(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】火災の抑制方法および火災の抑制用薬剤放射器
(51)【国際特許分類】
A62C 13/00 20060101AFI20250627BHJP
【FI】
A62C13/00
(21)【出願番号】P 2021065508
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2020080214
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229405
【氏名又は名称】日本ドライケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 学
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】遠山 榮一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 千秋
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0186831(US,A1)
【文献】特開2004-130057(JP,A)
【文献】特開2008-119303(JP,A)
【文献】特開2006-075388(JP,A)
【文献】特開2005-058994(JP,A)
【文献】特開昭61-206468(JP,A)
【文献】特開2003-183635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の蒸発抑制や可燃物に対する防燃効果を有する薬剤を貯留する貯蔵容器と、前記貯蔵容器と連通し前記薬剤の容量1リットルに対して25平方ミリメートル以上となる断面積を有する流通経路と、前記流通経路と連通し前記薬剤を拡散させつつ吐出する開口部とを備え、放火テロのような、燃料を撒いて火をつけるような犯罪行為に対し、短時間で、広範囲に、燃料の蒸発抑制や可燃物に対する防燃効果を有する薬剤を放射
し、前記薬剤の放射範囲の中心を水平方向に設定した場合、前記薬剤が水平方向で30度~150度の範囲、垂直方向で15度~90度の範囲に放射される、着火や爆発を抑制する火災の抑制用薬剤放射器。
【請求項2】
前記薬剤を、10秒未満で放射し終わることを特徴とする、請求項
1に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
【請求項3】
前記薬剤を、1リットル当たり4平方メートル以上に放射することを特徴とする、請求項
1又は
2に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
【請求項4】
前記開口部は金網を備え、前記薬剤が、空気を巻き込み泡の状態となって外部に放出されるように構成されている、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
【請求項5】
前記薬剤は、ふっ素系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、その他の界面活性剤、リン酸塩類防燃剤、増粘剤、防炎剤、及び凝固点降下剤からなる群から選択される少なくとも2種を含有する、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
【請求項6】
請求項
1~
5のいずれか一項に記載の火災の抑制用薬剤放射器から前記薬剤を放射する、火災の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放火テロのような作為的な火災を未然に防ぐための、また、火災の延焼防止のための、火災の抑制方法および火災の抑制用薬剤放射器に関する。
【背景技術】
【0002】
人が意図的に可燃性液体たとえばガソリンや灯油のような燃料を撒いて火を着けることによって発生する放火テロのような作為的な火災は、未然に防ぐことは難しく、特に燃料を撒かれた後であって時間が経過した後に着火されると爆発燃焼するだけでなく、着火後の消火対応は極めて困難である。
意図的でない可燃物(事故や不注意により漏洩や拡散してしまった可燃物)に対しても、事前に火災の抑制を効果的に行うことが望まれている。
【0003】
そこで、薬剤を扇状に放射するノズルを用いて、薬剤を可燃物(例えば文化財の壁)に対して延焼防止の効果を生じる厚さで隙間なく付着させ火災の延焼を防止する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような火災の延焼を防止する方法には、可燃性液体のような燃料を用いた放火テロのような作為的な火災を未然に防ぐという課題は認識されていない。また、さらに強力に火災の抑制を行うことが望まれている。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、放火テロのような作為的な火災を未然に防ぐため、撒かれた燃料(可燃性液体)に着火させない、または着火させても燃え広がりを避難するまでの時間的余裕を得る、火炎を抑制することであり、さらに、作為的でない火災にも有効に火災を抑制する、火災の抑制方法および火災の抑制用薬剤放射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による火災の抑制方法の特徴は、
放火テロのような、燃料を撒いて火をつけるような犯罪行為に対し、短時間(例えば、10秒未満)で、広範囲に、燃料の蒸発抑制や可燃物に対する防燃効果を有する薬剤(例えば、後述する薬剤としての火災抑制剤99など)を放射することにより、着火や爆発(爆燃又は爆発燃焼)を抑制することである。さらに、事故や不注意による燃料の漏洩や拡散、一般的な可燃物に対しても火災を抑制することである。
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
[1] 燃料の蒸発抑制や可燃物に対する防燃効果を有する薬剤を貯留する貯蔵容器と、前記貯蔵容器と連通し前記薬剤の容量1リットルに対して25平方ミリメートル以上となる断面積を有する流通経路と、前記流通経路と連通し前記薬剤を拡散させつつ吐出する開口部とを備え、放火テロのような、燃料を撒いて火をつけるような犯罪行為に対し、短時間で、広範囲に、燃料の蒸発抑制や可燃物に対する防燃効果を有する薬剤を放射し、前記薬剤の放射範囲の中心を水平方向に設定した場合、前記薬剤が水平方向で30度~150度の範囲、垂直方向で15度~90度の範囲に放射される、着火や爆発を抑制する火災の抑制用薬剤放射器。
[2]
前記薬剤を、10秒未満で放射し終わることを特徴とする、[1]に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
[3]
前記薬剤を、1リットル当たり4平方メートル以上に放射することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
[4]
前記開口部は金網を備え、前記薬剤が、空気を巻き込み泡の状態となって外部に放出されるように構成されている、[1]~[3]のいずれか一項に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
[5]
前記薬剤は、ふっ素系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、その他の界面活性剤、リン酸塩類防燃剤、増粘剤、防炎剤、及び凝固点降下剤からなる群から選択される少なくとも2種を含有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の火災の抑制用薬剤放射器。
[6]
