IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御装置 図1
  • 特許-車両の制御装置 図2
  • 特許-車両の制御装置 図3
  • 特許-車両の制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20250701BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20250701BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20250701BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20250701BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
F01M13/00 K
F02M21/02 G
F02D41/04
F02D19/02 B
F01M13/00 M
F02B37/12 302Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022109161
(22)【出願日】2022-07-06
(65)【公開番号】P2024007818
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】中野 真人
(72)【発明者】
【氏名】関口 慶人
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 宣彦
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-127704(JP,A)
【文献】国際公開第2010/103629(WO,A1)
【文献】特開2023-082747(JP,A)
【文献】特開2023-128831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0285111(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113356963(CN,A)
【文献】特開2004-285890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02M 21/02
F02D 41/04
F02D 19/02
F02B 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路を有し、且つ水素を燃料とする内燃機関を搭載した車両を制御対象とし、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を算出する水素濃度算出処理と、
前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、
を実行し、
前記圧力低下処理は、前記条件が成立した時点に比べて前記スロットルバルブの開度を小さくする処理である
車両の制御装置。
【請求項2】
クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路と、前記吸気通路における前記スロットルバルブに対して上流側に位置し、吸入空気を過給するコンプレッサホイールとを有し、且つ水素を燃料とする内燃機関を搭載した車両を制御対象とし、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を算出する水素濃度算出処理と、
前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、
を実行し、
前記圧力低下処理は、前記条件が成立した時点に比べて前記コンプレッサホイールの回転速度を低下させる処理である
車両の制御装置。
【請求項3】
前記圧力低下処理は、前記コンプレッサホイールによる吸入空気の過給を停止させ、さらに前記スロットルバルブの開度を全開よりも小さくする処理である
請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路を有し、且つ水素を燃料とする内燃機関と、車輪に駆動力を伝達するための車軸にトルクを付与可能なモータとを搭載した車両を制御対象とし、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を算出する水素濃度算出処理と、
前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、
を実行し、
前記圧力低下処理を実行する場合、前記条件が成立した時点に比べて前記モータから前記車軸に入力するトルクを大きくする
車両の制御装置。
【請求項5】
クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路を有し、且つ水素を燃料とする内燃機関と、前記内燃機関のクランクシャフトにトルクを付与可能なモータとを搭載した車両を制御対象とし、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を算出する水素濃度算出処理と、
前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、
を実行し、
前記圧力低下処理は、前記モータのトルクにより前記クランクシャフトを回転させ、且つ前記条件が成立した時点に比べて前記スロットルバルブの開度を小さくする処理である
車両の制御装置。
【請求項6】
クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路を有し、且つ水素を燃料とする内燃機関を搭載した車両を制御対象とし、
記憶装置と、実行装置とを有し、
前記記憶装置は、複数の入力変数が入力されることにより、前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を示す変数を出力変数として出力する写像であって、機械学習により学習済みの前記写像を規定する写像データを予め記憶しており、
前記写像は、複数の前記入力変数の1つとして、前記下流通路の圧力を示す変数を含み、
前記実行装置は、
前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記取得処理によって取得した前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、
前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、
を実行する
車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素を燃料とする内燃機関と、その制御装置が開示されている。内燃機関は、クランク室、換気流路、及び換気ファンを有する。換気流路は、クランク室と内燃機関の外部とを連通している。換気ファンは、換気流路の途中に位置している。クランク室には、気筒から漏れ出した水素ガスが溜まる。制御装置は、クランク室における水素濃度が高くなると、換気ファンを駆動する。すると、水素ガスがクランク室から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-127704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術のように、水素ガスの排出用に換気ファンを設けると、換気ファンに係る各種装備品を内燃機関に搭載するための空間が周囲に必要になる。それに付随して、内燃機関を車両に搭載する際の空間的制約が増えてしまう。そのため、そうした換気ファンを設けることなく、クランク室の水素濃度を低下できる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路を有し、且つ水素を燃料とする内燃機関を搭載した車両を制御対象とし、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を算出する水素濃度算出処理と、前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、を実行する。
【0006】
上記構成において、圧力低下処理を実行すると下流通路の圧力が低下する。下流通路の圧力が低下すると、クランク室に溜まった水素ガスが他のガスと共に連通路を介して吸気通路に排出される。そのため、クランク室の水素濃度が低下する。このように、上記構成では、換気ファンを設けることなく、クランク室の水素濃度を低下させることができる。
【0007】
車両の制御装置は、記憶装置と、実行装置とを有し、前記記憶装置は、複数の入力変数が入力されることにより、前記水素濃度を示す変数を出力変数として出力する写像であって、機械学習により学習済みの前記写像を規定する写像データを予め記憶しており、前記写像は、複数の前記入力変数の1つとして、前記下流通路の圧力を示す変数を含み、前記実行装置は、前記水素濃度算出処理として、前記入力変数の値を取得する取得処理と、前記取得処理によって取得した前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の概略構成図である。
図2図2は、水素濃度算出処理の処理手順の一例を表したフローチャートである。
図3図3は、内燃機関の概略構成図である。
