(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】記録装置および記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20250701BHJP
B41J 29/393 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B41J2/01 303
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 305
B41J29/393 101
(21)【出願番号】P 2021203170
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2024-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】桜田 和昭
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-192772(JP,A)
【文献】特開2020-82419(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161622(WO,A1)
【文献】特開2021-53830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 29/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔の罫線群を有するテストパターンを織物に記録可能な記録部と、
前記記録部における記録を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記織物における織糸の間隔を取得し、
取得した織糸の間隔に基づいて前記テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔を変更することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記取得した織糸の間隔と、前記テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔とが一致しないように制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、
複数の前記テストパターンを形成し、
前記取得した織糸の間隔と各テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔が一致する数を求め、
前記各テストパターンの中から一致する数が最も少ないテストパターンを選択することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御部は、
所定のパラメータに基づいて前記テストパターンの前記罫線群を生成可能であり、
前記取得した織糸の間隔を前記パラメータとして、前記テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔と前記取得した織糸の間隔とが一致しないように、前記テストパターンを生成することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録部は、印刷ヘッドを主走査方向に駆動し、記録媒体を副走査方向に駆動し、ドット状の色インクを付着させて記録を行うものであり、
前記罫線は、前記ドット状の色インクを所定方向に整列させることで形成され、
前記罫線群は、前記織糸の配列方向と平行な方向の前記罫線を備えることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
所定の間隔の罫線群を有するテストパターンを織物に記録可能な記録部と、前記記録部における記録を制御する制御部と、を備えた記録装置の記録方法であって、
前記織物における織糸の間隔を取得する工程と、
取得した織糸の間隔に基づいて前記テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔を変更する工程とを実施することを特徴とする記録装置の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置などの記録装置および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、液体吐出装置から吐出されるインク滴の着弾位置を調整する技術を開示している。同文献1によれば、液体吐出装置から所定の罫線を含むテストパターンを記録媒体に印刷した後、RGBカメラ等の画像取得手段で画像を取得し、取得した画像を画像処理することにより、着弾ズレ量の情報を算出し、着弾位置を修正する補正値を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体吐出装置は記録媒体として織物に印刷することもある。記録媒体が織物である生地上に印刷する場合、織物の織糸の間隔とテストパターンの罫線の間隔が同じ、もしくは整数倍の関係になっていると、テストパターンの罫線と織物の織糸の陰影の切り分けが困難になり、適切な補正値が得られないという課題があった。
