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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10D 30/01 20250101AFI20250627BHJP
   H10D 30/66 20250101ALI20250627BHJP
   H10D 62/10 20250101ALI20250627BHJP
【FI】
H10D30/01 301A
H10D30/66 103Q
H10D30/66 201C
H10D30/66 101H
H10D30/66 101D
H10D30/66 102S
H10D30/01 301E
H10D30/66 101T
H10D30/66 101F
H10D30/66 103S
H10D30/66 103B
H10D62/10 101G
H10D62/10 101V
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022127017
(22)【出願日】2022-08-09
(65)【公開番号】P2024024279
(43)【公開日】2024-02-22
【審査請求日】2024-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】永久 雄一
(72)【発明者】
【氏名】本田 成人
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 真哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂久
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-251023(JP,A)
【文献】特開2016-213474(JP,A)
【文献】特開2022-051197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0093475(US,A1)
【文献】特開2007-173783(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179820(WO,A1)
【文献】特開2007-149736(JP,A)
【文献】特開2008-004643(JP,A)
【文献】特開2019-071384(JP,A)
【文献】特開2022-080586(JP,A)
【文献】特開2017-059712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10D 30/01
H10D 30/66
H10D 62/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1導電型の炭化珪素半導体基板上にエピタキシャル成長により第1導電型のドリフト層を形成する工程と、
(b)前記ドリフト層の不純物濃度を測定する工程と、
(c)前記ドリフト層上に周期的に設けられた複数の第1の開口部を有するイオン注入マスクを形成する工程と、
(d)前記複数の第1の開口部を介して第2導電型の不純物イオンを注入して、前記ドリフト層中に第2導電型の第2のピラー領域を複数形成し、前記第2のピラー領域の間の前記ドリフト層を第1導電型の第1のピラー領域とする工程と、
(e)前記ドリフト層上にエピタキシャル成長により第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程と、
(f)エピタキシャル層中にトランジスタのユニットセルを複数形成する工程と、を備え、
前記工程(d)は、前記工程(b)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入量をフィードフォワード制御する工程を含む、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、
(g)前記ドリフト層の膜厚を測定する工程をさらに備え、
前記工程(d)は、
前記工程(g)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入エネルギーをフィードフォワード制御する工程をさらに含む、請求項1記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
(a)第1導電型の炭化珪素半導体基板上にエピタキシャル成長により第1導電型のドリフト層を形成する工程と、
(b)前記ドリフト層の膜厚を測定する工程と、
(c)前記ドリフト層上に周期的に設けられた複数の第1の開口部を有するイオン注入マスクを形成する工程と、
(d)前記複数の第1の開口部を介して第2導電型の不純物イオンを注入して、前記ドリフト層中に第2導電型の第2のピラー領域を複数形成し、前記第2のピラー領域の間の前記ドリフト層を第1導電型の第1のピラー領域とする工程と、
(e)前記ドリフト層上にエピタキシャル成長により第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程と、
(f)エピタキシャル層中にトランジスタのユニットセルを複数形成する工程と、を備え、
前記工程(d)は、前記工程(b)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入エネルギーをフィードフォワード制御する工程を含む、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、
(g)前記ドリフト層の不純物濃度を測定する工程をさらに備え、
前記工程(d)は、
前記工程(g)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入量をフィードフォワード制御する工程をさらに含む、請求項3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)と前記工程(d)との間に、
(h)前記イオン注入マスクの前記複数の第1の開口部の平均開口幅を測定する工程をさらに備え、
前記工程(d)は、
前記工程(h)での測定結果と負の相関を持つように前記イオン注入量をフィードフォワード制御する工程をさらに含む、請求項1または請求項4記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記工程(d)は、前記ドリフト層の前記不純物濃度のばらつきの幅に対して、少なくとも2水準の注入条件を設定して前記不純物イオンをイオン注入する、請求項1または請求項4記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記工程(c)は、
前記炭化珪素半導体基板の外周部に複数のガードリングを形成するための複数の第2の開口部を有するように前記イオン注入マスクを形成し、
前記工程(d)は、
前記複数の第2の開口部を介して第2導電型の前記不純物イオンを注入し、前記外周部において、前記第2のピラー領域と同じ注入プロファイルで前記複数のガードリングを形成する、請求項1または請求項3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記トランジスタは、
エピタキシャル層中に設けられたトレンチゲートを有するトレンチ型のトランジスタであって、
前記工程(f)は、
前記トレンチゲートの底部に前記第2のピラー領域よりも高濃度の第2導電型の電界保護領域を形成する工程を有し、
前記電界保護領域が前記第2のピラー領域と接続されている、請求項1または請求項3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記トランジスタは、
エピタキシャル層上に設けられたゲートを有するプレーナ型のトランジスタであって、
前記工程(f)は、
前記エピタキシャル層の上層部に前記第2のピラー領域よりも高濃度の第2導電型のボディ領域を形成する工程を有し、
前記ボディ領域が前記第2のピラー領域と接続されている、請求項1または請求項3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は炭化珪素半導体装置の製造方法に関し、特に、耐圧とオン抵抗のトレードオフを改善できる炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーエレクトロニクスで用いられる半導体装置としては、半導体基板の両面に電極を有する縦型半導体素子が主流であり、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)またはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が典型的である。通常の縦型MOSFETは、オフ状態とされると、ドリフト層において空乏層が伸び、これが耐圧保持層として機能する。ドリフト層の厚みが小さかったり、あるいはドリフト層の不純物濃度が高かったりすると、薄い空乏層しか形成され得ないので、素子の耐圧は低下する。一方、MOSFETがオン状態のときは、半導体基板とドリフト層とを通る主電流が流れ、この主電流が受ける抵抗がオン抵抗と称される。ドリフト層が有する抵抗、すなわちドリフト抵抗は、半導体基板の抵抗に比べて高いので、MOSFETの主要な抵抗成分の1つである。従って、ドリフト抵抗を低くすることによってオン抵抗を実質的に下げることができる。そのための典型的な方法は、ドリフト層の厚みを小さくすること、または、ドリフト層の不純物濃度を高めることである。このため、高い耐圧と低いオン抵抗との間にはトレードオフが存在する。
【0003】
この耐圧とオン抵抗との間のトレードオフを改善できる構造として、例えば特許文献1に開示されるようなスーパージャンクション構造(SJ構造)が提案されている。
【0004】
スーパージャンクション構造とは、ドリフト層において、主電流が流れる方向に直交する方向に沿って、第2導電型のピラーと第1導電型のピラーとが交互に配列された構造である。この構造によれば、半導体素子の表面近傍に存在するpn接合面または金属接合面から広がる空乏層の他に、第2導電型のピラーと第1導電型のピラーとの間のpn接合面からも空乏層が広がる。SJ構造では一般に、耐圧保持時にはこれらの第1導電型のピラーおよび第2導電型のピラーの双方が空乏化されるが、その際に、深さ方向あたりの空間電荷の平均値が0近傍になるように設計される。これは深さ方向あたりの空間電荷による電気力線の終端が無視できることを意味し、この状態をチャージバランスされた状態と呼ぶ。そのため、理想的にはSJ構造の不純物濃度は第1導電型のピラーが空乏化する範囲で耐圧を落とさずに高濃度化することができるため、MOSFETで課題であったオン抵抗と耐圧のトレードオフを大幅に改善することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/069416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化珪素半導体装置においても、SJ構造によるドリフト層の低抵抗化はシリコン半導体装置と同様に期待される。一方で、炭化珪素を用いる場合は、不純物濃度のばらつきの制御が課題となる。特に、低不純物濃度が要求されるドリフト層は、一般に化学気相成長法(CVD法:Chemical Vaper Deposition)によるエピタキシャル成長法(以後、エピ成長と呼称)で形成されるが、炭化珪素のエピ成長には高温かつ、シリコン、炭素の原料ガスの比率の高度な制御が必要となるため、不純物濃度のばらつきが比較的大きい。そのため、同じ仕様のエピタキシャルウエハであっても、ウエハごとにドリフト層濃度がばらついており、例えば中心条件に対し±10~30%程度ばらついてしまう。従って、仮にドリフト層の不純物の導電型を第1導電型とした場合、第2導電型のピラーをばらつきなししで作成できたとしても、ドリフト層の不純物濃度のばらつきより、±10~30%のチャージバランスからのズレ、すなわちチャージインバランスが生じてしまう。これにより、SJ構造における耐圧が低下してしまう。
