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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20250701BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20250701BHJP
   B60K 6/50 20071001ALI20250701BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20250701BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/54 ZHV
B60K6/50
B60K6/442
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022067237
(22)【出願日】2022-04-14
(65)【公開番号】P2023157364
(43)【公開日】2023-10-26
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 靖司
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-104637(JP,A)
【文献】特開2013-147099(JP,A)
【文献】特開2009-257403(JP,A)
【文献】特開2021-32270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 20/50
B60K 6/20 - 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンに動力伝達可能に連結された第1電動機と、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられたトルクコンバータと、前記トルクコンバータと前記駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機と、を備えたハイブリッド車両、の制御装置であって、
運転者によるアクセル操作時における、前記エンジンのエンジン回転速度と前記トルクコンバータのタービン回転速度との回転速度差が、予め設定されている閾値以上である場合、前記第1電動機で回生して前記エンジン回転速度の上昇を抑えるとともに、前記第2電動機からアクセル操作量に応じた駆動量を発生させる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
車速が予め設定されている高車速閾値以上の高車速領域を走行中に、運転者によるアクセル操作が為された場合、前記第1電動機を力行させて前記エンジン回転速度を予め設定されている所定回転速度以上に上昇させる
ことを特徴とする請求項1のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに動力伝達可能に連結された第1電動機と、エンジンの下流側に設けられたトルクコンバータと、を有するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに動力伝達可能に連結された第1電動機と、エンジンの下流側に設けられたトルクコンバータと、を有するハイブリッド車両が提案されている。特許文献1には、エンジンの下流側に設けられたトルクコンバータの一態様が記されている。具体的には、特許文献1には、ポンプ翼車とタービン翼車との間を直結するロックアップクラッチを有するトルクコンバータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-299715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなトルクコンバータを有するハイブリッド車両において、ロックアップクラッチが解放された状態で走行中に、運転者によるアクセル操作が為されたとき、エンジン回転速度の吹け上がりが大きくなる一方で、駆動輪側に伝達される駆動量が不足し、エンジン音の音変化と実際の車両加速度とが一致せず、運転者に違和感を与える可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、トルクコンバータを備えたハイブリッド車両において、アクセル操作に伴うエンジン回転速度の上昇時の音変化と実際の車両加速度とを一致させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンに動力伝達可能に連結された第1電動機と、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられたトルクコンバータと、前記トルクコンバータと前記駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機と、を備えたハイブリッド車両、の制御装置であって、(b)運転者によるアクセル操作時における、前記エンジンのエンジン回転速度と前記トルクコンバータのタービン回転速度との回転速度差が、予め設定されている閾値以上である場合、前記第1電動機で回生して前記エンジン回転速度の上昇を抑えるとともに、前記第2電動機からアクセル操作量に応じた駆動量を発生させることを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、車速が予め設定されている高車速閾値以上の高車速領域を走行中に、運転者によるアクセル操作が為された場合、前記第1電動機を力行させて前記エンジン回転速度を予め設定されている所定回転速度以上に上昇させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、運転者のアクセル操作時おけるエンジン回転速度とタービン回転速度との回転速度差が閾値以上になると、第1電動機の回生によってエンジン回転速度の上昇が抑えられ、さらに、第2電動機からアクセル操作量に応じた駆動量が発生させられるため、エンジン回転速度の上昇時における音変化に一致した車両加速度を発生させることができる。
【0009】
第2発明によれば、高車速領域を走行中に、アクセル操作が為された場合には、第1電動機を力行させてエンジン回転速度を所定回転速度まで上昇させることで、エンジンのトルク応答性を高くし、アクセル操作量に応じた車両加速度を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が適用されたハイブリッド車両の概略構成を説明する図であると共に、ハイブリッド車両における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を説明する図である。
図2図1の電子制御装置の制御作動を説明するためのフローチャートである。
図3図1の電子制御装置の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。
図4】本発明の他の実施例に対応する、ハイブリッド車両を制御する電子制御装置の制御機能を説明するための機能ブロック線図である。
図5図4の電子制御装置の制御作動を説明するためのフローチャートである。
