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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20250701BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20250701BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250701BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20250701BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20250701BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20250701BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20250701BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20250701BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20250701BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20250701BHJP
   F16H 7/08 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/445 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/30 900
B60W20/00 900
B60W20/15
F02B67/06 A
F02D29/04 F
F02D45/00 360Z
F02N11/08 L
F02N11/08 X
F16H7/08 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021088489
(22)【出願日】2021-05-26
(65)【公開番号】P2022181500
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大場 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】元古 武志
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-102992(JP,A)
【文献】特開2007-002767(JP,A)
【文献】特開2012-232611(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0037744(US,A1)
【文献】特開2003-063258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60W 10/06
B60K 6/445
B60W 10/30
B60W 20/15
B60W 20/00
F16H 7/08
F02N 11/08
F02D 45/00
F02B 67/06
F02D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としての内燃機関と、
駆動源としてのモータジェネレータと、
前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、
前記内燃機関のクランク軸に固定された駆動スプロケットと、
前記駆動スプロケットからの駆動力が伝達される従動スプロケットと、
前記駆動スプロケット及び前記従動スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、
揺動可能に支持された揺動ガイドと、
前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるチェーンテンショナと、
前記クランク軸の回転に基づきオイルを吐出するオイルポンプと、
を備えた車両に適用され、
前記車両の走行モードを、前記内燃機関を停止させつつ前記モータジェネレータを駆動させて前記車両を走行させるEVモード、及び、前記内燃機関を駆動させて前記車両を走行させる非EVモードのいずれかの走行モードに制御する制御装置であって、
前記チェーンテンショナは、前記オイルポンプから供給されるオイルの圧力により前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるものであり、
前記EVモード中であって、且つ、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力が予め定められた規定圧力以下であることを条件に、前記クランク軸を回転させて前記オイルポンプを駆動する駆動処理を実行する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記クランク軸が正転及び逆転を繰り返している状態が継続している期間が予め定められた所定期間以上である場合に、前記条件が満たされたものとして前記駆動処理を実行する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記駆動処理では、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力が低い場合、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力が高い場合に比べて、前記オイルポンプから吐出するオイルの圧力の目標値を高くする
請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記チェーンが、前記駆動スプロケット、前記揺動ガイド、前記従動スプロケットの順に走行するときの、前記クランク軸の回転方向を第1回転方向とし、前記第1回転方向とは反対方向を第2回転方向としたとき、
前記EVモード中での前記クランク軸の前記第2回転方向の回転量の積算値に基づいて、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力を推定する
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記駆動処理では、前記内燃機関を自立運転させることにより前記クランク軸を回転させる
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記駆動処理では、
前記バッテリの充電率が予め定められた規定値未満である場合に前記内燃機関を自立運転させることにより前記クランク軸を回転させ、
前記バッテリの充電率が前記規定値以上である場合に前記モータジェネレータの駆動力を前記クランク軸に伝達させることにより前記クランク軸を回転させる
