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特許7704156吸着材およびその製造方法、吸着シート、分離膜ならびに人工透析機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】吸着材およびその製造方法、吸着シート、分離膜ならびに人工透析機器
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20250701BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20250701BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20250701BHJP
   B01D 61/24 20060101ALI20250701BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20250701BHJP
   C01B 32/90 20170101ALI20250701BHJP
【FI】
B01J20/02 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D61/24
A61M1/36 165
C01B32/90
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022575534
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 JP2022000037
(87)【国際公開番号】W WO2022153889
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021003541
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021028821
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】小河 佑介
(72)【発明者】
【氏名】小柳 雅史
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐樹
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111151304(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108793167(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111785534(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112023702(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110559880(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0294546(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106430195(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109650391(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111943207(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0230569(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 61/24
A61M 1/00-1/38,60/00-60/90
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、Al、Mg、およびCaからなる群より選択される1種以上の金属原子とを含み、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合している、吸着材。
【請求項2】
複数の層を含む層状材料の粒子で形成されている、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
前記層のMと、Cl-、PO4 3-、IおよびSO4 2-からなる群より選択される少なくとも1種とが結合している、請求項1または2に記載の吸着材。
【請求項4】
前記金属原子は、MgとCaのうちの1種以上を含む、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項5】
前記金属原子におけるMgとCaのうちの1種以上の合計含有量は、0.001質量%以上1.5質量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項6】
Li含有量が0.0001質量%以下(0質量%を含む)である、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項7】
セラミック、金属、および樹脂材料のうちの1以上の材料を更に含む、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項8】
シート状の形態を有する、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項9】
極性有機化合物を吸着するために用いられる、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項10】
水酸基とアミノ基のうちの1以上を有する化合物、およびアンモニアを吸着するために用いられる、請求項1~のいずれかに記載の吸着材。
【請求項11】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、Al、Mg、およびCaからなる群より選択される1種以上の金属原子とを含み、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合しており、尿毒素を吸着するために用いられる、吸着材。
【請求項12】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、Al、Mg、およびCaからなる群より選択される1種以上の金属原子とを含み、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合しており、尿素を吸着するために用いられる、吸着材。
【請求項13】
染料を吸着するために用いられる、請求項1~10のいずれかに記載の吸着材。
【請求項14】
前記染料がメチレンブルーである、請求項13に記載の吸着材。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の吸着材を用いた吸着シート。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の吸着材を用いた分離膜。
【請求項17】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、Al、Mg、およびCaからなる群より選択される1種以上の金属原子とを含み、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合している、吸着材を用いた、人工透析機器。
【請求項18】
(a)以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)HCl、H3PO4、HI、およびH2SO4のうちの1種以上を含むエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行うこと、
(c)前記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、酸洗浄すること、
(d)前記酸洗浄により得られた酸洗浄処理物を、水洗浄して該酸洗浄処理物のpHを調整すること、
