IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図1
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図2
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図3
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図4
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図5
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図6
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図7
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図8
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図9
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図10
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図11
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図12
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図13
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図14
  • -太陽電池の電極構造および製造方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】太陽電池の電極構造および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10F 10/167 20250101AFI20250627BHJP
   H10F 19/90 20250101ALI20250627BHJP
   H10F 77/20 20250101ALI20250627BHJP
【FI】
H10F10/167
H10F19/90
H10F77/20 120
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2022571487
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047252
(87)【国際公開番号】W WO2022138623
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2020211733
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】宮川 善秀
(72)【発明者】
【氏名】深澤 一仁
(72)【発明者】
【氏名】濱野 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】堀口 恭平
(72)【発明者】
【氏名】山口 幸士
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/110620(WO,A1)
【文献】特開2016-072495(JP,A)
【文献】特開2020-088111(JP,A)
【文献】特開2004-363293(JP,A)
【文献】特開2015-026710(JP,A)
【文献】特開平11-163376(JP,A)
【文献】特開2012-253158(JP,A)
【文献】特開2007-207861(JP,A)
【文献】特開2006-013028(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0036604(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に光電変換層が積層されたカルコゲン太陽電池セルを備えた太陽電池における電極構造であって、
前記電極構造は、前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板側の導電体と、前記導電体に電気的に接続される配線要素とを有し、
前記配線要素は、配線部材と、前記導電体と前記配線部材の間に配置される接合層とを含み、
前記配線要素は、前記接合層が前記導電体に積層されて接合され、
前記配線要素および前記導電体は、VI族元素を含み、
前記導電体と前記配線要素の積層方向において、前記VI族元素の濃度分布のピークが前記接合層にあり、
前記接合層は、Al、Pt、Zn、Snのいずれか一つを少なくとも含む
太陽電池の電極構造。
【請求項2】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの受光面側において、前記光電変換層と重ならない位置で露出し、
前記配線要素は、前記受光面側に露出した前記導電体に積層されている
請求項1に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項3】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板上に形成される裏面電極層であり、
前記裏面電極層と前記接合層の積層方向において、前記VI族元素の濃度分布のピークが前記接合層にある
請求項2に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項4】
前記裏面電極層の材料と前記接合層の材料は相図に合金相を有し、
前記接合層の材料と前記配線部材の材料は相図に合金相を有する
請求項3に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項5】
前記接合層の融点は、230℃以上である
請求項3または請求項4に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項6】
前記接合層に含まれる前記VI族元素の原子数は、前記接合層に対応する領域の前記裏面電極層に含まれる前記VI族元素の原子数より多い
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項7】
前記接合層に対応する領域の前記裏面電極層は、前記接合層の金属元素の一部を含む
請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項8】
前記配線部材は、前記接合層の金属元素の一部を含む
請求項3から請求項7のいずれか一項に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項9】
前記配線部材は、Agを含み、
前記接合層は、AlおよびAgを含む
請求項8に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項10】
前記配線部材の材料は、Tiまたは鉄・ニッケル・コバルト合金を含む
請求項3から請求項9のいずれか一項に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項11】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの受光面とは反対側である、前記基板の裏面側において露出し、
前記配線要素は、前記基板の裏面側において露出した前記導電体に積層されている
請求項1に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項12】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板上に形成される導電層であるか、または導電性基板である前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板であ
請求項11に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項13】
前記導電体の材料と前記接合層の材料は相図に合金相を有し、
前記接合層の材料と前記配線部材の材料は相図に合金相を有する
請求項12に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項14】
前記配線部材の材料は、Tiまたは鉄・ニッケル・コバルト合金を含む
請求項12または請求項13に記載の太陽電池の電極構造。
【請求項15】
基板上に光電変換層が積層されたカルコゲン太陽電池セルを備えた太陽電池における電極構造の製造方法であって、
前記電極構造は、前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板側の導電体と、前記導電体に電気的に接続される配線要素とを有し、
前記配線要素は、配線部材と、前記導電体と前記配線部材の間に配置される接合層とを含み、
表面にVI族元素の化合物を有する前記導電体の上に、前記配線要素または前記配線要素のプリカーサ層を配置する工程と、
前記配線要素または前記配線要素のプリカーサ層に溶接による熱エネルギーを加え、前記導電体に前記配線要素を接合する工程と、を有し、
前記導電体と前記配線要素の積層方向において、前記VI族元素の濃度分布のピークが前記接合層にあり、
