(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】回転装置及び溶射装置
(51)【国際特許分類】
C23C 4/12 20160101AFI20250627BHJP
【FI】
C23C4/12
(21)【出願番号】P 2022052502
(22)【出願日】2022-03-28
【審査請求日】2024-10-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】平野 智資
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 剛
(72)【発明者】
【氏名】南部 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】金田 教良
(72)【発明者】
【氏名】横山 響
(72)【発明者】
【氏名】曾根 通介
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-306570(JP,A)
【文献】特表2019-519098(JP,A)
【文献】特開2017-069429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0045001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-6/00
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度の液体の流入口および流出口が底面に設けられ、前記流入口及び前記流出口を繋ぐ流動経路が内部に設けられた基材が載置され、前記基材を着脱可能に支持する回転ステージと、
前記回転ステージが一端部に連結され、前記基材が載置される前記回転ステージの面とは反対側の面から前記回転ステージを支持する回転支柱と、
前記回転支柱を軸として前記回転ステージを回転させる回転機構と、
前記基材に前記液体を供給する液体供給部と、
を備え、
前記回転ステージは、前記液体を前記基材に供給する液体供給口、及び前記基材から液体を排出する液体排出口を有し、
前記回転ステージに前記基材が載置されたとき、前記液体供給口と前記流入口とが連結し、前記液体排出口と前記流出口とが連結し、
前記回転支柱は、内部に、前記液体供給口に連結する第1配管、及び前記液体排出口に連結する第2配管を有し、
前記回転ステージに前記基材が載置されたとき、前記回転ステージおよび前記基材は、
前記回転支柱とともに回転する、回転装置。
【請求項2】
前記回転ステージは、平板形状を有する、請求項1に記載の回転装置。
【請求項3】
前記液体供
給部は、
相対的に高い温度の温水を供給する温水タンクと、
相対的に低い温度の冷水を供給する冷水タンクと、
前記温水タンクから供給された前記温水と、前記冷水タンクから供給された前記冷水とを混合して前記所定の温度に調整して、前記基材に供給する供給ユニットと、
を備える、請求項1
または2に記載の回転装置。
【請求項4】
前記液体供給部は、前記所定の温度に調整された水を加圧する加圧装置をさらに備える、請求項
3に記載の回転装置。
【請求項5】
前記液体供給部は、前記冷水タンクに常温の水を提供する熱交換器をさらに備える、請求項
3または4の何れか一項に記載の回転装置。
【請求項6】
前記所定の温度は、85℃以上120℃以下の範囲である、請求項1乃至
5の何れか一項に記載の回転装置。
【請求項7】
前記所定の温度は、25℃以上270℃以下の範囲である、請求項1に記載の回転装置。
【請求項8】
前記液体供給部は、前記回転ステージが回転している状態で、前記第1配管を介して前記液体を前記基材に供給し、前記基材から前記第2配管を介して前記液体を回収する、請求項1乃至
7の何れか一項に記載の回転装置。
【請求項9】
前記第1配管と前記液体供給部とは、ロータリージョイントを介して連結される、請求項
8に記載の回転装置。
【請求項10】
前記液体供給口は前記流入口と整合するように設けられ、前記液体排出口は前記流出口と整合するように設けられる、請求項1乃至
9の何れか一項に記載の回転装置。
【請求項11】
前記基材を前記回転ステージ上に保持するチャック機構をさらに備える、請求項1乃至
10の何れか一項に記載の回転装置。
【請求項12】
前記チャック機構は、真空チャック機構であり、
前記真空チャック機構は、
前記回転ステージに設けられた貫通孔と、
前記回転支柱に設けられ、前記貫通孔に接続する吸引管と、
前記吸引管と接続する真空バキュームと、を含む、請求項
