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特許7705263グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物、成形品及び塗料組成物
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  • 特許-グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物、成形品及び塗料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物、成形品及び塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20250702BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20250702BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20250702BHJP
   C08L 55/00 20060101ALI20250702BHJP
   C09D 151/00 20060101ALI20250702BHJP
   C09D 155/00 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
C08F265/06
C08F290/04
C08L51/00
C08L55/00
C09D151/00
C09D155/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021053637
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150850
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040390(JP,A)
【文献】特開2021-012364(JP,A)
【文献】国際公開第2003/072621(WO,A1)
【文献】特表2017-536452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F265
C08F290
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数11以上の直鎖又は分岐の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(a)とビニル単量体(b)に基づく構成単位を含む共重合体(A)の存在下にビニル単量体(m)がグラフト重合された、グラフト共重合体であって、
前記ビニル単量体(b)は、前記(メタ)アクリレート(a)と共重合可能な前記(メタ)アクリレート(a)以外のビニル単量体であって、
前記(メタ)アクリレート(a)の割合は、前記共重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計100質量%に対して20~70質量%であり、
前記ビニル単量体(m)は、前記(メタ)アクリレート(a)以外のビニル単量体であって、炭素数1~10の直鎖若しくは分岐の炭化水素基、脂環式基及び芳香族基のいずれかを有する(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記共重合体(A)の架橋剤の使用量は前記(メタ)アクリレート(a)と前記ビニル単量体(b)との合計100質量部に対して、1質量部以下であり、
前記共重合体(A)の体積平均粒子径は10~1000nmであり、
前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(m)との合計100質量%に対する前記ビニル単量体(m)の割合が20~80質量%であり、
前記グラフト共重合体の重量平均分子量が20,000~200,000である、
グラフト共重合体。
【請求項2】
トルエン不溶分が50質量%以下である請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
前記共重合体(A)が、架橋構造を含まない請求項1又は2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
前記共重合体(A)が、主鎖末端に重合性不飽和結合を有する請求項1~3のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のグラフト共重合体と、他の熱可塑性樹脂とを含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、成形品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のグラフト共重合体と、有機溶剤とを含む、塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物、成形品及び塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内外装部材や電子機器の筐体等として、漆黒調や金属光沢調の外観を有するものが普及している。漆黒調や金属光沢調は、付着した指紋汚れが目立ち易い問題があり、高級感や清潔感の維持のため、付着した指紋の目立ちにくさ、付着した指紋の除去しやすさといった耐指紋性のニーズが高まっている。
【0003】
成形品表面に耐指紋性を付与する方法としては、成形品表面に耐汚染性付与剤を塗布して撥水・親油性の塗膜を形成することで、皮脂成分とのなじみを良くし、指紋が付着しても目立たなくする方法が知られている。
特許文献1には、長鎖アルキル基等の撥水性基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含む(メタ)アクリル系共重合体を含む耐汚染性付与剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-359834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含む共重合体は、溶液重合により製造され、得られた溶液がそのまま耐汚染性付与剤に配合されている。
上記共重合体の保管や輸送、その後の他の熱可塑性樹脂との混合又は有機溶剤への再溶解等を考慮すると、上記共重合体を粉体とすることが望ましい。
しかし、本発明者の検討によれば、上記共重合体は、長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含むためガラス転移温度が低く、その粉体は、粒子同士が融着しやすくハンドリング性に劣る問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、成形品や塗膜に優れた耐指紋性を付与でき、粉体の状態でのハンドリング性にも優れるグラフト共重合体、これを用いた熱可塑性樹脂組成物、成形品及び塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
〔1〕炭素数11以上の直鎖又は分岐の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(a)に基づく構成単位を含む共重合体(A)の存在下にビニル単量体がグラフト重合された、グラフト共重合体。