前記接合層は、Al、Pt、Zn、Snのいずれか一つを少なくとも含む
太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項16】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの受光面側において、前記光電変換層と重ならない位置で露出し、
前記配線要素は、前記受光面側に露出した前記導電体に積層される
請求項15に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項17】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板上に形成される裏面電極層であり、
前記配線要素は、前記配線部材と、前記裏面電極層と前記配線部材の間に配置される前記接合層とを含む
請求項16に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項18】
表面に前記VI族元素の化合物を有する前記裏面電極層の上に、前記裏面電極層の構成元素の少なくとも1つ、もしくは、Al、Pt、Zn、Snのいずれか1つを含んだプリカーサ層を形成し、
前記プリカーサ層の上に前記配線部材を配置し、
前記プリカーサ層および前記配線部材を溶接して前記プリカーサ層に熱エネルギーを加え、前記プリカーサ層に含まれる元素と前記VI族元素を含む前記接合層を形成し、前記裏面電極層と前記配線部材を接合する
請求項17に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項19】
前記接合層に含まれる前記VI族元素は、前記溶接前の前記裏面電極層の表面にある前記化合物から拡散する
請求項18に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項20】
前記プリカーサ層は、前記配線部材の構成元素の少なくとも1つを含む
請求項18または請求項19に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項21】
前記配線部材は、Agを含み、
前記プリカーサ層は、AlおよびAgを含む
請求項20に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項22】
前記プリカーサ層は、Al、Pt、Zn、Snのいずれか一つを含んだ第1の層と、前記配線部材の構成元素の少なくとも1つを含んだ第2の層が積層された構造であり、
前記第2の層は、前記プリカーサ層において前記配線部材に臨む面に配置される
請求項20または請求項21に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項23】
前記第1の層はAlを含み、
前記第2の層はAgを含む
請求項22に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項24】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの受光面とは反対側である、前記基板の裏面側において露出し、
前記配線要素は、前記基板の裏面側において露出した前記導電体に積層されている
請求項15に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項25】
前記導電体は、前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板上に形成される導電層であるか、または導電性基板である前記カルコゲン太陽電池セルの前記基板であ
請求項24に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項26】
前記導電体の材料と前記接合層の材料は相図に合金相を有し、
前記接合層の材料と前記配線部材の材料は相図に合金相を有する
請求項25に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【請求項27】
前記配線部材の材料は、Tiまたは鉄・ニッケル・コバルト合金を含む
請求項25または請求項26に記載の太陽電池の電極構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコゲン太陽電池セルを含む太陽電池の電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光電変換層としてCu、In、Ga、Se、Sを含むカルコパイライト構造のI-III-VI族化合物半導体を用いたCIS系太陽電池が提案されている。CIS系太陽電池は、製造コストが比較的安価であり、しかも可視から近赤外の波長範囲に大きな吸収係数を有するので高い光電変換効率が期待される。また、CIS系太陽電池は、耐放射線性に優れ、Si系太陽電池よりも寿命が長くGaAs系太陽電池よりも低価格な太陽電池として、宇宙用途での利用も検討されている。
【0003】
CIS系太陽電池は、例えば、基板上に金属の裏面電極層を形成し、その上にI-III-VI族化合物である光電変換層を形成し、更にバッファ層、透明導電膜で形成される窓層を順に形成して構成される。CIS系太陽電池の+極側の裏面電極上への配線では、特許文献1のようにハンダ付けを用いた方法や、特許文献2のように導電性ペーストを用いた接着方法などが従来用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1は、Inハンダ被覆の銅箔リボン導線を用いて、電極膜又は導電膜を破損することなく両者を固着する接続方法を開示する。
また、特許文献2の構成では、電極上に間欠的に塗布された導電性ペーストで接着されたリボンワイヤが、充填材を介して接着保持された太陽電池サブモジュールとカバーガラスとによって挟持される。これにより、太陽電池モジュールの電極にリボンワイヤが面接触して取り付けられる。
【0005】
また、地上用太陽電池における裏面電極層と金属リボンとの接合方法の1つとして、例えば、特許文献3のような超音波シーム溶接が知られている。
また、特許文献4には、GaAs系太陽電池において接続電極と電極層との接合強度を高める技術が開示されている。特許文献4の構成は、表面上に選択的に設定されたコンタクト領域を有するGaAs半導体層と、コンタクト領域上の一部に形成されたTiN層と、TiN層及びコンタクト領域上の全面に形成された電極層とを備えている。そして、電極層表面のTiN層上に位置する領域の一部または全面で接続電極と電極層が溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-207861号公報
【文献】特開2009-252975号公報
【文献】特開2000-4034号公報
【文献】特開昭62-55963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
宇宙用途の太陽電池においては、宇宙環境における急激な温度変化や打ち上げ時の衝撃に耐え得る、地上用よりも密着性の高いインターコネクタの接合技術が求められる。また、宇宙用途の太陽電池は、高度や日射によってはハンダの融点以上の温度に晒される。さらに、電極等の接着に使用される一般的な接着剤はUV耐性に乏しい。
【0008】
そのため、地上用の太陽電池において一般的なハンダ付けや接着によるインターコネクタの接合では、太陽電池の運用中に接着力が低下して電気的な接続不良を生じさせることが懸念される。かかる観点から、宇宙用途の太陽電池におけるインターコネクタの接合には、パラレルギャップ式抵抗溶接が推奨されている。
【0009】
ところで、CIS系太陽電池の裏面電極層(Mo)の表面には、層状構造で密着強度の弱いMo(Se,S)層が存在する。そのため、CIS系太陽電池のインターコネクタの接合では、特許文献4のように裏面電極層上にTi系の接合層を形成しても、Mo(Se,S)層の存在により、接合層と裏面電極層の密着強度を十分高めることが困難であった。
【0010】
また、この種の事象は、例えば、CIS系太陽電池の導電性基板に配線要素を溶接するケースで、基板表面にMo(Se,S)層やTi(Se,S)層が存在する場合においても同様に発生しうる。
【0011】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、カルコゲン太陽電池セルを含む太陽電池において、カルコゲン太陽電池セルの基板側の導電体と配線要素との密着強度を高めた電極構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、カルコゲン太陽電池セルの基板側の導電体と、導電体に電気的に接続される配線要素とを有する太陽電池の電極構造である。配線要素は導電体に積層されて接合される。配線要素および導電体は、VI族元素を含む。導電体と配線要素の積層方向において、VI族元素の濃度分布のピークは導電体と配線要素の界面からずれている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カルコゲン太陽電池セルを含む太陽電池において、カルコゲン太陽電池セルの基板側の導電体と配線要素との密着強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、第1実施形態における太陽電池の構成例を示す平面図であり、(b)は、図1(a)の破線で囲った接続部近傍の拡大図である。
