(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】船外機の操作装置
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20250627BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20250627BHJP
H01H 19/02 20060101ALI20250627BHJP
H01H 19/00 20060101ALI20250627BHJP
G05G 1/04 20060101ALI20250627BHJP
G05G 5/05 20060101ALI20250627BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H21/21
B63H20/00 610
H01H19/02 B
H01H19/00 Y
G05G1/04 Z
G05G5/05
(21)【出願番号】P 2024119974
(22)【出願日】2024-07-25
【審査請求日】2025-01-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北田 謙太郎
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-126954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2024/0092470(US,A1)
【文献】特開2013-136349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/00
B63H 21/21
H01H 19/02
H01H 19/00
G05G 1/04
G05G 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられる船外機の操作装置であって、
中立位置から軸線まわりの第1の方向と第2の方向とに回転可能
で、前記軸線に沿う方向の先端側の外周面に孔が形成されたグリップ部材と、
前記グリップ部材とともに前記軸線まわりに回転可能
であって、前記グリップ部材が前記中立位置から前記第1の方向に回転するとき前記船舶が前進し、前記グリップ部材が前記中立位置から前記第2の方向に回転するとき前記船舶が後進するよう前記船外機のモータの回転を制御するシャフト部材と、
操作されていないとき、一部が前記グリップ部材の前記外周面の前記孔から突出しかつ前記グリップ部材および前記シャフト部材の前記中立位置からの回転が阻止された状態にあり、操作されると前記一部が前記軸線と直交する径方向の内側に向けて押し込まれかつ前記グリップ部材および前記シャフト部材を回転可能な状態にする操作部材と、
前記シャフト部材の前記径方向の外側に位置し、前記グリップ部材および前記シャフト部材の回転を阻止する第1の位置と、前記グリップ部材および前記シャフト部材の回転を許容する第2の位置とに、前記軸線に沿う方向に移動可能なロック部材と、
を具備したことを特徴とする船外機の操作装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操作装置において、
前記操作部材が、
前記ロック部材が前記第1の位置にあるとき前記グリップ部材の前記外周面の前記孔から突き出る操作部と、
前記操作部が前記径方向の内側に向けて押し込まれるときに前記ロック部材の一部を前記軸線に沿う方向の基端側へ押圧することで、前記第2の位置に移動させる脚部と、を備え、
前記操作部の操作面は、前記ロック部材が前記第1の位置にあるとき前記グリップ部材の前記外周面に対し突出して傾斜する向きとなり、前記ロック部材が前記第2の位置にあるとき前記グリップ部材の前記外周面に沿う向きとなるように、前記操作部材が軸を中心に移動可能である操作装置。
【請求項3】
請求項1に記載の操作装置において、
さらに、
前記軸線に沿う方向に延在し、前記グリップ部材の前記径方向の内側に位置する部分を有するハウジングを有し、
前記ロック部材は、前記シャフト部材に対し前記軸線まわりに回転不可能であって、
前記ハウジングは、前記ロック部材が前記第1の位置にあるとき前記ロック部材が前記軸線まわりに回転することを阻止し、前記ロック部材が前記第2の位置にあるとき前記ロック部材が前記シャフト部材とともに前記軸線まわりに回転することを許容する回り止め部を具備した操作装置。
【請求項4】
請求項1に記載の操作装置において、
さらに、
前記グリップ部材を前記中立位置に向けて付勢するばね部材を有する中立付勢機構を備え、
前記ばね部材が、
巻かれた素線からなる素線巻回部と、
前記素線巻回部の一端に形成された第1の腕部と、
前記素線巻回部の他端に形成された第2の腕部とを有し、かつ、
前記中立付勢機構が、
