(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-26
(45)【発行日】2025-07-04
(54)【発明の名称】GLP-1Rアゴニストの塩及び結晶形態、並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07D 405/14 20060101AFI20250627BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20250627BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250627BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20250627BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20250627BHJP
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A61P 17/06 20060101ALI20250627BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20250627BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20250627BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250627BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20250627BHJP
【FI】
C07D405/14 CSP
A61K31/444
A61P9/00
A61P3/10
A61P1/16
A61P25/00
A61P13/12
A61P27/02
A61P43/00 105
A61P3/04
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A61P11/00
A61P9/10 101
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A61P17/06
A61P1/04
A61P7/00
A61P25/28
A61P25/18
(21)【出願番号】P 2022572686
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021034191
(87)【国際公開番号】W WO2021242817
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/092530
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521220895
【氏名又は名称】キル・レガー・セラピューティクス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,メン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ベイベイ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,シュートン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ウェンジ
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109607(WO,A1)
【文献】特表2022-508203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Iのトリス塩であって、化合物Iが、以下の構造式によって表され、
【化1】
式中、化合物Iとトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの間のモル比が、1:1である、トリス塩。
【請求項2】
前記トリス塩が、結晶性である、請求項1に記載のトリス塩。
【請求項3】
前記トリス塩が、単結晶性形態にある、請求項1に記載のトリス塩。
【請求項4】
前記トリス塩が、一水和物である、請求項2又は3に記載のトリス塩。
【請求項5】
前記トリス塩が、非溶媒和である、請求項2又は3に記載のトリス塩。
【請求項6】
前記トリス塩が、2θにおいて17.5°、20.1°、20.7°、21.1°、及び22.6°±0.2から選択される少なくとも3つのピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物Iのトリス塩形態A
である、請求項4に記載のトリス塩。
【請求項7】
前記トリス塩が、2θにおいて17.5°、20.1°、20.7°、21.1°、及び22.6°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物Iのトリス塩形態A
である、請求項4に記載のトリス塩。
【請求項8】
前記トリス塩が、2θにおいて4.1°、14.8°、17.5°、18.8°、20.1°、20.7°、21.1°、及び22.6°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物Iのトリス塩形態A
である、請求項4に記載のトリス塩。
【請求項9】
前記トリス塩が、2θにおいて4.1°、8.1°、12.8°、14.8°、16.3°、17.5°、18.8°、19.3°、20.1°、20.7°、21.1°、22.6°、25.1°、及び25.8°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物Iのトリス塩形態A
である、請求項4に記載のトリス塩。
【請求項10】
前記トリス塩が、173±3℃の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする単結晶性形態
の化合物Iのトリス塩形態A
である、請求項6~9のいずれか一項に記載のトリス塩。
【請求項11】
前記トリス塩の少なくとも90重量%が、単結晶性
形態の化合物Iのトリス塩形態A
である、請求項6~10のいずれか一項に記載のトリス塩。
【請求項12】
化合物IIのトリス塩であって、化合物IIが、以下の構造式によって表され、
【化2】
式中、化合物IIとトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの間のモル比が、1:1である、トリス塩。
【請求項13】
前記トリス塩が、結晶性である、請求項12に記載のトリス塩。
【請求項14】
前記トリス塩が、単結晶性形態にある、請求項13に記載のトリス塩。
【請求項15】
前記トリス塩が、一水和物である、請求項13又は14に記載のトリス塩。
【請求項16】
前記トリス塩が、非溶媒和である、請求項13又は14に記載のトリス塩。
【請求項17】
前記トリス塩が、2θにおいて4.1°、14.7°、18.8°、20.1°、及び23.1°±0.2から選択される少なくとも3つのピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Bにある、請求項14又は15に記載のトリス塩。
【請求項18】
前記トリス塩が、2θにおいて4.1°、14.7°、18.8°、20.1°、及び23.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Bにある、請求項14又は15に記載のトリス塩。
【請求項19】
前記トリス塩が、2θにおいて4.1°、4.1°、8.2°、14.7°、16.4°、18.8°、20.1°、20.7°、21.3°、及び23.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Bにある、請求項14又は15に記載のトリス塩。
【請求項20】
前記トリス塩が、2θにおいて4.1°、8.2°、14.7°、16.4°、18.8°、19.1°、20.1°、20.7°、21.3°、23.1°、24.1°、及び25.4°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Bにある、請求項14又は15に記載のトリス塩。
【請求項21】
前記トリス塩が、168±4℃の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする単結晶性形態、形態Bにある、請求項17~20のいずれか一項に記載のトリス塩。
【請求項22】
前記トリス塩の少なくとも90重量%が、単結晶性形態Bにある、請求項17~21のいずれか一項に記載のトリス塩。
【請求項23】
前記トリス塩が、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、及び18.5°±0.2から選択される少なくとも3つのピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Gにある、請求項14に記載のトリス塩。
【請求項24】
前記トリス塩が、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、及び18.5°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Gにある、請求項14に記載のトリス塩。
【請求項25】
前記トリス塩が、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、18.5°、21.5°、23.7°、及び24.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Gにある、請求項14に記載のトリス塩。
【請求項26】
前記トリス塩が、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、18.0°、18.5°、20.8°、21.5°、23.7°、及び24.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Gにある、請求項14に記載のトリス塩。
【請求項27】
前記トリス塩が、129.5±4℃の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする単結晶性形態、形態Gにある、請求項23~26のいずれか一項に記載のトリス塩。
【請求項28】
前記トリス塩の少なくとも90重量%が、単結晶性形態Gにある、請求項23~27のいずれか一項に記載のトリス塩。
【請求項29】
化合物IIのクエン酸塩であって、化合物IIが、以下の構造式によって表され、
【化3】
式中、化合物IIとクエン酸との間のモル比が、1:1である、クエン酸塩。
【請求項30】
前記クエン酸塩が、結晶性である、請求項29に記載のクエン酸塩。
【請求項31】
前記クエン酸塩が、単結晶性形態にある、請求項30に記載のクエン酸塩。
【請求項32】
前記クエン酸塩が、2θにおいて5.4°、9.4°、12.4°、14.3°、及び17.8°±0.2から選択される少なくとも3つのピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物IIのクエン酸塩形態A
である、請求項31に記載のクエン酸塩。
【請求項33】
前記クエン酸塩が、2θにおいて5.4°、9.4°、12.4°、14.3°、及び17.8°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物IIのクエン酸塩形態A
である、請求項31に記載のクエン酸塩。
【請求項34】
前記クエン酸塩が、2θにおいて5.4°、9.4°、10.8°、12.4°、14.3°、16.2°、17.8°、19.6°、及び24.9°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物IIのクエン酸塩形態A
である、請求項31に記載のクエン酸塩。
【請求項35】
前記クエン酸塩が、2θにおいて5.4°、9.4°、10.8°、12.4°、14.3°、16.2°、17.8°、18.8°、19.6°、23.6°、及び24.9°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態
の化合物IIのクエン酸塩形態A
である、請求項31に記載のクエン酸塩。
【請求項36】
前記クエン酸塩が、170±3℃の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする単結晶性形態
の化合物IIのクエン酸塩形態A
である、請求項32~35のいずれか一項に記載のクエン酸塩。
【請求項37】
前記クエン酸塩の少なくとも90重量%が、単結晶性
形態の化合物IIのクエン酸塩形態A
である、請求項32~36のいずれか一項に記載のクエン酸塩。
【請求項38】
請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物と、薬学的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項39】
心血管代謝及び関連疾患を治療する
ための医薬組成物であって、前記
医薬組成物が
、治療有効量の請求項1~37のいずれか一項に記載の
塩を含み、前記疾患が、
1型糖尿病、
2型糖尿病、前糖尿病、特発性
1型糖尿病、
成人の潜在的自己免疫性糖尿病、
早期発症型2型糖尿病、
若年発症型非定型糖尿病、
若年発症型成人型糖尿病、栄養失調関連糖尿病、妊娠糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、肝臓インスリン抵抗性、グルコース耐性障害、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、腎臓病、糖尿病性網膜症、脂肪細胞機能障害
、睡眠時無呼吸、肥満症、摂食障害
、脂質異常症、高インスリン血症、
非アルコール性脂肪性肝疾患、
