(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】ポリマーおよび成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 214/22 20060101AFI20250702BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
C08F214/22
C08F293/00
(21)【出願番号】P 2024154318
(22)【出願日】2024-09-06
【審査請求日】2024-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2023144745
(32)【優先日】2023-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 喬大
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 佑磨
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-036069(JP,A)
【文献】特表2018-530662(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0153977(US,A1)
【文献】特表2015-514854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントAとセグメントBとを含むポリマーであって、
一般式(1)または一般式(2)で表される鎖構造を含有しており、
一般式(1):A-B-A
一般式(2):B-A-B
(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。)
セグメントAが、
25℃以下のガラス転移温度を有し、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位ならびにフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有し、セグメントA中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)以外のモノマー単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、0~2モル%であり、
セグメントBが、
50℃以上の融点を有し、
ビニリデンフルオライド単位を含有し、セグメントB中のビニリデンフルオライド単位の含有量が、セグメントBを構成する全モノマー単位に対して、90モル%以上である
ポリマー。
【請求項2】
セグメントAの前記フッ素含有モノマー単位が、ビニリデンフルオライド単位である請求項
1に記載のポリマー。
【請求項3】
セグメントA中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、18モル%以上である請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
セグメントBが、
ビニリデンフルオライド単位のみを含有し、または、
ビニリデンフルオライド単位と、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位および(メタ)アクリル酸単位からなる群より選択される少なくとも1種のモノマー単位とを含有する
請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項5】
セグメントAとセグメントBとの質量比が、40/60~95/5である請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項6】
セグメントAが、
-10℃以下のガラス転移温度を有し、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびビニリデンフルオライド単位を含有し、セグメントA中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、18~30モル%であり、セグメントA中のビニリデンフルオライド単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、70~82モル%であり、
セグメントBが、
140~200℃の融点を有し、
ビニリデンフルオライド単位を含有し、セグメントB中のビニリデンフルオライド単位の含有量が、セグメントBを構成する全モノマー単位に対して、95モル%以上であり、
前記ポリマーにおけるセグメントAとセグメントBとの質量比(A/B)が、50/50~90/10であり、
前記ポリマーの重量平均分子量が、500000~2000000である
請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項7】
請求項1または2に記載のポリマーを含有する成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマーおよび成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ラジカル発生源および炭素と結合したヨウ素を有するアイオダイド化合物の存在下に、ラジカル重合性の不飽和結合を有するモノマーの少くとも2種をラジカル重合するに際し、前記アイオダイド化合物の炭素-ヨウ素結合間に少くとも2種のポリマー鎖セグメントを形成せしめるように前記の各ポリマー鎖セグメントを構成すべきモノマーを逐次重合させて前記ポリマー鎖セグメントの少くとも1種が含フッ素系ポリマー鎖セグメントである多元セグメント化ポリマーを得ることを特徴とする含フッ素系多元セグメント化ポリマーの製法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、2種または3種のポリマー鎖セグメントから成る連鎖と、該連鎖の一端に存在するヨウ素原子ならびに該連鎖の他端に存在するアイオダイド化合物から少なくとも1個のヨウ素原子を除いた残基から成り、
前記ポリマー鎖セグメントの1種(連鎖が2種のポリマー鎖セグメントから成る場合)もしくは1種または2種(連鎖が3種のポリマー鎖セグメントから成る場合)は、(1)ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン(モル比45~90:5~50:0~35)ポリマーおよび(2)パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(アルキル基の炭素数は1~3)/テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド(モル比15~75:0~85(ただし、0を除く):0~85)ポリマーから選択された、分子量30000~1200000のエラストマー性ポリマー鎖セグメントであり、
前記ポリマーセグメントの残余は(3)ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン(モル比0~100:0~100)ポリマーおよび(4)エチレン/テトラフルオロエチレン(モル比40~60:40~60)ポリマーから選択された、分子量3000~400000の非エラストマー性ポリマー鎖セグメントであり、
エラストマー性ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性ポリマー鎖セグメントの重量比が40~95:5~60である、
含フッ素セグメント化ポリマーが記載されている。
【0004】
特許文献3には、
ラジカル重合開始剤と、一般式RI2(式中、Rは炭素数3以上のアルキレン基またはフルオロアルキレン基である。)で表されるヨウ素化合物の存在下に、テトラフルオロエチレンとプロピレンとを主成分とする第1のモノマー成分を0~50℃の重合温度で共重合し、テトラフルオロエチレン/プロピレン系セグメントを製造する第1の工程と、
前記テトラフルオロエチレン/プロピレン系セグメントの存在下に、テトラフルオロエチレンとエチレンとを主成分とする第2のモノマー成分を共重合し、前記テトラフルオロエチレン/プロピレン系セグメントに、テトラフルオロエチレン/エチレン系セグメントを結合する第2の工程とを有することを特徴とする含フッ素ブロックコポリマーの製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献4には、トリフルオロエチレン単位およびフッ化ビニリデンとは異なるさらなる単位;またはトリフルオロエチレン単位とフッ化ビニリデン単位のみ;またはトリフルオロエチレン単位およびフッ化ビニリデン単位およびさらなる単位を有し、ならびにキサンテートもしくはトリチオカーボネートまたは一ヨウ素化末端基を有する、熱可塑性ブロックコポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭53-3495号公報
【文献】特公昭61-49327号公報
【文献】特開2014-070206号公報
【文献】特表2015-514854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示では、容易に成形することができるとともに、耐アルカリ性に優れるポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、セグメントAとセグメントBとを含むポリマーであって、セグメントAが、25℃以下のガラス転移温度を有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位ならびにフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有し、セグメントBが、50℃以上の融点を有するポリマーが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、容易に成形することができるとともに、耐アルカリ性に優れるポリマーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(第1のポリマー)
