IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】充電装置、サーバ、及び診断システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20250701BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20250701BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20250701BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250701BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
H01M10/42 P
G01R31/392
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023567538
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2022032319
(87)【国際公開番号】W WO2023112394
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2021203327
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柳原 明日輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 康次
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-158905(JP,A)
【文献】特開昭62-145406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
H02J13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の充電装置であって、
前記二次電池に対して充電及び放電を行うように構成された充放電回路と、
前記充放電回路を制御するように構成された制御装置と、
外部と通信を行うように構成された通信装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記二次電池に対して充電又は放電を開始するに際し、前記二次電池から使用履歴情報を取得する処理と、
前記二次電池が充放電禁止状態であることを前記使用履歴情報が示す場合に、前記二次電池に充放電禁止状態を一時的に解除させる処理と、
一時的に充放電禁止状態が解除された前記二次電池の充電又は放電を前記充放電回路に行わせることにより、前記二次電池の内部状態を示す内部状態情報を取得する処理と、
を実行するように構成され、
前記通信装置は、
前記内部状態情報を外部に送信する処理と、
前記内部状態情報に基づいて生成された、前記二次電池の劣化状態を示す劣化状態情報を外部から受信する処理と、
を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記二次電池が使用可能な程度の劣化状態であることを前記劣化状態情報が示す場合、前記二次電池に充放電禁止状態を継続的に解除させる、充電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の充電装置であって、
前記制御装置は、前記二次電池が使用できない程度まで劣化していることを前記劣化状態情報が示す場合、前記二次電池に、永久的に充放電禁止状態であることを示す永久充放電禁止情報を記憶させる、充電装置。
【請求項3】
請求項2に記載の充電装置であって、
前記制御装置は、前記二次電池の充電又は放電を開始するに際して前記二次電池から前記永久充放電禁止情報を取得した場合、前記内部状態情報を取得する前記処理を実行しないように構成されている、充電装置。
【請求項4】
請求項1に記載の充電装置であって、
前記充電装置は、前記二次電池が搭載され、前記二次電池を電源として使用する電子機器である、充電装置。
【請求項5】
請求項1に記載の充電装置であって、
前記内部状態情報は、前記二次電池の端子電圧を示し、前記二次電池の電流積算容量と前記二次電池の開回路電圧との関係を示す開回路電圧曲線情報を生成するために用いられる端子電圧情報を含み、
前記制御装置は、前記端子電圧情報を取得するため、前記充放電回路に前記二次電池の間欠放電又は間欠充電を行わせる、充電装置。
【請求項6】
請求項1に記載の充電装置であって、さらに、
前記劣化状態情報を表示するように構成された表示装置、
を備える、充電装置。
【請求項7】
請求項1に記載の充電装置であって、
前記制御装置は、前記劣化状態情報が前記二次電池の劣化の程度を示す劣化度情報を含み、且つ前記劣化度情報が示す劣化の程度が所定の劣化の程度以上である場合、前記二次電池に、急速充放電禁止状態であることを示す急速充放電禁止情報を記憶させる、充電装置。
【請求項8】
二次電池の劣化状態を診断する診断システムであって、
請求項1から7のいずれか1項に記載の充電装置と、
前記二次電池の充電又は放電を開始するに際して前記二次電池から前記使用履歴情報を取得するように構成された前記充電装置とネットワークを介して接続されたサーバと、
を備え
前記サーバは、
前記二次電池が充放電禁止状態であることを前記使用履歴情報が示す場合に前記充電装置が前記二次電池に充放電禁止状態を一時的に解除させて取得した、前記二次電池の内部状態を示す前記内部状態情報を受信する処理と、
前記内部状態情報に基づいて前記二次電池の劣化状態を診断し、前記二次電池の劣化状態を示す前記劣化状態情報を生成する処理と、
前記劣化状態情報を外部に送信する処理と、
を実行するように構成される、診断システム。
【請求項9】
請求項に記載の診断システムであって、さらに、
前記充電装置によって充電及び放電が可能な二次電池に対応付けられ、前記サーバから前記劣化状態情報を受信し、前記劣化状態情報を表示するユーザ端末、
を備える、診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の充電装置に関する。また、本開示は、当該充電装置とネットワークを介して接続されたサーバに関する。さらに、本開示は、当該充電装置と、当該サーバとを備える診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池等の二次電池は、満充電状態で長期間使用されずに放置されると、激しく劣化することが知られている。そのため、二次電池が所定期間以上使用されなかった場合、二次電池内の制御回路(Battery Management System,BMS)が充放電を禁止する制御を行う。この制御が行われた後は二次電池の充放電を行うことができなくなるため、二次電池は実質的に廃棄処分となってしまう。
【0003】
