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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】蓄電装置、故障診断方法
(51)【国際特許分類】
   H02H 7/18 20060101AFI20250701BHJP
   B60R 16/033 20060101ALI20250701BHJP
   G01R 31/327 20060101ALI20250701BHJP
   H02J 7/00 20060101ALN20250701BHJP
【FI】
H02H7/18
B60R16/033
G01R31/327
H02J7/00 Q
H02J7/00 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021091062
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183632
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】今中 佑樹
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-054164(JP,A)
【文献】特開2016-010263(JP,A)
【文献】特開2017-005985(JP,A)
【文献】特開2018-057218(JP,A)
【文献】特開2018-058405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 50/60
B60R 16/033
G01R 31/327
H01M 10/48
H02H 7/18
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置であって、
外部端子と、
蓄電セルと、
一端を前記外部端子に電気的に接続し、他端を前記蓄電セルに電気的に接続するリレーと、
故障診断装置と、を備え、
前記リレーは、
接点と、
前記蓄電セルから励磁電流が供給されることにより、前記接点をクローズに保持する第1コイルと、
前記蓄電セルから励磁電流が供給されることにより、前記接点をオープンに保持する第2コイルと、を備えたノーマリクローズタイプのラッチングリレーであり、
前記故障診断装置は、前記リレーの故障診断処理において、
前記蓄電セルから前記第1コイルに励磁電流を供給することにより前記接点をクローズに保持し、励磁電流供給前後における前記外部端子の電圧変化ΔV1と前記蓄電セルの電圧変化ΔV2との比較結果に基づいて、前記リレーのオープン故障を診断するものとし、ΔV1=ΔV2の場合、正常と判断し、ΔV1≠ΔV2の場合、故障と判断する、蓄電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電装置であって、
前記故障診断装置は、前記リレーの故障診断処理を、所定の実行周期で繰り返し実行する、蓄電装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動体用蓄電装置。
【請求項4】
リレーの故障診断方法であって、
前記リレーは、一端を外部端子に電気的に接続し、他端を蓄電セルに電気的に接続したノーマリクローズタイプのラッチングリレーであり、
前記蓄電セルから第1コイルに励磁電流を供給して前記リレーの接点をクローズに保持するステップと、
励磁電流供給前後における前記外部端子の電圧変化ΔV1と前記蓄電セルの電圧変化ΔV2との比較結果に基づいて、前記リレーのオープン故障を診断するものとし、ΔV1=ΔV2の場合、正常と判断し、ΔV1≠ΔV2の場合、故障と判断するステップを有する、リレーの故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リレーの故障を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載されたバッテリは、リレーを有しており、何らかの異常を検出した場合、電流を遮断することで、バッテリを保護している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-5985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用のバッテリは、リレーが故障してオープンに固着した場合、車両への電力供給が途絶え、車両がパワーフェイル(電源喪失)する可能性がある。そのため、リレーのオープン故障を診断することが求められている。また、車両以外の用途でも、パワーフェイルを許容しない場合、リレーのオープン故障を診断することが求められる。