図2図1(b)の厚さ方向断面図である。
図3】太陽電池の製造方法を示す流れ図である。
図4図3の製造方法の工程を模式的に示す図である。
図5図4の続きの図である。
図6】第2実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。
図7】第3実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。
図8】第4実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。
図9】第5実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。
図10】実施例の接続部の厚さ方向における各元素の濃度分布の一例を示す図である。
図11】実施例の接続部の厚さ方向における各元素の濃度分布の一例を示す図である。
図12】実施例1および比較例の密着強度試験の結果を示す表である。
図13】実施例1および比較例の相図の合金相の有無を示す表である。
図14】実施例2-7の密着強度試験の結果を示す表である。
図15】実施例2-7の相図の合金相の有無を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
実施形態では、その説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造または要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面において、各要素の形状、寸法などは、模式的に示したもので、実際の形状や寸法などを示すものではない。
【0016】
<<第1実施形態の説明>>
<太陽電池の構造>
図1(a)は、第1実施形態における太陽電池の構成例を示す平面図である。図1(b)は、図1(a)の破線で囲った接続部近傍の拡大図である。図2は、図1(b)の厚さ方向断面図である。第1実施形態では、カルコゲン太陽電池セルを含む太陽電池の一例として、CIS系の太陽電池モジュール10の構成例について説明する。
【0017】
図1図2に示す太陽電池モジュール10は、受光面側に光電変換素子12が形成された導電性基板11と、インターコネクタ13と、光電変換素子12とインターコネクタ13とを電気的に接続する接続部14と、を有している。
【0018】
(導電性基板11)
導電性基板11は、例えば、チタン(Ti)、ステンレス鋼(SUS)、銅、アルミニウムあるいはこれらの合金等で形成される。導電性基板11は、フレキシブル基板であってもよい。導電性基板11は、複数の金属基材を積層した積層構造であってもよく、例えば、ステンレス箔、チタン箔、モリブデン箔が基板の表面に形成されていてもよい。
【0019】
導電性基板11の形状および寸法は、太陽電池モジュール10の大きさ等に応じて適宜決定される。第1実施形態における導電性基板11の全体形状は、例えば矩形の平板状であるがこれに限られることはない。
導電性基板11として、金属基板やフレキシブル基板を適用した場合、太陽電池モジュール10を曲げることが可能となり、曲げによる基板の割れも抑制できる。さらに、上記の場合には、ガラス基板や樹脂基板と比べて、太陽電池モジュール10の軽量化および薄型化を図ることが容易となる。
【0020】
なお、宇宙用途の太陽電池においては、打ち上げ時の積載重量の抑制および太陽電池の高強度化を図る観点から、導電性基板11をチタンまたはチタンを含む合金で形成することが好ましい。
【0021】
(光電変換素子12)
光電変換素子12は、カルコゲン太陽電池セルの一例であって、導電性基板11の上に、第1の電極層21、光電変換層22、バッファ層23、第2の電極層24が順次積層された積層構造を有する。太陽光などの光は、導電性基板11側とは反対側(図2の上側)から光電変換素子12に入射する。
【0022】
(第1の電極層21)
第1の電極層21は、例えばモリブデン(Mo)の金属電極層であり、導電性基板11の上に形成される。第1の電極層21は、光電変換層22の受光面側ではなく裏面側(基板側)に臨むため、裏面電極とも称される。特に限定するものではないが、第1の電極層21の厚さは、例えば、200nm~1000nmである。
【0023】
また、光電変換素子12における第1の電極層21には、光電変換層22との界面に、Mo(Se,S)からなるVI族化合物層26が形成される。VI族化合物層26のMo(Se,S)は、後述のプリカーサ層22pをカルコゲン化して光電変換層22を形成する際に、第1の電極層21に形成される。なお、VI族化合物層26のMo(Se,S)は、グラファイト状の多層構造を有する物質であって、層間のへき開により剥離しやすい性質を有している。
【0024】
ここで、第1実施形態の太陽電池モジュール10では、導電性基板11に光電変換素子12を積層しているため、第1の電極層21を省略して導電性基板11上に光電変換層22を直接積層することもできる。導電性基板11上に光電変換層22を直接積層した場合、後述のプリカーサ層22pのカルコゲン化の際に、導電性基板11と光電変換層22の界面にVI族化合物層が形成される。例えば、導電性基板11がTiの場合には、導電性基板11と光電変換層22の界面にTi(Se,S)からなるVI族化合物層が形成される。なお、Ti(Se,S)も、Mo(Se,S)と同様に、グラファイト状の多層構造を有する物質であって、層間のへき開により剥離しやすい性質を有している。
【0025】
(光電変換層22)
光電変換層22は、第1の電極層21上に形成される。光電変換層22は、受光面側(図2の上側)および導電性基板11側(図2の下側)ではバンドギャップがそれぞれ大きく、光電変換層22の厚さ方向内側ではバンドギャップが小さいダブルグレーデッド構造を有してもよい。特に限定するものではないが、光電変換層22の厚さは、例えば、1.0μm~3.0μmである。
【0026】
光電変換層22は、多結晶または微結晶のp型化合物半導体層として機能する。光電変換層22は、I族元素と、III族元素と、VI族元素(カルコゲン元素)と、を含むカルコパイライト構造のI-III-VI族化合物半導体を用いたCIS系光電変換素子である。I族元素は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などから選択可能である。III族元素は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)などから選択可能である。また、光電変換層22は、VI族元素として、セレン(Se)や硫黄(S)の他に、テルル(Te)などを含んでもよい。また、光電変換層22は、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属を含んでいてもよい。
【0027】
なお、カルコゲン太陽電池セルとしての光電変換層22は、Cu,Zn,Sn,SまたはSeを含むカルコゲナイド系のI-(II-IV)-VI族化合物半導体を用いたCZTS系光電変換素子であってもよい。CZTS系光電変換素子の代表例としては、CuZnSnSe、CuZnSn(S,Se)等の化合物を用いたものが挙げられる。
【0028】
(バッファ層23)
バッファ層23は、光電変換層22の上に形成される。特に限定するものではないが、バッファ層23の厚さは、例えば、10nm~100nmである。
バッファ層23は、例えば、n型またはi(intrinsic)型高抵抗導電層である。ここで「高抵抗」とは、後述する第2の電極層24の抵抗値よりも高い抵抗値を有するという意味である。
【0029】
バッファ層23は、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)を含む化合物から選択可能である。亜鉛を含む化合物としては、例えば、ZnO、ZnS、Zn(OH)2、または、これらの混晶であるZn(O,S)、Zn(O,S,OH)、さらに
は、ZnMgO、ZnSnOなど、がある。カドミウムを含む化合物としては、例えば、CdS、CdO、または、これらの混晶であるCd(O,S)、Cd(O,S,OH)がある。インジウムを含む化合物としては、例えば、InS、InO、または、これらの混晶であるIn(O,S)、In(O,S,OH)があり、In23、In23、In(OH)x等を用いることができる。また、バッファ層23は、これらの化合物の積層構造を
有してもよい。
【0030】
なお、バッファ層23は、光電変換効率などの特性を向上させる効果を有するが、これを省略することも可能である。バッファ層23が省略される場合、第2の電極層24は光電変換層22の上に形成される。
【0031】
(第2の電極層24)
第2の電極層24は、バッファ層23の上に形成される。第2の電極層24は、例えば、n型導電層である。特に限定するものではないが、第2の電極層24の厚さは、例えば、0.5μm~2.5μmである。
第2の電極層24は、例えば、禁制帯幅が広く、抵抗値が十分に低い材料を備えることが好ましい。また、第2の電極層24は、太陽光などの光の通り道となるため、光電変換層22が吸収可能な波長の光を透過する性質を持つことが好ましい。この意味から、第2の電極層24は、透明電極層または窓層とも称される。
【0032】
第2の電極層24は、例えば、III族元素(B、Al、Ga、またはIn)がドーパントとして添加された酸化金属を備える。酸化金属の例としては、ZnO、または、SnO2がある。第2の電極層24は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、ITiO(