非アルコール性脂肪性肝炎、線維症、肝硬変、肝細胞がん、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、末梢血管疾患、高血圧、内皮障害、血管コンプライアンス障害、うっ血性心不全、心筋梗塞、脳卒中、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、外傷性脳傷害、肺高血圧症、血管形成術後の再狭窄、間欠性跛行、食後脂肪血症、代謝性アシドーシス、ケトーシス、関節炎、骨粗鬆症、パーキンソン病、左心室肥大、末梢動脈疾患、黄斑変性症、白内障、糸球体硬化症、慢性腎不全、メタボリックシンドローム、シンドロームX、月経前症候群、狭心症、血栓症、アテローム性動脈硬化症、一過性虚血性発作、血管再狭窄、グルコース代謝障害
、高尿酸血症、痛風、勃起障害、皮膚及び結合組織障害、乾癬、足潰瘍、潰瘍性大腸炎、高アポBリポタンパク血症、アルツハイマー病、統合失調症、認知障害、炎症性腸疾患、短腸症候群
、クローン病、大腸炎、過敏性腸症候群、多嚢胞性卵巣症候群の予防又は治療、並びに中毒の治療である、
前記医薬組成物。
【請求項40】
請求項39に記載の医薬組成物であって、前記疾患が、アルツハイマー病、
1型糖尿病、
2型糖尿病、高血糖、
非アルコール性脂肪性肝炎、肥満、、
非アルコール性脂肪性肝疾患、またはパーキンソン病である、
前記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月27日に出願された国際特許出願第PCT/CN2020/092530号に対する優先権の利益を主張する。前述の出願の全容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
GLP-1は、食物の摂取に反応して腸内のL細胞から分泌される30アミノ酸長のインクレチンホルモンである。GLP-1は、生理学的及びグルコース依存的にインスリン分泌を刺激し、グルカゴン分泌を減少させ、胃内容排出を阻害し、食欲を減少させ、ベータ細胞の増殖を刺激することが示されている。非臨床実験では、GLP-1は、グルコース依存性インスリン分泌に重要な遺伝子の転写を刺激し、ベータ細胞の新生を促進することによって、継続的なベータ細胞の能力を促進する(Meier et al.,Biodrugs.17(2):93-102,2013)。
【0003】
健康な個人では、GLP-1は、膵臓によるグルコース依存性インスリン分泌を刺激して末梢でのグルコース吸収を増加させることにより、食後のグルコース濃度を調節する重要な役割を果たす。GLP-1はまた、グルカゴン分泌を抑制し、肝臓のグルコース放出を低下させる。加えて、GLP-1は胃内容排出を遅らせ、小腸の運動を遅らせて食物の吸収を遅らせる。T2DMを有する人々において、GLP-1の正常な食後の上昇が存在しないか、又は低下している(Vilsboll et al.,Diabetes.50:609-613,2001)。
【0004】
Hoist(Physiol.Rev.87:1409,2007)及びMeier(Nat.Rev.Endocrinol.8:728,2012)は、GLP-1、リラグルチド、及びエキセンディン-4などのGLP-1受容体アゴニストが、空腹時及び食後のグルコース(FPG及びPPG)を低下させることによって、T2DMを有する患者の血糖コントロールを改善する3つの主要な薬理学的活性:(i)グルコース依存性インスリン分泌の増加(第1相及び第2相の改善)、(ii)高血糖条件下でのグルカゴン抑制活性、(iii)食事由来のグルコースの吸収の遅延をもたらす胃内容排出速度の遅延を有することを記載している。
【0005】
国際特許出願第PCT/CN2019/119373号(その教示全体が参照により本明細書に組み込まれる)は、非常に強力なGLP-1アゴニストを開示している。本明細書で「化合物I」及び「化合物II」と称される、そこに開示されている2つのアゴニストの構造は、以下に示される。
【化1】
【0006】
化合物Iの化学名は、(S)-2-((4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)-オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]-イミダゾール-6-カルボン酸である。
【0007】
化合物IIの化学名は、(S)-2-((6-((4-シアノ-2-フルオロベンジル)オキシ)-3’,6’-ジヒドロ-[2,4’-ビピリジン]-1’(2’H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボン酸である。
【0008】
化合物I又は化合物IIなどの薬学的に活性な薬剤の開発を成功させるには、典型的には、合成後の単離及び精製を容易にすることが可能であり、大規模な製造に対応することができ、最低限の水分の吸収、分解、又は他の固体形態への変換で長期間保存することができ、製剤化に好適であり、対象への投与後に容易に吸収され得る(例えば、水及び胃液に溶解可能である)特性を有する固体形態を同定する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
1:1の化合物Iトリス塩、1:1の化合物IIトリス塩、及び1:1の化合物IIクエン酸塩は、明確な条件下で結晶化して、所望の結晶性形態を提供することができることもここに見出された(実施例3~7を参照されたい)。これらの3つの塩はまた、水及び模擬胃液への良好な可溶性、並びに固体安定性を有し(表2及び7-1を参照されたい)、高い融点開始を有する。1:1の化合物Iトリス塩及び1:1の化合物IIトリス塩もまた、大規模合成に好適である。
【0010】
「1:1」という名称は、酸(クエン酸)/塩基(トリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタン)と化合物I/化合物IIとの間のモル比である。クエン酸の3つのカルボン酸基及び化合物IIの2つの塩基性窒素原子によって、複数の可能な化学量論が可能である。1:1の化合物(I)のクエン酸塩(citric acid salt)は、本明細書では「1:1の化合物IIクエン酸塩(citrate salt)」と称される。
【0011】
一態様では、本開示は、化合物Iのトリス塩を提供し、化合物Iとトリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの間のモル比は、1:1である。上記のように、この塩はまた、本明細書では「1:1の化合物Iトリス塩」とも称される。
【0012】
別の態様では、本開示は、化合物IIのトリス塩を提供し、化合物IIとトリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタンとの間のモル比は、1:1である。上記のように、この塩はまた、本明細書では「1:1の化合物IIトリス塩」とも称される。
【0013】
別の態様では、本開示は、化合物IIのクエン酸塩を提供し、化合物IIとクエン酸との間のモル比は、1:1である。上記のように、この塩はまた、本明細書では「1:1の化合物IIクエン酸塩」とも称される。
【0014】
別の態様では、本開示は、1:1の化合物Iトリス塩(又は1:1の化合物IIトリス塩、又は1:1の化合物IIクエン酸塩)と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
本開示は、心血管代謝及び関連疾患を治療する方法を提供し、治療有効量の本明細書に開示の塩又は対応する医薬組成物をそのような治療を必要とする対象に投与する。
【0016】
本開示はまた、上記の本開示の方法のいずれかにおける、本開示の塩、又はそれを含むその医薬組成物の使用を提供する。一実施形態では、本明細書に記載の本開示の方法のいずれかにおいて使用するための、本開示の塩、又はそれを含むその医薬組成物が提供される。別の実施形態では、記載の本開示の方法のいずれかのための医薬品の製造のための、本開示の塩、又はそれを含むその医薬組成物が提供される。
【0017】
実施例若しくは特許請求の範囲にのみ、又は本明細書の1つのセクションにのみ記載されているものを含む本開示の任意の実施形態は、本開示の1つ以上の追加の実施形態との組み合わせが、そのような組み合わせが明示的に否定されないか、又は不適切でない限り可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】1:1の化合物Iトリス塩(形態A)のX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図2A】1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の熱重量分析(TGA)サーモグラムを示す。
【
図2B】1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の示差走査熱量分析(DSC)サーモグラムを示す。
【
図3】1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の単結晶X線回折(SCXRD)パターンを示す。
【
図4】1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)のX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図5A】1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)の熱重量分析(TGA)サーモグラムを示す。
【
図5B】1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)の示差走査熱量分析(DSC)サーモグラムを示す。
【
図6】1:1の化合物IIトリス塩(形態B)のX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図7A】1:1の化合物IIトリス塩(形態B)の熱重量分析(TGA)サーモグラムを示す。
【
図7B】1:1の化合物IIトリス塩(形態B)の示差走査熱量分析(DSC)サーモグラムを示す。
【
図8】1:1の化合物IIトリス塩(形態G)のX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図9】1:1の化合物IIトリス塩(形態G)の熱重量分析(TGA)サーモグラムを示す。
【
図10】1:1の化合物IIトリス塩(形態G)の示差走査熱量分析(DSC)サーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、新規の化合物Iのトリス塩(すなわち、1:1のトリス塩)、新規の化合物IIのトリス塩(すなわち、1:1のトリス塩)、及び新規の化合物IIのクエン酸塩(すなわち、1:1のクエン酸塩)、並びに前述の各々の多形形態を対象とする。
【0020】
「水和形態」は、水が遊離塩基化合物(I)又は対応する塩と化学量論比(例えば、1:1又は1:2の化合物(I):水のモル比)で、固体又は結晶の不可欠な部分として組み合わされる、遊離塩基又は塩の状態の化合物I又は化合物IIの固体又は結晶性形態を指す。「非水和形態」は、水と化合物(I)の遊離塩基又は化合物(I)の対応する塩との間に化学量論比を有さず、水が、固体の形態中に実質的に存在しない(例えば、カールフィッシャー分析による10重量%未満)形態を指す。本開示で開示される新しい固体形態としては、水和形態及び非水和形態が挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「結晶性」は、個々の分子が非常に均一な規則的な三次元配置を有する結晶構造を有する固体を指す。
【0022】
開示された結晶性化合物I塩及び/又は化合物II塩は、単結晶形態の結晶又は異なる単結晶性形態の結晶の混合物であり得る。単結晶形態は、化合物I(又は化合物II)が単結晶か、又は各結晶が同じ結晶形態を有する複数の結晶であることを意味する。
【0023】
本明細書に開示される化合物I/化合物II塩の結晶性形態については、1:1の化合物I/化合物II塩の少なくとも特定の重量パーセントは、単結晶形態にある。特定の重量パーセンテージとしては、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%が挙げられるか、又は化合物I/化合物II塩の70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、70~80%、80~90%、90~100重量%の重量パーセンテージが、単結晶形態にある。これらの値及び範囲の間の全ての値及び範囲は、本開示によって包含されることを意味することが理解されるべきである。
【0024】
結晶性化合物I/化合物II塩が、化合物I/化合物II塩の1つの特定の結晶形態の特定のパーセンテージとして定義される場合、残りは、指定される1つ以上の特定の形態以外の非晶質形態及び/又は結晶形態で構成される。単結晶形態の例としては、本明細書で考察されるような1つ以上の特性を特徴とする、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)、1:1の化合物IIトリス塩(形態B及びG)、及び1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)が挙げられる。
【0025】
化合物I及び化合物IIの両方が、キラル中心を有する。本明細書に開示される塩及び多形体の状態の化合物I及び化合物IIは、他の立体異性体、すなわち、全ての立体異性体の重量に対する立体異性体の重量の比と比較して、少なくとも80%、90%、99%、又は99.9重量%純粋である。
【0026】
本明細書に開示される結晶性化合物I/化合物II塩は、2θにおける角度ピーク位置に対応する鋭いピーク及び平坦なベースラインを有する強力で独特なXRPDパターンを示し、高度に結晶性の物質を示す(例えば、
図1)。
【0027】
1:1の化合物Iトリス塩結晶性形態の特徴評価