図4図4は、回避用処理の処理手順の一例を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、車両の制御装置の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
<車両の全体構成>
図1に示すように、車両90は、内燃機関10、駆動クラッチ81、モータジェネレータ82、変速ユニット80、油圧機構86、ディファレンシャル71、複数の車軸73、複数の駆動輪72、インバータ78、及びバッテリ79を有する。
【0010】
内燃機関10は、車両90の駆動源である。内燃機関10の詳細は後述する。内燃機関10は、クランクシャフト7を有する。
モータジェネレータ82は、車両90の駆動源である。モータジェネレータ82は、電動機及び発電機の双方の機能を有する。モータジェネレータ82は、ステータ82C、ロータ82B、及び回転軸82Aを有する。ロータ82Bは、ステータ82Cに対して回転可能である。回転軸82Aは、ロータ82Bと一体回転する。モータジェネレータ82は、インバータ78を介してバッテリ79と電気的に接続している。バッテリ79は、モータジェネレータ82との間で電力を授受する。インバータ78は、直流交流の変換を行う。
【0011】
駆動クラッチ81は、内燃機関10とモータジェネレータ82との間に介在している。駆動クラッチ81は、油圧機構86からの油圧に応じて接続状態又は切断状態になる。駆動クラッチ81は、接続状態では、クランクシャフト7とモータジェネレータ82の回転軸82Aとを接続する。駆動クラッチ81は、切断状態では、クランクシャフト7とモータジェネレータ82の回転軸82Aとを切り離す。なお、駆動クラッチ81が接続状態である場合、モータジェネレータ82はクランクシャフト7にトルクを付与できる。
【0012】
変速ユニット80は、トルクコンバータ83及び自動変速機85を有する。トルクコンバータ83は、ポンプインペラ83A、タービンライナ83B、及びロックアップクラッチ84を有する。トルクコンバータ83は、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手である。ポンプインペラ83Aは、モータジェネレータ82の回転軸82Aと一体回転する。タービンライナ83Bは、自動変速機85の入力軸と一体回転する。ロックアップクラッチ84は、油圧機構86からの油圧に応じて接続状態又は切断状態になる。ロックアップクラッチ84は、接続状態では、ポンプインペラ83Aとタービンライナ83Bとを接続する。ロックアップクラッチ84は、切断状態では、ポンプインペラ83Aとタービンライナ83Bとを切り離す。
【0013】
自動変速機85は、ギアの切り替えにより変速比が多段階に切り替わる有段式の変速機である。ギアは油圧機構86からの油圧に応じて切り替わる。自動変速機85の出力軸は、ディファレンシャル71を介して左右の車軸73に接続している。車軸73は駆動輪72に駆動力を伝達する。ディファレンシャル71は、左右の車軸73に回転速度の差が生じることを許容する。なお、駆動クラッチ81、モータジェネレータ82、及び変速ユニット80は、一つながりのケースに収容されている。以上の一連の動力伝達系において、内燃機関10及びモータジェネレータ82は、変速ユニット80を介して車軸73ひいては駆動輪72にトルクを付与できる。
【0014】
車両90は、車速センサ58、アクセルセンサ59、及びバッテリセンサ60を有する。車速センサ58は、車両90の走行速度を車速SPとして検出する。アクセルセンサ59は、車両90におけるアクセルペダルの踏み込み量をアクセル操作量ACCとして検出する。バッテリセンサ60は、バッテリ79の電流、電圧、及び温度といったバッテリ情報Bを検出する。上記の各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0015】
<内燃機関の概略構成>
図3に示すように、内燃機関10は、オイルパン13、シリンダブロック12、シリンダヘッド18、及びシリンダヘッドカバーを有する。なお、図面では、シリンダヘッドカバーの図示を省略している。オイルパン13は、オイルを貯留している。シリンダブロック12は、オイルパン13に対して上に位置している。シリンダヘッド18は、シリンダブロック12に対して上に位置している。シリンダヘッドカバーは、シリンダヘッド18を上から覆っている。なお、シリンダブロック12における下寄りの部分はクランクケースと呼称されることもある。
【0016】
内燃機関10は、複数の気筒2、複数のピストン6、複数のコネクティングロッド14、クランク室11、及びクランクシャフト7を有する。なお、図3では、複数の気筒2のうちの1つのみを示している。ピストン6及びコネクティングロッド14についても同様である。気筒2の数は、4つである。気筒2は、シリンダブロック12に区画された空間である。気筒2内では吸入空気と燃料との混合気が燃焼する。クランク室11は、気筒2に対して下に位置している。クランク室11は、シリンダブロック12における下寄りの部分と及びオイルパン13とで区画された空間である。クランク室11は、各気筒2と連通している。クランク室11は、クランクシャフト7を収容している。ピストン6は、気筒2毎に設けられている。ピストン6は、気筒2内に位置している。ピストン6は、気筒2内を往復動する。ピストン6は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト7に連結している。ピストン6の動作に応じてクランクシャフト7は回転する。
【0017】
内燃機関10は、複数の点火プラグ19及び複数の燃料噴射弁17を有する。なお、図3では、複数の点火プラグ19のうちの1つのみを示している。燃料噴射弁17についても同様である。点火プラグ19は、気筒2毎に設けられている。点火プラグ19は、シリンダヘッド18に取り付けられている。点火プラグ19の先端は、気筒2内に位置しいている。点火プラグ19は、気筒2内の混合気に点火を行う。燃料噴射弁17は、気筒2毎に設けられている。燃料噴射弁17は、シリンダヘッド18に取り付けられている。燃料噴射弁17の先端は、気筒2内に位置している。燃料噴射弁17は、後述の吸気通路3を介さずに気筒2内に直接燃料を噴射する。燃料噴射弁17は、燃料として水素を噴射する。
【0018】
内燃機関10は、吸気通路3、エアクリーナ23、インタークーラ65、及びスロットルバルブ29を有する。吸気通路3は、気筒2に吸気を導入するための通路である。吸気通路3は、各気筒2に接続している。エアクリーナ23は、吸気通路3に取り込まれた吸入空気を濾過する。インタークーラ65は、吸気通路3における、エアクリーナ23に対して下流側に位置している。インタークーラ65は、吸入空気を冷却する。スロットルバルブ29は、吸気通路3における、インタークーラ65に対して下流側に位置している。スロットルバルブ29は、開度調整が可能である。スロットルバルブ29の開度(以下、スロットル開度と記す。)に応じて、吸入空気量GAが変わる。なお、スロットル開度は、電動モータによって変更される。
【0019】
内燃機関10は、排気通路8を有する。排気通路8は、気筒2から排気を排出するための通路である。排気通路8は、各気筒2に接続している。
内燃機関10は、複数の吸気バルブ15、吸気バルブ駆動機構25、複数の排気バルブ16、及び排気バルブ駆動機構26を有する。なお、図3では、複数の吸気バルブ15のうちの1つのみを示している。排気バルブ16についても同様である。吸気バルブ15は、気筒2毎に設けられている。吸気バルブ15は、吸気通路3における、気筒2との接続口に位置している。吸気バルブ駆動機構25は、吸気カム軸及び吸気バルブ可変装置を有する。吸気カム軸の動作に応じて、吸気バルブ15は吸気通路3の上記接続口を開閉する。吸気バルブ可変装置は、吸気バルブ15の開閉時期を変更する。排気バルブ16は、気筒2毎に設けられている。排気バルブ16は、排気通路8における、気筒2との接続口に位置している。排気バルブ駆動機構26は、排気カム軸及び排気バルブ可変装置を有する。排気カム軸の動作に応じて、排気バルブ16は排気通路8の上記接続口を開閉する。排気バルブ可変装置は、排気バルブ16の開閉時期を変更する。
【0020】
内燃機関10は、過給機40を有する。過給機40は、吸気通路3と排気通路8とを跨いで設けられている。過給機40は、コンプレッサホイール41及びタービンホイール42を有する。コンプレッサホイール41は、吸気通路3における、エアクリーナ23とインタークーラ65との間に位置している。タービンホイール42は、排気通路8の途中に位置している。タービンホイール42は、排気の流れに応じて回転する。コンプレッサホイール41は、タービンホイール42と一体回転する。このときコンプレッサホイール41は吸入空気を圧縮して送り出す。すなわち、コンプレッサホイール41は、吸入空気を過給する。
【0021】
過給機40は、バイパス通路64及びをウェイストゲートバルブ(以下、WGVと記す。)63を有する。バイパス通路64は、排気通路8における、タービンホイール42に対して上流側の部分と下流側の部分とを接続している。すなわち、バイパス通路64は、タービンホイール42を迂回する通路である。WGV63は、バイパス通路64の下流端に位置している。なお、図3では、便宜上、WGV63をバイパス通路64の途中に示している。WGV63は、アクチュエータによって開度調整が可能である。WGV63の開度が大きくなるほど、タービンホイール42を迂回してバイパス通路64を流れる排気の量は多くなる。それとともに、タービンホイール42及びコンプレッサホイール41の回転速度は低下する。それとともに、吸気通路3における、コンプレッサホイール41に対して下流側のガスの圧力である過給圧QPは低下する。そして、WGV63が全開になると、コンプレッサホイール41による過給がなくなる。