【0007】
また、膜厚についても、キャリア濃度ほどではないが、炭化珪素半導体基板ではばらつきは比較的大きく、中心条件に対して±5~20%ほどばらついてしまう。膜厚のばらつきは、エピ成長およびイオン注入を繰り返してピラー領域を形成するマルチエピタキシャル方式(以後、マルチエピ方式と呼称)でのエピ成長を採用する場合、各エピタキシャル層間の境界部分の領域でのチャージインバランスの発生原因となり、耐圧低下を起こし得る。
【0008】
以上のように、SJ構造を有する炭化珪素MOSFET(SJ-SiC-MOSFET)の実現にあたっては、エピタキシャル層の不純物濃度(以後、エピ濃度と呼称)のばらつきに起因するチャージインバランスによる耐圧低下が生じるため、同一の耐圧を実現するためには、その分エピタキシャル層の膜厚を厚くする必要があり、オン抵抗が低下してしまうという問題があった。
【0009】
本開示は上記のような問題を解決するためになされたものであり、複数のウエハ間でのドリフト層のエピ濃度および膜厚のばらつきが大きい場合であってもチャージインバランスを低減できる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る半導体装置の製造方法は、第1導電型の炭化珪素半導体基板上にエピタキシャル成長により第1導電型のドリフト層を形成する工程(a)と、前記ドリフト層の不純物濃度を測定する工程(b)と、前記ドリフト層上に周期的に設けられた複数の第1の開口部を有するイオン注入マスクを形成する工程(c)と、前記複数の第1の開口部を介して第2導電型の不純物イオンを注入して、前記ドリフト層中に第2導電型の第2のピラー領域を複数形成し、前記第2のピラー領域の間の前記ドリフト層を第1導電型の第1のピラー領域とする工程(d)と、前記ドリフト層上にエピタキシャル成長により第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程(e)と、エピタキシャル層中にトランジスタのユニットセルを複数形成する工程(f)と、を備え、前記工程(d)は、前記工程(b)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入量をフィードフォワード制御する工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る半導体装置の製造方法によれば、ドリフト層の不純物濃度を測定し、測定結果と正の相関を持つように第2のピラー領域を形成するイオン注入工程をフィードフォワード制御するので、チャージインバランスを低減した半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置の平面図である。
図2】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置の部分断面図である。
図3】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置の部分断面図である。
図4】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置の部分断面図である。
図5】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置の部分断面図である。
図6】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明するフローチャートである。
図7】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明する部分断面図である。
図8】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明する部分断面図である。
図9】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明する部分断面図である。
図10】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明する部分断面図である。
図11】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明するフローチャートである。
図12】均一な深さ方向プロファイルのピラー領域の形成方法を説明する図である。
図13】本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置のスーパージャンクション領域の形成方法を説明するフローチャートである。
図14】均一な深さ方向プロファイルのピラー領域の形成方法を説明する図である。
図15】マルチエピ方式を4回繰り返した場合のスーパージャンクション領域の断面図である。
図16】マルチエピ方式を4回繰り返した場合のスーパージャンクション領域におけるアクセプタイオンおよびドナーイオンの深さ方向の不純物濃度のプロファイルを示す図である。
図17】pnダイオード構造を用いてスーパージャンクション領域の最適設計を説明する断面図である。
図18】ピラーピッチとオン抵抗、不純物濃度の関係を示す図である。
図19】チャージバランスが成立している場合の耐圧保持時の状態を示す図である。
図20】p型ピラーおよびn型ピラーが完全に空乏化した場合のn型ピラーおよびp型ピラーの電界分布を示す図である。
図21】pnダイオード構造においてp型領域の不純物濃度がばらついた場合のn型ピラーおよびp型ピラーの電界分布を示す図である。
図22】pnダイオード構造においてn型領域の不純物濃度がばらついた場合のn型ピラーおよびp型ピラーの電界分布を示す図である。
図23】スーパージャンクション領域のある深さでの不純物濃度のプロファイルを示す図である。
図24】不純物濃度のばらつきおよびレジストの開口幅のばらつきをフィードフォワードする場合の注入量のテーブルデータを示す図である。
図25】ドリフト層の膜厚を注入量および注入エネルギーにフィードフォワードする方法を説明する図である。
図26】本開示に係る実施の形態2の炭化珪素半導体装置の平面図である。
図27】本開示に係る実施の形態2の炭化珪素半導体装置の部分断面図である。
図28】本開示に係る実施の形態3の炭化珪素半導体装置の部分断面図である。
図29】本開示に係る実施の形態3の炭化珪素半導体装置の変形例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<はじめに>
以下、図面を参照しながら本開示に係る実施の形態について説明する。なお、図面は模式的に示されたものであり、図中の各構成要素の水平方向、垂直方向の寸法は、実際の寸法を正確に表したものではなく、寸法比は正確ではない。また、以下の説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称および機能も同様のものとする。よって、それらについての詳細な説明を省略する場合がある。
【0014】
また、以下の説明では、「上」、「下」、「側」、「表」または「裏」などの特定の位置および方向を意味する用語が用いられる場合があるが、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするため便宜上用いられているものであり、実際に実施される際の方向とは関係しない。
【0015】
また、以下において、「外側」とは半導体基板の外周に向かう方向であり、「内側」とは「外側」に対して反対の方向とする。
【0016】
本開示においては、半導体装置として、炭化珪素(SiC)半導体装置を例示し、特に、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネル型炭化珪素MOSFETを例に挙げて説明する。電位の高低についての記述は、n型を第1導電型、p型を第2導電型とした場合に対する記述であり、n型を第2導電型、p型を第1導電型とした場合には、電位の高低の記述も逆になる。さらに、半導体装置全体のうち、ユニットセルが周期的に配置された領域を活性領域、その外周の領域を外周領域と呼称する。
【0017】
<実施の形態1>
<装置構成>
図1は、本開示に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置であるSJ-SiC-MOSFET1000を、上面であるソース電極側から見た平面図である。なお、図1は、後に説明する実施の形態2のSJ-SiC-MOSFET2000の平面図としても兼用される。
【0018】
図1に示されるように、SJ-SiC-MOSFET1000は、平面視形状が矩形の半導体チップであり、半導体チップの大部分を占めるソース電極80の外周を囲むようにゲート配線82が設けられ、ゲート配線82は半導体チップの角部に設けられたゲートパッド81から延在している。ゲートパッド81およびゲート配線82とは同一の導電体で構成することができる。
【0019】
なお、ソース電極80、ゲートパッド81およびゲート配線82の配置および形状は一例であり、図1に限定されるものではない。
【0020】
図2は、図1おけるA-A線での矢示断面図であり、ソース電極80の下部の領域に周期的に繰り返して配置されたユニットセルの構成を示している。本実施の形態では、一例として、SJ-SiC-MOSFETで一般的なトレンチ型のMOSFET構造を説明する。
【0021】
実施の形態1のSJ-SiC-MOSFET1000では、トレンチゲートTRの下部にp型の電界保護領域31が設けられており、さらにその下にp型のピラー領域30(第2のピラー領域)が設けられていることが特徴である。
【0022】
すなわち、図2に示すように、SJ-SiC-MOSFET1000は、n型の炭化珪素半導体基板10の第1の主面上にn型のドリフト層20が設けられている。ドリフト層20中にはイオン注入法と活性化アニールにより形成されたp型のピラー領域30が設けられている。また、ドリフト層20中のピラー領域30を形成されていないn型の領域をピラー領域21(第1のピラー領域)と呼称する。ピラー領域21の不純物濃度はドリフト層20と同じとすることができるが、SJ構造の効果を最大とするために、追加のエピ成長プロセスまたはイオン注入工程などでより高い不純物濃度にすることもできる。
【0023】
図2に示されるように、ピラー領域21とピラー領域30とが、紙面横方向、すなわちトレンチゲートTRの配列方向(x方向)に、繰り返し周期d1で繰り返して配列された領域をSJ領域100と呼称する。繰り返し周期d1はピラーピッチd1と言うことができる。このSJ領域100において、ピラー領域21およびピラー領域30は、平面視で紙面奥行き方向、すなわちトレンチゲートTRの延在方向(y方向)に沿って形成されており、平面視形状がストライプ状に形成されている。
【0024】
また、SJ領域100より上側の領域をMOSFET領域200と呼称し、ピラー領域30はMOSFET領域200中のp型の不純物領域に接続される。トレンチ構造の場合は、p型の電界保護領域31に接続されるように形成することができる。
【0025】