一実施形態では、1:1の化合物Iトリス塩は、2θにおいて17.5°、20.1°、20.7°、21.1°、及び22.6°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Aである。別の実施形態では、形態Aは、2θにおいて17.5°、20.1°、20.7°、21.1°、及び22.6°±0.2から選択される少なくとも3つのピーク(又は4つのピーク)を含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Aは、2θにおいて4.1°、14.8°、17.5°、18.8°、20.1°、20.7°、21.1°、及び22.6°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Aは、2θにおいて4.1°、8.1°、12.8°、14.8°、16.3°、17.5°、18.8°、19.3°、20.1°、20.7°、21.1°、22.6°、25.1°、及び25.8°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Aは、
図1と実質的に同様のX線粉末回折パターンを特徴とする。
【0028】
結晶解析法の分野では、任意の所与の結晶形態については、角度ピーク位置が、温度変動、サンプルの移動、及び内部標準の有無などの要因によってわずかに変動し得ることは周知されている。本開示において、角度ピーク位置の変動性は、2θにおいて±0.2である。加えて、所与の結晶形態の相対ピーク強度は、XRPD分析用のサンプル調製における結晶子サイズ及び非ランダムな結晶子配向の違いによって変動し得る。この変動性が、結晶形態の明確な同定を妨げることなく、上記の要因を説明することは、当技術分野で周知である。
【0029】
別の実施形態では、1:1の化合物Iトリス塩形態Aは、173±3℃(例えば、174.3℃)の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする。
【0030】
1:1の化合物IIクエン酸塩結晶性形態の特徴評価
一実施形態では、1:1の化合物IIクエン酸塩は、2θにおいて5.4°、9.4°、12.4°、14.3°、及び17.8°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Aである。別の実施形態では、形態Aは、2θにおいて5.4°、9.4°、12.4°、14.3°、及び17.8°±0.2から選択される少なくとも3つのピーク(又は4つのピーク)を含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Aは、2θにおいて5.4°、9.4°、10.8°、12.4°、14.3°、16.2°、17.8°、19.6°、及び24.9°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Aは、2θにおいて5.4°、9.4°、10.8°、12.4°、14.3°、16.2°、17.8°、18.8°、19.6°、23.6°、及び24.9°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Aは、
図4と実質的に同様のX線粉末回折パターンを特徴とする。
【0031】
別の実施形態では、1:1の化合物Iトリス塩形態Aは、170±3℃(例えば、169.9℃)の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする。
【0032】
1:1の化合物IIトリス塩結晶性形態の特徴評価
一実施形態では、1:1の化合物IIトリス塩は、2θにおいて4.1°、14.7°、18.8°、20.1°、及び23.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Bである。別の実施形態では、形態Bは、2θにおいて4.1°、14.7°、18.8°、20.1°、及び23.1°±0.2から選択される少なくとも3つのピーク(又は4つのピーク)を含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Bは、2θにおいて4.1°、8.2°、14.7°、16.4°、18.8°、20.1°、20.7°、21.3°、及び23.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Bは、2θにおいて4.1°、8.2°、14.7°、16.4°、18.8°、19.1°、20.1°、20.7°、21.3°、23.1°、24.1°、及び25.4°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Bは、
図6と実質的に同様のX線粉末回折パターンを特徴とする。
【0033】
別の実施形態では、1:1の化合物IIトリス塩形態Bは、168±4℃(例えば、170.3℃)の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする。
【0034】
一実施形態では、1:1の化合物IIトリス塩は、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、及び18.5°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする単結晶性形態、形態Gである。別の実施形態では、形態Gは、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、及び18.5°±0.2から選択される少なくとも3つのピーク(又は4つのピーク)を含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Gは、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、18.5°、21.5°、23.7°、及び24.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Gは、2θにおいて6.2°、7.6°、13.1°、13.4°、18.0°、18.5°、20.8°、21.5°、23.7°、及び24.1°±0.2にピークを含むX線粉末回折パターンを特徴とする。更に別の実施形態では、形態Bは、
図8と実質的に同様のX線粉末回折パターンを特徴とする。
【0035】
別の実施形態では、1:1の化合物IIトリス塩形態Gは、129.5±4℃の示差走査熱量計(DSC)ピーク相転移温度を特徴とする。
【0036】
医薬組成物
別の実施形態では、医薬組成物が本明細書に開示される。そのような医薬組成物は、本明細書に記載の化合物I(又は化合物II)の塩と、薬学的に許容される担体と、を含む。他の薬理学的に活性な物質も存在し得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合性のある全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容される担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど並びにそれらの組み合わせのうちの1つ以上が挙げられ、組成物中に等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウム、あるいはマンニトール又はソルビトールなどの多価アルコールが含まれ得る。抗体又は抗体部分の貯蔵寿命又は有効性を高める、湿潤剤などの薬学的に許容される物質、あるいは湿潤剤又は乳化剤、防腐剤又は緩衝剤などの少量の補助物質。
【0038】
本開示の組成物は、様々な形態にあり得る。これらには、例えば、液体溶液(例えば、注射可能及び注入可能な溶液)、分散液又は懸濁液、錠剤、丸薬、粉末、リポソーム及び坐剤などの液体、半固体及び固体の剤形が含まれる。形態は、意図された投与様式及び治療用途に依存する。
【0039】
典型的な組成物は、一般に抗体によるヒトの受動免疫に使用されるものと同様の組成物などの注射可能又は注入可能な溶液の形態である。投与様式の1つは、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。別の実施形態では、抗体は、静脈内注入又は注射によって投与される。更に別の実施形態では、抗体は筋肉内注射又は皮下注射によって投与される。
【0040】
固体投与形態の経口投与は、例えば、ハード又はソフトカプセル、ピル、カシェ、トローチ、又は錠剤などの個別の単位で提示することができ、各々が本開示の少なくとも1つの化合物の所定量を含む。別の実施形態では、経口投与は、粉末又は顆粒の形態であってもよい。別の実施形態では、経口投与形態は、例えば、トローチなどの舌下である。そのような固体剤形では、上記の式のいずれか1つの化合物は、通常、1つ以上のアジュバントと組み合わされる。そのようなカプセル又は錠剤は、放出制御製剤を含んでいてもよい。カプセル、錠剤、及びピルの場合、剤形はまた、緩衝剤を含んでいてもよく、又は腸溶コーティングを用いて調製することができる。
【0041】
別の実施形態では、経口投与は、液体投与形態であってもよい。経口投与用の液体剤形としては、例えば、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤(例えば、水)を含む薬学的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルが挙げられる。そのような組成物はまた、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、香味剤(例えば、甘味剤)、及び/又は芳香剤などのアジュバントを含み得る。
【0042】
別の実施形態では、本開示は、非経口投与形態を含む。
【0043】
「非経口投与」としては、例えば、皮下注射、静脈内注射、腹腔内、筋肉内注射、胸骨内注射、及び注入が挙げられる。注射可能な調製物(すなわち、無菌の注射可能な水性又は油性懸濁液)は、好適な分散剤、湿潤剤、及び/又は懸濁剤を使用して、既知の技術に従って製剤化され得る。
【0044】
別の実施形態では、本開示は局所投与形態を含む。
【0045】
「局所投与」としては、例えば、経皮パッチ又はイオン導入装置を介してなどの経皮投与、眼内投与、又は鼻腔内又は吸入投与が挙げられる。局所投与用の組成物はまた、例えば、局所ゲル、スプレー、軟膏、及びクリームを含む。局所製剤は、皮膚又は他の患部を通る活性成分の吸収又は浸透を増強する化合物を含み得る。本開示の化合物が経皮装置によって投与される場合、投与は、リザーバ及び多孔質膜タイプ、又は固体マトリックスの種類のいずれかのパッチを使用して達成される。この目的のための典型的な製剤には、ゲル、ヒドロゲル、ローション、溶液、クリーム、軟膏、粉剤、包帯剤、フォーム、フィルム、皮膚パッチ、ウエハ、インプラント、スポンジ、繊維、包帯及びマイクロエマルジョンが含まれる。リポソームも使用され得る。典型的な担体としては、アルコール、水、鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、グリセリン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールが挙げられる。浸透増強剤を組み込むことができ、例えば、Finnin and Morgan,J.Pharm.Sci.,88:955-958,1999を参照されたい。
【0046】
眼への局所投与に好適な製剤としては、例えば、点眼薬が挙げられ、本開示の化合物が好適な担体に溶解又は懸濁されている。眼又は耳投与に好適な典型的な製剤は、等張の、pH調整された滅菌生理食塩水中の微粉化された懸濁液又は溶液の点滴薬の形態であってもよい。眼及び耳投与に好適な他の製剤としては、軟膏、生分解性(すなわち、吸収性ゲルスポンジ、コラーゲン)及び非生分解性(すなわち、シリコーン)インプラント、ウエハ、レンズ、並びにニオソーム又はリポソームなどの粒子又は小胞系が挙げられる。架橋ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸などのポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はメチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、又はジェランガムなどのヘテロ多糖ポリマーを、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤と共に組み込んでもよい。そのような製剤はまた、イオン導入によって送達され得る。
【0047】
鼻腔内投与又は吸入による投与の場合、本開示の化合物は、好適な噴射剤を使用して、患者によって圧搾又は圧送されるポンプスプレー容器からの溶液又は懸濁液の形態で、あるいは加圧容器又はネブライザからのエアロゾルスプレーの提供として好都合に送達される。鼻腔内投与に好適な製剤は、典型的には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン又は1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンなどの好適な噴射剤を使用して又は使用せずに、乾燥粉末吸入器からの乾燥粉末(単独で、混合物として、例えば、ラクトースとのドライブレンドで、又は混合成分粒子として、例えば、ホスファチジルコリンなどのリン脂質と混合されるかのいずれかで)の形態で、又は加圧容器、ポンプ、スプレー、アトマイザ(好ましくは電気流体力学を使用して微細なミストを生成するアトマイザ)、又はネブライザからのエアロゾルスプレーとして投与される。鼻腔内使用の場合、粉末は、生体接着剤、例えば、キトサン又はシクロデキストリンを含み得る。
【0048】
別の実施形態では、本開示は、直腸投与形態を含む。そのような直腸投与形態は、例えば、坐剤の形態であってもよい。ココアバターは伝統的な坐剤基材であるが、必要に応じて様々な代替物を使用することができる。
【0049】
医薬品分野で既知の他の担体材料及び投与様式もまた使用され得る。本開示の医薬組成物は、効果的な製剤及び投与手順などの、薬学の周知の技術のいずれかによって調製することができる。
【0050】