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の車両は、内燃機関のクランク軸の駆動力を伝達するためのチェーン機構を備えている。このチェーン機構は、駆動スプロケット、2つの従動スプロケット、チェーン、揺動ガイド、及びチェーンテンショナを備えている。また、車両は、チェーンテンショナ内にオイルを供給するためのオイルポンプを備えている。駆動スプロケットは、内燃機関のクランク軸に連結している。駆動スプロケットは、クランク軸と一体回転する。各従動スプロケットは、内燃機関の吸気カム軸及び排気カム軸に、それぞれ連結している。チェーンは、駆動スプロケット及び2つの従動スプロケットに巻き掛けられている。揺動ガイドは、チェーンの近傍に位置している。内燃機関は、揺動ガイドを、揺動可能に支持している。チェーンテンショナは、揺動ガイドを、チェーンへと押し付けている。すなわち、チェーンテンショナは、揺動ガイドを介して、チェーンに張力を与えている。オイルポンプは、クランク軸の回転に基づきオイルを吐出する。そして、オイルポンプから吐出されたオイルは、チェーンテンショナ内に作動油として供給される。チェーンテンショナは、供給されたオイルの圧力に応じた力で、揺動ガイドをチェーンに押し付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-109237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関に加えて、駆動源としてのモータジェネレータを備える車両が知られている。また、こうした車両では、いわゆるEVモードでの走行が可能になっている。EVモードとは、内燃機関を停止させつつモータジェネレータを駆動させて走行するモードである。
【0005】
ここで、EVモードで走行可能な車両が、特許文献1に記載のチェーンテンショナを備えていたとする。EVモード中は内燃機関が停止するため、内燃機関を駆動源とするオイルポンプも停止する。この状態で、チェーンからチェーンテンショナへと力が作用して、チェーンテンショナが動作すると、チェーンテンショナ内のオイルが抜け出ることがある。そして、EVモード中は、オイルポンプが停止しているため、抜け出たオイルをチェーンテンショナに再び供給することができない。そのため、内燃機関が再び駆動を開始した後、チェーンテンショナ内のオイルの圧力が適切な圧力になり、チェーンに十分な張力を与えることができるようになるまでに時間を要する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、駆動源としての内燃機関と、駆動源としてのモータジェネレータと、前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、前記内燃機関のクランク軸に固定された駆動スプロケットと、前記駆動スプロケットからの駆動力が伝達される従動スプロケットと、前記駆動スプロケット及び前記従動スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、揺動可能に支持された揺動ガイドと、前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるチェーンテンショナと、前記クランク軸の回転に基づきオイルを吐出するオイルポンプと、を備えた車両に適用され、前記車両の走行モードを、前記内燃機関を停止させつつ前記モータジェネレータを駆動させて前記車両を走行させるEVモード、及び、前記内燃機関を駆動させて前記車両を走行させる非EVモードのいずれかの走行モードに制御する制御装置であって、前記チェーンテンショナは、前記オイルポンプから供給されるオイルの圧力により前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるものであり、前記EVモード中であって、且つ、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力が予め定められた規定圧力以下であることを条件に、前記クランク軸を回転させて前記オイルポンプを駆動する駆動処理を実行する。
【0007】
上記構成によれば、チェーンテンショナ内のオイルの圧力が低下している場合にはオイルポンプが駆動する。これにより、オイルポンプから吐出されたオイルがチェーンテンショナに供給される。したがって、チェーンテンショナ内のオイルの圧力が過度に低下することは抑制される。その結果、内燃機関が駆動を開始した後、チェーンテンショナ内のオイルの圧力が適切な圧力になるまでに時間を要することは防止できる。
【0008】
上記構成において、前記クランク軸が正転及び逆転を繰り返している状態が継続している期間が予め定められた所定期間以上である場合に、前記条件が満たされたものとして前記駆動処理を実行してもよい。
【0009】
上記構成において、クランク軸が正転及び逆転を繰り返している状態は、内燃機関が停止しているときにしか発生しない。そして、クランク軸が正転及び逆転を繰り返すと、チェーンの張力が変化するため、チェーンからチェーンテンショナに力が作用し得る。すなわち、クランク軸が正転及び逆転を繰り返している状態は、チェーンテンショナ内のオイルの圧力が低下し得る。上記構成によれば、このような原理に基づき、チェーンテンショナ内のオイルの圧力を圧力センサ等で計測しなくても、オイルの圧力が低下したことを判定できる。
【0010】
上記構成において、前記駆動処理では、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力が低い場合、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力が高い場合に比べて、前記オイルポンプから吐出するオイルの圧力の目標値を高くしてもよい。上記構成によれば、チェーンテンショナ内のオイルの圧力が低くなっていても、チェーンテンショナ内のオイルの圧力を速やかに高めることができる。
【0011】
上記構成において、前記チェーンが、前記駆動スプロケット、前記揺動ガイド、前記従動スプロケットの順に走行するときの、前記クランク軸の回転方向を第1回転方向とし、前記第1回転方向とは反対方向を第2回転方向としたとき、前記EVモード中での前記クランク軸の前記第2回転方向の回転量の積算値に基づいて、前記チェーンテンショナ内のオイルの圧力を推定してもよい。
【0012】
上記構成によれば、チェーンからチェーンテンショナに作用した力の積算値を、クランク軸の第2回転方向の回転量の積算値で正確に推定できる。そのため、チェーンテンショナから抜け出たオイルの量、ひいてはチェーンテンショナ内のオイルの圧力を正確に推定できる。
【0013】
上記構成において、前記駆動処理では、前記内燃機関を自立運転させることにより前記クランク軸を回転させてもよい。上記構成によれば、バッテリの充電率を低下させることなく、チェーンテンショナ内のオイルの圧力を高められる。
【0014】
上記構成において、前記駆動処理では、前記バッテリの充電率が予め定められた規定値未満である場合に前記内燃機関を自立運転させることにより前記クランク軸を回転させ、前記バッテリの充電率が前記規定値以上である場合に前記モータジェネレータの駆動力を前記クランク軸に伝達させることにより前記クランク軸を回転させてもよい。
【0015】
上記構成によれば、バッテリの充電率が規定値以上である場合には内燃機関が自立運転しない。そのため、駆動処理の実行にあたって内燃機関が自立運転する機会が抑制される。これにより、チェーンテンショナにオイルを供給するためにだけに、燃料が消費されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車両の概略構成図。
図2】チェーン機構の正面図。
図3】チェーンテンショナの周辺構成の断面図。
図4】圧力制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<車両の機械的構成>
