(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20250701BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20250701BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20250701BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20250701BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B7/025
B29C45/14
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
(21)【出願番号】P 2021189805
(22)【出願日】2021-11-24
【審査請求日】2024-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺島 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 広一
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-306453(JP,A)
【文献】特開2021-138068(JP,A)
【文献】特開2019-189680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B29C45/00-45/24;45/46-45/63;45/70-45
/72;45/74-45/84
H01B5/00-5/16;13/00-13/016;13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、絶縁層、導電層、ベースフィルムがこの順に積層した成形体であって、
前記導電層がパターニングされた導電層であり、
前記絶縁層の体積固有抵抗が1×10
12Ω・cm以上1×10
17Ω・cm未満であり、
前記絶縁層が
主鎖に芳香族骨格を有する熱可塑性樹脂(A2)を含み、
前記基材がポリカーボネートを50~100%含有する熱可塑性樹脂(A1)を含
み、
前記導電層が、熱可塑性樹脂(A3)と導電性微粒子とを含む導電性組成物の硬化物である成形体。
【請求項2】
前記基材のガラス転移点(Tg1)と、前記絶縁層のガラス転移点(Tg2)との差(Tg1-Tg2)が、30℃~130℃である請求項
1に記載の成形体。
【請求項3】
前記基材に含まれる熱可塑性樹脂(A1)がビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、またはビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイであり、
前記熱可塑性樹脂(A2)がポリエステル骨格を有し、かつ前記ポリエステル骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が50~100モル%である請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項4】
前記絶縁層がさらに融点70℃~200℃のワックスを含む請求項1~
3のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項5】
ベースフィルム上に導電層、絶縁層をこの順に積層した積層体を所定の形状に成形して成形フィルムを得る工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化して成型体を得る工程とを含む、成形体の製造方法であって、
前記導電層がパターニングされた導電層であり、
前記絶縁層の体積固有抵抗が1×10
10Ω・cm以上1×10
17Ω・cm未満であり、
前記絶縁層が
主鎖に芳香族骨格を有する熱可塑性樹脂(A2)を含み、
前記基材がポリカーボネートを50~100%含有する熱可塑性樹脂(A1)を含
み、
前記導電層が、熱可塑性樹脂(A3)と導電性微粒子とを含む導電性組成物の硬化物である成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂成形体と、当該樹脂成形体の一面に対して面一になるように埋め込まれたベースフィルムと、前記樹脂成形体と前記ベースフィルムとの間に配置された導電回路とを有する特定の導電回路一体化成形品が開示されている。
特許文献1には、当該導電回路一体化成形品の製造方法として、特定の導電回路が形成されたベースフィルムを射出成形用金型のキャビティ面に配置した後、溶融樹脂を射出して、樹脂成形体を射出成形することが記載されている。
特許文献1において、導電回路は、特定の透明金属薄膜をエッチングすることにより形成されている。
【0003】
エッチング法に代わる導電回路の形成方法として、導電性インキを用いた印刷方法が検討されている。導電性インキを印刷する手法によれば、エッチング法と比較して、煩雑な工程がなく、容易に導電回路を形成することができ、生産性が向上し、低コスト化を図ることができる。
例えば特許文献2には、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能な低温処理型の導電性インキとして、特定の導電性微粒子と、特定のエポキシ樹脂とを含有する導電性インキが開示されている。スクリーン印刷によれば導電パターンの厚膜化が可能であり、導電パターン低抵抗化が実現できるとされている。
【0004】
また、特許文献3には、3次元的な立体感を表現することが可能な加飾シートの製造方法として、透明樹脂層上にパターン状に印刷された印刷層を有する積層体と、ベースフィルム上に装飾層を有する積層シートとを熱圧着させることにより、前記装飾層を前記印刷層のパターンに沿った凹凸形状とする方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、ベースフィルム上に導電性インキの印刷により導電性パターンが形成された成型フィルムの熱成形および樹脂成型体との一体化を行うことで、樹脂成形体と前記ベースフィルムとの間に導電回路を有する、導電回路一体化成形品を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-11691号公報
【文献】特開2011-252140号公報
【文献】特開2007-296848号公報
【文献】特開2019-189680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法によれば、成形体の表面に、容易に導電体を設けることができる。一方、凹凸面や曲面を有する基材など、様々な形状の基材表面に導電回路を形成したいという要望が高まっている。このような基材表面に導電層を有するフィルムを張り合わせて導電回路を形成する場合、当該フィルムは基材の表面形状に合わせて変形する必要がある。当該フィルムの変形時に、導電層には部分的に大きな引張力が生じることがある。当該引張力により導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。さらにそのような凹凸面や曲面を有する基材上に導電回路を形成する際、前記の導電層を有するフィルムを変形させたのち、または変形させるのと同時にフィルムと前記基材とを一体化することが必要となるが、この一体化工程において高温下でプラスチック基材と摩擦されることによる応力ストレスが導電回路に加わる。当該高温下応力ストレスによっても導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。
これに対し、特許文献4の手法では熱成形プロセスへの耐性が導電インキ材料に付与されているため、上記の高温下応力ストレスによる導電性の低下が解決されている。しかし一方で、この方法で立体形状の基材表面に形成された導電回路は、樹脂成型体と導電層とが直接接触しており、この境界部分の密着性が必ずしも十分でなく、また実際には極めて細かい空隙が生じている場合があった。このため、この導電回路一体化成形品を実用的な機器として長期間過酷な条件下で使用した場合、時間経過とともにイオンマイグレーションによる回路間短絡の発生が問題となった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、成形プロセスにおける引張力および高温下での応力ストレスによる導電性の低下が抑制され、かつ成形後も導電パターン間のイオンマイグレーション耐性に優れた成形フィルムが組み込まれた成形体であって、耐衝撃性、および導電性に優れかつ長期間の過酷条件使用でも回路特性を保持可能な成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施の成形体は、凹凸面または三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路を形成するための成形フィルムが積層された成形体であって、前記導電層がパターニングされた導電層であり、
前記絶縁層の体積固有抵抗が1×1012Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満であり、
前記絶縁層が芳香族骨格を有する熱可塑性樹脂(A2)を含み、
前記基材がポリカーボネートを50%以上100%以下含有する熱可塑性樹脂(A1)を含む。
【0010】
本成形体の一実施形態は、前記導電層が、熱可塑性樹脂(A3)と導電性微粒子とを含む導電性組成物の硬化物である。
【0011】
本成形体の一実施形態は、前記基材のガラス転移点(Tg1)と、前記絶縁層のガラス転移点(Tg2)との差(Tg1-Tg2)が、30℃以上130℃以下である。
【0012】
本成形体の一実施形態は、前記基材の25℃における貯蔵弾性率(G‘1)と、前記絶縁層の25℃における貯蔵弾性率(G‘2)との比(G‘1/G‘2)が、0.3以上100以下である。
【0013】
本成形体の一実施形態は、前記基材のメルトフローレートが5g/10分以上40g/10分以下であり、かつ前記絶縁層の200℃における貯蔵弾性率が0以上1×106Pa未満である。
【0014】
本成形体の一実施形態は、前記基材に含まれる熱可塑性樹脂(A1)がビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、またはビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイであり、
前記熱可塑性樹脂(A2)がポリエステル骨格を有し、かつ前記ポリエステル骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が50モル%以上100モル%以下である。
