IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 鹿児島大学の特許一覧

特許7703208ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法
<>
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図1
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図2
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図3
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図4
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図5
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図6
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図7
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図8
  • 特許-ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-27
(45)【発行日】2025-07-07
(54)【発明の名称】ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 1/08 20060101AFI20250630BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20250630BHJP
   C12N 1/16 20060101ALN20250630BHJP
【FI】
C12G1/08
C12M1/42
C12N1/16 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021022260
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124550
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】三井 好古
(72)【発明者】
【氏名】高峯 和則
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳一
(72)【発明者】
【氏名】末吉 由育
(72)【発明者】
【氏名】小林 領太
【審査官】鉢呂 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011551(JP,A)
【文献】特開平09-009950(JP,A)
【文献】特開2016-220652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0182309(US,A1)
【文献】特開2007-319005(JP,A)
【文献】特開平02-039887(JP,A)
【文献】KUANYSHEV, Nurzhan, et al.,The spoilage yeast Zygosaccharomyces bailii: Foe or friend?,Yeast,2017年06月29日,Vol.34,pp.359-370,<DOI: 10.1002/yea.3238>
【文献】BAYRAKTAR, V.N.,MAGNETIC FIELD EFFECT ON YEAST Saccharomyces cerevisiae ACTIVITY AT GRAPE MUST FERMENTATION,BIOTECHNOLOGIA ACTA,2013年,Vol.6, No.1,pp.125-137
【文献】CHANDRA, Mahesh, et al.,Forest Oak Woodlands and Fruit Tree Soils Are Reservoirs of Wine-Related Yeast Species,American Journal of Enology and Viticulture,2020年,Vol.71:3,pp.191-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
C12M
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイン酵母による原料のアルコール発酵において、前記原料に磁束密度が0.5~5テスラの磁場を前記ワイン酵母によるアルコール発酵に要する時間印加して前記原料に含まれるZygosaccharomyces bailiiの分裂及び成長を抑制する工程を含む、
ワインの製造方法。
【請求項2】
前記ワイン酵母は、
ブドウ酒用酵母第4号である、
請求項1に記載のワインの製造方法。
【請求項3】
前記磁場は、
永久磁石によって印加される、
請求項1又は2に記載のワインの製造方法。
【請求項4】
原料のアルコール発酵によって得られたワインに、磁束密度が0.5~5テスラの磁場を印加して前記ワインに含まれるZygosaccharomyces bailiiの分裂及び成長を抑制する工程を含む、
