 (3)
(前記式(1)~(3)中、
Haze は、前記成形体を絶乾状態としたときのヘイズ(%)を表す。
Haze は、前記成形体を絶乾状態とし、次いで、80℃の純水に7日間浸漬した後のヘイズ(%)を表す。
Haze 25 は、前記成形体を絶乾状態とし、次いで、80℃の純水に25日間浸漬した後のヘイズ(%)を表す。)
【請求項2】
前記シリカ複合酸化物がシリカ-チタニア複合酸化物である、請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記被覆粒子の中位径が0.4μm~2.0μmである、請求項1または2に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項4】
波長589nmの光線を25℃で照射したときの前記被覆粒子の屈折率が1.474~1.494である、請求項1~3のいずれか1項に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記被覆粒子の含有量が、メタクリル樹脂100質量部に対して、0.001質量部~5質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項6】
前記被覆粒子の含有量が、メタクリル樹脂100質量部に対して、0.06質量部~0.6質量部である、請求項5に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項7】
前記メタクリル樹脂がメタクリル酸メチルに由来する単量体単位を85質量%以上含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のメタクリル樹脂組成物を含有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のランプカバーの透明性および耐擦傷性を高めることを目的として、ランプカバーの材料である樹脂組成物に、熱可塑性樹脂(メタクリル樹脂)とシリカ複合酸化物粒子とを配合する態様が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/022339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1が開示している樹脂組成物によれば、ランプカバーの透明性と耐擦傷性とを向上させてこれらのバランスを良好にすることはできるものの、透明性と耐擦傷性との両立についてはさらなる改善の余地が認められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めたところ、樹脂組成物に所定の粒子を含有させることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
よって、本発明は、下記〔1〕~〔9〕を提供する。
〔1〕 メタクリル樹脂と、
シリカ複合酸化物粒子がシリカで被覆された被覆粒子と
を含有する、メタクリル樹脂組成物。
〔2〕 前記シリカ複合酸化物がシリカ-チタニア複合酸化物である、〔1〕に記載のメタクリル樹脂組成物。
〔3〕 前記被覆粒子の中位径が0.4μm~2.0μmである、〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル樹脂組成物。
〔4〕 波長589nmの光線を25℃で照射したときの前記被覆粒子の屈折率が1.474~1.494である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のメタクリル樹脂組成物。
〔5〕 前記被覆粒子の含有量が、メタクリル樹脂100質量部に対して、0.001質量部~5質量部である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のメタクリル樹脂組成物。
〔6〕 前記被覆粒子の含有量が、メタクリル樹脂100質量部に対して、0.06質量部~0.6質量部である、〔5〕に記載のメタクリル樹脂組成物。
〔7〕 前記メタクリル樹脂がメタクリル酸メチルに由来する単量体単位を85質量%以上含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のメタクリル樹脂組成物。
〔8〕 メタクリル樹脂と、無機粒子とを含有するメタクリル樹脂組成物であって、
該メタクリル樹脂組成物を成形した幅75mm、長さ90mm、厚さ3mmである成形体が、下記式(1)~(3)を満たす、メタクリル樹脂組成物。
Haze<4 (1)
Haze<4 (2)
Haze25/Haze<3.2 (3)
(前記式(1)~(3)中、
Hazeは、前記成形体を絶乾状態としたときのヘイズ(%)を表す。
Hazeは、前記成形体を絶乾状態とし、次いで、80℃の純水に7日間浸漬した後のヘイズ(%)を表す。
Haze25は、前記成形体を絶乾状態とし、次いで、80℃の純水に25日間浸漬した後のヘイズ(%)を表す。)
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載のメタクリル樹脂組成物を含有する成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかるメタクリル樹脂組成物によれば、特に車両用のランプカバーの材料として用いた場合に、ランプカバーの透明性と耐擦傷性とをより向上させることができ、透明性と耐擦傷性とのバランスをより良好にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は、以下に示される具体的な実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0009】
1.メタクリル樹脂組成物
本実施形態のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂と、シリカ複合酸化物粒子がシリカで被覆された被覆粒子とを含有している。以下、具体的に説明する。
【0010】
(1)メタクリル樹脂
本実施形態のメタクリル樹脂組成物が含有するメタクリル樹脂は、メタクリル基を有するモノマーに由来する単量体単位を有する重合体である。
【0011】
メタクリル樹脂としては、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位のみを含むメタクリル単独重合体、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位を85質量%以上100質量%未満と、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であるビニル単量体に由来する単量体単位を0質量%を超えて15質量%以下とを含むメタクリル共重合体が挙げられる。