〔2〕トルエン不溶分が50質量%以下である前記〔1〕のグラフト共重合体。
〔3〕前記共重合体(A)が、架橋構造を含まない前記〔1〕又は〔2〕のグラフト共重合体。
〔4〕前記共重合体(A)が、主鎖末端に重合性不飽和結合を有する前記〔1〕~〔3〕のいずれかのグラフト共重合体。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕のいずれかのグラフト共重合体と、他の熱可塑性樹脂とを含む、熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕前記〔5〕の熱可塑性樹脂組成物を含む、成形品。
〔7〕前記〔1〕~〔4〕のいずれかのグラフト共重合体と、有機溶剤とを含む、塗料組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形品や塗膜に優れた耐指紋性を付与でき、ハンドリング性にも優れるグラフト共重合体、これを用いた熱可塑性樹脂組成物、成形品及び塗料組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】外観(耐指紋性)の評価における指紋の拭き取り方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
ビニル単量体は、重合性不飽和二重結合を1つ有する化合物である。
トルエン不溶分は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。詳しくは後述する実施例に記載のとおりである。以下、重量平均分子量のことをMwという場合がある。
ラテックス等の水性分散体における分散粒子の体積平均粒子径は、動的光散乱法より測定される。
粉体の平均粒子径は、後述する音波振動式ふるい分け測定器により測定される。
ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により求められる値であり、具体的には、窒素雰囲気下、10℃/minで、35℃から200℃まで昇温した後、-100℃まで冷却し、再度200℃まで昇温した場合に観測されるガラス転移温度である。以下、ガラス転移温度のことをTgという場合がある。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
〔グラフト共重合体〕
本発明の一態様に係るグラフト共重合体(以下、「グラフト共重合体(B)」とも記す。)は、共重合体(A)の存在下にビニル単量体(以下、「ビニル単量体(m)」とも記す。)がグラフト重合された共重合体である。
グラフト共重合体(B)は、共重合体(A)部分と、ビニル単量体(m)が重合された重合体部分とを含む。なお、グラフト共重合体の構造を詳細に特定することは容易ではない。したがって、グラフト共重合体(B)については、その構造または特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。
共重合体(A)、ビニル単量体(m)については後で詳しく説明する。
【0012】
共重合体(A)とビニル単量体(m)との合計100質量%に対するビニル単量体(m)の割合は、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。ビニル単量体(m)の割合が上記下限値以上であれば、グラフト共重合体(B)のハンドリング性がより優れ、上記下限値以上であれば、耐指紋性の付与効果がより優れる。
【0013】
グラフト共重合体(B)のトルエン不溶分は、グラフト共重合体(B)100質量%に対し、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、0質量%が特に好ましい。グラフト共重合体(B)のトルエン不溶分が上記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂との相溶性、有機溶剤への溶解性に優れ、成形品や塗膜に耐指紋性を付与する上で有用である。
【0014】
グラフト共重合体(B)のMwは、1,000~1,000,000が好ましく、10,000~500,000がより好ましく、20,000~200,000がさらに好ましい。グラフト共重合体(B)のMwが上記下限値以上であれば、ハンドリング性がより優れ、上記上限値以下であれば、耐指紋性の付与効果がより優れる。
【0015】
グラフト共重合体(B)は、典型的には、Tgを有する。
グラフト共重合体(B)が有するTgは1つでもよいが、ハンドリング性の観点から、2つ以上であることが好ましい。グラフト共重合体(B)が2つ以上のTgを有する場合、少なくとも1つは共重合体(A)部分のTgで、少なくとも1つはビニル単量体(m)が重合された重合体部分のTgであると考えられる。共重合体(A)部分及びビニル単量体(m)が重合された重合体部分がそれぞれ1つのTgを有する場合に、共重合体(A)部分のTgと、ビニル単量体(m)が重合された重合体部分のTgが同等である場合には、グラフト共重合体(B)のTgは1つとなる。
グラフト共重合体(B)が有するTgが2つ以上である場合、2つ以上のTgの一部は-200~30℃が好ましく、-100~25℃がより好ましい。残りのTgは50~200℃が好ましく、80~150℃がより好ましい。-200~30℃の範囲内のTgと50~200℃の範囲内のTgとの差は、20~400℃が好ましく、60~200℃がより好ましい。なお、-200~30℃の範囲内のTgと50~200℃の範囲内のTgとの差を求める際に、-200~30℃の範囲内のTgを2つ以上有する場合は、最も高い値を採用し、50~200℃の範囲内のTgを2つ以上有する場合は、最も低い値を採用するものとする。
グラフト共重合体(B)が有するTgが1つである場合、そのTgは、50~200℃が好ましく、80~150℃がより好ましい。
【0016】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、炭素数11以上の直鎖又は分岐の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(a)に基づく構成単位(以下、「(メタ)アクリレート(a)単位」とも記す。)を含む。
共重合体(A)は、(メタ)アクリレート(a)以外のビニル単量体(以下、「ビニル単量体(b)」とも記す。)に基づく構成単位(以下、「ビニル単量体(b)単位」とも記す。)をさらに含むことが好ましい。
(メタ)アクリレート(a)、ビニル単量体(b)については後で詳しく説明する。
【0017】
共重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計100質量%に対する(メタ)アクリレート(a)単位の割合は、5~90質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、20~70質量%がさらに好ましい。(メタ)アクリレート(a)単位の割合が上記下限値以上であれば、グラフト共重合体(B)を含む成形品や塗膜の耐指紋性がより優れ、上記上限値以下であれば、ハンドリング性が向上する。
共重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計は、(メタ)アクリレート(a)単位とビニル単量体(b)単位との合計である。
【0018】