以下、本発明の一実施形態を図1図4にしたがって説明する。先ず、本発明の制御装置90が適用された車両100の機械的構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、車両100は、動力の伝達経路として、内燃機関10、動力分割機構40、リダクション機構50、第1モータジェネレータ61、第2モータジェネレータ62、伝達機構66、ディファレンシャル67、及び複数の駆動輪68を備えている。
【0019】
内燃機関10は、出力軸としてクランク軸11を備えている。クランク軸11は、動力分割機構40に接続している。動力分割機構40は、サンギア41、キャリア42、複数のピニオンギア43、リングギア44、及びリングギア軸45を有する遊星歯車機構である。外歯歯車のサンギア41及び内歯歯車のリングギア44は、同軸上に位置している。サンギア41は、複数のピニオンギア43を介してリングギア44に連結している。キャリア42は、ピニオンギア43を自転可能な状態で支持している。また、キャリア42は、ピニオンギア43を公転可能に支持している。すなわち、ピニオンギア43は、キャリア42の回転に伴い公転する。キャリア42は、クランク軸11に接続している。サンギア41は、第1モータジェネレータ61の回転軸に接続している。
【0020】
内燃機関10の駆動力がキャリア42に入力されると、当該内燃機関10の駆動力は、サンギア41側とリングギア44側とに分配される。そして、サンギア41を介して伝達された内燃機関10の駆動力が第1モータジェネレータ61の回転軸に入力されると、第1モータジェネレータ61が発電機として機能する。
【0021】
一方、第1モータジェネレータ61を電動機として機能させた場合、第1モータジェネレータ61の駆動力がサンギア41に入力される。すると、サンギア41に入力された第1モータジェネレータ61の駆動力は、キャリア42側とリングギア44側とに分配される。そして、キャリア42を介して伝達された第1モータジェネレータ61の駆動力が内燃機関10のクランク軸11に入力されると、内燃機関10のクランク軸11が回転する。すなわち、第1モータジェネレータ61は、当該第1モータジェネレータ61の駆動力をクランク軸11に伝達させることによりクランク軸11を回転させることが可能である。
【0022】
リングギア44は、リングギア軸45に接続している。リングギア軸45は、リングギア44と一体に回転する。リングギア軸45は、伝達機構66に接続している。伝達機構66は、例えば減速歯車機構及び自動変速機を含んでいる。伝達機構66は、ディファレンシャル67を介して駆動輪68に接続している。ディファレンシャル67は、左右の駆動輪68に回転速度差が生じることを許容する。
【0023】
また、リングギア軸45は、リダクション機構50に接続している。リダクション機構50は、サンギア51、キャリア52、複数のピニオンギア53、リングギア54、及びケース55を有する遊星歯車機構である。外歯歯車のサンギア51及び内歯歯車のリングギア54は、同軸上に位置している。サンギア51は、複数のピニオンギア53を介してリングギア54に連結している。キャリア52は、ピニオンギア53を自転可能な状態で支持している。キャリア52は、リダクション機構50のケース55に固定されている。すなわち、キャリア52は、回転不可能であり、ピニオンギア53は、キャリア52により公転不可能な状態になっている。リングギア54は、リングギア軸45に接続している。サンギア51は、第2モータジェネレータ62の回転軸に接続している。
【0024】
第2モータジェネレータ62は、車両100を減速させる際に発電機として機能することで、第2モータジェネレータ62の発電量に応じた回生制動力を車両100に発生させることができる。
【0025】
一方、第2モータジェネレータ62を電動機として機能させた場合、第2モータジェネレータ62の駆動力は、リダクション機構50、リングギア軸45、伝達機構66、及びディファレンシャル67を介して駆動輪68に入力される。すると、第2モータジェネレータ62の駆動力によって、駆動輪68が回転する。
【0026】
図1に示すように、車両100は、オイルを供給するための機構として、供給通路76、及びオイルポンプ77を備えている。図示は省略するが、オイルポンプ77は、クランク軸11に連結している。オイルポンプ77は、クランク軸11が回転することにより駆動する。したがって、オイルポンプ77は、クランク軸11の回転に基づきオイルを吐出する、いわゆる機械式のオイルポンプである。供給通路76は、オイルポンプ77に接続している。供給通路76は、オイルポンプ77から吐出されるオイルを、内燃機関10の各所に供給する。
【0027】
図2に示すように、車両100は、クランク軸11の駆動力を他の装置に伝達するためのチェーン機構20を備えている。チェーン機構20は、駆動スプロケット21、吸気側スプロケット22、排気側スプロケット23、チェーン24、固定ガイド25、揺動ガイド26、カバー27、及びチェーンテンショナ30を備えている。
【0028】
駆動スプロケット21は、クランク軸11に接続している。吸気側スプロケット22は、内燃機関10の図示しない吸気カム軸に接続している。排気側スプロケット23は、内燃機関10の図示しない排気側カム軸に接続している。なお、吸気カム軸は、内燃機関10の吸気バルブを開閉させるためのものである。また、排気カム軸は、内燃機関10の排気バルブを開閉させるためのものである。チェーン24は、駆動スプロケット21、吸気側スプロケット22、及び排気側スプロケット23に巻き掛けられている。したがって、図2において二点鎖線矢印で示すように、駆動スプロケット21が時計回り方向に回転すると、チェーン24が走行し、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23に駆動力が伝達される。そして、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23が時計回り方向に回転する。本実施形態において、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23は、従動スプロケットである。なお、図2では、駆動スプロケット21、吸気側スプロケット22、及び排気側スプロケット23を簡略化して図示している。
【0029】
カバー27は、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23の近傍に位置している。カバー27は、チェーン24のうち、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23に巻き掛けられた部分をチェーン24の外側から覆っている。
【0030】
固定ガイド25は、チェーン24で囲まれる領域の外であって当該チェーン24の近傍に位置している。固定ガイド25は、駆動スプロケット21及び排気側スプロケット23の間に位置している。固定ガイド25は、駆動スプロケット21から排気側スプロケット23に向かうように延びている。固定ガイド25は、ボルトにより内燃機関10の外面に固定されている。固定ガイド25は、チェーン24で囲まれる領域の外から当該チェーン24に接触している。
【0031】
