(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】セルロースアセテート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/12 20060101AFI20250702BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250702BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20250702BHJP
C08K 7/08 20060101ALI20250702BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
C08L1/12
C08K3/22
C08K3/24
C08K7/08
C08K5/11
(21)【出願番号】P 2022541090
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030469
(87)【国際公開番号】W WO2022030013
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠本 匡章
(72)【発明者】
【氏名】川崎 貴史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 暁浩
【審査官】久保 道弘
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/12
C08K 3/00-3/40
C08K 5/00-5/159
C08K 7/00-7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル総置換度が2.1以上2.60以下のセルロースアセテート(A)と、フィラー(B)と、可塑剤(C)と、を含む樹脂組成物であって、
上記フィラー(B)が、
(b1)酸化マグネシウム、
(b2)Na
+、K
+、Ca
2+又はMg
2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含む金属塩、
(b3)セルロース又はヘミセルロース
及び
(b4)木粉
からなる群から選択される1種又は2種以上であり、
上記可塑剤(C)が、
(c1)グリセリンの少なくとも1つの水酸基がエステル化されているグリセリンエステル系可塑剤、
(c2)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエーテル化されているエーテル系可塑剤
及び
(c3)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエステル化されているグリコールエステル系可塑剤
からなる群から選択される1種又は2種以上であり、
上記樹脂組成物全体に対して、上記セルロースアセテート(A)の含有量が45質量%以上90質量%以下であり、上記フィラー(B)の総含有量が5質量%以上50質量%以下であり、上記可塑剤(C)の総含有量が7質量%以上35質量%以下であ
り、
上記樹脂組成物中における、上記セルロースアセテート(A)、上記フィラー(B)及び上記可塑剤(C)の合計含有量が、85質量%以上100質量%以下である、セルロースアセテート樹脂組成物。
【請求項2】
上記グリセリンエステル系可塑剤(c1)が、
グリセリンの少なくとも1つの水酸基が酢酸によりエステル化されているグリセリンアセテートである、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記エーテル系可塑剤(c2)が、
ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基が分子量150以下の炭化水素基によりエーテル化されている化合物であり、
このポリアルキレングリコールが炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基を繰り返し単位として有しており、その重合度が
2以上23以下である、請求項1
又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記グリコールエステル系可塑剤(c3)が、
ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基が、分子量150以下のカルボン酸によりエステル化されている化合物であり、
このポリアルキレングリコールが炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基を繰り返し単位として有しており、その重合度が
2以上23以下である、請求項1から
3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
上記セルロースアセテート(A)の硫酸成分量が350ppm以下である、請求項1から
4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
上記請求項1から
5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて得られる溶融成形体。
【請求項7】
上記請求項1から
5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて得られる射出成形品。
【請求項8】
上記請求項1から
5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて得られるシート又はフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート樹脂組成物に関する。詳細には、本発明は、溶融成形に用いるセルロースアセテート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートは生分解性を有しており、活性汚泥により分解することが知られている。地球環境への関心の高まりから、生分解可能な成形品、特に、フィルム及びシートが要望されている。