【0012】
ここで、「炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキル」とは、CH=CH(CH)COOR(Rは炭素原子数1~4のアルキル基)で表される化合物である。「炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であるビニル単量体」とは、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であり、かつビニル基を有する単量体である。
【0013】
上記炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、およびメタクリル酸イソブチルが挙げられる。上記炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルは、好ましくはメタクリル酸メチルである。上記メタクリル酸アルキルは、単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0014】
上記炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であるビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのメタクリル酸エステル(ただし、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルは除く。)、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール等のアクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチルなどの窒素含有モノマー、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体、スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体が挙げられる。
【0015】
本実施形態において、メタクリル酸アルキルはメタクリル酸メチルであることが好ましく、本実施形態のメタクリル樹脂組成物はメタクリル酸メチルに由来する単量体単位を85質量%以上含むことが好ましい。
【0016】
本実施形態において、波長589nmの光線を25℃において照射したときのメタクリル樹脂の屈折率と、被覆粒子の屈折率との差は、0.03以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましい。メタクリル樹脂および被覆粒子の屈折率は同一であることが特に好ましい。メタクリル樹脂および被覆粒子の屈折率の差をより小さくし、特に0.03以下とすれば、成形体の透明性をより高くすることができ、ひいては透明性と耐擦傷性との両方に優れた成形体を得ることができる。
【0017】
メタクリル樹脂の屈折率は、臨界角法、Vブロック法および液浸法等の従来公知の任意好適な測定方法により測定することができる。
【0018】
メタクリル樹脂の製造方法としては、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと、必要に応じて、炭素原子数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であるビニル単量体とを単量体成分として、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により重合する方法が挙げられ、好ましくは塊状重合法である。
【0019】
塊状重合法は、重合安定剤を使用しないためにより外観に優れるメタクリル樹脂を得ることができる。また、懸濁重合の場合とは異なり、重合温度が100℃よりも高く、その結果、メタクリル樹脂のシンジオタクティシティが低下しやすいため、メタクリル樹脂の流動性がより増加する。連続的に塊状重合を行った場合、例えば、上記単量体成分と必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤等とを反応容器の中に連続的に供給しながら反応容器内で所定の時間滞留させて得られる部分重合体を、連続的に抜き出すことにより行うことができるので、メタクリル樹脂を効率的に重合して製造することができる。
【0020】
本発明のメタクリル樹脂組成物に含まれるメタクリル樹脂の塊状重合法による製造において、重合温度は、好ましくは110~190℃である。
【0021】
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、例えば、重合開始剤や連鎖移動剤などの添加剤を使用してもよい。重合開始剤としては、例えば、ラジカル開始剤を用いることができる。
【0022】
ラジカル開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリン酸などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、カプリリルパーオキサイド、2,4-ジクロルベンゾイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-n-ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-エチルヘキサノエート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、tert-ブチルパーオキシアリルカーボネート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソノナエート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシ-イソノナエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物などが挙げられる。
【0023】
重合開始剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0024】
重合開始剤は、合成されるメタクリル樹脂や使用する原料モノマーの種類などに応じて選定されうる。ラジカル開始剤としては、その重合温度での半減期が1分以内である重合開始剤が好ましい。
【0025】