例えば、特許文献1には、電動車両に搭載されている二次電池の劣化の程度を推定する制御装置が開示されている。この制御装置は、二次電池の使用期間、二次電池が過電圧となった時間の累積値、制限値を超えて二次電池に充電された電流の累積値、及び二次電池の放電電流の累積値の各々に基づき、電池年齢を算出する。特許文献1において、電池年齢は、二次電池の劣化の程度、より具体的にはリチウム析出量の推定値に相当するものとして取り扱われる。制御装置は、算出された電池年齢の1つ以上が上限年齢に達している場合、診断要求メッセージを表示してユーザに電池診断を促す。診断要求メッセージの表示後、所定期間が経過しても電池診断がなされない場合には、制御装置は、二次電池の使用を制限又は禁止する。
【0004】
特許文献1において、電池診断を行うための診断装置は、例えば、ディーラに設けられた修理工場に設置されている。この場合、二次電池が搭載された車両のユーザは、電池診断を行うためにディーラに出向く必要がある。ディーラでは、専用の診断装置に車両が接続される。この診断装置が二次電池を継続使用可能と診断すると、車両内の制御装置は、電池年齢を上限年齢よりも低い年齢に設定する。
【0005】
特許文献1には、診断装置を車両の内部に設けてもよいことが記載されている。この場合、例えば、ユーザの指示に従って、車両内の診断装置が電池診断を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/142023号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において、診断装置がディーラに設けられている場合、ユーザがいつまでもディーラに行かなければ、電池診断は行われず、二次電池はそのまま使用不可となってしまう。しかしながら、特許文献1のように車両に内蔵される二次電池であれば、車両ごとディーラに持ち込んで電池診断を受けることはユーザにとって容易である。これに対して、一般用途の二次電池の場合、二次電池に異常が生じたときには、ユーザが二次電池を例えば製造元に郵送して二次電池の状態を診断してもらう必要があり、ユーザにとって手間である。
【0008】
また、一般用途の二次電池の充電装置に対するコストの要求は、車両と比較して厳しいのが通常である。例えば、充電装置に診断装置を内蔵させると、充電装置の製造等に必要なコストが増大してしまう。そのため、比較的高度な電池診断を行うことができる診断装置を充電装置の内部に設けるのは困難である。
【0009】
本開示は、充電装置のコストを増大させることなく、二次電池が使用可能か否かをユーザに簡易に判断させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る二次電池の充電装置は、充放電回路と、制御装置と、通信装置とを備える。充放電回路は、二次電池に対して充電及び放電を行うように構成されている。制御装置は、充放電回路を制御するように構成されている。通信装置は、外部と通信を行うように構成されている。制御装置は、二次電池に対して充電又は放電を開始するに際し、二次電池から使用履歴情報を取得する処理と、二次電池が充放電禁止状態であることを使用履歴情報が示す場合に、二次電池に充放電禁止状態を一時的に解除させる処理と、一時的に充放電禁止状態が解除された二次電池の充電又は放電を充放電回路に行わせることにより、二次電池の内部状態を示す内部状態情報を取得する処理とを実行するように構成されている。通信装置は、内部状態情報を外部に送信する処理と、内部状態情報に基づいて生成された、二次電池の劣化状態を示す劣化状態情報を外部から受信する処理とを実行するように構成されている。制御装置は、二次電池が使用可能な程度の劣化状態であることを劣化状態情報が示す場合、二次電池に充放電禁止状態を継続的に解除させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、充電装置のコストを増大させることなく、二次電池が使用可能か否かをユーザが簡易に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る診断システムの概略構成を示す模式図である。
図2図2は、上記診断システムによる診断の対象である二次電池の概略構成を例示する斜視図である。
図3図3は、二次電池の等価回路の例を示す図である。
図4図4は、上記診断システムによる劣化状態診断のフローチャートである。
図5A図5Aは、上記診断システムによる劣化状態診断のフローチャートである。
図5B図5Bは、上記診断システムによる劣化状態診断のフローチャートである。
図6図6は、劣化状態診断において取得される端子電圧情報を例示する図である。
図7図7は、間欠放電によって得られた端子電圧情報に基づいて生成される開回路電圧(OCV)曲線を例示する図である。
図8図8は、劣化状態診断において取得される端子電圧情報を例示する、図6とは別の図である。
図9図9は、間欠充電によって得られた端子電圧情報に基づいて生成される開回路電圧(OCV)曲線を例示する図である。
図10図10は、二次電池の劣化度に応じた放電曲線のモデル波形を例示する図である。
図11図11は、二次電池の劣化度に応じた充電曲線のモデル波形を例示する図である。
図12図12は、二次電池の放電曲線を例示する図である。
図13図13は、二次電池の充電曲線を例示する図である。
図14図14は、二次電池の内部状態の時間推移を例示するモデル図である。
図15図15は、二次電池が劣化する要因を示す図である。
図16図16は、劣化した二次電池の開回路電圧曲線(放電時)を例示する図である。
図17図17は、劣化した二次電池の開回路電圧曲線(充電時)を例示する図である。
図18図18は、第2実施形態に係る診断システムの概略構成を示す模式図である。
図19図19は、第3実施形態に係る診断システムの概略構成を示す模式図である。
図20図20は、第3実施形態に係る診断システムの概略構成を示す別の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る二次電池の充電装置は、充放電回路と、制御装置と、通信装置とを備える。充放電回路は、二次電池に対して充電及び放電を行うように構成されている。制御装置は、充放電回路を制御するように構成されている。通信装置は、外部と通信を行うように構成されている。制御装置は、二次電池に対して充電又は放電を開始するに際し、二次電池から使用履歴情報を取得する処理と、二次電池が充放電禁止状態であることを使用履歴情報が示す場合に、二次電池に充放電禁止状態を一時的に解除させる処理と、一時的に充放電禁止状態が解除された二次電池の充電又は放電を充放電回路に行わせることにより、二次電池の内部状態を示す内部状態情報を取得する処理とを実行するように構成されている。通信装置は、内部状態情報を外部に送信する処理と、内部状態情報に基づいて生成された、二次電池の劣化状態を示す劣化状態情報を外部から受信する処理とを実行するように構成されている。制御装置は、二次電池が使用可能な程度の劣化状態であることを劣化状態情報が示す場合、二次電池に充放電禁止状態を継続的に解除させる(第1の構成)。
【0014】
第1の構成に係る充電装置は、例えば二次電池が長期間使用されずに放置されたことにより、二次電池が充放電禁止状態になっていたとしても、二次電池の充放電禁止状態を一時的に解除する。充電装置は、充放電回路を使用して二次電池の内部状態情報を取得し、例えばサーバ等の外部へと送信する。充電装置は、充電装置の外部で内部状態情報に基づいて生成された二次電池の劣化状態情報を受信する。充電装置は、劣化状態情報に応じ、使用可能な劣化状態である二次電池の充放電禁止状態を継続的に解除することができる。
