(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】水系インクジェットインク組成物、インクセット、及び記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20250701BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20250701BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20250701BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250701BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/54
D06P5/30
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41M5/00 114
B41M5/00 134
B41J2/01 501
B41J2/01 125
(21)【出願番号】P 2020216425
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】地舘 公介
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082360(JP,A)
【文献】特開2015-199809(JP,A)
【文献】特開2007-277291(JP,A)
【文献】特開2019-163397(JP,A)
【文献】特開2019-199620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/10-13/00
D06P 5/30
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SP値9.5~10.5の有機溶剤と、樹脂粒子と、可塑剤と、水とを含有し、
前記有機溶剤を、インク組成物の総量に対して、1.0~10.0質量%含有し、
前記可塑剤が、シクロヘキセンジカルボン酸系化合物を含
み、
前記樹脂粒子は、前記可塑剤により、塑性を与えられるか、又は塑性を増大されるもの
であり、
前記樹脂粒子は、ウレタン樹脂粒子であり、
前記SP値9.5~10.5の有機溶剤として、メチルペンタンジオールを含む、
水系インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記可塑剤が、SP値8~10の可塑剤を含む、
請求項1に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記可塑剤の含有量が、インク組成物の総量に対して、0.1~2.0質量%である、
請求項1又は2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の水系インクジェットインク組成物と、
ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂からなる群より選択される樹
脂と、水と、を含有する処理液組成物と、を有する、
インクセット。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の水系インクジェットインク組成物をインクジェッ
ト法により吐出し記録媒体に付着するインク付着工程を有する、
記録方法。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂及びポリエステル樹脂から選択される樹脂と、水と、を含有する処理
液組成物を記録媒体に付着する処理液付着工程を有する、
請求項
5に記載の記録方法。
【請求項7】
記録媒体に付着した前記水系インクジェットインク組成物を乾燥する乾燥工程を有する
、
請求項
5又は
6に記載の記録方法。
【請求項8】
前記乾燥工程において、前記記録媒体を130~150℃に加熱する、
請求項
7に記載の記録方法。
【請求項9】
前記記録媒体が布帛である、
請求項
5~
8のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項10】
前記布帛が、ナイロン繊維及びポリエステル繊維からなる群より選ばれるいずれかを含
有する、
請求項
9に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクジェットインク組成物、インクセット、及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、印捺物の摩擦堅牢性等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、摩擦堅牢度に優れた捺染印刷物を提供することを目的として、顔料、水分散性樹脂、架橋剤、および水を含み、水分散性樹脂として、所定の皮膜伸度と抗張力を有する樹脂を所定量含み、架橋剤として、ブロックイソシアネート系化合物を所定量含む、捺染インクジェット用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように摩擦堅牢性の観点から、架橋剤とそれに対応する樹脂とを組み合わせて用いる場合、架橋剤の反応性によってインク組成物の保存安定性が低下することが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、SP値9.5~10.5の有機溶剤と、樹脂粒子と、可塑剤と、水とを含有し、前記有機溶剤を、インク組成物の総量に対して、1.0~10.0質量%含有する水系インクジェットインク組成物である。
【0006】
本発明は、上記水系インクジェットインク組成物と、ポリウレタン樹脂及びポリエステル樹脂から選択される樹脂と、水と、を含有する処理液組成物と、を有するインクセットである。
【0007】
