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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】分散体樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/28 20250101AFI20250627BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20250627BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250627BHJP
   C09J 123/28 20060101ALI20250627BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250627BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250627BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20250627BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20250627BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20250627BHJP
   C09D 11/023 20140101ALI20250627BHJP
   C09J 171/02 20060101ALI20250627BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20250627BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20250627BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20250627BHJP
【FI】
C08L23/28
C08L71/02
C08L63/00 A
C09J123/28
C09J11/06
C09D7/63
C09D123/28
C09D5/02
C09D5/00 D
C09D11/023
C09J171/02
C09J163/00
C09D171/02
C09D163/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022547536
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2021032270
(87)【国際公開番号】W WO2022054682
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2020151520
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 諒
(72)【発明者】
【氏名】岩切 寛子
(72)【発明者】
【氏名】吉元 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】矢田 実
【審査官】菅原 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/138117(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/145884(WO,A1)
【文献】国際公開第99/007758(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106916326(CN,A)
【文献】特開2003-327761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):塩素化度が28~38%である酸無変性塩素化ポリオレフィンと、
成分(B):界面活性剤と、
成分(C):エポキシ基含有脂肪酸エステルと、
成分(D):水性媒体と、
を少なくとも含み、
成分(B)は一般式(I):R1―(OA)n―OH
(式中、R1は炭素原子数13以上の脂肪族炭化水素基を表す。OAは、同一又は異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。nは、10~50の整数を表す。)
で表される界面活性剤を少なくとも含み、
成分(B)のHLB値の重量平均が14.0~16.0である、
分散体樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分(A)の重量平均分子量が2,000~40,000である、請求項1に記載の分散体樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)のガラス転移温度(Tg)が10~60℃である、請求項1又は2に記載の分散体樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(A)の軟化点が0~60℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)の含有量に対し0重量%超25重量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物。
【請求項6】
塩基性物質を更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物。
【請求項7】
