(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】ハロゲン化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 17/36 20200101AFI20250627BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20250627BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250627BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20250627BHJP
【FI】
C01F17/36
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2022511701
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008437
(87)【国際公開番号】W WO2021199890
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020064768
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】宮武 和史
(72)【発明者】
【氏名】林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/135343(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/013867(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/136956(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/136953(WO,A1)
【文献】KOWALCZYK, Ewa et al.,Studies on the reaction of ammonium fluoride with lithium carbonate and yttrium oxide,Thermochimica Acta,1995年,Vol.265,pp.189-195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00-17/00
H01B 13/00
H01M 10/05ー10/0587
H01M 10/36-10/39
H01B 1/00-1/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物の製造方法であって、
Yを含有する化合物、Gdを含有する化合物、NH
4α、Liβ、およびCaγ
2を含む混合材料を、不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程を含み、
ここで、
製造される前記ハロゲン化物は、α、β、およびγを含み、
前記Yを含有する化合物は、Y
2O
3およびYδ
3からなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記Gdを含有する化合物は、Gd
2O
3およびGdε
3からなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記混合材料は、Y
2O
3およびGd
2O
3からなる群より選択される少なくとも1つを含み、
α、β、γ、δ、およびεは、それぞれ独立に、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記焼成工程においては、前記混合材料は、350℃以上かつ700℃以下で、1時間以上かつ72時間以下焼成される、
ハロゲン化物の製造方法。
【請求項2】
前記混合材料は、Y
2O
3、Gd
2O
3、NH
4α、Liβ、およびCaγ
2を含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程においては、前記混合材料は、650℃以下で焼成される、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程は、第1焼成工程および前記第1焼成工程の後に実行される第2焼成工程を含み、
前記第1焼成工程においては、前記混合材料は、第1焼成温度T1で焼成され、
前記第2焼成工程においては、前記混合材料は、第2焼成温度T2で焼成され、
前記第1焼成温度T1は、160℃以上かつ350℃未満であり、
前記第2焼成温度T2は、350℃以上かつ700℃以下であり、
前記第1焼成工程においては、前記混合材料は、1時間以上かつ72時間以下、焼成され、
前記第2焼成工程においては、前記混合材料は、1時間以上かつ72時間以下、焼成され、
前記第1焼成工程において前記混合材料を焼成する時間は、前記第2焼成工程において前記混合材料を焼成する時間よりも長い、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
α、β、γ、δ、およびεは、それぞれ独立に、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも1つである、