さらに、本発明は、上記水系インクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出し記録媒体に付着するインク付着工程を有する記録方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0009】
1.水系インクジェットインク組成物
本実施形態の水系インクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう)は、有機溶剤と、樹脂粒子と、可塑剤と、水とを含有し、有機溶剤が、SP値9.5~10.5の有機溶剤を、インク組成物の総量に対して、1.0~10.0質量%含有する。
【0010】
従来の顔料捺染インク組成物における摩擦堅牢性の向上方法の一つとして、架橋剤とそれに対応する樹脂とを組み合わせて用いることにより、記録物状に比較的強固なインク塗膜を形成すること知られている。しかしながら、このように反応性を有する成分をインク組成物に含めることにより、かえってインク組成物の保存安定性が低下するという問題が生じる。
【0011】
これに対して、本実施形態においては、可塑剤を用いることにより樹脂粒子の造膜性を向上させることで、顔料凝集体が布帛などの記録媒体に付着した場合でも記録媒体に対するインク塗膜の追従性を向上することができる。これにより、インク塗膜はより破断し難くなり、結果として摩擦堅牢性を向上することができる。また、追従性が向上することによって、得られる記録物の風合いも向上することができる。
【0012】
また、可塑剤は比較的に疎水性が高く、水系インク組成物中に安定して溶解させにくい傾向にあるところ、本実施形態においては、所定のSP値を有する有機溶剤を用いることで、水系インク組成物中における可塑剤の溶解性を改善し、保存安定性を向上することができる。以下、本実施形態のインク組成物の各成分について、詳説する。
【0013】
1.1.有機溶剤
本実施形態で用い得る有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリコール類、グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類、グリコールモノエステル類、グリコールジエステル類、含窒素溶剤、一価アルコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。
【0014】
グリコール類としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-1,3-ジオール、2-メチルペンタン-1,4-ジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0015】
グリコールモノエーテル類としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0016】
グリコールジエーテル類としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0017】
グリコールモノエステル類としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート等が挙げられる。
【0018】
グリコールジエステル類としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート等が挙げられる。
【0019】
含窒素溶剤としては、特に制限されないが、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0020】
一価アルコールとしては、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0021】
本実施形態のインク組成物は、このような有機溶剤のうち、SP値9.5~10.5の有機溶剤を含み、必要に応じてこれ以外のSP値を有する有機溶剤を含むことができる。
【0022】
なお、SP値とは、溶解度パラメータを意味する。SP値は、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入され正則理論により定義された値である。有機溶剤のSP値は、コーティングの基礎と工学(53ページ、原崎勇次著、加工技術研究会)記載のFedorsによる原子及び原子団の蒸発エネルギーとモル体積から計算で求めた値である。本実施形態におけるSP値の単位は、(cal/cm3)1/2であるが、1(cal/cm3)1/2=2.046×103(J/m3)1/2によって(J/m3)1/2の単位に換算することもできる。
【0023】
SP値が9.5~10.5である有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、2-メチルペンタン-1,3-ジオール(SP値10.3)、2-メチルペンタン-1,4-ジオール、エチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.5)、エチレングリコールモノブチルエーテル(SP値9.5)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値10.2)、エチレングリコールジアセテート(SP値10.0)などが挙げられる。このなかでも、2-メチルペンタン-1,3-ジオール(SP値10.3)、2-メチルペンタン-1,4-ジオールなどのメチルペンタンジオールが好ましく、2-メチルペンタン-1,3-ジオールがより好ましい。このようなSP値が9.5~10.5である有機溶剤を用いることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、得られる記録物の風合いなどがより向上する傾向にある。特に、可塑剤の溶解性が良好となり、保存安定性を良好なものとすることができる。これら有機溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0024】