共重合体(A)は、架橋構造を含んでいてもよい。トルエン不溶分を上述の好ましい上限値以下とする観点では、共重合体(A)は、架橋構造を含まないことが好ましい。
【0019】
架橋構造としては、例えば、重合性不飽和結合を2つ以上有する架橋剤に基づく架橋構造が挙げられる。架橋剤の存在下で(メタ)アクリレート(a)及びビニル単量体(b)を重合すると、共重合体(A)に架橋構造が導入される。
架橋剤としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ブチレンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリウレタンジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンジ(メタ)アクリレート、ポリグリセリンポリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0020】
架橋剤の使用量は、グラフト共重合体(B)のトルエン不溶分を上述の好ましい上限値以下とする観点から少ないほど好ましく、例えば、(メタ)アクリレート(a)とビニル単量体(b)との合計100質量部に対し、1質量部以下が好ましく、0質量部が特に好ましい。
【0021】
共重合体(A)は、主鎖末端に重合性不飽和結合を有することが好ましい。共重合体(A)の主鎖末端に重合性不飽和結合が存在すると、耐指紋性、グラフト共重合体(B)の有機溶剤への溶解性が向上する。これは、重合性不飽和結合がグラフト点となって、共重合体(A)とビニル単量体(b)が重合した重合体とが化学的に結合することによると考えられる。
【0022】
主鎖末端に重合性不飽和結合を有する共重合体(A)は、例えば、(メタ)アクリレート(a)及び必要に応じてビニル単量体(b)を重合する際に、連鎖移動剤として、α-メチルスチレンダイマーを用いることにより得ることができる。α-メチルスチレンダイマーを用いることで、-CH-C(Ph)=CHで表される構造(Phはフェニル基である。)を主鎖末端に有する共重合体が得られる。
【0023】
共重合体(A)のトルエン不溶分は、共重合体(A)100質量%に対し、70質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、0質量%が特に好ましい。共重合体(A)のトルエン不溶分が上記上限値以下であれば、グラフト共重合体(B)のトルエン不溶分を上述の好ましい上限値以下としやすい。
【0024】
共重合体(A)のMwは、1,000~1,000,000が好ましく、9,000~400,000がより好ましく、15,000~190,000がさらに好ましい。共重合体(A)のMwが上記下限値以上であれば、ハンドリング性がより優れ、上記上限値以下であれば、耐指紋性の付与効果がより優れる。
【0025】
共重合体(A)は、耐指紋性の付与効果の観点から、Tgを有することが好ましい。
共重合体(A)がTgを有する場合、共重合体(A)のTgは、-200~30℃が好ましく、-100~25℃がより好ましい。共重合体(A)のTgが上記下限値以上であれば、ハンドリング性がより優れ、上記上限値以下であれば、耐指紋性の付与効果がより優れる。
【0026】
共重合体(A)は、例えば塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の方法により製造される。これらの中でも、共重合体(A)粒子の粒子径を制御しやすい観点では、乳化重合が好ましい。乳化重合の中でも、共重合体(A)粒子の粒子径分布を狭くしやすく、より均質な共重合体(A)を合成しやすい観点で、ミニエマルション重合が好ましい。
【0027】
乳化重合法による共重合体(A)の製造方法としては、例えば、ビニル単量体((メタ)アクリレート(a)及び必要に応じてビニル単量体(b))、水、乳化剤、必要に応じて他の添加剤(重合開始剤、連鎖移動剤、架橋剤)を混合し、得られた混合液を乳化し、得られた乳化液を加熱してビニル単量体を重合させる方法が挙げられる。これにより、共重合体(A)を含む水性分散体が得られる。
【0028】
乳化剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸(例えば、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸等)のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。乳化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。乳化剤の添加量は、例えば、ビニル単量体100質量部に対して0.01~5.0質量部である。
【0029】
重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物系重合開始剤、有機過酸化物系重合開始剤、無機過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。アゾ化合物系重合開始剤、有機過酸化物系重合開始剤及び無機過酸化物系重合開始剤としては、公知のものを制限なく使用できる。重合開始剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の添加量は、例えば、ビニル単量体100質量部に対して0.1~5.0質量部である。
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n-又はt-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-又はt-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;α-メチルスチレンダイマー;テルペン類等が挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、例えば、ビニル単量体100質量部に対して0.1~5.0質量部である。
【0030】
乳化方法としては、例えば、混合液をホモジナイザで処理する方法が挙げられる。
ホモジナイザとしては、例えば、圧力式ホモジナイザ、超音波式ホモジナイザ等が挙げられる。
圧力式ホモジナイザにおいては、ポンプ等を用いて高圧状態とした混合液を均質バルブに衝突させることによって、混合液中の単量体の粒子を微細化処理する。圧力式ホモジナイザにおいて、混合液に付与する圧力としては特に制限はなく、例えば、1~100MPaとすることができる。
超音波式ホモジナイザにおいては、混合液に超音波振動を与えて、混合液の内部に微小な真空の泡を発生させる。この真空の泡が破裂した際に生じる衝撃によって、混合液中の単量体の粒子を微細化処理する。超音波式ホモジナイザにおいて、混合液に付与する超音波振動の振幅としては特に制限はなく、例えば、10~17000μmとすることができる。
ホモジナイザとしては、通常は、混合液を連続的に処理する連続式ホモジナイザが使用されるが、任意量の混合液を一回ずつ処理するバッチ式ホモジナイザが使用されてもよい。
【0031】
乳化液における分散粒子の体積平均粒子径は、10~1000nmが好ましく、50~500nmがより好ましい。乳化液における乳化粒子の体積平均粒子径が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)の水性分散体における分散粒子の体積平均粒子径も上記範囲内となりやすい。なお、ミニエマルションは、乳化粒子の体積平均粒子径が1000nm以下の乳化液のことである。