【0003】
セルロースアセテートは、分子鎖中に残存する水酸基に起因する水素結合により、熱溶融性が乏しい。セルロースアセテートのアセチル総置換度DSが低いほど、溶融温度が高くなる傾向にある。一方、セルロースアセテートのアセチル総置換度が高いほど、その結晶性が高くなるため、溶解性及び溶融性が低下する傾向にある。溶融製膜によりセルロースアセテートをシート又はフィルム化する方法が種々検討されている。
【0004】
特許文献1は、セルロースアセテートと、ポリオキシエチレングリコールとを含有するアセテート組成物からなる生分解性シートが開示されている。特許文献2には、アセチル基置換度が2.3~2.7の酢酸セルロ-スと生分解性可塑剤とを主要素成分とする生分解性フィルム又はシートが開示されている。この可塑剤は、(1)H5C3(OH)3-n(OOCCH3)n(0≦n≦3)で表される化合物及び(2)グリセリンアルキレ-ト、エチレングリコ-ルアルキレ-ト、エチレン繰り返し単位が5以下のポリエチレングリコ-ルアルキレ-ト、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル、脂肪族ジカルボン酸アルキルエステル、脂肪族トリカルボン酸アルキルエステルからなる群から選択されている。
【0005】
特許文献3では、重量平均分子量10~25万、平均置換度1.0~2.5のセルロースアセテートと、平均分子量300以上の可塑剤とを溶融、混合してなり、ガラス転移温度が200℃以上である領域を含むセルロースアセテート系樹脂組成物が提案されている。特許文献4は、アセチル総置換度が0.5~1.0である酢酸セルロース及び水溶性有機添加剤を含む水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を開示している。
【0006】
特許文献5には、セルロースエステルのようなポリマーに、1%水溶液(20℃)のpHが13以下及び7以上である塩基性添加物を添加して、その生分解性を向上する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-53575号公報
【文献】特開2002-60545号公報
【文献】特開平11-255959号公報
【文献】特開2015-140432号公報
【文献】特表2018-500416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1-3が開示する組成物は、いずれも200℃を超える温度で溶融成形されて、厚み100μmを超えるシートが得られている。溶融温度200℃を超えると、セルロースアセテートの熱分解による着色が生じるという問題がある。特許文献4の樹脂組成物は、温度200℃以下で溶融紡糸されているが、この樹脂組成物には、低置換度の酢酸セルロースが使用されている。
【0009】
本発明者らの知見によれば、比較的置換度の高いセルロースアセテートを含む樹脂組成物では、200℃より低い温度における溶融流動性が充分ではなく、溶融物の伸び性や折り曲げ柔軟性も不足するため、特に、厚み100μm以下の薄膜化が困難であった。
【0010】
特許文献5のポリマー組成物は、主としてキャスティング法による製膜に用いられており、溶融製膜に関しては言及されていない。従来、塩基性物質のような無機物質を含む樹脂組成物では、溶融温度が高温化するため、セルロースアセテートの熱分解やそれに伴う色相の悪化、無機物質等添加物との副反応の発生、溶融張力の低下による製膜不良等種々の問題が指摘されてきた。
【0011】
また、前述した通り、セルロースアセテートが活性汚泥中で分解されることは知られているが、活性汚泥よりも菌数が少ない水系、例えば海水中では、満足すべき分解速度が得られないという問題もあった。
【0012】
本発明の目的は、溶融成形により、海洋生分解性に優れた成形品を得ることができる、セルロースアセテート樹脂組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るセルロースアセテート樹脂組成物は、アセチル総置換度が2.60以下のセルロースアセテート(A)と、フィラー(B)と、可塑剤(C)と、を含む。フィラー(B)は、下記(b1)-(b4)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
(b1)Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物
(b2)Na+、K+、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含んでなる金属塩
(b3)セルロース又はヘミセルロース
(b4)木粉
【0014】
可塑剤(C)は、下記(c1)-(c3)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
(c1)グリセリンの少なくとも1つの水酸基がエステル化されているグリセリンエステル系可塑剤
(c2)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエーテル化されているエーテル系可塑剤
(c3)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエステル化されているグリコールエステル系可塑剤
【0015】
この樹脂組成物全体に対するセルロースアセテート(A)の含有量は、45質量%以上90質量%以下であり、フィラー(B)の総含有量は、5質量%以上50質量%以下であり、可塑剤(C)の総含有量は、5質量%以上35質量%以下である。
【0016】
好ましくは、この樹脂組成物中における、セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)の合計含有量は、85質量%以上である。
【0017】