本発明は、織物に対する着弾位置を修正する補正値を正確に計算することが可能な記録装置および記録方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、所定の間隔の罫線群を有するテストパターンを織物に記録可能な記録部と、前記記録部における記録を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記織物における織糸の間隔を取得し、取得した織糸の間隔に基づいて前記テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔を変更する構成としてある。
前記構成において、制御部は、織物における織糸の間隔を取得し、取得した織糸の間隔に基づいてテストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔を変更する。織物における織糸の間隔と、テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔とが、一致あるいは整数倍になる場合、テストパターンの罫線が、織物における織糸の間隔と一致してしまう。両者が一致すると、テストパターンと織物における織糸の陰影の切り分けが困難になる。制御部が、織糸の間隔に基づいてテストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔を変更することで、切り分けが困難にならないようにすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】記録装置が適用される印刷装置の概略ブロック図である。
【
図5】罫線間ピッチPkと織糸ピッチPcとを示す図である。
【
図6】制御部が実施する制御プログラムを表すフローチャートである。
【
図7】テストパターンを変更する処理をしないときの織物の画像を示す図である。
【
図8】画像データに基づいて高速フーリエ変換演算したときの演算結果を示す図である。
【
図9】テストパターンを変更する処理をしたときの織物の画像を示す図である。
【
図10】画像データに基づいて高速フーリエ変換演算したときの演算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面にもとづいて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる記録装置が適用される印刷装置を概略ブロック図により示している。
同図において、プリンター(記録装置)10の印刷ヘッド11はインクタンクTから供給される4色あるいは6色の色インクを図示しないノズルから吐出する。色インクが記録媒体G上に付着することでドットが描かれることになる。印刷ヘッド11はプラテンモーター12によって回転駆動されるプラテン13に対面しており、記録媒体Gは印刷ヘッド11と交差して搬送される。印刷ヘッド11は主走査モーター14によってプラテン13と平行に往復動作可能である。印刷ヘッド11がX軸方向に往復駆動され、記録媒体がY軸方向に駆動されることにより、印刷ヘッド11のノズルは記録媒体面に対して任意の位置に色インクを吐出可能となっている。印刷ヘッド11が往復動作するX軸方向を主走査方向と呼び、記録媒体Gが駆動されるY軸方向を副走査方向と呼ぶ。これらの印刷ヘッド11、プラテンモーター12、プラテン13、主走査モーター14などが、記録部に相当する。
【0008】
本実施例においては、記録媒体Gがプラテン13によって駆動される記録装置を採用しているが、記録媒体Gが平板上に固定され、印刷ヘッド11がX軸方向に駆動されつつ、平板がY軸方向に駆動されるフラットベッドタイプの記録装置であったり、中空円柱状のローラー表面に対してロール状に捲回された長尺の記録媒体Gを同ローラー表面に付着させつつローラーが回転することで、同記録媒体Gを搬送しつつ記録処理を完了させる記録装置を採用することも可能である。
【0009】
なお、色インクの弾道は、印刷ヘッド11が移動しながら色インクを吐出することや、記録媒体が搬送されることに伴う気流の乱れや、ノズルの形成方向の影響を受けるため、着弾位置が本来の目的位置からずれることがある。この着弾位置のずれは、罫線群を含むテストパターンを記録媒体上に印刷させ、印刷されたテストパターンを画像解析して検出する。
【0010】
図2は、テストパターンの一部を示している。
テストパターンの罫線は、ドット状の色インクを所定方向に整列して付着させることで描かれる。各ノズルから吐出される色インクの弾道がずれると、整列して付着すべきドットが、整列せずに付着するが、その状態を画像として取得し、画像解析することで着弾位置のずれが検出できる。図に示すテストパターンは、X軸方向に7本の直線が罫線として平行に描かれ、Y軸方向に数本の直線が罫線として描かれている。これらのX軸方向の7本の直線の罫線と、Y軸方向に数本の直線の罫線が、罫線群に相当している。また、X軸方向の7本の直線の罫線の間隔は、一致しており、罫線間ピッチPkである。