重合条件は、特に限定されないが、例えば、50~80℃で0.5~24時間である。
【0032】
得られた共重合体(A)の水性分散体は、通常、そのままグラフト共重合体(B)の製造に用いられる。
共重合体(A)の水性分散体における分散粒子の体積平均粒子径は、10~1000nmが好ましく、50~500nmがより好ましい。体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、ハンドリング性が良好で、上記上限値以下であれば、乳化液の安定性が良好である。
【0033】
「(メタ)アクリレート(a)」
(メタ)アクリレート(a)が有する直鎖又は分岐の炭化水素基の炭素数は11以上であり、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。炭化水素基の炭素数の上限は特に限定されないが、例えば50である。炭化水素基の炭素数が11以上であれば、グラフト共重合体(B)を含む成形品や塗膜の表面の親油性が向上し、付着した指紋が目立ちにくくなる。
炭化水素基は、直鎖でも分岐でもよく、原料の入手しやすさの点では直鎖が好ましい。
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、イソアルキル基等が挙げられる。これらの中でも、耐指紋性の付与効果の点から、アルキル基が好ましい。
【0034】
(メタ)アクリレート(a)としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
CH=CR-C(=O)-O-R ・・・(1)
ただし、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数11以上の直鎖又は分岐の炭化水素基である。
の炭化水素基としては前記と同様のものが挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリレート(a)の具体例としては、ドデシル(メタ)アクリレート、ドデセニル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、テトラデセニル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデセニル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(別称:ステアリル(メタ)アクリレート)、オクタデセニル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート(a)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリレート(a)としては、耐指紋性の付与効果の点から、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0036】
「ビニル単量体(b)」
ビニル単量体(b)としては、(メタ)アクリレート(a)と共重合可能であればよく、例えば、(メタ)アクリレート(a)以外の他の(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、マレイミド化合物、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0037】
他の(メタ)アクリレートとしては、例えば、炭素数1~10の直鎖又は分岐の炭化水素基、脂環式基及び芳香族基のいずれか1以上を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。直鎖又は分岐の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、イソアルキル基等が挙げられる。脂環式基は単環式でも多環式でもよい。脂環式基の炭素数は、例えば4~10である。芳香族基としては、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0038】
他の(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-又はp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレンが挙げられる。
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
マレイミド化合物としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-i-プロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-i-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド等のN-アルキルマレイミド;N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキルマレイミド;N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-クロロフェニルマレイミド等のN-アリールマレイミド;N-アラルキルマレイミドが挙げられる。
これらのビニル単量体(b)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0040】
ビニル単量体(b)としては、原料の入手しやすさの観点から、他の(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸及びマレイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭素数1~8の直鎖又は分岐の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
上記の中でも、(メタ)アクリレート(a)との反応性の観点から、炭素数1~8の直鎖又は分岐の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、後述する熱可塑性樹脂との相性の観点から、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が好ましい。
ビニル単量体(b)が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなる場合、ビニル単量体(b)の総質量に対し、芳香族ビニル化合物が60~90質量%、シアン化ビニル化合物が10~40質量%であることが好ましく、芳香族ビニル化合物が65~80質量%、シアン化ビニル化合物が20~35質量%であることがより好ましい。
【0041】
<ビニル単量体(m)>
ビニル単量体(m)としては、(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、マレイミド化合物、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
