(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】車両用リアサスペンション構造
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20250703BHJP
【FI】
B60G9/04
(21)【出願番号】P 2022021339
(22)【出願日】2022-02-15
【審査請求日】2024-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将史
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-084501(JP,A)
【文献】特開2008-213602(JP,A)
【文献】特開2018-111364(JP,A)
【文献】特開2007-083995(JP,A)
【文献】特開2018-075965(JP,A)
【文献】特開2002-166714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向に延びるトーションビームと、
一方が前記トーションビームの一端に接合され、他方が前記トーションビームの他端に接合される、一対のアームユニットであって、それぞれが、前記トーションビームに対する接合部を有し且つ車両前後方向に延びる筒状に形成されたトレーリングアームと、前記トレーリングアームの後側開口を塞ぎ且つ後輪用のハブが取り付けられるエンドプレートとを有する、一対のアームユニットと、
を含む、車両用リアサスペンション構造であって、
前記トレーリングアームのうちの前記接合部よりも後側の部分である後アームは、前記後側開口を車両幅方向外側に開放させるように曲がっており、
前記後アームの車両幅方向内側の部分に、前記ハブに接続可能なドライブシャフトの端部を挿入可能な大きさで開口された孔が形成され、
前記一対のアームユニットのそれぞれは、前記孔の周縁部のうちの上側縁部の少なくとも一部に沿うように前記後アームに接合される上補強部材と、前記孔の周縁部のうちの下側縁部の少なくとも一部に沿うように前記後アームに接合される下補強部材と、を有する、
車両用リアサスペンション構造。
【請求項2】
前記上補強部材の前端及び前記下補強部材の前端は、前記孔よりも前側に位置しており、
前記上補強部材の後端及び前記下補強部材の後端は、前記孔よりも後側に位置している、請求項1に記載の車両用リアサスペンション構造。
【請求項3】
前記後アームは、車両上下方向及び車両幅方向に扁平な筒状に形成されており、
前記孔は、前記後アームの車両幅方向内側の部分から前記後アームの上面の領域にかけて開口され、
前記上補強部材は、前記後アームの前記上面に接合され、当該上面よりも上方に膨らむと共に上面視で前記上側縁部の内側の開口領域を上方から覆うように形成されている、請求項1又は2に記載の車両用リアサスペンション構造。
【請求項4】
前記一対のアームユニットのそれぞれは、コイルスプリングの下端部を支持すると共に、少なくとも前記後アームの車両幅方向内側の部分に接合されるスプリング支持部を有しており、
前記下補強部材は、車両上下方向に延びる筒状に形成されると共に、前記後アーム及び前記スプリング支持部の下面に接合される環状の上端面を有する縦筒部を有する、請求項1~3のいずれか一つに記載の車両用リアサスペンション構造。
【請求項5】
前記一対のトレーリングアームのそれぞれは、ショックアブソーバの下端部を保持すると共に、前記下補強部材及び前記エンドプレートに接合されるショックアブソーバ保持部を有する、請求項1~4のいずれか一つに記載の車両用リアサスペンション構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用リアサスペンション構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関によるエンジンを駆動源とする4WD車(4輪駆動車)における後輪用のサスペンション構造として多用され得るリアサスペンション構造の一例として、特許文献1に開示されたサスペンション構造が知られている。特許文献1に開示されたサスペンション構造は、車両幅方向に延びるトーションビームと、トーションビームの左端に連結される左トレーリングアームと、トーションビームの右端に連結される右トレーリングアームと、左トレーリングアームの上部に取り付けられる左キャリアブラケットと、右トレーリングアームの上部に取り付けられる右キャリアブラケットと、を備えている。各キャリアブラケットには、後輪用のハブが取り付けられ、ハブには、ドライブシャフトが接続される。