(e)前記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、Al、Mg、およびCaからなる群より選択される1種以上の金属原子を含む化合物とを混合する工程を含む、金属原子インターカレーション処理を行うこと、および
(f)前記金属原子インターカレーション処理して得られた金属原子インターカレーション処理物を、水で洗浄して、吸着材を得ること
を含む、吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸着材およびその製造方法、吸着シート、分離膜ならびに人工透析機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる2次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(MXene粒子ともいう。粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、電子デバイス、医療機器等の各種用途へのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。例えば非特許文献1と非特許文献2には、Li+と、Mg2+、Ca2+とをイオン交換することによって、MXeneの層間にMg2+、Ca2+をインターカレーションさせることが示されている。また、非特許文献2には、Na、Kのインターカレーションを行うことと、MXeneを用いた電極について示されている。更に特許文献1には、エッチング時にMgF2、CaF2を添加することで、Mg2+、Ca2+をインターカレーションさせる方法が示されている。上記応用に向け、MXeneの吸着性能を高めることが求められている。また電極以外の用途として、非特許文献3には透析での尿素除去にMXeneを用いることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許10,683,208 B2
【非特許文献】
【0005】
【文献】Michael Ghidiu et al., Ion-Exchange and Cation Solvation Reactions in Ti3C2 MXene, Chem. Mater. 2016, 28, 3507-3514
【文献】Shuo Li et al., Intercalation of Metal Ions into Ti3C2Tx MXene Electrodes for High-Areal-Capacitance Microsupercapacitors with Neutral Multivalent Electrolytes, Adv. Funct. Mater. 2020, 30, 2003721
【文献】Fayan Meng et al., MXene Sorbents for Removal of Urea from Dialysate: A Step toward the Wearable Artificial Kidney, ACS Nano 2018, 12, 10518-10528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献3に記載の通り、近年ではMXeneを吸着材に用いる研究もなされているが、従来の技術では吸着性能が十分とは言い難い。本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、吸着性能に優れた吸着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの要旨によれば、
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属原子とを含み、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合している、吸着材が提供される。
【0008】
本発明のもう1つの要旨によれば、
(a)以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)HCl、H3PO4、HI、およびH2SO4のうちの1種以上を含むエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行うこと、
(c)前記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、酸洗浄すること、
(d)前記酸洗浄により得られた酸洗浄処理物を、水洗浄して該酸洗浄処理物のpHを調整すること、
(e)前記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属原子を含む化合物とを混合する工程を含む、金属原子インターカレーション処理を行うこと、および
(f)前記金属原子インターカレーション処理して得られた金属原子インターカレーション処理物を、水で洗浄して、吸着材を得ること
を含む、吸着材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、吸着材が、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)で形成され、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属原子を含み、MXeneにおけるMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合しており、これにより、MXeneを含み、吸着性能に優れた吸着材が提供される。
【0010】
また本発明によれば、(a)所定の前駆体を準備すること、(b)所定のエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行うこと、(c)前記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、酸洗浄すること、(d)前記酸洗浄により得られた酸洗浄処理物を、水洗浄して該酸洗浄処理物のpHを調整すること、(e)前記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属原子を含む化合物とを混合する工程を含む、金属原子インターカレーション処理を行うこと、および(f)前記金属原子インターカレーション処理して得られた金属原子インターカレーション処理物を、水で洗浄することにより、上記金属原子を含み、MXeneにおけるMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合して、例えば極性有機化合物の吸着性能に優れた吸着材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の吸着材に利用可能な層状材料であるMXeneを示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXeneを示し、(b)は多層(例示的に二層)MXeneを示す。
図2】本発明に係る吸着材における層間距離を説明する図である。
図3】本発明に係る吸着材を用いた人工透析機器を模式的に例示した図である。
図4】実施例でのX線回折測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1:吸着材)
以下、本発明の1つの実施形態における吸着材について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態における吸着材は、
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属原子とを含み、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合している。
【0014】
上記層状材料は、層状化合物として理解され得、「Mmns」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxまたはzが使用されることもある。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0015】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0016】