本開示の第1のポリマーは、セグメントAとセグメントBとを含む。第1のポリマーは、セグメントAとセグメントBとを含むブロックポリマーであってよい。
【0012】
従来、ブロックポリマーとして、たとえば、特許文献2に記載の含フッ素セグメント化ポリマーのように、エラストマー性ポリマー鎖セグメントおよび非エラストマー性ポリマー鎖セグメントから成るものが知られている。特許文献2には、これらのセグメントから成る含フッ素セグメント化ポリマーが、熱可塑性ゴムとして充分実用に耐える性質を備えているものであって、含フッ素系熱可塑性樹脂の場合と同様に、加硫せずに直接圧縮またはその他の方法によって成形加工することができ、その成形品は加硫ゴムとほぼ同程度に望ましいエラストマー性を有することが記載されている。
【0013】
しかしながら、優れた柔軟性を示しつつ、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができるとともに、耐アルカリ性に優れるポリマーは知られていない。
【0014】
ポリマーを2以上のセグメントにより構成し、
少なくとも1のセグメントを、25℃以下のガラス転移温度を有するものとし、さらには、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)により構成し、
少なくとも1のセグメントを、50℃の融点を有するものとする
ことによって、得られるポリマーが、優れた柔軟性を示し、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができるとともに、優れた耐アルカリ性を示すことが見出された。本開示の第1のポリマーは、この知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
第1のポリマーは、セグメントAとセグメントBとを含む。以下、第1のポリマーについて、詳細に説明する。第1のポリマーは、セグメントAとセグメントBとを含むものであれば、セグメントAおよびセグメントBとは構成の異なる他のセグメントを含むものであってもよい。
【0016】
(セグメントA)
セグメントAは、25℃以下のガラス転移温度を有する。セグメントAのガラス転移温度は、好ましくは0℃以下であり、より好ましくは-5℃以下であり、さらに好ましくは-10℃以下であり、下限は限定されないが、-40℃以上であってよい。第1のポリマーは、ガラス転移温度を有するセグメントAを含むことから、柔軟性に優れている。
【0017】
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(メトラー・トレド社製、DSC822e、もしくは、日立ハイテクサイエンス社製、X-DSC7000)を用い、試料10mgを-75℃まで冷却した後、20℃/分で昇温することによりDSC曲線を得て、DSC曲線の二次転移前後のベースラインの延長線と、DSC曲線の変曲点における接線との交点を示す温度をガラス転移温度とすることにより求めることができる。
【0018】
セグメントAの融解熱は、柔軟性を一層向上させることができることから、好ましくは5J/g未満であり、より好ましくは3J/g未満であり、さらに好ましくは2J/g未満である。
【0019】
融解熱は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、試料を30℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱曲線の融解ピーク(ΔH)の大きさから算出することができる。ポリマーが明確な融解ピークを示さない場合には、当該ポリマーには融解熱がなく、すなわち、当該ポリマーの融解熱は0J/gである。
【0020】
セグメントAは、明確な融点を示さないセグメントであってもよい。
【0021】
セグメントAは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有する。第1のポリマーは、ガラス転移温度を有しており、なおかつ、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位を含有するセグメントAを含むことから、柔軟性に優れるとともに、耐アルカリ性にも優れている。また、セグメントAが2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有することによって、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶剤に対するポリマーの溶剤溶解性を向上させることができる。
【0022】
セグメントAを構成し得るフッ素含有モノマーとしては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびトリフルオロエチレン以外のモノマーであって、フッ素原子を含有するモノマーであれば特に限定されないが、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどが挙げられる。
【0023】
セグメントAを構成し得るフッ素含有モノマーとしては、VdF、TFE、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、および、クロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、VdFおよびTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、VdFがさらに好ましい。セグメントAがVdF単位を含有することによって、セグメントAのガラス転移温度を所望の範囲内に容易に調整することができ、柔軟性を一層向上させることができる。また、セグメントAがVdF単位を含有することによって、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶剤に対するポリマーの溶剤溶解性を向上させることができる。
【0024】
セグメントA中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量は、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは1~85モル%であり、より好ましくは6モル%以上であり、さらに好ましくは12モル%以上であり、尚さらに好ましくは18モル%以上であり、特に好ましくは20モル%以上であり、より好ましくは78モル%以下であり、さらに好ましくは50モル%以下であり、尚さらに好ましくは40モル%以下であり、特に好ましくは30モル%以下である。
【0025】
セグメントA中のフッ素含有モノマー単位の含有量は、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは99~15モル%であり、より好ましくは94モル%以下であり、さらに好ましくは88モル%以下であり、尚さらに好ましくは82モル%以下であり、特に好ましくは78モル%以下であり、より好ましくは22モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、尚さらに好ましくは60モル%以上であり、特に好ましくは70モル%以上である。
【0026】
セグメントA中のVdF単位の含有量は、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは99~15モル%であり、より好ましくは94モル%以下であり、さらに好ましくは88モル%以下であり、尚さらに好ましくは82モル%以下であり、特に好ましくは78モル%以下であり、より好ましくは22モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、尚さらに好ましくは60モル%以上であり、特に好ましくは70モル%以上である。
【0027】
セグメントAは、フッ素非含有モノマー単位をさらに含有してもよい。フッ素非含有モノマーとしては、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。フッ素非含有モノマー単位の含有量は、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~50モル%であり、より好ましくは0~10モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、0モル%であってもよい。
【0028】
セグメントAは、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、I、Br、-CH2OH、炭素間二重結合などの反応性基を有するモノマーに基づく単位をさらに含有してもよい。反応性基を有するモノマーに基づく単位の含有量は、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~50モル%であり、より好ましくは0~10モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、0モル%であってもよい。
【0029】
本開示において、各モノマー単位の含有量は、NMR法により測定することができる。
【0030】
