(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】太陽光発電パネルの屋根上設置用構造体
(51)【国際特許分類】
E04D 13/18 20180101AFI20250701BHJP
H02S 20/23 20140101ALI20250701BHJP
【FI】
E04D13/18 ETD
H02S20/23 Z
(21)【出願番号】P 2023014542
(22)【出願日】2023-02-02
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 広幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昭一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏祐
【審査官】眞壁 隆一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0119211(US,A1)
【文献】特開2002-004525(JP,A)
【文献】実開平06-025442(JP,U)
【文献】実開昭62-042620(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 13/18
H02S 20/00 - 20/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋根上に太陽光発電パネルを設置するための構造体であって、
上面部と、該上面部の周囲を囲繞し該上面部から下方に延在して下端縁が前記屋根の上面に当接する側面部とから成るボタン形状の突起部を複数有し、
前記突起部の各々の上面部が前記太陽光発電パネルの底面に於ける複数の部位のそれぞれに当接し固定されるよう構成された構造体にして、
複数の前記突起部が前記太陽光発電パネルの縁に沿って間隔を置いた複数の部位と、前記太陽光発電パネルの縁よりも内側の部位とのそれぞれに当接する位置に配置されており、前記太陽光発電パネル上に並置されている複数の太陽電池セルの隣接する2つ又は4つに於ける互いに近接した前記太陽電池セルの隅部の間に前記突起部の上面部が固定されている構造体。
【請求項2】
請求項1の構造体であって、前記屋根の上面に貼着される薄板状部材を有し、前記突起部の各々が前記薄板状部材上に配置されている構造体。
【請求項3】
請求項2の構造体であって、前記突起部の各々が前記薄板状部材をプレス加工により形成されている構造体。
【請求項4】
請求項1の構造体であって、前記太陽光発電パネルの延在方向を前記屋根の上面に対して傾斜させるよう複数の前記突起部の上面部の面が前記屋根の上面に対して傾斜している構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルが配列されてなる太陽電池モジュールが板状のパネル部材上に形成された太陽光発電パネルを設置するための構造体に係り、より詳細には、建物の屋根の上に太陽光発電パネルを設置するための構造体に係る。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電の普及に伴い、太陽光が照射される建物や移動体などの屋根の上など、種々の場所に太陽光発電パネルが配置されるようになっている。このことに伴い、太陽光発電パネルを設置するための構造体の構成が種々提案されている。例えば、特許文献1では、軽量で耐衝撃性能が向上された太陽電池パネルが屋根上に置かれた梁の上に載置される構成が開示されている。特許文献2では、太陽電池モジュールが、設置場所の状況に見合う耐荷重性を持つように、太陽電池パネルの外縁に平行な長尺形状をなし、外縁の側方にて立てられた側面部を含み、太陽電池パネルの外縁を保持する保持フレームと、側面部よりも太陽電池パネルの側において保持フレームへ着脱可能に嵌合されて保持フレームを補強する補強部品とを備えるように構成され、太陽電池モジュールの底側に配置され屋根上に配置される梁状の支持ラックが保持フレームに対して補強部品を介して固定金具により係合されている構成が開示されている。