(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-27
(45)【発行日】2025-07-07
(54)【発明の名称】可変容量型油圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 1/324 20200101AFI20250630BHJP
F04B 1/2042 20200101ALI20250630BHJP
F04B 1/2078 20200101ALI20250630BHJP
F04B 1/306 20200101ALI20250630BHJP
【FI】
F04B1/324
F04B1/2042
F04B1/2078
F04B1/306
(21)【出願番号】P 2021063161
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 晃
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-092758(JP,U)
【文献】特開2019-157732(JP,A)
【文献】特開昭7-189887(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0132069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/324
F04B 1/2042
F04B 1/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、該ケーシングに回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられたシリンダブロックと、該シリンダブロック内に設けられ、給排用のシリンダポートを持つ複数個のシリンダと、該各シリンダ内に往復動可能に嵌挿されたピストンと、前記シリンダブロックと対面するように前記ケーシング内に設けられ、前記各シリンダと間欠的に連通する吸入ポートと吐出ポートとが一対の切換ランドを挟んで形成されたバルブプレートと、を備え、
前記シリンダブロックを前記バルブプレートに摺接させながら回転させて前記ピストンを往復動させることにより、前記吸入ポートから前記シリンダポートを介して油を吸い込んで前記シリンダポートを介して前記吐出ポートから吐き出す可変容量型油圧ポンプであって、
前記バルブプレートの前記切換ランドの少なくとも一方に小径の孔よりなるコンジットが設けられるとともに、前記バルブプレートの前記シリンダブロックとの摺接面において前記シリンダポートの軌道から外れた部位に前記コンジットに接続される連通溝が設けられ、
前記シリンダブロックの前記各シリンダの前記ピストンとの摺動面内に油溝が設けられるとともに、前記シリンダブロックの前記バルブプレートとの摺接面に、前記連通溝と対面接続可能な油孔が前記各シリンダに対応して設けられ、
前記シリンダブロックの回転時に、前記連通溝と前記油溝とが前記油孔を介して順次連通するようになっており、
前記バルブプレートにおける前記一対の切換ランドのうち前記吐出ポートから前記吸入ポートに切り換わる区間である一方の切換ランドのみに、前記コンジット及び前記連通溝が設けられ
、
前記油溝は、前記シリンダにおける前記ピストンとの摺動面内に環状かつ前記シリンダの軸周りの全周に形成され、
前記油孔は、前記シリンダブロックの前記バルブプレートとの摺接面から前記シリンダの軸方向に対して傾斜するように設けられていることを特徴とする可変容量型油圧ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプにおいて、
前記連通溝の周方向の長さは、前記吐出ポートの周方向の長さより長く、当該油圧ポンプの吐出行程全域に亘って、前記油孔を介して前記油溝に圧油が順次途切れなく供給されることを特徴とする可変容量型油圧ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプにおいて、
前記連通溝と前記油孔のいずれかとが常時連通するように、隣り合う前記油孔同士の周方向の離隔距離に対応して前記連通溝の周方向の長さが設定され、前記油孔を介して前記油溝に圧油が順次途切れなく供給されることを特徴とする可変容量型油圧ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプにおいて、
前記油溝は、前記シリンダにおける前記ピストンが引き出される側の開口端縁部寄りの部位に設けられていることを特徴とする可変容量型油圧ポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプにおいて、