MXeneは、上記の式:Mmnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti32、Ti32、Ti3(CN)、Zr32、(Ti,V)32、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf32、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2
Ti43、V43、Nb43、Ta43、(Ti,Nb)43、(Nb,Zr)43、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr22)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo22)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3、(Mo2.71.3)C(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0017】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti32sである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0018】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、吸着材の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0019】
以下では、本実施形態に係る吸着材の骨格に該当するMXene粒子について図1を用いて説明する。図1には、特定の金属元素を含有すること、および前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合していることは図示していない。
【0020】
本実施形態の吸着材は、図1(a)に模式的に例示する1つの層のMXene10a(単層MXene)を含む集合物である。MXene10aは、より詳細には、Mmnで表される層本体(Mmn層)1aと、層本体1aの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5aとを有するMXene層7aである。よって、MXene層7aは、「Mmns」とも表され、sは任意の数である。
【0021】
本実施形態の吸着材は、1つの層と共に複数の層を含みうる。複数の層のMXene(多層MXene)として、図1(b)に模式的に示す通り、2つの層のMXene10bが挙げられるが、これらの例に限定されない。図1(b)中の、1b、3b、5b、7bは、前述の図1(a)の1a、3a、5a、7aと同じである。多層MXeneの、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。前記MXene10aは、上記多層MXene10bが個々に分離されて1つの層で存在するものであり、分離されていない多層MXene10bが、残存し、上記単層MXene10aと多層MXene10bの混合物である場合がある。本実施形態の吸着材は、複数の層を含む層状材料の粒子、すなわち多層MXeneで形成されていることが好ましい。複数の層を含む層状材料の粒子で形成されていることにより、複数の層の層間に、吸着対象物質を多く吸着させることができ、吸着性能を高めることができる。
【0022】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上、5nm以下、特に0.8nm以上、3nm以下である(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。含まれうる多層MXeneの、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図1(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上、10nm以下、特に0.8nm以上、5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上、20,000以下でありうる。
【0023】
本実施形態の吸着材は、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属原子を含む。該金属原子を、MXeneを構成する金属原子と区別するため、「特定金属原子」といい、層状材料の粒子と特定金属原子を含むものを、特定金属原子を含まないMXeneと区別するため、「特定金属原子含有MXene」ということがある。
【0024】
上記特定金属原子は、該特定金属原子のインターカレーションに用いるインターカレーターに由来しうる。特定金属原子のインターカレーションにより、上記特定金属原子は、好ましくはMXeneの層間に存在していることが好ましい。特定金属原子は、MXene中において、金属イオンの状態でありうる。すなわち2価の金属イオンとして、MXeneの層間に存在しうる。上記特定金属原子が、MXeneの層間に存在し、広い層間を支持するピラーの効果を発揮することによって、MXene層間に、吸着対象物質が挿入されやすくなり、結果として、吸着対象物質を多く吸着させることができ、吸着性能を高めることができるので好ましい。例えば吸着対象物質が尿素である場合、吸着材は、尿素の吸着特性が高くなり、人工透析の材料として優れたものとなる。更に、例えば吸着対象物がメチレンブルーなどに代表される染料の場合は、例えば工業用水からの染料除去のための吸着材として優れたものとなる。また、MgやCa等の特定金属原子が、MXeneの層間に存在し、MXeneの層間が広がることによって、MXeneの層間の不純物、例えば製造時に使用される酸性物質等が製造段階で容易に除去され、得られた吸着材が溶液と接したときの吸着材中の酸性物質による溶液のpH変化を抑制することができる。
【0025】
吸着材の製造時に、上記特定金属原子のインターカレーションを行うことによって、MXeneの層間に上記特定金属原子が挿入され、層間の距離が広がることで層間の距離は吸着対象物の大きさに対してより適正なものとなり、吸着性能が高まると考えられる。上記特定金属原子は、電荷が2価以上であり、かつ水溶性の化合物を形成することができる元素である。
【0026】
特定金属原子の含有量(2種以上の場合は合計含有量)は、0.001質量%以上3.0質量%以下でありうる。
【0027】
特定金属原子は、生体適合性を考慮すると、Mg、Ca、Fe、ZnおよびMnからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。特定金属原子は、より好ましくは、Mg、Ca、Fe、ZnおよびMnからなる群より選択される1種以上で構成されていることである。上記特定金属原子は、MgとCaのうちの1種以上を含むことが、例えば生体適合性をより高める観点から更に好ましい。上記特定金属原子は、特に好ましくは、Mgおよび/またはCaである。
【0028】
前記特定金属原子におけるMgとCaのうちの1種以上の合計含有量は、0.001質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。生体適合性をより高める観点からは、特定金属原子はより少ないことが好ましい。
【0029】
例えば後述の通りLiを含まず、特定金属原子としてMgとCaのうちの1種以上を含む吸着材の場合、Mg、Caはイオンとして存在しており生体適合性が高くなるため好ましく、かつMg2+やCa2+は層間距離を広げ、結果として尿素分子の大きさに対して適正な層間距離となることでMXene層間に尿素が入りやすくなるため好ましい。
【0030】
本実施形態の吸着材では、前記層のMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合している。前記塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子は、それぞれ、MXeneの前駆体であるMAX相に対してエッチング処理時に使用のエッチング液に含まれる、HCl(塩酸)、H3PO4(リン酸)、HI(ヨウ化水素)、およびH2SO4(硫酸)に由来しうる。つまり、本実施形態の吸着材における前記塩素原子は、前記層のMと結合するCl-であることが好ましく、前記リン原子は、前記層のMと結合するPO4 3-を構成するリン原子であることが好ましく、本実施形態の吸着材における前記ヨウ素原子は、前記層のMと結合するIであることが好ましい。また、本実施形態の吸着材における前記硫黄原子は、前記層のMと結合するSO4 2-を構成する硫黄原子であることが好ましい。