塩基性物質が、窒素原子及び酸素原子を有する塩基性物質である、請求項6に記載の分散体樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含むプライマー。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含む塗料用バインダー。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含むインキ用バインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散体樹脂組成物に関し、詳しくは、酸無変性塩素化ポリオレフィンを含む分散体樹脂組成物、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素化ポリオレフィンは、水中での安定性が低い。そのため、塩素化ポリオレフィンの水系溶媒への分散体を得る際には、乳化剤を添加する方法、塩素化ポリオレフィンを酸変性してから水系分散体として用いる方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-256556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乳化剤を添加する方法では、乳化剤を多量に添加する必要があり、付着性が低下するという問題もあった。また、酸変性する方法では、塩素化ポリオレフィン本来の特性が発揮されにくいこと、製造に手間がかること等の問題があった。
【0005】
本発明は、付着性及び乳化性をバランスよく発揮できる塩素化ポリオレフィンの分散体樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、塩素化ポリオレフィンに所定の界面活性剤、安定剤を組み合わせることで、付着性及び乳化性をバランスよく発揮できる分散体を得られることを見出した。
【0007】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕成分(A):塩素化度が28~38%である酸無変性塩素化ポリオレフィンと、
成分(B):界面活性剤と、
成分(C):エポキシ基含有脂肪酸エステルと、
成分(D):水性媒体と、
を少なくとも含み、
成分(B)は一般式(I):R―(OA)―OH
(式中、Rは炭素原子数13以上の脂肪族炭化水素基を表す。OAは、同一又は異なっていてもよい、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。nは、10~50の整数を表す。)
で表される界面活性剤を少なくとも含み、
成分(B)のHLB値の重量平均が14.0~16.0である、
分散体樹脂組成物。
〔2〕前記成分(A)の重量平均分子量が2,000~40,000である、〔1〕に記載の分散体樹脂組成物。
〔3〕前記成分(A)のガラス転移温度(Tg)が10~60℃である、〔1〕又は〔2〕に記載の分散体樹脂組成物。
〔4〕前記成分(A)の軟化点が0~60℃である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物。
〔5〕前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)の含有量に対し0重量%超25重量%以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物。
〔6〕塩基性物質を更に含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物。
〔7〕塩基性物質が、窒素原子及び酸素原子を有する塩基性物質である、〔6〕に記載の分散体樹脂組成物。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含むプライマー。
〔9〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含む接着剤。
〔10〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含む塗料用バインダー。
〔11〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の分散体樹脂組成物を含むインキ用バインダー。
【0008】
〔1.組成物〕
本発明の組成物は、成分(A)~(D)を含む。
【0009】
〔(A)酸無変性塩素化ポリオレフィン〕
成分(A)は、酸無変性塩素化ポリオレフィンである。本明細書において、酸無変性とは、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が実質的にグラフト重合されていないこと(例えば、グラフト重量が0.1重量%未満、好ましくは計測限界以下)を意味し、好ましくは、グラフト重合されずに製造されていることを意味する。α,β-不飽和カルボン酸及びその無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物のグラフト重量は、アルカリ滴定法又はH-NMRにより求めることができる。
【0010】
-ポリオレフィン樹脂-
ポリオレフィン樹脂は、通常、オレフィン(α-オレフィン)構造単位を含む重合体である。本明細書においてオレフィン構造単位とは、オレフィン(α-オレフィン)に由来する構造単位を意味する。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、スチレン、ノルボルネンが挙げられる。
【0011】
ポリオレフィン樹脂は、1種単独のオレフィン重合体であってもよく、2種以上のオレフィン重合体の共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂が共重合体である場合、ポリオレフィン樹脂はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0012】
ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン基材等の非極性樹脂基材への十分な付着性を発現させるという観点から、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体が好ましい。
【0013】