【0003】
4WD車では、車両の前側に配置されたエンジンからの駆動力は、車両前後方向に延びるプロペラシャフトと、車両幅方向に延びるドライブシャフトとを経由して後輪へ伝達される。プロペラシャフトは、トーションビームとの干渉を避けるために、トーションビームの上側を通過するように配置される。そのため、ドライブシャフトもトーションビームよりも上側に配置され、ハブが取り付けられるキャリアブラケットも上述のようにトレーリングアームの上部に取り付けられる。このように、従来の4WD車のリアサスペンション構造では、構成要素の位置がプロペラシャフトによる制約を受ける。
【0004】
一方、エンジン駆動の大半の車両は二つの車輪のみを駆動させる2WD車(2輪駆動車)であり、さらに、大半の2WD車では、車両の前側に配置されたエンジンにより前輪のみを駆動させる方式が採用されている。このような2WD車(つまり、フロントエンジン・前輪駆動であるFF車)におけるリアサスペンション構造では、プロペラシャフトによる制約がない。そのため、2WD車(FF車)では、ハブは筒状のトレーリングアームの後側開口を塞ぐようにトレーリングアームに接合されたエンドプレートに取り付けられることが多い。このように、2WD車(FF車)では、エンドプレートがトレーリングアームの後側開口を塞ぐようにトレーリングアームに接合されているタイプのリアサスペンション構造(以下、適宜に、エンドプレートタイプの構造という)が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、車両のEV化により、4WD車もエンジンではなく電動モータにより後輪を駆動する技術が使われるようになってきた。モータ駆動による4WD車の場合は、エンジン駆動による4WD車と異なり後輪を駆動する電動モータが車両の後側に配置される。そのため、モータ駆動の4WD車では、プロペラシャフトが不要になり、そのリアサスペンション構造では、プロペラシャフトによる制約がなくなる。
【0007】
そこで、電動モータにより後輪を駆動する4WD車のリアサスペンション構造に適用するための新たな構造の構築が望まれ得る。ただし、コスト等の観点から、従来と全く異なる構造ではなく、既存の構造を基本構造として有するリアサスペンション構造が構築されることが望ましい。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、既存の構造を基本構造として有すると共に、モータ駆動の4WD車に適用され得る車両用リアサスペンション構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る車両用リアサスペンション構造は、車両幅方向に延びるトーションビームと、一方が前記トーションビームの一端に接合され、他方が前記トーションビームの他端に接合される、一対のアームユニットであって、それぞれが、前記トーションビームに対する接合部を有し且つ車両前後方向に延びる筒状に形成されたトレーリングアームと、前記トレーリングアームの後側開口を塞ぎ且つ後輪用のハブが取り付けられるエンドプレートとを有する、一対のアームユニットと、を含む。この車両用リアサスペンション構造において、前記トレーリングアームのうちの前記接合部よりも後側の部分である後アームは、前記後側開口を車両幅方向外側に開放させるように曲がっており、前記後アームの車両幅方向内側の部分に、前記ハブに接続可能なドライブシャフトの端部を挿入可能な大きさで開口された孔が形成され、前記一対のアームユニットのそれぞれは、前記孔の周縁部のうちの上側縁部の少なくとも一部に沿うように前記後アームに接合される上補強部材と、前記孔の周縁部のうちの下側縁部の少なくとも一部に沿うように前記後アームに接合される下補強部材と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンドプレートタイプの既存の構造を基本構造として有すると共に、モータ駆動の4WD車に適用され得る車両用リアサスペンション構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用リアサスペンション構造を上方から見た平面図である。
【
図2】車両用リアサスペンション構造の一部を示す斜視図である。
