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特許7705356脱水素化触媒、オレフィン製造用熱分解管、およびオレフィンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】脱水素化触媒、オレフィン製造用熱分解管、およびオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20250702BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20250702BHJP
   C07C 5/333 20060101ALI20250702BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20250702BHJP
   B01J 19/24 20060101ALI20250702BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250702BHJP
【FI】
B01J23/83 Z
B01J37/02 301Z
C07C5/333
C07C11/04
B01J19/24 A
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022004447
(22)【出願日】2022-01-14
(65)【公開番号】P2022112005
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021007507
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】前田 駿
(72)【発明者】
【氏名】橋本 国秀
(72)【発明者】
【氏名】関根 泰
【審査官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-104092(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032338(WO,A1)
【文献】特開2008-110974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 5/333
C07C 11/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式でM11-xM2で表され、
上記M1は、Ce、Sr、Ca、La、およびBaからなる第1群から選択される少なくとも1種の元素であり、
上記M2は、Co、Fe、Cr、およびMnからなる第2群から選択される少なくとも1種の元素であり、
上記xは、0.01~0.5であり、
前記第1群から選択される元素がCeであり、
前記第2群から選択される元素がCoである、
脱水素化触媒。
【請求項2】
上記xが0.1~0.4である、請求項に記載の脱水素化触媒。
【請求項3】
耐熱性金属材料からなる管状の母材の内表面および/または耐熱性金属材料からなる板状体の表面に、請求項1または2に記載の脱水素化触媒が担持されている、
オレフィン製造用熱分解管。
【請求項4】
請求項に記載のオレフィン製造用熱分解管を用いてオレフィンを製造する、オレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水素化触媒などに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンやプロピレンなどのオレフィンは、産業において多種多様な用途の化学合成品を製造するために使用されている。オレフィンは、石油由来のエタンやナフサなどの炭化水素を熱分解管(クラッキングチューブ)に流し、700~900℃に加熱して気相中で熱分解させることにより製造される。前記の製造方法では、高温にするために多量のエネルギーを必要とする。そのため、熱分解管の内表面に脱水素化触媒を担持する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、触媒成分として、周期表の、2B族の金属元素の酸化物、3B族の金属元素の酸化物、および4B族の金属元素の酸化物からなる群のうち少なくとも1つを含む脱水素化触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-209661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の脱水素化触媒では、オレフィンの製造条件によっては十分な性能が得られない場合があり、さらなる脱水素化触媒の開発が望まれている。
【0006】