揺動ガイド26は、チェーン24で囲まれる領域の外であって当該チェーン24の近傍に位置している。揺動ガイド26は、駆動スプロケット21及び吸気側スプロケット22の間に位置している。揺動ガイド26は、ガイド本体26A、支持突起26B、当接突起26C、及び回動軸26Dを備えている。ガイド本体26Aは、駆動スプロケット21から吸気側スプロケット22に向かうように延びている。ガイド本体26Aは、長手方向の中央部分がチェーン24に向かって凸となるように湾曲した略弓型形状である。支持突起26Bは、ガイド本体26Aにおける駆動スプロケット21に近い端部に位置している。支持突起26Bは、チェーン24から離れる方向に突出している。回動軸26Dは、支持突起26Bを貫通している。回動軸26Dは、内燃機関10に固定されている。支持突起26B及びガイド本体26Aは、回動軸26Dを中心軸として揺動可能になっている。当接突起26Cは、ガイド本体26Aにおける長手方向の中央部分よりも吸気側スプロケット22に近い箇所に位置している。当接突起26Cは、チェーン24から離れる方向に突出している。図3に示すように、当接突起26Cにおける突出端面は、当該突出端面の中央部分が窪むように湾曲している。
【0032】
図2において二点鎖線矢印で示すように、内燃機関10が駆動することでクランク軸11が時計回り方向に正転すると、チェーン24が、駆動スプロケット21、揺動ガイド26、吸気側スプロケット22の順に走行する。したがって、本実施形態において、クランク軸11の正転方向が第1回転方向である。また、第1回転方向とは反対方向、すなわち、クランク軸11の逆転方向が第2回転方向である。
【0033】
図2に示すように、チェーンテンショナ30は、揺動ガイド26を挟んで、チェーン24とは反対側に位置している。図3に示すように、チェーンテンショナ30は、ハウジング31、プランジャ32、付勢バネ33、逆止弁機構34、上側フランジ36、及び下側フランジ37を備えている。
【0034】
図3に示すように、ハウジング31は、略円筒形状である。ハウジング31の一端は、閉塞している。ハウジング31の開口は、当接突起26Cを向いている。ハウジング31は、当該ハウジング31内の空間として、内部空間31A、拡径空間31B、及び供給孔31Cを備えている。内部空間31Aは、ハウジング31の開口から底面に向かって延びている。内部空間31Aは、略円柱形状の空間である。拡径空間31Bは、内部空間31Aの軸線方向の略中央部分に接続している。拡径空間31Bは、内部空間31Aを周方向に取り囲んでいる。すなわち、拡径空間31Bは、略円環形状の空間である。供給孔31Cは、拡径空間31Bからハウジング31の外周面まで貫通している。供給孔31Cは、供給通路76に接続している。
【0035】
上側フランジ36は、ハウジング31の外周面から上側に向かって突出している。上側フランジ36は、ボルトにより内燃機関10の外面に固定されている。下側フランジ37は、ハウジング31の外周面から下側に向かって突出している。下側フランジ37は、ボルトにより内燃機関10の外面に固定されている。
【0036】
プランジャ32は、略円柱形状である。プランジャ32の外径は、ハウジング31における内部空間31Aの内径よりもわずかに小さくなっている。プランジャ32は、ハウジング31における内部空間31Aに位置している。プランジャ32の第1端を含む一部分は、内部空間31Aから突出している。プランジャ32の第1端を含む端面は、揺動ガイド26の当接突起26Cに当接している。プランジャ32の第1端を含む端面は、中央部分が突出するように湾曲している。また、プランジャ32の第2端を含む端面とハウジング31における内部空間31Aの底面との間には、オイルが供給される油圧室30Aが区画されている。なお、チェーンテンショナ30は、油圧室30Aに供給されるオイルによりオイルダンパとしても機能する。
【0037】
プランジャ32は、当該プランジャ32内の空間として、第1空間32A、第2空間32B、接続孔32C、及び導入孔32Dを備えている。第2空間32B、接続孔32C、及び第1空間32Aは、プランジャ32における第2端から第1端に向かって、この順で並んでいる。第2空間32Bは、略円柱形状の空間である。第2空間32Bは、油圧室30Aに開放している。接続孔32Cは、第2空間32Bに接続している。接続孔32Cは、略円柱形状の空間である。接続孔32Cの内径は、第2空間32Bの内径よりも小さくなっている。第1空間32Aは、接続孔32Cに接続している。第1空間32Aは、略円柱形状の空間である。第1空間32Aの内径は、接続孔32Cの内径よりも大きくなっている。導入孔32Dは、第1空間32Aに接続している。導入孔32Dは、プランジャ32の外周面にまで至っている。
【0038】
付勢バネ33は、ハウジング31とプランジャ32との間に位置している。付勢バネ33は、圧縮されている。付勢バネ33の第1端は、ハウジング31の底面に接触している。付勢バネ33の第2端を含む一部は、プランジャ32の第2空間32Bに位置している。付勢バネ33は、プランジャ32のうちの第2空間32Bを区画する底面に接触している。付勢バネ33は、プランジャ32を揺動ガイド26の当接突起26Cに向かって付勢している。
【0039】
逆止弁機構34は、プランジャ32の第2空間32Bに位置している。逆止弁機構34は、第2空間32Bを区画する底面に取り付けられている。逆止弁機構34は、第1空間32A及び第2空間32Bのオイルの圧力に応じて、第1空間32A及び第2空間32Bの間のオイルの流通を規制する。具体的には、逆止弁機構34は、第1空間32Aのオイルの圧力が第2空間32Bのオイルの圧力に比べて高い場合、接続孔32Cを介した第1空間32Aから第2空間32Bへのオイルの流通を許容する。一方、逆止弁機構34は、第1空間32Aのオイルの圧力が第2空間32Bのオイルの圧力以下である場合、接続孔32Cを介した第2空間32Bから第1空間32Aへのオイルの流通を規制する。そして、第2空間32Bに供給されたオイルの圧力に応じて、ハウジング31に対してプランジャ32が突出する。その結果、チェーンテンショナ30は、第2空間32Bに供給されたオイルの圧力に応じた力で、揺動ガイド26をチェーン24に押し付ける。
【0040】
<車両の電気的構成>
次に、車両100の電気的構成について説明する。
図1に示すように、車両100は、電力を授受するための装置として、第1インバータ71、第2インバータ72、及びバッテリ73を備えている。第1インバータ71は、第1モータジェネレータ61とバッテリ73との間の電力の授受量を調整する。第2インバータ72は、第2モータジェネレータ62とバッテリ73との間の電力の授受量を調整する。
【0041】
図1に示すように、車両100は、クランク角センサ81、アクセル開度センサ83、車速センサ84、電流センサ86、電圧センサ87、温度センサ88、及びアクセルペダル89を備えている。クランク角センサ81は、クランク軸11の近傍に位置している。クランク角センサ81は、クランク軸11の回転角であるクランク角SCを検出する。アクセル開度センサ83は、運転者により操作されるアクセルペダル89の近傍に位置している。アクセル開度センサ83は、運転者により操作されるアクセルペダル89の操作量であるアクセル開度ACCを検出する。車速センサ84は、車両100の速度である車速SPを検出する。電流センサ86は、バッテリ73に入出力される電流である電流IBを検出する。電圧センサ87は、バッテリ73の端子間電圧である電圧VBを検出する。温度センサ88は、バッテリ73の温度であるバッテリ温TBを検出する。
【0042】
車両100は、制御装置90を備えている。制御装置90は、クランク角SCを示す信号をクランク角センサ81から取得する。制御装置90は、アクセル開度ACCを示す信号をアクセル開度センサ83から取得する。制御装置90は、車速SPを示す信号を車速センサ84から取得する。制御装置90は、電流IBを示す信号を電流センサ86から取得する。制御装置90は、電圧VBを示す信号を電圧センサ87から取得する。制御装置90は、バッテリ温TBを示す信号を温度センサ88から取得する。
【0043】