図6図4の電子制御装置の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。
図7】本発明のさらに他の実施例に対応する、ハイブリッド車両を制御する電子制御装置の制御機能を説明する機能ブロック線図である。
図8図7の電子制御装置の制御作動を説明するためのフローチャートである。
図9図7の電子制御装置の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両10の概略構成を説明する図であると共に、ハイブリッド車両10における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を説明する図である。図1において、ハイブリッド車両10(以下、車両10)は、走行用の駆動力源である、エンジン12および電動機(第1電動機MG1、第2電動機MG2)を備えたハイブリッド車両である。車両10は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16を備えている。
【0013】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0014】
エンジン12には、伝動ベルト46を介してエンジン連結電動機MG3が動力伝達可能に連結されている。エンジン連結電動機MG3は、例えばエンジン始動時に、エンジン始動用のトルクを発生させる。なお、エンジン連結電動機MG3が、本発明の第1電動機に対応している。
【0015】
第1電動機MG1、第2電動機MG2、エンジン連結電動機MG3(以下、これらを纏めて各電動機MG)は、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。各電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。各電動機MGは、後述する電子制御装置100によってインバータ52が制御されることにより、各電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば各電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。例えば、各電動機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生させる。また、各電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。各電動機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、各電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。以下、第1電動機MG1から出力されるトルクをMG1トルクTm1、第2電動機MG2から出力されるトルクをMG2トルクTm2、エンジン連結電動機MG3から出力されるトルクをMG3トルクTm3、とそれぞれ称する。
【0016】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と第1電動機MG1との間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に接続されている。
【0017】
自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたデファレンシャルギヤ30、デファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。また、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0018】
第1電動機MG1は、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に接続されており、また、K0クラッチ20を介してエンジン12に動力伝達可能に接続されている。第1電動機MG1は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、第1電動機MG1は、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、第1電動機MG1と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、エンジン12および第1電動機MG1の駆動力源の各々からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0019】
トルクコンバータ22は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路上に設けられている。トルクコンバータ22は、電動機連結軸36に連結されたポンプ翼車22aと、自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38に連結されたタービン翼車22bと、を備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に第1電動機MG1と連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。電動機連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、駆動力源(エンジン12、第1電動機MG1)の各々からの駆動力を流体を介して変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するロックアップクラッチ40を備えている。ロックアップクラッチ40(以下、LUクラッチ40)は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を断接する公知の直結クラッチである。
【0020】
LUクラッチ40は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が解放された状態である完全解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、およびLUクラッチ40が滑りなく係合された状態である完全係合状態がある。
【0021】
自動変速機24は、例えば不図示の1組または複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0022】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置100によって、ドライバ(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。また、AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0023】