本実施形態において、連鎖移動剤は、単官能および多官能の連鎖移動剤のうちのいずれの連鎖移動剤であってもよい。連鎖移動剤としては、具体的には、例えば、n-プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、tert-ブチルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、2-エチルヘキシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾールなどの芳香族メルカプタン;エチレンチオグリコールなどの炭素原子数18以下のメルカプタン類;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコール類;水酸基をチオグリコール酸または3-メルカプトプロピオン酸でエステル化した化合物、1,4-ジヒドロナフタレン、1,4,5,8-テトラヒドロナフタレン、β-テルピネン、テルピノーレン、1,4-シクロヘキサジエン、硫化水素などが挙げられる。連鎖移動剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0026】
連鎖移動剤の種類および使用量は、合成されるメタクリル樹脂や使用する単量体成分の種類などに応じて適宜選択することができる。連鎖移動剤としては、n-オクチルメルカプタン、またはn-ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0027】
上記単量体成分、重合開始剤、連鎖移動剤などに加えて、例えば離型剤、ブタジエンおよびスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム状重合体、熱安定剤、紫外線吸収剤などを用いてもよい。
【0028】
ここで、離型剤とは、メタクリル樹脂組成物の成形性を向上させるために用いられる成分である。熱安定剤は、メタクリル樹脂の熱分解を抑制するために用いられる成分である。紫外線吸収剤は、メタクリル樹脂の紫外線による劣化を抑制するために用いられる成分である。
【0029】
本実施形態において、離型剤は、特に制限されない。離型剤としては、例えば、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、および高級脂肪酸金属塩が挙げられる。なお、離型剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
離型剤の使用量は、メタクリル樹脂100質量部に対して、0.01~1.0質量部とすることが好ましく、0.01~0.50質量部とすることがより好ましい。なお、本発明のメタクリル樹脂組成物が2種以上のメタクリル樹脂を含んでいる場合に、「メタクリル樹脂100質量部」とは、2種以上のメタクリル樹脂の合計量をいう。
【0031】
本実施形態において、熱安定剤は、特に限定されない。熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤や有機ジスルフィド化合物が挙げられる。これらの中でも、有機ジスルフィド化合物が好ましい。なお、熱安定剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
熱安定剤の使用量は、メタクリル樹脂100質量部に対して、1~2000質量ppmであることが好ましい。メタクリル樹脂組成物から成形体を製造するために、メタクリル樹脂組成物(より詳細には、脱揮後のメタクリル樹脂組成物)を成形する際、成形効率を高める目的でその成形温度を高めに設定することがある。そのような場合において、熱安定剤を配合すると、より効果的に樹脂組成物の成形を行うことができる。
【0033】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤が好ましい。
【0034】
紫外線吸収剤の使用量は、メタクリル樹脂組成物に含まれるメタクリル樹脂100質量部に対して、5~1000質量ppmとすることが好ましい。
【0035】
(2)被覆粒子
本実施形態のメタクリル樹脂組成物は、シリカ複合酸化物粒子がシリカで被覆された被覆粒子を含む。
【0036】
「シリカ複合酸化物粒子」は、本実施形態の「被覆粒子」のコアとなりうる粒子状体である。ここで「シリカ複合酸化物」とは、シリカ中のケイ素(Si)元素の一部が他の元素に置き換わった酸化物、換言すると、ケイ素と他の元素とが均一な構造を共に形成している酸化物をいう。
【0037】
かかるシリカ複合酸化物の構造は、TEM-EDX(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray spectrometry)やX線吸収微細構造(XAFS)スペクトル等により解析することができる。
【0038】
上記「他の元素」とは、ケイ素および酸素以外の元素であって、ケイ素と共に均一な構造の酸化物粒子を形成できる元素であれば特に限定されない。
【0039】
上記「他の元素」としては、例えば、周期表第2族から周期表第14族までの元素が挙げられる。「他の元素」としては、好ましくは、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、セリウム、ホウ素、鉄、インジウム、およびスズである。上記「他の元素」としては、チタン、ジルコニウムまたはアルミニウムがより好ましく、チタンがさらに好ましい。
【0040】
上記シリカ複合酸化物粒子の具体例としては、シリカ-チタニア複合酸化物粒子、シリカ-ジルコニア複合酸化物粒子、およびシリカ-アルミナ複合酸化物粒子が挙げられる。
【0041】
上記シリカ複合酸化物粒子は、好ましくはシリカ-チタニア複合酸化物粒子、またはシリカ-ジルコニア複合酸化物粒子であり、より好ましくはシリカ-チタニア複合酸化物粒子である。
【0042】
本実施形態において、シリカ複合酸化物粒子の形状は、特に限定されない。シリカ複合酸化物粒子は、例えば略球状、直方体状、複数の角を有した粉砕状などの形状でありうる。シリカ複合酸化物粒子の形状は、好ましくは略球状であり、より好ましくは真球状である。
【0043】
本実施形態において、シリカ複合酸化物粒子の平均一次粒子径は、通常0.1μm以上2.0μm以下であり、好ましくは0.2μm以上2.0μm以下であり、より好ましくは0.3μm以上2.0μm以下であり、さらに好ましくは0.4μm以上2.0μm以下である。
【0044】
ここで、シリカ複合酸化物粒子の平均一次粒子径は、例えば、走査電子顕微鏡による粒子の観測画像から読み取ることによって測定することができる。シリカ複合酸化物粒子の平均一次粒子径を上記の範囲とすれば、耐擦傷性および透明性の両方に優れる成形体を製造することができる。ここで、一次粒子とは、シリカ複合酸化物粒子を構成する最小単位となる粒子を意味している。