【0015】
本成形体の一実施形態は、前記絶縁層がさらに融点70℃以上200℃以下のワックスを含む。
【0016】
本成形体の一実施形態は、ベースフィルム上に導電層、絶縁層をこの順に積層した積層体を所定の形状に成形して成形フィルムを得る工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化して成型体を得る工程とを含む、成形体の製造方法であって、
前記導電層がパターニングされた導電層であり、
前記絶縁層の体積固有抵抗が1×1012Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満であり、
前記絶縁層が芳香族骨格を有する熱可塑性樹脂(A2)を含み、
前記基材がポリカーボネートを50%以上100%以下含有する熱可塑性樹脂(A1)を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形プロセスにおける引張力および高温下での応力ストレスによる導電性の低下が抑制され、かつ成形後も導電パターン間のイオンマイグレーション耐性に優れた成形フィルムを具備し、落下などの衝撃性に優れ、長期間の過酷条件使用に優れた回路特性を保持可能な成形体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
【
図2】本実施の成形体の第2の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
【
図3】本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
【
図4】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【
図5】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【
図6】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施に係る成形体及びその製造方法について順に詳細に説明する。
なお本実施において、硬化物とは、化学反応により硬化したもののみならず、例えば溶剤が揮発することにより硬くなったものなど、化学反応によらずに硬化したものを包含する。
【0020】
[成形体]
本実施の成形体は、基材上に絶縁層、導電層およびベースフィルムを備えた成形体であって、
前記基材が熱可塑性樹脂であり、前記絶縁層が、絶縁性組成物の硬化物であり、前記導電層が、導電性組成物の硬化物であることを特徴とする。
本実施の成形体は、凹凸面または三次元曲面など任意の基材面に導電回路が形成されており、落下や衝突などの耐衝撃性に優れることを特徴とする。
【0021】
本発明者らは、平坦でない基材表面に適用可能であり、かつプラスチック基材との一体化工程へのプロセス適正を有する成型フィルムと特定の熱可塑性樹脂から形成される基材を有する成形体を製造するために、スクリーン印刷可能な絶縁性樹脂組成物と導電性樹脂組成物および基材の検討を行った。成型体の製造に適用するために、基材に含まれるポリカーボネートの比率、絶縁性組成物の体積固有抵抗値を各種調整し検討したところ、芳香族骨格を有する絶縁性組成物によって、得られた成形フィルムと特定の構造を含む基材を使用することで、耐衝撃性や長期間過酷な条件下で通電使用した場合の経時のイオンマイグレーション特性が異なることを見出した。
本発明者らは、このような知見に基づいて検討した結果、体積固有値が低い絶縁層を導電層上に積層した導電回路一体形成品において、平坦なフィルム回路基盤などと比較して、際立って大きなイオンマイグレーションが発生することを確認した。また、導電層上に形成された絶縁層が、芳香族構造を持たない場合や、基材を形成する熱可塑性樹脂中がポリカーボネート構造を含まない場合には、落球衝撃試験によって成形体に亀裂がより多く生じることや、衝撃によって亀裂が入ることによって導電層の導電性が大きく劣化する事がわかった。さらに、亀裂発生が生じることで導電層近傍に高温高湿下で連続導通した際のイオンマイグレーションによる黒色酸化銀の発生増加と導電パターン間の絶縁抵抗値の低下、およびリークタッチ(絶縁破壊)が発生する確率が高くなることが明らかとなった。
【0022】
このようなやや体積固有抵抗が低い絶縁層を導電層上に積層した場合や、高温での引っ張りにより変形させた際に導電層の亀裂発生や局所変形、それに伴うイオンマイグレーションがより多く生じるような導電層および絶縁層を有する成形フィルムを平坦な回路基板などとして使用する場合、または二次元曲面上に曲げた状態で使用する場合には問題とならなった。しかしながら平坦でない基材表面の形状、例えば凹凸形状や三次元曲面形状に追従させ一体化させる成形体として使用する場合には、成形フィルムは変形を伴うことになる。そのため、成型フィルムの変形により導電層および絶縁層に対して発生する変形応力が、導電層や導電層/絶縁層界面に集中し、剥離または断線が起こることで、導電層の導電性が低下しているものと予測される。
なお、本発明における凹凸面や三次元曲面とは、なだらかな曲線断面を有する面のみでなく、鋭角状の角や矩形形状を有する立体面全般を示す。すなわち、平面を伸縮することなく変形させることのみでは、成立させることのできない立体形状を指し、例えば半球状、円錐状、円柱状、四角柱状等の立体形状を指すものである。なお、ある立体形状が、連続した立体面内に先述の平面または二次元曲面と、三次元曲面の両方の要素を有する場合、例えば平面形状に1か所以上の部分的な半球状形状が組み合わされた立体形状に関しては、全体として平面を伸縮することなく変形させることによって成立させることのできない立体形状であることから、これも三次元曲面であるものとする。即ち本発明における凹凸面や三次元曲面は、フレキシブル基板等を折り曲げることでは実現できないものであり、たとえば、成形フィルムの加熱下での立体成形による賦形などによって実現可能となる形状である。
【0023】
本発明者らはこれらの知見に基づいて鋭意検討を行った結果、絶縁層の体積固有抵抗が、1×1012Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満である成形フィルムが具備された導電回路一体形成品において、イオンマイグレーションの発生が抑制されることを見出した。また、前記基材を形成する熱可塑性樹脂がポリカーボネート構造を有し、前記絶縁層を形成する絶縁性樹脂組成物が芳香族構造を有する成形フィルムを用いた際に、導電回路一体形成品において、落下などの耐衝撃性が良好となり、かつ落下時の配線の劣化を抑制されることを見出した。また、当該フィルムを用いることで、実用的強度をもつ立体形状プラスチックからなる基材上の凹凸面や曲面などの任意の面に絶縁被覆された導電回路が形成された成形体を得ることができる。
【0024】
本実施の成形体は、基材上に少なくとも導電層が積層した成形体であって、導電層が、前記記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物であることを特徴とする。本実施の成形体は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を用いた成形フィルムにより形成されるため、凹凸面や曲面など、任意の面に導電回路が形成された成形体となる。
以下、本実施の成形体の製造方法について、2つの実施形態を説明する。なお、本実施の成形体は、前記本実施の導電性組成物を用いて製造されたものであればよく、これらの方法に限定されるものではない。
【0025】
<第1の製造方法>
本実施に係る成形体の第1の製造方法は、成形フィルム用導電性組成物を、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
以下、
図3を参照して説明するが、成形フィルムの製造方法は後述のとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0026】
図1は、成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
図1(A)~(C)はそれぞれTOM(Three dimension Overlay Method)成形機のチャンバーボックス内に配置された成形フィルム10と基材20を図示するものであり、
図1(B)および(C)ではチャンバーボックスを省略している。
第1の製造方法においては、まず、基材20を下側チャンバーボックス22のテーブル上に設置する。次いで、前記本実施の成形フィルム10を上側チャンバーボックス21と下側チャンバーボックス22との間を通し、基材20上に配置する。この際、成形フィルム10は導電層が基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように配置されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで上側・下側チャンバーボックスを真空状態とした後、成形フィルムを加熱する。次いで、テーブルを上昇することにより基材20を上昇15する。次いで上側チャンバーボックス21内のみを大気開放する(
図1(B))。この時、成形フィルムは基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する(
図1(C))。このようにして成形体30を得ることができる。
【0027】
当該第1の製造方法において、基材20は予め任意の方法で準備することができる。当該第1の製造方法において、基材20の材質は後述する基材用樹脂を用いることができる。
【0028】
なお本第1の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、前記
図1(C)での成形フィルムが基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する際の、高温下で成形フィルムの導電回路と基材との間の摩擦応力に起因するものである。即ち本第1の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0029】
<第2の製造方法>
本実施に係る成形体の第2の製造方法は、後述する成形フィルム用導電性組成物を、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。以下、
図2を参照して説明する。なお、第2の製造方法をフィルムインサート法ということがある。
【0030】
図2は、成形体の第2の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第2の製造方法において、成形フィルム10は、金型11により予め所定の形状に成形する(