本発明の一態様は、リレーのオープン故障を診断する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
蓄電装置は、外部端子と、蓄電セルと、一端を前記外部端子に電気的に接続し、他端を前記蓄電セルに電気的に接続するリレーと、故障診断装置と、を備える。前記リレーは、接点と、前記蓄電セルから励磁電流が供給されることにより、前記接点をクローズに保持する第1コイルと、前記蓄電セルから励磁電流が供給されることにより、前記接点をオープンに保持する第2コイルと、を備えたノーマリクローズタイプのラッチングリレーである。前記故障診断装置は、前記リレーの故障診断処理において、前記蓄電セルから前記第1コイルに励磁電流を供給することにより前記接点をクローズに保持し、励磁電流供給前後における前記外部端子の電圧変化に基づいて、前記リレーのオープン故障を診断する。
【0006】
本技術は、リレーの故障診断方法や、故障診断プログラムにも適用することが出来る。
【発明の効果】
【0007】
本技術は、リレーのオープン故障を診断することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両の側面図
図2】バッテリの分解斜視図
図3】二次電池セルの平面図
図4図3のA-A線断面図
図5】バッテリのブロック図
図6】リレーと冗長回路の回路図
図7】接点の動作タイミングを示すタイミングチャート
図8】励磁電流供給前後のA点の電圧をまとめた図表
図9】励磁電流供給前後のA点の電圧変化とB点の電圧変化をまとめた図表
図10】接点の動作タイミングを示すタイミングチャート
図11】リレーの故障診断フロー
【発明を実施するための形態】
【0009】
蓄電装置の概要を説明する。
蓄電装置は、外部端子と、蓄電セルと、一端を前記外部端子に電気的に接続し、他端を前記蓄電セルに電気的に接続するリレーと、故障診断装置と、を備える。前記リレーは、接点と、前記蓄電セルから励磁電流が供給されることにより、前記接点をクローズに保持する第1コイルと、前記蓄電セルから励磁電流が供給されることにより、前記接点をオープンに保持する第2コイルと、を備えたノーマリクローズタイプのラッチングリレーである。前記故障診断装置は、前記リレーの故障診断処理において、前記蓄電セルから前記第1コイルに励磁電流を供給することにより前記接点をクローズに保持し、励磁電流供給前後における前記外部端子の電圧変化に基づいて、前記リレーのオープン故障を診断する。
【0010】
この構成では、例えば、蓄電装置が車両用の場合、車両システムの状態に依存せず、接点が「オープン」か「クローズ」か、正確に判断できる。そのため、リレーのオープン故障を精度よく診断することが出来る。故障診断精度の向上により、リレーのオープン故障を早期に検出することが出来る。リレーのオープン故障を検出した場合、冗長回路を動作させる等、必要な措置を講ずることで、車両がパワーフェイルするリスクを低減することが可能となる。
【0011】
この構成では、リレーの誤動作等により、接点が、「クローズ」から「オープン」に切り換わった場合、故障診断の実行により、接点を「クローズ」に戻すことが出来る。そのため、車両がパワーフェイルするリスクを低減できる。
【0012】
つまり、この構成では、「オープン故障の早期検出」と「誤動作後のクローズ復帰」が可能であることから、パワーフェイルのリスクを低減することが出来、蓄電装置の信頼性を向上させることが出来る。車両に限らず、パワーフェイルを許容しない用途に、蓄電装置を用いる場合、同様の効果がある。
【0013】
前記故障診断装置は、励磁電流供給前後における前記外部端子の電圧変化と前記蓄電セルの電圧変化の比較結果に基づいて、前記リレーのオープン故障を診断してもよい。
【0014】
励磁電流供給前後の外部端子の電圧変化だけで接点の「オープン」、「クローズ」を判断する場合、外部端子の電圧が、励磁電流の供給以外の要因で変化すると、接点の状態を誤判断する可能性がある。この構成では、外部端子の電圧変化と蓄電セルの電圧変化を比較することで、外部端子の電圧が励磁電流の供給以外の要因で変化した場合でも、接点が、「オープン」か「クローズ」か、正確に判断できる。