前記グリップ部材が前記第1の方向に回転した状態において前記素線巻回部を弾性変形させる方向に前記第1の腕部を移動させ、前記グリップ部材が前記第2の方向に回転した状態において前記素線巻回部を弾性変形させる方向に前記第2の腕部を移動させる作動部と、
前記第1の腕部と前記第2の腕部とを支持するばね支持部と、
を具備した操作装置。
【請求項5】
請求項1に記載の操作装置において、
前記グリップ部材が前記中立位置に位置した状態において
係止部材と受け部とが互いに嵌合することにより前記グリップ部材を前記中立位置に仮保持する中立ストップ機構を具備した操作装置。
【請求項6】
請求項5に記載の操作装置において、
前記中立ストップ機構が、
前記グリップ部材が中立位置に位置した状態において互いに嵌合する
前記係止部材および
前記受け部と、
前記グリップ部材が中立位置に位置した状態において前記係止部材を前記受け部に向けて付勢する弾性部材と、
を具備した操作装置。
【請求項7】
請求項1に記載の操作装置において、さらに、
前記グリップ部材が前記第1の方向あるいは前記第2の方向に回転した状態から前記中立位置に向かって移動するとき、前記中立位置の手前で前記グリップ部材を止める中立もどり抑制部を具備した操作装置。
【請求項8】
請求項1に記載の操作装置において、さらに、
前記軸線に沿う方向に延在し、前記グリップ部材の前記径方向の内側に位置する部分と前記グリップ部材よりも前記軸線に沿う方向の基端側の部分とを有するハウジングと、
前記シャフト部材の回転を抑制する摩擦機構
と、を有し、
前記摩擦機構が、
前記シャフト部材の回転に摩擦を与えるための摩擦部材と、
前記ハウジングの
、前記グリップ部材よりも前記基端側の部分の外面に配置され
、前記摩擦部材の摩擦力を調整する操作子とを具備した操作装置。
【請求項9】
請求項1に記載の操作装置において、
前記操作装置が電動船外機のティラーハンドルに配置された操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動船外機等の船外機を操作するための操作装置に係り、特にグリップ部を有した操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源として電動モータ(これ以降は単にモータと称す)を用いた電動船外機が知られている。操船用のティラーハンドル(tiller handle)にアクセル操作等を行うためのグリップ部を有した電動船外機も知られている。例えば特許文献1や特許文献2に、モータを制御するためのグリップ部を備えた電動船外機が記載されている。操船者が前記グリップ部を回転させることによりモータの回転が制御される。
【0003】
グリップ部の回転方向の位置を検出するポテンショメータを備えた操作装置であれば、ポテンショメータの出力に応じてモータの回転数を変化させることが可能である。例えば操船者がグリップ部を中立位置(ニュートラル位置)から第1の方向に回転させると、前記ポテンショメータの出力に応じて、モータが第1の方向(例えば船が前進する方向)に回転する。そして前記グリップ部の回転方向の位置(回転角度)に応じて、前記モータの増速あるいは減速を制御することができる。
【0004】
前記グリップ部を中立位置から第2の方向に回転させると、前記モータが第2の方向(例えば船が後進する方向)に回転する。このようにグリップ部の回転方向に応じて、モータの回転方向を切換えることが可能である。この明細書では、電動船外機のモータの増速あるいは減速を行なうことをアクセル操作と称す。これは内燃機関のスロットル操作に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-136349公報
【文献】特開2014-046745公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動船外機は一般にグリップ部の回転に応じて出力される電気信号によってモータが制御される。グリップ部の回転をセンサによって電気的に検出する場合、グリップ部を回転させる力は、メカニカルな力伝達ケーブルを用いるエンジン式の船外機と比較して小さい。このため電動船外機では、意図しないグリップ部の操作によってモータが増速したり、モータの回転方向が切り換わったりすることが懸念される。
【0007】
グリップ部が不用意に回転しないようにグリップ部の回転に摩擦抵抗を与えたり、グリップ部を所定の回転位置に保持したりする機構も考えられたが、操作しにくいことがあった。このような背景から、第1の方向あるいは第2の方向に操作されたグリップ部を中立位置にもどすことができるとともに、グリップを中立位置で仮保持することが望まれた。この明細書で「仮保持」とは、操船者がグリップ部材から手を離したり、グリップ部材を回転させる力が弱いときなどに、ある程度の抵抗力によってグリップ部材が保持された状態である。
【0008】
