(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】電力変換装置、空気調和機
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20250702BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250702BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20250702BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20250702BHJP
H01F 27/02 20060101ALI20250702BHJP
F24F 1/20 20110101ALI20250702BHJP
【FI】
H01F37/00 G
H02M7/48 Z
H01F37/00 N
H01F37/00 C
H01F17/06 K
H01F17/06 A
H01F27/00 R
H01F27/02 N
F24F1/20
(21)【出願番号】P 2023170860
(22)【出願日】2023-09-29
【審査請求日】2024-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓未
(72)【発明者】
【氏名】小山 義次
(72)【発明者】
【氏名】秋田 幸男
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-010311(JP,A)
【文献】特許第6851554(JP,B1)
【文献】実開昭58-164212(JP,U)
【文献】実開昭62-051720(JP,U)
【文献】実開平05-023514(JP,U)
【文献】特表2008-530787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/20
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
H02M 7/42- 7/98
H03H 7/01
H03H 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョークコイルを含むノイズフィルタを備え、
前記チョークコイルは、
磁性体で形成された環状の環状部材と、
前記環状部材を収容する環状のケース部と、
前記ケース部の上から前記環状部材に対して電線が重なり合いの層を成すように巻き回される複数相の巻線と、
絶縁性を有し、前記ケース部の内周よりも内側の
第1の空間を前記巻線の1相分ごとの
第2の空間に仕切る第1の部材と、
絶縁性を有し、前記
第2の空間のそれぞれにおいて、前記巻線の一端からの1ターン目に相当する第1の巻回り部と前記巻線の他端からの1ターン目に相当する第2の巻回り部との間隔を所定基準に対して相対的に大きくなるように維持する第2の部材と、を含み、
前記間隔に相当する距離をdとし、前記巻線の電線の直径をφとし、前記ケース部の高さをhとしたときに、前記間隔は、以下の式を満足し、
【数1】
前記第1の部材は、前記第1の空間において、互いに異なる周方向の位置に配置され、径方向の中心部と前記ケース部の内周との間を径方向に沿って連結する複数の仕切板を含み、
前記第2の部材は、前記第2の空間ごとに、前記第1の部材における径方向の中心部から径方向の外側に突出することにより、前記第2の空間における径方向の全範囲のうちの中心部を起点とする一部の範囲のみを周方向に仕切る、
電力変換装置。
【請求項2】
前記
第2の空間のそれぞれにおいて、前記第1の巻回り部と前記ケース部との間には前記第1の巻回り部と異なる他の巻き回り部がある、又は前記第2の巻回り部と前記ケース部との間には、前記第2の巻回り部と異なる他の巻回り部がある、
請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記
第2の空間のそれぞれにおいて、前記第1の巻回り部と前記ケース部との間には前記第1の巻回り部と異なる他の巻き回り部があり、且つ前記第2の巻回り部と前記ケース部との間には、前記第2の巻回り部と異なる他の巻回り部がある、
請求項
2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第2の部材は、前記ケース部又は前記第1の部材と同じ材料で形成される、
請求項1
乃至3の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
20kHz以上のスイッチング周波数で駆動されるスイッチングデバイスを備える、
請求項1
乃至3の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記複数相ごとの前記巻線の断面積は、1.75mm
2以上である、
請求項1
乃至3の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
請求項1
乃至3の何れか一項に記載の電力変換装置を備える、
空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コモンモードノイズを抑制するためのコモンモードチョークコイルが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電流量が比較的大きい電力変換装置に採用されるコモンモードチョークコイルでは、例えば、断面積が比較的大きい電線が巻線に使用され、且つ、kHz(キロヘルツ)帯のインピーダンスを上げるためにターン数を比較的多くする場合がある。この場合、巻線の占積率が大きくなることで、巻線の1ターン分に相当する巻回り部ごとの線間容量が増大し、その結果、MHz(メガヘルツ)帯の高周波帯域でのインピーダンスが低下する可能性がある。また、線間容量の増加によって、共振周波数が低下し、100MHz以下の周波数帯に自己共振周波数が現れ、MHz帯の高周波帯域での共振によるインピーダンスの低下が生じる可能性がある。そのため、MHz帯の高周波帯域において、コモンモードノイズを適切に抑制することができない可能性がある。
【0005】
本開示は、コモンモードノイズをより適切に抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様では、
チョークコイルを含むノイズフィルタを備え、
前記チョークコイルは、
磁性体で形成された環状の環状部材と、
前記環状部材を収容する環状のケース部と、
前記ケース部の上から前記環状部材に対して電線が重なり合いの層を成すように巻き回される複数相の巻線と、
絶縁性を有し、前記ケース部の内周よりも内側の空間を前記巻線の1相分ごとの空間に仕切る第1の部材と、
絶縁性を有し、前記1相分の空間のそれぞれにおいて、前記巻線の一端からの1ターン目に相当する第1の巻回り部と前記巻線の他端からの1ターン目に相当する第2の巻回り部との間隔を所定基準に対して相対的に大きくなるように維持する第2の部材と、を含む、
電力変換装置が提供される。
【0007】
