(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/08 20120101AFI20250701BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/04
(21)【出願番号】P 2022128929
(22)【出願日】2022-08-12
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 雄佑
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0162387(US,A1)
【文献】特開2020-147142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60R 21/00-21/13
B60R 21/34-21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方領域を撮像する第1水平画角を有する前方カメラを含む前方監視装置の物標検出範囲の側方且つ外側の死角検出範囲内に位置する死角内物標に関する情報を含む前側方物標情報を取得可能な特定カメラ装置と、
前記前側方物標情報に基いて前記死角内物標の種別に応じた前側方障害物領域内に当該種別の物標が位置しているとの物標条件を含む発進抑制条件が成立したと判定したとき、前記発進抑制条件が成立したと判定していない場合に比べて、前記自車両の駆動力が小さくなるように前記自車両の駆動力を制御するコントローラと、
を備
え、
前記コントローラは、
前記前側方物標情報に基いて前記死角内物標の種別を特定し、
前記前側方物標情報に基いて前記死角内物標の移動状態を特定し、
前記特定した前記死角内物標の種別及び前記特定した前記死角内物標の移動状態に基いて前記前側方障害物領域を決定し、
前記前側方物標情報に基いて、前記決定した前側方障害物領域内に当該前側方障害物領域に対応する種別の物標であって当該前側方障害物領域に対応する移動状態の物標が位置していると判定した場合、前記物標条件が成立したと判定する、
ように構成された車両制御装置であって、
前記自車両の速度である車速を検出する車速センサと、
前記自車両のアクセルペダル操作量を検出するアクセルペダル操作量センサと、
前記自車両の駆動力を変更するためのパワートレーンアクチュエータと、
を備え、
前記コントローラは、
前記検出された車速が特定車速閾値以下であり、且つ、前記検出されたアクセルペダル操作量が特定操作量閾値以上であり、且つ、前記物標条件が成立したと判定したとき、前記発進抑制条件が成立したと判定し、
前記発進抑制条件が成立したと判定していない場合、前記駆動力が、前記検出されたアクセルペダル操作量が大きいほど大きくなる通常駆動力になるように前記パワートレーンアクチュエータを制御し、
前記発進抑制条件が成立したと判定した場合、前記駆動力が前記通常駆動力よりも小さい駆動力になるように前記パワートレーンアクチュエータを制御する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記特定カメラ装置は、
前記前方カメラの前記第1水平画角よりも大きい第2水平画角を有する前方広角カメラを含み、前記前方広角カメラが取得した画像データに基いて前記前側方物標情報を取得するように構成された、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記コントローラは、
前記自車両の前方の予め定められた前方障害物領域に物標が存在するか否かを前記前方カメラが取得した画像データを用いて判定し、
前記前方障害物領域に物標が存在すると判定した場合、前記検出された車速が前記特定車速閾値以下であり、且つ、前記検出されたアクセルペダル操作量が前記特定操作量閾値よりも大きい誤発進操作量閾値以上であるとき、誤発進抑制条件が成立したと判定し、
前記誤発進抑制条件が成立したと判定した場合、前記駆動力が前記通常駆動力よりも小さい駆動力になるように前記パワートレーンアクチュエータを制御する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御装置において、
前記前方障害物領域は前記自車両の前後軸方向の前方に長手方向を有する長方形の領域であり、前記長方形の短手方向の長さは前記自車両の車幅に応じた値であり、
前記コントローラは、
前記前方障害物領域と前記死角検出範囲との間の範囲に位置している中間物標についての情報が前記前側方物標情報に含まれている場合、前記中間物標を前記死角内物標として扱って前記物標条件が成立しているか否かを判定する、
ように構成された、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の前側方に位置している物標に対して、自車両とその物標とが過度に接近する可能性を低減するための制御を実行する車両制御装置、車両制御方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両制御装置の一つ(以下、「従来装置」と称する。)は、前方カメラ及び前側方レーダを利用して自車両の前方の中央領域及び当該中央領域に対して側方に位置する領域(中央領域の左右端近傍)に存在する物標を検出する。従来装置は、検出した物標と自車両とが衝突する可能性があると判定すると、衝突被害を軽減するための緊急走行制御を行う。
【0003】
一般に、運転者は自車両の前方の中央領域に位置する物標を比較的早期に認識する。このような物標は相対横速度は一般に低い。これに対し、運転者は自車両の前方を横断しようとしている自車両の前側方(前方且つ左右方向外側)に位置する物標を相対的に遅く認識する。このような物標は相対横速度は一般に高い。そこで、従来装置は、物標の相対横速度が閾値以上である場合、当該相対横速度が閾値未満である場合に比較して、緊急走行制御をより早期に開始するようになっている(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、自車両の前方を横断しようとしている物標は、例えば、歩行者及び自転車等のように、自車両の前側方において検出された当初は停止している(相対横速度がゼロである)が、その後、急に横断を開始する場合がある。この場合、物標が検出された時点においては当該物標の相対横速度が閾値未満であるから、緊急走行制御が早期に開始されない。そのため、緊急走行制御の実行が遅れてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、自車両の前側方に位置していて運転者の認識が遅くなる傾向にある物標に対して、より適切なタイミングにて当該物標に対処するための車両制御を開始することが可能な車両制御装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、
自車両の前方領域を撮像する第1水平画角(θf)を有する前方カメラ(21)を含む前方監視装置(20、30、FWM)の物標検出範囲(FWA)の側方且つ外側の死角検出範囲(DAA)内に位置する死角内物標に関する情報を含む前側方物標情報を取得可能な特定カメラ装置(FSM)と、