図2(A))。成形フィルム10は加熱して軟化した後に、又は軟化させながら、真空による金型への吸引もしくは圧空による金型への押しつけ、またはその両方を併用して行い、金型11により成形する(
図2(B))。この際、成形フィルム10は導電層が後述する基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように成形されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで、成形後の成形フィルム10を射出成形用の金型12内に配置する(
図2(C)~
図2(D))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化して、成形体30が得られる(
図2(E))。
【0031】
第2の製造方法において基材20は予め準備する必要はなく、基材の成形と、成形フィルムとの一体化を同時に行うことができる。基材20の材質は、後述する基材用樹脂を用いることができる。
【0032】
なお本第2の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、
図2(E)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第2の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷を受けた後、別工程にて高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを受けることとなる。
【0033】
このようにして得られた成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体などに、回路やタッチセンサー・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【0034】
[基材]
本実施において基材は、基材用樹脂(G)を用いて形成することができ、少なくとも熱可塑性樹脂(A1)を含むことを特徴しており、熱可塑性樹脂はポリカーボネートを50~100%含めば特に限定されない。
基材に用いられる熱可塑性樹脂(A1)としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ、ビスフェノールA型樹脂とポリエステル樹脂のアロイなどが挙げられる。この中でもビスフェノールA型樹脂が成形体の落下や衝突などの衝撃性の耐性が高いことから好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂中のポリカーボネートの含有割合は、50~100%であり、好ましくはポリカーボネートを70~100%含み、特に好ましくはポリカーボネートが90%以上含まれることが好ましい。上記範囲のポリカーボネートを含むことによって成形体の落下や衝突などに対する耐衝撃性が高い成形体を提供することができる。さらに、ポリカーボネートの高い透明性によって成形体の耐衝撃試験後の導電配線に対する亀裂の有無についても目視で確認することを可能にする。
【0036】
〔成形フィルム]
本実施の成形体に用いる成形フィルムの層構成について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3及び
図4は、本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
図3の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を有し、当該導電層2上に絶縁層3を備えている。導電層2は、ベースフィルム1の全面に形成されていてもよく、
図3の例のように所望のパターン状に形成されていてもよい。また絶縁層3は、ベースフィルム1および導電層2上の全面に形成されていてもよく、
図3の例のように導電層2の一部を被覆するように所望のパターン状に形成されていてもよい。
図4の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、加飾層6を有し、当該加飾層6上に、導電層2を有し、さらに当該導電層2上に絶縁層3を備えている。また
図4の例に示されるように、成形フィルム10は、導電層2上に、電子部品4や、取り出し回路に接続するためのピン5を備えていてもよい。
図5の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を有し、当該導電層2上に絶縁層3を備えている。またベースフィルム1の反対側の面上に第2の導電層7を有し、当該第2の導電層7上に第2の絶縁層8を備えている。第2の導電層7もまた、ベースフィルム1の全面に形成されていてもよく、
図5の例のように所望のパターン状に形成されていてもよい。また第2の絶縁層8もまた、ベースフィルム1および第2の導電層7の全面に形成されていてもよく、
図5の例のように第2の導電層7の一部を被覆するように所望のパターン状に形成されていてもよい。
図6の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を有し、当該導電層2上に絶縁層3を有し、さらに当該絶縁層3上に第2の導電層7を有し、当該第2の導電層7上に第2の絶縁層8を備えている。この場合の第2の導電層7は、ベースフィルム1および絶縁層3上の全面に形成されていてもよく、
図6の例のように導電層2の、絶縁層3に被覆されていない露出部があった場合は、この導電層2と部分的に接触するように所望のパターンに設けられていてもよい。また導電層2といずれの部分も接触していなくても構わない。第2の絶縁層8もまた、ベースフィルム1、導電層2、絶縁層3および第2の導電層7の全面に形成されていてもよく、
図6の例のように第2の導電層7の一部を被覆するように所望のパターン状に形成されていてもよい。
また、図示はしないが、本実施の成形フィルム10が加飾層3を備える場合、
図6の例のほか、ベースフィルム1の一方の面に加飾層3を有し、他方の面に導電層2を備える層構成であってもよい。
本実施の成形体は、少なくとも基材と、ベースフィルムと、絶縁層と導電層とを備えるものであり、必要に応じて他の層を有してもよいものである。以下このような成形体の各層について説明する。
【0037】
[絶縁層]
本実施の成形体に用いる成形フィルムにおいて絶縁層は、後述する絶縁性樹脂組成物の硬化物であり、体積抵抗値は、1×1012Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満である。
絶縁層により導電層を被覆することによって、製造プロセス中の導電層への摩擦ダメージ等を防ぐことができる。また高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスが導電層に直接加わることを防ぐ、耐熱応力保護層としての役割も発揮する。さらに導電層パターン間の長期連続通電時の絶縁性確保が可能となり、これは、絶縁性組成物が通常微細な凹凸の存在する導電層を確実に隅々まで浸透し封止するとともに、絶縁層が樹脂成型体成形体との接着層としても働くことで、外部からの水分や硫黄化合物その他の腐蝕性ガスをより確実に遮断することが可能なためである。また、外部からの衝撃等に対し、成型フィルムの樹脂成型体基材との物理的な剥離を抑制することも可能になる。
絶縁層の形成方法は特に限定されないが、本実施においては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法により形成することが好ましく、スクリーン印刷法により形成することがより好ましい。
スクリーン印刷法においては、導電回路パターンを外部から確実に絶縁し、かつある程度のパターニング精度も確保できるように、特定範囲のメッシュ、特に好ましくは120~400メッシュ程度のメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20~50%が好ましい。スクリーン線径は約10~70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であってもよく、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0038】
本実施の成形体に用いる成形フィルムにおいて絶縁層は、絶縁性樹脂組成物をスクリーン印刷により印刷後、加熱して乾燥および架橋反応を行い硬化する。
溶剤の十分な揮発および架橋反応のために、加熱温度は80~230℃、加熱時間としては10~120分とすることが好ましい。これにより、パターン状の絶縁層を得ることができる。パターン状絶縁層は、導電パターンの全面を被覆してもよいが、導電パターンを回路として使用する際に外部機器との接続が取れるように露出した導電パターン面を残しながら、導電パターンの一部を被覆するように絶縁層を設けてもよい。
【0039】
絶縁層の膜厚は、求められる絶縁性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、5μm以上50μm以下とすることができ、8μm以上30μm以下とすることが好ましい。
【0040】
[絶縁性樹脂組成物(H)]
本実施の成形体に用いられる絶縁性樹脂組成物(H)は、熱可塑性樹脂(A2)を含むものであり、必要に応じて溶剤(B1)と、架橋剤(C1)及びその他の成分(F)を含有してもよいものである。
以下このような絶縁性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0041】
<熱可塑性樹脂(A2)>
本実施の絶縁性樹脂組成物は、成膜性や絶縁性の確保、並びに導電層およびベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与するために、バインダー性の熱可塑性樹脂(A2)を含有する。
また、本実施においては、熱可塑性樹脂(A2)を含有することにより、絶縁層が導電層を被覆した際に絶縁層に柔軟強靭性に基づく力学的なクッション性能を付与することができる。そのため、熱可塑性樹脂(A2)を含有することにより延伸に対する絶縁層の断裂のみでなく、導電層の断線も抑制される。
【0042】
前記熱可塑性樹脂(A2)は、芳香族骨格を有していれば良く、絶縁性組成物用途に用いられる樹脂の中から、適宜選択して用いることができる。
熱可塑性樹脂(A2)としては、例えば、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
本実施において前記熱可塑性樹脂(A2)は、芳香族構造を有することで、前記基材との親和性が向上し、耐衝撃性が向上し、成形体の亀裂発生の抑制や衝撃を受けても断線することなく、配線の導電性を保持することができる。
【0044】