一実施形態においては、セグメントAを、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン/VdF共重合体、または、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン/VdF/TFE共重合体により形成することができる。
【0031】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン/VdF共重合体においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位/VdF単位の組成(モル%)が、好ましくは(18~40)/(82~60)であり、より好ましくは(20~30)/(80~70)である。
【0032】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン/VdF/TFE共重合体においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位/VdF単位/TFE単位の組成(モル%)が、好ましくは(18~40)/(81~25)/(1~35)であり、より好ましくは(20~40)/(75~30)/(5~30)である。
【0033】
一実施形態において、セグメントAは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位以外のモノマー単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは0~2モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、尚更に好ましくは0~0.1モル%であり、特に好ましくは0モル%である。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量およびフッ素含有モノマー単位の含有量は、上記した範囲内であってよい。
【0034】
一実施形態において、セグメントAは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびVdF単位を含有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびVdF単位以外のモノマー単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは0~2モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、尚更に好ましくは0~0.1モル%であり、特に好ましくは0モル%である。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量およびVdF単位の含有量は、上記した範囲内であってよい。
【0035】
(セグメントB)
セグメントBは、50℃以上の融点を有する。セグメントBの融点は、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは140℃以上であり、好ましくは240℃以下であり、より好ましくは220℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。第1のポリマーは、ガラス転移温度を有するセグメントAに加えて、融点を有するセグメントBを含むことから、柔軟性に優れており、さらには、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができる。本開示において、ポリマーを容易に成形できるとは、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法などの一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができることをいう。
【0036】
融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、試料を30℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱曲線のピークにあたる温度として求めることができる。
【0037】
通常、セグメントBの融点は、第1のポリマーの融点と同じである。したがって、第1のポリマーの融点を測定することにより、第1のポリマー中のセグメントBの融点を把握することができる。
【0038】
セグメントBの融解熱は、好ましくは5J/g以上であり、より好ましくは10J/g以上であり、さらに好ましくは30J/g以上であり、尚さらに好ましくは35J/g以上であり、好ましくは90J/g以下であり、より好ましくは60g/g以下であり、さらに好ましくは55J/g以下である。
【0039】
融解熱は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、試料を30℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱曲線の融解ピーク(ΔH)の大きさから算出することができる。
【0040】
セグメントBは、融点を有するポリマーから形成されていれば、フッ素含有モノマー単位を含有するものであってもよいし、フッ素非含有モノマー単位を含有するものであってもよい。第1のポリマーの耐アルカリ性を一層向上させる観点からは、セグメントBが、フッ素含有モノマー単位を含有することが好ましく、フッ素含有モノマー単位(ただし、トリフルオロエチレン単位を除く)を含有することがより好ましい。
【0041】
フッ素含有モノマーとしては、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどが挙げられる。
【0042】
フッ素含有モノマーとしては、VdF、TFE、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、および、クロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、VdFおよびTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、VdFがさらに好ましい。
【0043】
セグメントBが、フッ素含有モノマー単位として、VdF単位を有する場合、第1のポリマーは、優れた柔軟性を示し、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができるとともに、優れた耐アルカリ性を示し、しかも、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶剤に対して優れた溶剤溶解性を示す。
【0044】
セグメントBは、VdF単位に加えて、VdF以外の他のモノマー単位を含有するものであってもよい。他のモノマーは、フッ素含有モノマーおよびフッ素非含有モノマーのいずれであってもよく、フッ素含有モノマー(ただし、トリフルオロエチレンを除く)またはフッ素非含有モノマーが好ましい。
【0045】
VdFとともにセグメントBを構成し得るフッ素含有モノマーとしては、TFE、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンなどが挙げられる。
【0046】
VdFとともにセグメントBを構成し得るフッ素非含有モノマーとしては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0047】
セグメントBは、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基などの極性基を有するモノマーに基づく単位をさらに含有してもよい。
【0048】
極性基を有するモノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸(3-ブテン酸)、3-ペンテン酸、4-ペンテン酸、3-ヘキセン酸、4-ヘプテン酸等の不飽和一塩基酸;マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、アクリロイルオキシプロピルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;等が挙げられる。
【0049】
VdFとともにセグメントBを構成し得る他のモノマーとしては、なかでも、TFE、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび(メタ)アクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0050】
セグメントB中のVdF単位の含有量は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶剤に対する溶剤溶解性が一層向上することから、セグメントBを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上であり、尚さらに好ましくは99モル%以上であり、100モル%以下であってよい。
【0051】
セグメントB中の他のモノマー単位の含有量は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶剤に対する溶剤溶解性が一層向上することから、セグメントBを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下であり、尚さらに好ましくは1モル%以下であり、0モル%以上であってよい。
【0052】
一実施形態においては、セグメントBを、VdF単位のみを含有するVdFホモポリマー、または、VdF単位と、TFE単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位および(メタ)アクリル酸単位からなる群より選択される少なくとも1種の他のモノマー単位とを含有する共重合体により形成することができる。