前記前側方物標情報に基いて前記死角内物標の種別に応じた前側方障害物領域(例えば、A2、A2及びA3等)内に当該種別の物標が位置しているとの物標条件(ステップ640)を含む発進抑制条件が成立したと判定したとき(ステップ640乃至ステップ660)、前記発進抑制条件が成立したと判定していない場合に比べて、前記自車両の駆動力が小さくなるように前記自車両の駆動力を制御する(ステップ670、ステップ740)、コントローラ(10、50)と、
を備える。
【0008】
この態様によれば、前方監視装置によっては検出できない死角内物標の種別に応じた前側方障害物領域内に当該種別の物標が位置しているとの物標条件を含む発進抑制条件が成立したとき、発進抑制条件が成立しないときと比べ、自車両の駆動力が低減される。従って、自車両の前側方に位置している物標の種別に応じた適切なタイミングにて駆動力を低減する制御(当該物標に対処するための車両制御である発進抑制制御)を実行することができる。
【0009】
本発明の一態様において、
前記コントローラ(10)は、
前記前側方物標情報に基いて前記死角内物標の種別を特定し(ステップ620)、
前記前側方物標情報に基いて前記死角内物標の移動状態を特定し(ステップ625)、
前記特定した前記死角内物標の種別及び前記特定した前記死角内物標の移動状態に基いて前記前側方障害物領域を決定し(ステップ630)、
前記前側方物標情報に基いて、前記決定した前側方障害物領域内に当該前側方障害物領域に対応する種別の物標であって当該前側方障害物領域に対応する移動状態に対応する(移動状態の)物標が位置していると判定した場合、前記物標条件が成立したと判定する(ステップ640)、
ように構成さている。
【0010】
この態様によれば、死角内物標の種別のみならず、死角内物標の移動状態にも応じて前側方障害物領域が決定される。例えば、物標が歩行者である場合、歩行者が自車両に接近しつつある状態に対して決定される前側方障害物領域は、歩行者が静止している状態に対して決定される前側方障害物領域よりも自車両の横方向の距離を大きくとることができる。このように、上記態様によれば、物標の種別及び移動状態に応じた前側方障害物領域が
設定されるので、物標の種別及び移動状態に応じてより適切なタイミングにて駆動力を低減する制御を実行することができる。なお、例えば、物標の種別は、物標が「歩行者、自転車及び車両(自動車及び自動二輪車を含む。)」の何れであるかを区別する種別である。物標の移動状態は、例えば、静止状態、前記自車両に接近しつつある状態、それら以外の状態、に区別する状態である。
【0011】
本発明の一態様は、
前記自車両のアクセルペダル操作量(AP)を検出するアクセルペダル操作量センサ(82)と、
前記自車両の速度である車速(SPD)を検出する車速センサ(81)と、
前記自車両の駆動力を変更するためのパワートレーンアクチュエータ(51)と、
を備える。
更に、前記コントローラ(10)は、
前記物標条件が成立したと判定した場合(ステップ640)、前記検出された車速(SPD)が特定車速閾値(SPDth)以下であり(ステップ650)、且つ、前記検出されたアクセルペダル操作量(AP)が特定操作量閾値(低側閾値APLоth)以上であるとき(ステップ660)、前記発進抑制条件が成立したと判定し(ステップ670)、
前記発進抑制条件が成立したと判定していない場合、前記駆動力が、前記検出されたアクセルペダル操作量が大きいほど大きくなる通常駆動力になるように前記パワートレーンアクチュエータを制御し(ステップ750)、
前記発進抑制条件が成立したと判定した場合、前記駆動力が前記通常駆動力よりも小さい駆動力になるように前記パワートレーンアクチュエータを制御する(ステップ740)、
ように構成されている。
【0012】
この態様によれば、物標条件が成立している場合、車速が相対的に低い状態においてアクセルペダルが比較的大きく踏み込まれたとき、発進抑制条件が成立したと判定され、駆動力が通常駆動力よりも小さい駆動力になるようにパワートレーンアクチュエータが制御される。よって、運転者が死角内物標に気付くことなく自車両を発進させようとした場合、自車両の駆動力が抑制されるので、死角内物標が自車両の前方を横切ろうとして自車両の前方に移動したときに自車両を速やかに停止することができる。
【0013】
本発明の一態様において、
前記特定カメラ装置(FSM)は、
前記前方カメラの前記第1水平画角(θf)よりも大きい第2水平画角(θw)を有する前方広角カメラ(前方PVMカメラ41)を含み、前記前方広角カメラが取得した画像データに基いて前記前側方物標情報を取得するように構成されている。
【0014】
前方広角カメラは、他の広角カメラとともに、車両の俯瞰画像を生成するために搭載されることが多い。従って、上記態様によれば、特定カメラ装置用のカメラを特別に用意することなく、死角内物標に関する情報を含む前側方物標情報を取得することができる。
【0015】
本発明の一態様において、
前記コントローラ(10)は、
前記自車両の前方の予め定められた前方障害物領域(A1)に物標が存在するか否かを前記前方カメラが取得した画像データを用いて判定し(ステップ510)、
前記前方障害物領域に物標が存在すると判定した場合、前記検出された車速(SPD)が前記特定車速閾値(SPDth)以下であり(ステップ520)、且つ、前記検出されたアクセルペダル操作量(AP)が前記特定操作量閾値よりも大きい誤発進操作量閾値(APHith)以上であるとき(ステップ530)、誤発進抑制条件が成立したと判定し(ステップ540)、
前記誤発進抑制条件が成立したと判定した場合、前記駆動力が前記通常駆動力よりも小さい駆動力になるように前記パワートレーンアクチュエータを制御する(ステップ720)、
ように構成されている。
【0016】
前方カメラが取得した画像データに基いて自車両の前方障害物領域(A1)に物標が存在する場合、運転者は一般に当該物標に気付き、アクセルペダルを大きく踏み込むことはない。しかしながら、運転者がブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み込む操作(誤発進操作)を行う状況が発生し得る。上記態様によれば、このような誤発進操作は、車速(SPD)が特定車速閾値(SPDth)以下であり、且つ、アクセルペダル操作量(AP)が誤発進操作量閾値(APHith)以上であるときに、発生したと判定され、駆動力が低減される。従って、自車両の前方に位置する物標への自車両の衝突を未然に回避することができる。
【0017】
上記の車両制御装置の一態様において、
前記前方障害物領域(A1)は前記自車両の前後軸方向(X軸方向)前方に長手方向を有する長方形の領域であり、前記長方形の短手方向の長さ(Y軸方向長さ)は前記自車両の車幅に応じた値(2・D1)であり、
前記コントローラは、
前記前方障害物領域(A1)と前記死角検出範囲(DAA)との間の範囲(A1と直線Lfrとの間の範囲B)に位置している中間物標についての情報が前記前側方物標情報に含まれている場合、前記中間物標を前記死角内物標として扱って前記物標条件が成立しているか否かを判定する、
ように構成されている。
【0018】
この態様によれば、死角検出範囲外であって前方障害物領域の側方且つ外側に位置している物標に対しても、発進抑制制御を実行することができる。