(メタ)アクリレートとしては、前記した(メタ)アクリレート(a)、他の(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリレート(a)、他の(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド化合物それぞれの具体例は前記と同様のものが挙げられる。
【0042】
ビニル単量体(m)としては、ハンドリング性の観点から、(メタ)アクリレート(a)以外のビニル単量体が好ましい。
(メタ)アクリレート(a)以外のビニル単量体としては、原料の入手しやすさの観点から、他の(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸及びマレイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭素数1~8の直鎖又は分岐の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
上記の中でも、グラフト共重合体(B)を後述する熱可塑性樹脂と混合する場合には、その熱可塑性樹脂に分散しやすい組成を選択することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂が後述するABS樹脂やAS樹脂等の場合には、芳香族ビニル、シアン化ビニル化合物の組み合わせを選択するとよく、熱可塑性樹脂がアクリル樹脂の場合には(メタ)アクリレートを選択するとよい。
ビニル単量体(m)が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなる場合、ビニル単量体(m)の総質量に対し、芳香族ビニル化合物が60~90質量%、シアン化ビニル化合物が10~40質量%であることが好ましく、芳香族ビニル化合物が65~80質量%、シアン化ビニル化合物が20~35質量%であることがより好ましい。
共重合体(A)がビニル単量体(b)単位を含み、ビニル単量体(m)が(メタ)アクリレート(a)以外のビニル単量体である場合、ビニル単量体(b)とビニル単量体(m)は同じでも異なってもよい。
【0043】
<グラフト共重合体(B)の製造方法>
グラフト共重合体(B)は、共重合体(A)の存在下に、ビニル単量体(m)をグラフト重合させることによって得られる。グラフト重合時には、グラフト共重合体(B)の分子量を調整するために、連鎖移動剤を添加してもよい。
グラフト重合法としては、特に制限はないが、乳化重合法が好ましい。
【0044】
乳化重合法によるグラフト共重合体(B)の製造方法としては、例えば、共重合体(A)と水と乳化剤とを含む水性分散体にビニル単量体(m)及び重合開始剤を添加し、加熱によりビニル単量体(m)を重合させる方法が挙げられる。これにより、グラフト共重合体(B)を含む水性分散体が得られる。
共重合体(A)の水性分散体は、前記した製造方法により得ることができる。
重合開始剤としては、前記と同様のものが挙げられる。
重合条件は、特に限定されないが、例えば、50~90℃で0.5~6時間である。
【0045】
グラフト共重合体(B)の水性分散体における分散粒子の体積平均粒子径は、10~1000nmが好ましく、50~500nmがより好ましい。体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、ハンドリング性が良好で、上記上限値以下であれば、乳化液の安定性が良好である。
【0046】
必要に応じて、グラフト共重合体(B)の水性分散体からグラフト共重合体(B)を回収してもよい。これにより、グラフト共重合体(B)の粉体が得られる。
グラフト共重合体(B)の回収方法としては、例えば、析出法、スプレードライ法等の公知の方法が挙げられる。
析出法としては、水性分散体に析出剤を添加し、加熱、撹拌した後、析出剤を分離し、析出したグラフト共重合体(B)を水洗、脱水、乾燥する方法が挙げられる。析出剤としては、例えば硫酸、酢酸、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の水溶液が挙げられる。
【0047】
グラフト共重合体(B)の粉体の平均粒子径は、100~800μmが好ましく、150~600μmがより好ましい。平均粒子径が上記下限値以上であれば、粉体の飛散性が小さく、取り扱いが容易で、上記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂への分散性が良好である。
【0048】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B)と、グラフト共重合体(B)以外の他の熱可塑性樹脂(以下、「熱可塑性樹脂(C)」とも記す。)とを含む。
熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、添加剤を含有してもよい。
【0049】
熱可塑性樹脂(C)としては、特に制限されないが、例えばアクリル樹脂(例えばPMMA樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-α-メチルスチレン共重合体(αSAN樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル-スチレン-N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-無水マレイン酸-N-置換マレイミド三元共重合体、ゴム質重合体(例えばポリブタジエン、アクリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又はこれらの複合ゴム等)の存在下、芳香族ビニル、シアン化ビニル及び(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体をグラフト重合した樹脂(例えばABS樹脂、ASA樹脂、SAS樹脂、AES樹脂等)、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、各種のオレフィン系エラストマー、各種のポリエステル系エラストマー、ポリスチレン、メチルメタクリレート-スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)、ポリエーテルサルフォン(PES樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(例えばナイロン)等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂(C)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0050】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤や光安定剤等の各種安定剤、滑剤、可塑剤、離型剤、染料、顔料(カーボンブラック等)、帯電防止剤、難燃剤、無機充填剤、金属粉末等が挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂組成物において、グラフト共重合体(B)の含有量は、グラフト共重合体(B)と熱可塑性樹脂(C)との合計100質量部に対し、1~80質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましい。グラフト共重合体(B)の含有量が上記下限値以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形品の耐指紋性がより優れ、上記上限値以下であれば、成形性がより優れる。
