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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】過渡電圧吸収素子
(51)【国際特許分類】
   H10D 89/60 20250101AFI20250701BHJP
   H10D 84/80 20250101ALI20250701BHJP
【FI】
H10D89/60
H10D84/80 102B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023552838
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2022036478
(87)【国際公開番号】W WO2023058553
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2021163298
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 達也
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-221569(JP,A)
【文献】特開2015-126149(JP,A)
【文献】特開2012-182381(JP,A)
【文献】特開2021-2548(JP,A)
【文献】特開2003-282715(JP,A)
【文献】特開平10-150150(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142394(WO,A1)
【文献】特開2021-57491(JP,A)
【文献】国際公開第2014/181565(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0084601(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0244090(US,A1)
【文献】特開平5-299591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10D 84/80
H10D 89/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面に形成されたエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層に形成された、第1p+領域、第2p+領域、第1n+領域及び第2n+領域と、
前記半導体基板内に形成された第1埋込層及び第2埋込層と、
第1トレンチ及び第2トレンチと、
を備え、
前記第1トレンチにより囲まれた、前記エピタキシャル層の一部、前記第1p+領域及び前記第1n+領域を含んで第1ダイオードが構成され、
前記第2トレンチにより囲まれた、前記エピタキシャル層の一部、前記第2p+領域及び前記第2n+領域を含んで第2ダイオードが構成され、
前記第1トレンチは、前記エピタキシャル層の表面側から前記第1埋込層に達し、
前記第2トレンチは、前記エピタキシャル層の表面側から前記第2埋込層に達し、
前記第1埋込層及び前記第2埋込層は、前記半導体基板より不純物濃度が高く、隣接する前記第1ダイオードと前記第2ダイオードとの間で分離されている、
過渡電圧吸収素子。
【請求項2】
前記第1埋込層と前記第2埋込層との間隔は、前記第1埋込層及び前記第2埋込層と前記半導体基板との間に生じるグラデーション層同士が分離される間隔である、
請求項1に記載の過渡電圧吸収素子。
【請求項3】
前記第1埋込層は前記第1トレンチに囲まれた内側領域に形成され、表面側から視たときに前記第1トレンチの外側領域にも形成されている、
請求項1または請求項2に記載の過渡電圧吸収素子。
【請求項4】
前記第1埋込層は前記第1トレンチに囲まれた前記内側領域における前記第1トレンチに接する部分に形成され、前記内側領域には前記第1埋込層が形成されていない部分がある、
請求項3に記載の過渡電圧吸収素子。
【請求項5】
前記第2埋込層は前記第2トレンチに囲まれた内側領域に形成され、表面側から視たときに前記第2トレンチの外側領域にも形成されている、
請求項1記載の過渡電圧吸収素子。
【請求項6】
前記第2埋込層は前記第2トレンチに囲まれた前記内側領域における前記第2トレンチに接する部分に形成され、前記内側領域には前記第2埋込層が形成されていない部分がある、