前記油孔は、前記シリンダブロックの前記バルブプレートとの摺接面から前記シリンダブロックの外周側に向かって前記シリンダの軸方向に対して傾斜するように設けられ、
前記油溝は、前記シリンダにおける前記ピストンとの摺動面内の外周側の部位で前記油孔に接続されていることを特徴とする可変容量型油圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホイールローダ、油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械に搭載するのに好適な可変容量型油圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化抑制のためにCO2削減が推進されており、建設機械においても燃費向上を図る取り組みがなされている。
【0003】
また、建設機械等に搭載され、エンジンあるいは電動機の駆動源(動力源とも呼ぶ)によって駆動される可変容量型油圧ポンプとして、例えば特許文献1、2等にも所載のように、斜板式のもの等がよく知られている。
【0004】
上記燃費向上を図る取り組みの一環として、上記建設機械等に使用される油圧ポンプにおいても、システム効率向上のために、建設機械が仕事をしないスタンバイ状態にあるときには無駄に油を吐出しないように油圧ポンプの吐出流量を最小にするなどの対策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3154329号公報
【文献】特開2011-32883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景において、油圧システムの観点からすれば、燃費を良くするために油圧損失を減らすには油圧ポンプの最小容量をゼロにすることが最善策となる。しかし、油圧ポンプの信頼性という観点からすれば、ポンプ容量をゼロにすることは、シリンダブロックのシリンダ(穴)の中を往復動するピストンのストロークがゼロ状態で回転することから、ピストンとシリンダの摺動部の潤滑不良を引き起こし、ピストンのかじり焼き付き等の損傷に至るおそれがある。そのため、建設機械等に使用される油圧ポンプでは、ピストンの潤滑状態が維持できる容量が最小容量(例えば、最大容量の1/5程度)として設定され、それ以下にはできないように設計されている。
【0007】
かかる事情のため、油圧ポンプは、エンジン等の駆動源が停止しない限り、スタンバイ状態においても、無駄に油を吐出しなければならず、油圧システム効率向上の妨げになっているという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、潤滑不良を引き起こすことなく、信頼性を向上できるとともに、最小吐出容量を従来よりも小さく設定することができ、油圧システムの無負荷時損失低減を図ることのできる可変容量型油圧ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明に係る可変容量型油圧ポンプは、基本的には、ケーシングと、該ケーシングに回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられたシリンダブロックと、該シリンダブロック内に設けられ、給排用のシリンダポートを持つ複数個のシリンダと、該各シリンダ内に往復動可能に嵌挿されたピストンと、前記シリンダブロックと対面するように前記ケーシング内に設けられ、前記各シリンダと間欠的に連通する吸入ポートと吐出ポートとが一対の切換ランドを挟んで形成されたバルブプレートと、を備え、前記シリンダブロックを前記バルブプレートに摺接させながら回転させて前記ピストンを往復動させることにより、前記吸入ポートから前記シリンダポートを介して油を吸い込んで前記シリンダポートを介して前記吐出ポートから吐き出すようになっている。そして、前記バルブプレートの前記切換ランドの少なくとも一方に小径の孔よりなるコンジットが設けられるとともに、前記バルブプレートの前記シリンダブロックとの摺接面において前記シリンダポートの軌道から外れた部位に前記コンジットに接続される連通溝が設けられ、前記シリンダブロックの前記各シリンダの前記ピストンとの摺動面内に油溝が設けられるとともに、前記シリンダブロックの前記バルブプレートとの摺接面に、前記連通溝と対面接続可能な油孔が前記各シリンダに対応して設けられ、前記シリンダブロックの回転時に、前記連通溝と前記油溝とが前記油孔を介して順次連通するようになっており、前記バルブプレートにおける前記一対の切換ランドのうち前記吐出ポートから前記吸入ポートに切り換わる区間である一方の切換ランドのみに、前記コンジット及び前記連通溝が設けられ、前記油溝は、前記シリンダにおける前記ピストンとの摺動面内に環状かつ前記シリンダの軸周りの全周に形成され、前記油孔は、前記シリンダブロックの前記バルブプレートとの摺接面から前記シリンダの軸方向に対して傾斜するように設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る可変容量型油圧ポンプでは、シリンダ内の高圧油は、シリンダポートからコンジット及び連通溝を経て、該連通溝の直上を通過するシリンダブロックの油孔に導かれ、この油孔を介して油溝に供給される。