【0031】
(吸着材のLi含有量)
本実施形態の吸着材は、例えばLi含有量が定量限界以下、例えばLi含有量が0.0001質量%以下(0質量%を含む)であることが好ましい。吸着材のLi含有量が上記範囲内に抑えられていることにより、本実施形態の吸着材を、例えば人工透析機器における分離膜等のように、生体適合性の求められる用途に採用することができる。前記Li含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いたICP-AESなどにより測定可能である。
【0032】
(吸着材の層間距離)
本実施形態の吸着材は、上記の通り、好ましくは特定金属原子がMXeneの層間に挿入されて層間が広がったと考えられる。MmnがTi32で表されるTi322(O-term)の場合、結晶構造は図2に模式的に示す通りであり(図2中、20はチタン原子、21は酸素原子であり、その他の構成原子については図示していない)、この図2における両矢印で示される層と層の間の距離が広がったと考えられる。上記距離は、X線回折測定して得られるXRDプロファイルにおける、MXeneの(002)面に相当する10°(deg)以下の低角のピークの位置で判断できる。XRDプロファイルにおけるピークが低角であるほど、層間距離が広がっていることを示す。本実施形態における吸着材は、X線回折測定して得られる(002)面のピークが8.0°未満であることが好ましい。前記ピークはより好ましくは7.0°以下である。なお、ピーク位置の下限は5.0°程度である。前記ピークは、ピークトップをいう。前記X線回折測定は、後述する実施例に示す条件で測定すればよい。
【0033】
本実施形態の吸着材が、MmnがTi32で表されるMXeneと特定金属原子とを有する場合、上記XRDの結果から求められる層間距離は、例えば12.0Å以上、好ましくは12.5Å以上、より好ましくは13.0Å以上であって、層間距離の上限は例えばおおよそ17.5Åでありうる。上記層間の距離が広がったことにより、結果として層間の距離が尿素分子の大きさに対して適正な値となり、吸着性能が高まったと考えられる。特に、上記範囲の層間距離は、例えば人工透析で除去の必要な尿毒素、特には尿素の吸着に適したサイズであることから、本実施形態の吸着材は、該尿素の吸着に適している。
【0034】
(複合材料で形成された吸着材)
本実施形態の吸着材として、セラミック、金属、および樹脂材料のうちの1以上の材料を更に含むことが挙げられる。例えば後述で例示の通り、本実施形態の吸着材を、人工透析において尿素吸着に用いる場合、本実施形態に係る特定金属原子含有MXeneと、セラミック、金属、および樹脂材料のうちの1以上の材料との複合材料(コンポジット)とすることにより、吸着性能、例えば尿素の吸着性能を安定して発揮する吸着材を実現することができる。
【0035】
上記セラミックとして、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、酸化セリウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム系、ヘキサフェライト、ムライトなどの金属酸化物、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化ホウ素、ホウ化チタンなどの非酸化物セラミックスが挙げられる。上記金属として、鉄、チタン、マグネシウム、アルミニウムと、これらを基とする合金が挙げられる。
【0036】
また上記樹脂材料(ポリマー)として、セルロース系と合成高分子系が挙げられる。上記ポリマーとして、例えば、親水性ポリマー(疎水性ポリマーに親水性助剤が配合されて親水性を呈するものと、疎水性ポリマー等の表面を親水化処理したものを含む)が挙げられ、親水性ポリマーとして、ポリスルホン、セルロースアセテート、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンからなる群より選択される1以上をより好ましくは含むことが挙げられる。
【0037】
前記親水性ポリマーとして、例えば、極性基を有する親水性ポリマーであって、前記極性基が、前記層の修飾または終端Tと水素結合を形成する基であるものが好ましく用いられる。該ポリマーとして例えば、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンよりなる群から選択される1種類以上のポリマーが好ましく用いられる。これらの中でも、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、およびアルギン酸ナトリウムよりなる群から選択される1種類以上のポリマーがより好ましく、更に好ましくは水溶性ポリウレタンである。
【0038】
また複合材料で形成された吸着材を例えば生体用として用いる場合、複合材料を構成するポリマーとして、例えば、血液透析、血液濾過用に供される高分子重合体が挙げられる。具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、セルロース、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、あるいはポリビニルアルコールとエチレンの共重合体のようなビニルアルコール共重合体などが挙げられる。好ましくはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、および酢酸セルロースでのうちの1以上である。より好ましくは、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレートが用いられる。
【0039】
複合材料に含まれる前記ポリマーの割合は、用途に応じて適宜設定することができる。例えば前記ポリマーの割合は、吸着材(乾燥時)に占める割合で、0体積%超であって、例えば80体積%以下とすることができ、更には50体積%以下、更には30体積%以下、更には10体積%以下、より更には5体積%以下とすることができる。
【0040】
前記複合材料で形成された吸着材を製造する方法は特に限定されない。本実施形態の吸着材がポリマーを含み、シート状の形態を有する吸着材である場合、例えば次に例示する通り、特定金属原子含有MXeneとポリマーを混合し、塗膜を形成することができる。
【0041】
まず、特定金属原子含有MXeneで形成された粒子を分散媒中に存在させた特定金属原子含有MXene水分散体、特定金属原子含有MXene有機溶媒分散体、または特定金属原子含有MXene粉末と、ポリマーとを混合すればよい。上記特定金属原子含有MXene水分散体の分散媒は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0042】
上記特定金属原子含有MXene粒子とポリマーの撹拌は、ホモジナイザー、プロペラ撹拌機、薄膜旋回型撹拌機、プラネタリーミキサー、機械式振とう機、ボルテックスミキサーなどの分散装置を用いて行うことができる。
【0043】
上記特定金属原子含有MXene粒子とポリマーの混合物であるスラリーを、基材(例えば基板)に塗布すればよいが、塗布方法は限定されない。例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、浸漬、滴下による塗布方法が挙げられる。
【0044】
上記塗布および乾燥は、所望の厚みの膜が得られるまで、必要に応じて複数回繰り返し行ってもよい。乾燥および硬化は、例えば、常圧オーブンあるいは真空オーブンを用いて400度以下の温度で行ってもよい。
【0045】
本実施形態の吸着材が、セラミックまたは金属を含む複合材料である場合、その製造方法として、例えば粒子状の特定金属原子含有MXeneと、例えば粒子状のセラミックまたは金属とを混合し、特定金属原子含有MXeneの組成が維持可能な低温で加熱して吸着材を形成する方法が挙げられる。
【0046】