11に記載の回転装置。
【請求項13】
前記基材の少なくとも一部は、多孔質材料を含む、請求項
12に記載の回転装置。
【請求項14】
前記吸引管と前記真空バキュームとは、ロータリージョイントを介して連結される、請求項
12に記載の回転装置。
【請求項15】
前記基材に設けられた前記流動経路は、前記基材の周方向に沿って設けられる、請求項1乃至
14の何れか一項に記載の回転装置。
【請求項16】
請求項1乃至
15に記載の回転装置と、
溶射ガンと、
を備える、溶射装置。
【請求項17】
前記溶射ガンは、前記回転ステージに支持された前記基材の表面に溶射材料を噴射し、
前記溶射ガンから溶射材料が噴射されている間、前記液体供給部は、前記液体を前記基材に供給する、請求項
16に記載の溶射装置。
【請求項18】
前記回転装置は、前記基材に加圧された気体を供給する気体供給部をさらに備え、
前記溶射ガンから前記溶射材料が噴射される前に、前記気体供給部は、前記気体を前記基材に供給する、請求項
17に記載の溶射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一実施形態は、回転装置、及び溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、セラミックなどの成膜材料を加熱して溶融させ、又は溶融に近い(半溶融)状態にし、溶融した、又は半溶融状態となった成膜材料を基材に吹き付けることによって、基材上に成膜材料の皮膜を形成する溶射装置が知られている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、ワークを回転させて、その表面に溶融金属を付着させて金属被膜層を形成する溶射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭58-35961号公報
【文献】特開昭58-039772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶射により形成される皮膜の特性は、成膜時の条件に大きく影響を受ける。その条件の一つが、皮膜が形成される基材の温度である。溶射工程において、溶融状態又は半溶融状態の成膜材料が吹き付けられるため、基材は高温となる。溶射が終了すると基材の温度が下がるが、この際に基材に熱応力が生じ、皮膜が基材表面から剥離したり、皮膜に亀裂が生じるなどの問題があった。
【0005】
本開示の実施形態の課題の一つは、基材の熱応力を低減し、皮膜の基材からの剥離、及び皮膜の亀裂を防止することができる回転装置装及び溶射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態による回転装置は、所定の温度の液体の流入口、流出口、及び前記流入口及び前記流出口を繋ぐ流動経路を有する基材を着脱可能に支持する回転ステージと、前記回転テーブルを支持する回転支柱と、前記回転支柱を回転させる回転機構と、前記基材に前記液体を供給する液体供給部と、を備え、前記回転ステージは、前記液体を前記基材に供給する液体供給口、及び前記基材から液体を排出する液体排出口を有し、前記回転支柱は、内部に、前記液体供給口に連結する第1配管、及び前記液体排出口に連結する第2配管を有する。
【0007】
本開示の一実施形態による溶射装置は、上記回転装置と、溶射ガンと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によると、基材の熱応力を低減し、皮膜の基材からの剥離、及び皮膜の亀裂を防止することができる回転装置及び溶射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る溶射装置の構成を説明するための図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る回転装置に取り付けられるの基材の構成を説明するための図である。
【
図3】基材内に設けられた液体の流路の一例を示す図である。
【
図4】液体供給装置の構成を説明するための図である。
【
図5】実施例1における基材裏面の温度、及び基材に設けられた流路の給水口及び排出口の温度の経過を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と図面において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。また、本明細書と図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0012】
