(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両、並びに、車両制御装置の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20250702BHJP
B60W 50/08 20200101ALI20250702BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250702BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20250702BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20250702BHJP
B62D 109/00 20060101ALN20250702BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20250702BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20250702BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W50/08
G08G1/16 C
B62D6/00
B62D101:00
B62D109:00
B62D119:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2021061588
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕司
【審査官】横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-066853(JP,A)
【文献】特開2015-209129(JP,A)
【文献】特開2018-177179(JP,A)
【文献】特開2009-292332(JP,A)
【文献】特開2013-100064(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112477856(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B62D 6/00- 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御する車両制御装置であって、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出手段と、
障害物を検出する第2の検出手段と、
車両を定められた領域で走行するように制御する走行制御手段と、
前記第2の検出手段で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出手段で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定手段と
、
前記車両と前記障害物とが前記所定の関係にあり、且つ、前記車両が前記車線外領域へ侵入せずに走行中の場合、前記車両を前記車線外領域へ誘導する誘導手段と
を備え
、
前記車線外領域への侵入は、前記車両の所定位置が前記車線外領域上へ侵入した場合に判定し、
前記運転手による操舵制御が所定以上の力で行われた場合、前記運転手による操舵制御を前記走行制御手段による操舵制御に優先して実行することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記誘導手段は、前記車両が前記車線外領域に侵入後、前記車両の運転手による操舵量が前記走行制御手段が求める操舵量から所定の範囲内にある場合には前記誘導を行わないことを特徴とする請求項
1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
車両を制御する車両制御装置であって、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出手段と、
障害物を検出する第2の検出手段と、
前記第2の検出手段で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出手段で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定手段と、
前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に、前記走行中の車線における軌道から前記車線外領域内での走行のための軌道に切り替わるまでの移行期間で操舵を制御する操舵制御手段
とを有し、
該操舵制御手段は、
前記移行期間での移行軌道を算出する算出手段を含み、
前記運転手による操舵操作により、前記算出手段で算出した移行軌道に沿って走行している場合には当該操舵に関する誘導は行わず、
前記運転手による操舵操作により前記算出手段で算出した移行軌道から逸脱した場合には、前記車線外領域内での走行のための軌道へ移行するまで操舵制御処理を実行する
ことを特徴とす
る車両制御装置。
【請求項4】
前記走行制御手段により車線内で前記車両が走行している状態にて、前記承認が取得された場合、前記車線外領域を前記走行制御手段による前記領域に設定する設定手段と
を更に有することを特徴とする請求項
1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車線外領域は、隣接車線であることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記車両の前記障害物からの衝突回避の可能性を表す値を算出する算出手段を更に有し、
前記所定の関係とは、前記算出手段で算出した値が所定の閾値以下となる場合であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記第2の検出手段により障害物が検出された場合に、走行中の車線内での当該障害物との衝突回避のための制動制御によるアシスト処理を行う制動制御手段を更に有し、
前記算出手段は、前記制動制御手段によるアシスト処理中において、前記値を算出する
ことを特徴とする請求項
6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記誘導手段は、前記障害物を検出後、前記車両が前記車線外領域に侵入し走行をした場合に前記車線外領域において他の物体と接触することが予測される場合、前記車線外領域への誘導は行わない
