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特許7705644制御テーブル作成方法及び制御テーブル作成プログラム及び水質制御方法
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  • 特許-制御テーブル作成方法及び制御テーブル作成プログラム及び水質制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】制御テーブル作成方法及び制御テーブル作成プログラム及び水質制御方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20250703BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20250703BHJP
【FI】
C02F1/50 550L
C02F1/50 510B
C02F1/50 510A
C02F1/50 520C
C02F1/50 520P
C02F1/50 531P
C02F1/50 550C
C02F1/76 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024105869
(22)【出願日】2024-07-01
【審査請求日】2024-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392035972
【氏名又は名称】株式会社ヤマト
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100207549
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 慎也
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】平間 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】永井 孝太
(72)【発明者】
【氏名】川端 洋之進
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 ゆきな
(72)【発明者】
【氏名】新井 忠男
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-329359(JP,A)
【文献】特開平04-177411(JP,A)
【文献】特開平02-211285(JP,A)
【文献】特開昭58-076180(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2023-0106780(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101941740(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理系統の薬剤投入地点における薬剤投入量を制御するための制御テーブルを作成する制御テーブル作成方法であって、
前記管理系統に設置されている既存の設備が、前記薬剤投入地点と下流の目標地点での水質管理項目をモニタリングして、その水質管理項目の変化に基づいて、前記薬剤投入地点から目標地点までの到達時間を遅れ時間τとして設定するステップと、
前記管理系統に設置されている既存の設備が、前記管理系統の水質情報を所定の期間、取得するステップと、
前記薬剤投入地点における水質管理項目の値を前端値Cuとして所定の期間、取得するステップと、
前記目標地点における水質管理項目の値を後端値Cとして所定の期間、取得するステップと、を行い、
制御テーブル作成プログラムの起動したコンピュータが、所定のデータ期間の水質情報の平均水質値Tを算出するステップと、
各前端値Cuと、前端値Cuの測定時から遅れ時間τ経過後の後端値CLτと、前記前端値Cuもしくは後端値CLτと関連する平均水質値Tと、をグループデータ化するステップと、
平均水質値Tと対応した均等間隔の水質値帯と、前端値Cuと対応した均等間隔の前端値帯とを行と列に有するデータテーブルを作成するとともに、各前端値帯の中心値Cnを設定するステップと、
前記データテーブルに対し、前記グループデータの平均水質値Tが属する水質値帯と前端値Cuが属する前端値帯とが交差するセルに後端値CLτを格納するステップと、
前記データテーブルに空白セルが存在する場合、前記空白セルの存在する水質値帯の全ての後端値CLτの減少速度係数kを、それぞれの後端値CLτが属する前端値帯の中心値Cnを用いて下記A式に基づいて算出するステップと、
k=(1/τ)log(Cn/CLτ)・・・(A)
水質値帯ごとに減少速度係数kの平均値kaveを算出するステップと、
前記空白セルの後端値CLτを、空白セルが属する前端値帯の中心値Cn’を用いて下記B式により算出する後端値算出ステップと、
Lτ=Cn’・exp(-kave・τ)・・・(B)
1つのセルに複数の後端値CLτが格納されている場合に、格納されている後端値CLτの平均値をそのセルの後端値CLτとするステップと、
前記データテーブルを基本のデータテーブルとする基本テーブル設定ステップと、を行うことを特徴とする制御テーブル作成方法。
【請求項2】
目標地点における水質管理項目の管理目標値Caをコンピュータに対し設定するステップと、
前記コンピュータが、
基本テーブル設定ステップ後に、
基本のデータテーブルの最大の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の下限に満たない場合、前記データテーブルの上限の前端値帯を数値の大きい方向に拡張し拡張前端値帯を設けるステップと、
基本のデータテーブルの最小の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の上限を超えている場合、前記データテーブルの下限の前端値帯を数値の小さい方向に拡張し拡張前端値帯を設けるステップと、
前記拡張前端値帯のセルの後端値CLτを後端値算出ステップに基づいて算出するステップと、を行うことを特徴とする請求項1記載の制御テーブル作成方法。
【請求項3】
管理系統の薬剤投入地点における薬剤投入量を制御するための制御テーブルを作成する制御テーブル作成プログラムであって、
