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特許7702672固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサ
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  • 特許-固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/055 20060101AFI20250627BHJP
   H01G 9/042 20060101ALI20250627BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20250627BHJP
【FI】
H01G9/055 103
H01G9/042 500
H01G9/15
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022540117
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025719
(87)【国際公開番号】W WO2022024702
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2020128836
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上中 敬太
(72)【発明者】
【氏名】廣田 兄
(72)【発明者】
【氏名】富松 雄太
【審査官】相澤 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-272715(JP,A)
【文献】特開平3-256313(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111438(WO,A1)
【文献】特開2008-258526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/055
H01G 9/042
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備え、
前記陰極引出層は、前記固体電解質層に接触するとともに前記固体電解質層の少なくとも一部を覆うカーボン層を備え、
前記カーボン層は、炭素質材料と、遷移金属イオン成分と、を含み、
前記カーボン層中の前記遷移金属イオン成分の含有量は、質量基準で、17000ppm以下である、固体電解コンデンサ素子。
【請求項2】
前記遷移金属イオン成分は、鉄イオンを含み、
前記カーボン層中の前記鉄イオンの含有量は、質量基準で、5000ppm以下である、請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項3】
前記遷移金属イオン成分は、ニッケルイオンを含み、
前記カーボン層中の前記ニッケルイオンの含有量は、質量基準で、5000ppm以下である、請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項4】
前記遷移金属イオン成分は、銅イオンを含み、
前記カーボン層中の前記銅イオンの含有量は、質量基準で、150ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項5】
前記炭素質材料は、平均粒子径が10μm以下の粒子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項6】
前記カーボン層は、酸基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも一種を有する高分子を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項7】
前記カーボン層は、フッ素樹脂を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子を少なくとも1つ備える、固体電解コンデンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、固体電解コンデンサ素子と、固体電解コンデンサ素子を封止する樹脂外装体またはケースと、固体電解コンデンサ素子に電気的に接続される外部電極とを備える。固体電解コンデンサ素子は、陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを備える。陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う導電性高分子を含む固体電解質層と、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備えている。陰極引出層には、例えば、カーボン層と銀ペースト層とが含まれる。
【0003】
特許文献1は、カーボン粒子と珪酸および/または珪酸塩を含むカーボン層を備える固体電解コンデンサを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-258526号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面の固体電解コンデンサ素子は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備え、前記陰極引出層は、前記固体電解質層に接触するとともに前記固体電解質層の少なくとも一部を覆うカーボン層を備え、前記カーボン層は、炭素質材料と、遷移金属イオン成分と、を含み、前記カーボン層中の前記遷移金属イオン成分の含有量は、質量基準で、17000ppm以下である。
【0006】
本開示の他の側面の固体電解コンデンサは、上記の固体電解コンデンサ素子を少なくとも1つ備える。
【0007】
本開示によれば、固体電解コンデンサにおける初期の等価直列抵抗(ESR)を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態の説明に先立って、従来技術における課題について簡単に以下に示す。
固体電解コンデンサでは、内部に空気が侵入すると、空気中に含まれる水分または酸素の作用により、導電性高分子が酸化劣化したり、固体電解質層に含まれるドーパントが分解したりして、固体電解質層が劣化し、固体電解質層の導電性が低下することがある。固体電解質層の導電性が低いと、固体電解コンデンサの初期の性能が低下する(例えば、ESRが増加したり、静電容量が低下したりする)。また、固体電解コンデンサを使用する間にも、固体電解質層の導電性が低下して、ESRの増加または静電容量の低下など、固体電解コンデンサの性能の低下を招く。固体電解質層の劣化は、特に、高温環境下で顕著である。固体電解コンデンサは、用途によって、高温環境下で用いられることがある。また、固体電解コンデンサは、一般に、高温に晒されるリフロー工程を経て基板にはんだ接合される。固体電解コンデンサが高温に晒されると、固体電解質層の劣化がより顕著になり、導電性の低下が顕著になるため、コンデンサ性能の低下が顕在化し易い。
