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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20250701BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250701BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20250701BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250701BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20250701BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W20/40
F02D45/00 362
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022020341
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023117655
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄大
(72)【発明者】
【氏名】郷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】中野 智洋
(72)【発明者】
【氏名】野口 真裕
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-92664(JP,A)
【文献】特開平3-3969(JP,A)
【文献】特開2018-100614(JP,A)
【文献】特開2020-104526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305800(US,A1)
【文献】特開2020-111276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00
B60W 10/02
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 10/18
B60W 10/26
B60W 10/28
B60W 10/30- 20/50
F02D 29/02
F02D 43/00- 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、モータと、前記内燃機関と前記モータとの間に設けられたクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記モータによる前記内燃機関のクランキングを制御するクランキング制御部と、
前記クランキング後、前記内燃機関のクランク軸の停止時間が所定時間以上続く、または前記クランク軸が前記クランキングの方向に対して逆回転する場合、前記内燃機関の始動が失敗したと判定する始動判定部と、を具備し、
前記クランキングによる前記クランク軸の移動量が所定量以上である場合に、前記始動判定部は前記内燃機関の始動が失敗したか否か判定し、
前記始動判定部は、前記内燃機関の停止時における前記内燃機関のピストンの位置に応じて、前記所定量を変えるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関がエンストしたか否か判定するエンスト判定部を具備し、
前記エンスト判定部が前記内燃機関はエンストしていると判定をした場合、前記始動判定部は前記所定量を第1の量とし、
前記エンスト判定部が前記内燃機関はエンストしていないと判定をした場合、前記始動判定部は前記所定量を前記第1の量より小さい第2の量とする請求項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記始動判定部が前記内燃機関の始動が失敗したと判定した回数に応じて、前記クランキング制御部は前記クランキングのトルクを変化させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両には、内燃機関(エンジン)、エンジンと車輪との動力伝達経路に設けられたモータ、および動力伝達経路であってエンジンとモータとの間に設けられたクラッチ、を備えたものがある。エンジンの始動要求時には、クラッチをスリップさせてモータによりエンジンのクランキングを行ってクラッチを係合して、エンジンを始動する(例えば特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-111276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしクランキングトルクが不足し、エンジンが始動できないことがある。