[1]~[5]のいずれか一項に記載の火災の抑制用薬剤放射器から前記薬剤を放射する、火災の抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、放火テロのような作為的な火災を未然に防ぐため、撒かれた燃料に着火させない、または着火させても燃え広がりを避難するまでの時間的余裕を得る、火炎を抑制することができる。さらに、通常の火災においても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態における加圧式の火災の抑制用薬剤放射器の全体を示す背面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の一実施形態における加圧式の火災の抑制用薬剤放射器の全体を示す側面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の一実施形態における加圧式の火災の抑制用薬剤放射器の全体を示す上面図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の実施形態における蓄圧式の火災の抑制用薬剤放射器の全体を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態の火災の抑制用薬剤放射器の流通経路と、従来の消火器の流通経路とを示す図である。
【
図4】
図4は、F型ノズルのノズル構造を示す図である。
【
図5】
図5は、フォームヘッドノズルのノズル構造を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、拡散ノズルのノズル構造を示す上面図である。
【
図6B】
図6Bは、拡散ノズルのノズル構造を示す側面図である。
【
図6C】
図6Cは、拡散ノズルのノズル構造を示す正面図である。
【
図7A】
図7Aは、2連角度付き配置のフォームヘッドのノズル構造を示す上面図である。
【
図7B】
図7Bは、2連角度付き配置のフォームヘッドのノズル構造を示す側面図である。
【
図8A】
図8Aは、低反動機構としての円周方向放射機構を示す上面図である。
【
図8B】
図8Bは、低反動機構としての円周方向放射機構を示す側面図である。
【
図8C】
図8Cは、低反動機構としての円周方向放射機構を示す上面図である。
【
図9A】
図9Aは、タイプAのノズルの防護範囲面積を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、タイプBのノズルの防護範囲面積を示す図である。
【
図9C】
図9Cは、タイプCのノズルの防護範囲面積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態について図面に基づいて説明する。以下の説明において、上又は下の方向は、火災の抑制用薬剤放射器10を正立させた状態(
図1B)における上又は下を意味する。
【0012】
(火災の抑制用薬剤放射器10の構成(加圧式))
図1A~
図1Cは、本発明の一実施形態の対象となる加圧式の火災の抑制用薬剤放射器を示す三面図である。
図1Aは、火災の抑制用薬剤放射器10の背面図、
図1Bは、火災の抑制用薬剤放射器10の側面図、
図1Cは、火災の抑制用薬剤放射器10の上面図である。
【0013】
本実施形態の火災の抑制用薬剤放射器10(以下、放射器10と呼ぶ)は、加圧式と称されるものである。放射器10は、耐圧容器11を有する。耐圧容器11の中には、人為的に撒かれた燃料(可燃性液体)の蒸発を抑制するとともに燃料への着火および燃料の爆発燃焼を抑制する薬剤としての火災抑制剤99と、第三のガス導入管15と、第一の吐出管(第一流通経路)17とが、封入されている。第一の吐出管17はサイホン管とも呼ばれている。
【0014】
耐圧容器11の外には、ノズルユニット50が耐圧容器11に取り付けられている。ノズルユニット50は、第二の吐出管(第二流通経路)18と、第三の吐出管(第三流通経路)19と、ノズル55と、第一のガス導入管57と、第二のガス導入管58と、ハンドル60と、ガスカートリッジ70とが、取り付けられている。第二の吐出管(第二流通経路)18は、第一の吐出管17から経由してきた火災抑制剤99を第三の吐出管19及び開口20に向けて導出する。第三の吐出管(第三流通経路)19は、第二の吐出管18から経由してきた火災抑制剤99を開口20に向けて導出する。ノズル55は、第三の吐出管19を経由してきた火災抑制剤99を開口20から吐出させて火災抑制剤99を火災となる対象物である可燃物200に散布(放射)する。第一のガス導入管57は、ガスカートリッジ70から経由してきたガスを第二のガス導入管58及び第三のガス導入管15に向けて導出する。第二のガス導入管58は、第一のガス導入管57から経由してきたガスを第三のガス導入管15に向けて導出する。ガスカートリッジ70は、散布(放射)のための圧力源となる加圧用のガス容器であり、ガス容器には、例えば、窒素ガスやヘリウムガス、炭酸ガス等が封入されている。ガス容器には、好ましくは発泡をよくするために窒素が封入されてもよい。
【0015】
また、ノズルユニット50には、キャップナット51が設けられており、ノズルユニット50を耐圧容器11に取り付け可能に構成するとともに、耐圧容器11内の火災抑制剤99が外部に漏れないように構成されている。さらに、ノズルユニット50には、手提げハンドル52が取り付けられており、放射器10を人(操作者)が運搬可能に構成されている。さらにまた、ノズルユニット50には、ガスカートリッジ70をカバーするような破線で示すガスカートリッジカバー72が取り付けられていても良い。なお、ガスカートリッジ70は、耐圧容器11内に封入されるように構成されていても良い。
【0016】
耐圧容器11は、アルミ材などの金属で形成されている。耐圧容器11は、
図1A及び
図1Cに示すように直径が略一定の略円筒状の円筒部12と、縮径して略椀状に湾曲した形状を有する肩部13とを有し、円筒部12と肩部13とはシームレスに一体に形成されている。なお、円筒部12と肩部13とは、必ずしもシームレスの必要はなく溶接などにより接合がされていても良い。
【0017】
ハンドル60は、固定されている固定ハンドル部61と、固定ハンドル部61に対して上下方向に移動可能に構成されている可動ハンドル部62とからなる。また、ハンドル60には、可動ハンドル部62の上下方向の移動を規制するための安全ロック63と、安全ロック63をロック状態に固定するピン安全栓64とが取り付けられている。可動ハンドル部62は、ピン安全栓64をハンドル60から取り外し、安全ロック63をロック状態からアンロック状態にした状態において、ピン66を中心にして固定ハンドル部61に対して回転でき、可動ハンドル部62の自由端が上下動できる。そして、ハンドル60の操作に基づいてカッター等からなるポンチ65を作動させ、ガスカートリッジ70の封板71を破裂させる(破る)ように構成されている。ポンチ65によって封板71が破裂したガスカートリッジ70は、ガス(例えば、窒素ガスや炭酸ガス、ヘリウムガス等)を放出し、第一のガス導入管57、第二のガス導入管58、第三のガス導入管15を通じて耐圧容器11内にガスを放出させる。
【0018】
火災抑制剤99は、耐圧容器11内に放出されたガスの圧力を利用して加圧され、第一の吐出管17、第二の吐出管18、第三の吐出管19を通過して、ノズル55の開口20から散布(放射)され、火災を抑制すべき対象物としての可燃物200に放出される。なお、第一の吐出管17と第二の吐出管(第二流通経路)18との間にも封板(図示しない)が設けられており、ガスの圧力によって封板が破裂するよう構成されている。
【0019】
(放射器10の構成(蓄圧式))
図1A~
図1Cでは加圧式の放射器10を用いて説明をしてきたが、蓄圧式と称される放射器10であっても良い。ここで、
図2は、本発明の別の実施形態の対象となる蓄圧式の火災の抑制用薬剤放射器10を示す図である。蓄圧式の放射器10の耐圧容器11の中には、人為的に撒かれた燃料(可燃性液体)の蒸発を抑制するとともに燃料への着火および燃料の爆発燃焼を抑制する薬剤としての火災抑制剤99とともに、散布(放射)のための圧力源となるガス(例えば、窒素ガス+ヘリウムガス等)が、所定の圧力(例えば、約0.7~約0.9メガパスカル)で封入(蓄圧)されている。また、蓄圧式の放射器10の耐圧容器11の中には、第一の吐出管17が封入されている。
【0020】