【0045】
シリカ複合酸化物粒子の平均粒径(直径)は、通常0.1μm以上2.0μm以下であり、好ましくは0.2μm以上2.0μm以下であり、より好ましくは0.3μm以上2.0μm以下であり、さらに好ましくは0.4μm以上2.0μm以下である。
【0046】
シリカ複合酸化物粒子の平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱法により測定することができる。シリカ複合酸化物粒子の平均粒径を上記の範囲にすることにより、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を成形した成形体の耐擦傷性および透明性の両方を向上させることができる。
【0047】
本明細書において、平均粒径とは、メジアン径(d50)を意味する(以下、中位径という。)。
【0048】
本実施形態において、シリカ複合酸化物粒子の屈折率(波長589nmの光線を25℃で照射したときの屈折率)は、好ましくは1.47以上1.60以下であり、より好ましくは1.47以上1.52以下であり、さらに好ましくは1.47以上1.50以下である。
【0049】
シリカ複合酸化物粒子の屈折率は、シリカ複合酸化物粒子中のケイ素と他の元素の組成比を変えることによって任意好適な屈折率に調整することができる。
【0050】
なお、シリカ複合酸化物粒子の屈折率は、液浸法等の従来公知の任意好適な方法により測定することができる。
【0051】
シリカ複合酸化物粒子の屈折率を上記範囲とすれば、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を成形した成形体の透明性をより高めることができる。
【0052】
シリカ複合酸化物粒子は、火炎溶融法、火炎加水分解法、ゾル-ゲル法等の従来公知の任意好適な製造方法により製造することができる。
【0053】
本実施形態の被覆粒子は、既に説明したシリカ複合酸化物粒子の表面がシリカで被覆された形態を有している。
【0054】
ここで「被覆」には、シリカ複合酸化物粒子の表面の全体がシリカによって完全に覆われている態様のみならず、シリカ複合酸化物粒子の表面のうちの一部分のみがシリカにより覆われている態様も含まれる。
【0055】
本実施形態の被覆粒子の表面を構成しうるシリカにより構成される層(以下、表面シリカ層という。)の厚さは特に限定されない。
【0056】
表面シリカ層の厚さは、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を成形した成形体の透明性と耐擦傷性とのバランスなどを考慮して任意好適な厚さに調整することができる。
【0057】
表面シリカ層の厚さは、例えば、1nm~30nmとすることが好ましく3nm~15nmとすることがより好ましい。
【0058】
表面シリカ層の厚さは、例えば、表面シリカ層の原料の量とシリカ複合酸化物粒子の比表面積との比を調整することによって調整することができる。
【0059】
また、表面シリカ層の厚さは、例えば、原料の仕込組成比に基づく計算によって求めることができ、さらには透過型電子顕微鏡による観察によっても求めることもできる。
【0060】
ここで、透過型電子顕微鏡による観察は、本実施形態の被覆粒子を、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂に包埋した後、従来公知の任意好適な研磨方法により研磨して被覆粒子の断面を露出させることにより行うことができる。
【0061】
被覆粒子の中位径(直径)は、通常0.1μm以上2.0μm以下(0.1μm~2.0μm)であり、好ましくは0.2μm以上2.0μm以下(0.2μm~2.0μm)であり、より好ましくは、0.3μm以上2.0μm以下(0.3μm~2.0μm)であり、さらに好ましくは0.4μm以上2.0μm以下(0.4μm~2.0μm)である。
【0062】
被覆粒子の中位径は、例えば、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0063】
被覆粒子の中位径を上記の範囲にすることにより、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を成形した成形体の耐擦傷性および透明性の両方を向上させることができる。
【0064】
本実施形態において、被覆粒子の屈折率(波長589nmの光線を25℃で照射したときの屈折率)は、好ましくは1.470以上1.600以下(1.470~1.600)であり、より好ましくは1.474以上1.520以下(1.474~1.520)であり、さらに好ましくは1.474以上1.494以下(1.474~1.494)である。
【0065】
被覆粒子の屈折率は、例えば、波長589.3nmの光線(ナトリウムD線)を用いた液浸法等の従来公知の任意好適な方法により測定することができる。
【0066】
被覆粒子の屈折率を上記範囲とすれば、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を成形した成形体の透明性をより高めることができる。
【0067】
本実施形態において、シリカ複合酸化物粒子の表面をシリカで被覆した被覆粒子は、例えば、シリカ複合酸化物粒子をアルカリ性アルコール溶液に分散させた液に、テトラエチルシリケートを滴下し、テトラエチルシリケートの加水分解物をシリカ複合酸化物粒子の表面に析出させる方法により製造することができる。
【0068】
このようにして製造された被覆粒子は、さらに粒子に含まれる水分、有機物等を除去するために加熱(仮焼)処理される。この加熱処理の温度は特に限定されない。加熱処理の温度は、粒子同士の焼結を抑制して単分散性を良好にする観点から、900℃~1200℃とすることが好ましく、950℃~1100℃とすることがより好ましい。また、加熱処理に要する時間は特に限定されない。加熱処理の時間は、30分間~10時間とすることが好ましい。
【0069】
中位径が1μm以下である、例えばシリカ粒子などを1000℃以上の温度で加熱処理すると、粒子同士が焼結して、粒子の単分散性が低下する場合がある。しかしながら、本実施形態の被覆粒子のようにシリカ複合酸化物粒子の表面を化学的に不活性なシリカで被覆すれば、1000℃以上の温度で加熱処理したとしても、粒子の単分散性を良好にすることができる。
【0070】