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハロゲン化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ハロゲン化物固体電解質の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、工業的に生産性の高いハロゲン化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の製造方法は、Yを含有する化合物、Gdを含有する化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2を含む混合材料を、不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程を含む。ここで、前記Yを含有する化合物は、Y2O3およびYδ3からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記Gdを含有する化合物は、Gd2O3およびGdε3からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記混合材料は、Y2O3およびGd2O3からなる群より選択される少なくとも1つを含み、α、β、γ、δ、およびεは、それぞれ独立に、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、工業的に生産性の高いハロゲン化物の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、第1実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第2実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第2実施形態による製造方法の焼成温度プロファイルの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられる加圧成形ダイス200の模式図を示す。
【
図7】
図7は、サンプル1による固体電解質材料のインピーダンス測定により得られたCole-Coleプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0010】
第1実施形態による製造方法は、焼成工程S1000を含む。焼成工程S1000においては、混合材料が、不活性ガス雰囲気下で焼成される。
【0011】
焼成工程S1000で焼成される混合材料は、Yを含有する化合物、Gdを含有する化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2が混合された材料である。ここで、Yを含有する化合物は、Y2O3およびYδ3からなる群より選択される少なくとも1つである。Gdを含有する化合物は、Gd2O3およびGdε3からなる群より選択される少なくとも1つである。混合材料は、Y2O3およびGd2O3からなる群より選択される少なくとも1つを含む。α、β、γ、δ、およびεは、それぞれ独立に、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである。以下、上記の「Yを含有する化合物」および「Gdを含有する化合物」が、それぞれ、「Y含有化合物」および「Gd含有化合物」と呼ばれる。
【0012】
第1実施形態による製造方法は、ハロゲン化物を製造するための工業的に生産性の高い方法である。工業的に生産性の高い方法は、例えば、低コストで大量に生産できる方法である。すなわち、簡便な製造方法(すなわち、不活性ガス雰囲気下での焼成)により、Li(すなわち、リチウム)、Y(すなわち、イットリウム)、Gd(すなわち、ガドリニウム)、およびCa(すなわち、カルシウム)を含むハロゲン化物を製造することができる。
【0013】
第1実施形態による製造方法は、真空封管および遊星型ボールミルを使用しなくてもよい。
【0014】
混合材料は、Y2O3、Gd2O3、NH4α、Liβ、およびCaγ2を含んでいてもよい。混合材料に含まれるY2O3、Gd2O3、およびNH4αは安価であるため、製造コストを低減できる。
【0015】
ハロゲン化物のイオン伝導度をさらに高めるために、α、β、γ、δ、およびεは、それぞれ独立に、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0016】
例えば、Y2O3、Gd2O3、NH4α、Liα(すなわち、上述のLiβにおけるβがαであるもの)、およびCaα2(すなわち、上述のCaγ2におけるγがαのもの)から、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5α6を作製する場合、系全体として、以下の式(1)により示される反応が進行すると考えられる。
【0017】
0.5Y2O3+0.5Gd2O3+12NH4α+6Liα+0.2Caα2 → 2Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5α6+12NH3+6Hα+3H2O ・・・(1)
【0018】
焼成工程S1000においては、例えば、混合材料の粉末が、容器(例えば、るつぼ)に入れられて、加熱炉内で焼成されてもよい。このとき、不活性ガス雰囲気中で混合材料が所定温度まで昇温された状態が、所定時間以上、保持されてもよい。焼成時間は、ハロゲン化物の揮発などに起因する焼成物の組成ずれを生じさせない程度の長さの時間であってもよい。焼成物の組成ずれを生じさせない程度の焼成時間とは、焼成物のイオン伝導度を損なわない程度の焼成時間のことを意味する。第1実施形態による製造方法によれば、たとえば、室温近傍において3.0×10-9S/cm以上のイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造し得る。
【0019】
不活性ガス雰囲気とは、例えば、不活性ガス以外のガスの濃度の合計が1体積%以下の雰囲気のことを意味する。不活性ガスの例は、ヘリウム、窒素、またはアルゴンである。
【0020】
焼成工程S1000の後に、焼成物は粉砕されてもよい。このとき、粉砕器具(例えば、乳鉢またはミキサ)が使用されてもよい。
【0021】
混合材料に含まれるY含有化合物、Gd含有化合物、Liβ、およびCaγ2からなる群より選択される少なくとも1つは、金属カチオンの一部が別の金属カチオンにより置換されていてもよい。すなわち、Y、Gd、Li、およびCaの一部が別の金属カチオンにより置換されていてもよい。すなわち、混合材料は、Y含有化合物においてYの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、Gd含有化合物においてGdの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、LiβにおいてLiの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、またはCaγ2においてCaの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物をさらに含んでいてもよい。これにより、製造されるハロゲン化物の特性(例えば、イオン伝導性)を改善することができる。Y、Gd、Li、およびCaの別の金属カチオンによるカチオン置換率は、50mol%未満であってもよい。これにより、より安定な構造を有するハロゲン化物が得られる。