(吸着材の形状)
本実施形態の吸着材の形状に限定されない。該吸着材の形状は、前記フィルム等のシート状の形態を有する場合以外に、厚みを有するもの、直方体、球体、多角形体等であってもよい。
【0047】
(吸着シート)
本実施形態の吸着材の好ましい実施形態として吸着シートが挙げられる。吸着シートは、本実施形態の吸着材、すなわち特定金属元素含有MXene、またはこれを含む複合材料で形成された吸着シートの他、本実施形態の吸着材がセラミック、金属、および樹脂材料のうちの1以上の材料で形成された基板表面に形成されたものであってもよい。セラミック、金属、および樹脂材料は、前述の複合材料の説明で挙げた材料を使用することができる。その中でも、樹脂材料、好ましくは前述のポリマーで形成された基板に本実施形態の吸着材が形成された吸着シートが好ましい。基板における本実施形態の吸着材の態様は、吸着材が、基板一面に、例えば塗布等により形成されたものであってもよいし、基板の少なくとも一部に形成されたものであってもよい。上記基板への吸着材の形成方法として、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター、静電塗装等の一般に用いられている塗装方法を用いることができる。上記吸着シートの厚さと上記基板の厚さは、用途に応じて適宜設定することができる。
【0048】
(吸着材の用途)
本実施形態の吸着材の用途の一つとして、極性有機化合物の吸着に用いることが挙げられる。極性有機化合物とは、極性を有する有機化合物の総称であり、OH基、NO2基、NH基、NH2基、COOH基などの極性基を有し、水と混合すると水分子の中の水素原子とこれらの極性基が水素結合を形成しうる化合物をいう。前記極性有機化合物の中でも、水酸基を有するアルコール等の極性溶媒、アミノ基を有する化合物、アンモニア等が吸着対象として挙げられる。本実施形態の吸着材は、水酸基とアミノ基のうちの1以上を有する化合物、およびアンモニアを吸着するために用いられることが挙げられる。前記水酸基とアミノ基のうちの1以上を有する化合物のうち、水酸基を有する化合物としては、たとえば、炭素数1~22の1価アルコール;多価フェノール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;キシロース、グルコース等の糖等が挙げられる。またアミノ基を有する化合物としては、メチルアミン、ジメチルアミン等のモノアミン;エチレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン等のポリアミン;アニリン等の芳香族アミン;バリン、ロイシン等のアミノ酸、尿素、尿酸、尿酸塩、クレアチニン等が挙げられる。水酸基とアミノ基とを有する化合物としては、エタノールアミン、ジエタノールアミンが挙げられる。
【0049】
本実施形態の吸着材は、例えば、尿素、尿酸、クレアチニン等を含む尿毒素を吸着するために用いられることが好ましい。本実施形態の吸着材は、特に尿素を吸着するために最適に用いられうる。
【0050】
本実施形態の吸着材は、血液透析、血液ろ過、血液透析ろ過、腹膜透析等において、尿素等の老廃物の吸着除去に用いることができる。また、本実施形態の吸着材は、上記血液透析、血液ろ過、血液透析ろ過、腹膜透析等を行うための人工透析機器に用いることができる。
【0051】
上記人工透析機器として、例えば血液透析機器、腹膜透析機器に分類され、血液透析機器はワンパス式(シングルパス式)と循環式とに分けられる。さらに、循環式には、REDYシステム(再循環透析液システム)とそれ以外のシステムによるものが挙げられる。上記人工透析機器は、患者からの血液と透析液のクロスフローにより血液と接することなく尿素を除去する方法、直接血液をろ過する方法によっても分けられる。また腹膜透析機器はワンパス式が主流である。本実施形態の吸着材は、これら血液透析、腹膜透析のいずれにも使用することができ、血液透析機器、腹膜透析機器等の人工透析機器における、吸着膜、分離膜、吸着材カートリッジ等として用いることができる。例えば、REDYシステム(再循環透析液システム)に用いる場合、吸着材カートリッジに、本実施形態の吸着材が用いられることが挙げられる。
【0052】
図3に、本実施発明に係る吸着材を用いた人工透析機器の一例として、ワンパス式の血液透析機器を模式的に示す。図3の血液透析機器40において、血液導入口41から導入された処理前の血液は、血液用ポンプ43により血液浄化機器44まで送液される。一方、未使用透析液タンク48から、透析液が透析液用ポンプ50により血液浄化機器44まで送液される。血液浄化機器44において、血液浄化機器の血液通過域46の血液は、分離膜45により血液透析、血液濾過透析または血液濾過が施され、除去したい物質が分離膜45を通過して血液浄化機器の透析液通過域47に移動する。浄化後の血液は、血液導出口42へ送られる。一方、除去したい物質を含んだ透析液通過域47の透析液は、使用後透析液タンク49に送液される。図3には図示していないが、処理前および/または処理後の血液の送液途中において、必要に応じて薬剤、たんぱく質等を、血液に補充する経路を含む装置が備わっていてもよい。また、血液流量、透析液流量、必要に応じて血液中のたんぱく質濃度を測定するためのセンサが設けられていてもよい。また、血液および/または透析液の流路の途中に、必要に応じて流路を開閉可能な開閉弁が設けられていてもよい。
【0053】
本実施形態の吸着材を用いた分離膜は、上記血液透析等に用いる人工透析用分離膜に適している。該分離膜の吸着材以外を構成する材質として、一般に、血液透析等に供されるセルロース系、合成高分子系の材料が挙げられる。具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、セルロース、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、あるいはポリビニルアルコールとエチレンの共重合体のようなビニルアルコール共重合体などが挙げられる。好ましくはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロースであり、より好ましくは、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレートが用いられる。前記人工透析用分離膜の形態は、特に限定されず、例えば多孔質型、中空繊維型、平膜積層型が挙げられる。
【0054】
本実施形態の吸着材は、前述の通り、染料を吸着するために用いられる吸着材としても適している。前記染料として、例えばメチレンブルーが挙げられる。前記吸着材は、例えば工業用水に含まれる染料であるメチレンブルーの除去に適している。染料を吸着するための、吸着材を用いた態様として、前述した吸着シート、前記吸着材を用いた分離膜が挙げられる。前記染料の吸着に用いられる前記分離膜の、吸着材以外を構成する材質は、特に限定されず、セラミック、金属、および樹脂材料のうちの1以上の材料でありうる。これらの材料として、前述の複合材料で用いられうる、セラミック、金属、樹脂材料を用いることができる。
【0055】
(実施形態2:吸着材の製造方法)
以下、本発明の実施形態における吸着材の製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0056】
本実施形態の吸着材の製造方法は、
(a)以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)HCl、H3PO4、HI、およびH2SO4のうちの1種以上を含むエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行うこと、
(c)前記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、酸洗浄すること、
(d)前記酸洗浄により得られた酸洗浄処理物を、水洗浄して該酸洗浄処理物のpHを調整すること、
(e)前記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の特定金属原子を含む化合物とを混合する工程を含む、特定金属原子インターカレーション処理を行うこと、および
(f)前記特定金属原子インターカレーション処理を行って得られた特定金属原子インターカレーション処理物を、水で洗浄して、吸着材を得ること