請求項5に記載の過渡電圧吸収素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESD(静電気放電)等による過渡的な異常電圧や、雷サージ、開閉サージ等のサージを吸収する過渡電圧吸収素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、伝送線路とグランドとの間に過渡電圧吸収素子を挿入すると、本来伝送すべき高周波信号が過渡電圧吸収素子の浮遊容量によってグランドへ漏れる。すなわち、伝送線路の伝送特性が悪化する。
【0003】
特許文献1には、低容量PNダイオードの面積を縮小化して素子容量を低減した場合であっても、表面電極による寄生容量の増大を抑制した、低容量半導体素子装置が開示されている。
【0004】
図11は特許文献1に開示されている過渡電圧吸収素子の断面図である。図11に表している過渡電圧吸収素子は、半導体基板401、埋込層402、エピタキシャル層403、トレンチ404、トレンチ407、酸化膜410、第1拡散層405、第2拡散層406及び表面電極414を備える。
【0005】
トレンチ404は埋込層402まで達する。第1拡散層405はエピタキシャル層403の、埋込層402が形成された面の反対面に形成されている。第2拡散層406はエピタキシャル層403の表面に形成されている。トレンチ407は第2拡散層406を取り囲むように形成されている。エピタキシャル層403の表面上には、第1拡散層405及び第2拡散層406に接続される表面電極414が形成されている。
【0006】
エピタキシャル層403と埋込層402とで低容量PNダイオード421が構成されていて、埋込層402と半導体基板401とでツェナーダイオード420が構成されている。また、エピタキシャル層403と第2拡散層406とで低容量PNダイオード422が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-126149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記構成によれば、酸化膜410を厚くすることで、表面電極414を一方の電極とする寄生容量が抑制できる。しかし、特許文献1に記載されている半導体基板401の不純物濃度は1×1020/cm3 オーダーであり、一般的には高濃度である。そのため、酸化膜410を厚くしても、半導体基板401と表面電極414等との間に生じる寄生容量はさほど小さくできない。
【0009】
上記寄生容量を低減するために基板の不純物濃度を低濃度にした場合、この低濃度基板にトレンチ部が隣接してしまうため、トレンチの下部がオートドープによって不純物の極性が反転化し、そのことによりリーク電流が増大する。
【0010】
上記リーク電流の増大を回避するためには、基板とエピタキシャル層との間に不純物濃度の高い埋込層を形成することが有効である。すなわち、このことによりオートドープが回避できる。しかし、上記不純物濃度が高い埋込層を形成すると、不純物濃度の高い基板を用いた場合と同様に寄生容量が増大化する。
【0011】
このように、寄生容量の低減のために基板の不純物濃度を低くすることと、リーク電流の抑制のために高濃度の埋込層を形成することとはトレードオフの関係にある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記トレードオフ関係を回避して、リーク電流を抑制しかつ寄生容量を低減した過渡電圧吸収素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一例としての過渡電圧吸収素子は、
半導体基板と、
前記半導体基板の表面に形成されたエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層に形成された、第1p+領域、第2p+領域、第1n+領域及び第2n+領域と、
前記半導体基板内に形成された第1埋込層及び第2埋込層と、
第1トレンチ及び第2トレンチと、
を備え、
前記第1トレンチにより囲まれた、前記エピタキシャル層の一部、前記第1p+領域及び前記第1n+領域を含んで第1ダイオードが構成され、
前記第2トレンチにより囲まれた、前記エピタキシャル層の一部、前記第2p+領域及び前記第2n+領域を含んで第2ダイオードが構成され、
前記第1トレンチは、前記エピタキシャル層の表面側から前記第1埋込層に達し、
前記第2トレンチは、前記エピタキシャル層の表面側から前記第2埋込層に達し、