酸化インジウムチタン)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ZTO(酸化亜鉛スズ)、FTO(フッ素ドープト酸化スズ)、GZO(ガリウムドープト酸化亜鉛)、BZO(ホウ素ドープト酸化亜鉛)などから選択可能である。
【0033】
(インターコネクタ13)
インターコネクタ13は、太陽電池モジュール10の+極側の配線部材であり、太陽電池モジュール10の図1右側端部に2本並列に接続されている。インターコネクタ13は、例えば、材料にAgを含む導電性金属のリボンワイヤである。
特に限定するものではないが、インターコネクタの寸法は、厚さ30μm、幅2.5mm程度の短冊状とすることができる。
【0034】
ここで、インターコネクタ13の材料は、Agを含む導電性金属に限定されることなく、例えば、鉄(Fe)・ニッケル(Ni)・コバルト(Co)合金(例えば、Kovar(登録商標)など)やTiを用いてもよい。
【0035】
インターコネクタ13の材料として鉄・ニッケル・コバルト合金を用いる場合、Fe、Ni、Coの比率はKovarと同様の比率(Fe:53.5%、Ni:29%、Co:17%)であってもよく、その他の比率であってもよい。
例えば、インターコネクタ13と導電性基板11の熱膨張係数の差を小さくすると、熱膨張で接続部14に作用する応力が小さくなるので、接続部14の密着強度低下を抑制しやすくなる。そのため、導電性基板11の熱膨張係数との差が小さくなるように、鉄・ニッケル・コバルト合金におけるFe、Ni、Coの比率を調整してもよい。
また、相対する要素との間で金属の拡散を促進するために、鉄・ニッケル・コバルト合金に含まれるFeを増加させてもよい。
【0036】
なお、第1実施形態においては、太陽電池モジュール10の-極側の配線に関する説明は省略する。
【0037】
(接続部14)
接続部14は、インターコネクタ13と、光電変換素子12の第1の電極層21とを接続する要素であり、太陽電池モジュール10の図1右側端部に2か所設けられている。各々の接続部14は、光電変換素子12を部分的に切り欠いて受光面側に第1の電極層21を露出させた配線領域10aに形成されている。特に限定するものではないが、配線領域10aの平面方向の寸法は、例えば5mm×5mm程度の矩形状である。
【0038】
図2に示すように、接続部14は、導電性基板11の上に、配線領域10aに対応する第1の電極層21aと、接合層27とを順次積層した積層構造を有している。また、接合層27の上面には、インターコネクタ13の端部が溶接で取り付けられている。接合層27とインターコネクタ13の溶接は、例えばパラレルギャップ式抵抗溶接で行われる。
【0039】
配線領域10aに対応する第1の電極層21aは、光電変換素子12の第1の電極層21と一体に形成されている。
ただし、光電変換素子12の光電変換層22に臨む第1の電極層21には、光電変換層22との界面にVI族化合物層26が形成される。これに対し、配線領域10aの第1の電極層21aには、VI族化合物層26が形成されていない。配線領域10aにおいては第1の電極層21aと接合層27の間に剥離しやすいVI族化合物層26が形成されていないので、第1の電極層21aから接合層27が剥離しにくい。
【0040】
また、配線領域10aの第1の電極層21aには、後述のように接合層27の金属元素(例えば、Al)や、VI族元素であるSe,Sなどが拡散されている。第1の電極層21aに接合層27の金属元素が拡散することで、第1の電極層21aと接合層27とは高い密着強度を有する。
これに対し、光電変換素子12内の第1の電極層21は、接合層27と接触していない。そのため、光電変換素子12内の第1の電極層21では、配線領域10aの第1の電極層21aとは異なり、接合層27の金属元素の拡散はほとんどない。
【0041】
(接合層27)
接合層27は、配線領域10aの第1の電極層21aとインターコネクタ13を電気的に接続するための導電層であり、導電性の金属材料に拡散したVI族元素が含まれる物質で構成されている。一例として、第1実施形態の接合層27は、Al,Agを含み、拡散したSe,Sを含む物質である。
【0042】
図1図2に示すように、受光面の平面方向において接合層27の周囲には、光電変換層22、バッファ層23および第2の電極層24との間に溝28が形成されている。そのため、接合層27は、光電変換層22、バッファ層23および第2の電極層24に対して、溝28によって絶縁されている。特に限定するものではないが、接合層27の厚さは約2.0μm~3.0μm程度である。
【0043】
接合層27の金属材料は、宇宙環境における日射等による高温下での太陽電池モジュール10の使用を担保するために、融点が230℃以上であって、はんだ合金よりも融点の高いものが使用される。なお、上記のAl,Agはいずれも融点が230℃以上である。
【0044】
また、接合層27の材料は、カルコゲン化されやすい金属元素であるAl、Pt、Zn、Snのいずれか1つを少なくとも含むことが好ましい。接合層27がカルコゲン化されやすい金属元素を含むことで、接合層27にはVI族化合物が均一に分布しやすくなる。そして、後述する接合層27の形成時には、VI族化合物層26から接合層27側へのVI族元素の拡散が促進される。かかるVI族元素の拡散により、第1の電極層21aと接合層27との間からVI族化合物層26を消失させることができる。
【0045】
上記のように、接合層27の形成時には接合層27側にVI族元素が拡散してVI族化合物層26が消失する。そのため、接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、第1の電極層21aと接合層27との界面にVI族元素の濃度のピークを有しない。
また、接合層27の材料はカルコゲン化されやすい金属元素を含むので、接続部14の厚さ方向においてVI族元素は接合層27側により多く拡散する。そのため、接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、接合層27にVI族元素の濃度のピークが生じる。換言すれば、接合層27に含まれるVI族元素の原子数は、第1の電極層21aに含まれるVI族元素の原子数よりも多くなる。
【0046】
また、接合層27の材料は、裏面電極層である第1の電極層21aの材料に対して相図に合金相を有する金属元素を含むことが好ましい。あるいは、接合層27の材料は、第1の電極層21aの構成元素の少なくとも1つを含んでいてもよい。
接合層27の材料の選定では、第1の電極層21aの材料(Mo)に対して相図に合金相を有する金属を二元系状態図(例えば、BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS SECOND EDITION
Vol.1, T.B.Massalski, 1990)から選択すればよい。
【0047】
第1の電極層21aの材料に対して相図に合金相を有する金属元素(例えばAlなど)、あるいは第1の電極層21aの構成元素の少なくとも1つを接合層27が含むことで、第1の電極層21aと接合層27との間では金属元素の拡散が生じやすくなる。また、上記のように、VI族元素が接合層27側により多く拡散することに伴って、接合層27に含まれる金属元素は第1の電極層21aに拡散しやすい状態となる。これにより、第1の電極層21aと接合層27との密着強度を向上させることができる。
【0048】
また、接合層27に含まれるAgは、上記のようにインターコネクタ13にも含まれている。つまり、接合層27とインターコネクタ13の界面については、両者の材料がいずれもAgを含むので高い親和性を有している。そのため、インターコネクタ13の溶接時には、インターコネクタ13と接合層27の界面でも金属元素の拡散が生じ、インターコネクタ13と接合層27の密着強度が向上する。
【0049】
<太陽電池の製造方法>
次に、太陽電池モジュール10の製造方法の例を説明する。図3は、太陽電池モジュール10の製造方法を示す流れ図である。また、図4図5は、製造方法の各工程を模式的に示す図である。
【0050】
(S1:第1の電極層の形成)
S1にて、図4(a)に示すように、チタンなどの導電性基板11の表面に、例えばスパッタリング法によりモリブデン(Mo)などの薄膜を製膜することで、第1の電極層21が形成される。スパッタリング法は、直流(DC)スパッタリング法でもよいし、または、高周波(RF)スパッタリング法でもよい。また、スパッタリング法に代えて、CVD(chemical vapor deposition)法、ALD(atomic layer deposition)法などを用いて、第1の電極層21を形成してもよい。
【0051】
(S2:プリカーサ層の形成)
S2にて、図4(a)に破線で示すように、第1の電極層21の上に、薄膜状のプリカーサ層22pが形成される。
【0052】
第1の電極層21上にプリカーサ層22pを形成する方法としては、例えば、上記のスパッタリング法や、蒸着法またはインク塗布法が挙げられる。蒸着法は、蒸着源を加熱して気相となった原子等を用いて成膜する方法である。インク塗布法は、プリカーサ膜の材料を粉体にしたものを有機溶剤等の溶媒に分散して第1の電極層21上に塗布し、その後溶剤を蒸発してプリカーサ層22pを形成する方法である。
【0053】