本発明の一態様は、前記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、炭化水素原料の熱分解反応における触媒能が高い脱水素化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脱水素化触媒は、一般式でM11-xM2で表され、上記M1は、Ce、Sr、Ca、La、およびBaからなる第1群から選択される少なくとも1種の元素であり、上記M2は、Co、Fe、Cr、およびMnからなる第2群から選択される少なくとも1種の元素であり、上記xは、0.01~0.5である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、炭化水素原料の熱分解反応における高い触媒能を有する脱水素化触媒を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1に係るオレフィン製造用熱分解管の構成を示す概略断面図である。
図2】上記オレフィン製造用熱分解管の内表面の拡大図である。
図3】本発明の実施形態2に係るオレフィン製造用熱分解管の構成を示す概略断面図である。
図4】上記オレフィン製造用熱分解管の内表面の拡大図である。
図5】本発明の実施例および比較例の脱水素化触媒を用いて熱分解実験を行ったときのエチレンの生成速度を示すグラフである。
図6】本発明の実施例および比較例の脱水素化触媒を用いた熱分解実験により得られたデータを用いて作成したグラフであって、エタンの転化率を横軸、エチレンの選択率を縦軸とするグラフである。
図7】本発明の実施例および比較例の脱水素化触媒を用いて熱分解実験を行ったときのエチレンの生成速度を示すグラフである。
図8】本発明の実施例および比較例の脱水素化触媒を用いた熱分解実験により得られたデータを用いて作成したグラフであって、エタンの転化率を横軸、エチレンの選択率を縦軸とするグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1におけるオレフィン製造用熱分解管1Aおよび脱水素化触媒4について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態におけるオレフィン製造用熱分解管1Aの構成を示す概略断面図である。図2は、オレフィン製造用熱分解管1Aの内表面の拡大図である。
【0011】
オレフィン製造用熱分解管1Aは、図1および図2に示すように、管状の母材2および板状体(インサート材)5の表面の内表面にアルミナ皮膜3が形成されている。母材2および板状体5は、耐熱性金属材料からなっている。アルミナ皮膜3は、Alを含む金属酸化物皮膜である。アルミナ皮膜3の表面には、脱水素化触媒4が担持されている。なお、本願ではAlを含む金属酸化物皮膜を「アルミナ皮膜」と呼ぶ。上記の構成を有することにより、オレフィン製造用熱分解管1Aは、熱分解反応に脱水素化触媒反応が加わることにより、エタンやナフサなどの炭化水素原料からのオレフィン収率を向上させることができる。以下では、オレフィン製造用熱分解管1Aにおける、母材2、板状体5、アルミナ皮膜3および脱水素化触媒4について詳細に説明する。
【0012】
(母材2および板状体5)
本実施形態における母材2は、母材2の表面にアルミナ皮膜3が形成された耐熱性金属材料からなる鋳造物である。本実施形態における板状体5は、母材2の内側に備えられ、板状体5の表面にアルミナ皮膜3が形成された耐熱性金属材料からなる鋳造物またはステンレス鋼板である。なお、本実施形態では、オレフィン製造用熱分解管1Aは板状体5を備えているが、板状体5は必須な部材ではなく、板状体5を備えていなくてもよい。母材2および板状体5は、例えば、従来公知の耐熱性金属材料の鋳造物とすればよく、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、およびアルミニウム(Al)を少なくとも含有している耐熱性金属材料からなる鋳造物であることが好ましい。
【0013】
本実施形態では、母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3が形成されているが、母材2の内表面のみにアルミナ皮膜3が形成されていてもよいし、板状体5の表面のみにアルミナ皮膜3が形成されていてもよい。また、本実施形態では、母材2の内表面および板状体5の表面に脱水素化触媒4が担持されているが、母材2の内表面のみに脱水素化触媒4が担持されていてもよいし、板状体5の表面のみに脱水素化触媒4が担持されていてもよい。
【0014】
母材2の内表面および/または板状体5の表面の少なくとも一部は、凹部及び/又は凸部を構成していることが好ましい。これにより、伝熱効率を向上することができ、且つ管状の母材2内の流体を均一に加熱することができる。
