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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】判定装置、判定方法及び判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20250701BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20250701BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20250701BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250701BHJP
   B60L 1/00 20060101ALN20250701BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20250701BHJP
   B60L 58/16 20190101ALN20250701BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/388
B60R16/04 W
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L1/00 L
B60L50/60
B60L58/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022116657
(22)【出願日】2022-07-21
(65)【公開番号】P2024014081
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 伸烈
(72)【発明者】
【氏名】近藤 佑美
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-162991(JP,A)
【文献】特開2004-135453(JP,A)
【文献】特開2004-190604(JP,A)
【文献】特開2004-236381(JP,A)
【文献】特開2000-324702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0066406(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
B60R 16/04
H01M 10/48
B60L 1/00
B60L 50/60
B60L 58/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたバッテリの電圧値の情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記情報に基づき、前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が所定の第1閾値を上回り、かつ、前記バッテリの電圧が所定の第2閾値を下回った場合に、前記バッテリが劣化していると判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかを、前記バッテリの電圧が第1電圧を下回った頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかで判定する、判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記バッテリの電圧が前記第2閾値を下回ったかどうかの判定を、前記第1電圧より低い第2電圧を下回ったかどうかで判定する、請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかを、前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止するフラグが立った頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかで判定する、請求項1に記載の判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記バッテリの温度が所定の基準値の範囲の場合においてのみ判定する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記バッテリの温度が前記基準値の範囲では無い場合、前記基準値の範囲の場合の電圧に補正して判定する、請求項4に記載の判定装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記バッテリが所定時間以上使用されなかった場合の前記情報を用いて判定する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項7】
前記バッテリが劣化していると前記判定部が判定した場合に、該判定の結果を外部に出力する出力部をさらに備える、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項8】
プロセッサが、
車両に搭載されたバッテリの電圧値の情報を取得し、
取得した前記情報に基づき、前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が所定の第1閾値を上回り、かつ、前記バッテリの電圧が所定の第2閾値を下回った場合に、前記バッテリが劣化していると判定し、
前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかを、前記バッテリの電圧が第1電圧を下回った頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかで判定
処理を実行する、判定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
車両に搭載されたバッテリの電圧値の情報を取得し、
取得した前記情報に基づき、前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が所定の第1閾値を上回り、かつ、前記バッテリの電圧が所定の第2閾値を下回った場合に、前記バッテリが劣化していると判定し、