【0052】
添加剤の含有量は、グラフト共重合体(B)と熱可塑性樹脂(C)との合計100質量部に対し、0~100質量部が好ましく、0~10質量部がより好ましい。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物は、例えば、グラフト共重合体(B)の粉体と、熱可塑性樹脂(C)と、必要に応じて添加剤とを、V型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物をスクリュー式押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ミキシングロール等の溶融混練機等を用いて溶融混練することにより製造できる。必要に応じて、得られた溶融混錬物を、ペレタイザー等を用いてペレット化してもよい。
【0054】
〔成形品〕
本発明の一態様に係る成形品は、前記した熱可塑性樹脂組成物を含む。
本態様の成形品は、例えば、前記した熱可塑性樹脂組成物を公知の成形方法によって成形して得られる。成形方法としては、例えば、射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
【0055】
〔塗料組成物〕
本発明の一態様に係る塗料組成物は、グラフト共重合体(B)と、有機溶剤とを含む。
塗料組成物は、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、グラフト共重合体(B)以外の他の樹脂、添加剤を含有してもよい。
【0056】
有機溶剤としては、特に限定されず、塗膜作製時に容易に揮発するものが好ましい。例えば、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド等)、エステル類(酢酸メチルな等)が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
有機溶剤としては、共重合体(A)、グラフト共重合体(B)を溶解可能なものが好ましい。
【0057】
他の樹脂としては、塗料用樹脂として公知の樹脂であってよく、例えばポリエステル、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリウレア、エポキシ樹脂、ポリオレフィン、ポリシロキサン等が挙げられる。必要に応じて、前記樹脂を合成するためのモノマーを含有し、塗布後に紫外線硬化や2液硬化させてもよい。
添加剤としては、塗料用添加剤として公知の添加剤であってよく、例えば粘度調整剤、光輝性顔料、着色顔料、防錆剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料分散剤、中和剤、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、防腐剤等が挙げられる。
【0058】
塗料組成物において、グラフト共重合体(B)の含有量は、塗料組成物の固形分100質量%に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。グラフト共重合体(B)の含有量が上記下限値以上であれば、塗料組成物の塗膜の耐指紋性がより優れる。
塗料組成物の固形分とは、JIS K5601 1-2:2008に準拠して得られる固形分(加熱残分)である。
【0059】
有機溶剤の含有量は、塗料組成物の固形分濃度に応じて設定される。
塗料組成物の固形分濃度は、塗料組成物の総質量に対し、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。固形分濃度が上記下限値以上であれば、塗膜形成までの乾燥効率が良好であり、上記上限値以下であれば、塗料組成物の塗布性が良好である。
【0060】
塗料組成物は、例えば、グラフト共重合体(B)の粉体と、有機溶剤と、必要に応じて他の樹脂や添加剤とを混合することにより製造できる。
【0061】
塗料組成物を基材の表面に塗布し、乾燥することで、塗膜を形成できる。
基材としては、特に限定されず、例えば樹脂基材、金属(鉄等)、ガラス、コンクリート等が挙げられる。樹脂基材の樹脂としては、例えば前記した熱可塑性樹脂(C)や、熱、活性エネルギー線等で硬化した硬化樹脂が挙げられる。
塗料組成物の塗布方法及び乾燥方法も特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【実施例
【0062】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0063】
以下において用いた略号は以下のものを示す。
(単量体)
SMA:ステアリルメタクリレート。
MMA:メチルメタクリレート。
MA:メチルアクリレート。
ST:スチレン。
AN:アクリロニトリル。
(架橋剤)
AMA:アリルメタクリレート。
(連鎖移動剤)
MSD:α-メチルスチレンダイマー。
TDM:t-ドデシルメルカプタン。
(重合開始剤)
LPO:ラウロイルパーオキシド。
BHP:t-ブチルハイドロパーオキシド。
(熱可塑性樹脂)
PMMA:ポリメチルメタクリレート(三菱ケミカル製「アクリペット VH5」)。
AS:懸濁重合法によって製造されたアクリロニトリル-スチレン共重合体(テクノUMG製「UMG AXSレジン S102N」)。
【0064】
[共重合体のトルエン不溶分の測定]
共重合体(共重合体(A)又はグラフト共重合体(B))のラテックスを、60℃の乾燥機で1日乾燥後、イソプロパノールで洗浄し、真空乾燥機で乾燥することにより共重合体を回収した。
回収された共重合体の1g(X)を20mLのトルエンに添加し、室温(25℃)で3日間静置した後、得られた懸濁液又は溶液に対し14,000rpmにて180分間の遠心分離を行った。遠心分離後、沈殿成分がある場合は、沈殿成分と上澄み溶液(トルエン溶液)をそれぞれ分取した。そして、沈殿成分を真空乾燥機により充分に乾燥させてその質量Y(g)を測定し、次式よりトルエン不溶分を算出した。遠心分離後に沈殿成分がない場合は、トルエン不溶分を0質量%とした。
トルエン不溶分(質量%)=(Y/X)×100
【0065】
[トルエン溶液の外観の評価]
共重合体(A)のラテックス又はグラフト共重合体(B)のラテックスから、後述するそれぞれの方法により共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)を回収した。
回収された共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)の0.5gにトルエンの50gを加え、スターラーで6時間攪拌し、得られた溶液の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。◎又は○を合格とした。
◎:透明、沈殿物なし。
○:わずかな白濁あり、沈殿物なし。
△:白濁あり、沈殿物なし。
×:白濁あり、かつ沈殿物あり。
【0066】
[重量平均分子量の測定]