耐圧容器11の外には、ノズルユニット50が耐圧容器11に取り付けられている。ノズルユニット50は、第一の吐出管17から経由してきた火災抑制剤99を第三の吐出管19及び開口20に向けて導出する第二の吐出管(第二流通経路)18と、第二の吐出管18から経由してきた火災抑制剤99を開口20に向けて導出する第三の吐出管(第三流通経路)19と、第三の吐出管19を経由してきた火災抑制剤99を開口20から吐出させて火災抑制剤99を火災となる対象物である可燃物200に散布(放射)するノズル55と、ハンドル60とが取り付けられている。
【0021】
また、ノズルユニット50には、キャップナット51が設けられており、ノズルユニット50を耐圧容器11に取り付け可能に構成するとともに、耐圧容器11内のガス及び火災抑制剤99が外部に漏れないように構成されている。
【0022】
耐圧容器11は、アルミ材などの金属で形成されている。耐圧容器11は、直径が略一定の略円筒状の円筒部12と、縮径して略椀状に湾曲した形状を有する肩部13とを有し、円筒部12と肩部13とはシームレスに一体に形成されている。なお、円筒部12と肩部13とは、必ずしもシームレスの必要はなく溶接などにより接合がされていても良い。
【0023】
ハンドル60は、固定されている固定ハンドル部61と、固定ハンドル部61に対して上下方向に移動可能に構成されている可動ハンドル部62とからなる。また、ハンドル60には、可動ハンドル部62の上下方向の移動を規制するための安全ロック63と、安全ロック63をロック状態に固定するピン安全栓64とが取り付けられている。可動ハンドル部62は、ピン安全栓64をハンドル60から取り外し、安全ロック63をロック状態からアンロック状態にした状態において、ピン66を中心にして固定ハンドル部61に対して回転でき、可動ハンドル部62の自由端が上下動できる。そして、ハンドル60の操作に基づいてカッター等からなるポンチ65を下側に向かって作動させ、第一の吐出管17と第二の吐出管(第二流通経路)18との間に設けられた部材であって耐圧容器11内のガス及び火災抑制剤99が外部に漏れないようにする部材である封板71を破裂させる(破る)ように構成されている。ポンチ65によって封板71が破裂すると、ガスの圧力によって火災抑制剤99が第一の吐出管17、第二の吐出管18、第三の吐出管19を通過して、ノズル55の開口20から散布(放射)され、火災を抑制すべき対象物としての可燃物200に放出される。
【0024】
(火災抑制剤の種類)
ここで、放射器10の耐圧容器11に封入される火災抑制剤99(薬剤)の種類としては、以下のような薬剤を使用している。
(1)ふっ素系界面活性剤を含有した薬剤、例えばふっ素系両性界面活性剤、ふっ素系アニオン界面活性剤、ふっ素系ノ二オン界面活性剤などを含有した薬剤、好ましくはふっ素系両性界面活性剤(ケマーズ(株)製、登録商標、CapstoneTM1157等)を含有した薬剤
(2)炭化水素系界面活性剤を含有した薬剤、例えば炭化水素系ノ二オン界面活性剤、炭化水素系アニオン界面活性剤、炭化水素系両性界面活性剤などを含有した薬剤、好ましくは炭化水素系ノニオン界面活性剤(花王(株)製、登録商標、マイドール10等)を含有した薬剤
(3)シリコン系界面活性剤を含有した薬剤、好ましくはポリエーテル型シリコン系界面活性剤を含有した薬剤
(4)その他の界面活性剤を含有した薬剤、例えば動物性蛋白質、植物性蛋白質、サポニンなどを含有した薬剤、好ましくは動物性蛋白質を含有した薬剤
(5)リン酸塩類防燃剤を含有した薬剤、例えば酸性リン酸エステル、正リン酸エステル、縮合リン酸エステル、亜リン酸エステルなどを含有した薬剤、好ましくは酸性リン酸エステル(メチルアシッドフォスフェート)を含有した薬剤
(6)増粘剤を含有した薬剤、例えばキサンタンガムやグワーガム、アラビアガムなどの天然ガムや、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースなどの多糖類、ゼラチン、寒天などを含有した薬剤、好ましくはキサンタンガムを含有した薬剤
(7)凝固点降下剤を含有した薬剤、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルカルビトール、へキシルカルビトールなどのグリコール類、グリセリン、ソルビトールなどのアルコール類などを含有した薬剤、好ましくはエチレングリコールを含有した薬剤
(8)防炎剤(難燃剤)を含有した薬剤、例えば尿素、アンモニウム塩などの窒素化合物や、グワニジン塩類などを含有した薬剤、好ましくは尿素を含有した薬剤
【0025】
封入される火災抑制剤99としては、上記(1)~(5)の何れか一つであっても良いし、複数を混合させたものであっても良い。封入される火災抑制剤99は、特に、上記(1)~(8)のうち少なくとも2種を含むことが好ましい。また、火災を抑制できる薬剤であればどのような薬剤であっても良く、火災抑制剤99の代わりに消火のための薬剤(消火薬剤、土木・建築用起泡剤、食品用起泡剤、化粧品用起泡剤、泡にならない防燃剤・防炎剤・難燃剤・水溶性の難燃塗料・難燃樹脂など)を用いても良い。また、泡の状態で散布(放射)される火災抑制剤99を使用することが好適である。(1)のような火災抑制剤99は、泡の状態から水溶液の状態に戻る際に燃料(特に可燃性液体)の上に水成膜を生成して燃料を覆うため、燃料の可燃性蒸気の蒸発や着火を抑制することができるようになっている。また、本発明の効果を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えばpH調整剤(例えばモノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアミン類や、四ホウ酸ナトリウム、硫酸や硝酸などの無機酸や、酢酸、クエン酸などの有機酸などで、酸性を中和する場合はモノエタノールアミン、アルカリ性を中和する場合は硫酸が好ましい)や防錆剤(ベンゾトリアゾールなどの芳香族化合物など)がさらに含まれていてもよい。なお、封入される火災抑制剤99の容量CP(薬剤量CP)は、従来の消火器と同様のタイプである手提げタイプの場合、2リットル前後となっているが、これよりも少ない量(例えば、1リットル)であっても良いし、多い量(例えば、6リットル)であっても良い。また、火災抑制剤99に色を付けたり、臭いを付けたりしても良い。このように色を付けたり、臭いを付けたりすることにより、散布(放射)された火災抑制剤99が放火テロの犯人の衣服等に付着することで、容易に放火テロの犯人を特定することができるようになっている。
【0026】
(火災抑制剤の効果)
火災抑制剤99の効果を、以下に示す。
(1)ふっ素系界面活性剤を含有した薬剤は、撒かれた燃料(特に可燃性液体)の上に水成膜を形成し、燃料の蒸発を防止する効果を有する。
(2)炭化水素系界面活性剤を含有した薬剤は、撒かれた燃料(特に可燃性液体)の上に泡を形成し、燃料の蒸発を防止すると共に乳化させる効果を有する。
(3)シリコン系界面活性剤を含有した薬剤は、撒かれた燃料(特に可燃性液体)の上に泡を形成し、燃料の蒸発を防止すると共に乳化させる効果を有する。
(4)その他の界面活性剤を含有した薬剤は、撒かれた燃料(特に可燃性液体)の上に泡を形成し、燃料の蒸発を防止すると共に乳化させる効果を有する。
(5)リン酸塩類等の防燃剤を含有した薬剤は、木材、衣類、紙、樹脂等の一般的な可燃物の燃焼を抑制する効果を有する。
(6)増粘剤を含有した薬剤は、泡の状態で散布された後、泡の状態を長時間保持できる。また、布やボードなどへの付着効果が増大する。
(7)凝固点降下剤を含有した薬剤は、火災抑制剤を凍りにくくすることができる。
(8)防炎剤(難燃剤)を含有した薬剤は、リン酸塩類と同様、木材、衣類、紙、樹脂等の一般的な可燃物の燃焼を抑制する効果を有する。
【0027】
(放射器10のタイプ)
このような耐圧容器11を有する放射器10のタイプは、手提げタイプ(従来の消火器と同様のタイプであって、封入される薬剤量CPが0.8~10リットル(好ましくは1~6リットル)の耐圧容器11の大きさのタイプ)と、携帯タイプ(持ち運びが可能なエアゾールのタイプであって、例えば、封入される薬剤量CPが1リットル以下(0.2~0.5リットルが好ましい)の耐圧容器11の大きさのタイプ)とがある。また、手提げタイプや携帯タイプの放射器10を、特定の場所(例えば、建物、乗り物、通路、出入り口等であって避難路を確保する場所に向けて火災抑制剤99を散布させることが可能な場所、例えば壁や天井等)に固定して取り付けておく固定タイプもある。なお、放射器10の大きさについてはこれに限られるものではなく、消火器同様に持ち運び可能な大きさの放射器10であれば手提げタイプ、人が携帯可能な放射器10であれば携帯タイプとする。