【
図3】車両用リアサスペンション構造の一部を車両幅方向内側から見た拡大斜視図である。
【
図4】車両用リアサスペンション構造の一部を車両幅方向内側から見た側面図である。
【
図5】車両用リアサスペンション構造の一部を後方から見た背面図である。
【
図6】車両用リアサスペンション構造の一部を上方から見た平面図である。
【
図7】車両用リアサスペンション構造の一部を下方から見た底面図である。
【
図8】
図7の底面図において下補強部材を取り外した状態を示す図である。
【
図9】車両用リアサスペンション構造の一部を車両幅方向外側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る車両用リアサスペンション構造を車両上方から見た平面図であり、
図2は
図1の車両用リアサスペンション構造の一部を示す斜視図である。なお、図において、矢印Frは車両前後方向における前方を示し、矢印Bは車両前後方向における後方を示す。矢印R及び矢印Lは、乗員が車両前方を見たときの車両幅方向(車幅方向)における右側及び左側を示す。そして、矢印Uは車両上下方向における上方を示し、矢印Dは車両上下方向における下方を示す。また、実施形態の説明における「前端(前部)及び後端(後部)」は、車両前後方向についての前端及び後端に対応する。
【0014】
図1及び
図2を参照すると、本実施形態に係る車両用リアサスペンション構造100は、後輪が取り付けられるトーションビーム式のリアサスペンション構造である。本実施形態では、車両用リアサスペンション構造100は、モータ駆動の4WD車(4輪駆動車)のリアサスペンション構造に適用されるものとする。
【0015】
車両用リアサスペンション構造100は、車両幅方向に延びるトーションビーム1と、一対のアームユニット2L,2Rと、を含む。
【0016】
トーションビーム1は、車両幅方向に直線状に延びており、ねじれによる反力を左右の後輪のそれぞれに与える金属製部材である。トーションビーム1の一端には、一対のアームユニット2L,2Rのうちの一方が接合され、トーションビーム1の他端には、一対のアームユニット2L,2Rのうちの他方が接合される。
【0017】
一対のアームユニット2L,2Rは、互いに車両幅方向に間隔を空けて、トーションビーム1の一端側と他端側とに配置される。以下では、一対のアームユニット2L,2Rのうちの一方を左アームユニット2Lと呼び、一対のアームユニット2L,2Rのうちの他方を右アームユニット2Rと呼ぶ。左アームユニット2Lはトーションビーム1の左端に接合され、右アームユニット2Rはトーションビーム1の右端に接合される。
【0018】
本実施形態では、左アームユニット2L及び右アームユニット2Rのそれぞれは、トレーリングアーム21と、エンドプレート22と、スプリング支持部23と、ショックアブソーバ保持部24と、を含む。以下では、右アームユニット2Rの要素を中心に説明するが、左アームユニット2L(つまり、一方のアームユニット2L)と右アームユニット2R(つまり、他方のアームユニット2R)は、互いに車両幅方向(左右方向)について対称に形成されている点を除いて、同一の構造(形状)を有している。
【0019】
トレーリングアーム21は、車体に接続される前部21a及びトーションビーム1に対する接合部21bを有し且つ車両前後方向に延びる筒状に形成されている。具体的には、トレーリングアーム21は、全体として、車両幅方向内側に凸となるように緩やかに湾曲しており、車両幅方向内側に凸となる弓型形状を有している。
【0020】
トレーリングアーム21の前部21aには、概ね車両幅方向に延び円筒状に形成された金属製の車体側連結部21cが接合されている。車体側連結部21cには、円筒状に形成されたゴム製のブッシュ21dが取り付けられている。ブッシュ21dには、車体側に支持された図示省略されたピンが挿入される。これにより、トレーリングアーム21は前記ピンを支点として上下方向に揺動可能に車体に連結されている。
【0021】
トレーリングアーム21の接合部21bは、トレーリングアーム21の長手方向の概ね中間に位置する。接合部21bにおける車両幅方向の内側の部分は、湾曲したトレーリングアーム21における頂部をなし、この部分にトーションビーム1の端部が接合される。
【0022】
トレーリングアーム21のうちの接合部21bよりも後側の部分である後アーム21eは、筒状のトレーリングアーム21の後側開口を車両幅方向外側に開放させるように曲がっている。換言すると、トレーリングアーム21は、トレーリングアーム21の後側開口が車両幅方向外側に臨むように湾曲している。