【0022】
内燃機関10は、クランク室11内のブローバイガスを吸気通路3に戻するためのブローバイガス処理機構を有する。ブローバイガスは、圧縮行程中や燃焼行程中に気筒2からクランク室11へ漏れ出たガスである。ブローバイガス処理機構は、第1連通路51、第2連通路52、及びPCVバルブ53を有する。吸気通路3における、スロットルバルブ29に対して下流側の部分を下流通路3Aと呼称する。第1連通路51は、クランク室11から下流通路3Aまでを繋いでいる。第2連通路52は、クランク室11から、吸気通路3における、コンプレッサホイール41から視て上流側の部分までを繋いでいる。PCVバルブ53は、第1連通路51の途中に位置している。PCVバルブ53は、差圧弁である。PCVバルブ53は、下流通路3Aのガスの圧力(以下、下流圧力と記す。)LPがクランク室11のガスの圧力(以下、クランク室11の圧力と記す。)RPよりも低くなったときに開弁する。PCVバルブ53が開弁すると、クランク室11から下流通路3Aへのブローバイガスの流入が許容される。
【0023】
例えばコンプレッサホイール41による吸入空気の過給圧QPが低いときやコンプレッサホイール41による過給を行っていないときなどには、下流圧力LPがクランク室11の圧力RPよりも低くなる。この場合、上記のとおりPCVバルブ53が開弁することで、クランク室11のブローバイガスは第1連通路51を介して下流通路3Aへ排出される。一方、例えば過給圧QPが高いときなどには、下流圧力LPとクランク室11の圧力RPとの大小関係が上記と逆転することからPCVバルブ53が閉弁する。この場合、クランク室11内のブローバイガスは、第2連通路52を通じて吸気通路3に排出されるようになる。ただし、このときのブローバイガスの排出量は限定的である。
【0024】
内燃機関10は、クランクポジションセンサ35、濃度センサ32、エアフロメータ31、過給圧センサ37、及び吸気圧センサ36を有する。クランクポジションセンサ35は、クランクシャフト7の近傍に位置している。クランクポジションセンサ35は、クランクシャフト7の回転位置CRを検出する。濃度センサ32は、クランク室11に取り付けられている。濃度センサ32は、クランク室11における水素ガスの濃度である水素濃度Jを検出する。水素濃度Jは、詳細にはクランク室11における水素ガスの含有量[%]である。エアフロメータ31は、吸気通路3における、エアクリーナ23とコンプレッサホイール41との間に位置している。エアフロメータ31は、吸入空気量GAを検出する。過給圧センサ37は、吸気通路3における、インタークーラ65とスロットルバルブ29との間に位置している。過給圧センサ37は、上記の過給圧QPを検出する。吸気圧センサ36は、下流通路3Aに位置している。吸気圧センサ36は、上記の下流圧力LPを検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置100に繰り返し送信する。
【0025】
<制御装置の概略構成>
図1に示すように、車両90は、制御装置100を有する。制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、制御装置100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU111及び、RAM並びにROM112等のメモリを含む。メモリは、処理をCPU111に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。CPU111及びROM112は、実行装置を構成している。なお、CPU111は、時間計測機能を有する。制御装置100は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置113を有する。
【0026】
制御装置100は、車両90に取り付けられている各種センサからの検出信号を繰り返し受信する。具体的には、制御装置100は、次の各パラメータについての検出信号を受信する。
【0027】
・クランクポジションセンサ35が検出するクランクシャフト7の回転位置CR
・濃度センサ32が検出する水素濃度J
・エアフロメータ31が検出する吸入空気量GA
・吸気圧センサ36が検出する下流圧力LP
・過給圧センサ37が検出する過給圧QP
・車速センサ58が検出する車速SP
・アクセルセンサ59が検出するアクセル操作量ACC
・バッテリセンサ60が検出するバッテリ情報B
CPU111は、各種センサから受信した検出信号に基づいて、以下のパラメータを随時算出する。CPU111は、クランクシャフト7の回転位置CRに基づいて、クランクシャフト7の回転速度である機関回転速度NEを算出する。また、CPU111は、機関回転速度NE及び吸入空気量GAに基づいて機関負荷率KLを算出する。機関負荷率KLは、気筒2に充填される空気量を定めるパラメータであり、1燃焼サイクル当たりに1つの気筒2に流入する空気量を基準空気量で除した値である。基準空気量は機関回転速度NEに応じて変わる。1燃焼サイクルは、1つの気筒2が吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び排気行程を1度ずつ迎える一連の期間である。CPU111は、バッテリ情報Bに基づいて、バッテリ79の充電率を算出する。バッテリ79の充電率は、バッテリ79の残容量をバッテリ79の満充電容量で除算した値である。
【0028】
CPU111は、アクセル操作量ACC及び車速SPなどに基づいて、車両90が走行するために必要な駆動力の要求値である要求駆動力を算出する。そして、CPU111は、要求駆動力に基づいて、内燃機関10の目標トルクである機関目標トルク及びモータジェネレータ82の目標トルクであるモータ目標トルクを算出する。そして、CPU111は、算出したそれぞれの目標トルクに基づいて内燃機関10及びモータジェネレータ82を制御する。また、CPU111は、車両90の走行状態に応じて自動変速機85、駆動クラッチ81、及びロックアップクラッチ84を制御する。すなわち、CPU111は、自動変速機85の変速段を切り替えたり、駆動クラッチ81の断接状態を切り替えたり、ロックアップクラッチ84の断接状態を切り替えたりする。その際、CPU111は、油圧機構86を制御することで各制御対象に対する油圧を調整する。このように、CPU111は、車両90の各種部位を制御対象とする。
【0029】
CPU111は、内燃機関10を制御するにあたっては、上記の機関目標トルクに加え、機関回転速度NE及び機関負荷率KLなどに基づいて、内燃機関10の各種部位に対する制御目標値を設定する。そして、CPU111は、それらの制御目標値に基づいて内燃機関10の各種部位を制御する。例えば、CPU111は、スロットル開度を目標開度に一致するように調整したり、燃料噴射弁17から目標噴射量の燃料を噴射させたり、点火プラグ19を目標点火時期に点火させたりする。CPU111は、燃料噴射弁17からの燃料噴射及び点火プラグ19による点火によって各気筒2で混合気を燃焼させる。また、CPU111は、コンプレッサホイール41による吸入空気の過給圧QPが目標過給圧になるようにWGV63の開度を調整したり、吸気バルブ15の開閉時期が目標時期に一致するように吸気バルブ可変装置を駆動したりもする。なお、CPU111は、吸入空気の過給を行う場合、スロットル開度を全開にする。以下の説明では、各種処理の実行に際してCPU111が各制御目標値を設定している点について逐一の説明は割愛する。
【0030】
CPU111は、状況に応じて車両90の駆動モードをハイブリッドモード又は電動モードに切り替えて車両90の各種部位を制御する。CPU111は、電動モードでは、内燃機関10を停止状態にする一方でモータジェネレータ82を駆動させる。すなわち、CPU111は、電動モードでは、モータジェネレータ82のみを駆動源として利用する。なお、電動モードには、駆動クラッチ81を切断状態にする通常電動モードと、駆動クラッチ81を接続状態にするモータリングモードとがある。モータリングモードは、後述の回避用処理専用のものである。一方、CPU111は、ハイブリッドモードでは、内燃機関10とモータジェネレータ82との双方を駆動させ、且つ駆動クラッチ81を接続状態にする。そして、CPU111は、ハイブリッドモードでは、内燃機関10とモータジェネレータ82との双方を駆動源として利用する。CPU111は、ハイブリッドモードでは、内燃機関10の動力によってモータジェネレータ82に回生発電させることもある。CPU111は、電動モードでもハイブリッドモードでも、車両90の走行中は基本的にはロックアップクラッチ84を接続状態にする。
【0031】