特許文献3では、太陽電池パネルと太陽電池パネルの外縁を保持するフレームを支持する支持体である縦桟が屋根の上に載置され、縦桟にフレームを固定する固定部品である固定金具が、縦桟から取り外されているときには、フレームに設けられているレール溝に沿ってレール溝に嵌め合わせられた状態でスライド可能となり、フレームがその高さに関わらず支持体へ容易に固定することができる太陽電池モジュールの構成が開示されている。そして、特許文献4には、屋根材として軽量気泡コンクリート(ALC)パネルが用いられた建物の屋根に、太陽電池モジュールを設置する際に、ALCパネルを支える梁の上に支柱を立て、その上に、太陽電池モジュールの固定される桟を配置する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-82923
【文献】特開2019-143306
【文献】特開2021-90251
【文献】特開2020-165233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き先行技術文献にて開示されている如く、太陽光発電パネルを建物の屋根などの上に設置する場合、典型的には、設置部位に、幾本かの梁状又は枠状の部材から構成される架台(以下、「梁状架台」と称する。)が配置され、その上に板状の太陽光発電パネルを載置する構成が取られている。そのような梁状架台の場合、屋根上の設置面に於いて架台の梁状又は枠状の部材の接触する部位に集中的に荷重が作用することになる。従って、梁状架台を建物の屋根に配置する場合、屋根の各部の強度や重量についての制約が考慮される必要があるので、架台の梁状又は枠状の部材を屋根の上のどこでも配置できるわけではない。例えば、比較的強度の低い発砲コンクリート製の陸屋根の場合、屋根パネルを支える梁が延在している箇所の上面以外の部位に荷重をかけることができないので、そのような屋根に太陽光発電パネルを設置しようとするときには、梁状又は枠状の部材の間隔が屋根パネルを支える梁の間隔に合った架台しか用いることができず、そうすると、架台を太陽光発電パネルの設置強度が最適となるように構成することは必ずしも可能ではないことがあった。
【0005】
また、建物の屋根に太陽光発電パネルを上記の如き梁状架台を用いて設置する構成に於いては、太陽光発電パネルが風、雨、雪から受ける外力が梁状架台の部材に作用する作用点と、屋根面にて梁状架台の部材が支持される支持点が必ずしも一致しておらず、その場合、梁状架台の部材の支持点間の略中心の曲げモーメントが高くなる。より詳細には、
図5(A)に示されている如く、梁状架台の梁状部材Fが屋根面R上で支持点Cにて支持され、梁状部材F上の固定点Sにて太陽光発電パネルPVPが固定されている構成を考えたとき、積雪があると、太陽光発電パネルに下向きに、風が吹くと、太陽光発電パネルに上向きに圧力Pが作用することとなる。その場合、屋根面R上の梁状部材Fの支持点Cと、太陽光発電パネルからの外力の作用点Sとが、屋根面Rの強度の都合により、図示の如く、ずれていると、
図5(B)に示されている如く、梁状部材Fに於いて生ずる曲げモーメントMは、隣接する支持点Cの略中間点に於いて高くなる。そうすると、架台の梁状又は枠状の部材に於いて、かかる高い曲げモーメントが作用する部位は、それに抗するだけの高い剛性断面を有するように形成される必要があるところ、梁状又は枠状の部材の一部を肉厚に形成することは困難であるので、梁状又は枠状の部材全体が肉厚に形成されることとなり、その分、架台の重量が増大してしまい、結局、太陽光発電パネルと架台の重量が屋根上に載置できる重量を超え、太陽光発電パネルを屋根上に設置できないといった状況も発生していた。
【0006】
或いは、建物の屋根に載置される重量を軽減するために、太陽光発電パネルを屋根に直接に貼り付けることも考えられるが、屋根の耐用期間と太陽光発電パネルの耐用期間が異なるなど、屋根と太陽光発電パネルのメンテナンスが困難となる可能性がある。
【0007】
かくして、上記のような梁状架台を用いて太陽光発電パネルを設置する場合の事情を鑑み、本発明の主な課題は、梁状架台を用いずに、種々の建物の屋根上に太陽光発電パネルを設置することを可能にする、太陽光発電パネルの設置のための構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の課題は、
建物の屋根上に太陽光発電パネルを設置するための構造体であって、