MOSFET領域200においては、ドリフト層20の最表面からドリフト層20中に達するように形成されたトレンチゲートTRが設けられている。トレンチゲートTRは、ドリフト層20を掘り込んで形成されたトレンチの内面を覆うように、厚さ25~150nmの酸化シリコンなどで構成されるゲート絶縁膜50が形成され、ゲート絶縁膜50で囲まれた領域を埋め込むように、多結晶シリコンなどで構成されたゲート電極60が形成されている。トレンチゲートTRは、繰り返し周期d2で繰り返して設けられ、ゲート電極60の上部は、酸化シリコンなどで構成される層間絶縁膜51によってそれぞれ覆われている。
【0026】
ドリフト層20の上層部には、トレンチゲートTRの間に設けられたn型のソース領域23が選択的に設けられ、ソース領域23の下にはp型のボディ領域32が設けられている。ソース領域23およびボディ領域32の内部にはp型のボディコンタクト領域33が設けられている。ボディコンタクト領域33は、ソース領域23は貫通するが、ボディ領域32は貫通しないように設けられている。
【0027】
ボディコンタクト領域33の上部には、オーミック電極70が設けられ、オーミック電極70は、層間絶縁膜51の間に設けられた開口部を介してソース電極80に接続されている。
【0028】
ボディ領域32の下部であって、トレンチゲートTRおよび電界保護領域31の間となるピラー領域21は、JFET領域22と呼称される。JFET領域22の不純物濃度は、SJ領域100とは異なり、チャージバランスは要求されないため、ピラー領域21より高くして、JFET抵抗を低減することができる。一方、製造工程を削減するため、ピラー領域21と同一の濃度、すなわち、エピタキシャル層であるドリフト層20をそのまま利用することもできる。
【0029】
トレンチゲートTRの底部に設けられた電界保護領域31は、平面視で紙面奥行き方向において、図示されない部分でボディ領域32に接続され、ソース電位となっている。これにより、電界保護領域31に接続されるピラー領域30は電位が固定されるので、ピラー領域30の電位を安定させることができる。
【0030】
電界保護領域31の不純物濃度はピラー領域30よりも高いことが好適であるが、ピラー領域30の不純物濃度と同じとすることもでき、また、それより低くすることもできる。
【0031】
ピラー領域21およびピラー領域30の不純物濃度は、プロセスばらつきなどで変動し得るが、原則として概ねチャージバランスするように設計される。チャージバランスとはピラー領域21およびピラー領域30が、同一深さ(z方向で一定)において完全空乏化した場合の空間電荷密度の総和が、正負が打ち消しあい、ゼロ近くとなるような条件のことである。具体的には、ピラー領域21のピラー幅とピラー領域21の不純物濃度の積と、ピラー領域30のピラー幅とピラー領域30の不純物濃度の積とがほぼ等しくなるようにSJ領域100を設計することで実現できる。
【0032】
もちろん設計範囲として、ある深さにおける完全空乏化時の総空乏層電荷の比、すなわちチャージバランスの度合いを変化させることはできる。例えば、ピラー領域21でイオン化している空乏層電荷の総数をNntot、ピラー領域30でイオン化している空乏層電荷の総数をNptotとした場合、Nntot/Nptotで定義される総空乏層電荷の比の値を0.5~2.0程度変化させることができる。Nntot/Nptotの値が1の場合がチャージバランスしている状態であり、1より大きく、2.0以下の場合を「正側」と呼称し、0.5以上1未満の場合を「負側」と呼称する。
【0033】
総空乏層電荷の比を正側にすれば、よりn型のMOSFETに近い特性になるため、MOSFETのボディダイオードの逆回復電流の原因となる少数キャリアの量を低減することが可能となる。また負側にすると、絶縁破壊が生じる箇所を基板表面よりも内部にシフトすることができ、アバランシェ電流の通電経路を伸ばすことでアバランシェ電流を抑制し、アバランシェ耐量を高めることができる。
【0034】
図2に示したSJ-SiC-MOSFET1000では、SJ領域100のピラー領域21およびピラー領域30の繰り返し周期d1と、MOSFET領域200のトレンチゲートTRの繰り返し周期d2とが一致している構成を示したが、両者は必ずしも一致している必要はない。例えば、図3に示されるように、繰り返し周期d1を繰り返し周期d2の整数倍とすることができる。この場合は、ピラー領域21の幅が広がり、主電流経路がピラー領域30から延びる空乏層によりスムーズに広がらないことで生じる広がり抵抗を下げることができる。
【0035】
すなわち、オン状態であっても、ピラー領域30とピラー領域21とのpn接合間には、拡散電位とピラー領域21中の電圧降下の電位差が加わるため、その値に応じて空乏層が広がる。広がった空乏層により、主電流経路が阻害されるため、主電流経路がスムーズに広がらず、主電流経路の抵抗が上がることになる。一方、ピラー領域21の幅が広がると、トレンチゲートTRの下部の主電流経路が広がり、SJ領域100での主電流経路の抵抗が下がる。
【0036】
同様に、繰り返し周期d2も繰り返し周期d1と一致している必要はない。例えば、図4に示されるように、MOSFET領域200のトレンチゲートTRの間に、トレンチソースTSを配置した構成とすることで、トレンチゲートTRの数を間引きし、入力容量を下げた構成とすることもできる。
【0037】
トレンチソースTSは、トレンチゲートTRと同様の構成であり、ドリフト層20を掘り込んで形成されたトレンチの内面を覆うようにゲート絶縁膜50が形成され、ゲート絶縁膜50で囲まれた領域を埋め込むように、多結晶シリコンなどで構成されたトレンチソース電極61が形成されている。トレンチソース電極61は、平面視で紙面奥行き方向において、図示されない部分でソース電極80に接続されるので、ゲート電極としては機能しない。
【0038】
また、図5に示されるように、トレンチゲートTRの間に、トレンチ型ショットキー電極84を配置した構成とすることで、SBD(Schottky Barrier Diode)を内蔵したMOSFETとすることもできる。トレンチ型ショットキー電極84は、ドリフト層20を掘り込んで形成されたトレンチを埋め込むように設けられ、ソース電極80と接触している。この構成により、逆方向動作時のバイポーラ電流の通電を抑制でき、SiC特有の結晶欠陥に起因するオン電圧の上昇およびリーク電流の増大を抑制できる。
【0039】
<製造方法>
次に、実施の形態1のSJ-SiC-MOSFET1000の製造方法について説明する。本開示に係る炭化珪素半導体装置の製造方法においては、エピタキシャル成長によるn型のドリフト層20の形成と、イオン注入によるp型のピラー領域30を形成する工程を1回以上繰り返してSJ構造を形成するマルチエピ方式の適用が不可欠である。以下、マルチエピ方式を用いたSJ領域100の形成方法について図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0040】
図6は、本開示に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の特徴である、フィードフォワードを実施したイオン注入工程を含む製造工程を示すフローチャートである。なお、図6はフィードフォワードによる注入工程の効果を説明する上で重要な工程のみ明示したものであり、各工程間に様々な工程、すなわち、洗浄および外観検査などが実施される。
【0041】
図6に示されるように、まず、ウエハ状態の炭化珪素半導体基板10を取得し(ステップS10)、その後、基板洗浄等を実施して炭化珪素半導体基板10を清浄な状態にする。この状態を図7に示す。その後、炭化珪素半導体基板10の上部に、CVD法を用いたエピタキシャル成長により、n型のエピタキシャル層を数百nm~10数μmの厚さに形成してドリフト層20とする(ステップS20)。
【0042】
その後、CV測定等でウエハ当たりの平均不純物濃度を定量してエピタキシャル層の濃度評価をする(ステップS30)。図8には、炭化珪素半導体基板10の裏面に電圧計VMを接続し、ドリフト層20の上面にCV測定装置のプローブDTを配置し、ドリフト層20の表面内の空乏層VCのキャリア濃度を測定する状態を模式的に示している。
【0043】
一般的な炭化珪素半導体基板のエピタキシャル層のキャリア濃度は、例えば、水銀プローブを有するCV測定装置を用いて、炭化珪素半導体基板の面内の複数点の静電容量を測定し、静電容量値から各測定点ごとのキャリア濃度を計算することで取得される。各測定点ごとのキャリア濃度を平均し、炭化珪素半導体基板10の面内の平均キャリア濃度を評価する。
【0044】
エピタキシャル成長とイオン注入の繰り返しを1回のみとする場合は、既知の濃度のエピ層を成長させた市販の炭化珪素半導体基板を利用することもできる。その場合、エピタキシャル成長工程を省略できるため、生産設備を簡素化できる。
【0045】
その後、ドリフト層20上に酸化シリコン(SiO)膜を形成し、その上にレジスト材を塗布し、フォトリソグラフィによりレジスト材をパターニングして図9に示すようにレジストマスクRMとし、レジストマスクRMを用いたドライエッチングにより酸化シリコン膜をパターニングし、イオン注入用の注入マスクSMを形成する(ステップS40)。なお、酸化シリコンの注入マスクSMは、炭化珪素と高い選択比を持つので、ドリフト層20を除去することなくエッチングできる。なお、炭化珪素と高い選択比を持ち、化学的に安定な材料であれば必ずしもSiOに限定されない。
【0046】
注入マスクSMを形成した後、不純物イオンの注入量を決定し(ステップS60)、イオン注入用の注入マスクSMを用いてp型不純物のイオン注入を行い(ステップS70)、図10に示されるようにドリフト層20中にピラー領域30を形成する。ピラー領域30を形成した後は、従来的なMOSFETの製造工程を経て、SJ-SiC-MOSFET1000を完成させる(ステップS80)。
【0047】
(注入量へのフィードフォワード)
以下では、ステップS60における不純物イオンの注入量の決定について、さらに説明する。まず、ドリフト層20のウエハ当たりの平均不純物濃度がステップS30において取得されているため、この値に基づいて不純物イオンの注入量を決定する。具体的には、ドリフト層20の面内に形成される合計のチャージインバランスを最小化するように決定する。
【0048】
例えば設計中心に対して、ドリフト層20のウエハ当たりの平均不純物濃度が±15%上下した場合、同様にイオン注入量も±15%上下して変化させれば、イオン注入工程のばらつき、注入マスクのばらつき、ウエハ面内のエピ濃度のばらつきを除いた範囲で、チャージインバランスを低減できる。すなわち、注入量とエピタキシャル層の濃度が正の相関を有するように制御する。一般にイオン注入工程はばらつきが少なく、加えてSiCは注入されたイオンの熱拡散係数が非常に小さいため、SiCにおける注入工程は非常にばらつきが少ない。ばらつきの大きいエピタキシャル成長工程の結果を注入工程にフィードフォワードすることで、ウエハ面内のチャージインバランスを大幅に低減することが可能となる。
【0049】
また、注入量の変更に関しては、規定された範囲内で毎回値を変更する以外にも、例えば簡略化した2水準以上の注入条件を規定した作業レシピを予め用意しておき、ウエハの平均エピ濃度に応じて作業レシピを選択する方法で、作業効率を向上させることもできる。
【0050】
すなわち、本開示の本質的な点は、n型トランジスタを想定した場合、エピ濃度のばらつきに比例して、アクセプタイオン注入量を調整し、チャージバランス量を極力一定に保つことにある。例えば、エピ濃度がばらつきにより10%増加した場合、アクセプタイオンのドーズ量を同じく10%増加させて、正の相関を持たせる。
【0051】