【0019】
なお、本発明は、上記車両制御装置が実施する車両制御方法及びそのプログラムにも及ぶ。更に、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両制御装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した「前方カメラ、前方レーダ及び前方PVMカメラ」の物標検出範囲の角度を示す自車両及び自車両周辺の平面図である。
【
図3】
図3は、「
図1に示した前方監視装置FWMの物標検出範囲FWA、及び、
図1に示した特定カメラ装置FSMが検出可能な死角検出範囲DAA」を示した自車両及び自車両周辺の平面図である。
【
図4】
図4は、「前方障害物領域及び前側方監視領域」を示す自車両及び自車両周辺の平面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示した運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図1に示した運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図1に示した運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図1に示した運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(構成)
図1に示した本発明の実施形態に係る車両制御装置(運転支援装置)DSは、
図2に示した車両(以下、他車両と区別するために「自車両」と称する。)HVに搭載されている。
【0022】
図1に示したように、車両制御装置DSは、運転支援ECU10、前方カメラ装置20、前方レーダ装置30、PVMカメラ装置40、パワートレーンECU50、パワートレーンアクチュエータ51、ブレーキECU60、ブレーキアクチュエータ61、警報ECU70、警報音発生装置72、警報表示装置74、車速センサ81、アクセルペダル操作量センサ82、ブレーキペダル操作量センサ83及び操舵角センサ84を備えている。
【0023】
本明細書において、「ECU」はマイクロコンピュータを主要部として備える電子式制御装置(Electronic Control Unit)であり、コントローラとも称呼される。マイクロコンピュータは、CPU(プロセッサ)、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより後述するような各種機能を実現するようになっている。上記複数のECU及び後述する複数のECUの幾つか又は全部は一つのECUに統合されてもよい。更に、上記複数のECU及び後述する複数のECUは、CAN(Controller Area Network)を通して互いに情報交換可能に接続されている。
【0024】
運転支援ECU10及び後述するECU(22、32、45)等のそれぞれは、
図2に示した直交座標系(X軸及びY軸)を用いて物標の位置に関する情報を処理する。この直交座標系は以下のように規定されている。
原点:自車両HVの先端部の車幅方向中央位置
X軸:原点を通り、自車両HVの前後方向に伸びる軸。自車両HVの前方が正方向。
Y軸:原点を通り、自車両HVの左右方向に伸びる軸。自車両HVの右方が正方向。
【0025】
図1に示した運転支援ECU10は、車両制御装置DSの主たるECUであり、後述するように運転支援制御(車両制御)を実行する。
【0026】
前方カメラ装置20は、前方カメラ21とイメージECU22とを含む。
【0027】
前方カメラ21は、
図2に示したように、自車両HVのフロントウインドシールドの上部且つ中央部に配設されている。前方カメラ21はステレオカメラであり、所定時間が経過する毎に「自車両HVの前方のシーン(路面及び物標を含む。)」を撮像して左右一対の画像データを取得する。前方カメラ21の撮像範囲は、X軸を中心軸として有する角度θfの範囲である。即ち、前方カメラ21の水平画角(第1水平画角)は角度θf(本例において、略100度)である。従って、前方カメラ21は、車両の前方に対して右方向及び左方向にそれぞれ角度(θf/2)の範囲に含まれ、且つ、前方カメラ21からの距離が撮影可能距離Rfまでの範囲のシーンを撮像する。なお、前方カメラ21は単眼カメラであってもよい。
【0028】
図1に示したイメージECU22は、前方カメラ21から送信されてくる画像データを所定時間が経過する毎に解析して前方カメラ物標情報を生成する。前方カメラ物標情報は、前方カメラ21によって撮像された物標の「位置、相対縦速度(X軸方向の物標の相対速度)、相対横速度(Y軸方向の物標の相対速度)及び種別」等を含む。
【0029】
前方レーダ装置30は、前方カメラ装置20とともに、前方監視装置FWMを構成する。前方レーダ装置30は、自車両HVの前方に存在する物標についての情報をミリ波帯の電波を用いて取得する装置であって、前方レーダ31と前方レーダECU32とを含む。
【0030】
前方レーダ31は、
図2に示したように、上述した原点の位置に配設されていて、X軸を中心軸(レーダ軸)として有する角度θrの検出範囲にミリ波帯の電波を送信する。即ち、前方レーダ31は、車両の前方に対して右方向及び左方向にそれぞれ角度(θr/2)の範囲に電波を送信する。なお、角度θrは角度θfよりも小さい。
【0031】
前方レーダ31の電波の送信範囲(検出範囲)内に物標が存在する場合、その物標は前方レーダ31から送信された電波を反射する。その結果、反射波が形成される。前方レーダ31はこの反射波を受信する。前方レーダ31は、送信した電波についての情報と受信した反射波についての情報とを所定時間が経過する毎に前方レーダECU32に送信する。
【0032】
前方レーダECU32は、前方レーダ31から送信されてくる情報に基いて、前方レーダ31の検出範囲内に存在する物標についての物標情報を取得する。この物標情報は、「前方レーダ物標情報」と称呼され、物標と原点との距離、物標の方位及び物標の相対速度等を含む。なお、前方レーダ31の検出範囲の上限側距離は撮影可能距離Rfよりも長い。
【0033】
以上から理解されるように、前方カメラ装置20と前方レーダ装置30とを含む前方監視装置FWMの物標検出範囲FWAは
図3に示したハッチングを施した部分のような形状になる。
【0034】
運転支援ECU10は、前方カメラ物標情報と前方レーダ物標情報とを統合することにより、フュージョン物標情報を生成する。フュージョン物標情報は、物標の位置、物標の相対縦速度(X軸方向の相対速度)、物標の相対横速度(Y軸方向の相対速度)、物標の大きさ(幅及び長さ)及び物標の種別等を含む。
【0035】
図1に示したPVMカメラ装置40は、前方PVMカメラ41、左方PVMカメラ42、右方PVMカメラ43、後方PVMカメラ44及びPVM・ECU45を備えている。
【0036】
前方PVMカメラ41は、