SP値が9.5~10.5である有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、1.0~10.0質量%であり、好ましくは1.5~9.0質量%であり、より好ましくは2.0~8.0質量%であり、さらに好ましくは1.5~7.0質量%であり、殊更に好ましくは1.5~3.5質量%である。SP値が9.5~10.5である有機溶剤の含有量が1.0質量%以上であることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、得られる記録物の風合いがより向上する傾向にある。また、SP値が9.5~10.5である有機溶剤の含有量が10.0質量%以下であることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、印刷面の耐剥離性がより向上する傾向にある。
【0025】
その他のSP値を有する有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリセリン、トリエチレングリコールなどの水溶性有機溶剤が好ましい。なお、その他のSP値を有する有機溶剤のSP値は、10.5超過であることが好ましい。すなわち、その他のSP値を有する有機溶剤としては、より親水性の高い溶剤を用いることが好ましい。
【0026】
その他のSP値を有する有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは5.0~25質量%であり、より好ましくは10~20質量%であり、さらに好ましくは12.5~17.5質量%である。その他のSP値を有する有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、印刷面の耐剥離性や記録物の風合いがより向上する傾向にある。
【0027】
また、有機溶剤の総含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは5.0~30質量%であり、より好ましくは7.5~27.5質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。有機溶剤の総含有量が上記範囲内であることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、印刷面の耐剥離性や記録物の風合いがより向上する傾向にある。
【0028】
1.2.樹脂粒子
樹脂粒子としては、特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子が挙げられる。このなかでも、ウレタン樹脂粒子が好ましい。このような樹脂粒子を用いることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、印刷面の耐剥離性や記録物の風合いがより向上する傾向にある。樹脂粒子は一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0029】
アクリル樹脂粒子としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体を重合させたものや、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体とを共重合させたものが挙げられる。このなかでも、アニオン性のアクリル樹脂粒子が好ましい。
【0030】
ウレタン樹脂粒子としては、分子中にウレタン結合を有する樹脂粒子であれば特に限定されず、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。このなかでも、ポリエーテル型ウレタン樹脂又はポリカーボネート型ウレタン樹脂が好ましく、ポリカーボネート型ウレタン樹脂がより好ましい。また、分散安定性を良好にする等の観点で、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等を有するアニオン性のウレタン樹脂粒子が好ましい。
【0031】
ポリエステル樹脂粒子としては、酸成分とアルコール成分との反応で得られるものであれば特に制限されない。ポ酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等が挙げられる。また、アルコール成分としては、有機溶剤で例示したグリコール類等が挙げられる。
【0032】
また、上記樹脂粒子としては、特に制限されないが、例えば、非架橋性の樹脂粒子と、架橋性基を有する架橋性の樹脂粒子が挙げられる。このなかでも、非架橋性の樹脂粒子が好ましい。架橋性基とは、架橋性基間で反応して架橋構造を形成するものであってもよく、架橋性基とは異なる官能基との間で反応し架橋構造を形成するものであってもよい。非架橋性のウレタン樹脂粒子を用いることにより、保存安定性や、得られる記録物の風合いがより向上する傾向にある。
【0033】
樹脂粒子の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは2.0~15質量%であり、より好ましくは3.0~10質量%であり、さらに好ましくは5.0~8.0質量%である。樹脂粒子の含有量が2.0質量%以上であることにより、得られる記録物の乾摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。また、樹脂粒子の含有量が10質量%以下であることにより、得られる記録物の風合いや乾摩擦堅牢性、インク組成物の保存安定性がより向上する傾向にある。
【0034】
1.3.可塑剤