本発明の実施形態の目的は、操船用のハンドル(ティラーハンドル)を備えた電動船外機において、操船者がグリップ部を操作する上で基準となりえる中立位置にグリップ部を指向させることが可能な船外機の操作装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、船舶に設けられる船外機の操作装置であって、グリップ部材と、シャフト部材と、操作部材と、ロック部材とを具備している。
前記グリップ部材は、中立位置から軸線まわりの第1の方向と第2の方向とに回転可能で、前記軸線に沿う方向の先端側の外周面に孔が形成されている。
前記シャフト部材は、前記グリップ部材とともに前記軸線まわりに回転可能であって、前記グリップ部材が前記中立位置から前記第1の方向に回転するとき前記船舶が前進し、前記グリップ部材が前記中立位置から前記第2の方向に回転するとき前記船舶が後進するよう前記船外機のモータの回転を制御する。
前記操作部材は、操作されていないとき、一部が前記グリップ部材の前記外周面の前記孔から突出し、かつ、前記グリップ部材および前記シャフト部材の前記中立位置からの回転が阻止された状態にある。前記操作部材が操作されると、前記一部が前記軸線と直交する径方向の内側に向けて押し込まれ、かつ、前記グリップ部材および前記シャフト部材を回転可能な状態にする。
前記ロック部材は、前記シャフト部材の前記径方向の外側に位置し、前記グリップ部材および前記シャフト部材の回転を阻止する第1の位置と、前記グリップ部材および前記シャフト部材の回転を許容する第2の位置とに、前記軸線に沿う方向に移動可能である。
【0010】
1つの実施形態に係る操作装置において、前記ロック部材が、前記シャフト部材に対し前記軸線に沿う方向の前記第1の位置と前記第2の位置とに移動可能でかつ前記シャフト部材に対し前記軸線まわりに回転不可能でもよい。また前記ロック部材が前記第1の位置にあるとき前記ロック部材が前記軸線まわりに回転することを阻止し、前記ロック部材が前記第2の位置にあるとき前記ロック部材が前記軸線まわりに回転することを許容する回り止め部を有してもよい。前記ロック部材を前記第2の位置から前記第1の位置に向けて付勢するリターンばねとを有してもよい。
【0011】
前記ロック解除機構が操作部材を有してもよい。この操作部材は、前記ロック部材が前記第1の位置にあるとき前記グリップ部材の側面から突き出る操作部と、前記操作部が前記グリップ部材に押し込まれるときに前記ロック部材を前記第2の位置に移動させる脚部とを有してもよい。
【0012】
前記中立付勢機構がばね部材を有してもよい。このばね部材は、巻かれた素線からなる素線巻回部と、前記素線巻回部の一端に形成された第1の腕部と、前記素線巻回部の他端に形成された第2の腕部とを有している。
【0013】
前記中立付勢機構が作動部を有してもよい。この作動部は、前記グリップ部材が前記第1の方向に回転した状態において前記素線巻回部を弾性変形させる方向に前記第1の腕部を移動させ、前記グリップ部材が前記第2の方向に回転した状態において前記素線巻回部を弾性変形させる方向に前記第2の腕部を移動させる。前記第1の腕部と前記第2の腕部とを支持するばね支持部を有してもよい。
【0014】
前記操作装置が中立ストップ機構を有してもよい。この中立ストップ機構は、前記グリップ部材が前記中立位置に位置した状態において、前記グリップ部材を前記中立位置に仮保持する。前記中立ストップ機構が、係止部材および受け部と、弾性部材とを有してもよい。前記係止部材および受け部は、前記グリップ部材が中立位置に位置した状態において互いに嵌合する。前記弾性部材は、前記グリップ部材が中立位置に位置した状態において前記係止部材を前記受け部に向けて付勢する。
【0015】
1つの実施形態に係る操作装置が中立もどり抑制部を有してもよい。この中立もどり抑制部は、前記グリップ部材が前記第1の方向あるいは前記第2の方向に回転した状態から前記中立位置に向かって移動するとき、前記中立位置の手前で前記グリップ部材を止める。1つの実施形態に係る操作装置が、さらに、前記シャフト部材の回転を抑制する摩擦機構を有してもよい。この摩擦機構は、前記シャフト部材の回転に摩擦を与えるための摩擦部材と、前記ハウジングの外面に配置され前記摩擦部材の摩擦力を調整する操作子とを具備してもよい。前記操作装置が電動船外機のティラーハンドルに配置されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
1つの実施形態の船外機の操作装置によれば、操船者がグリップ部材の回転方向の中立位置を基準としてグリップ部材を操作することが容易となる。また第1の方向あるいは第2の方向に回転した前記グリップ部材が中立位置にもどることが可能であるため、意図しないアクセル操作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図1に示された船外機のティラーハンドルの斜視図。
【
図3】