さらに、本実施において前記熱可塑性樹脂(A2)は、ポリエステル骨格を有することが好ましい。また、骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が50~100モル%であることが好ましく、より好ましくは60~100モル%であり、さらに好ましくは、70~100モル%である。上記範囲とすることで前記基材との親和性が向上し、基材と絶縁層の強い密着力に基づく、優れた衝撃耐性と配線の導電性を保持することができる。
【0045】
本実施において前記熱可塑性樹脂(A2)は、ハロゲン元素を構造中に有さないか、含有率が極めて低いものが好ましい。ハロゲン元素を構造中に有さないことで、導電層と積層して使用した際に、過酷条件下でのイオンマイグレーション耐性がさらに優れる点で好適である。さらに本実施において前記熱可塑性樹脂(A2)は、繰返し構造中にエステル結合を含む、重量平均分子量5,000~200,000の樹脂であることが特に好ましい。繰返し構造中にエステル結合を含む、重量平均分子量5,000~200,000の樹脂であることにより、絶縁層が成型フィルムと導電層の導電性微粒子表面の双方に効率よく濡れ広がり強力に接着するとともに、高温条件下における適度な弾力性を発現することで、熱成形時の伸長からの導電層の保護特性と成型体となった後の導電パターン間のイオンマイグレーション耐性をも高いレベルで両立可能となる。
【0046】
本実施において熱可塑性樹脂(A2)は、任意の架橋性官能基、特にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物基より選択される官能基を1分子中に2つ以上有してもよい。これらの中でも、架橋剤(C1)との反応性の観点から、前記架橋性官能基を用いることで、溶媒を十分に揮発させ、脱離基によるボイドの発生を抑えつつ、低温で架橋することができる。また、架橋剤(C1)と、を組み合わせることで熱可塑性樹脂(A2)を3次元架橋することができ、硬度が要求される用途に好適に用いることができる。さらに、架橋により前記の絶縁層が導電層を被覆した際に絶縁層に柔軟強靭性に基づく力学的なクッション性能を強化するとともに、絶縁層自体の熱成形時の伸張性をも高いレベルでバランスよく両立することが可能であることから、さらに好適に用いることができる。
【0047】
本実施において熱可塑性樹脂(A2)は、後述の実施例、その他公知の方法により合成して用いてもよく、また、所望の物性を有する市販品を用いてもよい。本実施において熱可塑性樹脂(A2)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
本実施の絶縁性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A2)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性樹脂組成物に含まれる固形分全量に対し、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(A2)の含有割合が上記下限値以上であれば、成膜性や、ベースフィルム等への密着性が向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。
【0049】
<溶剤(B1)>
溶剤(B1)としては特に限定されないが、連続スクリーン印刷性の観点から沸点180℃以上270℃以下であることが好ましい。溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルアセテート、ガンマブチロラクトン、イソホロン、テトラリンなどが挙げられるが、これらに限定されず用いることができる。本実施において溶剤(B2)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
<架橋剤(C1)>
本実施において前記熱可塑性樹脂(A2)を架橋するために架橋剤(C1)を任意成分として追加で用いてもよい。架橋剤(C1)としては、前記熱可塑性樹脂(A2)が有する反応性官能基と架橋形成しうる反応性官能基を1分子中に2つ以上有するものの中から適宜選択して用いることができる。このような反応性官能基としては、たとえば、エポキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルキルオキシアミノ基、アジリジニル基、オキセタニル基、カルボジイミド基、β-ヒドロキシアルキルアミド基などが挙げられ、この中でもイソシアネート基、ブロック化イソシアネート基を有するイソシアネート系化合物を用いることが好ましく、ブロックイソシアネート基を有するブロックイソシアネートを特に好適に用いることができる。
【0051】
ブロックイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の2官能イソシアネートまたはそれらのアロファネート体、ビウレット体、アダクト体、プレポリマー体、イソシアヌレート体等からなる2官能以上のイソシアネートのイソシアネート基が、ε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護(ブロック化)されたイソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ジイソプロピルアミン、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。また、メラミンやベンゾグアナミン等の芳香族窒素元素をメタノールやブタノール等のアルコールと炭酸エステル化合物とで処理して得られる、N-アルコキシカルボニルメラミン等のアルコールブロック芳香族イソシアネートなども使用することができる。
【0052】
架橋剤(C1)を前記熱可塑性樹脂(A2)と併用することで絶縁層が3次元架橋されるのみならず、後述する導電層に含まれる熱可塑性樹脂(A3)とも架橋形成することで、導電層と絶縁層の親和性が向上し、界面間の応力が緩和され、配線へのクラックを抑制することができる。
【0053】
<その他成分(F)>
本発明の絶縁性樹脂組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、前記架橋剤(C1)のほか、改質剤、分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等が挙げられる。
【0054】
<ワックス(J)>
本発明の絶縁性樹脂組成物は、ワックス(J)を含むことが好ましい。ワックス(J)を含むことで、射出成型時にワックス(J)が融解し微細な凹凸を絶縁層の表面に形成することで射出樹脂との間にアンカー効果が働き、耐衝撃性を増す効果がある。
【0055】
このようなワックス(J)としては、特に制限されないが、たとえば、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、変性アマイドワックスなどを用いることができ、単体で用いてもよく、組み合わせて併用して使用してもよい。
【0056】
ワックスの具体例としては、東京ファインケミカル社製ポリエチレンワックスA-73、ビックケミ―株式会社製ポリエチレンワックスCERAFLOUR998R、999、ビックケミ―株式会社製アマイドワックスCERAFLOUR964、ビックケミ―株式会社製変性アマイドワックスCERAFLOUR960などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。
【0057】
本実施の絶縁性樹脂組成物中のワックス(J)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、絶縁性樹脂組成物に含まれる固形分全量に対し、0.01質量%以上25質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上15質量%以下あることがより好ましい。ワックス(J)の含有割合が前述の範囲であれば、射出成型時の金型へのブロッキングを抑制することができ、合わせて、射出樹脂との間にアンカー効果が働き、耐衝撃性を増すことができる。
【0058】
本実施の絶縁性樹脂組成物中のワックス(J)の融点は、70℃以上200℃以下であることが好ましい。この範囲とすることで、射出成型時にワックスが溶融し、微細な凹凸を絶縁層の表面に形成することで射出樹脂との間にアンカー効果が働き、基材と絶縁層とを強固に密着させることができる。
【0059】
<絶縁性樹脂組成物の製造方法>
本実施の絶縁性組成物の製造方法は、前記熱可塑性樹脂(A2)と、溶剤(B1)と、架橋剤(C1)と、その他の成分(F)およびワックス(J)とを、溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0060】
〔導電層〕
本実施の成形フィルムにおいて導電層は、後述する導電性樹脂組成物の硬化物である。
導電層の形成方法は特に限定されないが、本実施においては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法により形成することが好ましく、スクリーン印刷法により形成することがより好ましい。
スクリーン印刷法においては、導電回路パターンの高精細化に対応すべく微細なメッシュ、特に好ましくは300~650メッシュ程度の微細なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20~50%が好ましい。スクリーン線径は約10~70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であってもよく、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0061】
導電性樹脂組成物をスクリーン印刷により印刷後、加熱して乾燥および架橋反応を行い硬化する。
溶剤の十分な揮発および架橋反応のために、加熱温度は80~230℃、加熱時間としては10~120分とすることが好ましい。これにより、パターン状の導電層を得ることができる。
【0062】
導電層の膜厚は、求められる導電性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上20μm以下とすることができ、1μm以上15μm以下とすることが好ましい。
【0063】
[導電性樹脂組成物(I)]
本実施の成形体に用いる成形フィルムにおいて、導電性樹脂組成物(I)は、熱可塑性樹脂(A3)導電性微粒子(D)と、を含有するものであり、必要に応じて溶剤(B2)と、架橋剤(C2)及び他の成分を含有してもよい。
以下このような導電性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0064】
<熱可塑性樹脂(A3)>