本態様によれば、チョークコイルの複数相ごとに、巻線の一端の1ターン目の第1の巻回り部と巻線の他端の1ターン目の第2の巻回り部との間の間隔を比較的大きく確保することができる。そのため、第1の巻回り部と第2の巻回り部との間の線間容量を小さくすることができる。よって、電力変換装置は、チョークコイルを含むノイズフィルタによって、コモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【0008】
また、本開示の第2の態様では、上述の第1の態様を前提として、
前記間隔に相当する距離をdとし、前記巻線の電線の直径をφとし、前記ケース部の高さをhとしたときに、前記間隔は、以下の式を満足していてもよい。
【0009】
【0010】
また、本開示の第3の態様では、上述の第1又は第2の態様を前提として、
前記1相分の空間のそれぞれにおいて、前記第1の巻回り部と前記ケース部との間には前記第1の巻回り部と異なる他の巻き回り部がある、又は前記第2の巻回り部と前記ケース部との間には、前記第2の巻回り部と異なる他の巻回り部があってもよい。
【0011】
また、本開示の第4の態様では、上述の第3の態様を前提として、
前記1相分の空間のそれぞれにおいて、前記第1の巻回り部と前記ケース部との間には前記第1の巻回り部と異なる他の巻き回り部があり、且つ前記第2の巻回り部と前記ケース部との間には、前記第2の巻回り部と異なる他の巻回り部があってもよい。
【0012】
また、本開示の第5の態様では、上述の第1乃至第4の態様の何れか1つの態様を前提として、
前記第2の部材は、前記ケース部又は前記第1の部材と同じ材料で形成されていてもよい。
【0013】
また、本開示の第6の態様では、上述の第1乃至第5の態様の何れか1つの態様を前提として、
20kHz以上のスイッチング周波数で駆動されるスイッチングデバイスを備えてもよい。
【0014】
また、本開示の第7の態様では、上述の第1乃至第6の態様の何れか1つの態様を前提として、
前記複数相ごとの前記巻線の断面積は、1.75mm2以上であってもよい。
【0015】
また、本開示の第8の態様では、上述の第1乃至第7の態様の何れか1つの態様の電力変換装置を備える、
空気調和機が提供される。
【発明の効果】
【0016】
上述の実施形態によれば、コモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】空気調和機の冷媒回路の一例を示す図である。
【
図3】コモンモードチョークコイルの第1例の構成を示す図である。
【
図4】コモンモードチョークコイルの第1例の構成を示す図である。
【
図5】分布定数回路として表現したコモンモードチョークコイルの等価回路を示す図である。
【
図6】実施例に係るコモンモードチョークコイル、及び比較例に係るコモンモードチョークコイルのインピーダンスの周波数特性を示す図である。
【
図7】コモンモードチョークコイルの第2例の構成を示す図である。
【
図8】コモンモードチョークコイルの第2例の構成を示す図である。
【
図9】コモンモードチョークコイルの第3例の構成を示す図である。
【
図10】コモンモードチョークコイルの第3例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0019】
[空気調和機の概要]
図1を参照して、本実施形態に係る空気調和機100の概要について説明する。
【0020】
図1は、空気調和機100の冷媒回路の一例を示す図である。
【0021】
図1に示すように、空気調和機100は、室外機110と、室内機120と、冷媒経路130,140とを含む。空気調和機100は、室外機110、室内機120、冷媒経路130,140等で構成される冷凍サイクルを動作させ、室内機120が設置される室内の温度や湿度等を調整する。
【0022】
室外機110は、温度等の調整対象の建物の室外に配置される。室外機110は、冷媒経路130,140のそれぞれの一端に接続され、冷媒経路130,140の何れか一方から冷媒を吸入し、何れか他方に冷媒を排出する。
【0023】
室内機120は、温度等の調整対象の建物の室内に配置される。室内機120は、冷媒経路130,140のそれぞれの他端に接続され、冷媒経路130,140の何れか一方から冷媒を吸入し、何れか他方に冷媒を排出する。
【0024】
冷媒経路130,140は、例えば、管路により構成され、冷媒が室外機110及び室内機120の間で循環可能なように、室外機110及び室内機120との間を接続する。
【0025】
室外機110は、冷媒経路L1~L6と、油経路L7,L8と、四方切換弁111と、アキュムレータ112と、圧縮機113と、油分離器114と、室外熱交換器115と、室外膨張弁116と、ファン117とを含む。
【0026】
冷媒経路L1~L6は、例えば、管路として構成される。
【0027】
冷媒経路L1は、室外機110の外部の冷媒経路130の一端と四方切換弁111との間を接続する。
【0028】
冷媒経路L2は、四方切換弁111と圧縮機113の入口との間を接続する。冷媒経路L2は、冷媒経路L21,L22を含む。
【0029】
冷媒経路L21は、四方切換弁111とアキュムレータ112との間を接続する。冷媒経路L22は、アキュムレータ112と圧縮機113の入口との間を接続する。
【0030】
冷媒経路L3は、四方切換弁111と圧縮機113の出口との間を接続する。冷媒経路L3は、冷媒経路L31,L32を含む。
【0031】
冷媒経路L31は、圧縮機113の出口と油分離器114との間を接続する。冷媒経路L32は、四方切換弁111と油分離器114との間を接続する。
【0032】
冷媒経路L4は、四方切換弁111と室外熱交換器115との間を接続する。
【0033】
冷媒経路L5は、室外熱交換器115と室外膨張弁116との間を接続する。
【0034】
冷媒経路L6は、室外機110の外部の冷媒経路140の一端と室外膨張弁116との間を接続する。
【0035】
油経路L7は、例えば、管路として構成され、油分離器114により分離された油を冷媒経路L22に流入させ、冷媒経路L22を通じて圧縮機113に戻すために用いられる。
【0036】
尚、油経路L7を通過する油には、例えば、液相の冷媒(以下、「液冷媒」)が溶け込んでいる場合がある。つまり、油経路L7には、油だけでなく、液冷媒も通流する。
【0037】
油経路L8は、例えば、管路として構成され、アキュムレータ112により分離された液冷媒を含む油を冷媒経路L22に流入させ、冷媒経路L22を通じて圧縮機113に戻すために用いられる。
【0038】
四方切換弁111は、空気調和機100の冷房運転の場合と暖房運転の場合とで冷媒が循環する流れを逆転させる。
【0039】
空気調和機100の冷房運転時に、四方切換弁111は、
図1中の実線の経路を接続する。具体的には、空気調和機100の冷房運転時に、四方切換弁111は、冷媒経路L1と冷媒経路L2との間、及び冷媒経路L3と冷媒経路L4との間を接続させる。
【0040】
一方、空気調和機100の暖房運転の場合、四方切換弁111は、
図1中の点線の経路を接続する。具体的には、空気調和機100の暖房運転時に、四方切換弁111は、冷媒経路L4と冷媒経路L2との間、及び冷媒経路L1と冷媒経路L3との間を接続させる。
【0041】