K0クラッチ20は、図示しない油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式または乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、後述する電子制御装置100により油圧アクチュエータの作動状態が制御されることによって、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。K0クラッチ20において、油圧制御回路56から調圧されたK0油圧PRk0が油圧アクチュエータに供給されると、K0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、K0クラッチ20の制御状態が切り替えられる。
【0024】
K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介してポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。すなわち、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と駆動輪14とを動力伝達可能に連結する。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とポンプ翼車22aとの間の動力伝達が遮断される。すなわち、K0クラッチ20は、解放されることによってエンジン12と駆動輪14との間の連結を切り離す。第1電動機MG1はポンプ翼車22aに連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12と第1電動機MG1との間の動力伝達経路に設けられて、その動力伝達経路を断接するクラッチ、すなわちエンジン12と第1電動機MG1とを断接するクラッチとして機能する。つまり、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と第1電動機MG1とを連結する一方で、解放されることによってエンジン12と第1電動機MG1との間の連結を切り離す断接用クラッチである。
【0025】
動力伝達装置16において、K0クラッチ20が係合された場合でのエンジン12から出力される動力は、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、デファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、第1電動機MG1から出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、デファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0026】
第2電動機MG2は、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に動力伝達可能に接続されている。詳細には、第2電動機MG2は、ケース18内において、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路を構成する変速機出力軸26に、動力伝達可能に接続されている。これより、第2電動機MG2から出力される動力は、変速機出力軸26、プロペラシャフト28、デファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0027】
車両10は、機械式オイルポンプ58、電動式の電動オイルポンプ60、ポンプ用モータ62等を備えている。機械式オイルポンプ58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、第1電動機MG1)により駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油を吐出する。ポンプ用モータ62は、電動オイルポンプ60を駆動させるための専用のモータである。電動オイルポンプ60は、ポンプ用モータ62により駆動させられて作動油を吐出する。機械式オイルポンプ58や電動オイルポンプ60が吐出した作動油は、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、機械式オイルポンプ58および電動オイルポンプ60の少なくとも一方が吐出した作動油を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを供給する。
【0028】
車両10は、更に、車両10の走行制御などに関連する制御装置を含む電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0029】
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG1回転速度センサ76、MG2回転速度センサ78、MG3回転速度センサ80、アクセル開度センサ82、スロットル弁開度センサ84、ブレーキスイッチ86、バッテリセンサ88、油温センサ90、加速度センサ92)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、第1電動機MG1のMG1回転速度Nm1、第2電動機MG2のMG2回転速度Nm2、エンジン連結電動機MG3のMG3回転速度Nm3、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させるためのブレーキペダルがドライバによって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoil、車両加速度Gなど)が、それぞれ供給される。
【0030】
電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se、各電動機MGを制御するためのMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御するためのCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御指令信号Sko、LUクラッチ40を制御するためのLU油圧制御指令信号Slu、電動オイルポンプ60を制御するための電動オイルポンプ制御指令信号Sopなど)が、それぞれ出力される。
【0031】
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現するために、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部102、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部104、および変速制御手段すなわち変速制御部106を備えている。
【0032】
ハイブリッド制御部102は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部102aとしての機能と、インバータ52を介して各電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部102bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12および各電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0033】