【0028】
本実施形態の手提げタイプの2リットルの放射器10の寸法は、例えば
図1A~
図1Cに示すように高さが520ミリメートル、横幅(ノズルユニットの横方向の長さ)が266ミリメートル、耐圧容器11の直径が128ミリメートルとなっている。これは一般的な2リットルの消火器と略同じ寸法となっているため、従来の消火器の部品を共通部品として放射器10に使用することができるようになっている。このように放射器10に消火器で使用する部品を共通使用することによって、放射器10自体のコストを抑えることができ、また、放射器10を消火器のリサイクルシステムに対応させることができるようになっている。ここで示した寸法に関しては一例であり、ここで示した寸法と異なる寸法の放射器10であっても良く、耐圧容器11に封入する薬剤量に応じて寸法が決定されるようになっていれば良い。
【0029】
手提げタイプ、携帯タイプにおいては、上述したように、ハンドル60の操作に基づいて火災抑制剤99をノズル55の開口20から散布(放射)し、可燃物200に放出されるように構成されている。また、携帯タイプにおいては、一般的なエアゾールのタイプのようにノズル55を下に押下させることに基づき火災抑制剤99をノズル55の開口20から散布(放射)し、可燃物200に放出されるように構成されているものを含む。
【0030】
固定タイプにおける散布(放射)の方法は、手提げタイプ、携帯タイプと同様であるが、遠隔操作を行うリモコン等を使用して封入されている火災抑制剤99をノズル55の開口20から散布(放射)するように構成されていてもよい。例えば、銀行のカウンタ周辺の範囲であって避難路が確保可能な範囲に対して火災抑制剤99を散布(放射)可能な場所に固定タイプの放射器10を固定して取り付けておく。そして、カウンタ周辺に意図的に燃料(可燃性液体)が撒かれた場合、カウンタの業務を行っている人がリモコンの散布スイッチを操作することによって、火災抑制剤99をカウンタ周辺であって避難路が確保可能な範囲に散布(放射)できるように構成されている。このように固定式タイプの放射器10の火災抑制剤99を短時間で広範囲に散布(放射)することによって、避難路を確保することが可能なように構成されている。
【0031】
このような固定タイプの放射器10は、従来の固定式のスプリンクラー等に対して大規模な工事が不要なため非常に安価な防災対策が可能となっており、さらに省スペースな防災対策となっている。また、固定タイプの放射器10は、遠隔操作によって火災抑制剤99をノズル55の開口20から散布(放射)するように構成されているため、放火テロの犯人に気づかれず且つ威嚇せずに火災を抑制することが可能となっている。なお、固定タイプの放射器10は、手提げタイプよりも薬剤量が多いものであっても良く、例えば2~20リットル程度(好ましくは2~16リットル程度)の量の火災抑制剤99が封入される放射器10であっても良い。
【0032】
(短時間放射機構の構成)
本実施形態の放射器10は、短時間で耐圧容器11に封入されている火災抑制剤99を散布(放射)可能な機構として短時間放射機構を備えている。短時間放射機構は、加圧方式(加圧手段)と、開放機構と、流通経路とから構成されている。耐圧容器11に封入されている薬剤が2リットルの場合、従来の消火器であると、散布(放射)が完了するまでに10秒以上の時間を要するように構成されている。一方、本実施形態の放射器10の短時間放射機構であれば、散布(放射)の開始から完了までに10秒未満、好ましくは5秒以内、特に好ましくは2秒以内の時間を要するように構成されている。
【0033】
(加圧方式(加圧手段))
加圧方式としては、ガスカートリッジ70の封板71を一気に破裂させて圧力を一瞬にして開放する方式(例えば、上述した加圧式)、耐圧容器11に圧力を常時貯めている状態から一瞬にして開放する方式(例えば、上述した蓄圧式)等が例示できる。なお、加圧方式は、耐圧容器11の圧力を高めて一瞬にして耐圧容器11内の火災抑制剤99を放出できる方式であればどのような方式であっても良い。
【0034】
(開放機構)
放射器10の開放機構は、上述した加圧式と、上述した蓄圧式と、が例示できる。
【0035】
(流通経路)
流通経路は、第一流通経路17と、第二流通経路18と、第三流通経路19とから構成されている。本実施形態の放射器10の流通経路16(第一の吐出管17又は第二の吐出管18又は第三の吐出管19)の断面積Sは、従来の消火器の流通経路の断面積に比べて大きく構成されている。なお、第一流通経路(第一の吐出管)17の断面積S1と、第二流通経路(第二の吐出管)18の断面積S2と、第三流通経路(第三の吐出管)19の断面積S3とのうち一番小さい断面積を本実施形態の流通経路16の断面積Sとする。本実施形態における封入される薬剤量CPが2リットルであって、ノズル55が1つの放射器10の場合、例えばノズル55の断面は円状となっており、流通経路16(例えば、第三の吐出管19)の断面積SであるS3は、250平方ミリメートルの大きさで構成されている。
【0036】
次に、
図3を用いて、短時間で薬剤を放射することが可能な流通経路の構造を説明する。
図3は、本実施形態の火災の抑制用薬剤放射器10の流通経路と、従来の消火器の流通経路とを示す図である。
図3に示す実施形態の放射器10の流通経路16の断面積S、つまり、一番小さい断面積は、封板71が設けられている第二流通経路18の断面積S2となっている。そして、第三流通経路19の断面積S3と、第1流通経路の断面積S1とは同じ面積となっており、断面積S2よりも大きい面積となっている。なお、S2はS1やS3よりも若干小さい面積となっており、S2/S3やS2/S1が1に近い値となるようになっている。なお、封板71を第一流通経路17に設ける場合は、断面積S1が一番小さい断面積となっていてもよい。
【0037】
従来の消火器の流通経路の断面積、つまり、一番小さい断面積は、ノズルの断面積S0となっている。そして、ノズルの断面積S0は放射器10の流通経路の断面積S1、S2、S3よりも小さい面積となっており、S0/S1、S0/S2、S0/S3が1より小さい値(例えば、約0.5、約0.3、さらには約0.1)となるようになっており2リットルの薬剤を放射し終わるのに10秒以上の放射時間がいる。このような関係となるように放射器10の流通経路16を構成することによって、すなわちノズルの断面積S0に対する放射器10の流通経路の断面積S1、S2、S3との比(S1/S0、S2/S0、S3/S0)を1より大きくすることによって、従来の消火器より短時間で薬剤を放射することが可能となる。なお、本実施形態の放射器10の流通経路の長さ(
図3の放射器10の流通経路の入口から出口までの距離)と、従来の消火器の流通経路の長さ(
図3の消火器の流通経路の入口から出口までの距離)とは同じ長さであってもよい。また、本実施形態の放射器10と、従来の消火器とに封入される薬剤量CPは2リットルとなっているが、その他の薬剤量であっても良い。
【0038】
また、
図1C、
図7A、
図7Bで示すようにノズル55が2個の場合のように、例えば封入される薬剤量CPが2リットルの放射器10であって、ノズル55が複数ある放射器10の場合もノズル55の断面は円状でもよい。この場合、ノズル55が複数ある放射器10の場合の一の流通経路16(第三の吐出管19)の断面積であるS3は、ノズル55が1個の場合よりも小さい面積である125平方ミリメートルの大きさで構成されている。封入される薬剤量CPが2リットルの放射器10において、2リットルの薬剤が散布(放射)完了までに要する時間が、ノズルが1個の場合とノズルが複数個の場合とで同じになる場合は、ノズルが1個の場合の1の流通経路16の断面積(例えば250平方ミリメートル)と、ノズルが複数個の複数の流通経路16の断面積の合計(例えば125平方ミリメートル×2個=250平方ミリメートル)と、が同じになるように構成されている。このように構成することによって、ノズル55を複数個設けた場合であってもノズル55が1個の場合と同じ性能を有することができるようになっている。なお、ノズル55が複数個の場合は、ノズル55に繋がる流通経路である第三の吐出管19の断面積S3が一番小さくなっている必要がある。