効果的な製剤及び投与手順に関する上記の考慮事項は、当技術分野で周知であり、標準的なテキストに記載されている。薬物の製剤は、例えば、Hoover,John E.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1975、Liberman et al.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.,1980、及びKibbe et al.,Eds.,Handbook of Pharmaceutical Excipients(3rd Ed.),American Pharmaceutical Association,Washington,1999で考察されている。
【0051】
治療方法
「対象」は、哺乳動物、好ましくはヒトであるが、獣医学的治療を必要とする動物、例えば、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ等)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ等)及び実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット等)であってもよい。
【0052】
有効量の本開示の化合物による対象の「治療」計画は、単回投与からなり得るか、又は代替的に、一連の適用を含み得る。治療期間の長さは、疾患の重症度、対象の年齢、本開示の化合物の濃度及び活性、又はそれらの組み合わせなどの様々な要因に依存する。治療又は予防に使用される本化合物の有効投薬量が、特定の治療又は予防計画の過程で増加又は減少し得ることも理解されるであろう。投薬量の変化は、当技術分野で既知の標準的な診断アッセイによってもたらされ、明らかになり得る。場合によっては、慢性投与が必要になり得る。
【0053】
一態様では、本開示は、T2DM、前糖尿病、NASH、及び心血管疾患を含む、本明細書で考察される心血管代謝及び関連疾患の予防及び/又は治療での使用のための、本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩を提供する。
【0054】
別の態様では、本開示は、GLP-1Rのアゴニストが適応となる疾患の治療を、そのような予防及び/又は治療を必要とする対象において行う方法を提供し、治療有効量の本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩を対象に投与することを含む。
【0055】
別の態様では、本開示は、GLP-1Rのアゴニストが適応となる疾患又は状態を治療するための医薬品を製造するための、本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩の使用を提供する。
【0056】
別の態様では、本開示は、GLP-1Rのアゴニストが適応となる疾患又は状態の治療に使用するための、本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩を提供する。
【0057】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩を含む、GLP-1Rのアゴニストが適応となる疾患又は状態の治療のための医薬組成物を提供する。
【0058】
本開示はまた、T2DM、前糖尿病、NASH、及び心血管疾患を含む、本明細書で考察される心血管代謝及び関連疾患の治療及び/又は予防に使用するための、本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩を含む医薬組成物を提供する。
【0059】
別の態様では、本開示は、糖尿病(前糖尿病を含むT1D及び/又はT2DM)、特発性T1D(1b型)、成人の潜在的自己免疫性糖尿病(LADA)、早期発症型T2DM(EOD)、若年発症型非定型糖尿病(YOAD)、若年発症型成人型糖尿病(MODY)、栄養失調関連糖尿病、妊娠糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、肝臓インスリン抵抗性、グルコース耐性障害、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、腎臓病(例えば、急性腎障害、尿細管機能障害、近位尿細管への炎症誘発性変化)、糖尿病性網膜症、脂肪細胞機能障害、内臓脂肪沈着、睡眠時無呼吸、肥満症(視床下部性肥満症及び単一遺伝子肥満を含む)及び関連する併存疾患(例えば、骨関節炎及び尿失禁)、摂食障害(むちゃ食い障害、神経性大食症、並びにPrader-Willi症候群及びBardet-Biedl症候群などの症候群性肥満を含む)、他の薬剤の使用による体重増加(例えば、ステロイド及び抗精神病薬の使用による)、過剰な糖渇望、脂質異常症(高脂血症、高トリグリセリド血症、総コレステロールの増加、高LDLコレステロール、及び低HDLコレステロールを含む)、高インスリン血症、NAFLD(脂肪症、NASH、線維症、肝硬変、及び肝細胞がんなどの関連する疾患を含む)、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症(冠状動脈疾患を含む)、末梢血管疾患、高血圧、内皮障害、血管コンプライアンス障害、うっ血性心不全、心筋梗塞(例えば、壊死及びアポトーシス)、脳卒中、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、外傷性脳傷害、肺高血圧症、血管形成術後の再狭窄、間欠性跛行、食後脂肪血症、代謝性アシドーシス、ケトーシス、関節炎、骨粗鬆症、パーキンソン病、左心室肥大、末梢動脈疾患、黄斑変性症、白内障、糸球体硬化症、慢性腎不全、メタボリックシンドローム、シンドロームX、月経前症候群、狭心症、血栓症、アテローム性動脈硬化症、一過性虚血性発作、血管再狭窄、グルコース代謝障害、空腹時血漿グルコース障害の状態、高尿酸血症、痛風、勃起障害、皮膚及び結合組織障害、乾癬、足潰瘍、潰瘍性大腸炎、高アポBリポタンパク血症、アルツハイマー病、統合失調症、認知障害、炎症性腸疾患、短腸症候群クローン病、大腸炎、過敏性腸症候群、多嚢胞性卵巣症候群の予防又は治療、並びに中毒の治療(例えば、アルコール及び/又は薬物乱用)を含む心血管代謝及び関連疾患の治療及び/又は治療に使用するための、本明細書に記載されるような化合物I(又は化合物II)の塩を提供する。
【0060】
特定の実施形態では、疾患又は障害は、肥満、摂食障害、他の薬剤の使用による体重増加、過剰な糖渇望、及び脂質異常症である。
【0061】
特定の実施形態では、疾患又は障害は、肥満である。
【0062】
特定の実施形態では、疾患又は障害は、前糖尿病である。
【0063】
特定の実施形態では、疾患又は障害はT2DMである。
【0064】
特定の実施形態では、疾患又は障害は、NASHである。
【0065】
特定の実施形態では、疾患又は障害は、NAFLDである。
【0066】
特定の実施形態では、疾患又は障害は、高血圧などの心血管疾患である。
【0067】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つで定義されるように、上記の式(例えば、式I、II-A、III-A、及びIV-A)のいずれか1つの化合物、又はその薬学的に許容される塩、立体異性体、溶媒和物、若しくは水和物を投与することを含む、β-アレスチン/アレスチン-2動員の低下を伴うGLP-1R媒介cAMPシグナル伝達を増強又は刺激する方法を提供する。これは、本開示の化合物が、GLP-1R媒介cAMPシグナル伝達の完全アゴニストであるものの、本開示の化合物による活性化GLP-1Rへの最大β-アレスチン動員がGLP-1による最大β-アレスチン動員よりも低いという点で、天然GLP-1RリガンドGLP-1と比較して、活性化GLP-1Rへのβ-アレスチン動員の部分アゴニストであるという驚くべき発見にある程度基づいている。cAMPシグナル伝達のためのGLP-1Rのそのような部分的及び/又は偏ったアゴニストは、より良好な効力及びより低い副作用のためのより持続的なcAMPシグナル伝達活性を提供し得る。
【0068】
したがって、本開示の方法は、II型糖尿病(T2D)及び関連する疾患など、本明細書に記載の疾患又は状態のいずれかの治療に有利に使用することができる。
【0069】
特定の実施形態では、治療は、悪心、嘔吐、又は下痢などのGI副作用において、付随する増加なしに、又は少なくとも減少した増加なしに、血糖の利益を誘発する。特定の実施形態では、治療は、正常な又は増強されたβ-アレスチン動員(GLP-1によるβ-アレスチン動員など)を有する対照治療と比較して、より大きな耐容性を有する。
【0070】
投与及び投薬
典型的には、本開示の化合物は、本明細書に記載されるような症状を治療するのに有効な量で投与される。本開示の化合物は、化合物それ自体として、又は代替的に、薬学的に許容される塩として投与することができる。投与及び投薬目的のために、化合物それ自体又はその薬学的に許容される塩は、単に本開示の化合物と称される。
【0071】
本開示の化合物は、そのような経路に適合された医薬組成物の形態で、意図された治療に有効な用量で、任意の好適な経路によって投与される。本開示の化合物は、経口、直腸、膣、非経口、又は局所的に投与することができる。
【0072】
本開示の化合物は経口投与することができる。経口投与は、化合物が胃腸管に入るように嚥下を伴う場合があり、又は化合物が口から直接血流に入る口腔又は舌下投与を用いる場合がある。
【0073】
別の実施形態では、本開示の化合物はまた、血流、筋肉、又は内臓に直接投与することができる。非経口投与に好適な手段には、静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、脳室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内及び皮下が含まれる。非経口投与に好適な装置には、針(マイクロニードルを含む)注射器、無針注射器、及び注入技術が含まれる。
【0074】
別の実施形態では、本開示の化合物はまた、皮膚又は粘膜に局所的に、すなわち、皮膚又は経皮的に投与することができる。別の実施形態では、本開示の化合物はまた、鼻腔内又は吸入によって投与することができる。別の実施形態では、本開示の化合物は、直腸又は膣に投与することができる。別の実施形態では、本開示の化合物はまた、眼又は耳に直接投与することができる。
【0075】
本開示の化合物及び/又は当該化合物を含む組成物の投薬計画は、患者のタイプ、年齢、体重、性別及び病状、状態の重症度、投与経路、及び用いられる特定の化合物の活性を含む様々な要因に基づく。したがって、投薬計画は大きく異なってもよい。一実施形態では、本開示の化合物の1日総用量は、本明細書で考察される示された状態の治療のために、典型的には約0.001~約100mg/kg(すなわち、体重1kg当たりの本開示の化合物mg)である。別の実施形態では、本開示の化合物の1日総用量は、約0.01~約30mg/kg、別の実施形態では、約0.03~約10mg/kg、更に別の実施形態では、約0.1~約3mg/kgである。本開示の化合物の投与が1日に複数回(典型的には4回以下)繰り返されることは珍しいことではない。必要に応じて、通常、1日当たりの複数回用量を使用して1日総用量を増やすことができる。特定の実施形態では、患者は、本明細書の他の場所に記載されている治療可能な疾患の適応症又は障害のうちの1つを有するヒトなどのヒトである。
【0076】
経口投与の場合、本組成物は、患者への投薬量の対症的調整のために、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、30.0、50.0、75.0、100、125、150、175、200、250、及び500ミリグラムの活性成分を含有する錠剤の形態で提供され得る。薬剤は、典型的には、約0.01mg~500mgの活性成分、又は別の実施形態では、約1mg~約100mgの活性成分を含む。静脈内に、用量は、一定速度の注入中、約0.01~約10mg/kg/分の範囲であってもよい。
【0077】
本開示による好適な対象又は患者としては、ヒトを含む哺乳動物対象、又は霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、ウサギなど)などの非ヒト哺乳動物が挙げられる。一実施形態では、ヒトが好適な対象である。ヒト対象は、性別及び発達の任意の段階のいずれかであってもよい。特定の実施形態では、ヒトは、18歳未満、15歳又は約14歳、12歳、10歳、又は5歳未満の小児である。
【0078】
同時投与
本開示の化合物は、単独で、又は他の治療剤と組み合わせて使用することができる。本開示は、本明細書中で定義される使用、方法又は組成物のいずれかを提供し、本明細書中の上記の式のいずれか1つの任意の実施形態の化合物、又はその薬学的に許容される塩、あるいは当該化合物又は塩の薬学的に許容される溶媒和物は、本明細書中で考察される1つ以上の他の治療剤と組み合わせて使用される。
【0079】
2つ以上の化合物を「組み合わせて」投与することは、全ての化合物が、各々が同じ時間枠で生物学的効果を生じ得るのに十分に近い時間に投与されることを意味する。1つの薬剤の存在は、他の化合物の生物学的効果を変える可能性がある。2つ以上の化合物は、同時に、並行して、又は逐次的に投与することができる。加えて、同時投与は、投与前に化合物を混合することによって、又は同じ時点であるが、同じ又は異なる投与部位で別々の剤形として化合物を投与することによって実施することができる。
【0080】
「同時投与(concurrent administration)」、「同時投与(co-administration)」、「並行投与(simultaneous administration)」、及び「同時に投与される(administered simultaneously)」という語句は、化合物が組み合わせて投与されることを意味する。
【0081】
別の実施形態では、本開示は、1つ以上の他の医薬品と組み合わせて本本開示の化合物を投与することを含む治療の方法を提供し、1つ以上の他の医薬品は、本明細書で考察される薬剤から選択され得る。
【0082】