可塑剤としては、塑性を与えるか、又は塑性を増大するものを用いることができる。塑性を与えるか、又は塑性を増大する対象としては特に限定されないが、合成樹脂や合成ゴムを挙げることができ、上記樹脂粒子に対して塑性を与えるか、又は塑性を増大するものであることがより好ましい。このような可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル系化合物、リン酸エステル系化合物、シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル系化合物、オキシ酸エステル系化合物、グリコールエステル系化合物、エポキシ系エステル系化合物、スルホンアミド系化合物、ポリエステル系化合物、ポリエーテル系化合物、グリセリルアルキルエーテル系化合物、グリセリルアルキルエステル系化合物、グリコールアルキルエーテル系化合物、グリコールアルキルエステル系化合物、トリメチロールプロパンのエーテル又はエステル、ペンタエリスリトールのエーテル又はエステルが挙げられる。
【0035】
このなかでも、安息香酸誘導体やフタル酸誘導体などの芳香族カルボン酸エステル系化合物、シクロヘキセン誘導体などのシクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル系化合物、ポリエーテル系化合物等が好ましく、シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル系化合物がより好ましく、シクロヘキセンジカルボン酸系化合物がさらに好ましい。このような可塑剤を用いることにより、樹脂粒子の造膜性が良好となり、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、印刷面の耐剥離性や記録物の風合いがより向上する傾向にある。
【0036】
また、可塑剤としては、SP値8.0~10の可塑剤を含むことが好ましい。このような可塑剤を用いることにより、摩擦堅牢性及び保存安定性の他、印刷面の耐剥離性や記録物の風合いがより向上する傾向にある。このような可塑剤は、SP値9.5~10.5の有機溶剤への溶解性が良好であり、特に保存安定性を良好なものとすることができる。
【0037】
可塑剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%であり、より好ましくは0.2~1.2質量%であり、さらに好ましくは0.3~0.7質量%である。可塑剤の含有量が0.1質量%以上であることにより、摩擦堅牢性や風合いがより向上する傾向にある。また、可塑剤の含有量が2.0質量%以下であることにより、保存安定性や印刷面の剥離性がより低下する傾向にある。
【0038】
1.4.水
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは50~85質量%であり、より好ましくは55~80質量%であり、さらに好ましくは60~75質量%である。
【0039】
1.5.色材
本実施形態のインク組成物は色材をさらに含んでいてもよい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。この中でも、本実施形態のインク組成物は顔料を含む顔料捺染インクであることが好ましい。顔料捺染の場合に摩擦堅牢性の問題が特に生じやすいため、本発明が特に有用である。また、色材が顔料の場合には、綿やポリエステル、ナイロンといった多様な布帛に対して印捺することが可能である点で好ましい。
【0040】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンなどの無機顔料;キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料等の有機顔料が挙げられる。
【0041】
染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.アシッドブラックのような酸性染料;C.I.ベーシックイエロー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックオレンジ、C.I.ベーシックバイオレット、C.I.ベーシックブラックのような塩基性染料;C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクドブラックのような直接染料;C.I.リアクティブイエロー、C.I.リアクティブレッド、C.I.リアクティブブルー、C.I.リアクティブオレンジ、C.I.リアクティブバイオレット、C.I.リアクティブブラックのような反応性染料;C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースレッド、C.I.ディスパースブルー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースバイオレット、C.I.ディスパースブラックのような分散染料が挙げられる。上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
色材の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは2.5~7.5質量%である。
【0043】
1.6.界面活性剤
本実施形態のインク組成物は界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0044】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0045】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0046】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0047】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~1.0質量%であり、より好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0048】