【0053】
VdF単位と他のモノマー単位とを含有する共重合体においては、VdF単位/他のモノマー単位の組成(モル%)が、好ましくは97.0~99.9/3.0~0.1である。
【0054】
第1のポリマーは、セグメントAとセグメントBとを含むものであれば、セグメントAおよびセグメントBとは構成の異なる他のセグメントCを含むものであってもよい。
【0055】
第1のポリマーとしては、下記の一般式のいずれかで表される鎖構造を含有するブロックポリマーが挙げられる。
一般式:A-B
一般式:A-B-A
一般式:B-A-B
一般式:A-B-C
一般式:B-A-C
(式中、AはセグメントA、BはセグメントB、CはセグメントCを表す)。
【0056】
第1のポリマーは、耐アルカリ性を一層向上することができ、製造も容易であることから、一般式(1)または一般式(2)で表される鎖構造を含有することが好ましい。
一般式(1):A-B-A
一般式(2):B-A-B
(式中、AはセグメントA、BはセグメントBを表す。)
【0057】
第1のポリマーにおいて、セグメントAとセグメントBとの質量比(A/B)は、優れた柔軟性と優れた耐アルカリ性とのバランスの観点から、好ましくは40/60~95/5であり、より好ましくは50/50以上であり、さらに好ましくは60/40以上であり、より好ましくは90/10以下である。
【0058】
第1のポリマーの数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは20000~1500000であり、より好ましくは40000以上であり、さらに好ましくは70000以上であり、特に好ましくは140000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0059】
第1のポリマーの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは50000~3000000であり、より好ましくは80000以上であり、さらに好ましくは100000以上であり、尚さらに好ましくは200000以上であり、特に好ましくは500000以上であり、より好ましくは2400000以下であり、さらに好ましくは2200000以下であり、特に好ましくは2000000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0060】
本開示の第1のポリマーは、たとえば、
(1)連鎖移動剤としての臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、セグメントBを構成し得るモノマーを重合することにより、セグメントBを形成するポリマーを調製し、セグメントBを形成するポリマーの存在下に、セグメントAを構成し得るモノマーを重合することにより、セグメントAを形成するポリマーを調製する方法、
(2)連鎖移動剤としての臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、セグメントAを構成し得るモノマーを重合することにより、セグメントAを形成するポリマーを調製し、セグメントAを形成するポリマーの存在下に、セグメントBを構成し得るモノマーを重合することにより、セグメントBを形成するポリマーを調製する方法、
などの製造方法により製造することができる。
【0061】
方法(1)を用いる場合、セグメントBを形成するポリマー鎖の両端にそれぞれ結合したセグメントAを形成するポリマー、すなわち、一般式(1):A-B-Aで表される鎖構造を含有するポリマーが得られる。
【0062】
また、方法(2)を用いる場合、セグメントAを形成するポリマー鎖の両端にそれぞれ結合したセグメントBを形成するポリマー、すなわち、一般式(2):B-A-Bで表される鎖構造を含有するポリマーが得られる。
【0063】
方法(1)および方法(2)においては、連鎖移動剤として、臭素化合物またはヨウ素化合物を用いる。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素原子または臭素原子が、1のセグメントを形成するポリマー鎖末端に導入され、他のセグメントの結合部位として機能する。
【0064】
臭素化合物またはヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、たとえば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法があげられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物またはヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、
一般式:R8IxBry
(式中、xおよびyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R8は炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または、炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。
【0065】
ヨウ素化合物としては、たとえば1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、2-ヨードパーフルオロプロパン、1,3-ジヨード-2-クロロパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタン、1,12-ジヨードパーフルオロドデカン、1,16-ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、CF2Br2、BrCF2CF2Br、CF3CFBrCF2Br、CFClBr2、BrCF2CFClBr、CFBrClCFClBr、BrCF2CF2CF2Br、BrCF2CFBrOCF3、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2-ヨードエチル)および(2-ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0066】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、2-ヨードパーフルオロプロパンを用いることが好ましい。
【0067】
上記の製造方法において、モノマーの重合は、好適には乳化重合法を用いて行われる。一実施形態においては、重合開始剤、界面活性剤および溶媒の存在下に、モノマーの重合が行われる。
【0068】
重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤または水溶性ラジカル開始剤が挙げられる。
【0069】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類などが、また、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドなどのジ[パーフロロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類などが代表的なものとしてあげられる。
【0070】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられる。サルファイト類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0071】
重合開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(たとえば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、または逐次的に、または連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱を除熱出来る範囲である。
【0072】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが使用できる。添加量(対溶媒)は、好ましくは10質量ppm~20質量%であり、より好ましくは10質量ppm~10質量%であり、さらに好ましくは10~5000質量ppmであり、特に好ましくは50~5000質量ppmである。
【0073】
また、界面活性剤として重合性乳化剤を使用してもよい。重合性乳化剤は、不飽和結合と親水基とをそれぞれ1つ以上有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4、CH2=CFCF2CF(CF3)OCF2CF2COONH4、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF(CF3)COONH4があげられる。添加量(対溶媒)は、好ましくは10~5000質量ppmであり、より好ましくは50~5000質量ppmである。
【0074】
溶媒としては、連鎖移動性を持たない溶媒であることが好ましい。溶媒としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合物、または、水と非水溶性有機溶媒との混合物があげられる。
【0075】
モノマーの重合において、重合温度、重合圧力および重合時間は、溶媒や重合開始剤の種類によって異なるが、-15~150℃、大気圧~12MPa、1~24時間であってよい。重合開始剤として、油溶性ラジカル重合開始剤を使用する場合、重合温度が30~95℃であることが好ましい。重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤を使用する場合、重合温度が0~100℃であることが好ましく、10~95℃であることがより好ましい。