図2に示したように、上述した原点の位置に配設されていて、図示しない魚眼レンズ(超広角レンズ)を備えている。前方PVMカメラ41は、所定時間が経過する毎に「自車両HVの前方及び前側方のシーン(路面及び物標を含む。)」を撮像して画像データを取得する。前方PVMカメラ41の撮像範囲は、X軸を中心軸として有する角度θwの範囲である。即ち、前方PVMカメラ41の水平画角(第2水平画角)は「前方カメラ21の水平画角θfよりも大きい角度θw(本例において、略180度)」である。従って、前方PVMカメラ41は、自車両HVの前方に対して右方向及び左方向にそれぞれ角度(θw/2)の範囲に含まれ、且つ、前方PVMカメラ41からの距離が「撮影可能距離Rfよりも短い撮影可能距離Rw」までの範囲のシーンを撮像する。前方PVMカメラ41は前方広角カメラとも称される。
【0037】
左方PVMカメラ42、右方PVMカメラ43及び後方PVMカメラ44のそれぞれは前方PVMカメラ41と同一の構造を備える。
図2に示したように、左方PVMカメラ42は自車両HVの左側面に固定されていて自車両HVの左側方のシーンを撮像する。右方PVMカメラ43は自車両HVの右側面に固定されていて自車両HVの右側方のシーンを撮像する。後方PVMカメラ44は自車両HVの後端の車幅方向中央位置に固定されていて自車両HVの後方のシーンを撮像する。
【0038】
PVM・ECU45は、前方PVMカメラ41、左方PVMカメラ42、右方PVMカメラ43及び後方PVMカメラ44から所定時間が経過する毎に送信されてくる画像データに基いて、俯瞰画像のデータ及び進行方向画像のデータを生成する。俯瞰画像のデータ及び進行方向画像のデータは、運転支援ECU10及び図示しない表示ECUに送信される。表示ECUは図示しないディスプレイに、俯瞰画像のデータに基づく俯瞰画像及び進行方向画像のデータに基づく進行方向画像を表示する。進行方向画像は、前進方向画像及び後退方向画像を含む。なお、PVMカメラ41-44の構造、俯瞰画像及び進行方向画像は周知である(例えば、特開2022-86516号公報、特開2020-117128号公報、及び、特開2019-016825号公報等を参照。)。
【0039】
更に、PVM・ECU45は、前方PVMカメラ41から送信されてくる画像データを所定時間が経過する毎に解析してPVMカメラ物標情報(前側方物標情報)を生成する。PVMカメラ物標情報は、物標の位置及び物標の種別等を含む。
【0040】
このように、前方PVMカメラ41及びPVM・ECU45は、前側方物標情報を取得可能な特定カメラ装置FSMを構成する。更に、特定カメラ装置FSMは、
図3に示したように、前方監視装置FWMの物標検出範囲FWAの側方且つ外側の範囲である「死角検出範囲DAA」内に位置する物標(以下、「死角内物標」とも称する。)に関する情報も取得可能である。即ち、特定カメラ装置FSMは、
図3に示した「死角検出範囲DAAと、前方障害物領域A1と、中間範囲B(領域A1と直線Lfrとの間の範囲)と」の何れかに位置する物標に関する情報を取得可能である。
【0041】
パワートレーンECU50は、パワートレーンアクチュエータ51と接続されている。パワートレーンアクチュエータ51は、自車両HVの駆動装置(自車両の駆動力源であり、この場合、内燃機関)の運転状態を変更するためのアクチュエータである。本例において、内燃機関はガソリン燃料噴射・火花点火式・多気筒エンジンであり、吸入空気量を調整するためのスロットル弁を備えている。パワートレーンアクチュエータ51は、少なくとも、スロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。
【0042】
パワートレーンECU50は、パワートレーンアクチュエータ51を駆動することによって、駆動装置が発生するトルクを変更することができる。駆動装置が発生するトルクは図示しないギヤ機構を介して図示しない駆動輪に伝達される。従って、パワートレーンECU50は、パワートレーンアクチュエータ51を介して駆動装置を制御することによって、自車両HVの駆動力を制御することができる。
【0043】
なお、自車両HVの駆動装置は電動モータであってもよい。換言すると、自車両HVは電気自動車であってもよく、その場合、パワートレーンアクチュエータ51は電動モータのトルクを変更可能なインバータである。更に、自車両HVの駆動装置は、内燃機関及び電動モータの両者であってもよい。換言すると、自車両HVはハイブリッド車両であってもよく、その場合、パワートレーンアクチュエータ51は電動モータのトルクを変更可能なインバータ及び内燃機関のスロットル弁アクチュエータを含む。
【0044】
ブレーキECU60は、ブレーキアクチュエータ61に接続されている。ブレーキアクチュエータ61は、自車両HVの各車輪に配設された摩擦ブレーキ装置(制動装置)を制御して車両に付与される制動力(摩擦制動力)を変更するためのアクチュエータである。従って、ブレーキECU60は、ブレーキアクチュエータ61を介して制動装置を制御することによって、自車両HVに付与される制動力を制御することができる。
【0045】
警報ECU70は、警報音発生装置72に接続されていて、警報音発生装置72から警報音を発生させることができる。
警報ECU70は、警報表示装置74に接続されていて、警報表示装置74に種々の警告を表示させることができる。
【0046】
運転支援ECU10は、更に、以下に述べるセンサと接続され、これらのセンサの出力値(検出値)を入力するようになっている。
・自車両HVの速度(即ち、車速SPD)を検出する車速センサ81。
・自車両HVの図示しないアクセルペダルの操作量APを検出するアクセルペダル操作量センサ82。
・自車両HVの図示しないブレーキペダルの操作量BPを検出するブレーキペダル操作量センサ83。
・自車両HVの操舵角(舵角)Saを検出する操舵角センサ84。
【0047】
なお、運転支援ECU10は、車両の運転状態を表す他の運転状態センサにも接続されている。運転状態センサは、例えば、各車輪の車輪回転速度センサ、及び、ブレーキペダルが操作された場合にON信号を発生するブレーキスイッチ等を含む。更に、各センサは、運転支援ECU10以外のECUに接続されていてもよい。その場合、運転支援ECU10は、センサが接続されたECUからCANを介して「そのセンサの出力値」を入力する。
【0048】
(作動の概要)
車両制御装置DSの運転支援ECU10は、前方障害物に対する誤発進抑制制御と、前側方障害物に対する発進抑制制御(以下、「特定制御」又は「前側方障害物発進抑制制御」とも称する。)と、を実行する。なお、運転支援ECU10は、以下、単に「ECU10」と表記する。
【0049】
<前方障害物に対する誤発進抑制制御>
ECU10は、
図4に示した前方障害物領域A1内に物標が存在するか否かをフュージョン物標情報(前方カメラ物標情報と前方レーダ物標情報とを統合することにより得られた物標情報)に基いて判定する。前方障害物領域A1は、自車両HVの前方(進行方向)に設定された実質的に長方形の領域である。前方障害物領域A1のX軸方向の長さ範囲は「自車両HVの前端(即ち、距離0)から前方カメラ21の撮影可能距離である距離Rfよりも短い距離L0」である。前方障害物領域A1のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲は「0から距離D1の範囲」である。即ち、前方障害物領域A1のY軸方向長さ(幅)は「2・D1」である。距離D1は自車両HVの車幅WDの半分よりも僅かに長い値(D1=(WD/2)+所定値α)に設定されている。