図2に示されたティラーハンドルに設けられた操作装置の断面図。
【
図4】
図3に示された操作装置の一部を示した斜視図。
【
図6】同操作装置がロック状態にあるときの平面図。
【
図7】同操作装置がロック解除状態にあるときの平面図。
【
図8】同操作装置がロック解除状態にあるときの断面図。
【
図9】同操作装置のロック機構とロック解除機構の一部を示した斜視図。
【
図10】同操作装置の一部で中立付勢機構を示す斜視図。
【
図11】
図3中のF11-F11線に沿う操作装置の断面図。
【
図12】同操作装置の一部で中立ストップ機構を含む部分の斜視図。
【
図13】
図3中のF13-F13線に沿う操作装置の断面図。
【
図14】グリップ部材が中立位置から第1の方向に回転した状態を示す操作装置の断面図。
【
図15】
図14に示されたグリップ部材が中立位置の直前で止まった状態を示す操作装置の断面図。
【
図17】
図3中のF17-F17線に沿う操作装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に1つの実施形態に係る電動船外機の操作装置について、
図1から
図17を参照して説明する。これ以降、電動船外機を単に船外機と称す。
図1に一部を示した船舶10は、船体11の後部に配置された船外機12を備えている。船外機12は固定機構13によって船体11に固定されている。船外機12はヒンジ部14を中心に左右(左舷側、右舷側)に向きを変えることができる。船外機12は操船者が操作するティラーハンドル20を備えている。ティラーハンドル20を左右に動かすことにより、船外機12の向きを変えることができる。
【0019】
船外機12は動力源としてのモータ21と、モータ21を制御する制御部22と、動力伝達機構23と、プロペラ24などを有している。モータ21の回転が動力伝達機構23を介してプロペラ24に伝達される。モータ21はバッテリ25から供給される直流電流によって回転し、プロペラ24を第1の方向あるいは第2の方向に回転させる。プロペラ24が第1の方向に回転すると船体11が前進し、プロペラ24が第2の方向に回転すると船体11が後退する。
【0020】
図2はティラーハンドル20の斜視図である。ティラーハンドル20は、ハウジング30と、ハウジングカバー31と、グリップ部材32を備えた操作装置33を含んでいる。ハウジング30の一例は金属製であるが、材質は必要に応じて選択される。ハウジングカバー31は、例えば樹脂製であるが、材質は必要に応じて選択される。
【0021】
グリップ部材32は操船者が握る部分であり、ティラーハンドル20の軸線X1を中心に回転することができる。グリップ部材32は、操船者がモータ21を制御する際に、中立位置N(
図2に示す)を境に、矢印A1で示す第1方向(例えば前進側)と、矢印A2で示す第2の方向(例えば後進側)に回転させることができる。
【0022】
図3は、ティラーハンドル20の一部(操作装置33を含む部分)の軸線X1に沿う断面を示している。グリップ部材32は操作装置33の一部をなし、インナー部材32aと、インナー部材32aを覆うアウター部材32bとを含んでいる。アウター部材32bは、操船者が握りやすいように、例えばゴム弾性体からなる。
【0023】
図3に示されたように、操作装置33は、グリップ部材32の内部において、シャフト部材40と、ロック部材70と、ばね85と、操作部材90と、中立付勢機構100とを備えている。シャフト部材40は第1の端部40aと第2の端部40bとを含んでいる。シャフト部材40はグリップ部材32の回転中心に配置され、軸線X1に沿う方向に延びている。シャフト部材40は、ハウジング30に設けられた第1の軸受部材41と第2の軸受部材42とによって、軸線X1まわりに回転することができる。グリップ部材32とシャフト部材40とは、固定部材43によって互い固定されている。
【0024】
シャフト部材40の第2の端部40bに、センサベース部材45が取付けられている。センサベース部材45はシャフト部材40と一体に軸線X1まわりに回転する。センサベース部材45にセンサ46の可動部46aが取付けられている。可動部46aと対向してセンサ46の固定部46bが配置されている。固定部46bはハウジング30に固定されている。
【0025】
センサ46の一例はポテンショメータであるが、ポテンショメータ以外のセンサが使用されてもよい。要するにシャフト部材40の回転方向の位置に応じた信号を出力できるセンサであればよい。センサ46によって検出された回転位置に関する信号は、電気ケーブル47を介して制御部22(
図1に示す)に出力される。シャフト部材40には、シャフト部材40を固定部46bに向けて付勢するばね48が設けられている。
【0026】
操作装置33はロック機構50とロック解除機構51とを含んでいる。
図4は、ロック機構50とロック解除機構51とを示した斜視図である。