ワインの汚染防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワインの製造方法及びワインの汚染防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインの製造では、アルコール発酵に使用されるワイン酵母が原料中のグルコース等の糖を分解することでアルコールが生成する。赤ワインの場合、原料はぶどうの果汁、果皮、果肉及び種子を含む混合物(果醪)である。白ワインの場合、発酵の前にぶどうを圧搾し、果皮を分離した果汁をアルコール発酵させる。
【0003】
アルコール発酵の際に汚染原因酵母が存在すると、汚染原因酵母によってワインの澱(中性塩)の原因となる物質が生成される。澱は、ワインの風味を劣化させてしまう。通常、汚染原因酵母を抑制するために、亜硫酸塩が添加される。過剰な亜硫酸塩はワインの風味を損なうことがある。また、香り、味わい及び舌触り等が多様なワインに応じて、亜硫酸塩の適量を見極めるのは困難である。
【0004】
汚染原因酵母の増殖を抑制できれば、ワイン中の澱の発生を抑えることができる。酵母の増殖は磁場中で抑制されることが知られている。例えば、特許文献1には、磁場中で焼酎酵母の増殖が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-11551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、酵母の種類によって、特定の磁束密度の磁場における増殖抑制の程度に違いがある。汚染原因酵母の磁場における増殖特性はこれまで知られていない。ワインの製造におけるアルコール発酵に磁場を利用するには、汚染原因酵母の磁場における増殖特性のみならず、ワイン酵母への影響も考慮しなければならない。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、ワインの風味を向上させることができるワインの製造方法及びワインの汚染防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係るワインの製造方法は、
ワイン酵母による原料のアルコール発酵において、前記原料に磁束密度が0.5~5テスラの磁場を前記ワイン酵母によるアルコール発酵に要する時間印加して前記原料に含まれるZygosaccharomyces bailiiの分裂及び成長を抑制する工程を含む。
【0009】
この場合、前記ワイン酵母は、
ブドウ酒用酵母第4号である、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記磁場は、
永久磁石によって印加される、
こととしてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係るワインの汚染防止方法は、
原料のアルコール発酵によって得られたワインに、磁束密度が0.5~5テスラの磁場を印加して前記ワインに含まれるZygosaccharomyces bailiiの分裂及び成長を抑制する工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ワインの風味を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係るワイン製造装置の構成を示す図である。
図2】実施例1においてゼロ磁場又は5テスラ中で培養した場合のワイン酵母の個数の経時変化を示す図である。
図3】実施例1においてゼロ磁場又は5テスラ中で培養した場合の汚染原因酵母の個数の経時変化を示す図である。
図4】実施例1におけるワイン酵母及び汚染原因酵母それぞれのゼロ磁場中での培養に対する5テスラ中での培養の菌数の抑制割合を示す図である。
図5】実施例2においてワイン酵母及び汚染原因酵母をゼロ磁場中で混合培養した場合の菌数の経時変化を示す図である。
図6】実施例2においてワイン酵母及び汚染原因酵母を5テスラ中で混合培養した場合の菌数の経時変化を示す図である。
図7】実施例2においてゼロ磁場中でワイン酵母を単体で培養した場合と、汚染原因酵母と混合してワイン酵母を培養した場合のワイン酵母の菌数の経時変化を示す図である。
図8】実施例2において5テスラ中でワイン酵母を単体で培養した場合と、汚染原因酵母と混合してワイン酵母を培養した場合のワイン酵母の菌数の経時変化を示す図である。
図9】実施例3においてゼロ磁場又は0.5テスラ中で培養した汚染原因酵母の菌数の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。
【0016】
本実施の形態に係るワインの製造方法について説明する。以下では、主に原料のアルコール発酵の工程について説明するが、以下で説明しない、ワインの製造方法に含まれるぶどうの破砕(圧搾)、原料の調製、澱引き及び澱下げ等の安定化、殺菌、濾過、熟成及び貯蔵等は公知の方法で必要に応じて適宜行われる。
【0017】
ワインの原料には汚染原因酵母が含まれることがある。汚染原因酵母としては、例えばZygosaccharomyces bailii(独立行政法人製品評価技術基盤機構が定めるところのNBRC No.0468)、Pichia membranifacins(独立行政法人製品評価技術基盤機構が定めるところのNBRC No.0129)及びCandida krusei(独立行政法人製品評価技術基盤機構が定めるところのNBRC No.0841)が挙げられる。