上面部と、該上面部の周囲を囲繞し該上面部から下方に延在して下端縁が前記屋根の上面に当接する側面部とから成るボタン形状の突起部を複数有し、
前記突起部の各々の上面部が前記太陽光発電パネルの底面に於ける複数の部位のそれぞれに当接し固定されるよう構成された構造体
によって達成される。
【0009】
上記に於いて、「太陽光発電パネル」は、既に触れられている如く、板状のパネル部材上に複数枚の太陽電池セルが並列されてなる太陽電池モジュールが載置されたパネルであってよい。太陽電池セルの各々は、概ね矩形の板状形状を有し、太陽光発電パネルの形状は、太陽電池セルが縦横に並べられた概ね矩形の平板状であってよいが、これに限定されない。「ボタン形状の突起部」とは、水平方向の断面が略円形又は多角形の形状を有し、下端縁から上方へ突出した形状を有する部分又は領域であってよい。そして、本発明に於いては、突起部の各々の上面部が太陽光発電パネルの底面に於ける複数の部位のそれぞれに当接して固定される。太陽光発電パネルの底面に於ける固定部位は、好適には、太陽光発電パネルの縁部分を含んでいてよい。構造体に於ける突起部の数は、適宜、選択されてよい。太陽光発電パネルの底面に於ける突起部の当接位置は、太陽光発電パネルの縁に沿った適当な間隔を置いた複数の部位と、かかる縁よりも内側の任意の部位とが適宜選択されてよい。太陽光発電パネルは、屋根の上面に適宜配置されたボタン形状の突起部の上に載置されることとなる。突起部の水平方向の大きさは、適合により決定されてよい。突起部は、薄く軽量な金属材料、プラスチック材料等で形成されていてよい。
【0010】
上記の本発明による太陽光発電パネルの設置のための構造体に於いては、従前の梁状架台の如く屋根の上面に梁状又は枠状の部材を這わせるように配置するのではなく、ボタン形状の突起部が適当な間隔にて配置され、それらの突起部の上面に、太陽光発電パネルが当接され固定される。かかる構成によれば、各突起部に於いて、太陽光発電パネルに固定された部位、即ち、太陽光発電パネルから突起部へ伝わる外力の作用点と、屋根面に当接した部位、即ち、屋根面上にて突起部を支持する支持点との位置が、水平面上で略同じとなるので、梁状架台の梁状又は枠状の部材の場合のように、外力の作用点と支持点とのずれによる高いモーメントに備えて部材を肉厚にするなどの必要がなく、構造体全体の適宜軽量化が図られ、梁状架台が載置し難い屋根であっても、太陽光発電パネルを載置できる屋根の形状や種類が増えることが期待される。
【0011】
上記の突起部は、その重量に応じて数が調整されてよい。突起部は、典型的には、上面部と側面部との内部が中空であってよく、その場合、突起部の形状は、カップをその開口側を下向きにして配置した状態の形状となり、上面部に作用する荷重がその周囲を囲繞する側面部に一様に分散することが期待され、軽量にして高い剛性強度が得られることとなる(かかる構成の場合、後述の如く、屋根面に於いて隣接する突起部間に於いて、太陽光発電パネルの底面と、それに対向する屋根面と、それらを両側にて連結する突起部の側面部とにより、概ね矩形断面の中空のボックス状の構造が形成されることとなるので、構造体として軽量であり、ボックス状の構造の上面部分(太陽光発電パネルの部分)に上下方向に風や雪により作用する外力に対しても高い支持機能が提供されることとなる。)。また、この場合、各突起部の軽量化ができるため、その分、突起部の数を増やすことができ、より安定的に太陽光発電パネルを支持できることとなる。
【0012】
上記の本発明による構造体は、屋根の上面に貼着される薄板状部材を有し、突起部の各々が薄板状部材上に配置されていてよい。例えば、上記にて簡単に触れた発砲コンクリート製の陸屋根の場合、局所的に高い荷重が作用できる部位が特定の部位に限られることになるところ、屋根の上面にて広い範囲に薄板状部材を貼着し、かかる薄板状部材上に太陽光発電パネルを支持する突起部が配置される構成の場合には、太陽光発電パネルから屋根に伝わる荷重は、薄板状部材全体に分散されることとなるので、局所的に高い荷重が作用できる部位が限られている屋根に於いても太陽光発電パネルの設置が可能となる。薄板状部材は、薄く軽量な金属材料、プラスチック材料等で形成されていてよい。薄板状部材は、任意の手法にて、例えば、接着剤を用いて、屋根面に貼着されてよい。