図5は、ロック機構50を分解して示した斜視図である。シャフト部材40の第1の端部40aに、互いに平行な二面幅部(width across flat portion)55,56が形成されている。
【0027】
ロック機構50は、ロック部材70と、ハウジング30に形成された回り止め部71,72と、リターンばね85とを含んでいる。回り止め部71,72は互いに平行である。ロック部材70は、シャフト部材40の二面幅部55,56が挿入される貫通孔75を有している。ロック部材70は、筒形の本体70aと、本体70aに設けられた2つの凸部80と、本体70aの前端側(固定部材43に近い側の端部)に設けられた角形突起76と、規制突起91とを含んでいる。
図9に示されたように規制突起91は、角形突起76の前方に延びる第1の部分91aと、第1の部分91aの先端からT形に幅が広がる方向に延びる第2の部分91bとを有している。角形突起76の端面に貫通孔75が開口している。
【0028】
ロック部材70の貫通孔75は、二面幅部55,56と対応した形状となっている。二面幅部55,56が貫通孔75に挿入された状態において、軸線X1に沿う方向に移動可能である。ロック部材70の一例はスライド式であり、シャフト部材40に対し、軸線X1に沿う方向の第1の位置(
図3と
図6とに示す)と、第2の位置(
図7と
図8とに示す)とに移動することができる。シャフト部材40の二面幅部55,56が貫通孔75に挿入されているため、ロック部材70はシャフト部材40に対し軸線X1まわりに回転することができない。
【0029】
ロック部材70の外周に凸部80が形成されている。凸部80に、互いに平行な平面部81,82が形成されている。平面部81,82は、ハウジング30に形成された回り止め部71,72と対応した形状である。軸線X1まわりの位置に関し、平面部81,82が回り止め部71,72に対応すると、回り止め部71,72と平面部81,82とが互いに嵌合することができる。
【0030】
平面部81,82と回り止め部71,72とが互いに嵌合した状態において、シャフト部材40とロック部材70とは、ハウジング30に対し軸線X1まわりに回転することができない。すなわちハウジング30に対してシャフト部材40とロック部材70とがロック状態となり、グリップ部材32が固定される。
【0031】
図6は、ロック部材70が第1の位置に移動し、シャフト部材40とロック部材70とがロック状態にあるときの平面図である。
図6に示されたようにロック部材70が第1の位置(ロック位置)に移動すると、平面部81,82が回り止め部71,72の間に入るため、ハウジング30に対しロック部材70の回転が阻止される。ロック部材70の回転が阻止されると、シャフト部材40とグリップ部材32の回転が阻止され、ロック状態となる。ロック部材70は、リターンばね85によって、ロック位置に向けて付勢されている。
【0032】
平面部81,82が回り止め部71,72の間に位置した状態において、ロック部材70はハウジング30に対し、軸線X1に沿う方向に移動することが可能である。ロック部材70が軸線X1に沿って第2の位置(ロック解除位置)に移動し、平面部81,82が回り止め部71,72から外れると、シャフト部材40とロック部材70とが軸線X1まわりに回転することが可能となる。すなわちシャフト部材40とロック部材70とがロック解除状態となる。
【0033】
図7は、シャフト部材40とロック部材70とがロック解除状態にあるときの平面図である。
図8は、シャフト部材40とロック部材70とがロック解除状態にあるときの断面図である。
図9は、ロック機構50とロック解除機構51の一部を示した斜視図である。
図7と
図8とに示されたように、ロック部材70が第2の位置(ロック解除位置)に移動すると、平面部81,82が回り止め部71,72から外れるため、グリップ部材32と、シャフト部材40と、ロック部材70とが、軸線X1まわりに回転可能となる。
【0034】
ロック解除機構51は、シャフト部材40に連結された操作部材90と、ロック部材70に設けられた規制突起91とを含んでいる。操作部材90は、規制突起91の第2の部分91bを挟む一対の脚部92と、グリップ部材32の孔93から外側に突出する操作部94とを有している。操作部材90は、軸95を中心に、
図3に示すロック位置と、
図8に示すロック解除位置とに移動することができる。ロック部材70が第1の位置(ロック位置)にあるとき、操作部94がグリップ部材32の側面から外側に突き出る。
【0035】
操船者が操作部94をグリップ部材32の内側に向かってロック解除方向に押し込むと、操作部材90が軸95を中心に回転する。操作部材90が軸95を中心に回転すると、脚部92が角形突起76を押圧する。角形突起76が押圧されることにより、ロック部材70が軸線X1に沿う方向に移動し、第2の位置(
図7と
