(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-25
(45)【発行日】2025-07-03
(54)【発明の名称】高結晶性カーボンブラック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20250626BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20250626BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20250626BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250626BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20250626BHJP
【FI】
C09C1/48
H01M4/86 B
H01M4/88 C
H01M8/10 101
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2023561854
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(86)【国際出願番号】 KR2022015602
(87)【国際公開番号】W WO2023068669
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0140536
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513280854
【氏名又は名称】オーシーアイ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OCI Company Ltd.
【住所又は居所原語表記】94,Sogong-ro,Jung-gu,Seoul,100-718(KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジェフン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェソク
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/016322(WO,A1)
【文献】特開平02-247262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0056050(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0066708(US,A1)
【文献】特表2020-524192(JP,A)
【文献】特表2016-526257(JP,A)
【文献】特開2000-268828(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007730(WO,A1)
【文献】特開平11-335584(JP,A)
【文献】特開2016-100262(JP,A)
【文献】米国特許第4822588(US,A)
【文献】特開2004-323848(JP,A)
【文献】特開2020-47432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0136808(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小結晶サイズ(Lc)が4.0nm以上;比表面積(BET)が50~150m
2
/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、高結晶性カーボンブラックの製造方法であって、
(a)微小結晶サイズ(Lc)が1.0~2.0nm;比表面積(BET)が50~150m
2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、ファーネスブラック(furnace black)を製造する段階と、
(b)前記ファーネスブラックを1800℃以上の温度で高温熱処理を行って、高結晶性カーボンブラックを得る段階と、
を含
み、
上記(a)段階は、1500~1800℃の温度及び不完全燃焼の条件下で行われることである、
高結晶性カーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
上記(b)段階の高温熱処理は、2000℃以上の温度で行われることである、
請求項
1に記載の高結晶性カーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
前記(a)段階のファーネスブラックは、