予め所定の期間に亘って取得された前記管理系統の水質情報のデータと、前記薬剤投入地点における水質管理項目の値としての前端値Cuのデータと、目標地点における水質管理項目の値としての後端値Cのデータとを読み込む処理と、
水質情報の平均値である平均水質値Tを算出するためのデータ期間を取得する処理と、
前記データ期間を用いて水質情報の平均水質値Tを算出する処理と、
各前端値Cuと、前記前端値Cuの測定時から予め設定された遅れ時間τ経過後の後端値CLτと、前記前端値Cuもしくは後端値CLτと関連する平均水質値Tと、をグループデータ化する処理と、
平均水質値Tと対応した均等間隔の水質値帯と、前端値Cuと対応した均等間隔の前端値帯とを行と列に有するデータテーブルを作成するとともに、各前端値帯の中心値Cnを設定する処理と、
前記データテーブルに対し、前記グループデータの平均水質値Tが属する水質値帯と前端値Cuが属する前端値帯とが交差するセルに後端値CLτを格納する処理と、
前記データテーブルに空白セルが存在する場合、前記空白セルの存在する水質値帯の全ての後端値CLτの減少速度係数kを、それぞれの後端値CLτが属する前端値帯の中心値Cnを用いて下記A式に基づいて算出する処理と、
k=(1/τ)log(Cn/CLτ)・・・(A)
水質値帯ごとに減少速度係数kの平均値kaveを算出する処理と、
前記空白セルの後端値CLτを、空白セルが属する前端値帯の中心値Cn’を用いて下記B式により算出する後端値算出処理と、
Lτ=Cn’・exp(-kave・τ)・・・(B)
1つのセルに複数の後端値CLτが格納されている場合に、格納されている後端値CLτの平均値をそのセルの後端値CLτとする処理と、
前記データテーブルを基本のデータテーブルとする基本テーブル設定処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする制御テーブル作成プログラム。
【請求項4】
目標地点における水質管理項目の管理目標値Caを設定する処理と、
基本テーブル設定処理後に、
基本のデータテーブルの最大の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の下限に満たない場合、前記データテーブルの上限の前端値帯を数値の大きい方向に拡張し拡張前端値帯を設ける処理と、
基本のデータテーブルの最小の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の上限を超えている場合、前記データテーブルの下限の前端値帯を数値の小さい方向に拡張し拡張前端値帯を設ける処理と、
前記拡張前端値帯のセルの後端値CLτを後端値算出処理に基づいて算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする請求項3記載の制御テーブル作成プログラム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の制御テーブル作成方法によって作成された制御テーブルを用いて目標地点における水質管理項目の値を制御する水質制御方法であって、
薬剤投入地点の水質管理項目の設定値を決定する設定ステップと、
前記薬剤投入地点の水質管理項目の値が前記設定値となるように薬剤の投入量を制御する制御ステップと、を有し、
前記設定ステップは、
目標地点における水質管理項目の管理目標値を設定するステップと、
前記制御テーブルのうち、前記管理目標値に一番近い値の後端値CLτの格納されたセルを各水質値帯ごとに抽出し、そのセルの前端値帯の中心値Cnを各水質値帯ごとの設定値として設定値テーブルを作成するステップと、
管理系統の水質情報の値を取得して制御時における平均水質値T’を算出するステップと、
前記設定値テーブルを参照して前記平均水質値T’の属する水質値帯と対応する設定値を選択し、制御ステップの設定値とするステップと、
を有することを特徴とする水質制御方法。
【請求項6】
設定ステップを行う管理値設定装置を備え、
前記管理値設定装置は、制御テーブルが少なくとも記録された記録部と、設定値テーブルを作成するとともに平均水質値T’に基づいて制御ステップの設定値を決定する制御部と、を有することを特徴とする請求項5に記載の水質制御方法。
【請求項7】
制御ステップを行う水質制御部を備え、
前記水質制御部は、薬剤投入地点の管理項目の値を取得する管理値測定部と、薬剤投入地点に薬剤を投入する薬剤投入部と、前記管理値測定部から取得した水質管理項目の値が管理値設定装置の決定した設定値となるように薬剤投入部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする請求項6に記載の水質制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下流の目標地点において所定の水質管理項目が予め設定された値となるように薬剤投入量を制御する技術に関し、特に上流側における水質管理項目の値を設定する制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラム及びこの制御テーブルを用いた水質制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、日本の上水道は直接飲用できる安全な水を配水管網を介して安定して供給可能な社会生活や経済活動に欠くことのできない重要な社会資本である。ここで、水道法施行規則では、塩素消毒については給水栓における水の遊離残留塩素濃度(以後、残塩濃度とする)が0.1mg/L以上確保することとされている。しかしながら、日本の人口減少に伴い配水管網の滞留時間は増加傾向にあり、それに伴い配水管網の送水過程(管理系統)における残塩濃度が減少し、配水途中における殺菌効果の低下が懸念される。このことに対し、送水元である浄水施設等での殺菌剤(一般的には次亜塩素酸ナトリウムが用いられる)の投入量を増やし、供給時の塩素濃度を予め高くしておくことが考えられる。
【0003】