【0015】
前記故障診断装置は、前記リレーの故障診断処理を、所定の実行周期で繰り返し実行してもよい。この構成では、リレーの誤動作により「オープン」に切り換わった接点を、所定の実行周期で、「クローズ」に復帰できる。従って、誤動作により切り換わった接点が、長期間、オープン状態のままになることを抑制できる。
【0016】
<実施形態1>
1.バッテリ50の説明
図1に示すように、車両10には、エンジン20と、エンジン20の始動等に用いられるバッテリ50とが搭載されている。バッテリ50は「蓄電装置」の一例である。車両10には、エンジン20(内燃機関)に代えて、車両駆動用の蓄電装置や、燃料電池が搭載されていてもよい。
【0017】
図2に示すように、バッテリ50は、組電池60と、回路基板ユニット65と、収容体71を備える。収容体71は、合成樹脂材料からなる本体73と蓋体74とを備える。本体73は有底筒状であり、底面部75と、4つの側面部76と、を備える。4つの側面部76によって、本体73の上端に開口部77が形成されている。
【0018】
収容体71は、組電池60と回路基板ユニット65を収容する。回路基板ユニット65は、回路基板100上に各種部品(リレー53、図5に示す電流検出部54や管理装置150等)を搭載した基板ユニットであり、図2に示すように組電池60の、例えば上方に隣接して配置されている。代替的に、回路基板ユニット65は、組電池60の側方に隣接して配置されていてもよい。
【0019】
蓋体74は、本体73の開口部77を閉鎖する。蓋体74の周囲には外周壁78が設けられている。蓋体74は、平面視略T字形の突出部79を有する。蓋体74の前部のうち、一方の隅部に正極の外部端子51が固定され、他方の隅部に負極の外部端子52が固定されている。回路基板ユニット65は、収容体71の本体73に代えて、蓋体74内に(例えば突出部79内に)収容されていてもよい。
【0020】
組電池60は、複数のセル62から構成されている。図4に示すように、セル62は、直方体形状(プリズマティック)のケース82内に電極体83を非水電解質と共に収容したものである。セル62は、例えば、リチウムイオン二次電池セルである。ケース82は、ケース本体84と、その上方の開口部を閉鎖する蓋85とを有している。
【0021】
電極体83は、詳細は図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極板と、アルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極板との間に、多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状で、セパレータに対して負極板と正極板とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体84に収容可能となるように扁平状に巻回されている。電極体83は、巻回タイプのものに代えて、積層タイプのものであってもよい。
【0022】
正極板には正極集電体86を介して正極端子87が、負極板には負極集電体88を介して負極端子89がそれぞれ接続されている。正極集電体86及び負極集電体88は、平板状の台座部90と、この台座部90から延びる脚部91とを有する。台座部90には貫通孔が形成されている。脚部91は正極板又は負極板に接続されている。
【0023】
正極端子87及び負極端子89は、端子本体部92と、その下面中心部分から下方に突出する軸部93とからなる。正極端子87の端子本体部92と軸部93とは、アルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子89においては、端子本体部92がアルミニウム製で、軸部93が銅製であり、これらが組み付けられている。正極端子87及び負極端子89の端子本体部92は、蓋85の両端部に絶縁材料からなるガスケット94を介して配置され、図3に示すように、このガスケット94から外方へ露出されている。
【0024】
蓋85は、圧力開放弁95を有している。圧力開放弁95は、正極端子87と負極端子89の間に位置している。圧力開放弁95は、安全弁である。圧力開放弁95は、ケース82の内圧が制限を超えた場合に、開放して、ケース82の内圧を下げる。
【0025】
図5は、バッテリ50の電気的構成を示すブロック図である。バッテリ50は、組電池60と、リレー53と、電流検出部54と、計測IC110と、冗長回路120と、電圧降下回路130と、管理装置150と、を備える。