【0010】
固体電解コンデンサでは、固体電解質層の少なくとも一部を覆うようにカーボン層が設けられている。カーボン層は、例えば、炭素質材料を液状媒体に分散させた液状またはペースト状の分散体を固体電解質層の表面に塗布し、乾燥させることにより形成される。炭素質材料が高い分散性で分散した分散体を得るために、分散体は、通常、炭素質材料を、液状媒体を用いて湿式で粉砕し、液状媒体中に微分散させることにより調製される。湿式粉砕は、一般に、ステンレス鋼製のビーズを用いたビーズミルを用いて行われている。ところが、ステンレス鋼製のビーズを用いて湿式粉砕すると、分散体および形成されるカーボン層中に、多量の遷移金属イオンが混入することが明らかとなった。遷移金属イオンは、酸化剤として作用する場合がある。分散体およびカーボン層中に含まれる遷移金属イオンの存在が、上記のような導電性高分子の酸化劣化の一因となっていることが明らかとなった。
【0011】
上記に鑑み、本開示の一側面の固体電解コンデンサ素子では、炭素質材料と、遷移金属イオン成分と、を含むカーボン層において、カーボン層中の遷移金属イオン成分の含有量を、質量基準で、17000ppm以下に制御する。これにより、固体電解コンデンサの初期のESRを低く抑えることができる。また、固体電解コンデンサを使用した場合および固体電解コンデンサが高温に晒された場合でも、ESRの増加を低く抑えることができる。よって、経時的な安定性および熱安定性に優れる固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサが得られる。これらの安定性が高まることで、固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサの信頼性を高めることができる。ESRを低く抑えることができるのは、導電性高分子の酸化反応が低減されることで、固体電解質層の劣化が低減され、固体電解質層の高い導電性を確保および維持できることによるものと考えられる。
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本開示の固体電解コンデンサおよび固体電解コンデンサ素子(以下、単にコンデンサ素子と称することがある)についてより具体的に説明する。
【0013】
[固体電解コンデンサ]
固体電解コンデンサは、1つまたは2つ以上のコンデンサ素子を備える。固体電解コンデンサに含まれるコンデンサ素子の少なくとも1つが、遷移金属イオン成分の含有量が上記の範囲であるカーボン層を含んでいればよい。固体電解コンデンサに含まれるコンデンサ素子の個数の50%以上において、遷移金属イオン成分の含有量が上記の範囲であるカーボン層を含んでいることが好ましく、75%以上において、遷移金属イオン成分の含有量が上記の範囲であるカーボン層を含んでいることがより好ましく、全てのコンデンサ素子において、遷移金属イオン成分の含有量が上記の範囲であるカーボン層を含んでいることがさらに好ましい。
【0014】
(コンデンサ素子)
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などを含むことができる。これらの材料は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。表面が多孔質である陽極体は、例えば、エッチングなどにより弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化することで得られる。粗面化は、例えば、エッチング処理などにより行うことができる。また、陽極体は、弁作用金属を含む粒子の成形体またはその焼結体でもよい。なお、成形体および焼結体は、全体が多孔質構造を有する。
【0015】
(誘電体層)
誘電体層は、陽極体の少なくとも一部の表面を覆うように形成された誘電体として機能する絶縁性の層である。誘電体層は、陽極体の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は、陽極体の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。誘電体層は、通常、陽極体の表面に形成される。誘電体層は、陽極体の多孔質の表面に形成されるため、陽極体の表面の孔やピットの内壁面に沿って形成される。
【0016】
誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa25を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl23を含む。なお、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能するものであればよい。
【0017】
(陰極部)
陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備えている。陰極部は、通常、陽極体の少なくとも一部の表面に、誘電体層を介して形成されている。以下、固体電解質層および陰極引出層について説明する。
【0018】
(固体電解質層)
固体電解質層は、陽極体の表面に、誘電体層を介して、誘電体層を覆うように形成される。固体電解質層は、必ずしも誘電体層の全体(表面全体)を覆う必要はなく、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。固体電解質層は、固体電解コンデンサにおける陰極部の少なくとも一部を構成する。
【0019】
固体電解質層は、導電性高分子を含む。固体電解質層は、必要に応じて、さらに、ドーパントおよび添加剤の少なくとも一方を含んでもよい。
【0020】
導電性高分子としては、固体電解コンデンサに使用される公知のもの、例えば、π共役系導電性高分子などが使用できる。導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフラン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、およびポリチオフェンビニレンを基本骨格とする高分子が挙げられる。これらのうち、ポリピロール、ポリチオフェン、またはポリアニリンを基本骨格とする高分子が好ましい。上記の高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体(置換基を有する置換体など)も含まれる。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0021】
導電性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
導電性高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば1,000以上1,000,000以下である。
【0023】
なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の値である。なお、GPCは、通常は、ポリスチレンゲルカラムと、移動相としての水/メタノール(体積比8/2)とを用いて測定される。
【0024】
固体電解質層層は、さらにドーパントを含むことができる。ドーパントとしては、例えば、アニオンおよびポリアニオンからなる群より選択される少なくとも一種が使用される。
【0025】
アニオンとしては、例えば、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオンなどが挙げられるが、特に制限されない。スルホン酸イオンを生成するドーパントとしては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0026】
ポリアニオンとしては、例えば、高分子タイプのポリスルホン酸および高分子タイプのポリカルボン酸などが挙げられる。高分子タイプのポリスルホン酸としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、およびポリメタクリルスルホン酸などが挙げられる。高分子タイプのポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などが挙げられる。ポリアニオンには、ポリエステルスルホン酸、およびフェノールスルホン酸ノボラック樹脂なども含まれる。しかし、ポリアニオンは、これらに制限されるものではない。
【0027】
ドーパントは、固体電解質層に、遊離の形態、アニオンの形態、または塩の形態で含まれていてもよく、導電性高分子と結合または相互作用した形態で含まれていてよい。
【0028】
固体電解質層に含まれるドーパントの量は、導電性高分子100質量部に対して、例えば、10~1000質量部であり、20~500質量部または50~200質量部であってもよい。
【0029】
固体電解質層は、単層であってもよく、複数の層で構成してもよい。固体電解質層が複数層で構成される場合、各層に含まれる導電性高分子は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれるドーパントは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
固体電解質層は、必要に応じて、さらに、公知の添加剤、および導電性高分子以外の公知の導電性材料を含んでもよい。このような導電性材料としては、例えば、二酸化マンガンなどの導電性無機材料、およびTCNQ錯塩からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
なお、誘電体層と固体電解質層との間には、密着性を高める層などを介在させてもよい。
【0031】
固体電解質層は、例えば、導電性高分子の前駆体を含む処理液を用いて、前駆体を誘電体層上で重合させることにより形成される。重合は、化学重合、および電解重合の少なくともいずれかにより行うことができる。導電性高分子の前駆体としては、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマーなどが挙げられる。固体電解質層は、誘電体層に、導電性高分子を含む処理液(例えば、分散液または溶液)を付着させた後、乾燥させることにより形成してもよい。分散媒(または溶媒)としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。処理液は、さらに、他の成分(ドーパント、および添加剤からなる群より選択される少なくとも一種など)を含んでもよい。
【0032】
導電性高分子の前駆体を含む処理液を用いる場合、前駆体を重合させるために酸化剤が使用される。酸化剤は、添加剤として処理液に含まれていてもよい。また、酸化剤は、誘電体層が形成された陽極体に処理液を接触させる前または後に、陽極体に塗布してもよい。このような酸化剤としては、硫酸塩、スルホン酸またはその塩が例示できる。酸化剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。硫酸塩としては、例えば、硫酸第二鉄、過硫酸ナトリウムなどの硫酸や過硫酸などの硫酸類と金属との塩が挙げられる。塩を構成する金属としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、鉄、銅、クロム、亜鉛などが挙げられる。スルホン酸またはその塩は、酸化剤としての機能に加え、ドーパントとしての機能も有する。スルホン酸またはその塩としては、ドーパントについて例示した低分子のスルホン酸またはその塩などが使用される。
【0033】
処理液への浸漬と重合(または乾燥)とにより固体電解質層を形成する工程は、1回行なってもよいが、複数回繰り返してもよい。各回において、処理液の組成および粘度などの条件を同じにしてもよく、少なくとも1つの条件を変化させてもよい。
【0034】
(陰極引出層)
陰極引出層は、固体電解質層と接触するとともに固体電解質層の少なくとも一部を覆うカーボン層を少なくとも備えていればよく、カーボン層とカーボン層を覆う金属含有層とを備えていてもよい。金属含有層としては、例えば、金属粉を含む層および金属箔からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。金属含有層を設けることで、固体電解コンデンサ素子から電荷を引き出し易くなる。
【0035】
(カーボン層)
カーボン層は、炭素質材料と、遷移金属イオン成分とを含む。カーボン層は、炭素質材料以外の導電性粒子(例えば、金属粉)を含んでいてもよい。ただし、カーボン層中の遷移金属イオン成分の含有量は、質量基準で、17000ppm以下である。遷移金属イオン成分の含有量をこのように低く制御することで、固体電解質層の高い導電性を確保することができ、固体電解コンデンサの初期のESRを低く抑えることができる。カーボン層は、必要に応じて、例えば、高分子成分および添加剤からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0036】
カーボン層は、例えば、カーボン層の構成成分と、液状媒体とを含む分散体を固体電解質層の表面の少なくとも一部を覆うように塗布し、乾燥することにより形成される。分散体は、一般に、カーボン層の構成成分(具体的には、炭素質材料、必要に応じてバインダおよび添加剤からなる群より選択される一種など)と液状媒体とを、ビーズミルにより湿式粉砕することにより調製される。この湿式粉砕の際に、ビーズミルの構成部材(例えば、容器、ディスク、ビーズ)などに含まれている金属成分(主に遷移金属成分)が、イオンの形態で分散体に混入すると考えられる。カーボン層に含まれる遷移金属イオン成分は、主としてこの湿式粉砕の際に混入するものである。カーボン層の形成に用いられる分散体では、例えば、湿式粉砕に用いるビーズとしてジルコニアビーズなどを含むセラミックス製のビーズを用いたり、湿式粉砕することで得られた分散体から遷移金属イオン成分を除去したりすることにより、遷移金属イオン成分の含有量を低減することができる。これらの方法を組み合わせてもよい。遷移金属イオン成分の除去は、例えば、イオン交換体と分散体とを接触させることにより行ってもよい。