図8とに示す)に移動する。ロック部材70が第2の位置に移動すると、グリップ部材32と、シャフト部材40と、ロック部材70とが軸線X1まわりに回転可能となる。
【0036】
グリップ部材32が軸線X1を中心に第1の方向A1あるいは第2の方向A2に回転すると、シャフト部材40の回転方向の位置がセンサ46によって検出される。センサ46から出力された信号が制御部22に入力する。制御部22は、センサ46が出力する信号に応じて、モータ21の回転を制御する。グリップ部材32が中立位置N以外の位置にあるとき、軸線X1まわりの位置に関して、平面部81,82は回り止め部71,72と合致しない。このためロック部材70が第1の位置(ロック位置)にもどらず、ロック解除状態が維持される。なお、このようにロック解除状態が維持された状態のとき、
図9に示されたように、規制突起91の第2の部分91bが脚部92の後端側の壁部92aを抑えることができる。このため操作部材90が軸95を中心に矢印R1で示す方向に移動することが規制され、すなわち操作部材90がロック状態の位置にもどることが規制される。
【0037】
グリップ部材32が中立位置Nにもどると、軸線X1まわりの位置に関して、ロック部材70の平面部81,82が回り止め部71,72と合致する。このためロック部材70が軸線X1に沿う方向に移動することが可能となる。ロック部材70は、リターンばね85の弾力によって、第1の位置(
図3と
図6に示す)に向かって軸線X1に沿う方向に移動する。ロック部材70が第1の位置にもどると、操作部94がグリップ部材32の外側に突き出る。
【0038】
本実施形態の操作装置33は、グリップ部材32を中立位置Nに向けて付勢する中立付勢機構100を有している。
図10は、中立付勢機構100を示す操作装置33の一部の斜視図である。
図11は、
図3中のF11-F11線に沿う操作装置33の断面図である。中立付勢機構100は、付勢部材の一例としてのばね部材101と、グリップカラー102と、ばね支持部103と、グリップ部材32に設けられた作動部104とを含んでいる。グリップカラー102は例えば樹脂製であり、ハウジング30に固定されている。ばね支持部103はグリップカラー102に設けられている。
【0039】
ばね部材101の一例は、ねじりばねである。ばね部材101は、素線が巻かれた素線巻回部110を有している。
図11に示されたように、素線巻回部110はハウジング30の一部30aを囲むように配置されている。素線巻回部110の一端に第1の腕部111が形成されている。素線巻回部110の他端に第2の腕部112が形成されている。作動部104は、グリップ部材32の内側に凸の形状をなしている。
【0040】
第1の腕部111がばね支持部103の第1の面103aに係止されている。第2の腕部112がばね支持部103の第2の面103bに係止されている。素線巻回部110に曲げの応力が与えられている。グリップ部材32に設けられた作動部104は、第1の腕部111と第2の腕部112との間に配置されている。
【0041】
図11において、グリップ部材32が第1の方向A1に回転すると、第2の腕部112がばね支持部103に支持された状態において、第1の腕部111が作動部104によって第1の方向A1に移動する。このため素線巻回部110が弾性変形し、曲げの弾性エネルギーにより、グリップ部材32が中立位置Nに向けて付勢される。
【0042】
図11において、グリップ部材32が第2の方向A2に回転すると、第1の腕部111がばね支持部103に支持された状態において、第2の腕部112が作動部104によって第2の方向A2に移動する。このため素線巻回部110が弾性変形し、曲げの弾性エネルギーにより、グリップ部材32が中立位置Nに向けて付勢される。
【0043】
本実施形態の操作装置33は、グリップ部材32を中立位置Nに仮保持することが可能な中立ストップ機構120を有している。この明細書で「仮保持」とは、操船者がグリップ部材32から手を離したり、グリップ部材32を回転させる力が弱いときなどに、ある程度の抵抗力によってグリップ部材32が保持された状態である。
【0044】
図12は、中立ストップ機構120を含む操作装置33の一部を示した斜視図である。
図13は、
図3中のF13-F13線に沿う操作装置33の一部の断面図である。
図14は、グリップ部材32が第1の方向A1に回転した状態を示す操作装置33の断面図である。
【0045】
中立ストップ機構120の一例は、グリップカラー102に設けられた係止部材121と、グリップ部材32の内面に形成された受け部122と、弾性部材123とを含んでいる。凸形状の係止部材121は、弾性部材123によって、グリップ部材32の内面に向けて付勢されている。弾性部材123の一例は圧縮コイルばねであるが、コイルばね以外の形態のばね部材でもよい。
【0046】