本明細書において、ある部材又は領域が他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限りこれは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0013】
また、本明細書において「αはA、B又はCを含む」、「αはA,B及びCのいずれかを含む」、「αはA,B及びCからなる群から選択される一つを含む」、といった表現は、特に明示が無い限り、αはA乃至Cの複数の組み合わせを含む場合を排除しない。さらに、これらの表現は、αが他の要素を含む場合も排除しない。
【0014】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る溶射装置10について説明する。
【0015】
図1は、本開示の一実施形態に係る溶射装置10の構成を説明するための図である。溶射装置10は、基材300を支持する回転装置100、基材300の表面に溶射材料を吹き付ける溶射ガン200を含む。
【0016】
回転装置100は、架台101、回転支柱103、回転ステージ105、液体供給装置(液体供給部)111、エアチャック装置113、及び回転機構117を備える。
【0017】
架台101には、液体供給装置111、エアチャック装置113、及び回転機構117が設置される。架台101は、筐体であってもよい。
【0018】
液体供給装置111は、所定の温度範囲に調整された液体を基材300に供給する。また、液体供給装置111は、基材300を循環した液体を回収し、回収した液体を再び所定の温度範囲に調整する。液体供給装置111は、回転ステージ105及び回転支柱103内に設けられた配管(図示せず)を通じて、液体を基材300に供給し、且つ液体を基材300から回収する。配管は、回転ステージ105及び回転支柱103内に設けられた中空路であってもよい。液体供給装置111の詳細な構成については、後述する。
【0019】
回転機構117は、後述する回転支柱103と接続される。回転機構117は、モータなどの駆動装置を含む。回転機構117は、回転支柱103を軸として、回転支柱103に固定された回転ステージ105を回転させる。
【0020】
エアチャック装置113は、回転ステージ105及び回転支柱103内に設けられた配管(吸引管、図示せず)を通じて、少なくとも一部が多孔質材料で形成された基材300を真空チャックして、基材300を回転ステージ105上に固定する。配管は、回転ステージ105及び回転支柱103内に設けられた中空路であってもよい。エアチャック装置113は、回転支柱103内に設けられた配管と接続する真空バキュームを備えていてもよい。
【0021】
回転支柱103は、後述する回転ステージ105を支持する。図示はしないが、回転支柱103の内部には、液体供給装置111から液体を基材300に供給するための配管(第1配管)、基材300を循環した液体を液体供給装置111に回収するための配管(第2配管)、及びエアチャック装置113に接続された配管(吸引管)が設けられる。これらの配管は、回転支柱103の内部に設けられた中空路であってもよい。回転支柱103の内部に設けられた、液体供給装置111から液体を基材300に供給するための配管、基材300を循環した液体を液体供給装置111に回収するための配管、及びエアチャック装置113に接続された配管はそれぞれ、ロータリージョイント115を介して、液体供給装置111及びエアチャック装置113に連結される。
【0022】
回転支柱103は、回転機構117と接続される。回転支柱103は、シャフトとして機能し、回転支柱103の長軸方向を中心として、回転ステージ105及び回転ステージ105上に載置された基材300を回転させることができる。
【0023】
回転支柱103は、回転ステージ105と連結する連結部107を有してもよい。連結部107は、アクチュエータなどの位置制御機構と接続されてもよい。この場合、連結部107は、回転ステージ105及び回転ステージ105上に載置された基材300を、溶射ガン200に対して所定の角度に傾けることができる。
【0024】