好ましいグリセリンエステル系可塑剤(c1)は、アセチル置換度0以上3以下のグリセリンアセテートである。
【0018】
好ましいエーテル系可塑剤(c2)は、分子量150以下の炭化水素基によりエーテル化された、末端水酸基の平均置換度が0以上2以下であるポリアルキレングリコールである。このポリアルキレングリコールは、炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基を繰り返し単位として有しており、その重合度は23以下である。
【0019】
好ましいグリコールエステル系可塑剤(c3)は、分子量150以下のカルボン酸によりエステル化された、末端水酸基の平均置換度0以上2以下であるポリアルキレングリコールである。このポリアルキレングリコールは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基を繰り返し単位として有しており、その重合度が23以下である。
【0020】
好ましくは、セルロースアセテート(A)の硫酸成分量は、350ppm以下である。
【0021】
好ましくは、セルロースアセテート(A)のアセチル総置換度は2.0以上2.60以下である。
【0022】
他の観点から、本発明は、前述したいずれかのセルロースアセテート樹脂組成物を用いて得られる溶融成形体である。好ましくは、前述したいずれかの樹脂組成物を用いて得られる射出成形品である。好ましくは、前述したいずれかの樹脂組成物を用いて得られるフィルム又はシートである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るセルロースアセテート樹脂組成物は、所定量のフィラー(B)を含むことにより、優れた海洋生分解性を有している。また、この樹脂組成物は、所定量の可塑剤(C)をさらに含むことにより、フィラー(B)を含有するにも関わらず、比較的低い温度領域での溶融成形が可能である。さらに、この樹脂組成物では、高い溶融張力が得られるため、射出成形品、特にフィルムへの適用も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下に例示する以外にも、本発明の趣旨を損なわない範囲内で適宜変更して、実施することが可能である。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。複数の実施形態についてそれぞれ開示された技術的手段を、適宜組み合わせて得られる他の実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0025】
なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特に注釈のない限り、「ppm」は「重量ppm」又は「質量ppm」を意味する。さらに、「重量」と「質量」、「重量部」と「質量部」、「重量%」と「質量%」はそれぞれ同義語として扱う。
【0026】
[セルロースアセテート樹脂組成物]
本開示に係るセルロースアセテート樹脂組成物は、セルロースアセテート(A)と、フィラー(B)と、可塑剤(C)とを含む。セルロースアセテート(A)のアセチル総置換度は2.60以下である。フィラー(B)は、
(b1)Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物、
(b2)Na+、K+、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含む金属塩、
(b3)セルロース又はヘミセルロース
及び
(b4)木粉
からなる群から選択される1種又は2種以上である。可塑剤(C)は、
(c1)グリセリンの少なくとも1つの水酸基がエステル化されているグリセリンエステル系可塑剤、
(c2)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエーテル化されているエーテル系可塑剤
及び
(c3)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエステル化されているグリコールエステル系可塑剤
からなる群から選択される1種又は2種以上である。この樹脂組成物中、セルロースアセテート(A)の含有量は、45質量%以上90質量%以下であり、フィラー(B)の総含有量は5質量%以上50質量%以下であり、可塑剤(C)の総含有量は5質量%以上35質量%以下である。
【0027】
この樹脂組成物には、上記(b1)-(b4)から選択されるフィラー(B)が5質量%以上50質量%以下で配合されている。この樹脂組成物は、生分解性、特に、海水中での生分解性に優れている。この樹脂組成物には、フィラー(B)とともに、上記(c1)-(c3)から選択される可塑剤が5質量%以上35質量%以下で配合されている。この可塑剤(c)と、アセチル総置換度2.60以下であるセルロースアセテート(A)との相溶性は、高い。この可塑剤(C)の配合により、この樹脂組成物は、フィラー(B)を含有するにもかかわらず、セルロースアセテートの熱分解温度より低い温度、具体的には200℃未満での溶融成形が可能となり、熱分解に起因する着色が回避されうる。
【0028】
また、この樹脂組成物は、溶融時に、末端水酸基がエーテル化又はエステル化された可塑剤(C)が、セルロースアセテート(A)の分子鎖間の絡み合いを向上させる作用を示すと考えられる。そのため、この樹脂組成物では、200℃未満の温度領域における溶融粘度が低く、かつ、溶融張力が高い。低い溶融粘度及び高い溶融張力により、この樹脂組成物は、溶融製膜が可能であるばかりでなく、これをさらに延伸して薄膜化することができる。さらには、従来セルロースアセテートの適用が困難であったインフレーション法による製膜も可能となる。
【0029】
優れた生分解性が得られるとの観点から、この樹脂組成物中における、セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)の合計含有量は、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。この合計含有量の上限値は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0030】