【0050】
ECU10は、フュージョン物標情報に基いて前方障害物領域A1内に物標が存在するとの前方障害物条件が成立すると判定したとき、自車両HVの運転者が誤発進操作を行ったと推定できる条件(誤発進判定条件)が成立したか否かを判定する。誤発進判定条件は、以下の条件C1及び条件C2の両方が成立したときに成立する条件である。
(条件C1)車速SPDが閾値車速SPDth以下である。
(条件C2)アクセルペダル操作量APが高側閾値(第1閾値)APHith以上である。高側閾値APHithは「誤発進操作量閾値」とも称される。
【0051】
ECU10は、前方障害物条件が成立し、且つ、誤発進判定条件が成立したと判定すると、誤発進抑制条件が成立したと判定して、前方障害物領域A1内に位置する物標を前方障害物と見做し、当該前方障害物に対する誤発進抑制制御を実行する。誤発進抑制制御は、以下の制御を含む。
・自車両HVの駆動力をクリープ走行に必要な駆動力(以下、「クリープ走行用駆動力」と称する場合がある。)に維持する(例えば、スロットル弁の開度をゼロにする)。
・車速SPDが「閾値車速SPDthよりも低い急制動必要車速SPDBth」よりも高い場合、車速SPDがクリープ車速SPDcthに低下するまで、自車両HVの減速度の大きさが許容最大減速度となるように自車両HVに付与される制動力を制御する。即ち、ECU10は、制動力を許容最大制動力に設定することにより急減速制御を実行する。クリープ車速SPDcthは急制動必要車速SPDBthよりも低い。
【0052】
<前側方障害物に対する発進抑制制御(特定制御)>
前方障害物領域A1の側方且つ外側の領域(Y軸正方向側及びY軸負方向側)に位置している物標が自車両HVの直前を横断しようとするシーンが発生することがある。上述した誤発進抑制制御によっては、このような物標に対する対応が遅れる可能性がある。そこで、ECU10は以下に述べる特定制御を実行する。
【0053】
ECU10は、前方障害物領域A1の外側である前側方監視領域に物標が存在するか否かをPVMカメラ物標情報(前側方物標情報)に基いて判定する。
【0054】
ECU10は、前側方監視領域に物標が存在すると判定した場合、PVMカメラ物標情報に基いてその物標の種別を特定する。物標の種別の特定は周知の方法(例えば、パターンマッチング法)を用いて行われる。本例において、特定される物標の種別は、歩行者、自転車及び車両である。車両は、自動車(乗用車、トラック及びバス等)及び自動二輪車を含む。但し、特定される物標の種別は、歩行者、自転車及び車両の他、電動キックボード及びセグウェイ(登録商標)等のパーソナルモビリティを含んでもよい。この場合、物標の種別は、各物標の通常の移動速度に基いて設定される。
【0055】
更に、ECU10は、その物標の移動状態、を「最新のPVMカメラ物標情報及び所定時間前のPVMカメラ物標情報」に基いて判定する。ここで判定される物標の移動状態は、物標が静止しているか、物標が自車両HV(正確には、X軸)に接近しているか、物標が自車両HVから遠ざかっているか、の何れかの状態である。
【0056】
次に、ECU10は、物標の種別及び移動状態に応じて、
図4に示したように、前側方障害物領域を決定する。
【0057】
前側方障害物領域のX軸方向長さ範囲は「自車両HVの前端(即ち、距離0)から前方PVMカメラ41の撮影可能範囲のX軸方向の長さ」である。但し、
図4においては、便宜上、前側方障害物領域のX軸方向長さ範囲は「自車両HVの前端から距離L0までの範囲」として図示されている。
【0058】
前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲は以下のとおりである。
・静止している歩行者(静止歩行者):D1からD2までの範囲
・静止している自転車(静止自転車):D1からD3までの範囲
・静止している車両(静止車両) :D1からD4までの範囲
・接近している歩行者(横断歩行者):D1からD5までの範囲
・接近している自転車(横断自転車):D1からD6までの範囲
・接近している車両(横断車両) :D1からD7までの範囲
但し、0<D1<D2<D3<D4<D5<D6<D7
【0059】
つまり、
図4に示したように、前側方障害物領域は以下のとおりである。
・静止歩行者:領域A2
・静止自転車:領域A2及び領域A3
・静止車両 :領域A2、領域A3及び領域A4
・横断歩行者:領域A2、領域A3、領域A4及び領域A5
・横断自転車:領域A2、領域A3、領域A4、領域A5及び領域A6
・横断車両 :領域A2、領域A3、領域A4、領域A5、領域A6及び領域A7
【0060】
ECU10は、決定した前側方障害物領域内に、その前側方障害物領域に対応する「種別及び移動状態を有する物標」が存在するか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。以下、「決定した前側方障害物領域内に位置するその前側方障害物領域に対応する「種別及び移動状態」を有する物標」を、「対応前側方障害物」と称する。
【0061】
ECU10は、対応前側方障害物が存在するとの物標条件(前側方障害物条件)が成立すると判定したとき、自車両HVの運転者が発進操作を行ったと推定できる条件(発進判定条件)が成立したか否かを判定する。発進判定条件は、以下の条件E1及び条件E2の両方が成立したときに成立する条件である。
(条件E1)車速SPDが閾値車速SPDth以下である。条件E1の閾値車速SPDthは特定車速閾値とも称され、条件C1の閾値車速SPDthと同じであってもよく相違していてもよい。
(条件E2)アクセルペダル操作量APが「低側閾値(第2閾値)APLоth」以上である。低側閾値APLоthは高側閾値(誤発進操作量閾値)APHithよりも小さい値であり、「特定操作量閾値」とも称呼される。
【0062】
ECU10は、前側方障害物条件が成立し、且つ、発進判定条件が成立したと判定すると、発進抑制条件が成立したと判定して対応前側方障害物に対する発進抑制制御を実行する。発進抑制制御は以下の制御を含む。
・自車両HVの駆動力をクリープ走行用駆動力に維持する(例えば、スロットル弁の開度をゼロにする)。
・車速SPDが「急制動必要車速SPDBthよりも低い緩制動必要車速SPDKth」よりも高い場合、車速SPDがクリープ車速SPDcthに低下するまで、自車両HVの減速度が警告減速度となるように自車両HVに付与される制動力を制御する。警告減速度の大きさは許容最大減速度の大きさよりも小さい。即ち、ECU10は制動力を警告用制動力に設定することにより緩減速制御を実行する。
【0063】
このように、車両制御装置DSは、前方障害物に対する誤発進抑制制御のみならず、前方PVMカメラ41を用いて検出した前側方障害物に対する発進抑制制御(特定制御)をも実行する。その結果、前側方障害物が自車両HVの直前を横断する状況になったとしても、自車両HVの発進が穏やかになっているので、前側方障害物と自車両HVとが過度に接近する可能性を低下することができる。
【0064】
(具体的作動)
運転支援ECU10のCPU(以下、単に「CPU」と称する。)は、