【0018】
下記実施例に示すように、ワイン酵母及び汚染原因酵母は、磁場感受性が相互に異なる。磁場感受性とは、磁場による成長、分裂又は増殖の影響の受けやすさである。より具体的には、磁場感受性は、磁場が印加された場合のワイン酵母及び汚染原因酵母の増殖の抑制度(増殖抑制の度合い)である。ここでの増殖の抑制度とは、磁場を印加していない場合(以下、単に「ゼロ磁場」ともいう)と比較して、磁場が所定時間印加された場合のワイン酵母及び汚染原因酵母の増殖が抑制された程度である。ワイン酵母及び汚染原因酵母は増殖によって個体数が増えるため、例えば、同じ酵母数でアルコール発酵を開始し、所定時間後におけるゼロ磁場での汚染原因酵母の増加数と磁場を印加した場合の汚染原因酵母の増加数とを比較することで増殖の抑制度を評価できる。
【0019】
本実施の形態に係るワインの製造方法は、ワイン酵母による原料のアルコール発酵において、原料に磁場を印加して汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制する工程を含む。ワイン酵母は特に限定されず、例えば、Saccharomyces cerevisiae Wine yeast W-3(ブドウ酒用酵母第4号;独立行政法人酒類総合研究所が定めるところのRIB No.1027)及びSaccharomyces cerevisiae Wine yeast oc-2(独立行政法人酒類総合研究所が定めるところのRIB No.1057)等である。
【0020】
以下では、本実施の形態に係るワインの製造方法に好適なワイン製造装置100について詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係るワイン製造装置100を示す。ワイン製造装置100は、保持部1と、磁場印加部2と、温度制御部3と、温度監視部4と、を備える。
【0021】
保持部1は、ワイン酵母を保持する。例えば、保持部1は、ワイン酵母が入れられた容器5を挿入可能な中空の筒状に形成される。容器5は、ワイン酵母に加え、アルコール発酵させる糖を含むワインの原料が入れられる容器である。赤ワインの場合の原料はぶどうの果醪等であって、白ワインの場合の原料は果皮を分離した果汁等である。
【0022】
保持部1は、ワイン酵母が入れられた容器5を支持することで、ワイン酵母を保持する。好ましくは、保持部1を発泡プラスチック等の外部から温度干渉を受けにくい断熱性の高い材料で形成する、あるいは少なくとも保持部1の外周面を断熱性の高い材料で覆うことで、容器5が挿入される保持部1の内部の温度は一定に保たれる。同時に、保持部1は十分な通気性の機能を有する。また、保持部1は振とう機能を備えてもよい。なお、容器5を介さずとも、保持部1を容器とすることで、保持部1がワイン酵母を保持できるようにしてもよい。
【0023】
なお、ワイン製造装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、外部記憶装置と、RAM(Random Access Memory)と、時間を計測するタイマーと、を備え、CPUが外部記憶装置に記憶されたソフトウェアプログラムをRAMに読み出して、ソフトウェアプログラムを実行制御することにより、以下で説明する磁場印加部2、温度制御部3及び温度監視部4の機能を実現する。
【0024】
磁場印加部2は、保持部1に保持されたワイン酵母に直流磁場を印加する。より詳細には、磁場印加部2は、保持部1の配置に合わせて設置される超伝導マグネット6を介して所定の磁束密度の直流磁場を保持部1に印加する。磁場印加部2が印加する直流磁場の磁束密度は、超伝導マグネット6が印加可能な磁束密度であれば任意であるが、0.3~10テスラ、0.5~8テスラ、又は3~6テスラである。
【0025】
磁場印加部2がワイン酵母に直流磁場を印加する時間は、特に限定されず、使用するワイン酵母によるアルコール発酵に要する時間に応じて決定される。磁場印加部2は、タイマーを参照することにより、直流磁場を印加してからの経過時間等を取得できる。これにより、磁場印加部2は、直流磁場を印加してから所定時間が経過後、ワイン酵母への直流磁場の印加を停止する。
【0026】
温度制御部3は、保持部1に保持されたワイン酵母の環境の温度を制御する。温度制御部3は、ワイン酵母はもちろん、容器5に入れられた原料の温度を制御する。温度制御部3は、ワイン酵母の環境の温度を、20℃以上、好ましくは26~35℃に制御する。
【0027】
温度制御部3は、例えば、低温恒温水循環装置でワイン酵母の環境の温度を制御する。低温恒温水循環装置は、0.1~0.5℃の温度調節精度で、循環水の温度をあらかじめ設定された所定の温度に維持する。循環水として0℃でも凍結しない塩水等の不凍液を使用してもよい。低温恒温水循環装置は、循環水ホース7と接続され、不凍液を循環水ホース7内に循環させる。
【0028】
循環水ホース7は、保持部1の内部を通るように配置される。低温恒温水循環装置から送り出された不凍液は、循環水ホース7を介して、保持部1の内部を通過し、低温恒温水循環装置に流入する。循環水ホース7の外周面は、保温性を有するシートで被覆されており、内部を通る不凍液の温度が維持される。ただし、保持部1の内部にある循環水ホース7の外周面は、当該シートで被覆されていない。このため、保持部1の内部の温度は、循環水ホース7内を通る不凍液との間の熱伝導によって、低温恒温水循環装置から供給された不凍液の温度とほぼ等しくなる。このように温度制御部3によって、保持部1に保持されたワイン酵母の環境の温度が制御される。