前記第1埋込層及び前記第2埋込層は、前記半導体基板より不純物濃度が高く、隣接する前記第1ダイオードと前記第2ダイオードとの間で分離されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リーク電流が抑制され、かつ、寄生容量の小さな過渡電圧吸収素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は第1の実施形態に係る過渡電圧吸収素子11の断面図である。
図2図2は埋込層BLと半導体基板Subとの界面に形成されるグラデーション層について示す断面図である。
図3図3は過渡電圧吸収素子11の回路図である。
図4図4は過渡電圧吸収素子11の寄生容量の周波数特性を示す図である。
図5図5は過渡電圧吸収回路101の回路図である。
図6図6は、過渡電圧吸収素子11の浮遊容量によるインピーダンスの周波数依存性を示す図である。
図7図7は過渡電圧吸収素子11を伝送線路に設けたときの、伝送線路の挿入損失の周波数特性を示す図である。
図8図8は本実施形態に係る変形例の過渡電圧吸収素子12の断面図である。
図9図9(A)は、半導体基板Subにエピタキシャル層Epiを形成し、トレンチ形成用の孔を設けた状態での断面図である。図9(B)はトレンチTR、p+領域及びn+領域の形成後の状態での断面図である。
図10図10(A)、図10(B)は、比較例としての過渡電圧吸収素子の断面図である。
図11図11は、特許文献1に開示されている過渡電圧吸収素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は第1の実施形態に係る過渡電圧吸収素子11の断面図である。過渡電圧吸収素子11は、半導体基板部と再配線部とで構成されている。半導体基板部は、半導体基板Sub、埋込層BL、エピタキシャル層Epi、トレンチTR、絶縁体Ins1及び導電体Cond11,Cond12,Cond13を備える。半導体基板Subは、例えばSi基板、GaAs基板等である。絶縁体Ins1の材質には、SiO膜が用いられてもよい。導電体Cond11,Cond12,Cond13の材質には、例えばAl又はCuが用いられてもよい。
【0017】
再配線部は、絶縁体Ins2,Ins3,Ins4,Ins5、導電体Cond2、パッドPadを備える。
【0018】
絶縁体Ins2は例えばSiN、絶縁体Ins3,Ins4,Ins5は例えばエポキシ等の有機樹脂である。導電体Cond2の材質には、例えばCuが用いられてもよい。パッドPadは例えば複数層の電極形成用導電体で構成されている。例えば、パッドPadは、下地層および表面層を含むようにしてもよい。また、下地層と表面層との間に密着層をさらに含むようにしてもよい。下地層の材質にはNiが、密着層の材質にはTiが、表面層の材質にはAuが用いられてもよい。
【0019】
エピタキシャル層Epiは半導体基板Subの表面に形成されている。エピタキシャル層Epiの表層にはp+領域及びn+領域が形成されている。エピタキシャル層Epiの表面には絶縁体Ins1が形成されている。エピタキシャル層Epiの表面からp+領域及びn+領域にかけて導電体Cond11,Cond12,Cond13が形成されている。また、絶縁体Ins1から埋込層BLにかけてトレンチTRが形成されている。
【0020】
再配線部には上記導電体Cond11,Cond13に導通する導電体Cond2が形成されている。最上層の導電体Cond2にはパッドPadが形成されている。
【0021】
エピタキシャル層Epi、p+領域及びn+領域によってそれぞれダイオードを構成している。エピタキシャル層Epiがn型エピタキシャル層である場合、エピタキシャル層Epiとp+領域との界面に空乏層が形成される。
【0022】
埋込層BLは半導体基板Subに埋設されている。埋込層BLの不純物濃度は半導体基板Subの不純物濃度より高い。例えば、半導体基板Subの不純物濃度は1×1014/cm3 オーダーであり、埋込層BLの不純物濃度は1×1018/cm3 から1×1020/cm3 のオーダーである。
【0023】
トレンチTRは、表面側から視て内部領域を有する枠状である。トレンチTRはエピタキシャル層Epiの表面側から埋込層BLに達している。トレンチTRは、埋込層BLを表面側から視た外端よりも内側に配置されている。すなわち、各トレンチTRに対する埋込層BLは、トレンチTRで囲まれる内側領域と外側領域とを有する。
【0024】
そして、トレンチTRは、表面側から視て、ダイオードの形成領域を囲むように形成されている。トレンチTRは、ダイオード毎に複数形成されている。複数のトレンチTRは、表面側から視て、それぞれの内部領域にダイオードの形成領域を含む。これにより、複数のトレンチTRは複数のダイオード(第1ダイオードと第2ダイオード)間を分離する。