しかしながら、昭和60年の厚生労働省における「おいしい水研究会」の報告では、おいしい水の要件として残塩濃度は0.4mg/L以下という目安が示されている。また、平成5年12月に施行された水質基準を補完する快適水質項目では、残塩濃度管理設定値として1mg/L程度以下という値が示されている。このように、水道水に関しては衛生上の措置としての下限値と快適水質項目としての上限値とに基づいて残塩濃度を適正に管理することが要求されており、送水元での塩素投入のみで配水管網全体の残塩濃度を管理することには限界がある。
【0004】
これに対する対策としては、例えば図1の模式図に示すように、管理系統の途中にある配水池等の配水設備に薬剤投入設備を設け薬剤投入地点Pとして殺菌剤を追加投入する「追い塩素」が知られている。この追い塩素は多点注入方式が一般的であるが、水道事業従事者が減少する昨今において、多点注入方式は人的負担が大きい他、追い塩素の薬剤投入設備が多数必要となり設備コストの負担も大きいという問題点がある。このため、追い塩素を行う薬剤投入地点Pを可能な限り少なくして、効率的な追い塩素を行う事が求められている。しかしながら、管理系統は管路径や勾配、水需要量により流量や滞留時間が異なり、単なる地図上の(管路長のみを考えた)中間地点が、好ましい薬剤投入地点Pとは言えない。この問題点に関し、本願発明者らは効率的に追い塩素を行う事が可能な薬剤投入地点Pを選定する薬注点選定方法に関する下記[特許文献1]に記載の発明を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6737920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この[特許文献1]に記載の発明により、管理系統の途中における効果的な薬剤投入地点Pの選定が可能となり、管理系統全体における効率的な追い塩素が可能となった。ところで、例えば水道水に投入される塩素系殺菌剤は水温によって減少速度が異なり、水温の高い夏季には減少が早く残塩濃度は低くなり、水温の低い冬季には減少が遅く残塩濃度が高くなる傾向がある。このため、管理系統の残塩濃度を適正な値に維持するためには薬剤投入地点Pでの薬剤投入量を水温に応じて変化させる必要がある。従来、このような水温変化に対応した薬剤投入量の調整は管理者が経験に基づいて行ってきた。しかしながら、人手不足と業務の効率化、作業負担の軽減等のため、これらの制御を自動で行うことが求められている。
【0007】
そして、このような機構における制御方法として最も一般的なものは、目標地点Eでの水質管理項目(残塩濃度)の測定値に応じて薬剤投入量を調整するフィードバック制御が挙げられる。しかしながら、配水管網では薬剤投入地点Pから目標地点Eまでに水が到達する時間(遅れ時間)が長く、場合によっては2日以上かかる場合もある。このような、遅れ時間が長い経路におけるフィードバック制御では、オーバーシュート及びアンダーシュートが大きく薬剤投入量は過不足を繰り返して適正な残塩濃度を維持することが難しい。
【0008】
また、測定データを取得して回帰方程式を導出し、この回帰方程式を用いて薬剤投入量を算出する方法も考えられる。しかしながら、実際に運用中の配水管網では実験的な量(過大、過少)の薬剤投入が行えない。このため、得られる測定データは適正値の近傍の値に集中し、正確な回帰方程式の導出が難く、精度が悪いという問題点がある。
【0009】
さらに、近年急速に発展を遂げているAI(人工知能)による学習及び制御は、このような制御系に効果的な方法と考えられるものの、AI機器やAIプログラムの作製費用は高額でコスト面から導入が難しいという問題点がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、水質管理項目を適正値に維持する制御を極力既存の設備機器を用いて低コストで行うことが可能な水質制御方法の提供を目的とする。また、この水質制御方法に用いる制御テーブルを極力既存の設備機器を用いて低コストで作成することが可能な制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1)管理系統の薬剤投入地点Pにおける薬剤投入量を制御するための制御テーブルを作成する制御テーブル作成方法であって、
前記管理系統に設置されている既存の設備が、前記薬剤投入地点Pと下流の目標地点Eでの水質管理項目をモニタリングして、その水質管理項目の変化に基づいて、前記薬剤投入地点Pから目標地点Eまでの到達時間を遅れ時間τとして設定するステップS102と、
前記管理系統に設置されている既存の設備が、前記管理系統の水質情報を所定の期間、取得するステップS104と、
前記薬剤投入地点Pにおける水質管理項目の値を前端値Cuとして所定の期間、取得するステップS106と、
前記目標地点Eにおける水質管理項目の値を後端値Cとして所定の期間、取得するステップS10と、を行い、
制御テーブル作成プログラムの起動したコンピュータが、所定のデータ期間の水質情報の平均水質値Tを算出するステップS207と、
各前端値Cuと、前端値Cuの測定時から遅れ時間τ経過後の後端値CLτと、前記前端値Cuもしくは後端値CLτと関連する平均水質値Tと、をグループデータ化するステップS208と、
平均水質値Tと対応した均等間隔の水質値帯と、前端値Cuと対応した均等間隔の前端値帯とを行と列に有するデータテーブルを作成するとともに、各前端値帯の中心値Cnを設定するステップS220と、
前記データテーブルに対し、前記グループデータの平均水質値Tが属する水質値帯と前端値Cuが属する前端値帯とが交差するセルに後端値CLτを格納するステップS222と、
前記データテーブルに空白セルが存在する場合、前記空白セルの存在する水質値帯の全ての後端値CLτの減少速度係数kを、それぞれの後端値CLτが属する前端値帯の中心値Cnを用いて下記A式に基づいて算出するステップS302と、
k=(1/τ)log(Cn/CLτ)・・・(A)
水質値帯ごとに減少速度係数kの平均値kaveを算出するステップS304と、
前記空白セルの後端値CLτを、空白セルが属する前端値帯の中心値Cn’を用いて下記B式により算出する後端値算出ステップS306と、
Lτ=Cn’・exp(-kave・τ)・・・(B)
1つのセルに複数の後端値CLτが格納されている場合に、格納されている後端値CLτの平均値をそのセルの後端値CLτとするステップS332と、