制御装置90は、クランク角SCに基づいて、クランク軸11の単位時間当たりの回転数である機関回転速度NEを算出する。制御装置90は、電流IB、電圧VB、及びバッテリ温TBに基づいて、バッテリ73の充電率SOCを算出する。具体的には、制御装置90は、以下の式に基づき充電率SOCを算出する。
【0044】
式(1):充電率SOC[%]=バッテリ73の残容量[Ah]/バッテリ73の満充電容量[Ah]×100[%]
上記の式(1)のうち、満充電容量は、例えばバッテリ73の電圧VB及びバッテリ温TBに基づき算出される。また、残容量は、例えばバッテリ73の電圧VB及び電流IBに基づき算出される。
【0045】
制御装置90は、バッテリ73の充電制御を行う。この充電制御により、バッテリ73の充電率SOCは、充電率上限値SOCHと充電率下限値SOCLとの間の範囲に制御される。充電率上限値SOCHの一例は、60~80%である。また、充電率下限値SOCLの一例は、20~30%である。
【0046】
また、制御装置90は、アクセル開度ACC及び車速SPに基づいて、車両100が走行するために必要な出力の要求値である車両要求出力を算出する。制御装置90は、車両要求出力に基づいて、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62のトルク配分を決定する。制御装置90は、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62のトルク配分に基づいて、内燃機関10の出力と、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62の力行及び回生とを制御する。
【0047】
制御装置90は、内燃機関10に制御信号を出力することにより、当該内燃機関10における吸入空気量の調整、燃料噴射量の調整、点火時期の調整などの各種の制御を実行する。また、制御装置90は、第1モータジェネレータ61を制御するにあたって、第1インバータ71に制御信号を出力する。そして、制御装置90は、第1インバータ71を介して、第1モータジェネレータ61とバッテリ73との間の電力の授受量を調整することにより、第1モータジェネレータ61を制御する。さらに、制御装置90は、第2モータジェネレータ62を制御するにあたって、第2インバータ72に制御信号を出力する。そして、制御装置90は、第2インバータ72を介して、第2モータジェネレータ62とバッテリ73との間の電力の授受量を調整することにより、第2モータジェネレータ62を制御する。
【0048】
制御装置90は、車両100が走行する場合、車両100の走行モードとして、EVモード及びHVモードの何れか一方を選択する。ここで、EVモードとは、内燃機関10を停止させつつ、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62の少なくとも一方を駆動させて車両100を走行させる走行モードである。したがって、EVモードでは、第1モータジェネレータ61の駆動力、及び第2モータジェネレータ62の駆動力によって車両100を走行させる。また、HVモードとは、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62に加えて、内燃機関10を駆動させて車両100を走行させる車両100の走行モードである。したがって、HVモードでは、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62の駆動力に加えて、内燃機関10の駆動力によって車両100を走行させる。本実施形態において、HVモードは非EVモードの一例である。
【0049】
制御装置90は、例えば、バッテリ73の充電率SOCに十分な余裕があり、且つ、上述した車両要求出力が小さい場合にEVモードを選択する。車両要求出力が小さい例としては、車両100の発進時、車両100の加速度の小さい軽負荷走行時、などである。一方、制御装置90は、例えば、バッテリ73の充電率SOCに十分な余裕がない場合には、HVモードを選択する。
【0050】
上記の制御装置90は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサを含む回路(circuitry)として構成し得る。なお、制御装置90は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、又はそれらの組み合わせを含む回路として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる媒体を含む。
【0051】
<圧力制御>
次に、制御装置90が行う圧力制御について説明する。この実施形態において圧力制御とは、EVモード中に、チェーンテンショナ30の油圧室30A内の圧力が過度に低下することを抑制するための制御である。制御装置90は、車両100の走行モードとしてEVモードを選択している場合、圧力制御を繰り返し実行する。
【0052】
図4に示すように、制御装置90は、圧力制御を開始すると、ステップS11の処理を進める。ステップS11において、制御装置90は、クランク軸11の変動量XAを算出する。ここで、EVモードでは、内燃機関10が停止するため、クランク軸11が僅かに正転したり、僅かに逆転したりする、すなわちクランク軸11の角度位置が変動することがある。そこで、制御装置90は、クランク軸11の角度位置の変動の大きさを変動量XAとして算出する。具体的には、ステップS11において、制御装置90は、ステップS11の処理時点から一定期間前までのクランク角SCの推移を取得する。そして、制御装置90は、上記のクランク角SCの推移のうち、最大値から最小値を減算した値を、変動量XAとして算出する。なお、クランク軸11が正転すると、クランク角SCは、0度以上720度未満の範囲内で徐々に大きな値になる。したがって、変動量XAは、正の値として算出される。その後、制御装置90は、処理をステップS12に進める。
【0053】
ステップS12において、制御装置90は、変動量XAが予め定められた判定値以上であるか否かを判定する。ここで、判定値としては、クランク軸11の角度位置の変動を判定するための値として実験等により予め設定している。判定値としては、例えば、数度~数十度である。本実施形態において、ステップS12の処理は、クランク軸11が正転及び逆転をしている状態であるか否かを判定する処理の一例である。ステップS12において、制御装置90は、変動量XAが判定値未満であると判定した場合(S12:NO)、今回の圧力制御を終了し、処理を再びステップS11に進める。なお、制御装置90は、ステップS12で否定判定した場合、後述する変動期間XBをリセットする。一方、ステップS12において、制御装置90は、変動量XAが判定値以上であると判定した場合(S12:YES)、処理をステップS13に進める。
【0054】
ステップS13において、制御装置90は、変動期間XBの計時を開始する。変動期間XBとは、クランク軸11が正転及び逆転を繰り返している状態が継続している期間である。具体的には、制御装置90は、ステップS13の処理時点において変動期間XBを計時していない場合には、変動期間XBの計時を開始する。また、制御装置90は、ステップS13の処理時点において変動期間XBを計時中である場合には、変動期間XBの計時をそのまま継続する。
【0055】
