(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】合成壁の設計方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20250701BHJP
【FI】
E02D5/20 101
E02D5/20 102
(21)【出願番号】P 2024008865
(22)【出願日】2024-01-24
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 嘉生
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 翔
(72)【発明者】
【氏名】古垣内 靖
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-212944(JP,A)
【文献】特開2021-105261(JP,A)
【文献】特開2018-062744(JP,A)
【文献】特開2005-076339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁の設計方法であって、
前記山留め応力材及び前記鉄筋コンクリート壁のそれぞれを表す梁要素を、上下方向に間隔をおいて複数配置される前記シヤコネクタのバネ要素によって連結させた分離モデルを作成するステップと、
前記分離モデルに荷重を作用させて計算を行うステップと、
前記計算の結果に基づいて前記シヤコネクタの応力が許容範囲内に収まっているかをチェックするステップとを備え
、
前記シヤコネクタは頭付きスタッド又は異形棒鋼スタッドであって、
前記バネ要素には、引張バネ及びせん断バネが含まれており、
前記引張バネ及びせん断バネのモデル化は、前記鉄筋コンクリート壁のコンクリートの打設方向に合わせて製作された供試体を使った実験結果に基づいて作成された引張剛性及びせん断剛性の評価式を使って行われることを特徴とする合成壁の設計方法。
【請求項2】
前記山留め応力材は形鋼であ
ることを特徴とする請求項1に記載の合成壁の設計方法。
【請求項3】
前記計算の結果に基づいて、前記シヤコネクタの配置を決めることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成壁の設計方法。
【請求項4】
前記評価
式には、
前記実験結果に基づく補正係数
が組み込まれていることを特徴とする請求項
1又は2に記載の合成壁の設計方法。
【請求項5】
前記シヤコネクタの先端は、前記鉄筋コンクリート壁に配置された鉄筋より前記山留め応力材側に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の合成壁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、山留め壁の芯材となるH形鋼などの山留め応力材と、鉄筋コンクリート壁(地下外壁)とを、頭付きスタッドで接合して合成壁として利用することが行われている。
【0003】
このような合成壁の設計は、日本建築学会の「各種合成構造設計指針・同解説」(非特許文献1、以下、「合成指針」という。)に基づいて行われることが一般的である。この合成指針では、鉄筋コンクリート壁と山留め応力材とが一体になった完全合成壁に必要となるシヤコネクタ(頭付きスタッド)の必要本数の算定を行っている。
【0004】
詳細には、合成壁に用いる頭付きスタッドの必要本数を、鉄筋コンクリート壁と山留め応力材と頭付きスタッドの終局強度から決定し、原則として均等配置にしている。要するに、鉄筋コンクリート壁と山留め応力材の部材寸法が決定すると、頭付きスタッドの必要本数も同時に決定することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「各種合成構造設計指針・同解説2023」、一般社団法人日本建築学会、2023年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、合成壁において深度が深くなり側圧が大きくなる場合、鉄筋コンクリート壁及び山留め応力材の必要部材寸法も大きくなるため、合成指針に準拠した設計手法では、シヤコネクタの必要本数が過剰となる可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁を、合理的に設計することが可能になる合成壁の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の合成壁の設計方法は、山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁の設計方法であって、前記山留め応力材及び前記鉄筋コンクリート壁のそれぞれを表す梁要素を、上下方向に間隔をおいて複数配置される前記シヤコネクタのバネ要素によって連結させた分離モデルを作成するステップと、前記分離モデルに荷重を作用させて計算を行うステップと、前記計算の結果に基づいて前記シヤコネクタの応力が許容範囲内に収まっているかをチェックするステップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、山留め応力材は形鋼であるとともに、前記シヤコネクタは頭付きスタッド又は異形棒鋼スタッドである構成とすることができる。また、前記バネ要素には、引張バネ及びせん断バネが含まれている構成とすることができる。