ハイブリッド制御部102は、例えば要求駆動量マップにアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで、ドライバによる車両10に対する要求駆動量を算出する。前記要求駆動量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記要求駆動量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記要求駆動量として、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記要求駆動量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。ここで、要求駆動トルクTrdemは、自動変速機24の変速機出力軸26に伝達される、エンジントルクTeおよび各電動機MGのMGトルクTmの合算トルクと見ることもできる。以下では、便宜上、要求駆動トルクTrdemを、変速機出力軸26に伝達されるトルクとして説明する。
【0034】
ハイブリッド制御部102は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、各電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときの各電動機MGのMG回転速度Nm(Nm1、Nm2、Nm3)における各MGトルクTm(Tm1、Tm2、Tm3)を出力する各電動機MGの消費電力Wm(Wm1、Wm2、Wm3)の指令値である。
【0035】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbatおよびバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて求められる。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態(充電量、充電残量)を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置100により算出される。
【0036】
ハイブリッド制御部102は、各電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=BEV走行)モードとする。ハイブリッド制御部102は、BEV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態で、第1電動機MG1および第2電動機MG2の少なくとも一方を駆動力源として走行するBEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部102は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(以下、HEV走行)モードとする。ハイブリッド制御部102は、ハイブリッド走行モード(以下、HEV走行モード)では、K0クラッチ20の係合状態でエンジン12および各電動機MGを駆動力源として走行するエンジン走行すなわちHEV走行を行う。
【0037】
また、ハイブリッド制御部102は、第1電動機MG1および第2電動機MG2の出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断するための予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部102は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを適宜切り替える。
【0038】
クラッチ制御部104は、走行中の走行モードに応じてK0クラッチ20を制御する。クラッチ制御部104は、例えばK0クラッチ20が解放された状態でのBEV走行中にHEV走行モードへの切替が判断されると、エンジン12の動力がK0クラッチ20を経由して駆動輪14側に伝達されるようにK0クラッチ20の係合制御を行う。
【0039】
変速制御部106は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行するためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速Vおよびアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断されるための変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、また、アクセル開度θaccに替えて、要求駆動トルクTrdemや要求駆動力Frdemやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0040】
ところで、エンジン12が駆動されるHEV走行モード、且つ、LUクラッチ40が解放された状態での走行中に、運転者によってアクセルペダルが大きく踏み込まれたとき、車速V等の走行条件によっては、エンジン回転速度Neの吹け上がりが大きくなる一方で、エンジントルクTeがエンジン回転速度の上昇に使われるために駆動輪14側へ伝達されるエンジントルクTeが不足することがある。このとき、エンジン回転速度Neの上昇に伴うエンジン音と実際の車両加速度G(前後加速度)とが一致せず、運転者に違和感を与える虞がある。このような状況を防止するため、電子制御装置100は、エンジン回転速度Neの吹け上がりが大きくなったときには、エンジン連結電動機MG3で回生してエンジン回転速度Neの上昇(具体的には上昇勾配)を抑えるとともに、第2電動機MG2からアクセル操作量に相当するアクセル開度θaccに応じた駆動トルクTr(駆動量)を発生させる制御機能を備えている。
【0041】
電子制御装置100は、上記制御を実行するための、ロックアップ判定手段としてのロックアップ判定部108、および、吹け上がり量判定手段としての吹け上がり量判定部110を、機能的に備えている。
【0042】
ロックアップ判定部108は、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれると、LUクラッチ40が解放されているか否かを判定する。ロックアップ判定部108は、例えばエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの回転速度差D(=|Ne-Nt|)が、ゼロよりも大きい所定値以上である場合、LUクラッチ40が解放されているものと判定する。前記所定値は、LUクラッチ40が解放状態にあると判断できる閾値に設定されている。または、ロックアップ判定部108は、LUクラッチ40を解放させるLU油圧制御指令信号Sluが出力されているか否かに基づいて、LUクラッチ40の解放を判定することもできる。または、ロックアップ判定部108は、LUクラッチ40の係合側油室の油圧Ponと解放側油室の油圧Poffとの差圧(=Pon-Poff)を検出し、その差圧がLUクラッチ40が解放状態と見なせるゼロ近傍の閾値未満であった場合、LUクラッチ40が解放されていると判定することもできる。
【0043】