1.7.pH調整剤
本実施形態のインク組成物はpH調整剤をさらに含んでいてもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸等)、無機塩基(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン)、有機酸(例えば、アジピン酸、クエン酸、コハク酸等)等が挙げられる。pH調整剤を含むことにより、分散安定性がより向上する傾向にある。pH調整剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
【0049】
pH調整剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.01~0.5質量%であり、より好ましくは0.05~0.3質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.2質量%である。
【0050】
2.インクセット
本実施形態のインクセットは、上記水系インクジェットインク組成物と、ポリウレタン樹脂及びポリエステル樹脂からなる群より選ばれる樹脂と水とを含有する処理液組成物と、を備え、必要に応じて、凝集剤と水とを含有する他の処理液組成物をさらに備えていてもよい。以下、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む処理液組成物を後処理液といい、凝集剤を含有する他の処理液組成物を前処理液という。
【0051】
2.1.処理液組成物(後処理液)
後処理液である処理液組成物は、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる樹脂と、水と、を含有し、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。印字面同士が癒着しやすくなり、その癒着をはがすことでインク塗膜が剥離する懸念があるが、このように後処理液でコートすることにより、耐剥離性を向上することができる。
【0052】
2.1.1.樹脂
ポリウレタン樹脂としては、分子中にウレタン結合を有する樹脂であれば特に限定されず、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。
【0053】
ポリエステル樹脂としては、特に制限されないが、例えば、酸成分とアルコール成分との反応で得られるものが挙げられる。酸成分とアルコール成分については、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0054】
アクリル樹脂としては、アクリレート又はアクリル酸を少なくとも含むモノマーから重合された樹脂であればよく、スチレンなどの他のモノマーを含んでいてもよい。
【0055】
樹脂の含有量は、後処理液の総量に対して、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは1.5~10質量%であり、さらに好ましくは2.5~7.5質量%である。
【0056】
2.1.2.水
水の含有量は、後処理液の総量に対して、好ましくは90~99質量%であり、より好ましくは90~98.5質量%であり、さらに好ましくは92.5~97.5質量%である。
【0057】
2.2.処理液組成物(前処理液)
前処理液である処理液組成物は、凝集剤と、水と、を含有し、必要に応じて、定着樹脂や界面活性剤を含んでいてもよい。
【0058】
2.2.1.凝集剤
凝集剤としては、特に制限されないが、例えば、多価金属塩やカチオン性樹脂が挙げられる。
【0059】
多価金属塩としては、特に限定されないが、例えば、無機酸の多価金属塩又は有機酸の多価金属塩が挙げられる。多価金属としては、特に制限されないが、例えば、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からの土類金属(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)が挙げられる。これら多価金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩等)、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。
【0060】
このなかでも、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩等)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硫酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩が挙げられる。なお、多価金属塩は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0061】
カチオン性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリルアリルアミン、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリ(グルコサミン)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリヘキシメチレングアニド、ポリグアニド等の、アミン系樹脂が挙げられる。
【0062】
凝集剤の含有量は、前処理液の総量に対して、好ましくは10~30質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。凝集剤の含有量が上記範囲内であることにより、摩擦堅牢性や風合いがより向上する傾向にある。
【0063】
2.2.2.水
水の含有量は、前処理液の総量に対して、好ましくは65~90質量%であり、より好ましくは70~85質量%であり、さらに好ましくは75~80質量%である。