【0037】
遷移金属イオン成分としては、例えば、周期表の第3族~第11族に属する金属のイオンが挙げられる。遷移金属イオン成分に含まれる遷移金属イオンの具体例としては、例えば、周期表の第4族金属イオン(チタンイオン、ジルコニウムイオンなど)、第5族金属イオン(バナジウムイオン、ニオブイオンなど)、第6族金属イオン(クロムイオン、モリブデンイオンなど)、第7族金属イオン(マンガンイオンなど)、第8族金属イオン(鉄イオンなど)、第9族金属イオン(コバルトイオンなど)、第10族金属イオン(ニッケルイオンなど)、第11族金属イオン(銅イオンなど)などが挙げられる。遷移金属イオン成分は、周期表の第4周期~第6周期の金属イオンを含んでもよく、第4周期および第5周期の金属イオンを含んでもよく、第4周期の金属イオンを含んでもよい。遷移金属イオン成分は、遷移金属イオンを一種含んでいてもよいが、二種以上含んでいることが多い。
【0038】
カーボン層において、含有される遷移金属イオン成分の各イオンの価数は特に制限されない。各遷移金属イオンの価数は、一価であってもよく、二価以上であってもよい。
【0039】
遷移金属イオン成分は、鉄イオン、ニッケルイオン、および銅イオンからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。これらのイオンは、酸化剤として作用し易く、導電性高分子の酸化劣化を招き易い。そのため、遷移金属イオン成分がこのようなイオンを含む場合、遷移金属イオン成分の含有量を制御することによる効果がより顕著に発揮される。
【0040】
カーボン層中の遷移金属イオン成分の含有量は、質量基準で、17000ppm以下であればよく、15000ppm以下が好ましく、10000ppm以下であってもよく、5000ppm以下であってもよい。遷移金属イオン成分の含有量がこのような範囲である場合、固体電解コンデンサの初期のESRを低く抑えることができる。また、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりした場合でも、ESRの増加を大幅に低減することができる。カーボン層中の遷移金属イオン成分の含有量は少ないほど好ましいが、0ppmにすることは難しい。そのため、カーボン層中の遷移金属イオン成分の含有量は、質量基準で、通常、0ppmより多い。
【0041】
初期のESRおよびESRの増加を低く抑える観点からは、カーボン層中の鉄イオンの含有量は、質量基準で、5000ppm以下がより好ましく、4000ppm以下がさらに好ましい。また、カーボン層中の鉄イオンの含有量(質量基準)を、1500ppm以下または1000ppm以下(好ましくは800ppm以下)とすると、初期のESRをさらに低く抑えることができるとともに、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりした場合でも、ESRの増加をさらに低減することができる。
【0042】
初期のESRおよびESRの増加を低く抑える観点からは、カーボン層中のニッケルイオンの含有量は、質量基準で、5000ppm以下がより好ましく、4500ppm以下がさらに好ましい。カーボン層中のニッケルイオンの含有量(質量基準)を、2500ppm以下または2000ppm以下とすると、初期のESRをさらに低く抑えることができるとともに、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりした場合でも、ESRの増加をさらに低減することができる。
【0043】
初期のESRおよびESRの増加を低く抑える観点からは、カーボン層中の銅イオンの含有量は、質量基準で、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。また、カーボン層中の銅イオンの含有量(質量基準)を、30ppm以下または15ppm以下(好ましくは10ppm以下)とすると、初期のESRをさらに低く抑えることができるとともに、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりした場合でも、ESRの増加をさらに低減することができる。
【0044】
カーボン層中には、典型金属イオンが混入する場合もある。典型金属イオンの中には、カーボン層およびその近傍(固体電解質層など)において副反応の進行を促進するようなものもある。そのため、固体電解質層やカーボン層などの高い導電性を維持する観点からは、カーボン層中の典型金属イオンの含有量も少ないことが好ましい。このような典型金属イオンとしては、例えば、周期表第12族金属のイオン(亜鉛イオンなど)が挙げられる。カーボン層には、このような金属イオンが一種含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0045】
カーボン層中の亜鉛イオンなどの典型金属イオン(周期表第12族金属イオンなど)の含有量の合計は、質量基準で、15ppm未満が好ましく、14ppm以下が好ましく、12ppm以下であってもよい。典型金属イオンの含有量がこのような範囲である場合、固体電解質層やカーボン層などのより高い導電性を維持し易い。このような典型金属イオンの含有量は、質量基準で、通常、0ppmより多い。
【0046】
固体電解コンデンサ素子のカーボン層から、カーボン層中の金属イオンの含有量を求める場合、次の手順で求めることができる。
【0047】
固体電解コンデンサを硬化性樹脂に埋め込んで硬化性樹脂を硬化させたサンプルを作製する。サンプルに、研磨、ミリング処理等を施すことでコンデンサ素子上のカーボン層を露出させる。露出させたカーボン層の表面に対し、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectroscopy:EDX)で含有される遷移金属イオンを定性分析にて確認する。カーボン層が遷移金属イオンを含むことが確認された場合、カーボン層を掻き取って、所定量の試料(試料A)を採取し、質量(m)を測定する。試料Aを、1.0質量%濃度の硝酸水溶液と混合して、室温(20℃以上35℃以下)で1日放置する。得られる混合物(試料B)を遠心分離処理することにより固体(試料C)と液体(試料D)とに分離する。分離した液体の試料Dを用いて、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光分析により試料Bに含まれる金属イオンの濃度を求める。この濃度と質量mとから、カーボン層中の各金属イオンの含有量が求められる。ICP発光分光分析には、例えば、パーキン・エルマー製のOptima5300DVが用いられる。
【0048】
なお、試料Aは、金属含有層を除去することにより露出した状態のカーボン層から採取されるが、金属含有層に含まれる金属の影響を除外する目的で、カーボン層中の金属イオンの含有量を求める際に、金属含有層に含まれる金属(例えば、銀)以外の金属種のイオンについて濃度を求めてもよい。