【0029】
温度監視部4は、ワイン酵母の環境の温度を監視する。例えば、温度監視部4は、温度センサ8を備える。温度センサ8は、保持部1の内部、好ましくは容器5の中に設置される。温度センサ8としては、磁場印加部2によって印加される直流磁場の影響をほとんど受けない白金ロジウム製の熱電対を用いたものが好ましい。温度監視部4は、温度センサ8で検出した温度を、例えばデータロガー等に記録するようにしてもよい。温度監視部4がワイン酵母の環境の温度を監視することで、使用者は、保持部1に保持されたワイン酵母の環境の温度を確認することができる。
【0030】
本実施の形態に係るワイン製造装置100によれば、使用するワイン酵母の磁場感受特性に応じて、磁場印加部2がワイン酵母に印加する直流磁場の磁束密度及び直流磁場を印加する時間と、温度制御部3が制御するワイン酵母の環境の温度とを適宜設定することができる。
【0031】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るワインの製造方法は、ワイン酵母による原料のアルコール発酵において、原料に磁場を印加して汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制する。汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制することによって、ワインの澱の原因となる物質の生成を抑制することができる。この結果、ワインの風味を向上させることができる。
【0032】
なお、容器5は、通気性を有し、磁場印加部2によって印加される直流磁場に影響しない合成樹脂等の任意の物質で形成されてもよい。また、保持部1は、ワイン酵母を含むアルコール発酵の原料が循環する流路を備えてもよい。該流路を、磁場印加部2による磁場の空間の大きさに応じて形成することで、ワイン酵母に直流磁場を効率よく印加することができる。
【0033】
また、磁場印加部2は、直流磁場を印加できるものであれば、超伝導マグネット6に限らず、電磁石又は永久磁石等を使用して、ワイン酵母に直流磁場を印加してもよい。永久磁石の場合、容器5に磁場が及ぶ位置に永久磁石を配置すればよいので、簡便に原料に磁場を印加することができる。なお、上記の低温恒温水循環装置では、不凍液を使用したが、これに限らず、水及びエタノール等を用いてもよい。
【0034】
別の実施の形態では、ワインの汚染防止方法が提供される。ワインの汚染防止方法は、原料のアルコール発酵によって得られたワインに、磁場を印加してワインに含まれる汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制する工程を含む。当該工程は、特にアルコール発酵後のワインの熟成及び貯蔵等に有用である。例えば、ワインを樽等の発酵熟成容器に詰めて、乳酸発酵をさせて酸味を和らげる樽熟成においても、ワインに磁場を印加することで、ワインに含まれる汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制できる。また、瓶詰めされて保管されているワインに対して磁場を印加してワインに含まれる汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制してもよい。なお、磁場を印加してワインに含まれる汚染原因酵母の分裂及び成長を抑制するとき、ワイン製造装置100は、撹拌、振動、振とう及び温度差等、酵母菌の分布を均質化する機能を備えてもよい。
【0035】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0036】
[実施例1]
(ワイン製造装置の作製)
通気性のある培養栓で栓をした試験管(以下、「試料用容器」とする)を挿入可能に形成した中空の発泡プラスチックの内部に、循環水ホースを試料用容器と同一空間内に配置されるように挿入し、恒温試料室を作製した。恒温試料室は、直径50mm以内とした。なお、同様の構成で、磁場を印加しない恒温試料室を独立して作製した。上記発泡プラスチック内部の部分を除く循環水ホースの外周面を、保温シートで被覆した。循環水ホースを温度コントローラ付恒温水循環装置(NCB-1210B、東京理化器械社製)に接続し、温度コントローラ付恒温水循環装置で温度が制御された冷却水が循環水ホース内を循環できるようにした。
【0037】
試料用容器内の温度を検出できるように、温度センサとしてR熱電対を3本の試験管内部にそれぞれ挿入し、データロガー(midiLOGGER、GL200A、グラフィック社製)と接続した。一方、磁場を印加しない恒温試料室に挿入される3つの試料用容器内の温度は、それぞれK熱電対(太さ1mmかつ長さ300mmを3本)で検出した。また、K熱電対(太さ3mmかつ長さ100mmを1本)を用いて、室温を測定した。
【0038】
室温実験空間を有する超伝導マグネット(玉川製作所製、最大5テスラを発生可能)の磁場が適正に及ぶ位置に上記で作製した恒温試料室を設置した。磁場を印加しない恒温試料室は、当該超伝導マグネットの磁場の影響を受けない位置に設置した。