【0039】
本実施形態の加圧式で例示した断面積Sの大きさは、S1>S2>S3の順となっている。火災抑制剤99が流れ始める側の流通経路である第一の吐出管17の断面積S1が最も大きくなっており、ノズル55に最も近い第三の吐出管19の断面積S3(S1の約80%の断面積)が最も小さくなるように構成されている。また、本実施形態の蓄圧式で例示した断面積Sの大きさは、S1=S2=S3となっており、全ての流通経路の断面積が同じとなっている。一般的な蓄圧式の場合、第一の吐出管17と第二の吐出管18との間にバルブを設け、ハンドル60の操作に基づいてバルブが開くように構成されている構造のため、S2がS1よりも小さくなるように構成されているが、本実施形態の蓄圧式では、
図2に示すように第一の吐出管17と第二の吐出管18との間に封板71を設けることで、S1とS2とを同じ断面積とすることができるため、火災抑制剤99の流速を減少(変化)させることなく、下流側の流通経路に火災抑制剤99を流下させることができるようになっている。なお、
図1A~
図1Cで示した加圧式の断面積Sについても、S1=S2=S3となるように構成しても良く、そのように構成することによって、火災抑制剤99の流速を減少(変化)させることなく、下流側の流通経路に火災抑制剤99を流下させることができるようになるという効果を奏する。なお、流通経路16の断面の形状は、円形状の他に楕円形状、矩形状等の形状であっても良い。
【0040】
また、本実施形態の放射器10の耐圧容器11に貯蔵された火災抑制剤の容量CP(薬剤量CP)と、流通経路16の断面積Sとの比は、以下の関係式となるように構成されている。
(関係式)(耐圧容器11に貯蔵された薬剤量CP):(流通経路16の断面積S)=(2リットル):(50平方ミリメートル以上、好ましくは80平方ミリメートル以上、より好ましくは100平方ミリメートル以上、上限値は、例えば600平方ミリメートル以下、好ましくは500平方ミリメートル以下、より好ましくは400平方ミリメートル以下)
【0041】
1リットルの場合は、薬剤量CP:断面積S=1リットル:(25平方ミリメートル以上、好ましくは40平方ミリメートル以上、より好ましくは50平方ミリメートル以上、上限値は、例えば300平方ミリメートル以下、好ましくは250平方ミリメートル以下、より好ましくは200平方ミリメートル以下)となる。このように、容量CPが1リットルに対して25平方ミリメートル以上となる断面積Sを用いることによって、耐圧容器11内の火災抑制剤99の容量CPに関わらず10秒未満で耐圧容器11に封入されている火災抑制剤99を散布(放射)可能に構成されている。なお、容量CPと断面積Sとの比が1リットル:25平方ミリメートル以上となる例を示したが、好適な例は、容量CP:断面積S=1リットル:125平方ミリメートル以上である。なお、一瞬にして耐圧容器11内の火災抑制剤99が放出できるように、低抵抗の流通経路16を用いることが好適である。
【0042】
耐圧容器11に封入されている薬剤量CPを10秒から2秒以内で散布(放射)可能にする流通経路16の断面積Sは以下の通りである。
(携帯タイプ1)0.2リットルの薬剤量CPの場合、5平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは25平方ミリメートル以上、より好ましくは50平方ミリメートル以上であり、上限値は300平方ミリメートル以下でよい。
(携帯タイプ2)0.5リットルの薬剤量CPの場合、12.5平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは25平方ミリメートル以上、より好ましくは62.5平方ミリメートル以上であり、上限値は300平方ミリメートル以下でよい。
(手提げタイプ1)1リットルの薬剤量CPの場合、25平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは125平方ミリメートル以上であり、上限値は300平方ミリメートル以下でよい。
(手提げタイプ2)2リットルの薬剤量CPの場合、50平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは250平方ミリメートル以上であり、上限値は600平方ミリメートル以下でよい。
(手提げタイプ3)3リットルの薬剤量CPの場合、75平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは375平方ミリメートル以上であり、上限値は900平方ミリメートル以下でよい。
(手提げタイプ4)4リットルの薬剤量CPの場合、100平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは500平方ミリメートル以上であり、上限値は1200平方ミリメートル以下でよい。
(手提げタイプ5)5リットルの薬剤量CPの場合、125平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは625平方ミリメートル以上であり、上限値は1500平方ミリメートル以下でよい。
(手提げタイプ6)6リットルの薬剤量CPの場合、150平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは750平方ミリメートル以上であり、上限値は1800平方ミリメートル以下でよい。
(固定式タイプ1)16リットルの薬剤量CPの場合、400平方ミリメートル以上の断面積Sが必要である。断面積Sは、好ましくは2000平方ミリメートル以上であり、上限値は4800平方ミリメートル以下でよい。
【0043】
例えば、耐圧容器11に封入されている薬剤量CPを2秒以内に散布(放射)する場合、断面積S[平方ミリメートル]の下限値=125×薬剤量CP[リットル]となるように構成されている。また、耐圧容器11に封入されている薬剤量CPを5秒以内に散布(放射)する場合、断面積S[平方ミリメートル]の下限値=50×薬剤量CP[リットル]となるように構成されている。また、耐圧容器11に封入されている薬剤量CPを10秒以上で散布(放射)する場合(従来の消火器の場合)、断面積S[平方ミリメートル]の上限値=25×薬剤量CP[リットル]となるように構成されている。
【0044】
流通経路16の長さが同じで、その流通経路16の断面積Sを一定とした場合、断面積Sと薬剤量CPは比例する。ここで、流量をQ[リットル/分]、流通経路の直径をΦD[ミリメートル]、圧力をP[メガパスパル]、流量係数をCpとすると、最も小さい断面積S(流通経路16の長さはほぼ変わらないとする)に対する流量Qは、以下のような式で表すことができる。
Q=Cp×ΦD^2×(√P)×(√0.098)
ただし、流量係数Cpは、流通経路の直径φDや長さだけでなく、その断面形状や粗さ、素材によっても変化し、薬剤の物性やノズル構造によっても変化することは言うまでもない。
【0045】
(広範囲放射機構の構成)
本実施形態の放射器10は、火災抑制剤99として水成膜泡薬剤を泡の状態で広範囲の防護範囲面積に散布(放射)可能な機構として広範囲放射機構を備えていてもよい。広範囲放射機構は、ノズル構造と、ノズル数と、ノズル配置構造とから構成されている。本実施形態の放射器10の広範囲放射機構であれば、散布(放射)される火災抑制剤99は、1リットルあたり1平方メートル以上の面積に散布(放射)可能となっているが、これよりも広範囲の防護範囲面積(4平方メートル以上の面積)に散布(放射)されるように構成(広範囲放射機構)されていても良い。なお、火災の抑制効果を十分に確保するためには、散布(放射)面積の上限値は、例えば1リットルあたり10平方メートル程度である。
【0046】