従って、これを2水準に簡略化するとは、生産工程上ばらつき得るエピ濃度の管理幅に対して、2水準の注入条件を用意することになる。具体的には中心条件に対して±20%ばらつくエピタキシャル層の生産方式であれば、中心から高濃度側に20%の領域、すなわち、平均より20%高濃度の領域を設け、中心から低濃度側に20%の領域、すなわち平均より20%低濃度の領域を設け、それぞれの領域の中心に対して、チャージバランス量が一定となるようにアクセプタイオンの注入量を決定する。この場合、エピ濃度が工程中心より高めに仕上がった場合、アクセプタイオンの注入量を10%増加、低めに仕上がった場合は10%低下させることになる。
【0052】
なお、ウエハ一枚一枚に対して、個別に注入条件を設定するのではなく、濃度が高いウエハは条件A、濃度が低いウエハは条件Bのように、注入条件の任意性を減らし、単純化したプロセスで処理することで、製造工程を簡略化できる。なお、具体的な注入量へのフィードフォワード方法は、後に説明する。
【0053】
(注入マスクの開口幅によるフィードフォワード)
不純物の注入量へフィードフォワードするパラメータとして、エピ濃度のみならず、注入マスクの開口幅もフィードフォワードすることができる。例えば開口幅が大きくなると、同じ注入量であっても、ある深さに供給される不純物の量は多くなるため、最適なチャージバランスを保つため注入量の調整が必要となる。
【0054】
図11は、不純物イオンの注入量を決定する前に、注入マスクの開口幅を評価する工程を盛り込んだ製造工程を示すフローチャートである。図11においては、不純物イオンの注入量を決定するステップS60の前に、注入マスクの開口幅を評価する注入マスク形状仕上がり評価(ステップS50)が導入されている。
【0055】
この場合、注入量は測定した開口幅のウエハ面内の平均値に対して負の相関を有するように決定することができる。また作業効率の向上のため、注入条件を2水準以上の離散的な条件として予め用意しておくこともできる。
【0056】
ここで、2水準以上の離散的な注入条件とは、レジスト開口幅が設計中心に対して±20%ばらつくのであれば、設計値以上の開口幅ならドーズ量を-10%下げる、設計値以下の開口幅ならドーズ量を+10%上げる、といった注入条件となる。
【0057】
ドーズ量の設定値は、エピ濃度のばらつきに対するフィードフォワードと同様に開口幅に対して負の相関となるように設定することもできる。例えば、開口幅が設計中心より広い場合はドーズ量を7%下げる、逆であれば7%上げるようにすることもできる。なお、開口幅が設計中心に対して上下にずれた場合のフィードフォワード量の絶対値は、必ずしも同一としないこともできる。例えば、開口幅が設計中心より広い場合はドーズ量を9%下げるが、逆であれば5%上げるようにすることもできる。
【0058】
このような設定は、開口幅の仕上がりが設計中心に対してどのように分布するか、すなわち、正規分布か、一定確率で一様に分布するか、設計中心に対して対称か、等によって変更することができる。具体的な注入量へのフィードフォワード方法は、後に説明する。
【0059】
(ピラー注入)
ピラー領域へのイオン注入、すなわち図6および図11のp型ピラー注入(ステップS70)は、フォトレジストおよびイオン注入用マスクを貫通しない注入エネルギー、すなわちイオン注入用マスクの厚みに依存する数100keV~数MeV以下の注入エネルギーで、注入エネルギーとドーズ量を変化させながら、均一な深さ方向プロファイルとなるようにピラー領域30を形成する。その具体例を図12に示す。
【0060】
図12は、横軸に不純物濃度をログスケールで示し、縦軸に基板表面からの深さをリニアスケールで示した注入プロファイルである。
【0061】
図12に示すように、例えば、注入エネルギーを低、中、高の3段階とすることで、濃度が均一のピラー領域30を形成する。本明細書では、フィードフォワードをかけるイオン注入はこれら全ての注入であり、複数段階のイオン注入の結果として仕上がるピラー領域30の不純物濃度を制御することを目的とする。イオン注入される注入元素としてはp型では、ボロン(B)またはアルミニウム(Al)が用いられる。
【0062】
(マルチエピ方式)
図7図10に示したエピタキシャル層の形成工程は、エピタキシャル成長とイオン注入の繰り返しを1回のみとする場合を示したが、エピタキシャル成長とイオン注入の繰り返しを複数回繰り返すマルチエピ方式では、ピラー領域30を形成した後、レジストマスクRMおよび注入マスクSMを除去し、再びn型のエピタキシャル層を形成し、エピ濃度を評価し、図6または図11のステップS40以下の工程を経て、ピラー領域30を縦方向に延在させる。これらの工程を複数回繰り返し、ピラー領域21とピラー領域30を有するSJ領域100を形成する。各繰り返し工程ごとにフィードフォワードした注入を実施することで、チャージインバランスを最小化したSJ構造を実現できる。
【0063】
マルチエピ方式では、エピタキシャル層の膜厚(以後、エピ膜厚と呼称)に対する注入エネルギーのフィードフォワードを追加することもできる。
【0064】
図13は、エピタキシャル層の濃度評価をした後に、エピ膜厚を評価する工程を追加し、不純物イオンの注入量を決定した後に、不純物イオンの注入エネルギーを決定する工程を追加したフローチャートである。図13においては、エピタキシャル層の濃度評価をするステップS30の後に、エピ膜厚を評価するステップS31が導入され、不純物イオンの注入量を決定するステップS60の後に、不純物イオンの注入エネルギーを決定するステップS61が挿入されている。
【0065】
エピ膜厚を評価するには、一例として、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)などによりウエハ面内の複数点のエピ膜厚を測定し、平均の膜厚を求めるなどの方法で実施する。
【0066】
この場合、エピ膜厚に対して正の相関を有するように、多段注入実施時の各注入のエネルギーを調整することができる。膜厚が意図せず厚くなった場合、各段階の注入エネルギーを所定数倍高くすることで、各エピ層間でピラー領域30の接続が弱まることを防止できる。この具体例を図14に示す。
【0067】
図14は、横軸に不純物濃度をログスケールで示し、縦軸に基板表面からの深さをリニアスケールで示した注入プロファイルを、膜厚が設計値通りに仕上がった「設計中心仕上がり」の場合、エピ膜厚が意図しない厚さとなった「膜厚仕上がり」の場合、およびエピ膜厚が意図しない厚さとなった場合に、注入エネルギーにフィードフォワードした「膜厚仕上がり+フィードフォワード」の場合の3つの注入プロファイルで示している。
【0068】
図14においては、何れの注入プロファイルにおいても、2回のエピ成長を行い、各エピタキシャル層に対して、3段階の注入エネルギーでイオン注入を行った場合を示しており、1回目のエピ成長と2回目のエピ成長の境界を鎖線で示している。
【0069】
膜厚が設計中心より10%高めに仕上がった場合は、「膜厚仕上がり」の注入プロファイルに示されるように、エピ成長の境界近傍で局所的にピラー領域30の濃度が低下した領域が発生してしまう。そのため、この領域でチャージインバランスが局所的に発生したり、ピラー領域21の抵抗が増大したりすることで、耐圧およびスイッチング速度が低下する。一方、膜厚の増大に応じて、注入エネルギーをそれぞれ10%増加させた場合、中心となる注入深さも略10%増加することになり、図14の「膜厚仕上がり+フィードフォワード」の注入プロファイルに示されるように、ピラー領域30のプロファイルを均一化でき、上述した不具合を緩和できる。
【0070】
また、逆に膜厚が薄くなった場合は、局所的に不純物濃度が高い領域がピラー領域30に発生し、チャージインバランスの発生による耐圧の低下が生じる。この場合も同様に注入エネルギーを設計中心よりも下げることで耐圧の低下を解消できる。
【0071】
まとめると、エピ膜厚と正の相関を有するように注入エネルギーを制御することで、エピ膜厚の増減に伴う不具合の発生を抑制することができる。注入エネルギーの変更の方法は、連続的に変化させることもでき、注入量と同様に事前に設定した離散的な2水準以上の条件から選択することもできる。
【0072】
以上では、n型のエピタキシャル層に、p型の不純物をイオン注入するマルチエピ方式を説明したが、n型とp型を入れ替えることもできる。また、エピタキシャル層を不純物の濃度の薄い領域とし、全面イオン注入でn型領域を形成することもできる。n型領域を形成する場合は、不純物として、窒素(N)またはリン(P)の注入が一般的である。
【0073】
(マルチエピ方式のコストと装置性能)
マルチエピ方式では、製造コストは主にマルチエピの回数に依存する。一方で、マルチエピの回数を少なくしようとした場合、MeVイオン注入などの特殊な工程が必要となる。そのため例えば注入エネルギー増大による注入欠陥の増大および注入用マスクの厚膜化による加工寸法の拡大など、半導体装置としての性能面では低下する傾向になる。なお、詳細は後述するが一般に、SJ―MOSFETでは微細化が進むほどに、高いアスペクト比で、高濃度で、繰り返し周期を短くするほどに性能が高くなる、すなわち同一耐圧におけるオン抵抗が低くなる。そのため、マルチエピ方式では、製造コストと装置性能のトレードオフがあり、主にマルチエピの回数によってそのバランスが決定される。
【0074】
(SJ領域の濃度関係)
マルチエピ方式においては、SJ領域100と炭化珪素半導体基板10およびドリフト層20の不純物濃度の関係は次のようになる。まず、n型領域については、炭化珪素半導体基板10が一番高濃度である。ドリフト層20はピラー領域21と同じ濃度かそれより低く設計される。次に、p型領域については、濃度の大小関係はSJ領域100内のチャージバランスの設計によって異なるが、基本的にはSJ領域100中の深さ方向の一定の平面内、これは活性領域のみについてであるが、ドナー総量/アクセプタ総量が0.5~2の範囲、すなわち倍半分の関係でバランスしている状態であれば概ねチャージバランスしているとみなすことができる。
【0075】
(SJ領域の深さ方向濃度分布)
本実施の形態1の具体例としてマルチエピ方式を4回繰り返した場合のSJ領域100の断面構成を図15に示し、当該SJ領域100におけるアクセプタイオン、ドナーイオンの深さ方向の平均不純物濃度のプロファイルを図16に示す。なお、本実施の形態1においては、イオン注入によるアクセプタ不純物が、後述する活性化アニール工程で活性化されることを前提としており、図16のプロファイルにおいても活性化されたドナーおよびアクセプタのプロファイルのみを示している。また、本明細書では基本的にチャージバランスを議論する場合の不純物濃度についての定量的な議論は、全て活性化した不純物のみを対象に行う。
【0076】
図15に示すように、マルチエピ方式を4回繰り返した場合のSJ領域100の断面構成においては、1段目のn型ピラー領域211、2段目のn型ピラー領域212、3段目のn型ピラー領域213および4段目のn型ピラー領域214と、1段目のp型ピラー領域310、2段目のp型ピラー領域302、3段目のp型ピラー領域303および4段目のp型ピラー領域304とが形成されている。
【0077】
図16では、横軸にSJ領域100の表面からの深さをリニアスケールで示し、縦軸に深さ方向の平均不純物濃度をリニアスケールで示し、図15におけるA-A線に沿ったアクセプタイオンの不純物濃度のプロファイルを破線で示し、図15におけるB-B線に沿ったドナーイオンの不純物濃度のプロファイルを実線で示している。
【0078】
図16に示すように例えば2段目のn型ピラー領域212のようにエピタキシャル層のドナー濃度が上昇した場合、イオン注入量を増加させ、2段目のp型ピラー領域302のようにアクセプタ濃度を高くして、一定の深さ方向でのチャージバランスを維持する。
【0079】
また、3段目のn型ピラー領域213が示すようにエピ膜厚が増大した場合は、エピ膜厚の増大量に応じた注入量エネルギーとドーズ量の調整を行い、3段目のp型ピラー領域303のように注入ピークを分散させ、発生するチャージインバランスを最小にするように仕上げる。