回転ステージ105は、回転支柱に103に固定される。回転ステージ105は、回転支柱103に傾き可能に固定されてもよい。回転ステージ105は、基材300を着脱可能に支持する。溶射工程において、回転ステージ105は、回転機構に接続された回転支柱103によって、基材300とともに回転する。このとき、回転ステージ105は、溶射材料を基材300に吹き付ける溶射ガン200に対して、所定の角度傾いていてもよい。図示はしないが、回転ステージ105には、回転支柱103の配管(第1配管)に連結され、該配管を介して供給された液体を基材300に供給する液体供給口と、基材300を循環した液体を排出し、回転支柱103の配管(第2配管)に連結される液体排出口が設けられる。液体供給口は、回転支柱103の配管(第1配管)と後述する基材300に設けられた流入口(303)と整合するように設けられる。同様に、液体排出口は、回転支柱103の配管(第2配管)と後述する基材300に設けられた流出口(305)と整合するように設けられる。
【0025】
図2は、基材300の構成を説明するための図である。基材300は、回転装置100の回転ステージ105上に載置される。基材300は、例えば、アルミニウム(Al)などの金属を含む。基材300上には、溶射ガン20から吹き付けられる溶射材料により溶射膜201が形成される。
図2に示すように、基材300内部には、液体供給装置111から供給された液体を循環させる流路(流動経路)301が設けられている。
【0026】
図3は、基材300内に設けられた液体の流路301の一例を示す図である。
図3は、基材300を溶射膜201が形成されない裏面側から見た図である。流路301は、液体供給装置111からの液体の供給を受ける流入口303と、流路301に沿って基材300内を循環した液体を液体供給装置111に戻す流出口305を有する。流入口303は、回転ステージ105に設けられ、回転支柱103の配管(第1配管)に連結される液体供給口119(
図2参照)に連結される。流出口305は、回転支柱103の配管(第2配管)に連結される液体排出口121(
図2参照)に連結される。基材300が円形の場合、
図3に示すように、流路301は、基材300の円周方向に沿って基材300全体に設けられることが好ましい。
図3では、基材300が円形である場合を示したが、基材300の形状は円形に限定されない。
【0027】
基材300の少なくとも一部は、多孔質材料302で形成されている。多孔質材料302は、例えば、孔径が10~200μmの多孔質セラミックであってもよい。基材300の内部には、回転支柱103に設けられた、エアチャック装置113に接続する配管につながる貫通孔307が設けられてもよい。貫通孔307は、多孔質材料302部分に接続する。尚、本実施形態の基材300はこれに限定されず、基材300は、多孔質材料を含まなくてもよい。この場合、基材300は、ねじなどの固定具により、回転ステージ105に固定されることができる。
【0028】
液体供給装置111は、回転ステージ105上に載置された基材300に所定の温度の液体を供給する。以下、
図4を参照して液体供給装置111の構成を説明する。
【0029】
図4は、液体供給装置111の構成を説明するための図である。液体供給装置111は、温水用タンク401、冷水用タンク403、熱交換器405、純水装置407、及び供給ユニット409を含む。本実施形態では、基材300の温度調整に用いる液体として、水を使用する一例を説明する。
図4においては、回転支柱103、及び回転ステージ105の図示は省略している。
【0030】
温水用タンク401は、基材300に供給するための温水を一時的に貯蔵する。温水用タンク401に貯蔵される温水は、20℃~120℃程度の温度に保持される。温水用タンク401は、貯蔵される温水の温度を維持するためのヒータ411を有する。温水用タンク401は、温水を供給ユニット409に供給する。また、温水用タンク401は、基材300を循環した液体を回収し、その一部を冷水用タンク403に供給する。基材300を循環した液体は、回転ステージ105に設けられた液体排出口及び回転支柱103に設けられた配管を介して温水用タンク401に回収される。温水用タンク401は、ロータリージョイント115を介して回転支柱103に設けられた配管と連結され、ロータリージョイント115を介して基材300を循環した液体を回収する。
【0031】
冷水用タンク403は、基材300に供給するための冷水を一時的に貯蔵する。冷水用タンク403に貯蔵される冷水は、常温の温度(約20℃~約35℃)に保持される。冷水用タンク403は、冷水を供給ユニット409に供給する。また、冷水用タンク403は、温水用タンク401から温水の供給を受ける。冷水用タンク403は、供給された温水を含む水を熱交換器405に供給する。冷水用タンク403には、熱交換器405から冷水が供給される。また、冷水用タンク403は、貯蔵される冷水を純水装置407に供給してもよい。
【0032】