【0022】
混合材料に含まれるY含有化合物、Gd含有化合物、Liβ、およびCaγ2からなる群より選択される少なくとも1つは、金属カチオンの一部が、例えば、Na、K、Mg、Sr、Ba、Zn、In、Sn、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1つのカチオンに置換されていてもよい。
【0023】
混合材料は、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2が混合された材料であってもよい。
【0024】
もしくは、混合材料は、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2だけでなく、Y2O3、Yδ3、Gd2O3、Gdε3、NH4α、Liβ、およびCaγ2とは異なる他の材料が、さらに混合された材料であってもよい。
【0025】
焼成工程S1000においては、混合材料は、350℃以上で焼成されてもよい。これにより、工業的に生産性の高い方法で、高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造することができる。焼成温度を350℃以上とすることにより、混合材料を十分に反応させることができる。すなわち、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2を十分に反応させることができる。混合材料が350℃以上で焼成された場合、例えば、室温近傍において1.0×10-4S/cm以上のイオン伝導度を有するハロゲン化物が製造され得る。ここで、焼成温度は、周囲温度である。
【0026】
工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、混合材料は、700℃以下で焼成されてもよい。混合材料は、例えば、350℃以上かつ700℃以下で焼成されてもよい。焼成温度を700℃以下とすることにより、固相反応により生成したハロゲン化物が熱分解するのを抑制できる。その結果、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を高めることができる。すなわち、良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0027】
工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、混合材料は、650℃以下で焼成されてもよい。混合材料は、例えば、350℃以上かつ650℃以下で焼成されてもよい。これにより、固相反応により生成したハロゲン化物が熱分解するのを抑制できる。その結果、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を高めることができる。すなわち、良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0028】
上述の式(1)においては、Y2O3、Gd2O3、およびNH4αを互いに反応させた後、Y2O3およびGd2O3がハロゲン化されてもよい。次いで、ハロゲン化したY2O3およびGd2O3が、LiβおよびCaγ2と反応するような焼成プロファイルが設定されてもよい。この場合、焼成温度はNH4αの昇華点または、融点よりも低い温度であり、かつ、ハロゲン化したY2O3およびGd2O3が、LiβおよびCaγ2と反応する温度であってもよい。すなわち、焼成温度は、NH4αの昇華点またはNH4αの融点よりも低い温度であり、かつ、ハロゲン化物固体電解質材料が生成する温度であってもよい。
【0029】
例えば、Y2O3、Gd2O3、NH4Cl、LiCl、およびCaCl2から、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Cl6を合成する場合、以下の式(2)により示される反応が進行すると考えられる。
【0030】
0.5Y2O3+0.5Gd2O3+12NH4Cl+5.6LiCl+0.2CaCl2 → 2Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Cl6+12NH3+6HCl+3H2O ・・・(2)
【0031】
この反応における焼成温度は、300℃程度に設定されてもよい。すなわち、焼成温度は、NH4Clの昇華点である335℃程度よりも低い温度であり、かつ、ハロゲン化物固体電解質材料が生成する温度に設定されてもよい。さらに高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、焼成温度は350℃以上であってもよい。このような場合には、後述の第2実施形態で示されるように、焼成工程を2段階以上とする。このとき、1段階目の焼成工程の焼成温度はNH4αの昇華点よりも低い温度とし、かつ2段階目以降の焼成工程の焼成温度はさらに高い温度とすればよい。
【0032】
混合材料は、1時間以上かつ72時間以下で焼成されてもよい。これにより、工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造することができる。焼成時間を1時間以上とすることにより、混合材料を十分に反応させることができる。すなわち、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2を十分に反応させることができる。焼成時間を72時間以下とすることにより、焼成物であるハロゲン化物の揮発を抑制できる。すなわち、目的の組成比を有するハロゲン化物が得られる。その結果、組成ずれに起因するハロゲン化物のイオン伝導度の低下を抑制できる。すなわち、より良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0033】