を含む。この製造方法により、上記特定金属原子を含み、MXeneにおけるMと、塩素原子、リン原子、ヨウ素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種とが結合して、例えば極性有機化合物の吸着性能に優れた吸着材を製造することができる。
【0057】
本実施形態の吸着材の製造方法では、特に特定金属原子インターカレーションを、上記の通り、エッチング工程で、HCl、H3PO4、HI、およびH2SO4のうちの1種以上を含むエッチング液を用いて、エッチングを行い、表面に立体の大きい(Cl-、PO4 3-、IおよびSO4 2-)を有するMXeneを利用するとともに、特定金属原子のインターカレーションの前に酸洗浄を行い、インターカレーションの阻害要因となる不純物を除去することによって、特定金属原子が層間に含まれ、吸着性能の優れたMXeneを容易に得ることができる。
【0058】
以下、上記製造方法の各工程について詳述する。
・工程(a)
まず、所定の前駆体を準備する。本実施形態において使用可能な所定の前駆体は、MXeneの前駆体であるMAX相であり、
以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される。
【0059】
上記M、X、nおよびmは、MXeneで説明した通りである。Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである。
【0060】
MAX相は、Mmnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「Mmn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。
【0061】
上記MAX相は、既知の方法で製造することができる。例えばTiC粉末、Ti粉末およびAl粉末を、ボールミルで混合し、得られた混合粉末をAr雰囲気下で焼成し、焼成体(ブロック状のMAX相)を得る。その後、得られた焼成体をエンドミルで粉砕して次工程用の粉末状MAX相を得ることができる。
【0062】
・工程(b)
HCl、H3PO4、HI、およびH2SO4のうちの1種以上を含むエッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行う。本実施形態の製造方法では、後述の工程(e)で特定金属原子のインターカレーションが容易に行うことを目的に、MXene表面に立体の大きい(Cl-、PO4 3-、IおよびSO4 2-)を有するMXeneを得るため、上記HCl、H3PO4、HI、およびH2SO4のうちの1種以上を含むエッチング液を用いてエッチングを行う。エッチング処理のその他の条件は、特に限定されず、既知の条件を採用することができる。前述のとおりエッチングは、さらにF-を含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ酸に、更にこれら塩酸等を含むエッチング液を用いた方法であって、これらの方法では、溶媒として例えば純水との混合液を用いた方法が挙げられる。上記エッチング処理により得られたエッチング処理物として例えばスラリーが挙げられる。上記エッチング液として、HCl濃度が6.0M以上、H3PO4濃度が5.5M以上、HI濃度が5.0M以上、およびH2SO4濃度が5.0M以上からなる群より選択される少なくとも1つを満たすエッチング液を用いることができる。前記A原子のエッチングでは、前記A原子と共に、場合によりM原子の一部も選択的にエッチングされうる。
【0063】
上記エッチング後は、適宜、水洗浄を行うことができる。例えば水を加えて撹拌、遠心分離等を行うことが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となる処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。前記水での洗浄は1回以上行えばよい。好ましくは水での洗浄を複数回行うことである。例えば具体的に、(i)(エッチング処理物または下記(iii)で得られた残りの沈殿物に)水を加えて撹拌、(ii)撹拌物を遠心分離する、(iii)遠心分離後に上澄み液を廃棄する、の工程(i)~(iii)を2回以上、例えば10回以下の範囲内で行うことが挙げられる。
【0064】
・工程(c)
前記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、酸洗浄する。
上記酸洗浄に用いる酸は限定されず、例えば鉱酸等の無機酸、および/または有機酸を用いることができる。前記酸は、好ましくは無機酸のみ、または無機酸と有機酸の混合酸である。前記酸は、より好ましくは無機酸のみである。上記無機酸として例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、フッ酸等のうちの1以上を用いることができる。好ましくは、塩酸と硫酸のうちの1以上である。上記有機酸として例えば、酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、ソルビン酸などが挙げられる。エッチング処理物と混合させる酸溶液の濃度は、処理対象となるエッチング処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。
【0065】
上記酸洗浄では、エッチング処理物と酸溶液を混合し、例えば撹拌することが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となるエッチング処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。
【0066】
上記酸溶液を混合して撹拌時、加熱の有無は問わない。酸溶液を混合し、加熱を行わずに撹拌してもよいし、液温が80℃以下となる範囲で加熱しながら撹拌してもよい。
【0067】
工程(d)
前記酸洗浄により得られた酸洗浄処理物を、水洗浄して該酸洗浄処理物のpHを調整する。該水洗浄は、前述のエッチング後の水洗浄と同様の方法で行うことができる。該水洗浄を行うことにより、酸洗浄後のpH調整を行う。例えば酸性領域のpHを、例えば5以上、8以下程度にすることが挙げられる。上記特許文献1でエッチング時に使用されるMgF2、CaF2は、水洗浄によりpHを調整することで不溶性化合物として残存するため好ましくない。
【0068】
・工程(e)
前記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、Al、Mg、Ca、Ba、Fe、Zn、MnおよびCuからなる群より選択される1種以上の特定金属原子を含む化合物とを混合する工程を含む、特定金属原子インターカレーション処理を行う。前述のとおり、上記特定金属原子は、Na、Kなどよりもサイズが大きく、層間を広げる効果があるために、吸着特性が向上する。
【0069】
前記特定金属原子を含む化合物として、特定金属イオンと陽イオンが結合したイオン性化合物を用いることができる。例えば特定金属イオンの、ヨウ化物、リン酸塩、硫酸塩を含む硫化物塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。上述の様なMgF2、CaF2の様に溶解度の低い化合物は含まれない。
【0070】
インターカレーション処理用配合物に占める、前記特定金属原子を含む化合物の含有率は、0.001質量%以上とすることが好ましい。上記含有率は、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。一方、溶液中の分散性の観点からは、前記特定金属原子を含む化合物の含有率を、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0071】
インターカレーション処理の具体的な方法は特に限定されず、例えば、上記MXeneの水分媒体クレイに対して、上記特定金属原子を含む化合物を混合し、撹拌を行ってもよいし、静置してもよい。例えば室温で撹拌することが挙げられる。上記撹拌の方法は、例えば、スターラー等の撹拌子を用いる方法、撹拌翼を用いる方法、ミキサーを用いる方法、及び遠心装置を用いる方法等が挙げられ、撹拌時間は、吸着材の製造規模に応じて設定することができ、例えば12~24時間の間で設定することが挙げられる。