ことを特徴とする請求項
1又は
2に記載の車両制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の車両制御装置を備えた車両。
【請求項10】
車両を制御する車両制御装置の制御方法であって、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出工程と、
障害物を検出する第2の検出工程と、
車両を定められた領域で走行するように制御する走行制御工程と、
前記第2の検出工程で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出工程で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定工程と、
前記車両と前記障害物とが前記所定の関係にあり、且つ、前記車両が前記車線外領域へ侵入せずに走行中の場合、前記車両を前記車線外領域へ誘導する誘導工程と
を備え、
前記車線外領域への侵入は、前記車両の所定位置が前記車線外領域上へ侵入した場合に判定し、
前記運転手による操舵制御が所定以上の力で行われた場合、前記運転手による操舵制御を前記走行制御工程における操舵制御に優先して実行することを特徴とする車両制御装置の制御方法。
【請求項11】
車両を制御する車両制御装置の制御方法であって、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出工程と、
障害物を検出する第2の検出工程と、
前記第2の検出工程で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出工程で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定工程と
、
前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に、前記走行中の車線における軌道から前記車線外領域内での走行のための軌道に切り替わるまでの移行期間で操舵を制御する操舵制御工程と
を備え
、
該操舵制御工程では、
前記移行期間での移行軌道を算出する算出工程を含み、
前記運転手による操舵操作により、前記算出工程で算出した移行軌道に沿って走行している場合には当該操舵に関する誘導は行わず、
前記運転手による操舵操作により前記算出工程で算出した移行軌道から逸脱した場合には、前記車線外領域内での走行のための軌道へ移行するまで操舵制御処理を実行することを特徴とする車両制御装置の制御方法。
【請求項12】
車両を制御する車両制御装置のプロセッサが読み込み実行するプログラムであって、
前記プロセッサに、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出工程と、
障害物を検出する第2の検出工程と、
車両を定められた領域で走行するように制御する走行制御工程と、
前記第2の検出工程で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出工程で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定工程と、
前記車両と前記障害物とが前記所定の関係にあり、且つ、前記車両が前記車線外領域へ侵入せずに走行中の場合、前記車両を前記車線外領域へ誘導する誘導工程と
を実行させ、
前記車線外領域への侵入は、前記車両の所定位置が前記車線外領域上へ侵入した場合に判定し、
前記運転手による操舵制御が所定以上の力で行われた場合、前記運転手による操舵制御を前記走行制御工程における操舵制御に優先して実行するためのプログラム。
【請求項13】
車両を制御する車両制御装置のプロセッサが読み込み実行するプログラムであって、
前記プロセッサに、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出工程と、
障害物を検出する第2の検出工程と、
前記第2の検出工程で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出工程で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定工程と
、
前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に、前記走行中の車線における軌道から前記車線外領域内での走行のための軌道に切り替わるまでの移行期間で操舵を制御する操舵制御工程と
を実行させ
、
該操舵制御工程では、
前記移行期間での移行軌道を算出する算出工程を含み、
前記運転手による操舵操作により、前記算出工程で算出した移行軌道に沿って走行している場合には当該操舵に関する誘導は行わず、
前記運転手による操舵操作により前記算出工程で算出した移行軌道から逸脱した場合には、前記車線外領域内での走行のための軌道へ移行するまで操舵制御処理を実行するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置及び車両、並びに、車両制御装置の制御方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両の前方に障害物が存在した場合に、その障害物を回避するように操舵を制御する技術が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-206040号公報
【文献】特開2019-151207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、車両を、車線(レーン)内に維持させつつ走行中の操舵を制御する技術も知られている(以下、この動作モードをレーン維持支援モードという)。このレーン維持支援モードでの走行中に、前方に障害物が検出された場合、その障害物との衝突回避のためのブレーキや操舵が制御されるが、その制御はあくまで走行中のレーンの範囲内で行われている。
【0005】
本発明の目的は、障害物との衝突回避を、これまでよりも高める技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、例えば本発明の車両制御装置は以下の構成を備える。すなわち、
車両を制御する車両制御装置であって、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出手段と、
障害物を検出する第2の検出手段と、