【0023】
エンドプレート22は、トレーリングアーム21の後側開口を塞ぎ且つ後輪用のハブ3が取り付けられる部材である。エンドプレート22は、所定の厚みを有した金属製の板材からなり、トレーリングアーム21の後アーム21eの開口周縁部である環状端面に接合されている。エンドプレート22は、車両前後方向及び車両上下方向に延びると共に、その周縁部が後アーム21eの外周面よりも外側に張り出している。
【0024】
エンドプレート22の車両幅方向外側の面には、特に限定されるものではないが、ドラム式のブレーキユニット4(
図1参照)が取り付けられている。ハブ3は、後輪を回転自在に支持する部材であり、ブレーキユニット4を貫通してエンドプレート22に取り付けられている。エンドプレート22の中央には、中央孔22aが開口され(後述する
図3、
図4及び
図9参照)、ハブ3の端部が中央孔22aを介して後アーム21eの内部空間に露出するようになっている。エンドプレート22の形状については後に詳述する。
【0025】
スプリング支持部23は、車体に接続される上端部5aを有するコイルスプリング5(
図2参照)の下端部5bを支持するための部材である。スプリング支持部23は、少なくとも後アーム21eの車両幅方向内側の部分に接合される。ここでは、スプリング支持部23は、後アーム21eに加えてトーションビーム1にも接合されている。具体的には、スプリング支持部23は、金属製の薄板材からなり、コイルスプリング5の下端部5bを受け止める座面部23aを有する。そして、スプリング支持部23の座面部23aの周縁部が、トーションビーム1と後アーム21eとで形成される隅部近傍に接合されている。
【0026】
スプリング支持部23の座面部23aの中央には、例えばバーリング加工によってスプリング支持用孔23a1が開口されている。そして、座面部23aにおけるスプリング支持用孔23a1の周縁部が上方に突出している。この上方に突出した円環状の周縁部を用いて、コイルスプリング5(
図2参照)の下端部5bが支持されている。
【0027】
ショックアブソーバ保持部24は、車体に接続される上端部6aを有するショックアブソーバ6(
図2参照)の下端部6bを保持するための部材である。ショックアブソーバ保持部24は、エンドプレート22よりも車両幅方向内側に配置されている。ショックアブソーバ保持部24は、対応するアームユニット(2L又は2R)に接合されている。ショックアブソーバ保持部24の形状及び接合位置については、後に詳述する。
【0028】
車両用リアサスペンション構造100では、上述のように、筒状のトレーリングアーム21の後側開口がエンドプレート22によって塞がれており、後輪が取り付けられるハブ3は、エンドプレート22に取り付けられている。このようなリアサスペンション構造は、フロントエンジン・前輪駆動である2WD車(FF車)のリアサスペンション構造として多くの車両に採用されており、エンドプレートタイプの構造とも呼ばれる。したがって、車両用リアサスペンション構造100は、エンジン駆動の2WD車(FF車)に適用され得るエンドプレートタイプのリアサスペンション構造をベースに構築されており、既存のエンドプレートタイプのリアサスペンション構造を基本構造として有している。
【0029】
ところで、本実施形態の車両用リアサスペンション構造100が適用される車両は、上述のように、モータ駆動の4WD車(4輪駆動車)である。モータ駆動の4WD車では、一般に、前輪駆動用の電動モータと後輪駆動用の電動モータとを有している。
図1を参照すると、後輪駆動用の電動モータMが、一対のトレーリングアーム21,21の間に配置されている。具体的には、後輪駆動用の電動モータMは、トーションビーム1に対して車両前後方向の後方であり且つ二つの後アーム21eの間において車体に固定される。ここで、電動モータMからの駆動力がドライブシャフト7及びハブ3等を介して後輪に伝達される必要がある。しかし、エンドプレートタイプのリアサスペンション構造は、そもそも後輪に駆動力を伝達する必要のないエンジン駆動のFF車のリアサスペンション構造として多用される構造である。そこで、エンドプレートタイプの構造をベースとした本実施形態の車両用リアサスペンション構造100は、電動モータMからの駆動力を後輪に伝達するために、以下に説明する構成を有している。