本実施の導電性組成物は、成膜性や、ベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与するために、バインダー性の熱可塑性樹脂(A3)を含有する。また、本実施においては、熱可塑性樹脂(A3)を含有することにより、導電層に柔軟性を付与することができる。そのため、熱可塑性樹脂(A3)を含有することにより延伸に対する導電層の断線が抑制される。
【0065】
前記熱可塑性樹脂(A3)は、導電性樹脂組成物用途に用いられる樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
熱可塑性樹脂(A3)としては、例えば、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系ブロック共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
本実施において熱可塑性樹脂(A3)は、主鎖中に芳香族構造を有していてもよい。芳香族構造を有することで、絶縁性組成物からの過度な溶剤浸潤をおさえるのみならず、改質剤を含む絶縁層との界面での親和性が向上することで、より高温条件下における熱延伸形成時の亀裂発生を抑え、導電性の低下を抑制できる。
【0067】
さらに本実施において熱可塑性樹脂(A3)は、エステル結合、およびアミド結合からなる群より選ばれる結合を主鎖に有してもよい。この場合、上述の導電層への溶剤浸潤を防ぐことに加え、改質剤を含む絶縁層との親和性がより優れるため、高温条件下における熱延伸形成時の亀裂発生を抑え、導電性の低下をさらに抑制でき、製造された成形体のイオンマイグレーション耐性が優れる。
【0068】
本実施において熱可塑性樹脂(A3)は、架橋性官能基を有してもよい。架橋性官能基とは、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基より選択される置換基であり、1分子中に1つあるいは2つ以上含んでもよい。これらの架橋性官能基は必要に応じて後述する架橋剤(C2)と組み合わせることにより熱可塑性樹脂(A3)を3次元架橋することができ、導電層に硬度が求められる用途において好適に用いることができる。さらに、熱可塑性樹脂(A3)が含まれる導電層と絶縁層の界面が3次元架橋されることで、導電層の界面応力を低下させることができ、熱延伸時の応力緩和および亀裂やボイドの発生を抑えることができる。
【0069】
本実施において熱可塑性樹脂(A3)は、後述の実施例、その他公知の方法により合成して用いてもよく、また、所望の物性を有する市販品を用いてもよい。本実施において熱可塑性樹脂(A3)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
本実施の導電性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A3)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性組成物に含まれる固形分全量に対し、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(A3)の含有割合が上記下限値以上であれば、成膜性や、ベースフィルム等への密着性向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。また、熱可塑性樹脂(A3)の含有割合が上記上限値以下であれば、相対的に導電性微粒子(D)の含有割合を高めることができ、導電性に優れた導電層を形成することができる。
【0071】
<溶剤(B2)>
溶剤(B2)としては特に限定されないが、連続スクリーン印刷性の観点から沸点180℃以上270℃以下であることが好ましい。溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルアセテート、ガンマブチロラクトン、イソホロン、テトラリンなどが挙げられるが、これらに限定されず用いることができる。本実施において溶剤(B2)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
<導電性微粒子(D)>
導電性微粒子(D)は、導電層内で複数の導電性微粒子が接触して導電性を発現するものであり、本実施においては、高温で加熱することなく導電性が得られるものの中から適宜選択して用いられる。
本実施に用いられる導電性微粒子としては、金属微粒子、カーボン微粒子、導電性酸化物微粒子などが挙げられる。
金属微粒子としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属単体粉のほか、銅-ニッケル合金、銀-パラジウム合金、銅-スズ合金、銀-銅合金、銅-マンガン合金などの合金粉、前記金属単体粉または合金粉の表面を、銀などで被覆した金属コート粉などが挙げられる。また、カーボン微粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、導電性酸化物微粒子としては、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウムなどが挙げられる。
【0073】
本実施においては、中でも、銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、導電性酸化物粉、およびカーボン微粒子より選択される1種以上の導電性微粒子を含むことが好ましい。これらの導電性微粒子(D)を用いることにより、焼結することなく、導電性に優れた導電層を形成することができ、さらに後述する成形体として立体形状に成形した際の延伸性や導電性の保持性能に優れた導電層を形成することができる。
【0074】
導電性微粒子(D)の形状は、特に限定されないが、フレーク状または連鎖凝集状であることが好ましい。フレーク状の場合は2次元平面状の扁平形状であれば特に限定されない。なお本発明における「フレーク状」とは、鱗片状、鱗状、板状、扁平状、シート状等と呼称される2次元平面状の扁平形状全般を指す。中でも、印刷性の保持と成形引張時の導電性維持および、プラスチック基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレス耐性の観点から、アスペクト比が3以上500以下のものが特に好ましい。また連鎖凝集状の場合は、微細な球状粒子が互いに結着した不定形状であれば特に限定しない。なお本発明における「連鎖凝集状」とは、結着球状、連鎖球状、凝集状などと呼称される球状粒子が決着してできた不定形状全般を指す。連鎖凝集状であることも、印刷性の保持と成形引張時の導電性維持および、プラスチック基材との一体化工程における高温下での高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレス耐性の観点から特に好ましい。
【0075】
導電性微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、導電性組成物中での分散性や印刷性の保持、成形時の導電性維持および、溶融樹脂による射出成型プロセス耐性または成形済樹脂へ高温引張耐性の観点から、0.5μm以上30μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましい。
なお本実施において導電性微粒子(D)の平均粒子径は以下のように算出する。JISM8511(2014)記載のレーザ回折・散乱法に準拠し、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック9220FRA)を用い、分散剤として市販の界面活性剤ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製:トリトンX-100)を0.5体積%含有する水溶液に導電性微粒子(D)を適量投入し、撹拌しながら40Wの超音波を180秒照射した後、測定を行った。求められたメディアン径(D50)の値を導電性微粒子(D)の平均粒径とした。
【0076】
本実施において導電性微粒子(D)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施の導電性組成物中の導電性微粒子(D)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性組成物に含まれる固形分全量に対し、50質量%以上85質量%以下であることが好ましく、55質量%以上80質量%以下であることが好ましい。導電性微粒子(D)の含有割合が上記下限値以上であれば、導電性に優れた導電層を形成することができる。また、導電性微粒子(D)の含有割合が上記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂(A3)の含有割合を高めることができ、成膜性や、ベースフィルム等への密着性が向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。
【0077】
<任意成分>
本発明の成形体に用いる成形フィルムにおいて導電性樹脂組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、架橋剤(C2)のほか、分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等が挙げられる。
【0078】
<架橋剤(C2)>
本実施において前記熱可塑性樹脂(A3)を架橋するために架橋剤(C2)を、任意成分として追加で用いてもよい。架橋剤(C2)としては、前記熱可塑性樹脂(A3)が有する反応性官能基と架橋形成しうる反応性官能基を1分子中に2つ以上有するものの中から適宜選択して用いることができる。このような反応性官能基としては、たとえば、エポキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルキルオキシアミノ基、アジリジニル基、オキセタニル基、カルボジイミド基、β-ヒドロキシアルキルアミド基などが挙げられる。
【0079】
<導電性樹脂組成物の製造方法>
本実施の導電性樹脂組成物の製造方法は、前記熱可塑性樹脂(A3)と、導電性微粒子(D)と、溶剤(B2)と、必要により用いられる架橋剤(C2)およびその他の成分とを、溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0080】
<ベースフィルム>
本実施においてベースフィルムは、基材形成時の成形温度条件下で基材表面の形状に追従可能な程度の柔軟性および延伸性を有するものの中から適宜選択することができ、成形体の用途や、成形体の製造方法などに応じて選択することが好ましい。
例えば、成形体の製造方法として、後述するオーバーレイ成形法や、フィルムインサート法を採用する場合には、ベースフィルムが成形体に残ることから、導電層の保護層としての機能を有することなどを考慮してベースフィルムを選択することができる。