図5乃至
図8にフローチャートにより示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。
【0065】
<前方障害物に対する誤発進抑制制御フラグの設定>
従って、適当な時点が到来すると、CPUは
図5のステップ500から処理を開始してステップ510に進む。CPUはステップ510にて、フュージョン物標情報に基いて前方障害物領域A1内に物標が検出されているか否かを判定する。即ち、CPUは前方障害物条件が成立しているか否かを判定する。
【0066】
前方障害物領域A1内に物標が検出されている場合、CPUはステップ510にて「Yes」と判定してステップ520に進む。CPUは、ステップ520にて車速SPDが閾値車速SPDth以下であるか否か(即ち、条件C1が成立しているか否か)を判定する。車速SPDが閾値車速SPDth以下である場合、CPUはステップ520にて「Yes」と判定してステップ530に進む。CPUはステップ530にてアクセルペダル操作量APが高側閾値APHith以上であるか否か(即ち、条件C2が成立しているか否か)を判定する。例えば、高側閾値APHithは「アクセルペダル操作量の最大値の90%の値」に設定されている。
【0067】
アクセルペダル操作量APが高側閾値APHith以上である場合、CPUはステップ530にて「Yes」と判定してステップ540に進む。CPUは、ステップ540にて、前方障害物に対する誤発進抑制制御フラグXfwの値を「1」に設定する。その後、CPUはステップ595に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0068】
なお、誤発進抑制制御フラグXfwを含むフラグの総ては、自車両HVの図示しないイグニッション・キー・スイッチがオフ位置からオン位置へと変更されたときにCPUにより実行されるイニシャライズルーチンにより「0」に設定される。
【0069】
一方、以下に述べる場合1乃至場合3の何れかであるとき、CPUはステップ550に進んで、誤発進抑制制御フラグXfwの値を「0」に設定し、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
場合1:前方障害物領域A1内に物標が検出されていない場合(ステップ510:No)
場合2:車速SPDが閾値車速SPDthよりも高い場合(ステップ520:No)
場合3:アクセルペダル操作量APが高側閾値APHith未満である場合(ステップ530:No)
【0070】
<前側方障害物に対する発進抑制制御フラグの物標設定>
適当な時点が到来すると、CPUは
図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進む。CPUはステップ610にて、PVMカメラ物標情報に基いて「領域A2乃至領域A7を含む前側方監視領域」に物標が存在している(物標が検出されている)か否かを判定する。即ち、CPUは、PVMカメラ物標情報に「前方障害物領域A1以外の領域」に物標についての情報が含まれているか否かを判定する。
【0071】
前側方監視領域に物標が存在していると判定される場合、CPUはステップ610にて「Yes」と判定し、以下に述べる「ステップ620乃至ステップ630の処理」を行い、ステップ640に進む。
ステップ620:CPUは、その物標の種別を特定する。即ち、CPUは、PVMカメラ物標情報に基いて前側方監視領域に存在していると判定された物標が、歩行者、自転車車両及びその他の何れであるか決定する。
ステップ625:CPUは、その物標の移動状態を特定する。即ち、CPUは、ステップ620にて特定した物標が、静止しているか、自車両HV(正確には、X軸)に接近しているか、物標が自車両HVから遠ざかっているか、の何れであるかを特定する。
ステップ630:CPUは、後述する
図8に示した後述するサブルーチンを実行することにより、物標の「種別及び移動状態」に応じた前側方障害物領域を決定する。
【0072】
次に、CPUはステップ640に進み、「ステップ630にて決定した前側方障害物領域」内に、その前側方障害物領域に対応する「種別及び移動状態を有する物標」が存在するか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。即ち、CPUは、対応前側方障害物が存在するか否かを判定する。
【0073】
対応前側方障害物が存在する場合、CPUはステップ640にて「Yes」と判定してステップ650に進む。CPUはステップ650にて車速SPDが閾値車速SPDth以下であるか否か(即ち、条件E1が成立しているか否か)を判定する。車速SPDが閾値車速SPDth以下である場合、CPUはステップ650にて「Yes」と判定してステップ660に進む。
【0074】
CPUはステップ660にてアクセルペダル操作量APが低側閾値APLоth以上であるか否か(即ち、条件E2が成立しているか否か)を判定する。例えば、低側閾値APLоthは「アクセルペダル操作量の最大値の50%の値」に設定されている。
【0075】
アクセルペダル操作量APが低側閾値APLоth以上である場合、CPUはステップ660にて「Yes」と判定してステップ670に進む。CPUはステップ670にて前側方障害物に対する発進抑制制御フラグXfsの値を「1」に設定する。その後、CPUはステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0076】
一方、以下に述べる場合4乃至場合7の何れかであるとき、CPUはステップ680に進んで、発進抑制制御フラグXfsの値を「0」に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
場合4:前側方監視領域に物標が存在していない(ステップ610:No)
場合5:対応前側方障害物が存在していない(ステップ640:No)
場合6:車速SPDが閾値車速SPDthよりも高い場合(ステップ650:No)
場合7:アクセルペダル操作量APが低側閾値APLоth未満である場合(ステップ660:No)
【0077】
<車両走行制御>
適当な時点が到来すると、CPUは
図7のステップ700から処理を開始してステップ710に進む。CPUはステップ710にて前方障害物に対する誤発進抑制制御フラグXfwの値が「1」であるか否かを判定する。
【0078】
誤発進抑制制御フラグXfwの値が「1」である場合、CPUはステップ710にて「Yes」と判定してステップ720に進む。CPUはステップ720にて、上述した誤発進抑制制御を実行する。このとき、CPUは誤発進抑制制御により決定される制動力よりも、後述するルックアップテーブルMapBにブレーキペダル操作量BPを適用することにより決定される制動力(操作制動力)の方が大きい場合、実際の制動力がこの操作制動力に一致するようにブレーキアクチュエータ61を制御する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0079】
これに対し、誤発進抑制制御フラグXfwの値が「0」である場合、CPUはステップ710にて「No」と判定してステップ730に進む。CPUはステップ730にて、前側方障害物に対する発進抑制制御フラグXfsの値が「1」であるか否かを判定する。