【0049】
炭素質材料としては、通常、導電性の炭素質材料が用いられる。炭素質材料としては、例えば、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛、気相成長炭素など)、カーボンブラック、非晶質炭素が挙げられる。カーボン層は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。炭素質材料は、粒子状であってもよく、繊維状であってもよいが、少なくとも粒子を含むことが好ましい。
【0050】
カーボン層を形成するための分散体は、ビーズミルを用いて湿式粉砕することにより調製される。そのため、カーボン層は、粉砕された炭素質材料を含んでいる。このような炭素質材料には、例えば、粉砕された平均粒子径が比較的小さい粒子が含まれる。このような粒子の平均粒子径は、例えば、10μm以下であり、5μm以下であってもよく、1.5μm以下または1μm以下であってもよい。カーボン層の炭素質材料がこのような平均粒子径を有する粒子を含む場合、粒子間の導電パスが形成され易く、カーボン層の高い導電性が得られるため、初期のESRをさらに低く抑えることができる。また、カーボン層の高い導電性は、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりしても維持されるため、固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサの高い信頼性を確保し易くなる。上記の粒子の平均粒子径の下限は特に制限されないが、カーボン層の体積抵抗値、例えば1.0Ω・cm以下となるように決定すればよい。
【0051】
なお、上記の平均粒子径は、動的光散乱法またはレーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布において、累積の50%粒子径(中央径)を言うものとする。例えば、平均粒子径が10μm以下の場合には、動的光散乱法の粒度分布測定装置が用いられ、平均粒子径が10μmを超える場合には、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置が用いられる。動的光散乱法による粒度分布測定装置としては、例えば、大塚電子社製の光散乱光度計DLS-8000が用いられる。レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置としては、例えば、Microtrac社製のMT3200IIが用いられる。
【0052】
上記の平均粒子径を、固体電解コンデンサ素子のカーボン層から採取した炭素質材料について求める場合、平均粒子径を測定するための試料としては、例えば、次の手順で得られる試料Eを含む分散液が用いられる。まず、上述の固体の試料Cを水洗し、有機溶剤で洗浄し、乾燥させることにより炭素質材料(試料E)が得られる。有機溶剤としては、例えば、後述の湿式粉砕の有機液状媒体として例示したもののうち、水洗で除去できない高分子成分を溶解可能なものを選択すればよい。試料Eを、界面活性剤を用いて液状の分散媒に分散させることにより測定用の分散液が調製される。分散媒としては、例えば、純水または室温(例えば、20℃~35℃)で液状の有機媒体が用いられる。界面活性剤の種類および濃度、分散媒の種類、ならびに分散液中の試料Eの濃度のそれぞれは、平均粒子径の測定に適した分散液を調製できる範囲で選択すればよい。
【0053】
カーボン層に含まれる高分子成分は、親水性(例えば、水溶性、水分散性)のものであってもよく、疎水性のものであってもよい。高分子成分は、一種の高分子を含んでもよく、二種以上の高分子を含んでもよい。
【0054】
親水性の高分子成分としては、例えば、酸基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも一種の親水性基を含む高分子(以下、第1高分子と称することがある。)が挙げられる。中でも、酸基およびフェノール性ヒドロキシ基などのアニオン性基を有する第1高分子が好ましい。酸基としては、スルホン基、カルボキシ基などが挙げられる。水性の分散体を用いてカーボン層を形成する場合に、高い分散性を確保し易い観点からは、第1高分子は、複数の親水性基(特に、複数のアニオン性基)を有することが好ましい。親水性の高分子成分としては、少なくとも酸基を有する第1高分子を用いることが好ましく、酸基とヒドロキシ基とを有する第1高分子を用いてもよい。
【0055】
なお、カーボン層において、高分子の酸基は、遊離の形態で含まれていてもよく、アニオンの形態で含まれていてもよく、塩の形態で含まれていてもよく、カーボン層または固体電解質層に含まれる成分と相互作用または結合した状態で含まれていてもよい。本明細書中、これらの全ての形態の酸基を含めて、単に「酸基」と称することがある。また、カーボン層において、高分子のヒドロキシ基は、遊離の形態で含まれていてもよく、アニオンの形態で含まれていてもよく、カーボン層または固体電解質層に含まれる成分と相互作用または結合した状態で含まれていてもよい。本明細書中、これらの全ての形態のヒドロキシ基を含めて、単に「ヒドロキシ基」と称することがある。また、アニオン性基についても同様で、遊離の形態、アニオンの形態、塩の形態、およびカーボン層または固体電解質層に含まれる成分と相互作用または結合した状態の全ての形態のアニオン性基を含めて、単に「アニオン性基」と称することがある。
【0056】
カーボン層は、第1高分子を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0057】
第1高分子として、アニオン性基を有するモノマー単位を含むポリマーアニオンを用いると、固体電解質層からの脱ドープを抑制する効果が高まる。そのため、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりした場合でも、固体電解質層の高い導電性が維持され、ESRの増加を低く抑えることができる。このようなポリマーアニオンを高分子1Aと称することがある。高分子1Aとしては、アニオン性基を有するモノマー単位を有する単独重合体、アニオン性基を有するモノマー単位を二種以上含む共重合体、アニオン性基を有するモノマー単位と他の共重合性モノマーとの共重合体などが挙げられる。アニオン性基を有するモノマー単位は、脂肪族であってもよく、脂肪族環、芳香環、および複素環からなる群より選択される少なくとも1つの環を有するものであってもよい。高分子成分は、高分子1Aを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0058】