(i)空気供給部及び燃料供給部を有する少なくとも1つの供給部;
(ii)前記供給部を介して投入された高温燃焼ガスが流入する反応部;
(iii)前記反応部から延在して形成されるものの、前記反応部よりも直径が小さい吐出部(throat);
(iv)前記吐出部から延在して形成されるものの、前記吐出部よりも直径が大きい頸部;及び
(v)前記頸部から延在するものの、前記頸部よりも直径が大きいケーシング(casing);
を含み、下記の条件(1)及び(2)を満たすカーボンブラックの製造装置で製造されるものである、
請求項
1に記載の高結晶性カーボンブラックの製造方法:
-条件(1):[(頸部の長さL)/(頸部の直径D)]>3
-条件(2):[(吐出部の直径D’)/(頸部の直径D)]<0.6
【請求項4】
微小結晶サイズ(Lc)が5.0nm以上10nm以下である、
請求項1に記載の高結晶性カーボンブラックの製造方法。
【請求項5】
比表面積(BET)が70~100m
2
/gである、
請求項1に記載の高結晶性カーボンブラックの製造方法。
【請求項6】
オイル吸収数(OAN)が180ml/100g以上である、
請求項1に記載の高結晶性カーボンブラックの製造方法。
【請求項7】
X線回折データで計算した平均格子空間であるd-spacing(002)値が、0.350nm以下である、
請求項1に記載の高結晶性カーボンブラックの製造方法。
【請求項8】
高結晶性カーボンブラックで形成された触媒担持体と、前記触媒担持体に担持された触媒とを含む電極、並びに電解質膜(membrane)を含
み、
前記カーボンブラックが、微小結晶サイズ(Lc)が4.0nm以上;比表面積(BET)が50~150m
2
/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上のカーボンブラックである、
膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高結晶性カーボンブラック及びその製造方法に関し、より具体的には、高い水準の耐久性が求められる燃料電池の触媒担持体、二次電池を始め、様々な電池の導電材として使用することができる、高結晶性カーボンブラック及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、炭化水素又は炭素を含む化合物を不完全燃焼させて得た、超微細な球状粒子の集合体を意味する。カーボンブラックは、反応炉の中で一次粒子(Primary Particle)を形成し、これらの一次粒子は、互いに融着して、ブドウ状の凝集体を形成する。一方、カーボンブラックの種類では、大きくアセチレンブラック(acetylene black)及びファーネスブラック(furnace black)に区分することができ、このうちファーネスブラックは、安値である利点があるものの、アセチレンブラックに比べて高結晶性を達成しにくいという短所がある。
【0003】
カーボンブラックは、物性自体の特性に応じて、使用される素材の品質に影響を与え、その物性の特性では、結晶性、比表面積、構造、粒子サイズ等があり、様々な後処理(post-treatment)によってカーボンブラックの特性を調節することができる。カーボンブラックは、産業用ペイント、コーティング用組成物、各種印刷物など、様々な分野で使用されており、電気的特性を有し得るため、伝導性素材としても利用されている。
【0004】
一方、近年、環境に優しいエネルギーにより燃料電池を普及しているが、燃料電池における燃料電池の触媒(例えば、白金触媒)を担持するための触媒担持体として、炭素材料であるカーボンブラックが広く使用されている。一方、燃料電池電気自動車を運転する際、燃料電池のアノード(anode;「燃料極」又は「水素極」とも言う)に燃料である水素の供給が足りないと、アノードの電位が上昇して、燃料電池全体の電圧がマイナス値を示す逆電圧(reverse voltage又はreverse potential)現象が発生する問題点がある。これによって、触媒担持体として使用されるカーボンブラックは、漸進的或いは急激に酸化して電極構造が崩壊することから、燃料電池の効率及び寿命が減少する。
【0005】