車両を定められた領域で走行するように制御する走行制御手段と、
前記第2の検出手段で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出手段で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定手段と、
前記車両と前記障害物とが前記所定の関係にあり、且つ、前記車両が前記車線外領域へ侵入せずに走行中の場合、前記車両を前記車線外領域へ誘導する誘導手段と
を備え、
前記車線外領域への侵入は、前記車両の所定位置が前記車線外領域上へ侵入した場合に判定し、
前記運転手による操舵制御が所定以上の力で行われた場合、前記運転手による操舵制御を前記走行制御手段による操舵制御に優先して実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、障害物との衝突回避を、これまでよりも高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る車両及び制御装置のブロック図。
【
図2】車両制御装置で実行されるレーン維持モードの処理を示すフローチャート。
【
図3】車両制御装置で実行されるレーン維持モードの処理を示すフローチャート。
【
図4】
図3のS30
9の詳細を示すフローチャート。
【
図5】実施形態におけるレーン維持モードでの車両の走行と処理内容を説明するための図。
【
図6】実施形態におけるレーン維持モードでの車両の走行と処理内容を説明するための図。
【
図9】衝突回避のための処理結果に基づく、走行軌道の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴うち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る車両V及びその制御装置1のブロック図である。
図1において、車両Vはその概略が平面図と側面図とで示されている。車両Vは一例としてセダンタイプの四輪の乗用車である。
【0011】
本実施形態の車両Vは、例えばパラレル方式のハイブリッド車両である。この場合、車両Vの駆動輪を回転させる駆動力を出力する走行駆動部であるパワープラント50は、内燃機関、モータおよび自動変速機を含むことができる。モータは車両Vを加速させる駆動源として利用可能であると共に減速時等において発電機としても利用可能である(回生制動)。
【0012】
<制御装置>
図1を参照して車両Vの車載装置である制御装置1の構成について説明する。制御装置1は、ECU群(制御ユニット群)2を含む。ECU群2は、互いに通信可能に構成された複数のECU20~28を含む。各ECUは、CPUに代表されるプロセッサ、半導体メモリ等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェース等を含む。記憶デバイスにはプロセッサが実行するプログラムやプロセッサが処理に使用するデータ等が格納される。各ECUはプロセッサ、記憶デバイスおよびインタフェース等を複数備えていてもよい。なお、ECUの数や、担当する機能については適宜設計可能であり、本実施形態よりも細分化したり、あるいは、統合することが可能である。なお、
図1においてはECU20~28の代表的な機能の名称を付している。例えば、ECU20には「運転制御ECU」と記載している。
【0013】
ECU20は、車両Vの自動運転を含む運転支援に関わる制御を実行する。自動運転においては車両Vの駆動(パワープラント50による車両Vの加速等)、操舵および制動を、運転者の操作を要せずに自動的に行う。また、ECU20は、手動運転において、例えば、衝突軽減ブレーキ、車線逸脱抑制等の走行支援制御を実行可能である。衝突軽減ブレーキは、前方の障害物との衝突可能性が高まった場合にブレーキ装置51の作動を指示して衝突回避を支援する。車線逸脱抑制は、車両Vが車線を逸脱する可能性が高まった場合に、電動パワーステアリング装置41の作動を指示して車線逸脱回避を支援する。また、ECU20は自動運転、手動運転のいずれにおいても車両Vを先行車に自動追従させる自動追従制御を実行可能である。自動運転の場合、車両Vの加速、減速及び操舵の全てを自動で行ってもよい。手動運転の場合、車両Vの加速と減速を自動で行ってもよい。
【0014】
ECU21は、車両Vの周囲状況を検知する検知ユニット31A、31B、32A、32Bの検知結果に基づいて、車両Vの走行環境を認識する環境認識ユニットである。本実施形態の場合、検知ユニット31A、31Bは、車両Vの前方を撮影するカメラであり(以下、カメラ31A、カメラ31Bと表記する場合がある。)、車両Vのルーフ前部でフロントウィンドウの車室内側に取り付けられる。カメラ31Aが撮影した画像の解析により、物標の輪郭抽出や、道路上の車線の区画線(白線等)を抽出可能である。
【0015】
本実施形態の場合、検知ユニット32Aは、ライダ(Light Detection and Ranging)であり(以下、ライダ32Aと表記する場合がある)、車両Vの周囲の物標を検知したり、物標との距離を測距する。本実施形態の場合、ライダ32Aは5つ設けられており、車両Vの前部の各隅部に1つずつ、後部中央に1つ、後部各側方に1つずつ設けられている。検知ユニット32Bは、ミリ波レーダであり(以下、レーダ32Bと表記する場合がある)、車両Vの周囲の物標を検知したり、物標との距離を測距する。本実施形態の場合、レーダ32Bは5つ設けられており、車両Vの前部中央に1つ、前部各隅部に1つずつ、後部各隅部に一つずつ設けられている。
【0016】
ECU22は、電動パワーステアリング装置41を制御する操舵制御ユニットである。電動パワーステアリング装置41は、ステアリングホイールSTに対する運転者の運転操作(操舵操作)に応じて前輪を操舵する機構を含む。電動パワーステアリング装置41は、操舵操作のアシストあるいは前輪を自動操舵するための駆動力(操舵アシストトルクと呼ぶ場合がある。)を発揮するモータを含む駆動ユニット41a、操舵角センサ41b、運転者が負担する操舵トルク(操舵負担トルクと呼び、操舵アシストトルクと区別する。)を検知するトルクセンサ41c等を含む。ECU22は、また、運転者がステアリングホイールSTを把持しているか否かを検知するセンサ36の検知結果を取得可能であり、運転者の把持状態を監視することができる。
【0017】