また、火災抑制剤99が散布(放射)される際、泡の状態で散布(放射)されるが、その際の発砲倍率は2倍以上となるように構成されている。なお、発泡倍率は、特に4倍以上で散布(放射)されるように構成されることが好適である。発泡倍率については、1リットルの火災抑制剤99を散布(放射)し、1リットルの容積(体積)となることを発泡倍率が1倍と呼び、1リットルの火災抑制剤99を散布(放射)し、2リットルの容積(体積)となることを発泡倍率が2倍と呼び、1リットルの火災抑制剤99を散布(放射)し、4リットルの容積(体積)となることを発泡倍率が4倍と呼ぶ。なお、発泡倍率が高いほど、広範囲の防護範囲面積に散布(放射)可能に構成されている。
【0047】
泡の状態で散布(放射)された火災抑制剤99は、泡の層の状態で燃料(可燃性液体)を覆うように構成されている。この層の厚みは、発泡倍率が4倍の場合、1ミリメートル以上となるように構成されている。層の厚みが1ミリメートル以上となることによって、1ミリメートル以下の層と比べ、より燃料(可燃性液体)の可燃性蒸気の蒸発や着火を抑制することができるようになっている。
【0048】
(ノズル構造)
ノズル55は、火災抑制剤99として水成膜泡薬剤を泡の状態で広範囲の防護範囲面積に散布(放射)可能な構造となっている。以降、ノズル55として、F型ノズル、フォームヘッドノズル、拡散ノズル、2連角度付き配置のフォームヘッドノズル等を例示する。
【0049】
先ず、ノズル構造としてのF型ノズルを有した放射器10について説明する。
図4は、F型ノズルのノズル構造を示す図であり、詳細には、F型ノズルを有した加圧式の放射器10の全体を示す側断面図である。F型ノズル55は、
図8Aに示すように上面から見て平たく扇状の第三の吐出管(第三流通経路)19を有して構成されている。そして、F型ノズル55から火災抑制剤99を散布(放射)することにより、火災抑制剤99が霧状になり放射の勢いによって空気を抱き込み発泡するように構成されている。また、図示していないがF型ノズル55の先端に網状の金網を取り付けることにより、火災抑制剤99を高い発泡倍率の泡の状態にすることが可能となっている。なお、
図4の加圧式の放射器10は、
図1A~
図1Cの加圧式の放射器10と比較してノズル55のみが異なっており、その他の部品は
図1A~
図1Cで用いている部品と同じであるため、説明は省略する。
図1A~
図1Cに記載されていて
図4に記載されていない部品(例えば、手提げハンドル52等)は、
図4の放射器10にも付加可能であることは言うまでもない。
図4では、上側の第一のガス導入管57と、下側の第一のガス導入管57とが一点鎖線で接続された図となっているが、実際にはホースによって接続されている。
【0050】
次に、ノズル構造としてのフォームヘッドノズルを有した放射器10について説明する。
図5は、フォームヘッドノズルのノズル構造を示す図である。
図5の(a)は、フォームヘッド100を示す正面図であり、右側の半分は断面を示す図である。
図5の(b)は、フォームヘッド100内に設けられるコマ101の上面図である。
図5の(c)は、コマ101の側断面図である。
図1Bや
図1C、
図5の(a)に示すようにノズル55から放出された火災抑制剤99を発泡させて外部に散布(放射)する場合、フォームヘッド100をノズル55の先端に設けることが可能となっている。なお、ノズル55とフォームヘッド100とが一体となった構造を、フォームヘッドノズル55として取り扱う。
【0051】
図5の(a)に示すように、フォームヘッド100は、旋回流を生成するコマ101と、金網102と、空気穴104とを備えている。加圧された火災抑制剤99は、第三の吐出管19、開口20を経由しフォームヘッド100の本体内に流入するように構成されている。本体内に流入した火災抑制剤99は、コマ101によって旋回されながら金網102の方向に放出される。
【0052】
コマ101は、
図5の(a)に示すように軸106に固定されている。また、コマ101には、
図5の(b)に示すように3つの貫通孔105a、105b、105cが設けられている。貫通孔105a、105b、105cは、
図5の(c)に示すように、中心側から外側に向けて傾斜する形状となっており、これらの貫通孔105a、105b、105cにフォームヘッド100の本体内に流入した火災抑制剤99が流入するように構成されている。そして、貫通孔105a~105cに流入した火災抑制剤99は、螺旋状に旋回されながら旋回流となって金網102の方向に放出される。コマ101から放出された火災抑制剤99は、空気穴104からの空気と金網102を通過する際の空気を巻き込み、泡の状態となって外部に放出されるようになっている。
【0053】
次に、ノズル構造としての拡散ノズルを有した放射器10について説明する。
図6は、拡散ノズルのノズル構造を示す図である。
図6Aは、拡散ノズル55を示す上面図である。
図6Bは、拡散ノズル55の側面図である。
図6Cは、拡散ノズル55の正面図である。
【0054】
拡散ノズル55は、デフレクタ201と、金網202とを備えている。デフレクタ201は、
図6Cに示すように横長の長方形状の上デフレクタ201aと、横長の長方形状であって上デフレクタより面積の大きい下デフレクタ201bとで構成されている。上デフレクタ201aは、
図6Bに示すように、上方向に向けて所定角度で開いた形状となっている。一方、下デフレクタ201bは、
図6Aに示すように、左右方向に向けて所定角度で開いた形状となっている。また、上デフレクタ201a、下デフレクタ201bには、
図6Cに示すように複数の矩形状のスリット、詳細には長方形状のスリット220a~dが形成されている。そして、デフレクタ201の前側には金網202が取り付けられており、第三の吐出管19、開口20を流下してきた火災抑制剤99が、金網202を通過する際に空気を巻き込み、泡の状態となって外部に放出されるように構成されている。
【0055】
第三の吐出管19を流下してきた火災抑制剤99は、開口20から上デフレクタ201a、下デフレクタ201bに向けて放出される。開口20から放出された火災抑制剤99の一部は、
図6Aの一点鎖線で示すように下デフレクタ201bによって下デフレクタ201bの後側で、下デフレクタ201bの後面に沿って散布(放射)されるように構成されている。詳細には、開口20から放出された火災抑制剤99の一部は、下デフレクタ201bの後面に沿うようにして左斜め前方向、右斜め前方向に向けて散布(放射)されるようになっている。また、下デフレクタ201bに向けて放出された火災抑制剤99の一部は、下デフレクタ201bのスリット220a、220b、220cを通過することによって、下デフレクタ201bの前側で散布(放射)されるように構成されている。詳細には、スリット220aを通過した火災抑制剤99は、スリット220aを通過する際に分離され、その後、
図6Aに示すように右斜め前方向に向かって散布(放射)されるようになっており、スリット220bを通過した火災抑制剤99は、スリット220bを通過する際に分離され、その後、
図6Aに示すように前方向に向かって散布(放射)されるようになっており、スリット220cを通過した火災抑制剤99は、スリット220cを通過する際に分離され、その後、
図6Aに示すように左斜め前方向に向かって散布(放射)されるようになっている。
【0056】
また、開口20から放出された火災抑制剤99の一部は、
図6Bの一点鎖線で示すように上デフレクタ201aによって上デフレクタ201aの後側で散布(放射)されるように構成されている。詳細には、開口20から放出された火災抑制剤99の一部は、上デフレクタ201aの後面に沿うようにして上斜め前方向に向けて散布(放射)されるようになっている。さらに、上デフレクタ201aに向けて放出された火災抑制剤99の一部は、上デフレクタ201aに設けられた複数のスリット220dを通過することによって、上デフレクタ201aの前側で散布(放射)されるように構成されている。詳細には、複数のスリット220dを通過した火災抑制剤99は、スリット220dを通過する際に分離され、その後、
図6Aに示すように前方向に向かって散布(放射)されるようになっている。
【0057】