一実施形態では、本開示の化合物は、具体的に指定された薬剤の薬学的に許容される塩、並びに当該薬剤及び塩の薬学的に許容される溶媒和物を含む、ビグアニド(例えば、メトホルミン)、スルホニル尿素(例えば、トルブタミド、グリベンクラミド、グリクラジド、クロルプロパミド、トラザミド、アセトヘキサミド、グリクロピラミド、グリメピリド、又はグリピジド)、チアゾリジンジオン(例えば、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、又はロベグリタゾン)、グリタザル(例えば、サログリタザル、アレグリタザル、ムラグリタザル、又はテサグリタザル)、メグリチニド(例えば、ナテグリニド、レパグリニド)、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、又はオマリグリプチン)、グリタゾン(例えば、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、バラグリタゾン、リボグリタゾン、又はロベグリタゾン)、ナトリウム-グルコース結合輸送体2(SGLT2)阻害剤(例えば、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、イプラグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、又はエルツグリフロジン)、SGLTL1阻害剤、GPR40アゴニスト(FFAR1/FFA1アゴニスト、例えば、ファスジミフム)、グルコース依存性インスリン分泌性ペプチド(GIP)及びその類似体、アルファグルコシダーゼ阻害剤(例えば、ボグリボース、アカルボース、又はミグリトール)、又はインスリン若しくはインスリン類似体を含むが、これらに限定されない抗糖尿病薬と共に投与される。
【0083】
別の実施形態では、本開示の化合物は、具体的に指定された薬剤の薬学的に許容される塩、並びに当該薬剤及び塩の薬学的に許容される溶媒和物を含む、ペプチドYY若しくはその類似体、神経ペプチドY受容体2型(NPYR2)アゴニスト、NPYR1若しくはNPYR5アンタゴニスト、カンナビノイド受容体1型(CB1R)アンタゴニスト、リパーゼ阻害剤(例えば、オルリスタット)、ヒト膵島ペプチド(HIP)、メラノコルチン受容体4アゴニスト(例えば、セトメラノチド)、メラニン濃縮ホルモン受容体1アンタゴニスト、ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト(例えば、オベチコール酸)、ゾニサミド、フェンテルミン(単独又はトピラマートとの組み合わせ)、ノルエピネフリン/ドーパミン再取り込み阻害剤(例えば、ブプロピオン)、オピオイド受容体アンタゴニスト(例えば、ナルトレキソン)、ノルエピネフリン/ドーパミン再取り込み阻害剤とオピオイド受容体アンタゴニストとの組み合わせ(例えば、ブプロピオンとナルトレキソンとの組み合わせ)、GDF-15類似体、シブトラミン、コレシストキニンアゴニスト、アミリン及びその類似体(例えば、プラムリンチド)、レプチン及びその類似体(例えば、メトロレプチン)、セロトニン作動薬(例えば、ロルカセリン)、メチオニンアミノペプチダーゼ2(MetAP2)阻害剤(例えば、ベロラニブ又はZGN-1061)、フェンジメトラジン、ジエチルプロピオン、ベンズフェタミン、SGLT2阻害剤(例えば、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、イプラグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボナート、レモグリフロジンエタボナート、又はエルツグリフロジン)、SGLTL1阻害剤、デュアルSGLT2/SGLT1阻害剤、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)モジュレータ、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化因子、ビオチン、MAS受容体モジュレータ、又はグルカゴン受容体アゴニスト(単独又は別のGLP-1Rアゴニスト、例えば、リラグルチド、エクセナチド、デュラグルチド、アルビグルチド、リキシセナチド、若しくはセマグルチドとの組み合わせ)を含むが、これらに限定されない抗肥満剤と共に投与される。
【0084】
別の実施形態では、本開示の化合物は、具体的に指定された薬剤の薬学的に許容される塩、並びに当該薬剤及び塩の薬学的に許容される溶媒和物を含む、PF-05221304、FXRアゴニスト(例えば、オベチコール酸)、PPARα/δアゴニスト(例えば、エラフィブラノル)、合成脂肪酸-胆汁酸コンジュゲート(例えば、アラムコール)、カスパーゼ阻害剤(例えば、エムリカサン)、抗リジルオキシダーゼホモログ2(LOXL2)、モノクローナル抗体(例えば、シンツズマブ)、ガレクチン3阻害剤(例えば、GR-MD-02)、MAPK5阻害剤(例えば、GS-4997)、ケモカイン受容体2(CCR2)及びCCR5のデュアルアンタゴニスト(例えば、セニクリビロク)、線維芽細胞増殖因子21(FGF21)アゴニスト(例えば、BMS-986036)、ロイコトリエンD4(LTD4)受容体アンタゴニスト(例えば、チペルカスト)、ナイアシン類似体(例えば、ARI3037MO)、ASBT阻害剤(例えば、ボリキシバト)、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)阻害剤(例えば、NDI010976)、ケトヘキソキナーゼ(KHK)阻害剤、ジアシルグリセリルアシルトランスフェラーゼ2(DGAT2)阻害剤、CB1受容体アンタゴニスト、抗CB1R抗体、又はアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)阻害剤を含むが、これらに限定されないNASHを治療するための薬剤と共に投与される。
【0085】
本開示のこれらの薬剤及び化合物は、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液などの薬学的に許容される賦形剤と組み合わせることができる。特定の投薬計画、すなわち、用量、タイミング、及び繰り返しは、特定の個人及びその個人の病歴に応じる。
【0086】
許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、用いられる投薬量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などの緩衝液;塩化ナトリウムなどの塩;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又はIgなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含み得る。本開示のこれらの薬剤及び/又は化合物を含有するリポソームは、米国特許第4,485,045号及び同第4,544,545号に記載されているような当技術分野で既知の方法によって調製される。循環時間が増強されたリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって生成することができる。リポソームは、定義された孔径のフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームを生成する。
【0087】
これらの本開示の薬剤及び/又は化合物はまた、例えばコアセルベーション技術によって、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリラート)マイクロカプセルに、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンに封入され得る。そのような技術は、Remington,The Science and Practice of Pharmacy,20th Ed.,Mack Publishing(2000)に開示されている。
【0088】
徐放性製剤を使用することができる。徐放性製剤の好適な例には、上記の式のいずれか1つの化合物を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスは成形物品、例えば、フィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリラート)、又は「ポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と7エチル-L-グルタマートとのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)で使用されるものなどの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸リュープロリドとからなる注射可能なミクロスフェア)、イソ酪酸酢酸スクロース、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0089】
静脈内投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、例えば、滅菌濾過膜による濾過によって容易に達成される。本開示の化合物は、一般に、無菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルに入れられる。
【0090】
好適なエマルジョンは、イントラリピッド(商標)、リポシン(商標)、Infonutrol(商標)、リポフンディン(商標)及びLipiphysan(商標)などの市販の脂肪エマルジョンを使用して調製することができる。活性成分は、予め混合されたエマルジョン組成物に溶解されてもよく、又は代替的に、油(例えば、大豆油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油又はアーモンド油)及びリン脂質(例えば、卵リン脂質、大豆リン脂質又は大豆レシチン)並びに水と混合すると形成されるエマルジョンに溶解されてもよい。エマルジョンの張度を調整するために、他の成分、例えば、グリセロール又はグルコースを添加することができることが理解される。好適なエマルジョンは、典型的には、最大20%、例えば5~20%の油を含有する。脂肪エマルジョンは、0.1~1.0μm、特に0.1~0.5μmの脂肪滴を含むことができ、5.5~8.0の範囲のpHを有する。
【0091】
エマルジョン組成物は、本開示の化合物をイントラリピッド(商標)又はその成分(大豆油、卵リン脂質、グリセロール及び水)と混合することによって調製されたものであってもよい。
【0092】
吸入又は吹送のための組成物は、薬学的に許容される水性又は有機溶媒あるいはそれらの混合物中の溶液及び懸濁液、並びに粉末を含む。液体又は固体の組成物は、上記のように好適な薬学的に許容される賦形剤を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、局所的又は全身的効果のために経口又は鼻呼吸経路によって投与される。好ましくは無菌の薬学的に許容される溶媒中の組成物は、ガスの使用によって噴霧され得る。噴霧された溶液は、噴霧装置から直接呼吸することができ、又は噴霧装置をフェイスマスク、テント、又は断続的な陽圧呼吸装置に取り付けることができる。溶液、懸濁液又は粉末組成物は、適切な様式で製剤を送達する装置から、好ましくは経口又は経鼻的に投与することができる。
【0093】
キット
本開示の別の態様は、上記の式のいずれか1つの化合物を含むキット、又は本開示の上記の式のいずれか1つの化合物を含む医薬組成物を提供する。キットは、上記の式のいずれか1つの化合物に加えて、本開示又はその医薬組成物の診断薬又は治療薬を含み得る。キットはまた、診断又は治療方法で使用するための説明書を含み得る。いくつかの実施形態では、キットは、上記の式のいずれか1つの化合物、又はその医薬組成物及び診断薬を含む。他の実施形態では、キットは、上記の式のいずれか1つの化合物、又はその医薬組成物を含む。
【0094】
更に別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の治療方法を実施する際に使用するのに好適なキットを含む。一実施形態では、キットは、本開示の方法を実施するのに十分な量の本開示の化合物の1つ以上を含む第1の剤形を含む。別の実施形態では、キットは、本開示の方法を実施するのに十分な量の本開示の1つ以上の化合物、並びに投薬のための容器及び投薬のための容器を含む。
【0095】
調製
上記の式のいずれか1つの化合物は、合成有機化学の当業者の共通の一般知識を使用して、以下に記載される一般的かつ特定の方法によって調製することができる。そのような共通の一般知識は、Comprehensive Organic Chemistry,Ed.Barton and Ollis,Elsevier、Comprehensive Organic Transformations:A Guide to Functional Group Preparations,Larock,John Wiley and Sons、及びCompendium of Organic Synthetic Methods,Vol.I-XII(published by Wiley-Interscience)などの標準的な参考文献に見出すことができる。本明細書で使用される出発物質は、市販されているか、又は当技術分野で既知の通常の方法によって調製することができる。
【0096】
上記の式のいずれか1つの化合物の調製において、本明細書に記載の調製方法のいくつかは、遠隔官能基(例えば、上記の式のいずれか1つの前駆体における一級アミン、二級アミン、カルボキシル)の保護を必要とし得ることに留意されたい。そのような保護の必要性は、遠隔官能基の性質及び調製方法の条件に応じて変わる。そのような保護の必要性は、当業者によって容易に決定される。そのような保護/脱保護方法の使用もまた、当業者の技術の範囲内である。保護基及びその使用の一般的な説明については、Greene,Protective Groups in Organic Synthesis,John Wiley&Sons,New York,1991を参照されたい。
【0097】