よって、燃料電池のアノードの逆電圧現象に対する耐久性を向上させる必要がある実情であり、このため、触媒担持体であるカーボンブラックの結晶性、純度、比表面積などの物性を向上させるため技術開発に対する必要性が存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した技術的問題点に着目して、本発明は、高結晶性及び高純度のカーボンブラック及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、高結晶性及び高純度のカーボンブラックを効率良く製造することができる製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、高結晶性及び高純度のカーボンブラックで形成し、特に、逆電圧現象に対する耐久性が顕著に向上した燃料電池アノード及びこれを含む膜電極接合体(MEA)と、これを含む燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するための観点から、本発明の一態様によれば、微小結晶サイズ(Lc)が4.0nm以上;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、高結晶性カーボンブラックを提供することができる。前記高結晶性カーボンブラックは、X線回折データで計算した平均格子空間であるd-spacing(002)値が0.350nm以下であってもよい。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、(a)微小結晶サイズ(Lc)が1.0~2.0nm;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、ファーネスブラック(furnace black)を製造する段階と、(b)前記ファーネスブラックを1800℃以上の高温熱処理して、高結晶性カーボンブラックを得る段階と、を含む高結晶性カーボンブラックの製造方法を提供することができ、上記製造方法に従って、微小結晶サイズ(Lc)が4.0nm以上;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、高結晶性カーボンブラックを製造することができる。
【0011】
上記(a)段階のファーネスブラックは、(i)空気供給部及び燃料供給部を有する少なくとも1つの供給部;(ii)前記供給部を介して投入された高温燃焼ガスが流入する反応部;(iii)前記反応部から延在して形成されるものの、前記反応部よりも直径が小さい吐出部(throat);(iv)前記吐出部から延在して形成されるものの、前記吐出部よりも直径が大きい頸部;及び(v)前記頸部から延在するものの、前記頸部よりも直径が大きいケーシング(casing);を含み、下記の条件(1)及び(2)を満たすカーボンブラックの製造装置で製造することができる。
【0012】
(1):[(頸部の長さL)/(頸部の直径D)]>3
(2):[(吐出部の直径D’)/(頸部の直径D)]<0.6
【0013】
本発明のさらに他の一態様によれば、本発明の微小結晶サイズ(Lc)が4.0nm以上;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、高結晶性カーボンブラックで形成された触媒担持体と、前記触媒担持体に担持された触媒とを含む電極、並びに電解質膜(membrane)を含む膜電極接合体を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高結晶性カーボンブラックは、結晶性及び純度が非常に高く、適宜な比表面積を有することができる。
【0015】
本発明の高結晶性カーボンブラックを燃料電池用膜電極接合体の触媒担持体として適用することによって、燃料電池の逆電圧現象を減少又は抑制して、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0016】
本発明の高結晶性カーボンブラックの製造方法によれば、非常に高い水準の結晶性及び純度のカーボンブラックを効率良く製造することができ、本発明のカーボンブラックの製造装置を適用すると、ファーネスブラックを原材料として使用しても、高結晶性カーボンブラックを製造することができる。
【0017】
上述した効果並びに本発明の具体的な効果は、以下の発明を実施するための形態を説明すると共に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一態様によるカーボンブラックの製造装置を簡略に示した図面である。
【
図2】本発明の比較実験例1に従って、熱処理前のカーボンブラックのTEMイメージを示した図面である。
【
図3】本発明の比較実験例3に従って、1500℃で熱処理されたカーボンブラックのTEMイメージを示した図面である。
【
図4】本発明の実験例1に従って、1800℃で熱処理されたカーボンブラックのTEMイメージを示した図面である。
【
図5】本発明の実験例2に従って、2000℃で熱処理されたカーボンブラックのTEMイメージを示した図面である。
【
図6】本発明の実験例3に従って、2300℃で熱処理されたカーボンブラックのTEMイメージを示した図面である。
【発明を実施するための最善の形態】
【0019】