【0030】
次に、車両用リアサスペンション構造100の構成を詳しく説明する。
図3~
図5は車両用リアサスペンション構造100の一部(右側の部分)を示した図であり、
図3は車両幅方向内側から見た拡大斜視図、
図4は車両幅方向内側から見た側面図、
図5は車両前後方向後側から見た背面図である。
図3~
図5及び後述する
図6~
図9では、ハブ3、ブレーキユニット4、コイルスプリング5及びショックアブソーバ6が取り外された状態が示されており、
図3~
図6及び
図9では、さらに、ドライブシャフト7及び後述するブーツ8が取り外されている。
【0031】
図3~
図5を参照すると、車両用リアサスペンション構造100では、トレーリングアーム21の後アーム21eの車両幅方向内側の部分に、ハブ3に接続可能なドライブシャフト7の端部を挿入可能な大きさで開口された孔2a(以下では、シャフト挿入孔2aという)が形成されている。具体的には、ドライブシャフト7の一端部には、電動モータMが接続され、ドライブシャフト7の他端部が後アーム21eの内部空間に露出したハブ3の端部に接続される。ドライブシャフト7の他端部近傍の部分には、中空のゴム製部材からなるブーツ8によって覆われた図示されていない自在接手が設けられる。ブーツ8は、前記自在接手を内部に収容可能にドライブシャフト7の外径よりも大きい外径を有して形成される。シャフト挿入孔2aはブーツ8を容易に挿入可能な大きさで開口され、ブーツ8のハブ3側の部分は後アーム21eの内部に位置する。より具体的には、シャフト挿入孔2aは、トレーリングアーム21が最大に揺動した場合でも、ブーツ8の外周面とシャフト挿入孔2aの開口縁との間に隙間が空くような大きさで、開口されている。
【0032】
本実施形態では、トレーリングアーム21の後アーム21eは、車両上下方向及び車両幅方向に扁平な筒状に形成されている。後アーム21eは、例えば、トレーリングアーム21の後端側の部分において、略平坦な上面21e1と、車両幅方向の内側の略平坦な内側面21e2と、内側面21e2の下側で下方に臨む下面21e3と、を有している。上面21e1は概ね車両幅方向内側下がりに傾斜し、内側面21e2は概ね車両上下方向に延び、下面21e3は内側面21e2に連続するように緩やかに湾曲している(又は概ね車両幅方向内側上がりに傾斜している)。
【0033】
本実施形態では、シャフト挿入孔(換言すると、ブーツ挿入孔)2aは、後アーム21eの車両幅方向内側の部分から後アーム21eの略平坦な上面21e1の領域にかけて開口されている。また、本実施形態では、シャフト挿入孔2aは、さらに、後アーム21eの下面21e3にも及んでいる。したがって、シャフト挿入孔2aは、縦横に扁平な筒状の後アーム21eの上面21e1、内側面21e2及び下面21e3にかけて開口されている。換言すると、シャフト挿入孔2aの開口縁のうちの上側の部分が後アーム21eの略平坦な上面21e1の領域に位置し、シャフト挿入孔2aの開口縁のうちの下側の部分が後アーム21eの下面21e3の領域に位置する。このように、シャフト挿入孔2aは、後アーム21eの内側面21e2に対して上下に拡張した開口で形成されている。
【0034】
そして、左アームユニット2L及び右アームユニット2Rのそれぞれは、上補強部材25と、下補強部材26とをさらに有する。上補強部材25及び下補強部材26は、大きなシャフト挿入孔2aが開口されたことに基づくアーム剛性低下を補うための部材である。
【0035】
上補強部材25は、シャフト挿入孔2aの周縁部のうちの上側縁部2a1の少なくとも一部に沿うように後アーム21eに接合される補強部材である。上補強部材25は、金属製の板材からなり、概ね車両前後方向に延びている。
【0036】
下補強部材26は、シャフト挿入孔2aの周縁部のうちの下側縁部2a2の少なくとも一部に沿うように後アーム21eに接合される補強部材である。下補強部材26は、金属製の板材からなり、概ね車両前後方向に延びている。
【0037】
本実施形態では、上補強部材25の前端及び下補強部材26の前端は、シャフト挿入孔2aよりも前側に位置しており、上補強部材25の後端及び下補強部材26の後端は、シャフト挿入孔2aよりも後側に位置している。したがって、車両前後方向についての上補強部材25の長さ及び下補強部材26の長さはシャフト挿入孔2aの車両前後方向についての開口幅よりも長い。そして、上補強部材25は、シャフト挿入孔2aを車両前後方向に跨ぎつつシャフト挿入孔2aの上側縁部2a1に沿うように後アーム21eに接合されている。下補強部材26は、シャフト挿入孔2aを車両前後方向に跨ぎつつ下側縁部2a2に沿うように後アーム21eに接合されている。