共重合体(A)のラテックス又はグラフト共重合体(B)のラテックスから、後述するそれぞれの方法により共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)を回収した。回収された共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)0.005gを室温(25℃)にてテトラヒドロフラン(THF)10gに溶解し、その溶液をGPC装置に導入した。分子量が既知の標準ポリスチレンによって予め得た検量線を利用して重合体のポリスチレン換算の分子量を測定し、Mwを求めた。
なお、共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)がTHFに溶解しなかった場合は測定不可とした。
【0067】
[ラテックスの体積平均粒子径の測定]
共重合体(A)のラテックス又はグラフト共重合体(B)のラテックスについて、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用い、動的光散乱法より体積平均粒子径(nm)を求めた。
【0068】
[ガラス転移温度の測定]
共重合体(A)の粉体(以下、「共重合体粉」とも記す。)又はグラフト共重合体(B)の粉体(以下、「グラフト共重合体粉」とも記す。)を、示差走査熱量測定(DSC)を用い、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で、35℃から200℃まで昇温した後、-100℃まで冷却し、再度200℃まで昇温した場合に観測されるガラス転移温度(℃)を求めた。
【0069】
[粉体の篩#16未通過分の測定]
共重合体粉又はグラフト共重合体粉の10gをセイシン企業社製ロボットシフター(RPS-105)にて、使用篩:16メッシュ-28メッシュ-35メッシュ-48メッシュ-70メッシュ-100メッシュ-200メッシュ、分級条件:音波強度40、音波周波数51Hz、分級時間3分、パルス間隔1にて篩#16未通過分(%)を求めた。
【0070】
[粉体の平均粒子径の測定]
上記粉体の篩#16未通過分の測定におけるそれぞれのメッシュの未通過分から共重合体粉又はグラフト共重合体粉の平均粒子径(μm)を求めた。
【0071】
[粉体の安息角の測定]
共重合体粉又はグラフト共重合体粉について、25℃、50%RHの環境下で、筒井理化学器械株式会社製A.B.D粉体特性測定装置(ABD-100)を用いて以下の方法にて安息角(°)を求めた。
試料用ホッパーに投入した試料を、振動棒、振動網、試料排出ロート及び試料排出ノズルを通し、安息角試料台の円板上に落下させて山を作り、前記山の角度を異なる向き3か所から角度計で測定した。前記操作を3回繰り返し、その平均値を安息角とした。また、試料排出ノズルの口径φ10mmでも落下しなかったものは測定不可とした。
【0072】
[粉体のハンドリング性の評価]
粉体の平均粒子径から以下の基準でハンドリング性を評価した。粉体の平均粒子径が小さいほど、粒子同士が固着しにくく、他成分との混合や混錬等を良好に行うことができる。
○:粉体の平均粒子径が1000μm以下。
×:粉体の平均粒子径が1000μm超。
【0073】
[成形品のオレイン酸吸収量の測定]
室温(25℃)環境下で、約11gのダンベル状の成形品をオレイン酸に1週間浸漬した。浸漬後の試験片の質量(μg)-浸漬前の試験片の質量(μg)によりオレイン酸吸収量(μg)を算出した。
【0074】
[成形品又は塗膜の表面の純水接触角の測定]
25℃、50%RHの環境下で、水平に配置した成形品又は塗膜の表面に、接触角計(協和界面科学製「DMs-401」)を用いて、1μLの純水を滴下し、滴下から1秒後に接触角(純水接触角)を測定した。純水接触角が大きいほど親油性に優れる。
【0075】
[成形品又は塗膜の表面のオレイン酸接触角の測定]
純水の代わりにオレイン酸を用いた以外は、純水接触角の測定と同様にして、接触角(オレイン酸接触角)を測定した。オレイン酸接触角が小さいほど親油性に優れる。
【0076】
[成形品の指紋拭き取り後の外観の評価]
試験片の表面の表面に右手親指を10秒間押し付けて指紋を付着させた。
指紋を付着させた試験片の表面に対し、キムタオル[日本製紙クレシア(株)]を1方向に1往復させて指紋の拭き取りを行った。具体的には、図1に示すように、先端部11が半球形に形成された棒状の治具10を用意し、先端部11に、キムタオル[日本製紙クレシア(株)]12を被せた。試験片13の表面に対して、棒状の治具10が直角になるように、キムタオル12が被せられた先端部11を接触させ、先端部11を試験片13の表面において水平方向(図中矢印方向)に摺動させ、1回往復させた。その際、加える荷重は500gとした。
拭き取り後、試験片の表面を目視で観察し、下記基準で評価した。◎又は〇を合格とした。
◎:指紋跡が見えない。
〇:指紋跡がほとんど見えない。
△:わずかに指紋跡が目立つ。
×:指紋跡が目立つ。
【0077】
[塗料組成物のトルエン不溶分の測定]
塗料組成物X(g)を遠心分離機(14,000rpm、180分)で分離後、沈殿成分がある場合は、沈殿成分と上澄み溶液(トルエン溶液)をそれぞれ分取した。そして、沈殿成分を真空乾燥機により充分に乾燥させてその質量Y(g)を測定し、次式よりトルエン不溶分を算出した。遠心分離後に沈殿成分がない場合は、トルエン不溶分を0質量%とした。
トルエン不溶分(質量%)=(Y/X)×100
【0078】
[塗料組成物の外観の評価]
塗料組成物の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。◎又は○を合格とした。
◎:透明、沈殿物なし。
○:わずかな白濁あり、沈殿物なし。
△:白濁あり、沈殿物なし。
×:白濁あり、かつ沈殿物あり。
【0079】
[共重合体(A)の製造]
<製造例A-1:共重合体(A-1)の製造>
容器に、ステアリルメタクリレート(SMA)50部、メチルメタクリレート(MMA)45部、メチルアクリレート(MA)5部、α-メチルスチレンダイマー(MSD)2部、ラウロイルパーオキシド(LPO)1部を仕込み、これに蒸留水180部とアルケニルコハク酸ジカリウム0.1部との混合液を添加し、圧力ホモジナイザー(三丸機械工業製)で、30MPa、2Pass処理することで体積平均粒子径300nmのプレエマルションを得た。
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた反応器に、上記プレエマルションを移して窒素置換した後、撹拌しながら60℃に加熱し、ラジカル重合を開始し、その後80℃で5時間熟成して重合を完結させた。これにより、共重合体(A-1)のラテックスを得た。得られたラテックスの固形分は21%、凝塊物量は0.03%で、体積平均粒子径は、プレエマルションと同じ300nmであった。
得られたラテックスの一部をイソプロパノールで凝析、洗浄し、真空乾燥機で乾燥させて共重合体(A-1)の粉体を得た。得られた粉体(共重合体粉)について、ガラス転移温度、篩#16未通過分、平均粒子径、安息角を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
<製造例A-2~A-5:共重合体(A-2)~(A-5)の製造>
(メタ)アクリレート(a)、ビニル単量体(b)、連鎖移動剤、重合開始剤の種類と量を表1に示すとおりに変更したこと以外は、製造例(A-1)と同様にして、共重合体(A-2)~(A-5)それぞれのラテックス及び粉体を得た。
【0081】
表1に、共重合体(A-1)~(A-5)の評価結果を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
