IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-固体電池 図1
  • 特許-固体電池 図2
  • 特許-固体電池 図3
  • 特許-固体電池 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20250701BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20250701BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250701BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/134
H01M10/0562
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023080746
(22)【出願日】2023-05-16
(65)【公開番号】P2024164977
(43)【公開日】2024-11-28
【審査請求日】2024-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 亮
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
(72)【発明者】
【氏名】李 西濛
(72)【発明者】
【氏名】金子 咲南
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-068706(JP,A)
【文献】特表2023-517913(JP,A)
【文献】特開2021-051866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層がこの順で積層された固体電池であって、
前記負極活物質層は、ガリウム又はリチウムガリウム合金を含むガリウム系層、及びマグネシウム又はリチウムマグネシウム合金を含むマグネシウム系層を有し、
前記ガリウム系層は、前記固体電解質層側に配置されており、かつ
前記マグネシウム系層は、前記負極集電体層側に配置されている、
固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池に関する。
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。
【0003】
電池の中でもリチウム二次電池は、負極活物質として金属の中で最大のイオン化傾向を持つ金属リチウムを負極活物質層に含むため、正極活物質層との電位差が大きく、高い出力電圧が得られるという点で注目されている。
【0004】
また、近年、電解質として固体電解質を有する固体電池が注目されている。固体電池は、電解液を用いる電池と比較して、電池の過充電に起因する電解液の分解等を生じにくく、かつ高いサイクル特性及びエネルギー密度を有している。
【背景技術】
【0005】
特許文献1は、負極活物質として、金属リチウムと金属マグネシウムとのβ単相の合金を含む固体電池、を開示している。
【0006】
特許文献2は、負極活物質層がガリウムと樹脂とを含む二次電池、を開示している。
【0007】
特許文献3は、固体電解質とリチウム負極との界面に、リチウム-アルミニウム
合金、リチウム-ガリウム合金、リチウム-インジウム合金、リチウム-アンチモン合金、リチウム-ビスマス合金のうちから選ばれる少なくとも1種のリチウム合金層を設けてなる全固体リチウム電池、を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-184513号公報
【文献】特開2015-018799号公報
【文献】特開昭61-126770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
負極活物質として、金属リチウムと合金を形成することができる材料を含む固体電池におけるサイクル特性については、未だに改善の余地がある。
【0010】
したがって、本開示は、サイクル特性が高い固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件開示者等は、以下の手段により上記課題を解決することができることを見出した。
〈態様1〉
正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層がこの順で積層された固体電池であって、
前記負極活物質層は、ガリウム又はリチウムガリウム合金を含むガリウム系層、及びマグネシウム又はリチウムマグネシウム合金を含むマグネシウム系層を有し、
前記ガリウム系層は、前記固体電解質層側に配置されており、かつ
前記マグネシウム系層は、前記負極集電体層側に配置されている、
固体電池。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、サイクル特性が高い固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1(Ga-Mg二層)、比較例1(Ga)及び比較例2(Mg)のセルの、25℃におけるサイクル特性を示すグラフである。