そこで、内燃機関の始動が失敗したか否か判定することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、内燃機関と、モータと、前記内燃機関と前記モータとの間に設けられたクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、前記モータによる前記内燃機関のクランキングを制御するクランキング制御部と、前記クランキング後、前記内燃機関のクランク軸の停止時間が所定時間以上続く、または前記クランク軸が前記クランキングの方向に対して逆回転する場合、前記内燃機関の始動が失敗したと判定する始動判定部と、を具備し、前記クランキングによる前記クランク軸の移動量が所定量以上である場合に、前記始動判定部は前記内燃機関の始動が失敗したか否か判定し、前記始動判定部は、前記内燃機関の停止時における前記内燃機関のピストンの位置に応じて、前記所定量を変えるハイブリッド車両の制御装置によって達成することができる。
【0008】
前記内燃機関がエンストしたか否か判定するエンスト判定部を具備し、前記エンスト判定部が前記内燃機関はエンストしていると判定をした場合、前記始動判定部は前記所定量を第1の量とし、前記エンスト判定部が前記内燃機関はエンストしていないと判定をした場合、前記始動判定部は前記所定量を前記第1の量より小さい第2の量としてもよい。
【0009】
前記始動判定部が前記内燃機関の始動が失敗したと判定した回数に応じて、前記クランキング制御部は前記クランキングのトルクを変化させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
内燃機関の始動が失敗したか否か判定することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ハイブリッド車両を例示する模式図である。
図2図2はエンジンの概略構成図である。
図3図3はECUが実行する処理を例示するフローチャートである。
図4図4(a)はクランク角を例示する図である。図4(b)はクランク角の移動量に対する閾値を例示する図である。
図5図5はECUが実行する処理を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ハイブリッド車両)
図1は、ハイブリッド車両1を例示する模式図である。ハイブリッド車両1には、駆動源としてエンジン10(内燃機関)およびモータ15が搭載されている。ハイブリッド車両1には、エンジン10から車輪13までの動力伝達経路に、K0クラッチ14、モータ15、トルクコンバータ18、および自動変速機19が順に設けられている。エンジン10は例えばV型6気筒エンジンであり、6個の気筒♯1~♯6を有する。エンジン10は、例えばV型エンジンでもよいし直列エンジンでもよい。エンジン10はガソリンエンジンでもよいしディーゼルエンジンでもよい。エンジン10の気筒の数は例えば4個または6個など複数でもよいし、1個でもよい。K0クラッチ14、モータ15、トルクコンバータ18、および自動変速機19は、変速ユニット11内に設けられている。変速ユニット11と左右の車輪13とは、ディファレンシャルギヤ12を介して駆動連結されている。
【0013】
K0クラッチ14は、同動力伝達経路上のエンジン10とモータ15との間に設けられている。K0クラッチ14は、油圧の供給に応じて、開放状態、スリップ状態、及び係合状態の何れかに切り替えられる。詳細には、K0クラッチ14が開放状態の場合に油圧供給により、スリップ状態又は係合状態となり、エンジン10とモータ15との動力伝達が接続される。また、K0クラッチ14は、油圧供給の停止に応じて開放状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を遮断する。尚、スリップ状態とは、K0クラッチ14のエンジン10側の係合要素とモータ15側の係合要素とが所定の回転数差を有して摺接している状態である。係合状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が連結しエンジン10とモータ15とが同じ回転数となっている状態である。開放状態とは、K0クラッチ14の双方の係合要素が離間した状態である。
【0014】
モータ15は、インバータ17を介してバッテリ16に接続されている。モータ15は、バッテリ16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能する一方で、エンジン10や車輪13からの動力伝達に応じてバッテリ16に充電する電力を発電する発電機としても機能する。モータ15とバッテリ16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0015】