前記データテーブルを基本のデータテーブルとする基本テーブル設定ステップS340と、を行うことを特徴とする制御テーブル作成方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)目標地点Eにおける水質管理項目の管理目標値Caをコンピュータに対し設定するステップS203と、
前記コンピュータが、
基本テーブル設定ステップS340後に、
基本のデータテーブルの最大の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の下限に満たない場合、前記データテーブルの上限の前端値帯を数値の大きい方向に拡張し拡張前端値帯を設けるステップS346aと、
基本のデータテーブルの最小の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の上限を超えている場合、前記データテーブルの下限の前端値帯を数値の小さい方向に拡張し拡張前端値帯を設けるステップS346bと、
前記拡張前端値帯のセルの後端値CLτを後端値算出ステップに基づいて算出するステップS348と、を行うことを特徴とする上記(1)記載の制御テーブル作成方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)管理系統の薬剤投入地点Pにおける薬剤投入量を制御するための制御テーブルを作成する制御テーブル作成プログラムであって、
予め所定の期間に亘って取得された前記管理系統の水質情報のデータと、前記薬剤投入地点Pにおける水質管理項目の値としての前端値Cuのデータと、目標地点Eにおける水質管理項目の値としての後端値Cのデータとを読み込む処理(ステップS204)と、
水質情報の平均値である平均水質値Tを算出するためのデータ期間を取得する処理(ステップS206)と、
前記データ期間を用いて水質情報の平均水質値Tを算出する処理(ステップS207)と、
各前端値Cuと、前記前端値Cuの測定時から予め設定された遅れ時間τ経過後の後端値CLτと、前記前端値Cuもしくは後端値CLτと関連する平均水質値Tと、をグループデータ化する処理(ステップS208)と、
平均水質値Tと対応した均等間隔の水質値帯と、前端値Cuと対応した均等間隔の前端値帯とを行と列に有するデータテーブルを作成するとともに、各前端値帯の中心値Cnを設定する処理(ステップS220)と、
前記データテーブルに対し、前記グループデータの平均水質値Tが属する水質値帯と前端値Cuが属する前端値帯とが交差するセルに後端値CLτを格納する処理(ステップS222)と、
前記データテーブルに空白セルが存在する場合、前記空白セルの存在する水質値帯の全ての後端値CLτの減少速度係数kを、それぞれの後端値CLτが属する前端値帯の中心値Cnを用いて下記A式に基づいて算出する処理(ステップS302)と、
k=(1/τ)log(Cn/CLτ)・・・(A)
水質値帯ごとに減少速度係数kの平均値kaveを算出する処理(ステップS304)と、
前記空白セルの後端値CLτを、空白セルが属する前端値帯の中心値Cn’を用いて下記B式により算出する後端値算出処理(ステップS306)と、
Lτ=Cn’・exp(-kave・τ)・・・(B)
1つのセルに複数の後端値CLτが格納されている場合に、格納されている後端値CLτの平均値をそのセルの後端値CLτとする処理(ステップS332)と、
前記データテーブルを基本のデータテーブルとする基本テーブル設定処理(ステップS340)と、をコンピュータに実行させることを特徴とする制御テーブル作成プログラムを提供することにより、上記課題を解決する。
(4)目標地点Eにおける水質管理項目の管理目標値Caを設定する処理(ステップS203)と、
基本テーブル設定処理(ステップS340)後に、
基本のデータテーブルの最大の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の下限に満たない場合、前記データテーブルの上限の前端値帯を数値の大きい方向に拡張し拡張前端値帯を設ける処理(ステップS346a)と、
基本のデータテーブルの最小の前端値帯の後端値CLτが前記管理目標値Caの所定の数値範囲の上限を超えている場合、前記データテーブルの下限の前端値帯を数値の小さい方向に拡張し拡張前端値帯を設ける処理(ステップS346b)と、
前記拡張前端値帯のセルの後端値CLτを後端値算出処理に基づいて算出する処理(ステップS348)と、をコンピュータに実行させることを特徴とする上記(3)記載の制御テーブル作成プログラムを提供することにより、上記課題を解決する。
(5)上記(1)または上記(2)に記載の制御テーブル作成方法によって作成された制御テーブルを用いて目標地点Eにおける水質管理項目の値を制御する水質制御方法であって、
薬剤投入地点Pの水質管理項目の設定値を決定する設定ステップと、
前記薬剤投入地点Pの水質管理項目の値が前記設定値となるように薬剤の投入量を制御する制御ステップと、を有し、
前記設定ステップは、
目標地点Eにおける水質管理項目の管理目標値を設定するステップS390と、
前記制御テーブルのうち、前記管理目標値に一番近い値の後端値CLτの格納されたセルを各水質値帯ごとに抽出し、そのセルの前端値帯の中心値Cnを各水質値帯ごとの設定値として設定値テーブルを作成するステップS392と、
管理系統の水質情報の値を取得して制御時における平均水質値T’を算出するステップS401と、
前記設定値テーブルを参照して前記平均水質値T’の属する水質値帯と対応する設定値を選択し、制御ステップの設定値とするステップS402と、
を有することを特徴とする水質制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(6)設定ステップを行う管理値設定装置50を備え、
前記管理値設定装置50は、制御テーブルが少なくとも記録された記録部52と、設定値テーブルを作成するとともに平均水質値T’に基づいて制御ステップの設定値を決定する制御部54と、を有することを特徴とする上記(5)に記載の水質制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(7)制御ステップを行う水質制御部30を備え、