【0072】
・工程(f)
前記特定金属原子インターカレーション処理を行って得られた特定金属原子インターカレーション処理物を、水で洗浄して、吸着材を得る。該水洗浄は、前述のエッチング後の水洗浄と同様の方法で行うことができる。例えばスラリー状の特定金属原子インターカレーション処理物を、遠心分離して上澄み液を廃棄後、残りの沈殿物を水で洗浄する工程を繰り返し、特定金属原子がインターカレーションした、例えばクレイ状のMXeneを得ることができる。
【0073】
本実施形態の製造方法によれば、上記特定金属原子のインターカレーション処理と上記工程(f)の水洗浄の際に、層間に残存する、前記エッチングと酸洗浄で使用した酸性物質に由来のプロトンが、層外に排出除去されるため、得られる吸着材は、その後、溶液中に浸漬させた場合であっても、該溶液のpH低下を招かず、pH安定性に優れる。
【0074】
以上、本発明の実施形態における吸着材およびその製造方法、吸着シート、分離膜ならびに人工透析機器について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本発明の吸着材は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明の吸着材の製造方法は、上述の実施形態における吸着材を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0075】
〔MXene吸着材の作製〕
本実施例では、以下に詳述する、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチング、(3)エッチング後の水洗浄、(4)酸洗浄(MAX由来のAl残存物の除去)、(5)酸洗浄後の水洗浄、(6)特定金属原子インターカレーション、(7)インターカレーション後の洗浄、(8)凍結乾燥を順に実施して、特定金属原子含有MXeneで形成された吸着材を作製した。
【0076】
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック状MAX)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(粉末状MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
【0077】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。本実施例では、このエッチングで使用したエッチング液に含まれる塩酸(HCl)に由来して、塩素原子がMXeneの層のMと結合していると考えられる。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL、
2O 18mL
HCl(12M) 36mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0078】
(3)エッチング後の水洗浄
上記スラリーを均等に3分割して、50mL遠沈管3本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管中の残りの沈殿物に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返して、水洗浄物としてスラリーを得た。
【0079】
(4)酸洗浄(MAX由来のAl残存物の除去)
上記スラリーに1Mの塩酸を40mL追加してからシェーカーで5分間撹拌後に、3500Gで遠心分離を行い、上澄み液を廃棄した。
【0080】
(5)酸洗浄後の水洗浄
各遠沈管中の残りの沈殿物に、(i)純水40mLを追加し、(ii)3500Gで遠心分離を行って(iii)上澄み液を分離除去した。この(i)~(iii)の操作を合計5回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、Ti32s-水分媒体クレイを得た。
【0081】
(6)特定金属原子(MgまたはCaまたはAl)のインターカレーション
上記方法で調製したTi32s-水分媒体クレイに対し、表1に示す各インターカレーターを用い、特定金属原子(MgまたはCaまたはAl)のインターカレーションを行った。インターカレーションの詳細な条件は以下の通りである。なお、以下の条件では、撹拌時間を18時間としたが、撹拌時間は、MXene吸着材の製造規模に応じて設定することができ、例えば12~24時間の間で設定することができる。
(MgまたはCaまたはAlのインターカレーションの条件)
・Ti32s-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分1.0g
・MgCl2:2.34g(実施例1)、またはCaCl2:3.16g(実施例2)、またはAlCl:3.15g(実施例3)
・純水:20mL
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・(撹拌)温度:20℃以上25℃以下(室温)
・(撹拌)時間:18時間
・スターラー回転数:800rpm
【0082】
(7)MgまたはCaまたはAlのインターカレーション後の水洗浄
上記MgまたはCaまたはAlでインターカレーションを行って得られたスラリーを、それぞれ遠沈管に移し、(i)純水40mLを追加し、(ii)遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行って(iii)上澄み液を分離除去した。この(i)~(iii)の操作を合計5回繰り返して、過剰のMgまたはCaまたはAlを除去し、MaまたはCaまたはAlがインターカレーションした各MXeneクレイを得た。後記のXRD測定に用いるろ過フィルム(MXeneフィルム)は、上記MXeneクレイを用い吸引ろ過することで得た。ろ過後は80℃で24時間の真空乾燥を行ってMXeneフィルムを作製した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(メルク株式会社製、デュラポア、孔径0.45μm)を用いた。
【0083】
(8)乾燥
上記各MXeneクレイを-40℃で5時間凍結させ、その後、凍結乾燥機で24時間乾燥させ、実施例1、実施例2および実施例3のMXene乾燥粉を得た。この乾燥粉をMXeneの吸着材として利用した。
【0084】
比較例として、Naを用いた以外は上記と同様に製造した比較例1の吸着材、Kを用いた以外は上記と同様に製造した比較例2の吸着材、非特許文献1に記載の方法で製造した、すなわちエッチングに塩酸を用いず、かつインターカレーションも行わずに製造した比較例3の吸着材も用意した。
【0085】
〔MXene吸着材の評価〕
[層間距離の評価]
吸着材を構成するMXeneの層間距離を測定した。より詳細には、下記条件により、実施例1~3および比較例1と2の吸着材のXRD測定を下記条件で行って、MXeneフィルムの2次元X線回折像を得た。実施例1と2および比較例1と2の結果を図4に示す。
【0086】
(XRD測定条件)
・使用装置:株式会社リガク製 MiniFlex600
・条件
光源:Cu管球
特性X線:CuKα=1.54Å
測定範囲:3度-20度
ステップ:50step/度
【0087】
上記XRD測定結果から層間距離を算出した結果、実施例1では13.5Å、実施例2では14.9Å、実施例3では13.0Åであった。比較例1では11.8Å、比較例2でも11.8Åであった。
【0088】
図4および上記層間距離の算出結果から、実施例1~3ではそれぞれMg、Ca、Alのインターカレーションを行ったため、(002)面のピークが低角側にあり、層間が広がった。これに対して、比較例1と2ではそれぞれNa、Kのインターカレーションを行ったが、これらの原子は、上記Mg、Caよりもサイズが小さいため、層間距離は十分広がらなかった。
【0089】
[MXene中の特定金属原子(Mg、Ca、Al)含有量の測定]