インバータ17は、後述するECU50によって制御され、バッテリ16からの直流電圧を交流電圧に変換するか、またはモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換する。モータ15がトルクを出力する力行運転の場合、インバータ17はバッテリ16の直流電圧を交流電圧に変換してモータ15に供給される電力を調整する。モータ15が発電する回生運転の場合、インバータ17はモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ16に供給される電力を調整する。
【0016】
トルクコンバータ18は、トルク増幅機能を有する流体継ぎ手である。自動変速機19は、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機である。自動変速機19は、動力伝達経路上のモータ15と車輪13の間に設けられている。トルクコンバータ18を介して、モータ15と自動変速機19とが連結されている。トルクコンバータ18には、油圧の供給を受けて係合状態となってモータ15と自動変速機19とを直結するロックアップクラッチ20が設けられている。
【0017】
変速ユニット11には、更にオイルポンプ21と油圧制御機構22とが設けられている。オイルポンプ21で発生した油圧は、油圧制御機構22を介して、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、自動変速機19、およびロックアップクラッチ20にそれぞれ供給されている。油圧制御機構22には、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、自動変速機19、及びロックアップクラッチ20のそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁と、が設けられている。
【0018】
ハイブリッド車両1には、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)50が設けられている。ECU50は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU50は、ハイブリッド車両の制御装置の一例であり、クランキング制御部、始動判定部、およびエンスト判定部として機能する。
【0019】
ECU50は、エンジン10およびモータ15の駆動を制御する。例えばECU50は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10のトルクや回転数を制御する。またECU50は、油圧制御機構22の制御を通じて、K0クラッチ14やロックアップクラッチ20、自動変速機19の駆動制御を行う。ECU50は、油圧制御機構22を用いてK0クラッチ14に加わる油圧を制御し、K0クラッチ14の状態を変化させることで、モータ15からエンジン10に伝わるクランキングトルクを制御する。
【0020】
ECU50は、インバータ17を制御して、モータ15とバッテリ16との間での電力の授受量を調整することで、モータ15の回転数やトルクを制御する。また詳しくは後述するがECU50は、回生運転でのモータ制動トルクが目標値となるように、インバータ17がモータ15からバッテリ16へ供給される電力を制御する。
【0021】
ECU50には、イグニッションスイッチ71、クランク角センサ72、モータ回転数センサ73、エアフローメータ74、およびアクセル開度センサ75からの信号が入力される。クランク角センサ72は、エンジン10のクランク軸33の回転速度を検出する。モータ回転数センサ73は、モータ15の出力軸の回転速度を検出する。エアフローメータ74はエンジン10の吸入空気量を検出する。アクセル開度センサ75は、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度を検出する。
【0022】
ECU50は、モータモードおよびハイブリッドモードのいずれかの走行モードでハイブリッド車両を走行させる。モータモードでは、ECU50はK0クラッチ14を解放し、モータ15の動力により走行する。ハイブリッドモードでは、ECU50はK0クラッチ14を係合して少なくともエンジン10の動力により走行する。なお、ハイブリッドモードでは、エンジン10のみの動力で走行するモード、モータ15を力行運転させてエンジン10およびモータ15の双方を動力源として走行するモードを含む。
【0023】
走行モードの切り替えは、車速やアクセル開度から求められた車両の要求駆動力と、バッテリ16の充電状態などに基づいて行われる。例えば、要求駆動力が比較的小さくバッテリ16の蓄電残量を示すSOC(State Of Charge)が比較的高い場合には、燃費を向上させるためにエンジン10を停止したモータモードが選択される。要求駆動力が比較的大きい場合やバッテリ16のSOCが比較的低い場合には、少なくともエンジン10が駆動したハイブリッドモードが選択される。
【0024】