[フィラー(B)]
本開示に係る樹脂組成物には、下記(b1)-(b4)からなる群から選択される1種又は2種以上のフィラー(B)が配合される。
(b1)Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物
(b2)Na+、K+、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含む金属塩
(b3)セルロース又はヘミセルロース
(b4)木粉
【0031】
特に、無機化合物(b1)及び金属塩(b2)から選択されたフィラー(B)を含む樹脂組成物では、その海水生分解性が顕著に向上する。これは、無機化合物(b1)及び金属塩(b2)が、海水中で塩基性を示すことにより、セルロースアセテートの加水分解を促進するためと考えられる。この観点から、(b1)及び(b2)から選択される少なくとも1種を、フィラー(B)として含む樹脂組成物が好ましい。
【0032】
本開示の樹脂組成物におけるフィラー(B)の総含有量は、樹脂組成物全体に対して5質量%以上50質量%以下である。海水生分解性が向上するとの観点から、フィラー(B)の総含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。溶融成形性に優れるとの観点から、フィラー(B)の総含有量は、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。本開示の樹脂組成物におけるフィラー(B)の総含有量は、5~45質量%であってよく、5~40質量%であってよく、10~50質量%であってよく、10~45質量%であってよく、10~40質量%であってよく、15~50質量%であってよく、15~45質量%であってよく、15~40質量%であってよい。複数のフィラー(B)が併用される場合、その合計量が前述の数値範囲に調整される。
【0033】
Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物(b1)としては、Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素の酸化物、水酸化物及び複合酸化物が例示される。生分解性向上及び取扱性容易との観点から、好ましい無機化合物(b1)は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、タルク、ハイドロタルサイト、ベントナイト、酸化カルシウム、水酸化カルシウムである。
【0034】
Na+、K+、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含む金属塩(b2)の具体例として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。高い生分解性及び良好な成形性が得られるとの観点から、好ましい金属塩(b2)は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0035】
セルロース及びヘミセルロース(b3)としては、特に限定されず、従来公知のものが適宜用いられうる。溶融混練性に優れるとの観点から、微細なセルロース及びヘミセルロースが好ましい。粉末状であってもよく、繊維状であってもよい。粉末状の場合、マイクロトラック粒度分析計により測定される平均粒子径(メジアン径)が10μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0036】
木粉(b4)としては、従来公知の木材を粉砕したものが用いられうる。溶融混練性に優れるとの観点から、木粉の平均粒子径(メジアン径)は10μm以上200μm以下が好ましい。木粉の平均粒子径(メジアン径)は、マイクロトラック粒度分析計により測定される。
【0037】
[可塑剤(C)]
本開示に係る樹脂組成物には、下記(c1)-(c3)からなる群から選択される1種又は2種以上の可塑剤(C)が配合される。
(c1)グリセリンの少なくとも1つの水酸基がエステル化されているグリセリンエステル系可塑剤
(c2)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエーテル化されているエーテル系可塑剤
(c3)ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエステル化されているグリコールエステル系可塑剤
【0038】
セルロースアセテートの分解温度よりも低い溶融温度が達成されるとの観点から、エーテル系可塑剤(c2)及びグリコールエステル系可塑剤(c3)から選択される少なくとも1種を可塑剤(C)として含む樹脂組成物が好ましい。
【0039】
本開示の樹脂組成物における可塑剤(C)の総含有量は、樹脂組成物全体に対して5質量%以上35質量%以下である。溶融流動性が高いとの観点から、可塑剤(C)の総含有量は、7質量%以上が好ましく、9質量%以上がさらに好ましい。200℃未満で低い溶融粘度が得られるとの観点から、可塑剤(C)の総含有量は、33質量%以下が好ましい。本開示の樹脂組成物における可塑剤(C)の総含有量は、5~33質量%であってよく、7~35質量%であってよく、7~33質量%であってよく、9~35質量%であってよく、9~33質量%であってよい。複数の可塑剤(C)が併用される場合、その合計量が前述の数値範囲に調整される。
【0040】
グリセリンエステル系可塑剤(c1)は、グリセリンの少なくとも1つの水酸基がエステル化されている化合物であり、好ましくは分子量150以下、より好ましくは分子量130以下のカルボン酸によりエステル化されている化合物である。
【0041】
カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)であってもよく、芳香族カルボン酸であってもよい。環境への負荷低減の観点から、脂肪酸が好ましい。飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。好ましくは、飽和脂肪酸でエステル化されたエステル系可塑剤である。飽和脂肪酸の具体例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。特に好ましいグリセリンエステル系可塑剤(c1)は、アセチル置換度0以上3以下のグリセリンアセテートである。
【0042】
エーテル系可塑剤(c2)は、ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエーテル化されている化合物であり、好ましくは分子量150以下、より好ましくは分子量130以下、特に好ましくは分子量100以下の炭化水素基によりエーテル化されている化合物である。エーテル化されたポリアルキレングリコールの末端水酸基の平均置換度は0以上2以下であってよい。
【0043】
炭化水素基としては、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状であってもよい。脂肪族炭化水素基が好ましく、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)がより好ましい。分子量150以下のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0044】
エーテル系可塑剤(c2)において、ポリアルキレングリコールは、繰り返し単位としてアルキレンオキシ基を有している。溶融時の分解抑制の観点から、繰り返し単位であるアルキレンオキシ基の炭素数は2以上が好ましく、セルロースアセテート(A)との相溶性向上の観点から、この炭素数は4以下が好ましい。このようなアルキレンオキシ基として、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基が挙げられる。
【0045】
高い溶融張力が得られるとの観点から、ポリアルキレングリコールにおける繰り返し単位の数(以下、重合度と称する)は、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。セルロースアセテート(A)との相溶性に優れるとの観点から、好ましい重合度は23以下であり、15以下がより好ましい。
【0046】
セルロースアセテート(A)との相溶性に優れるとの観点から、エーテル系可塑剤(c2)の数平均重合度は23以下が好ましく、15以下がより好ましい。高い溶融張力が得られるとの観点から、数平均重合度3以上のエーテル系可塑剤(c2)が好ましい。エーテル系可塑剤(c2)の数平均重合度は、ポリスチレンを標準物質として用いたサイズ排除クロマトグラフィ(GPC)で測定された数平均分子量から算出される。
【0047】
本開示の樹脂組成物に用いるエーテル系可塑剤(c2)の具体例として、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0048】
グリコールエステル系可塑剤(c3)は、ポリアルキレングリコールの少なくとも1つの末端水酸基がエステル化されている化合物であり、好ましくは分子量150以下、より好ましくは分子量130以下、特に好ましくは分子量100以下のカルボン酸によりエステル化されている化合物である。エステル化されたポリアルキレングリコールの末端水酸基の平均置換度は0以上2以下であってよい。
【0049】
カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)であってもよく、芳香族カルボン酸であってもよい。環境への負荷低減の観点から、脂肪酸が好ましい。飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。好ましくは、飽和脂肪酸でエステル化されたグリコールエステル系可塑剤(c3)である。飽和脂肪酸の具体例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。
【0050】
グリコールエステル系可塑剤(c3)において、ポリアルキレングリコールは、繰り返し単位としてアルキレンオキシ基を有している。溶融時の分解抑制の観点から、繰り返し単位であるアルキレンオキシ基の炭素数は2以上が好ましく、セルロースアセテート(A)との相溶性に優れるとの観点から、この炭素数は4以下が好ましい。このようなアルキレンオキシ基として、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基が挙げられる。
【0051】
高い溶融張力が得られるとの観点から、ポリアルキレングリコールにおける繰り返し単位の数(重合度)は、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。セルロースアセテート(A)との相溶性に優れるとの観点から、好ましい重合度は23以下であり、15以下がより好ましい。
【0052】
溶融時の揮発抑制及び溶融張力向上の観点から、グリコールエステル系可塑剤(c3)の数平均分子量は200以上が好ましい。セルロースアセテート(A)との相溶性に優れるとの観点から、数平均分子量1000以下のグリコールエステル系可塑剤(c3)が好ましい。グリコールエステル系可塑剤(c3)の数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として用いたサイズ排除クロマトグラフィ(GPC)で測定される。
【0053】
本開示の樹脂組成物に用いるグリコールエステル系可塑剤(c3)の具体例として、トリエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート、トリエチレングリコールジベンゾエート、テトラエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0054】