【0013】
なお、上記の薄板状部材を有する構成の場合、突起部は、薄板状部材と別体にて形成され、薄板状部材に任意の態様にて接合されてもよいが、薄板状部材が金属薄板であるときには、薄板状部材に於いて、プレス加工により突起部が形成されてもよい。その場合、部品点数が少なくなり、構造体を簡易に製造することが可能である。また、薄板状部材に於いて、プレス加工により突起部が形成される場合、薄板状部材を配置するだけで、突起部の位置決めが完了するので、太陽光発電パネルの敷設工程が簡単化できる利点も有する。なお、薄板状部材から突起部が突出する構成は、プラスチック材料を成形することにより構成されてもよく、その場合も本発明の範囲に属する。
【0014】
上記の構成に於いては、突起部に対する太陽光発電パネルの取り付けは、例えば、ボルトなどの締結具を用いて達成されてもよい。この点に関し、上記の本発明による構造体に載置される太陽光発電パネルは、一般的には、パネル上にて複数の太陽電池セルが整列して並置されているところ、太陽電池セル自体に突起部を固定するためのボルト等を取り付けるための孔等を穿孔することは好ましくない。また、一つの突起部で複数の隣接する太陽電池セルを支持できれば、構造体に形成又は設置する突起部の数を低減することができることとなり、太陽光発電パネルを構造体に固定する工程が簡単化できることとなる。そこで、上記の本発明による構造体に於いて、突起部の上面部は、太陽光発電パネル上に並置されている複数の太陽電池セルの隣接する2つ又は4つに於ける互いに近接した太陽電池セルの隅部の間(板状のパネル部材の部分)に固定されてよく、これにより、固定部位を太陽電池セル自体から避けるようにすると共に、各突起部が複数の太陽電池セルを同時に保持できるようになっていてよい。
【0015】
ところで、屋根上に太陽光発電パネルが設置される場合、しばしば、太陽光発電パネルの受光面ができるだけ太陽光の進行方向に対して垂直に近くなるように、太陽光発電パネルの向きが傾斜される。そこで、上記の本発明による構造体に於いても、太陽光発電パネルの延在方向を屋根の上面に対して傾斜させるよう複数の突起部の上面部の面が屋根の上面に対して傾斜していてよい。かかる構成によれば、太陽光発電パネルの構造体の突起部上に載置すると同時に太陽光発電パネルの向きの調節も達成できることとなり、屋根上での設置作業が簡単化される。
【発明の効果】
【0016】
かくして、上記の本発明によれば、屋根面上にボタン形状の突起部を適宜配置し、その上に太陽光発電パネルを配置する構成により、梁状架台を用いずに、太陽光発電パネルが屋根上に設置されることとなる。かかる構成によれば、梁状架台を用いることが困難であった種々の屋根の上にも太陽光発電パネルを設置することが可能となり、太陽光発電パネルの設置可能な屋根の種類や形状が多様化されることとなる。特に、屋根面上に薄板状部材を載置し、その上に突起部が形成される態様の場合には、従前、太陽光発電パネルを設置することができなかった発砲コンクリート製の陸屋根にも、太陽光発電パネルの設置が可能となる。
【0017】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態による屋根上に太陽光発電パネルを設置するための構造体の模式的な斜視図であり、一部に太陽光発電パネルが載置された状態が示されている。
図1(B)は、
図1(A)の構造体の模式的な斜視図であり、一部が破断されて描かれている。
図1(C)は、屋根上に
図1(A)の構造体を用いて太陽光発電パネルを設置する工程を模式的に描いた斜視図である。
図1(D)は、
図1(A)の構造体を用いて屋根上に太陽光発電パネルを設置した状態の模式的な斜視図である。
図1(E)は、太陽光発電パネルを
図1(A)の構造体の突起部に固定する部位の模式的な斜視図である。
図1(F)は、
図1(A)の構造体を用いて屋根上に太陽光発電パネルを設置した状態の模式的な平面図であり、
図1(G)は、その模式的な側面図である。
【
図2】
図2(A)~(D)は、本実施形態による屋根上に太陽光発電パネルを設置するための構造体を、別体にて成形した突起部と薄板状部材とから構成する場合の模式的な斜視図である。
【
図3】
図3(A)は、太陽光発電パネルが載置された状態の本実施形態による構造体に於ける隣接する突起部の模式的な断面図であり、