例えば、特定の化合物は、保護されていないままである場合、分子の他の部位での反応を妨害し得る一級アミン又はカルボン酸官能基を含有する。したがって、そのような官能基は、次のステップで除去され得る適切な保護基によって保護され得る。アミン及びカルボン酸保護に好適な保護基には、ペプチド合成で一般に使用される保護基(例えば、アミンの場合はN-t-ブトキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)及び9-フルオレニルメチレンオキシカルボニル(Fmoc)、カルボン酸の場合は低級アルキル又はベンジルエステルなど)が含まれ、これらは一般に、記載される反応条件下で化学的に反応せず、典型的には、上記化合物の式のいずれか1つの他の官能基を化学的に変化させることなく除去することができる。
【0098】
以下に記載のスキームは、本本開示の化合物の調製に用いられる方法論の一般的な説明を提供することを意図している。本開示の化合物のいくつかは、立体化学的名称(R)又は(S)を有する単一又は複数のキラル中心を含み得る。材料がエナンチオ濃縮されているかラセミ体であるかにかかわらず、全ての合成変換を同様の様式で実施することができることは当業者には明らかである。更に、所望の光学活性材料への分解は、本明細書及び化学文献に記載されているような周知の方法を使用して、シーケンス内の任意の所望の時点で行うことができる。
【0099】
本明細書に記載の方法によって調製されたアミン化合物は、それだけに限らないが、DMF、DMAc、DMSO又はNMPなどの極性非プロトン性溶媒中、K2CO3、Et3N、NaH又はLiHMDSなどの好適な塩基の存在下で、保護された2-ブロモアセテートでアルキル化して、化合物を送達することができる。標準的なエステル加水分解を行って酸を得ることができる。Pg2がt-ブチルである場合、TFA/DCM、HCl/1,4-ジオキサン、HCl/EtOAc、又は他の好適な条件などの標準的な酸性脱保護方法を使用して、酸を送達することができる。
【0100】
実験的
溶媒の略語を以下の表に列記する。
【表1】
【0101】
分析条件
X線粉末回折(XRPD)
XRPD分析については、PANalytical Empyrean/X’ Pert3 X線粉末回折計を使用した。使用するXRPDパラメータを以下の表に列記する。
【表2】
【0102】
単結晶X線回折(SCXRD)
【表3】
熱重量分析及び示差走査熱量測定(TGA&DSC)
TGAデータを、TA InstrumentsのTA Q5000/Discovery 5500 TGAを使用して収集した。DSCを、TA InstrumentsのTA Q2000/Discovery 2500 DSCを使用して行った。使用される詳細なパラメーを以下の表に列記する。
【表4】
【0103】
1H-核磁気共鳴分光法(1H-NMR)
1H溶液NMRを、DMSO-d6を使用してBruker 400M NMR分光計で収集した。
【0104】
動的水蒸気収着(DVS)
DVSを、SMS(表面測定システム)DVS Intrinsicを介して測定した。25℃での相対湿度を、LiCl、Mg(NO
3)
2、及びKClの潮解点に対して較正した。DVS試験のパラメータを以下の表に列記する。
【表5】
【0105】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)
Agilent 1260 HPLCを使用し、詳細なクロマトグラフィ条件を以下の表に列記する。
【表6】
【0106】
実施例1.(S)-2-((4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボン酸(化合物I)の合成
【化2】
ステップ1
1,4-ジオキサン(50mL)中の3-ブロモフェノール(1.0g、5.8mmol)の溶液に、tert-ブチル4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-カルボキシラート(1.9g、6.4mmol)、並びにCs
2CO
3(3.8g、11.6mmol)及びPd(dppf)Cl
2(416mg、0.58mmol)を添加した。混合物を窒素下、90℃で8時間撹拌した。混合物をセライトで濾過して溶液を得て、水(150mL)で希釈し、酢酸エチル(150mL×3)で抽出し、合わせた有機物をブライン(150mL×3)で洗浄し、乾燥させ、真空中で濃縮して粗生成物を得た。粗生成物を分取TLC(PE:EA=2:1)によって精製すると、tert-ブチル4-(3-ヒドロキシフェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-カルボキシラート(151g、収率94%)が白色の固体として得られた。LCMS:[M+H]
+=221、保持時間(10mM NH
4HCO
3)=1.81分。
【0107】
ステップ2
1,4-ジオキサン(10mL)中のtert-ブチル4-(3-ヒドロキシフェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-カルボキシラート(275mg、1.0mmol)の溶液に、1-(ブロモメチル)-4-クロロ-2-フルオロベンゼン(223mg、1.0mmol)及びPd2(dba)3(91.5mg、0.1mmol)及びBINAP(62.2mg、0.1mmol)を添加した。混合物を窒素下、100℃で8時間撹拌した。反応物を室温まで冷却し、反応物を水(150mL)で希釈し、酢酸エチル(150mL×3)で抽出し、合わせた有機物をブライン(150mL×3)で洗浄し、乾燥させ、真空中で濃縮して粗生成物を得た。次いで、粗生成物を分取TLC(PE:EA=3:1)によって精製すると、tert-ブチル4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-カルボキシラート(241mg、収率57.8%)が黄色油状物として得られた。LCMS:[M+H]+=363、保持時間(10mM NH4HCO3)=2.04分。
【0108】
ステップ3
DCM(10mL)中のtert-ブチル4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-カルボキシラート(322mg、0.77mmol)の溶液に、HCl/1,4-ジオキサン(1.2mL)を添加した。混合物を室温で2時間撹拌した。反応物を水(50mL)で希釈し、酢酸エチル(50mL×3)で抽出し、合わせた有機物をブライン(50mL×3)で洗浄し、乾燥させ、真空中で濃縮して粗生成物を得て、これを分取TLC(PE:EA=5:1)によって精製すると、4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(198mg)が黄色油状物として得られた。LCMS:[M+H]+=318、保持時間(10mM NH4HCO3)=1.61分。
【0109】
ステップ4
1,4-ジオキサン(10mL)中の4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(90mg、0.28mmol)の溶液に、tert-ブチル(S)-2-(クロロメチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボキシラート(85mg、0.28mmol)及びDIPEA(0.3mL、1.4mol)を添加した。混合物を90℃で3時間撹拌した。反応物を水(100mL)で希釈し、酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、合わせた有機層をブライン(100mL×3)で洗浄し、乾燥させ、真空中で濃縮して粗生成物を得て、これを分取TLCによって精製すると、tert-ブチル(S)-2-((4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボキシラート(80mg、収率46%)が黄色の固体として得られた。
【0110】
LCMS:[M+H]+=618、保持時間(10mM NH4HCO3)=2.36分。
【0111】
ステップ5
DCM(12mL)中のtert-ブチル(S)-2-((4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボキシラート(80mg、0.13mmol)の溶液に、TFA(2mL、26.93mmol)を添加した。混合物を室温で3時間撹拌した。反応物を真空中で濃縮して粗生成物を得て、これを分取HPLC(NH4HCO3)によって精製すると、(S)-2-((4-(3-((4-クロロ-2-フルオロベンジル)オキシ)フェニル)-3,6-ジヒドロピリジン-1(2H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボン酸(18.5mg、収率25%)が白色固体として得られた。LCMS:[M+H]+=562.0、保持時間(10mM NH4HCO3)=1.40分。
【0112】
1H NMR(400MHz,MeOD) δ 8.21-8.20(brs,1H),7.97(dd,J=8.5,1.4Hz,1H),7.62(d,J=8.5Hz,1H),7.54(t,J=8.2Hz,1H),7.25(ddd,J=6.3,5.6,2.0Hz,3H),7.11-7.02(m,2H),6.89(dd,J=7.3,1.9Hz,1H),6.13-6.12(brs,1H),5.28(dd,J=9.4,5.0Hz,1H),5.13(s,2H),4.92(d,J=7.1Hz,1H),4.77-4.71(m,1H),4.63(dd,J=13.4,8.2Hz,1H),4.53-4.46(m,1H),4.14(d,J=13.6Hz,1H),4.03(d,J=13.6Hz,1H),3.25(d,J=2.4Hz,2H),2.80(ddd,J=22.5,12.9,7.2Hz,3H),2.62-2.48(m,3H)。
【0113】
実施例2.(S)-2-((6-((4-シアノ-2-フルオロベンジル)オキシ)-3’,6’-ジヒドロ-[2,4’-ビピリジン]-1’(2’H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボン酸(化合物II)の合成
【化3】
ステップ1
THF(500mL)中のt-BuOK(31.3g、279.7mmol)の撹拌懸濁液に、3-フルオロ-4-(ヒドロキシメチル)ベンゾニトリル(28.1g、186.5mmol)を10~15℃で少しずつ添加した。混合物を15℃で45分間撹拌し、2,6-ジクロロピリジン(23.0g、155.4mmol)を反応混合物に15℃で数回に分けて添加し、混合物を15℃で18時間撹拌した。混合物を水溶液NH
4Cl(1000mL)に注いだ。EtOAc(1000mL)を添加し、混合物を15分間撹拌した。混合物をセライトのパッドを通して濾過した。有機層を分離し、水層をEtOAc(2×600mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(500mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(PE/EtOAc=10/1)によって精製すると、4-((6-クロロピリジン-2-イルオキシ)メチル)-3-フルオロベンゾニトリル(26.0g、収率64%)が淡黄色固体として得られた。
【0114】
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ 7.67-7.63(t,J=7.6Hz,1H),7.59-7.55(t,J=7.6Hz,1H),7.49-7.46(dd,J1=8.0Hz,J2=1.2Hz,1H),7.40-7.37(dd,J1=9.2Hz,J2=1.2Hz,1H),6.97-6.95(d,J=7.6Hz,1H),6.75-6.73(d,J=8.4Hz,1H),5.48(s,2H)。
【0115】
ステップ1a
ジオキサン(20mL)及びH2O(4g、222.22mmol)中の4-[(6-クロロ-2-ピリジル)オキシメチル]-3-フルオロ-ベンゾニトリル(1g、3.81mmol)、tert-ブチル4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-3,6-ジヒドロ-2H-ピリジン-1-カルボキシラート(1.29g、4.19mmol)、Pd(dppf)Cl2(278.3mg、0.38mmol)及びNaHCO3(479.69mg、5.71mmol)の混合物を、LCMSによって示されるように反応が完了するまで、N2下、90℃で2時間撹拌した。反応混合物を、EtOAcを用いたセライトパッドで濾過し、合わせた有機物を真空中で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィ(ヘキサン/EtOAc=0~11%)によって精製すると、所望の生成物tert-ブチル4-[6-[(4-シアノ-2-フルオロ-フェニル)メトキシ]-2-ピリジル]-3,6-ジヒドロ-2H-ピリジン-1-カルボキシラート(1.5g、3.63mmol、収率95.4%)が淡黄色液体として得られた。LCMS:[M+H]+=410.1、保持時間(10mM NH4HCO3)=2.22分。
【0116】
ステップ2
DCM(20mL)中のtert-ブチル4-[6-[(4-シアノ-2-フルオロ-フェニル)メトキシ]-2-ピリジル]-3,6-ジヒドロ-2H-ピリジン-1-カルボキシラート(1.5g、3.66mmol)の溶液に、TFA(7.40g、64.90mmol、5mL)をゆっくり添加した。反応物を28℃で2時間撹拌した。LCMSによって判定した反応の完了後、反応混合物を真空中で濃縮すると、3-フルオロ-4-[[6-(1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-4-イル)-2-ピリジル]オキシメチル]ベンゾニトリル(1.8g、3.94mmol)TFA塩が淡黄色がかった液体として得られた。粗生成物を更に精製することなく次のステップで直接使用した。LCMS:[M+H]+=310.1、保持時間(0.01%TFA)=1.42分。
【0117】
ステップ3