ECU50は、ハイブリッドモードにおいて、所定の停止条件が成立した場合にエンジン10を自動停止させ、所定の再始動条件が成立した場合に自動停止したエンジン10を再始動させる間欠運転制御を実行する。例えばECU50は、ハイブリッドモードにおいてアクセル開度がゼロになった場合に、自動停止条件が成立したものとしてエンジン10を自動停止させる。また、ECU50は、アクセル開度がゼロよりも大きくなった場合に、再始動条件が成立したものとしてエンジン10を自動で再始動させる。エンジン10を自動停止させる際には、ECU50はK0クラッチ14を解放して燃料噴射を停止する。エンジン10を自動で再始動させる際には、ECU50はK0クラッチ14を介してモータ15によりエンジン10をクランキングして燃料噴射および点火を開始し、その後にK0クラッチ14を係合させる。
【0025】
(エンジン)
図2はエンジン10の概略構成図であり、エンジン10の複数の気筒のうち1つの気筒♯1を図示している。エンジン10は、ピストン31、コネクティングロッド32、クランク軸33、吸気通路35、吸気バルブ36、排気通路37、および排気バルブ38を有している。気筒の内部では混合気の燃焼が行われる。ピストン31は、気筒♯1に往復動可能に収容され、エンジン10の出力軸であるクランク軸33にコネクティングロッド32を介して連結されている。コネクティングロッド32及びクランク軸33は、ピストン31の往復運動をクランク軸33の回転運動に変換する。
【0026】
吸気通路35は、気筒♯1の吸気ポート35pに吸気バルブ36を介して接続されている。排気通路37は、気筒♯1の排気ポート37pに排気バルブ38を介して接続されている。吸気通路35には、上述したエアフローメータ74、および吸入空気量を調整するスロットル弁40が設けられている。排気通路37には排気浄化用の触媒43が設けられている。
【0027】
気筒♯1には筒内噴射弁41が設けられている。筒内噴射弁41は気筒♯1内に直接燃料を噴射する。筒内噴射弁41に加えて、または筒内噴射弁41の代わりに、吸気ポートに向けて燃料を噴射するポート噴射弁が設けられていてもよい。気筒♯1には、吸気通路35を通じて導入された吸気と筒内噴射弁41が噴射した燃料との混合気を火花放電により点火する点火装置42が設けられている。エンジン10の他の気筒も同様の構成を有する。
【0028】
上記のように、モータ15のトルクをエンジン10のクランク軸33に伝達し、クランキングを行うことで、エンジン10を始動させる。しかし、クランキングトルクの不足により、エンジン10の始動が失敗することがある。
【0029】
クランキングを行うと、クランク軸33が回転し、クランク軸33に連結されたピストン31が気筒内で移動する。ピストン31が気筒内で上側に移動し、気筒内の空気が圧縮される。すなわち、ピストン31は、上死点(TDC:Top Dead Center)から遠い位置に比べてTDCに近い位置において高い圧力を受ける。ピストン31が高い圧力を受けることで、ピストン31がTDCを乗り越えられないことがある。この場合、エンジン10の始動は失敗する。本実施形態では、エンジン10の始動が失敗したか否か判定する。
【0030】
図3はECU50が実行する処理を例示するフローチャートであり、始動の判定処理を例示する。エンジン10の間欠始動の際などに図3の処理が行われる。
【0031】
ECU50は、エンジン10がエンスト(エンジンストール)しているか否か判定する(ステップS10)。ECU50は、クランク角センサ72からクランク軸33の回転速度を取得する。クランク軸33が停止している場合、ECU50はエンジン10がエンストしていると判定する(肯定判定、Yes)。クランク軸33が回転している場合、ECU50はエンジン10がエンストしていないと判定する(否定判定、No)。
【0032】
ステップS10で肯定判定の場合、ECU50は、クランク軸33の移動量に対する閾値C2をC2A(第1の値)とする(ステップS12)。ステップS10で否定判定の場合、ECU50は、クランク軸33の移動量に対する閾値C2をC2B(第2の値)とする(ステップS14)。
【0033】
ECU50は、クランキングによるクランク軸33の移動量C1がC2以上であるか否か判定する(ステップS16)。否定判定の場合、図3の処理は終了する。肯定判定の場合、ピストン31が上死点近く(後述のクランク角C3)まで移動している。このとき、ECU50は、クランク軸33の停止時間(クランク停止時間)が所定時間以上であるか否か判定する(ステップS18)。否定判定の場合、ECU50はクランク軸33が逆回転したか否か判定する(ステップS20)。
【0034】
ステップS20で否定判定の場合、ECU50はエンジン10の始動が成功したと判定する(ステップS22)。ステップS18およびS20の少なくとも一方で肯定判定の場合、ECU50はエンジン10の始動が失敗したと判定する(ステップS24)。ステップS22およびS24の後、処理は終了する。
【0035】
図4(a)はクランク角を例示する図である。横軸は時間を表す。縦軸はクランク角を表す。クランキングを行うことで、クランク軸33が回転し、クランク角は上死点(TDC)に向けて変化する。クランク軸33の移動量C1がC2以上になることで(図3のステップS16)、クランク角は図4(a)のC3になる。クランク角がC3になると、ピストン31はTDCに近づく。気筒内の空気がピストン31によって圧縮されることで、ピストン31は上死点に近い位置において遠い位置に比べて高い圧力を受ける。