【0011】
次に、制御部20は、プラテンモーター12と、主走査モーター14と、印刷ヘッド11の駆動を制御する。制御部20は、CPU、ROM、RAM、IFといったコンピューターを構成する主要な構成を備える他、プラテンモーター12と主走査モーター14に対する駆動電力を出力するモーター駆動部21と、印刷ヘッド11の各ノズルに対応する駆動素子への駆動電力を出力するヘッド駆動部22とを備えており、さらに、テストパターンなどのデータを記憶する不揮発性の記憶領域であるストレージ23を備えている。
【0012】
本実施例では、制御部20は、外部から画像データを取得し、同画像データを解析して着弾位置のずれを補正する補正値を演算する。画像データは、制御部20がIFを介して外部機器と通信して取得する。むろん、制御部20自体が、撮像素子を備えても良いし、印刷ヘッド11に撮像素子を装着ししておき、同撮像素子からデータを取得するようにしても良い。
【0013】
図3は、ストレージを示している。
ストレージ23は各種のデータを記憶しているが、本実施例では、複数のテストパターンT1~Tn(テストパターンTと総称する)を記憶している。各テストパターンTは、上述した罫線間ピッチPkが相違するように作り込んである。罫線間ピッチPkが異なることで着弾ずれの補正値の計算は異なることになるが、計算方法の詳細については公知技術であるので省略する。
【0014】
図4は、織物の一部を拡大して示している。
この図は、縦糸の間隔を説明するものであり、実際には縦糸と横糸とが交差するパターンは各種のものを採用可能である。織糸は、一例で説明すると、縦糸が一定の間隔で所定の配列方向に並べられてセットされ、適宜横糸が織り込まれていく。ここで織糸の間隔とか、織糸のピッチというのは、同じ意味で使用している。例えば、それぞれの糸の並び方向で糸の中心の間隔である。無論、糸と糸との間の織目の間隔ということもできる。少なくとも、並んでいる糸同士の間の隙間自体ではないし、糸の幅を示すのではない。図では織糸ピッチPc(織目ピッチPcと表記したのも同じ意味である)を示している。
【0015】
図5は、本実施例を実行したときの罫線間ピッチPkと織糸ピッチPcとを示している。
同図に示すように、本実施例を実行することで、罫線間ピッチPk≠織糸ピッチPcとなる。
【0016】
図6は、制御部が実施する制御プログラムを表すフローチャートである。
制御部20のCPUは、同図に示すフローチャートに沿うプログラムを実行する。まず、ステップS100では、CPUは画像データを取得する。画像データは記録媒体Gである織物を撮影した画像データである。ステップS110では、CPUは同画像データに基づいて織糸ピッチPcを取得する。織糸ピッチPcを取得する手法はさまざまであり、画像データにおける織糸の並び方向の画素データを取得して、高速フーリエ変換し、周波数分布を求める。織物の画像には様々な周波数成分が存在するものの、織糸の並びは定間隔で一定であるため、その周波数成分が大きくなることが推測される。このため、所定の閾値と比較して周波数成分の値が大きい周波数を候補とし、さらに、織物の織糸ピッチとして妥当な範囲に絞り込むと、織糸ピッチPcを決定できる。
【0017】
一方、織糸ピッチPcは生地自体から明らかであり、利用者がその生地の織糸ピッチPcをデータとして入力するようにしても良い。このように、画像データに基づいて算出する手法でも、手入力による方法でも、どちらでもよい。
【0018】
ステップS120では、CPUは記録媒体に最適なテストパターンTxを取得する。記録媒体に最適なテストパターンTxの条件は、
第1の条件として「織物の織糸ピッチPcの整数倍となる罫線間ピッチPkである罫線群を含まないこと」である。
【0019】
さらに対象を広げれば、
第2の条件として「織物の織糸ピッチPcと、罫線間ピッチPkとの、最小公倍数の倍数が所定の閾値よりも大きな値となること」でもある。
【0020】
以上の条件により、複数のテストパターンTが候補となることも予想される。この場合、一致しない最初のテストパターンを選ぶということも可能である。また、第1の条件はクリアしているが、第2の条件については、倍数が所定の閾値以下で発生しているテストパターンTが複数あることもある。このとき、罫線間ピッチPkは、罫線と織目とが重なる頻度が最も少ない間隔であるテストパターンを選択するようにしても良い。例えば、織糸ピッチPcが6で、第1テストパターンT1の罫線間ピッチPkが3、第2テストパターンT2の罫線間ピッチPkが4である場合は、第2テストパターンT2の方が罫線と織目とが重なる頻度が少ない。従って、第2テストパターンT2を選択する。
【0021】
このように、第1の条件は、取得した織糸の間隔Pcと、テストパターンTにおける罫線群を構成する罫線の間隔Pkとが一致しないように制御する処理と言える。