CPU111は、例えば、バッテリ79の充電率に十分な余裕がある場合、要求駆動力が比較的小さいときには電動モードを選択し、要求駆動力が比較的大きいときにはハイブリッドモードを選択する。要求駆動力が小さい場合の例は、車両90の発進時、前進加速度の小さい軽負荷走行時などである。上記とおり、電動モードには、通常電動モードとモータリングモードとの2種類がある。ハイブリッドモードと通常電動モードとの切り替えの閾値となる要求駆動力を通常閾値と呼称する。ハイブリッドモードとモータリングモードとの切り替えの閾値となる要求駆動力をモータリング閾値と呼称する。モータリング閾値は、内燃機関10で過給を行う必要がある要求駆動力の最小値よりも大きな値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。ROM112は、通常閾値とモータリング閾値とを予め記憶している。上記のとおり、モータリングモードは、回避用処理専用のものである。したがって、CPU111は、回避用処理の実行中以外では、ハイブリッドモードと電動モードとの切り替えに関して、モータリング閾値を参照しない。
【0032】
<回避用処理の概要>
内燃機関10では、例えば吸入空気の過給圧QPが高いときなどには下流圧力LPが高まりがちである。この場合、PCVバルブ53が閉弁することから、第1連通路51を介したクランク室11から下流通路3Aへのブローバイガスの排出はすすみ難い。それに付随して、ブローバイガスに含まれる水素ガスがクランク室11に溜まり易い。水素ガスがクランク室11に溜まる状況が継続すると、着火可能な程度にまでクランク室11の水素濃度Jが高まるおそれがある。なお、過給圧QPが低いときや非過給中においてスロットルバルブ29が全開に近い開度であるときでも、状況によってはクランク室11の水素濃度Jが高まり得る。CPU111は、クランク室11における水素濃度Jの増加を回避するための処理として、回避用処理を実行可能である。CPU111は、ROM112が記憶しているプログラムを実行することにより、回避用処理の各処理を実現する。
【0033】
CPU111は、回避用処理の一環として、水素濃度算出処理を実行可能である。CPU111は、水素濃度算出処理では、クランク室11における現状の水素濃度Jを算出する。ここで、クランク室11の水素濃度Jは、例えば燃料噴射量、下流圧力LP、クランク室11の圧力RPといった内燃機関10の運転状態を表す各種のパラメータと関連している。したがって、これらのパラメータと関連している水素濃度Jもまた、内燃機関10の運転状態を表すパラメータの1つである。本実施形態において、CPU111は、内燃機関10の運転状態を表すパラメータである水素濃度Jの現状の値を、当該水素濃度Jそのものを検出する濃度センサ32の検出信号に基づいて算出する。
【0034】
CPU111は、回避用処理の一環として、圧力低下処理を実行可能である。CPU111は、特定条件が成立すると圧力低下処理を行う。本実施形態において、特定条件は、次の3つの項目が全て満たされていることである。
【0035】
(N1)クランク室11における現状の水素濃度Jが判定値JS以上である。
(N2)車両90がハイブリッドモードでの走行中である。
(N3)バッテリ79の充電率が規定充電率以上である。
【0036】
判定値JSは、水素ガスの可燃濃度範囲の下限値よりも低い値である。判定値JSは、水素濃度Jが上記下限値に増加する前に未然に水素濃度Jを低下させる対処が必要な水素濃度Jがとして、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。ここで、後述のとおり、圧力低下処理及びそれに続く一連の処理を行うと内燃機関10の出力が低下する。CPU111は、この出力の低下分をモータジェネレータ82で賄うことになる。上記の規定充電率は、上記一連の処理に伴う内燃機関10の出力の低下分をモータジェネレータ82で賄ってもバッテリ79の充電率が許容下限値を下回らない値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。ROM112は、判定値JS及び規定充電率を含め、特定条件を予め記憶している。
【0037】
CPU111は、圧力低下処理では、特定条件が成立した時点に比べて下流圧力LPを低下させる。CPU111は、この圧力低下処理として、内容の異なる2つの処理を実行可能である。
【0038】
CPU111は、特定条件が成立した時点で車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替えることができる場合、圧力低下処理として第1低下処理を行う。第1低下処理は、実質的には、車両90の駆動モードをハイブリッドモードからモータリングモードへと切り替える処理である。上記のとおり、モータリングモードは、電動モードの一種である。本実施形態のモータリングモードでは、内燃機関10におけるスロットル開度を一意の値に定める。具体的には、モータリングモードでは、スロットル開度を後述の第1開度V1に設定する。なお、第1低下処理を行う状況は、内燃機関10の非過給中においてスロットル開度が全開に近い状況、又は内燃機関10が過給中すなわちスロットル開度が全開の状況である。
【0039】
CPU111は、第1低下処理では、駆動クラッチ81を接続状態に維持したまま次のことを行う。すなわち、CPU111は、要求駆動力に応じてモータジェネレータ82を駆動させつつ内燃機関10での混合気の燃焼を停止させる。駆動クラッチ81を接続状態に維持することで、モータジェネレータ82のトルクがクランクシャフト7に付与され、クランクシャフト7が回転することになる。また、CPU111は、第1低下処理では、現状で全開又はそれに近い開度にあるスロットル開度を第1開度V1へと小さくする。ここで、スロットル開度に関して、その全閉と全開とのちょうど中間となる開度を中間開度と呼称する。第1開度V1は、中間開度と全閉との間の開度となっている。第1開度V1は、下流圧力LPをクランク室11の圧力RPよりも相当に小さくでき、それによって第1連通路51を介したブローバイガスの排出を速やかに行うことができる値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。ROM112は、第1開度V1を予め記憶している。
【0040】
CPU111は、特定条件が成立した時点で車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替えられない場合、圧力低下処理として第2低下処理を行う。また、CPU111は、第2低下処理に合わせて増加処理を行う。これら第2低下処理及び増加処理は、ハイブリッドモードによる制御を、通常の制御から制限制御に切り替えるための処理である。なお、制限制御は、内燃機関10での過給を禁止するとともにスロットルバルブ29の上限開度を後述の第2開度V2に設定した上で、要求駆動力を実現できるように内燃機関10及びモータジェネレータ82を制御するものである。この制限制御では、内燃機関10のトルクを制限する分、内燃機関10のトルクを制限しない通常の制御に比較して、同じ要求駆動力に対するモータジェネレータ82のトルクが大きくなる。なお、モータリング閾値の設定上、第2低下処理を行う状況は、内燃機関10が過給を行っている状況である。すなわち、スロットル開度は全開である。
【0041】
CPU111は、第2低下処理では、コンプレッサホイール41による吸入空気の過給を停止させ、さらに全開状態にあるスロットル開度を第2開度V2へと小さくする。第2開度V2は、上記中間開度と全開との間の開度になっている。第2開度V2は、内燃機関10のトルクを相応に維持しつつ、且つ下流圧力LPをクランク室11の圧力RPよりも小さくできる開度として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。ROM112は、第2開度V2を予め記憶している。
【0042】
CPU111は、増加処理では、特定条件が成立した時点に比べてモータジェネレータ82のトルクを大きくする。そのことで、CPU111は、モータジェネレータ82から車軸73に入力するトルクを大きくする。そして、CPU111は、内燃機関10及びモータジェネレータ82の双方から車軸73に入力するトータルとしてのトルクを特定条件が成立した時点と同じに維持する。ROM112は、増加処理で利用する情報として、複数のトルクマップを予め記憶している。トルクマップについて説明する。いま、内燃機関10が過給中でありWGV63の開度が任意の開始開度であるとする。そして、スロットル開度が全開であるとする。この状態から、現状の点火時期及び混合気の空燃比を維持したまま、WGV63の開度を全開へと変更しさらにスロットル開度を第2開度V2へと変更したとする。そのときの内燃機関10のトルクの低下分の絶対値を、トルク低下値と呼称する。トルクマップは、WGV63の開始開度とトルク低下値との関係を表したものである。なお、トルクマップは、点火時期及び空燃比の様々な組み合わせ毎に用意してある。トルクマップでは、基本的には、WGV63の開始開度が全閉に近いほど、つまり吸入空気の過給圧QPが高いほど、トルク低下値は大きくなっている。トルクマップは、例えば実験又はシミュレーションを基に作成してある。
【0043】
<回避用処理の具体的な処理手順>
CPU111は、車両90の駆動モードとしてハイブリッドモードを選択しており、且つ車速SPがゼロよりも大きく、且つバッテリ79の充電率が規定充電率以上であるいという条件が成立している場合、回避用処理を開始する。すなわち、回避用処理の開始条件は、特定条件の項目(N2)(N3)が満たされていることである。
【0044】