【0081】
ベースフィルムは上記の観点から適宜選択することができ、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂)、カイダック(アクリル変性塩ビ樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル、及びこれら樹脂の2種以上からなるポリマーアロイ等のフィルムや、これらの積層フィルムであってもよい。中でも、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムであることが好ましい。積層フィルムとしては、中でも、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムが好ましい。
ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムの製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネートフィルムとポリメチルメタクリレートフィルムとを貼り合わせて積層してもよく、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとを共押出しにより積層フィルムとしてもよい。
また、これらのベースフィルムの表面がコロナ処理等の改質処理が施されていることも好ましい。
【0082】
また、必要に応じ、導電性樹脂組成物の印刷性を向上させるなどの目的で、ベースフィルムにアンカーコート層を設け、当該アンカーコート層上に導電性樹脂組成物を印刷してもよい。アンカーコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には導電性樹脂組成物との密着性が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。アンカーコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
また更に必要に応じ、成形体表面の傷つき防止のため、ベースフィルムにハードコート層を設け、その反対の面に導電性組成物および必要に応じて加飾層を印刷してもよい。ハードコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には表面硬度が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。ハードコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
【0083】
また本実施の成形体の成形フィルムにおいて、成形フィルムが加飾層を有する場合には、透明性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0084】
ベースフィルムの厚みは特に限定されないが、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、20μm以上450μm以下が好ましい。
【0085】
[加飾層]
本実施の成形体は、意匠性の点から、加飾層を有していてもよい。
加飾層は単色の色味を有する層であってもよく、任意の模様が付されたものであってもよい。
加飾層は、一例として、色材と、樹脂と、溶剤とを含有する加飾インキを調製した後、当該加飾インキを公知の印刷手段によりベースフィルムに塗布することにより形成することができる。
前記色材としては、公知の顔料や染料の中から適宜選択して用いることができる。また樹脂としては、前記本実施の絶縁性樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A2)と同様のものの中から適宜選択して用いることが好ましい。
加飾層の厚みは特に限定されないが、例えば0.5μm以上10μm以下とすることができ、1μm以上5μm以下とすることが好ましい。
【0086】
<基材のガラス転移点(Tg1)と絶縁層のガラス転移点(Tg2)との差(Tg1-Tg2)>
本発明において、前記基材のガラス転移点(Tg1)と前記絶縁層のガラス転移点(Tg2)の差(Tg1-Tg2)が30℃以上130℃以下であることが好ましく、より好ましくは50℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは60℃以上130℃以下であることが好ましい。上記範囲となることで、成形体の配線に対する衝撃性高め、配線劣化を抑制することができ、イオンマイグレーション耐性効果がある。
【0087】
<基材の25℃における貯蔵弾性率(G‘1)と、絶縁層の25℃における貯蔵弾性率(G‘2)との比(G‘1/G‘2)>
本発明において、前記基材の25℃における貯蔵弾性率(G‘1)と、前記絶縁層の25℃における貯蔵弾性率(G‘2)との比(G‘1/G‘2)が0.3以上100未満であることが好ましく、より好ましくは1.0以上100未満であり、さらに好ましくは1.5以上100未満であることが好ましい。上記範囲とすることで、基材を射出成型する際に、成形体の絶縁層との高い密着力に基づく優れた衝撃耐性効果がある。
なお、貯蔵弾性率はアイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置DVA-225によって求め、基材と絶縁層の25℃における貯蔵弾性率から比を算出した。
【0088】
<基材のメルトフローレートと、絶縁層の200℃における貯蔵弾性率(G‘3)>
本発明において、前記基材のメルトフローレートは5g/10分以上40g/10分未満であり、かつ前記絶縁層の200℃における貯蔵弾性率(G‘3)が0以上1×106Pa未満であることが好ましく、より好ましくは、前記基材のメルトフローレートが10g/10分以上40g/10分未満であり、かつ前記絶縁層の200℃における貯蔵弾性率(G‘3)が1×103以上1×106Pa未満であることが好ましく、さらに好ましくは、前記基材のメルトフローレートが10g/10分以上30g/10分未満であり、かつ前記絶縁層の200℃における貯蔵弾性率(G‘3)が1×104以上1×106Pa未満であることが好ましい。上記範囲とすることで、基材を射出成型する際に、成形体の絶縁層との高い密着力に基づく衝撃耐性効果がある。
なお、本発明におけるメルトフローレートは株式会社安田精機製作所社製 No120 メルトフローレート試験機を使用し、300℃における質量測定法によって算出した値である。また、200℃における貯蔵弾性率(G‘3)は、アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置DVA-225によって求め、前記絶縁層の200℃における貯蔵弾性率を算出した。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
また、実施例中の重量平均分子量および数平均分子量は、東ソー社製GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)「HLC-8320」を用いた測定におけるポリスチレン換算分子量である。
また、基材の貯蔵弾性率は、基材を縦15cm、横30cm、深さ1cmの金属パットに入れ、300℃のオーブンで加熱溶融したものをプレス機にかけて成形し、縦0.5cm、横2cmに切り出したものを、アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置DVA-225によって測定した。絶縁層の貯蔵弾性率は、熱可塑性樹脂(A2)を剥離フィルムへバーコーターで塗工し、120℃のオーブンで30分乾燥させたものをはがし、0.5cm×5.0cmに切り出したものを使用して、基材と同様にして測定した。
また、基材のメルトフローレートはJIS規格K7210-1:2014(ISO1133-1:2011)に基づいた方法によって求めた。
【0090】
<基材用樹脂(G)(G―1)~(G-8)>
基材用樹脂(G-1)~(G-5)として以下の基材を用いた。
・基材用樹脂(G-1):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート含有率100%、ガラス転移点240℃、基材のメルトフローレート63g/10min。
・基材用樹脂(G-2):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート含有率100%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート15g/10min。
・基材用樹脂(G-3):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート含有率100%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート5.3g/10min。
・基材用樹脂(G-4):東レ株式会社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とABS樹脂を含むアロイであり、ポリカーボネート含有率85%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート14g/10min。
・基材用樹脂(G-5):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とを含むアロイであり、ポリカーボネート含有率60%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート37g/10min。
・基材用樹脂(G-6):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とを含むアロイであり、ポリカーボネート含有率70%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート20g/10min。
・基材用樹脂(G-7):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とを含むアロイであり、ポリカーボネート含有率95%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート7g/10min。
・基材用樹脂(G-8):東レ株式会社製ABS樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてABS樹脂を含み、ポリカーボネート含有率0%、ガラス転移点85℃、基材のメルトフローレート48g/10min。