【0080】
(MOSFET領域の形成方法)
次に、MOSFET領域200の形成方法について図2を参照して説明する。まず、MOSFET領域200を形成するために、SJ領域100の上部にn型のエピタキシャル層を形成する。この際、不純物濃度がJFET領域22と同等になるようにエピタキシャル条件を制御することで、工程数を削減することができる。
【0081】
また、エピタキシャル層をn型の薄い不純物濃度、例えば1×1014cm-3で形成した後、イオン注入によりJFET領域22と同等の濃度まで高めることもできる。この場合、不純物濃度のばらつきはエピタキシャル成長でn型のエピタキシャル層を形成するよりも小さくでき、製品のばらつき低減および歩留まりの上昇を実現することができる。
【0082】
JFET領域22の不純物濃度は、ドリフト層20の不純物濃度およびピラー領域21よりも高い不純物濃度で形成することもでき、同じ不純物濃度で形成することもできる。JFET領域22の不純物濃度がドリフト層20等よりも高い場合はJFET抵抗を低抵抗にでき、ドリフト層20等と同じ場合は注入工程を削減しコストを削減できる。JFET領域22の不純物濃度は、例えば5×1016~1×1018cm-3とすることができる。また、ドリフト層20およびピラー領域21の不純物濃度は、1×1015~1×1017cm-3の範囲であればMOSFETとして動作できる。なお、ドリフト層20およびピラー領域21は、JFET領域22よりも不純物濃度が薄いことが一般的であるが、SJ-SiC-MOSFETとしてピラーピッチを微細化していけば高濃度化が可能となる。その場合、JFET領域22と同等の濃度まで上げることも可能になる。なお、SJ領域100の上部に形成するn型のエピタキシャル層の厚さは、1~4μm程度となる。
【0083】
次に、n型のエピタキシャル層にイオン注入によりAlなどのアクセプタイオンを注入し、n型のボディ領域32を形成する。ボディ領域32の不純物濃度は、例えば5×1017~1×1019cm―3とすることができる。ボディ領域32の不純物濃度はJFET領域22より高くする。ボディ領域32の深さは0.5~1.5μm程度とすることができる。ボディ領域32が深ければ、チャネル長が長くでき、短絡耐量を増やすことができる。また、ボディ領域32はp型のエピタキシャル層を設けることで形成することもできる。
【0084】
次に、イオン注入とフォトリソグラフィによりソース領域23およびボディコンタクト領域33を形成する。n型のソース領域は、窒素(N)またはリン(P)などの不純物注入により形成され、不純物濃度は1×1018~1×1021cm-3の範囲であり、ボディ領域32のp型の不純物濃度を超える値とする。ボディコンタクト領域33は、AlやBなどのp型の不純物をボディ領域32を上回る5×1018~1×1022cm―3の不純物濃度で形成することで得る。なお、ソース領域23およびボディコンタクト領域33の深さは、200nm~1.0μm程度とする。
【0085】
次に、ソース領域23およびボディコンタクト領域33が形成された後の基板上にSiO膜を形成し、その上にレジスト材を塗布し、フォトリソグラフィによりレジスト材をパターニングしてレジストマスクとし、レジストマスクを用いたドライエッチンによりSiO膜をパターニングし、トレンチエッチング用のマスクを準備する。その後、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)などで、基板表面からボディ領域32を貫通してJFET領域22に達するトレンチを形成する。トレンチの深さは0.8~3.0μm程度とし、さらにその下部に、イオン注入によりp型の不純物を導入して電界保護領域31を形成する。電界保護領域31の不純物濃度は、例えば1×1017~5×1018cm―3とすることができ、その深さは0.2~1.0μm程度とすることができる。この際、電界保護領域31を形成する注入マスクをトレンチエッチングのマスクと併用することで、工程数を削減することができる。
【0086】
次に、熱処理装置により、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス雰囲気中で、1300~1900℃の温度で、30秒から1時間のアニールを行う。このアニールにより、イオン注入されたNおよびAlを電気的に活性化させる。
【0087】
次に、炭化珪素層の表面を熱酸化して、所望の厚みの酸化シリコン膜を形成し、ゲート絶縁膜50を形成する。ゲート絶縁膜50はトレンチの内面を覆うと共に、ソース領域23およびボディコンタクト領域33の表面を覆う。
【0088】
次に、ゲート絶縁膜50の上に、減圧CVD法により導電性を有する多結晶シリコン膜を形成し、これをパターニングすることによりゲート電極60を形成する。多結晶シリコン膜は、ゲート絶縁膜50で囲まれたトレンチ内を埋め込むと共に、ソース領域23およびボディコンタクト領域33の上方も覆うが、エッチング等によるパターニングにより、トレンチ内以外の多結晶シリコン膜は除去される。
【0089】
次に、減圧CVD法により酸化シリコン膜を形成し層間絶縁膜51を形成する。この際、基板上に残ったゲート絶縁膜50は層間絶縁膜51と一体となる。
【0090】
次に、層間絶縁膜51とゲート絶縁膜50を貫通し、活性領域内のボディコンタクト領域33およびソース領域23に到達する開口部を形成する。
【0091】
次に、スパッタ法等により、例えばニッケル(Ni)を主成分とする金属膜を形成後、600~1100℃の温度の熱処理を行い、Niを主成分とする金属膜と開口部内の炭化珪素層とを反応させて、炭化珪素層と金属膜との間に金属シリサイドを形成する。次に、反応してできた金属シリサイド以外の金属膜をウェットエッチングにより除去する。これにより、残った金属シリサイドがオーミック電極70となる。
【0092】
次に、炭化珪素半導体基板10の第2の主面である裏面に、Niを主成分とする金属膜を形成し、600~1100℃の温度の熱処理を行い、図示されないオーミック電極を形成する。
【0093】
次に、炭化珪素半導体基板10の表面側に、スパッタ法または蒸着法によりAl等の配線金属を形成し、フォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工することで、図1に示されるように、ソース電極80、ゲートパッド81、およびゲート配線82を形成する。ソース電極80は、オーミック電極70に、ゲートパッド81はゲート電極60に接触する。
【0094】
最後に、炭化珪素半導体基板10の裏面に形成されたオーミック電極(図示せず)の表面上に、金属膜であるドレイン電極83を形成することで、図1図5に示したSJ―SiC-MOSFETが完成する。
【0095】
<動作>
次に、SJ-SiC-MOSFET1000の動作について説明する。以下、半導体材料が4H型の炭化珪素であるSJ―SiC-MOSFETを例に説明する。パワーデバイスはインバータ等の電力変換機器内で様々な動作をするが、本開示が効果を発揮する動作および状態として、オフ状態、オン状態について説明する。他の動作モードにおいては説明を省く。
【0096】
<オフ状態>
(完全空乏化)
まず、nチャネル型のSJ-SiC-MOSFET1000に共通の一般的なオフ状態について説明する。オフ状態においてはゲート電圧が閾値以下、一般に0Vまたはマイナス数Vであり、nチャネルが形成されておらず高抵抗状態となっている。インバータではこのオフ状態のときに、素子のドレインに高電圧がかかる。SJ-SiC-MOSFETの場合、まず、ドレインに正電圧が印加され始めると、SJ領域100におけるピラー間のpn接合に逆バイアスが印加される。そのため、SJ領域100の横方向に向かって空乏層が伸びていく。ある電圧を超えるとn型のピラー領域21およびp型のピラー領域30が完全に空乏化する。これにより、ドレイン-ソース間が大幅に高抵抗化し、オフ状態を維持できる。この際、チャージバランスが完全でないとどちらかが完全空乏化しても、もう片方は完全空乏化しないため、電界が余計に生じてしまう。
【0097】
(アバランシェ)
オフ状態において、さらにドレイン電圧を高めていくと、今度は縦方向の電界が増大していく、設計にもよるが、電界が最大になる箇所は、主にSJ領域100の最下部または最上部のボディ領域32とJFET領域22のpn接合に最大の電界がかかる。このときの最大電界がSiCの絶縁破壊電界(3MV/cm程度)を超えるとアバランシェ電流による絶縁破壊が生じる。
【0098】
(最適設計)
このように、SJ-SiC-MOSFETの設計においてはピラーのチャージバランスの調整が非常に重要なことが判る。このピラーの設計を最適化する方位として、例えばFujihiraの理論(T.Fujihira"Theory of semiconductor superjunction devices"(Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.36(1997),pp6254-6262)が有名である。本開示においても、Fujihiraの理論に基づいて最適化されたSJ領域の実現を前提とする。
【0099】
一例として、SJ領域100の最適設計の結果を示す。ここでは簡略化のため、p型ピラーとn型ピラーの幅が等しく、図17に示すような単純なpnダイオード構造とした場合について説明する。
【0100】
図17において、p型の不純物を濃度Naで含むアノードAと、n型の不純物を濃度Ndで含むカソードKとが、互いのピラー層が交互に入り組むように設けられ、ピラー層の幅の半分がdとして示されている。なお、p型ピラーおよびn型ピラーが形成されている部分をSJ層と呼称する。
【0101】
Fujihiraの理論に基づく最適設計を実施した場合、SJ層の特性オン抵抗と、半導体装置の耐圧は以下の数式(1)で決まる。
【0102】
【数1】
【0103】
上記数式(1)において、Ron.sp.は特性オン抵抗、dはピラー幅の半分、Vは耐圧、μは移動度、εは半導体の誘電率、Eは絶縁破壊電界である。
【0104】
数式(1)が成り立つ最適設計の条件下において、カソードKに耐圧Vが印加された際の最大電界はちょうど絶縁破壊電界Eとなるが、その内訳は以下の数式(2)および(3)で示される。
【0105】
【数2】
【0106】
【数3】
【0107】
上記数式(2)、(3)において、EzmaxはSJ層の中心部における縦方向の最大電界、Exmaxは同じくSJ層の中心部における横方向の最大電界である。
【0108】
図17に示すpnダイオード構造の場合、p型ピラー、およびn型ピラーの幅と不純物濃度は等しい。ある電圧までカソード電圧が上昇すると、p型ピラーとn型ピラーにそれぞれpn接合面から空乏層が幅dだけ広がる。この際、n型ピラーおよびp型ピラーは、完全空乏化し、SJ層の中心部では横方向に、SJ層のピラー中心部の上下端部では縦方向にそれぞれ最大電界Exmaxが印加される。絶縁破壊時にはSJ層の中心部には、縦方向に最大電界Ezmax、SJ層のピラー中心部の上下端部には、縦方向にExmax+Ezmaxの電界がかかり、この値が絶縁破壊電界に達することで、絶縁破壊が生じる。この構造の場合数式(3)に示すように、縦方向と横方向の最大電界を等しく設計することで、耐圧とオン抵抗を最大化できる。
【0109】
この最適設計におけるn型ピラーおよびp型ピラーの不純物濃度Nは、数式(2)および数式(3)とガウスの法則より、以下の数式(4)で求められる。
【0110】
【数4】
【0111】