[セルロースアセテート(A)]
本開示の樹脂組成物には、アセチル総置換度(DS)が2.60以下のセルロースアセテート(A)が用いられる。生分解性向上の観点から、セルロースアセテート(A)のアセチル総置換度は、2.56以下が好ましく、2.50以下がより好ましい。耐水性が高いとの観点から、セルロースアセテート(A)のアセチル総置換度は、2.0以上が好ましく、2.1以上がより好ましい。アセチル総置換度が2.0以上2.60以下であるセルロースアセテート(A)が好ましい。セルロースアセテート(A)のアセチル総置換度は、2.0~2.56であってよく、2.0~2.50であってよく、2.1~2.60であってよく、2.1~2.56であってよく、2.1~2.50であってよい。
【0055】
セルロースアセテート(A)のアセチル総置換度(DS)は、ASTM:D-871-96(セルロースアセテート等の試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度AVを、次式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの置換度の求め方である。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052-42.037×AV×0.01)
DS:アセチル総置換度
AV:酢化度(%)
【0056】
酢化度(AV)の測定方法は、以下の通りである。
【0057】
まず、乾燥した酢酸セルロース(試料)500mgを精秤し、超純水とアセトンとの混合溶媒(容量比4:1)50mlに溶解した後、0.2N-水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。次に、0.2N-塩酸50mlを添加し、フェノールフタレインを指示薬として、0.2N-水酸化ナトリウム水溶液(0.2N-水酸化ナトリウム規定液)で、脱離した酢酸量を滴定する。また、同様の方法によりブランク試験(試料を用いない試験)を行う。そして、下記式に従ってAV(酢化度)(%)を算出する。
AV(%)=(A-B)×F×1.201/試料質量(g)
A:0.2N-水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
B:ブランクテストにおける0.2N-水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
F:0.2N-水酸化ナトリウム規定液のファクター
【0058】
[2位、3位及び6位のアセチル置換度]
本開示の樹脂組成物において、2位のアセチル置換度C2、3位のアセチル置換度C3及び6位のアセチル置換度が、下記数式を満たすセルロースアセテート(A)が好ましい。
(C2+C3)/2 > C6
アセチル総置換度が前述の範囲を満たすとともに、2位、3位及び6位のアセチル置換度が上記数式を満たすセルロースアセテート(A)は、生分解性に優れている。本願明細書において、2位、3位及び6位のアセチル置換度は、13C-NMRにより測定される。
【0059】
[セルロースアセテート(A)の粘度平均重合度(DPv)]
本開示の樹脂組成物に用いるセルロースアセテートの粘度平均重合度(DPv)は特に限定されないが、好ましくは、10以上400以下である。粘度平均重合度がこの範囲であるセルロースアセテート(A)を含む樹脂組成物は、溶融成形性に優れる。この観点から、粘度平均重合度は、15以上300以下がより好ましく、20以上200以下がさらに好ましい。
【0060】
粘度平均重合度(DPv)は、セルロースアセテート(A)の極限粘度数([η]、単位:cm3/g)に基づいて求められる。
【0061】
極限粘度数([η]、単位:cm3/g)は、JIS-K-7367-1及びISO1628-1に準じて求められる。具体的には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒とする試料溶液を準備し、サイズ番号1Cのウベローデ型粘度計を用いて測定した25℃の対数相対粘度を、試料溶液の濃度で除すことにより求められる。
【0062】
得られた極限粘度数[η]を用いて、Kamideらの文献(Polymer Journal、13、421-431(1981))に従って、次式により、粘度平均分子量を算出した。
粘度平均分子量=(極限粘度数[η]/0.171)(1/0.61)
【0063】
算出した粘度平均分子量を用いて、次式により粘度平均重合度(DPv)を求めた。
粘度平均重合度(DPv)=粘度平均分子量/(162.14+42.037×DS)
なお、式中、DSは、前述したアセチル総置換度である。
【0064】
[重量平均重合度(DPw)]
セルロースアセテート(A)の重量平均重合度(DPw)は、10~400の範囲であることが好ましい。溶融時の流動性向上の観点から、重量平均重合度(DPw)は、好ましくは15~300、さらに好ましくは20~200である。
【0065】
セルロースアセテート(A)の重量平均重合度(DPw)は、公知の方法で求めることができる。詳細には、セルロースアセテート(A)の重量平均重合度(DPw)は、以下の装置及び条件でサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定を行うことにより決定される(GPC-光散乱法)。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM-21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、ガードカラム(東ソー製TSKgel guardcolumn HXL-H)
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN-EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0066】