図2は、第1実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0034】
図2に示されるように、第1実施形態による製造方法は、混合工程S1100をさらに含んでもよい。
【0035】
混合工程S1100は、焼成工程S1000よりも前に実行される。
【0036】
混合工程S1100においては、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2が混合される。これにより、混合材料が得られる。すなわち、焼成工程S1000において焼成される材料が得られる。
【0037】
原料を混合するために、公知の混合器具(例えば、乳鉢、ブレンダー、またはボールミル)が使用されてもよい。
【0038】
例えば、混合工程S1100においては、それぞれの原料の粉末が用意されて、混合されてもよい。このとき、焼成工程S1000においては、粉末状の混合材料が焼成されてもよい。混合工程S1100において得られた粉末状の混合材料は、加圧によりペレット状に形成されてもよい。あるいは、焼成工程S1000において、ペレット状の混合材料が焼成されてもよい。
【0039】
混合工程S1100においては、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2だけでなく、Y2O3、Yδ3、Gd2O3、Gdε3、NH4α、Liβ、およびCaγ2とは異なる他の材料がさらに混合されることにより、混合材料が得られてもよい。
【0040】
混合工程S1100においては、Y含有化合物を主成分とする原料、Gd含有化合物を主成分とする原料、NH4αを主成分とする原料、Liβを主成分とする原料、およびCaγ2を主成分とする原料が混合されてもよい。主成分とは、モル比で最も多く含まれる成分のことである。
【0041】
混合工程S1100において、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2が、目的の組成を有するように用意されて、混合されてもよい。
【0042】
Y含有化合物およびGd含有化合物として、それぞれ、Y2O3およびGd2O3が用いられる場合、Y2O3、Gd2O3、NH4Cl、LiCl、およびCaCl2は、例えば、Y2O3:Gd2O3:NH4Cl:LiCl:CaCl2=0.25:0.25:6:2.8:0.1のモル比となるように混合されてもよい。これにより、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Cl6により表される組成を有するハロゲン化物を製造することができる。
【0043】
焼成工程S1000において生じ得る組成変化を相殺するように、予めY含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2のモル比が調整されてもよい。
【0044】
焼成工程S1000における合成反応を良好に進行させるために、NH4αがY2O3とGd2O3よりも過剰に用意されてもよい。例えば、NH4αは、Y2O3およびGd2O3の合計よりも、5から15mol%過剰に用意される。
【0045】
混合工程S1100において、Y含有化合物、Gd含有化合物、Liβ、およびCaγ2からなる群より選択される少なくとも1つは、金属カチオンの一部が別の金属カチオンにより置換されていてもよい。すなわち、Y、Gd、Li、およびCaの一部が別の金属カチオンにより置換されていてもよい。すなわち、Y含有化合物においてYの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、Gd含有化合物においてGdの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、LiβにおいてLiの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、またはCaγ2においてCaの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物がさらに混合されることで、混合材料が得られてもよい。Y、Gd、Li、およびCaの別の金属カチオンによるカチオン置換率は、50mol%未満であってもよい。
【0046】
図3は、第1実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0047】
図3に示されるように、第1実施形態による製造方法は、準備工程S1200をさらに含んでもよい。
【0048】
準備工程S1200は、混合工程S1100よりも前に実行される。
【0049】
準備工程S1200においては、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2のような原料が準備される。すなわち、混合工程S1100において混合される材料が準備される。
【0050】
準備工程S1200においては、Y含有化合物、Gd含有化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2のような原料を合成してもよい。もしくは、準備工程S1200においては、(例えば、純度99%以上の材料)が用いられてもよい。
【0051】
準備される材料は、乾燥していてもよい。
【0052】
準備される材料の形状の例は、結晶状、塊状、フレーク状、または粉末状である。準備工程S1200において、結晶状または塊状またはフレーク状の原料が粉砕されることで、粉末状の原料が得られてもよい。
【0053】