ここで、「ポリプロピレン」とは、基本単位がプロピレン由来の構成単位である重合体を表す。「エチレン-プロピレン共重合体」とは、基本単位がエチレン及びプロピレン由来の構成単位である共重合体を表す。「プロピレン-1-ブテン共重合体」とは、基本単位がプロピレン及びブテン由来の構成単位である共重合体を表す。「エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体」とは、基本単位がエチレン、プロピレン及びブテン由来の構成単位である共重合体を表す。樹脂本来の性能を著しく損なわない量である限り、これらの(共)重合体は、基本単位以外の他のオレフィン由来の構成単位を少量含有していてもよい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂は、構成単位100モル%中、プロピレン由来の構成単位を50モル%以上含むことが好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、プロピレン樹脂等の非極性樹脂基材に対する付着性を保持し得る。
【0015】
エチレン-プロピレン共重合体又はプロピレン-1-ブテン共重合体がランダム共重合体である場合、好ましくは、構成単位100モル%中、エチレン由来の構成単位又はブテン由来の構成単位が1~50モル%であり、プロピレン由来の構成単位が50~99モル%である。
【0016】
ポリオレフィン樹脂の融点の下限は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。また、その上限は、160℃以下が好まししい。ポリオレフィン樹脂の融点の一実施形態としては、100~160℃が好ましく、120~160℃がより好ましい。
【0017】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、200,000以下が好ましく、180,000以下がより好ましく、150,000以下が更に好ましい。下限は、通常10,000以上、好ましくは20,000以上である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めることができる。
【0018】
-塩素化-
酸無変性塩素化ポリオレフィンは、上述のポリオレフィン樹脂に塩素が導入されたポリオレフィン樹脂であり、塩素導入にあたり、ポリオレフィン樹脂を予めクロロホルムなどの塩素系溶媒に溶解しておいてもよい。塩素の導入は、通常、反応系への塩素ガスの吹き込みにより行う。塩素ガスの吹き込みは、紫外線の照射下で行ってもよいし、ラジカル反応開始剤の存在下又は不存在下で行ってもよい。
【0019】
ラジカル反応開始剤としては、例えば、有機過酸化物系化合物及びアゾニトリル類が挙げられる。有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエートなどが挙げられる。アゾニトリル類としては、例えば、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。
【0020】
塩素ガスの吹き込みの際の圧力は制限されず、常圧でも加圧下でもよい。塩素ガスの吹き込みの際の温度は特に制限されないが、通常は、50~140℃である。
【0021】
-塩素化度-
酸無変性塩素化ポリオレフィンの塩素化度は、好ましくは28~38重量%、より好ましくは30~35重量%である。これにより、他の成分と共に組成物の付着性、乳化性を向上させることができる。
【0022】
塩素化度は、塩素化樹脂の固形分に対する塩素量であり、JIS-K7229に準じて測定し得る。すなわち、酸無変性塩素化ポリオレフィン(通常は脱溶剤後の固形化物)を酸素雰囲気下で燃焼させ、発生した気体塩素を水で吸収し、滴定により定量する「酸素フラスコ燃焼法」を用いて測定できる。
【0023】
-軟化点-
酸無変性塩素化ポリオレフィンの軟化点は、通常60℃以下、好ましくは55℃以下、より好ましくは50℃以下である。これにより、低温時に融解状態を保ちやすいことから、良好な低温付着性を示すことができる。下限は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上である。これにより、固形化した際にブロッキングを抑制し得る。
【0024】
-ガラス転移点-
酸無変性塩素化ポリオレフィンのガラス転移点は、通常60℃以下、好ましくは55℃以下、より好ましくは50℃以下である。これにより、低温時に融解状態を保ちやすいことから、良好な低温付着性を示すことができる。下限は、通常10℃以上、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上である。これにより、固形化した際にブロッキングを抑制し得る。
【0025】
-重量平均分子量-
酸無変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、40,000以下が好ましく、35,000以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましい。下限は、通常2,000以上、好ましくは5,000以上、より好ましくは8,000以上である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めることができ、実施例の重量平均分子量はこの方法により求めた数値である。
【0026】