本実施形態のメタクリル樹脂組成物に含まれる被覆粒子の含有量は、メタクリル樹脂100質量部に対し、好ましくは0.001質量部以上5質量部以下(0.001質量部~5質量部)であり、より好ましくは0.01質量部以上5質量部以下(0.01質量部~5質量部)であり、さらに好ましくは0.01質量部以上1質量部以下(0.01質量部~1質量部)であり、特に好ましくは0.03質量部以上0.45質量部以下(0.03質量部~0.45質量部)である。メタクリル樹脂組成物中の被覆粒子の含有量は、例えば、ICP-AES法を用いて測定することができる。
【0071】
また、メタクリル樹脂および被覆粒子を溶融混錬する際の被覆粒子の配合濃度を含有量としてもよい。配合濃度の値と含有量の値とは概ね同じである。被覆粒子の含有量は、正確性の観点からICP-AES法で測定することが好ましい。
【0072】
被覆粒子の含有量を、0.001質量部以上とすることにより、高い耐擦傷性を有するメタクリル樹脂組成物を成形した成形体とすることができる。また、被覆粒子の含有量を、5質量部以下とすることにより、高い透明性を有する成形体とすることができる。
【0073】
被覆粒子の含有量を上記範囲内とすれば、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を成形した成形体の耐擦傷性および透明性の両方を向上させ、さらには耐水性を向上させることができる。
【0074】
(3)その他の成分
本実施形態のメタクリル樹脂組成物は、既に説明したメタクリル樹脂および被覆粒子に加えて、必要に応じて、その他の成分をさらに含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、および難燃剤が挙げられる。
【0075】
紫外線吸収剤の例としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、およびオキサルアニリド系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0076】
酸化防止剤の例としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、およびリン系酸化防止剤が挙げられる。
【0077】
離型剤の例としては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、および脂肪酸誘導体が挙げられる。
【0078】
帯電防止剤の例としては、導電性無機粒子、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、カチオン系アクリル酸エステル誘導体、およびカチオン系ビニルエーテル誘導体が挙げられる。
【0079】
難燃剤の例としては、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコン系難燃剤、籠状シルセスキオキサンまたはその部分開裂構造体、およびシリカ系難燃剤が挙げられる。
【0080】
2.メタクリル樹脂組成物の製造方法
本実施形態のメタクリル樹脂組成物の製造方法の例としては、上記メタクリル樹脂と、被覆粒子と、必要に応じて上記他の成分(紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤等)とを従来公知の任意好適な方法により混練する方法が挙げられる。本実施形態において、混練における条件については特に限定されない。混練における条件は、選択された成分、その分量、性状等を勘案した任意好適な条件とすることができる。
【0081】
本実施形態のメタクリル樹脂組成物は、具体的には、用意されたメタクリル樹脂100質量部に対し、所定量の被覆粒子および必要に応じて選択された上記その他の成分を加えて混合した後、従来公知の任意好適な押出機(例、二軸押出機)を使用して溶融混練することにより製造することができる。
【0082】
溶融混練における条件は、例えば、押出機の原料投入口から出口までの間の温度を200℃~270℃とすることができる。
【0083】
上記のとおり溶融混練した後、例えば、押出機からストランド状に押出し、水冷して固化し、ストランドカッターで所望の長さにカッティングすることにより、ペレット状のメタクリル樹脂組成物を得ることができる。
【0084】
3.成形体
本実施形態のメタクリル樹脂組成物は、従来公知の任意好適な成形方法により成形することにより任意の形状の成形体とすることができる(成形体の製造方法については後述する。)。すなわち、本実施形態の成形体は、既に説明したメタクリル樹脂組成物を含有している。
【0085】
本実施形態において、成形体の形状、厚さ等のサイズは特に限定されない。成形体の厚さは、好ましくは0.5mm以上8mm以下であり、より好ましくは、1mm以上6mm以下であり、さらに好ましくは、1mm以上4mm以下である。成形体の厚さを上記範囲にすることで、透明性に優れた成形体とすることができる。
【0086】
また、本実施形態のメタクリル樹脂組成物を用いて、積層体を構成する層を形成することができる。すなわち、本実施形態の成形体には、既に説明したメタクリル樹脂組成物を含有する層を含む積層体が含まれる。
【0087】
本実施形態の成形体であって、メタクリル樹脂と、無機粒子とを含有するメタクリル樹脂組成物を成形した幅75mm、長さ90mm、厚さ3mmである成形体は、下記式(1)~(3)を満たす。
Haze<4 (1)
Haze<4 (2)
Haze25/Haze<3.2 (3)
【0088】
前記式(1)~(3)中、
Hazeは、成形体を絶乾状態としたときのヘイズ(%)を表す。
Hazeは、成形体を絶乾状態とし、次いで、80℃の純水に7日間浸漬した後のヘイズ(%)を表す。
Haze25は、成形体を絶乾状態とし、次いで、80℃の純水に25日間浸漬した後のヘイズ(%)を表す。
【0089】
ここで、「無機粒子」には、既に説明した被覆粒子に加えて、上記の要件を満たす無機材料を含む粒子が含まれうる。
【0090】
また、絶乾状態とは、温度80℃、圧力100mmHg以下の環境に成形体を120時間以上静置することで乾燥し、120時間前の重量と比較して、成形体の重量の変化量が0.05%未満となり、かつ、成形体のヘイズの変化量が120時間前のヘイズの5%未満となる状態をいう。
【0091】
(1)ヘイズおよびその測定方法
本実施形態において、成形体のヘイズは、ヘイズが40%以下である対象に適用できるJIS K 7136(ISO14782、Plastics-Determination of haze for transparent materialsに対応している。)に従って測定することができる。以下、具体的に説明する。
【0092】
まず、ヘイズ(haze)とは、本実施形態の成形体である試験片を通過する透過光のうちの前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率をいう。