【0015】
このように、第1の構成に係る充電装置は、従来の充電装置にも設けられている充放電回路を流用して二次電池の内部状態情報を取得するだけであり、二次電池の劣化状態情報の生成は、例えばサーバ等、充電装置の外部で実施される。そのため、充電装置のコストは実質的に増大しない。また、二次電池の内部状態情報の取得及び送信、並びに二次電池の劣化状態情報の受信は、二次電池の充電又は放電を開始する際、ユーザの手元にある充電装置によって自動的に実施される。二次電池の充放電禁止状態は、二次電池の劣化状態情報に応じて自動的に解除される。そのため、ユーザは、二次電池を製造元又は販売店等に持ち込むことなく、二次電池が再度使用可能か否かを簡易に判断することができる。
【0016】
制御装置は、二次電池が使用できない程度まで劣化していることを劣化状態情報が示す場合、二次電池に、永久的に充放電禁止状態であることを示す永久充放電禁止情報を記憶させてもよい(第2の構成)。
【0017】
第2の構成に係る充電装置は、使用不能なまでに劣化している二次電池を永久充放電禁止状態とすることができる。これにより、例えばユーザが二次電池を充電装置で充電又は放電しようとしたとき、充電装置は、内部状態情報の取得及び送信、並びに劣化状態情報の受信を行うまでもなく、当該二次電池が永久充放電禁止状態であることを認識することができる。
【0018】
制御装置は、二次電池の充電又は放電を開始するに際して二次電池から永久充放電禁止情報を取得した場合、内部状態情報を取得する処理を実行しないように構成されていてもよい(第3の構成)。
【0019】
第3の構成に係る充電装置は、二次電池が永久充放電禁止状態であることを認識した場合、当該二次電池の内部状態情報の取得を行わない。そのため、充電装置による内部状態情報の送信や、充電装置の外部における二次電池の劣化状態情報の生成も行われない。よって、既に永久充放電禁止状態となっている二次電池について不要な診断が行われるのを回避することができる。
【0020】
充電装置は、二次電池が搭載され、二次電池を電源として使用する電子機器であってもよい(第4の構成)。
【0021】
第4の構成に係る充電装置は、二次電池を電源として使用する電子機器自身である。このような電子機器は、無線LANモジュールを備えていることが多い。電子機器が無線LANモジュールを備えている場合、この無線LANモジュールを二次電池の内部状態情報の送受信を行う通信装置として使用することができる。よって、二次電池を使用する電子機器と別に、通信装置を備えた充電装置を準備する必要がない。これにより、コストを増大させることなく、二次電池が再度使用可能か否かをユーザに簡易に判断させることができる。
【0022】
内部状態情報は、二次電池の端子電圧を示す端子電圧情報を含んでいてもよい。この場合、制御装置は、端子電圧情報を取得するため、充放電回路に二次電池の間欠放電又は間欠充電を行わせることができる。端子電圧情報は、二次電池の電流積算容量と二次電池の開回路電圧との関係を示す開回路電圧曲線情報を生成するために用いることができる(第5の構成)。
【0023】
第5の構成に係る充電装置は、二次電池の端子電圧情報を取得するため、間欠放電又は間欠充電を実施する。間欠放電又は間欠充電を採用すれば、端子電圧情報を取得するために、充電電流を可変に制御する回路や、放電負荷を可変に制御する回路等を充電装置に設ける必要はない。よって、充電装置のコストをより低減することができる。また、間欠放電又は間欠充電の場合、放電又は充電停止期間中の二次電池の電圧挙動を観察することができる。例えば充電装置や外部のサーバにおいて、この電圧挙動を用い、二次電池の抵抗に関する劣化状態の詳細な解析を行うこともできる。
【0024】
充電装置は、さらに、表示装置を備えていてもよい。表示装置は、例えば、劣化状態情報を表示するように構成されている(第6の構成)。
【0025】
第6の構成に係る充電装置は、二次電池の劣化状態情報を表示装置に表示させる。例えば、二次電池の劣化の程度を示す劣化度情報が劣化状態情報に含まれている場合、表示装置による表示により、二次電池の劣化度をユーザに通知することができる。また、二次電池の劣化度をユーザに通知することで、例えば、二次電池の劣化度が高く二次電池が使用不能となった場合、二次電池の故障であるとユーザが誤解するのを防止することができる。よって、二次電池及び充電装置に対するユーザの信頼性が向上する。
【0026】
制御装置は、劣化状態情報が二次電池の劣化の程度を示す劣化度情報を含み、且つ劣化度情報が示す劣化の程度が所定の劣化の程度以上である場合、二次電池に、急速充放電禁止状態であることを示す急速充放電禁止情報を記憶させてもよい(第7の構成)。
【0027】
第7の構成に係る充電装置は、二次電池の劣化度が所定の劣化度以上である場合、二次電池を急速充放電禁止状態とする。この場合、例えばユーザが当該二次電池を充電装置で充電又は放電しようとしたとき、充電装置が二次電池の急速充放電を行わないように制御することができ、二次電池の劣化の進行を遅らせることができる。
【0028】
実施形態に係るサーバは、ネットワークを介して充電装置と接続されている。充電装置は、二次電池の充電又は放電を開始するに際して二次電池から使用履歴情報を取得するように構成されている。サーバは、二次電池が充放電禁止状態であることを使用履歴情報が示す場合に充電装置が二次電池に充放電禁止状態を一時的に解除させて取得した、二次電池の内部状態を示す内部状態情報を受信する処理と、内部状態情報に基づいて二次電池の劣化状態を診断し、二次電池の劣化状態を示す劣化状態情報を生成する処理と、劣化状態情報を外部に送信する処理とを実行するように構成されている(第8の構成)。
【0029】
第8の構成に係るサーバは、充電装置によって取得された二次電池の内部状態情報に基づき、二次電池の劣化状態情報を生成する。すなわち、充電装置は内部状態情報を取得するだけであり、劣化状態情報を生成する高度又は複雑な処理は、充電装置の外部にあるサーバによって実行される。よって、充電装置のコストは実質的に増大しない。また、劣化状態情報の基となる内部状態情報を取得する処理は、二次電池に対して充電又は放電を開始する際、ユーザの手元にある充電装置によって自動的に実施される。そのため、ユーザが二次電池を製造元又は販売店等に持ち込まなくても、充電装置から直接的又は間接的に内部状態情報を受信したサーバにより、二次電池の劣化状態情報が生成される。充電装置は、劣化状態情報に基づき、二次電池が再度使用可能か否かを簡易に判定することができる。
【0030】
実施形態に係る診断システムは、二次電池の劣化状態を診断する。診断システムは、上記充電装置と、上記サーバとを備える(第9の構成)。
【0031】
診断システムは、さらに、ユーザ端末を備えていてもよい。ユーザ端末は、充電装置によって充電及び放電が可能な二次電池に対応付けられている。ユーザ端末は、サーバから劣化状態情報を受信することができる。ユーザ端末は、劣化状態情報を表示してもよい(第10の構成)。
【0032】
第10の構成に係る診断システムでは、ユーザ端末に二次電池の劣化状態情報が表示される。この場合、劣化状態情報を表示してユーザに通知するための表示装置を充電装置に設ける必要がなくなる。そのため、充電装置のコストを低減することができる。