上記数式(4)および数式(1)に基づいて、ピラーの繰り返し周期(ピラーピッチ)とオン抵抗、不純物濃度Nの関係を計算した結果を図18に示す。図18においては、横軸にピラーピッチである4d(μm)を示し、左側縦軸には特性オン抵抗Ron.sp。(mΩcm)を示し、右側縦軸には不純物濃度N(cm-3)を示している。
【0112】
図18において、ピラーピッチ-特性オン抵抗特性は、耐圧Vが600V、1200V、3300V、6500Vおよび13000Vの場合についてプロットしている。
【0113】
図18より、ピラーピッチ(4d)の縮小に伴い、オン抵抗が低下する傾向であることが判る。また、ピラーピッチ(4d)の縮小に応じて不純物濃度が上昇することも判る。従って、ピラーピッチを縮小し、オン抵抗を低減すると、同時にピラーの充放電に必要な総電荷量も増大する傾向にあると言える。
【0114】
(耐圧保持時)
次に耐圧保持時、すなわちオフ状態のときに発揮される本開示の製造方法で製造された炭化珪素半導体装置の特徴について説明する。耐圧保持時はSJ領域100のチャージバランス状態が非常に重要なパラメータとなり、本開示の製造方法の効果が最も顕著に表れる。まず、理想的なチャージバランス時の耐圧保持時の電界分布について説明し、その後、チャージバランスが崩れた場合の振る舞いを説明した後、本開示の具体的なフィードフォワード注入の制御方法と効果について説明する。
【0115】
(理想的な場合)
図17に示すpnダイオード構造の場合、アクセプタ濃度およびドナー濃度が最適に設計され、チャージバランスが成立している場合の耐圧保持時、すなわち、絶縁破壊直前の電圧印加時の状態を図19に模式的に示す。
【0116】
図19においては、p型ピラーおよびn型ピラーが完全に空乏化しており、この場合のn型ピラーおよびp型ピラーのC-C線およびD-D線に沿った電界強度の絶対値を深さ方向(z軸)に対してプロットした電界分布を図20に示す。なお、図19においては、アノードAの表面をz=0とし、n型ピラーの先端をzとし、n型ピラーの基部をzとして表す。
【0117】
図20においては、横軸に深さ方向の位置を示し、縦軸に電界強度の絶対値を示している。理想的な状態では、SJ層が完全にチャージバランスされているため、SJ層内の電界分布が均一になり、C-C線での電界分布とD-D線での電界分布が線対象な分布となっている。これは巨視的な視点で見た場合に、ドリフト層に空間電荷が存在しないように見える、すなわち絶縁体のように見えることを意味し、この場合のSJ層が最大耐圧となる。
【0118】
(エピ濃度のみがばらついた場合)
次に、図17に示すpnダイオード構造においてp型領域のみの不純物濃度がばらついた場合を考える。まず、p型領域が高濃度化した場合、図21に示すように、C-C線での電界分布とD-D線での電界分布が非対称な電界分布となる。このメカニズムとしては、電圧上昇および空乏層拡大に伴い、まず、p型ピラーが完全に空乏化する。その後、残されたn型ピラーの空乏化のためには、p型ピラー上部のp領域の空乏化が必要となる。そのため新たに空乏化されたn型ピラーのドナーイオンが出す電気力線はp領域のアクセプタイオンによって終端される。従って、zが低い、すなわちp領域に近い領域になるにつれて、SJ層の電界が増大する。これは巨視的な視点で見ると、SJ層が、チャージインバランスの分だけ薄いn型領域となっていると考えることができる。印加電圧は電界強度をアノードAからカソードKまでの経路で積分した値となるため、図21の電界分布のグラフの面積が、チャージインバランスにより減少した分に比例して、耐圧(絶縁破壊電圧)が低下する。
【0119】
一方、n型ピラーの不純物濃度が低い場合は、図22に示されるように、図21とは反対に、C-C線での電界分布とD-D線での電界分布を入れ替えた特性になる。すなわち、巨視的な視点で見ると、SJ層が、チャージインバランスの分だけ薄いp型領域となっていると考えることができる。図22の電界分布のグラフの面積が、チャージインバランスにより減少した分に比例して、耐圧が低下する。
【0120】
(濃度のみフィードフォワードする場合)
次に、ドリフト層20のキャリア濃度をイオン注入工程にフィードフォワードする具体的な方法と、その効果について説明する。図23は、図2の断面において、SJ領域100のある深さにおける不純物濃度のプロファイルを示す図である。まず、前提としてチャージバランスの度合いを示す量、すなわちチャージバランス量を定義し、その上で、チャージバランス量を一定値に保つ方法を提示する。
【0121】
図23において、横軸は図2のx軸に対応し、縦軸に不純物濃度をログスケールで示している。図23においては、ピラー領域30に対応してx軸方向にピラーピッチd1の周期でアクセプタイオン濃度N(x)が分布している。なお、ドナー濃度Nの分布N(x)に関してはエピ濃度が均一と仮定するとN(x)=N=一定とみなせる。ここで、SJ領域100中のピラーピッチd1あたりの平均ドナー濃度NDaveはNDave=N・d1/d1=Nで示される。また、ピラーピッチd1あたりの平均アクセプタ数NAaveは、以下の数式(5)で示される。
【0122】
【数5】
【0123】
以上の値を用いてチャージバランス量αを以下の数式(6)で定義する。
【0124】
【数6】
【0125】
チャージバランス量αは、ピラーピッチd1あたりのドナーを正、アクセプタを負とした場合のドナーおよびアクセプタの平均濃度の過不足量を意味している。
【0126】
α=0のときNDave=NAaveとなり、完全にチャージバランスの状態となる。αが正の値の場合はドナー過剰、αが負の値の場合はアクセプタ過剰となる。なお、前述の通りアクセプタおよびドナーの濃度は活性化しているもののみを扱っている。
【0127】
例えば、中心設計時にα=0、すなわちNDave=NAave=Nmidとなるように設計した場合、NDaveが設計中心値Nmidより10%高濃度となった場合は、ドナー総量NDtotはNDtot=1.1・Nmidとなり、アクセプタ総量NAtotはNAtot=Nmidとなるため、これを数式(6)に代入するとα=(1.1-1)/1.1≒0.091となる。
【0128】
これは完全空乏化時のSJ領域100における一定深さにおける正味の空乏層不純物濃度が+Nmid・0.091となることを意味する。一般に、αが0に近ければ近いほどSJ構造による耐圧向上の効果が大きいが、SJ構造でない構造、すなわちNAtot=0とした場合でα=1となるため、これよりもαの絶対値が小さい、すなわち|α|<1となるように設計すれば、SJ構造による深さ方向の電界分布のフラット化、すなわち巨視的な視点でのドリフト層の中性化に起因する耐圧向上の効果を得ることができる。
【0129】
本開示では、ウエハ面内平均のドリフト層20の濃度をCV測定等の評価工程を実施することにより、既知の濃度としている。そのため数式(6)におけるウエハ面内の平均ドナー濃度NDaveは既知となる。
【0130】
まず、ウエハ面内での平均のドナー濃度NDaveのばらつきは簡略化のため無視する。この場合、アクセプタイオンを注入する注入マスクの仕上がりの開口幅をLpとし、注入マスクの仕上がりの開口幅Lpと同一幅のピラー領域30が形成されるものとする。この場合、ウエハ面内の平均ドナー濃度が±β%ばらつくと、平均ドナー濃度NDaveは設計中心値よりも±β%ずれることになる。ここで、βは50以下の正の実数である。そのためドナー総量NDtotの変化量をアクセプタドーズ量Dをフィードフォワードにより±β%変化させることで、チャージバランス量αを変化させずにSJ領域100を仕上げることができ、本開示による効果を十分に享受できる。
【0131】
より単純な方法で本開示の効果を享受する場合、フィードフォワードで実施するドーズ量の条件を、事前に用意した規定の値をドリフト層20の不純物濃度に応じて選択することができる。例えば、設計中心となるドナー濃度Nに対して、ドナー濃度が±β%ばらつくプロセスを仮定する。ここで、βは例えば30とする。アクセプタドーズ量Dをドナー濃度Nが設計中心より大きい場合と、小さい場合に場合分けし、大きい場合には(+β/2)%、小さい場合には(-β/2)%となるように決定することができる。この場合、フィードフォワード注入を実施しない場合と比較して、チャージバランス量のばらつきを半分にできる。同様に、アクセプタドーズ量を、ドナー濃度Nの値が設計中心に対して±β%の範囲でn個の領域に場合分けし、領域ごとに代表値を用意することもできる。この場合、チャージバランス量のばらつきを1/nにできる。
【0132】
(開口幅もフィードフォワードする場合)
次に、アクセプタイオンを注入する注入マスクを形成するレジストの開口幅Lpもフィードフォワードする場合を考える。ドナー濃度Nが設計中心に対して±β%、レジストの開口幅Lpが設計中心に対して±γ%ずれたものとする。ここで、γは30以下の正の実数である。簡略化のため±βをβ1とし、±γをγ1とする。なお、βおよびγは絶対値30以下の実数とする。フィードフォワードを実施しなかった場合、アクセプタ総量NAtotは、設計中心をNAtot0として以下の数式(7)で表される。
【0133】
【数7】
【0134】
ここで、設計中心のチャージバランス量αは、ドナー総量NDtotの設計中心をNDtot0として以下の数式(8)で表される。
【0135】
【数8】
【0136】
ここで、レジストの開口幅Lpと、ドナー濃度Nのばらつきをフィードフォワードする場合、アクセプタドーズ量Dは設計中心Da0に対して以下の数式(9)で表されるように変化させた値に設定する。
【0137】
【数9】
【0138】
この場合、1ピラーピッチあたりのアクセプタ総量NAtot1は、フィードフォワードしなかった場合のアクセプタ総量NAtotを表す数式(9)の係数倍されるので、以下の数式(10)で表される。
【0139】
【数10】
【0140】
従って、数式(10)のフィードフォワード注入をした場合のチャージバランス量αは以下の数式(11)で表される。
【0141】
【数11】
【0142】
上記数式(11)より、数式(9)に示すフィードフォワード注入を行うことにより、ドリフト層20のばらつきによる係数、レジストの開口幅のばらつきによる係数を相殺でき、設計中心のチャージバランス量αを保つことができ、本開示の効果を十分に享受できる。
【0143】
以上説明したように、レジストの開口幅も含めて、フィードフォワード注入を実行する場合、キャリア濃度のみをフィードフォワードする場合と同様に、事前に用意した規定の条件のセットの中から選択することで工程を簡略化することができる。この場合、エピ濃度のばらつき±β%、レジスト開口幅のばらつき±γ%に対し、一定の管理幅を設け、βおよびγのそれぞれを管理幅内で有限個の区間に分割してマトリックスを形成し、それに対する注入量のテーブルデータを形成することができる。
【0144】
このテーブルデータの一例を図24に示す。図24においては、レジスト開口幅のばらつきγを、-15%~-5%、-5%~+5%、+5%~+15%の範囲に分割し、エピ濃度のばらつきβを、-20%~-8%、-8%~+8%、+8%~+20%の範囲に分割した例を示している。そして、設計中心のレジスト開口幅をx1とし、設計中心のドーズ量をDrefとして、レジスト開口幅のそれぞれのばらつき範囲と、エピ濃度のそれぞれのばらつき範囲に対して、予め用意した規定の値を設定している。
【0145】
例えば、エピ濃度だけが-20%~-8%の範囲でばらつく場合は、ドーズ量を-14%とし、エピ濃度が+8%~+20%の範囲でばらつき、レジスト開口幅が+5%~+15%の範囲でばらつく場合は、ドーズ量をDref・1.14/1.1とする。
【0146】
フィードフォワード注入するドーズ量は、数式(9)に示すように、エピ濃度のばらつきに対しては正の相関を、レジスト開口幅のばらつきに対して負の相関を有するように設定することができる。
【0147】