【0015】
(アルミナ皮膜3)
アルミナ皮膜3は、緻密性が高く、外部から酸素、炭素、窒素の母材2および板状体5への侵入を防ぐバリアとしての作用を有する。一般的なオレフィン製造用熱分解管では、母材2の内表面および板状体5の表面に金属酸化物皮膜が形成されていない。そのため、母材2および板状体5の表面の構成元素であるニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)などの触媒作用によって熱分解時に炭化水素原料の過剰分解が起こり、母材2の内表面および板状体5の表面にコークが生成されてしまう。母材2の内表面および板状体5の表面に生成したコークが堆積すると、伝熱抵抗が上昇してしまい、オレフィン熱分解管内の反応温度を維持するためにオレフィン製造用熱分解管の外面の温度が上昇してしまうという問題があった。また、母材2の内表面および板状体5の表面にコークが堆積すると、ガスが通過する流路の断面積が小さくなるため、圧力損失が増大してしまう。これらの理由のために、一般的なオレフィン製造用熱分解管では、堆積したコークを頻繁に除去(デコーキング)する必要があった。
【0016】
これに対して、本実施形態のオレフィン製造用熱分解管1Aでは、母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3が形成されることにより、母材2の内表面および板状体5の表面にコークが生成することを抑制できる。その結果、デコーキングを行う頻度を低減することができる。
【0017】
本発明のアルミナ皮膜3は、表面処理工程および第1熱処理工程により形成される。表面処理工程は、母材2および板状体5の、製品使用時に高温雰囲気と接触する対象部位に表面処理を行ない、該部位の表面粗さを調整する工程である。母材2および板状体5の表面処理は、研磨処理を例示することができる。表面処理は、対象部位の表面粗さ(Ra)が0.05~2.5μmとなるように実施することができる。より望ましくは、表面粗さ(Ra)は0.5~2.0μmとする。また、このとき表面処理により表面粗さを調整することによって、熱影響部の残留応力や歪みも同時に除去することができる。
【0018】
第1熱処理工程は、表面処理工程後の母材2および板状体5を酸化性雰囲気下にて加熱処理を施す工程である。酸化性雰囲気とは、酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、又はスチームやCOが混合された酸化性環境である。また、加熱処理は、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行ない、加熱時間は1時間以上である。
【0019】
上述のように母材2および板状体5に表面処理工程および第1熱処理工程を順に行なうことにより、母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3が安定して形成されたオレフィン製造用熱分解管を製造することができる。
【0020】
母材2の内表面および板状体5の表面に形成されるアルミナ皮膜3の厚さは、バリア機能を効果的に発揮するために、0.5μm以上6μm以下に形成することが好適である。アルミナ皮膜3の厚さが0.5μm未満であると、耐浸炭性が低下する虞がある。アルミナ皮膜3の厚さが6μmを越えると、母材2および板状体5と皮膜との熱膨張係数の差の影響によってアルミナ皮膜3が剥離しやすくなる虞がある。以上のことから、アルミナ皮膜3の厚さは、0.5μm以上2.5μm以下とすることがより好適である。
【0021】
なお、アルミナ皮膜3の上にクロム酸化物スケールが一部形成されることがある。その理由は、母材2および板状体5の表面近くに形成されたクロム酸化物スケールが、Alにより製品表面まで押し上げられるからである。このクロム酸化物スケールは少ない方がよく、製品表面の20面積%未満となるようにして、Alが80面積%以上を占めるようにすることが好適である。
【0022】
(脱水素化触媒4)
脱水素化触媒4は、オレフィン製造に用いられる脱水素化触媒である。脱水素化触媒4は、オレフィン製造用熱分解管1Aを用いた熱分解反応(具体的には、ナフサやエタンなど炭化水素原料をオレフィンに熱分解させる反応)におけるオレフィンの収率を向上させるための触媒であり、アルミナ皮膜3の表面に担持されている。
【0023】