【0033】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0034】
<第1実施形態>
[診断システムの構成]
図1は、第1実施形態に係る診断システム100の概略構成を示す模式図である。診断システム100は、二次電池10の劣化状態を診断するためのシステムである。診断システム100は、充電装置20と、サーバ30と、ユーザ端末40とを備える。
【0035】
(二次電池)
二次電池10は、例えばリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は、リン酸鉄系リチウムイオン電池であってよいし、三元系リチウムイオン電池であってもよい。リチウムイオン二次電池の種類は、特に限定されるものではない。二次電池10は、例えばニッケル水素電池等、リチウムイオン二次電池以外の二次電池であってもよい。本実施形態は、二次電池10がリチウムイオン二次電池であるものとして説明する。
【0036】
図2は、二次電池10の概略構成を例示する斜視図である。図2に示すように、二次電池10は、複数の電池セル11と、制御基板12と、ケース13と、トップカバー14とを含んでいる。
【0037】
複数の電池セル11は、ケース13内に収容されている。電池セル11は、例えば、要求される端子電圧や容量値等に応じて、直列又は並列に接続されている。ケース13には、制御基板12も収容されている。制御基板12には、バッテリマネジメントシステム(BMS)と一般に称される制御回路が設けられている。トップカバー14は、電池セル11及び制御基板12を収容したケース13の開口を封鎖する。トップカバー14の表面には、複数の端子15が設けられている。
【0038】
図3は、二次電池10の等価回路の例を示す図である。図3に示すように、二次電池10には、電池セル11の充放電を制御するための制御IC121が設けられている。制御IC121は、制御基板12(図2)のBMSに含まれる。制御IC121は、サーミスタ122によって充電又は放電中の電池セル11の温度を監視する。制御IC121は、電池セル11の異常発熱を検出した際、電池セル11を保護するため、例えばリレー123をOFFにして通電を遮断する。
【0039】
複数の端子15は、正極端子151、負極端子152、及び通信端子153,154を含んでいる。正極端子151及び負極端子152は、二次電池10に通電するための端子である。通信端子153,154は、充電装置20(図1)と各種情報をやり取りするための端子である。本実施形態の例において、通信端子153は、充電装置20に情報を送信するために用いられ、通信端子154は、充電装置20からの情報を受信するために用いられる。すなわち、本実施形態の例では、送信用通信端子153と、受信用通信端子154とが別々に設けられている。しかしながら、二次電池10において、情報の受信及び送信を共通の端子で行うこともできる。
【0040】
(充電装置)
図1に戻り、充電装置20は、主として二次電池10の充電を行うための装置である。二次電池10は、充電に際して充電装置20に取り付けられる。充電装置20は、充放電回路21と、制御装置22と、通信装置23とを備えている。
【0041】
充放電回路21は、二次電池10に対して充電及び放電を行うように構成されている。充放電回路21は、一般的な充電装置に設けられた充放電回路であってよい。充電装置20に二次電池10が取り付けられたとき、充放電回路21が二次電池10の端子15(図2)に電気的に接続される。
【0042】
制御装置22は、充放電回路21を制御するように構成されている。また、制御装置22は、二次電池10との間で情報をやり取りする。制御装置22は、例えば、処理(命令)を実行する中央演算装置(CPU)と、命令や情報等を記憶するメモリとを含んでいる。制御装置22は、例えばマイクロコントローラ(MCU)である。
【0043】
通信装置23は、充電装置20の外部と通信を行うように構成されている。通信装置23は、典型的には無線通信装置であり、例えば無線LANモジュールである。通信装置23は、例えばRFIDタグ等であってもよい。
【0044】
充電装置20は、さらに、ランプ24,25を含んでいてもよい。ランプ24,25は、例えば、異なる色のLEDランプである。ランプ24は、充電装置20に取り付けられた二次電池10が充電中である場合に点灯する。ランプ25は、充電装置20に取り付けられた二次電池10が充電中でない場合に点灯する。
【0045】
(サーバ)
サーバ30は、ネットワークNを介して充電装置20と接続可能となっている。サーバ30は、充電装置20から情報を受信することができ、充電装置20に対して情報を送信することができる。サーバ30は、充電装置20から直接的に情報を受信してもよいし、充電装置20が送信した情報がユーザ端末40又はその他の装置を経由した後で、当該情報を受信することもできる。また、サーバ30は、充電装置20に対して直接的に情報を送信してもよいし、ユーザ端末40又はその他の装置を経由させて充電装置20に情報を到達させることもできる。
【0046】
サーバ30は、ネットワークNを介してユーザ端末40と接続可能となっている。サーバ30は、ユーザ端末40に対して情報を送信することができる。サーバ30は、ユーザ端末40に対して直接的に情報を送信してもよいし、充電装置20又はその他の装置を経由させてユーザ端末40に情報を到達させることもできる。
【0047】
サーバ30は、例えば、中央演算装置(CPU)、主記憶装置(メインメモリ)、及び補助記憶装置等を含んでいる。CPUは、補助記憶装置からメインメモリにロードされたプログラムに従って処理を実行する。主記憶装置は、プログラムや、CPUが使用する情報、CPUによる演算結果等を一時的に保持する作業領域として使用される。補助記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、又はROM等であり、プログラムや各種情報等を格納している。
【0048】
(ユーザ端末)
ユーザ端末40は、二次電池10に対応付けられている。ユーザ端末40は、二次電池10のユーザが所有する通信端末である。ユーザ端末40は、スマートフォンやタブレット端末等といった携帯通信端末であってもよい。ユーザは、例えば、二次電池10を実際に使用する使用者であってもよいし、二次電池10を販売する販売店であってもよい。
【0049】
[診断システムによる診断]
以下、診断システム100によって行われる劣化状態の診断について、図4図5A、及び図5Bを参照しながら説明する。図4図5A、及び図5Bは、診断システム100による劣化状態診断のフローチャートである。図4及び図5Aのフローチャートは、主に充電装置20が実行する処理を示している。図5Bのフローチャートには、充電装置20が実行する処理に加え、サーバ30又はユーザ端末40が実行する処理も含まれる。
【0050】
図4を参照して、二次電池10が充電装置20に取り付けられ、充電装置20が二次電池10に対して充電を開始するに際し、制御装置22は、まず、二次電池10から使用履歴情報を取得する(ステップS1)。より具体的には、制御装置22は、BMSが記憶している使用履歴情報を二次電池10から受信して、使用履歴情報を読み込む。