前述した目的、特徴及び長所は、添付の図面を参照して詳細に後述され、これによって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術思想を容易に実施することができる。本発明の説明にあたり、本発明に係る公知の技術に関する具体的な説明が、本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合には、詳細な説明を省略する。以下では、添付の図面を参照して、本発明による好ましい実施例を詳説することとする。図面における同じ参照符号は、同一又は類似の構成要素を示すために使われる。
【0020】
本明細書で記載していない内容のうち、この技術分野における通常の技術者であれば技術的に充分類推できるものは、その説明を省略することとする。
【0021】
本明細書における構成要素の「上部(又は下部)」又は構成要素の「上(又は下)」に任意の構成が配されるということは、任意の構成が、上記構成要素の上面(又は下面)に接して配されるだけでなく、上記構成要素と、上記構成要素上に(又は下に)配された任意の構成との間に他の構成が介在し得ることを意味する。
【0022】
本明細書で使われる単数の表現は、文脈上明白に他に意味しない限り、複数の表現を含む。本出願における「含有する」、「有する(持つ)」又は「含む」等の用語は、明細書上に記載の様々な構成要素を必ずしも全て含むものと解釈されてはならず、そのうち一部の構成要素は含まれなくてもよく、或いはさらなる構成要素を含んでいてもよいと解釈しなければならない。
【0023】
以下では、本発明による高結晶性カーボンブラックについて詳説することとする。
【0024】
高結晶性カーボンブラック
本発明の高結晶性カーボンブラックは、微小結晶サイズ(Lc)が4.0nm以上;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である特性を満たすことを特徴とする。前記高結晶性カーボンブラックは、X線回折データで計算した平均格子空間であるd-spacing(002)値は、0.350nm以下であってもよく、その値は、小さいほど好ましい。
【0025】
<結晶性-微小結晶サイズ(Lc)及び平均格子空間であるd-spacing(002)>
結晶構造を有する炭素材料の結晶度を示す1つの因子(factor)である、微小結晶サイズ(Lc)(「結晶子サイズ」、「結晶サイズ」、「結晶子の縦サイズ」、「c軸方向の結晶子サイズ」等と同様の意味を示す。)は、X-ray diffraction(XRD)で分析したX線回折データに基づいて(分析装備:Panalytical Empyrean Alpha1)、下記の[数式1]のScherrer equationによって計算することができる。
【0026】
[数式1]Scherrer equation:Lc=0.89λ/(β・Cosθ)
【0027】
上記[数式1]における0.89は、Scherrer定数であり、λは、波長であり、θは、d-spacing(002)のピークでの角度であり、βは、d-spacing(002)のピークでの半値幅(Full Width at Half Maximum;FWHM(002))である。前記d-spacing(002)は、X線回折データで計算した平均格子空間を意味し、X-ray diffraction(XRD)のデータから測定される。
【0028】
一方、カーボンブラックが使用される用途に応じて、目的とする結晶度は異なってくるものの、本発明のカーボンブラックは、燃料電池の膜電極接合体に使用される触媒担持体として使用されるのが好ましいため、燃料電池の繰り返した使用及び長期間の使用にも優れる耐久性を有するように、触媒担持体について非常に高い水準の結晶度が要求される。
【0029】
従来、触媒担持体として使用されるカーボンブラックのLc値は、略0.5~2.0nm程と、ある程度の結晶性は有するものの、非常に高い水準の結晶性を具現するには限界があり、さらには、これらの高結晶性を原材料としてファーネスブラックを使用して達成することはとても難しかった。よって、本発明のカーボンブラックのLc値が4.0nm以上の値を有するということは、従来のカーボンブラックに比べて、非常に優れる結晶性を有することを意味し、これをファーネスブラックを原材料として使用した点で、コスト及び工程の側面から利点を有することができる。
【0030】
よって、燃料電池用触媒担持体として優れた耐久性を具現できる程の本発明の高結晶性カーボンブラックのLcは、4.0nm以上であるのが好ましく、上限は、特に限定されないものの、10.0nm以下であるのが好ましい。
【0031】
また、前記平均格子空間であるd-spacing(002)値は、0.350nm以下であるのが好ましい。
【0032】
<比表面積(BET)>