ジオキサン(10mL)中の3-フルオロ-4-[[6-(1,2,3,6-テトラヒドロピリジン-4-イル)-2-ピリジル]オキシメチル]ベンゾニトリル(340mg、0.80mmol)と、tert-ブチル2-(クロロメチル)-3-[[(2S)-オキセタン-2-イル]メチル]ベンズイミダゾール-5-カルボキシラート(225mg、670mmol、本合成は、参照により本明細書に組み込まれる国際出願第2018/109607号に開示されている)と、DIPEA(216.42mg、1.67mmol)との混合物を、LCMSによって示されるように反応が完了するまで、90℃で1時間撹拌し、反応混合物を真空中で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィ(ヘキサン/EtOAc=20:1)によって精製すると、所望の生成物tert-ブチル2-[[4-[6-[(4-シアノ-2-フルオロ-フェニル)メトキシ]-2-ピリジル]-3,6-ジヒドロ-2H-ピリジン-1-イル]メチル]-3-[[(2S)-オキセタン-2-イル]メチル]ベンズイミダゾール-5-カルボキシラート(366mg、0.31mmol)が淡褐色の固体として得られた。LCMS:[M+H]+=610.0、保持時間(10mM NH4H CO3)=1.87分。
【0118】
ステップ4
DCM(6mL)中のtert-ブチル2-[[4-[6-[(4-シアノ-2-フルオロ-フェニル)メトキシ]-2-ピリジル]-3,6-ジヒドロ-2H-ピリジン-1-イル]メチル]-3-[[(2S)-オキセタン-2-イル]メチル]ベンズイミダゾール-5-カルボキシラート(180mg、0.30mmol)の溶液に、DCM(2mL)中のTFA(2.96g、25.96mmol、2mL)を28℃でゆっくり添加し、1時間撹拌した。LCMSによって判定された反応の完了後、反応混合物を真空中で濃縮し、粗生成物を分取HPLC(10mM NH4HCO3)によって精製すると、(S)-2-((6-((4-シアノ-2-フルオロベンジル)オキシ)-3’,6’-ジヒドロ-[2,4’-ビピリジン]-1’(2’H)-イル)メチル)-1-(オキセタン-2-イルメチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-6-カルボン酸(54mg、収率33%)が白色の固体として得られた。LCMS:[M+H]+=554.2、保持時間(10mM NH4HCO3)=1.42分。
【0119】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6) δ 12.73-12.72(brs,1H),8.27-8.26(brs,1H),7.90(d,J=10.3Hz,1H),7.81(dd,J=8.5,1.5Hz,1H),7.69(dt,J=13.2,8.0Hz,4H),7.10(d,J=7.5Hz,1H),6.85-6.61(m,2H),5.49(s,2H),5.15-5.02(m,1H),4.80(dd,J=15.2,7.3Hz,1H),4.71-4.60(m,1H),4.40(ddt,J=11.9,8.9,6.0Hz,2H),4.07(d,J=13.5Hz,1H),3.91(d,J=13.5Hz,1H),3.28-3.17(m,2H),2.73(d,J=2.5Hz,2H),2.70-2.60(m,1H),2.43-2.42(m,2H),2.44-2.34(m,1H)。
【0120】
実施例3.1:1の化合物Iの結晶性形態の調製及び特徴評価
トリス塩(形態A)
3.1.1調製方法
500.9mgの化合物Iの遊離形態の溶液を、20mLのアセトン/H2O(9:1、v:v)に溶解した。その間に、等モルのトリス(107.9mg)を2.5mLのH2Oに溶解した。得られたトリス溶液を化合物I溶液の遊離形態に滴下し、室温で撹拌(RT、約1000rpm)した。得られたスラリーをRTで17時間継続的に撹拌し、次いで5℃まで冷却し、更に4時間撹拌した。混合物中の固体を遠心分離によって単離し、RTで20時間真空乾燥させると、445.9mgの所望の生成物が得られた(収率約73.2%)。
【0121】
得られた固体を、XRPDによって更に特徴付けた(
図1及び表1)。
【0122】
TGAの結果は、最大150℃までに3.2%の重量損失を示し(
図2A)、DSCの結果は、112.0℃及び174.3℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した(
図2B)。
【0123】
1H NMRスペクトルは、トリス/遊離形態のモル比が1.0:1であったことを示し、残留溶媒は観察されなかった。VH-XRPD及び単結晶構造の決定を、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)に対して行い、≦30%RH条件で脱水するであろう一水和物として同定した。したがって、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)は、脱水を避けるために、相対湿度が≧40%RHの20~30℃の条件下で保存されることが提案される。
【表7】
【0124】
3.1.2代替の調製方法
1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の調製を、スラリー/溶液結晶化を介して数回試みた。調製の結果を表A及び表Bに要約した。詳細な特徴評価の結果を表Cに要約した。
【表8】
【表9】
【表10】
【0125】
トリス塩形態A(サンプルID1)を、1日間THF中の等モルの化合物Iの遊離形態及びトリスのスラリーを介して再調製し、続いてRTで約2.5日間真空乾燥させた。サンプルの結晶化度は、真空乾燥後に著しく減少した。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに7.1%の重量損失、並びに89.4℃及び170.5℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した。1H NMRスペクトルは、トリス/遊離形態のモル比が1.0:1であり、残留THF/遊離形態のモル比が0.62:1(6.1%、重量%)であったことを示した。トリス塩形態A(サンプルID1)のHPLC純度は、93.87面積%であると測定された。
【0126】
トリス塩形態A(サンプルID3)を、15mgの遊離形態及び等モルのトリスを出発物質として使用する溶液結晶化を介して得た。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに7.8%の重量損失、並びに98.2℃及び174.6℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した。1H NMRスペクトルは、トリス/遊離形態のモル比が1.0:1であり、残留アセトン/遊離形態のモル比が0.04:1(0.3%、重量%)であったことを示した。トリス塩形態A(サンプルID3)のHPLC純度は、97.46面積%であると測定された。
【0127】
トリス塩形態A(サンプルID4)を、500mgの遊離形態及び等モルのトリスを出発物質として使用する溶液結晶化を介して得た。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに6.1%の重量損失、並びに90.9℃及び174.2℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した。1H NMRスペクトルは、トリス/遊離形態のモル比が0.9:1であり、残留アセトン/遊離形態のモル比が0.04:1(0.3%、重量%)であったことを示した。トリス塩形態A(サンプルID4)のHPLC純度は、98.04面積%であると測定された。このサンプルのバッチは、モル比が1:1ではなかったため、更に製剤の研究には使用しなかった。
【0128】
トリス塩形態A(サンプルID5)を、500mgの遊離形態及び等モルのトリスを出発物質として使用する溶液結晶化を介して得た。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに3.2%の重量損失、並びに112.0℃及び174.3℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した。1H NMRスペクトルは、トリス/遊離形態のモル比が1.0:1であり、残留アセトン/遊離形態のモル比が0.05:1(0.4%、重量%)であったことを示した。トリス塩形態A(サンプルID5)のHPLC純度は、98.16面積%であると測定された。
【0129】
3.2単結晶成長
SCXRDによって特徴付けられた1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の単結晶サンプルを、ゆっくりとした蒸発実験から得た。実験の詳細を、以下に詳しく説明する。
【0130】
15.0mgの1:1の化合物Iトリス塩(形態A)出発物質を3mLのガラスバイアルに添加し、1.0mLのACN/MeOH(1:1、v:v)溶媒混合物を添加した。超音波洗浄機によって振とうして、溶解を加速させた後、懸濁液を濾過した。得られた透明な溶液を清潔な4mLのシェルバイアルに移した。シェルバイアルを、その上にある1つのピンホールでPEプラグによって密封した。次いで、ゆっくりと蒸発させるために、室温の換気フードに入れた。2日間ゆっくりと蒸発させた後、棒状の結晶が観察された。
【0131】
単結晶X線結晶解析法(
図3)で証明されるように、タイプA単結晶構造の非対称単位は、1つの化合物Iアニオン、1つのトリスカチオン、及び1つの水分子で構成され、形態Aが1:1の化合物Iトリス塩の一水和物であることを確認する。
【0132】
3.3動的可溶度
I)生体関連媒体及びpH緩衝液の調製
模擬胃液(SGF)
100mgの塩化ナトリウム及び50mgのTriton X-100を50mLのメスフラスコに量り入れる。適切な量の精製水を添加し、全ての固体が完全に溶解するまで超音波処理をする。約68μLの12MHCl及び十分な精製水を目標量に近づけて添加し、pH1.8に調整する。精製水で定容し、よく混合し、pHメーターでpHを確認する。
【0133】
空腹状態模擬腸液(FaSSIF)
170mgのリン酸ナトリウム一塩基、21mgの水酸化ナトリウム、及び310mgの塩化ナトリウム、110mgのSIF粉末を50mLのメスフラスコに量り入れる。適切な量の精製水を添加し、全ての固体が完全に溶解するまで超音波処理をする。十分な精製水を目標量に近づけて添加し、pH6.5に調整する。精製水で定容し、よく混合し、pHメーターでpHを確認する。
【0134】
摂食状態模擬腸液(FeSSIF)
0.41mLの氷酢酸、202mgの水酸化ナトリウム、及び594mgの塩化ナトリウム、560mgのSIF粉末を50mLのメスフラスコに量り入れる。適切な量の精製水を添加して、固体を溶解する。次いで、十分な精製水を目標量に近づけて添加し、pH5.0に調整する。精製水で定容し、よく混合し、pHメーターでpHを確認する。
【0135】
pH8.0の緩衝液
302.5mgのトリスを50mLのメスフラスコに量り入れる。十分な精製水を目標量に近づけて添加し、pH8.0に調整する。精製水で定容し、よく混合し、pHメーターでpHを確認する。
【0136】
II)動的可溶度試験
動的可溶度を、水及び3つの生体関連媒体(SGF、FaSSIF、及びFeSSIF)において1/4/24時間評価した。3~4mgの固体を3mLの各培地に懸濁すると(遊離形態を使用して計算された固体負荷:1mg/mL)、懸濁液が得られ、続いて37℃で1/4/24時間、ローリング(25rpm)した。各時点で、約1.0mLの懸濁液を、遠心分離(12000rpm、2分)及び0.45μmのPTFE膜を通す濾過のためにサンプリングすると、HPLC及びpH試験用の上清が得られ、残留固体をXRPDによって分析した。詳細な結果を表2に要約した。
【0137】
可溶度評価の結果に基づいて、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)は、H
2Oでより良好な可溶度を示した。遊離形態及びトリス塩タイプAは、1時間後にFaSSIF及びFeSSIFにおいて同様の可溶度を示した。SGF中の1:1の化合物Iトリス塩(形態A)について形態変化が観察され、可溶度試験後のXRPD結果が出た。サンプルは懸濁液であったため、純度の減少は、単に参考値であった。
【表11】
【0138】
3.4.1固体安定性評価(I/II)
1:1の化合物Iトリス塩(形態A)及び非晶質遊離形態の物理的及び化学的安定性を評価するために、サンプルを60℃で1日間、及び25℃/60%RH又は40℃/75%RHでそれぞれ1週間の条件下で保存した。XRPD及びHPLCを使用して固体を特徴付け、結果を表3に要約した。1週間後も形態変化は観察されなかった。1:1の化合物Iトリス塩(形態A)は、全ての条件で非晶質遊離形態よりも良好な化学的安定性を示した。
【表12】
【0139】
3.4.2固体安定性評価(II/II)
1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の化学的安定性を固体状態で更に評価し、サンプルを周囲条件又は40℃/75%RHの下でそれぞれ1日間及び3日間保存した。HPLC純度及び重量純度を、HPLCを使用して3回試験し、結果を表4に要約した。1:1の化合物Iトリス塩(形態A)は、全ての条件でより良好な化学的安定性を示した。
【表13】
【0140】
3.5溶液安定性評価
SGF(pH1.8)及びpH8.0の緩衝液中の溶液の安定性を、RTで1:1の化合物Iトリス塩(形態A)について評価した。透明な溶液を0.01mg/mLの濃度で調製し、次いでRTで6時間、1日間、及び5日間置いた。1日後、pH1.8の溶液については著しい分解は観察されなかったが、pH8.0の溶液の純度はわずかに減少した。HPLC純度及びpH値を表5及び表6に要約した。
【表14】
【表15】
【0141】
3.6吸湿性
湿度の関数としての固体形態の安定性を調査するために、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)のDVS等温線プロットを、25℃で0%RHと95%RHとの間で収集した。25℃/80%RHで2.77%の吸水率が観察された。1:1の化合物Iトリス塩(形態A)が水和物であり、低湿度下で脱水し得ることを考慮して、DVSを20及び30℃でも試験し、好適な保存条件を更に確認し、脱水を避けた。詳細な結果を表7に要約した。DVS試験後も形態変化は観察されなかった。VH-XRPD及びDVSの結果を組み合わせると、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)の保存には、20~30℃及び相対湿度≧40%RHの条件が好適である。