そのため、ピストンとシリンダとの摺動部の油膜圧力は、従来のものに比べて油溝付近で上昇するので、油膜切れが抑制されて摺動部の潤滑状態が良好なものとなるとともに、ピストンのかじり焼き付きが生じやすい、シリンダにおける開口端縁部付近も効果的に潤滑される。
【0011】
そのため、特にポンプ容量が小さい時においてもかじり焼き付きのリスクが低減できるので、油圧ポンプの信頼性を向上できる。また、かじり焼き付きのリスクが低減できることから、従来の油圧ポンプよりも最小吐出容量を小さくできるので、システムのスタンバイ状態においても無駄な油の吐出を抑制でき、その結果、油圧システムの無負荷時損失低減も図ることができる。
【0012】
また、本発明に係る可変容量型油圧ポンプが搭載された建設機械においては、信頼性向上と燃費向上を図ることができる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る可変容量型油圧ポンプの一実施形態が適用された建設機械の一つであるホイールローダの一例の油圧回路図。
【
図2】本発明に係る可変容量型油圧ポンプの第1実施形態の全体断面図。
【
図8】第1実施形態の構成並びに動作の説明に供される図であり、
図3に示されるバルブプレートの平面図に
図5に示されるシリンダブロックの底面図(破線)を被せた図。
【
図9】第1実施形態の作用効果の説明に供される図であり、シリンダおよびピストン周りを示す模式図。
【
図10】本発明に係る可変容量型油圧ポンプの第2実施形態のバルブプレートの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る可変容量型油圧ポンプの第1実施形態(符号は2)および第2実施形態(符号は10)が適用された建設機械の一つであるホイールローダの一例の油圧回路図である。以下、まずホイールローダ100を説明する。
【0017】
図1において、ホイールローダ100は、動力源としてエンジン1を備え、このエンジン1により油圧ポンプ2(第1実施形態の可変容量型油圧ポンプ)を駆動するようになっている。油圧ポンプ2から吐出される圧油は、方向切換弁3を介してアクチュエータである油圧シリンダ4に導かれる。主リリーフ弁6は、油圧ポンプ2の最高圧力を制限するために設けられている。パイロットポンプ7は油圧ポンプ2の軸に連結されており、パイロットポンプ7の吐出油は、操作レバー8とポンプレギュレータ9に供給される。操作レバー8には減圧弁が内蔵されており、操作方向それぞれの操作量に比例した2次圧力を発生する。この2次圧力は方向切換弁3のパイロットポート3a、3bに供給されており、方向切換弁3の開度はこの2次圧力によって制御される。以上の油圧回路は、タンク5から油圧ポンプ2が油を吸い上げて、吐出した油を方向切換弁3を経て、油圧シリンダ4あるいはセンタバイパスからタンク5に戻る開回路システムである。開回路システムは、主にフロントアクチュエータを駆動する回路に用いられる。
【0018】
一方、エンジン1は、前記開回路システムの油圧ポンプ2と同時に、歯車等を介して油圧ポンプ10(第2実施形態の可変容量型油圧ポンプ)を駆動するようになっている。該油圧ポンプ10は、走行用のアクチュエータである油圧モータ11と閉回路を構成している。閉回路システムでは、油圧ポンプ10とアクチュエータである油圧モータ11が直接接続されるため、油はタンク5へ戻らずに回路内を循環する。その場合、油圧ポンプ10の内部は構造的に摺動部を有するため、この摺動部から漏れ損失を伴う。その結果、高圧で稼働するほど漏れ損失は増加することになる。このことから、閉回路システムでは、漏れた分だけ、回路内の油が不足してくる。そこで、この閉回路には、油圧ポンプ10内での漏れ損失を補うべくチャージポンプ50が設けられている。この油圧ポンプ10は、二つのポートのいずれからも吐出するため、強度的な問題から狭い油路となっている。そのため、自吸性が悪いので、チャージリリーフ弁51で予め設定されたチャージ圧で運転され、圧力の低い側の油路へチェック弁52あるいは53を経て、チャージ油は押し込まれるようになっている。上記のように油圧ポンプ10と走行用の油圧モータ11とを閉回路構成とすることにより、ホイールローダ100の車体12の前進・後進(前後方向走行)およびその速度を油圧ポンプ10の斜板の傾転角度によって制御することができる。