前記水質制御部30は、薬剤投入地点Pの管理項目の値を取得する管理値測定部32と、薬剤投入地点Pに薬剤を投入する薬剤投入部34と、前記管理値測定部32から取得した水質管理項目の値が管理値設定装置50の決定した設定値となるように薬剤投入部34の動作を制御する制御部36と、を有することを特徴とする上記(6)に記載の水質制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラムは、実際に運用中の管理系統での実測データを用いて制御テーブルを作成する。また、不足部分に関しては実測データを基にした演算により算出する。このため、AI機器等の高価な装置を用いることなく制御テーブルの作成を行うことができる。また、制御テーブルの作成に必要なデータの取得は既存の設備による対応が可能であり、導入コストを低く抑えることができる。
また、本発明に係る水質制御方法は、管理値設定装置に作成済みの制御テーブルを記録させることで動作し、管理値設定装置に大きな演算負荷が生じることはない。このため、管理値設定装置に既存の機器を用いることが可能となり、本発明の導入コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用する管理系統としての上水道の例を示す模式図である。
図2】本発明に係る制御テーブル作成方法及び水質制御方法の工程フローチャートである。
図3】本発明に係る制御テーブル作成プログラムのフローチャートである。
図4】本発明のデータテーブルの例を示す図である。
図5】本発明のデータテーブルの例を示す図である。
図6】本発明の水質制御方法を行うための管理値設定装置及び水質制御部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラム及び水質制御方法について図面に基づいて説明する。尚、ここでは上水道の配水管網を管理系統とし、この途中に薬剤投入地点Pを設け、管理系統の末端設備を目標地点Eとして説明を行う。また水質情報を管理系統を流れる水の水温とし、水質管理項目を残塩濃度として説明を行う。ただし、本願発明はこれに限定される訳ではなく、管理系統の例としては、浄水施設、廃水処理施設等が挙げられ、水質情報の例としては、残塩濃度、濁度、pH、流量等が挙げられる。また、水質管理項目の例としては、残塩濃度の他に濁度、pH等が挙げられる。また、より具体的な例としては、浄水施設を管理系統とし、水質情報を原水の濁度、水質管理項目を浄水の濁度とした凝集剤投入量または凝集剤投入率の制御が挙げられる。また、浄水施設を管理系統とし、水質情報を途中の残塩濃度、水質管理項目を出水地点近傍の後残塩濃度とした追加の塩素系殺菌剤の投入量または投入率の制御が挙げられる。さらに、水質情報は1つに限定されず複数としても良い。この場合の制御テーブルは3次元の立体的なものとなる。
【0015】
ここで、図1は本発明を適用する管理系統としての上水道の例を示す模式図である。尚、この管理系統には図示しない配水管網が複数接続しており、この配水管網を介して各戸に水道水が配水される。また、図1における送水元Sとは例えば殺菌した上水を管理系統に供給する浄水施設等の配水設備である。そして、管理系統の距離が長く、途中で水質管理項目(ここでは残塩濃度)が適正値を下回る場合、追い塩素を行う薬剤投入地点Pが設置される。尚、薬剤投入地点Pは例えば配水池や減圧槽、ポンプ場等の塩素注入が可能な周知の配水設備の貯水槽等であり、[特許文献1]等に記載の発明を用いて薬剤が効率的に行き渡るような位置の設備に設けることが好ましい。そして、本願発明は下流側の目標地点Eでの水質管理項目(残塩濃度)の値が管理目標値となるように、この目標地点Eの上流に位置する薬剤投入地点Pでの薬剤投入量もしくは薬剤投入率を制御するためのものである。尚、目標地点Eとは管理系統の最下流に位置する配水設備(末端設備)を想定しているが、例えば薬剤投入地点Pが複数存在する場合には、管理系統の途中の配水設備を目標地点Eとし、その直前の薬剤投入地点Pに対して本発明を適用するようにしても良い。また、送水元Sと目標地点Eとの間に薬剤投入地点Pが存在しない場合には、送水元Sを薬剤投入地点Pとして本発明を適用しても良い。
【0016】
次に、本発明に係る制御テーブル成方法に関して図2(a)の工程フローチャートを用いて説明を行う。先ず、管理系統を流れる水が直前の薬剤投入地点Pを出水してから目標地点Eに到達するまでの時間(遅れ時間τ)を取得する(ステップS102)。この遅れ時間τは薬剤投入地点Pと目標地点Eでの水質管理項目(残塩濃度)をモニタリングして、薬剤投入地点Pでの薬剤投入量(水質管理項目)の変化が目標地点Eでの水質管理項目の値に反映されるまでの時間から取得する尚、この遅れ時間τは基本的に固定値である。また、遅れ時間τは時間単位で十分であり分単位は必要ない。
【0017】
次に、管理系統の水質情報を所定の期間、測定して取得する。このときの水質情報の測定頻度に関しては特に限定は無いが、水質情報が水温の場合には気温(水温)が高い昼間と気温(水温)の低い夜間の少なくとも2回以上測定することが好ましく、基本的には1時間毎に測定することが好ましい。尚、水質情報を測定する位置に関しては必ずしも薬剤投入地点P、目標地点Eには限定されず、管理系統内の任意の場所、任意の配水設備で測定することができる。また、水質情報には後のグループデータ化の際に必要となる測定日時の情報が記録される(ステップS104)。
【0018】
また、これと前後して薬剤投入地点Pにおける水質管理項目(残塩濃度)を測定し、これを前端値Cuとする(ステップS106)。尚、前端値Cuの測定地点は薬剤が十分に溶解した薬剤投入地点Pの出水地点近傍とすることが好ましい。また、目標地点Eにおける水質管理項目(残塩濃度)を測定し、これを後端値Cとする(ステップS108)。尚、前端値Cu、後端値Cの測定頻度に関しては特に限定は無いが、後述のグループ化の際に遅れ時間τ後の後端値CLτが存在するように双方ともに1時間毎とすることが特に好ましい。さらに、これらの前端値Cu、後端値Cには後のグループデータ化の際に必要となる測定日時の情報が記録される。
【0019】
そして、これらの水質情報、前端値Cu、後端値Cの取得は所定の期間、継続して行われる。特に、水質情報が水温の場合には、夏の高温時と冬の低温時のデータを取得するため、少なくとも夏冬を含めた半年間、好ましくは1年間継続して行う。これにより、制御テーブルの導出に必要なデータの取得が完了する。
【0020】