吹け上がり量判定部110は、LUクラッチ40が解放されていると判定されると、運転者によるアクセルペダルの踏込に伴うエンジン回転速度Neの吹け上がり量Kが、予め設定されている閾値α以上であるか否かを判定する。ここで、エンジン回転速度の吹け上がり量Kは、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの回転速度差D(=|Ne-Nt|)で定義される。または、エンジン回転速度Neの吹け上がり量Kを、エンジン回転速度Neの上昇率ΔNe(上昇勾配)で定義することもできる。なお、エンジン回転速度Neの上昇率ΔNeは、例えば、随時検出されるエンジン回転速度Neを時間微分することで求められる。前記閾値αは、予め実験的または設計的に求められ、例えば、エンジン回転速度Neの上昇時に発生するエンジン音に対する実際の車両加速度Gが、運転者が違和感を感じない許容範囲の閾値に設定されている。
【0044】
ここで、LUクラッチ40が解放されていると判定され、且つ、エンジン回転速度Neの吹け上がり量K(回転速度差D)が閾値α以上と判定された場合、ハイブリッド制御部102は、エンジン連結電動機MG3による回生を実行することで、エンジン回転速度Neの上昇を抑える制御を実行する。ハイブリッド制御部102は、例えば、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの回転速度差D(またはエンジン回転速度Neの上昇率ΔNe)が、閾値αよりも小さい所定値β以下となるように、エンジン連結電動機MG3の回生量を制御する。これより、エンジン回転速度Neの過度な吹け上がりが抑制される。
【0045】
一方で、エンジン回転速度Neの上昇が抑えられることでエンジントルクTeが減少するため、運転者の所望する車両加速度Gよりも実際の車両加速度Gが小さくなり、運転者に違和感を与える虞がある。これに対して、ハイブリッド制御部102は、エンジン連結電動機MG3の回生に伴うエンジントルクTeの減少分を補うように、第2電動機MG2からアシストトルクTastを発生させる。アシストトルクTastは、現時点で第2電動機MG2から出力されているMG2トルクTm2に対して加算される。アシストトルクTastは、例えば、エンジン連結電動機MG3の回生量、トルクコンバータ22の特性、および自動変速機24の変速比γat等に基づいて随時算出され、エンジン連結電動機MG3の回生による、要求駆動トルクTrdemと実際の駆動トルクTrとの差分(=|Trdem-Tr|)が補われる値とされる。
【0046】
例えば、エンジン連結電動機MG3の回生量、アクセル開度θacc、車速V、トルクコンバータ22のトルク比、自動変速機24の変速比γat等から構成される、アシストトルクTastを求めるための関係マップが予め求められて記憶されている。ハイブリッド制御部102は、エンジン連結電動機MG3による回生制御が実行されると、上記関係マップに実際の各値を適用することで、アシストトルクTastを算出する。次いで、ハイブリッド制御部102は、アシストトルクTastを算出すると、第2電動機MG2からアシストトルクTastが加算されたMG2トルクTm2を出力させる。その結果、エンジン回転速度Neの上昇に伴うエンジン音と実際の車両加速度Gとが一致し、運転者に違和感を与えない上質な加速性能を実現することができる。
【0047】
図2は、電子制御装置100の制御作動を説明するためのフローチャートであり、エンジン回転速度Neの過度な吹け上がりを抑制しつつ運転者の所望する車両加速度Gを実現することができる制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、HEV走行モードで走行中において、アクセルペダルが踏み込まれる毎に繰り返し実行される。
【0048】
先ず、ロックアップ判定部108の制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略)S10において、LUクラッチ40が解放されているか否かが判定される。S10の判定が否定された場合、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するS40において、第2電動機MG2からLUクラッチ40の係合時のMG2トルクTm2が出力される。一方、S10の判定が肯定された場合、吹け上がり量判定部110の制御機能に対応するS20において、エンジン回転速度Neの吹け上がり量Kが閾値α以上になったか否かが判定される。S20の判定が否定された場合、S40において、第2電動機MG2から通常時のMG2トルクTm2が出力される。S20の判定が肯定された場合、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するS30において、エンジン回転速度Neの過度な吹け上がりが抑えられるように、エンジン連結電動機MG3による回生制御が実行される。さらに、エンジン連結電動機MG3の回生に伴って発生する、エンジントルクTeの減少分を加味したアシストトルクTastが出力されるように、第2電動機MG2のMG2トルクTm2が制御される。
【0049】
図3は、電子制御装置100の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。図3において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が上から順番に、アクセル開度θacc[%]、第2電動機MG2のMG2トルクTm2[Nm]、エンジン連結電動機MG3のMG3トルクTm3[Nm]、エンジン回転速度Ne[rpm]およびタービン回転速度Nt[rpm]、車両加速度G[m/s2]を、それぞれ示している。また、図3において、紙面左側が従来の制御作動に基づく車両挙動を示し、紙面右側が本実施例の制御作動に基づく車両挙動を示している。
【0050】
先ず、比較対象としての紙面左側に示す従来の車両挙動について説明する。図3の紙面左側のt1時点において、アクセルペダルの踏込が開始されている。アクセルペダルの踏込に伴い、t1時点以降において、アクセル開度θaccが時間経過とともに増加している。また、t1時点以降において、第2電動機MG2から、アクセル開度θaccに応じたMG2トルクTm2(アシストトルク)が出力されている。さらに、t1時点以降において、アクセル開度θaccに増加に伴ってエンジン回転速度Neが上昇している。ここで、実線で示すエンジン回転速度Neが速やかに上昇するのに対して、破線で示すタービン回転速度Ntが遅れて上昇し、エンジン回転速度Neの吹け上がり量Kに相当する回転速度差D(=|Ne-Nt|)が増加し、回転速度差Dが閾値α以上になる。このとき、エンジン回転に伴うエンジン音に対する車両加速度Gが、実線で示すように、破線で示すエンジン音に応じた車両加速度Gよりも小さくなる。従って、エンジン音と車両加速度Gとが一致しない。
【0051】
次に、紙面右側に示す、本実施例の制御作動に基づく車両挙動について説明する。図3の紙面右側のt1時点において、アクセルペダルの踏込が開始されている。アクセルペダルの踏込に伴って、t1時点以降において、アクセル開度θaccが時間経過とともに増加している。本実施例では、t1時点以降において、エンジン回転速度Neの吹け上がり量Kが所定値β以下となるように、エンジン連結電動機MG3の回生制御が実行され、エンジン連結電動機MG3から回生トルク(負トルク)であるMG3トルクTm3が出力されている。これより、エンジン回転速度Neの上昇が抑えられ、エンジン回転速度Neがアクセル開度θaccの増加に比例するようにして直線的に上昇している。また、タービン回転速度Ntは、エンジン回転速度Neの上昇に追従するようにして上昇している。一方で、エンジン連結電動機MG3の回生制御によるエンジントルクTeの減少分を補うように、第2電動機MG2からアシストトルクTastが加算されたMG2トルクTm2が出力されている。その結果、アクセル開度θaccの増加に比例して車両加速度Gが増加し、エンジン回転に伴うエンジン音の変化と車両加速度Gとが一致することとなる。