・基材用樹脂(G―9):三菱エンジニアプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂(A1)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを含むアロイであり、ポリカーボネート含有率25%、ガラス転移点153℃、基材のメルトフローレート5g/10min。
【0091】
<熱可塑性樹脂(A2):(A-1)~(A-5)>
熱可塑性樹脂(A-1)~(A-5)として以下の樹脂を用いた。
【0092】
<合成例1:熱可塑性樹脂(A-1)の合成>
攪拌機、温度計、精留管、窒素ガス導入管、減圧装置を備えた反応装置に、イソフタル酸ジメチル6.5部(0.03mol)、テレフタル酸ジメチル2.0部(0.01mol)、アジピン酸2.5部(0.02mol)、エチレングリコール5.0部(0.08mol)、ネオペンチルグリコール5.0部(0.05mol)、及びテトラブチルチタネート0.03部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間エステル交換反応し、酸価を測定し、15以下になったら反応装置内を徐々に1~2トールまで減圧し、所定の粘度に達した時、反応を停止し取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して冷却することで、重量平均分子量16,000、ガラス転移点47℃、主鎖中に芳香環骨格およびポリエステル骨格を有し、ポリエステル骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が71.9%であるポリエステル樹脂(A-1)の固形物を得た。
【0093】
<合成例2:熱可塑性樹脂(A-2)の合成>
攪拌機、温度計、精留管、窒素ガス導入管、減圧装置を備えた反応装置に、イソフタル酸ジメチル6.5部(0.03mol)、テレフタル酸ジメチル6.5部(0.03mol)、1,4--シクロヘキサンジカルボン酸9.5部(0.06mol)、エチレングリコール2.5部(0.04mol)、ネオペンチルグリコール6.5部(0.06mol)、及びテトラブチルチタネート0.03部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間エステル交換反応し、酸価を測定し、15以下になったら反応装置内を徐々に1~2トールまで減圧し、所定の粘度に達した時、反応を停止し取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して冷却することで、重量平均分子量23,000、ガラス転移点7℃、主鎖中に芳香環骨格およびポリエステル骨格を有し、ポリエステル骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が54.8%であるポリエステル樹脂(A-2)の固形物を得た。
【0094】
<合成例3:熱可塑性樹脂(A-3)の合成>
攪拌機、温度計、精留管、窒素ガス導入管、減圧装置を備えた反応装置に、イソフタル酸ジメチル10.0部(0.05mol)、テレフタル酸ジメチル5.5部(0.03mol)、アジピン酸4.5部(0.03mol)、セパシン酸2.5部(0.01mol)、エチレングリコール5.0部(0.08mol)、ネオペンチルグリコール5.0部(0.05mol)、及びテトラブチルチタネート0.03部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間エステル交換反応し、酸価を測定し、15以下になったら反応装置内を徐々に1~2トールまで減圧し、所定の粘度に達した時、反応を停止し取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して冷却することで、重量平均分子量17,000、ガラス転移点45℃、主鎖中に芳香環骨格およびポリエステル骨格を有し、ポリエステル骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が64.1%であるポリエステル樹脂(A-3-1)の固形物を得た。つづいて攪拌機、温度計、留出液トラップ、窒素ガス導入管、減圧調整器を備えたセバラブルフラスコに、上記ポリエステル樹脂225.0部、イソホロンジイソシアネート32.3部、及びトルエン63.6部を仕込み、窒素気流下にて90℃で4時間撹拌し、ついでイソホロンジアミン3.6部を加え、さらに90℃で2時間反応させたのち、冷却して反応を停止した。その後、取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して熱風乾燥オーブン中120℃で4時間乾燥させ、さらに24時間真空乾燥することで、重量平均分子量23,000、ガラス転移点20℃、主鎖中に芳香環骨格およびポリエステル骨格を有し、ポリエステル骨格中における全構成カルボン酸単位中の芳香族カルボン酸単位の含有率が64.9%であるウレタン樹脂(A-3)の固形物を得た。
【0095】
・熱可塑性樹脂(A-4):三菱ケミカル社製フェノキシ樹脂、jER-4250、重量平均分子量59,000、ガラス転移点70℃、主鎖中に芳香環骨格を有する。
・熱可塑性樹脂(A-5):三菱ケミカル社製アクリル樹脂、ダイヤナールBR-77、重量平均分子量65,000、ガラス転移点80℃、主鎖中に芳香環骨格およびポリエステル骨格を有さない。
・熱可塑性樹脂(A-6):セメダイン社製クロロプロピレンゴム「CS4503F」を固形分40%になるように酢酸ブチル溶液で希釈したものを使用した。
【0096】
<熱可塑性樹脂(A3):(A-7)~(A-9)>
熱可塑性樹脂(A-7)~(A-9)として以下の樹脂を用いた。
・熱可塑性樹脂(A-7):三菱ケミカル社製アクリル樹脂、ダイヤナールBR-83、重量平均分子量40,000、ガラス転移点80℃を使用した。
・熱可塑性樹脂(A-8):ユニチカ株式会社製ポリエステル樹脂、「エリーテルUE3400」、重量平均分子量25,000を使用した。
【0097】
<合成例4:熱可塑性樹脂(A-9)の合成>
攪拌機、温度計、留出液トラップ、窒素ガス導入管、減圧調整器を備えたセバラブルフラスコに、熱可塑性樹脂(A-8)(「エリーテルUE3400」)223.0部、イソホロンジイソシアネート72.0部、及びトルエン90.6部を仕込み、窒素気流下にて90℃で4時間撹拌し、ついでイソホロンジアミン5.5部を加えさらに90℃で2時間反応させたのち、冷却して反応を停止した。その後、取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して熱風乾燥オーブン中120℃で4時間乾燥させ、さらに24時間真空乾燥尾することで、重量平均分子量31,000、ガラス転移点5℃のウレタン樹脂(A-9)の固形物を得た。
【0098】
溶剤、架橋剤、導電性微粒子及びその他成分として以下のものを用いた。
<溶剤(B-1)~(B-4)>
・溶剤(B-1):1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、沸点209℃
・溶剤(B-2):酢酸ブチル、沸点126℃
・溶剤(B-3):2-メトキシプロパノール、沸点121℃
・溶剤(B-4):ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、沸点217℃
【0099】
<架橋剤(C-1)>
・架橋剤(C-1)
Baxeneden Chemicals社製ブロックイソシアネート溶液、Trixene BI7963、エチルメチルケトンオキシムでブロック化されているイソシアネート基を1分子中に3つ含有(官能基価168mgKOH/g)、不揮発分70%(溶剤(E3):2-メトキシプロパノール)
【0100】
<導電性微粒子(D-1)~(D-4)>
・導電性微粒子(D-1):福田金属箔粉社製、フレーク状銀粉、平均粒子径5.2μm
・導電性微粒子(D-2):福田金属箔粉社製、連鎖凝集状銀粉、平均粒子径1.5μm
・導電性微粒子(D-3):DOWAエレクトロニクス社製、フレーク状銀コート銅粉、銀被覆量10%、平均粒子径4.0μm
・導電性微粒子(D-4):伊藤黒鉛社製、鱗片状黒鉛、平均粒子径15μm
【0101】
<その他成分(E-1)、(E-2)>
・その他成分(E-1):ビックケミー社製、消泡剤、BYK-1790 固形分100%
・その他成分(E-2):第一工業製薬社製、アニオン性滑剤、カリセッケンHY 固形分100%
【0102】
<ワックス(J)(J-1)>
・ビックケミー社製アマイドワックス、CERAFLOUR-960、固形分100%、融点145℃
【0103】
<製造例1:絶縁性樹脂組成物(H-1)の作成>
熱可塑性樹脂(A-1)22.0部を溶剤(B-1)30.0部に溶解させ、消泡剤(E-1)0.2重量部を加えたのち、プラネタリーミキサーにより均一に撹拌混合することで絶縁性樹脂組成物(H-1)を得た。
【0104】
<製造例2~12:絶縁性樹脂組成物(H-2)~(H-12)の作成>
製造例1において、熱可塑性樹脂、溶剤、架橋剤、その他成分及び配合量を表2のように変更した以外は、それぞれ製造例1と同様にして、成形フィルム用絶縁性組成物(H-2)~(H-12)を得た。
【0105】
<製造例13:導電性樹脂組成物(I-1)の作成>
熱可塑性樹脂(A-7)22.0部を溶剤(B-1)31.0部に溶解させ、導電性微粒子(D-1)78.0部を撹拌混合し、3本ロールミル(小平製作所製)で混練したのち、プラネタリーミキサーにより均一に撹拌混合することで導電性樹脂組成物(I-1)を得た。
【0106】
<製造例14~20:導電性樹脂組成物(I-2)~(I-8)の作成>
製造例13において、熱可塑性樹脂、溶剤、導電性微粒子、架橋剤(架橋剤を用いる場合には、プラネタリーミキサーによる均一撹拌混合の直前に加えた)の種類及び配合量を表3のように変更した以外は、それぞれ製造例13と同様にして、成形フィルム用導電性組成物(I-2)~(I-8)を得た。
なお、表2~表3中の各材料の数値はいずれも質量部である。
【0107】
<実施例1:フィルムインサート成形による成形体の作成>
ポリカーボネート(PC)ベースフィルム(帝人社製、パンライト2151、厚み300μm))上に、導電性樹脂組成物(I-1)をスクリーン印刷機(ミノスクリーン社製、ミノマットSR5575半自動スクリーン印刷機)によって印刷した。次いで、熱風乾燥オーブンで、120℃で30分加熱することで、(1)幅70mm、長さ120mm、厚み10μmの四角形ベタ状パターン、また、(2)線幅2mm、長さ80mm、厚み10μmの直線状パターン、さらに(3)対向部線長50mm、のL/S=100μm/100μm、正負10本ずつの櫛形配線パターンを有する導電層を備えた成形フィルムをそれぞれ得た。この段階の(1)四角形ベタ状パターンについて、導電層の体積固有抵抗を抵抗率計(三菱ケミカルアナリティック社製、ロレスタGX MCP-T700)を用いて測定した。