図3(B)は、
図3(A)の突起部を座屈する方向に力Φが作用したときに、それに抗する力が作用することを説明する図である。
【
図4】
図4(A)~(C)は、太陽光発電パネルが載置された状態の本実施形態による構造体に正圧及び負圧が作用した場合の有限要素法を用いて算出された応力分布を示している。(A)は、正圧(上から下への圧力)が作用した際の応力分布であり、(B)は、負圧(下から上への圧力)が作用した際の応力分布であり、(C)は、図の見方の説明図である。
【
図5】
図5(A)は、太陽光発電パネルが載置された梁状架台の部材の模式的な側方断面図であり、
図5(B)は、
図5(A)の場合に梁状架台の部材に作用する曲げモーメントの分布を模式的な表わした図である。
【符号の説明】
【0019】
1…太陽光発電パネル設置用構造体,2…太陽光発電パネル,3…太陽電池セル,3a…パネル締結部,4…突起部,4a…突起部の上面部,突起部の側面部,5…薄板状部材,R…建物の屋根面
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0021】
太陽光発電パネルの設置用構造体の基本構成
図1(A)~
図1(G)に模式的に描かれている如く、本実施形態による太陽光発電パネル2を屋根面上に設置するための構造体1(以下、「構造体」と称する。)に於いては、基本的には、屋根面R上に、複数のボタン形状の突起部4、即ち、その上面部4aが略円形であり(矩形であってもよい)、その上面部4aから下方へそれを囲繞するように延在して下端縁が屋根面Rに当接する形状を有する部分又は領域、が適当な間隔にて並置され、
図1(C)、
図1(D)の如く、それらの突起部4の上面部4a上に太陽光発電パネル2が載置されて固定される。かかる構成によれば、従前の如き梁状架台が設置しにくいタイプの屋根でも、上記の如き構成の構造体であれば、太陽光発電パネル2を設置可能となる場合ができることが期待され、太陽光発電パネル2を設置できる屋根の種類を増やすことが可能となる。
【0022】
かかる構成に於いて、太陽光発電パネル2を突起部4の上面部4aに固定する際には、例えば、
図1(E)に描かれている如く、太陽光発電パネル2を貫通して上面部4aに締結されるボルト6等の締結具3aが好適に用いられてよい。この点に関し、太陽光発電パネル2には、図示の如く、複数の太陽電池セル3が並置されているところ、それらの太陽電池セル3を貫通して締結具3aを取り付けることは好ましくないので、締結具3aは、隣接する太陽電池セル3の縁の間若しくは隅部の間に設けられてよい。かかる構成によれば、一つの突起部4で2つ又は4つの太陽電池セル3を支持することになり、突起部4の数を節約し、構造体の総重量を軽減できる点でも有利である。実施の態様に於いて、具体的には、図示の如く、太陽光発電パネル2に於いて、4角形の太陽電池セル3が縦横に整列されているときには、締結具3aは、太陽光発電パネル2の縁に沿って、並列する太陽電池セル3の一つ置きに設けられると共に、太陽光発電パネル2の内側に於いては、4枚の太陽電池セル3の隅が会合する略中心部に設けられてよいが、これに限定されない。
【0023】
突起部が薄板状部材上に形成される構成
上記の本実施形態の構造体1に於ける突起部4は、一つの態様として、図示の如く、屋根面Rに貼着される薄板状部材5上に形成されてよい。薄板状部材5は、薄く軽量な金属材料、プラスチック材料等で形成されていてよく、屋根面Rに対して、任意の手法にて、例えば、接着剤を用いて、貼着されてよい。かかる構成によれば、太陽光発電パネル2から屋根面Rに伝わる荷重は、薄板状部材5の屋根面Rに当接した面の全体に分散されることとなるので、梁状架台の場合のように屋根面R上で局所的に荷重が集中して作用する部位又は領域が発生しないこととなる。かくして、薄板状部材5を有する本実施形態による構造体を用いれば、発砲コンクリート製の陸屋根の如く、局所的に高い荷重が作用できる部位が特定の部位に限られるタイプの屋根に於いても、太陽光発電パネル2を設置することが可能となる。なお、この構成に於いては、各突起部4に於いて、太陽光発電パネル2から伝わる外力の作用点と屋根面R上にて各突起部4を支持する支持点との水平面上で位置が略同じとなっているので、隣接する突起部4の間の薄板状部材5の部分に於いて、外力の作用点と支持点とのずれによる高いモーメントが作用することはなく、薄板状部材5は、梁状架台の梁状又は枠状の部材の場合のように高いモーメントに備えて肉厚にされる必要はなく、構造体1全体の適宜軽量化が図られることとなる。