【0093】
本実施形態において、ヘイズは従来公知の任意好適な装置により測定することができる。ヘイズを測定するための装置としては、例えば、安定した光源、接続光学系、開口部を備えた積分球および測光器を備える装置が挙げられる。測光器は、受光器、信号処理装置および表示装置または記録計から構成されることが好ましい。
【0094】
ヘイズの測定には、上記メタクリル樹脂組成物を成形した成形体を切り出した複数の試験片が用いられる。試験片のサイズは、積分球の入口開口および補償開口を覆うのに十分な大きさであることを条件として限定されない。
【0095】
まず、試験片は、ヘイズの測定の前に、ISO291に準じて、温度(23±2)℃、相対湿度(50±10)%の条件で15分間状態調節される。
【0096】
次に、測定に用いられる装置は、必要に応じて、温度(23±2)℃、相対湿度(50±10)%に保たれた雰囲気中に設置し、測定前に十分に時間をおいて熱平衡に到達させる。
【0097】
次いで、試験片を装置に設置して、試験片を透過した入射光の光束を観測して、下記式によりヘイズ(%)を算出する。
式:ヘイズ=[(τ4/τ2)-τ3(τ2/τ1)]×100
【0098】
上記式中、
τ1は入射光の光束を表し、
τ2は試験片を透過した全光束を表し、
τ3は装置で拡散した光束を表し、
τ4は装置および試験片で拡散した光束を表す。
【0099】
(2)耐擦傷性の評価
本実施形態の成形体の耐擦傷性は、耐擦傷性試験の前後におけるヘイズ(屈折率)の変化に基づいて評価することができる。
【0100】
(擦傷試験)
成形体の耐擦傷性を評価するにあたり、成形体の表面をスチールウールを用いて擦ることによる擦傷試験が行われる。
【0101】
まず、試験に用いる成形体を、既に説明したとおり、高温、減圧下に静置して絶乾状態にする。
【0102】
具体的には、例えば、真空ポンプを用いて85mmHg~90mmHgに減圧しつつ温度を80℃としたオーブン内に成形体を静置することにより絶乾状態とすることができる。
【0103】
次いで、絶乾状態とされた成形体を、平衡状態にするために、例えば、温度80℃、相対湿度35%の環境に13日間静置する。
【0104】
なお、ここで予め、擦傷試験前の成形体について、上記のとおりJIS K7136に従って、初期のヘイズを測定しておく。
【0105】
次に、擦傷試験を実施する。具体的には、成形体の表面を、スチールウール(番手:#0000)を荷重14kPaで押し付け、スチールウールを構成する繊維の延在方向と直交する方向に、15cm/秒の速度で11往復させて擦ることにより、擦傷する。
次いで、擦傷試験後の成形体について、上記のとおりJIS K7136に従って、ヘイズを測定する。
【0106】
(Δヘイズの算出)
上記のとおり測定された擦傷試験の前後の成形体のヘイズに基づいて、擦傷試験の前後のヘイズの変化量であるΔヘイズ(単位:%)を算出する。
【0107】
ここで、本実施形態のメタクリル樹脂組成物において、メタクリル樹脂の含有量100質量部に対して、被覆粒子の含有量をa質量部としたときに、下記式により算出される値をΔヘイズ閾値(単位:%)と定義する。
式:-1.43×ln(a)-0.7
【0108】
本実施形態のメタクリル樹脂組成物において被覆粒子の含有量がより多くなれば、通常、成形体におけるΔヘイズの値はより小さくなる。よって、Δヘイズ閾値とは、被覆粒子の含有量を勘案して、成形体の耐擦傷性をより実質的に評価するための目安となる値である。
【0109】
本実施形態においては、Δヘイズの値がΔヘイズ閾値を下回っている場合には、被覆粒子の含有量が少量であっても、成形体の耐擦傷性が効果的に向上していると評価される。
【0110】
より具体的には、本実施形態において、Δヘイズ/Δヘイズ閾値が1.00以上である場合には「耐擦傷性は向上していない」と評価され、Δヘイズ/Δヘイズ閾値が1.00未満である場合には「耐擦傷性が向上している」と評価され、Δヘイズ/Δヘイズ閾値が0.80以下である場合には「耐擦傷性がさらに向上している」と評価される。
【0111】
よって、本実施形態において、成形体のΔヘイズ/Δヘイズ閾値は、1.00未満であることが好ましく、0.80以下であることがより好ましく、0.71以下であることがさらに好ましい。
【0112】
本実施形態において、成形体の初期のヘイズは、4%未満であることが好ましく、2.4%以下であることがより好ましく、2.0%以下であることがさらに好ましい。
【0113】
また、本実施形態において、成形体のΔヘイズは、3.88%以下であることが好ましく、3.40%以下であることがより好ましく、2.32%以下であることがさらに好ましい。
【0114】
(3)耐水性の評価
本実施形態の成形体の耐水性は、耐水性試験の前後におけるヘイズの変化に基づいて評価することができる。
【0115】
本実施形態において、「成形体の耐水性」とは、水(空気中の水分を含む。)との接触による経時的な「成形体のヘイズの悪化」、すなわち「成形体の透明性の低下」の起こりにくさをいう。
【0116】
本明細書において、耐水性試験に供された成形体のヘイズは「Haze」と表記される。
ここで、Xは絶乾状態とされた成形体を80℃の純水に浸漬した日数を表し、Hazeは絶乾状態とされた初期の成形体であって、純水への浸漬を行わない成形体のヘイズを表す。
【0117】
本実施形態において、成形体の耐水性試験は、絶乾状態とされた成形体を80℃の純水にX日間浸漬して吸水状態とした後、吸水状態とされた成形体について、既に説明したとおりJIS K7136に従ってヘイズを測定することにより行うことができる。
【0118】
成形体に含まれるメタクリル樹脂は、通常、80℃の純水に7日間浸漬させることで吸水率(吸水状態)が平衡に達する。メタクリル樹脂の吸水率が平衡に達すると、成形体中の水分量が増えるため、被覆粒子(無機粒子)の屈折率が吸水により変化し、ひいてはメタクリル樹脂と被覆粒子(無機粒子)の屈折率の差も変化しうる。
【0119】
よって、成形体の耐水性は、Haze(純水への浸漬を行わない初期のヘイズ)、Haze(純水への浸漬を7日間行った後のヘイズ)およびHaze25(純水への浸漬を25日間行った後のヘイズ)/Hazeの3つの指標により評価することが好ましい。
【0120】
HazeおよびHazeの双方が4%未満であれば、絶乾状態の成形体および吸水状態の双方の成形体に含まれるメタクリル樹脂と被覆粒子(無機粒子)との屈折率の差が小さく、成形体中の水分量によらず透明性が高いといえるため、成形体の耐水性に優れていると評価できる。また、Haze25/Hazeが3.2未満であれば、吸水による経時的な被覆粒子(無機粒子)の屈折率の変化が小さいといえることから、成形体の耐水性に優れていると評価できる。