【0064】
2.2.3.定着樹脂
定着樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂が挙げられる。これら樹脂としては後処理液又はインク組成物において上述したものを用いることができる。定着樹脂の含有量は、前処理液の総量に対して、好ましくは0.5~5.0質量%であり、より好ましくは1.0~3.0質量%である。
【0065】
2.2.4.界面活性剤
界面活性剤としては、上記インク組成物で例示したものを用いることができる。界面活性剤の含有量は、前処理液の総量に対して、好ましくは0.1~1.0質量%であり、より好ましくは0.3~0.7質量%である。
【0066】
3.記録方法
本実施形態の記録方法は、上記水系インクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出し記録媒体に付着するインク付着工程を有し、必要に応じて、前処理液である処理液組成物を記録媒体に付着する前処理液付着工程と、後処理液である処理液組成物を記録媒体に付着する後処理液付着工程と、記録媒体に付着した水系インクジェットインク組成物を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。
【0067】
3.1.前処理液付着工程
前処理液付着工程は、前処理液を記録媒体に付着させる工程である。この際、インク組成物の成分を凝集させる観点から、前処理液の付着領域とインク組成物の付着領域とは少なくとも一部が重なるようにする。このような前処理液付着工程を備えることにより、インク組成物の成分が記録媒体の表面で凝集しやすくなり、得られる記録物の画質や摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0068】
前処理液の付着方法としては、インクジェット方式を用いて付着させる方法の他、バーコーター、ロールコーター、スプレー等を用いて、塗布してもよい。
【0069】
前処理液付着工程は、後述するインク付着工程の前に行っても、後に行ってもよい。後述するインク付着工程の前に行うことが好ましい。また、インク付着工程の前に前処理液付着工程を行う場合、前処理液が乾燥する前にインク付着工程を行っても、前処理液が乾燥してからインク付着工程を行ってもよい。
【0070】
3.2.インク付着工程
インク付着工程は、上記インク組成物をインクジェット法により吐出し記録媒体に付着する工程である。ここで、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、インク組成物を記録媒体に向けて吐出して記録を行うヘッドであり、当該ヘッドは、収容したインク組成物をノズルから吐出させるキャビティーと、インク組成物に対して吐出の駆動力を付与する吐出駆動部と、ヘッドの外へインク組成物を吐出するノズルと、を有する。吐出駆動部は、機械的な変形によりキャビティーの容積を変化させる圧電素子等の電気機械変換素子や、熱を発することによりインクに気泡を発生させ吐出させる電子熱変換素子等を用いて形成することができる。
【0071】
3.3.乾燥工程
乾燥工程は、記録媒体に付着したインク組成物を乾燥する工程である。乾燥温度は、特に制限されないが、例えば、好ましくは60~150℃であり、より好ましくは100~150℃であり、さらに好ましくは130~150℃である。また、乾燥時間は、特に制限されないが、例えば、30秒~5分とすることができる。可塑剤を含有することにより、造膜性が良好となり、このような低温での処理が可能である。このような温度であれば、布帛へのダメージを低く抑えることができ、ナイロン繊維及びポリエステル繊維からなる群より選ばれるいずれかを含有する布帛に対しても好適に印捺することができる。
【0072】
なお、上記乾燥工程は、インク付着工程の後だけでなく、前処理液付着工程や後処理液付着工程の後にそれぞれ行ってもよい。
【0073】
3.4.後処理付着工程
後処理付着工程は、後処理液である処理液組成物を記録媒体に付着する工程である。この際、インク組成物の付着領域を後処理液によりカバーして印刷面の耐剥離性を向上する観点から、後処理液の付着領域とインク組成物の付着領域とは少なくとも一部が重なるようにする。このような後処理液付着工程を備えることにより、得られる記録物の画質や摩擦堅牢性、耐剥離性がより向上する傾向にある。なお、後処理付着工程は、上記観点から、インク付着工程の後に実施することが好ましい。
【0074】
後処理液の付着方法としては、インクジェット方式を用いて付着させる方法の他ほのか、バーコーター、ロールコーター、スプレー等を用いて、塗布してもよい。
【0075】
3.5.記録媒体
記録媒体としては、特に制限されないが、例えば、絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の、天然繊維、合成繊維又は半合成繊維などにより構成される布帛が挙げられるが挙げられる。このなかでも、ナイロン繊維及びポリエステル繊維からなる群より選ばれるいずれかを含有する布帛が好ましい。このような記録媒体を用いることにより、摩擦堅牢性、風合いなどに優れた記録物を得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
1.インク組成物の調製
表3~4に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例のインク組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0078】
表3~4中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
<顔料>
カーボンブラック(オリエント化学工業社製、製品名BONJET BLACK CW-1)
<樹脂粒子>
非架橋性ウレタン樹脂(三井化学社製、タケラック W-6061)