【0076】
モノマーの重合を乳化重合法により行った場合、ポリマーを含有する水性分散液が得られる。上記の製造方法において、水性分散液中のポリマーを凝析させ、水洗し、脱水し、乾燥することによって、ポリマーの粉体を得ることができる。凝析は、硫酸アルミニウム等の無機塩または無機酸を分散液に添加するか、機械的な剪断力を分散液に与えるか、分散液を凍結させることによって行うことができる。
【0077】
また、第1のポリマーは、特開昭53-3495号公報、特公昭61-49327号公報に記載の方法に従って、モノマーとして少なくとも2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることによっても、製造することができる。
【0078】
(第2のポリマー)
本開示の第2のポリマーは、ガラス転移温度および融点を有するポリマーであって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有しており、25℃のテトラヒドロフラン抽出量が5質量%以下である。第2のポリマーには、トリフルオロエチレン単位を含有するポリマーは含まれない。
【0079】
上述したとおり、優れた柔軟性を示しつつ、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができるとともに、耐アルカリ性に優れるポリマーは知られていない。
【0080】
ポリマーがガラス転移温度および融点を有するように、ポリマーの構成を選択し、
ポリマー中に、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を導入し、
ポリマーの25℃におけるテトラヒドロフラン抽出量が5質量%以下となるように、ポリマーの構成を選択する
ことによって、得られるポリマーが、優れた柔軟性を示し、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができるとともに、優れた耐アルカリ性を示すことが見出された。本開示の第2のポリマーは、この知見に基づいて完成されたものである。
【0081】
第2のポリマーのガラス転移温度は、好ましくは25℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは-5℃以下であり、尚さらに好ましくは-10℃以下であり、下限は限定されないが、-40℃以上であってよい。第2のポリマーは、ガラス転移温度を有していることから、柔軟性に優れている。
【0082】
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(メトラー・トレド社製、DSC822e、もしくは、日立ハイテクサイエンス社製、X-DSC7000)を用い、試料10mgを-75℃まで冷却した後、20℃/分で昇温することによりDSC曲線を得て、DSC曲線の二次転移前後のベースラインの延長線と、DSC曲線の変曲点における接線との交点を示す温度をガラス転移温度とすることにより求めることができる。
【0083】
第2のポリマーの融点は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは90℃以上であり、さらに好ましくは140℃以上であり、好ましくは240℃以下であり、より好ましくは220℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。第2のポリマーは、ガラス転移温度を有することに加えて、融点を有することから、柔軟性に優れており、さらには、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができる。
【0084】
融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、試料を30℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱曲線のピークにあたる温度として求めることができる。
【0085】
第2のポリマーのテトラヒドロフラン抽出量は、5質量%以下であり、好ましくは4質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。テトラヒドロフラン抽出量を上記の数値範囲内とすることによって、ポリマーに柔軟性を付与することができ、しかも、ポリマーに優れた成形性を付与することができる。テトラヒドロフラン抽出量の下限は、特に限定されないが、1質量%以上または2質量%以上であってよい。
【0086】
テトラヒドロフラン抽出量は、ポリマーをテトラヒドロフランに25℃で浸漬し、ろ過した溶液部分を乾固させる方法により測定することができる。
【0087】
第2のポリマーは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有している。第2のポリマーは、ガラス転移温度および融点を有しており、なおかつ、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有していることから、柔軟性に優れるとともに、耐アルカリ性にも優れている。
【0088】
第2のポリマーは、フッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有することが好ましい。ポリマー中にフッ素含有モノマー単位を導入することにより、ポリマーのガラス転移温度および融点を容易に調整することができ、柔軟性および耐アルカリ性を一層向上させることができる。
【0089】
第2のポリマーを構成し得るフッ素含有モノマーとしては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびトリフルオロエチレン以外のモノマーであって、フッ素原子を含有するモノマーであれば特に限定されないが、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどが挙げられる。
【0090】
第2のポリマーを構成し得るフッ素含有モノマーとしては、VdF、TFE、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、および、クロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、VdFおよびTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、VdFがさらに好ましい。
【0091】
第2のポリマー中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量は、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは1~65モル%であり、より好ましくは5モル%以上であり、さらに好ましくは9モル%以上であり、尚さらに好ましくは12モル%以上であり、特に好ましくは14モル%以上であり、より好ましくは62モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下であり、尚さらに好ましくは32モル%以下であり、特に好ましくは24モル%以下である。
【0092】
第2のポリマー中のフッ素含有モノマー単位の含有量は、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは99~35モル%であり、より好ましくは95モル%以下であり、さらに好ましくは91モル%以下であり、尚さらに好ましくは88モル%以下であり、特に好ましくは86モル%以下であり、より好ましくは38モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上であり、尚さらに好ましくは68モル%以上であり、特に好ましくは76モル%以上である。
【0093】
第2のポリマーが、フッ素含有モノマー単位として、VdF単位を含有する場合、第2のポリマーは、優れた柔軟性を示し、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができるとともに、一層優れた耐アルカリ性を示し、しかも、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶剤に対して一層優れた溶剤溶解性を示す。
【0094】
第2のポリマー中のVdF単位の含有量は、溶剤溶解性が一層向上することから、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは99~35モル%であり、より好ましくは95モル%以下であり、さらに好ましくは91モル%以下であり、尚さらに好ましくは88モル%以下であり、特に好ましくは86モル%以下であり、より好ましくは38モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上であり、尚さらに好ましくは68モル%以上であり、特に好ましくは76モル%以上である。
【0095】
第2のポリマーは、フッ素非含有モノマー単位をさらに含有してもよい。フッ素非含有モノマーとしては、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。フッ素非含有モノマー単位の含有量は、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~40モル%であり、より好ましくは0~8モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、0モル%であってもよい。
【0096】