【0121】
よって、Haze25/Hazeは、3.2未満であることが好ましく、2.2以下であることがより好ましく、1.9以下であることがさらに好ましい。
【0122】
また、本実施形態において、Hazeは、4%未満であることが好ましく、1.4%以下であることがより好ましく、1.1%以下であることがさらに好ましい。
【0123】
さらに、Hazeは、4%未満であることが好ましく、3.7%以下であることがより好ましく、2.1%以下であることがさらに好ましい。
【0124】
さらにまた、Haze25は、4.2%未満であることが好ましく、4.0%以下であることがより好ましく、3.3%以下であることがさらに好ましい。
【0125】
4.成形体の製造方法
本実施形態の成形体の製造方法としては、例えば、既に説明したメタクリル樹脂組成物を、従来公知の任意好適な成形機を用いて成形する方法が挙げられる。本実施形態の成形体の製造方法は、特に限定されない。本実施形態の成形体の製造方法の例としては、押出成形法、および射出成形法が挙げられる。
【0126】
複雑な形状の成形体を得ることができるため、本実施形態の成形体の製造方法としては、例えば、成形機として射出成形機を用い、成形機の金型内にメタクリル樹脂組成物を射出して成形する射出成形法を用いることが好ましい。
【0127】
以下、本実施形態の成形体の製造方法について、射出成形法による製造方法を例にとって説明する。
【0128】
本実施形態の成形体の製造方法は、メタクリル樹脂組成物を用意する工程と、用意したメタクリル樹脂組成物を射出成形することにより成形体とする工程とを含む。以下、各工程について具体的に説明する。
【0129】
(1)メタクリル樹脂組成物を用意する工程
本工程は、射出成形機に供するためのメタクリル樹脂組成物を用意する工程である。「メタクリル樹脂組成物」については、既に説明したとおりであるので、その詳細な説明は省略する。
【0130】
本実施形態において、射出成形法により成形体を製造するにあたり、メタクリル樹脂組成物は、製造効率をより高める観点から、既に説明したペレット状とすることが好ましい。ペレット状のメタクリル樹脂組成物の形状、サイズ等は、用いられる射出成形装置、適用される条件を勘案して、任意好適な範囲で設定することができる。
【0131】
(2)メタクリル樹脂組成物を射出成形することにより成形体とする工程
本工程は、メタクリル樹脂組成物を、射出成形機により、成形体とする工程である。
具体的には、本工程は、メタクリル樹脂組成物を溶融状態として、射出成形機が備える金型のキャビティ内に射出することにより充填して成形し、次いで冷却した後、メタクリル樹脂組成物が成形された成形体を金型から剥離して取り出すことにより行われる。
【0132】
成形体は、より具体的には、ペレット状のメタクリル樹脂組成物を射出成形機が備えるホッパーからシリンダー内に投入し、さらにスクリューを回転させながら溶融させ、その後スクリューを後退させることにより、シリンダー内に所定量のメタクリル樹脂組成物を充填し、スクリューを前進させることにより圧力をかけながら溶融したメタクリル樹脂組成物を金型のキャビティ内に所定の射出温度かつ所定の射出速度で射出することにより充填し、金型が充分に冷却されるまで一定時間保圧した後、金型を開いて金型から剥離して取り出すことにより製造することができる。
【0133】
本実施形態において、成形体を製造する際の条件は、適宜設定することができ、特に限定されない。本実施形態においては、例えば、射出成形機のシリンダー内の温度を200℃~270℃程度とし、保圧を80MPa程度とし、金型温度を60℃程度とし、冷却時間を45秒程度とする条件で射出成形することで所望の形状の成形体を製造することができる。
【0134】
本実施形態において、射出成形機のシリンダー内の温度は、200℃~270℃とすることが好ましく、220℃~260℃とすることがより好ましい。
【0135】
本実施形態において、射出成形機における保圧(MPa)は、10MPa~100MPaとすることが好ましく、20MPa~90MPaとすることがより好ましい。
【0136】
本実施形態おいて、射出成形機の金型温度(℃)は、30℃~80℃とすることが好ましく、50℃~70℃とすることがより好ましい。
【0137】
本実施形態おいて、冷却時間(秒)は、金型内のキャビティに充填された溶融状態のメタクリル樹脂組成物を金型で保圧して冷却する時間である。冷却時間は、20~150秒とすることが好ましく、30~60秒とすることがより好ましい。
【0138】
5.成形体の用途
本実施形態の成形体は、高い透明性および耐擦傷性を有しており、さらには優れた耐水性を有するので、例えば自動車、自動二輪車等の車両用のランプカバーとして好適に用いることができる。
【0139】
車両用のランプカバーとしては、前照灯(ヘッドランプ)、尾灯(テールランプ)、制動灯(ストップランプ)、方向指示灯(ウインカー)、霧灯(フォグランプ)、車幅灯、後退灯のカバー等が挙げられる。
【実施例
【0140】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は実施例に限定されない。
【0141】
<無機粒子の中位径の測定>
無機粒子(シリカ複合酸化物粒子および被覆粒子)の中位径は、レーザー回折散乱法により測定した(単位:μm)。
【0142】
<無機粒子の屈折率nDの測定>
無機粒子の屈折率nDは、波長589.3nmの光線(ナトリウムD線)を用いた液浸法により測定した。
【0143】
<成形体の透明性の測定>
成形体の透明性は、JIS K7136に従って、23℃において成形体のヘイズを測定した(単位:%)。
【0144】
実施例および比較例において使用した無機粒子を下記表1に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
<メタクリル樹脂Aの製造>
撹拌器を備えた重合反応器に、メタクリル酸メチル97.5質量部およびアクリル酸メチル2.5質量部の混合物と、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.016質量部と、n-オクチルメルカプタン0.16質量部とを、それぞれ連続的に供給し、175℃、平均滞留時間を43分間として重合反応を行った。
【0147】
次いで、重合反応器から流出させた反応液(部分重合体)を予熱した後、反応液を脱揮押出機に供給し、未反応の単量体成分を気化して回収するとともに、ペレット状のメタクリル樹脂Aを得た。