【0051】
二次電池10の充放電が長期間行われていない場合、使用履歴情報には、二次電池10が充放電禁止状態(一次ロック状態)であることを示す情報が含まれている。充電装置20の制御装置22は、使用履歴情報より、二次電池10が充放電禁止状態であるか否かを判定する(ステップS2)。二次電池10が充放電禁止状態であることを使用履歴情報が示す場合(ステップS2でYES)、制御装置22は、劣化状態診断モードを開始する。一方、使用履歴情報より二次電池10が充放電禁止状態ではないと判定される場合(ステップS2でNO)、制御装置22は、充放電回路21を制御して通常の充電動作を開始する。
【0052】
通常の充電動作が開始される場合、制御装置22は、ランプ24を点灯させる。劣化状態診断モードが開始される場合、制御装置22は、ランプ25を点灯させる。制御装置22は、ランプ25を点滅させてもよい。これにより、二次電池10が充放電禁止状態(一次ロック状態)であり、劣化状態診断が行われていることを周囲に通知することができる。
【0053】
図5Aを参照し、劣化状態診断モードにおいて、制御装置22は、まず、二次電池10に充放電禁止状態を一時的に解除させる(ステップS3)。制御装置22は、例えば、劣化状態診断モードを開始することを示す情報を二次電池10に送信する。これにより、二次電池10の充放電禁止状態が一旦解除され、二次電池10の充放電が可能となる。
【0054】
制御装置22は、一時的に充放電禁止状態が解除された二次電池10の充電又は放電を充放電回路21に行わせることにより、二次電池10の内部状態を示す内部状態情報を取得する(ステップS4)。制御装置22は、例えば、二次電池10の充電状態(State Of Charge,SOC(%))に応じて、二次電池10に対して充電及び放電のどちらを行うか決定する。制御装置22は、二次電池10のSOCを取得し、SOCが所定値A(%)以上であるか否かを判定する(ステップS41)。SOCは、満充電時における二次電池10の電流積算容量を100として、二次電池10中に残っている電流積算容量の割合を示すものである。
【0055】
SOCが所定値A以上である場合(ステップS41でYES)、制御装置22は、充放電回路21を制御して二次電池10の放電を行わせる。制御装置22は、例えば、二次電池10の端子電圧を示す端子電圧情報を取得するため、充放電回路21に二次電池10の間欠放電を行わせる。制御装置22は、まず、二次電池10の正極端子151と負極端子152との間の電圧(端子電圧)を測定して記憶する(ステップS42)。
【0056】
続いて、制御装置22は、二次電池10に対して所定電流の放電を所定時間行わせる(ステップS43)。制御装置22は、例えば、二次電池10に対して1Cの放電を1分間行わせる。次に、制御装置22は、二次電池10の放電を停止し、所定時間待機する(ステップS44)。制御装置22は、例えば、二次電池10の放電を停止した状態で30分間待機する。
【0057】
制御装置22は、所定時間が経過した後、二次電池10のSOCを取得し、SOCが所定の下限値B(%)に到達したか否かを判定する(ステップS45)。SOCが下限値Bよりも大きい場合(ステップS45でNO)、制御装置22は、ステップS42~S45の処理を繰り返す。SOCが下限値Bに到達している場合(ステップS45でYES)、制御装置22は、記憶した複数の端子電圧の値を含む端子電圧情報を通信装置23に渡し、通信装置23が端子電圧情報をサーバ30に送信する(ステップS5)。端子電圧情報は、二次電池10の内部状態情報に含まれる。端子電圧情報は、二次電池10の開回路電圧(OCV)曲線情報を生成するために用いられる。OCV曲線情報とは、二次電池10の電流積算容量と二次電池10の開回路電圧との関係を示す情報である。通信装置23は、内部状態情報をサーバ30に直接的に送信してもよいし、他の装置を介して間接的に送信してもよい。
【0058】
ここで、間欠放電によって得られた端子電圧情報に基づいて生成される開回路電圧曲線(OCV曲線)について、図6及び図7を参照しながら説明する。図6はステップS42~S45によって得られる端子電圧情報を示す図であり、図7はOCV曲線の例である。OCV曲線とは、横軸に電流積算容量をとり、縦軸に開回路電圧(OCV)をとった曲線である。横軸は、二次電池10の電流積算容量値(mAh)自体であってもよいし、満充電時の電流積算容量値に対する残容量値の割合、すなわちSOC(%)であってもよい。OCVは、実質的に無負荷状態における二次電池10の端子電圧に相当する。ステップS43において例えば1分間、1Cで二次電池10を放電させると、図6に示すように端子電圧が降下する。その後、ステップS44において二次電池10の放電が停止され、二次電池10が例えば30分間放置されることで、ステップS43の放電期間中に各電池セル11内を移動したリチウムイオンによる電極電位の変動が収束し、端子電圧が安定する。ステップS42では、安定した後の端子電圧が測定され、記憶される。
【0059】
例えば、ステップS42~S45がN回繰り返されたと仮定して、k回目(k≦N)のステップS42の時点におけるSOCは、k-1回目のステップS43で例えば1分間・1Cの放電が行われたことにより、k-1回目のステップS42の時点におけるSOCと比較して微減する。k回目のステップS42で測定された端子電圧も、SOCの微減に伴い、k-1回目のステップS42で測定された端子電圧と比較して降下する。ステップS42~S45を繰り返しながら取得した端子電圧と、放電期間中の電流積算容量とに基づき、図7に示すようなOCV曲線を生成することができる。
【0060】
図5Aに戻り、SOCが所定値A未満である場合(ステップS41でNO)、制御装置22は、充放電回路21を制御して二次電池10の充電を行わせる。制御装置22は、例えば、二次電池10の端子電圧情報を取得するため、充放電回路21に二次電池10の間欠充電を行わせる。制御装置22は、まず、二次電池10の端子電圧を測定して記憶する(ステップS46)。
【0061】
続いて、制御装置22は、二次電池10に対して所定電流の充電を所定時間行う(ステップS47)。制御装置22は、例えば、二次電池10に対して1Cの充電を1分間行う。次に、制御装置22は、二次電池10に対する充電を停止し、所定時間待機する(ステップS48)。制御装置22は、例えば、二次電池10の充電を停止した状態で30分間待機する。
【0062】
制御装置22は、所定時間が経過した後、二次電池10のSOCを取得し、SOCが所定の上限値C(%)に到達したか否かを判定する(ステップS49)。SOCが上限値C未満である場合(ステップS49でNO)、制御装置22は、ステップS46~S49の処理を繰り返す。SOCが上限値Cに到達している場合(ステップS49でYES)、制御装置22は、記憶した複数の端子電圧の値を含む端子電圧情報を通信装置23に渡し、通信装置23が端子電圧情報をサーバ30に送信する(ステップS5)。
【0063】