スルホン基を有するポリマーアニオンとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリエステルスルホン酸、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が挙げられる。カルボキシ基を有するポリマーアニオンとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方を用いた共重合体が挙げられる。共重合体には、アクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方と、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなど)の少なくとも一方との共重合体も包含される。しかし、ポリマーアニオンは、これらに限定されるものではない。これらのポリマーアニオンは、通常、水溶性である。
【0059】
第1高分子としては、水溶性のセルロース誘導体、ポリ酢酸ビニルのケン化物(部分ケン化物、ポリビニルアルコールなど)なども好ましい。水溶性のセルロース誘導体としては、例えば、セルロースエーテル化合物が挙げられる。セルロースエーテル化合物としては、カルボキシメチルセルロース塩(ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩など)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。これらの第1高分子を、高分子1Bと称することがある。高分子1Bは、カーボン層に含まれる有機分子(具体的には高分子)と水素結合し易く、これにより密な構造を取り易い。そのため、高分子成分内に酸素などのガスが拡散するための空間が少なく、ガスが透過し難い。よって、高分子成分が高分子1Bを含む場合、カーボン層の酸素バリア性を高めることができるとともに、固体電解質層とカーボン層との密着性および炭素質材料間の密着性を高めることができる。よって、導電性高分子の酸化劣化を低減でき、固体電解質層の導電性を維持し易い。また、高分子1Bを用いると、適度な増粘効果が得られることで、分散体における構成成分の分散性を高め易い。高分子成分は、高分子1Bを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。高分子成分は、高分子1Aと高分子1Bとを含んでもよい。
【0060】
第1高分子の重量平均分子量Mwは、例えば、2000以上1000000以下である。
【0061】
第1高分子以外の高分子としては、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂(ポリアクリル酸エステルなど)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニル樹脂(ポリ酢酸ビニルなど)、ポリオレフィン樹脂、ゴム状材料(例えば、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR))、エポキシ樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン樹脂(ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン共重合体など)、フッ素化オレフィン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体など)が挙げられる。このような高分子を第2高分子と称することがある。高分子成分は、第2高分子を一種含んでいてもよく、二種以上含んでもよい。高分子成分は、必要に応じて、第1高分子と第2高分子とを含んでもよい。第2高分子は、バインダとして作用する。第2高分子のうち、フッ素樹脂を用いると、分散体の固体電解質層に対する密着性を向上できるため、固体電解質層とカーボン層との密着性を高めることができる。また、フッ素樹脂を用いると、分散体における構成成分の分散性を高め易い。
【0062】
第2高分子は、水に溶解し難いものであり、通常、有機液状媒体と組み合わせて分散体が調製される。しかし、この場合に限らず、必要に応じて、第2高分子を含む分散体の調製に、水または水と有機液状媒体との混合媒体を用いてもよい。第2高分子は、熱可塑性樹脂であってもよく、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂など)であってもよい。硬化性樹脂では、モノマー成分を液状媒体として用いてもよい。高分子成分は、第2高分子を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0063】
カーボン層中の高分子成分の含有量は、炭素質材料100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上5000質量部以下の広い範囲から選択でき、0.5質量部以上1000質量部以下であってもよい。
【0064】
第1高分子の量は、炭素質材料100質量部に対して、例えば、1質量部以上5000質量部以下であり、2質量部以上1000質量部以下であってもよく、10質量部以上100質量部以下であってもよい。作業性を確保し易い観点からは、高分子1Bの量は、炭素質材料100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。また、高分子成分が高分子1Aと高分子1Bとを含む場合、高分子1Bの量は、高分子1A100質量部に対して、例えば、5質量部以上50質量部以下であり、5質量部以上35質量部以下であってもよい。
【0065】
カーボン層中の第2高分子の含有量は、炭素質材料100質量部に対して、例えば、10質量部以下であり、0.1質量部以上10質量部以下であってもよく、0.5質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0066】
カーボン層に含まれる添加剤としては、スルホン酸基を有する芳香族化合物、増粘剤、表面調整剤、および界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、カーボン層がスルホン酸基を有する芳香族化合物を含む場合、固体電解質層とカーボン層との密着性をさらに高めることができるとともに、固体電解質層における脱ドープを低減することができる。
【0067】
スルホン酸基を有する芳香族化合物としては、例えば、芳香族スルホン酸が挙げられる。芳香族スルホン酸は、スルホン酸基に加え、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも一種を有するものであってもよい。カーボン層において、芳香族化合物のスルホン酸基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基の形態については、高分子成分について説明したいずれの形態で含まれていてもよい。
【0068】
芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホサリチル酸、ヒドロキノンスルホン酸、ヒドロキノンジスルホン酸、カテコールスルホン酸、カテコールジスルホン酸、ピロガロールスルホン酸、ピロガロールジスルホン酸、またはこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など))が挙げられる。スルホン酸基を有する芳香族化合物には、芳香族スルホン酸のアルデヒド化合物(ホルムアルデヒドまたはその多量体(トリオキサンなど)など)による縮合物も包含される。縮合物の具体例としては、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アリールフェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラキノンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、またはこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など))が挙げられる。しかし、スルホン酸基を有する芳香族化合物は、これらに限定されるものではない。
【0069】
カーボン層は、スルホン酸基を有する芳香族化合物を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0070】
カーボン層において、スルホン酸基を有する芳香族化合物の量は、炭素質材料100質量部に対して、例えば、4質量部以上300質量部以下である。
【0071】
カーボン層の厚みは、例えば、0.1μm以上100μm以下であり、0.5μm以上50μm以下であってもよく、1μm以上20μm以下であってもよい。
【0072】
分散体を調製する際に、湿式粉砕に用いられるセラミックス製のビーズとしては、ジルコニアビーズ、ジルコニア・シリカ系セラミックビーズ、チタニアビーズ、アルミナビーズ、サイアロンビーズ、窒化ケイ素ビーズなどが挙げられる。セラミックス製のビーズは、表面が滑らかで、ミルの容器やディスクなどを傷つけにくく、分散体への金属イオン成分の混入を低減するのに有利である。なお、セラミックス製のビーズに遷移金属などの金属成分が含まれることがあるが、セラミックス製のビーズの構成成分が分散体に混入したとしても、金属イオン成分の含有量としては、ステンレス鋼製のビーズを用いる場合に比べると格段に少ない。
【0073】
分散体からイオンを除去するためのイオン交換体としては、例えば、無機交換体を用いてもよいが、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂など)を用いることで簡便に遷移金属イオン成分の含有量を低減することができる。必要に応じて、無機イオン交換体とイオン交換樹脂とを併用してもよい。
【0074】
湿式粉砕には、液状媒体が用いられる。液状媒体としては、水、有機液状媒体、水と有機液状媒体(水溶性の有機液状媒体など)との混合物などが挙げられる。なお、液状媒体は、室温(20℃以上35℃以下の温度)で流動性を有するものであればよい。有機液状媒体としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール、2-プロパノール)、エーテル(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、ケトン(アセトンなど)、ニトリル(アセトニトリルなど)、スルホキシド(ジメチルスルホキシドなど)、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。有機液状媒体は、一種を用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0075】
カーボン層は、液状の分散体に、固体電解質層が形成された誘電体層を有する陽極体を浸漬したり、ペースト状の分散体を固体電解質層の表面に塗布したりし、乾燥させることにより形成することができる。
【0076】
(金属含有層)
金属含有層のうち、金属粉を含む層は、例えば、金属粉を含む組成物をカーボン層の表面に積層することにより形成できる。このような金属含有層としては、例えば、銀粒子などの金属粉と樹脂(バインダ樹脂)とを含む組成物を用いて形成される金属ペースト層などが利用できる。樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることもできるが、イミド系樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0077】
金属含有層のうち、金属箔を構成する金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、エッチング処理などにより金属箔の表面を粗面化してもよい。金属箔の表面には、化成皮膜が設けられていてもよく、金属箔を構成する金属とは異なる金属(異種金属)または非金属の被膜が設けられていてもよい。異種金属としては、例えば、チタンのような金属が挙げられる。非金属の材料としては、カーボン(導電性の炭素質材料など)などを挙げることができる。
【0078】
金属含有層の厚みは、例えば、0.1μm以上100μm以下であり、0.5μm以上50μm以下であってもよく、1μm以上20μm以下であってもよい。
【0079】
(その他)
固体電解コンデンサは、巻回型であってもよく、チップ型または積層型のいずれであってもよい。例えば、固体電解コンデンサは、2つ以上のコンデンサ素子の積層体を備えていてもよい。コンデンサ素子の構成は、固体電解コンデンサのタイプに応じて、選択すればよい。
【0080】
コンデンサ素子において、陰極引出層には、陰極端子の一端部が電気的に接続される。陰極端子は、例えば、陰極層に導電性接着剤を塗布し、この導電性接着剤を介して陰極層に接合される。陽極体には、陽極端子の一端部が電気的に接続される。陽極端子の他端部および陰極端子の他端部は、それぞれ樹脂外装体またはケースから引き出される。樹脂外装体またはケースから露出した各端子の他端部は、固体電解コンデンサを搭載すべき基板との半田接続などに用いられる。
【0081】
コンデンサ素子は、樹脂外装体またはケースを用いて封止される。例えば、コンデンサ素子および外装体の材料樹脂(例えば、未硬化の熱硬化性樹脂およびフィラー)を金型に収容し、トランスファー成型法、圧縮成型法等により、コンデンサ素子を樹脂外装体で封止してもよい。このとき、コンデンサ素子から引き出された陽極リードに接続された陽極端子および陰極端子の他端部側の部分を、それぞれ金型から露出させる。また、コンデンサ素子を、陽極端子および陰極端子の他端部側の部分が有底ケースの開口側に位置するように有底ケースに収納し、封止体で有底ケースの開口を封口することにより固体電解コンデンサを形成してもよい。
【0082】
図1は、本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。図1に示すように、固体電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、コンデンサ素子2を封止する樹脂外装体3と、樹脂外装体3の外部にそれぞれ少なくともその一部が露出する陽極端子4および陰極端子5と、を備えている。陽極端子4および陰極端子5は、例えば銅または銅合金などの金属で構成することができる。樹脂外装体3は、ほぼ直方体の外形を有しており、固体電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。