前記バッテリのエネルギーを消費する前記車両の制御を禁止する頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかを、前記バッテリの電圧が第1電圧を下回った頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかで判定する
処理を実行させる、判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、判定方法及び判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるバッテリが劣化すると、車両の始動不良又はエンジンストールが発生する。そのため、車両に搭載されるバッテリが劣化しているかどうかを判定するための技術が開示されている、特許文献1には、バッテリ電圧の電圧変化を算出し、バッテリ電圧の電圧変化と所定の判定値とに基づいてバッテリの劣化を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-214248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、バッテリ電圧は、バッテリの劣化以外にも、例えばSOC(State of Charge;充電状態)の低下、又は温度低下によっても発生する。従って、単にバッテリ電圧を用いたルールベースでの判定ではバッテリの劣化を正しく判定できない。一方、判定精度の向上のために物理モデル又は人工知能(AI)を用いると、パラメータの決定等の事前準備の負荷が発生する。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、事前準備の負荷を発生させること無く、ルールベースでの判定と比較してバッテリの劣化の判定精度を向上させる判定装置、判定方法及び判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る判定装置は、車両に搭載されたバッテリの電圧値の情報を含んだ前記バッテリの状態に関する情報を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記情報に基づき、前記バッテリを用いた前記車両の制御を禁止する頻度が所定の第1閾値を上回り、かつ、前記バッテリの電圧が所定の第2閾値を下回った場合に、前記バッテリが劣化していると判定する判定部と、を備える。
【0007】
本発明の第1態様によれば、車両の制御を禁止する頻度及び電圧値の情報を用いることで、事前準備の負荷を発生させること無く、ルールベースでの判定と比較してバッテリの劣化の判定精度を向上させることができる。
【0008】
本発明の第2態様に係る判定装置は、第1態様に係る判定装置であって、前記判定部は、前記バッテリを用いた前記車両の制御を禁止する頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかを、前記バッテリの電圧が第1電圧を下回った頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかで判定する。
【0009】
本発明の第2態様によれば、バッテリの電圧が第1電圧を下回った頻度を用いて車両の制御を禁止する頻度を用いた判定とすることができる。
【0010】
本発明の第3態様に係る判定装置は、第2態様に係る判定装置であって、前記判定部は、前記バッテリの電圧が前記第2閾値を下回ったかどうかの判定を、前記第1電圧より低い第2電圧を下回ったかどうかで判定する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、バッテリの電圧が第1電圧より低い第2電圧を下回ったかどうかによってバッテリが劣化しているかどうかの判定をすることができる。
【0012】
本発明の第4態様に係る判定装置は、第1態様に係る判定装置であって、前記判定部は、前記バッテリを用いた前記車両の制御を禁止する頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかを、前記バッテリを用いた前記車両の制御を禁止するフラグが立った頻度が前記第1閾値を上回ったかどうかで判定する。
【0013】
本発明の第4態様によれば、バッテリを用いた車両の制御を禁止するフラグが立った頻度を用いて車両の制御を禁止する頻度を用いた判定とすることができる。
【0014】
本発明の第5態様に係る判定装置は、第1態様~第4態様のいずれかに係る判定装置であって、前記判定部は、前記バッテリの温度が所定の基準値の場合においてのみ判定する。
【0015】
本発明の第5態様によれば、温度の変動によるバッテリの電圧の変化による誤判定を回避できる。
【0016】
本発明の第6態様に係る判定装置は、第5態様に係る判定装置であって、前記判定部は、前記バッテリの温度が前記基準値では無い場合、前記基準値の場合の電圧に補正して判定する。
【0017】
本発明の第6態様によれば、温度の変動によるバッテリの電圧の変化を考慮した判定をすることができる。
【0018】
本発明の第7態様に係る判定装置は、第1態様~第4態様のいずれかに係る判定装置であって、前記判定部は、前記バッテリが所定時間以上使用されなかった場合の前記情報を用いて判定する。
【0019】
本発明の第7態様によれば、バッテリの内部の濃度勾配の変動によるバッテリの電圧の変化を考慮した判定をすることができる。
【0020】
本発明の第8態様に係る判定装置は、第1態様~第4態様のいずれかに係る判定装置であって、前記バッテリが劣化していると前記判定部が判定した場合に、該判定の結果を外部に出力する出力部をさらに備える。
【0021】
本発明の第8態様によれば、車両のバッテリが劣化しているかどうかを知らせることができる。
【0022】
本発明の第9態様に係る判定方法は、プロセッサが、車両に搭載されたバッテリの電圧値の情報を含んだ前記バッテリの状態に関する情報を取得し、取得した前記情報に基づき、前記バッテリを用いた前記車両の制御を禁止する頻度が所定の第1閾値を上回り、かつ、前記バッテリの電圧が所定の第2閾値を下回った場合に、前記バッテリが劣化していると判定する処理を実行する。