ここで、間欠充電によって得られた端子電圧情報に基づいて生成されるOCV曲線情報について、図8及び図9を参照しながら説明する。図8はステップS46~S49によって得られる端子電圧情報を示す図であり、図9はOCV曲線の例である。ステップS47において例えば1分間、1Cで二次電池10を充電すると、図8に示すように端子電圧が上昇する。その後、ステップS48において二次電池10の充電が停止され、二次電池10が例えば30分間放置されることで、ステップS47の充電期間中に各電池セル11内を移動したリチウムイオンによる電極電位の変動が収束し、端子電圧が安定する。ステップS46では、安定した後の端子電圧が測定され、記憶される。
【0064】
例えば、ステップS46~S49がN回繰り返されたと仮定して、k回目(k≦N)のステップS46の時点におけるSOCは、k-1回目のステップS47で例えば1分間・1Cの充電が行われたことにより、k-1回目のステップS46の時点におけるSOCと比較して微増する。k回目のステップS46で測定された端子電圧も、SOCの微増に伴い、k-1回目のステップS46で測定された端子電圧と比較して上昇する。ステップS46~S49を繰り返しながら取得した端子電圧と、充電期間中の電流積算容量とに基づき、図9に示すようなOCV曲線を生成することができる。
【0065】
図5Bを参照して、サーバ30は、充電装置20が送信した二次電池10の内部状態情報を受信する(ステップS6)。サーバ30は、内部状態情報に基づいて二次電池10の劣化状態を診断し、二次電池10の劣化状態を示す劣化状態情報を生成する(ステップS7)。
【0066】
内部状態情報には、充電装置20によって収集された二次電池10の端子電圧情報や、間欠放電中又は間欠充電中における二次電池10の電流情報等が含まれている。ステップS7において、サーバ30は、内部状態情報に基づき、二次電池10の電流積算容量とOCVとの関係を示すOCV曲線情報を生成する。ただし、OCV曲線情報の生成は、充電装置20が行ってもよい。この場合、サーバ30は、OCV曲線情報を充電装置20から受信する。
【0067】
サーバ30は、OCV曲線情報に基づいて二次電池10の劣化状態を判定する。例えば、サーバ30は、二次電池10の劣化度に応じた複数の充放電曲線(充電曲線又は放電曲線)を示す充放電曲線情報を予め記憶している。サーバ30は、この充放電曲線情報を使用して二次電池10の劣化状態を決定することができる。図10は、劣化度に応じた放電曲線のモデル波形の例である。図11は、劣化度に応じた充電曲線のモデル波形の例である。間欠放電によって得られた端子電圧情報に基づいてOCV曲線情報が生成されている場合、サーバ30は、例えば、OCV曲線と図10に例示する各モデル波形とを比較し、OCV曲線に最も近いモデル波形を選択する。間欠充電によって得られた端子電圧情報に基づいてOCV曲線情報が生成されている場合、サーバ30は、例えば、OCV曲線と図11に例示する各モデル波形とを比較し、OCV曲線に最も近いモデル波形を選択する。サーバ30は、例えば、選択されたモデル波形の劣化度を二次電池10の劣化度として設定することができる。
【0068】
サーバ30は、OCV曲線情報の解析を行うことにより、二次電池10の劣化状態を決定することもできる。
【0069】
図12は、二次電池10の放電曲線を例示する図である。図13は、二次電池10の充電曲線を例示する図である。図12及び図13を参照して、二次電池10の充放電曲線の形状は、電池セル11の正極材料及び負極材料のそれぞれの充放電反応の酸化還元電位によって決定され、材料に特徴的な電圧の変化を示す。劣化が進行している二次電池10の場合、正極及び/又は負極の材料が変化することにより、充放電曲線は、変化した材料の特徴をもった曲線形状に変化する。例えば、グラファイト材料で構成された負極が劣化して電池容量が減少している場合、充放電曲線において、グラファイトのステージ構造変化に由来する特徴的な形状変化のピークが低SOC領域又は高SOC領域に現れる。グラファイトのステージ構造変化のような反応でなくても、充放電曲線は、負極の酸化還元反応の特徴に応じた電圧変化を示す。同様に、充放電曲線は、正極の酸化還元反応の特徴に応じた電圧変化を示す。
【0070】
図14は、二次電池10の内部状態の時間推移を示すモデル図である。図14に例示されるモデルにおいて、二次電池10の電池セル11の容量は、当初は正極要因で緩やかに低下しているが、負極要因が支配的になった辺りから大きく低下している。正極と負極との間の電位のずれが容量低下の主要因になった後、例えば、ガス発生によるセル膨れが生じ、二次電池10の劣化が観測される。
【0071】
図15は、二次電池10の電池セル11の容量が低下する、すなわち二次電池10が劣化する要因を示す図である。図15に示すように、二次電池10が通常の充放電サイクルで使用されている場合(通常使用)、容量低下の要因は、主に正極材料の劣化である。これに対して、二次電池10が長期間充放電されずに放置された場合(長期間放置)、容量低下の要因において、通常使用の場合と比べると負極材料の劣化が占める割合が増加したり、負極材料の劣化又は正極と負極との間の電位のずれが支配的になったりする。二次電池10がリチウムイオン二次電池である場合、負極材料の劣化は、リチウム析出等によって生じる可能性が高く、発火等のリスクを高める傾向がある。そのため、例えば、負極材料の劣化は、二次電池10の劣化状態を決定又は推定する材料になり得る。
【0072】
例えば電極材料の劣化等、二次電池10の劣化状態を決定又は推定するための情報は、上述したように二次電池10の充放電曲線に現れる。サーバ30は、図12又は図13に例示されるような充放電曲線を解析して得られた情報を二次電池10の劣化状態を示す情報として定量化し、予め記憶しておくことができる。サーバ30は、内部状態情報を用いて生成されたOCV曲線情報を詳細に解析することにより、二次電池10の劣化による正極材料及び負極材料の変化がOCV曲線の形状にどのように現れているかを知ることができる。サーバ30は、例えば、OCV曲線の解析結果の情報を予め記憶された情報と比較することにより、二次電池10の劣化状態を決定することができる。サーバ30は、OCV曲線の解析結果の情報及び予め記憶された情報に基づき、二次電池10の劣化度を決定することもできる。
【0073】
サーバ30は、例えば、OCV曲線を微分して傾きの検出を行うことにより、二次電池10の劣化状態を決定することもできる。例えば、図16及び図17において破線で示すように、二次電池10が劣化した場合、二次電池10の残容量が少ない領域において端子電圧の急降下又は急上昇が生じる。また、例えば、図16及び図17において一点鎖線で示すように、二次電池10が劣化した場合、OCV曲線において急激な傾きの変化が生じることがある。サーバ30は、OCV曲線のこのような傾きに基づき、二次電池10の劣化状態を判定することができる。
【0074】
図5Bを再度参照して、サーバ30は、ステップS7において生成された二次電池10の劣化状態情報を外部に送信する(ステップS8)。サーバ30は、例えば、充電装置20及びユーザ端末40に二次電池10の劣化状態情報を送信する。劣化状態情報には、二次電池10の劣化の程度を示す劣化度情報が含まれている。
【0075】
充電装置20では、通信装置23が劣化状態情報を受信する。制御装置22は、通信装置23が受信した劣化状態情報に基づき、二次電池10の充放電禁止状態を解除するか否かを判定する。制御装置22は、二次電池10が使用可能な程度の劣化状態であることを劣化状態情報が示すか否かを判定する(ステップS9)。
【0076】