次に、ノズル構造としての2連角度付き配置のフォームヘッドノズルを有した放射器10について説明する。
図7は、2連角度付き配置のフォームヘッド100のノズル構造を示す図である。
図7Aは、2連角度付き配置のフォームヘッド100のノズル構造を示す上面図である。
図7Bは、2連角度付き配置のフォームヘッド100のノズル構造の側面図である。ノズル55から放出された火災抑制剤99を発泡させて外部に散布(放射)する場合、複数のフォームヘッド100をノズル55の先端に設けることが可能となっている。なお、ノズル55と複数のフォームヘッド100とが一体となった構造を、フォームヘッドノズル55として取り扱う。左右方向へ広範囲に散布(放射)可能なノズル構造としては、
図7Aに示すように2個のフォームヘッド100を所定の角度(α度)で取り付ける2連角度付き配置のフォームヘッド100のノズル構造とするのが好適である。なお、フォームヘッド100については上述したフォームヘッド100を用いている。
【0058】
(ノズル数)
放射器10に設けられるノズル55の数は、
図1A~
図1Cや
図7Aに示すようにノズル55(フォームヘッドノズル)が可燃物200に向いた状態における上面視で左右に複数個(例えば2個)設けることが好適である。なお、
図2、3に示すように、ノズル55を1個設けるように構成しても良いし、
図7Bに示すようにノズル55(フォームヘッドノズル)を側面視で上下に複数個(例えば、2個)設けるように構成しても良く、複数のノズル55を
図7Aに示すように周方向の異なる位置に取り付けても良い。また、1個のノズル55において、散布(放射)の孔を複数(複数の開口20)設けることも好適であるが、1つの散布(放射)の孔(1つの開口20)としても良い。なお、
図7Bに示すようにノズル55を上下に複数個(例えば、2個)設けるように構成した場合、上のノズル55はノズル55から遠い位置(遠距離)に火災抑制剤99を散布(放射)するように構成する一方、下のノズル55はノズル55から近い位置(近距離)に火災抑制剤99を散布(放射)するように構成しても良い。また、上のノズル55が近距離用、下のノズル55が遠距離用としても良い。このように構成することによって、近距離、遠距離の位置においても一定以上(1ミリメートル以上)の火災抑制剤99の層を生成することができる。さらにまた、上のノズル55と下のノズル55に繋がる流通経路16の断面積Sを異ならせることにより、近距離(断面積大の場合)、遠距離(断面積小の場合)に火災抑制剤99を散布(放射)するように構成しても良い。
【0059】
(ノズル配置構造)
複数のノズル55(フォームヘッドノズル)を使用する場合、
図7Aに示すようにα度の角度を付けて配置するように構成することが好ましい。ここでのαとして15度の例を示すが、αは5~45度となっていることが好適である。また、
図7Bに示すように、ノズル55が可燃物200に向いた状態における上面視で左右方向ではなく側面視で上下方向に複数設けても良いし、左右方向に複数(例えば、2個)設け且つ上下方向に複数(例えば、2個)設けるように構成して、複数個(例えば、4個)のノズル55を配置するように構成しても良い。なお、火災抑制剤99を所定の範囲(例えば、約4平方メートル/1リットル)に同じ量を散布(放射)できるようなノズル構造、ノズル数、ノズル配置構造であることが好ましい。なお、ノズル55を上方向に数度傾けて固定しても良い。
【0060】
(安全放射機構の構成)
本実施形態の放射器10は、火災抑制剤99を散布(放射)する際の放出音を小さくし、火災抑制剤99を散布(放射)する際の操作者に対して低反動となる機構として安全放射機構を備えていてもよい。本実施形態の放射器10の安全放射機構は、サイレント機構と、低反動機構とから構成されている。
【0061】
(サイレント機構)
例えば、上述のノズル数で記載したように、1個のノズル55において、複数の散布(放射)の孔を設けるように構成している。このように複数の散布(放射)の孔を設けることにより、火災抑制剤99を散布(放射)する際の放出音が分散されることにより、放出音を小さくすることが可能となっている。また、このように放出音を小さくすることによって、放火テロの際等に犯人を威嚇しないようにすることができる。
【0062】
(低反動機構)
次に、
図8A~
図8Cを用いて、低反動機構について説明する。
図8A~
図8Cは、低反動機構としての円周方向放射機構を示す図である。
図8Aに示すようにノズル55から散布(放射)する火災抑制剤99を上面視において円周方向(中心角度がβ1度の扇形状)、且つ、
図8Bに示すようにノズル55から散布(放射)する火災抑制剤99を側面視においても円周方向(中心角度がγ度の扇形状)に散布(放射)することにより、散布(放射)に対する反動のベクトルが図中の一点鎖線の矢印のように分散されるため、操作者に対する反動が小さくなるように構成(円周方向放射機構)されている。なお、
図8Aで示す上面視における円周方向(通常の散布状態で水平方向)については、ノズル55からβ1度の角度で散布(放射)するように構成されており、β1度は、30度~120度の範囲となっている。
【0063】
また、
図8Bで示す側面視における円周方向(通常の散布状態で垂直方向)については、ノズル55からγ度の角度で散布(放射)するように構成されており、γ度は、15度~90度の範囲となっている。
【0064】
また、
図8Cに示すように2個のノズル55(フォームヘッドノズル)から散布(放射)する火災抑制剤99を上面視において円周方向(中心角度がβ2度の扇形状)、且つ、
図8Bに示すようにノズル55から散布(放射)する火災抑制剤99を側面視においても円周方向(中心角度がγ度の扇形状)に散布(放射)することにより、散布(放射)に対する反動のベクトルが分散されるため、操作者に対する反動が小さくなるように構成(円周方向放射機構)されている。なお、
図8Cで示す上面視における円周方向については、ノズル55からβ2度の角度で散布(放射)するように構成されており、β2度は、90度~150度の範囲となっている。
【0065】
また、
図7A、
図8Cに示すようにα度、β2度の角度を付けて複数のノズル55を設け、火災抑制剤99を異なる方向に散布(放射)することにより、
図8Aや
図8Bで示したことと同様に散布(放射)に対する反動のベクトルが分散されるため、操作者に対する反動が小さくなるように構成(ノズル複数個角度付け放射機構)されている。なお、ノズル複数個角度付け放射機構の一のノズル55は、円周方向放射機構を用いてもよい。そのように構成することによって、ノズル複数個角度付け放射機構よりも低反動となる低反動機構とすることができる。さらに、この低反動機構は、円周方向放射機構とノズル複数個角度付け放射機構とによって構成されることが好適であるが、いずれか一方のみで構成されても良い。
【0066】
次に、火災を抑制するため、撒かれた燃料(可燃性液体)と抑制に必要な薬剤の量の好適な関係を説明する。
(1)ガソリン:水成膜泡=1:0.3以上
ガソリン1リットルに対し、0.3リットル以上の水成膜泡が必要である。
(2)ガソリン:合成界面活性剤泡=1:1以上
ガソリン1リットルに対し、1リットル以上の合成界面活性剤泡が必要である。合成界面活性剤泡は、水成膜泡よりも多くの量(水成膜泡の3倍以上の量)が必要となっている。
(3)灯油:水成膜=1:0.1以上
灯油1リットルに対し、0.1リットル以上の水成膜が必要である。灯油の方がガソリンよりも引火点が高いため、薬剤量を少なくできるようになっている。
【0067】
次に、防護範囲面積S4について説明する。
図9A~
図9Cは、防護範囲面積S4を示す図である。
図9Aに示すように、タイプAのノズル55を用いて火災を抑制できる防護範囲(防護範囲面積S4)は、略正方形の範囲となっている。また、タイプAのノズルとは異なるタイプBのノズル55を用いる場合、火災を抑制できる防護範囲面積S4は、
図9Bに示すように、略長方形の範囲となっている。さらに、タイプA、タイプBのノズルとは異なるタイプCのノズル55を用いる場合、火災を抑制できる防護範囲面積S4は、