脱水素化触媒4は、Ce、Sr、Ca、La、およびBaからなる第1群から選択される少なくとも1種の元素(以降では、第1群元素とも呼称する)と、Co、Fe、Cr、およびMnからなる第2群から選択される少なくとも1種の元素(以降では、第2群元素とも呼称する)と、を含有している。また、脱水素化触媒4は、第1群元素の合計のモル比と、第2群元素の合計のモル比との合計を1としたときに、第2群元素の合計のモル比が0.01~0.5である。当該構成を有することにより、脱水素化触媒4は、構造中に酸素を出し入れしやすくなる。これにより、炭化水素原料の脱水素化反応を促進することができるため、脱水素化反応において高い触媒能を有する。
【0024】
脱水素化触媒4は、以下のようにも表現することができる。すなわち、脱水素化触媒4は、一般式でM11-xM2で表され、上記M1は、Ce、Sr、Ca、La、およびBaからなる第1群から選択される少なくとも1種の元素であり、上記M2は、Co、Fe、Cr、およびMnからなる第2群から選択される少なくとも1種の元素であり、上記xは、0.01~0.5である。上記xの下限は、0.1であることが好ましい。また、上記xの上限は、0.4であることが好ましく、0.2であることがより好ましい。上記yの値は、第1群元素および第2群元素によって定まる値である。
【0025】
脱水素化触媒4は、上記第1群から選択される元素がCeであり、かつ、上記第2群から選択される元素がCoであることが好ましい。当該構成を有することにより、脱水素化反応における触媒能がさらに向上する。また、当該構成の場合は、Ceのモル比と、Coのモル比との合計を1としたときに、Coのモル比が0.1~0.4であることが好ましい。この場合、脱水素化触媒4は、Ce1-xCo(xは0.1~0.4)と表すことができる。
【0026】
<脱水素化触媒4の製造方法>
脱水素化触媒4の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、クエン酸錯体重合法、固相法などによって製造することができる。以下に、クエン酸錯体重合法および固相法を用いて脱水素化触媒4を製造する方法について説明する。
【0027】
(クエン酸錯体重合法)
クエン酸錯体重合法は、混合撹拌工程、乾燥工程、仮焼成工程、および本焼成工程を含む。
【0028】
混合撹拌工程では、脱水素化触媒4を構成する元素を含む塩(例えば硝酸塩や酢酸塩など)と、クエン酸1水和物と、エチレングリコールと、蒸留水とを混合して混合液を得る。当該塩は、第1群元素および第2群元素が所望のモル比となるように秤量する。クエン酸1水和物は、当該塩に含まれる第1群元素および第2群元素の総モル量に対して、3~4倍となるように添加することが好ましい。エチレングリコールは、当該塩に含まれる第1群元素および第2群元素の総モル量に対して、3~4倍となるように添加することが好ましい。蒸留水は、当該塩に含まれる第1群元素および第2群元素の総モル量に対して、1200~1600倍となるように添加することが好ましい。混合液は、60~70℃にて、10~17時間撹拌することが好ましい。
【0029】
乾燥工程では、混合液を乾燥して粉末を得る。例えば、ホットプレート上にて撹拌しながら加熱乾燥すればよい。
【0030】
仮焼成工程では、粉末を仮焼成して仮焼成体を得る。仮焼成工程は、大気中または酸素中で行い、仮焼成温度は、400~450℃、保持時間は2~3時間であることが好ましい。焼成温度および保持時間は、当該範囲内において、調製する触媒の量によって適宜調整すればよい。
【0031】
本焼成工程では、仮焼成体を本焼成して酸化物を得る。本焼成工程は、大気中または酸素中で行い、本焼成温度は、850~900℃、保持時間は8~12時間であることが好ましい。焼成温度および保持時間は、当該範囲内において、調製する触媒の量によって適宜調整すればよい。
【0032】
(固相法)
固相法は、粉砕混合工程、乾燥工程、および焼成工程を含む。
【0033】
粉砕混合工程では、脱水素化触媒4を構成する元素を含む化合物(例えば酸化物、炭酸化合物)を混合し、混合物を粉砕混合して粉砕混合済み粉末を得る。当該化合物は、第1群元素および第2群元素が所望のモル比となるように混合する。例えば、湿式ビーズミルによって粉砕混合すればよい。
【0034】
乾燥工程では、粉砕混合済み粉末を乾燥して乾燥体を得る。焼成工程では、乾燥体を焼成して酸化物を得る。焼成工程は、大気中または酸素中で行い、焼成温度は500~1300℃、保持時間は1~10時間であることが好ましい。焼成温度および保持時間は、当該範囲内において、調製する触媒の量によって適宜調整すればよい。
【0035】
<脱水素化触媒4の担持方法>
次に、脱水素化触媒4のアルミナ皮膜3へ担持方法について説明する。脱水素化触媒4のアルミナ皮膜3へ担持方法は、塗布工程および第2熱処理工程を含んでいる。以下に、塗布工程および第2熱処理工程について詳細に説明する。
【0036】
(a)塗布工程