【0026】
バッテリ50には、エンジン20の動力により発電する発電機であるオルタネータ160と、車載された電気負荷170と、が電気的に接続されている。
【0027】
エンジン20の駆動中において、オルタネータ160の発電量が電気負荷170の電力消費量より大きい場合、バッテリ50はオルタネータ160により充電される。オルタネータ160の発電量が電気負荷170の電力消費量より小さい場合、バッテリ50は、その不足分を補うため、放電する。
【0028】
エンジン20の停止中、オルタネータ160は発電を停止する。発電停止中、バッテリ50は、充電されない状態となり、電気負荷170に対して放電のみ行う状態となる。
【0029】
組電池60のセル62は、例えば12個あり(図2参照)、3並列で4直列に接続されている。図5は、並列に接続された3つのセル62を1つの電池記号で表している。セル62は、「蓄電セル」の一例である。蓄電セルは、プリズマティックセルに限定はされず、円筒型セルであってもよいし、ラミネートフィルムケースを有するパウチセルであってもよい。
【0030】
組電池60、リレー53及び電流検出部54は、パワーライン55P、パワーライン55Nを介して、直列に接続されている。パワーライン55P、55Nは、銅などの金属材料からなる板状導体であるバスバーBSB(図2参照)を用いることが出来る。
【0031】
図5に示すように、パワーライン55Pは、正極の外部端子51と組電池60の正極とを接続する。パワーライン55Nは、負極の外部端子52と組電池60の負極とを接続する。外部端子51、52は、車両10との接続用端子であり、バッテリ50を、外部端子51、52を介してオルタネータ160や電気負荷170に電気的に接続することが出来る。
【0032】
リレー53は、正極のパワーライン55Pに設けられており、一端を正極の外部端子51に電気的に接続し、他端を組電池60の正極に電気的に接続する。
本明細書において、リレー53の一端、他端とは、リレー53の電気的な接続ポイントを意味する。一端はリレーの第1端子、他端はリレーの第2端子であってもよい。リレーの第1端子、第2端子は、リレーの筐体の、異なる面(又は平面視における異なる辺)に設けられてもよいし、同じ面(又は平面視における同じ辺)に設けられてもよい。
【0033】
リレー53は、自己保持型のラッチングリレーであり、図6に示すように、接点53aと、セットコイル53bと、スイッチ53cと、リセットコイル53dと、スイッチ53eを備える。セットコイル53bとリセットコイル53dは、組電池60の正極に接続されており、組電池60を電源として、励磁電流Is、Irが供給される。セットコイル53bは「第1コイル」、リセットコイル53dは「第2コイル」である。
【0034】
スイッチ53cを閉じて組電池60からセットコイル53bに励磁電流Isを流すことで、接点53aをクローズに保持出来る。スイッチ53eを閉じて組電池60からリセットコイル53dに励磁電流Irを流すことで、接点53aをオープンに保持出来る。
【0035】
図7に示すように、励磁電流Isの連続通電は不要であり、パルス状の励磁電流Isをセットコイル53bに供給すれば、その後、励磁電流Isを遮断しても、接点53aをクローズに維持出来る。同様に、パルス状の励磁電流Irをリセットコイル53dに供給すれば、その後、励磁電流Irを遮断しても、接点53aをオープンに維持出来る。
【0036】
リレー53は、ノーマリクローズタイプであり、通常、接点53aは「クローズ」に保持される。バッテリ50に何らかの異常があった場合、スイッチ53eをオンしてリセットコイル53dに励磁電流Irを流し、リレー53の接点53aを「クローズ」から「オープン」に切り換えることで、組電池60の電流Iを遮断できる。
【0037】
電流検出部54は、図5に示すように、負極のパワーライン55Nに設けられている。電流検出部54は、シャント抵抗でもよい。抵抗式の電流検出部54は、電流検出部54の両端電圧Vrに基づいて、組電池60の電流Iを計測することができる。抵抗式の電流検出部54は、電圧の極性(正負)から放電と充電を判別できる。代替的に、電流検出部54は、磁気センサでもよい。
【0038】
計測IC110は、組電池60の各セル62と信号線を介して接続されており、各セル62のセル電圧Vsを検出する。
【0039】