図2図2は、実施例1の負極活物質層の、60℃における初回充放電後の断面SEM二次電子像である。
図3図3は、実施例1の負極活物質層の、60℃における初回充放電後のSEM-EDXによるEDXマッピング分析の結果を元素ごとに示す画像である(図3(a):Mg、図3(b):Ga、図3(c):O、図3(d):S)。
図4図4は、実施例1(Ga-Mg二層)、比較例1(Ga)及び比較例2(Mg)のセルの、初回充放電後の0.60mA/cmでの25℃におけるサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
《固体電池》
本開示の固体電池は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層がこの順で積層されている。また、本開示の固体電池の負極活物質層は、ガリウム又はリチウムガリウム合金を含むガリウム系層、及びマグネシウム又はリチウムマグネシウム合金を含むマグネシウム系層を有し、ガリウム系層は、固体電解質層側に配置されており、かつマグネシウム系層は、負極集電体層側に配置されている。
【0016】
固体電池のエネルギー密度を向上させる方法として、負極活物質として金属リチウム(Li)を使用し、アノードフリー化する方法が挙げられる。しかしながら、本件開示者等は、アノードフリーの固体電池ではサイクル特性が悪化することがあることを見出した。この原因としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、放電時の負極活物質層におけるLiの消失により、固体電解質層-負極活物質層の界面における剥離が生じるためであると推定される。
【0017】
アノードフリー固体電池としては、特許文献1に示されるように、負極活物質として、金属Liと金属マグネシウム(Mg)とのβ単相合金を含むものが知られている。本件開示者等は、このような金属Mg又はリチウムマグネシウム(Li-Mg)合金を含むMg系層に加えて、金属ガリウム(Ga)又はリチウムガリウム(Li-Ga)合金)を含むGa系層を、固体電解質層とMg系層の間に配置して、負極活物質層を二層とすることで、このような負極活物質層を含む電池のサイクル特性が向上することを見出した。この理由としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、電池の放電末期においても、Ga系層が固体電解質層とMg系層の間に保持されることで、負極活物質層-固体電解質層の界面における剥離が生じることを抑制できるためであると推定される。
【0018】
本開示の固体電池は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層がこの順で積層されている。
【0019】
〈正極集電体層〉
正極集電体としては、固体電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることできる。このような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、及びInからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。
【0020】
正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、箔状、及びメッシュ状等、種々の形態とすることができる。
【0021】
〈正極活物質層〉
正極活物質層は、正極活物質を含み、随意に、固体電解質、導電材、及びバインダー等を含んでいてもよい。
【0022】
(正極活物質)
正極活物質の種類について特に制限はなく、固体電池の活物質として使用可能な材料をいずれも採用可能である。正極活物質としては、リチウム元素を含むものであってもよく、リチウム元素を含まないものであってもよい。
【0023】
リチウム元素を含む正極活物質としては、例えば、金属リチウム(Li)、リチウム合金、LiCoO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO、異種元素置換Li-Mnスピネル(例えばLiMn1.5Ni0.5、LiMn1.5Al0.5、LiMn1.5Mg0.5、LiMn1.5Co0.5、LiMn1.5Fe0.5、及びLiMn1.5Zn0.5等)、チタン酸リチウム(例えばLiTi12)、リン酸金属リチウム(例えばLiFePO、LiMnPO、LiCoPO、及びLiNiPO等)、LiCoN、LiSiO、及びLiSiO等を挙げることができる。
【0024】
リチウム合金としては、Li-Au、Li-Mg、Li-Sn、Li-Si、Li-Al、Li-Ge、Li-Sb、Li-B、Li-C、Li-Ca、Li-Ga、Li-As、Li-Se、Li-Ru、Li-Rh、Li-Pd、Li-Ag、Li-Cd、Li-Ir、Li-Pt、Li-Hg、Li-Pb、Li-Bi、Li-Zn、Li-Tl、Li-Te、Li-At、及びLi-In等が挙げられる。