ステアリングホイールSTの近傍には、ウィンカレバー51、52が設けられている。ウィンカレバー51、52に対する乗員の操作により、対応する左右の方向指示器(不図示)を作動させることができる。また、本実施形態では、車両Vの自動進路変更を、ウィンカレバー51、52に対する操作により乗員が指示可能である。自動進路変更の指示として、例えば、乗員は、ウィンカレバー51に対する操作により左側の車線への車線変更を指示可能であり、また、ウィンカレバー52に対する操作により右側の車線への車線変更を指示可能である。乗員による進路変更の指示は、自動運転中或いは自動追従制御中に受け付け可能であってもよい。
【0018】
ECU23は、油圧装置42を制御する制動制御ユニットである。ブレーキペダルBPに対する運転者の制動操作はブレーキマスタシリンダBMにおいて液圧に変換されて油圧装置42に伝達される。油圧装置42は、ブレーキマスタシリンダBMから伝達された液圧に基づいて、四輪にそれぞれ設けられたブレーキ装置(例えばディスクブレーキ装置)51に供給する作動油の液圧を制御可能なアクチュエータであり、ECU23は油圧装置42が備える電磁弁等の駆動制御を行う。また、制動時にECU23はブレーキランプ43Bを点灯可能である。これにより後続車に対して車両Vへの注意力を高めることができる。
【0019】
ECU23および油圧装置42は電動サーボブレーキを構成することができる。ECU23は、例えば、4つのブレーキ装置51による制動力と、パワープラント50が備えるモータの回生制動による制動力との配分を制御することができる。ECU23は、また、四輪それぞれに設けられた車輪速センサ38、ヨーレートセンサ(不図示)、ブレーキマスタシリンダBM内の圧力を検知する圧力センサ35の検知結果に基づき、ABS機能、トラクションコントロールおよび車両Vの姿勢制御機能を実現することも可能である。
【0020】
ECU24は、後輪に設けられている電動パーキングブレーキ装置(例えばドラムブレーキ)52を制御する停止維持制御ユニットである。電動パーキングブレーキ装置52は後輪をロックする機構を備える。ECU24は電動パーキングブレーキ装置52による後輪のロックおよびロック解除を制御可能である。
【0021】
ECU25は、車内に情報を報知する情報出力装置43Aを制御する車内報知制御ユニットである。情報出力装置43Aは例えばヘッドアップディスプレイやインストルメントパネルに設けられる表示装置、或いは、音声出力装置を含む。更に、振動装置を含んでもよい。ECU25は、例えば、車速や外気温等の各種情報や、経路案内等の情報、車両Vの状態に関する情報を情報出力装置43Aに出力させる。
【0022】
ECU26は、車間通信用の通信装置26aを備える。通信装置26aは、周辺の他車両と無線通信を行い、車両間での情報交換を行う。
【0023】
ECU27は、パワープラント50を制御する駆動制御ユニットである。本実施形態では、パワープラント50にECU27を一つ割り当てているが、内燃機関、モータおよび自動変速機のそれぞれにECUを一つずつ割り当ててもよい。ECU27は、例えば、アクセルペダルAPに設けた操作検知センサ34aやブレーキペダルBPに設けた操作検知センサ34bにより検知した運転者の運転操作や車速等に対応して、内燃機関やモータの出力を制御したり、自動変速機の変速段を切り替える。なお、自動変速機には車両Vの走行状態を検知するセンサとして、自動変速機の出力軸の回転数を検知する回転数センサ39が設けられている。車両Vの車速は、回転数センサ39の検知結果から演算可能である。
【0024】
ECU28は、車両Vの現在位置や進路を認識する位置認識ユニットである。ECU28は、ジャイロセンサ33、GPSセンサ28b、通信装置28cの制御、および、検知結果あるいは通信結果の情報処理を行う。ジャイロセンサ33は車両Vの回転運動を検知する。ジャイロセンサ33の検知結果等により車両Vの進路を判定することができる。GPSセンサ28bは、車両Vの現在位置を検知する。通信装置28cは、地図情報や交通情報を提供するサーバと無線通信を行い、これらの情報を取得する。データベース28aには、高精度の地図情報を格納することができ、ECU28はこの地図情報等に基づいて、車線上の車両Vの位置をより高精度に特定可能である。
【0025】
入力装置45は運転者が操作可能に車内に配置され、運転者からの指示や情報の入力を受け付ける。
【0026】
<制御例>
車両Vの運転制御モードには、乗員の操作により選択可能な自動運転モードと手動運転モードがある。そして、自動運転モードには、車両Vを、走行中の車線(レーン)を維持する車線維持支援モード(LKAS(Lane Keep Assist System)モード)がある。運転者は、入力装置45を介してLKASモードのONにする操作を行うことで、ECU20はこのLKASモードに従った運転制御を行うことになる。本実施形態の主眼は、このLKASモードでの走行時における、障害物検出時の衝突回避処理にある。従って、手動運転モードについての説明は省略する。
【0027】
以下、このLKASモードでの走行中のECU20の処理を説明する。
図2乃至
図4に係るフローチャートは、実施形態におけるLKASモードでの走行中のECU20の処理手順を示している。
【0028】
S201にて、ECU20は、運転者によるウインカレバー51又は52の操作があったか否かを判定する。ウインカレバー51又は52への操作は、運転者による積極的な右折、左折、もしくは、隣接レーンへの変更の意思表示であると見なせるので、ECU20は処理をS207に進め、LKASモードをOFFにし、本処理を終える(手動運転モードに切り替える)。
【0029】
ウインカレバー51又は52への操作がない場合、S202にて、ECU20はレーン境界線と車両V(実施形態では車両Vの両前輪の中央位置とする)との距離が、予め設定された閾値以下となったか否かを判定する。閾値以下となった場合、S203にて、ECU20は、運転者へ警告するための支援動作を行う。例えば、ECU20は、情報出力装置43Aを制御して、警告メッセージの表示と、アラーム音を発生する。また、不図示の駆動部を付勢して、ステアリングホイールSTを振動させる等で警告を通知しても良い。
【0030】
S204にて、ECU20は、車両Vがレーン境界線を越えたか否かを判定する。このS204の判定で用いる閾値は、上記S202で用いた閾値よりも小さい値を用いればよい。車両Vがレーン境界線を越えたと判定した場合、ECU20は、処理をS207に進め、LKASモードをOFFにし、本処理を終える。
【0031】
S205にて、ECU20は、ECU21(カメラ31A,31B)からの情報に基づき、走行中のレーンの両側の区画線を認識し、その中央を通る軌道を目標軌道として算出し、従前に算出した目標軌道を更新する。