[セルロースアセテート(A)の硫酸成分量]
溶融成形時の着色抑制の観点から、セルロースアセテート(A)の硫酸成分量は、350ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、250ppm以下が特に好ましい。硫酸成分量は少ないほど好ましいが、下限値としては30ppmである。なお、本願明細書中、硫酸成分とは、セルロースアセテート(A)に含まれる結合硫酸、遊離硫酸及び塩基の添加により中和された硫酸塩を含む概念である。結合硫酸とは、セルロースアセテート(A)にエステル結合した硫酸基や、スルホン酸基として結合した硫酸成分を含む。
【0067】
硫酸成分量は、セルロースアセテート(A)を1300℃で加熱し、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、水酸化ナトリウム水溶液にて滴定した後、硫酸換算することにより求められる。
【0068】
[セルロースアセテート(A)の含有量]
本開示の樹脂組成物における、セルロースアセテート(A)の含有量は、樹脂組成物全体に対して45質量%以上90質量%以下である。良好な附形性が得られるとの観点から、セルロースアセテート(A)の含有量は、50質量%以上が好ましい。高い溶融流動性が得られるとの観点から、セルロースアセテート(A)の含有量は、80質量%以下が好ましい。本開示の樹脂組成物におけるセルロースアセテート(A)の含有量は、45~80質量%であってよく、50~90質量%であってよく、50~80質量%であってよい。2種以上のセルロースアセテート(A)が併用される場合、その合計量が前述の数値範囲に調整される。
【0069】
[セルロースアセテート(A)の製造方法]
アセチル総置換度が2.60以下のセルロースアセテートは、公知のセルロースアセテートの製造方法により製造できる。このような製造方法としては、無水酢酸を酢化剤、酢酸を希釈剤、硫酸を触媒とするいわゆる酢酸法が挙げられる。酢酸法の基本的工程は、(1)α-セルロース含有率の比較的高いパルプ原料(溶解パルプ)を、離解・解砕後、酢酸を散布混合する前処理工程と、(2)無水酢酸、酢酸及び酢化触媒(例えば硫酸)よりなる混酸で、(1)の前処理パルプを反応させる酢化工程と、(3)セルロースアセテートを加水分解して所望の酢化度のセルロースアセテートとする熟成工程と、(4)加水分解反応の終了したセルロースアセテートを反応溶液から沈殿分離、精製、安定化、乾燥する後処理工程より成る。アセチル総置換度の調整は、熟成工程の条件(時間、温度等の条件)を調整することにより可能となる。
【0070】
[樹脂組成物の製造方法]
本開示の樹脂組成物は、アセチル総置換度が2.60以下のセルロースアセテート(A)と、前述したフィラー(B)と、前述した可塑剤(C)とを溶融混練することにより得られうる。好ましくは、この樹脂組成物は、セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)を混合した後、溶融混練することにより得られる。溶融混練前の混合により、フィラー(B)及び可塑剤(C)とセルロースアセテート(A)とがより均一に、また短時間で馴染むことで、得られる混練物が均質化するため、溶融流動性及び加工精度が向上した樹脂組成物が得られる。
【0071】
セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)の混合には、ヘンシェルミキサー等の既知の混合機が用いられうる。乾式混合でもよく、湿式混合でもよい。ヘンシェルミキサー等の混合機を用いる場合、混合機内の温度は、セルロースアセテート(A)が溶融しない温度、例えば、20℃以上200℃未満が好ましい。
【0072】
セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)の溶融混練、又は、セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)の混合後の溶融混練には、二軸押出機等の押出機等が用いられうる。混練物の均一性及び加熱劣化抑制の観点から、押出機による混練温度(シリンダー温度)は170℃以上230℃以下が好ましい。セルロースアセテート(A)の融点は、置換度にもよるが、およそ230℃から280℃であり、セルロースアセテート(A)の分解温度に近いため、通常は、この温度範囲では溶融混練は難しいが、本開示の樹脂組成物では、前述の可塑剤(C)により可塑化温度が低下するため、所定量のフィラー(B)を含んでいる場合にも、230℃以下の温度で充分均一な混練物が得られうる。例えば、二軸押出機を用いて溶融混練する場合には、混練温度(シリンダー温度とも称する)は200℃であってもよい。二軸押出機の先端に取り付けたダイスから混練物をストランド状に押出した後、ホットカットしてペレットにしてもよい。このときダイス温度は、220℃程度であってよい。
【0073】
得られる樹脂組成物全体に対するフィラー(B)の配合量は、5質量%以上50質量%以下である。2種以上のフィラー(B)を配合する場合、その合計量が、5質量%以上50質量%以下となるように調整する。
【0074】
得られる樹脂組成物全体に対する可塑剤(C)の配合量は、5質量%以上35質量%以下である。2種以上の可塑剤(C)を配合する場合、その合計量が、5質量%以上35質量%以下となるように調整する。
【0075】
本発明の効果を阻害しない範囲で、この樹脂組成物に、前述した可塑剤以外の可塑剤を配合してもよく、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、光学特性調整剤、蛍光増白剤及び難燃剤等既知の添加剤を配合してもよい。その場合、樹脂組成物中における、セルロースアセテート(A)、フィラー(B)及び可塑剤(C)の合計含有量が、85質量%以上となるように配合することが好ましい。
【0076】
[溶融成形体]
他の観点から、本発明は、前述したセルロースアセテート樹脂組成物を用いた溶融成形体に関する。本開示の樹脂組成物を溶融成形して得られる成形体は、熱分解物に起因する着色がなく、しかも、高い海洋生分解性を有している。