熱交換器405は、冷水用タンク403から水が供給される。熱交換器405は、供給された水を冷却し、冷却した水を冷水用タンク403に戻す。熱交換器405はラジエータであってもよい。
【0033】
純水装置407は、冷却用タンク403から供給された水を純水化する。純水装置407は、イオン交換樹脂を含む。純水装置407は、イオン交換樹脂による純水化した水を冷却用タンク403に戻す。一実施形態によれば、純水装置407は、液体供給装置111の構成から省略されてもよい。
【0034】
供給ユニット409には、温水用タンク401から温水が供給され、冷水用タンク403から冷水が供給される。供給ユニット409は、供給された温水及び冷水を混合して所定の温度の温水に調整して、回転支柱103に設けられた配管及び回転ステージ105に設けられた液体給水口を介して温水を基材300に供給する。供給ユニット409において調整される温水の温度は、85℃以上120℃以下の範囲であることが好ましい。供給ユニット409は、ロータリージョイント115を介して回転支柱103に設けられた配管と連結され、ロータリージョイント115を介して温度が調整された温水を基材300に供給する。
【0035】
供給ユニット409は、加圧装置を含んでもよい。基材109に供給する温水の温度を100℃超に調整する場合、加圧装置で温水を加圧して、温水の温度を100℃超に調整することができる。
【0036】
溶射工程中は、溶射ガン20から溶融状態、または半溶融状態の溶射材料が吹き付けられる溶射工程中と、溶射が終了した後とで、基材300の温度差が大きいと、基材300に熱応力が生じ、溶射膜(201)が基材300の表面から剥離したり、溶射膜(201)に亀裂が生じるなどの問題が生じる虞がある。
【0037】
本実施形態では、液体供給装置111から所定の温度に調整された温水が基材300に供給される。基材300に供給された温水は、基材300に形成された流路301に沿って基材300全体を循環する。流路301を流れる温水は、溶射工程中に高温となる基材300から熱を受け取り、基材300の温度上昇を抑制する。つまり、基材300に供給された温水は、熱媒として機能する。これにより、溶射工程中と溶射工程後との基材300の温度差が小さくなり、基材300に生じる熱応力を低減することができる。その結果、溶射膜の剥離や、亀裂の発生を防止することができる。また、溶射工程中における基材300の温度変動幅が小さくなり、形成される溶射膜の残留応力も低減される。その結果、溶射膜の剥離耐性が向上し、製品の個体ごとの品質のばらつきが小さくなり、製品の信頼性が向上する。
【0038】
以上の実施形態では、液体供給装置111から基材300に供給される液体として水を使用する例を説明した。しかしながら、基材300の温度調整に用いる液体は、水に限定されない。例えば、基材300の温度調整にはガルデンなどの高沸点材料や、その他の液媒体を使用することもできる。この場合、液体供給装置111から基材300に供給される液媒体の温度は、25℃以上270℃以下の範囲であることが好ましい。基材300の温度調整に用いる熱媒の種類によって、液体供給装置111の構成は、適宜変更することができる。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
本開示の一実施形態に係る回転装置を用いた場合の基材の温度を検証した。使用した回転装置の構成は、
図1を参照して説明した回転装置10の構成と同様である。また、使用した回転装置に含まれる液体供給装置の構成は、
図4を参照した説明した液体供給装置111の構成と同様である。使用した基材の構成は、
図2及び
図3を参照して説明した基材300の構成と同様である。本体がアルミニウムであり、多孔質部分(302)は酸化アルミニウムで構成された基材を使用した。
【0040】
実施例1では、液体供給装置から基材に導入する温水の温度を85℃に設定し、液体供給装置から基材への送水圧力を3気圧とし、溶射工程中の基材の裏面側(溶射膜が形成されない面)の温度、及び基材に設けられた流路の給水口及び排出口の温度を測定した。溶射工程中に溶射ガン(200)から基材表面に噴射される溶射材料は、酸化アルミニウムであり、その温度は1800℃~2500℃である。
図5に、実施例1における基材裏面の温度、及び基材に設けられた流路の給水口及び排出口の温度の経過を示す。
【0041】