【0025】
図1中に代表的に領域Aで示すように、トレンチTRは半導体基板Subに接することなく、埋込層BLで覆われている。そのため、次に述べるようにオートドープによるリーク電流経路の形成が回避できる。
【0026】
ここで、図9(A)、図9(B)を参照して、トレンチTR形成時のオートドープによる電流リークについて説明する。図9(A)は、半導体基板Subにエピタキシャル層Epiを形成し、トレンチ形成用の孔を設けた状態での断面図である。図9(B)はトレンチTR、p+領域及びn+領域の形成後の状態での断面図である。
【0027】
図9(A)に示すように、トレンチTR形成のための孔をエッチングにより形成し、その孔内の側壁に酸化膜を形成させるために昇温すると、エピタキシャル層Epiの側壁からのオートドープによって、p型の半導体基板SubのトレンチTR形成用孔の壁面(側壁、底部)がn型に反転する。つまり、半導体基板SubのトレンチTR形成用孔の壁面(側壁、底部)にn型化部が形成される。
【0028】
したがって、図9(B)に示すように、n+領域→エピタキシャル層Epi→n型化部→エピタキシャル層Epi→n型化部→エピタキシャル層Epi→n+領域の経路がリーク電流経路として構成される。
【0029】
これに対して、本実施形態では、図1に示したように、トレンチTRが半導体基板Subに接することなく、埋込層BLで覆われているため、上記オートドープによるリーク電流経路の形成が回避できる。
【0030】
また、本実施形態の過渡電圧吸収素子11では、図1に示すように、導電体Cond11,Cond12,Cond13と半導体基板Subとの間に寄生容量が形成され、導電体Cond2と半導体基板Subとの間に寄生容量が形成されるが、ダイオード形成領域以外の領域Bでは、埋込層BLが無いので上記寄生容量は小さい。また、領域Cで埋込層BLはダイオード毎に分離されている。そのため、後に示す比較例のように、埋込層BLが、半導体基板Subの全面に埋設されていたり、隣接するダイオード形成部に連続して形成されていたりする場合に比べて、過渡電圧吸収素子11の寄生容量の周波数特性が改善される。なお、領域Dに生じる寄生容量については後に説明する。
【0031】
図2は埋込層BLと半導体基板Subとの界面に形成されるグラデーション層について示す断面図である。
【0032】
互いに隣接する埋込層BLを確実に分断するには、埋込層BL間をある一定以上の距離で形成する必要がある。不純物濃度の低い半導体基板Sub内に、不純物濃度の高い埋込層BLを形成するため、不純物濃度の差によって不純物濃度が徐々に変化する範囲(グラデーション層)が生じる。埋込層BLの形成範囲はそのグラデーション層を含む範囲である。半導体基板Subの不純物濃度が1×1014/cm3 であり、埋込層BLの不純物濃度が1×1018/cm3 であれば、上記グラデーション層の不純物濃度は1×1018/cm3 から1×1014/cm3 の範囲で連続的に変化している。
【0033】
ダイオード毎の埋込層BLの間隔(図2中に示す間隔G)は、埋込層BLのグラデーション層同士が分離される間隔である。この間隔Gを空けることにより、埋込層BL同士が実質的に連続しない。すなわち、埋込層BLの先端の不純物濃度が半導体基板Subの不純物濃度と同じ1×1014/cm3 となっていれば、隣接する埋込層BLは互いに離れていると見なすことができる。
【0034】
図3は過渡電圧吸収素子11の回路図である。図1に示す断面では2つのダイオードだけが表れているが、過渡電圧吸収素子11はその他にもダイオードを備える。図3中の破線の矢印は過渡電圧吸収素子11に流れる電流の経路及び方向を示している。つまり、図3中の導電体Cond11に正電位が印加され、且つ各ダイオードに対してその順方向電圧を超える電圧が印加されたとき、[Cond11]→ダイオードD11→[Cond12]→ダイオードD12→[Cond13]の経路で電流が流れる。また、図3中の導電体Cond13に正電位が印加され、且つ各ダイオードに対してその順方向電圧を超える電圧が印加されたとき、[Cond13]→ダイオードD21→[Cond12]→ダイオードD22→[Cond11]の経路で電流が流れる。
【0035】
図4は過渡電圧吸収素子11の寄生容量の周波数特性を示す図である。この図4には比較例としての過渡電圧吸収素子の特性も併せて図示している。
【0036】
図10(A)、図10(B)は上記比較例としての過渡電圧吸収素子の断面図である。図10(A)に示す過渡電圧吸収素子は、埋込層BLが半導体基板Subの全面に形成されている。図10(B)に示す過渡電圧吸収素子は、隣接するダイオード形成部に連続して埋込層BLが形成されている。