冗長回路120は、図6に示すように、リレー53に並列接続されている。冗長回路120は、ダイオード121と、半導体スイッチ123からなる。ダイオード121は、カソードKを外部端子51に接続している。半導体スイッチ123は、一端をダイオード121のアノードAに接続し、他端を組電池60の正極に接続する。ダイオード121の順方向は、組電池60の放電方向である。半導体スイッチ123をオンすることで、リレー53が故障した場合でも、組電池60は冗長回路120を介して、車両10に電力供給できる。
【0040】
管理装置150は、回路基板100(図2参照)上に実装されており、図5に示すように、CPU151と、メモリ153と、を備える。管理装置150は、計測線L1、計測線L2を介して、図5中のA点とB点に接続されており、バッテリ50の端子電圧V1と組電池60の総電圧V2を検出することが出来る。管理装置150は、「故障診断装置」の一例である。
【0041】
メモリ153には、図11に示す故障診断フローの実行プログラム並びに、プログラムの実行に必要なデータが記憶されている。プログラムは、CD-ROM等の記録媒体に記憶して使用、譲渡、貸与等されてもよい。プログラムは、電気通信回線を用いて配信されてもよい。
【0042】
電圧降下回路130は、図5中のA点に接続されており、バッテリ50の端子電圧V1を「5V」等の所定電圧に降下して、管理装置150に供給する。
【0043】
2.リレーの故障診断
リレー53が「オープン故障(接点53aがオープンに固着する故障)」すると、車両10への電力供給が途絶える可能性がある。そのため、リレー53の故障診断を行い、車両10への電力供給を確保することが求められる。
【0044】
接点53aが「クローズ(正常)」である場合、A点の電圧V1とB点の電圧V2はほぼ同じ電圧であり、組電池60が充電中又は放電中であれば、所定以上の電流Iが流れる。
【0045】
そのため、バッテリ50の電流Iと、A点とB点の電圧V1、V2に基づいて、リレー53の故障診断を行うことが考えられる。
【0046】
|V1-V2|≧K(V)・・・・(1)式
|I|≦K(I)・・・・(2)式
【0047】
(V)は電圧計測誤差等に基づいて決定される電圧閾値であり、この実施形態では、2[V]である。K(I)は電流計測誤差等に基づいて決定される電流閾値であり、この実施形態では、1[A]である。
【0048】
(1)式の電圧条件と(2)式の電流条件の双方を満たす場合、管理装置150は、リレー53を「オープン故障」と判断することが考えられる。
【0049】
(1)式の電圧条件と(2)式の電流条件のうち、何れかの条件を満たさない場合、管理装置150は、リレー53を「クローズ(正常)」と判断することが考えられる。
【0050】
しかし、リレー53の故障診断を、(1)式の電圧条件と(2)式の電流条件の2つの条件に基づいて行った場合、オルタネータ160や電気負荷170等の車両システムの状態により、接点53aの状態を正確に検出できず、診断結果を誤る可能性がある。
【0051】
具体的には、接点53aが「オープン」の場合、バッテリ50の端子電圧V1は、車両10の電源ライン15の電圧V3と等しい。V3とV2の電圧差が小さい場合、V1≒V2となって、(1)式の電圧条件を満たさない可能性がある。そのため、接点53aが実際には「オープン」でも、誤って、「クローズ(正常)」と判断する可能性がある。
【0052】
管理装置150は、(1)式の電圧条件と(2)式の電流条件のうち、何れかの条件を満たさない場合、一旦、スイッチ53cを閉じて、組電池60からセットコイル53bに励磁電流Isを流し、接点53aを「クローズ」に保持する。
【0053】
B点の電圧(組電池60の正極の電圧)V2は、励磁電流Isの放電により、X[V]からY[V]に変化する。
【0054】
リレー53が正常で接点53aが「クローズ」の場合、図8に示すように、A点の電圧(正極の外部端子51の電圧)V1は、V2同様、励磁電流Isの放電により、X[V]からY[V]に変化する。一方、リレー53の故障で接点53aが「オープン」の場合、A点の電圧V1は、励磁電流Isの放電により変化せず、X[V]を維持する。
【0055】
このように、組電池60が励磁電流Isを放電すると、接点53aの状態に応じて、A点の電圧V1の変化が異なる。そのため、励磁電流供給前後のA点の電圧変化ΔV1に基づいて、接点53aが「クローズ(正常)」か「オープン(故障)」か、正確に判断することが出来る。
【0056】