酸無変性塩素化ポリオレフィンは、クロロホルム等の塩素化溶媒を脱溶剤し、必要に応じて成形して得られる固形化物でもよい。本明細書において固形化物とは、溶剤等の液体成分を実質的に含まないことを意味する。脱溶剤は、濃縮、減圧留去などにより行うことができ、エバポレーター等の機器を用いてもよい。脱溶剤に際し、安定化剤を添加してもよい。安定化剤としては、例えば、後述の成分(C)、成分(C)以外の安定化剤が挙げられる。安定化剤の使用量は、塩素の離脱を抑制し安定化させることができる観点から定めればよく、酸無変性塩素化ポリオレフィン(固形分)100重量%に対し、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上である。上限は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、更に好ましくは7重量%以下である。成形手段としては、例えば、押出機、水冷式ペレタイザーなどの機器が挙げられる。押出機(例えば、2軸押出機)を用いることにより、減圧留去及び成形を同時に行うことができる。
【0027】
成分(A)は、酸無変性塩素化ポリオレフィン1種単独でもよいし2種以上の組み合わせでもよい。
【0028】
〔(B)界面活性剤〕
成分(B)は、界面活性剤である。成分(B)は、界面活性剤1種単独でもよいし2種以上の組み合わせでもよいが、少なくも一般式(I)で表される界面活性剤を含むことが好ましい。
【0029】
-一般式(I)で表される界面活性剤-
一般式(I)は以下で表される:
―(OA)―OH・・・(I)
【0030】
一般式(I)中、Rは炭素原子数13以上の脂肪族炭化水素基を表し、飽和及び不飽和のいずれでもよく、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれでもよい。炭素原子数は、13以上、好ましくは14以上、より好ましくは15以上である。上限は、通常50以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは25以下、更により好ましくは20以下である。Rは、例えば、トリデシル基、ミリスチル基、セチル基、オレイル基、ステアリル基、ベヘニル基、オクチルドデシル基が挙げられる。
【0031】
OAは、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。炭素原子数2~18のオキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられ、オキシエチレン基が好ましい。OAが複数の場合、それぞれのOAは同一でも異なっていてもよく、オキシエチレン基を少なくとも含むことが好ましい。
【0032】
nは、整数であり、下限は10以上、より好ましくは11以上、更に好ましくは12以上である。上限は、50以下、好ましくは45以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは35以下、更により好ましくは33以下、32以下、31以下又は30以下である。
【0033】
一般式(I)で表される界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等のポリオキシエチレン-C13以上の分岐アルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレン-C13以上のアルキルエーテルが挙げられる。
【0034】
-HLB値-
成分(B)は、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値の重量平均が14.0~16.0である。HLB値の重量平均は、それぞれの界面活性剤の重量分率とHLB数との積の和である。各界面活性剤のHLBは、以下に示すグリフィンの式により算出できる。
HLB=[{(親水基部の分子量)/(全体の分子量)}×100]/5
【0035】
成分(B)は、HLB値の重量平均が14.0~16.0となるよう1種以上の界面活性剤を選択すればよい。例えば、一般式(I)で表される界面活性剤1種類、一般式(I)で表される界面活性剤とそれ以外の界面活性剤の組み合わせ、一般式(I)で表される界面活性剤2種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくは一般式(I)で表される界面活性剤2種以上の組み合わせである。成分(B)を構成する界面活性剤のそれぞれのHLB値は、9.0以上が好ましく、10.0以上がより好ましい。上限は、25.0以下が好ましく、20.0以下がより好ましく、18.0以下が更に好ましい。成分(B)が2.0以上の界面活性剤の組み合わせの場合、各界面活性剤が有するHLB値の数値範囲(最高値と最低値との差)が4.0以下、3.5以下、又は3.0以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、0.5以上、0.6以上又は0.7以上である。
【0036】
-他の界面活性剤-
一般式(1)で表される界面活性剤以外の界面活性剤としては例えば、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤から選ばれる界面活性剤が挙げられ、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0037】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩である。
【0038】
成分(B)の含有量は、成分(A)100重量%に対し、好ましくは25重量%以下、より好ましくは23重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。これにより、安定化効果が良好に発現し得る。下限は、0重量%を超えていればよく、通常は0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、特に限定されない。
【0039】
〔(C)安定化剤〕
成分(C)は、エポキシ基含有脂肪酸エステルである。エポキシ基含有脂肪酸エステルは、エポキシ当量が100~500程度であり、1分子中に少なくとも1つのエポキシ基を含有する脂肪酸エステルであればよく、例えば、天然の不飽和基を有する植物油を過酢酸等の過酸でエポキシ化したエポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油オレイン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の不飽和脂肪酸をエポキシ化したエポキシ化脂肪酸エステル(エポキシ基含有脂肪酸エステル)が挙げられる。これらのうち、エポキシ化大豆油が好ましい。成分(C)は、1種単独でもよいし2種以上の組み合わせでもよい。