【0032】
そしてS206にて、算出した目標軌道と現在の車両Vのずれ量を求める。そして、ECU20は、ズレ量が許容範囲内になるようにECU22を制御する。ECU22は、ECU20の制御下で、操舵を制御することになる。
【0033】
次に、S208にて、ECU20は、ECU21(カメラ31A,31B)からの情報に基づき、走行中のレーンに隣接するレーンが存在するか否かを判定する。隣接レーンが存在すると判定した場合、S209にて、ECU20は隣接レーンにおける走行軌道を算出し、従前算出した隣接レーンの走行軌道(もし有れば)を更新する。
【0034】
S210には、ECU20は、ECU21(カメラ31A,31B)からの情報に基づき、走行中のレーンの前方に障害物(典型的には人)があるか否かを判定する。否の場合、ECU20は処理をS201に戻し、S201の処理を繰り返す。
【0035】
ここで、LKASモードでのECU20の具体的な制御処理を、
図5、
図6を参照して説明する。
【0036】
図5は、LKASモードで走行中の車両Vと、道路との関係を示す図である。同図において、車両VのECU20は、ECU21から供給されるカメラ31A,31Bからの映像に基づき、レーンの境界線201、202を検出する。そして、ECU20は、境界線201、202の中央を通る軌道を、目標軌道210として逐次算出及び更新を行う(S205)。そして、ECU20は、車両Vがこの目標軌道210上を移動するように制御する(S206)。例えば、車両Vが、目標軌道201を中心とする所定の許容範囲内を走行中は現状を維持する。また、車両Vが、許容範囲を超えて、例えば右側にずれている場合、ECU20は、ECU22を制御し、そのずれ量と車速に応じたステアリングを制御させることで、目標軌道210に沿った走行を維持する。
【0037】
また、LKASモードでの走行中に、運転者がウインカレバー51又は52を操作したり、入力装置45を介してLKASモードのOFFにする操作を行った場合は、ECU20は、LKASモードから手動運転モードに移行する。また、運転者が、ウィンカレバー51又は52を操作しないで、ステアリングホイールSTを操作し、例えば
図6に示すように、車両Vが許容範囲を超えて境界線202に近づいた場合、ECU20は、音、表示、バイブレーション等の通知手段を介して、運転者に警告する(S203)すると共に、ECU22を制御し、許容範囲内に誘導させる。そして、それでも運転者が、その誘導に逆らって、ウインカレバーの操作無しに境界線202を超える操作を行った場合には、LKASモードから手動運転モードに移行する。
【0038】
以上が、ECU20による、LKASモードでの基本的な制御処理である。本実施形態におけるECU20が行う処理の特徴の1つは、上記LKASモードでの制御中に、S208、S209の処理を行う点にある。再び
図5を参照して説明する。
【0039】
ECU20は、LKASモードにて車両Vを目標軌道210に沿った走行を制御している間、走行中のレーン外の境界線203が検出できた場合には隣接レーンが存在すると判定し(S208がYes)、その場合の境界線202と203で挟まれる隣接レーンの中央を通る走行軌道211の算出・更新を行う。そして、ECU20は、この走行軌道211を、障害物(人等)検出時の衝突回避するために利用する。以下、障害物検出時のECU20の処理を説明する。
【0040】
図3のフローチャートは、LKASモードでの走行中における障害物検知した場合(
図2のS210の判定がYesとなった場合)のECU20の処理を示している。
【0041】
S301にて、ECU20は、制動制御を主要とする衝突回避アシスト処理を開始する。この結果、走行中のレーン内での必要に応じて減速もしくは停止処理による衝突回避処理が開始される。以降に説明する処理は、この衝突回避アシスト処理を並列的に行われている点に注意されたい。
【0042】
S302にて、ECU20は隣接レーンが既に検出されているか否かを判定する。そして、S303にて、ECU20は、隣接レーンの軌道211への誘導を行うか否かを判定する。実施形態では、車両Vの走行速度、走行中のレーンにおける車両Vと障害物間の位置並びに距離に基づき、現在走行中のレーン内でのブレーキ、操舵制御のみで障害物との衝突回避の確率値を算出する。そして、算出した確率値が所定の閾値以下の場合(現在のレーンでの衝突する確率が高い場合)には、隣接レーンへの誘導を行うと判定する。
【0043】
さて、隣接レーンへの誘導を行うと判定した場合、ECU20は処理をS304に進める。このS304にて、ECU20は、現在の車両Vと障害物との位置関係、車両の走行速度に基づき、隣接レーンの軌道211への繋ぎの軌道(以下、移行軌道という)を算出する。
【0044】
図7の線分700が、このS304で算出する移行軌道である。この移行軌道700は、障害物を回避しつつ、現在走行中の軌道210から隣接レーンの軌道211のいずれに対してもなだらかな曲線である。また、移行軌道700から
予め設定された距離の範囲を示す許容範囲軌道701、702で挟まれる範囲が、移行軌道700の許容範囲である。
【0045】
S305にて、ECU20は、ECU25を制御して、移行軌道700(もしくは移行軌道の許容範囲内)に沿った走行となるように誘導する。ここで言う、誘導とは、移行軌道700に沿った走行となるようにするハンドルアシスト処理を含み、更には、実施形態では、画面に“>>”等の右側のレーンへの移動を直感的に促すシンボルを強調表示(例えば赤色で点滅表示)や注意喚起のための警告音を発生させる処理を含むものとする。
【0046】
ここで、S305の処理をより詳しく説明する。
【0047】
この誘導を行っている最中の車両Vの走行は、
図7における移行軌道700の許容範囲軌道701よりも左側、許容範囲軌道701,702の間、許容範囲軌道702よりも右側のいずれかである。実施形態のECU20は、移行軌道700の許容範囲軌道701よりも左側を走行していると判定した場合、障害物500との衝突回避のための運転手によるステアリングホイールSTの操作量が不足していると判定し、不足分を補う操舵量を求め、それに従って操舵制御して、隣接レーンへの侵入するように誘導する。
【0048】