【0037】
図10(A)に示した過渡電圧吸収素子では、不純物濃度の高い埋込層BLが半導体基板Subの全面に形成されているので、導電体Cond11,Cond12,Cond13と半導体基板Subとの間、導電体Cond2と半導体基板Subとの間にそれぞれ形成される寄生容量は大きい。図10(B)に示した過渡電圧吸収素子においても、不純物濃度の高い埋込層BLが半導体基板Subの上部の広面積に形成されているので、導電体Cond11,Cond12,Cond13と半導体基板Subとの間、導電体Cond2と半導体基板Subとの間にそれぞれ形成される寄生容量は大きい。
【0038】
図4において、特性曲線Eは本実施形態の過渡電圧吸収素子11の特性であり、特性曲線Caは、図10(A)に示した比較例としての過渡電圧吸収素子の特性であり、特性曲線Cbは、図10(B)に示した比較例としての過渡電圧吸収素子の特性である。
【0039】
図4において10GHzでの上記寄生容量は次のとおりである。
【0040】
E:0.126pF
Ca:0.178pF
Cb:0.136pF
つまり、使用周波数帯である10GHzにおいて、本実施形態の過渡電圧吸収素子11の寄生容量は比較例としての過渡電圧吸収素子より小さい。
【0041】
このように、隣接するダイオード間を分離するトレンチTRは、エピタキシャル層Epiの表面側から埋込層BLに達するので、オートドープによるリーク電流が抑制される。また、不純物濃度の高い埋込層BLを備えながらも、この埋込層BLはダイオード毎に分離されているので、生じる寄生容量は小さい。つまり、寄生容量の低減のために半導体基板Subの不純物濃度を低くすることと、リーク電流の抑制のために高濃度の埋込層BLを形成することとのトレードオフ関係は解消される。このことにより、リーク電流を抑制し、かつ、寄生容量を低減した過渡電圧吸収素子が得られる。
【0042】
次に、埋込層BLをダイオード毎に分離することによる新たな作用効果について記述する。
【0043】
図5は過渡電圧吸収回路101の回路図である。この過渡電圧吸収回路101は、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、及び第1端子T1と第2端子T2との間に存在する信号ラインSLを備える。第3端子T3はグランド等の基準電位に接続されている。また、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間に過渡電圧吸収素子11がシャントに接続されている。
【0044】
過渡電圧吸収素子11は2端子素子であり、その端子間に、主要部としてのダイオードBDを備える。この過渡電圧吸収素子11は、信号ラインSLと第3端子T3(基準電位)との間にシャントに接続された、第1経路1及び第2経路2を備える。
【0045】
第1経路1は、主にサージ電流が流れる電流経路であり、第2経路2は、信号ラインSLを伝搬する主に使用周波数帯(信号周波数帯)での電流経路である。図1中に破線で示す電流経路は第1経路1に相当し、図1中に一点鎖線で示す電流経路は第2経路2に相当する。信号ラインSLを伝搬する信号が、低い周波数帯の信号である場合、その信号は第2経路2だけでなく第1経路1にも流れる。そして、信号周波数が高周波数になるにつれて、第2経路2に流れる信号電流の割合が増大する。すなわち、信号については、その周波数帯によって、第1経路1と第2経路2とを流れる電流の割合が変化する。
【0046】
第1経路1は、空乏層容量を含むダイオードBD、第1インダクタL1及び第1抵抗成分R1による直列回路を含む。ダイオードBDは、順方向が互いに逆向きの複数のダイオードで構成されている。また、第2経路2は、容量C2、第2インダクタL2及び第2抵抗成分R2による直列回路を含む。
【0047】
容量C2はダイオードBDに導通する導電体Cond11,Cond12,Cond13間に生じる容量(図1中の領域Dに生じる寄生容量)であり、第1抵抗成分R1は導電体Cond11,Cond12,Cond13,Cond2による配線、エピタキシャル層(空乏層)及び埋込層BLの抵抗成分であり、第2抵抗成分R2は高周波数帯の電流経路における配線の抵抗成分である。本実施形態では、図1に示したように埋込層BLをダイオード毎に分離しているので、以下に述べるように第1抵抗成分R1の抵抗値を高くできる。
【0048】