図4に示すように、CPU111は、回避用処理を開始すると、先ずステップS10の処理を実行する。ステップS10において、CPU111は、水素濃度算出処理を行う。具体的には、CPU111は、濃度センサ32から受信した最新の水素濃度Jをクランク室11の現状の水素濃度Jとして算出する。この後、制御装置100は、処理をステップS20に進める。
【0045】
ステップS20において、CPU111は、現状の水素濃度Jが判定値JS以上であるか否かを判定する。CPU111は、現状の水素濃度Jが判定値JS未満である場合(ステップS20:NO)、回避用処理の一連の処理を終了する。この場合、CPU111は、上記開始条件が成立していれば、再度ステップS10の処理を実行する。
【0046】
一方、ステップS20において、CPU111は、現状の水素濃度Jが判定値JS以上である場合(ステップS20:YES)、処理をステップS30に進める。なお、ステップS20の判定がYESである場合、特定条件の項目(N1)が満たされる。そして、特定条件が成立する。
【0047】
ステップS30において、CPU111は、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替え可能であるか否かを判定する。具体的には、CPU111は、最新の要求駆動力がモータリング閾値未満であるか否かを判定する。CPU111は、最新の要求駆動力がモータリング閾値未満である場合、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替え可能と判定する(ステップS30:YES)。この場合、CPU111は、処理をステップS40に進める。
【0048】
ステップS40において、CPU111は、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替えるべく第1低下処理を行う。すなわち、CPU111は、内燃機関10において気筒2への燃料供給及び点火を停止させる。そのことで、CPU111は、混合気の燃焼を停止させる。それとともにCPU111は、モータジェネレータ82によってクランクシャフト7を回転駆動する。また、CPU111は、現状で全開又はそれに近い開度となっているスロットル開度を第1開度V1へと小さくする。CPU111は、第1低下処理を行うと、それ以降、モータリングモードでの制御を継続する。すなわち、CPU111は、要求駆動力をモータジェネレータ82によって賄いつつそのモータジェネレータ82の回転によってクランクシャフト7を回転させる。また、CPU111は、スロットル開度を第1開度V1に維持する。CPU111は、第1低下処理を完了してモータリングモードでの制御の継続状態に移行すると、処理をステップS50に進める。なお、CPU111は、この後ステップS70までモータリングモードでの制御を継続することになる。
【0049】
一方、CPU111は、ステップS30において、要求駆動力がモータリング閾値以上である場合(ステップS30:NO)、処理をステップS110に進める。
ステップS110において、CPU111は、ハイブリッドモードによる制御を通常の制御から制限制御に切り替えるべく第2低下処理と増加処理とを行う。具体的には、CPU111は、内燃機関10においてWGV63の開度を全開にすることで、現状で回転しているコンプレッサホイール41の回転速度をゼロに低下させる。そのことで、CPU111は、コンプレッサホイール41による吸入空気の過給を停止させる。また、CPU111は、現状で全開となっているスロットル開度を第2開度V2へと小さくする。以上が第2低下処理である。また、CPU111は、モータジェネレータ82のトルクを増加させる。そのための具体的な処理として、CPU111は、以下の処理を行う。先ず、CPU111は、ステップS110に処理が進んだ時点でのWGV63の開度を現状の開始開度として特定する。次に、CPU111は、ステップS110に処理が進んだ時点で設定している点火時期及び空燃比に対応するトルクマップを参照する。そして、CPU111は、このトルクマップにおいて、現状の開始開度に対応するトルク低下値を対応低下値として算出する。そして、CPU111は、ステップS110に処理が進んだ時点でのモータ目標トルクに対応低下値を加算して加算後トルクを算出する。そして、CPU111は、加算後トルクと実際のモータジェネレータ82のトルクとが一致するようにモータジェネレータ82を制御する。以上が増加処理である。CPU111は、第2低下処理と増加処理とを行うと、それ以降、次のことを継続する。すなわち、CPU111は、内燃機関10での過給を禁止するとともにスロットルバルブ29の上限開度を上記の第2開度V2に設定した上で、要求駆動力を実現できるように内燃機関10及びモータジェネレータ82を制御する。CPU111は、第2低下処理及び増加処理を完了して制限制御の継続状態に移行すると、処理をステップS50に進める。なお、CPU111は、この後ステップS70まで制限制御を継続することになる。
【0050】
ステップS50において、CPU111は、クランク室11における現状の水素濃度Jを算出する。このステップS50の処理内容は、ステップS10の処理内容と同じである。CPU111は、現状の水素濃度Jを算出すると、処理をステップS60に進める。
【0051】
ステップS60において、CPU111は、現状の水素濃度Jが終了値JE以下であるか否かを判定する。ROM112は、終了値JEを予め記憶している。終了値JEは、クランク室11の水素濃度Jが十分に小さくなり、クランク室11からの水素ガスの排出を止めてもよい値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。終了値JEは、判定値JSよりも小さい。CPU111は、現状の水素濃度Jが終了値JEよりも大きい場合(ステップS60:NO)、ステップS50の処理に戻る。そして、CPU111は、再度ステップS50の処理を実行する。CPU111は、現状の水素濃度Jが終了値JE以下になるまでステップS50及びステップS60の処理を繰り返す。そして、CPU111は、現状の水素濃度Jが終了値JE以下になると(ステップS60:YES)、処理をステップS70に進める。なお、ステップS50及びステップS60の処理を繰り返す期間は、例えば10秒程度である。
【0052】
ステップS70において、CPU111は、モータリングモードによる制御又は制限制御を終了し、車両90の各種部位に対する制御を通常時のものに戻す。すなわち、これ以降、CPU111は、内燃機関10のトルクを制限しないハイブリッドモード、又は通常電動モードで車両90を制御する。この後、CPU111は、回避用処理の一連の処理を終了する。この後、CPU111は、回避用処理の開始条件が成立していれば、再度ステップS10の処理を実行する。
【0053】
なお、ステップS50及びステップS60の繰り返しの途中に車両90が停車することもあり得る。この場合、CPU111は、回避用処理を中断して停車用処理を行う。CPU111は、停車用処理では、クランク室11の水素濃度Jが終了値JEに低下するまでモータリングモードを継続する。CPU111は、回避用処理でモータリングモードによる制御を行っていた場合はそのままモータリングモードを継続し、回避用処理で制限制御を行っていた場合はモータリングモードへと移行することになる。CPU111は、停止用処理でモータリングモードを継続する間、予め定められた回転速度でモータジェネレータ82を回転させる。また、CPU111は、停車用処理では、ロックアップクラッチ84を切断状態にする。なお、CPU111は、停車用処理を行う場合、水素ガスの排出のためにモータジェネレータ82の回転駆動を継続している旨を例えば報知ランプで乗員に報知してもよい。
【0054】
<第1実施形態の作用>
いま、車両90がハイブリッドモードで走行しており、且つ内燃機関10が過給中であるとする。そしてその状況が暫く継続することでクランク室11の水素濃度Jが判定値JSに増加したとする(ステップS20:YES)。このとき、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替えることができない程に要求駆動力が大きかったとする(ステップS30:NO)。こうしたケースの場合、CPU111は、コンプレッサホイール41による吸入空気の過給を停止させ、さらにスロットル開度を第2開度V2へと小さくする(ステップS110)。すると、それまで大気圧に対して正圧であった下流圧力LPが負圧になる。それとともに、下流圧力LPがクランク室11の圧力RPよりも低くなる。すると、第1連通路51を介してクランク室11から下流通路3Aへと水素ガスが排出される。
【0055】
さて、上記のケースとは別のケースとして、クランク室11の水素濃度Jが判定値JSに増加したときに、要求駆動力が上記のケースほどには大きくなく、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替えることができたとする(ステップS30:YES)。この場合、CPU111は、モータジェネレータ82によってクランクシャフト7を回転させる。このクランクシャフト7の回転に伴うピストン6の動作に応じて吸入空気が気筒2に引き込まれる。それとともに吸入空気が吸気通路3を流通する。この状況でCPU111は、スロットル開度を第1開度V1へと小さくする。すると、下流通路3Aで負圧が発生するとともに、下流圧力LPがクランク室11の圧力RPよりも低くなる。特に、第2開度V2は相当に小さいスロットル開度であることから、下流圧力LPでは負圧が大きくなるとともに下流圧力LPとクランク室11の圧力RPとの差も大きくなる。したがって、第1連通路51を介してクランク室11から水素ガスが速やかに排出される。