図5を参照すると、本開示の実施形態に係る回転装置を用いた実施例1では、液体供給装置から85℃に設定した温水が基材に供給されると、基材の裏面温度は、105℃程度に保たれていることが分かる。また、流路の給水口の温度が約85℃であるのに対して、排出口の温度は110℃程度であった。これは、流路を循環する温水が、溶射工程中に、溶射膜が形成されている基材の表面側から熱を受け取り、基材の温度上昇を抑制したことを意味している。この結果から、実施例1では、溶射工程中と溶射工程後との基材の温度差が低減されていることが示唆される。したがって、熱媒として液体を用いることにより、効果的に溶射工程中の基材の温度調整が可能であることが分かる。
【0042】
以上に説明したように、本開示の実施形態に係る回転装置では、溶射工程中に基材の温度上昇を抑制し、溶射工程中と溶射工程後との基材の温度差を低減させることができる。これにより、基材に生じる熱応力を低減することができ、その結果、溶射工程後における溶射膜の基材からの剥離や、溶射膜における亀裂の発生を防止し、溶射膜の品質を向上させ、製品の信頼性を向上させることができる。また、溶射工程中に生じる熱応力が小さいことから、溶射膜を含めた基材の品質が向上し、基材を実使用する際に、基材の信頼性が向上する。
【0043】
(変形例)
以上に説明した本開示の実施形態では、回転装置100に設置された基材300が液体供給装置111から液体を供給される場合を説明したが、本開示はこれに限定されるわけではない。例えば、基材300は、気体供給装置(気体供給部)から加圧された気体を供給されてもよい。
【0044】
本開示の変形例に係る溶射装置において、回転装置100は、液体供給装置111に加え、気体供給装置を備えてもよい。気体供給装置は、加圧された気体として、例えば、水蒸気を基材300に供給してもよい。この場合、気体供給装置は、温水用タンク(
図4における温水用タンク401)を省略し、代わりにボイラにより冷水用タンク(
図4における冷水用タンク403)から供給された冷水を加熱して蒸気を生成し、基材300に供給することを除いては、
図4に示した液体供給装置111の構成と略同様に構成することができる。尚、ボイラにより生成された蒸気は、基材300に供給される前にホットエアと混合されて温度を調整することができる。尚、気体供給装置から供給される気体は、水蒸気に限定されるわけではない。気体供給装置は、例えば、約85℃~約145℃の気体を供給する。
【0045】
気体供給装置は、溶射工程の前に、基材300に加圧された気体を供給してもよい。溶射開始前に、気体供給装置は加圧された気体を基材300に供給することにより、基材300の温度を効率的に調整することができる。
【0046】
溶射開始前に、気体供給装置から供給された気体によって、基材300の温度を所望の温度に調整することにより、溶射開始後に基材300の温度が急激に上昇することを防止し、溶射前と溶射開始後の基材300に生じる熱応力を低減することができる。尚、溶射工程中の基材300の温度を調整するために、溶射開始後、即ち、溶射工程中は、回転装置100は、上記実施形態に係る液体供給装置111から熱媒として温水の供給を受けることが好ましい。
【0047】
以上に説明したように、回転装置100は、溶射開始前には、気体供給装置から気体の供給を受けることにより、基材300を所望の温度に調整し、溶射開始後(溶射工程中)には、液体供給装置111から温水の供給を受けることにより、溶射膜が形成されている基材300を所望の温度に調整してもよい。この場合、回転装置100において、溶射開始前と溶射開始後とで、気体供給装置及び液体供給装置111と、ロータリージョイント115との連結を切り替えてもよい。
【0048】
以上に説明した本開示の実施形態及び変形例を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0049】
以上に説明した本開示の実施形態では、回転装置が液体供給装置を含む場合を説明したが、本開示はこれに限定されるわけではない。例えば、溶射に使用される回転装置の他、200℃程度まで加熱される処理を実行する装置において、基材の温度制御のために本実施形態の液体供給装置が適用されてもよい。
【0050】
上述した実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0051】
10:溶射装置、100:回転装置、101:回転台、103:回転支柱、105:回転ステージ、300:基材(ワーク)、111:液体供給装置、113:エアチャック装置、115:ロータリージョイント、117:回転機構、200:溶射ガン、301:流路、303:流入口、305:流出口、401:温水用タンク、403:冷水用タンク、405:熱交換器、407:純水装置、409:供給ユニット