図9Cに示すように、タイプBのノズル55用いた長方形を90度回転させた形状の略長方形の範囲となっている。ここで、防護範囲面積S4とは、消火や着火抑制に有効な量(厚さ)の火災抑制剤99が散布されている面積を示している。散布された火災抑制剤99の厚みであって、有効な火災抑制剤99の厚みは、発泡(例えば、発泡倍率は4倍)した体積で考えて、1ミリメートル以上となっている。防護範囲面積S4は、実際に散布(放射)された面積よりも、面積が小さくなっており、実際に散布された面積のうち、火災抑制剤99の厚みが1ミリメートル以上となっている範囲の面積となっている。なお、ノズル55のタイプが異なっていても火災を抑制できる防護範囲面積S4は全て同じ面積となるように構成されていてよい。なお、防護範囲面積の形状は、上記略正方形や略長方形に限られず、略台形、略円形、略楕円形など適宜選択できる。
【0068】
また、タイプA、タイプB、タイプCのノズルを1の放射器10に取り付けて、タイプA~Cを選択して使用できるように構成(ノズル選択機構)しても良い。例えば、放射器10の周方向にタイプA~Cのノズル55を夫々取り付け、回転させることにより使用するタイプのノズル55を選択するよう構成することができ、幅の広い通路等であればタイプBのノズルを使用し、幅の狭い通路等であればタイプCのノズルを使用することで、状況に応じて火災抑制剤99の散布(放射)する防護範囲を異ならせることができるようになっている。このようにノズル55のタイプを選択して使用することによって、最適な防護範囲に対して火災抑制剤99を散布(放射)することができるという効果を奏する。なお、ノズル選択機構は、携帯タイプ、手提げタイプ、固定式タイプの放射器10のいずれにおいても適用可能となっている。
【0069】
次に、薬剤量CPと火災を抑制できる防護範囲面積S4の関係を説明する。ここでは、抑制できる泡の厚さを1ミリメートルとし、発泡倍率が4倍である場合の例を示す。
(携帯タイプ1)0.2リットルの薬剤量CPの場合、0.8平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(携帯タイプ2)0.5リットルの薬剤量CPの場合、2平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(手提げタイプ1)1リットルの薬剤量CPの場合、4平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(手提げタイプ2)2リットルの薬剤量CPの場合、8平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(手提げタイプ3)3リットルの薬剤量CPの場合、12平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(手提げタイプ4)4リットルの薬剤量CPの場合、16平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(手提げタイプ5)5リットルの薬剤量CPの場合、20平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(手提げタイプ6)6リットルの薬剤量CPの場合、24平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
(固定式タイプ1)16リットルの薬剤量CPの場合、64平方メートルの防護範囲面積S4の火災を抑制可能である。
つまり、S4[平方メートル]=4×薬剤量CP[リットル]となっている。
【0070】
なお、上述したように2リットルの薬剤を封入した従来の消火器は、10秒以上の時間をかけて薬剤の略全量を散布(放射)可能に構成されている。そのため、燃料(可燃性液体)を撒かれてから着火するまでに十分な時間があるため、容易に燃料に着火できてしまうとともに、撒かれている燃料に対して薬剤を散布(放射)するまでに燃料が蒸発して爆発燃焼してしまう虞が生じる。また、従来の消火器は、ノズルを振って薬剤を散布(放射)したりしなければ広範囲に薬剤を散布(放射)することができないため、薬剤を広範囲に散布(放射)することが課題となっている。
【0071】
また、従来の放火火災予防装置や放火抑制システムは、センサーで放火行為を判断し、光や音、水噴霧や水の散布等によって予防処置を行うが、ガソリン等の揮発性の高い燃料(可燃性液体)を撒かれた場合の放火の抑制にはならないという問題がある。さらに、自動式の装置は、装置自体のコストが非常にかかるだけではなく、設置工事等にもコストや時間がかかるという問題もある。
【0072】
上述した第1の実施の形態において示した構成に基づき、以下のような概念を抽出することができる。但し、以下に記載する概念はあくまで一例であり、これらの概念の結合や分離(上位概念化)は勿論のこと、第1の実施の形態において示した更なる構成に基づく概念を、これら概念に付加してもよい。
【0073】
人が意図的に燃料(可燃性液体)を撒いて火を着けることによって発生する放火テロのような作為的な火災は、未然に防ぐことは難しく、特に燃料を撒かれた後であって時間が経過した後に着火されると爆発燃焼するだけでなく、着火後の消火対応は極めて困難である。そこで、持ち運びが可能な抑制用薬剤放射器を用いて、短時間で主に床面の広範囲に、薬剤を放射することによって、人が意図的に燃料を撒いた後の燃料の蒸発を抑制するとともに燃料への着火および爆発燃焼を抑制し、避難路を確保することが可能な薬剤放射方法および抑制用薬剤放射器を以下に示す。
【0074】
(薬剤放射方法)
持ち運び可能な貯蔵容器(例えば、耐圧容器11)に貯留された防燃効果を有した薬剤(例えば、火災抑制剤99)を、貯蔵容器に貯留された状態の薬剤の容量が1リットルに対して25平方ミリメートル以上となる断面積を有する流通経路(例えば、流通経路16)に流動させた後、薬剤の流動に伴って薬剤の流れを広げつつ、薬剤を開口部(例えば、開口20)から吐出させて薬剤を対象物(例えば、可燃物200)に放射する薬剤放射方法を提供することができる。また、この薬剤放射方法においては、貯蔵容器に貯留された薬剤を、例えば2秒以内で放射するよう構成されている。
【0075】
(火災の抑制用薬剤放射器)
また、防燃効果を有する薬剤(例えば、火災抑制剤99)を貯留し、持ち運び可能な貯蔵容器(例えば、耐圧容器11)と、薬剤が流動する流通経路であって、薬剤の容量が1リットルに対して25平方ミリメートル以上となる断面積を有し、かつ、流動方向に対して薬剤の流れを広げる流通経路(例えば、流通経路16)と、流通経路と連通し薬剤を拡散させつつ吐出する開口部(例えば、開口20)と、を備える火災の抑制用薬剤放射器を提供することができる。
【0076】
上述したように、本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記載及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきでない。このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことはもちろんである。
【0077】
本出願は2020年4月30日出願の、日本特許出願2020-080214に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0078】
10 放射器(火災の抑制用薬剤放射器)
11 耐圧容器
12 円筒部
13 肩部
15 第三のガス導入管
16 流通経路
17 第一の吐出管(第一流通経路)
18 第二の吐出管(第二流通経路)
19 第三の吐出管(第三流通経路)
20 開口
50 ノズルユニット
51 キャップナット
52 手提げハンドル
55 ノズル
57 第一のガス導入管
58 第二のガス導入管
60 ハンドル
61 固定ハンドル部
62 可動ハンドル部
63 安全ロック
64 ピン安全栓
65 ポンチ
66 ピン
70 ガスカートリッジ(ガス容器)
71 封板
72 ガスカートリッジカバー
99 火災抑制剤
100 フォームヘッド
101 コマ
102 金網
104 空気穴
105a、105b、105c 貫通孔
200 可燃物
201 デフレクタ
202 金網
220a、220b、220c、220d スリット