【0052】
上述のように、本実施例によれば、運転者のアクセル操作時おけるエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの回転速度差Dが閾値α以上になると、エンジン連結電動機MG3の回生によってエンジン回転速度Neの上昇が抑えられ、さらに、第2電動機MG2からアクセル開度θaccに応じたアシストトルクTastが発生させられるため、エンジン回転速度Neの上昇時における音変化に一致した車両加速度Gを発生させることができる。
【0053】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0054】
前述の実施例1では、車速域に拘わらず、エンジン回転速度Neの吹け上がり量Kが閾値α以上になると上述した制御が実行されるものであった。ところで、車速Vが高車速域になると暗騒音が高くなるため、エンジン回転速度Neを上昇させても運転者がそれによる変化を感知しにくくなる。本実施例では、上記を考慮し、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれると、エンジン回転速度Neをエンジン12のトルク応答性のよい領域まで引き上げることで、アクセル開度θaccの増加に応じたエンジントルクTeを発生させる。
【0055】
図4は、本発明の他の実施例に対応する、ハイブリッド車両を制御する電子制御装置200の制御機能を説明するための機能ブロック線図である。なお、ハイブリッド車両の構造および電子制御装置200に入力される信号等については、前述した実施例1と変わらないため省略されている。以下、本実施例の要部となる電子制御装置200の制御機能について説明する。
【0056】
電子制御装置200は、車両における各種制御を実現するために、ハイブリッド制御部202、クラッチ制御部104、変速制御部106、ロックアップ判定部108、および高車速域判定部210を機能的に備えている。なお、クラッチ制御部104、変速制御部106、およびロックアップ判定部108は、前述の実施例と変わらないため、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0057】
ハイブリッド制御部202は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御部202a、および、各電動機MGの作動を制御する電動機制御部202bを、含んでいる。ハイブリッド制御部202は、それらの制御機能によりエンジン12および各電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。エンジン制御部202aおよび電動機制御部202bの制御作動については、前述した実施例1のエンジン制御部102aおよび電動機制御部102bと基本的に変わらないため、その説明を省略する。
【0058】
高車速域判定部210は、アクセルペダルが踏み込まれると、現時点の車速Vが予め設定されている高車速閾値Vα以上であるか否かを判定する。高車速閾値Vαは、予め実験的または設計的に求められ、走行中の暗騒音によってエンジン回転速度Neの上昇に伴うエンジン音の変化や振動が運転者に伝わりにくくなる高車速領域の閾値に設定されている。従って、車速Vが高車速閾値Vα以上であった場合、高車速域を走行中であるものと判断される。
【0059】
ハイブリッド制御部202は、ロックアップ判定部108に基づいてLUクラッチ40の解放が判定されるとともに、高車速域判定部210に基づいて高車速領域を走行中であると判断されると、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれたときには、エンジン連結電動機MG3を力行(駆動)させ、エンジン回転速度Neをエンジン12のトルク応答性のよい所定回転速度Ne1以上に速やかに上昇させる。前記所定回転速度Ne1は、予め実験的または設計的に求められ、エンジン12の特性等に基づいて定められる。このとき、エンジン回転速度Neの上昇に伴うエンジン音が大きくなるが、高車速領域を走行中であるため、エンジン音の変化が暗騒音によって掻き消され、運転者はエンジン音の変化を殆ど感じない。また、エンジン回転速度Neが所定回転速度Ne1以上に上昇することで、エンジンのトルク応答性が高くなり、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを発生させることができる。
【0060】
図5は、電子制御装置200の制御作動を説明するためのフローチャートであり、高車速領域においてアクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを実現することができる制御機能を説明するフローチャートである。このフローチャートは、HEV走行モードで走行中において、アクセルペダルが踏み込まれる毎に繰り返し実行される。
【0061】
先ず、ロックアップ判定部108の制御機能に対応するS100において、LUクラッチ40が解放されているか否かが判定される。S100の判定が否定された場合、ハイブリッド制御部202の制御機能に対応するS130において、通常時の制御が実行される。S100の判定が肯定された場合、高車速域判定部210の制御機能に対応するS110において、車速Vが高車速閾値Vα以上であるか否かが判定される。S110の判定が否定された場合、S130において、車速Vが高車速閾値Vα未満で実行される制御が実行される。例えば、前述した実施例1の制御が実行される。S110の判定が肯定された場合、ハイブリッド制御部202の制御機能に対応するS120において、エンジン連結電動機MG3によって、エンジン回転速度Neが所定回転速度Ne1まで速やかに上昇させられる。その結果、エンジン12のトルク応答性が高くなり、アクセル開度θaccに応じたエンジントルクTeを発生させ、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを発生させることができる。
【0062】
図6は、電子制御装置200の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。図6において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が上から順番に、アクセル開度θacc[%]、第2電動機MG2のMG2トルクTm2[Nm]、エンジン連結電動機MG3のMG3トルクTm3[Nm]、エンジン回転速度Ne[rpm]およびタービン回転速度Nt[rpm]、エンジントルクTe[Nm]、車両加速度G[m/s2]を、それぞれ示している。また、図6において、紙面左側が従来の制御作動に基づく車両挙動を示し、紙面右側が本実施例の制御作動に基づく車両挙動を示している。
【0063】