【0040】
成分(C)の含有量は、成分(A)100重量%に対し、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上である。これにより、安定化効果が良好に発現し得る。上限は、好ましくは15重量%以下、より好ましくは12重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。これにより、組成物の基材に対する接着性を良好に発現させることができる。
【0041】
〔(D)水性媒体〕
成分(D)は、水性媒体である。成分(D)を含有することにより、少なくとも成分(A)が分散してなる分散体の形態をとることができる。水性媒体としては、例えば、水及び親水性物質が挙げられる。親水性物質としては、例えば、アルコール系、ケトン系、エステル系の親水性物質を挙げることができ、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンが好ましい。成分(D)は、1種類の水性媒体でもよいし、2種類以上の水性媒体の組み合わせでもよく、少なくとも水を含むことが好ましい。
【0042】
〔任意成分〕
組成物は、成分(A)~(D)以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、変性されていないポリオレフィン樹脂、成分(A)以外の変性ポリオレフィン樹脂、アルキッド樹脂、水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂等の樹脂成分、塩基性物質、架橋剤、成分(C)以外の安定化剤、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、金属塩、酸類が挙げられる。
【0043】
-塩基性物質-
組成物が塩基性物質を含むことにより、溶剤への樹脂の分散性をより高めることができる。塩基性物質としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸基を有するもの;アンモニア、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミノ基を有するもの;エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン等の窒素原子及び酸素原子を有するものが挙げられ、好ましくは、アンモニア、トリエチルアミン、窒素原子及び酸素原子を有するものであり、より好ましくは窒素原子及び酸素原子を有するもの(例えば、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン)である。塩基性物質は1種類でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。塩基性物質の含有量は、添加後の組成物のpHが、通常は5以上、好ましくは6以上となる量である。これにより、十分に中和がされ、安定な分散性が保たれ得る。上限は通常、pH10以下となる量である。これにより、他成分との相溶性、作業上の安全性を良好に保持できる。
【0044】
-架橋剤-
架橋剤は、組成物中に存在する、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の基と反応し、架橋構造を形成し得る化合物であればよく、水溶性の架橋剤、及び、架橋剤の水分散体(何らかの方法で水に分散されている状態の架橋剤)のいずれでもよい。架橋剤としては、例えば、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂などが挙げられる。架橋剤は、1種単独でも、2種以上の組み合わせでもよい。架橋剤の添加方法は特に限定されず、添加時は、水性化工程途中、或いは水性化後のいずれでもよい。
【0045】
-安定化剤(成分(C)以外)-
成分(C)以外の安定化剤としては、例えば、以下が挙げられる:エポキシ化テトラヒドロフタレート等のエポキシ化脂環式化合物;例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル;ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイドグリシジルエーテル等の、ビスフェノールAや多価アルコールとエピクロルヒドリンとを縮合してなる、モノエポキシ化合物類。また、他の例としては、エポキシ基を含まない化合物も挙げられ、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂の安定剤として使用されている、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチルマレート等の有機金属化合物類;ハイドロタルサイト類化合物が挙げられる。
【0046】
〔組成物の形態〕
組成物は、通常、分散体の形態、例えば、成分(A)等の樹脂成分が成分(D)に分散した形態をとることができる。分散した樹脂成分は、その平均粒子径が通常50nm以上であり、特に限定されない。上限は通常は500nm以下であり、特に限定されない。平均粒子径は、組成、製造条件(例えば、撹拌条件)等により適宜調整できる。
【0047】
〔組成物の製造方法〕