【0036】
クランキングトルクが不足していると、ピストン31はTDCを乗り越えることができない。図4(a)の破線に示すようにクランク軸33が停止することがある(ステップS18で肯定判定)。一点鎖線に示すように、クランキングの方向に対してクランク軸33が逆回転することもある(ステップS20で肯定判定)。これらの場合においてECU50は、エンジン10の始動を失敗と判定する(ステップS24)。
【0037】
クランキングトルクがエンジン10の始動のために十分高い場合、ピストン31は圧力に打ち勝ち、TDCを乗り越えることができる。図4(a)の実線に示すように、クランク軸33がC3からさらに上昇し、0°から720°の間で周期的に変化する。ECU50はエンジン10の始動が成功したと判定する(ステップS22)。
【0038】
ところで、エンストでない場合(非エンスト時)の気筒内の空気量は、エンスト時における気筒内の空気量よりも多い。このため、ピストン31の位置(クランク角)が同一ならば、非エンスト時にピストン31が受ける圧力は、エンスト時にピストン31が受ける圧力よりも高い。このため、クランク軸33のクランキングを実施したとき、ピストン31がTDCを乗り越えられずに停止または逆回転を開始する位置(図4(a)のC3)が、エンスト時と非エンスト時とでは変わる。非エンスト時では空気量が多く、圧力が高いため、エンスト時に比べてTDCから遠い位置でピストン31が停止、または逆回転しやすい。エンスト時では、非エンスト時に比べて、TDCに近い位置でピストン31が停止するか、逆回転を始める。
【0039】
そこで、エンスト時におけるクランク角の移動量に対する閾値C2を、非エンスト時の閾値とは異なる大きさとする。エンスト時の閾値C2はC2Aである(図3のステップS12)。非エンスト時の閾値C2はC2Bである(ステップS14)。
【0040】
図4(b)はクランク角の移動量に対する閾値C2を例示する図である。横軸は、クランキング開始時点における1つの気筒のピストン31の位置(ピストン位置)を表す。横軸において左側はTDC(上死点)に近い位置であり、右側はTDCから遠い位置である。縦軸は閾値C2を表す。実線はエンスト時の閾値C2(C2A)を表す。破線は非エンスト時の閾値C2(C2B)を表す。同一のピストン位置において、エンスト時の閾値C2Aは、非エンスト時の閾値C2Bより大きい。このため、エンスト時では非エンスト時に比べて図4(a)のクランク角C3がTDCに近くなる。
【0041】
図4(b)に示すように、ピストン位置に応じて閾値C2(C2AおよびC2B)は変化する。クランキング開始時点におけるピストン31の位置がTDCに近いほど、クランク角は図4(a)のクランク角C3に近い。ピストン31の位置がTDCから遠いほど、クランク角はクランク角C3から遠い。ピストン位置がTDCに近いほど閾値C2を小さくし、TDCから遠いほど閾値C2を大きくする。これにより、クランク角がC3になり、ピストン31はTDCに近づく。ピストン31が圧力を受けた状態で、エンジン10の始動判定を行うことができる。
【0042】
ピストン31が図4(b)のP1よりもTDCに近い場合、ピストン31はTDCを乗り越えやすい。このため、エンジン10の始動判定が適切に行われない恐れがある。1つの気筒においてピストン位置がP1よりもTDCに近い場合、別の気筒でのピストン位置はTDCから遠い。したがって、当該別の気筒においてピストン31がTDCを乗り越えたか否かに基づいて、エンジン10の始動判定を行うことが好ましい。
【0043】
図5はECUが実行する処理を例示するフローチャートであり、クランキングトルクの学習処理を例示する。
【0044】
ECU50は、エンジン10の始動失敗の判定がオンであったか判定する(ステップS30)。図3の処理で始動失敗(ステップS24)の結果だった場合、ステップS30で肯定判定である。肯定判定の場合、ECU50は失敗の回数を1回加算し、成功の回数を1回減算する(ステップS32)。
【0045】
ステップS30で否定判定の場合、エンジン10の始動失敗の判定がオフであったか判定する(ステップS34)。図3の処理で始動成功(ステップS22)の結果だった場合、ステップS34で肯定判定である。肯定判定の場合、ECU50は成功の回数を1回加算し、失敗の回数を1回減算する(ステップS36)。
【0046】
ECU50は、始動失敗の回数が閾値Fth以上であるか否か判定する(ステップS38)。肯定判定の場合、ECU50はクランキングトルクの学習値を増加させる(ステップS40)。
【0047】
ステップS38で否定判定の場合、ECU50は、始動成功の回数が閾値Sth以上であるか否か判定する(ステップS42)。肯定判定の場合、ECU50はクランキングトルクの学習値を減少させる(ステップS44)。