先ず、比較対象としての紙面左側に示す従来の車両挙動について説明する。図6の紙面左側のt1時点において、アクセルペダルの踏込が開始されている。アクセルペダルの踏込に伴って、t1時点以降において、アクセル開度θaccが時間経過とともに直線的に増加している。また、t1時点以降において、第2電動機MG2から、アクセル開度θaccに応じたMG2トルクTm2(アシストトルク)が出力されている。さらに、t1時点以降において、アクセル開度θaccの増加に伴って、エンジン回転速度Neが実線で示すように上昇し、タービン回転速度Ntがエンジン回転速度Neに対して遅れて上昇している。ここで、エンジン12がトルク応答性の低い領域で運転されていると、実線で示すエンジントルクTeが、破線で示すトルク応答性が高い場合のエンジントルクTeに対して遅れを伴って出力されている。これに伴い、車両加速度Gが、実線で示すように、破線で示すエンジン12のトルク応答性が高い場合に比べて小さくなっている。その結果、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gが得られなくなる。
【0064】
次に、紙面右側に示す、本実施例の制御作動に基づく車両挙動について説明する。図6の紙面右側のt1時点において、アクセルペダルの踏込が開始されている。アクセルペダルの踏込に伴って、t1時点以降において、アクセル開度θaccが時間経過とともに増加している。また、t1時点以降、第2電動機MG2から、アクセル開度θaccに応じたMG2トルクTm2(アシストトルク)が出力されている。
【0065】
本実施例では、エンジン回転速度Neが速やかに所定回転速度Ne1まで上昇するように、t1時点以降において、エンジン連結電動機MG3からエンジン回転速度上昇用のMG3トルクTm3が出力される。これに伴い、エンジン回転速度Neが、実線で示すように、破線で示すMG3トルクTm3が出力されない場合に比べて高い回転速度(すなわち所定回転速度Ne1)に制御されている。その結果、エンジン12のトルク応答性が高くなることで、実線で示すエンジントルクTeがt1時点からアクセル開度θaccに追従するようにして増加している。これに関連して、車両加速度Gについてもt1時点からアクセル開度θaccに追従するようにして上昇している。その結果、アクセル開度θaccの増加に応じて車両加速度Gが速やかに増加するため、アクセル開度θaccに一致した車両加速度Gを発生し、上質な加速性能を実現することができる。
【0066】
上述のように、本実施例によれば、高車速領域を走行中に、アクセル操作が為された場合には、エンジン連結電動機MG3を力行させてエンジン回転速度Neを所定回転速度Ne1まで上昇させることで、エンジン12のトルク応答性を高くし、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを発生させることができる。
【実施例3】
【0067】
エンジン回転速度Neが低回転、且つ、エンジン12の高負荷領域では、LUクラッチ40が係合されると、駆動系において低周波のこもり音が発生しやすい。これに対して、LUクラッチ40が解放されるとこもり音が抑制されるが、アクセルペダルが踏み込まれたときには、エンジン回転速度Neの上昇にトルクが使われるため、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを実現することが困難になる。或いは、LUクラッチ40にこもり音を低減する対策を施すことも考えられるが、LUクラッチ40のロックアップダンパや摩擦板が高価になり、製造コストが高くなってしまう。本実施例では、エンジン12の低回転且つ高負荷領域において、後述する制御を実行することによって、アクセルペダルが踏み込まれたときの加速性能を確保する。
【0068】
図7は、本発明のさらに他の実施例に対応する、ハイブリッド車両を制御する電子制御装置300の制御機能を説明する機能ブロック線図である。なお、ハイブリッド車両の構造および電子制御装置300に入力される信号等については前述した実施例1と変わらないため省略されている。以下、本実施例の要部となる電子制御装置300の制御機能について説明する。
【0069】
電子制御装置300は、車両における各種制御を実行するために、ハイブリッド制御部302、クラッチ制御部104、変速制御部106、ロックアップ判定部108、およびこもり音領域判定部310を機能的に備えている。なお、クラッチ制御部104、変速制御部106、およびロックアップ判定部108は、前述の実施例と変わらないため、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0070】
ハイブリッド制御部302は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御部302aおよび各電動機MGの作動を制御する電動機制御部302bとを、含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12および各電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。エンジン制御部302aおよび電動機制御部302bの制御作動については、前述した実施例1のエンジン制御部102aおよび電動機制御部102bと基本的に変わらないため、その説明を省略する。
【0071】
こもり音領域判定部310は、エンジン12の運転領域が、LUクラッチ40の係合状態においてこもり音の発生しやすい領域にあるか否かを判定する。こもり音の発生しやすい領域は、予め実験的または設計的に求められ、例えばエンジン回転速度Neおよびアクセル開度θaccで規定される関係マップとして記憶されている。こもり音領域判定部310は、エンジン回転速度Neが前記関係マップで規定されている回転速度範囲にあり、且つ、アクセル開度θaccが前記関係マップで規定されている範囲にある場合、こもり音が発生しやすい領域にあるものと判定する。なお、こもり音の発生しやすい領域は、一般には、エンジン回転速度Neが低回転であって、且つ、エンジン12にかかる負荷が高負荷(すなわちアクセル開度θaccが大)の領域とされている。
【0072】
ハイブリッド制御部302は、こもり音領域判定部310に基づいてエンジン12の運転領域がこもり音が発生しやすい領域にあるとともに、ロックアップ判定部108に基づいてLUクラッチ40が解放状態と判定されると、エンジン12のイナーシャ分を加味したアシストトルクが出力されるように、エンジン連結電動機MG3のMG3トルクTm3を制御する。具体的には、ハイブリッド制御部302は、エンジン回転速度Neの上昇に必要なトルクをアシストトルクとしてエンジン連結電動機MG3から出力させる。エンジン回転速度Neの上昇に必要なトルクがエンジン連結電動機MG3から出力されることで、エンジン12の回転速度上昇に必要なトルク分がエンジントルクTeから消費されることがなくなるため、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを発生させることができる。
【0073】