【0025】
リチウム元素を含まない正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物(例えばV、及びMoO等)、硫黄、TiS、Si、SiO、並びにリチウム貯蔵性金属間化合物(例えばMgSn、MgGe、MgSb、及びCuSb等)等を挙げることができる。
【0026】
正極活物質の形状は特に限定されるものではないが、粒子状であってもよい。
【0027】
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
【0028】
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO、LiTi12、及びLiPO等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であってもよい。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であってもよい。正極活物質の表面におけるコート層の被覆率は、例えば、70%以上であり、90%以上であってもよい。
【0029】
(固体電解質)
固体電解質は、硫化物固体電解質、及び酸化物系固体電解質等が挙げられる。
【0030】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiX-LiS-SiS、LiX-LiS-P、LiX-LiO-LiS-P、LiX-LiS-P、LiX-LiPO-P、及びLiPS等が挙げられる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiS及びPを含む原料組成物を用いてなる材料を意味し、他の記載についても同様である。また、上記LiXの「X」は、ハロゲン元素を示す。上記LiXを含む原料組成物中にLiXは1種又は2種以上含まれていてもよい。LiXが2種以上含まれる場合、2種以上の混合比率は特に限定されるものではない。
【0031】
酸化物系固体電解質としては、例えばLi6.25LaZrl0.2512、LiPO、及びLi3+xPO4-x(0<x≦3)等が挙げられる。
【0032】
正極活物質層における固体電解質の割合は、特に限定されないが、正極活物質層の総質量を100質量%としたとき、例えば1質量%~80質量%であってよい。
【0033】
(導電材)
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。当該カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーはVGCF(気相法炭素繊維)であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。
【0034】
正極活物質層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0035】
(バインダー)
バインダーとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。
【0036】
正極活物質層におけるバインダーの含有量は特に限定されるものではない。
【0037】
正極活物質層の厚みについては特に限定されるものではない。
【0038】
〈固体電解質層〉
固体電解質層は、固体電解質、及び随意にバインダーを含む。
【0039】
(固体電解質)
固体電解質については、本開示の正極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0040】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよく、又は2層以上の固体電解質それぞれの層を形成して多層構造としてもよい。
【0041】
固体電解質層中の固体電解質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以上であり、60質量%以上100質量%以下、又は70質量%以上100質量%以下であってもよく、100質量%であってもよい。
【0042】
(バインダー)
固体電解質層には、可塑性を発現させる等の観点から、バインダーを含有させることもできる。バインダーについては、本開示の正極活物質層に関する上記の記載を参照できる。ただし、高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させるバインダーは5質量%以下としてもよい。
【0043】
固体電解質層の厚みは特に限定されるものではなく、通常0.1μm以上1mm以下である。
【0044】
〈負極活物質層〉
負極活物質層は、Ga系層、及びMg系層を有する。
【0045】
(ガリウム系層)
Ga系層は、負極活物質としての金属Ga又はLi-Ga合金を含む。