【0056】
<第1実施形態の効果>
(1-1)上記作用に記載したとおり、CPU111は、特定条件が成立したときの要求駆動力が相当に大きい場合、過給の停止とスロットル開度の変更を通じて下流圧力LPを負圧にする。そのことで、クランク室11から水素ガスを排出できる。その上、下流圧力LPが負圧になると、気筒2内のガスの圧力が低くなる。それに付随して、気筒2からクランク室11へ漏れ出す水素ガスが少なくなる。このようにして、クランク室11から水素ガスを排出しつつ新たにクランク室11に混入する水素ガスの量を抑えることで、クランク室11の水素濃度Jを効率よく低下させることができる。このように、本実施形態は、換気ファンを設けることなく、クランク室11の水素濃度Jを低下させることができる。
【0057】
なお、過給の停止とスロットル開度の変更とを行うと、内燃機関10のトルクが低下する。CPU111は、こうしたトルクの低下を補うべく、内燃機関10のトルクの低下分だけモータジェネレータ82のトルクを大きくする。したがって、内燃機関10及びモータジェネレータ82の双方から車軸73に入力するトータルとしてのトルクを過給の停止前の大きさに維持できる。
【0058】
(1-2)上記作用に記載したとおり、CPU111は、特定条件が成立したときの要求駆動力がある程度の大きさに限られる場合、車両90の駆動モードをモータリングモードにすることで、下流通路3Aを負圧にする。そのことで、クランク室11から水素ガスを排出できる。その上、車両90の駆動モードをモータリングモードにした場合、気筒2内への燃料供給ひいてはクランク室11への水素ガスの混入そのものがなくなる。したがって、クランク室11の水素濃度Jを速やかに低下させることができる。さらに、モータリングモードでは、要求駆動力をモータジェネレータ82で全て賄うことから、車軸73に入力するトルクも維持できる。
【0059】
(第2実施形態)
車両の制御装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、水素濃度算出処理の態様が第1実施形態とは異なる。それに付随して、第2実施形態では、回避用処理の内容が第1実施形態とは一部異なる。また、第2実施形態の内燃機関10は、濃度センサ32を有していない。これらの点を除いて、第2実施形態の内容は第1実施形態の内容と同じである。以下では、第1実施形態とは異なる部分を主として説明し、第1実施形態と重複した内容については説明を簡略、又は割愛する。
【0060】
本実施形態において、CPU111は、水素濃度算出処理では、写像データDを利用してクランク室11の水素濃度Jを算出する。記憶装置113は、この写像データDを予め記憶している。写像データDは、以下の5つの入力変数の値が入力されることにより出力変数の値を出力する写像を規定するものである。入力変数は、内燃機関10の運転継続時間(以下、単に運転時間と記す。)TM、下流圧力LP、機関負荷率KL、サイクル噴射量U、及び濃度前回値JAである。これらの入力変数は、内燃機関10の運転状態を表すパラメータである。また、出力変数は、クランク室11の水素濃度Jである。なお、上記の運転時間TMは、車両90の駆動モードがハイブリッドモードに切り替わる度にゼロから積算されていく値である。サイクル噴射量Uは、1燃焼サイクルで4つの気筒2に供給する燃料噴射量の総計である。濃度前回値JAは、水素濃度算出処理を前回実行したときに算出した水素濃度Jである。
【0061】
CPU111は、水素濃度算出処理の一環として、取得処理と算出処理とを実行可能である。CPU111は、ROM112が記憶しているプログラムを実行することにより、これら取得処理及び算出処理を行う。CPU111は、取得処理では、上記の各入力変数の値を取得する。CPU111は、算出処理では、取得処理によって取得した各入力変数の値を写像に入力することによって出力変数の値を算出する。なお、本実施形態において、CPU111は、ハイブリッドモードを選択している間、回避用処理とは別に、水素濃度算出処理を繰り返す。CPU111は、水素濃度算出処理を1燃焼サイクルにつき1回行う。CPU111は、水素濃度算出処理を行う度に、算出した水素濃度Jを記憶装置113に記憶させる。その際、CPU111は、新しい値で古い値を上書きする。したがって、記憶装置113は、常に最新の水素濃度Jを保持している。CPU111は、回避用処理のステップS10では、この最新の水素濃度Jを取得する。回避用処理のステップS50についても同様である。
【0062】
水素濃度算出処理の具体的な処理手順を説明する。図2に示すように、CPU111は、水素濃度算出処理を開始すると、先ずステップS610の処理を実行する。ステップS610において、CPU111は、各入力変数の値を取得する。具体的には、CPU111は、別途算出している運転時間TMについての最新の値を取得する。また、CPU111は、吸気圧センサ36から受信した最新の下流圧力LPを取得する。また、CPU111は、別途算出している機関負荷率KLの最新の値を取得する。また、CPU111は、現状で各気筒2に設定している燃料噴射量を基に、サイクル噴射量Uを算出する。このことは、CPU111がサイクル噴射量Uを取得することに相当する。また、CPU111は、記憶装置113が記憶している水素濃度Jの前回値を濃度前回値JAとして取得する。この後、CPU111は、処理をステップS620に進める。なお、ステップS610の処理は、取得処理である。
【0063】
ステップS620において、CPU111は、記憶装置113が記憶している写像データDの写像を利用して水素濃度Jを算出する前処理として、写像への入力用の入力変数x(1)~x(5)に、ステップS610の処理で取得した各変数の値を代入する。具体的には、CPU111は、入力変数x(1)に運転時間TMを代入する。CPU111は、入力変数x(2)に下流圧力LPを代入する。CPU111は、入力変数x(3)に機関負荷率KLを代入する。CPU111は、入力変数x(4)にサイクル噴射量Uを代入する。CPU111は、入力変数x(5)に濃度前回値JAを代入する。この後、CPU111は、処理をステップS630に進める。
【0064】
ステップS630において、CPU111は、写像データDの写像に入力変数x(1)~x(5)を入力することによって、出力変数yの値を算出する。すなわち、CPU111は、水素濃度Jを算出する。CPU111は、水素濃度Jを算出すると、算出した値によって現状で記憶装置113に記憶している水素濃度Jを上書きする。なお、ステップS630の処理は、算出処理である。
【0065】
写像について詳述する。本実施形態の写像は、中間層が一層の全結合順伝播型ニューラルネットワークとして構成されている。上記ニューラルネットワークは、入力側係数wFjk(j=0~n,k=0~5)と、入力側係数wFjkによって規定される線形写像である入力側線形写像の出力のそれぞれを非線形変換する入力側非線形写像としての活性化関数h(x)を含む。本実施形態では、活性化関数h(x)として、ハイパボリックタンジェント「tanh(x)」を例示する。また、上記ニューラルネットワークは、出力側係数wSj(j=0~n)と、出力側係数wSjによって規定される線形写像である出力側線形写像の出力のそれぞれを非線形変換する出力側非線形写像としての活性化関数f(x)を含む。本実施形態では、活性化関数f(x)として、ハイパボリックタンジェント「tanh(x)」を例示する。なお、値nは、中間層の次元を示すものである。入力側係数wFj0は、バイアスパラメータであり、入力変数x(0)の係数となっている。入力変数x(0)は「1」として定めてある。また、出力側係数wS0は、バイアスパラメータである。
【0066】
写像は、制御装置100に実装される以前に機械学習された学習済みモデルである。写像の学習にあたっては、学習に必要になる複数の学習データ組を事前に作成しておく。1つの学習データ組は、教師データと訓練データとで構成される。教師データは、クランク室11の水素濃度Jである。訓練データは、運転時間TM、下流圧力LP、機関負荷率KL、サイクル噴射量U、及び濃度前回値JAである。すなわち、訓練データは、写像への入力となる5つの変数を1組としたものである。学習データ組の作成にあたっては、車両90に搭載されているものと同一仕様の内燃機関10を対象に、内燃機関10の運転状態を様々に変更しつつ当該内燃機関10を駆動させる実験又はシミュレーションを行う。なお、この内燃機関10には、クランク室11の水素濃度Jを検出する濃度センサ32を設けておく。そして、上記の実験又はシミュレーションにおいて内燃機関10の運転状態を様々に変更していくなかで、各タイミングにおける上記の各入力変数の値、及び濃度センサ32が検出する水素濃度Jの値を順時取得していく。なお、入力変数のうち、濃度前回値JAについては、1つ前の燃焼サイクルで濃度センサ32が検出した水素濃度Jの値とする。そうした取得データについて、あるタイミングでの運転時間TM、下流圧力LP、機関負荷率KL、サイクル噴射量U、及び濃度前回値JAの組み合わせと、そのときの水素濃度Jとを、1つの学習データ組とする。こうした学習データ組を複数作成する。写像を学習するのに必要な数の学習データ組が蓄積すると、それら複数の学習データ組を利用して写像の学習を行う。すなわち、各学習データ組のそれぞれについて、訓練データを入力として写像が出力する水素濃度Jの値と、教師データの値との差が所定値以下になるように、写像の入力側係数及び出力側係数を調整する。そして、上記の差が所定値以下になることにより、学習が完了したものとする。