図9(B)に示したように、埋込層BLが分離されていないと、図9(B)中に破線で示す、埋込層BLを流れる電流経路が形成される。この電流経路自体は長いとしても、埋込層BLは低抵抗であるため、トータルの抵抗値は低い。つまり、この場合、電流はエピタキシャル層Epiを厚み方向(図上で縦方向)に流れる領域があり、この領域では、埋込層BLを広い断面で薄い領域を流れるので、トータルの抵抗値は低い。
【0049】
一方、本実施形態では、埋込層BLが分離されていて、埋込層BLを流れる電流経路が形成されないので、図1中に破線の電流経路で示すように、第1抵抗成分R1の抵抗値は、半導体基板Subの面方向に沿った方向(横方向)でのエピタキシャル層Epiの抵抗値及び配線の抵抗値で決まる。このように、エピタキシャル層Epiを横方向に電流が流れる場合、高抵抗領域をある程度の距離だけ流れることになるため、第1抵抗成分R1の抵抗値が高くなる。
【0050】
したがって、埋込層BLを分離することで、第1抵抗成分R1を大きくできる。ここで、ダイオードBDの容量をC1、容量C2の容量をC2、第1抵抗成分R1の抵抗値をR1、第2抵抗成分R2の抵抗値をR2でそれぞれ表すと、C1 > C2、R1 > R2 の関係にある。また、第1経路1の共振周波数と第2経路2の共振周波数とは異なる。
【0051】
図6は、過渡電圧吸収素子11の浮遊容量(ダイオードBDの空乏層容量C1及び容量C2の合成容量)によるインピーダンスの周波数依存性を示す図である。図6において、横軸は周波数、縦軸はインピーダンスである。図6中の特性曲線Z1は図5における第1経路1のインピーダンスの周波数依存性を示し、特性曲線Z2は図5における第2経路2のインピーダンスの周波数依存性を示す。特性曲線Z1//Z2は、過渡電圧吸収素子11のインピーダンスの周波数依存性を示す。また、特性曲線Z0は、比較対象としての所定容量のインピーダンスの周波数特性を示す。
【0052】
図6の例では、範囲Aは1GHzから5.4GHzの周波数領域を示し、範囲Bは5.4GHzから18GHzの周波数領域を示し、範囲Cは18GHzから50GHzの周波数領域を示す。
【0053】
図6において、過渡電圧吸収素子11のインピーダンス(Z1//Z2)は、範囲A(低い周波数帯域)では第1経路1のインピーダンスZ1が支配的であり、範囲C(高い周波数帯域)では第2経路2のインピーダンスZ2が支配的である。第1経路1のインピーダンスZ1は高い周波数帯において第1抵抗成分R1の影響が顕著となって、周波数依存性が小さくなる。
【0054】
図6中の特性曲線(Z1//Z2)と特性曲線Z0とを比較すれば明らかなように、特性曲線(Z1//Z2)は、高い周波帯でのインピーダンスの低下が抑制できている。すなわち、図6中の範囲Aより高周波側であれば、過渡電圧吸収素子11によるシャント経路のインピーダンスの低下が抑制されて、伝送線路の特性劣化が抑制される。
【0055】
本実施形態によれば、高周波数帯(図6中の範囲C)では、第2経路2のインピーダンスZ2が支配的であるが、容量C2の容量値が小さくなって、過渡電圧吸収素子11のインピーダンスの低下が抑制されるため、信号がシャントに漏れる量が抑制される。その結果、伝送線路を通過させたい高周波数帯の信号の挿入損失の劣化を抑制できる。
【0056】
図7は過渡電圧吸収素子11を伝送線路に設けたときの、伝送線路の挿入損失の周波数特性を示す図である。図7には比較例としての過渡電圧吸収素子の特性も併せて図示している。図7において、特性曲線Eは本実施形態の過渡電圧吸収素子11の特性であり、特性曲線Caは、図9(A)に示した比較例としての過渡電圧吸収素子の特性であり、特性曲線Cbは、図9(B)に示した比較例としての過渡電圧吸収素子の特性である。
【0057】
図7において10GHzでの挿入損失は次のとおりである。
【0058】
E:-0.612dB
Ca:-0.683dB
Cb:-0.628dB
つまり、使用周波数帯である10GHzにおいて、本実施形態の過渡電圧吸収素子11を備える過渡電圧吸収回路101の挿入損失は比較例としての過渡電圧吸収素子より小さい。
【0059】
このように、埋込層BLをダイオード毎に分離したことにより、その過渡電圧吸収素子を備える過渡電圧吸収回路の使用周波数帯における挿入損失を低減できる。
【0060】
変形例
図8は本実施形態に係る変形例の過渡電圧吸収素子12の断面図である。図8に示す変形例の過渡電圧吸収素子12は、上述の過渡電圧吸収素子11に対して、埋込層BLの形成パターンにおいて異なる。過渡電圧吸収素子12の他の構成は、過渡電圧吸収素子11と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0061】