最後に、ドリフト層20の膜厚をアクセプタ注入量および注入エネルギーにフィードフォワードする方法について説明する。基本的な考え方としては、注入回数を一定として、膜厚の増減分に応じて、注入エネルギーのピークの間隔を増減させる。概要を図25に示す。
【0148】
図25は、横軸に深さあたりの注入された不純物濃度をログスケールで示し、縦軸に基板表面からの深さをリニアスケールで示した注入プロファイルである。まず、マルチエピ構造において、2回目以降のエピ成長を行った際に生じるウエハ面内の平均膜厚のばらつきを注入エネルギーにフィードフォワードする例について説明する。
【0149】
具体的には、平均膜厚が±δ%ばらついた場合、例えば多段階注入における各段階の注入エネルギーをn段目を代表として±δ%変化させる。この際、n段目の注入におけるピーク濃度のエピタキシャル層表面からの設計中心の注入深さをtanとし、各エピ層の設計中心の膜厚をLmepiとする。図25では、k回目に形成されたエピ層が設計中心で仕上がっている場合を示し、k+1回目に形成されたエピ層の平均膜厚が+δ%で仕上がった場合を示している。
【0150】
このようなフィードフォワードを実施することにより、注入エネルギーは注入深さに比例するため、図25に示すように、アクセプタの多段階注入のピーク位置の分布を均等に拡大、縮小することが可能になり、チャージインバランスの深さ方向ばらつきを抑制することができる。
【0151】
具体的には、注入ピークの間隔すなわちn段目とn+1段目の注入深さの差tan+1-tanを膜厚のばらつきに比例して±δ%変化させることで、各段の注入深さを均一に増減させることができる。なお、簡略化のため本明細書では注入深さtanと注入エネルギーEanが比例するものとしているが、例えばエピタキシャル層表面の濃度を高めるなどの目的でSiO等のスルー膜越しに注入する方法などを用いた場合、注入エネルギーEanをスルー膜の通過に必要なエネルギーEとし、エネルギーEを注入エネルギーEanから差し引いた、SiCへ注入される正味のエネルギーEan’に対して±δ%変化させるように制御する。
【0152】
以上説明したように、ドリフト層20の膜厚をピラー領域30形成の多段階注入工程における注入エネルギーの決定にフィードフォワードした場合には、注入ドーズ量を変化させない場合はアクセプタイオンの注入により形成される分布のピークの膜厚に対する濃度が、膜厚のばらつきδ%に反比例して、増減する。すなわち、例えば膜厚がδ%増加した場合、多段階注入のエネルギー間隔を広げる必要があり、それによりピラー領域30の平均アクセプタ濃度がδ%低下する。従って、膜厚に基づいて注入エネルギーにフィードフォワードする場合は、エピ濃度に対するフィードフォワードとは別に、多段階注入プロファイルの粗密化に対応したドーズ量のフィードフォワードを行うことが望ましい。
【0153】
具体的には、膜厚がδ%増減した場合、上述の通りの方法で注入エネルギーを設定した後、注入ドーズ量Dを設計中心Da0に対し、Da0/(1±δ/100)変化させれば、所望のアクセプタ濃度を実現でき、チャージバランス量を最適に保つことができる。
【0154】
以上説明した実施の形態1での膜厚のフィードフォワード方法については2回目以降のエピ成長について述べているが、1回目のエピ成長に適用することもできる。1回目のエピ成長の場合、前回のエピ成長で形成されたピラー領域30がないため、前述のような効果は享受できない。一方で、ピラー領域30の下端と炭化珪素半導体基板10までの距離が膜厚によって変化することを緩和できるため、電界分布を緩和でき、耐圧向上に一定の効果を得ることができる。
【0155】
<オン状態>
SJ-SiC-MOSFET1000のオン状態について、図2を用いて説明する。ゲート電圧として閾値以上の正電圧、例えば15V程度の電圧が印加されると、ゲート絶縁膜50の直下のチャネル領域、すなわち、n型のピラー領域21とソース領域23に挟まれたボディ領域32とゲート絶縁膜50の界面に、n型の反転層チャネルが誘起される。これにより、ソース領域23とJFET領域22が低抵抗で接続された結果、ドレイン電極83とソース電極80が低抵抗で接続されるオン状態となる。
【0156】
SJ-SiC-MOSFET1000のオン抵抗は、以下の数式(12)で表される。
【0157】
【数12】
【0158】
上記数式(12)において、オン抵抗をRon.sp.とすると、基板抵抗RSUB、ドリフト層20およびピラー領域21の抵抗RdriftSJ、JFET領域22の抵抗RJFETおよびチャネル抵抗Rchの合計でオン抵抗をRon.sp.が決まる。このうち、本開示の効果が最も得られる成分が抵抗RdriftSJとなる。
【0159】
(従来のSJMOSFETとの比較)
従来のSJ-SiC-MOSFETとの比較を考える。従来のマルチエピ方式のSJ-SiC-MOSFETの場合、エピ濃度がばらついた場合もピラー領域21の不純物濃度はそのままであるため、エピ濃度のばらつきに応じて、チャージインバランスが生じ、耐圧が低下する。そのため、耐圧低下を見越して、ドリフト層の膜厚を増加させ、耐圧を確保しなければならない。その結果、膜厚の増加分に反比例して、ドリフト層抵抗が増大する。特にエピ濃度が低い方にばらついた場合は、それに加えて、キャリア濃度の低下分に反比例して、ドリフト層抵抗が増大し、オン状態における導通損失が顕著に増大してしまう。
【0160】
一方、SJ-SiC-MOSFET1000では、ドリフト層20の膜厚およびエピ濃度、注入レジスト開口幅をフィードフォワードした条件でアクセプタイオン注入を行うことができるので、エピ濃度、注入レジスト開口幅、膜厚のばらつきに起因するチャージインバランスを大幅に抑えることができ、耐圧のばらつきを格段に抑えることが可能となる。従って、従来のSJ-SiC-MOSFETと比較して、ドリフト層の膜厚を低減しても、耐圧を保つことができ、ドリフト層の膜厚低下に比例してオン抵抗を低減することができる。このため、オン抵抗を増大させずに、耐圧を増大できる効果が得られる。
【0161】
以上説明した実施の形態1では、ドリフト層20の不純物濃度のばらつきを測定し、原理的にばらつきの少ないイオン注入工程のドーズ量にフィードフォワードすることを主眼としており、さらに、注入レジスト開口幅の測定により実効的にドリフト層20中に注入されるイオンの量もフィードフォワードする。また、エピタキシャル層の膜厚のばらつきも測定し、イオン注入エネルギー、ドーズ量にフィードフォワードすることで、本開示の効果をさらに高めることができる。一方で、これらのイオン注入エネルギーおよびドーズ量へのフィードフォワードは、必ずしも全てのパラメータに対し同時に適用する必要はなく、エピ濃度に対するフィードフォワードのみとすることもでき、レジスト開口幅に対するフィードフォワードのみとすることもでき、膜厚に対するフィードフォワードのみとすることもでき、これらの中から幾つかを組み合わせることもできる。その場合、本開示の効果を一定程度享受しつつ、工程数簡略化による、生産負荷の低減が実現できる。
【0162】
なお、本開示の効果を最大に享受するためには、数式(6)で定義されるチャージバランス量αを、ドリフト層20の不純物濃度ばらつき、注入マスクの仕上がりばらつきおよびマルチエピ層の膜厚のばらつきによらず、絶対値が1より小さい設計中心値αを保つように、フィードフォワードを実行し、注入量と注入エネルギーを決定することが望ましい。
【0163】
しかし、最低限の効果を得るためには、チャージバランス量αのバラつきを、主たるばらつき要因であるドリフト層20の不純物濃度のウエハ面内平均のウエハごとのばらつき以下にする。これにより、ドリフト層20の不純物濃度のばらつきによるチャージバランス量αのばらつきに起因する耐圧低下をフィードフォワードなしの場合より低減でき、本開示の効果を最低限享受できる。
【0164】
<実施の形態2>
図26は、図1に示した平面図から、ソース電極80、ゲートパッド81およびゲート配線82を削除した状態の実施の形態2に係るSJ-SiC-MOSFET2000の平面図である。
【0165】
本実施の形態2においてはピラー領域30の注入条件と同じ条件で外周部の耐圧終端構造を形成することを特徴としている。
【0166】
まず、SiCのパワーデバイスに用いられる耐圧終端構造であるガードリング(GR)およびそれらを複数組み合わせて形成される電界緩和リング(Field Limiting Ring:FLR)の構造について説明する。
【0167】
図26は、活性領域ARと、その外周に設けられた終端領域TERを示しており、活性領域ARには、ボディ領域32、ゲート絶縁膜50、ゲート電極60およびボディコンタクト領域33が示されており、終端領域TERにはFLR領域400が示されている。なお、これらは一般的なトレンチ型のMOSFETの平面図であり、説明は省略する。
【0168】
また、FLR領域400には複数のGR37が同心状に設けられている。図26に示すGR37はボディ領域32よりも不純物濃度の低いp型の領域であり、FLR領域400において互いに間隔を開けて形成されている。FLR領域400では、GR37が占有する面積率が外周方向に向かうにつれて低下するように設けられている点が特徴である。
【0169】
このように配置された複数のGR37でFLR構造が形成される。FLR構造は、巨視的な視点で見て、外周方向へ向かうほどp型の不純物領域の平均的な不純物濃度が低下するような構造となっており、電界が集中する終端領域TERにおいて、電界分布をなだらかにし、少ない終端領域幅で耐圧を保つ効果がある。
【0170】
一方で、FLRの設計においてもエピ濃度がばらつくと、巨視的な視点で見た場合の終端領域TERの不純物濃度の分布が変化する。例えばエピ濃度が高濃度になった場合、FLRの外側の領域でのn型不純物の割合が高くなるため、電界強度が最大となる位置が、チップ中心側にシフトする、また、逆にエピ濃度が低くなった場合、電界強度最大の点はチップ外周側にシフトする。これらを考慮し、エピ濃度のばらつきがない場合と比較して、FLR幅を広く設計することが一般的である。
【0171】
本実施の形態2では、このFLRの製造工程をピラー領域30と同じ工程で形成する。すなわち、エピ濃度、エピ層の膜厚の情報をGR37の注入工程にフィードフォワードすることで、終端領域TERにおいてもエピ濃度のばらつきを最小限に抑えることができ、活性領域ARの耐圧向上に加えて、終端領域TERのFLR領域400の幅を小さくでき、チップコストを抑える効果を享受することができる。
【0172】
これは、FLR領域400における電界緩和のメカニズムが、ピラー領域30と同様にドリフト層20の不純物濃度と注入領域の相対関係に強く依存するためである。また、FLR領域400を作成する工程と、ピラー領域30を形成する工程を共通化でき、工程数を削減し、プロセスコストを抑えることができる。
【0173】
図26に示すB-B線、すなわち図1に示すB-B線での矢示断面図を図27に示す。基本的には、活性領域ARについては図2に示したユニットセルが周期的に繰り返された構造となっている。活性領域ARとFLR領域400との中間の外周領域500においては、ボディ領域32が延在して形成され、外周領域500におけるゲート電極60および、その上部のゲート配線82をドリフト層20の電界から保護している。
【0174】
また、多結晶シリコンで構成されたゲート電極60の下部にはフィールド絶縁膜52が設けられている。外周領域500における大きな面積のゲート電極60の下部に、薄いゲート絶縁膜だけを設けると、スイッチング動作時のドレイン電圧の変動でゲート絶縁膜に電界ストレスがかかる場合があるので、ゲート絶縁膜と併せて厚いフィールド絶縁膜52を設けることで信頼性を高めている。
【0175】