塗布工程は、表面処理工程および第1熱処理工程により形成されたアルミナ皮膜3の表面に、予め製造した脱水素化触媒4を含むスラリーを塗布する工程である。
【0037】
(b)第2熱処理工程
第2熱処理工程は、塗布工程によりアルミナ皮膜3に前記スラリーが塗布された母材2および板状体5を熱処理する工程である。
【0038】
第2熱処理工程における熱処理は、大気中または酸性雰囲気中で行う。第2熱処理工程における熱処理温度は、500~900℃の範囲であり、熱処理時間は、1~6時間である。
【0039】
前記の熱処理条件で第2熱処理工程を実行することにより、アルミナ皮膜3に脱水素化触媒4を担持することができる。
【0040】
なお、前記の塗布工程において塗布するスラリーの濃度を調整することによって、脱水素化触媒4を適切な濃度(量)でアルミナ皮膜3に担持させることができる。
【0041】
このように、本実施形態におけるオレフィン製造用熱分解管1Aは、耐熱性金属材料からなる管状の母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3が形成されており、該アルミナ皮膜3の表面に、脱水素化触媒4が担持されている。
【0042】
前記の構成によれば、本発明のオレフィン製造用熱分解管1Aは、母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3が形成されている。このため、アルミナ皮膜3(母材2および板状体5)の表面にコークが生成することを抑制できる。そして、このアルミナ皮膜3の表面に、脱水素化触媒4が担持されている。これにより、脱水素化触媒4が、オレフィン製造用熱分解管1Aを用いた熱分解において脱水素化触媒として作用する際に、例えばエタンから脱水素反応によってエチレンを生成させることができる。その結果、熱分解によるエタンやナフサなどの炭化水素原料からのオレフィンの収率を向上させることができるようになっている。
【0043】
また、本実施形態では、表面処理工程および第1熱処理工程により母材2の内表面および板状体5の表面に形成されたアルミナ皮膜3に対して、塗布工程および第2熱処理工程を行うことにより、脱水素化触媒4をアルミナ皮膜3に担持していたが、本発明のオレフィン製造用熱分解管は、これに限られない。例えば、表面処理工程を行った後に、塗布工程および熱処理工程を行うようにしてもよい。この場合には、熱処理工程において、母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3が形成されると共に、脱水素化触媒4がアルミナ皮膜3に担持される。これにより、熱処理工程を1回行うだけで、母材2の内表面および板状体5の表面にアルミナ皮膜3を形成すると共に、脱水素化触媒4をアルミナ皮膜3に担持させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、母材2の内表面および板状体5の表面に形成されたアルミナ皮膜3の表面に、脱水素化触媒4が担持されている構成であったが、本発明のオレフィン製造用熱分解管1Aはこれに限られない。すなわち、本発明のオレフィン製造用熱分解管は、バリア機能を有するとともに脱水素化触媒4を担持できる、Alとは異なる金属酸化物皮膜(例えば、Cr、MnCrなど)の表面に、脱水素化触媒4が担持されている構成であってもよい。
【0045】
本発明の一態様に係るオレフィンの製造方法は、上述したオレフィン製造用熱分解管1Aを用いてオレフィンを製造する方法である。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。炭化水素原料としては、例えば、エタン、ナフサ等が挙げられる。オレフィンは、炭化水素原料をオレフィン製造用熱分解管1Aに流し、700~900℃に加熱して気相中で熱分解させることにより製造される。
【0046】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0047】
図3は、本実施形態におけるオレフィン製造用熱分解管1Bの構成を示す概略断面図である。図4は、オレフィン製造用熱分解管1Bの内表面の拡大図である。
【0048】
実施形態1におけるオレフィン製造用熱分解管1Aでは、母材2の内表面および板状体5の表面にAlを含む金属酸化物皮膜としてのアルミナ皮膜3が形成されており、該アルミナ皮膜3の表面に、脱水素化触媒4が担持されていた。これに対して、本実施形態におけるオレフィン製造用熱分解管1Bは、図3および図4に示すように、耐熱性金属材料からなる管状の母材2の内表面および板状体5の表面に直接脱水素化触媒4が担持されている点がオレフィン製造用熱分解管1Aとは異なっている。
【0049】