【0080】
発進抑制制御フラグXfsの値が「1」である場合、CPUはステップ730にて「Yes」と判定してステップ740に進む。CPUはステップ740にて、上述した発進抑制制御を実行する。このとき、CPUは発進抑制制御により決定される制動力よりも、後述するルックアップテーブルMapBに基いて決定される操作制動力の方が大きい場合、実際の制動力がこの操作制動力に一致するようにブレーキアクチュエータ61を制御する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0081】
発進抑制制御フラグXfsの値が「0」である場合、CPUはステップ730にて「No」と判定してステップ750に進む。CPUはステップ750にて通常の車両走行制御を実行する。より具体的に述べると、CPUは、アクセルペダル操作量AP及び車速SPDをルックアップテーブルMapFに適用することにより駆動力の目標値(即ち、通常駆動力)を決定し、実際の駆動力がこの目標値に一致するようにパワートレーンアクチュエータ51を制御する。テーブルMapFによれば、駆動力の目標値はアクセルペダル操作量APが大きいほど大きくなる。更に、テーブルMapFによれば、アクセルペダル操作量APがある値である場合、駆動力の目標値は車速SPDが高いほど小さくなる。加えて、CPUはブレーキペダル操作量BPをルックアップテーブルMapBに適用することにより制動力の目標値である操作制動力を決定し、実際の制動力がこの操作制動力に一致するようにブレーキアクチュエータ61を制御する。テーブルMapBによれば、操作制動力はブレーキペダル操作量BPが大きいほど大きくなる。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0082】
<前側方障害物領域の決定>
上述したように、CPUは
図6のステップ630に進むと、
図8に示したサブルーチンのステップ800から処理を開始し、ステップ805に進む。
【0083】
CPUは、ステップ805にて、PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が車両(自動車又は自動二輪車)であるか否かを判定する。PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が車両であれば、CPUはステップ810に進み、その車両が自車両HVに接近中であるか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。その車両が自車両HVに接近中であれば、CPUはステップ815に進み、前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲をD1からD7までの範囲に設定する。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0084】
その車両が自車両HVに接近中でなければ、CPUはステップ810からステップ820に進み、その車両が静止しているか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。その車両が静止していれば、CPUはステップ825に進み、前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲をD1からD4までの範囲に設定する。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0085】
その車両が静止していなければ、CPUはステップ820からステップ830に進み、長さ(Ya)を「0」に設定する。つまり、この場合、CPUは前側方障害物領域を設定しない。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。なお、長さ(Ya)が「0」に設定されることにより前側方障害物領域が設定されない場合、CPUは前述の
図6のステップ640にて対応前側方障害物が存在しないと自動的に判定する。
【0086】
PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が車両でなければ、CPUはステップ805からステップ835に進む。CPUはステップ835にてPVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が自転車であるか否かを判定する。PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が自転車であれば、CPUはステップ840に進み、その自転車が自車両HVに接近中であるか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。その自転車が自車両HVに接近中であれば、CPUはステップ845に進み、前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲をD1からD6までの範囲に設定する。その後、CCPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0087】
その自転車が自車両HVに接近中でなければ、CPUはステップ840からステップ850に進み、その自転車が静止しているか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。その車両が静止していれば、CPUはステップ855に進み、前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲をD1からD3までの範囲に設定する。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0088】
その自転車が静止していなければ、CPUはステップ850からステップ860に進み、長さ(Ya)を「0」に設定する。つまり、この場合、CPUは前側方障害物領域を設定しない。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0089】
PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が自転車でなければ、CPUはステップ835からステップ865に進む。CPUはステップ865にてPVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が歩行者であるか否かを判定する。PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が歩行者であれば、CPUはステップ870に進み、その歩行者が自車両HVに接近中であるか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。その歩行者が自車両HVに接近中であれば、CPUはステップ875に進み、前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲をD1からD5までの範囲に設定する。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0090】