【0067】
<第2実施形態の作用>
写像への入力変数として上記の各パラメータを採用している理由を説明する。
先ず、運転時間TMについて説明する。内燃機関10の運転中、仮にクランク室11から水素ガスが排出されない状態が継続すれば、運転時間TMが長いほどクランク室11の水素濃度Jは高くなり得る。また、運転時間TMは、例えば内燃機関10の始動後の暖機の進み具合といった、内燃機関10の運転状態を表す一情報にもなる。こうした情報を水素濃度Jの算出に踏まえる上で、運転時間TMは有効なパラメータである。
【0068】
次に、下流圧力LPについて説明する。第1実施形態で説明したとおり、下流圧力LPの大小に応じてPCVバルブ53の開閉が切り替わる。そして、下流圧力LPが低いほど第1連通路51を通じてクランク室11から排出される水素ガスが多くなり得る。下流圧力LPを入力変数に含めることで、こうした関係を写像に反映させることができる。
【0069】
次に、機関負荷率KLについて説明する。機関負荷率KLは、気筒2内のガスの圧力と関連したパラメータである。そして、機関負荷率KLが高いほど気筒2からクランク室11へと混入する水素ガスが多くなり得る。また、機関負荷率KLが高ければクランク室11の圧力RPは高くなり得る。したがって、この機関負荷率KLと下流圧力LPとの双方を入力変数に含めることで、クランク室11の圧力RP及び下流圧力LPの大小関係と、水素濃度Jとの関連を写像に反映させることができる。
【0070】
次に、サイクル噴射量Uについて説明する。燃料噴射量が多いほど、クランク室11の水素濃度Jは高くなり得る。サイクル噴射量Uを入力変数に採用することで、こうした関係を写像に反映させることができる。
【0071】
次に、濃度前回値JAについて説明する。濃度前回値JAは、新たな水素濃度Jを算出する上での基準の値になり得る。例えば、濃度前回値JAと下流圧力LPとを入力変数に含めておくことで、写像で出力される水素濃度Jは、濃度前回値JAに対して下流圧力LPに応じた分だけ減少した値になり得る。また、例えば、濃度前回値JAとサイクル噴射量Uとを入力変数に含めておくことで、写像で出力される水素濃度Jは、濃度前回値JAに対して燃料噴射量の分だけ増加した値になり得る。このように、濃度前回値JAを他のパラメータと合わせて入力変数に採用することで、水素濃度Jのそれまでの履歴を反映した正確な水素濃度Jを算出することが可能になる。
【0072】
<第2実施形態の効果>
本実施形態では、写像を利用して水素濃度Jを算出する。この場合、適切な教師データ及び訓練データを用意できれば、高精度の水素濃度Jを出力する写像を作成できる。そして、写像を利用して水素濃度Jを算出できると、濃度センサ32を廃止できる。したがって、濃度センサ32を設けることによるコストアップを抑えられる。
【0073】
(変更例)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0074】
・第1開度V1は、上記実施形態の例に限定されない。第1開度V1は、下流圧力LPをクランク室11の圧力RPよりも小さくできる開度であればよい。この点、第2開度V2についても同様である。
【0075】
・第1低下処理でスロットル開度を小さくする上で、第1開度V1といった目標到達開度を定めるのではなく、スロットル開度の変更量を予め定めておいてもよい。この場合の変更量は、下流圧力LPをクランク室11の圧力RPに比べて小さくするのに必要な値として、例えば実験又はシミュレーションで定めておけばよい。この点、第2低下処理についても同様である。
【0076】
・第2低下処理においてコンプレッサホイール41による吸入空気の過給を停止させることは必須ではない。下流圧力LPがクランク室11の圧力RPに比べて小さくなりさえすれば、過給を継続していても、第1連通路51を介してクランク室11から水素ガスを排出できる。そこで、第2低下処理では、過給を停止することなく、コンプレッサホイール41の回転速度を予め定められた規定低下量だけ低下させてもよい。規定低下量は、下流圧力LPをクランク室11の圧力RPに比べて小さくするのに必要な、コンプレッサホイール41の回転速度の低下量として、例えば実験又はシミュレーションで予め定めておけばよい。そして、コンプレッサホイール41の回転速度を規定低下量だけ低下させるのに必要な量だけWGV63の開度を変更すればよい。
【0077】
・第2低下処理では、コンプレッサホイール41の回転速度を段階的に小さくしてもよい。例えば、コンプレッサホイール41の回転速度を、ゼロよりも高い回転速度まで一旦低下させる。そして、その回転速度を暫く継続しても水素濃度Jの低下が進み難い場合に、コンプレッサホイール41の回転速度をゼロにして過給を停止させてもよい。
【0078】
・増加処理の内容は、上記実施形態の例に限定されない。増加処理では、第2低下処理での内燃機関10のトルクの低下分に合わせて、モータジェネレータ82のトルクを増加させればよい。そうすれば、車軸73に入力するトルクを第2低下処理の実行前と同じ大きさに維持できる。
【0079】
・増加処理においてモータジェネレータ82のトルクを増加させるにあたり、内燃機関10のトルクの低下分を全て補うことは必須ではない。増加処理で少しでもモータジェネレータ82のトルクを大きくすれば、車軸73に入力するトルクの低下を少なからず抑えることができる。
【0080】
・制限制御の内容は、上記実施形態の例に限定されない。制限制御の内容は、第2低下処理の内容に合わせて適宜変更してよい。例えば、上記変更例のように、第2低下処理において過給を停止させない場合、第2低下処理の終了時点のコンプレッサホイール41の回転速度を過給の上限として、内燃機関10を制御すればよい。その上で、要求駆動力を実現できるようにモータジェネレータ82を制御すればよい。
【0081】
・モータリングモードでの制御の終了の判断の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、モータリングモードを開始してから予め定められた一定期間が経過したときにモータリングモードを終了してもよい。この場合、水素濃度Jの低下速度を考慮して、上記一定期間を適切な値に定めておけばよい。制限制御を終了するタイミングについても同様である。モータリングモードと制限制御とで、終了までの継続期間を異なる長さに設定してもよい。
【0082】
・停車用処理を廃止してもよい。ここで、内燃機関10の軽負荷状態では、下流圧力LPがクランク室11の圧力RPよりも小さい状況になり得る。したがって、水素ガスを排出するための特別の処理を行わなくても、車両90が次に走行する機会に内燃機関10が始動して軽負荷状態になると、自ずとクランク室11から水素ガスを排出できる。
【0083】
・モータリング閾値の定め方は、適宜変更可能である。上記(1-2)に記載したとおり、モータリングモードでは、気筒2への燃料供給そのものを停止することから、クランク室11での水素濃度Jを速やかに低下させることができる。モータリング閾値を極力大きく設定しておけば、車両90の駆動モードをモータリングモードに切り替える機会が増える。そして、上記の(1-2)の効果を得られる機会を増やすことができる。モータリング閾値をバッテリ79の充電率に応じて可変に設定してもよい。
【0084】
・モータリングモードに関して、内燃機関10で混合気の燃焼を停止させることは必須ではない。すなわち、モータリングモードでは、内燃機関10で混合気の燃焼を継続しつつモータジェネレータ82によってクランクシャフト7を回転させてもよい。このとき内燃機関10は、例えばアイドル運転など、当該内燃機関10の出力するトルクが限定的な状態で駆動される。アイドル運転とは、内燃機関10が自立して運転可能な最小限度の機関回転速度NEで内燃機関10を運転させることである。
【0085】
・圧力低下処理として、下流圧力LPを低下させる手法は、上記実施形態の例に限定されない。すなわち、圧力低下処理は、コンプレッサホイール41の回転速度を低下させたり、スロットル開度を小さくしたりすることに限らない。例えば、圧力低下処理として、吸気バルブ可変装置によって吸気バルブ15の開弁時期を進角させてもよい。吸気バルブ15の開弁時期が進角されると、吸気行程において下流通路3Aから気筒2内に吸入される空気の量が増えるため、下流通路3Aの空気の量が低下する。下流通路3Aの空気の量が低下すると、下流圧力LPは低下する。こうした点を踏まえ、例えば、上記実施形態の第2低下処理において、コンプレッサホイール41による過給を停止させるとともに吸気バルブ15の開弁時期を進角させるといった処理を行ってもよい。
【0086】
・特定条件は、上記実施形態の例に限定されない。ここで、クランク室11からの水素ガスの排出は速やかに終わることが多い。したがって、モータリングモードや制限制御の実行に伴うバッテリ79の充電率の低下量は僅かであることが多い。こうした観点からいって、例えばモータリングモードや制限制御の実行時間を予め短く設定しておけば、項目(N3)を廃止することも可能である。特定条件は、クランク室11の水素濃度Jが判定値JS以上であるという項目を含んでいればよい。