ステップS14において、制御装置90は、変動期間XBが予め定められた所定期間以上であるか否かを判定する。ここで、所定期間は、例えば以下のように定めている。具体的には、所定期間の設定にあたって、チェーンテンショナ30によりチェーン24に十分な張力を与えることができるチェーンテンショナ30内のオイルの圧力の最低値を実験等により求める。また、上記のチェーンテンショナ30内のオイルの圧力の最低値よりも一定値だけ高い値を許容圧力とする。さらに、上記の許容圧力よりも高い圧力であって、車両100がHVモードで走行している場合におけるチェーンテンショナ30内のオイルの圧力の平均値を基準圧力とする。また、EVモード中のクランク軸11の角度位置の変動に起因して、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が基準圧力から許容圧力になるまでの期間を実験等により求める。そして、上記の基準圧力から許容圧力になるまでの期間を、所定期間として設定している。所定期間としては、例えば、十数分~数十分である。本実施形態において、ステップS14の処理は、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が予め定められた規定圧力以下であるか否かを判定する処理の一例である。また、上記の許容圧力は、予め定められた規定圧力の一例である。
【0056】
ステップS14において、制御装置90により変動期間XBが所定期間未満であると判定した場合(S14:NO)、制御装置90は、今回の圧力制御を終了し、処理を再びステップS11に進める。一方、ステップS14において、制御装置90は、変動期間XBが所定期間以上であると判定した場合(S14:YES)、先ず変動期間XBをリセットする。そして、制御装置90は、処理をステップS21に進める。このように、制御装置90は、EVモード中であって、且つ、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が予め定められた規定圧力以下であることを条件に、処理をステップS21に進める。
【0057】
ステップS21において、制御装置90は、クランク軸11の逆転量の積算値XCを算出する。具体的には、制御装置90は、ステップS14の処理時点から所定期間前までのクランク角SCの推移を取得する。なお、ここで用いる所定期間は、ステップS14において閾値として用いた所定期間と同一の期間である。また、制御装置90は、上記のクランク角SCの推移について、クランク角SCの極大値及び極小値を全て特定する。さらに、制御装置90は、各クランク角SCの極大値及び極小値について、クランク角SCの極大値から、当該極大値の次のクランク角SCの極小値を減算した値を、逆転量として算出する。そして、制御装置90は、上述のようにして算出される全ての逆転量を積算した値を、積算値XCとして算出する。なお、算出される積算値XCは、正の値である。その後、制御装置90は、処理をステップS22に進める。
【0058】
ステップS22において、制御装置90は、クランク軸11の逆転量の積算値XCに基づいて、チェーンテンショナ30内のオイルの抜け量XDを算出する。具体的には、制御装置90は、クランク軸11の逆転量の積算値XCが大きいほど、オイルの抜け量XDを大きい値として算出する。その後、制御装置90は、処理をステップS23に進める。
【0059】
ステップS23において、制御装置90は、オイルの抜け量XDに基づいて、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力の推定値である推定圧力XEを推定する。具体的には、制御装置90は、オイルの抜け量XDが大きいほど、推定圧力XEを低い値として算出する。その後、制御装置90は、処理をステップS24に進める。
【0060】
ステップS24において、制御装置90は、推定圧力XEに基づいて、オイルポンプ77から吐出するオイルの圧力の目標値である目標圧力Zを算出する。具体的には、制御装置90は、推定圧力XEが低いほど、目標圧力Zを高い値として算出する。換言すると、制御装置90は、クランク軸11の逆転量の積算値XCが大きいほど、目標圧力Zを高い値として算出する。また、上述したように、図2において二点鎖線矢印で示すクランク軸11の正転方向が第1回転方向であり、クランク軸11の逆転方向が第2回転方向である。したがって、ステップS24の処理は、EVモード中でのクランク軸11の第2回転方向の回転量の積算値に基づいて、目標圧力Zを推定する処理の一例である。その後、制御装置90は、処理をステップS30に進める。
【0061】
ステップS30において、制御装置90は、バッテリ73の充電率SOCが予め定められた規定値以上であるか否かを判定する。ここで、規定値は、バッテリ73の充電率SOCに十分な余裕があるか否かを判定するための値として定められている。本実施形態において、規定値は、充電率下限値SOCLよりも大きい値である。規定値の一例は、40%である。ステップS30において、制御装置90は、バッテリ73の充電率SOCが規定値以上であると判定した場合(S30:YES)、処理をステップS31に進める。
【0062】
ステップS31において、制御装置90は、第1モータジェネレータ61によりクランク軸11を回転させる。具体的には、制御装置90は、第1インバータ71を介して、第1モータジェネレータ61を制御する。すると、第1モータジェネレータ61の駆動力が動力分割機構40を介してクランク軸11に伝達する。その結果、クランク軸11が正転する。このとき、制御装置90は、目標圧力Zが高いほど、クランク軸11の回転速度、すなわち機関回転速度NEが高くなるように、第1モータジェネレータ61を制御する。したがって、目標圧力Zが高いほど、オイルポンプ77から吐出されるオイルの量が多くなる。その後、制御装置90は、処理をステップS41に進める。
【0063】
一方、ステップS30において、制御装置90は、バッテリ73の充電率SOCが規定値未満であると判定した場合(S30:NO)、処理をステップS32に進める。
ステップS32において、制御装置90は、内燃機関10を自立運転させることにより、クランク軸11を回転させる。このとき、制御装置90は、目標圧力Zが高いほど、機関回転速度NEが高くなるように、内燃機関10を制御する。したがって、目標圧力Zが高いほど、オイルポンプ77から吐出されるオイルの量が多くなる。ここで、内燃機関10の自立運転とは、内燃機関10の気筒における燃料の燃焼に起因した駆動力のみにより、クランク軸11を継続して回転させることができる運転状態のことである。なお、ステップS32の処理により、車両100の走行モードが、一時的にEVモードからHVモードに切り替わる。その後、制御装置90は、処理をステップS41に進める。
【0064】
ステップS41において、制御装置90は、クランク軸11の回転期間XTを算出する。具体的には、制御装置90は、ステップS31の処理又はステップS32の処理を開始してからステップS41の処理時点までの経過時間を、クランク軸11の回転期間XTとして算出する。その後、制御装置90は、処理をステップS42に進める。
【0065】
ステップS42において、制御装置90は、クランク軸11の回転期間XTが予め定められた規定期間以上であるか否かを判定する。ここで、規定期間は、例えば以下のように定められている。先ず、ステップS31の処理又はステップS32の処理を開始する時点のチェーンテンショナ30内のオイルの圧力が上記の許容圧力であるものとする。そして、ステップS31の処理又はステップS32の処理を開始してから、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が上記の許容圧力よりも高い基準圧力になるまでの期間を、規定期間として設定している。なお、上述したように、基準圧力は、上記の許容圧力よりも高い圧力であって、車両100がHVモードで走行している場合におけるチェーンテンショナ30内のオイルの圧力の平均値である。ステップS42において、制御装置90は、クランク軸11の回転期間XTが規定期間未満であると判定した場合(S42:NO)、処理をステップS41に戻す。一方、ステップS42において、制御装置90は、クランク軸11の回転期間XTが規定期間以上であると判定した場合(S42:YES)、処理をステップS43に進める。