第2のポリマーは、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、I、Br、-CH2OH、炭素間二重結合などの反応性基を有するモノマーに基づく単位をさらに含有してもよい。反応性基を有するモノマーに基づく単位の含有量は、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは0~2モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、0モル%であってもよい。
【0097】
第2のポリマーは、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基などの極性基を有するモノマーに基づく単位をさらに含有してもよい。
【0098】
極性基を有するモノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸(3-ブテン酸)、3-ペンテン酸、4-ペンテン酸、3-ヘキセン酸、4-ヘプテン酸等の不飽和一塩基酸;マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、アクリロイルオキシプロピルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;等が挙げられる。
【0099】
極性基を有するモノマーに基づく単位の含有量は、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは0~2モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、0モル%であってもよい。
【0100】
一実施形態において、第2のポリマーは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびフッ素含有モノマー単位以外のモノマー単位の含有量が、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは0~2モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、尚更に好ましくは0~0.1モル%であり、特に好ましくは0モル%である。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量およびフッ素含有モノマー単位の含有量は、上記した範囲内であってよい。
【0101】
一実施形態において、第2のポリマーは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびVdF単位を含有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびVdF単位以外のモノマー単位の含有量が、第2のポリマーを構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは0~2モル%であり、さらに好ましくは0~1モル%であり、尚更に好ましくは0~0.1モル%であり、特に好ましくは0モル%である。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量およびVdF単位の含有量は、上記した範囲内であってよい。
【0102】
第2のポリマーの数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは20000~1500000であり、より好ましくは40000以上であり、さらに好ましくは70000以上であり、特に好ましくは140000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0103】
第2のポリマーの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは50000~3000000であり、より好ましくは80000以上であり、さらに好ましくは100000以上であり、尚さらに好ましくは200000以上であり、特に好ましくは500000以上であり、より好ましくは2400000以下であり、さらに好ましくは2200000以下であり、特に好ましくは2000000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0104】
第2のポリマーの融解熱は、好ましくは1J/g以上であり、より好ましくは3J/g以上であり、さらに好ましくは5J/g以上であり、尚さらに好ましくは8J/g以上であり、好ましくは40J/g以下であり、より好ましくは30g/g以下であり、さらに好ましくは20J/g以下である。
【0105】
第2のポリマーの一実施形態においては、2以上のセグメントを含む。ポリマーを2以上のセグメントにより構成することによって、ポリマーにガラス転移温度および融点を容易に付与できるとともに、ポリマーのガラス転移温度および融点を容易に調整することができ、柔軟性および耐アルカリ性を一層向上させることができる。
【0106】
第2のポリマーが2以上のセグメントを含む場合、各セグメントの構成は、第1のポリマーの各セグメントの構成と同様なものとすることができる。すなわち、第2のポリマーは、第1のポリマーと同様に、セグメントAとセグメントBとを含むことができ、第1のポリマーと同様の構成をとり得る。また、第1のポリマーも、第2のポリマーと同様の構成をとり得る。
【0107】
本開示の第2のポリマーは、たとえば、本開示の第1のポリマーの製造方法として上述した方法により、製造することができる。
【0108】
本開示の第1のポリマーまたは本開示の第2のポリマー(以下、第1のポリマーおよび第2のポリマーを単に「本開示のポリマー」ということがある)と、他の成分とを混合することにより、組成物を調製してもよい。他の成分としては、充填剤、可塑剤、加工助剤、離型剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤、脱フッ化水素剤等を挙げることができる。
【0109】
また、他の成分として、本開示のポリマーとは異なる他のポリマーを用いることもできる。他のポリマーとしては、フッ素樹脂、フッ素ゴム、フッ素非含有ポリマーなどが挙げられる。
【0110】
本開示のポリマーまたは上記の組成物を成形して、成形品を得ることもできる。
【0111】
本開示のポリマーまたは上記の組成物は、一般の熱可塑性樹脂に適用される成形方法により成形することができる。成形方法としては、たとえば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、トランスファー成形法、ロト成形法、ロトライニング成形法等が挙げられる。
【0112】
本開示のポリマーの一実施形態においては、良好な溶剤溶解性を示す。本開示のポリマーは、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;ジオキサン等のエーテル系溶剤;などの溶剤に良く溶解する。
【0113】
本開示のポリマーが良好な溶剤溶解性を示す場合、本開示のポリマーを溶剤に溶解させて、塗料として用いることもできる。
【0114】
また、本開示のポリマーまたは上記の組成物は、電池の電極を形成するための結着剤としても用いることができる。
【0115】
本開示のポリマーを含有する成形品は、柔軟性および耐アルカリ性に優れていることから、各種の用途に使用可能である。
【0116】
成形品は、たとえば、チューブ、ホース、フィルム、電線の被覆材、ロール、フレキシブルジョイント、ゴム板、ベルト、ダンパー、バルブ、バルブシート、バルブの弁体、耐薬品用コーティング材料、ラミネート用材料、ライニング用材料などとして使用できる。
【0117】
成形品は、また、リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、オイルシール、ベアリングシール、リップシール、プランジャーシール、ドアシール、フェースシール、ガスデリバリープレートシール、ウエハサポートシール、バレルシール等の各種シール材としても使用できる。
【0118】
特に、本開示のポリマーを含有する成形品は、柔軟性および耐アルカリ性に優れていることから、半導体製造用の薬液供給設備や食品装置に用いる各種の部材、たとえば、配管、チューブ、継手、バルブ、タンク、容器、薬液バック、ポンプ、フィルターなどに好適に利用できる。
【0119】
本開示のポリマーを含有する成形品を、人体に接触する成形品として利用することも好適である。
【0120】
人体に接触する成形品は、時計ベルトのように常時接触する必要はなく、スマートホンケースのように使用時にのみ接触するものであってもよい。また、成形品の全面が人体と接触する必要はなく、一部であってもよい。このような成形品の具体的な用途としては、以下のようなものが挙げられる。
【0121】
(1)自動車、バイク、船舶、航空機、自転車等の内装品
ハンドル、アームレスト、シフトレバー、座席カバー等
(2)ウエアラブル
スマートウォッチ、スマートバンド、スマートグラス、VR(VirtualReality)機器、身体貼り付け型、その他(衣服取り付け型、指輪型)等
(3)眼鏡部品
ノーズパット、蔓等
(4)健康グッズ
磁気ネックレス、磁気ブレスレット、ピップエレキバン(登録商標)等の磁気絆創膏タイプ、骨盤ベルト、サポーター、ヒーリングドール等
(5)スポーツ用品
マット、シューズ、水中マスク、シュノーケル、ダイビング用品、フィッシング用品、ゴルフクラブグリップ等
(6)イヤホン部品、ヘッドフォン部品
ケーブル、イヤーフック、イヤーピース、イヤーパッド等
(7)電子機器カバー
スマートフォンカバー、タブレットカバー、キーボード(カバー)等
(8)キッチン用品
ヘラ、フライ返し、ボウル、スチーマー、お菓子の焼き型、お弁当カップ、乳児・介護用ラバーエプロン、哺乳瓶、おしゃぶり(容器、吸い口)、水筒、マグカップ、鍋釜の取手等
(9)ペット用品
トイレトレー、エサ皿、首輪等
(10)事務用品