【0019】
[可変容量型油圧ポンプの第1実施形態]
次に、上記した本第1実施形態の開回路用の可変容量型油圧ポンプ2を
図2の全体断面図を参照しながら説明する。
【0020】
図2に示す油圧ポンプ2は、内部が空洞の有底筒状のフロントケーシング21と底蓋状のリヤケーシング22とからなるポンプケーシング(単にケーシングとも呼ぶ)20を備える。このポンプケーシング20の両端に設けられた軸受21A、22Aに回転軸25の両端近くが支持され、この回転軸25の一端側(フロント側)に設けられたスプライン軸部25aが動力源に連結されるようになっている。回転軸25の中間スプライン軸部25bには、厚肉短円筒状のシリンダブロック23が外嵌固定されており、回転軸25とシリンダブロック23とは一体回転するようになっている。
【0021】
シリンダブロック23には、回転軸25の回転軸線Oを中心とする同心円上に(換言すれば、シリンダブロック23の周方向に離間して)複数個(通常は奇数個、例えば9個)のシリンダ(穴)24が所定角度間隔をあけて回転軸25と平行に(換言すれば、軸方向に伸びるように)形成されている。各シリンダ24には、リヤ側が開口した有底円筒状のピストン27が往復摺動可能に嵌挿されている。
【0022】
また、ピストン27の先端(フロント側端部)はシリンダ24から突出し、このピストン27の先端(シリンダ24からの突出端部)には球面継手付きシュー28が揺動可能に連結されている。なお、球面継手は、ピストン27側に設けられてもよい。ブッシング29は、バネによってリテーナ30を介してシュー28を斜板31の平面からなる表面側の平滑な摺動面31cに押し付けている。斜板31における摺動面31cの裏側には傾転用の円筒凸面部31bが形成され、この円筒凸面部31bに滑り嵌合する円筒凹面部32bを有するクレイドル32がフロントケーシング21(つまり、ケーシング20のフロント側)に取り付けられている。なお、円筒凸面部と円筒凹面部の形状は逆、つまり、斜板31の裏面に凹状円筒面を形成し、クレイドル32の表面に凸状円筒面を形成して嵌合させてもよい。シリンダ24内は、ピストン27及び球面継手付きシュー28の中心に形成された油路39を介して、シュー28と斜板31の摺動面31cとの間の部分に連通する。
【0023】
斜板31の傾転角は、傾転アクチュエータとしての図示しないサーボピストンにより斜板31を押し引きすることで制御される。斜板31の傾転角を変えることによって、ピストン27のストローク量を変えることができる。つまり、ポンプ容量を制御することができる。本実施形態の油圧ポンプ2は、開回路用であるので、斜板31の傾転角は一方向(斜板31の傾転が中立(傾転角0度)のときから回転軸線Oに対して一方側に傾く方向であり、以下、+α方向と記載する場合がある)のみに変化させられる。
【0024】
各シリンダ24のリヤ側底部(ピストン27側とは反対側の底部)における回転軸線O寄りの部位、言い換えれば、シリンダブロック23とバルブプレート34の摺動面内における内周側の部位に、長円からなるシリンダポート24bが形成されている。ピストン27がシリンダ24内で往復摺動することにより(換言すれば、ピストン27のシリンダ24内での押し引きに応じて)、シリンダポート24bを介して油の吸入吐出(吸排とも呼ぶ)が行われる。
【0025】
リヤケーシング22(ケーシング20のリヤ側であって、シリンダブロック23を挟んで斜板31とは軸方向の反対側)には、シリンダブロック23のリヤ側底面23bが対面ないし摺接するバルブプレート34が固定されている。バルブプレート34には、
図2に加えて
図3、
図4、
図8を参照すればよくわかるように、シリンダポート24bの回転軌道上に形成された左右一対の円弧状の長穴(周方向に長い穴)からなる、油を吐出する吐出ポート34aと油を吸入する吸入ポート34b(言い換えれば、各シリンダ24のシリンダポート24bと間欠的に連通する吐出ポート34aと吸入ポート34b)とが、一対の切換ランド34td、34bdを挟んで形成されている。すなわち、切換ランド34td、34bdは、吸入ポート34bと吐出ポート34aとの切り換わり区間である。また、リヤケーシング22には、バルブプレート34の吐出ポート34aに繋がる吐出通路22aと、バルブプレート34の吸入ポート34bに繋がる吸入通路22bとが設けられている。吐出ポート34a及び吸入ポート34bからピストン27の押し引きに応じて油の出し入れが行われる。より詳しくは、シリンダブロック23をバルブプレート34に摺接させながら回転させて各シリンダ24内のピストン27を往復動させることにより、吸入ポート34bからシリンダポート24bを介して油を吸い込んでシリンダポート24bを介して吐出ポート34aから吐き出すようになっている。ピストン27がシリンダ24の最も奥まで(バルブプレート34側に)押し込まれたときのピストン位置を上死点(TDC)と呼ぶ。一方、ピストン27がシリンダ24から最も(バルブプレート34側とは反対側に)引き出された位置を下死点(BDC)と呼ぶ。