次に、これらの水質情報、前端値Cu、後端値Cの値から制御テーブルの作成を以下のようにして行う(ステップS200)。ここで、図3は本発明に係る制御テーブル作成プログラムのフローチャートである。
【0021】
先ず、本発明に係る制御テーブル作成プログラムの起動したコンピュータに、ステップS102で取得された遅れ時間τを入力するなどして設定する(ステップS202)。次に、このコンピュータに目標地点Eでの水質管理項目(残塩濃度)の管理目標値Caを入力するなどして設定する(ステップS203)。次に、このコンピュータにステップS104、S106、S108で取得された水質情報(水温)、前端値Cu、後端値Cのデータを読み込ませる(ステップS204)。
【0022】
次に、制御テーブル作成プログラムは水質情報の平均水質値Tを算出するためのデータ期間を取得する(ステップS206)。ここで、水質情報が水温の場合、データ期間は気温が高い昼間の測定データと気温の低い夜間の測定データの平均値がとれるよう24時間の倍数とすることが好ましい。また、24時間の倍数aの設定は遅れ時間τに基づいて下記C式で算出することが好ましい。
a=[0.5×(1+(τ/12))]・・・(C)
ここで、[ ]はガウス記号(床関数)を意味する。
よって、遅れ時間τが28時間の場合、
a=[0.5×(1+2.33)]
a=[1.667]
a=1 となり、データ期間は a×24=24時間 となる。
また、仮に遅れ時間τが37時間の場合、
a=[2.042]
a=2 となり、データ期間は a×24=48時間 となる。
尚、データ期間の算出は制御テーブル作成プログラム自体が行っても良いし、人もしくは他のコンピュータが行って制御テーブル作成プログラムに入力するようにしても良い。
【0023】
次に、制御テーブル作成プログラムは、ステップS206で設定されたデータ期間で水質情報の平均値を算出し平均水質値Tとする。このときのデータ期間の起点は、後にグループデータ化する前端値Cuもしくは後端値CLτと関係する点であり、例えば前端値Cuの測定時としても良いが、以下のようにすることが最も好ましい。先ず、グループデータ化する前端値Cuを選択し、この前端値Cuの測定時から遅れ時間τ後の後端値CLτを抽出する。そして、この後端値CLτの測定時からデータ期間分遡った点を平均水質値Tのデータ期間の起点として平均水質値Tを算出する。即ち、後端値CLτの測定時を終点としたデータ期間の水質情報の平均値を平均水質値Tとする(ステップS207)。そして、これらの前端値Cuと後端値CLτ、及びこの平均水質値Tをグループデータ化する(ステップS208)。
【0024】
次に、制御テーブル作成プログラムは、均等間隔の水質値帯と均等間隔の前端値帯とを行と列に有するデータテーブルを作成する(ステップS220)。尚、これらの水質値帯と前端値帯は、測定により取得された平均水質値T及び前端値Cuの範囲を含むように設定する。また、1つの水質値帯、前端値帯の数値幅は固定としても良いし、平均水質値T及び前端値Cuの最大値、最小値の範囲を所定の数、例えば10~20個程度に均等に分割して設定しても良い。ここで例えば、平均水質値T(水温)が2℃~23℃の範囲にあり、前端値Cu(残塩濃度)が0.38mg/L~0.51mg/Lの範囲にあり、水質値帯の数値幅を1℃とし、前端値帯の数値幅を0.01mg/Lとした場合、水質値帯の中心値をTnとすると、1つの水質値帯の数値範囲は Tn±0.5℃ で、Tn=2、3、・・・、23 となる。また、各前端値帯の中心値をCnとすると、1つの前端値帯の数値範囲はCn±0.005mg/L で、Cn=0.38、0.39、・・・、0.51となる。即ち、この場合のデータテーブルは、図4(a)に示すように、水質値帯(Tn±0.5℃)の中心値Tnが1℃刻みで2℃~23℃の範囲で設定され、前端値帯(Cn±0.005mg/L)の中心値Cnが0.01mg/L刻みで0.38mg/L~0.51mg/Lの範囲で設定されたものとなる。
【0025】
次に、制御テーブル作成プログラムは、ステップS208で作成された各グループデータについて、その平均水質値Tの値が属する水質値帯と前端値Cuの値が属する前端値帯とが交差するセルにそのグループデータの後端値CLτを格納する。例えば、平均水質値Tが14.3℃で、前端値Cuが0.482mg/Lで、後端値CLτが0.215mg/Lのグループデータの場合、14±0.5℃の水質値帯と0.48±0.005mg/Lの前端値帯とが交差する図4(b)のセルCに、後端値CLτである0.215mg/Lを格納する。そして、これらの作業を全てのグループデータに対して行う(ステップS222)。
【0026】
尚、本発明を適用する管理系統は既に実際に運用がされているものを想定しており、この場合、目標地点Eの水質管理項目(残塩濃度)である後端値CLτを管理目標値(例えば0.2mg/L)から大きく外すことはできない。また、前端値Cuも所定の範囲から大きく外れることは無い。このため、データテーブルの特定の領域に後端値CLτのデータが集中し、この領域では1つのセルに複数の後端値CLτが格納されることとなる。
【0027】
また、管理者は塩素系殺菌剤の減少速度が速い水温の高い夏季には薬剤投入量を多くし、減少速度が遅い水温の低い冬季には薬剤投入量を少なくすることで、目標地点Eでの水質管理項目を管理目標値の近傍に維持している。このため、図4(b)に示すように、低温側の水質値帯では(薬剤投入量が少ない)数値の小さい前端値帯のセルは比較的埋まり易いものの、(薬剤投入量が多い)数値の大きい前端値帯のセルには該当するグループデータが少なく空白セルが多くなる。また、反対に高温側の水質値帯では(薬剤投入量が多い)数値の大きい前端値帯のセルは比較的埋まり易いものの、(薬剤投入量が少ない)数値の低い前端値帯のセルは該当するグループデータが少なく空白セルが多くなる。このように、取得されるグループデータには偏りがあり、いずれかの部位に空白セルが生じる可能性が高い。
【0028】
このため、本発明に係る制御テーブル作成プログラムは、データテーブルに空白セルが存在する場合(ステップS300:Yes)、空白セルの存在する水質値帯に属する全ての後端値CLτの減少速度係数kを下記A式に基づいて算出する(ステップS302)。尚、下記A式におけるCnは、その後端値CLτが属する前端値帯の中心値Cnである。