MXeneをアルカリ溶融法により溶液化し、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いたICP-AES(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のiCAP7400を使用)で、実施例1のMXene中のMg含有量、実施例2のMXene中のCa含有量、および実施例3のMXene中のAl含有量(いずれもインターカレーター残存量に相当)を測定した。その結果、実施例1では、Mg含有量が0.78質量%、実施例2では、Ca含有量が1.37質量%、実施例3ではAl含有量が0.58重量%であった。なおいずれの例も、Li含有量が定量限界以下、すなわち0.0001質量%以下であることも別途確認した。
【0090】
[層間の酸性物質量に関する評価]
吸着材を純水に浸漬させた際のpHを測定して、製造過程で層間に挿入されうる酸性物質の流出の有無を評価した。その結果、インターカレーターなしの比較例3の場合は、浸漬させた純粋のpHは3.59であったのに対し、実施例1(インターカレーターがMg)のpHは5.34、実施例2(インターカレーターがCa)のpHは5.15であった。また、実施例3(インターカレーターがAl)のpHは5.12であった。これらの結果から、インターカレーターなしの比較例3の場合は、吸着材の製造過程で層間に挿入された酸性物質が、吸着材製造後に流出して強い酸性を示したのに対し、実施例1~3の場合は、吸着材の層間が広いため、製造過程で使用した酸性物質が製造時に容易に除去されたと考えられ、その結果、吸着材を純水に浸漬させたときのpH低下を抑制できた。
【0091】
[吸着性能の評価]
上記実施例1~3および比較例1~3の吸着材を用いて、吸着対象物質(尿素)の吸着量を以下の通り測定し、吸着材の吸着性能を評価した。
【0092】
(1)尿素溶液の調製
尿素0.5gを秤量して、100mLの純水に加え、これを100倍希釈して濃度が5mg/dLの尿素溶液を調整した。
【0093】
(2)アッセイキット溶液の調製
フナコシ株式会社製のバイオアッセイキット(製品名:DIUR-100)を用い、該キットのA液とB液を等分体積量で混合して、アッセイキット溶液を調製した。
【0094】
(3)吸着対象物質を含む溶液(尿素溶液)の準備
500mLビーカーに上記手順(1)で調製した尿素溶液を250mL投入し、ホットスターラーにて、回転数400rpm,液温37℃で加温撹拌を行って、吸着対象物質である尿素を含む溶液を用意した。この尿素溶液を各例用に6つ用意した。
【0095】
(4)尿素吸着、試料サンプリング
上記実施例1~3および比較例1~3の吸着材0.1gをそれぞれ、手順(3)で用意した尿素溶液中に投入し30分間ホットスターラーで撹拌した。その後、静置後の溶液をそれぞれ10mLピペットで採取し、遠心分離機で20000rpm、10分の条件で浮遊している吸着材を沈降分離させ、上澄み液を250μLサンプリングした。
【0096】
(5)アッセイキット溶液の滴下
上記上澄み液に、手順(2)で調製したアッセイキット溶液を1250μL投入し、50分静置した。
【0097】
(6)吸光度測定
まず検量線作成のため、吸着材を投入していない尿素溶液と、この吸着材を投入していない尿素溶液を2倍希釈した溶液を用意した。そして、各溶液の吸光度を測定し、検量線を作成した。次に、手順(5)で作製したサンプルを吸光度測定し、それぞれの吸光度を検量線と照らし合わせて、溶液中に吸着されずに残った尿素の濃度を求め、この尿素の濃度から、尿素吸着量(吸着材1gあたりの尿素量(mg)を算出した。その結果を、表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
上記結果から、Na、Kを使用した場合には、層間距離が小さく、かつNa、Kが分子吸着サイトに存在し、吸着の阻害になったため、インターカレーターを含まない比較例3よりも吸着性能が低くなったと考えられる。これに対して、インターカレーターとしてMg、Ca、Alをそれぞれ用いた実施例1、2、3では、尿素分子サイズに対して好適な層間距離のMXeneの構造が得られ、これにより尿素の高い吸着性能を発揮したと考えられる。
【0100】
上記実施例1、2、3ではそれぞれ、Mg2+、Ca2+、Al3+がMXene層間にインターカレーションしているが、吸着材の製造プロセスにおいてLiを使用していないため、Liを含んでいない。非特許文献1および非特許文献2の技術では、Li含有量を十分に低減することが難しいが、本実施形態の吸着材によれば、Liの極力低減が必要な用途にも対応できる。さらに特許文献1の通り、エッチング時にMgF2、CaF2を使用した場合、これらの化合物は溶解性が低いため、材料中に不純物として残存しうる。よって例えば、上記化合物の残存が許容されない場合、更なる改善が必要であると考えられるが、本実施形態の吸着材によれば、MgF2およびCaF2などの難溶性の不純物も含まれない。よって特に、インターカレーターとしてMgまたはCaを用いた吸着剤は生体適合性に優れている。更には、前述のとおり上記実施例1~3の吸着材は、製造等で使用の酸性物質をあまり含まないため、該吸着材を溶液に浸漬させたときの溶液のpH低下が抑えられ、pH安定性にも優れている。
【0101】
[染料(メチレンブルー)の吸着性能評価]
上記実施例1~3および比較例1~3のMXeneを用いて、吸着対象物を染料の一例としてのメチレンブルーとし、吸着評価を行った。
【0102】
(1)メチレンブルー溶液の調製
メチレンブルー0.1gを秤量して2Lの純水に加え、濃度が5mg/Lの尿素溶液を調製した。
【0103】
(2)吸着対象物質を含む溶液(尿素溶液)の準備
500mLビーカーに上記手順(7)で調製したメチレンブルー溶液を250mL投入し、スターラーにて、回転数400rpm,液温20℃で加温攪拌を行って、吸着対象物質であるメチレンブルーを含む溶液を用意した。この尿素溶液を各例用に6つ用意した。
【0104】
(3)尿素吸着、試料サンプリング
上記実施例1~3および比較例1~3の吸着材0.01gをそれぞれ、手順(8)で用意したメチレンブルー溶液中に投入し30分間スターラーで撹拌した。その後、静置後の溶液をそれぞれ10mLピペットで採取し、遠心分離機で3500G、5分の条件で浮遊している吸着材を沈降分離し、上澄みを1000μLサンプリングした。
【0105】
(4)吸光度測定
まず検量線作成のため、吸着材を投入していないメチレンブルー溶液と、この吸着材を投入していないメチレンブルー溶液を2倍希釈した溶液を用意した。そして、各溶液の吸光度を測定し、検量線を作成した。次に、手順(9)で作製したサンプルを吸光度測定し、それぞれの吸光度を検量線と照らし合わせて、溶液中に吸着されずに残ったメチレンブルーの濃度を求め、このメチレンブルーの濃度から、メチレンブルー吸着量(吸着材1gあたりのメチレンブルー量(mg)を算出した。その結果を、表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
上記結果から、Na、Kを使用した場合には、層間距離が小さく、かつNa、Kが分子吸着サイトに存在し、吸着の阻害になったため、インターカレーターを含まない比較例3よりも吸着性能が低くなったと考えられる。これに対して、インターカレーターとしてMg、Ca、Alをそれぞれ用いた実施例1と2と3では、メチレンブルー分子サイズに対して好適な層間距離のMXeneの構造が得られ、これにより高い吸着性能を発揮したと考えられる。
【0108】
本出願は、日本国特許出願である特願2021-003541号と特願2021-028821号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願2021-003541号と特願2021-028821号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の吸着材は、任意の適切な用途に利用され得、例えば人工透析機器における分離膜等として好ましく使用され得る。
【符号の説明】
【0110】
1a、1b 層本体(Mmn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10a、10b MXene粒子(層状材料の粒子)
20 チタン原子
21 酸素原子
40 血液透析機器
41 血液導入口
42 血液導出口
43 血液用ポンプ
44 血液浄化機器
45 分離膜
46 血液浄化機器の血液通過域
47 血液浄化機器の透析液通過域
48 未使用透析液タンク
49 使用後透析液タンク
50 透析液用ポンプ
図1
図2
図3
図4