CIS系の光電変換層22を形成する場合、プリカーサ層22pは、I族元素と、III族元素とを含む。例えば、プリカーサ層22pはI族元素としてAgを含んでいてもよい。プリカーサ層22pに含めるAg以外のI族元素は、銅、金などから選択可能である。また、プリカーサ層22pに含めるIII族元素は、インジウム、ガリウム、アルミニウムなどから選択可能である。また、プリカーサ層22pは、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属を含んでいてもよい。また、プリカーサ層22pは、VI族元素として、セレンおよび硫黄の他に、テルルを含んでいてもよい。
一方、CZTS系の光電変換層22を形成する場合、プリカーサ層22pは、Cu-Zn-SnあるいはCu-Zn-Sn-Se-Sの薄膜として製膜される。
【0054】
(S3:光電変換層の形成)
S3にて、図4(b)に示すように、プリカーサ層22pをカルコゲン化することで光電変換層22が形成される。
【0055】
CIS系の光電変換層22を形成する場合、プリカーサ層22pのカルコゲン化処理では、VI族元素を含む雰囲気中で、I族元素とIII族元素を含むプリカーサ層22pを熱処理することでカルコゲン化し、光電変換層22を形成する。
【0056】
例えば、まず、気相セレン化法によるセレン化が行われる。セレン化は、VI族元素源としてセレンを含むセレン源ガス(例えば、セレン化水素またはセレン蒸気)の雰囲気中でプリカーサ層を加熱することにより行う。特に限定するものではないが、セレン化は、例えば、加熱炉内において300℃以上600℃以下の範囲内の温度で行うことが好ましい。
【0057】
その結果、プリカーサ層は、I族元素と、III族元素と、セレンとを含む化合物(光電変換層22)に変換される。なお、I族元素と、III族元素と、セレンとを含む化合物(光電変換層22)は、気相セレン化法以外の方法により形成してもよい。例えば、このような化合物は、固相セレン化法、蒸着法、インク塗布法、電着法などによっても形成可能である。
【0058】
次に、I族元素と、III族元素と、セレンとを含む光電変換層22の硫化が行われる。硫化は、硫黄を有する硫黄源ガス(例えば、硫化水素、または硫黄蒸気)の雰囲気中で光電変換層22を加熱することにより行う。その結果、光電変換層22は、I族元素と、III族元素と、VI族元素としてセレンおよび硫黄とを含む化合物に変換される。硫黄源ガスは、光電変換層22の表面部において、I族元素と、III族元素と、セレンとからなる結晶、例えば、カルコパイライト結晶内のセレンを硫黄に置換する役割を担う。
特に限定するものではないが、硫化は、例えば、加熱炉内において450℃以上650℃以下の範囲内の温度で行うことが好ましい。
【0059】
一方、CZTS系の光電変換層22を形成する場合、プリカーサ層22pのカルコゲン化処理では、Cu、Zn、Snを含むプリカーサ層22pを500℃~650℃の硫化水素雰囲気中及びセレン化水素雰囲気中で硫化及びセレン化する。これにより、CuZnSn(S、Se)を有するCZTS系の光電変換層22を形成することができる。
【0060】
また、S3でのプリカーサ層22pのカルコゲン化処理に伴い、第1の電極層21における光電変換層22との界面には、Mo(Se,S)からなるVI族化合物層26が形成される。
【0061】
(S4:バッファ層の形成)
S4にて、図4(c)に示すように、CBD(chemical bath deposition)法、スパッタリング法などの方法により、光電変換層22の上に、例えば、Zn(O,S)などの薄膜を製膜してバッファ層23が形成される。なお、バッファ層23の形成は省略されてもよい。
【0062】
(S5:第2の電極層の形成)
S5にて、図4(c)に破線で示すように、スパッタリング法、CVD法、ALD法などの方法により、バッファ層23の上に、第2の電極層24が形成される。第2の電極層24は、例えば、B、AlまたはInがドーパントとして添加されたZnOなどの薄膜による透明電極である。
以上のS1からS5の工程により、導電性基板11上に光電変換素子12が形成される。
【0063】
(S6:配線領域の形成)
S6にて、光電変換素子12の受光面端部における所定位置を、例えばメカニカルパターニングで部分的に切り欠き、受光面側に第1の電極層21を露出させた配線領域10aが形成される。なお、S6の段階では、配線領域10aの第1の電極層21の表面には、光電変換素子12内の第1の電極層21と同様にVI族化合物層26が存在している。
【0064】
一例として、図5(a)では、光電変換素子12の配線領域10aに対応する光電変換層22、バッファ層23および第2の電極層24を削除した状態を示している。なお、図5(a)では、S6で削除された領域を破線で示している。
【0065】
(S7:配線領域でのプリカーサ層の形成)
S7にて、図5(b)に示すように、配線領域10aの第1の電極層21の上に、接合層27に対応するプリカーサ層27pが形成される。
【0066】
S7では、まず、光電変換素子12の受光面において、プリカーサ層27pを形成する領域(配線領域10aにおける溝28の内側)以外を適宜マスキングする。その後、配線領域10aの第1の電極層21の上に、例えば蒸着法でプリカーサ層27pを形成する。
【0067】
S7のプリカーサ層27pは、導電性基板11側から順に、Al層27p1と、Ag層27p2とを順次積層して形成される。Al層27p1の製膜条件は、例えば、印加電圧10kV程度、EB電流0.2A程度、製膜レート0.4nm/sec、膜厚0.5μmである。同様に、Ag層27p2の製膜条件は、例えば、印加電圧10kV程度、EB電流0.1A程度、製膜レート0.5nm/sec、膜厚2.0μmである。
【0068】
プリカーサ層27pでは、インターコネクタ13に臨む上面側にAg層27p2が配置されている。インターコネクタ13の材料と共通するAg層27p2をインターコネクタ13に臨む領域に配置することで、溶接時にはインターコネクタ13とプリカーサ層27pとの界面で拡散が生じやすくなる。
【0069】
また、プリカーサ層27pでは、第1の電極層21のVI族化合物層26に臨む下面側にAl層27p1が配置されている。カルコゲン化しやすいAl層27p1をVI族化合物層26に臨む領域に配置することで、溶接時には接合層27側にVI族化合物の拡散が生じやすくなる。
【0070】
(S8:インターコネクタの溶接)
S8にて、プリカーサ層27pの上面に、Agを含む導電性金属のインターコネクタ13の端部を配置し、太陽電池モジュール10へのインターコネクタ13の溶接が行われる。インターコネクタ13の溶接は、一例として、制御方式がトランジスタ式の抵抗溶接機を使用したパラレルギャップ式溶接法により行われる。
【0071】
具体的には、図5(c)に示すように、インターコネクタ13の端部は、プリカーサ層27pの周縁部から外側にはみ出さないようにプリカーサ層27pの上面中央部に配置される。そして、例えば狭いギャップで仕切られた一対の電極30を用いて、インターコネクタ13がプリカーサ層27pと溶接される。
なお、S8での溶接条件は、例えば、溶接電流50~200A、溶接時間5~900msecである。
【0072】
インターコネクタ13との溶接時には、プリカーサ層27pはインターコネクタ13を介して電極30からの熱エネルギーを受ける。すると、インターコネクタ13とプリカーサ層27pの界面と、プリカーサ層27pと第1の電極層21の界面とでそれぞれ拡散が生じる。また、プリカーサ層27p内のAl層27p1とAg層27p2の間でも拡散が生じる。これにより、図5(d)に示すように、Al層27p1とAg層27p2の積層構造であったプリカーサ層27pは、Ag、AlおよびVI族元素のSeが拡散された接合層27に変化する。
【0073】
溶接時の熱エネルギーによりプリカーサ層27pと第1の電極層21の界面で拡散が生じると、第1の電極層21におけるVI族化合物層26のSeは、第1の電極層21aと接合層27に拡散する。かかるSeの拡散により、第1の電極層21aと接合層27との間からVI族化合物層26が消失する。溶接後の第1の電極層21aと接合層27の間には剥離しやすいVI族化合物層26が存在しないので、第1の電極層21aと接合層27が剥離しにくい。
【0074】
また、プリカーサ層27pの第1の電極層21側には、カルコゲン化しやすいAl層27p1が配置されている。そのため、VI族化合物層26から拡散するSeは、Moを含む第1の電極層21a側よりも、カルコゲン化しやすいAlを含む接合層27側に多く拡散する。そして、Seが接合層27側により多く拡散することに伴って、プリカーサ層27pに含まれていた金属元素のAlは第1の電極層21aに拡散しやすくなる。接合層27の金属元素であるAlが第1の電極層21aに拡散することで、溶接後の第1の電極層21aと接合層27の密着強度がより向上する。
【0075】
一方、プリカーサ層27pのAg層27p2とインターコネクタ13の界面については、両者の材料がいずれもAgを含むので高い親和性を有している。したがって、溶接時にはインターコネクタ13とプリカーサ層27pの界面で金属元素の拡散が生じ、インターコネクタ13と接合層27が高い密着強度で接合される。
【0076】
上述のS1~S8の工程により、太陽電池モジュール10の配線領域には、接合層を介して第1の電極層とインターコネクタが接合された接続部14が形成される。
以上で、図3の説明を終了する。
【0077】