組成物の製造方法としては、例えば、成分(A)~(D)及び必要に応じて用いる他の成分を反応系内に一括添加又は順次添加する方法が挙げられる。順次添加する方法としては、例えば、成分(A)~(C)及び必要に応じて用いる他の成分に溶剤を添加し混練した後、必要に応じて用いる塩基性物質を添加し、続いて成分(D)を添加し、先に添加した溶剤を除去(例えば、減圧処理)する方法が挙げられる。一連の反応は高温(例えば、70℃以上、好ましくは80℃以上)で行うことが好ましい。溶剤としては、例えば、脂肪族系溶剤(例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン)、グリコール系溶剤(例えば、エチレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ)が挙げられる。溶剤の除去後、撹拌羽根、ディスパー、ホモジナイザー、サンドミル、多軸押出機等の撹拌機器を用いる撹拌処理を行ってもよい。これにより、分散体中の樹脂成分の粒子径を調整できる。
【0048】
〔樹脂組成物の用途〕
樹脂組成物は、ポリオレフィン等の非極性樹脂、金属等の基材との接着性に優れるので、プライマー、接着剤、塗料用バインダー、インキ用バインダー等の各種用途において利用可能である。
【実施例
【0049】
(1)塩素化
[塩素化例1:塩素化ポリプロピレン溶液Aの製造]
ポリプロピレン樹脂(融点132℃、重量平均分子量60,000)5kgをグラスライニングされた50L反応釜に投入し、16Lのクロロホルムを入れ、0.2MPaの圧力の下、温度110℃で充分に溶解させた後、開始剤t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを5g添加し、上記釜内圧力を0.2MPaに制御しながらガス状の塩素を反応釜に吹き込むことで塩素化反応を行うとともに、ガス状の酸素を吹き込んで分子量を低減し、塩素化度33.5%、重量平均分子量10,000の塩素化ポリプロピレン溶液A(固形分約13%:成分(A))を得た。
【0050】
[塩素化例2:塩素化ポリプロピレン溶液Bの製造]
塩素化例1と同様の操作を行い、塩素化度29.5%、重量平均分子量20,000の塩素化ポリプロピレン溶液B(固形分約13%)を得た。
【0051】
[塩素化例3:塩素化ポリプロピレン溶液Cの製造]
塩素化例1と同様の操作を行い、塩素化度39.5%、重量平均分子量15,000の塩素化ポリプロピレン溶液C(固形分約13%)を得た。
【0052】
[塩素化例4:塩素化ポリプロピレン溶液Dの製造]
塩素化例1と同様の操作を行い、塩素化度26.5%、重量平均分子量10,000の塩素化ポリプロピレン溶液D(固形分約13%)を得た。
【0053】
[塩素化例5:塩素化ポリプロピレン溶液Eの製造]
塩素化例1と同様の操作を行い、塩素化度42%、重量平均分子量10,000の塩素化ポリプロピレン溶液E(固形分約13%)を得た。
【0054】
[塩素化例6:塩素化ポリプロピレン溶液Fの製造]
塩素化工程にて使用するポリプロピレン樹脂を無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂とした以外は塩素化例2と同様の操作を行い、塩素化度29.5%、重量平均分子量40,000の酸変性塩素化ポリプロピレン溶液(固形分約13%)を得た。
【0055】
(2)固形化
[固形化例1]
塩素化例1で得られた溶液Aをエバポレーターで固形分約40%に濃縮後、成分(C):ニューサイザー(登録商標)510R(エポキシ化大豆油、日油社製)を成分(A)100重量部に対し5.1重量部添加した。反応溶媒を減圧留去するためのベント口を設置したベント付2軸押出機でクロロホルムを除去し、塩素化ポリプロピレンを押出し、塩素化ポリオレフィンA(塩素化ポリプロピレン、塩素化度32%、重量平均分子量10,000、Tg約35℃、軟化点約35℃)を得た。
【0056】
[固形化例2]
塩素化例2で得られた溶液Bを使用した以外は固形化例1と同様の操作を行い、塩素化ポリオレフィンB(塩素化ポリプロピレン、塩素化度28%、重量平均分子量20,000、Tg約25℃、軟化点約38℃)を得た。
【0057】
[固形化例3]
塩素化例3で得られた溶液Cを使用した以外は固形化例1と同様の操作を行い、塩素化ポリオレフィンC(塩素化ポリプロピレン、塩素化度38%、重量平均分子量15,000、Tg約50℃、軟化点約50℃)を得た。
【0058】
[固形化例4]
塩素化例4で得られた溶液Dを使用した以外は固形化例1と同様の操作を行い、塩素化ポリオレフィンD(塩素化ポリプロピレン、塩素化度25%、重量平均分子量10,000、Tg約20℃、軟化点約20℃)を得た。
【0059】
[固形化例5]
塩素化例5で得られた溶液Eを使用した以外は固形化例1と同様の操作を行い、塩素化ポリオレフィンE(塩素化ポリプロピレン、塩素化度40%、重量平均分子量10,000、Tg約55℃、軟化点約55℃)を得た。
【0060】
[固形化例6]
塩素化例6で得られた溶液Fを使用した以外は固形化例1と同様の操作を行い、酸変性塩素化ポリオレフィンF(酸変性塩素化ポリプロピレン、塩素化度28%、重量平均分子量40,000、Tg約25℃、軟化点約55℃)を得た。
【0061】
(3)乳化
[実施例1]
撹拌器、冷却管、滴下ロートを取り付けた3Lスケールの4つ口フラスコ内に、固形化例1で得られた塩素化樹脂A200g、純水20g、成分(B):界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテルa及びb)40g、成分(C):安定剤ニューサイザー510R(エポキシ基含有脂肪酸エステル、日油(株)製)10g(塩素化樹脂A100重量部に対し5重量部)、メチルシクロヘキサン50gを添加し、85℃で1時間混練した。次に、塩基性物質としてトリエタノールアミン25gを添加し、1時間保持した後、90℃の温水590gを約2時間かけて添加した。その後、減圧処理を行い、メチルシクロヘキサンを除去した後、室温まで撹拌したまま冷却し、塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0062】
[実施例2~3]
乳化工程にて添加する成分(B)を、表1記載の界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~3の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0063】