本発明の触媒担持体としてのカーボンブラックは、白金(Pt)のような触媒が良く担持されて、優れた触媒活性を奏するように、高い比表面積を有することが要求されるものの、比表面積が高すぎると、Lc値が小さくなることから、結晶性は低くなり、トレードオフ(trade-off)関係に置かれるため、カーボンブラックが適用される製品に要求される物性に応じて、比表面積と結晶性を適宜調節して両立させることが重要である。
【0033】
特に、PEMFCのアノード電極又はPAFCのカソード電極などのように、高い耐久性が要求される触媒担持体として適用するためには、比表面積は、適宜な値を有し、かつ、Lc値を増加させて、高結晶性を達成することが重要である。かかる観点から、比表面積(BET)は、50~150m2/gの範囲であるのが好ましく、70~120m2/gの範囲であるのがより好ましく、70~100m2/gの範囲であるのが最も好ましい。
【0034】
一方、上記比表面積(BET)値は、ブルナウア-エメット-テラー(Brunauer-Emmett-Teller;BET)数式を用いた窒素吸着による比表面積の分析によって測定することができる(分析装備:Micromeritics ASAP2460)。
【0035】
<オイル吸収数(OAN)>
カーボンブラックのオイル吸収数(oil absorption number:OAN)は、その値が高いほど、カーボンブラックが高次元構造を有することを意味する。高次元構造のカーボンブラック粒子は、通常、優れた結晶性を有することができる。オイル吸収数は、ASTM D2414に基づく分析方法(カーボンブラック100gにdibutyl phthalate oilが吸着する量(ml/100g)を測定する。)に従って測定される。
【0036】
オイル吸収数(OAN)が高いほど、カーボンブラックの電気伝導性が上昇し、表面抵抗が低くなるため、燃料電池用触媒担持体又は導電材として使用されるためには、高いOANを有するカーボンブラックを使用することが好ましい。
【0037】
かかる観点から、本発明のカーボンブラックのオイル吸収数(OAN)は、150ml/100g以上であるのが好ましく、180ml/100g以上であるのが最も好ましい。
【0038】
以下では、本発明の高結晶性カーボンブラックの製造方法及び製造装置について詳説する。
【0039】
高結晶性カーボンブラックの製造方法及び製造装置
本発明の高結晶性カーボンブラックの製造方法は、(a)微小結晶サイズ(Lc)が1.0~2.0nm;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上である、ファーネスブラック(furnace black)を製造する段階と、(b)前記ファーネスブラックを1800℃以上の高温熱処理して、高結晶性カーボンブラックを得る段階と、を含むことができる。
【0040】
カーボンブラックの結晶性を向上させるためには、高温熱処理などの後処理(post-treatment)を行う方式を用いる。しかし、既存のファーネスブラックの場合、通常、原材料であるカーボンブラックに熱処理を行っても、結晶性、特に、微小結晶サイズ(Lc)値を顕著に向上させるには限界点があった。
【0041】
このため、本発明者は、鋭意研究した結果、結晶性を示す重要な因子である微小結晶サイズ(Lc)値を向上させるために、ファーネスブラックを1800℃以上の高温熱処理する段階を含み、結晶性を顕著に向上させることができる製造方法を案出した。
【0042】
このとき、高温熱処理前のファーネスブラックは、本発明における目標とする物性値である比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100gを満たすものを使用することが好ましく、微小結晶サイズ(Lc)は、1.0~2.0nmの範囲を有するものを使用することができる。これらの熱処理前のカーボンブラックに高温熱処理を行うことで、微小結晶(Lc)値を顕著に向上させることができる。
【0043】
さらに、上記熱処理前のカーボンブラック(原材料となるカーボンブラック)は、工程上の効率の利点を有するファーネスブラックであるのが好ましく、前記ファーネスブラックは、空気、燃料油及び炭化水素供給原料を1500℃以上の温度で、不完全燃焼条件下で投入して製造することができ、前記空気、燃料油及び炭化水素供給原料のそれぞれの流量及び種類は、適宜選択して調節することができ、本発明の原材料となるファーネスブラックの物性を満たすものであれば、通常の技術者は、必要に応じて工程条件を適宜調節することができる。
【0044】
以下では、本発明の製造方法の各段階について説明することとする。
【0045】
<(a)段階>