k=(1/τ)log(Cn/CLτ)・・・(A)
【0029】
次に、制御テーブル作成プログラムは、算出した減少速度係数kの平均値kaveを水質値帯ごとに算出する(ステップS304)。
【0030】
次に、制御テーブル作成プログラムは、下記B式により空白セルの後端値CLτを算出する(後端値算出ステップS306)。尚、下記B式におけるCn’は、その空白セルの前端値帯の中心値Cnである。
Lτ=Cn’・exp(-kave・τ)・・・(B)
そして、制御テーブル作成プログラムは、これらの処理を空白セルが無くなるまで繰り返す。
【0031】
そして、データテーブルの全てのセルに後端値CLτが格納され空白セルが無くなると(ステップS300:No)、制御テーブル作成プログラムは1つのセルに複数の後端値CLτが格納されているセルが存在するか否かを確認する。そして、1つのセルに複数の後端値CLτが格納されている場合(ステップS330:Yes)、そのセルに格納されている後端値CLτの平均値をそのセルの後端値CLτとする(ステップS332)。そして、これらの処理を複数の後端値CLτが格納されているセルが無くなるまで繰り返す。
【0032】
これにより、図4(c)に示すように、データテーブルの全てのセルに後端値CLτが1つずつ格納される(ステップS330:No)。そして、制御テーブル作成プログラムはこのデータテーブルを基本のデータテーブルとする(基本テーブル設定ステップS340)。尚、目標地点の水質管理項目(後端値C)が年間を通じて概ね管理目標値Ca近傍の値に維持されている場合、基本のデータテーブルでは全ての水質値帯で管理目標値Caに近い後端値CLτが格納されたセルが存在する。よって、この場合には、この基本のデータテーブルが制御テーブルとなる。ただし、取得したデータによっては後端値CLτが管理目標値Caから外れている水質値帯が存在する場合がある。
【0033】
よって、次に制御テーブル作成プログラムは最大の前端値帯のセルに格納された後端値CLτを確認し、これらの後端値CLτが一つでも管理目標値Caの所定の数値範囲の下限値に満たない場合(ステップS344a:Yes)、図5に示すように、上限の前端値帯を数値の大きい方向に拡張して拡張前端値帯Wbを設ける(ステップS346a)。そして、ステップS348に移行する。
【0034】
ここで例えば、管理目標値Caを0.2mg/L、数値範囲を±0.005mg/Lとすると、管理目標値Caの数値範囲の下限は0.195mg/Lとなる。そして、図4(c)の基本のデータテーブルにおける最大の前端値帯は中心値Cnが0.51mg/Lの列であり、この列の後端値CLτが一つでも管理目標値Caの下限の値に満たない場合には、図5に示すように拡張前端値帯Wbを設ける。尚、図5では最大の前端値帯の後端値CLτは管理目標値Caの数値範囲の下限値0.195mg/Lを全て超えているため、拡張前端値帯Wbを設ける必要は無いが、説明の都合上、図5では拡張前端値帯Wbを設けた例を図示している。
【0035】
また、最大の前端値帯の後端値CLτが管理目標値Caの数値範囲の下限値を全て超えている場合(ステップS344a:No)、次に制御テーブル作成プログラムは基本のデータテーブルの最小の前端値帯のセルに格納された後端値CLτを確認し、これらの後端値CLτが一つでも管理目標値Caの所定の数値範囲の上限値を超えている場合(ステップS344b:Yes)、図5に示すように、基本のデータテーブルの下限の前端値帯を数値の小さい方向に拡張して拡張前端値帯Wsを設ける(ステップS346b)。そして、ステップS348に移行する。ここで、図4(c)における最小の前端値帯は中心値Cnが0.38mg/Lの列であり、管理目標値Caの数値範囲の上限は0.205mg/Lである。そして、0.38mg/Lの列の後端値CLτを確認すると中心値Tnが2℃~8℃の水質値帯の後端値CLτが0.207mg/L以上で上限値0.205mg/Lを超えている。よって、制御テーブル作成プログラムは下限の前端値帯を拡張して拡張前端値帯Wsを設ける。尚、設置時の拡張前端値帯Wb、Wsのセルは全て空白セルとなる。
【0036】
次に、制御テーブル作成プログラムはステップS348において、後端値算出ステップS306と同様にステップS304で算出された減少速度係数kの平均値kaveを用いて拡張された拡張前端値帯Wb、Wsの空白セルの後端値CLτを算出する。そして、ステップS344aに移行してこれらの処理を繰り返す。
【0037】
これにより、例えば図5では中心値Tnが2℃~8℃の水質値帯の全ての後端値CLτが上限値0.205mg/Lを下回るまで下方向への拡張前端値帯Wsの拡張が繰り返され、最終的に最小の前端値帯は中心値Cnが0.30mg/Lの拡張前端値帯Wsとなる。このように、全ての水質値帯で管理目標値Caの数値範囲に入る後端値CLτが取得されるまで拡張前端値帯Wb、Wsの拡張が行われ、減少速度係数kの平均値kaveによる後端値CLτの算出が行われる。そして、管理目標値Ca近傍の後端値CLτ図5における太字の後端値CLτ)が全ての水質値帯で取得されたところで(ステップS344b:No)、制御テーブル作成プログラムはこれを最終的な制御テーブルとする(ステップS334)。これにより、本発明に係る制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラムによる制御テーブルの作成が完了する。
【0038】
次に、この制御テーブルを用いた本発明に係る水質制御方法の説明を行う。尚、本発明に係る水質制御方法は、図2(b)に示すように、制御テーブルを用いて薬剤投入地点における水質管理項目の設定値を決定する設定ステップと、設定ステップで決定した設定値に基づいて薬剤投入地点での薬剤投入量を制御する制御ステップと、を有している。
【0039】
ここで、図6は本発明の水質制御方法を行うための管理値設定装置50及び水質制御部30を示す図である。先ず、本発明の管理値設定装置50は、上記のようにして作成された制御テーブルが少なくとも記録された記録部52と、水質管理項目の設定値を決定する制御部54と、を有している。
【0040】
また、水質制御部30は、薬剤投入地点Pの管理項目(ここでは、残塩濃度)の値を取得する管理値測定部32と、薬剤投入地点Pに所定の薬剤を投入する薬剤投入部34と、薬剤投入部34の動作を制御する制御部36と、を有している。尚、薬剤投入部34は薬剤投入地点Pの上流側に位置させ、管理値測定部32は薬剤投入地点Pの下流部、特に出水部近傍に設置することが好ましい。