【0087】
・判定値JSの定め方は、適宜変更可能である。判定値JSは、クランク室11からの水素ガスの排出が必要となる値を設定しておけばよい。
・写像を利用してクランク室11の水素濃度Jを算出する場合において、写像の入力変数として採用するパラメータは、上記実施形態の例に限定されない。入力変数は、上記実施形態のものに代えて又は加えて、他のパラメータを採用してもよい。例えば、入力変数として、コンプレッサホイール41の回転速度、過給圧QP、機関回転速度NE、吸入空気量GAなどを採用してもよい。入力変数の数を上記実施形態の数から減らしてもよい。入力変数として採用するパラメータを上記実施形態の例から変更する場合でも、複数の入力変数の1つに下流圧力LPを含んでいれば、相応に正確に水素濃度Jを算出できる。
【0088】
・複数の入力変数の1つに下流圧力LPを含める上で、下流圧力LPそのものを入力変数として採用するのではなく、下流圧力LPの指標となるパラメータを採用してもよい。例えば、下流圧力LPの大小を複数段階のレベルに分け、そうしたレベルを示す値を入力変数として採用してもよい。
【0089】
・出力変数は、水素濃度Jそのものでなくてもよい。上記変更例と同様、水素濃度Jの大小を複数段階のレベルに分け、そうしたレベルを示す値を出力変数として採用してもよい。出力変数は、水素濃度Jを示す変数であればよい。
【0090】
・写像の構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、ニューラルネットワークにおける中間層の層数を2つ以上にしてもよい。
・水素濃度Jの算出方法は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、水素濃度Jと、内燃機関10の運転状態を示すパラメータとの関係を表したマップを作成しておいてもよい。マップは、表又はグラフに限らず、数式でもよい。水素濃度Jの算出方法は、内燃機関10の運転状態に基づいて当該水素濃度Jを算出できるものであればよい。
【0091】
・内燃機関10の構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、気筒2の数を上記実施形態の数から変更してもよい。燃料噴射弁17を、吸気通路3を介して気筒2に燃料を供給するタイプのものに変更してもよい。過給機40の構成を変更してもよい。例えば、過給機として、ノズルベーンを備える可変容量型のものを採用してもよい。この場合、下流圧力LPを低下させるべくコンプレッサホイールの回転速度を変更するにあたり、ノズルベーンの開度を変更すればよい。また、過給機として、コンプレッサホイールを電動モータで回転させる電動式のものを採用してもよい。この場合、コンプレッサホイールの回転速度を変更するにあたり、電動モータの回転速度を変更すればよい。なお、内燃機関10が過給機を有することは必須ではない。過給機を有さない内燃機関10であっても、スロットル開度の変更などによって圧力低下処理を実現できる。ブローバイガス処理機構の構成を、上記実施形態の態様から変更してもよい。ブローバイガス処理機構は、クランク室11と下流通路3Aとを繋ぐ連通路を有していればよい。連通路の構成は、上記実施形態の例に限らず、クランク室11と下流通路3Aとを繋いだものであればよい。例えば、連通路は、シリンダブロック12及びシリンダヘッド18を貫通した構成でもよい。この場合の具体的な構成は以下のとおりである。内燃機関10に、クランク室11に開口されているとともにシリンダブロック12及びシリンダヘッド18を上下に貫通する貫通孔を設ける。そして、この貫通孔におけるクランク室11とは反対側の開口を、シリンダヘッド18とシリンダヘッドカバーとの間に区画されるガスの貯蓄空間に連通させる。そして、この貯蓄空間を、シリンダヘッドカバーの外部を通過して下流通路3Aへと至る規定通路で下流通路3Aに接続する。こうした貫通孔、貯蓄空間、及び規定通路によって、連通路を構成してもよい。
【0092】
・水素濃度Jを算出する上で対象とする領域は、クランク室11のみに限らない。クランク室11のみならず連通路も含めた領域を対象として水素濃度Jを算出してもよい。さらに、連通路のみを対象として水素濃度Jを算出してもよい。クランク室11の一部、又は連通路の一部のみを対象として水素濃度Jを算出してもよい。クランク室11の全領域と連通路の全領域とを合わせた領域を対象領域と呼称する。水素濃度Jは、対象領域のうちのある特定部分を対象として算出してあればよい。上記実施形態の場合、クランク室11の全領域が特定部分に相当する。
【0093】
・車両90の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、車両は、駆動源として、内燃機関10に加え、2つのモータジェネレータを有していてもよい。この場合でも、2つのモータジェネレータのうちのいずれかを、車軸にトルクを付与できる車軸用モータとしておけば、次のことが可能になる。すなわち、圧力低下処理を実行したときに、車軸用モータから車軸に入力するトルクを大きくすれば、車軸に入力するトルクの低下を抑制できる。また、上記のように、車両の駆動源として、2つのモータジェネレータを有する構成において、2つのモータジェネレータのうちのいずれかを、内燃機関10にトルクを付与できる機関用モータとしておけば、次のことが可能になる。すなわち、内燃機関10での燃料の燃焼を停止させつつ機関用モータのトルクによりクランクシャフト7を回転させることができる。これにより、上記実施形態の第1低下処理と同様、クランク室11から水素ガスを排出できる。車両の駆動源として2つモータジェネレータを有する場合において、車軸用モータと機関用モータとは同一であってもよいし別々であってもよい。
【0094】
・車両は、駆動源として内燃機関10のみを有し、モータジェネレータを有していなくてもよい。こういった車両でも、水素濃度Jが高くなったときに、例えばスロットル開度を予め定められた規定開度だけ小さくすることによって下流圧力LPを低下させれば、クランク室11から水素ガスを排出できる。上記規定開度は、下流圧力LPをクランク室11の圧力RPに比べて小さくするのに必要な、スロットル開度の減少量として、例えば実験又はシミュレーションで予め定めておけばよい。
【0095】
(付記事項)
上記実施形態及び変更例は、以下に記載する構成を含む。
[付記1]クランク室から、吸気通路におけるスロットルバルブに対して下流側の部分である下流通路までを繋ぐ連通路を有し、且つ水素を燃料とする内燃機関を搭載した車両を制御対象とし、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記クランク室と前記連通路とを合わせた対象領域のうちの特定部分における水素濃度を算出する水素濃度算出処理と、前記水素濃度が予め定められた判定値以上であることを含む条件が成立したときに、当該条件が成立した時点に比べて前記下流通路の圧力を低下させる圧力低下処理と、を実行する車両の制御装置。
【0096】
[付記2]前記圧力低下処理は、前記条件が成立した時点に比べて前記スロットルバルブの開度を小さくする処理である[付記1]に記載の車両の制御装置。
[付記3]前記内燃機関は、前記吸気通路における前記スロットルバルブに対して上流側に、吸入空気を過給するコンプレッサホイールを有し、前記圧力低下処理は、前記条件が成立した時点に比べて前記コンプレッサホイールの回転速度を低下させる処理である[付記1]に記載の車両の制御装置。
【0097】
[付記4]前記圧力低下処理は、前記コンプレッサホイールによる吸入空気の過給を停止させ、さらに前記スロットルバルブの開度を全開よりも小さくする処理である[付記3]に記載の車両の制御装置。
【0098】
[付記5]前記車両は、車輪に駆動力を伝達するための車軸にトルクを付与可能なモータを有し、前記圧力低下処理を実行する場合、前記条件が成立した時点に比べて前記モータから前記車軸に入力するトルクを大きくする[付記1]~[付記4]の何れか1つに記載の車両の制御装置。
【0099】
[付記6]前記車両は、前記内燃機関のクランクシャフトにトルクを付与可能なモータを有し、前記圧力低下処理は、前記モータのトルクにより前記クランクシャフトを回転させ、且つ前記条件が成立した時点に比べて前記スロットルバルブの開度を小さくする処理である[付記1]に記載の車両の制御装置。
【0100】
[付記7]記憶装置と、実行装置とを有し、前記記憶装置は、複数の入力変数が入力されることにより、前記水素濃度を示す変数を出力変数として出力する写像であって、機械学習により学習済みの前記写像を規定する写像データを予め記憶しており、前記写像は、複数の前記入力変数の1つとして、前記下流通路の圧力を示す変数を含み、前記実行装置は、前記水素濃度算出処理として、前記入力変数の値を取得する取得処理と、前記取得処理によって取得した前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行する[付記1]~[付記6]の何れか1つに記載の車両の制御装置。
【符号の説明】
【0101】
3…吸気通路
3A…下流通路
7…クランクシャフト
10…内燃機関
11…クランク室
29…スロットルバルブ
41…コンプレッサホイール
51…第1連通路
72…駆動輪
73…車軸
82…モータジェネレータ
90…車両
100…制御装置
111…CPU
112…ROM
113…記憶装置
図1
図2
図3
図4