具体的に、優れた結晶性及び適宜な比表面積の特性を同時に満たすカーボンブラックを製造するためには、熱処理前のカーボンブラックは、微小結晶サイズ(Lc)が1.0~2.0nm;比表面積(BET)が50~150m2/g;及びオイル吸収数(OAN)が150ml/100g以上を満たすのが好ましい。高温熱処理によって主に結晶性が高くなるため(比表面積も多少増加する)、比表面積及びオイル吸収数は、高温熱処理前にも最終製造される高結晶性カーボンブラックの物性を満たす範囲であるのが有利である。
【0046】
これらの物性を有するファーネスブラックを容易に製造するために、
図1に示された製造装置10のように、(i)空気供給部11a及び燃料供給部11bを有する少なくとも1つの供給部11;(ii)前記供給部11を介して投入された高温燃焼ガスが流入する反応部12;(iii)前記反応部12から延在して形成されるものの、前記反応部よりも直径が小さい吐出部(throat)13;(iv)前記吐出部13から延在して形成されるものの、前記吐出部13よりも直径が大きい頸部14;及び(v)前記頸部14から延在するものの、前記頸部14よりも直径が大きいケーシング(casing)15;を含み、下記の条件(1)及び(2)を満たすカーボンブラックの製造装置を用いることができる。
【0047】
-条件(1):[(頸部の長さL)/(頸部の直径D)]>3
-条件(2):[(吐出部の直径D’)/(頸部の直径D)]<0.6
【0048】
[(頸部の長さL)/(頸部の直径D)]の割合が3以下となり、条件(1)を満たしていないか、[(吐出部の直径D’)/(頸部の直径D)]が0.6を超えて、条件(2)を満たしていないと、ファーネスブラックのオイル吸収数が低くなり、比表面積も多少低くなって、熱処理を行っても、最終カーボンブラックの物性が本発明で意図したとおりに製造されにくい。
【0049】
また、上記のような(a)段階の熱処理前のカーボンブラックは、空気、燃料油及び炭化水素供給原料を投入して、不完全燃焼の条件下で、1500℃以上の温度、好ましくは、1500~1800℃の温度で反応させて製造することができる。
【0050】
<(b)段階>
(a)段階で製造されたファーネスブラックを不活性気体(窒素、アルゴン等)雰囲気下で、1800℃以上の高温で熱処理して、高結晶性カーボンブラックを製造することができる。通常、熱処理前のカーボンブラックのLcが略1.0~2.0nm程である場合は、ある程度結晶度が存在しているものと扱われて、略500~1000℃の温度で熱処理を行うことが通常である。
【0051】
しかし、本発明では、Lcが1.0~2.0nmの範囲であるカーボンブラックに対しても、結晶度を顕著に向上するために、1800℃以上の高温で熱処理する方案を採用している。
【0052】
カーボンブラックの熱処理温度が1800℃以下である場合、Lcが5.0nm以上であるカーボンブラックを製造しにくいし、これによって、燃料電池の膜電極接合体の触媒担持体として使用されるとき、逆電圧現象を防止しにくい。よって、本発明のカーボンブラックの熱処理温度は、好ましくは1800℃以上であり、より好ましくは2000℃以上であってもよいものの、工程の効率性を考慮して選択することができる。
【0053】
以下では、本発明の高結晶性カーボンブラックで形成された触媒担持体と、前記触媒担持体に担持された触媒とを含む電極、並びに電解質膜(membrane)を含む膜電極接合体について説明する。
【0054】
高結晶性カーボンブラックを含む膜電極接合体(MEA)
近年、新再生エネルギー及び環境の問題に関する関心が高まりつつ、リチウムイオンを適用した二次電池、及び水素と酸素とが結合して水を作る際に発生する化学エネルギを電気エネルギーに変換してエネルギーを得る原理で作動する燃料電池(fuel cell)が広く普及されている。これらの燃料電池は、電解質、燃料の種類及び作動温度によってリン酸型燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell,PAFC)、アルカリ型燃料電池(Alkaline Fuel Cell,AFC)、溶融炭酸塩燃料電池(Molten Carbonate Fuel Cell,MCFC)、固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell,SOFC)、水素イオン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cells,PEMFC)、及び直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell,DMFC)等に区分することができる。
【0055】
燃料電池の電極単位に該当する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)は、電極及び電解質膜(membrane)の接合体を意味する。前記電極は、アノード及びカソードを含み、各電極は、触媒担持体に燃料電池用触媒が担持された形態に形成され、アノード及びカソードは、電解質膜を介して接着して、膜電極接合体を形成するようになる。