【0066】
ステップS43において、制御装置90は、クランク軸11の回転を停止する。具体的には、制御装置90は、ステップS31において第1モータジェネレータ61によりクランク軸11を回転させていた場合、第1モータジェネレータ61の駆動力がクランク軸11に伝達しないように第1モータジェネレータ61を制御する。その結果、クランク軸11の回転が停止する。一方、制御装置90は、ステップS32において内燃機関10を自立運転させることによりクランク軸11を回転させていた場合、内燃機関10を停止することによりクランク軸11の回転を停止する。なお、この場合、ステップS43の処理により、車両100の走行モードが、HVモードからEVモードに戻る。その後、制御装置90は、今回の圧力制御を終了し、処理を再びステップS11に進める。本実施形態において、ステップS21~ステップS43の処理は、駆動処理の一例である。
【0067】
<本実施形態の作用>
車両100のEVモード中は、内燃機関10が停止するため、内燃機関10を駆動源とするオイルポンプ77も停止する。そのため、オイルポンプ77からのオイルがチェーンテンショナ30に供給されない。一方、車両100のEVモード中においては、第2モータジェネレータ62の駆動力が、リダクション機構50及び動力分割機構40を介して、クランク軸11に伝達することがある。そして、クランク軸11が正転したり逆転したりすると、チェーン24が走行することでチェーン24の張力が変化する。そのため、チェーン24から揺動ガイド26を介してチェーンテンショナ30に力が作用する。すると、チェーンテンショナ30内のオイルが抜け出る。したがって、クランク軸11が正転したり逆転したりする状態が継続することに起因して、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が低下していく。
【0068】
<本実施形態の効果>
(1)本実施形態では、車両100のEVモード中であって、且つ、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が予め定められた規定圧力以下であることを条件に、クランク軸11を回転させてオイルポンプ77を駆動させる。こうしてオイルポンプ77が駆動すると、オイルポンプ77からのオイルがチェーンテンショナ30に供給される。このように、オイルポンプ77からのオイルがチェーンテンショナ30に供給されるため、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が過度に低下することは抑制される。これにより、内燃機関10が駆動を開始した後、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が適切な圧力になるまでに時間を要することは抑制できる。その結果、チェーン24に十分な張力を与えることができるようになるまでに時間を要することも抑制できる。
【0069】
(2)車両100においてクランク軸11が正転及び逆転を繰り返している状態は、内燃機関10が停止しているときにしか発生しない。そして、上述したように、クランク軸11が正転及び逆転を繰り返す状態が継続することに起因して、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が低下していく。
【0070】
そこで、本実施形態では、クランク軸11が正転及び逆転を繰り返している状態が継続している期間である変動期間XBが所定期間以上である場合に、クランク軸11を回転させてオイルポンプ77を駆動させる。すなわち、本実施形態では、上記の場合に、車両100のEVモード中であって、且つ、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が予め定められた規定圧力以下である、という条件が満たされたものとしている。この構成によれば、上記の原理に基づき、例えばチェーンテンショナ30内のオイルの圧力を圧力センサ等で計測しなくても、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が低下したことを判定できる。
【0071】
(3)本実施形態では、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力の推定値である推定圧力XEが低いほど、オイルポンプ77から吐出するオイルの圧力の目標値である目標圧力Zを高い値として算出する。そして、目標圧力Zが高いほど、クランク軸11の回転速度が高くなることにより、オイルポンプ77から吐出されるオイルの量が多くなる。これにより、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が低くなっていても、オイルポンプ77が駆動すれば、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力を速やかに高めることができる。
【0072】
(4)図2において二点鎖線矢印で示すように、クランク軸11が図2における時計回り方向に正転すると、チェーン24が、駆動スプロケット21、揺動ガイド26、吸気側スプロケット22、排気側スプロケット23の順に走行する。このとき、チェーン24のうち、排気側スプロケット23及び駆動スプロケット21の間の部分は、駆動スプロケット21により引っ張られた状態になる。したがって、チェーン24のうち、排気側スプロケット23及び駆動スプロケット21の間の部分の張力は、比較的に高くなる。一方、チェーン24のうち、駆動スプロケット21及び吸気側スプロケット22の間の部分は、駆動スプロケット21からチェーン24が送り出されるため、張力が比較的に低くなる。
【0073】
クランク軸11が図2における反時計回り方向に逆転すると、チェーン24が、吸気側スプロケット22、揺動ガイド26、駆動スプロケット21、排気側スプロケット23の順に走行する。このとき、チェーン24のうち、駆動スプロケット21及び排気側スプロケット23の間の部分は、駆動スプロケット21からチェーン24が送り出されるため、張力が比較的に低くなる。一方、チェーン24のうち、吸気側スプロケット22及び駆動スプロケット21の間の部分は、駆動スプロケット21により引っ張られた状態になる。したがって、チェーン24のうち、吸気側スプロケット22及び駆動スプロケット21の間の部分の張力は、比較的に高くなる。そして、このように、チェーン24のうち、吸気側スプロケット22及び駆動スプロケット21の間の部分の張力が高まったときに、チェーンテンショナ30からオイルが抜け出る可能性が高い。したがって、クランク軸11が正転及び逆転を繰り返している状態が継続する期間が同じであっても、クランク軸11の逆転量の積算値XCが大きいほど、チェーンテンショナ30に力が作用しやすい。その結果、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が低下しやすい。
【0074】
この点、本実施形態では、クランク軸11の逆転量の積算値XCが大きいほど、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力の推定値である推定圧力XEを低い値として算出する。すなわち、クランク軸11の逆転量の積算値XCが大きいほどチェーンテンショナ30に力が作用しやすいことを反映して、推定圧力XEを低い値として算出する。これにより、推定圧力XEを正確に推定できる。