【0023】
本発明の第9態様によれば、車両の制御を禁止する頻度及び電圧値の情報を用いることで、事前準備の負荷を発生させること無く、ルールベースでの判定と比較してバッテリの劣化の判定精度を向上させることができる。
【0024】
本発明の第10態様に係る判定プログラムは、コンピュータに、車両に搭載されたバッテリの電圧値の情報を含んだ前記バッテリの状態に関する情報を取得し、取得した前記情報に基づき、前記バッテリを用いた前記車両の制御を禁止する頻度が所定の第1閾値を上回り、かつ、前記バッテリの電圧が所定の第2閾値を下回った場合に、前記バッテリが劣化していると判定する処理を実行させる。
【0025】
本発明の第10態様によれば、車両の制御を禁止する頻度及び電圧値の情報を用いることで、事前準備の負荷を発生させること無く、ルールベースでの判定と比較してバッテリの劣化の判定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、事前準備の負荷を発生させること無く、ルールベースでの判定と比較してバッテリの劣化の判定精度を向上させる判定装置、判定方法及び判定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】開示の技術の実施形態に係る判定システムの概略構成を示す図である。
図2】判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】バッテリの劣化時の時間とバッテリの状態量との関係の一例を示す図である。
図4】バッテリのSOCの低下時の時間とバッテリの状態量との関係の一例を示す図である。
図5】バッテリのSOCと電圧との関係の例を示す図である。
図6】バッテリが初期状態にある場合と、バッテリの劣化が進んだ状態の場合とを比較して説明する図である。
図7】車両のトリップ数とS&S(Start and Stop)制御が禁止された回数との関係の一例を示す図である。
図8】車両のトリップ数と、バッテリの電圧及び車両の制御禁止頻度との関係の一例を示す図である。
図9】判定装置による判定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0029】
図1は、本実施形態に係る判定システムの概略構成を示す図である。
【0030】
図1に示した判定システムは、車両10と、判定装置20と、を備える。車両10と、判定装置20とは、所定の無線ネットワークで通信可能に接続される。
【0031】
車両10は、バッテリ110と、データ送信部120と、を含む。ここでは、本実施形態に不要な構成は省略している。本実施形態では、車両10のバッテリ110は、車両10を動作させるための補機バッテリである。
【0032】
判定装置20は、車両10のバッテリ110が劣化しているかどうかを判定する装置であり、例えばサーバとして構成されうる。
【0033】
図2は、判定装置20のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0034】
図2に示すように、判定装置20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、ストレージ24、入力部25、表示部26及び通信インタフェース(I/F)27を有する。各構成は、バス29を介して相互に通信可能に接続されている。
【0035】
CPU21は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU21は、ROM22またはストレージ24からプログラムを読み出し、RAM23を作業領域としてプログラムを実行する。CPU21は、ROM22またはストレージ24に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM22またはストレージ24には、車両10のバッテリ110の劣化を判定する判定プログラムが格納されている。
【0036】
ROM22は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM23は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ24は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはフラッシュメモリ等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0037】
入力部25は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0038】
表示部26は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部26は、タッチパネル方式を採用して、入力部25として機能しても良い。
【0039】
通信インタフェース27は、車両10等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0040】
上記の判定プログラムを実行する際に、判定装置20は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。図1に戻って、判定装置20が実現する機能構成について説明する。
【0041】
図1に示すように、判定装置20は、機能構成として、取得部210、判定部220および出力部230を有する。各機能構成は、CPU21がROM22またはストレージ24に記憶された判定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0042】
取得部210は、車両10に搭載されたバッテリ110の電圧値の情報を含んだ、バッテリ110の状態に関する情報を取得する。バッテリ110の状態に関する情報は、バッテリ110の備えられたバッテリ情報取得部111によって取得される。バッテリ110の状態に関する情報は、バッテリ110の電圧値の他には、バッテリ110の温度の情報が含まれ得る。バッテリ110の状態に関する情報は、データ送信部120によって判定装置20に送信される。データ送信部120は、バッテリ110の状態に関する情報を、車両10のトリップの開始時(車両10が始動したタイミング)、車両10の停止時等の所定のタイミングで判定装置20へ送信する。