以上のように、第1実施形態では、配線領域10aにおいて、VI族化合物層26を有する第1の電極層21の上にAlを含んだプリカーサ層27pを形成する(S7)。そして、プリカーサ層27pとインターコネクタ13を溶接して熱エネルギーを加え、VI族元素とプリカーサ層27pのAlを含む接合層27が形成される(S8)。
これにより、光電変換素子12とインターコネクタ13の接続部14では、VI族元素が接合層27に拡散し、積層方向においてVI族元素の濃度分布のピークは第1の電極層21と接合層27の界面からずれる。つまり、第1実施形態の接続部14では、第1の電極層21と接合層27の界面からVI族化合物層26が消失するので、第1の電極層21と接合層27との密着強度を高めることができる。
【0078】
<<第2実施形態>>
図6は、第2実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。第2実施形態は、第1実施形態の変形例であって、太陽電池モジュール10の導電性基板11の裏面側(受光面の反対側の面)に接続部14が形成されている。
なお、以下の各実施形態の説明において、第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0079】
図6に示すように、第2実施形態の導電性基板11には、裏面側にモリブデン(Mo)の導電被膜層31が形成され、導電被膜層31に接合層27aが積層されている。そして、接合層27aの図中下側にはインターコネクタ13の端部が溶接で取り付けられている。第2実施形態のインターコネクタ13は、例えば、Agを含む導電性金属、Tiまたは鉄・ニッケル・コバルト合金などを材料とするリボンワイヤである。
導電性基板11の裏面側に導電被膜層31が形成されることで、太陽電池モジュール10の反りを低減することができる。
【0080】
また、導電被膜層31の表面には、接合層27aが積層されている領域を除いてMo(Se,S)からなるVI族化合物層32が形成されている。VI族化合物層32のMo(Se,S)は、プリカーサ層22pをカルコゲン化して光電変換層22を形成する際に、導電被膜層31に形成される。なお、Mo(Se,S)からなるVI族化合物層32は、第1の電極層21のVI族化合物層26と同様の性質を有している。
換言すれば、導電被膜層31と接合層27aの間には剥離しやすいVI族化合物層32が形成されていない。そのため、導電被膜層31から接合層27aが剥離しにくい。
【0081】
また、第2実施形態の接合層27aは、Al、Pt、Zn、Snのいずれか1つを少なくとも含み、拡散したSe,Sを含む物質である。接合層27aの金属材料は、宇宙環境における日射等による高温下での太陽電池モジュール10の使用を担保するために、融点が230℃以上であって、はんだ合金よりも融点の高いものが使用される。また、接合層27aの材料は、部材間での金属元素の拡散を促進するために、導電被膜層31の材料およびインターコネクタ13の材料に対して相図に合金相を有する金属元素を含むことが好ましい。
【0082】
また、接合層27aの材料は、カルコゲン化されやすい金属元素であるAl、Pt、Zn、Snのいずれか1つを少なくとも含むことが好ましい。これにより、接合層27aにはVI族化合物が均一に分布しやすくなる。接合層27aの形成時には、VI族化合物層32から接合層27a側へのVI族元素の拡散が促進され、導電被膜層31と接合層27aの間からVI族化合物層32を消失させることができる。
【0083】
また、導電被膜層31において、接合層27aが積層されている領域には、後述のように接合層27aの金属元素(例えば、Al)や、VI族元素であるSe,Sなどが拡散されている。導電被膜層31に接合層27aの金属元素が拡散することで、導電被膜層31と接合層27aは高い密着強度を有する。
これに対し、導電被膜層31において接合層27aが積層されていない領域では、接合層27aの金属元素の拡散はほとんどない。
【0084】
第2実施形態の接続部14を形成する場合、光電変換素子12を形成する工程(S1からS5)までは第1実施形態の製造方法の工程とほぼ同様である。但し、第2実施形態の場合、S1の工程において、導電性基板11の裏面側に導電被膜層31が形成される。また、S3の工程において、導電被膜層31の表面にVI族化合物層32が形成される。
【0085】
その後、VI族化合物層32を有する導電被膜層31の上に接合層27aのプリカーサ層(不図示)を形成し、接合層27aのプリカーサ層の上にインターコネクタ13を配置する。そして、接合層27aのプリカーサ層とインターコネクタ13を溶接して熱エネルギーを加え、接合層27aが形成される。
【0086】
接合層27aの形成時には接合層27a側にVI族元素が拡散してVI族化合物層32が消失する。そのため、接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、導電被膜層31と接合層27aとの界面にVI族元素の濃度のピークを有しない。
また、接合層27aの材料はカルコゲン化されやすい金属元素を含むので、接続部14の厚さ方向においてVI族元素は接合層27a側により多く拡散する。そのため、第2実施形態の接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、接合層27aにVI族元素の濃度のピークが生じる。換言すれば、接合層27aに含まれるVI族元素の原子数は、導電被膜層31に含まれるVI族元素の原子数よりも多くなる。
【0087】
上記の第2実施形態の構成によれば、カルコゲン太陽電池セルの基板裏面側に形成される導電被膜層31と接続部14との密着強度を向上させることができる。
【0088】
<<第3実施形態>>
図7は、第3実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。第3実施形態は、第2実施形態の変形例であって、導電性基板11の裏面側に導電被膜層31が形成されていない点で第2実施形態と相違する。
【0089】
図7に示すように、第3実施形態の導電性基板11には、接合層27bが積層されている。そして、接合層27bの図中下側にはインターコネクタ13の端部が溶接で取り付けられている。第3実施形態のインターコネクタ13も、例えば、Agを含む導電性金属、Tiまたは鉄・ニッケル・コバルト合金などを材料とするリボンワイヤである。
【0090】
また、導電性基板11の表面には、接合層27bが積層されている領域を除いてTi(Se,S)からなるVI族化合物層33が形成されている。VI族化合物層33のTi(Se,S)は、プリカーサ層22pをカルコゲン化して光電変換層22を形成する際に、導電性基板11の表面に形成される。なお、Ti(Se,S)からなるVI族化合物層33は、グラファイト状の多層構造を有する物質であって、層間のへき開により剥離しやすい性質を有している。
換言すれば、導電性基板11と接合層27bの間には剥離しやすいVI族化合物層33が形成されていない。そのため、導電性基板11から接合層27bが剥離しにくい。
【0091】
また、第3実施形態の接合層27bは、Al、Pt、Zn、Snのいずれか1つを少なくとも含み、拡散したSe,Sを含む物質である。接合層27bの金属材料は、宇宙環境における日射等による高温下での太陽電池モジュール10の使用を担保するために、融点が230℃以上であって、はんだ合金よりも融点の高いものが使用される。また、接合層27bの材料は、部材間での金属元素の拡散を促進するために、導電性基板11の材料およびインターコネクタ13の材料に対して相図に合金相を有する金属元素を含むことが好ましい。
【0092】
また、接合層27bの材料は、カルコゲン化されやすい金属元素であるAl、Pt、Zn、Snのいずれか1つを少なくとも含むことが好ましい。これにより、接合層27bにはVI族化合物が均一に分布しやすくなる。接合層27bの形成時には、VI族化合物層33から接合層27b側へのVI族元素の拡散が促進され、導電性基板11と接合層27bの間からVI族化合物層33を消失させることができる。
【0093】
また、導電性基板11において、接合層27bが積層されている領域には、後述のように接合層27bの金属元素(例えば、Al)や、VI族元素であるSe,Sなどが拡散されている。導電性基板11に接合層27bの金属元素が拡散することで、導電性基板11と接合層27bは高い密着強度を有する。
これに対し、導電性基板11において接合層27bが積層されていない領域では、接合層27bの金属元素の拡散はほとんどない。
【0094】
第3実施形態の接続部14を形成する場合、光電変換素子12を形成する工程(S1からS5)までは第1実施形態の製造方法の工程とほぼ同様である。なお、第3実施形態では、S3の工程において導電性基板11の表面にVI族化合物層33が形成される。
【0095】
その後、VI族化合物層33を有する導電性基板11の上に接合層27bのプリカーサ層(不図示)を形成し、接合層27bのプリカーサ層の上にインターコネクタ13を配置する。その後、接合層27bのプリカーサ層とインターコネクタ13を溶接して熱エネルギーを加え、接合層27bが形成される。
【0096】
接合層27bの形成時には接合層27b側にVI族元素が拡散してVI族化合物層33が消失する。そのため、接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、導電性基板11と接合層27bとの界面にVI族元素の濃度のピークを有しない。