【0026】
図3、
図4、
図8を参照すればよくわかるように、バルブプレート34におけるBDC側の吸入ポート34bと吐出ポート34aとの間の切換ランド34bdには、吐出ポート34a側に連通するノッチ40が形成されている。また、バルブプレート34におけるTDC側の吐出ポート34aと吸入ポート34bとの間の切換ランド34td(の中央付近)には、ケーシングドレンに連通するコンジット41が形成されている。ここでは、シリンダポート24bが吐出ポート34aから吸入ポート34bに切り換わる際(切換ランド34td通過中)にコンジット41から絞り54を介してケーシングドレンへ圧力を解放してから吸入ポート34bに連通するようになっている。絞り54は、バルブプレート34またはリヤケーシング22のどちらに設けてもよい。絞り54を設けることで、後述する連通溝43を経て油溝46へ導かれる圧油を確保することができる。また、絞り54の径を変えることで、油溝46に導かれる圧油の圧力調整を行うことができる。
【0027】
コンジット41は、バルブプレート34の裏面側に(軸方向に)延びる小径の丸孔から形成されるとともに、外端部がプラグ(蓋)44で塞がれた半径方向外方に延びる横孔と、該横孔の外周部からバルブプレート34の表面側に延びる縦孔とからなるL字状の連通路42を介して、平面視円弧状の(周方向に長い)浅い連通溝43に連通する。連通溝43は、シリンダブロック23とバルブプレート34の摺接面内で、かつシリンダポート24bの回転軌道外の外周部に設けられている(
図8参照)。また、本実施形態の連通溝43は、コンジット41および連通路42が設けられた切換ランド34tdの外側から吐出ポート34aの外側全域に略半円弧状に形成されている。こうすることで、コンジット41付近のみ(切換ランド34td付近のみ)のピストン潤滑状態ではなく、当該油圧ポンプ2の吐出行程全域に亘って連続的に油溝46に圧油(ピストン潤滑油)を供給することができる(後で説明)。
【0028】
次に、シリンダブロック23について
図5~
図8を用いて説明する。シリンダブロック23におけるバルブプレート34との摺接面内の各シリンダ24の近くに(つまり、各シリンダ24に対応して)、バルブプレート34側に設けられた連通溝43と対面接続可能な油孔45がそれぞれ設けられている。より詳細には、油孔45は、その一端(バルブプレート34側の円形の開口端)が回転軸線Oを中心とした同一円周上(連通溝43とも同じ円周上)に所定角度間隔(ここでは40°の角度間隔)をあけて開口するように(つまり、ここでは合計9本)形成されている。
【0029】
また、全てのシリンダ24内には、ポンプ容量最大時のピストン27がTDCとBDCのいずれにおいても常に摺動部となる範囲内(摺動円筒面内)に、シリンダ直径よりもわずかに大きい環状の油溝46が設けられている。より詳しくは、油溝46は、シリンダ24におけるピストン27が引き出される側の開口端縁部24c(
図6、
図9)寄りの部位に環状に設けられている。前記9本の油孔45は、外端部がプラグ(蓋)48で塞がれるとともに内端部が油溝46(より詳しくは、環状の油溝46のうちの外周側の部位)に接続された斜め横孔からなる油路47を介して、各シリンダ24内(ピストン27との摺動円筒面内)に設けられた油溝46と連通するようになっている。言い換えれば、油孔45と油溝46を接続する油路47の内端は、シリンダ24内(ピストン27との摺動円筒面内)に設けられた環状の油溝46において外周側の部位に開口しており、油溝46は、シリンダ24におけるピストン27との摺動円筒面内の外周側の部位で油路47を介して油孔45に接続されている。
【0030】
次に、本実施形態の油圧ポンプ2の基本動作について説明する。動力源としてのエンジン1に駆動される回転軸25によってシリンダブロック23が回転すると、シリンダブロック23に形成されたシリンダ24内の油は、斜板31に案内されるピストン27により押し引きされる。この際、バルブプレート34に設けられた吐出ポート34aはピストン27が押し込まれる側に連通し、吸入ポート34bはピストン27が引き出される側に連通している。