アキュムレータ112は、冷媒経路L21から吸入される冷媒に含まれる液冷媒を分離し、冷媒経路L22に液冷媒の一部又は全部が除去された冷媒を吐出する。アキュムレータ112で分離される液冷媒には油が含まれる。アキュムレータ112には、油経路L8と接続される油排出口が設けられ、分離された冷媒を含む油は、油排出口を通じて油経路L8に流出し、油経路L8及び冷媒経路L22を通じて圧縮機113に戻される。
【0042】
圧縮機113は、冷媒経路L22から冷媒を吸入し、高圧に圧縮して冷媒経路L31に吐出する。
【0043】
空気調和機100の冷房運転時において、圧縮機113により圧縮された高温高圧の冷媒は、冷媒経路L3及び冷媒経路L4を通じて、室外熱交換器115に流入する。
【0044】
一方、空気調和機100の暖房運転時において、圧縮機113により圧縮された高温高圧の冷媒は、冷媒経路L3及び冷媒経路L1を通じて、室外機110の外部の冷媒経路130に流出する。そして、高温高圧の冷媒は、冷媒経路130を通じて、室内機120に流入する。
【0045】
油分離器114は、冷媒経路L31から流入する冷媒から油を分離し、油の一部又は全部が分離され除去された後の冷媒を冷媒経路L32に流出させる。また、油分離器114には、油経路L7と接続される油排出口が設けられ、冷媒から分離された油は、油排出口を通じて油経路L7に流出し、油経路L7及び冷媒経路L22を通じて圧縮機113に戻される。
【0046】
室外熱交換器115は、外気と内部を通過する冷媒との間で熱交換を行う。具体的には、室外熱交換器115には、ファン117が併設され、室外熱交換器115は、ファン117により送風される外気と内部を通流する冷媒との間で熱交換を行う。
【0047】
空気調和機100の冷房運転時において、室外熱交換器115は、冷媒経路L4から流入する、圧縮機113で圧縮された高温高圧の冷媒に外気への放熱を行わせ、凝縮・液化した冷媒(液冷媒)を冷媒経路L5に流出させる。
【0048】
また、空気調和機100の暖房運転時において、室外熱交換器115は、冷媒経路L5から流入する低温低圧の液冷媒に外気から吸熱を行わせ、蒸発した冷媒を冷媒経路L4に流出させる。
【0049】
室外膨張弁116は、空気調和機100の暖房運転時において、所定の開度に閉じられ、冷媒経路L6から流入する冷媒(液冷媒)を所定の圧力に減圧させる。一方、室外膨張弁116は、空気調和機100の冷房運転時において、全開状態にされ、冷媒経路L5から冷媒経路L6に冷媒(液冷媒)を通過させる。室外膨張弁116は、例えば、電磁弁である。
【0050】
室内機120は、室内膨張弁121と、室内熱交換器122と、ファン123とを含む。
【0051】
室内膨張弁121は、空気調和機100の冷房運転時において、所定の開度に閉じられ、冷媒経路140から流入する、過冷却状態の液冷媒を所定の圧力に減圧させる。一方、室内膨張弁121は、空気調和機100の暖房運転時において、全開状態にされ、室内熱交換器122から流出する冷媒(液冷媒)を冷媒経路140に向かって通過させる。室内膨張弁121は、例えば、電磁弁である。
【0052】
室内熱交換器122は、室内空気と内部を通過する冷媒との間で熱交換を行う。具体的には、室内機120に搭載されるファン123の作用で、室内熱交換器122の周囲に室内空気が通過し、室内熱交換器122の内部の冷媒との間で熱交換が促進される。そして、ファン123の作用で、室内熱交換器122の内部との冷媒との間の熱交換が行われた室内空気が室内機120の外部に送り出されることにより、室内の冷房或いは暖房が実現される。
【0053】
空気調和機100の冷房運転時において、室内熱交換器122は、室内膨張弁121により減圧された低温低圧の液冷媒に室内空気から吸熱させ、室内空気の温度を下げる。
【0054】
一方、空気調和機100の暖房運転時において、室内熱交換器122は、冷媒経路130を通じて室外機110から流入する高温高圧の冷媒に室内空気への放熱を行わせ、室内空気の温度を上げる。
【0055】
[電力変換装置の構成]
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る空気調和機100に搭載される電力変換装置200の構成について説明する。
【0056】
図2は、電力変換装置200の一例の構成を示す図である。
【0057】
図2に示すように、室外機110は、自身の構成要素を収容する筐体110Hを有し、筐体110Hに収容される電力変換装置200を含む。
【0058】
電力変換装置200は、室外機110の外部から供給される、商用電源PSの3相交流の電力を用いて、圧縮機113の電動機113Mを駆動する。
【0059】
電力変換装置200は、端子T_FGと、電源線L_Rと、電源線L_Sと、電源線L_Tと、電源端子台210と、ノイズフィルタ220と、インバータ230と、放熱部240とを含む。
【0060】
端子T_FGは、筐体110Hに設けられ、筐体110Hの外部において、接地される。これにより、筐体110Hは、グランドに相当する基準電位部とみなされる。
【0061】
電源線L_R,L_S,L_Tは、商用電源PSの3相交流をインバータ230に供給する。
【0062】
電源線L_Rは、商用電源PSのR相の交流をインバータ230に供給する。電源線L_Rは、電源線L_R1~L_R5を含む。
【0063】
電源線L_Sは、商用電源PSのS相の交流をインバータ230に供給する。電源線L_Sは、電源線L_S1~L_S5を含む。
【0064】
電源線L_Tは、商用電源PSのT相の交流をインバータ230に供給する。電源線L_Tは、電源線L_T1~L_T5を含む。
【0065】
電源線L_R1,L_S1,L_T1は、それぞれ、商用電源PSと電源端子台210との間を接続する。電源線L_R2,L_S2,L_T2は、それぞれ、電源端子台210とノイズフィルタ220の電源線L_R3,L_S3,L_T3の一端との間を接続する。電源線L_R3,L_S3,L_T3、及び電源線L_R4,L_S4,L_T4は、ノイズフィルタ220の内部の電源線に相当する。例えば、電源線L_R3,L_S3,L_T3、及び電源線L_R4,L_S4,L_T4は、ノイズフィルタが実装される基板の配線パターンとして実装される。電源線L_R5,L_S5,L_T5は、それぞれ、ノイズフィルタ220の電源線L_R4,L_S4,L_T4の他端とインバータ230との間を接続する。
【0066】
電源端子台210は、電源線L_R1,L_S1,L_T1により供給される3相交流を各種機器に中継したり分岐させたりする。
【0067】
電源端子台210には、電源線L_R1の一端が接続されると共に、電源線L_R2の一端が接続され、電源線L_R1と電源線L_R2との間を電気的に接続する。同様に、電源端子台210には、電源線L_S1の一端が接続されると共に、電源線L_S2の一端が接続され、電源線L_S1と電源線L_S2との間を電気的に接続する。同様に、電源端子台210には、電源線L_T1の一端が接続されると共に、電源線L_T2の一端が接続され、電源線L_T1と電源線L_T2との間を電気的に接続する。
【0068】
ノイズフィルタ220は、電力変換装置200の電流のノイズを抑制する。例えば、
図2に示すように、ノイズフィルタ220は、コモンモードチョークコイル221と、Yコンデンサ222とを含み、これらの構成要素が所定の基板に実装される。