また、接合層27bの材料はカルコゲン化されやすい金属元素を含むので、接続部14の厚さ方向においてVI族元素は接合層27b側により多く拡散する。そのため、第3実施形態の接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、接合層27bにVI族元素の濃度のピークが生じる。換言すれば、接合層27bに含まれるVI族元素の原子数は、導電性基板11に含まれるVI族元素の原子数よりも多くなる。
【0097】
上記の第3実施形態の構成によれば、カルコゲン太陽電池セルの導電性基板11と接続部14との密着強度を向上させることができる。
【0098】
<<第4実施形態>>
図8は、第4実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。第4実施形態は、第2実施形態の変形例であって、接合層27aを介さずに導電被膜層31にインターコネクタ13が直接溶接されている点で第2実施形態の構成と相違する。なお、第4実施形態においても、導電被膜層31の表面には、インターコネクタ13の溶接されている領域を除いてMo(Se,S)からなるVI族化合物層32が形成されている。
換言すれば、導電被膜層31とインターコネクタ13の間には剥離しやすいVI族化合物層32が形成されていない。そのため、導電被膜層31からインターコネクタ13が剥離しにくい。
【0099】
また、宇宙環境における日射等による高温下での太陽電池モジュール10の使用を担保するために、接続部14に適用されるインターコネクタ13の材料は、融点が230℃以上であって、はんだ合金よりも融点の高いものが使用される。また、第4実施形態のインターコネクタ13の材料は、部材間での金属元素の拡散を促進するために、導電被膜層31の材料に対して相図に合金相を有する金属元素を含んでいる。
【0100】
第4実施形態の導電被膜層31において、インターコネクタ13と接合されている領域には、インターコネクタ13の金属元素や、VI族元素であるSe,Sなどが拡散されている。導電被膜層31にインターコネクタ13の金属元素が拡散することで、導電被膜層31とインターコネクタ13は高い密着強度を有する。
これに対し、導電被膜層31においてインターコネクタ13と接合されていない領域では、インターコネクタ13の金属元素の拡散はほとんどない。
【0101】
第4実施形態の接続部14を形成する場合、光電変換素子12を形成する工程(S1からS5)までは第1実施形態の製造方法の工程とほぼ同様である。但し、第4実施形態の場合、S1の工程において、導電性基板11の裏面側に導電被膜層31が形成される。また、S3の工程において、導電被膜層31の表面にVI族化合物層32が形成される。
【0102】
その後、VI族化合物層32を有する導電被膜層31の上にインターコネクタ13を配置し、導電被膜層31とインターコネクタ13を溶接して熱エネルギーを加える。これにより、導電被膜層31とインターコネクタ13の界面からVI族元素が拡散してVI族化合物層32が消失する。そのため、第4実施形態の接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、導電被膜層31とインターコネクタ13との界面にVI族元素の濃度のピークを有しない。
【0103】
上記の第4実施形態の構成によれば、カルコゲン太陽電池セルの基板裏面側に形成される導電被膜層31とインターコネクタ13との密着強度を向上させることができる。
【0104】
<<第5実施形態>>
図9は、第5実施形態の太陽電池の構成例を示す厚さ方向断面図である。第5実施形態は、第3実施形態の変形例であって、接合層27bを介さずに導電性基板11にインターコネクタ13が直接溶接されている点で第3実施形態の構成と相違する。なお、第5実施形態においても、導電性基板11の表面には、インターコネクタ13の溶接されている領域を除いてTi(Se,S)からなるVI族化合物層33が形成されている。
換言すれば、導電性基板11とインターコネクタ13の間には剥離しやすいVI族化合物層33が形成されていない。そのため、導電性基板11からインターコネクタ13が剥離しにくい。
【0105】
また、宇宙環境における日射等による高温下での太陽電池モジュール10の使用を担保するために、接続部14に適用されるインターコネクタ13の材料は、融点が230℃以上であって、はんだ合金よりも融点の高いものが使用される。また、第5実施形態のインターコネクタ13の材料は、部材間での金属元素の拡散を促進するために、導電性基板11の材料に対して相図に合金相を有する金属元素を含んでいる。
【0106】
第5実施形態の導電性基板11において、インターコネクタ13と接合されている領域には、インターコネクタ13の金属元素や、VI族元素であるSe,Sなどが拡散されている。導電性基板11にインターコネクタ13の金属元素が拡散することで、導電性基板11とインターコネクタ13は高い密着強度を有する。
これに対し、導電性基板11においてインターコネクタ13と接合されていない領域では、インターコネクタ13の金属元素の拡散はほとんどない。
【0107】
第5実施形態の接続部14を形成する場合、光電変換素子12を形成する工程(S1からS5)までは第1実施形態の製造方法の工程とほぼ同様である。なお、第5実施形態では、S3の工程において導電性基板11の表面にVI族化合物層33が形成される。
【0108】
その後、VI族化合物層33を有する導電性基板11の上にインターコネクタ13を配置し、導電性基板11とインターコネクタ13を溶接して熱エネルギーを加える。これにより、導電性基板11とインターコネクタ13の界面からVI族元素が拡散してVI族化合物層33が消失する。そのため、第5実施形態の接続部14の厚さ方向におけるVI族元素の濃度分布では、導電性基板11とインターコネクタ13との界面にVI族元素の濃度のピークを有しない。
【0109】
上記の第5実施形態の構成によれば、カルコゲン太陽電池セルの導電性基板11とインターコネクタ13との密着強度を向上させることができる。
【0110】
<<実施例>>
以下、本発明の太陽電池モジュールの実施例について説明する。
ここで、実施例の接続部は、上記第1実施形態で説明した構成と同様に形成されている。つまり、基板の材料はTiであり、溶接前の裏面電極層は表面にSeの層が形成されたMo膜である。接合層は、Al層とAg層を積層したプリカーサに溶接の熱エネルギーを加えて形成される。溶接後の裏面電極層は、AlとSeが拡散したMoであり、溶接後の接合層は、Ag,Alに拡散したSeを含む物質である。
【0111】
(接続部における元素の濃度分布)
実施例では、太陽電池モジュールの接続部における元素の濃度分布を以下の手法で求めた。
まず、集束イオンビーム(FIB)装置を用いて実施例の接続部の厚さ方向断面を形成する。そして、加速電圧15kVで接続部断面の走査イオン顕微鏡(SIM)像を撮像した。その後、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、接続部断面に含まれる元素を分析した。
【0112】
なお、実施例における元素の分析で使用した機器は以下の通りである。FIB装置は、エスアイアイ・ナノテクノロジー製 SMI3200Fであり、SEMは、日立ハイテクノロジーズ製 SU8240であり、EDXは、堀場製作所製 EX-370である。
【0113】
図10図11は、実施例の接続部の厚さ方向における各元素の濃度分布を示す図である。
図10図11の各図において、縦軸は元素の含有量を示し、横軸は接続部の厚さ方向tの位置を示す。図10図11の横軸において、左端は受光面の裏面側に対応し、右端は受光面側に対応する。
【0114】
また、図10図11の縦軸に示す含有量は、元素ごとに含有量の最大値を1として規格化して示している。なお、図10図11に示す各点は、閾値として規格化後の30%以上が検知された場合にプロットされている。
【0115】
図10(a)は、接続部のMo、Ti、Ag、Al、Seの濃度分布例を重ねて示す。図10(b)は、接続部のMoの濃度分布例を示し、図10(c)は、接続部のTiの濃度分布例を示す。
また、図11(a)は、接続部のAgの濃度分布例を示し、図11(b)は、接続部のAlの濃度分布例を示し、図11(c)は、接続部のSeの濃度分布例を示す。
【0116】
図10図11に示すように、接続部の裏面電極層(図中、Mo+Al+Seで示す)はMo、Al、Seを含み、接合層(図中、Ag+Al+Seで示す)は、Ag、Al、Seを含んでいる。図10(a)、図11(b)、(c)から、裏面電極層と接合層に亘ってAl、Seが拡散していることが分かる。
【0117】
また、図11(c)に示すように、裏面電極層と接合層に亘ってSeは幅広く分布し、Seの濃度分布は裏面電極層と接合層の境界にピークを有していない。したがって、接続部の裏面電極層と接合層の境界には、VI族化合物層が存在していないことが分かる。
【0118】
また、図11(c)に示すように、裏面電極層よりも接合層でSeはより多く検知されている。したがって、接合層に含まれるSeの原子数は、裏面電極層に含まれるSeの原子数よりも多いことが分かる。
【0119】
さらに、図11(c)に示すように、裏面電極層でのSeの最大値と、接合層でのSeの最大値とを比較すると、接合層でのSeの最大値の方が大きい。したがって、Seの濃度のピークは接合層の部位にあることが分かる。
【0120】
(接続部の密着強度試験)
また、太陽電池モジュールの接続部の密着強度を評価するために、以下の試験を行った。試験では、溶接後のインターコネクタの先端を治具で挟み、オートグラフ装置を用いてインターコネクタの先端を45度方向に5mm/minの速度で上方向に引っ張った。そして、接続部からインターコネクタがはずれる時点の引張強度(最大強度)を測定する。