【0043】
判定部220は、取得部210が取得したバッテリ110の状態に関する情報を用いて、バッテリ110が劣化しているかどうかを判定する。判定部220によるバッテリ110の劣化の判定について説明する。
【0044】
バッテリ110の劣化を判定する方法として、バッテリ電圧に基づいて判定する方法がある。しかしバッテリ電圧は、バッテリの劣化以外にも、SOCの低下によっても低下する。図3は、バッテリの劣化時の時間とバッテリの状態量(例えば、電圧)との関係の一例を示す図であり、図4は、バッテリのSOCの低下時の時間とバッテリの状態量(例えば、電圧)との関係の一例を示す図である。図5は、バッテリのSOCと電圧との関係の例を示す図である。
【0045】
所定の閾値を下回ったことによってバッテリが劣化したと判定する単純なルールベースのロジックを用いた場合、実際にはバッテリが劣化していなくても、バッテリのSOCの低下によってもバッテリの劣化と判定してしまう可能性がある。
【0046】
バッテリの劣化の場合と、バッテリのSOC低下の場合とでは、図3及び図4に示したように、バッテリの状態量の時間に応じた低下の度合いが異なる。従って、バッテリの劣化とバッテリのSOCの低下とを判別するために、物理モデル又は人工知能(AI)を用いると、バッテリの劣化の検知は容易となる反面、パラメータの決定等の事前準備の負荷が発生する。
【0047】
すなわち、単純なルールベースのロジックを用いると、判定の負荷は物理モデル又は人工知能を用いた場合に比べて低いが、判定精度は物理モデル又は人工知能を用いた場合に比べて劣る。
【0048】
バッテリ110のSOCが低下すると、劣化を促進したり、電圧の低下による車両10の始動不良に繋がったりする。そのため、車両10が走行中のバッテリ110のSOCは高い状態が維持されるように制御される。一方で、バッテリ110のエネルギーを消費する車両10の制御が存在する。バッテリ110のエネルギーを消費する車両10の制御を以下の説明では単に車両制御とも称する。例えばS&S制御の場合、信号待ち等の停止時にエンジンが停止し、オルタネータが停止するためにバッテリ110は充電されず、発進時にエンジンが再始動するため、発進時にバッテリ110のエネルギーが消費される。このため、車両10はS&S制御の際に、バッテリ110のSOC状態を高い状態に保持するため、バッテリ110の電圧レベルを監視してS&S制御を実行するかどうかを判断している。S&S制御を実行しない場合は、停止時にもオルタネータが動作するため、バッテリ110の充電が行われる。図5で示したように、一般的にバッテリの電圧とSOCとには相関関係がある。
【0049】
図6は、バッテリ110が初期状態にある場合と、バッテリ110の劣化が進んだ状態の場合とを比較して説明する図である。
【0050】
バッテリ110が初期状態の場合、車両10のS&S制御によりバッテリ110のSOC及び電圧が低下したとしても、電圧がある閾値以下になればS&S制御が禁止されるために、いずれバッテリ110は充電され、バッテリ110のSOC及び電圧が回復する。
【0051】
一方、バッテリ110の劣化が進んだ状態(劣化末期状態)の場合、バッテリ110が充電されても電圧が回復しなくなる。言い換えれば、バッテリ110の劣化末期状態の場合、SOCの状態によらず電圧が閾値を超えることが出来ず、常にS&S制御が禁止されることになる。そのため、電圧レベル又は車両のS&S制御の頻度により、バッテリ110の劣化状態を検知することが可能になる。
【0052】
図7は、車両10のトリップ数とS&S制御が禁止された回数との関係の一例を示す図である。バッテリ110が初期状態にある頃は、S&S制御が禁止された頻度は低く、例えば10トリップに1度程度である。その後、バッテリ110の劣化が徐々に進むに連れ、S&S制御が禁止された頻度が上昇し、バッテリ110の劣化末期状態ではS&S制御が毎トリップ禁止されるようになる。すなわち、バッテリ110の劣化が進行するに連れて制御禁止頻度が1に向かって上昇する。
【0053】
判定部220は、このようにバッテリ110の劣化が進行するに連れて制御禁止頻度が1に向かって上昇する特徴を利用して、バッテリ110が劣化しているかどうかを判定する。具体的には、車両制御の停止によりバッテリ110の電圧の回復が想定される電圧回復閾値と、バッテリ110の劣化を判定する劣化判定閾値とを設定する。なお、電圧回復閾値は、劣化判定閾値以上であるとする。
【0054】
判定部220は、バッテリ110の電圧が電圧回復閾値未満となった頻度(制御禁止頻度)を計算する。バッテリ110の劣化末期状態では、制御禁止頻度が1に近づくため、判定部220は、制御禁止頻度が所定の第1閾値(例えば0.5)を上回ったタイミングで電圧回復不能フラグをONにする(フラグを立てる)。
【0055】
また、判定部220は、バッテリ110の電圧が劣化判定閾値未満の場合に電圧低下フラグをONにする。劣化判定閾値は、本発明の第2閾値の一例である。
【0056】
そして判定部220は、電圧回復不能フラグと電圧低下フラグとが共にONになっている場合に、バッテリ110が劣化したと判定する。
【0057】
図8は、車両10のトリップ数と、バッテリ110の電圧及び車両10の制御禁止頻度との関係の一例を示す図である。ここで車両10の制御禁止頻度は、直近の所定回数(例えば10回)における制御禁止判定がなされた頻度である。
【0058】
図8の例では、トリップ数がt1になってバッテリ110の電圧が電圧回復閾値を下回り、車両10の制御禁止頻度が上昇するが、トリップ数がt2になってバッテリ110の電圧が電圧回復閾値を上回ると、車両10の制御禁止頻度が再び低下する。
【0059】
その後、トリップ数がt3になってバッテリ110の電圧が電圧回復閾値を下回り、車両10の制御禁止頻度が上昇し、さらに制御禁止頻度が所定の第1閾値(例えば0.5)を上回ったタイミングで、判定部220は電圧回復不能フラグをONにする。その後、さらにバッテリ110の電圧が劣化判定閾値を下回ると、判定部220は電圧低下フラグをONにする。その後トリップ数がt4になってバッテリ110の電圧が電圧回復閾値を上回っても、このバッテリ110は劣化したと判定部220によって判定されたことになる。