この実施形態では、図9に示すように、管理装置150は、A点の電圧V1とB点の圧V2について、励磁電流供給前後の電圧変化ΔV1、ΔV2を算出する。管理装置150は、ΔV1=ΔV2の場合、接点53aを「クローズ(正常)」と判断し、ΔV1≠ΔV2の場合、接点53aを「オープン(故障)」と判断する。
【0057】
ΔV1=(V11ST)-(V12ND
ΔV2=(V21ST)-(V22ND
1STは励磁電流供給前の電圧、V2NDは励磁電流供給後の電圧である。
【0058】
この構成では、リレー53の故障診断精度の向上に加え、以下の効果がある。
故障診断処理において、セットコイル53bに励磁電流Isが供給されて、接点53aが「クローズ」に保持される。そのため、リレー53の誤動作により、接点53aが「クローズ」から「オープン」に切り換わっても、故障診断の実行により、接点53aを「クローズ」に戻すことが出来る。
【0059】
例えば、図10の例では、前回の故障診断において、時刻t1で、接点53aを「クローズ」に保持した後、時刻t2で、リレー53が誤動作して、接点53aが、「クローズ」から「オープン」に切り換わる。しかしその後、故障診断の実行により、セットコイル53bに励磁電流Isが供給される結果、接点53aは、時刻t3にて「クローズ」に戻される。
【0060】
以下、図11を参照してリレー53の故障診断フローについて説明を行う。リレー53の故障診断フローは、S10~S150から構成されており、例えば、管理装置150の起動中、所定の実行周期Tで実行される。尚、フロー実行前の状態において、冗長回路120はオフに制御されている。また、リレー53のスイッチ53c、53eは、いずれもオフである。
【0061】
管理装置150は、故障診断フローがスタートすると、組電流60の電流Iと、A点の電圧V1と、B点の電圧V2を計測する(S10)。電流Iは、電流検出部54により計測することが出来、A点の電圧V1は計測線L1、B点の電圧V2は計測線L2によりそれぞれ計測することが出来る。
【0062】
管理装置150は、その後、V1とV2の計測値に基づいて、(1)式の電圧条件を判定し、組電池60の電流Iの計測値に基づいて、(2)式の電流条件を判定する(S20)。
【0063】
管理装置150は、(1)式の電圧条件と(2)式の電流条件の双方を満たす場合(S20:YES)、リレー53を「オープン故障」と判断する(S30)。
【0064】
管理装置150は、リレー53を「オープン故障」と判断した場合、冗長回路120のスイッチ123をオフからオンに切り換える。スイッチ123をオンに切り換えることで、冗長回路120を介した放電が可能となり、組電池60から車両10への電力供給を継続することが出来る。以上により、故障診断フローは終了する。
【0065】
次に、(1)式の電圧条件と(2)式の電流条件を判定した結果、いずれかの条件を満たさない場合(S20:NO)、管理装置150は、計測線L1、L2を用いて、A点の電圧V1とB点の電圧V2を計測する(S100)。
【0066】
V1、V2の計測後、管理装置150は、スイッチ53cをオフからオンに切り換えて、組電池60からセットコイル53bにパルス状の励磁電流Isを供給する。これにより、セットコイル53bが励磁され、リレー53が正常であれば、接点53aは「クローズ」に保持される。
【0067】
その後、管理装置150は、計測線L1、L2を用いて、励磁電流供給後のV1、V2を再計測する(S120)。
【0068】
管理装置150は、S100で計測した励磁電流供給前のV1、V2及びS120で計測した励磁電流供給後のV1、V2に基づいて、励磁電流供給前後の電圧変化ΔV1、ΔV2をそれぞれ算出する。管理装置150は、ΔV1とΔV2を比較する(S130)。
【0069】
管理装置150は、2点A、Bの電圧変化ΔV1、ΔV2が一致(ΔV1=ΔV2)する場合、リレー53を「クローズ(正常)」と判断する(S140)。
【0070】
管理装置150は、2点A、Bの電圧変化ΔV1、ΔV2が一致しない(ΔV1≠ΔV2)場合、リレー53を「オープン故障」と判断する(S150)。
【0071】
管理装置150は、リレー53を「オープン故障」と判断した場合、冗長回路120のスイッチ123をオフからオンに切り換える。スイッチ123をオンに切り換えることで、冗長回路120を介した放電が可能となり、組電池60から車両10への電力供給を継続することが出来る。以上により、故障診断フローは終了する。
【0072】
3.効果説明