一方、実施形態のECU20は、移行軌道700の許容範囲軌道702よりも右側を走行しているのは、障害物500との衝突回避のための運転手が過度にステアリングホイールSTを操作している場合である。隣接レーンに対する侵入角が大きくなりすぎてしまてしまい、車速によっては、車両が隣接レーンの境界線203にまで到達してしまうことになる。境界線203に、壁などの何等かの物体が存在すると、境界線203付近に存在する物体との二次衝突の可能性にある。そこで、本実施形態では、車両Vが、運転手によるステアリングホイールSTの過度の操作で、移行軌道700の許容範囲軌道702よりも右側を走行にするようになった場合には、隣接レーンへ侵入角を小さくするように操舵制御する。
【0049】
さて、S306にて、ECU20は、境界線202を超えて隣接レーンに侵入したか否かを判定する。なお、隣接レーンへの侵入判定は、車両Vの予め設定された位置(例えば一方の前輪や、車両のフロントコーナー位置等)が隣接レーンの境界線上に到達したか否かをで判定するものとする。
【0050】
隣接レーンへの侵入が検出されると、S307にて、ECU20は、運転者による隣接レーンへの誘導が承認されたと判定し、ECU25を制御して、レーン切換への処理を開始する旨を運転者に通知する。例えば、隣接レーンでの走行に移行中であることを示すメッセージ等を表示する。また、メッセージの表示の代わりに(若しくは加えて)、隣接レーンへの移動の認証が確認されたことを音声出力しても良い。そして、S308にて、ECU20は、LKASモードON状態を維持したまま、直近のS209で算出した軌道211を新たな目標対象軌道に設定する。
【0051】
さて、隣接レーンに侵入した以降でも、その際の車両Vは、移行軌道700に沿って走行しているとは限らない。むしろ、この段階でも、運転者は、障害物の発見時にステアリングホイールSTを過剰に操作してしまう可能性がある。このステアリングホイールSTを過剰操作した場合、その際の速度によっては、
図7の参照符号710に示すように、境界線203にまで移動してしまうことが起こり得る。たまたま、その境界線203のその位置に障害物が存在する場合には、二次的な衝突にまで発展しかねない。
【0052】
そこで、本実施形態では、軌道211に沿った正常な走行状態になるまでの期間では、より強い操舵アシスト制御をS309で開始するようにした。そして、S309のアシスト処理を、S310にて、走行軌道211に沿った安定した運転を行っていると判定されるまで継続するようにした。
【0053】
以下、S309のアシスト処理を説明する。
【0054】
車両Vが移行軌道700に沿って走行している場合は、その走行状態を維持するようにすれば良い。この場合の移行軌道700に沿った走行とは、次の条件を同時に満たす走行を行っている場合である。第1に、移行軌道700の許容範囲軌道701、702で挟まれる範囲内を走行していことである。2つ目は、移行軌道700における、軌道211に直交する座標軸上における車両Vの位置に対応する点での接線方向と車両Vの走行方向との成す角度が予め設定した閾値以下であることである。
【0055】
上記条件のうち、少なくとも1つが満たされない場合、実施形態におけるECU20は、移行軌道700に沿った走行を行うことは無理であると判定する。例えば、運転者が、ステアリングホイールSTを過剰に操作した場合等である。この場合、移行軌道700での走行制御を行う代わりに、境界線203に到達しないで軌道211にスムーズに移行するための操舵アシスト処理に切り替える。この場合の操舵アシスト処理を、
図8(a)、(b)を参照して説明する。
【0056】
図8(a)は、運転者がステアリングホイールSTを過剰に回動させて、車両Vが隣接レーンに侵入したときの状態を示している。図示において、参照符号800は両前輪の中央位置を示し、参照符号801の線分は車両Vの進行方向を表している。そして、θ及びdは、次のように定義される。
【0057】
θは車両Vの進行方向801と軌道211(の延長線)の成す角度を表す。dは、車両Vと軌道211の延長線との距離を表す。ただし、この距離dは、軌道211上を原点とし、その左側では正、右側では負の値を持つものと定義する。更に、図示してないが、車両Vの車速をvと定義する。
【0058】
この場合、車両Vが境界線203の位置まで移動する可能性は、車速vが大きいほど高く、距離dが小さいほど(負の絶対値が大きいほど)高く、角度が大きいほど(最大で90度とする)高くなることは明らかである。例えば、
図8(b)における車速v、角度θが、
図8(a)の場合のそれと同じであっても、境界線203にまで車両Vが移動する可能性は、
図8(b)の方が同図(a)より遥かに高い。つまり、車両Vが境界線203の位置しないように操舵を制御する際の制御量は、これら3つをパラメータθ、d、vを引数とする関数f(θ、d、v)で求めることができるということになる。
【0059】
図4は、
図3のS309のアシスト処理の詳細を示すフローチャートである。以下、同図を参照して、ECU20の処理を説明する。
【0060】
S401にて、ECU20は、車両Vが、移行軌道700に沿った走行を行っているかを判定する。移行軌道700に沿った走行を行っているかを判定条件は先に説明した通りである。このS401の判定がYesの場合、ECU20は以下に示す処理を行わず、
図3のS310に処理を進める。
【0061】
S401の判定がNoの場合、つまり、車両Vが、移行軌道700に沿った走行を行っていない場合、ECU20は処理をS402に進める。
【0062】
このS402にて、ECU20は、ECU27を介して車速vを取得すると共に、ECU21等の情報に基づいて目標軌道211に対する車両Vの侵入角度θ、並びに、目標軌道211と車両Vとの距離dを算出する。
【0063】
次に、S403にて、ECU20は、境界線203への到達回避のための操舵制御量を、これら車速v、角度θ、距離dから予め用意した関数に従い求める。なお、制御量を算出する代わりに、v、θ、dを入力とするルックアップテーブルを用いれば、演算に係る時間は無視できる。
【0064】
そして、S404にて、ECU20は、求めた操舵量となるようECU22を制御する。
【0065】
以上がS309の処理の詳細である。
図3のS310における、アシスト処理の終了判定は、次の2つの条件1、2を同時に満たす場合とする。
条件1:距離dがLKASモードでの軌道走行時の許容範囲内にあること
条件2:角度θが閾値以下となること
【0066】