二次電池10が使用可能な程度の劣化状態である場合(ステップS9でYES)、制御装置22は、二次電池10に充放電禁止状態(一次ロック状態)を継続的に解除させる(ステップS10)。例えば、二次電池10の劣化度が所定の劣化度D1以下であった場合、制御装置22は、二次電池10に充放電禁止状態を解除させる。あるいは、サーバ30が生成した劣化状態情報に二次電池10の使用可能であることを示す情報が含まれている場合、制御装置22は、この情報に従って二次電池10に充放電禁止状態を解除させる。
【0077】
制御装置22は、二次電池10に充放電禁止状態を解除する指令を送信する。二次電池10では、BMSが使用履歴情報を書き換えて充放電禁止状態を解除する。これにより、二次電池10が使用可能となる。制御装置22は、充放電回路21を制御して二次電池10に対する充電(通常の充電動作)を開始することができる。この場合、制御装置22は、劣化状態診断中であることを示すランプ25を消灯させるとともに、充電中であることを示すランプ24を点灯させる。これにより、二次電池10の充放電禁止状態が継続的に解除されたことが周囲に通知される。
【0078】
二次電池10が使用可能な程度の劣化状態ではなかった場合(ステップS9でNO)、制御装置22は、二次電池10に充放電禁止状態を解除させない。二次電池10が使用できない程度まで劣化していることを劣化状態情報が示す場合(ステップS9でNO)、制御装置22は、例えば、永久的に充放電禁止状態であることを示す永久充放電禁止情報を二次電池10に記憶させる(ステップS11)。例えば、制御装置22は、二次電池10に対して永久充放電禁止状態とする指令を送信し、BMSに使用履歴情報を書き換えさせて二次電池10を永久充放電禁止状態(永久ロック状態)としてもよい。制御装置22は、例えば、点滅させていたランプ25を常時点灯に切り替えることで、二次電池10が使用不可であることを周囲に通知する。
【0079】
ユーザ端末40は、二次電池10の劣化状態情報を受信した場合、劣化状態情報を自身のディスプレイに表示する(ステップS12)。ユーザ端末40が表示する劣化状態情報には、二次電池10の劣化度情報が含まれる。ユーザ端末40には、劣化度情報に加え、二次電池10の使用可否情報等が表示されてもよい。ユーザ端末40に表示される情報は、特に限定されるものではない。例えば、二次電池10が永久充放電禁止状態となる場合は、ユーザ端末40は、その旨を示す情報を表示することもできる。
【0080】
[効果]
本実施形態において、充電装置20は、従来の充電装置にも設けられている充放電回路21を流用して二次電池10の内部状態情報を取得するだけであり、二次電池10の劣化状態情報の生成は、サーバ30で実施される。すなわち、二次電池10の劣化状態の診断という比較的高度な処理をサーバ30に負担させ、充電装置20は比較的簡易な処理しか行わない。そのため、充電装置20のコストは実質的に増大しない。
【0081】
本実施形態において、二次電池10の劣化状態の診断(劣化状態診断モード)は、長期間未使用であった二次電池10をユーザが充電装置20に取り付けるだけで、自動的に開始される。二次電池10が使用可能な程度の劣化状態であった場合、充電装置20は、二次電池10の充放電禁止状態を自動的に解除する。そのため、ユーザは、二次電池10を製造元又は販売店等に持ち込むことなく、二次電池が再度使用可能か否かを簡易に判断することができる。
【0082】
本実施形態において、二次電池10が使用可能な程度の劣化状態であった場合、二次電池10の充放電禁止状態は充電装置20によって解除され、二次電池10が使用可能となる。そのため、実際には使用可能であるにもかかわらず、長期間の放置等によって充放電禁止状態となった二次電池10が廃棄されるのを防止することができる。よって、二次電池10の廃棄量を減少させ、環境負荷を軽減することができる。
【0083】
本実施形態において、充電装置20は、診断の結果、二次電池10が使用不能であると判定される場合、二次電池10を永久充放電禁止状態(永久ロック状態)に変更することが好ましい。これにより、例えばユーザが二次電池10を充電装置20で充電又は放電しようとしたとき、充電装置20は、二次電池10の内部状態の測定及び劣化状態の診断を行うまでもなく、二次電池10が永久充放電禁止状態であることを認識することができる。よって、二次電池10の劣化状態について不要な診断が行われるのを回避することができる。
【0084】
充電装置20は、例えばステップS2においてBMSの使用履歴情報を読み込んだとき、二次電池10が永久充放電禁止状態であることを示す情報が使用履歴情報に含まれているか否かを判定することができる。二次電池10が永久充放電禁止状態であった場合、充電装置20は、劣化状態診断モードにも通常の充電動作にも移行せず、処理を終了することができる。充電装置20は、例えば、ランプ25を常時点灯させることにより、二次電池10が永久充放電禁止状態であることをユーザに通知してもよい。充電装置20は、通信装置23によってユーザ端末40に永久充放電禁止状態であることを示す情報を送信することもできる。この場合、ユーザ端末40は、例えば、二次電池10が永久充放電禁止状態である旨のメッセージをディスプレイに表示することができる。
【0085】
本実施形態において、充電装置20は、二次電池10の端子電圧情報を取得するため、間欠放電又は間欠充電を実施する。この場合、端子電圧情報を取得するために、充電電流を可変に制御する回路や、放電負荷を可変に制御する回路等を充電装置20に設ける必要がない。よって、充電装置20のコストをより低減することができる。また、間欠放電又は間欠充電の場合、放電又は充電停止期間中の二次電池10の電圧挙動を観察することができる。内部状態情報に二次電池10の電圧挙動情報を含めれば、例えば、サーバ30において、電圧挙動情報を用い、二次電池10の抵抗に関する劣化状態の詳細な解析を行うこともできる。
【0086】
本実施形態において、充電装置20は、SOCが所定の下限値Bに到達するまで、あるいはSOCが所定の上限値Cに到達するまで端子電圧情報を測定及び記憶し、OCV曲線の生成に必要な全ての端子電圧情報を一度でサーバ30に送信している。しかしながら、充電装置20は、OCV曲線の生成に必要な端子電圧情報を複数回に分けて送信することもできる。充電装置20は、測定した端子電圧情報をリアルタイムで送信してもよい。
【0087】
本実施形態において、制御装置22は、二次電池10の劣化度が所定の劣化度D2以上である場合(D2<D1)、二次電池10に、急速充放電禁止状態であることを示す急速充放電禁止情報を記憶させることができる。制御装置22は、例えばステップS10において、二次電池10に対して指令を送信し、充放電禁止状態を解除するように使用履歴情報を書き換えさせるとともに、急速充放電禁止状態であることを使用履歴情報に書き込ませることができる。この場合、例えばユーザが二次電池10を充電装置20で充電又は放電しようとしたとき、制御装置22は、二次電池10の急速充放電を行わないように充放電回路21を制御することができる。よって、二次電池10の劣化の進行を遅らせることができる。
【0088】
充電装置20は、使用履歴情報を読み込んで二次電池10が急速充放電禁止状態であることを認識したとき、その旨を示す情報をユーザ端末40に送信してもよい。この場合、ユーザ端末40は、例えば、二次電池10が急速充放電禁止状態である旨のメッセージをディスプレイに表示することができる。