【0024】
上記の薄板状部材5上に突起部4が配置される構成は、典型的には、薄板状部材5の元となる薄板状材料に対して、プレス加工を施して、
図1(B)に描かれている如く、薄板状材料5の一部が突出されて、複数の突起部4が形成されてよい。かかる手法によれば、構造体1を構成するための部品点数が少なくて済み、構造体1を簡易に製作することが可能となる。また、屋根面R上に構造体1を設置する際に、複数の突起部4の各々の位置決めをする必要がなくなるので、屋根上での構造体1の設置工程が簡単となる点で有利である。
【0025】
また、別の態様として、突起部4と薄板状部材5とが別体にて形成されてもよい。一つの態様に於いては、
図2(A)の如く、突起部4を配置し、その後、
図2(B)の如く、突起部4の位置が開口された薄板上部材5を配置し、薄板上部材5の開口縁と突起部4の下縁とが接合されて、
図2(D)に描かれている如く、構造体1が形成されてよい。或いは、もう一つの態様に於いては、
図2(C)の如く、薄板上部材5(開口を有していなくてよい)上に突起部4が配置され、接合されて、
図2(D)に描かれている如く、構造体1が形成されてよい。上記のいずれの態様に於いても、薄板状部材5への突起部4の接合は、屋根面R上で実施されてもよい。かかる構成によれば、屋根面R上で作業する際に、屋根面R上の取水口等の突起物を回避したり、太陽光発電パネル2の寸法の変更や太陽電池セルの配列位置の変更に対応する場合に、その場での即時の構造体1の形状の変更等の対応が容易となる点で有利である。
【0026】
突起部の上面部の傾斜
屋根面R上に太陽光発電パネル2を設置する際、しばしば、太陽光発電パネル2の受光面ができるだけ太陽の方角を向けられるように、太陽光発電パネル2は、その面が屋根面Rに対して傾斜されて設置される。そこで、本実施形態に於いても、太陽光発電パネル2を固定する突起部4の上面部の面方向が屋根面Rに対して傾斜されると共に、隣接する突起部4の高さが或る方向に沿って漸増又は漸減するように、突起部4が形成されてよい。具体的には、
図1(B)~(D)、
図1(G)から理解される如く、屋根面R上にて整列された突起部4の高さが太陽光発電パネル2の一方の縁から他方の縁へ向かって高さが徐々に増減され、太陽光発電パネル2がそれらに載置された際の傾きと同じ角度にて突起部4の上面部4aの面が傾斜されるように突起部4が形成されていてよい。かかる構成によれば、屋根面Rに於ける太陽光発電パネル2の設置作業に於いて、太陽光発電パネル2の傾斜角度の調節が容易となる。なお、図示の例では、
図1(G)に於いて、上から下への突起部4の列に於いて、中央の突起部4が最も高くなり、上下両側へ向かって突起部4の高さが低減して形成され、太陽光発電パネル2が、中央が高くなり両側縁へ向かって低くなるように傾斜されているが、これに限定されず、実際の傾斜角度は、屋根面Rに於ける太陽光発電パネル2の設置位置に応じて適宜変更されてよく、そのような場合も本実施形態の範囲に属する。
【0027】
構造体の強度について
上記の本実施形態の構造体1に於ける突起部4は、中実であってもよいが、典型的には、
図1(B)からも理解される如く、中空であってよい。また、突起部4が中空である場合、その強度がより高くなり簡単には圧潰等しないように、突起部4に於いて上面部4aを囲繞する側面部4bは、上面部4aを全周に亙って囲繞するよう形成されていることが好ましい。
【0028】
その点に関し、
図3(A)に模式的に描かれている如く、上記の本実施形態の構造体1に於いては、太陽光発電パネル2が載置された状態で、隣接する2つの突起部4の間に於いて、対向する屋根面Rと太陽光発電パネル2と、対向する突起部4の側面部4bとで、概ね四角形状のボックス構造Xが形成される。かかる構成の場合、