ペングリップ、マウス、マウスパッド等
(11)装飾品
ブーツ、長靴、靴中敷、帽子、ヘアバンド、レインコート、傘や杖のグリップ等
(12)その他
ボタン、車椅子ホイルソックス、かばん、ビューラー、補聴器、ラバーアクセサリー、磁気を含まないファッション用途のラバーアクセサリー、ロボット外装、ロボット(屈曲)ケーブル、銭湯ロッカーキー等
【0122】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0123】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
セグメントAとセグメントBとを含むポリマーであって、
セグメントAが、
25℃以下のガラス転移温度を有し、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位ならびにフッ素含有モノマー単位(ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびトリフルオロエチレン単位を除く)を含有し、
セグメントBが、
50℃以上の融点を有する
ポリマーが提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
一般式(1)または一般式(2)で表される鎖構造を含有する第1の観点によるポリマーが提供される。
一般式(1):A-B-A
一般式(2):B-A-B
(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。)
<3> 本開示の第3の観点によれば、
セグメントAの前記フッ素含有モノマー単位が、ビニリデンフルオライド単位である第1または第2の観点によるポリマーが提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
セグメントA中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、18モル%以上である第1~第3のいずれかの観点によるポリマーが提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
セグメントBが、ビニリデンフルオライド単位を含有し、セグメントB中のビニリデンフルオライド単位の含有量が、セグメントBを構成する全モノマー単位に対して、90モル%以上である第1~第4のいずれかの観点によるポリマーが提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
セグメントBが、
ビニリデンフルオライド単位のみを含有し、または、
ビニリデンフルオライド単位と、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位および(メタ)アクリル酸単位からなる群より選択される少なくとも1種のモノマー単位とを含有する
第1~第5のいずれかの観点によるポリマーが提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
セグメントAとセグメントBとの質量比が、40/60~95/5である第1~第6のいずれかの観点によるポリマーが提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
一般式(1)または一般式(2)で表される鎖構造を含有しており、
一般式(1):A-B-A
一般式(2):B-A-B
(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。)
セグメントAが、
-10℃以下のガラス転移温度を有し、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびビニリデンフルオライド単位を含有し、セグメントA中の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、18~30モル%であり、セグメントA中のビニリデンフルオライド単位の含有量が、セグメントAを構成する全モノマー単位に対して、70~82モル%であり、
セグメントBが、
140~200℃の融点を有し、
ビニリデンフルオライド単位を含有し、セグメントB中のビニリデンフルオライド単位の含有量が、セグメントBを構成する全モノマー単位に対して、95モル%以上であり、
前記ポリマーにおけるセグメントAとセグメントBとの質量比(A/B)が、50/50~90/10であり、
前記ポリマーの重量平均分子量が、500000~2000000である
第1~第7のいずれかの観点によるポリマーが提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
ガラス転移温度および融点を有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有し、25℃のテトラヒドロフラン抽出量が5質量%以下であるポリマー(ただし、トリフルオロエチレン単位を含有するポリマーを除く)が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
さらに、ビニリデンフルオライド単位を含有する第9の観点によるポリマーが提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
2以上のセグメントを含む第9または第10の観点によるポリマーが提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
ガラス転移温度が、-10℃以下であり、
融点が、140~200℃であり、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位およびビニリデンフルオライド単位を含有し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量が、前記ポリマーを構成する全モノマー単位に対して、12~24モル%であり、ビニリデンフルオライド単位の含有量が、前記ポリマーを構成する全モノマー単位に対して、76~88モル%であり、
25℃のテトラヒドロフラン抽出量が2~4質量%であり、
重量平均分子量が、500000~2000000である
第9~第11のいずれかの観点によるポリマーが提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
第1~第12のいずれかの観点によるポリマーを含有する成形品が提供される。
【実施例】
【0124】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0125】
(重合方法)
以下の各合成例に沿った重合方法によってポリマーを重合した。得られた重合体について、以下の評価基準に基づいて評価を行った。
【0126】
(THF抽出量)
各実施例において得られたポリマー1gに9gのテトラヒドロフラン(THF)を加えて、25℃で、スターラーを用いて撹拌した。24時間後に固形分をろ過し、溶液を乾固させ乾固物の重量を測定することで抽出量を算出した。
【0127】
(溶剤溶解性)
各実施例において得られたポリマー1gに9gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えてスターラーを用いて撹拌した。24時間後に残存物が無いことを確認し、以下の基準により評価した。
〇:残存物がなかった
×:残存物があった
【0128】
(耐アルカリ性)
各実施例において得られたポリマーを圧縮成形することにより、2mmの厚みを有するシート状の成形品を得た。ポリマーが融点を有する場合は、ポリマーの融点から20~40℃高い温度で圧縮成形を行った。ポリマーが融点を有しない場合は、100℃で圧縮成形を行った。成形品を1体積%アンモニア水に90℃、72時間浸漬させた後、重量を測定した。浸漬前後の重量変化率を下記式に従って算出し、以下の基準により評価した。
重量変化率(%)=[(浸漬後の成形品の重量)-(浸漬前の成形品の重量)]/(浸漬前の成形品の重量)×100
〇:重量変化率が10%以下であった
×:重量変化率が10%超であった
【0129】
(組成分析)
ポリマー組成は、溶液NMR法により測定した。
測定装置:バリアン社製 VNMRS400
共鳴周波数:376.04(Sfrq)
パルス幅:30°
【0130】
(重量平均分子量(Mw))
GPC法により測定した結果に基づき、標準ポリスチレンを基準として分子量を計算した。
GPC装置:TOSOH HLC-8320GPC
カラム:SuperAW-H 1本、 SuperAWM-H 3本
展開溶媒:ジメチルホルムアミド〔DMF〕
試料濃度:0.05質量%
測定温度:40℃
【0131】
(ガラス転移温度)
示差走査熱量計X-DSC7000(日立ハイテクサイエンス社製)を用い、試料10mgを20℃/分で昇温することによりDSC曲線を得て、DSC曲線の二次転移前後のベースラインの延長線と、DSC曲線の変曲点における接線との交点を示す温度をガラス転移温度とした。
【0132】
(融点)
示差走査熱量計X-DSC7000(日立ハイテクサイエンス社製)を用い、試料10mgを10℃/分で昇温することによりDSC曲線を得て、得られた吸熱曲線のピークにあたる温度を融点として特定し、吸熱曲線の融解ピーク(ΔH)の大きさから融解熱を算出した。
【0133】
実施例1
(B-A-Bブロックポリマーの製造(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。))
(工程1)