準備工程S1200において、Y含有化合物、Gd含有化合物、Liβ、およびCaγ2からなる群より選択される少なくとも1つは、金属カチオンの一部が別の金属カチオンにより置換されていてもよい。すなわち、Y、Gd、Li、およびCaの一部が別の金属カチオンにより置換されていてもよい。すなわち、Y含有化合物においてYの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、Gd含有化合物においてGdの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、LiβにおいてLiの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物、またはCaγ2においてCaの一部が別の金属カチオンにより置換されている化合物がさらに準備されてもよい。Y、Gd、Li、およびCaの別の金属カチオンによるカチオン置換率は、50mol%未満であってもよい。
【0054】
第1実施形態による製造方法により製造されたハロゲン化物は、固体電解質材料として用いられうる。当該固体電解質材料は、例えば、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料である。当該固体電解質材料は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池において用いられる。
【0055】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態において説明された事項は、適宜、省略される。
【0056】
図4は、第2実施形態による製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0057】
第2実施形態による製造方法においては、焼成工程S1000は、第1焼成工程S1001および第2焼成工程S1002を含む。第2焼成工程S1002は、第1焼成工程S1001の後に実行される。
【0058】
第1焼成工程S1001においては、混合材料は、第1焼成温度T1で焼成される。第2焼成工程S1002においては、混合材料は、第2焼成温度T2で焼成される。ここで、第2焼成温度T2は、350℃以上であり、かつ第1焼成温度T1よりも高い温度である。
【0059】
第2実施形態による製造方法は、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するための工業的に生産性の高い方法である。
【0060】
以下、第2実施形態による製造方法が、混合材料がY2O3およびGd2O3を含む例を用いて説明される。
【0061】
第1焼成工程S1001においては、第1焼成温度T1でY2O3、Gd2O3、およびNH4αが互いに反応する。すなわち、Y2O3およびGd2O3がハロゲン化する。第2焼成工程S1002においては、第2焼成温度T2で、ハロゲン化したY2O3およびGd2O3が、LiβおよびCaγ2と反応する。これにより、焼成物であるハロゲン化物が、より高い結晶性を有する。その結果、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を高めることができる。すなわち、良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0062】
工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、第1焼成温度T1は、160℃以上かつ350℃未満であってもよい。第1焼成温度T1が160℃以上である場合、混合材料を十分に反応させることができる。すなわち、Y2O3、Gd2O3、およびNH4γを十分に反応させることができる。第1焼成温度T1が350℃未満である場合、NH4γの昇華を抑制できる。これらにより、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を高めることができる。すなわち、良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0063】
工業的に生産性の高い方法でより高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、第2焼成温度T2は、350℃以上かつ700℃以下であってもよい。第2焼成温度T2を350℃以上とすることにより、混合材料を十分に反応させることができる。すなわち、Yを含有する化合物、Gdを含有する化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2を十分に反応させることができる。これにより、焼成物であるハロゲン化物が、より高い結晶性を有する。第2焼成温度T2が700℃以下である場合、固相反応により生成したハロゲン化物が熱分解するのを抑制できる。これらにより、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を高めることができる。すなわち、良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0064】
図5は、第2実施形態による製造方法の焼成温度プロファイルの一例を示す図である。
【0065】
図5に示されるように、第1焼成工程S1001においては、混合材料は、第1焼成時間P1の間、焼成されてもよい。第2焼成工程S1002においては、混合材料は、第2焼成時間P2の間、焼成されてもよい。
【0066】
工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、第1焼成時間P1は、1時間以上かつ72時間以下であってもよい。第1焼成時間P1が1時間以上である場合、混合材料(すなわち、Y2O3、Gd2O3、およびNH4α)を十分に反応させることができる。第1焼成時間P1が72時間以下である場合、「Y2O3およびNH4αの反応物」および「Gd2O3およびNH4αの反応物」の揮発を抑制できる。すなわち、目的の組成比を有するハロゲン化物が得られる。その結果、組成ずれに起因するハロゲン化物のイオン伝導度の低下を抑制できる。すなわち、より良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0067】