また、外周領域500の下部には、活性領域ARと同様の周期でピラー領域30とピラー領域21が設けられSJ領域100を構成しており、縦方向における電界分布、耐圧確保を実現する。
【0176】
FLR領域400には、ピラー領域30の形成に使用するのと同じ注入マスク、同じ注入工程で形成される複数のGR37が、外側に向かうにつれて配置間隔が広くなるように形成されている。
【0177】
<実施の形態3>
実施の形態1および実施の形態2では、トレンチ型のMOSFETについて説明したが、本開示の製造方法はプレーナ型のMOSFETに対しても適用できる。
【0178】
図28は、実施の形態3のプレーナ型のSJ-SiC-MOSFET3000のユニットセルの構成を示す断面図である。図28に示すように、SJ-SiC-MOSFET3000は、n型の炭化珪素半導体基板10の第1の主面上にn型のドリフト層20が設けられている。ドリフト層20中にはイオン注入法と活性化アニールにより形成されたp型のピラー領域30が設けられている。また、ドリフト層20中のピラー領域30を形成されていないn型の領域をピラー領域21と呼称する。
【0179】
図28に示されるように、ピラー領域21とピラー領域30とが、紙面横方向、すなわちゲート電極60の配列方向(x方向)に、繰り返して配列された領域をSJ領域100と呼称することは実施の形態1と同じである。このSJ領域100において、ピラー領域21およびピラー領域30は、平面視で紙面奥行き方向、すなわちゲート電極60の延在方向(y方向)に沿って形成されており、平面視形状がストライプ状に形成されている。
【0180】
また、SJ領域100より上側の領域をMOSFET領域200と呼称し、ピラー領域30はMOSFET領域200中のp型の不純物領域に接続される。
【0181】
MOSFET領域200においては、ドリフト層20の上層部にp型のボディ領域32が選択的に設けられ、ボディ領域3の表面内にはn型のソース領域23が設けられている。ソース領域23およびボディ領域32の内部にはp型のボディコンタクト領域33が設けられている。ボディコンタクト領域33は、ソース領域23は貫通するが、ボディ領域32は貫通しないように設けられている。
【0182】
ドリフト層20の上には、隣り合うソース領域23間に渡るように、酸化シリコンなどで構成されるゲート絶縁膜50が設けられ、ゲート絶縁膜50上に多結晶シリコンなどで構成されたゲート電極60が設けられている。ゲート電極60は、酸化シリコンで構成される層間絶縁膜51によってそれぞれ覆われている。
【0183】
ボディコンタクト領域33の上部には、オーミック電極70が設けられ、オーミック電極70は、層間絶縁膜51の間に設けられた開口部を介してソース電極80に接続されている。
【0184】
ゲート絶縁膜50の下部であって、隣り合うボディ領域32の間のn型領域が、JFET領域22となる。JFET領域22の不純物濃度は、SJ領域100とは異なり、チャージバランスは要求されないため、ピラー領域21より高くして、JFET抵抗を低減することができる。
【0185】
プレーナ型のMOSFETを採用した場合、トレンチエッチング工程およびトレンチ下部の電界保護領域31の形成工程を省略でき工程数を削減できる。SJ領域100の形成工程は実施の形態1と基本的に変わらない。また、追加の構成要素としては、隣り合うボディ領域32の間に形成されるJFET領域22がある。
【0186】
JFET領域22は、エピタキシャル工程またはイオン注入工程により、ドリフト層20およびピラー領域21より不純物濃度を高くすることで、オン抵抗をさらに低くできる。一方、清掃工程を削減するため、ドリフト層20またはピラー領域21と同じ不純物濃度とすることもできる。
【0187】
なお、ピラー領域30は、周期的に繰り返して配置されるボディ領域32の中心の下部に設けることが望ましい。オン状態における電流経路、すなわち、ドレイン電極83から炭化珪素半導体基板10、ドリフト層20、ピラー領域21、JFET領域22およびソース領域23を経てソース電極80に流れる主電流の経路を阻害しにくく、SJ構造による効果を最大限享受できる。
【0188】
<変形例>
実施の形態3の変形例として、プレーナ型のSJ-SiC-MOSFET3000においても、実施の形態2と同様に、ピラー領域30の注入条件と同じ条件で外周部の耐圧終端構造を形成することができる。
【0189】
実施の形態2の図27に対応する断面図を図29に示す。基本的には、活性領域ARについては図28に示したユニットセルが周期的に繰り返された構造となっている。活性領域ARとFLR領域400との中間の外周領域500においては、ボディ領域32が延在して形成され、外周領域500におけるゲート電極60および、その上部のゲート配線82をドリフト層20の電界から保護している。
【0190】
FLR領域400には、ピラー領域30の形成に使用するのと同じ注入マスク、同じ注入工程で形成される複数のGR37が、外側に向かうにつれて配置間隔が広くなるように形成されている。
【0191】
FLRの製造工程をピラー領域30と同じ工程で形成することで、エピ濃度、エピ層の膜厚の情報をGR37の注入工程にフィードフォワードし、終端領域TERにおいてもエピ濃度のばらつきを最小限に抑えることができる。これにより活性領域ARのチャージインバランス最適化の効果を享受しつつ、終端領域TERの電界分布のばらつきを低減してFLR領域400幅を縮小できる効果を享受できる。なお外周領域500の下部には活性領域AR下部と同様にSJ領域100を形成する。
【0192】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【0193】
以上説明した本開示を付記としてまとめて記載する。
【0194】
(付記1)
(a)第1導電型の炭化珪素半導体基板上にエピタキシャル成長により第1導電型のドリフト層を形成する工程と、
(b)前記ドリフト層の不純物濃度を測定する工程と、
(c)前記ドリフト層上に周期的に設けられた複数の第1の開口部を有するイオン注入マスクを形成する工程と、
(d)前記複数の第1の開口部を介して第2導電型の不純物イオンを注入して、前記ドリフト層中に第2導電型の第2のピラー領域を複数形成し、前記第2のピラー領域の間の前記ドリフト層を第1導電型の第1のピラー領域とする工程と、
(e)前記ドリフト層上にエピタキシャル成長により第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程と、
(f)エピタキシャル層中にトランジスタのユニットセルを複数形成する工程と、を備え、
前記工程(d)は、前記工程(b)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入量をフィードフォワード制御する工程を含む、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0195】
(付記2)
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、
(g)前記ドリフト層の膜厚を測定する工程をさらに備え、
前記工程(d)は、
前記工程(g)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入エネルギーをフィードフォワード制御する工程をさらに含む、付記1記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0196】
(付記3)
(a)第1導電型の炭化珪素半導体基板上にエピタキシャル成長により第1導電型のドリフト層を形成する工程と、
(b)前記ドリフト層の膜厚を測定する工程と、
(c)前記ドリフト層上に周期的に設けられた複数の第1の開口部を有するイオン注入マスクを形成する工程と、
(d)前記複数の第1の開口部を介して第2導電型の不純物イオンを注入して、前記ドリフト層中に第2導電型の第2のピラー領域を複数形成し、前記第2のピラー領域の間の前記ドリフト層を第1導電型の第1のピラー領域とする工程と、
(e)前記ドリフト層上にエピタキシャル成長により第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程と、
(f)エピタキシャル層中にトランジスタのユニットセルを複数形成する工程と、を備え、
前記工程(d)は、前記工程(b)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入エネルギーをフィードフォワード制御する工程を含む、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0197】
(付記4)
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、
(g)前記ドリフト層の不純物濃度を測定する工程をさらに備え、
前記工程(d)は、
前記工程(g)での測定結果と正の相関を持つように前記不純物イオンのイオン注入量をフィードフォワード制御する工程をさらに含む、付記3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0198】
(付記5)
前記工程(c)と前記工程(d)との間に、
(h)前記イオン注入マスクの前記複数の第1の開口部の平均開口幅を測定する工程をさらに備え、
前記工程(d)は、
前記工程(h)での測定結果と負の相関を持つように前記イオン注入量をフィードフォワード制御する工程をさらに含む、付記1または付記4記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0199】
(付記6)
前記工程(d)は、前記ドリフト層の前記不純物濃度のばらつきの幅に対して、少なくとも2水準の注入条件を設定して前記不純物イオンをイオン注入する、付記1または付記4記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0200】
(付記7)
前記工程(c)は、
前記炭化珪素半導体基板の外周部に複数のガードリングを形成するための複数の第2の開口部を有するように前記イオン注入マスクを形成し、
前記工程(d)は、
前記複数の第2の開口部を介して第2導電型の前記不純物イオンを注入し、前記外周部において、前記第2のピラー領域と同じ注入プロファイルで前記複数のガードリングを形成する、付記1または付記3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0201】
(付記8)
前記トランジスタは、
エピタキシャル層中に設けられたトレンチゲートを有するトレンチ型のトランジスタであって、
前記工程(f)は、
前記トレンチゲートの底部に前記第2のピラー領域よりも高濃度の第2導電型の電界保護領域を形成する工程を有し、
前記電界保護領域が前記第2のピラー領域と接続されている、付記1または付記3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【0202】
(付記9)
前記トランジスタは、
エピタキシャル層上に設けられたゲートを有するプレーナ型のトランジスタであって、
前記工程(f)は、
前記エピタキシャル層の上層部に前記第2のピラー領域よりも高濃度の第2導電型のボディ領域を形成する工程を有し、
前記ボディ領域が前記第2のピラー領域と接続されている、付記1または付記3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0203】
10 炭化珪素半導体基板、20 ドリフト層、21,30 ピラー領域、31 電界保護領域、32 ボディ領域、37 ガードリング。
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