【0011】
さらに、前記シヤコネクタの耐力及び剛性の評価を、前記鉄筋コンクリート壁のコンクリートの打設方向に合わせて製作された供試体を使った実験結果に基づいて行うステップを備え、前記評価を考慮したうえで前記シヤコネクタの配置を決めることが好ましい。この前記評価は、前記シヤコネクタの耐力又は剛性の算定式に乗じる補正係数とすることができる。
【0012】
一方、前記シヤコネクタの先端は、前記鉄筋コンクリート壁に配置された鉄筋より前記山留め応力材側に位置する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明の合成壁の設計方法では、まず山留め応力材及び鉄筋コンクリート壁のそれぞれを表す梁要素を、上下方向に間隔をおいて複数配置されるシヤコネクタのバネ要素によって連結させた分離モデルを作成する。そして、分離モデルに荷重を作用させて計算した計算結果に基づいて、シヤコネクタの配置の可否をチェックする。
【0014】
このため、山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁について、シヤコネクタの必要本数や配置位置などを合理的に設計することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態の合成壁の設計方法を説明するフローチャートである。
【
図2】本実施の形態の合成壁の設計方法によって設計される合成壁の構成を示した説明図である。
【
図4】合成壁の分離モデルを例示した説明図である。
【
図5】コンクリートの打設方向の違いを説明する図であって、(a)は合成指針が想定する打設方向を示した説明図、(b)は実際の合成壁の打設方向を示した説明図である。
【
図6】分離モデルによる計算結果から決定された頭付きスタッドの配置を例示した説明図である。
【
図7】上方が開放される合成壁の頭付きスタッドの配置を例示した説明図である。
【
図8】頭付きスタッドと鉄筋の位置関係の一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の合成壁の設計方法を説明するフローチャートである。また、
図2は、本実施の形態の合成壁の設計方法によって設計される合成壁の構成を示した説明図である。
【0017】
本実施の形態の合成壁の設計方法によって設計される合成壁は、
図2に示すように、山留め壁1と鉄筋コンクリート壁である地下外壁2とが一体化される合成壁である。地下外壁2を山留め壁1と一体化させることによって、鉄筋コンクリート壁の壁厚の縮小が可能になり、鉄筋量及びコンクリート量を削減することができる。すなわち、コストの削減と工期の短縮が可能になる。
【0018】
山留め壁1は、地盤Gを掘削する際に掘削面を保護して崩壊などを防ぐために設けられる。例えば地盤Gにセメント系固化材などを注入しながら撹拌することで造成されるソイルセメントと、ソイルセメントの中に間隔をおいて配置される山留め応力材11とによって構成されるソイルセメント壁や、地盤Gに山留め応力材11を間隔をおいて挿入しておくことで構築される親杭横矢板壁などが、山留め壁1に該当する。
【0019】
図2に示すように、山留め壁1の幅方向に間隔をおいて配置される山留め応力材11には、H形鋼、I形鋼、溝形鋼などの形鋼が使用される。山留め応力材11は、地下外壁2に対向させるフランジ面111を備えており、このフランジ面111にシヤコネクタが取り付けられる。
【0020】
一方、地下外壁2は、水平方向及び鉛直方向に向けて配筋される鉄筋22と、山留め壁1の屋内側に打設されるコンクリート部21とによって構成されるRC壁である。ここで
図2には、地下外壁2の下端側にのみ鉄筋コンクリート製の床スラブ4が設けられた構成を図示しているが、
図6に示すように地下外壁2の上下階に床スラブ4が設けられることもあるし、
図7に示すように地下外壁2の底部側にのみ床スラブ4が設けられることもある。
【0021】
シヤコネクタは、合成壁において、山留め応力材11と地下外壁2とを接続し、接合面のずれ変形と引張力に抵抗する部材である。シヤコネクタには、
図3,
図4に示すような頭付きスタッド3や、異形鉄筋などによって製作される異形棒鋼スタッドなどが使用できる。
【0022】