オレフィン製造用熱分解管1Bは、予め製造した脱水素化触媒4を含むスラリーを母材2の内表面および板状体5の表面に塗布し、大気または窒素雰囲気等の適切な条件下で熱処理して母材2の内表面および板状体5の表面に脱水素化触媒4を担持させることにより、製造することができる。
【0050】
上述のように、オレフィン製造用熱分解管1Bは、母材2の内表面および板状体5の表面に脱水素化触媒4が担持されている。これにより、脱水素化触媒4がオレフィン製造用熱分解管1Bを用いた熱分解において脱水素化触媒として作用する際に、例えばエタンから脱水素反応によってエチレンを生成させることができる。その結果、熱分解によるエタンやナフサなどの炭化水素原料からのオレフィンの収率を向上させることができるようになっている。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0052】
以下に、本発明の脱水素化触媒の実施例としての実施例1~8の脱水素化触媒および比較例としての比較例1の脱水素化触媒について説明する。まず、実施例1~8および比較例1の脱水素化触媒の作製方法について以下に説明する。
【0053】
(実施例1)
実施例1の脱水素化触媒は、クエン酸錯体重合法により作製した。具体的には、まず、硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸クロム(Cr(NO)をCe:Cr=0.9:0.1のモル比となるように秤量して溶質とした。溶質中のCeおよびCrの総モル量に対して3倍のモル量のクエン酸一水和物およびエチレングリコールを当該総モル量に対して1500倍のモル量の蒸留水に溶解し、十分に撹拌した(以下、溶媒とする)。溶媒に溶質を混合し、70℃にて一晩、加熱撹拌した。その後、ポットプレート上にて撹拌しながら加熱乾燥し、粉末とした。当該粉末を400℃、2時間保持の条件にて仮焼成し、さらに850℃、10時間保持の条件にて本焼成することにより、実施例1の脱水素化触媒としてCe0.9Cr0.1を作製した。
【0054】
(実施例2)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸マンガン6水和物(Mn(NO・6HO)をCe:Mn=0.9:0.1のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の脱水素化触媒としてのCe0.9Mn0.1を作製した。
【0055】
(実施例3)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸鉄(Fe(NO)をCe:Fe=0.9:0.1のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例3の脱水素化触媒としてのCe0.9Fe0.1を作製した。
【0056】
(実施例4)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸コバルト(Co(NO)をCe:Co=0.9:0.1のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例4の脱水素化触媒としてのCe0.9Co0.1を作製した。
【0057】
(実施例5)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸ニッケル6水和物(Ni(NO・6HO)をCe:Ni=0.9:0.1のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例5の脱水素化触媒としてのCe0.9Ni0.1を作製した。
【0058】
(実施例6)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸コバルト(Co(NO)Ce:Fe=0.8:0.2のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例6の脱水素化触媒としてのCe0.8Co0.2を作製した。
【0059】
(実施例7)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸コバルト(Co(NO)Ce:Fe=0.7:0.3のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例7の脱水素化触媒としてのCe0.7Co0.3を作製した。
【0060】
(実施例8)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)および硝酸コバルト(Co(NO)Ce:Fe=0.6:0.4のモル比となるように秤量して溶質とした以外は実施例1と同様にして、実施例8の脱水素化触媒としてのCe0.6Co0.4を作製した。