【0056】
燃料電池の種類に応じて、アノード及びカソードに要求される物性が異なってくる。例えば、PEMFCの場合にはアノード、PAFCの場合にはカソードに非常に高い耐久性が要求されつつある。本発明によるカーボンブラックは、高い結晶性を有することから、燃料電池の駆動中に発生する触媒担持体の腐食及び損傷に対する抵抗が高いため、全体的に、燃料電池MEAでの触媒耐久性も向上させ、特に、逆電圧現象を防止又は抑制することができ、結果としては、燃料電池の効率及び寿命が増加する効果が発生し得る。
【0057】
よって、本発明による高結晶性カーボンブラックは、PEMFCの場合にはアノード、PAFCの場合にはカソードの触媒担持体に適用させることができ、さらには、リチウムイオンを用いる二次電池を始め、鉛蓄電池、アルカリ電池等においても、高い伝導性、高結晶性及び高純度を要求する導電材にも使用することができる。
【0058】
本発明のMEAの燃料電池用触媒は、従来に使用されているものを使用することができ、例えば、白金又は白金合金のうち選択されるのが好ましい。白金合金を用いる場合、電極触媒としての安定性及び活性をさらに付与することができる。白金合金は、好ましくは、白金のほか、白金族金属(例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、及びイリジウム)、金、銀、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びスズからなる群から選択される1種以上の金属と白金の合金であり、前記白金合金は、白金と合金する金属と白金の金属間化合物を含有することができる。
【0059】
本発明のMEAの電解質膜は、水素イオン伝導性に優れ、電子の伝導性があってはならず、イオンの移動に比べて燃料及び水の移動が少なければならないし、ガス浸透性が低いか抑制されなければならず、形状安定性及び酸化-還元に対する安定性の高い物性が要求される。
【0060】
燃料電池の種類によって使用される電解質膜の種類は相異するものの、PEMFC燃料電池は、高分子電解質膜を用いて例えば、スルホネート高フッ化ポリマー等の市販のNafion(Dupont社の商標名)膜を用いることができ、特に、本発明における電解質膜の種類が制限されるものではない。
【0061】
特に、本発明では、近年、需要量が高くなったPEMFCのアノードの触媒担持体として使用される場合、優れた逆電圧現象の抑制性に優れ、MEAの性能に優れる結果を奏することを実験から確認した。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下では、本発明の好ましい実施例によって、本発明の構成及び作用をより詳説することとする。但し、これは本発明の好ましい例示として提示されたものであり、如何なる意味でも、これによって本発明が制限されるとは解釈されない。
【0063】
実施例1及び比較例1-熱処理前のカーボンブラックの製造
本発明の
図1と同じ構造を有し、かつ、下記の表1に示したように、L/Dの値が3.3であり、D’/Dの値が0.53である製造装置において、原料物質である空気、燃料油及び炭化水素供給原料を投入して、不完全燃焼条件及び1500℃の温度で反応させて、ファーネスブラックを製造した。このとき、空気流量は4700Nm
3/hr、燃料油流量は287kg/hr、炭化水素供給原料流量は1910kg/hrであった。
【0064】
上記実施例1と同じ条件及び方法でファーネスブラックを製造するものの、本発明の下記の表1に示されたように、L/Dの値が1.9であり、D’/Dの値が0.72である製造装置を用いた点で相違している。
【0065】
【0066】
上記実施例1及び比較例1のファーネスブラックに対して、下記の方法でそれぞれ比表面積、OAN、d-spacing(002)、Lc、表面抵抗を測定しており、その結果を下記の表2に示した。
【0067】
【0068】
1)比表面積:Brunauer-Emmett-Teller(BET)数式を用いた窒素吸着による比表面積の分析(分析装備:Micromeritics ASAP2460)
2)OAN:ASTM D2414に基づいて分析:カーボンブラック100gにdibutyl phthalate oilが吸着する量(ml/100g)を測定
3)d-spacing(002)及びLc:X-ray diffraction(XRD)を分析して(分析装備:Panalytical Empyrean Alpha1)、下記の[数式1]のScherrer equationを用いて計算した。
[数式1]Scherrer equation:Lc=0.89λ/(β・Cosθ)。このとき、λは1.540598であり、βは4.98であり、θは24.74であった(rad)。