この構成では、車両システムの状態に依存せず、接点53aの「オープン」、「クローズ」を正確に判断できる。そのため、リレー53の故障診断精度を向上させることが出来る。故障診断精度の向上により、リレー53のオープン故障を早期に検出することが出来る。リレー53のオープン故障を検出した場合、冗長回路120を動作させる等、必要な措置を講ずることで、車両10がパワーフェイルするリスクを低減することが可能となる。
【0073】
この構成では、リレー53の誤動作により、意図せず、接点53aが「クローズ」から「オープン」に切り換わった場合でも、故障診断の実行により、接点53aを「クローズ」に戻すことが出来る。そのため、車両10がパワーフェイルするリスクを低減できる。
【0074】
つまり、この構成では、「オープン故障の早期検出」と「誤動作後のクローズ復帰」が可能であることから、パワーフェイルのリスクを低減することが可能となり、バッテリ50の信頼性を向上させることが出来る。
【0075】
励磁電流供給前後のA点の電圧変化ΔV1だけで、接点53aの「オープン」、「クローズ」を判断する場合、A点の電圧V1が、励磁電流Isの供給以外の要因(例えば、車両の電源ライン15の電圧変化)で変化すると、接点53aの状態を誤判断する可能性がある。この構成では、励磁電流供給前後のA点の電圧変化ΔV1とB点の電圧変化ΔV2を比較することで、A点の電圧V1が励磁電流Isの供給以外の要因で変化した場合でも、接点53aが、「オープン」か「クローズ」か、正確に判断できる。そのため、リレー53の故障診断精度が高い。
【0076】
この構成では、管理装置150は、リレー53の故障診断処理(図11の故障診断フロー)を、所定の実行周期Tで、繰り返し実行する。故障診断処理を実行周期Tで繰り返すことで、リレー53の誤動作により「オープン」に切り換わった接点を、実行周期Tで「クローズ」に復帰できる。従って、誤動作により切り換わった接点53が、長期間、オープン状態のままになることを抑制できる。
【0077】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
(1)二次電池セル62は、リチウムイオン二次電池に限らず、他の非水電解質二次電池でもよい。二次電池セル62は、複数を直並列に接続する場合に限らず、直列の接続や、単セルでもよい。二次電池セル62に代えて、キャパシタを用いることも出来る。二次電池セル、キャパシタは、蓄電セルの一例である。
【0079】
(2)上記実施形態では、バッテリ50を車両10に搭載したが、船舶や航空機など車両以外の移動体に搭載してもよい。移動体に搭載されるバッテリ50は、移動体の移動にともなう振動にさらされるため、定置用の蓄電装置に比べて誤作動(意図しないリレー53の作動)を起こしやすい。また、移動体に限らず、パワーフェイルを許容しない用途であれば、バッテリ50を、他の用途に用いることも出来る。
【0080】
(3)上記実施形態では、リレー53と並列に冗長回路120を設けたが、冗長回路120は省略してもよい。
【0081】
(4)上記実施形態では、リレー53の故障診断フローを、S10~S150から構成した。S10、S20の処理は省略してもよく、S100~S150だけで、リレー53のオープン故障を診断してもよい。
【0082】
(5)上記実施形態では、リレー53の故障を、励磁電流供給前後の電圧変化ΔV1、ΔV2に基づいて判断した。具体的には、A点とB点の電圧変化ΔV1、ΔV2が一致する場合(ΔV1=ΔV2)、リレー53を「クローズ(正常)」と判断し、一致しない場合(ΔV1≠ΔV2)、リレー53を「オープン故障」と判断した。リレー53の故障を励磁電流供給前後のA点の電圧変化ΔV1に基づいて判断するものであれば、どのような判断方法でもよい。例えば、組電池60からセットコイル53bに励磁電流Isを供給することにより、励磁電流供給前と比較してA点の電圧V1が変化した場合、接点53aをクローズ(正常)と判断し、A点の電圧V1が変化しない場合、接点53aをオープン(故障)と判断してもよい。
【符号の説明】
【0083】
10 車両
50 バッテリ(蓄電装置)
53 リレー
53a 接点
53b セットコイル(第1コイル)
53c スイッチ
53d リセットコイル(第2コイル)
53e スイッチ
54 電流検出部
60 組電池
110 放電回路
120 冗長回路
150 管理装置(故障診断装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図11