【0061】
(比較例1)
比較例1の脱水素化触媒は、クエン酸錯体重合法により作製した。硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)を溶質とし、溶質中のCeの総モル量に対して3倍のモル量のクエン酸一水和物およびエチレングリコールを当該総モル量に対して1500倍のモル量の蒸留水に溶解し、十分に撹拌した(以下、溶媒とする)。溶媒に溶質を混合し、70℃にて一晩、加熱撹拌した。その後、ポットプレート上にて撹拌しながら加熱乾燥し、粉末とした。当該粉末を400℃、2時間保持の条件にて仮焼成し、さらに850℃、10時間保持の条件にて本焼成することにより、CeOを作製した。
【0062】
<エタンの熱分解実験>
次に、実施例1~5および比較例1の脱水素化触媒を使用して行ったエタンの熱分解実験について説明する。エタンの熱分解実験では、まず、脱水素化触媒100mgと、不活性な固体であるSiC392mgとを混合した混合物を、石英管(内径4mm、長さ180mm)に30mmの高さで充填した。次に、石英管を管状炉に挿入し、600℃まで管状炉内の温度を上昇させた。次に、体積比でエタン(C):水蒸気(HO):窒素(N)=1.0:1.4:5.6となるように調整した原料ガスを118mL/分の流量で石英管に供給し、エタンの熱分解反応を行った。石英管から流出するガスのうち、水素(H)および窒素(N)をTCGガスクロマトグラフ(Shimadzu、GC-8A)にて分析した。また、石英管から流出するガスのうち、エタン(C)、エチレン(C)、一酸化炭素(CO)、およびメタン(CH)をメタナイザーを取り付けたFIDガスクロマトグラフ(Shimadzu、GC-8A)にて分析した。そして、これらの分析結果から、エチレン(C)の生成速度、エタン(C)の転化率、およびエチレン(C)の選択率を算出した。
【0063】
図5は、実施例1~5および比較例1の脱水素化触媒を用いて熱分解実験を行ったときのエチレンの生成速度を示すグラフである。図6は、実施例1~4および比較例1の脱水素化触媒を用いた熱分解実験により得られたデータを用いて作成したグラフであって、エタンの転化率を横軸、エチレンの選択率を縦軸とするグラフである。図5および図6は、Ce0.90.1(Mは第2群元素)で表わされる脱水素化触媒、および比較例1の脱水素化触媒を用いて熱分解実験を行うことにより得られたデータを用いて作成したグラフである。
【0064】
図5に示すように、Ceと第2群元素とを含む実施例1~5の脱水素化触媒を用いた場合には、第2群元素を含まない比較例1の脱水素化触媒を用いた場合と比べてエチレンの生成速度が高かった。特に、Coを含む実施例4の脱水素化触媒を用いた場合にエチレンの生成速度が最も高かった。
【0065】
図6に示すように、Ceと第2群元素とを含む実施例1~5の脱水素化触媒を用いた場合には、第2群元素を含まない比較例1の脱水素化触媒を用いた場合と比べてエタンの転化率が高かった。また、第2群元素としてMn、FeまたはCoを含む実施例2~4の脱水素化触媒を用いた場合には、比較例1の脱水素化触媒を用いた場合と比べてエチレンの選択率が高かった。
【0066】
図7は、実施例4、6~8および比較例1の脱水素化触媒を用いて熱分解実験を行ったときのエチレンの生成速度を示すグラフである。図8は、実施例4、6~8および比較例1の脱水素化触媒を用いた熱分解実験により得られたデータを用いて作成したグラフであって、エタンの転化率を横軸、エチレンの選択率を縦軸とするグラフである。図7および図8は、Ce1-xCoで表わされる脱水素化触媒、および比較例1の脱水素化触媒を用いて熱分解実験を行うことにより得られたデータを用いて作成したグラフである。
【0067】
図7に示すように、CeとCoとを含む実施例4、6~8の脱水素化触媒を用いた場合には、比較例1の脱水素化触媒であるCeOを用いた場合と比べてエチレンの生成速度が高かった。特に、実施例6の脱水素化触媒であるCe0.8Co0.2を用いた場合にエチレンの生成速度が最も高かった。
【0068】
図8に示すように、CeとCoとを含む実施例4、6~8の脱水素化触媒を用いた場合には、比較例1の脱水素化触媒であるCeOを用いた場合と比べて、エタンの転化率およびエチレンの選択率が共に高かった。特に、実施例6の脱水素化触媒であるCe0.8Co0.2を用いた場合、エタンの転化率およびエチレンの選択率が最も高かった。
【符号の説明】
【0069】
1A、1B オレフィン製造用熱分解管
2 母材
3 アルミナ皮膜(金属酸化物皮膜)
4 脱水素化触媒
5 板状体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8