【0121】
試験の対象としては、上記の実施例(以下、実施例1と表記する)の試験片と、比較例として以下の3つの試験片を用いた。
比較例1は、Ti基板/Mo(MoSeS)/Agの積層体にインターコネクタを溶接した試験片である。比較例2は、Ti基板/Mo(MoSeS)/Inハンダの積層体にインターコネクタを溶接した試験片である。なお、比較例2の接合面積は実施例の約60倍である。比較例3は、Ti基板/Mo(MoSeS)の積層体にインターコネクタを溶接した試験片である。なお、実施例1、比較例1-3のインターコネクタの材料はいずれもAgである。
【0122】
図12は、実施例1、比較例1-3の密着強度試験の結果を示す表であり、図13は、実施例1、比較例1-3の相図の合金相の有無を示す表である。図13の表では、相対する部材間で相図に合金相を有する場合を「〇」で示し、相対する部材間で相図に合金相を有しない場合を「×」で示している。また、図12図13において該当する構成がない場合を「-」で示している。
【0123】
図12では、比較例1を基準として正規化した最大強度の値をそれぞれ示している。
比較例1の試験片での最大強度を1とすると、比較例2の試験片での最大強度は0.18であり、比較例3の試験片での最大強度は0.12であった。これに対し、実施例1の試験片は1より大きくなり、比較例1~3のいずれよりも最大強度が高く、接続部の密着強度が良好であることが確認できた。
【0124】
また、図13に示すように、実施例1の試験片では、インターコネクタと接合層はいずれも材料にAg(同種金属)を含み、かつインターコネクタの材料のAgと接合層の材料に含まれるAlは相図に合金相を有している。また、実施例1の試験片では、接合層の材料に含まれるAlと裏面電極層の材料のMoは相図に合金相を有している。そのため、実施例1の試験片では、溶接時に同種金属や相図に合金相を有する金属の間で拡散が生じ、各要素間での密着強度が向上すると考えられる。
【0125】
一方、比較例1の試験片では、接合層の材料のAgと裏面電極層の材料のMoは相図に合金相を有していない。また、比較例2の試験片では、接合層の材料のInハンダと裏面電極層の材料のMoは相図に合金相を有していない。そのため、比較例1、2は、接合層と裏面電極層の材料で金属元素の拡散が生じないので、実施例1と比べると密着強度が低下すると考えられる。
同様に、比較例3の試験片では、インターコネクタの材料のAgと裏面電極層の材料のMoは相図に合金相を有していない。そのため、比較例3は、インターコネクタと裏面電極層の材料で金属元素の拡散が生じないので、実施例1と比べると密着強度が低下すると考えられる。
【0126】
また、図14は、実施例2-7の密着強度試験の結果を示す表であり、図15は、実施例2-7の相図の合金相の有無を示す表である。図14図15の表の見方は、図12図13と同様である。
【0127】
実施例2の試験片は、上記の第2実施形態に対応する構成である。実施例2のインターコネクタの材料はTiであり、接合層の材料はAlであり、導電被膜層の材料はMoであり、基板の材料はTiである。実施例2では、インターコネクタと接合層の材料は相図に合金相を有し、また、接合層と導電被膜層の材料は相図に合金相を有している。比較例1の試験片での最大強度を1とすると、実施例2の試験片の最大強度は1.38であり、比較例1よりも大きな値を示した。
【0128】
実施例3の試験片は、上記の第3実施形態に対応する構成である。実施例3のインターコネクタの材料はTiであり、接合層の材料はAlであり、基板の材料はTiである。実施例3では、インターコネクタと接合層の材料は相図に合金相を有し、また、接合層と基板の材料は相図に合金相を有している。比較例1の試験片での最大強度を1とすると、実施例3の試験片の最大強度は1.24であり、比較例1よりも大きな値を示した。
【0129】
実施例4の試験片は、上記の第3実施形態に対応する構成である。実施例4のインターコネクタの材料はKovarであり、接合層の材料はSnであり、基板の材料はTiである。実施例4では、インターコネクタと接合層の材料は相図に合金相を有し、また、接合層と基板の材料は相図に合金相を有している。比較例1の試験片での最大強度を1とすると、実施例4の試験片の最大強度は2.18であり、比較例1よりも大きな値を示した。
【0130】
実施例5の試験片は、上記の第4実施形態に対応する構成である。実施例5のインターコネクタの材料はKovarであり、導電被膜層の材料はMoであり、基板の材料はTiである。実施例5では、インターコネクタと導電被膜層の材料は相図に合金相を有している。比較例1の試験片での最大強度を1とすると、実施例5の試験片の最大強度は2.06であり、比較例1よりも大きな値を示した。
【0131】
実施例6の試験片は、上記の第5実施形態に対応する構成である。実施例6のインターコネクタの材料はKovarであり、基板の材料はTiである。実施例6では、インターコネクタと基板の材料は相図に合金相を有している。比較例1の試験片での最大強度を1とすると、実施例6の試験片の最大強度は2.09であり、比較例1よりも大きな値を示した。
【0132】
実施例7の試験片は、上記の第5実施形態に対応する構成である。実施例7のインターコネクタの材料はTiであり、基板の材料はTiである。実施例6では、インターコネクタと基板の材料は同種金属である。比較例1の試験片での最大強度を1とすると、実施例7の試験片の最大強度は3.15であり、比較例1よりも大きな値を示した。
【0133】
以上のように、実施例2-7では、上記の比較例1-3とは異なり、相対する要素間の金属材料がいずれも相図に合金相を有している。そのため、溶接時には相対する要素間で金属元素の拡散が生じ、各要素間での密着強度が向上すると考えられる。
また、特に実施例7の試験片は、インターコネクタと基板の材料が同種金属であるので高い親和性を有し、溶接時にはインターコネクタと基板の界面で金属元素の拡散が生じ、インターコネクタと基板の密着強度がより向上すると考えられる。
【0134】
<<実施形態の補足事項>>
上記実施形態では、1つの光電変換素子で構成される単セル構造の太陽電池モジュールの構成を説明したが、太陽電池モジュールは導電性基板の受光面の平面方向に複数の光電変換素子を配置し、これらの光電変換素子を直列に接続した集積型構造を有していてもよい。なお、集積型構造の太陽電池モジュールの場合、導電性基板と第1の電極層の間には絶縁層が形成される。
【0135】
また、接合層27のプリカーサ層27pは、Al層27p1とAg層27p2を1層ずつ積層した上記実施形態の構成に限定されない。例えば、プリカーサ層27pは、AlとAgを含む単層膜で構成されていてもよい。また、プリカーサ層27pは、3層以上の積層膜で構成されていてもよい。プリカーサ層27pを3層以上の積層膜とする場合、2つの材料の層を厚さ方向に交互に配置してもよく、2つの材料の層にさらに他の材料の層を加えてもよい。また、AlとAgを含む層を積層膜に加えてもよい。
【0136】
また、上記の第4実施形態(図8)は、導電性基板11の裏面側に形成された導電被膜層31にインターコネクタ13を接合する構成例を説明した。しかし、本発明は、導電性基板11の受光面側において、VI族化合物層26を有する第1の電極層21(裏面電極)にインターコネクタ13を接合する構成にも適用することが可能である。
同様に、上記の第5実施形態(図9)は、導電性基板11の裏面側にインターコネクタ13を接合する構成例を説明した。しかし、本発明は、導電性基板11の受光面側において、VI族化合物層33が表面に形成された導電性基板11にインターコネクタ13を接合する構成にも適用することが可能である。
【0137】
また、本発明の太陽電池の電極構造は宇宙用途に限定されない。例えば、地上に設置する太陽電池において、強風や地震による外力を受けても故障しにくい接続部を形成する際に本発明を適用してもよい。
【0138】
以上のように、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。実施形態は、上記以外の様々な形態で実施することが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更など、を行える。実施形態およびその変形は、本発明の範囲および要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明およびその均等物についても、本発明の範囲および要旨に含まれる。
【0139】
また、本出願は、2020年12月21日に出願した日本国特許出願2020-211733号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2020-211733号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0140】
10…太陽電池モジュール、10a…配線領域、11…導電性基板、12…光電変換素子、13…インターコネクタ、14…接続部、21、21a…第1の電極層、22…光電変換層、22p…プリカーサ層、26,32,33…VI族化合物層、27,27a,27b…接合層、27p…プリカーサ層、27p1…Al層、27p2…Ag層、31…導電被膜層

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15