(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】電極材料の回収方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20250701BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2023019319
(22)【出願日】2023-02-10
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】横山 友宏
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-241750(JP,A)
【文献】特開2005-289001(JP,A)
【文献】特開2018-120716(JP,A)
【文献】特開2008-204755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、電極材料の回収方法:
電極積層体を提供すること、ここで、前記電極積層体は、集電箔、及び前記集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料を有する、
前記電極積層体は、前記電極積層体が巻き取られている電極積層体ロールから巻き出して長手方向に搬送されること、
前記電極材料に水分を供給すること、
前記電極材料に供給された前記水分を凍結させること、及び
前記水分を凍結させた前記電極材料に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、前記電極材料を破砕して、前記集電箔から分離すること。
【請求項2】
下記の工程を含む、電極材料の回収方法:
電極積層体を提供すること、ここで、前記電極積層体は、集電箔、及び前記集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料を有する、
前記電極材料に水分を供給すること、
前記電極材料に供給された前記水分を凍結させること、及び
前記水分を凍結させた前記電極材料に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、前記電極材料を破砕して、前記集電箔から分離すること、
ここで、前記水分の凍結、及び前記電極材料への機械的衝撃の付与は、表面に凹凸が設けられた2つの冷却ローラーの間に、相対的に前記電極積層体を通過させることにより行
う。
【請求項3】
下記の工程を含む、電極材料の回収方法:
電極積層体を提供すること、ここで、前記電極積層体は、集電箔、及び前記集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料を有する、
前記電極材料に水分を供給すること、
前記電極材料に供給された前記水分を凍結させること、及び
前記水分を凍結させた前記電極材料に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、前記電極材料を破砕して、前記集電箔から分離すること、
ここで、前記水分を供給する位置よりも上流側、及び前記気体を吹き付ける位置よりも下流側に、前記電極積層体の張力を調節するためのタッチロールを有し、それによって前記電極積層体に前記水分を供給する位置、前記水分を凍結させる位置、前記電極材料に機械的衝撃を与える位置、及び前記気体を吹き付けるにおいて、前記電極積層体に張力を印加す
る。
【請求項4】
下記の工程を含む、電極材料の回収方法:
電極積層体を提供すること、ここで、前記電極積層体は、集電箔、及び前記集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料を有する、
前記電極材料に水分を供給すること、
前記電極材料に供給された前記水分を凍結させること、及び
前記水分を凍結させた前記電極材料に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、前記電極材料を破砕して、前記集電箔から分離すること、ここで、前記気体
は加熱気体である。
【請求項5】
下記の工程を含む、電極材料の回収方法:
電極積層体を提供すること、ここで、前記電極積層体は、集電箔、及び前記集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料を有する、
前記電極材料に水分を供給すること、
前記電極材料に供給された前記水分を凍結させること、及び
前記水分を凍結させた前記電極材料に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、前記電極材料を破砕して、前記集電箔から分離すること、
前記電極材料を分離された前記集電箔を巻き取りロールで巻き取って、集電箔ロールを提供するこ
と。
【請求項6】
前記水分の供給は、水分を含んだスポンジを、前記電極材料に接触させることにより行う、請求項1
~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記気体が乾燥空気、窒素、又は二酸化炭素である、請求項1
~5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極材料の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のような一次電池又は二次電池の使用の後で、これを分解し、正極合材層(正極活物質層)、負極合材層(負極活物質層)のような電極材料を回収し、リサイクルすることが検討されている。
【0003】
なお、特許文献1には、燃料電池用の電解質膜又は拡散層の表面に触媒層が形成されている対象物から触媒を回収する方法が開示されている。その方法は、電解質膜又は拡散層の表面に形成されている触媒層に、ドライアイス粒子、氷粒子等の固体粒子群を衝突させることによって電解質膜又は拡散層から触媒を剥離する工程と、剥離した触媒を回収する工程とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように一次電池又は二次電池の使用の後で、これを分解し、電極材料を回収し、リサイクルすることが検討されている。これに対して、一次電池又は二次電池の製造の段階において、集電箔上に電極材料を積層して電極積層体を形成する際に、欠陥が生じ、得られた電極積層体が使用できないことがある。本開示の開示者等は、このようにして電池の製造段階で生じる使用できない電極積層体から、電極材料を回収することが好ましいことを見出した。