なお、上記の説明によれば、車両Vが移行軌道700の許容範囲(参照符号701、702で挟まれた範囲)を走行している最中に、運転者がこの許容範囲から外れる操作を行った場合は、S401の判定がNoとなる。つまり、ECU20は、移行軌道700から走行軌道211に目標を切り替えることになる。ただし、車両が移行軌道700の許容範囲(参照符号701、702で挟まれた範囲)内を走行している最中に、運転者がこの許容範囲の境界に近づく操作を行った場合には、移行軌道700内に戻るように操舵制御を行っても良い。
【0067】
また、上記
図4の説明では、車両Vが隣接レーンに侵入し、且つ、その際の走行位置が、移行軌道から逸脱している場合には、ECU20は、θ、v、dをパラメータとして操舵制御を行うものとした。しかし、例えば、
図8(a)の状態で、進行方向に障害物850が存在した場合に、その二次衝突を避けるために、ECU20は衝突回避軌道を算出し、その算出した衝突回避軌道に従って、例えば、ステアリングホイールSTを左に回すように促す通知を行ても良い。これを受けて、運転手がステアリングホイールSTを左に切る操作を行った場合には、ECU20は、通知が承認されたものとし、ステアリングホイールSTの操作方向への操舵制御によるアシスト処理を開始しても良い。また、障害物850に対する衝突回避軌道が算出できない場合には、制動制御を行うようにしても良い。
【0068】
図9の参照符号900は、運転者が障害物回避のために、過剰にステアリングホイールSTを操作した場合の、軌道211に沿った走行となるまでの車両Vの移動軌道を示している。図示は、運転者によるステアリングホイールSTの操作を行った際の走行軌道が、移行軌道700から最初からずれている場合を示している。図示のように、障害物発見時に、システムが用意して移行軌道700から逸脱するようなステアリングホイールSTを操作したとしても、本実施形態によれば、境界線203に到達しないようにしつつ、軌道211にスムーズに移行する操舵制御が行われることが可能になる。
【0069】
纏めると、LKASモードで軌道210に沿って走行中に、進行方向に障害物500が出現した場合、実施形態では、隣接レーンへの退避の是非が判定される。そして、隣接レーンへの切り替えが望ましいと判定した場合は、運転者に移行軌道700に沿った走行を促す。そして、実際に運転者が、隣接レーンに侵入する操作を行った場合、EUC20は、運転者による隣接レーンへの切り替えアシストが承認されたと判定し、LKASモードのON状態を維持したまま走行軌道211への切り替えを行う。実施形態では、システムが衝突回避のための安全な処理を遂行していることを知ることができ、安心感を得ることができる。更に、障害物との衝突回避のために、ステアリングホイールを必要以上に操作したとしても、隣接レーンに侵入後の初期段階では、LKASよりも強い操舵制御が行われ、レーンをはみ出す走行を抑制でき、二次衝突の可能性も抑制できる。
【0070】
<他の実施形態>
上記実施形態では、LKASモードがON状態の走行を行っていることを条件にして説明した。通常、LKASモードがON状態で走行中に、ウインカーハンドルを操作無しに隣接レーンに移った場合(車線変更した場合)は、LKASモードはOFFになる。しかし、上記実施形態によれば、障害物との衝突回避のために隣接レーンに車両が侵入した場合には、格別な操作無しに、その隣接レーンでのLKASモードがON状態が維持できる、メリットがある。しかしながら、走行レーンの切り替え前後で、LKASが維持されなくても良いのであれば、上記実施形態で説明した障害物との衝突回避に係る処理は、LKASモードがON状態で走行していることを条件から除外しても構わない。この場合、障害物との衝突回避する確率を表す値が閾値よりも小さく、運転手によるステアリングホイールSTの操舵で隣接レーンへの侵入があったことを条件に(LKASモードは不問)、隣接レーンでの操舵制御について運転手による承認を得たと判定すればよい。
【0071】
また、隣接レーンへの移行が完了した際の走行軌道として隣接レーンの中央を通る軌道211としたが、LKASモードを必要としない場合には、この移行完了後の軌道は、当初の障害物との衝突が回避できる軌道であれば、その位置は特に問わない。
【0072】
また、上記実施形態では、隣接レーンを走行中の他の車両が存在しないものとして説明したが、隣接レーンに何らかの物体が存在する場合、その物体と車両Vとの距離が予め設定された距離以下となることが推定される場合は、隣接レーンへの誘導を行わないようにしても良い。
【0073】
具体的には、例えば、隣接レーンが追い越し車線である場合には、追い越し車線における自車よりも後方で所定距離以内に走行中の他の車両が検出されたか否かを判定するステップ(レーダ32Bにより検出できる)を、
図3のS303の直後に設ければ良い。そして、この判定の結果が非存在を示す場合に、S304に進むようにすれば良い。また、隣接レーンが、対向車線である場合、所定距離以内で前方からやってくる他の車両が存在するか否かを判定するステップ(カメラ32Aで検出できる)を、
図3のS303の直後に設ければ良い。そして、この判定の結果が非存在を示す場合に、S304に進むようにすれば良い。更に、隣接レーンが、追い越し車線、対向車線のいずれの場合にも安全走行を行う場合には、上記の2つの判定をS303の直後に連続して配置すればよい。そして、いずれの判定の結果が非存在である場合に、S304に進むようにすれば良い。
【0074】
なお、追い越し車線か、対向車線かの判定は、ECU28からの情報(車両Vの現在位置と、ナビゲーションシステムの情報)から判定すればよい。
【0075】
また、上記実施形態では、障害物が発見した際に、S301にて制動制御を行うものとして説明したが、この制動制御は隣接車線に回避しないと判定した場合、S302でNo,または、S303でNoと判定された場合に実行するようにしても良い。
【0076】
また、実施形態では、障害物との衝突回避のために利用する対象を、隣接する車線(レーン)としたが、これに限らない。例えば、路肩等の或る程度の空き地であっても良い。
【0077】
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は、少なくとも以下の実施形態を開示する。
【0078】
1.上記実施形態によれば、
車両を制御する車両制御装置は、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出手段と、
障害物を検出する第2の検出手段と、
前記第2の検出手段で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出手段で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定手段とを備える。