頭付きスタッド3は、フランジ面111に対して直交する方向に向けて、溶接などによって山留め応力材11に取り付けられる。フランジ面111に接合された頭付きスタッド3は、軸部32と、拡幅された頭部31とを備えている。
図3では、頭付きスタッド3の先端となる頭部31が、地下外壁2の鉄筋22に届いた状態(配筋内に頭部31が配置された状態)を示している。なお、
図8を参照しながら後述するように、頭付きスタッド3Aの頭部31を地下外壁2の鉄筋22に届かせない状態(無筋のコンクリート部21に頭部31が配置された状態)にすることもできる。
【0023】
次に、本実施の形態の合成壁の設計方法の各ステップについて、
図1を参照しながら説明する。
まず、ステップS1では、仮設設計時に設定された山留め応力材11の部材断面等を取り込むとともに、頭付きスタッド3や地下外壁2などの設計を行う際に考慮する各部材の部材断面等を設定する。ここで、山留め壁1においては、山留め応力材11以外のソイルセメント部などは、構造部材として考慮しない。
【0024】
山留め応力材11については、H形鋼などの断面形状、配置間隔、ヤング係数などの材料定数などを設定する。また、頭付きスタッド3については、軸部32の断面積、長さ、ヤング係数などの材料定数などを設定する。さらに、頭付きスタッド3については、配置本数、配置位置(配置間隔)などを設定する。そして、地下外壁2については、鉄筋コンクリート壁としての断面形状、壁の配筋、ヤング係数などの材料定数などを設定する。
【0025】
続くステップS2では、分離モデルの作成を行う。
図4は、合成壁の構成を分離モデルに置き換える方法を説明する図である。まず、山留め応力材11は梁要素M1としてモデル化し、地下外壁2も梁要素M2としてモデル化する。
【0026】
山留め応力材11をモデル化した梁要素M1には、ステップS1で設定した山留め応力材11の部材断面等のデータに基づいて、断面性能を設定する。また、地下外壁2をモデル化した梁要素M2についても、ステップS1で設定した地下外壁2の部材断面等のデータに基づいて、断面性能を設定する。
【0027】
一方、頭付きスタッド3は、ステップS1で設定した上下方向に間隔をおいて複数配置されるバネ要素M3としてモデル化される。各バネ要素M3は、引張バネM31とせん断バネM32とによって構成される。
【0028】
本実施の形態の合成壁の設計方法では、分離モデルにおける引張バネM31及びせん断バネM32の設定を行うために、要素実験によって頭付きスタッド3の耐力及び剛性の評価を行った。
【0029】
ここで、合成指針(非特許文献1)には、頭付きスタッドのせん断耐力と引張耐力を求める算定式が記載されている。この算定式は、合成梁に適用するものであるため、
図5(a)に示すように、H形鋼a1に鉛直に接合された頭付きスタッドa3の頭部に対して、軸方向(矢印参照)にコンクリートa2を打設する状況を想定している。
【0030】
これに対して合成壁は、実際の施工手順を考えれば、
図5(b)に示すように、コンクリートの打設方向は、頭付きスタッド3の軸と直交方向(矢印参照)になる。既往の研究では、コンクリートの打設方向を
図5(b)のようにした場合、せん断耐力及び引張耐力が低下するという報告があるが、そのような実験例は少なく、データに乏しいのが現状である。
【0031】
そこで、シヤコネクタとして用いられる頭付きスタッド3の要素実験を行い、分離モデルの構築及びシヤコネクタの設計に必要となる頭付きスタッド3の剛性及び耐力の評価を行うこととした。
【0032】
要素実験は、引張実験とせん断試験を行った。実験結果より得られた頭付きスタッド3のせん断耐力式を以下に示す。
<せん断耐力式>
scqs=βS0.5sca√(FcEc)
ここで、scqsは補正せん断耐力、βSは実験結果に基づく補正係数となる低減率、scaは頭付きスタッド3の軸部32の断面積、Fcはコンクリートの設計基準強度、Ecはコンクリートのヤング係数である。
【0033】
上式において、低減率βSのない算定式は、合成指針の終局せん断耐力を示している。要するに、合成指針の終局せん断耐力の算定式に対してコンクリートの打設方向による低減率βSを設定することで、合成壁の頭付きスタッド3のせん断耐力として評価した。今回の実験結果では、コンクリートの打設方向による低減率βSは、0.9となった。
【0034】
一方、実験結果より得られた頭付きスタッド3の許容引張力式を以下に示す。
<許容引張力式>
scpa=βTmin(scpa1,scpa2)
scpa1=φ1・scσpa・sca
scpa2=φ2・cσt・Ac
ここで、scpaは補正許容引張力、βTは実験結果に基づく補正係数となる低減率、scpa1は頭付きスタッド3の軸部32の許容引張力、scpa2は頭付きスタッド3を定着させたコンクリートのコーン状破壊による許容引張力、φ1,φ2低減係数、scσpaは軸部32の引張強度、scaは軸部32の断面積、cσtはコーン状破壊に対するコンクリートの引張強度、Acはコンクリートのコーン状破壊面の有効水平投影面積である。