【0075】
(5)本実施形態では、バッテリ73の充電率SOCが規定値以上である場合、第1モータジェネレータ61の駆動力をクランク軸11に伝達させることによりクランク軸11を回転させる。つまり、バッテリ73の充電率SOCが規定値以上である場合には、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力が低いことに起因して内燃機関10が自立運転することはない。そのため、クランク軸11を回転させてオイルポンプ77を駆動するために内燃機関10が自立運転する機会が抑制される。これにより、チェーンテンショナ30にオイルを供給するためだけに、内燃機関10において燃料が消費されることを抑制できる。
【0076】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0077】
・上記実施形態において、駆動処理でオイルポンプ77を駆動するための駆動源は、適宜変更できる。例えば、制御装置90は、バッテリ73の充電率SOCに拘わらず、内燃機関10を自立運転させることによりクランク軸11を回転させてもよい。この場合、バッテリ73の充電率SOCを低下させることなく、チェーンテンショナ30内の圧力を高められる。また、バッテリ73の充電率SOC等に基づいた制御が不要になるため、一連の圧力制御の処理を簡略化できる。
【0078】
・また、例えば、制御装置90は、バッテリ73の充電率SOCに拘わらず、第1モータジェネレータ61を駆動させることによりクランク軸11を回転させてもよい。EVモード中にあってはバッテリ73の電力を用いるため、圧力制御を実行する際には、バッテリ73の充電率SOCがある程度確保されていると予想できる。また、駆動処理においてオイルポンプ77を駆動する期間は比較的に短いため、バッテリ73の充電率SOCに拘わらず、第1モータジェネレータ61を駆動させたとしても、その影響は小さい。
【0079】
・上記実施形態において、車両100は、2つのモータジェネレータを備えている必要はなく、少なくとも1つのモータジェネレータを備えていればよい。また、こうした車両100としては、内燃機関、クラッチ、モータジェネレータ、駆動輪の順で連結される車両、いわゆるシリーズハイブリッド車が知られている。この車両100では、駆動処理を実行するにあたって、クラッチを係合することにより、当該クラッチを介してモータジェネレータの駆動力を内燃機関のクランク軸に伝達させてもよい。
【0080】
・上記実施形態において、駆動処理を実行するための条件を変更してもよい。例えば、制御装置90は、車両100のEVモードの継続期間が予め定められた所定期間以上である場合に、駆動処理を実行するための条件が満たされたものとして駆動処理を実行してもよい。つまり、クランク軸11が正転及び逆転をしているかどうかの判定、及びその期間の計時は、必須ではない。
【0081】
・上記実施形態では、変動期間XBを、クランク軸11が正転及び逆転を繰り返している状態が継続している期間として算出したが、これに限らない。例えば、変動期間XBを、1回のEVモードにおいて、クランク軸11が正転及び逆転を繰り返している積算期間として算出してもよい。この変更例の場合、例えば、クランク軸11が正転及び逆転した後、クランク軸11の回転が完全に停止し、さらにその後、再びクランク軸11が正転及び逆転する、といった場合でも、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力を正確に推定できる。
【0082】
・上記実施形態において、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力の推定値である推定圧力XEを推定する構成は変更してもよい。例えば、チェーン機構20の構成によっては、クランク軸11が逆転するときに、チェーン24が、駆動スプロケット21、揺動ガイド26、吸気側スプロケット22の順に走行する。この構成では、クランク軸11が正転する場合においてチェーン24から揺動ガイド26を介してチェーンテンショナ30に作用する力は、クランク軸11が逆転する場合に比べて大きくなる傾向がある。そのため、上記の構成においては、制御装置90は、クランク軸11の正転量の積算値に基づいて、推定圧力XEを算出してもよい。なお、上記の構成では、クランク軸11の逆転方向が第1回転方向であり、クランク軸11の正転方向が第2回転方向である。
【0083】
・また、例えば、制御装置90は、クランク軸11の逆転量の積算値XC、及びクランク軸11の正転量の積算値の両方の値に基づいて、推定圧力XEを算出してもよい。具体例としては、制御装置90は、クランク軸11の逆転量の積算値XC、及びクランク軸11の正転量の積算値の和が大きいほど、推定圧力XEを低い値として算出してもよい。
【0084】
・上記実施形態において、目標圧力Zを算出する構成は変更してもよい。例えば、制御装置90は、推定圧力XEが低いほど、目標圧力Zを高い値として算出したが、段階的に目標圧力Zを高くしてもよい。具体例としては、制御装置90は、推定圧力XEが予め定められた所定圧力未満であるか否かを判定する。そして、制御装置90は、推定圧力XEが所定圧力未満であると判定した場合、推定圧力XEが所定圧力以上であると判定した場合よりも、目標圧力Zを高い値として算出してもよい。
【0085】
・また、例えば、制御装置90は、推定圧力XEに拘わらず、一定の目標圧力Zを設定してもよい。この場合、圧力制御では、ステップS21~ステップS23の処理を省略できる。
【0086】
・上記実施形態において、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力は推定しなくてもよい。具体例としては、車両100は、チェーンテンショナ30内のオイルの圧力を検出する圧力センサを備えていてもよい。
【0087】
・上記実施形態において、駆動処理におけるオイルポンプ77のオイルの吐出量を調整する構成は変更してもよい。例えば、制御装置90は、目標圧力Zに拘わらず、駆動処理におけるクランク軸11の回転速度を一定の値にしてもよい。
【0088】
・上記実施形態において、オイルポンプ77の構成は変更してもよい。例えば、オイルポンプ77としては、調整バルブを制御してオイルポンプ77の容量を調整することにより、クランク軸11が1回転する際に吐出するオイルの量を変更可能なオイルポンプ、すなわち、容量可変式ポンプを採用してもよい。この構成においては、制御装置90は、目標圧力Zが高いほど、クランク軸11が1回転する際にオイルポンプ77から吐出されるオイルの量を多くすることが好ましい。この場合、目標圧力Zに拘わらず、駆動処理におけるクランク軸11の回転速度が一定の値であっても、差し支えない。
【符号の説明】
【0089】
10…内燃機関
11…クランク軸
20…チェーン機構
21…駆動スプロケット
22…吸気側スプロケット
23…排気側スプロケット
24…チェーン
25…固定ガイド
26…揺動ガイド
27…カバー
30…チェーンテンショナ
30A…油圧室
31…ハウジング
32…プランジャ
33…付勢バネ
34…逆止弁機構
40…動力分割機構
50…リダクション機構
61…第1モータジェネレータ
62…第2モータジェネレータ
66…伝達機構
67…ディファレンシャル
68…駆動輪
71…第1インバータ
72…第2インバータ
73…バッテリ
76…供給通路
77…オイルポンプ
90…制御装置
100…車両
図1
図2
図3
図4