【0060】
判定部220は、このようにバッテリ110の電圧が電圧回復閾値未満となった頻度と、バッテリ110の電圧が劣化判定閾値未満となったかどうかと、に基づいてバッテリ110の劣化を判定することで、事前の適合工数を要することなく、またルールベースのロジックに比べて精度良くバッテリ110が劣化したことを判定できる。
【0061】
判定部220は、制御禁止頻度の算出のために、電圧が電圧回復閾値を下回ったかどうか判断する代わりに、車両10での実際の車両制御の禁止フラグの情報を用いてもよい。また判定部220は、制御禁止頻度の算出のために、バッテリ110の電圧の情報に加え、バッテリ110の温度の情報並びにバッテリ110の充電量及び放電量の情報を用いてもよい。判定部220は、バッテリ110の温度の情報を用いる場合、バッテリ110の温度の変動によるバッテリの電圧の変化による誤判定を回避したり、温度低下による電圧低下の影響を除外し、充電及び放電による電圧低下を考慮したりできる。例えば、判定部220は、バッテリ110の温度が基準値の範囲の場合の充電量及び放電量の情報を用いてもよい。また例えば、判定部220は、バッテリ110の温度が基準値の範囲で無かった場合は判定を行わなくてもよく、基準値の範囲における電圧値、充電量及び放電量に補正して、その電圧値、充電量及び放電量の情報を用いてもよい。なお判定部220は、補正に際しては、温度と、電圧値、充電量及び放電量との関係が規定されたテーブルを用いてもよい。
【0062】
また判定部220は、所定の時間以上駐車した後等の、長時間放置された後のバッテリ110の電圧値を用いてもよい。長時間放置された後のバッテリ110の電圧値を用いることで、バッテリ110の内部の温度又は濃度勾配による電圧変化の影響を排除した判定が可能となる。
【0063】
出力部230は、判定部220による判定結果を外部へ出力する。出力部230は、判定部220による判定結果を、例えば車両10のメーカー、車両10を販売した販売店又はディーラー、車両10のユーザ等に送信する。
【0064】
次に、判定装置20の作用について説明する。
【0065】
図9は、判定装置20による判定処理の流れを示すフローチャートである。CPU21がROM22又はストレージ24から位置確認プログラムを読み出して、RAM23に展開して実行することにより、判定処理が行なわれる。
【0066】
CPU21は、ステップS101において、車両10毎のバッテリ110の電圧値を取得する。
【0067】
ステップS101に続いて、CPU21は、ステップS102において、車両10の制御禁止頻度を算出する。CPU21は、例えば直近10トリップにおけるバッテリ110の電圧が電圧回復閾値未満となった頻度を制御禁止頻度として算出する。CPU21は、また例えばバッテリ110の電圧が電圧回復閾値未満となった場合に1、それ以外の場合に0となる値を平均処理することで制御禁止頻度を算出してもよい。
【0068】
ステップS102に続いて、CPU21は、ステップS103において、制御禁止頻度が所定の閾値C1を上回ったかどうかを判断する。
【0069】
ステップS103の判断の結果、制御禁止頻度が所定の閾値C1を上回っていれば(ステップS103;Yes)、CPU21は、ステップS104において、電圧回復不能フラグをONにする。一方、ステップS103の判断の結果、制御禁止頻度が所定の閾値C1以下であれば(ステップS103;No)、CPU21は、ステップS105において、電圧回復不能フラグをOFFにする。
【0070】
ステップS104又はステップS105に続いて、CPU21は、ステップS106においてバッテリ110の電圧が劣化判定閾値未満であるかどうかを判断する。
【0071】
ステップS106の判断の結果、バッテリ110の電圧が劣化判定閾値未満であれば(ステップS106;Yes)、CPU21は、ステップS107において、電圧低下フラグをONにする。一方、ステップS106の判断の結果、バッテリ110の電圧が劣化判定閾値以上であれば(ステップS107;No)、CPU21は、ステップS108において、電圧低下フラグをOFFにする。
【0072】
ステップS107又はステップS108に続いて、CPU21は、ステップS109において、電圧回復不能フラグ及び電圧低下フラグが共にONかどうかを判断する。
【0073】
ステップS109の判断の結果、電圧回復不能フラグ及び電圧低下フラグが共にONであれば(ステップS109;Yes)、CPU21は、ステップS110において、当該バッテリ110は劣化していると判定する。一方、ステップS109の判断の結果、電圧回復不能フラグ又は電圧低下フラグの少なくともいずれかがOFFであれば(ステップS109;No)、CPU21は、バッテリ110は劣化していないと判定し、ステップS101の処理に戻る。
【0074】
CPU21は、一連の処理を、例えば1日に1回等の所定のタイミングで実行する。
【0075】
CPU21は、一連の処理により、事前の適合工数を要することなく、またルールベースのロジックに比べて精度良くバッテリ110が劣化したことを判定できる。
【0076】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した判定処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、位置確認処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0077】
また、上記各実施形態では、判定処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 車両
110 バッテリ
111 バッテリ情報取得部
120 データ送信部
20 判定装置
210 取得部
220 判定部
230 出力部
図1
図2
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図9