【0089】
本実施形態において、ユーザ端末40のディスプレイには、二次電池10の劣化度情報が表示される。この場合、二次電池10の劣化度をユーザに認識させることができる。また、二次電池10の劣化度をユーザに通知することで、例えば、二次電池10の劣化度が高く二次電池10が使用不能となった場合、二次電池10の故障であるとユーザが誤解するのを防止することができる。よって、二次電池10及び充電装置20に対するユーザの信頼性を向上させることができる。
【0090】
二次電池10の劣化度情報を含む劣化状態情報をユーザ端末40に表示させる場合、充電装置20には、当該情報を表示するための表示装置を設ける必要がない。そのため、充電装置20のコストを低減することができる。
【0091】
<第2実施形態>
図18は、第2実施形態に係る診断システム100Aの概略構成を示す模式図である。本実施形態は、充電装置20Aが表示装置26を備えている点で第1実施形態と異なる。
【0092】
診断システム100Aは、第1実施形態に係る診断システム100と同様の処理を実行する。ただし、診断システム100Aでは、充電装置20Aがサーバ30から二次電池10の劣化状態情報を受信したとき、充電装置20Aが劣化状態情報を自身の表示装置26に表示する。表示装置26に表示される劣化状態情報には、例えば、二次電池10の劣化度情報が含まれる。表示装置26には、劣化度情報に加え、二次電池10の使用可否情報等が表示されてもよい。表示装置26に表示される情報は、特に限定されるものではない。例えば、二次電池10が永久充放電禁止状態となる場合、又は急速充電禁止状態となる場合、表示装置26は、その旨を示す情報を表示することもできる。
【0093】
二次電池10の劣化状態情報は、充電装置20Aに加え、ユーザ端末40(図1)に表示されてもよい。
【0094】
本実施形態に係る診断システム100Aの構成であっても、第1実施形態に係る診断システム100と同等の効果を奏することができる。
【0095】
<第3実施形態>
図19及び図20は、第3実施形態に係る診断システム100Bの概略構成を示す模式図である。本実施形態は、充電装置20Bが電子機器である点で上記実施形態と異なる。
【0096】
充電装置20Bは、二次電池10が搭載され、二次電池10を電源として使用する電子機器である。本実施形態では、充電装置20Bがデジタルカメラである例について説明する。しかしながら、充電装置20Bは、必ずしもデジタルカメラである必要はない。
【0097】
図19及び図20では省略されているが、デジタルカメラである充電装置20Bには、第1実施形態において説明した充放電回路21と同様に二次電池10の充電を行うことができる回路が内蔵されている。充電装置20Bには、例えばACアダプタケーブル27が接続され、充電装置20Bの内部で二次電池10が充電される。
【0098】
図19及び図20では省略されているが、充電装置20Bには、例えば、充放電制御IC及び無線LANモジュールが内蔵されている。この充放電制御IC及び無線LANモジュールを、それぞれ、第1実施形態において説明した制御装置22及び通信装置23として流用することができる。
【0099】
図20に示すように、充電装置20Bは、デジタルカメラであるため、液晶モニタを備えている。このディスプレイを、第2実施形態において説明した表示装置26として流用することができる。第2実施形態と同様、充電装置20Bがサーバ30から二次電池10の劣化状態情報を受信したとき、表示装置26には劣化状態情報が表示される。二次電池10の劣化状態情報は、充電装置20Bに加え、ユーザ端末40(図1)に表示されてもよい。
【0100】
本実施形態に係る診断システム100Bは、例えば長期間放置された充電装置20B(デジタルカメラ)をユーザが久しぶりに使用しようとして、二次電池10の充電又は放電が行われる際、上記実施形態に係る診断システム100,100Aと同様の処理を実行する。充電装置20Bは、二次電池10に対して充電又は放電を開始するに際し、二次電池10から使用履歴情報を取得して、劣化状態診断モード、又は通常の充電若しくは放電動作を実施する。診断システム100Bの構成であっても、上記実施形態に係る診断システム100,100Aと同等の効果を奏することができる。さらに、本実施形態のように充電装置20Bが電子機器である場合、電子機器に元々内蔵されていた充放電制御IC及び無線LANモジュールを、二次電池10の内部状態情報を取得する制御装置22、及び内部状態情報を送信する通信装置23として使用することができる。電子機器がモニタを備える場合は、このモニタを、二次電池10の劣化状態を表示する表示装置26として使用することが可能である。この場合、二次電池10を使用する電子機器としての充電装置20Bとは別に、通信装置や表示装置を備えた充電装置を準備する必要がない。よって、コストの増大を抑制することができる。
【0101】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0102】
上記実施形態では、端子電圧情報を用いて生成されるOCV曲線に基づき、二次電池10の劣化状態の診断が行われている。しかしながら、劣化状態の診断には、必ずしもOCV曲線が使用される必要はない。例えば、充電装置20,20A,20Bでは、二次電池10に負荷をかけた状態で充電又は放電を行って端子電圧情報を取得することができる。ただし、二次電池10の充電又は放電は、できるだけ低レートで行われることが好ましい。サーバ30は、充電装置20,20A,20B又はサーバ30により端子電圧情報に基づいて生成された充放電曲線を劣化状態の診断に使用することができる。このような充放電曲線を用いた劣化状態の診断は、OCV曲線を用いた劣化状態の診断と同様に行うことができる。
【0103】
充電装置20,20A,20Bが取得する二次電池10の内部状態情報には、端子電圧情報が含まれていなくてもよい。例えば、充電装置20,20A,20Bは、内部状態情報として、二次電池10の内部抵抗を示す内部抵抗情報を取得することもできる。充電装置20,20A,20Bは、例えば、二次電池10に対して周波数が異なる交流電流(例えば、0.1Hz~5.0kHz)を印加し、周波数ごとに二次電池10の交流電圧及び交流電流を測定し、この交流電圧及び交流電流に基づいて周波数ごとのインピーダンスを演算する。充電装置20,20A,20Bは、二次電池10のインピーダンス情報を内部抵抗情報として、サーバ30に送信することができる。ただし、インピーダンスの演算は、サーバ30によって実行されてもよい。
【0104】
サーバ30は、二次電池10のインピーダンス情報に基づいて、二次電池10の寿命を算出することが可能である。サーバ30は、算出された寿命の情報を二次電池10の劣化状態情報に含めることができる。
【符号の説明】
【0105】
100,100A,100B:診断システム
10:二次電池
20,20A,20B:充電装置
21:充放電回路
22:制御装置
23:通信装置
26:表示装置
30:サーバ
40:ユーザ端末
N:ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20