【0035】
上式において、低減率βTのない算定式は、合成指針の許容引張力を示している。要するに、合成指針の許容引張力の算定式に対してコンクリートの打設方向による低減率βTを設定することで、合成壁の頭付きスタッド3の補正許容引張力として評価した。今回の実験結果では、コンクリートの打設方向による低減率βTは、0.7となった。
【0036】
せん断耐力式及び許容引張力式のいずれの式においても、合成指針による算定式に対してコンクリートの打設方向による低減率βS,βTを設定することで、合成壁の頭付きスタッド3の耐力として評価することができた。
【0037】
続いて、分離モデルの構築に必要となる頭付きスタッド3の剛性評価式について説明する。まず、引張剛性評価式では、頭付きスタッド3の頭部31の直上のコンクリートの支圧変形と、頭付きスタッド3の軸部32の変形とを、直列ばねの関係として設定することで、引張剛性の評価を行った。
【0038】
<引張剛性評価式>
1/kT = 1/(1.5Fc(A0/Aφ16)) + 1/(Es・sca/scL)
ここで、kTは引張剛性、Fcはコンクリートの設計基準強度、A0は頭部31の支圧面積、Aφ16は径16mmの軸部32の支圧面積、Esは頭付きスタッド3のヤング係数、scLは頭付きスタッド3の長さである。この式の1.5は、今回の実験結果から得られた補正係数αTである。
【0039】
一方、せん断剛性は、公益社団法人土木学会の「複合構造標準示方書」に示される島らの式に、コンクリートの打設方向の影響を考慮した評価式を設定した。
<せん断剛性評価式>
Q = 0.8QS(1-e-αδ/φ)0.4
ここで、Qはせん断力、QSは頭付きスタッド3の終局せん断耐力、αはコンクリート強度による補正係数、δはせん断変位、φは軸部32の軸径である。この式の0.8は、今回の実験結果から得られた補正係数である。
【0040】
このようにしてコンクリートの打設方向を考慮した要素実験から求められた引張剛性kT及びせん断剛性評価式を使って、分離モデルのバネ要素M3の設定を行う。すなわち、引張バネM31は引張剛性kTに基づいて設定し、せん断バネM32はせん断剛性評価式に基づいて設定する。
【0041】
そして、
図4に示すように平行する2つの梁要素M1,M2間を、複数のバネ要素M3によって連結させた分離モデルを作成する。ここで、バネ要素M3は、ステップS1で設定した頭付きスタッド3の配置位置や数に合わせて、上下方向に間隔をおいて複数が配置される。
【0042】
作成された合成壁の分離モデルに対しては、ステップS3において、山留め壁1の背面側から受ける土圧や水圧などの作用荷重の設定を行う。そして、ステップS4において、分離モデルを使った合成壁の応力解析を行う。
【0043】
続くステップS5では、応力解析の計算結果を見て、山留め応力材11、地下外壁2及び頭付きスタッド3の各部材の応力が許容範囲内に収まっているかをチェックする断面設計を行う。この際、上述した補正せん断耐力scqs及び補正許容引張力scpaを使用することで、コンクリートの打設方向を考慮した断面検討を行うこととする。そして、一つでも許容範囲を超えている部材があれば、ステップS1に戻って変更が必要となる部材の各種設定の修正を行った後に、計算をやり直す。
【0044】
これに対して各部材の応力が許容範囲内に収まっていれば、ステップS1で設定した頭付きスタッド3(シヤコネクタ)の配置等で設計が完了する。このように高さ方向の各位置において、バネ要素M3に作用するせん断力及び引張力が可視化できるようになれば、経済的なシヤコネクタの配置が可能になる。
【0045】
図6は、地下外壁2の上下に床スラブ4が設けられる場合について、分離モデルによる計算結果から決定された頭付きスタッド3の配置を例示した説明図である。
図6の左図に示すように、従来の設計手法であれば、頭付きスタッド3は地下外壁2の高さ方向に均等に配置されることになっていた。
【0046】
これに対して
図6の右図に示した分離モデルによる設計手法であれば、床スラブ4に隣接する地下外壁2の下部及び上部には頭付きスタッド3を密に配置して、地下外壁2の高さ方向の中央周辺では、頭付きスタッド3の間隔を広げるという配置にできている。これは、分離モデルによる応力解析の結果、階高の中央部分では床スラブ4付近と比較して頭付きスタッド3に作用するせん断力が小さくなるという計算結果が得られたことで、床スラブ4付近に集中して頭付きスタッド3の配置を行うなど、構造細則を満たす範囲内で自由に合理的な設計を行った例である。
【0047】
一方
図7は、上方が開放される合成壁の頭付きスタッド3の配置を例示した説明図である。例えばドライエリアや免震ピット擁壁などの合成壁が想定できる。この場合においても、