その歩行者が自車両HVに接近中でなければ、CPUはステップ870からステップ880に進み、その歩行者が静止しているか否かをPVMカメラ物標情報に基いて判定する。その車両が静止していれば、CPUはステップ885に進み、前側方障害物領域のY軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲をD1からD2までの範囲に設定する。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0091】
その歩行者が静止していなければ、CPUはステップ880からステップ890に進み、長さ(Ya)を「0」に設定する。つまり、この場合、CPUは前側方障害物領域を設定しない。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0092】
なお、CPUがステップ865に進んだとき、PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が歩行者でなければ(即ち、PVMカメラ物標情報に基いて検出された物標の種別が、車両、自転車及び歩行者の何れでもなければ)、CPUはステップ865からステップ890に進む。つまり、この場合、CPUは前側方障害物領域を設定しない。その後、CPUはステップ895を経由して
図6のステップ640に進む。
【0093】
以上、説明したように、実施形態に係る車両制御装置DSは、「前方カメラ(21)を含む前方監視装置FWMの物標検出範囲FWAの側方且つ外側の死角検出範囲DAA内に位置する死角内物標に関する情報を含む前側方物標情報」を特定カメラ装置FSMを用いて取得する。
更に、車両制御装置DSは、前側方物標情報に基いて死角内物標の種別(及び移動状態)に応じた前側方障害物領域を決定し、決定した前側方障害物領域内に当該種別(及び移動状態)の物標が位置しているとの物標条件(ステップ640)と、発進判定条件、とを含む発進抑制条件が成立したと判定したとき(ステップ640乃至ステップ660)、前記発進抑制条件が成立したと判定していない場合に比べて、前記自車両の駆動力が小さくなるように前記自車両の駆動力を制御する(ステップ670、ステップ740)。
【0094】
従って、前方監視装置によっては検出できない死角内物標の物標に対しても適切なタイミングにて駆動力を低減する制御を実行することができる。
【0095】
本発明は上記実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0096】
例えば、CPUは、ステップ720にて、誤発進抑制制御に加え又は誤発進抑制制御に代え、第1警報音発生制御及び/又は第1警告表示制御を実行してもよい。
【0097】
第1警報音発生制御は、警報ECU70及び警報音発生装置72を用いて、前方障害物領域に物標が存在していることを報知する音声メッセージ及び/又はアクセルペダルに換えてブレーキペダルを操作することを促す音声メッセージを発音させる制御である。第1警報音発生制御は、警報ECU70及び警報音発生装置72を用いて、第1警報音を発生させる制御であってもよい。
【0098】
第1警告表示制御は、警報ECU及び警報表示装置74を用いて、前方障害物領域に物標が存在していることを報知する表示メッセージ及び/又はアクセルペダルに換えてブレーキペダルを操作することを促す表示メッセージを警報表示装置74に表示させる制御である。第1警告表示制御は、警報ECU70及び警報表示装置74を用いて、第1警告マークを警報表示装置74に表示させる制御であってもよい。
【0099】
例えば、CPUは、ステップ740にて、発進抑制制御に加え又は発進抑制制御に代え、第2警報音発生制御及び/又は第2警告表示制御を実行してもよい。
【0100】
第2警報音発生制御は、警報ECU70及び警報音発生装置72を用いて、前側方障害物領域に物標が存在していることを報知する音声メッセージを発音させる制御である。第2警報音発生制御は、警報ECU70及び警報音発生装置72を用いて、第2警報音を発生させる制御であってもよい。
【0101】
第2警告表示制御は、警報ECU及び警報表示装置74を用いて、前側方障害物領域に物標が存在していることを報知する表示メッセージを警報表示装置74に表示させる制御である。第2警告表示制御は、警報ECU70及び警報表示装置74を用いて、第2警告マークを警報表示装置74に表示させる制御であってもよい。
【0102】
特定カメラ装置FSMは、前方PVMカメラ41に代えて、或いは、前方PVMカメラ41に加えて、右前側方カメラと左前側方カメラとを備えていてもよい。右前側方カメラは、自車両前方の右側の死角検出範囲DAAを含む範囲のシーンを撮像する。左前側方カメラは、自車両前方の左側の死角検出範囲DAAを含む範囲のシーンを撮像する。この場合、PVM・ECU45は、右前側方カメラ及び左前側方カメラからの画像データに基いて、前側方監視領域内に位置する物標の「位置、種類、移動状態」等を検出するように構成される。
【0103】
更に、車両制御装置DSは、右前方レーダ装置及び左前方レーダ装置を備えていてもよい。この場合、車両制御装置DSは、右前方レーダ装置からのレーダ物標情報に基いて右側の前側方監視領域内に位置する物標の自車両HVへの接近速度V1を検出し、左前方レーダ装置からのレーダ物標情報に基いて左側の前側方監視領域内に位置する物標の自車両HVへの接近速度V2を検出する。そして、車両制御装置DSは、横断物標(即ち、横断歩行者、横断自転車及び横断車両)に対する前方障害物領域のY軸正方向の長さが接近速度V1が大きいほど大きくなるように前方障害物領域を決定してもよい。同様に、車両制御装置DSは、横断物標(即ち、横断歩行者、横断自転車及び横断車両)に対する前方障害物領域のY軸負方向の長さが接近速度V1が大きいほど大きくなるように前方障害物領域を決定してもよい。
【0104】
更に、上記実施形態は、自動運転車両にも適用可能である。更に、上記実施形態において、特定される物標の種別は、歩行者、自転車及び車両であったが、歩行者、自転車及び車両の他、電動キックボード及びセグウェイ(登録商標)等のパーソナルモビリティを含んでもよい。この場合、物標の種別は、各物標の通常の移動速度に基いて区別され、前側方障害物領域の範囲(特に、Y軸正方向及びY軸負方向の長さ(Ya)の範囲)は、区別された物標の種別毎に設定されればよい。
【符号の説明】
【0105】
10…運転支援ECU、20…前方カメラ装置、21…前方カメラ、22…イメージECU、30…前方レーダ装置、31…前方レーダ、32…前方レーダECU、40…PVMカメラ装置、41…前方PVMカメラ、45…PVM・ECU、50…パワートレーンECU、51…パワートレーンアクチュエータ、60…ブレーキECU、61…ブレーキアクチュエータ、70…警報ECU、72…警報音発生装置、74…警報表示装置、81…車速センサ、82…アクセルペダル操作量センサ、83…ブレーキペダル操作量センサ、A1…前方障害物領域、A2-A7…前側方障害物領域、FWM…前方監視装置、FSM…特定カメラ装置、FWA…物標検出範囲、DAA…死角検出範囲。