【0031】
バルブプレート34は油の出し入れを切り換えているが、この切り換えはピストン27のTDC付近(切換ランド34td)とBDC付近(切換ランド34bd)で行われる。シリンダ24内の圧力は、BDCでは低圧から高圧、TDCでは高圧から低圧に切り換わる。このとき、バルブプレート34のBDC付近ではシリンダ24内の圧力が低圧から高圧に切り換わる区間(切換ランド34bd)にノッチ40が設けられており、吐出ポート34aとシリンダポート24bの接続が緩やかに行われるようになっている。
【0032】
一方、バルブプレート34のTDC付近ではシリンダ24内の圧力が高圧から低圧に切り換わる区間(切換ランド34td)に小径の丸孔よりなるコンジット41が設けられており、吸入ポート34bに高圧油が流入すると脈動や騒音の要因となるため、これを回避すべく、コンジット41から絞り54を介してケーシングドレンに高圧油を逃がすようになっている。これに加えて、コンジット41に高圧油が流入すると、同時に連通路42を経て、連通溝43に高圧油が流入する。
【0033】
ここで、連通溝43は、シリンダブロック23の油孔45と同一円周上に設けられているので、連通溝43と油孔45とは、連通溝43の周方向の長さ(円弧長)に応じた予め設定された期間だけ連通する。これによって、連通溝43に流入する高圧油が、油孔45及び油路47を経て油溝46に導かれる。ここでは、連通溝43の周方向の長さは、同一円周上で隣り合う各油孔45同士の周方向の離隔距離より長く、かつ吐出ポート34aの外側において吐出ポート34aの周方向の長さより長く設定されている。このため、圧油が、連通溝43から各油孔45及び油路47を介して各油溝46に、当該油圧ポンプ2の吐出行程全域に亘って順次途切れなく(連続的に)供給されるようになっている。
【0034】
より詳細には、吐出行程上死点付近にあるシリンダ24内の高圧油は、シリンダポート24bからコンジット41→連通路42→連通溝43を経て、該連通溝43の直上を通過する油孔45に導かれ、この油孔45に連なる油路47を介して油溝46に供給される。言い換えれば、シリンダブロック23の回転時に、連通溝43と各シリンダ24の油溝46とが各油孔45を介して順次連通する。
【0035】
この場合、
図9に模式的に示されているように、上記油溝46(への圧油供給)が無い従来品の場合は、破線で示されているように、ピストン27とシリンダ24との摺動部の油膜圧力は、シリンダ24におけるリヤ側(バルブプレート34側)が高く、フロント側(ピストン27が引き出される側)ほど直線的に低くなり、ピストン27のかじり焼き付きが生じやすい、シリンダ24におけるフロント側の開口端縁部24c付近では、ほとんど0となる。それに対し、本第1実施形態では、実線で示されているように、ピストン27とシリンダ24との摺動部の油膜圧力は、従来品に比べて油溝46付近で上昇するので、油膜切れが抑制されて摺動部の潤滑状態が良好なものとなるとともに、ピストン27のかじり焼き付きが生じやすい、シリンダ24における開口端縁部24c付近も効果的に潤滑される。
【0036】
そのため、特にポンプ容量が小さい時においてもかじり焼き付きのリスクが低減できるので、油圧ポンプ2の信頼性を向上できる。換言すれば、油圧ポンプ2の吐出と吸入の切り換え時に、TDC側の切換ランド34td(吐出ポート34aから吸入ポート34bに切り換わる区間)に設けられたコンジット41から解放する(排出される)圧油をシリンダ24内のピストン27との摺動円筒面内に設けた油溝46に供給してピストン27とシリンダ24との摺動部の潤滑に利用することで、油圧ポンプ2の信頼性向上を図ることができる。また、かじり焼き付きのリスクが低減できることから、従来の油圧ポンプよりも最小吐出容量(油圧ポンプ2の最小傾転に対応)を小さくできるので、システムのスタンバイ状態においても無駄な油の吐出を抑制でき、その結果、油圧システムの無負荷時損失低減も図ることができる。
【0037】
また、上記油圧ポンプ2が搭載されたホイールローダ(建設機械)100においては、信頼性向上と燃費向上を図ることができる。
【0038】
なお、上記第1実施形態においては、連通溝43の周方向の長さ(円弧長)は、同一円周上で隣り合う各油孔45同士の周方向の離隔距離より長く、かつ吐出ポート34aの周方向の長さより長く設定されて、当該油圧ポンプ2の吐出行程全域に亘って、各油孔45を介して各油溝46に圧油が順次途切れなく(連続的に)供給されるようになっている。ただし、かかる構成に限られることはなく、例えば、連通溝43の周方向の長さを吐出ポート34aの周方向の長さより短く設定し、連通溝43と油孔45のいずれかとが常時連通するように、同一円周上で隣り合う油孔45同士の周方向の離隔距離に対応して連通溝43の周方向の長さを設定し、各油孔45を介して各油溝46に圧油が順次途切れなく供給されるようにしてもよい。さらに、連通溝43の周方向の長さを、同一円周上で隣り合う油孔45同士の周方向の離隔距離より短く、換言すれば、同一円周上で隣り合う油孔45同士の周方向の離隔距離を、連通溝43の周方向の長さより長く設定し、連通溝43の周方向の長さに応じた期間だけ、各油孔45を介して各油溝46に圧油が順次断続的に供給されるようにしてもよい。