【0048】
ステップS30およびS34の両方で否定判定の場合、ならびにステップS40およびS44の後、処理は終了する。
【0049】
クランキングトルクの学習値の変化に応じて、ECU50はK0クラッチ14の油圧を調整し、エンジン10に伝達されるクランキングトルクを変化させる。学習値の増加に応じて、油圧も増加させ、クランキングトルクを上昇させる。学習値の減少に応じて、油圧も減少させ、クランキングトルクを低下させる。
【0050】
本実施形態によれば、ECU50は、モータ15によりエンジン10のクランキングを行い、エンジン10の始動を行う。クランキング後のクランク軸33の停止時間が所定時間以上、またはクランク軸33が逆回転した場合、ECU50はエンジン10の始動が失敗したと判定する(図3のステップS24)。停止時間が所定時間未満、かつクランク軸33が逆回転していない場合、ECU50はエンジンの始動が成功したと判定する(ステップS22)。実施形態によれば、クランキングによるエンジン10の始動が失敗したか否か判定することができる。
【0051】
エンジン10のクランキングを行い、クランク軸33の移動量C1が所定量C2以上である場合に(図3のステップS16で肯定判定)、始動が失敗したか否か判定する(ステップS18およびS20)。K0クラッチ14の異常などにより、クランキングトルクがクランク軸33に伝達されないことがある。この場合、クランキングトルクが始動に十分な大きさなのか判定することは困難である。実施形態によれば、移動量C1がC2以上であることにより、クランキングトルクがクランク軸33に伝達され、クランキングが実施されたことがわかる。クランキングの実施後にエンジン10の始動について判定を行うことで、クランキングトルクが始動に十分な大きさなのか判定することができる。
【0052】
図4(b)に示すように、クランキングの開始時におけるピストン31の位置に応じて、ECU50は閾値C2を変化させる。ピストン31の位置がTDCから遠いほど閾値C2は大きい。ピストン31の位置がTDCに近いほど閾値C2は小さい。クランキングによってクランク軸33を回転させ、ピストン31をTDCの近くまで移動させる。ピストン31がTDCに近い位置に移動したときに、ECU50はエンジン10の始動判定を行う。ピストン31がTDCの近くまで移動することで、ピストン31に加わる圧力が高くなる。クランキングトルクが不足している場合、ピストン31は圧力に打ち勝てず、TDCを乗り越えることができず、停止または逆回転する。クランキングトルクが十分である場合、ピストン31は圧力に打ち勝ち、TDCを乗り越えることができる。ピストン31がTDCを乗り越えるか否かに応じて、エンジン10の始動の成否を判定することができる。
【0053】
ECU50はエンジン10がエンストしているか否か判定する(図3のステップS10)。ECU50は、エンスト時にクランク角の移動量に対する閾値をC2Aとし、非エンスト時に閾値をC2Bとする(ステップS12およびS14)。C2BはC2Aより小さい。非エンスト時の気筒内の空気量は、エンスト時の空気量より多い。したがって非エンスト時にピストン31にかかる圧力はエンスト時の圧力より高い。エンスト時に閾値C2をC2Aとすることで、ピストン31はTDCに近い位置まで移動し、高い圧力がかかるようになる。始動判定の精度が向上する。
【0054】
図5に示すように、始動失敗判定の回数に応じてECU50はクランキングトルクを変化させる。失敗判定の回数が閾値Fth以上である場合、ECU50はクランキングトルクの学習値を増加させ、クランキングトルクを上昇させる。成功判定の回数が閾値Sth以上である場合、ECU50はクランキングトルクの学習値を減少させ、クランキングトルクを低下させる。クランキングトルクを適切な大きさとすることができる。
【0055】
上記の例では、単一のECU50によりハイブリッド車両1を制御する。実施形態はこれに限定されず、例えばエンジン10を制御するエンジンECU、モータ15を制御するモータECU、K0クラッチ14を制御するクラッチECUなど複数のECUによって上述の制御を実行してもよい。
【0056】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 ハイブリッド車両
10 エンジン
11 変速ユニット
12 ディファレンシャルギヤ
13 車輪
14 K0クラッチ
15 モータ
16 バッテリ
17 インバータ
18 トルクコンバータ
19 自動変速機
20 ロックアップクラッチ
21 オイルポンプ
22 油圧制御機構
31 ピストン
32 コネクティングロッド
33 クランク軸
35 吸気通路
35p 吸気ポート
36 吸気バルブ
37 排気通路
37p 排気ポート
38 排気バルブ
40 スロットル弁
41 筒内噴射弁
42 点火装置
43 触媒
50 ECU
71 イグニッションスイッチ
72 クランク角センサ
73 モータ回転数センサ
74 エアフローメータ
75 アクセル開度センサ
図1
図2
図3
図4
図5