【0148】
得られたメタクリル樹脂Aは、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位が97.5質量%であり、アクリル酸メチルに由来する単量体単位の含有量が2.5質量%であり、JIS K7210(ISO 1133)に従って測定したメルトフローレート(MFR)が2g/10分であった。
【0149】
[実施例1]
<メタクリル樹脂組成物の製造(溶融混練)>
上記のとおり製造されたメタクリル樹脂Aと、メタクリル樹脂A100質量部に対して0.03質量部の分量とした被覆粒子であるSiTi07488-Sとを原料として投入して混合した後、二軸押出機(型式:TEX30SS-30AW-2V、日本製鋼所社製)を使用し、以下の混練条件で溶融混練してストランド状に押出し、水冷して固化し、ストランドカッターでカッティングすることにより、ペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。無機粒子(被覆粒子)およびその添加量を表2に示す。
【0150】
(溶融混練の条件)
押出機の温度については、原料投入口から出口までの間に互いに離間して配置された8つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ200℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、240℃、250℃に設定した。スクリュー回転数および原料の投入速度については下記のとおりである。
スクリュー回転数:200rpm
原料の投入速度:14kg/時
【0151】
<成形体の製造(射出成形)>
得られたペレット状のメタクリル樹脂組成物を、射出成形機(EC130SXII-4A、東芝機械株式会社製)を用いて、下記の成形条件で長さ150mm×幅90mm×厚さ3.0mmの平板状に成形した成形体を得た。
【0152】
(射出成形の条件)
シリンダー内の温度については、原料投入口から出口までの間に互いに離間して配置された5つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ60℃、230℃、240℃、250℃、250℃に設定した。その他の成形条件は下記のとおりである。
射出速度:90mm/秒
最大射出圧力:200MPa
保圧:80MPa
金型温度:60℃
冷却時間:45秒
【0153】
得られた成形体を80℃のオーブン内で16時間静置し、その後4時間かけて40℃まで徐冷して、下記のとおり耐擦傷性についての評価を行った。
【0154】
(成形体の耐擦傷性の評価)
成形体の表面をスチールウールを用いて擦って擦傷する擦傷試験を行った。
まず、測定に用いる成形体を、温度80℃、圧力100mmHg以下の環境に静置して絶乾状態にした。具体的には、成形体を、真空ポンプを用いて圧力100mmHg以下、例えば、85mmHg~90mmHg程度に減圧しつつ温度を80℃としたオーブン内に静置することにより絶乾状態とした。
【0155】
その後、温度80℃、相対湿度35%の環境に13日間静置した。その後、成形体の表面に対し、#0000のスチールウールを荷重14kPaで押し付け、スチールウールの繊維の延在方向と直交する方向に15cm/秒の速度で11往復させて擦ることにより擦傷した。
【0156】
上記のとおりJIS K7136に従って擦傷試験の前後の成形体のヘイズを測定し、擦傷性試験の前後におけるヘイズの変化量(Δヘイズ(単位:%))を算出した。
【0157】
ここで、メタクリル樹脂100質量部に対して、被覆粒子の含有量がa質量部である場合の「-1.43×ln(a)-0.7」をΔヘイズ閾値(単位:%)と定義する。
【0158】
ΔヘイズがΔヘイズ閾値を下回っている場合には、少量の被覆粒子の添加でも、効率的に成形体の耐擦傷性が向上していることを意味している。
【0159】
よって、Δヘイズ/Δヘイズ閾値が1.00以上である場合には「耐擦傷性は向上していない(×:不可)」と評価し、Δヘイズ/Δヘイズ閾値が1.00未満である場合には「耐擦傷性が向上している(〇:良)」と評価し、Δヘイズ/Δヘイズ閾値が0.80以下である場合には「耐擦傷性がさらに向上している(◎:優)」と評価した。なお、Δヘイズが10%以上である場合は耐擦傷性が著しく劣ることから、Δヘイズ閾値によらず、(×:不可)と判断した。結果を表2に示す。
【0160】
[実施例2~10]
表2に示すとおりに、無機粒子(被覆粒子)およびその添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を製造し、耐擦傷性について評価した。結果を下記表2に示す。
【0161】
[比較例1~9]
表2に示すとおりに、無機粒子(シリカ複合酸化物粒子)およびその添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を製造し、耐擦傷性について評価した。結果を下記表2に示す。
【0162】
[比較例10]
無機粒子を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして成形体を製造し、耐擦傷性について評価した。結果を下記表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
実施例1~10、並びに、比較例3、6、9および10にかかる成形体について、下記のとおり耐水性の評価を行った。
【0165】
(成形体の耐水性の評価)
まず、幅75mm、長さ90mm、厚さ3mmの短冊状に切削することにより平板である成形体を作製した。
【0166】
次いで、得られた成形体を絶乾状態になるまで乾燥処理した。具体的には、成形体を、真空ポンプを用いて100mmHg以下に減圧しつつ温度を80℃としたオーブン内に静置し、成形体の重量変化を観測しつつ24日間乾燥させることにより絶乾状態とした。ここで、成形体の19日目から24日目まで(120時間)の重量変化はいずれの成形体も0.05%未満であり、ヘイズの変化量は5%未満であった。よって、成形体は、24日目で「絶乾状態」に至ったと判断された。
【0167】
絶乾状態とされた成形体を80℃の純水に7日間、または25日間浸漬して吸水状態とした後、JIS K7136に従って、23℃におけるヘイズを測定する耐水性試験を行った(単位:%)。
【0168】
成形体の耐水性は、Haze(純水への浸漬を行わない初期のヘイズ)、Haze(純水への浸漬を7日間行った後のヘイズ)およびHaze25(純水への浸漬を25日間行った後のヘイズ)/Hazeの3つの指標で評価した。結果を下記表3に示す。
【0169】
【表3】