【0039】
[可変容量型油圧ポンプの第2実施形態]
次に、前記した本第2実施形態の閉回路用の可変容量型油圧ポンプ10(
図1の下側の油圧ポンプ)について
図10及び
図11を参照しながら説明する。本油圧ポンプ10は、基本構成は上記第1実施形態の油圧ポンプ2(
図2~
図9参照)と同じであるが、アクチュエータである油圧モータ11と閉回路を構成し、斜板31の傾転角を両方向(+α方向及び-α方向)に変化させることで吐出方向と容量を変えるようになっており、これにより、ホイールローダ100の車体12の前進・後進(前後方向走行)およびその速度が制御される。
【0040】
かかる閉回路用の油圧ポンプ10においては、斜板31の傾転角が+α方向に変化させられるとき(前進時)には、第1実施形態の油圧ポンプ2と同様に、
図3に示されるバルブプレート34において符号34aが吐出ポートとなり、符号34bが吸入ポートとなる。それに対し、斜板31の傾転角が-α方向(斜板31の傾転が中立(傾転角0度)のときから回転軸線Oに対して他方側に傾く方向であり、前記+α方向とは逆向きに傾く方向)に変化させられるとき(後進時)には、
図3に示されるバルブプレート34において符号34aが吸入ポートとなり、符号34bが吐出ポートとなる。
【0041】
したがって、油圧ポンプ10において斜板31の傾転方向がいずれの方向であっても、第1実施形態と同様な作用効果を得るためには、
図10及び
図11に示される如くに、バルブプレート34において、一方の切換ランド34tdに設けられているコンジット41、連通路42、及び連通溝43を、他方の切換ランド34bdにも、すなわち切換ランド34td、34bdの両方に(180度対称的に)設ければよい。同様に、切換ランド34bdにおいて吐出ポート34a側に連通するノッチ40を、切換ランド34tdにおいて吸入ポート34b側にも(180度対称的に)形成すればよい。
【0042】
このような構成とすることにより、閉回路システムにおいても、最小吐出容量を従来よりも小さくできるとともに、油圧システムの無負荷時損失低減を図ることができる。特に、本閉回路システムでは、油圧システムに吸入側圧力を高めるチャージ回路(チャージポンプ50等)が組み込まれているので、油圧ポンプ10の最小吐出容量を一層小さくすることが可能となる。
【0043】
なお、上記実施形態では、本発明を斜板式の油圧ポンプに適用した例を説明したが、本発明は、斜板式油圧ポンプに限らず斜軸式油圧ポンプにも適用可能である。
【0044】
また、上述した実施形態では、油圧ポンプをホイールローダに適用する場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、油圧クレーン、油圧ショベル等のホイールローダ以外の建設機械に適用してもよい。
【0045】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形形態が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1:エンジン
2:可変容量型油圧ポンプ(第1実施形態)
3:方向切換弁
4:油圧シリンダ
5:タンク
6:主リリーフ弁
7:パイロットポンプ
8:操作レバー
9:ポンプレギュレータ
10:可変容量型油圧ポンプ(第2実施形態)
11:油圧モータ
12:車体
20:ポンプケーシング
21:フロントケーシング
22:リヤケーシング
22a:吐出通路
22b:吸入通路
23:シリンダブロック
23b:シリンダブロックのリヤ側底面
24:シリンダ(穴)
24b:シリンダポート
24c:開口端縁部
25:回転軸
27:ピストン
28:シュー
29:ブッシング
30:リテーナ
31:斜板
32:クレイドル
34:バルブプレート
34a:吐出ポート
34b:吸入ポート
34td、34bd:切換ランド
39:油路
40:ノッチ
41:コンジット
42:連通路
43:連通溝
44:プラグ
45:油孔
46:油溝
47:油路
48:プラグ
50:チャージポンプ
51:チャージリリーフ弁
52、53:チェック弁
54:絞り
100:ホイールローダ(建設機械)