【0069】
コモンモードチョークコイル221は、電源線L_R3,L_S3,L_T3、及び電源線L_R4,L_S4,L_T4に流れるコモンモードのノイズ電流(コモンモード電流)に対してインダクタとして作用しノイズ電流を抑制する。
【0070】
Yコンデンサ222は、グランドに流出したコモンモード電流をノイズ源(インバータ230)に戻す働きを有する。Yコンデンサ222は、Yコンデンサ222R,222S,222Tを含む。
【0071】
Yコンデンサ222Rは、電源線L_R4とグランドに相当する筐体110Hとの間を接続するバイパス経路に設けられる。Yコンデンサ222Sは、電源線L_S4とグランドに相当する筐体110Hとの間を接続するバイパス経路に設けられる。Yコンデンサ222Tは、電源線L_T4とグランドに相当する筐体110Hとの間を接続するバイパス経路に設けられる。
【0072】
インバータ230は、電源線L_R,L_S,L_Tを通じて供給される3相交流を用いて、所定の電圧及び周波数の3相交流を生成し電動機113Mに出力する。これにより、電力変換装置200は、圧縮機113を駆動することができる。インバータ230は、ノイズフィルタ220が実装される基板とは別の基板に実装されてもよいし、異なる基板に実装されてもよい。インバータ230は、整流回路231と、平滑回路232と、インバータ回路233とを含む。
【0073】
整流回路231は、電源線L_R5,L_S5,L_T5の3相交流を直流に変換し、電源線L_P1,L_N1に出力する。例えば、
図2に示すように、整流回路231は、パワーデバイス231PDを含む。パワーデバイス231PDは、半導体による整流ダイオードである。
【0074】
平滑回路232は、電源線L_P1,L_N1の直流を平滑化する。例えば、平滑回路232は、平滑コンデンサ232Cと、リアクトル232Lとを含む。
【0075】
平滑コンデンサ232Cは、電源線L_P1,L_N1の間を接続する経路に設けられる。平滑コンデンサ232Cは、適宜、充放電を繰り返しながら、整流回路231から出力される直流やインバータ回路233から出力(回生)される直流を平滑化する。
【0076】
リアクトル232Lは、電源線L_P1に設けられる。例えば、リアクトル232Lは、整流回路231と平滑コンデンサ232Cとの間の電源線L_P1に設けられる。リアクトル232Lは、適宜、電流の変化を妨げるように電圧を発生させながら、整流回路231から出力される直流やインバータ回路233から出力(回生)される直流を平滑化する。
【0077】
インバータ回路233は、電源線L_P1,L_N1の他端に接続される。インバータ回路233は、パワーデバイス233PDを含む。パワーデバイス233PDは、例えば、半導体スイッチである。半導体スイッチは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やHEMT(High Electron Mobility Transistor)等である。半導体スイッチは、例えば、ケイ素(シリコン:Si)を主材料として構成される。また、半導体スイッチは、ワイドバンドギャップ半導体材料を主材料として構成されてもよい。また、パワーデバイス233PDは、半導体スイッチに加えて、半導体スイッチと並列に接続される半導体によるフリーホイルダイオードを含んでもよい。
【0078】
インバータ回路233は、パワーデバイス233PDのスイッチ動作により、平滑回路232から出力される直流を所定の周波数や所定の電圧を有する3相交流(即ち、U相、V相、及びW相の交流)に変換し電動機113Mに出力する。パワーデバイス233PDは、比較的高いスイッチング速度を有してよい。例えば、パワーデバイス233PDのスイッチング速度(即ち、スイッチングに要する時間)は、10ナノ秒以下である。パワーデバイス233PDのスイッチング周波数は、例えば、20kHz以上に設定される。これにより、パワーデバイス233PDのスイッチング動作に起因するノイズ音の周波数を人間の可聴域から外すことができる。
【0079】
放熱部240は、パワーデバイス233PDの熱をパワーデバイス233PDの外部に放熱させる。
【0080】
例えば、放熱部240は、ヒートシンクであり、筐体110Hに連結される。パワーデバイス233PDと放熱部240(ヒートシンク)とは、熱伝導が可能なように熱結合される。
【0081】
パワーデバイス233PDと放熱部240(ヒートシンク)とは、例えば、絶縁体である放熱促進部材を介して熱伝導が可能なように間接的に接触する。放熱促進部材は、例えば、熱伝導フィラを含む熱伝導シートや熱伝導グリス等である。また、パワーデバイス233PDと放熱部240(ヒートシンク)とは、熱伝導が可能なように、直接接触していてもよい。
【0082】
また、放熱部240は、内部に冷媒が通流するウォータジャケット等であってもよい。
【0083】
[コモンモードチョークコイルの第1例]
次に、
図3~
図6を参照して、コモンモードチョークコイル221の第1例について説明する。
【0084】
<構成>
図3、
図4は、コモンモードチョークコイル221の第1例の構成を示す図である。
【0085】
尚、3相の巻線40のそれぞれに対応するリード線50,60の配置構造は、同じである。そのため、
図3では、3相の巻線40のうちの特定の1相の巻線40に対応するリード線50,60のみが描画され、他の2相の巻線40に対応するリード線50,60の描画が省略されている。また、3相の巻線40の電線の巻き構造は、同じである。そのため、
図4では、
図3に描画される3相の巻線40のうち、2相の巻線40の図示が省略され、残りの1相の巻線40について、コアケース20よりも内周側の空間(即ち、コアケース20より径方向の内側の空間)における断面のみが描画されている。また、
図4では、巻線40の断面と共に図示される矢印は、巻線40の巻き方の一例を表している。後述の
図7、
図8、及び
図9、
図10についても、
図3、
図4と同様のコモンモードチョークコイル221の描画の形式が採用される。
【0086】
図3、
図4に示すように、コモンモードチョークコイル221は、磁性コア10と、コアケース20と、仕切部30と、巻線40と、リード線50,60と、突起部材70とを含む。
【0087】
磁性コア10は、磁性体(磁性材料)により形成される。磁性体は、例えば、フェライトやカルボニル鉄である。磁性コア10は、いわゆるトロイダルコアであり、軸方向(
図3、
図4が描画されている平面に垂直な方向)に沿うように見たときに、円環形状を有し、軸方向に所定の幅を有するドーナツ状に形成される。
【0088】
コアケース20は、内部の中空部に磁性コア10を収容する。コアケース20は、軸方向に沿うように見たときに、磁性コア10と同様に、円環形状を有し、軸方向に所定の幅を有するドーナツ形状に形成される共に、中空部分の形状が磁性コア10と同じ或いは若干大きくなるように形成される。コアケース20は、絶縁体(絶縁材料)により形成され、磁性コア10と巻線40との絶縁性を確保する。絶縁体は、例えば、合成樹脂(プラスティック)である。
【0089】