過渡電圧吸収素子12は、複数の埋込層BLを備える。埋込層BLは、トレンチTRと同様に枠状であり、トレンチTRの側面の全面および底面の全面を覆う形状である。すなわち、埋込層BLは、トレンチTRが半導体基板Subに直接接触しないように、トレンチTRを覆う形状で形成されている。
【0062】
このような構造とすることで、トレンチTRを埋込層BLで囲むため、シャント経路のインピーダンス低下が抑制される。これにより、埋込層BLの面積が小さくできるため寄生容量も抑制できる。なお、この時の埋込層BLの幅(トレンチTRの側面また底面から半導体基板Subまでの距離)は図8に示すものに限られることはなく、埋込層BLは、過渡電圧吸収素子12を平面視して(過渡電圧吸収素子12を表面側から視て)、一部がp+領域やn+領域に重なってもよい。
【0063】
最後に、本発明は上述した各実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【0064】
例えば、エピタキシャル層Epiに、このエピタキシャル層より不純物濃度が高いウェルを備え、そのウェル内にp+領域及びn+領域が形成されていてもよい。
【0065】
また、例えば、トレンチTRはエピタキシャル層Epiの表面から半導体基板Sub方向に延びる形状に限らず、絶縁体Ins1(SiO2 膜)の途中から半導体基板Sub方向に延びていてもよい。
【0066】
本明細書には、以下の内容が開示されている。
【0067】
<1>
半導体基板と、
前記半導体基板の表面に形成されたエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層に形成された、第1p+領域、第2p+領域、第1n+領域及び第2n+領域と、
前記半導体基板内に形成された第1埋込層及び第2埋込層と、
第1トレンチ及び第2トレンチと、
を備え、
前記第1トレンチにより囲まれた、前記エピタキシャル層の一部、前記第1p+領域及び前記第1n+領域を含んで第1ダイオードが構成され、
前記第2トレンチにより囲まれた、前記エピタキシャル層の一部、前記第2p+領域及び前記第2n+領域を含んで第2ダイオードが構成され、
前記第1トレンチは、前記エピタキシャル層の表面側から前記第1埋込層に達し、
前記第2トレンチは、前記エピタキシャル層の表面側から前記第2埋込層に達し、
前記第1埋込層及び前記第2埋込層は、前記半導体基板より不純物濃度が高く、隣接する前記第1ダイオードと前記第2ダイオードとの間で分離されている、
過渡電圧吸収素子。
【0068】
<2>
前記第1埋込層と前記第2埋込層との間隔は、前記第1埋込層及び前記第2埋込層と前記半導体基板との間に生じるグラデーション層同士が分離される間隔である、
<1>に記載の過渡電圧吸収素子。
【0069】
<3>
前記第1埋込層は前記第1トレンチに囲まれた内側領域に形成され、表面側から視たときに前記第1トレンチの外側領域にも形成されている、
<1>または<2>に記載の過渡電圧吸収素子。
【0070】
<4>
前記第1埋込層は前記第1トレンチに囲まれた前記内側領域における前記第1トレンチに接する部分に形成され、前記内側領域には前記第1埋込層が形成されていない部分がある、
<3>に記載の過渡電圧吸収素子。
【0071】
<5>
前記第2埋込層は前記第2トレンチに囲まれた内側領域に形成され、表面側から視たときに前記第2トレンチの外側領域にも形成されている、
<1>乃至<4>のいずれかに記載の過渡電圧吸収素子。
【0072】
<6>
前記第2埋込層は前記第2トレンチに囲まれた前記内側領域における前記第2トレンチに接する部分に形成され、前記内側領域には前記第2埋込層が形成されていない部分がある、
<5>に記載の過渡電圧吸収素子。
【符号の説明】
【0073】
BD…ダイオード
BL…埋込層
Cond11,Cond12,Cond13,Cond2…導電体
C2…容量
D11,D12,D21,D22…ダイオード
Epi…エピタキシャル層
G…間隔
Ins1,Ins2,Ins3,Ins4,Ins5…絶縁体
L1…第1インダクタ
L2…第2インダクタ
Pad…パッド
R1…第1抵抗成分
R2…第2抵抗成分
Sub…半導体基板
SL…信号ライン
T1…第1端子
T2…第2端子
T3…第3端子
TR…トレンチ
1…第1経路
2…第2経路
11…過渡電圧吸収素子
101…過渡電圧吸収回路
401…半導体基板
402…埋込層
403…エピタキシャル層
404…トレンチ
405…第1拡散層
406…第2拡散層
407…トレンチ
410…酸化膜
414…表面電極
420…ツェナーダイオード
421,422…PNダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11