【0039】
上記の温度コントローラ付恒温水循環装置によって、恒温試料室内の温度は、0.5℃の温度調節精度で0~40℃に培養時間48時間の間制御されることを確認した。
【0040】
(実験方法)
まず、グルコース、ペプトン、乾燥酵母エキス及び麦芽エキスを10:5:3:3の割合で混合撹拌し滅菌処理を行うことでYeast extract-Malt extract培地(以下、「YM培地」とする)を調製した。YM培地に汚染原因酵母又はワイン酵母を植菌した。前培養として、30℃で48時間培養することで酵母液を調製した。YM培地に、調製した酵母液30μlを植菌し、以下、これを試料として使用した。なお、使用した酵母菌は、汚染原因酵母(Zygosaccharomyces bailii)及びワイン酵母(ブドウ酒用酵母第4号)である。
【0041】
次に、超伝導マグネットによる磁場が目標の磁束密度に達してから、試料を含む試料用容器を恒温試料室に挿入した。これと同時に磁場を印加しない恒温試料室にも試料を含む試料用容器を挿入した。続いて、30分間で試料を30℃に昇温した。培養時間は48時間とした。
【0042】
培養後、血球計算盤を用いて、磁場中で培養した酵母の菌数及び磁場を印加せずに同じ条件で培養した酵母の菌数を、それぞれ計数した。
【0043】
(結果)
図2は、30℃でゼロ磁場又は5テスラ中で培養した場合のワイン酵母の菌数の培養時間依存性を示す。また、図3はゼロ磁場又は5テスラ中で培養した場合の汚染原因酵母の菌数の培養時間依存性を示す。ここで、菌数は血球計算盤で計数したマス1個あたりの菌の個数とした。
【0044】
図4はワイン酵母及び汚染原因酵母それぞれのゼロ磁場中での培養に対する5テスラ中での培養の菌数の抑制割合を示す。ワイン酵母及び汚染原因酵母ともに、すべての培養時間において5テスラ中ではゼロ磁場に比べて増殖の抑制度が大きかった。その抑制度はすべての培養時間において汚染原因酵母のほうが大きかった。
【0045】
[実施例2]
(実験方法)
磁場中の培養装置を使用し、ワイン酵母及び汚染原因酵母を混合した試料について培養実験を行った。3mlのYM培地でそれぞれの酵母の増殖が定常状態になるまで前培養を行った。その後、2つの酵母菌をYM培地に植菌する際、ワイン酵母と汚染原因酵母の菌数が1:1になるように初期条件を揃えた。磁場中培養については、実施例1と同様の条件で行った。培養液を滅菌水で希釈し、シャーレに入っているTTC下層培地に塗抹した。シャーレを30℃で2日間オートクレーブの中に置き、培養した。培養後、TTC上層培地を重層し、ワイン酵母だけを染色し、菌数を測定した。シャーレ上に培養されているワイン酵母と汚染原因酵母を計数し、希釈率を考慮し、シャーレ上の菌数とした。
【0046】
(結果)
図5は、ワイン酵母及び汚染原因酵母をゼロ磁場中で混合培養した場合の菌数の培養時間依存性を示す。図6は、ワイン酵母及び汚染原因酵母を5テスラ中で混合培養した場合の菌数の培養時間依存性を示す。ゼロ磁場であっても5テスラであっても、汚染原因酵母の菌数はワイン酵母に比べ著しく少なかった。ワイン酵母の菌数に関しては、ゼロ磁場では48時間培養においても増殖が定常状態に達していないが、5テスラでは定常状態に達している傾向を示した。
【0047】
図7は、ゼロ磁場中でワイン酵母を単体で培養した場合と、汚染原因酵母と混合してワイン酵母を培養した場合のワイン酵母の菌数の時間依存性を示す。ゼロ磁場において、単体培養では24時間で菌の増殖が定常状態に達しているが、混合培養では24時間でも上昇傾向を示した。よって、混合培養において、汚染原因酵母によってワイン酵母の増殖が抑制されていることが示された。図8は、5テスラ中でワイン酵母を単体で培養した場合と、汚染原因酵母と混合してワイン酵母を培養した場合のワイン酵母の菌数の時間依存性を示す。5テスラにおいては、単体培養及び混合培養どちらの場合においても24時間で菌の増殖が定常状態に達する傾向を示した。5テスラでの培養において、汚染酵母の増殖がワイン酵母より抑制されることで、ワイン酵母が選択的に増殖したことが示唆された。
【0048】
[実施例3]
(実験方法)
永久磁石を用いて、汚染原因酵母の磁場中培養実験を行った。実施例1と同様の手法で前培養した汚染原因酵母30μlを、シャーレに植菌した。0.5テスラ及びゼロ磁場において、30℃で12時間、24時間又は72時間の培養を行った。培養後、血球計算盤を用いて菌数を計数した。
【0049】
(結果)
図9にゼロ磁場又は0.5テスラ中で培養した汚染原因酵母の菌数の時間依存性を示す。菌数は血球計算盤の1マスあたりで観察された菌数とした。菌数は、0.5テスラにおいて明確に減少していることがわかる。すなわち、超伝導電磁石を用いて得られる数テスラ程度の磁場によっても選択的に汚染原因酵母の増殖を抑制できるが、永久磁石で発生できる0.5テスラ程度の磁場においても汚染原因酵母の増殖を抑制することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ワインの製造に好適である。
【符号の説明】
【0051】
1 保持部
2 磁場印加部
3 温度制御部
4 温度監視部
5 容器
6 超伝導マグネット
7 循環水ホース
8 温度センサ
100 ワイン製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9