また、第2の条件で複数のテストパターンが候補として残ったときに「罫線間ピッチPkは、罫線と織目とが重なる頻度が最も少ない間隔であるテストパターンを選択する」処理は、複数のテストパターンTを有しており、取得した織糸の間隔Pcと各テストパターンTにおける罫線群を構成する罫線Pkの間隔が一致する数を求め、一致する数が少ないテストパターンを選択する処理と言える。
【0022】
いずれの条件も、制御部20が、織物における織糸の間隔Pcを取得し、取得した織糸の間隔Pcに基づいてテストパターンTにおける罫線群を構成する罫線Pkの間隔を変更すると言える。
CPUは、選択したテストパターンTxをストレージ23から取得し、ステップS130にて、同テストパターンTxを用いて記録媒体である織物上に印刷を行う。テストパターンTxの印刷後、ステップS140にて、印刷した部位の織物の画像を取得し、ステップS150にて、画像を高速フーリエ変換(FFT)演算を行う。
【0023】
図7は、テストパターンを変更する処理をしないときの織物の画像を示しており、
図8は、この画像の画像データに基づいて高速フーリエ変換演算したときの演算結果を示している。
具体的には、
図7に示す破線の間の画素データをプロットデータとして取得し、高速フーリエ変換(FFT)演算する。この場合、「織物の織糸ピッチPcの整数倍となる罫線間ピッチPkである罫線群を含む」こととなっていた。このため、罫線間ピッチPkに影響を与えること無く、織物の織糸ピッチに基づく周波数成分を除去できない。従って、多くの周波数成分で成分値が現れてしまい、着弾位置ずれのための演算が困難になっている。
【0024】
図9は、テストパターンを変更する処理をしたときの織物の画像を示しており、
図10は、この画像の画像データに基づいて高速フーリエ変換演算したときの演算結果を示している。
ステップS110,S120の処理を経て、第1の条件と、第2の条件による選別を経たテストパターンTxを利用している。従って、織物の織糸ピッチPcに基づいて不要な周波数成分の成分値を除去することができる。あるいは、織物の織糸ピッチPcに基づく不要な周波数成分を除去するバンドパスフィルタを介して画像処理をすることで、高速フーリエ変換演算後の演算結果には織物の織糸ピッチPcに基づく周波数成分の成分値が現れない。
【0025】
従って、ステップS160では、高速フーリエ変換演算後の演算結果に基づいて、CPUは着弾位置ずれを取得し、ステップS170では、取得した着弾位置ずれを解消するような補正値を演算する。なお、ステップS160,S170の具体的な演算は印刷ヘッド11のノズル配列やテストパターンを印刷させるノズル位置に応じて、適宜、公知の演算手法で求める。
【0026】
上述した実施例では、ストレージ23に罫線間ピッチPkが異なる複数のテストパターンTを用意していた。
しかし、所定の罫線間ピッチPkとなるテストパターンTを生成することも可能である。この場合、ステップS120にて、第1条件や第2条件に基づいてテストパターンTxを取得する処理においては、第1条件や第2条件をクリアする罫線間ピッチPkとなるように、新たにテストパターンTを生成する。そして、ステップS130では、新たに生成したテストパターンTを使用して織物上に印刷を行う。
【0027】
この場合も、第1の条件と、第2の条件をクリアしたテストパターンTを生成しているため、織物の織糸ピッチPcに基づいて不要な周波数成分の成分値を除去することができる。あるいは、織物の織糸ピッチPcに基づく不要な周波数成分を除去するバンドパスフィルタを介して画像処理をすることで、高速フーリエ変換演算後の演算結果には織物の織糸ピッチPcに基づく周波数成分の成分値が現れない。
【0028】
このように、制御部20は、所定のパラメータに基づいてテストパターンの罫線群を生成可能であり、取得した織糸の間隔Pcをパラメータとして、テストパターンにおける罫線群を構成する罫線の間隔とが一致しないように、テストパターンTを生成している。
本発明は、形ある物品の発明のみならず、その処理工程を考慮すると方法の発明として把握することも可能であり、その工程は
図6に示すフローチャートからも明らかである。
【0029】
なお、本発明は前記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。当業者であれば言うまでもないことであるが、
・前記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって前記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が前記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0030】
10…プリンター(記録装置)、11…印刷ヘッド、12…プラテンモーター、13…プラテン、14…主走査モーター、20…制御部、21…モーター駆動部、22…ヘッド駆動部、23…ストレージ。