仕切部30は、絶縁体により形成され、コアケース20より内周側の空間を3相(R相、S相、及びT相)の巻線40ごとの空間に仕切る。これにより、仕切部30は、コアケース20の周方向で隣り合う巻線40同士の絶縁性を確保することができる。仕切部30は、コアケース20と同じ種類の絶縁体により形成されてもよいし、異なる種類の絶縁体により形成されてもよい。仕切部30は、3枚の仕切板31を含む。3枚の仕切板31は、コアケース20の内周面の周方向の120度間隔で配置され、コアケース20の内周面からコアケース20の中心軸に向けて径方向に延び出し、コアケース20の中心軸で集結するように連結されている。これにより、仕切部30は、軸方向に沿うように見たときに、コアケース20より内周側の空間を中心角120度の扇形状の3つの空間に仕切ることができる。仕切部30は、コアケース20と一体的に成形されてもよいし、別体に成形された上で既知の方法で連結されてもよい。
【0090】
巻線40は、電線がコアケース20の上から磁性コア10に巻き回される態様で構成される。巻線40に使用される電線は、例えば、エナメル線等の銅線である。具体的には、3相の巻線40は、それぞれ、コアケース20より内周側の仕切部30により仕切られた対象の相に対応する空間と隣接するコアケース20の周方向の範囲に巻き回される態様で構成される。これにより、3相の巻線40は、3枚の仕切板31が配置される角度位置において周方向に隣接する巻線40同士が離隔されるように、コアケース20の周方向の3か所に略等間隔に配置される。各相の巻線40の仕様は、全て略同じである。「略」は、製造誤差等を許容する意図である。
【0091】
本例では、各相の巻線40は、比較的断面積が大きい電線によって形成されてよい。電力変換装置200において必要な電流量が比較的大きいからである。例えば、各相の巻線40の電線の断面積は、1.75mm2以上である。
【0092】
また、本例では、各相の巻線40のターン数は、比較的多くなるように形成されてよい。これにより、コモンモードチョークコイル221のkHz帯のインピーダンスを増加させることができる。例えば、
図4に示すように、各相の巻線40のターン数は、12である。
【0093】
巻線40の電線の断面積が比較的大きい場合や巻線40のターン数が比較的多い場合、コアケース20より内周側の仕切部30により仕切られる各相に対応する空間での巻線40の占積率が比較的大きくなる可能性がある。そのため、例えば、
図4に示すように、各相の巻線40は、コアケース20より内周側の各相に対応する空間において、コアケース20の上で電線が重なり合い複数の層(本例では、3つの層)を成すように電線が巻回されている。
【0094】
例えば、
図4に示すように、巻線40に対応する電線の略半分の長さ位置を起点として、一端側及び他端側の双方の電線がコアケース20の周方向の互いに反対方向に巻き進められる。この過程で、コアケース20の内周の表面が電線で覆われ、コアケース20の表面に電線が巻き回される領域がない場合、既にコアケース20に巻き回された電線の上に重ねるように電線が巻き進められる。そして、コアケース20の内周よりも径方向で内側の空間の中心寄りの箇所で電線が巻き終わり、その箇所からリード線50,60が引き出される。
【0095】
リード線50は、各相の巻線40の電線の一端に繋がっており、巻線40を商用電源PS側に電気的に接続する。例えば、R相の巻線40に対応するリード線50は、巻線40から見た先端が電源線L_R3に接続される。同様に、S相の巻線40に対応するリード線50は、巻線40から見た先端が電源線L_S3に接続される。同様に、T相の巻線40に対応するリード線50は、巻線40から見た先端が電源線L_T3に接続される。
【0096】
リード線60は、各相の巻線40の電線の他端に繋がっており、巻線40をインバータ230側に電気的に接続する。例えば、R相の巻線40に対応するリード線60は、巻線40から見た先端が電源線L_R4に接続される。同様に、S相の巻線40に対応するリード線60は、巻線40から見た先端が電源線L_S4に接続される。同様に、T相の巻線40に対応するリード線60は、巻線40から見た先端が電源線L_T4に接続される。
【0097】
突起部材70は、絶縁体で形成され、コアケース20より内周側の空間において、3相の巻線40に対応する空間ごとに、コアケース20の中心軸に相当する3枚の仕切板31の連結部から径方向の外側に突出するように設けられる。突起部材70は、コアケース20や仕切部30と同じ種類の絶縁体で形成されてもよいし、異なる種類の絶縁体で形成されてもよい。また、突起部材70は、仕切部30と一体的に成形されてもよいし、仕切部30と別体に成形され、既知の方法で連結されてもよい。突起部材70は、コアケース20より内周側の仕切部30に仕切られる3つの空間のそれぞれにおいて、巻線40の一端の1ターン分に相当する巻回り部41と、巻線40の他端の1ターン分に相当する巻回り部42との間に配置される。これにより、巻回り部41,42の間の間隔や巻回り部41及び巻回り部42のそれぞれに接続されるリード線50,60の間隔をある程度確保することができる。そのため、巻回り部41,42の間の線間容量(浮遊容量)やリード線50,60の間の線間容量(浮遊容量)を比較的小さくすることができる。例えば、
図3、
図4に示すように、突起部材70は、軸方向に沿うように見たときに、隣り合う2つの仕切板31により規定される中心角120度を等分する角度方向に突出するように設けられる。
【0098】
<コモンモードチョークコイルのインピーダンスの周波数特性>
図5は、分布定数回路として表現したコモンモードチョークコイル221の等価回路を示す図である。
図6は、実施例に係るコモンモードチョークコイル221、及び比較例に係るコモンモードチョークコイルのインピーダンスの周波数特性を示す図である。
【0099】
尚、比較例に係るコモンモードチョークコイルは、突起部材70が設けられない点で実施例(
図3、
図4)に係るコモンモードチョークコイル221と異なり、他の点で実施例に係るコモンモードチョークコイル221と同じである。
【0100】
図5に示すように、コモンモードチョークコイル221の巻線40の1ターン分やリード線50,60は、抵抗及びインダクタンスの直列接続体として表すことができる。例えば、リード線50は、抵抗Rx1及びインダクタンスLx1の直列接続体として表され、リード線60は、抵抗Rx2及びインダクタンスLx2の直列接続体として表される。同様に、巻線40の一端の巻回り部41は、抵抗R_1及びインダクタンスL_1の直列接続体として表され、巻線40の他端の巻回り部42は、抵抗R_2及びインダクタンスL_2の直列接続体として表される。
【0101】
また、
図5に示すように、巻線40の1ターン分同士の間には、容量性の結合が存在し、その結合状態は、キャパシタンス(浮遊容量)として表すことができる。例えば、リード線50,60の間の容量性の結合状態は、浮遊容量C0として表され、巻回り部41,42の間の容量性の結合状態は、浮遊容量C1として表される。
【0102】
例えば、
図3、
図4に示すように、コアケース20より内周側の空間において、巻線40の電線が重なり合うことで複数の層を成し、巻回り部41,42が径方向の中心付近に配置されると、巻線40の巻回り部41,42の間が非常に近くなる可能性がある。
【0103】