図7の左図に示すように、従来の設計手法であれば、頭付きスタッド3は地下外壁2の高さ方向に均等に配置されることになっていた。
【0048】
これに対して
図7の右図に示した分離モデルによる設計手法であれば、床スラブ4に隣接する地下外壁2の下部及び床スラブ4との間に頭付きスタッド3を密に配置して、地下外壁2の高さ方向の中央から上部にかけては、頭付きスタッド3の間隔を広げるという配置にできている。要するに、頭付きスタッド3による接合が必要な箇所には配置を集中させ、それ以外の箇所では間隔を開けるといった合理的な設計ができている。
【0049】
次に、本実施の形態の合成壁の設計方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の合成壁の設計方法では、まず山留め応力材11及び地下外壁2のそれぞれを表す梁要素M1,M2を、上下方向に間隔をおいて複数配置される頭付きスタッド3のバネ要素M3によって連結させた分離モデルを作成する。そして、分離モデルに外力となる荷重を作用させて計算した計算結果に基づいて、頭付きスタッド3の配置の可否をチェックする。
【0050】
このため、山留め応力材11と地下外壁2とを頭付きスタッド3によって接合させることにより一体化される合成壁について、頭付きスタッド3の必要本数や配置位置などを合理的に設計することができるようになる。
【0051】
こうした頭付きスタッド3の合理的な配置によって、本数の削減や、高所での頭付きスタッド3を山留め応力材11に溶接する作業などの削減ができるようになって、コストの低減や現場での安全性向上及び生産性向上が期待できるようになる。
【0052】
また、合成指針の設計手法では、シヤコネクタに作用する引張力は考慮していないが、分離モデルを作成して応力解析を行う場合は、頭付きスタッド3の引張力も考慮することができるようになるため、品質の向上が図れるようになる。
【0053】
また、上述している合成指針は、鉄筋コンクリート部材に対する頭付きスタッド3の評価を行ったものであるため、
図3に示した配置と同様に、頭付きスタッド3の頭部31が鉄筋22に届いていることが前提となっている。
【0054】
一方、上述したコンクリートの打設方向を考慮した要素実験は、無筋のコンクリートの供試体を使って行っている。すなわち上述した頭付きスタッド3の耐力に関する評価式や剛性に関する評価式は、無筋コンクリートにおける評価である。
【0055】
このため、
図8に示した頭付きスタッド3Aと鉄筋22の位置関係の例示のように、頭付きスタッド3Aの頭部31の位置が鉄筋22に届いていなくてもよい。要するに、無筋のコンクリート部21にのみ頭付きスタッド3Aが埋設されていたとしても、上述した頭付きスタッド3Aのせん断耐力式及び許容引張力式、並びに引張剛性評価式及びせん断剛性評価式を適用することができる。
【0056】
このように頭付きスタッド3,3Aを鉄筋22に届かせることを前提としない設計方法によって合成壁の設計が行われていれば、従来のようにシヤコネクタが壁筋に届かない場合に追加で補強鉄筋を配置するといったことをしなくてもよくなる。また、頭付きスタッド3,3Aの長さを、壁筋に届かせるためだけに長くする必要もなくなる。要するに、鉄筋量や配筋手間を削減することができるようになる。
【0057】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0058】
例えば、前記実施の形態では、シヤコネクタとして主に頭付きスタッド3,3Aを例にして説明したが、これに限定されるものではなく、異形鉄筋など異形棒鋼スタッドがシヤコネクタになる場合であっても、本実施の形態の合成壁の設計方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 :山留め壁
11 :山留め応力材
2 :地下外壁(鉄筋コンクリート壁)
22 :鉄筋
3,3A:頭付きスタッド(シヤコネクタ)
31 :頭部(先端)
M1,M2:梁要素
M3 :バネ要素
M31 :引張バネ
M32 :せん断バネ
【要約】
【課題】山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁を、合理的に設計することが可能になる合成壁の設計方法を提供する。
【解決手段】山留め応力材と鉄筋コンクリート壁とをシヤコネクタによって接合させることにより一体化される合成壁の設計方法である。
そして、山留め応力材及び鉄筋コンクリート壁のそれぞれを表す梁要素を、上下方向に間隔をおいて複数配置されるシヤコネクタのバネ要素によって連結させた分離モデルを作成するステップS2と、分離モデルに荷重を作用させて計算を行うステップS3,S4と、計算結果に基づいてシヤコネクタなどの各部材の応力が許容範囲内に収まっているかをチェックするステップS5とを備えている。
【選択図】
図1