受け部122の一例は、係止部材121が嵌合可能な凹形状をなしている。グリップ部材32が中立位置Nのとき、係止部材121と受け部122とが互いに嵌合することにより、グリップ部材32が中立位置Nに仮保持される。なお、係止部材121がボールでもよい。受け部122がボールと嵌合する凹部でもよい。あるいは係止部材121をグリップ部材32に設け、受け部122をグリップカラー102に設けてもよい。
【0047】
グリップ部材32が中立位置Nにあるとき、グリップ部材32が中立ストップ機構120によって中立位置Nに仮保持される。このためグリップ部材32が中立位置Nから予期せずに回転することが回避される。グリップ部材32が中立位置Nに仮保持された状態において、前記抵抗力よりも大きな力でグリップ部材32を回すと、係止部材121が弾性部材123の弾力に抗して受け部122から外れる。これにより、グリップ部材32を第1の方向A1あるいは第2の方向A2に回転させることが可能となる。
【0048】
本実施形態の操作装置33は、グリップ部材32を中立位置Nの直前で止めることが可能な中立もどり抑制部130を有している。
図14から
図16に示されたように、中立もどり抑制部130の一例は、係止部材121と、受け部122の両側に形成された第1の凸部130aと第2の凸部130bとを含んでいる。
【0049】
図14に示されたようにグリップ部材32が第1の方向A1に回転したのち、中立位置Nの方向にもどるとき、グリップ部材32が
図15に矢印A3で示す方向に回転する。グリップ部材32が中立位置Nにもどる直前で、
図15と
図16に示されたように、第1の凸部130aが係止部材121と接する。これにより、グリップ部材32が中立位置Nの直前で止まる。
【0050】
このため例えば船外機12を低速度域で操船したいときに、グリップ部材32が頻繁に中立位置Nにもどってしまうことを回避できる。グリップ部材32を中立位置Nに移動させたいときには、第1の凸部130aを乗り越える力をグリップ部材32に加えることにより、グリップ部材32を中立位置Nに移動させることができる。
【0051】
上記とは逆に、グリップ部材32が第2の方向A2に回転したのち、中立位置Nの方向にもどるとき、グリップ部材32が中立位置Nにもどる直前で、第2の凸部130bが係止部材121と接する。これにより、グリップ部材32が中立位置Nの直前で止まる。グリップ部材32を中立位置Nに移動させたいときには、第2の凸部130bを乗り越える力をグリップ部材32に加えることにより、グリップ部材32を中立位置Nに移動させることができる。
【0052】
本実施形態の操作装置33は、グリップ部材32を任意の回転位置に保持することが可能な摩擦機構140を有している。
図17は、
図3中のF17-F17線に沿う摩擦機構140の断面図である。摩擦機構140は、バンド形の摩擦部材141と、摩擦力を調整するための調整部142とを有している。摩擦部材141の一例は、センサベース部材45の回転部143の外周面に沿って配置されている。センサベース部材45の回転部143はシャフト部材40と一体に回転する。
【0053】
調整部142は、操船者が手指によって回転させることが可能な操作子145と、ねじ部材146とを有している。操作子145はハウジング30の外面に配置されている。操作子145を回転させ、摩擦部材141を回転部143に押し付けた状態において、シャフト部材40の回転に摩擦抵抗を生じさせることができる。このため必要に応じてグリップ部材32の回転に制動をかけることができる。
【0054】
次に操作装置33の作用について説明する。
グリップ部材32が中立位置Nにあり、ロック機構50が
図3と
図6に示すロック状態にあれば、グリップ部材32の回転が阻止される。このとき操作部94は、グリップ部材32の側面から外側に突き出た状態である。グリップ部材32が中立位置Nにあれば、センサ46はモータ21を回転させる信号を出力しない。
【0055】
図7と
図8に示されたように、操船者が操作部94をロック解除方向に押し、ロック部材70を第2の位置に移動させる。そうするとシャフト部材40とロック部材70とがハウジング30に対して軸線X1まわりに回転することが可能なロック解除状態となる。ロック解除状態において、グリップ部材32を第1の方向A1に回転させると、センサ46の出力に応じてモータ21が第1の方向に回転する。これによりプロペラ24が第1の方向に回転する。またグリップ部材32の位置がセンサ46によって検出されることにより、モータ21の増速あるいは減速がなされる。
【0056】
第1の方向A1に回転したグリップ部材32が中立位置Nにもどるとき、中立もどり抑制部130により、グリップ部材32を中立位置Nの直前の位置に(中立位置Nの手前で)止めることが可能である。このためモータ21を低速モードで第1の方向に回転させ続けることができる。例えば船外機12を前進モードの低速度域で操船したいときなどに、グリップ部材32が中立位置Nに頻繁にもどってしまうことを回避でき、操作性が向上する。グリップ部材32を中立位置Nに移動させたいときには、中立もどり抑制部130による仮保持の力を越える力をグリップ部材32に加える。こうすることにより、グリップ部材32を前進側から中立位置Nに移動させることができる。