この場合、比較例に係るコモンモードチョークコイルでは、突起部材70が存在しないことから、リード線50,60の間の浮遊容量C0、及び巻回り部41,42の間の浮遊容量C1が比較的大きくなる。そのため、比較例に係るコモンモードチョークコイルでは、
図5の経路RT0,RT1に対応する経路の直列共振の共振周波数が比較的低くなる。その結果、
図6に示すように、比較例に係るコモンモードチョークコイルでは、数十MHzの周波数帯に共振が現れることで、10MHz以上の周波数帯でインピーダンスが大きく低下する可能性がある。よって、比較例に係るコモンモードチョークコイルは、10MHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズを十分に抑制できない可能性がある。
【0104】
特に、上述の如く、インバータ230のスイッチング周波数が20kHz以上である場合、10MHz以上の高周波帯域でのノイズレベルが比較的高くなる。そのため、比較例に係るコモンモードチョークコイルでは、スイッチング周波数が20kHz以上であるインバータ230をノイズ源とするコモンモードノイズを十分に抑制できない可能性がある。
【0105】
これに対して、実施例(第1例)に係るコモンモードチョークコイル221は、突起部材70が巻回り部41,42の間を離隔させ、巻回り部41,42の間の距離をある程度確保させることができる。そのため、実施例に係るコモンモードチョークコイル221では、
図5の経路RT0,RT1の直列共振の共振周波数を比較的高くすることができる。その結果、
図6に示すように、実施例に係るコモンモードチョークコイル221は、10MHz以上の周波数帯でのインピーダンスの低下を抑制することができる。よって、実施例に係るコモンモードチョークコイル221は、例えば、スイッチング周波数が20kHz以上であるインバータ230をノイズ源とする10MHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【0106】
<巻線の一端及び他端の巻回り部同士の間隔の条件>
上述の如く、コモンモードチョークコイル221の共振周波数が高くなるほど、10MHz以上の高周波帯域でのインピーダンスの低下を抑制し、10MHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズの除去特性を向上させることができる。そのため、巻回り部41,42の間の間隔(距離)dは、所定基準に対して相対的に大きくなるように維持されることが望ましい。間隔dが所定基準に対して相対的に大きいとは、間隔dが所定基準以上であることであってもよいし、間隔dが所定基準より大きいことであってもよい。以下、間隔dに関する所定基準について検討する。
【0107】
例えば、
図3、
図4に示すように、リード線50,60がコアケース20を基準として互いに反対側に取り出される場合、リード線50,60の間の距離よりも巻回り部41,42の間の距離が小さくなる可能性が高い。そのため、コモンモードチョークコイル221の共振は、経路RT1の直列共振によって現れる可能性が高い。よって、コモンモードチョークコイル221が目標周波数f
0以下に共振が現れないようにするための巻回り部41,42の間の間隔(距離)dに関する条件は、以下の式(1),(2)で表される。
【0108】
【0109】
尚、Lは、直列共振の経路RT1のインダクタンスを表し、
図5のインダクタンスLx1,L_1,L_2,Lx_2の直列の合成インダクタンスに相当する。また、Cは、直列共振の経路RT1の線間容量(浮遊容量)を表し、
図5の浮遊容量C1に相当する。また、ε0は、真空誘電率を表す。また、φは、巻線40の電線の直径を表す。また、hは、コアケース20の高さを表し、コアケース20の軸方向の寸法に相当する。また、式(2)では、空気の比誘電率が約1である点を考慮して、真空誘電率ε
0を用いている。また、式(2)において、コアケース20の高さhと電線の直径φとの積は、巻回り部41,42の双方の電線同士が対向している部分の電極に相当する部分の面積に相当する。
【0110】
ここで、式(1),(2)の条件は、以下の式(3)で整理することができ、その右辺が間隔dに関する所定基準に相当する。
【0111】
【0112】
例えば、10MHz~100MHzでのリード線50及び巻回り部41の全体のインダクタンス、及びリード線60及び巻回り部42の全体のインダクタンスが共に0.5μH(マイクロヘンリ)である場合を考える。この場合、直列共振の経路RT1のインダクタンスLは、1.0μHとなる。そして、100MHz(=f0)以下に共振が現れないようにするための条件は、式(3)の目標周波数f0に100MHzを代入し、インダクタンスLに1μHを代入することで、以下の式(4)により表され、その右辺が間隔dに関する所定基準に相当する。
【0113】
【0114】
尚、式(4)の、巻回り部41,42の間隔d、巻線40の電線の直径φ、コアケース20の高さhの単位は、mm(ミリメートル)である。
【0115】
このように、本例では、式(3)や式(4)を満足するように、突起部材70の寸法の設定や突起部材70の配置等を行うことができる。これにより、コモンモードチョークコイル221は、10MHz~100MHzの高周波帯域でのコモンモードノイズをより適切に抑制できる。
【0116】
[コモンモードチョークコイルの第2例]
次に、
図7、
図8を参照して、本実施形態に係るコモンモードチョークコイル221の第2例について説明する。
【0117】
以下、本例では、上述の第1例と同じ或いは対応する構成に同一の符号を付し、上述の第1例と異なる部分を中心に説明すると共に、上述の第1例と同じ或いは対応する内容説明を省略する場合がある。
【0118】
図7、
図8は、コモンモードチョークコイル221の第2例の構成を示す図である。
【0119】
図7、
図8に示すように、本例に係るコモンモードチョークコイル221は、突起部材70に代えて、仕切板72を含む点で上述の第1例と異なり、他の点で、上述の第1例と同じであってよい。
【0120】
仕切板72は、絶縁体で形成され、コアケース20より内周側の空間において、3相の巻線40に対応する空間ごとに、対象の空間を更に2つの空間に仕切るように設けられる。具体的には、仕切板72により仕切られる2つの空間の一方には、巻回り部41が含まれ、他方には、巻回り部42が含まれるように、仕切板72が設定される。これにより、巻回り部41,42の間の間隔や巻回り部41及び巻回り部42のそれぞれに接続されるリード線50,60の間隔をある程度確保することができる。そのため、巻回り部41,42の間の線間容量(浮遊容量)やリード線50,60の間の線間容量(浮遊容量)を比較的小さくすることができる。
【0121】
具体的には、仕切板72は、コアケース20の中心軸に相当する3枚の仕切板31の連結部と、コアケース20の対象の空間に隣接する周方向の部分の内周面との間を繋ぐように設けられてよい。例えば、
図7、
図8に示すように、仕切板72は、軸方向に沿うように見たときに、隣り合う2つの仕切板31により規定される中心角120度を等分するように設けられる。仕切板72は、コアケース20や仕切部30と同じ種類の絶縁体で形成されてもよいし、異なる種類の絶縁体で成形されてもよい。また、仕切板72は、仕切部30やコアケース20と一体的に成形されてもよいし、別体に成形され、既知の方法で連結されてもよい。