工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造するために、第2焼成時間P2は、1時間以上かつ72時間以下であってもよい。第2焼成時間P2が1時間以上である場合、混合材料を十分に反応させることができる。すなわち、Yを含有する化合物、Gdを含有する化合物、NH4α、Liβ、およびCaγ2を十分に反応させることができる。第2焼成時間P2が72時間以下である場合、焼成物であるハロゲン化物の揮発を抑制できる。すなわち、目的の組成比を有するハロゲン化物が得られる。その結果、組成ずれに起因するハロゲン化物のイオン伝導度の低下を抑制できる。すなわち、より良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0068】
P1>P2、が満たされてもよい。すなわち、第1焼成時間P1は、第2焼成時間P2よりも長くてもよい。これにより、工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造することができる。
【0069】
第1焼成工程S1001においては、第1焼成温度T1で、かつ、第1焼成時間P1の間、混合材料(すなわち、Y2O3、Gd2O3、およびNH4α)を十分に反応させることができる。すなわち、Y2O3およびGd2O3を十分にハロゲン化させることができる。次いで、第2焼成工程S1002においては、第2焼成温度T2で、かつ、第2焼成時間P2の間、十分にハロゲン化したY2O3およびYδ3、並びに十分にハロゲン化したGd2O3およびGdε3が、LiβおよびCaγ2と反応する。これにより、焼成物であるハロゲン化物がより高い結晶性を有する。その結果、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を高めることができる。すなわち、良質なハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0070】
第1焼成工程S1001において、(NH4)aYα3+a(0≦a≦3)は、Y2O3およびNH4αから合成されてもよい。(NH4)bGdα3+b(0≦b≦3)は、Gd2O3およびNH4αから合成されてもよい。
【0071】
第2焼成工程S1002において、第1焼成工程S1001で生成された(NH4)aYα3+aおよび(NH4)bGdα3+bを、LiβおよびCaγ2と反応させて、ハロゲン化物(すなわち、固体電解質材料)が得られてもよい。
【0072】
例えば、Y2O3、Gd2O3、NH4Cl、LiCl、およびCaCl2から、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Cl6を合成する場合を考える。ここで、第1焼成温度T1は200℃程度であり、かつ、第2焼成温度T2は500℃程度である。この場合、第1焼成工程S1001において、NH4Clが昇華することなく、Y2O3およびGd2O3と反応し、(NH4)aYCl3+a(0≦a≦3)および(NH4)bGdCl3+b(0≦b≦3)が主に生成する。次いで、第2焼成工程S1002において、(NH4)aYCl3+aおよび(NH4)bGdCl3+bが、LiClおよびCaCl2と反応し、高い結晶性を有するハロゲン化物固体電解質材料が得られる。このようにして、高いイオン伝導性を有するハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0073】
焼成工程S1000は、第1焼成工程S1001および第2焼成工程S1002だけでなく、さらに別の焼成工程を含んでもよい。すなわち、焼成工程S1000は、原料の種類、または原料の数に応じて、三段階以上の焼成工程を含んでもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本開示がより詳細に説明される。
【0075】
以下では、本開示の製造方法により製造されるハロゲン化物は、固体電解質材料として評価された。
【0076】
<サンプル1>
(固体電解質材料の作製)
-60℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気および0.0001体積%以下の酸素濃度(以下、「乾燥アルゴン雰囲気」という)中で、原料粉としてY2O3、Gd2O3、NH4Cl、LiCl、LiBr、およびCaBr2が、Y2O3:Gd2O3:NH4Cl:LiCl:LiBr:CaBr2=0.25:0.25:6.6:0.5:2.35:0.075のモル比となるように用意された。これらの材料はメノウ製乳鉢中で粉砕され、混合された。得られた混合物は、アルミナ製るつぼに入れられ、窒素雰囲気下で、500℃で1時間焼成された。すなわち、焼成温度T1およびT2は、いずれも500℃であった。得られた焼成物は、メノウ製乳鉢中で粉砕された。このようにして、Li、Ca、Y、Gd、Br、およびClを含むサンプル1による固体電解質材料が得られた。
【0077】
(イオン伝導度の評価)
図6は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス200の模式図を示す。
【0078】
加圧成形ダイス200は、パンチ上部201、枠型202、およびパンチ下部203を具備していた。枠型202は、絶縁性のポリカーボネートから形成されていた。パンチ上部201およびパンチ下部203は、電子伝導性のステンレスから形成されていた。
【0079】
図6に示される加圧成形ダイス200を用いて、下記の方法により、サンプル1による固体電解質材料のインピーダンスが測定された。
【0080】
乾燥アルゴン雰囲気中で、サンプル1による固体電解質材料の粉末が加圧成形ダイス200の内部に充填された。加圧成形ダイス200の内部で、サンプル1による固体電解質材料に、パンチ上部201およびパンチ下部203を用いて、300MPaの圧力が印加された。
【0081】
圧力が印加されたまま、パンチ上部201およびパンチ下部203は、周波数応答アナライザが搭載されたポテンショスタット(Princeton Applied Research社、VersaSTAT4)に接続された。パンチ上部201は、作用極および電位測定用端子に接続された。パンチ下部203は、対極および参照極に接続された。固体電解質材料のインピーダンスは、電気化学的インピーダンス測定法により、室温において測定された。
【0082】
図7は、サンプル1による固体電解質材料のインピーダンス測定により得られたCole-Coleプロットを示すグラフである。