【0038】
図6は
図3の車両用リアサスペンション構造100の一部を上方から見た平面図である。
図3~
図6を参照すると、本実施形態では、上補強部材25は、後アーム21eの上面21e1に接合され、当該上面21e1よりも上方に膨らむと共に上面視(
図6参照)でシャフト挿入孔2aの周縁部のうちの上側縁部2a1の内側の開口領域を上方から覆うように形成されている。具体的には、上補強部材25は、車両上下方向下側及び車両幅方向内側に開放されたハーフドーム(half-dome)状に形成されており、四分球面(半球面の半分の球面)を有している。上補強部材25の下縁は、上面視で円弧状に延びており、後アーム21eとの接合縁部をなしている。
【0039】
図7は
図3の車両用リアサスペンション構造100の一部を下方から見た底面図であり、
図8は
図7の底面図において下面部材を取り外した状態を示す図である。
図3~
図8を参照すると、本実施形態では、下補強部材26は、縦筒部26aと底板部26bとを有している。下補強部材26は、全体として、スプリング支持部23よりも前側の所定位置からトレーリングアーム21の後端(具体的には、エンドプレート22の後端)よりも後側の所定位置まで車両前後方向に延びている。
【0040】
縦筒部26aは、車両上下方向に延びる筒状に形成されると共に、トレーリングアーム21の後アーム21e及びスプリング支持部23の下面に接合される環状の上端面を有する。具体的には、縦筒部26aは、金属製の板材からなり、車両幅方向に扁平に形成される。縦筒部26aの上端面のうちの車両幅方向外側の部分の大半は後アーム21eの下面21e3におけるシャフト挿入孔2aよりも下側の部分に接合され、縦筒部26aの上端面のうちの車両幅方向内側の部分における前側半分の大半はスプリング支持部23の座面部23aの下面に接合される。
【0041】
より具体的には、縦筒部26aは、U字状部26a1と、L字状部26a2と、U字状部26a1の一端とL字状部26a2の一端とを接続する外側湾曲部26a3と、U字状部26a1の他端とL字状部26a2の他端とを接続する内側湾曲部26a4とからなる。U字状部26a1は、縦筒部26aの後部を構成すると共にエンドプレート22の近傍に寄せられている。L字状部26a2は、縦筒部26aの前部を構成すると共にU字状部26a1に対して車両幅方向内側に寄せられている。外側湾曲部26a3は、トレーリングアーム21の下面21e3に沿うと共に車両幅方向について湾曲している。内側湾曲部26a4は、スプリング支持部23の座面部23aの下面に沿う部分を有すると共に外側湾曲部26a3の内側において車両幅方向について湾曲している。縦筒部26aの環状の上端面のうちの外側湾曲部26a3に対応する部分が主にトレーリングアーム21の後アーム21eに接合され、縦筒部26aの環状の上端面のうちのL字状部26a2の大半及び内側湾曲部26a4の一部に対応する部分がスプリング支持部23の下面に接合される。なお、スプリング支持部23の下面は後アーム21eの下面21e3よりも下方に位置し、縦筒部26aにおけるスプリング支持部23の下方の部分はスプリング支持部23の下面の位置に応じた形状で下方に切り欠かれている。U字状部26a1のU字の底部はエンドプレート22の後端よりも後側に位置し、L字状部26a2における車両幅方向外側に延びる部分はスプリング支持部23の座面部23aよりも前側に位置している。
【0042】
底板部26bは、金属製の板材からなり、縦筒部26aの下側の開口を塞ぐように縦筒部26aの環状の下端面に接合されている。そして、底板部26bの周縁部は、縦筒部26aの外周面よりも外側に張り出している。底板部26bには、複数(図では2個)の水抜き用孔26b1が開口されている。雨水等の液体が下補強部材26の内部に侵入した場合には、その液体は水抜き用孔26b1を通じて排出される。
【0043】
下補強部材26には、上述したショックアブソーバ保持部24が接合される。さらに、ショックアブソーバ保持部24はエンドプレート22にも接合される。つまり、本実施形態では、ショックアブソーバ保持部24は、下補強部材26及びエンドプレート22に接合されている。
【0044】