【0122】
このように、本例では、コモンモードチョークコイル221は、仕切板72の作用によって、上述の第1例と同様、巻回り部41,42の間を離隔させ、巻回り部41,42の間の距離をある程度確保させることができる。そのため、本例では、コモンモードチョークコイル221は、例えば、スイッチング周波数が20kHz以上であるインバータ230をノイズ源とする10MHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【0123】
例えば、上述の第1例の場合と同様、式(3)や式(4)を満足するように、仕切板72の寸法の設定や仕切板72の配置等を行うことができる。これにより、コモンモードチョークコイル221は、10MHz~100MHzの高周波帯域でのコモンモードノイズをより適切に抑制できる。
【0124】
[コモンモードチョークコイルの第3例]
次に、
図9、
図10を参照して、本実施形態に係るコモンモードチョークコイル221の第3例について説明する。
【0125】
以下、本例では、上述の第1例、第2例と同じ或いは対応する構成に同一の符号を付し、上述の第1例、第2例と異なる部分を中心に説明すると共に、上述の第1例、第2例と同じ或いは対応する内容説明を省略する場合がある。
【0126】
図9、
図10は、コモンモードチョークコイル221の第3例の構成を示す図である。
【0127】
図9、
図10に示すように、本例に係るコモンモードチョークコイル221は、突起部材70や仕切板72に代えて、管部材74,76を含む点で上述の第1例や第2例と異なり、他の点で、上述の第1例や第2例と同じであってよい。
【0128】
管部材74は、絶縁体で形成され、その中空部に巻回り部41の電線が挿入される形で、巻回り部41に取り付けられる。管部材74は、コアケース20や仕切部30と同じ種類の絶縁体で形成されてもよいし、異なる種類の絶縁体で形成されてもよい。絶縁体は、例えば、合成樹脂や合成ゴム等である。以下、管部材76の材料として用いられる絶縁体についても同様であってよい。管部材74は、例えば、1ターン分に相当する巻回り部41の電線の全長のうち、コアケース20より内周側の空間にある電線の一部或いは全部を中空部に含むように配置される。また、管部材74は、巻回り部41の電線に加えて、リード線50の一部或いは全部を中空部に含むように配置されてもよい。これにより、管部材74は、巻回り部41,42の間に存在することができ、その結果、巻回り部41,42の間の間隔や巻回り部41及び巻回り部42のそれぞれに接続されるリード線50,60の間隔をある程度確保することができる。そのため、巻回り部41,42の間の線間容量(浮遊容量)やリード線50,60の間の線間容量(浮遊容量)を比較的小さくすることができる。
【0129】
管部材76は、管部材74と同様、絶縁体で形成され、その中空部に巻回り部42の電線が挿入される形で、巻回り部42に取り付けられる。管部材76は、例えば、1ターン分に相当する巻回り部42の電線の全長のうち、コアケース20より内周側の空間にある電線の一部或いは全部を中空部に含むように配置される。また、管部材76は、巻回り部42の電線に加えて、リード線60の一部或いは全部を中空部に含むように配置されてもよい。これにより、管部材76は、巻回り部41,42の間に存在することができ、その結果、巻回り部41,42の間の間隔や巻回り部41及び巻回り部42のそれぞれに接続されるリード線50,60の間隔をある程度確保することができる。そのため、巻回り部41,42の間の線間容量(浮遊容量)やリード線50,60の間の線間容量(浮遊容量)を比較的小さくすることができる。
【0130】
このように、本例では、コモンモードチョークコイル221は、管部材74,76の作用によって、上述の第1例や第2例と同様、巻回り部41,42の間を離隔させ、巻回り部41,42の間の距離をある程度確保させることができる。そのため、本例では、コモンモードチョークコイル221は、例えば、スイッチング周波数が20kHz以上であるインバータ230をノイズ源とする10MHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【0131】
例えば、上述の第1例の場合と同様、式(3)や式(4)を満足するように、管部材74の寸法の設定や管部材74,76の配置等を行うことができる。これにより、コモンモードチョークコイル221は、10MHz~100MHzの高周波帯域でのコモンモードノイズをより適切に抑制できる。
【0132】
[他の実施形態]
次に、他の実施形態について説明する。
【0133】
上述の実施形態は、適宜、変形や変更が加えられてもよい。
【0134】
例えば、上述の実施形態(コモンモードチョークコイル221の第1例)では、突起部材70は、巻回り部41,42の間に存在するように、コアケース20から突出するように設けられてもよい。この場合、突起部材70は、コアケース20と一体的に成形されてもよいし、コアケース20と別体に成形され、既知の方法で連結されてもよい。
【0135】
例えば、上述の実施形態(コモンモードチョークコイル221の第3例)では、管部材74,76のうちの何れか一方のみが設けられ、他方が省略されてもよい。
【0136】
また、上述の実施形態では、突起部材70や仕切板72や管部材74,76に代えて、巻回り部41,42の間に、巻線40における巻回り部41,42以外の1ターン分に相当する他の巻回り部の電線が存在するように配置されてもよい。これにより、他の巻回り部の存在によって、巻回り部41,42の間隔をある程度確保させることができる。そのため、上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0137】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例において、巻線40の電線の断面積や巻線40のターン数によっては、巻回り部41,42のうちの何れか一方がコアケース20に隣接するように巻回されていてもよい。つまり、巻回り部41,42のうちの何れか一方とコアケース20との間には、巻線40の1ターン分に相当する他の巻線部の電線が存在しなくてもよい。
【0138】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、電力変換装置200は、圧縮機113の電動機113Mに代えて、或いは、加えて、ファン117の電動機に電力を供給し駆動してもよい。
【0139】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、平滑コンデンサ232C及びリアクトル232Lの少なくとも一方が省略されてもよいし、平滑回路232自体が省略されてもよい。