図8は、電子制御装置300の制御作動を説明するためのフローチャートであり、こもり音が発生しやすい領域であってもアクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを発生させることができる制御機能を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、HEV走行モードで走行中において、アクセルペダルが踏み込まれる毎に繰り返し実行される。
【0074】
先ず、こもり音領域判定部310の制御機能に対応するS200において、エンジン12の運転領域が、こもり音の発生しやすい低回転高負荷領域の範囲にあるか否かが判定される。S200の判定が否定された場合、ハイブリッド制御部302の制御機能に対応するS230において、通常の制御が実施される。S200の判定が肯定された場合、ロックアップ判定部108の制御機能に大雨するS210において、LUクラッチ40が解放されているか否かが判定される。S210の判定が否定された場合、S230において、通常の制御が実施される。S210の判定が肯定された場合、ハイブリッド制御部302の制御機能に対応するS220において、エンジン12のイナーシャを加味したエンジン連結電動機MG3によるアシストが実行される。具体的には、エンジン回転速度Neの上昇に必要なトルク分だけ、アシストトルクとしてエンジン連結電動機MG3から出力される。
【0075】
図9は、電子制御装置300の制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。図9において、横軸が時間t[sec]を示し、縦軸が上から順番に、アクセル開度θacc[%]、エンジン連結電動機MG3のMG3トルクTm3[Nm]、エンジン回転速度Ne[rpm]、および車両加速度G[m/s2]を、それぞれ示している。また、図9において、紙面左側が従来の制御作動に基づく車両挙動を示し、紙面右側が本実施例の制御作動に基づく車両挙動を示している。
【0076】
先ず、比較対象としての紙面左側に示す従来の車両挙動について説明する。図9の紙面左側のt1時点において、アクセルペダルの踏込が開始されている。これに伴い、t1時点以降において、アクセル開度θaccが、時間経過とともに直線的に増加している。また、t1時点以降において、アクセル開度θaccの増加に応じて、エンジン連結電動機MG3のMG3トルクTm3が直線的に増加している。さらに、t1時点以降において、アクセル開度θaccの増加に応じて、エンジン回転速度Neが増加している。このとき、エンジントルクTeがエンジン回転速度Neの上昇に使用されることで、駆動輪14側に伝達されるエンジントルクTeが減少する。その結果、アクセル開度θaccの増加に対して、実線で示す車両加速度Gが、破線で示すエンジントルクTeが減少しない場合の車両加速度Gに比べて小さくなる。
【0077】
次に、紙面右側に示す、本実施例の制御作動に基づく車両挙動について説明する。図9の紙面右側のt1時点において、アクセルペダルの踏込が開始されている。これに伴い、t1時点以降において、アクセル開度θaccが、時間経過とともに直線的に増加している。また、t1時点以降において、アクセル開度の増加に応じて、エンジン回転速度Neが増加している。ここで、本実施例では、t1時点以降において、エンジン連結電動機MG3のMG3トルクTm3に、エンジン回転速度Neの上昇に必要なトルク分が加算されている。その結果、エンジントルクTeの一部がエンジン回転速度Neの上昇用に使用されることがなくなるため、実線で示すように、t1時点からアクセル開度θaccに応じた車両加速度Gが発生する。なお、破線で示す車両加速度Gは、従来の車両挙動を示している。
【0078】
上述のように本実施例によれば、こもり音が発生しやすいエンジン12の低回転高負荷領域でアクセルペダルが踏み込まれた場合には、エンジン連結電動機MG3からエンジン回転速度Neの上昇に必要なトルクがアシストトルクとして出力されることで、アクセル開度θaccに応じた車両加速度Gを発生させることができる。
【0079】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0080】
例えば、前述の各実施例1~3は、それぞれ独立して実施されていたが、必ずしも各実施例1~3を独立して実施する必要はなく、各実施例1~3を適宜組み合わせて実施するものであっても構わない。
【0081】
また、前述の実施例では、エンジン回転速度Neの吹け上がりが抑えられるように、エンジン連結電動機MG3による回生制御が実施されていたが、エンジン連結電動機MG3に代わって、第1電動機MG1による回生制御が実施されるものであっても構わない。
【0082】
また、前述の実施例では、エンジン12に伝動ベルト46を介してエンジン連結電動機MG3が動力伝達可能に接続されるものであったが、本発明は、必ずしもこれに限定されない。例えば、エンジン12とK0クラッチ20との間にエンジン連結電動機MG3が設けられても構わない。要は、エンジン12に動力伝達可能に連結された電動機であれば、本発明に適用することができる。また、エンジン12とエンジン連結電動機MG3との間を連結する伝動ベルト46についても必ずしもこれに限定されず、例えばギヤやチェーンなど適宜変更することができる。
【0083】
また、前述の実施例では、変速機出力軸26に第2電動機MG2が動力伝達可能に接続されるものであったが、本発明は必ずしも上記構成に限定されない。例えば、一対の駆動輪14に連結された一対のドライブシャフト32に、それぞれ電動機が接続される構成であっても構わない。或いは、駆動輪14内に収容されたインホイールモータが、第2電動機として使用される構成であっても構わない。要は、左右の駆動輪14にアシストトルクを付与できる電動機であれば、本発明に適用することができる。
【0084】
また、前述の実施例では、自動変速機24が、1組または複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置CBとを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機であったが、本発明は必ずしもこの構成に限定されない。例えば、自動変速機は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、または、公知のベルト式無段変速機などであっても構わない。
【0085】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、必ずしもこの態様に限定されない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられてもよい。
【0086】
また、前述した各実施例1~3において、それぞれのフローチャートにおける各ステップの順番を、矛盾のない範囲で適宜変更しも構わない。
【0087】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0088】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン
14:駆動輪
22:トルクコンバータ
100、200、300:電子制御装置(制御装置)
MG2:第2電動機
MG3:エンジン連結電動機(第1電動機)
D:回転速度差
α:閾値
Vα:高車速閾値
Ne1:所定回転速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9