【0077】
[射出成形品]
さらに他の観点から、本発明は、前述したセルロースアセテート樹脂組成物を用いた射出成形品に関する。溶融時の流動性に優れた本開示の樹脂組成物は、射出成形に好適に適用されうる。好ましくは、本発明は、前述したセルロースアセテート樹脂組成物を用いたフィルム又はシートに関する。特に、溶融張力が高い本開示の樹脂組成物を、従来困難であった溶融製膜法に用いて得られるフィルムは、薄くかつ均一である。好ましくは、このフィルムの厚みは、100μm未満であり、より好ましくは、10μm以上90μm以下である。後述するように、溶融押出後の延伸又はインフレーション法を用いることで、用途に応じて、フィルムの厚みを、10μm以上50μm以下、さらには、10μm以上30μm以下に薄膜化することができる。
【0078】
[製膜方法]
本開示のフィルムは、環境負荷の大きい溶剤を用いることなく、溶融製膜法にて製造される。詳細には、このフィルムは、本開示の樹脂組成物を加熱溶融し、プレス又はTダイから押し出すことにより製膜される。溶融温度としては、210℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、190℃以下がさらに好ましい。製膜容易との観点から、好ましい溶融温度は160℃以上である。
【0079】
例えば、公知の溶融押出機を用いて、溶融物をTダイから所定の温度に調整したロール上に押し出して固化させることにより、未延伸フィルムが得られる。溶融温度及びダイリップの変更により、フィルムの厚みが調整される。ダイ押出後のロール速度を増加することにより、より薄膜化した延伸フィルムが得られうる。
【0080】
インフレーション法により本開示のフィルムが得られてもよい。インフレーション法では、チューブ状にフィルムを製膜することが可能である。このチューブを溶断シールと溶断することで、取っ手付きの袋を簡単に製膜することができる。
【0081】
本開示の樹脂組成物を用いて得られるインフレーションフィルムは、生分解性、特に海洋生分解性に優れている。このインフレーションフィルムは、低環境負荷のレジ袋又はゴミ袋として用いられうる。
【0082】
本開示に係る樹脂組成物は、例えば、食器類、包装容器、トレー類、農業用資材、漁業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類等の基材として好適に用いられ得る。
【実施例】
【0083】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0084】
[試験1]
[実施例1]
セルロースアセテート(株式会社ダイセル製:アセチル総置換度DS=2.46、硫酸成分量200ppm)70質量部と、フィラーとして炭酸カルシウム(富士フイルム和光純薬社製)20質量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジアセテート(TCI社製、分子量234.3)30質量部とを乾燥状態でブレンドし、80℃で3時間以上乾燥させ、さらに、ヘンシェルミキサーを用いて攪拌混合し、セルロースアセテート、フィラー及び可塑剤の混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製、商品名「PCM30」、シリンダー温度:180℃、ダイ温度:180℃)に供給して溶融混練した後、ストランド状に押し出したものをホットカットしてペレットを得た。
【0085】
[実施例2-47並びに比較例2、3及び5-19]
樹脂組成物の組成を下表1-6に示される通りとした他は実施例1と同様にして、溶融押出をおこなった。
【0086】
[比較例1及び4]
比較例1及び4では、溶融混練をおこなわず、下表5に示されたセルロースアセテートを直接後述する海水生分解試験に供した。
【0087】
[成形性の評価]
実施例1-47及び比較例2、3及び5-19について、溶融押出時の過大なトルク上昇の有無、及び得られたペレットの着色の有無に基づいて、下記基準によりランク付けした。評価結果が、下表1-6に示されている。
A:ペレット化でき、着色も認められなかった。
B:ペレット化できたが、着色が認められた。
C:押出時のトルク上昇によりペレット化できなかった。
【0088】
[海水生分解度の評価]
成形性評価がAであった実施例1-36並びに比較例2、3、5及び6と、比較例1及び4の海水生分解度を評価した。実施例1-36並びに比較例2、3、5及び6は、溶融押出にて得たペレットを、それぞれ、平均粒子径20μm程度に粉砕後、下記生分解試験に供した。比較例1及び4は、溶融混練することなく、対照としてそのまま下記生分解試験に供した。比較例1及び4のセルロースアセテートは、いずれも平均粒子径20μmの粉末であった。
【0089】
各試料60mgを、それぞれ海水250gに投入し、温度30℃にて撹拌した。試料投入時から90日後及び120日後の二酸化炭素発生量を測定した。試験に供した各試料について測定した全有機炭素量(TOC)から理論的二酸化炭素発生量を算出し、この理論的二酸化炭素発生量に対する、測定値からブランク(海水のみ)の測定値を差し引いた値の比を、海水生分解度(%)とした。得られた結果が下表1-5に示されている。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
(まとめ)
表1-6に示される通り、実施例の樹脂組成物は可塑性が高く、温度180℃での溶融押出によって、支障なく成形できることを確認した。また、実施例の樹脂組成物は、セルロースアセテート及びフィラーを含まない比較例の樹脂組成物と比べて、海水中での分解速度が高いことがわかった。
【0097】
表1-6に示されるように、実施例の樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上説明された樹脂組成物は、溶融成形、さらには溶融製膜を用いる種々の分野に適用されうる。