【表16】
【0142】
3.7多形スクリーニング
1:1の化合物Iトリス塩(形態A)における多形スクリーニング実験を、抗溶媒添加、逆抗溶媒添加、ゆっくりとした蒸発、ゆっくりとした冷却、RTでのスラリー、50℃でのスラリー、5~50℃でのスラリー循環、蒸気-固体拡散、蒸気-溶液拡散、ポリマー誘起結晶化、及び粉砕を含む異なる溶液結晶化又は固体転移法を使用して、様々な条件下で行った。
【0143】
スクリーニングの結果は、1:1の化合物Iトリス塩(形態A)がほとんどの試験条件下で変化しなかったことを示しており、形態Aが安定していることを示している。
【0144】
実施例4.1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)の結晶性形態の調製及び特徴評価
4.1.1調製方法
15mgの化合物IIの遊離形態及び5.21mgのアセトン中のクエン酸を混合した。得られたスラリーをRTで3日間撹拌し、続いてRTで約12時間真空乾燥させた。
【0145】
得られた固体を、XRPDによって更に特徴付けた(
図4及び表8)。
【0146】
TGA(
図5A)の結果は、最大150℃までに2.6%の重量損失を示し、DSCの結果(
図5B)は、169.9℃で1回の吸熱及び173.3℃(ピーク温度)で1回の発熱を示した。
【表17】
【0147】
4.1.2代替の調製方法
1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)の調製を、スラリー/溶液結晶化を介して数回試みた。調製結果を表9及び表10に要約した。詳細な特徴評価結果を表11に要約した。
【表18】
【表19】
【表20】
【0148】
1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)(サンプルID1)を、1日間アセトン中の等モルの出発物質及びクエン酸のスラリーを介して再調製し、続いてRTで約1.5日間真空乾燥させた。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに1.4%の重量損失、171.9℃で1回の吸熱、及び175.5℃(ピーク温度)で1回の発熱を示した。1H NMRスペクトルは、クエン酸/遊離形態のモル比が1.0:1であり(クエン酸及び遊離形態のNMRシグナルは重なり、遊離形態の積分は計算のために差し引いた)、残留アセトン/遊離形態のモル比が0.16:1(1.2%、重量%)であったことを示した。1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)(サンプルID1)のHPLC純度は、97.73面積%であると測定された。
【0149】
1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)(サンプルID2)を、出発物質として15mgの遊離形態及びクエン酸(1:1のモル比、酸/遊離形態)を使用する溶液結晶化を介して得た。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに3.1%の重量損失、並びに169.9℃で1回の吸熱及び173.6℃(ピーク温度)で1回の発熱を示した。1H NMRスペクトルは、クエン酸/遊離形態のモル比が1.0:1であり(遊離形態の積分は計算のために差し引いた)、残留アセトン/遊離形態のモル比が0.09:1(0.9%、重量%)であったことを示した。1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)(サンプルID2)のHPLC純度は、97.05面積%であると測定された。
【0150】
1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)(サンプルID3)を、出発物質として500mgの遊離形態及びクエン酸(1:1のモル比、酸/遊離形態)を使用する溶液結晶化を介して得た。TGA/DSC曲線は、最大150℃までに2.5%の重量損失、並びに166.6℃で1回の吸熱及び171.0℃(ピーク温度)で1回の発熱を示した。1H NMRスペクトルは、クエン酸/遊離形態のモル比が1.0:1であり(遊離形態の積分は計算のために差し引いた)、残留アセトン/遊離形態のモル比が0.08:1(0.6%、重量%)であったことを示した。1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)(サンプルID3)のHPLC純度は、96.66面積%であると測定された。
【0151】
実施例5.1:1の化合物IIトリス塩(形態B)の結晶性形態の調製及び特徴評価
5.1.1調製方法
バッチA:
1)N2雰囲気下で、反応器にアセトン(10L、10.0V)を充填した。化合物IIの遊離形態1.0Kg(1.0当量)をかき混ぜながら反応器に添加した。温度を23℃に調整し、得られた混合物を0.5時間撹拌した後、混合物を0.2μmの微孔性フィルターで濾過した。濾液を収集した。
2)N2雰囲気下で、濾液を反応器に移した。10LのEA(10.0V)を反応器に添加した。温度を21℃に調整した。トリス溶液(2Lの軟水(2.0V)に溶解した218.8gのトリス(1.0当量))を1.5時間以内に反応器に添加した。混合物を1時間撹拌した。
3)次いで、混合物を遠心分離によって単離した。濾塊をEA(2L、2.0V)で洗浄し、フィルター濾塊を収集した。
4)フィルター濾塊を真空下、70℃で16時間乾燥させると、1.03Kgの1:1の化合物IIトリス塩(形態B)がオフホワイトの固体として得られた。
【0152】
バッチB:
1)N2雰囲気下で、反応器にアセトン(21.5L、10.0V)を充填した。化合物IIの遊離形態2.15Kg(1.0当量)をかき混ぜながら反応器に添加した。温度を25℃に調整し、得られた混合物を0.5時間撹拌した後、混合物を0.2μmの微孔性フィルターで濾過した。濾液を収集した。
2)N2雰囲気下で、濾液を反応器に移した。21.5LのEA(10.0V)を反応器に添加した。温度を21℃に調整した。トリス溶液(4.3Lの軟水(2.0V)に溶解した470.4gのトリス(1.0当量))を3時間以内に反応器に添加した。混合物を1.5時間撹拌した。
3)次いで、混合物を遠心分離によって単離した。濾塊をEA(4.3L、2.0V)で洗浄し、フィルター濾塊を収集した。
4)フィルター濾塊を真空下、70℃で16時間乾燥させると、2.45Kgの1:1の化合物IIトリス塩(形態B)が白色の固体として得られた。
【0153】
バッチC:
1)バッチA及びバッチBから得られた3.45Kg(1.0eq)の1:1の化合物IIトリス塩(形態B)を3.45Lの軟水(1V)と混合した。混合物を、かき混ぜながらN2雰囲気下で44.9LのEA(13V)を充填した反応器に添加した。温度を25℃に調整し、得られた混合物を1時間撹拌した。
2)次いで、混合物を遠心分離によって単離した。濾塊をEA(6.9L、2.0V)で洗浄し、フィルター濾塊を収集した。
3)フィルター濾塊を真空下、70℃で16時間乾燥させると、3.45Kgの1:1の化合物IIトリス塩(形態B)がオフホワイトの固体として得られた。
【0154】
バッチCの1:1の化合物IIトリス塩(形態B)を、XRPDによって特徴付けた(
図6及び表5-1)。TGAの結果は、最大150℃までに3.7%の重量損失を示し(
図7A)、DSCの結果(
図7B)は、116.1℃及び170.3℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した。
【0155】
VH-XRPDを、更なる同定のために、1:1の化合物IIトリス塩(形態B)サンプルに対して行った。VH-XRPDは、トリス塩形態Bが、N
2をもって10%RHで新しい形態に変換し、周囲条件(40%RH)で曝露された後に元に変換することを示した。特徴評価の結果を組み合わせると、1:1の化合物IIトリス塩(形態B)は水和物であり、≦10%RH未満で脱水すると考えられる。
【表21】
【0156】
5.1.2代替の調製方法
THF/MTBE(1:4、v:v)中の化合物IIとトリスの遊離形態との混合物(1:0.95のモル比)を7日間撹拌し、続いてRTで約3時間真空乾燥させると、1:1の化合物IIトリス塩(形態B)が得られた。
【0157】
実施例6.1:1の化合物IIトリス塩(形態G)の結晶性形態の調製及び特徴評価
6.1調製方法
15mgの1:1の化合物IIトリス塩(形態B)を0.1mLのNMPに溶解して、透明な溶液を形成した。CH3CNを溶液に一滴ずつ添加した。沈殿物が観察された。遠心分離を介して固体を単離し、105℃まで加熱し、次いでRTまで冷却すると、1:1の化合物IIトリス塩(形態G)が得られた。
【0158】
得られた固体を、XRPDによって更に特徴付けた(
図8及び表6-1)。
【0159】
TGAの結果(
図9)は、最大150℃までに11.75%の重量損失を示した。
【0160】
DSC結果(
図10)は、50.9℃及び129.5℃(ピーク温度)で2回の吸熱を示した。
【表22】
【0161】
実施例7.1:1の化合物IIトリス塩(形態B)及び1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)の結晶性形態の特徴評価
1:1の化合物IIトリス塩(形態B)及び1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)を、動的可溶度、固体安定性、及び溶液安定性によって評価した。遊離形態化合物IIもまた比較のために評価した。更に、両方の塩の吸湿性をDVSによって評価した。
【0162】
7.1動的可溶度
動的可溶度を、水及び3つの生体関連媒体(SGF、FaSSIF、及びFeSSIF)中の1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)、1:1の化合物IIトリス塩(形態B)、及び化合物IIの遊離形態について、1/4/24時間評価した。3~4mgの固体を3mLの各培地に懸濁すると(遊離形態を使用して計算された固体負荷:1mg/mL)、懸濁液が得られ、続いて37℃で1/4/24時間、ローリング(25rpm)した。各時点で、約1.0mLの懸濁液を、遠心分離(12000rpm、2分)及び0.45μmのPTFE膜を通す濾過のためにサンプリングすると、HPLC及びpH試験用の上清が得られ、残留固体をXRPDによって分析した。詳細な結果を表7-1に要約した。可溶度評価の結果に基づいて、1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)及び1:1の化合物IIトリス塩(形態B)は、SGF、FaSSIF、及びFeSSIFにおいて同様の可溶度プロファイルを示し、これは、1時間以内の遊離形態の可溶度プロファイルよりも高かった。1:1の化合物IIトリス塩(形態B)は、H
2Oでより良好な可溶度を示した。サンプルは全て懸濁液であったため、純度の結果は、単に参考値であった。
【表23】
【0163】
7.2.1固体安定性評価(I/II)
1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)、1:1の化合物IIトリス塩(形態B)、及び遊離形態の物理的及び化学的安定性を評価するために、サンプルを60℃で1日間、及び25℃/60%RH又は40℃/75%RHでそれぞれ1週間の条件下で保存した。XRPD及びHPLCを使用して固体を特徴付け、結果を表7-2-1に要約した。XRPDの結果及びHPLCクロマトグラムによって証明されるように、1週間後に形態変化は観察されなかった。1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)及び1:1の化合物IIトリス塩(形態B)は、化合物IIの遊離形態よりも良好な化学的安定性を示した。
【表24】
【0164】
7.2.2固体安定性評価(II/II)
1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)及び1:1の化合物IIトリス塩(形態B)の化学的安定性を固体状態で更に評価し、サンプルを周囲条件又は40℃/75%RHの下でそれぞれ1日間及び3日間保存した。HPLC純度及び重量純度を、HPLCを使用して3回試験し、結果を表7-2-2に要約した。1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)及び1:1の化合物IIトリス塩(形態B)は、評価条件において同様の化学的安定性を示した。
【表25】
【0165】
7.3溶液安定性評価
溶液安定性を、SGF(pH1.8)及びpH8.0の緩衝液中の1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)及び1:1の化合物IIトリス塩(形態B)について、RTで評価した。透明な溶液を2つの濃度(0.01mg/mL、0.05mg/mL)で調製し、次いでRTで6時間、1/5日、又は6時間、1/3/7日間置いた。両方の塩とも、pH8.0の緩衝液中でより良好な安定性を示したが、pH1.8の溶液の純度は、1日後にわずかに減少した。HPLC純度及びpH値を試験し、結果を表7-3-1~表7-3-4に要約した。
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【0166】
7.4吸湿性
湿度の関数としての固体形態の安定性を調査するために、1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)及び1:1の化合物IIトリス塩(形態B)のDVS等温線プロットを、25℃、0%RH~95%RHで収集した。結果を表7-4に要約した。1:1の化合物IIクエン酸塩(形態A)については、0.71%の吸水率が25℃/80%RHで観察された。1:1の化合物IIトリス塩(形態B)については、吸水率は、サイクル2収着曲線において0%~10%RHで2.47%増加した。吸水率は、10%~80%RHで0.97%増加し、プラットフォームが観察された。両方の塩について、DVS試験後も形態変化は観察されなかった。
【表30】