【0006】
本開示はこのような点に鑑みなされたものであって、電極材料を回収するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<態様1>
下記の工程を含む、電極材料の回収方法:
電極積層体を提供すること、ここで、前記電極積層体は、集電箔、及び前記集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料を有する、
前記電極材料に水分を供給すること、
前記電極材料に供給された前記水分を凍結させること、及び
前記水分を凍結させた前記電極材料に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、前記電極材料を破砕して、前記集電箔から分離すること。
<態様2>
前記電極積層体は、前記電極積層体が巻き取られている電極積層体ロールから巻き出して長手方向に搬送される、態様1に記載の方法。
<態様3>
前記水分の供給は、水分を含んだスポンジを、前記電極材料に接触させることにより行う、態様1又は2に記載の方法。
<態様4>
前記水分の凍結、及び前記電極材料への機械的衝撃の付与は、表面に凹凸が設けられた2つの冷却ローラーの間に、相対的に前記電極積層体を通過させることにより行う、態様1~3のいずれかに記載の方法。
<態様5>
前記水分を供給する位置よりも上流側、及び前記気体を吹き付ける位置よりも下流側に、前記電極積層体の張力を調節するためのタッチロールを有し、それによって前記電極積層体に前記水分を供給する位置、前記水分を凍結させる位置、前記電極材料に機械的衝撃を与える位置、及び前記気体を吹き付けるにおいて、前記電極積層体に張力を印加する、態様1~4のいずれかに記載の方法。
<態様6>
前記気体が乾燥空気、窒素ガス、又は二酸化炭素である、態様1~5のいずれかに記載の方法。
<態様7>
前記気体が加熱気体である、態様1~6のいずれかに記載の方法。
<態様8>
前記電極材料を分離された前記集電箔を巻き取りロールで巻き取って、集電箔ロールを提供することを更に含む、態様1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電極材料を回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電極材料を回収する本開示の方法の一形態を説明する模式図である。
【
図2】電極材料に水分を供給し、水分を凍結させ、機械的衝撃を与えることにより、電極材料を破砕して集電箔から分離する過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
電極材料を回収する本開示の方法は、一次電池又は二次電池、例えばリチウムイオン一次電池又は二次電池の電極材料を集電箔から分離して回収する方法であってよい。ここで、電極材料(活物質)は、正極合材(正極活物質)、又は負極合材(負極活物質)であってよく、特に正極合材であってよい。したがって、本開示の方法によれば、正極活物質又は負極活物質、特に正極活物質を回収し、そしてリサイクルすることができる。
【0011】
図1は、電極材料を回収する本開示の方法の一形態を説明する模式図である。以下では、この
図1に示す本開示の方法について具体的に説明するが、本開示の方法はこの実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(電極積層体ロールの提供)
本開示の方法では、電極積層体11を提供する。電極積層体は、集電箔12、及び集電箔の少なくとも一方の面に積層されている電極材料13を有する。
【0013】
集電箔は、例えば、アルミニウムを含有する金属箔であってよい。金属箔は、アルミニウム箔、SUS、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、若しくはZn等の金属箔、SUS、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、若しくはZn等の金属とAlとのクラッド材を用いた箔、又は金属表面にAlが被覆された箔等であってよい。
【0014】
電極材料は、正極合材(正極活物質)、又は負極合材(負極活物質)であってよく、特に正極合材であってよい。例えば、正極合材は、酸化物活物質、硫化物活物質等を含んでよい。また、電極材料は、PESE(ポリエチレンセバケート)、PPSU(ポリフェニルスルホン)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PESU(ポリエーテルスルホン)等のバインダーを含んでよい。また、電極材料は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、活性炭、カーボン、炭素繊維、グラファイト等の炭素材料を含んでよい。
【0015】
電極積層体11は、電極積層体ロール21から巻き出して長手方向に搬送してよい。なお、本開示に関して「長手方向」は、電極積層体11の長さ方向、すなわち電極積層体11が電極積層体ロール21に巻き取られている方向を意味している。
【0016】
電極積層体ロールからの電極積層体の巻き出しは、任意の既知の方法で行うことができ、例えばモーターを用いて電極積層体ロールを回転させ、そして巻き出した電極積層体を支持ローラーで支持しつつ又は宙に浮かせた状態で、搬送することができる。
【0017】
(電極材料への水分の供給)
本開示の方法では、電極材料に水分を供給する。
【0018】
水分の供給は、スプレー、塗布、浸漬等によってよい。水分の供給は、水分を含んだスポンジロール31を電極材料に接触させることにより行ってもよい。
【0019】