<可塑剤>
安息香酸系可塑剤(アデカ社製、アデカイザーPN-6120、SP値:9.8)
フタル酸系可塑剤(ジオクチルフタレート、SP値:8.9)
シクロヘキセンジカルボン酸系可塑剤(新日本理化社製、サンソサイザーDOTH)
ポリエーテル系可塑剤(アデカ社製、アデカイザーRS-966、SP値:8.6)
<有機溶剤>
グリセリン(SP値:16.5)
エチレングリコールジエチルエーテル(SP値:8.6)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.5)
2-メチル1,3-ペンタンジオール(SP値:10.3)
2-メチル1,4-ペンタンジオール(SP値:9.5~10.5)
エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:11.4)
1,4-ブタンジオール(SP値:12.1)
トリエチレングリコール(SP値:10.7)
<pH調整剤>
KOH(水酸化カリウム)
<界面活性剤>
オルフィンE1010(日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
【0079】
1.2.前処理液
表1に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の前処理液を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0080】
【表1】
凝集剤(硝酸カルシウム四水和物)
定着樹脂(ジャパンコーティングレジン社製、モビニール6960)
界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンE1010)
【0081】
1.3.後処理液
表2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の後処理液を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0082】
【表2】
非架橋性ウレタン樹脂(三井化学社製、タケラックW-6061)
ポリエステル樹脂(東洋紡社製、バイロナールMD2000)
非架橋性アクリル樹脂(ジャパンコーティングレジン社製、モビニール6960)
【0083】
2.評価
2.1.保存安定性
上記で調製した各インク組成物をサンプル瓶に入れて密栓した後に、このガラス瓶を40℃の恒温槽に入れて2週間保管した。振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して保管前と保管後の粘度を測定し、2週間放置後の粘度の変化率を計算し、下記評価基準により保存安定性を評価した。保存安定性の評価がA又はBの場合、良好な結果が得られているといえる。
(評価基準)
A:粘度変化率が、3%以下
B:粘度変化率が、3%超過5%以下
C:粘度変化率が、5%超過
【0084】
2.2.摩擦堅牢性
インクジェットプリンターPM-870C(セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジに上記のインク組成物を充填した。充填後、ノズルチェックパターンを印刷して充填不良・ノズルの目詰まりが無いことを確認した。そして、前処理液を塗布した布帛(ポリエステル(PES)又はナイロン100%・平織)に対して1ドット当たりの吐出インク重量を約40ngとし、縦横のインク付着密度を360×360dpiでベタパターンを印刷した。
【0085】
なお、前処理液はパッダーを用いてピックアップ率80%となるように布帛に塗布した後、100℃にて3分加熱することで付着させた。
【0086】
次いで、ベタパターンを印刷後、1分放置してから、再度同じ条件にて後処理液をインクジェットによりベタパターンに重ねて付着させ、140℃で3分加熱して、記録物を得た。なお、実施例5においては、後処理液の付着をせず、ベタパターンを印刷後に140℃で3分加熱して、記録物を得た。
【0087】
上記のようにして得られた記録物に対して、ISO-105X12に準じて摩擦堅牢性の評価を行った。評価基準を以下に示す。摩擦堅牢性の評価がA~Cの場合、良好な結果が得られているといえる。
(評価基準)
A:湿摩擦3級超える
B:湿摩擦3級
C:湿摩擦2-3級
D:湿摩擦2級以下
【0088】
2.3.風合い
上記乾摩擦堅牢性において作成した記録物の印捺部分を手のひらで直接触れ、その際の感触を以下の基準に従って判定した。判定は3人で行い、最も支持の多い意見を判定の結果とした。判定が1人ずつに分かれた場合は、それらの中間となる意見を判定した。
(評価基準)
A:印捺部の硬さ、手触りが元の布帛とほぼ変わらず、良好である
B:印捺部の硬さ、又は手触りが元の布帛に比べやや変化するが、実用として問題ない
C:印捺部の硬さ、又は手触りが元の布帛に比べ悪化するが、許容範囲である
D:印捺部の硬さ、又は手触りが元の布帛に比べ悪化し、許容できない範囲である
【0089】
2.4.耐剥離性
上記乾摩擦堅牢性において作成した記録物を、ベタパターンが対向するように二つ折りにし、その上から10gf/cm2の荷重をかけて1週間放置した。その後、二つ折りにした記録物を開き、印刷面に剥離が生じているか否かを目視にて確認した。その確認結果に基づいて、耐剥離性を評価した。評価基準を以下に示す。
A:印刷面に癒着や剥離が認められない
B:印刷面に癒着が認められるが、剥離は認められない
C:印刷面に若干の剥離が認められる
D:印刷面に剥離が認められる
【0090】
2.5.環境適応性
比較的人体等への安全性の高い成分により構成されたインク組成物をAと評価し、その他をBと評価した。
【0091】
【0092】
【0093】
4.評価結果
表3~4に、実施例及び比較例の評価結果を示した。表3~4から、可塑剤と所定の有機溶剤を用いることにより、保存安定性及び摩擦堅牢性がより向上し、また風合いや耐剥離性、環境適応性が向上することが分かる。