【0083】
コンデンサ素子2は、陽極体6と、陽極体6を覆う誘電体層7と、誘電体層7を覆う陰極体8とを備える。陰極体8は、誘電体層7を覆う固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備えており、上述の陰極部を構成する。図示例において、陰極引出層10は、カーボン層11および金属含有層としての金属ペースト層12を有する。本開示によれば、カーボン層11中の遷移金属イオン成分の含有量が低い。そのため、導電性高分子の酸化劣化が抑制されることで、固体電解質層の導電性の低下が抑制されるため、固体電解コンデンサの初期のESRを低く抑えることができる。
【0084】
陽極体6は、陰極体8と対向する領域と、対向しない領域とを含む。陽極体6の陰極体8と対向しない領域のうち、陰極体8に隣接する部分には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離層13が形成され、陰極体8と陽極体6との接触が規制されている。陽極体6の陰極体8と対向しない領域のうち、他の一部は、陽極端子4と、溶接により電気的に接続されている。陰極端子5は、導電性接着剤により形成される接着層14を介して、陰極体8と電気的に接続している。
【0085】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
《固体電解コンデンサE1》
下記の要領で、図1に示す固体電解コンデンサ1(固体電解コンデンサE1)を作製し、その特性を評価した。
【0087】
(1)陽極体6の準備
基材としてのアルミニウム箔(厚み:100μm)の両方の表面をエッチングにより粗面化することで、陽極体6を作製した。
【0088】
(2)誘電体層7の形成
陽極体6の他端部側の部分を、化成液に浸漬し、70Vの直流電圧を、20分間印加して、酸化アルミニウムを含む誘電体層7を形成した。
【0089】
(3)固体電解質層9の形成
ピロールモノマーとp-トルエンスルホン酸とを含む水溶液を調製した。この水溶液中のモノマー濃度は、0.5mol/Lであり、p-トルエンスルホン酸の濃度は0.3mol/Lとした。
【0090】
得られた水溶液に、上記(2)で誘電体層7が形成された陽極体6と、対電極とを浸漬し、25℃で、重合電圧3V(銀参照電極に対する重合電位)で電解重合を行うことにより、固体電解質層9を形成した。
【0091】
(4)陰極体8の形成
炭素質材料としての黒鉛粒子および分散材(セルロース誘導体等)を、水とともに、ビーズミル(日本コークス社製、SCミル)を用いて湿式粉砕することにより液状の分散体を調製した。ビーズとしては、ジルコニアビーズを用いた。黒鉛粒子と分散材との質量比は、100:50とした。
【0092】
液状の分散体に、上記(3)で得られた固体電解質層9が形成された陽極体6を浸漬し、分散液から取り出した後、乾燥することにより、少なくとも固体電解質層9の表面にカーボン層11を形成した。乾燥は、150~200℃で10~30分間行った。
【0093】
次いで、カーボン層11の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布し、150~200℃で10~60分間加熱することでバインダ樹脂を硬化させ、金属ペースト層12を形成した。こうして、カーボン層11と金属ペースト層12とで構成される陰極体8を形成した。
上記のようにして、コンデンサ素子2を作製した。
【0094】
(5)固体電解コンデンサ1の組み立て
上記(4)で得られたコンデンサ素子2の陰極体8と、陰極端子5の一端部とを導電性接着剤の接着層14で接合した。コンデンサ素子2から突出した陽極体6の一端部と、陽極端子4の一端部とをレーザー溶接により接合した。
次いで、モールド成形により、コンデンサ素子2の周囲に、絶縁性樹脂で形成された樹脂外装体3を形成した。このとき、陽極端子4の他端部と、陰極端子5の他端部とは、樹脂外装体3から引き出した状態とした。
このようにして、固体電解コンデンサを完成させた。上記と同様にして、固体電解コンデンサを合計20個作製した。
【0095】
(6)評価
固体電解コンデンサを用いて以下の評価を行った。
【0096】
(a)カーボン層中の金属イオン含有量の測定
カーボン層中の金属イオンの含有量を既述の手順で測定した。
【0097】
(b)ESRの測定
下記の手順で固体電解コンデンサのESRを測定した。
20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、各固体電解コンデンサの周波数100kHzにおける初期のESR(mΩ)を測定した。そして、20個の固体電解コンデンサにおける平均値(初期のESR)を求めた。
【0098】
次いで、固体電解コンデンサを、145℃環境下で、固体電解コンデンサに定格電圧を500時間印加することにより加速試験を行った。その後、初期のESRの場合と同様の手順で、20℃環境下でESRを測定し、20個の固体電解コンデンサの平均値(加速試験後のESR)を求めた。
【0099】
《固体電解コンデンサE2》
固体電解コンデンサE1の陰極体8の形成(4)にいて、得られた液状分散体に、短冊状の陽イオン交換樹脂を加えて、1時間混合した後、陽イオン交換樹脂を取り出した。このようにして液状分散体を調製した。得られた液状分散体を用いたこと以外は、固体電解コンデンサE1の場合と同様にして、固体電解コンデンサ1(固体電解コンデンサE2)を作製し、評価を行った。
【0100】
《固体電解コンデンサC1》
固体電解コンデンサE1の陰極体8の形成(4)にいて、ビーズとして、ステンレス鋼製のビーズを用いた。これ以外は、固体電解コンデンサE1の場合と同様にして、固体電解コンデンサC1を作製し、評価を行った。
【0101】
作製した固体電解コンデンサの初期のESRおよび500時間の加速試験後のESRの結果を表1に示す。ESRは、固体電解コンデンサE1の初期のESRを1としたときの相対値で示した。
【0102】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本開示によれば、固体電解コンデンサの初期のESRを低く抑えることができる。また、固体電解コンデンサを長期間使用したり、固体電解コンデンサが高温に晒されたりした場合のESRの増加を低く抑えることができる。よって、固体電解コンデンサ素子および固体電解コンデンサは、高い信頼性が求められる様々な用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
1:固体電解コンデンサ、2:コンデンサ素子、3:樹脂外装体、4:陽極端子、5:陰極端子、6:陽極体、7:誘電体層、8:陰極体、9:固体電解質層、10:陰極引出層、11:カーボン層、12:金属ペースト層、13:分離層、14:接着層

図1