【0079】
この実施形態によれば、運転手による車線外領域への侵入する操舵操作が、車線外領域での操舵制御を承認したと判定されるので、障害物との衝突回避を更に高めることができる。
【0080】
2.上記実施形態によれば、
前記車線外領域への侵入は、前記車両の所定位置が前記車線外領域上へ侵入した場合に判定する。
【0081】
この実施形態によれば、車線外領域に侵入した早期段階から車線外領域での操舵制御が行えるようになる。
【0082】
3.上記実施形態によれば、
車両を定められた領域で走行するように制御する走行制御手段と、
前記運転手による操舵制御が所定以上の力で行われた場合、前記運転手による操舵制御を前記走行制御手段による操舵制御に優先して実行する。
【0083】
この実施形態によれば、運転手は、システムの誘導に委ねることと、運転者自身の操作で操舵を行うことが選択できる。
【0084】
4.上記実施形態によれば、
前記車両と前記障害物とが前記所定の関係にあり、且つ、前記車両が前記車線外領域へ侵入せずに走行中の場合、前記車両を前記車線外領域へ誘導する誘導手段を更に有する。
【0085】
この実施形態によれば、衝突回避の可能性が高い車線外領域への誘導することができる。
【0086】
5.上記実施形態によれば、
前記誘導手段は、前記車両が前記車線外領域に侵入後、前記車両の運転手による操舵量が前記走行制御手段が求める操舵量から所定の範囲内にある場合には前記誘導を行わない。
【0087】
この実施形態によれば、システムが用意した車線外領域の軌道に沿っている場合には、無駄な誘導を行わずに済む。
【0088】
6.上記実施形態によれば、
前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に、前記走行中の車線における軌道から前記車線外領域内での走行のための軌道に切り替わるまでの移行期間で操舵を制御する操舵制御手段を有し、
該操舵制御手段は、
前記移行期間での移行軌道を算出する算出手段を含み、
前記運転手による操舵操作により、前記算出手段で算出した移行軌道に沿って走行している場合には当該操舵に関する誘導は行わず、
前記運転手による操舵操作により前記算出手段で算出した移行軌道から逸脱した場合には、前記車線外領域内での走行のための軌道へ移行するまで操舵制御処理を実行する。
【0089】
この実施形態によれば、移行軌道に沿って走行している限りは運転手に対して誘導が不要となり、なおかつ、移行軌道から逸脱して走行するような状況になった場合であっても、車線外領域での安全な走行状態となるまでの操舵アシストを受けることができ、運転手に対して安心感を与えることができる。
【0090】
7.上記実施形態によれば、
前記走行制御手段により車線内で前記車両が走行している状態にて、前記承認が取得された場合、前記車線外領域を前記走行制御手段による前記領域に設定する設定手段とを更に有する。
【0091】
この実施形態によれば、障害物との衝突回避のために隣接車線に移った場合であっても、格別な操作無しに隣接車線内での走行するように継続することができる。
【0092】
8.上記実施形態によれば、
前記車線外領域は、隣接車線であることを特徴とする。
【0093】
この実施形態によれば、障害物との衝突回避に隣接レーンを利用できる。
【0094】
9.上記実施形態によれば、
前記車両の前記障害物からの衝突回避の可能性を表す値を算出する算出手段を更に有し、
前記所定の関係とは、前記算出手段で算出した値が所定の閾値以下となる場合である。
【0095】
この実施形態によれば、走行中の車線よりも、障害物との衝突回避する確率が高い車線外領域に誘導することができる。
【0096】
10.上記実施形態によれば、
前記第2の検出手段により障害物が検出された場合に、走行中の車線内での当該障害物との衝突回避のための制動制御によるアシスト処理を行う制動制御手段を更に有し、
前記算出手段は、前記制動制御手段によるアシスト処理中において、前記値を算出する。
【0097】
この実施形態によれば、通常の制動制御を用いた衝突回避のアシストが働いた上での車線外領域への切り替えであるので、運転者に対して更なる安心感を与えることができる。
【0098】
11.上記実施形態によれば、
前記誘導手段は、前記障害物を検出後、前記車両が前記車線外領域に侵入し走行をした場合に前記車線外領域において他の物体と接触するのことが予測される場合、前記車線外領域への誘導は行わない。
【0099】
この場合、車線外領域における他の物体との衝突を回避できる。
【0100】
12.上記実施形態によれば、
上記1乃至11のいずれかの構成を有する車両制御装置を搭載する車両(V)とすることで、その車両が、対応する作用効果を奏することができるようになる。
【0101】
13.上記実施形態によれば、
車両を制御する車両制御装置の制御方法は、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出工程と、
障害物を検出する第2の検出工程と、
前記第2の検出工程で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出工程で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定工程とを備える。
【0102】
この実施形態によれば、運転手による車線外領域への侵入する操舵操作が、車線外領域での操舵制御を承認したと判定されるので、障害物との衝突回避を更に高めることができる。
【0103】
14.上記実施形態によれば、
車両を制御する車両制御装置のプロセッサが読み込み実行するプログラムは、
前記プロセッサに、
走行中の車線の外側の車線外領域を検出する第1の検出工程と、
障害物を検出する第2の検出工程と、
前記第2の検出工程で障害物が検出され、且つ、前記第1の検出工程で車線外領域が検出され、前記車両と前記障害物とが所定の関係にある場合に運転手による操舵操作で前記車両が前記車線外領域へ侵入したとき、前記車線外領域での操舵制御を行うことを運転者が承認したと判定する判定工程とを実行させる。
【0104】
この実施形態によれば、これらの工程を行うプログラムを、車両制御装置のプロセッサ(ECU等)の実行対象とすれば、障害物との衝突回避を更に高めることができる。
【0105】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0106】
V…車両、1…制御装置、20…ECU