図3(B)の如く、太陽光発電パネル2に降雪、降雨、風などによって上下方向に荷重Φが作用した際に、突起部4の側面部4bが座屈して(z)、上面部が傾く変位δが発生しようとすると、太陽光発電パネル2に於いて張力τが変位δに抗する方向に発生し、これにより、側面部4bの座屈が阻止されることとなる。即ち、本実施形態に於いては、上記の如く、隣接する2つの突起部4の間に於いて、概ね四角形状のボックス構造Xが形成されることで、軽量で、降雪、降雨、風による外力に対して高い支持性能が得られることとなっている。
【0029】
また、上記の如く、本実施形態の構造体1に突起部4は、中空であってよく、比較的軽量にて構成されるので、太陽光発電パネル2の支持機能を高めるべく、構造体1に於ける突起部4の数が適宜増大され、太陽光発電パネル2の固定箇所が増やされてもよい。例えば、突起部4が薄板状部材からプレス加工で形成される場合には、突起部4の数が増えても、重量は変化しない。
【0030】
実施例
本実施形態による構造体1上に載置された太陽光発電パネルについて、正圧(上から下への荷重)が作用した場合と、負圧(下から上への荷重)が作用した場合とに於ける太陽光発電パネルに発生する応力分布を有限要素法を用いて評価した。なお、正圧は、太陽光発電パネルに積雪があった場合に作用し、負圧は、太陽光発電パネルの近傍に風が吹いた場合に作用する。
【0031】
応力分布の評価に於いて、太陽光発電パネル2は、ガルバリウム鋼板(登録商標):厚み0.4mm、アイオノマー:厚み0.8mm、シリコン単結晶セル(太陽電池セル):厚み0.18mm、アイオノマー:厚み0.4mm、ETFEフィルム:厚み0.05mmを順に積層し加熱固定したものとした。構造体1は、ガルバリウム鋼板(登録商標):厚み0.27mmに於いて、
図1(A)~(G)に例示されている如き配置にて突起部4が縦横に配列されるようにプレス加工により、突起部4を形成したものとした。構造体1は、陸屋根に接着固定し、構造体1の突起部4の各々の上面部に太陽光発電パネル2を載置して、M5タッピングねじを用いて固定するものとした。太陽光発電パネル2の固定箇所(
図1(F)中の○の位置)について、図示の如く、一枚の太陽光発電パネル2に10枚の太陽電池セル3が2列に並置された構成で、パネル2の縁に於いては、パネル2の四隅を含み、一枚置きのセルの隅に固定箇所を設け、2列のセルの間に於いては、パネル2の縁の固定箇所の対角線上の位置に固定箇所を設けた(パネル2は、パネル2の一方の端から2行2列の4枚のセルを一組として、各組の4隅と中心の5箇所にて構造体1に対して固定した。)。なお、
図1(C)~(F)に於いては、構造体1に2枚のパネル2が載置されている。セル一枚の寸法は、156×156mmであり、パネル2の寸法は、1650×360mmであり、パネルの短辺方向の屋根面に対する傾斜角度は、6°であり、屋根面からパネル2の一番高い位置(構造体1の中心軸線上)までの高さは、50mmであるものとした。この構成で、パネル2の設計重量は、7500g/m
2となる。そして、応力分布の算出に於いては、正圧と負圧とをそれぞれ、規格耐荷重±2400Paにて印加した状態でパネル2に於いて発生する応力分布を有限要素法を用いて算出した。
【0032】
図4(A)、(B)は、それぞれ、パネル2に正圧、負圧を印加した場合に得られた応力分布を示している。同図に於いて、(
図4(C)に示されている如く)太陽電池セル3の占有領域が上側の半透明の像で描かれており、応力σの大小が下側の不透明の像にて描かれている。計算結果によれば、太陽電池セルの破壊強度が80MPaであるところ、セル主応力の最大値は、
図4(A)の場合(正圧の場合)では、60MPaであり、
図4(B)の場合(負圧の場合)では、65MPaであった(負圧が作用したときの方が最大応力が大きい。)。従って、上記の構成に於いて、パネルの規格耐荷重±2400Paが作用しても、太陽電池セルが破損しないことが計算に於いて示された。
【0033】
かくして、本実施形態によれば、従前の梁状架台を用いずに、太陽光発電パネルを屋根上に設置できる構造体が提供される。かかる構成によれば、梁状架台を用いた場合では、太陽光発電パネルの設置が困難なタイプの屋根、例えば、発砲コンクリート製の陸屋根など、に於いても、太陽光発電パネルの設置が可能となり、太陽光発電パネルの設置可能な建物の屋根の種類の拡大が期待される。
【0034】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。