【0046】
金属Gaとしては、金属Ga自体、又は金属Gaを蒸着等した材料であってよい。
【0047】
Li-Ga合金としては、本開示の負極活物質層を含む固体電池の充電により生成した合金であってよく、又は別途調製した合金であってよい。
【0048】
固体電池の充電によりLi-Ga合金を生成させる方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、金属Li、Li合金及びLi化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の正極活物質を含む正極活物質層、固体電解質層、金属Ga層、及び負極集電体層をこの順に有する電池前駆体を準備する。この電池前駆体を充電することにより、正極活物質層から金属Ga層に移動してきたLiイオンと金属Ga層の金属Gaとを反応させることにより、Li-Ga合金が得られる。なお、金属Ga層の金属Gaを全て金属Liと合金化させる観点から、前駆体電池を複数回充放電してもよい。充放電する回数は、特に限定されず、金属Ga層の厚みに応じて適宜設定することができる。
【0049】
Ga系層は、固体電解質層側に配置されている。Ga系層を、固体電解質層と後述するMg系層の間に配置して、負極活物質層を二層とすることで、このような負極活物質層を含む電池のサイクル特性が向上する。
【0050】
Ga系層には、負極活物質として金属Ga又はLi-Ga合金が主成分として含まれていれば、その他、従来公知の負極活物質が含まれていてもよい。本開示において、主成分とは、Ga系層の総質量を100質量%としたとき50質量%以上含まれる成分を意味する。
【0051】
(マグネシウム系層)
Mg系層は、金属Mg又はLi-Mg合金を含む。
【0052】
金属Mgとしては、金属Mg自体、又は金属Mgを蒸着等した材料であってよい。
【0053】
Li-Mg合金としては、本開示の負極活物質層を含む固体電池の充電により生成した合金であってよく、又は別途調製した合金であってよい。
【0054】
固体電池の充電によりLi-Mg合金を生成させる方法については、本開示のLi-Ga合金を生成させる方法に関する上記の記載を参照できる。
【0055】
Mg系層は、負極集電体層側に配置されている。
【0056】
Mg系層には、負極活物質として金属Mg又はLi-Mg合金が主成分として含まれていれば、その他、従来公知の負極活物質が含まれていてもよい。本開示において、主成分とは、Mg系層の総質量を100質量%としたとき50質量%以上含まれる成分を意味する。
【0057】
(固体電解質、導電材、及びバインダー)
負極活物質層は、固体電解質、導電材、及びバインダー等を含んでいてもよい。固体電解質、導電材、及びバインダーについては、本開示の正極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0058】
負極活物質層の厚みは、特に限定されないが、30nm以上50μm以下であってもよい。
【0059】
〈負極集電体層〉
負極集電体は、Liと合金化しない材料であってよく、例えばSUS、銅、及び、ニッケル等を挙げることができる。
【0060】
負極集電体の形態としては、例えば、箔状、及び、板状等を挙げることができる。
【0061】
負極集電体の平面視形状は、特に限定されるものではないが、例えば、円状、楕円状、矩形状、及び、任意の多角形状等を挙げることができる。
【0062】
負極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μm、又は5μm~20μmであってよい。
【実施例
【0063】
《セルの作製》
〈正極活物質層の作製〉
溶媒として酪酸ブチルを用いて、ニッケル酸リチウム(NCA):固体電解質:バインダー:導電助剤=84.7:13.4:0.6:1.27の重量組成比で正極合材スラリーを作製し、アルミニウム(Al)箔上に塗工ギャップ225μmで塗工したのち、60℃で仮乾燥させ、165℃で1時間にわたって本乾燥させた。こうして目付18.7mg/cm、設計容量3.0mAh/cmの正極活物質層を得た。
【0064】
〈固体電解質層の作製〉
溶媒として酪酸ブチルを用いて、固体電解質:バインダー=92.6:7.4の重量組成比で固体電解質スラリーを作製し、離型フイルム上に塗工ギャップ325μmで塗工したのち、室温で3時間程度仮乾燥させ、165℃で1時間にわたって本乾燥させた。乾燥後の塗工箔からφ14.5mmで2枚打ち抜き、塗工面を重ね合わせて7tでプレスした。プレス後に離型フイルムを剥離し、自立する硫化物固体電解質層を得た。
【0065】
〈負極活物質層の準備〉
負極活物質層として、ガリウム(Ga)蒸着箔(厚み:0.84μm)、マグネシウム(Mg)蒸着箔(厚み:1.0μm)、及びGa-Mg二層蒸着箔(Ga蒸着箔の厚み:1.0μm、Mg蒸着箔の厚み:1.0μm)を準備した。
【0066】
〈セルの組み立て〉
(比較例1)