具体的には、ショックアブソーバ保持部24は、下補強部材26の縦筒部26aの後部(U字状部26a1)を貫通するように車両幅方向に延びたロッド状に形成される。ショックアブソーバ保持部24は、下補強部材26及びエンドプレート22に接合される大径部24aと、ショックアブソーバ6(
図2参照)の下端部6bを保持する小径部24bとからなる、段付きロッド状に形成される。ショックアブソーバ保持部24とスプリング支持部23は互いに車両前後方向に離隔しており、ドライブシャフト7がコイルスプリング5とショックアブソーバ6との間の領域で車両幅方向に延びるように配置されている。
【0045】
大径部24aは、縦筒部26a(U字状部26a1)を貫通すると共に縦筒部26a(U字状部26a1)に接合される。つまり、大径部24aの車両幅方向内側の端部は縦筒部26aよりも車両幅方向内側に突出し、大径部24aの車両幅方向外側の端部は縦筒部26aよりも車両幅方向外側に突出している。大径部24aは縦筒部26aのU字状部26a1における車両幅方向内側の壁と車両幅方向外側の壁の2箇所に接合されている。
【0046】
小径部24bは、大径部24aの外径よりも小さい外径を有すると共に、大径部24aの車両幅方向内側の端部から車両幅方向内側に突出するように延びている。この小径部24bに、ショックアブソーバ6(
図2参照)の下端部6bが保持される。
【0047】
図9は、
図3の車両用リアサスペンション構造100の一部を車両幅方向外側から見た側面図である。
図5~
図9を参照すると、本実施形態では、ショックアブソーバ保持部24の大径部24aの車両幅方向外側の端部が、エンドプレート22の内側面に接合されている。具体的には、
図9を参照すると、エンドプレート22は、概ね矩形状に形成されている。エンドプレート22に開口された中央孔22aは、円形の孔として形成されている。車両幅方向から視ると(
図4及び
図9参照)、中央孔22aの開口領域とシャフト挿入孔2aの開口領域は互いに概ね重なっている。そして、エンドプレート22の4隅には、ボルト挿通孔22bが開口されている。ボルト挿通孔22bには、ブレーキユニット4をエンドプレート22に取り付けるためのボルトが挿通される。また、エンドプレート22の後方下側の角部には、斜めに張り出すように延長された延長部22cが設けられている。延長部22cは車両上下方向について下補強部材26の底板部26bの近傍まで延びており、延長部22cの車両幅方向内側に、下補強部材26の縦筒部26aのU字状部26a1が位置している。縦筒部26aのU字状部26a1のうちの車両幅方向外側の壁と、延長部22cとが互いに車両幅方向に近接して相対している。そして、エンドプレート22の延長部22cの内側面に、ショックアブソーバ保持部24の大径部24aの車両幅方向外側の端部が接合されている。
【0048】
次に、本実施形態に係る車両用リアサスペンション構造100の作用について説明する。
【0049】
車両用リアサスペンション構造100は、上述のように、エンジン駆動の2WD車(FF車オ)のリアサスペンション構造として多用されている既存のエンドプレートタイプのリアサスペンション構造を基本構造として有しており、この構造をベースに構築されている。そして、したがって、4WD車の後輪用のリアサスペンション構造が低コストで構築されている。車両用リアサスペンション構造100では、トレーリングアーム21の後アーム21eの車両幅方向内側の部分に、ハブ3に接続可能なドライブシャフト7の端部を挿入可能な大きさで開口されたシャフト挿入孔2aが形成されており、この大きなシャフト挿入孔2aがトレーリングアーム21に開口されたことに基づくアーム剛性低下は上補強部材25及び下補強部材26によって補強されている。したがって、車両用リアサスペンション構造100は、大きなシャフト挿入孔2aがトレーリングアーム21に開口されているにも拘わらず、十分なアーム剛性を有すると共に、エンドプレート22に取り付けられたハブ3にシャフト挿入孔2aを通じてドライブシャフト7を接続することで、電動モータMからの駆動力を後輪に伝達可能な構造を有する。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る車両用リアサスペンション構造100は、既存のエンドプレートタイプのリアサスペンション構造を基本構造として有すると共に、モータ駆動の4WD車に適用され得る車両用リアサスペンション構造である。なお、車両用リアサスペンション構造100は、モータ駆動の4WD車に限らず、車両の後側に配置された電動モータMによって後輪のみを駆動する2WD車(RR車)のリアサスペンション構造、車両の前側に配置された電動モータによって前輪のみを駆動する2WD車(FF車)のリアサスペンション構造、及び、車両の前側に配置された内燃機関によるエンジンによって前輪のみを駆動する2WD車(FF車)のリアサスペンション構造のいずれにも適用され得る。つまり、車両用リアサスペンション構造100は、2WD車と4WD車との間で共用され、高い汎用性を有している。