【0140】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、商用電源PSは三相交流ではなく、単相交流を電力変換装置200に供給してもよい。この場合、電源線L_R,L_S,L_Tは、2本の電源線に置換される。また、この場合、コモンモードチョークコイル221は、単相のコモンモードチョークコイルに置換され、Yコンデンサ222は、2本の電源線のそれぞれと筐体110Hをバイパスする2個のYコンデンサに置換される。また、この場合、単相のコモンモードチョークコイルには、2本の電源線に対応する2つの相ごとに巻線が設けられ、上述のコモンモードチョークコイル221と同様、2つの相ごとに、巻線の一端及び他端のそれぞれの1ターン目に相当する巻回り部同士が離隔されるように構成される。
【0141】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、整流回路231のパワーデバイス231PDは、半導体スイッチであってもよい。この場合、コモンモードチョークコイル221を含むノイズフィルタ220は、整流回路231をノイズ源とするコモンモードノイズを抑制することができる。
【0142】
上述の実施形態の電力変換装置200は、空気調和機100とは異なる冷凍機に搭載されてもよい。つまり、上述の実施形態の電力変換装置200は、冷凍サイクルを有する任意の機器に搭載されてよい。
【0143】
また、上述の実施形態の電力変換装置200は、冷凍機とは異なる機器に搭載され、その機器に搭載される電動機等を駆動してもよい。例えば、上述の実施形態の電力変換装置200は、車両に搭載され、車両の電動機等を駆動してもよい。
【0144】
[作用]
次に、本実施形態に係る電力変換装置及び空気調和機の作用について説明する。
【0145】
本実施形態では、電力変換装置は、チョークコイルを含むノイズフィルタを備える。電力変換装置は、例えば、上述の電力変換装置200である。ノイズフィルタは、例えば、上述のノイズフィルタ220である。チョークコイルは、例えば、上述のコモンモードチョークコイル221である。具体的には、チョークコイルは、環状部材と、ケース部と、複数相の巻線と、第1の部材と、第2の部材とを含む。環状部材は、例えば、上述の磁性コア10である。ケース部は、例えば、上述のコアケース20である。巻線は、例えば、上述の巻線40である。第1の部材は、例えば、上述の仕切部30である。第2の部材は、例えば、上述の突起部材70や仕切板72や管部材74である。より具体的には、環状部材は、磁性体で環状に形成される。また、ケース部は、環状部材を収容する。また、複数相の巻線は、ケース部の上から環状部材に対して電線が重なり合いの層を成すように巻き回される。また、仕切部30は、絶縁性を有し、ケース部の内周よりも内側の空間を巻線の1相分ごとの空間に仕切る。そして、第2の部材は、絶縁性を有し、第1の部材により仕切られた巻線の1相分の空間のそれぞれにおいて、巻線の一端からの1ターン目に相当する第1の巻回り部と巻線の他端からの1ターン目に相当する第2の巻回り部との間隔を所定基準に対して相対的に大きくなるように維持する。所定基準は、例えば、上述の式(3),(4)の右辺に相当する。
【0146】
これにより、チョークコイルの複数相ごとに、巻線の一端の1ターン目の第1の巻回り部と巻線の他端の1ターン目の第2の巻回り部との間の間隔を比較的大きく確保することができる。そのため、第1の巻回り部と第2の巻回り部との間の線間容量を小さくすることができる。よって、電力変換装置は、チョークコイルを含むノイズフィルタによって、コモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【0147】
また、本実施形態では、第1の巻回り部と第2の巻回り部との間隔に相当する距離をdとし、巻線の電線の直径をφとし、ケース部の高さをhとしたときに、第1の巻回り部と第2の巻回り部との間隔は、上述の式(4)を満足していてもよい。
【0148】
これにより、電力変換装置は、第1の巻回り部と第2の巻回り部の線間容量を比較的小さくでき、チョークコイルを含むノイズフィルタによって、コモンモードノイズをより適切に抑制することができる。
【0149】
また、本実施形態では、第1の部材により仕切られた巻線の1相分ごとの空間のそれぞれにおいて、第1の巻回り部とケース部との間には第1の巻回り部と異なる他の巻き回り部があってもよいし、また、第2の巻回り部とケース部との間には、第2の巻回り部と異なる他の巻回り部があってもよい。
【0150】
これにより、第1の巻回り部や第2の巻回り部とケース部との間に他の巻回り部が存在し、第1の巻回り部と第2の巻回り部との距離が比較的近くなり易い構造であっても、第1の巻回り部と第2の巻回り部の線間容量を比較的小さくできる。
【0151】
また、本実施形態では、第1の部材により仕切られた巻線の1相分ごとの空間のそれぞれにおいて、第1の巻回り部とケース部との間には第1の巻回り部と異なる他の巻き回り部があり、且つ第2の巻回り部とケース部との間には、第2の巻回り部と異なる他の巻回り部があってもよい。
【0152】
これにより、第1の巻回り部及び第2の巻回り部とケース部との間に他の巻回り部が存在し、第1の巻回り部と第2の巻回り部との距離が更に近くなり易い構造であっても、第1の巻回り部と第2の巻回り部の線間容量を比較的小さくできる。
【0153】
また、本実施形態では、第2の部材は、ケース部又は第1の部材と同じ材料で形成されていてもよい。
【0154】
これにより、例えば、第2の部材をケース部や第1の部材と一体として成形された部品として実現することができる。
【0155】
20kHz以上のスイッチング周波数で駆動されるスイッチングデバイスを備えてもよい。スイッチングデバイスは、例えば、上述のパワーデバイス233PDやパワーデバイス231PDである。
【0156】
これにより、例えば、20kHz以上のスイッチング周波数によるスイッチング動作によって、10MHz以上の高周波でのノイズレベルが比較的高くなる場合でも、電力変換装置は、コモンモードノイズを適切に抑制することができる。
【0157】
また、本実施形態では、複数相ごとの巻線の断面積は、1.75mm2以上であってもよい。
【0158】
これにより、巻線の断面積が比較的大きく、第1の巻回り部と第2の巻回り部との距離が更に近くなり易い構造であっても、第1の巻回り部と第2の巻回り部の線間容量を比較的小さくできる。
【0159】
また、本実施形態では、空気調和機は、上記の電力変換装置を備えてもよい。空気調和機は、例えば、上述の空気調和機100である。
【0160】
これにより、電力変換装置は、空気調和機の外部への放射ノイズを抑制することができる。
【0161】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0162】
10 磁性コア
20 コアケース
30 仕切部
31 仕切板
40 巻線
41,42 巻回り部
50,60 リード線
70 突起部材
72 仕切板
74,76 管部材
100 空気調和機
110 室外機
110H 筐体
113 圧縮機
113M 電動機
120 室内機
130,140 冷媒経路
200 電力変換装置
220 ノイズフィルタ
221 コモンモードチョークコイル
222 Yコンデンサ
230 インバータ
231 整流回路
232 平滑回路
233 インバータ回路
L_N1 電源線
L_P1 電源線
L_R 電源線
L_R1~L_R5 電源線
L_S 電源線
L_S1~L_S5 電源線
L_T 電源線
L_T1~L_T5 電源線
PS 商用電源