さらにこの導電層を備えた成形フィルムの導電パターンが形成された面上に絶縁性樹脂組成物(H-1)を、(1)前記四角形ベタ状導電パターンに対しては導電パターン全体を覆うように幅90mm、長さ140mm、厚み15μmとなるように、また(2)直線状パターンに対しては、長久手方向の両端10mmが露出し、配線パターンの一部を覆うように幅5mm、長さ60mm、厚み15μとなるように、さらに(3)前記櫛形配線パターンに対しては両端10mmが露出し、配線パターンの一部を覆うように幅6mm、長さ80mm、厚み15μmとなるように、それぞれ前記スクリーン印刷機によって重ね印刷した。次いで、熱風乾燥オーブンで、120℃で30分加熱することで、前記パターン化された導電層とその一部または全部を被覆するように積層された絶縁層を備えた成形フィルムを得た。この際、導電性組成物と絶縁性組成物の組み合わせは表4~7の通りになるように、それぞれ成形フィルムを作成した。この段階の(1)四角形ベタ状パターンの、導電層と重なっていない端部の絶縁層部分について、絶縁層の体積固有抵抗を抵抗率計(三菱ケミカルアナリティック社製、ハイレスタUX MCP-HT800)を用いて測定した。また、得られた成形フィルムの直線状パターンの導電層が露出している両端から6mmまでのところに、成形フィルムの反対側から目印として垂直な線を油性マジックで2cm書き加え、つづいて、得られた成形フィルムの、直線状パターンおよび線幅6mm、長さ80mm、厚み15μmのL/S=100μm/100μm、正負10本ずつの櫛形配線パターンの位置と重なるように、半径4cmの半球形状を中央に有するブロック状金属製モールドを導電層および絶縁層側の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、半球形状に成形された内側にパターン化導電体を有する成形用フィルムをそれぞれ得た。
次いで、当該半球形状に成形された成形フィルムを、バルブゲートタイプのインモールド成形用テスト金型が取り付けられた射出成形機(IS170(i5)、東芝機械社製)にセットし、基材用樹脂(G-1)を射出成形することで、パターン化導電体付き成形用フィルムと一体化された成形体を得た(射出条件:スクリュー径40mm、シリンダー温度290℃ 、金型温度(固定側、可動側)80℃ 、射出圧力180MPa、保圧力120MPa、射出速度60mm/秒(28%)、射出時間4秒、冷却時間20秒以上で射出)。
【0108】
<実施例2~23、42~44、比較例2~4>
前記実施例1において、基材、絶縁性樹脂組成物、導電性樹脂組成物を表4~7のように変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0109】
<実施例24~41、比較例10>
前記実施例1において、基材、絶縁性樹脂組成物、導電性樹脂組成物を表5、6のように変更し、射出成型の際のシリンダー温度を245℃に変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0110】
<比較例5>
前記実施例1において、基材、絶縁性樹脂組成物、導電性樹脂組成物を表7のように変更し、射出成型の際に、シリンダー温度を220℃に変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0111】
<実施例45、および比較例6>
前記実施例16において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、アクリル樹脂ベースフィルム(住友化学社製、テクノロイS001G、厚み250μm)(300mm×210mm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例16と同様にして、成形体を得た。
【0112】
<実施例46、および比較例7>
前記実施例16において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、ポリカーボネート樹脂/アクリル樹脂2種2層共押し出しベースフィルム(住友化学社製、テクノロイC001、厚み125μm)を用い、ポリカーボネート樹脂側に成形フィルム用導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物の印刷を行ったこと以外は、前記実施例16と同様にして、成形体を得た。
【0113】
<実施例47、および比較例8>
前記実施例16において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、ポリプロピレン樹脂ベースフィルム(出光ユニテック社製、ピュアサーモAG-306、厚み200μm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例16と同様にして、成形体を得た。
【0114】
<実施例48、および比較例9>
前記実施例16において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、ポリエチレンテレフタラート樹脂ベースフィルム(RP東プラ社製A-PETフィルム、NOACRYSTAL-V、厚み300μm)を用い、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例16と同様にして、成形体を得た。
【0115】
<比較例1>
前記実施例16において、絶縁層を形成しなかったこと以外は、前記実施例16と同様にして、成形体を得た。
【0116】
[(1)成形体の配線抵抗評価]
得られた成形体の裏側に記入した目印に従い、直線状パターンの導電層へテスターの両測定部を接触させ、導電層の抵抗値を測定し、これを配線抵抗(Ω)とした。結果を表4~7に示す。
【0117】
[(2)成形体の落球衝撃試験1]
得られた成形体の落球衝撃試験を実施し、耐衝撃性を測定した。
株式会社島津製作所製「JIS落球衝撃試験機 IM-4100」を使用し、得られた成形体を所定の位置に取り付け、重さ500gの鉄球を高さ80cmから成形体の中央に落下させ、フィルム側から目視にて、配線の亀裂の有無および抵抗変動率を観察した。抵抗変動率は直線状パターンの導電層へテスターの両測定部を接触させ、導電層の抵抗値を測定し、落球衝撃試験前の配線抵抗/落球衝撃試験後の配線抵抗を抵抗変動率(倍)をとし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表4~7に示す。
(亀裂の有無)
A:配線に亀裂は見られなかった。
B:配線に1~2個の軽微なヒビが確認された
C:配線が露出し断線した。
(抵抗変動率)
A:1倍~1.3倍未満
B:1.3倍以上1.5倍未満
C:1.5倍以上2.0倍未満
D:断線し、測定不可
【0118】
[(3)成形体の落球衝撃試験2]
鉄球の重さを1kgに変更した以外は落球衝撃試験1と同様にして落球衝撃試験を行い、亀裂の有無および抵抗変動率を観察した。結果を表4~7に示す。
【0119】
[(4)成形体のイオンマイグレーション耐性評価]
上記実施例1~48、および比較例1~9の各成形体の櫛形配線のそれぞれ正負電極の配線露出部をワニ口クリップによって配線に接続し、IMV社製マイグレーションテスター絶縁劣化評価試験機「MIG-8600B」を用いて、5V印加、85℃85%RH条件下での1000時間後の櫛形配線端子間の絶縁抵抗値を確認し、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表4~7に示す。
(イオンマイグレーションによる短絡の有無と絶縁抵抗率)
A:絶縁抵抗変動率が初期の±25%未満
B:絶縁抵抗変動率が初期の±25%以上±100%未満
C:絶縁抵抗変動率が初期の±100%以上またはリークタッチ(電極間短絡履歴)あり
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
[結果のまとめ]
導電層上に絶縁層を形成しない比較例1では、櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が劣り、経時で短絡を発生しやすく、成形体を立体配線回路として使用する際に適さないことが分かった。これは、成形体のベースフィルム-射出成形樹脂間の密着性が十分でないため、この界面からの水分の侵入によるイオン化促進や熱膨張収縮による導電パターンの機械的劣化が大きいことに起因すると考えられる。
また、比較例2では絶縁層を形成しているものの、絶縁層に芳香族構造を有さないため、衝撃性に劣り、かつ櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が実用に耐えないレベルであった。さらに比較例3、4では絶縁層を形成してはいるものの、耐衝撃性に劣り、体積固有抵抗が1012Ω・cm未満と低いため、やはり成形体の櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が実用に耐えないレベルであった。さらに、比較例5~9に示すように基材がポリカーボネート樹脂を有さないと耐衝撃性が不十分であり、イオンマイグレーションと両立させることができなかった。さらに、比較例10に示すように、基材用樹脂のポリカーボネート含有率が50%未満である場合、耐衝撃性とイオンマイグレーション耐性を実用十分なレベルに両立させることができなかった。
【0128】
一方、実施例1~48の結果から、本実施の成形体は、基材と絶縁層のガラス転移点や25℃における貯蔵弾性比、さらに基材のメルトフローレートと絶縁層の200℃における貯蔵弾性率を特定の範囲を満たす場合に耐衝撃性とイオンマイグレーション耐性を十分に満たすことが分かった。とくに実施例16、23、36、43、44に示すようにワックスを添加することで、絶縁層と射出樹脂との界面の高い密着性に基づく優れたイオンマイグレーション耐性が両立されていた。
【0129】
このように、本実施の導電性組成物を用いた成形フィルムおよび配線一体型の成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体および立体形状部品へ直接、デザイン自由度を損なうことなく軽量かつ省スペースな回路の作り込みやタッチセンサー・アンテナ・発熱体・電磁波シールド・インダクタ(コイル)・抵抗体の作り込みや、・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【符号の説明】
【0130】
1 ベースフィルム
2 導電層
3 絶縁層
4 電子部品
5 ピン
6 加飾層
7 第2の導電層
8 第2の絶縁層
10 成形フィルム
11 金型
12 射出成形用金型
13 開口部
14 射出
15 上昇
16 加圧
17 樹脂
20 基材
21 上側チャンバーボックス
22 下側チャンバーボックス
30 成形体