【0057】
グリップ部材32が中立位置Nにもどると、ロック機構50のロック部材70がリターンばね85の弾力によって第1の位置に移動する。これにより、シャフト部材40とロック部材70とがハウジング30に固定され、ロック状態となる。このためグリップ部材32が中立位置Nに保持されるとともに、操作部94がグリップ部材32の側面から外側に突き出る。
【0058】
操船者が操作部94をロック解除方向に押し、ロック部材70を第2の位置に移動させる。この状態において、グリップ部材32を第2の方向A2に回転させると、センサ46の出力に応じてモータ21が第2の方向に回転する。グリップ部材32の回転方向の位置がセンサ46によって検出され、モータ21の増速あるいは減速がなされる。
【0059】
第2の方向A2に回転したグリップ部材32が中立位置Nにもどるとき、中立もどり抑制部130により、グリップ部材32を中立位置Nの直前の位置に止めることが可能である。このためモータ21を低速モードで第2の方向に回転させ続けることができる。例えば船外機12を後進モードの低速度域で操船したいときなどに、グリップ部材32が中立位置Nに頻繁にもどってしまうことを回避でき、操作性が向上する。グリップ部材32を中立位置Nにもどしたいときには、中立もどり抑制部130による仮保持の力を越える力をグリップ部材32に加える。こうすることにより、グリップ部材32を後進側から中立位置Nに移動させることができる。
【0060】
このように本実施形態の操作装置33は中立もどり抑制部130を備えたことにより、グリップ部材32を中立位置Nの直前で仮保持することができる。このため例えば船外機12を低速度域で操船したいときに、グリップ部材32が頻繁に中立位置Nにもどってしまうことを回避できる。
【0061】
本実施形態の操作装置33は中立付勢機構100を有し、中立位置Nから第1の方向A1あるいは第2の方向A2に回転したグリップ部材32を中立位置Nに向かわせることができる。このためグリップ部材32から手を離したときなどに不用意なアクセル操作が生じることを回避できる。また操作装置33が中立ストップ機構120を備えたことにより、グリップ部材32を中立位置Nに仮保持することができる。このため操船者の意図に反してグリップ部材32が第1の方向A1あるいは第2の方向A2に移動してしまうことを抑制できる。さらに操作装置33が摩擦機構140を有したことにより、操船の状況に応じてグリップ部材32を前進側の位置または後進側の位置に固定しておくこともできる。
【0062】
本発明を実施するに当たり、船外機や操作装置を構成する要素の具体的な形状や構成を種々に変更して実施できることは言うまでもない。また本発明の操作装置は、ティラーハンドル以外の操船用の構造体に設けてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…船舶、11…船体、12…船外機、20…ティラーハンドル、X1…軸線、21…モータ、22…制御部、24…プロペラ、30…ハウジング、32…グリップ部材、N…中立位置、A1…第1の方向、A2…第2の方向、33…操作装置、40…シャフト部材、45…センサベース部材、46…センサ、50…ロック機構、51…ロック解除機構、70…ロック部材、71,72…回り止め部、75…貫通孔、76…角形突起、80…凸部、81,82…平面部、85…リターンばね、90…操作部材、91…規制突起、91a…第1の部分、91b…第2の部分、92…脚部、92a…壁部、94…操作部、100…中立付勢機構、101…ばね部材、102…グリップカラー、103…ばね支持部、104…作動部、111…第1の腕部、112…第2の腕部、120…中立ストップ機構、121…係止部材、122…受け部、123…弾性部材、130…中立もどり抑制部、130a…第1の凸部、130b…第2の凸部、140…摩擦機構、141…摩擦部材、142…調整部、145…操作子。
【要約】
【課題】グリップ部材を回転方向の中立位置を基準として操作することが可能な操作装置を提供する。
【解決手段】船外機のティラーハンドル20に操作装置33が設けられている。操作装置33は、グリップ部材32と、シャフト部材40と、ロック機構50と、ロック解除機構51と、中立付勢機構100などを有している。グリップ部材32は、中立位置から第1の方向と第2の方向とに回転する。シャフト部材40の回転方向の位置がセンサによって検出され、モータが制御される。ロック機構50はロック部材70と操作部材90とを有し、グリップ部材32が中立位置に位置した状態においてシャフト部材40を回転不能にロックすることができる。中立付勢機構100はばね部材101を有し、グリップ部材32を中立位置に向けて付勢する。
【選択図】
図3