6Lのステンレス製オートクレーブに純水4000ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 50%水溶液を0.8001g、C5F11COONH4 50%水溶液を24.021g入れ窒素置換し、VdFで微加圧とし、400rpmで攪拌しながら80℃に温調して、VdFを1.64MPaまで圧入し、さらにVdFと2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)のモル比が77.2/22.8の混合液モノマーを2.001MPaまで圧入した。過硫酸アンモニウム0.16gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。混合液モノマー24gに到達したときに1,4-ジヨードパーフルオロブタン1.009gを添加した。圧力が1.98MPaまで降下したところで混合液モノマーにて2.01MPaまで昇圧し、これを繰り返し1020g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを0.05MPaまで放出後、3時間熱処理を行った。オートクレーブ内の分散液を10gサンプリングし、乾固させることで得られたポリマーの組成はモル比でVdF/R1234yf=77.6/22.4、ガラス転移温度は-12.5℃、融解熱はなかった。
【0134】
(工程2)
工程1の熱処理後にオートクレーブを80℃に維持したまま、VdFで2.003MPaまで圧入し、過硫酸アンモニウム0.08gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。圧力が1.98MPaまで降下したところでVdFにて2.01MPaまで昇圧し、これを繰り返し180g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを放出し冷却し、5270gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は23.83wt%であった。
【0135】
この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで1250gのポリマーを得た。得られたブロックポリマーの組成はモル比でVdF/R1234yf=82.0/18.0、組成から求めたセグメントBの含有割合は17.2wt%であった。重量平均分子量Mwは126.6万、ガラス転移温度は-12.9℃、融点は160.3℃、融解熱は8.2mJ/mgであった。
【0136】
実施例2
(B-A-Bブロックポリマーの製造(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。))
工程1の混合液モノマー仕込量を1020gから900gに変更、工程2のVdF仕込量を180gから300gに変更した以外は実施例1と同じ手順に従い、5236gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は24.10wt%であった。
【0137】
この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで1257gのポリマーを得た。得られたブロックポリマーの組成はモル比でVdF/R1234yf=84.2/15.8、組成から求めたセグメントBの含有割合は28.1wt%であった。重量平均分子量Mwは120.6万、ガラス転移温度は-11.0℃、融点は161.1℃、融解熱は11.0mJ/mgであった。
【0138】
実施例3
(B-A-Bブロックポリマーの製造(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。))
工程1の混合液モノマー仕込量を1020gから780gに変更、工程2のVdF仕込量を180gから420gに変更した以外は実施例1と同じ手順に従い、5252gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は23.74wt%であった。
【0139】
この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで1250gのポリマーを得た。得られたブロックポリマーの組成はモル比でVdF/R1234yf=85.9/14.1、組成から求めたセグメントBの含有割合は36.0wt%であった。重量平均分子量Mwは161.4万、ガラス転移温度は-11.2℃、融点は161.4℃、融解熱は17.1mJ/mgであった。
【0140】
実施例4
(A-B-Aブロックポリマーの製造(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。))
(工程1)
6Lのステンレス製オートクレーブに純水4000ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 50%水溶液を0.8003g、C5F11COONH4 50%水溶液を24.014g入れ窒素置換し、VdFで微加圧とし、400rpmで攪拌しながら80℃に温調して、VdFを2.00MPaまで圧入した。過硫酸アンモニウム0.16gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。VdF24gに到達したときに1,4-ジヨードパーフルオロブタン1.009g添加した。圧力が1.98MPaまで降下したところでVdFにて2.01MPaまで昇圧し、これを繰り返し300g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを0.05MPaまで放出後、3時間熱処理を行った。オートクレーブ内の分散液を10gサンプリングし、乾固させることでポリマーを得た。得られたポリマーのガラス転移温度は見えなかった。融点は161.1℃、融解熱は44.8mJ/mgであった。
【0141】
(工程2)
工程1の熱処理後にオートクレーブを80℃に維持したまま、VdFで1.64MPaおよびVdFとR1234yfのモル比が77.5/22.5の混合液モノマーで2.001MPaまで圧入し、過硫酸アンモニウム0.08gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。圧力が1.98MPaまで降下したところで混合液モノマーにて2.01MPaまで昇圧し、これを繰り返し900g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを放出し冷却し、5271gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は23.80wt%であった。
【0142】
この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで1248gのポリマーを得た。得られたブロックポリマーの組成はモル比でVdF/R1234yf=82.7/17.3、組成から求めたセグメントBの含有割合は24.1wt%であった。重量平均分子量Mwは142.6万、ガラス転移温度は-10.4℃、融点は160.8℃、融解熱は10.8mJ/mgであった。
【0143】
比較例1
(B-A-Bブロックポリマーの製造(式中、AはセグメントAを表し、BはセグメントBを表す。))
(工程1)
6Lのステンレス製オートクレーブに純水4000ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 50%水溶液を0.8001g、C5F11COONH4 50%水溶液を24.021g入れ窒素置換し、ヘキサフルオロプロペン(HFP)で微加圧とし、400rpmで攪拌しながら80℃に温調して、HFPを0.68MPaまで圧入し、さらにVdFとHFPのモル比が78.3/21.7の混合液モノマーを2.001MPaまで圧入した。過硫酸アンモニウム0.16gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。混合液モノマー24gに到達したときに1,4-ジヨードパーフルオロブタン1.003g添加した。圧力が1.98MPaまで降下したところで混合液モノマーにて2.01MPaまで昇圧し、これを繰り返し1020g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを0.05MPaまで放出後、3時間熱処理を行った。オートクレーブ内の分散液を10gサンプリングし、乾固させることで得られたポリマーの組成はモル比でVdF/HFP=78.6/21.4であった。
【0144】
(工程2)
工程1の熱処理後にオートクレーブを80℃に維持したまま、VdFで2.003MPaまで圧入し、過硫酸アンモニウム0.08gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。圧力が1.98MPaまで降下したところでVdFにて2.01MPaまで昇圧し、これを繰り返し180g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを放出し冷却し、5275gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は23.81wt%であった。
【0145】
この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで1245gのポリマーを得た。得られたブロックポリマーの組成はモル比でVdF/HFP=82.5/17.5、組成から求めたセグメントBの含有割合は14.8wt%であった。重量平均分子量Mwは115.0万、ガラス転移温度は-18.7℃、融点は160.1℃、融解熱は8.0mJ/mgであった。
【0146】
比較例2
特開2013-216915公報の実施例12に記載の製造方法に従い、VdFとR1234yfがモル比で78.6/21.4のフルオロエラストマーを得た。
【0147】
実施例1~4および比較例1~2について、耐アルカリ性、溶剤溶解性、THF抽出試験を行った結果を表1にまとめた。
【0148】