水分の量が多くなると、電極材料の回収後に電極材料がスラリー化しやすくなるので、電極材料中の水分の量が20%以下であると好ましい。水分の量は、一般的な固形分測定装置を用いて測定した固形分の割合を100%から引いた値として定義することができる。水分の量を調整するために、水分を供給した後、拭き上げを行ってもよい。
【0020】
(水分の凍結)
本開示の方法では、電極材料13に供給された水分を凍結させる。
【0021】
凍結は、冷却ローラー、冷却プレート、低温雰囲気、ドライアイス、液体窒素等によって、特に冷却ローラーによって、行うことができる。ここで、冷却ローラー及び冷却プレートはそれぞれ、冷却されたローラー及びプレートであり、電極材料に接触させることによって電極材料に供給された水分を凍結させることができるものを意味している。
【0022】
電極材料13に供給された水分が凍結することにより、水の体積膨張により、電極材料内に、多数の亀裂を発生させ、電極材料の結着を崩すことができる。また、電極積層体が低温となり、電極材料中の樹脂成分が収縮、硬化、脆化し、それによって電極材料の破砕、及び集電箔からの電極材料の分離が促進される。
【0023】
(電極材料の分離)
本開示の方法では、水分を凍結させた電極材料13に機械的衝撃を与え、そして気体33を吹き付けることによって、電極材料13を破砕して集電箔12から分離する。
【0024】
機械的衝撃の付与は、ブレードによる掻き取り、振動、ショットブラスト等による打撃、ロール等による圧縮、振動等によってよい。
【0025】
電極材料に機械的衝撃を与えた後で、気体を電極積層体に吹き付ける。このように機械的衝撃を与えた後で気体を吹き付けることによって、電極材料の破砕及び電極積層体からの電極材料の分離を促進できる。
【0026】
前述の電極材料13に供給された水分の凍結と、電極材料への機械的衝撃の付与は、同時に行ってよい。例えば、表面に凹凸が設けられた2つの冷却ローラー32の間に、相対的に電極積層体11を通過させることにより行ってよい。相対的な電極積層体11の通過は、電極積層体11を搬送させて行ってよい。相対的な電極積層体11の通過は、2つの冷却ローラー32を移動させて行ってよい。相対的な電極積層体11の通過は、電極積層体11、及び2つの冷却ローラー32の両方を動かして行ってよい。
【0027】
電極材料に気体33を吹き付けることによって、集電箔から剥離した電極材料13が、集電箔から分離する。分離した電極材料は吹き付けた気体により飛ばされ、電極材料が剥離した集電箔12のみが残る。好ましい態様では、ここで吹き付けられる気体は、集電箔からの電極材料の分離を促進するのと合わせて、電極材料に含有されている水分の気化を促進し、それによって得られる電極材料の水分量を低下させることができる。得られる電極材料の水分量が少なくなることは、得られる電極材料がスラリー化するのを抑制するために好ましいことがある。
【0028】
電極積層体に吹き付ける気体33は、乾燥空気、すなわち、湿分を除去する処理を受けた空気であってよい。気体は窒素、二酸化炭素であってもよい。また、気体は、加熱気体であってもよい。ここで、加熱気体とは、必ずしも高温の気体という意味ではなく、多少でも加熱された気体という意味である。気体が加熱気体であると、電極材料に含有されている水分の気化が促進され、それによって電極材料の水分量を低くしやすくなるので好ましい。
【0029】
これらの処理は、不活性ガス雰囲気下、特に窒素雰囲気下又は二酸化炭素雰囲気下で行ってよい。このように不活性ガス雰囲気下でこれらの処理を行う場合には、電極材料に含まれる活物質の劣化を抑制できる。また、二酸化炭素活性雰囲気下でこれらの処理を行う場合には、電極材料に含まれる金属リチウム等を二酸化炭素で炭酸塩化して安定化することができる。
【0030】
集電箔から12分離された材料13aは、例えば、落下させて、別途回収してよい。回収された材料は、そのまま、又は乾燥、洗浄及び精製等の処理の後で、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液のような溶液を加えて再スラリー化し、再度、電極材料の塗工に利用してよい。
【0031】
図2を用いて、電極材料に水分を供給し、水分を凍結させ、機械的衝撃を与えることにより、電極材料を破砕して集電箔から分離する過程を説明する。電極積層体11は、集電箔12と電極材料13を有する(
図2(a))。本開示の方法では、電極材料13に水分を供給する(
図2(b))。次いで、電極材料13中の水分を凍結させる。これにより、水の体積膨張により、電極材料内に多数の亀裂が発生し、電極材料の結着が崩れる(
図2(c))。その後、水分を凍結させた電極材料13に機械的衝撃を与え、そして気体を吹き付けることによって、電極材料13を破砕して集電箔12から分離し、材料13aを回収する。(
図2(d))。
【0032】
(張力の印加)
電極積層体11に水分を供給する位置よりも上流側、及び電極積層体11に気体33を吹き付ける位置よりも下流側に、電極積層体11の張力を調節するためのタッチロール41を有し、それによって、電極積層体に水分を供給する位置、水分を凍結させる位置、電極材料に機械的衝撃を与える位置、及び気体33を吹き付けるにおいて、電極積層体11に張力を印加してもよい。
【0033】
このような張力の印加は、気体を吹き付けた際の電極積層体のバタつきを抑制するために好ましい。
【0034】
(集電箔の巻き取り)
電極材料が剥離した集電箔12は、巻き取りロール22で巻き取って、集電箔ロールとしてよい。巻き取られた集電箔は、電極材料が除去されているので、金属箔として再利用してもよい。
【0035】
以上、本開示の一実施形態について詳述したが、本開示は、前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の精神を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
11 電極積層体
12 集電箔
13、13a 電極材料
21 電極積層体ロール
22 巻き取りロール
31 スポンジロール
32 冷却ローラー
33 気体
41 タッチロール