【0083】
図7において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点でのインピーダンスの実数値が、固体電解質材料のイオン伝導に対する抵抗値とみなされた。当該実数値については、
図7において示される矢印R
SEを参照せよ。当該抵抗値を用いて、下記の数式(3)に基づいて、イオン伝導度が算出された。
σ=(R
SE×S/t)
-1 ・・・・ (3)
ここで、σはイオン伝導度を表す。Sは固体電解質材料のパンチ上部201との接触面積(
図6において、枠型202の中空部の断面積に等しい)を表す。Rはインピーダンス測定における固体電解質材料の抵抗値を表す。tは固体電解質材料の厚み(すなわち、
図6において、固体電解質材料の粉末101から形成される層の厚み)を表す。
【0084】
25℃で測定された、サンプル1による固体電解質材料のイオン伝導度は、2.5×10-3S/cmであった。
【0085】
<サンプル2から24>
(固体電解質材料の作製)
サンプル2から7および24では、焼成温度以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2から7および24による固体電解質材料が得られた。焼成温度は、表1に示される。
【0086】
サンプル8から18および23では、サンプル1における500℃で1時間の焼成の代わりに、2段階で焼成が行われた。原料粉の混合物は、温度T1で15時間焼成された後、温度T2で1時間焼成された。上記の事項以外は、サンプル1と同様にして、サンプル8から18および23による固体電解質材料が得られた。温度T1およびT2の値は、表1に示される。
【0087】
サンプル19では、乾燥アルゴン雰囲気中で、原料粉としてY2O3、Gd2O3、NH4Br、LiCl、およびCaCl2が、Y2O3:Gd2O3:NH4Br:LiCl:CaCl2=0.25:0.25:6.6:2.85:0.075のモル比となるように用意された。これらの材料はメノウ製乳鉢中で粉砕され、混合された。得られた混合物は、アルミナ製るつぼに入れられ、窒素雰囲気下で、240℃で15時間焼成された後、500℃で1時間焼成された。得られた焼成物は、メノウ製乳鉢中で粉砕された。このようにして、サンプル19による固体電解質材料が得られた。
【0088】
サンプル20では、原料粉としてY2O3、Gd2O3、NH4Br、LiBr、およびCaBr2が、Y2O3:Gd2O3:NH4Br:LiBr:CaBr2=0.25:0.25:6.6:2.85:0.075のモル比となるように用意された。上記の事項以外は、サンプル19と同様にして、サンプル20による固体電解質材料が得られた。
【0089】
サンプル21では、乾燥アルゴン雰囲気中で、原料粉としてY2O3、GdCl3、NH4Cl、LiCl、LiBr、およびCaBr2が、Y2O3:GdCl3:NH4Cl:LiCl:LiBr:CaBr2=0.25:0.25:3.3:0.5:2.35:0.075のモル比となるように用意された。これらの材料はメノウ製乳鉢中で粉砕され、混合された。得られた混合物は、アルミナ製るつぼに入れられ、窒素雰囲気下で、200℃で15時間焼成された後、500℃で1時間焼成された。得られた焼成物は、メノウ製乳鉢中で粉砕された。このようにして、サンプル21による固体電解質材料が得られた。
【0090】
サンプル22では、原料粉としてYCl3、Gd2O3、NH4Cl、LiCl、LiBr、およびCaBr2が、YCl3:Gd2O3:NH4Cl:LiCl:LiBr:CaBr2=0.25:0.25:3.3:0.5:2.35:0.075のモル比となるように用意された。上記の事項以外は、サンプル21と同様にして、サンプル22による固体電解質材料が得られた。
【0091】
(イオン伝導度の評価)
サンプル2から24による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。測定結果は表1に示される。
【0092】
表1において、原料1は、Yを含む酸化物またはハロゲン化物である。原料2はGdを含む酸化物またはハロゲン化物である。原料3は、ハロゲン化アンモニウムである。原料4は、LiClである。原料5は、LiBrである。原料6は、Caを含むハロゲン化物である。
【0093】
【0094】
<考察>
サンプル1から24から明らかなように、得られた固体電解質材料は3.0×10-9S/cm以上のイオン伝導度を有する。
【0095】
サンプル8から22から明らかなように、焼成工程を2段階にした場合でも、得られた固体電解質材料が高いイオン伝導度を有する。
【0096】
サンプル1から22をサンプル23および24と比較すると明らかなように、焼成温度が350℃以上である工程を含む場合、得られた固体電解質材料がさらに高いイオン伝導度を有する。サンプル1および4から7をサンプル2および3と比較すると明らかなように、焼成温度が450℃以上かつ650℃以下であれば、固体電解質材料のイオン伝導度がさらに高くなる。サンプル8、9、および12から22をサンプル10および11と比較すると明らかなように、焼成工程が2段階である場合も、第2焼成温度T2が450℃以上かつ650℃以下であれば、固体電解質材料のイオン伝導度がさらに高くなる。
【0097】
以上のように、本開示の製造方法により製造した固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導性を有する。さらに、本開示の製造方法は、簡便な方法であり、かつ工業的に生産性の高い方法である。工業的に生産性の高い方法は、例えば、低コストで大量に生産できる方法である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本開示の製造方法は、例えば、固体電解質材料の製造方法として利用される。本開示の製造方法により製造された固体電解質材料は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池において利用される。
【符号の説明】
【0099】
101 固体電解質材料の粉末
200 加圧成形ダイス
201 パンチ上部
202 枠型
203 パンチ下部