作製した正極活物質層をφ11.28mmで打ち抜いた。また、負極活物質層としてのGa蒸着箔をφ14.5mmで打ち抜いた。作製したφ14.5mmの自立固体電解質層を正極活物質層及び負極活物質層の間に配置し、正極集電体としてAl箔を用い、負極集電体としてNiを用いて、ラミネートフィルム内で真空封止した。封止したセルを、冷間等方プレス(CIP)を用いて392MPaで等方プレスして、ラミネートセルを作製した。セルの体積変化によらず拘束圧が一定となるよう、バネを挿入した定圧治具を用いて、作製したセルを1MPaで拘束した。これによって、比較例1のセルを得た。
【0067】
(比較例2)
負極活物質層をMg蒸着箔としたこと以外は比較例1と同様にして、比較例2のセルを得た。
【0068】
(実施例1)
負極活物質層をGa-Mg二層蒸着箔としたこと以外は比較例1と同様にして、実施例1のセルを得た。なお、Ga蒸着箔を固体電解質層側に配置し、Mg蒸着箔を負極集電体層側に配置した。
【0069】
《評価》
〈充放電曲線の測定〉
カットオフ電圧4.2V-3.0Vの範囲で、定電流(電流密度:0.15mA/cm、0.05C相当)-定電圧(カットオフ電流密度:0.03mA/cm、0.01C相当)試験において、拘束したセルの初回充放電を60℃にて行い、充放電曲線を取得した。
【0070】
〈SEM-EDX測定〉
Ga-Mg二層蒸着箔の60℃での初回充電後の断面について、印加電圧5kVにて二次電子像でのSEM観察及びEDXマッピングを行った。
【0071】
〈サイクル特性の測定〉
60℃での初回充放電後に、同じくカットオフ電圧4.2V-3.0Vの範囲で、25℃にて定電流(電流密度:0.60mA/cm、0.05C相当)-定電圧(充電時のみ、カットオフ電流密度:0.03mA/cm、0.01C相当)試験でのサイクル特性を測定した。但し、Gaは低融点(融点:29.7℃)のため、負極活物質層をGa蒸着箔とした比較例1のセルのサイクル特性試験については、初回充放電も25℃にて行った。
【0072】
《結果》
〈充放電曲線の測定結果〉
各例のセルにおける、電流密度0.15mA/cm(~C/20)での60℃初回充放電曲線を図1に示す。
【0073】
図1に示されるように、充電容量、及び放電容量は、正極活物質基準でそれぞれ213-215mAh/g、及び179-189mAh/gであった。負極活物質層としてGa蒸着箔を用いた比較例1のセルは、充電初期での3.2V-3.5Vの領域及び放電末期での3.6V-3.0Vの領域でセル電圧がMg蒸着箔よりも低かった。このことから、比較例1のセルでは、負極電位~0V vs Liにおける金属リチウム(Li)の析出が起こる前に、充電初期においてはGaへのLi挿入及び合金化が起こり、充電末期においてはGaからのLi脱離が起きていることが示唆される。
【0074】
これに対して、負極活物質層としてGa-Mg二層蒸着箔を用いた実施例1のセルは、3.5V以下での放電曲線において、負極活物質層としてMg蒸着箔を用いた比較例2のセルと比較して追加の可逆容量が認められ、下限カットオフ電圧3.0Vでの定電圧ステップ由来の可逆容量が減少した。このことから、Ga-Mg二層蒸着箔中のGa層の存在は、充電初期のセル電圧低下を引き起こさず、かつ放電末期において定電流ステップでのより多くのLi脱離を可能にすることが示唆される。
【0075】
〈SEM-EDX測定結果〉
負極活物質層としてGa-Mg二層蒸着箔を用いた実施例1のセルの、60℃での初回充放電後の断面SEM二次電子像及びEDXマッピング分析の結果を図2及び3に示す。
【0076】
図2及び3に示されるように、最下部の負極集電体層から順に、Mg、Ga、Sリッチな分布が確認された。これは、初回充放電によるLi挿入、及び脱離後においても、Ga系層がMg系層と固体電解質層の間に存在していることを示している。このGa系層が、放電末期におけるLi脱離反応場となって、負極活物質層-固体電解質界面の維持、及び定電流ステップでの可逆容量増大に寄与していると考えられる。
【0077】
〈サイクル特性の測定結果〉
各例のセルにおける、初回充放電後の0.60mA/cm(~C/5)での25℃サイクル特性の結果を図4に示す。また、50サイクル後の可逆容量を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
図4、及び表1に示されるように、負極活物質層としてGa-Mg二層蒸着箔を用いた実施例1のセルは、比較例のセルに対して可逆容量が大きく、比較例間でより可逆容量が大きかった比較例2に対しても、1サイクル後の可逆容量、50サイクル後の可逆容量ともに約2倍であった。
【0080】
また、図4、及び表1に示されるように、負極活物質層としてGa蒸着箔を用いた比較例1のセルよりも、Mg蒸着箔を用いた比較例2のセルの方が、可逆容量が大きかった。このことから、本開示の負極活物質層を含むセルにおいて、Mg蒸着箔を負極集電体層側に設け、Mg蒸着箔と固体電解質層の間に二層目の負極活物質層であるGa蒸着箔を設けたことが、可逆容量を向上させた要因と考えられる。
図1
図2
図3
図4