【0051】
本実施形態では、上補強部材25の前端及び下補強部材26の前端はシャフト挿入孔2aよりも前側に位置し、上補強部材25の後端及び下補強部材26の後端はシャフト挿入孔2aよりも後側に位置している。これにより、シャフト挿入孔2aの周縁部のうちの上側縁部2a1が上補強部材25により車両前後方向の全体に亘って補強されると共に、シャフト挿入孔2aの周縁部のうちの下側縁部2a2が下補強部材26により車両前後方向の全体に亘って補強され、トレーリングアーム21がより効果的に補強される。
【0052】
本実施形態では、上補強部材25は、後アーム21eの上面21e1に接合され、上面21e1よりも上方に膨らむと共に上面視で上側縁部2a1の内側の開口領域を上方から覆うように形成されている。これにより、コンパクトに形成されつつ十分な補強強度を有する上補強部材25が構築されると共に、トレーリングアーム21の揺動の際のブーツ8とトレーリングアーム21との干渉が容易に防止され得る構造が構築される。
【0053】
本実施形態では、下補強部材26は、車両上下方向に延びる筒状に形成されると共に、後アーム21e及びスプリング支持部23の下面に接合される環状の上端面を有する縦筒部26aを有している。これにより、トレーリングアーム21が、スプリング支持部23と縦筒部26aを有する下補強部材26との大きな接合体によって、より効果的に補強される。また、コイルスプリング5に対する支持剛性の向上も図られる。
【0054】
本実施形態では、ショックアブソーバ保持部24は下補強部材26及びエンドプレート22に接合されている。これにより、ショックアブソーバ保持部24自体を支持する剛性を確保するための専用部品を追加することなく、ショックアブソーバ保持部24が下補強部材26とエンドプレート22との大きな接合体によって強固に支持される。また、ショックアブソーバ6からの荷重がショックアブソーバ保持部24、下補強部材26及びエンドプレート22を介してトレーリングアーム21の全体に亘って分散させて入力されるので、ショックアブソーバ6がトレーリングアーム21によって安定的に支持される。コイルスプリング5やショックアブソーバ6からの入力荷重に耐え得る車両上下方向の剛性の観点から、下補強部材26が縦筒部26aを有すると好適である。
【0055】
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0056】
例えば、エンドプレート22の延長部22cは、下補強部材26の底板部26bと離隔しているが、これに限らず、底板部26bに接触して接合されてもよい。スプリング支持部23は、トーションビーム1に接合されているが、これに限らず、トーションビーム1に接合されなくてもよい。ショックアブソーバ保持部24は、ロッド状に形成されているが、これに限らず、金属製プレートを屈曲させてなるブラケットでもよい。また、ブレーキユニット4は、ディスク式のユニットでもよい。
【0057】
上補強部材25は、ハーフドーム状に形成されているが、これに限らず、シャフト挿入孔2aの周縁部のうちの上側縁部2a1の少なくとも一部に沿うように形成されていればよい。また、下補強部材26は、底板部26bを有さなくてもよい。下補強部材26は縦筒部26aを有した形状に限らない。下補強部材26は、シャフト挿入孔2aの周縁部のうちの下側縁部2a2の少なくとも一部に沿うように形成されていればよい。
【符号の説明】
【0058】
1…トーションビーム、2L,2R…一対のアームユニット、2a…シャフト挿入孔(孔)、2a1…上側縁部、2a2…下側縁部、21…トレーリングアーム、21b…接合部、21e…後アーム、21e1…上面、22…エンドプレート、23…スプリング支持部、24…ショックアブソーバ保持部、25…上補強部材、26…下補強部材、26a…縦筒部、3…ハブ、5…コイルスプリング、5a…上端部、5b…下端部、6…ショックアブソーバ、6b…下端部、7…ドライブシャフト、100…車両用リアサスペンション構造