[実施例4]
乳化工程にて使用する成分(A)を固形化例2で得られた塩素化樹脂Bに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例4の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0064】
[実施例5]
乳化工程にて使用する成分(A)を固形化例3で得られた塩素化樹脂Cに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例5の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0065】
[実施例6]
乳化工程にて添加する塩基性物質をジメチルエタノールアミンに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、実施例6の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0066】
[実施例7]
乳化工程にて添加する塩基性物質を2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールに変更した以外は実施例2と同様な操作を行い、実施例7の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0067】
[比較例1]
乳化工程にて使用する成分(A)を固形化例4で得られた塩素化樹脂Dに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例1の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0068】
[比較例2]
乳化工程にて使用する成分(A)を固形化例5で得られた塩素化樹脂Eに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例2の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得ようとしたが、乳化不良となった。
【0069】
[比較例3~5]
乳化工程にて添加する成分(B)を、表1記載の界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例3~5の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得ようとしたが、乳化不良となった。
【0070】
[比較例6]
乳化工程にて添加する成分(C)を表1記載の、デナコールEX-212(1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、ナガセケムテックス(株)製)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例6の塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得ようとしたが、乳化不良となった。
【0071】
[比較例7]
乳化工程にて使用する成分(A)を固形化例6で得られた酸変性塩素化樹脂Fに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例7の酸変性塩素化ポリプロピレンの水分散体組成物を得た。
【0072】
<平均粒子径>
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、マルバーン社製「ゼータサイザー」を用いて動的光散乱法により、平均粒子径(μm)を測定した。
【0073】
<粘度>
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、東機産業社製「BII形粘度計」を用いて、B型粘度(mPa・s)を測定した。
【0074】
<接着性>
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、固形分30重量%に調整し、イソプロパノールで表面を拭いた二軸延伸ポリプロピレンフィルム(コロナ処理面)に塗装し、55℃で30秒間乾燥し、試験片をそれぞれ作製した。試験片の塗膜上にセロハン粘着テープを密着させて180°方向にゆっくりと引きはがし(秒速約5mm/s)、塗工直後と一日静置後の付着性(接着性)を以下の基準で評価した。
A:塗膜の剥離が見られない。
B:剥離した塗膜の面積が1~49%であるが、実用上使用可能なレベルである。
C:剥離した塗膜の面積が50%超である。
【0075】
【表1】
【0076】
今回使用した成分(B)について、以下に表2としてまとめた。
【0077】
【表2】
【0078】
〔表2の脚注〕
C18:オレイル基
C13:トリデシル基
C12:ラウリル基
【0079】
表1の中から乳化物となり得たものについて、付着性試験を実施した(表3)。
【0080】
【表3】
【0081】
塩素化度が25%あるいは40%(表1)の塩素化樹脂D又はEを用いた比較例1及び2、並びに、酸変性塩素化樹脂を用いた比較例7では、満足する付着性を得ることができないか、又は乳化物を得ることができなかった(表1、3)。また、HLBの重量平均が14.0未満あるいは16.0超の界面活性剤(表2)を用いた比較例3~4、脂肪族炭化水素基がC12以下の界面活性剤(表2)を用いた比較例5、エポキシ基含有脂肪酸エステルを用いない比較例6では、いずれも乳化物を得ることができなかった(表1)。一方、塩素化度が28~38%の塩素化ポリオレフィン(表1)とHLBの重量平均が14.0~16.0である界面活性剤(表2)を用いた実施例1~7では、いずれも乳化物を得ることができ、かつ、良好な付着性を示した(表3)。これらの結果は、本発明の分散体樹脂組成物が、乳化性と付着性をバランスよく両立できる分散体樹脂組成物を得ることができることを示している。