[グラフト共重合体(B)の製造]
<製造例B-1:グラフト共重合体(B-1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた反応器に、以下の配合で原料を仕込み、反応器内を充分に窒素置換した後、撹拌しながら内温を70℃まで昇温した。
〔配合〕
共重合体(A-1)ラテックス(固形分換算) 50部
水(共重合体(A-1)ラテックス中の水を含む) 200部
アルケニルコハク酸ジカリウム 1部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
【0084】
次いで、メタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸メチル(MA)、t-ブチルハイドロパーオキシド(BHP)を以下の配合2で含む混合液を100分にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
〔配合〕
メタクリル酸メチル 45部
アクリル酸メチル 5部
t-ブチルハイドロパーオキシド 0.3部
【0085】
滴下終了後、温度80℃の状態で30分間保持した後、冷却してグラフト共重合体(B-1)のラテックスを得た。得られたラテックスの固形分は33%、凝塊物量は0.1%、体積平均粒子径は400nmであった。
9%希硫酸をグラフト共重合体(B)100質量部に対して、2.5質量%となるよう調製した水溶液150質量部を60℃で加熱した。この水溶液を撹拌しながら、そこに、得られたラテックスを徐々に滴下して凝固した。得られた凝固物を分離し、水洗した後、乾燥させてグラフト共重合体(B-1)の粉体を得た。得られた粉体(グラフト共重合体粉)について、ガラス転移温度、篩#16未通過分、平均粒子径、安息角を測定した。結果を表2に示す。
【0086】
<製造例:グラフト共重合体(B-2)~(B-4)>
共重合体(A-1)のラテックスの代わりに共重合体(A-2)~(A-4)のラテックスを用い、ビニル単量体(m)の種類及び量を表2に示すとおりに変更した以外は、製造例B-1と同様にして、グラフト共重合体(B-2)~(B-4)の粉体を得た。
【0087】
表2に、グラフト共重合体(B-1)~(B-4)の評価結果を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
[実施例1~4、比較例1~3]
表3に示す共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)について、ハンドリング性を評価した。結果を表3に示す。なお、実施例4は、参考例である。
【0090】
<熱可塑性樹脂組成物の調製>
表3に示す配合に従って、共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)の粉体と、熱可塑性樹脂(C)と、カーボンブラックとを、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押し出し機に供給し、混錬して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0091】
<オレイン酸吸収量評価用の試験片の作製及び評価>
上記熱可塑性樹脂組成物のペレットを用い、4オンス射出成型機(日本製鋼所製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/sの条件で成形し、質量約11gのダンベル状の成形品を得た。
得られた成形品についてオレイン酸吸収量の評価を行った。結果を表3に示す。
【0092】
<接触角測定及び外観評価用の試験片の作製及び評価>
上記熱可塑性樹脂組成物のペレットを用い、4オンス射出成型機(日本製鋼所製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/sの条件で長さ100mm、幅100mm、厚み3mmの板状の成形品を作製した。
得られた成形品について、純水接触角の測定、オレイン酸接触角の測定、指紋拭き取り後の外観の評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
<塗料組成物の調製及び評価>
表3に示す配合に従って、共重合体(A)又はグラフト共重合体(B)の粉体と、トルエンとを混合し、スターラーで6時間攪拌して塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物について、トルエン不溶分の測定、外観の評価を行った。結果を表3に示す。
【0094】
<塗膜の形成及び評価>
得られた塗料組成物を、ABS樹脂製の板状の成形品の表面に、バーコーターNo.7を用いて、乾燥後の厚さが約5μmとなるように塗布し、24時間静置して塗膜を形成した。
得られた塗膜について、純水接触角、オレイン酸接触角を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
グラフト共重合体(B-1)~(B-4)の粉体はそれぞれ、ハンドリング性に優れていた。
共重合体(A-1)~(A-4)とグラフト共重合体(B-1)~(B-4)の粉体特性(篩#16未通過分、平均粒子径、安息角)の対比から、共重合体(A-1)~(A-4)をグラフト共重合体(B-1)~(B-4)とすることで、粒子同士の固着が抑制されたと考えられる。
また、グラフト共重合体(B-1)~(B-4)の粉体を用いた熱可塑性樹脂組成物の成形品は、親油性が高く、実際の耐指紋性の評価結果も良好であった。それらの粉体を用いた塗料組成物の塗膜も親油性が高かった。
特に、トルエン不溶分が50質量%以下のグラフト共重合体(B-1)~(B-3)の粉体を用いた塗料組成物は、外観にも優れていた。
一方、共重合体(A-1)の粉体は、ハンドリング性に劣っていた。
(メタ)アクリレート(a)単位を含まない共重合体(A-5)は、ハンドリング性は良好であったが、成形品や塗膜の親油性が低く、耐指紋性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のグラフト共重合体によれば、成形品の表面や塗膜に優れた耐指紋性を付与できる。例えば、本発明のグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形品や塗料組成物の塗膜は、親油性に優れるので、指紋が付着したときに指紋が目立ちにくい。また、付着した指紋を拭き取りやすい。さらに、本発明のグラフト共重合体はハンドリング性に優れており、熱可塑性樹脂や有機溶剤との混合等を良好に行うことができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、耐指紋性に優れる成形品が得られる。そのため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、自動車のナビ回り、スイッチ回りといった人の手が触れやすい箇所や、テレビ、オーディオ、電子機器の筐体等を形成する各種の工業用材料として有用である。
本発明の塗料組成物によれば、成形体の表面に優れた耐指紋性を付与できる。そのため、本発明の塗料組成物は、自動車のナビ回り、スイッチ回りといった人の手が触れやすい箇所や、テレビ、オーディオ、電子機器の筐体等の塗装用として有用である。
図1