4)表面抵抗の測定:Isopropyl alcohol(IPA)溶媒に当該カーボンブラック10wt%の含量でultra-sonicを用いて分散させた後、製造されスラリーをアルミニウム電極板にドクターブレードを用いて50μm厚にコーティングする。コーティングされた電極は、約100℃で1時間乾燥させて、溶媒を揮発させた後、カーボンブラックがコーティングされた電極表面を抵抗測定機(Mitsubishi MCP-T610)で表面抵抗を測定した。
【0069】
上記表1及び表2から分かるように、同じ工程条件及び方法を適用しても、製造装置の[(頸部の長さL)/(頸部の直径D)]の値(=条件(1))及び [(吐出部の直径D’)/(頸部の直径D)]の値(=条件(2))によって製造されるカーボンブラックの物性が相違しており、本発明の熱処理前のファーネスブラックは、条件(1)及び(2)を満たす製造装置で容易に製造されることを確認した。
【0070】
実験例1~3及び比較実験例1-MEA実験
(1)MEAの製作
上記実施例1のカーボンブラックを熱処理せずに使用したものを比較実験例1で使用した。
【0071】
市販品であるVulcan XC 72R(Lc:2.2nm)のカーボンブラックを使用したものを比較実験例2で使用した。
【0072】
下記の表3に示した温度及び不活性気体(N2)雰囲気下で、高温熱処理を行うものの、熱処理温度を異にして後処理(熱処理)したカーボンブラックを、比較実験例3及び実験例1~3で使用し、下記の方法のようにMEAを製作した。
【0073】
◎アノード:カーボンブラックのそれぞれに対して、各カーボンブラックの重さに対し同量の白金(Pt)触媒を担持して製造した。
◎カソード:Tanaka社の10F50E触媒を使用した。
◎電解質膜:Gore社のNafion211を使用した。
◎MEAの製造:上記準備した材料を130℃の温度及び30kgf/cm2の圧力で熱圧着させて、膜電極接合体(MEA)を製造した。
【0074】
【0075】
(2)MEA評価
上記実験例1~3及び比較実験例1でそれぞれ製造したMEAに対して、次のような方法で性能及び逆電圧耐久性を評価しており、その結果を下記の表4に示した。
【0076】
◎MEA性能評価:温度65℃、RH(Relative humidity)100%、運転圧力1barで評価しており、I-Vcurveにおける0.6V電圧での電流値を測定した。
◎逆電圧耐久性:前記MEAを用いてanodeに水素の供給を中断させ、1.2A/cm2の電流を印加した後、5時間後の電圧降下率(drop rate)を測定した。
【0077】
【0078】
上記表4のように、本発明の製造方法に従って高温熱処理を行った実験例1~3は、Lcが4.0nm以上の優れた結晶性を有することができ、比表面積及びOAN値も、本発明の目標物性値を達成することができ、耐久性が要求される電極に使用されるのに好適であり、実際、MEA性能にも優れ、逆電圧降下率の絶対値も低くて、逆電圧現象を防止する効果に優れることが分かった。
【0079】
燃料電池の仕様及び実験条件によって相異するものの、本発明では、逆電圧降下率の絶対値は、20%以下であるのが好ましく、15%以下であるのがより好ましく、10%以下であれば最も好ましいと評価することができる。
【0080】
一方、比較実験例1は、特にLcが低かったため、実際、MEAでも実験例1と電流値は類似であっても、逆電圧降下率が高かった。
【0081】
比較実験例2は、従来に使用されるカーボンブラック材料として、Lcが多少高いのではあるものの、このように、Lcの高いカーボンブラックは、比表面積も共に高くなる傾向があるため、却って非常に高い比表面積を有するカーボンブラックは、耐久性が弱くなるところ、実際、MEA実験においても、逆電圧降下率の絶対値が高く示された。
【0082】
比較実験例3は、本発明の高温熱処理温度よりも低い温度である、1500℃で熱処理を行った結果、Lc値が4.0nmに及んでおらず、その結果、逆電圧降下率の絶対値が高いことが確認できた。
【0083】
以上のように、本発明について例示の図面を参照して説明したが、本発明は、本明細書で開示の実施例と図面によって限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内における通常の技術者にとって様々な変形を行えることは自明である。さらに、本発明の実施例を上述しながら、本発明の構成による作用効果を明示的に記載して説明しなかったとしても、当該構成によって予測可能な効果も認めるべきであることは当然である。
【符号の説明】
【0084】
10 カーボンブラックの製造装置
11 供給部
11a 空気供給部
11b 燃料供給部
12 反応部
13 吐出部
14 頸部
15 ケーシング
L 頸部の長さ
D 頸部の直径
D’ 吐出部の直径