【0041】
そして、本発明に係る水質制御方法では、先ず、管理者が目標地点Eにおける水質管理項目(残塩濃度)の管理目標値Caを管理値設定装置50の制御部54に入力する(ステップS390)。尚、ここで入力する管理目標値Caは制御テーブル作成時の管理目標値Caと同じ値である。よって、ここでは管理目標値Caを残塩濃度0.2mg/Lとする。
【0042】
制御部54はこの管理目標値Caの入力を受けて記録部52に記録された制御テーブルを参照し、各水質値帯で最も管理目標値Caに近い後端値CLτが格納されたセルを抽出する。尚、制御テーブルは必要に応じて拡張前端値帯Wb、拡張前端値帯Wsが設けられ、不足領域が補われているから、基本的に抽出されたセルの後端値CLτは管理目標値Caに近い所定の数値範囲内のものとなる。次に、抽出されたセルの前端値帯を参照し、その中心値Cnを抽出して、これを各水質情報(水温)と対応した設定値テーブルとする(ステップS392)。この設定値テーブルはある水温(水質情報)の時に、遅れ時間τ経過後の目標地点Eでの残塩濃度(管理項目)が管理目標値Ca(残塩濃度0.2mg/L)前後となるときの薬剤投入地点Pでの残塩濃度(管理項目)を示すテーブルである。
【0043】
尚、水質制御部30、管理値設定装置50は極力既存の設備の使用もしくは機能追加により構成することが好ましい。特に、管理値設定装置50に汎用PLC(Programmable Logic Controller)を用いている場合には、管理値設定装置50(汎用PLC)に上記の設定ステップを行うプログラムと制御テーブルとを入力することで、新たな設備コストを掛けずに本発明の導入を行うことができる。
【0044】
次に、水質情報取得手段10が管理系統の水質情報(ここでは水温)の値を取得して、管理値設定装置50の制御部54に出力する(ステップS400)。尚、水質情報取得手段10は必ずしも薬剤投入地点Pに設置される必要は無く、管理系統の任意の場所に設置して通信等で水質情報を取得するようにしても良い。
【0045】
次に、管理値設定装置50の制御部54はこの水質情報を受けて予め設定されたデータ期間にて移動平均を取り制御時の平均水質値T’を算出する(ステップS401)。尚、この制御時のデータ期間は、制御テーブル作成時のデータ期間と同じとする必要はなく、突発的な高気温、低気温や、大雨等による一時的な原水の温度変化の影響を排除するため、3日、5日、1週間等、比較的長期とすることが好ましい。
【0046】
次に、管理値設定装置50の制御部54は、予め設定された時間間隔で設定値テーブルを参照しその時の平均水質値T’と対応した設定値R(n)を選択する。そして、管理値設定装置50はこの設定値R(n)を水質制御部30に出力する(ステップS402)。尚、この設定値R(n)の出力間隔は12時間、1日、2日、3日毎など特に限定は無いが、1日1回とすることが好ましい。
【0047】
また、例えば制御時のデータ期間を長く取れない場合などには、下記D式に示すようにローパスフィルタを噛ませ、設定値の急激な変化を防止するようにしても良い。ここで、αはフィルタ係数(固定値)であり、概ね0.3前後の0.1~0.4程度の数値である。
R’(n)=α・R’(n-1)+(1-α)R(n)・・・(D)
この構成によれば、制御時のデータ期間を長く取れない場合でも設定値R’(n)が直前の設定値R’(n-1)から大きく変化することを防止して、誤測定等の突発的な異常等による一時的な設定値R(n)の大きな変化を防止することができる。そして、以上が本発明に係る水質制御方法の設定ステップに相当する。
【0048】
次に、水質制御部30の制御部36は管理値設定装置50からの設定値R(n)(ローパスフィルタを有する場合は R’(n))を受けて、管理値測定部32が取得する管理項目(残塩濃度)の値が設定値R(n)となるように薬剤投入部34を制御し、薬剤投入量を調整する(ステップS404)。そして、薬剤投入地点Pにて管理項目(残塩濃度)が設定値R(n)とされた水は、管理系統を流れ概ね遅れ時間τで目標地点Eに到達する。この際、水中の残塩濃度は減少するものの、薬剤投入地点Pから出水した水の残塩濃度は減少分が考慮された設定値R(n)に調整されているため、目標地点Eに到達した時の水の残塩濃度は管理目標値Caである0.2mg/L近傍の値をとることとなる。
【0049】
そして、例えば水質情報(水温)の平均水質値Tが上昇すると、管理値設定装置50はこの平均水質値Tと対応した比較的高い数値の設定値R(n)を設定値テーブルから選択して水質制御部30に出力する。水質制御部30はこの比較的高い設定値R(n)を受けて、薬剤投入地点Pにおける薬剤投入量を増加する。そして、薬剤投入地点Pから出水した水は、高水温のため残塩濃度の減少量が大きいものの(薬剤投入量が多く)残塩濃度がその分高いため、目標地点Eでの残塩濃度は管理目標値Caである0.2mg/L近傍の値となる。また、水質情報(水温)の平均水質値Tが低下すると、管理値設定装置50はこの平均水質値Tと対応した比較的低い数値の設定値R(n)を設定値テーブルから選択して水質制御部30に出力する。水質制御部30はこの比較的低い設定値R(n)を受けて、薬剤投入地点Pにおける薬剤投入量を減少させる。そして、薬剤投入地点Pから出水した水は、低水温のため残塩濃度の減少量は小さいものの(薬剤投入量が少なく)薬剤投入時の残塩濃度はその分低いため、目標地点Eでの残塩濃度は管理目標値Caである0.2mg/L近傍の値となる。
【0050】
尚、目標地点Eにおける水需要の大きな変化等により管理目標値Caに変更が生じた場合、管理者は制御テーブルの各水質値帯で一番管理目標値Ca’に近い後端値CLτを抽出し、これら後端値CLτが予め設定された管理目標値Ca’の範囲内にあるか否かを確認する。そして、抽出した後端値CLτの全てが管理目標値Ca’の範囲内の場合、管理者は管理値設定装置50に対し変更された管理目標値Ca’を入力する。これにより、管理値設定装置50は変更された管理目標値Ca’に最も近い後端値CLτの格納されたセルを各水質値帯毎に抽出し、そのセルの前端値帯の中心値Cnを抽出して、これを新たな設定値テーブルとする。これにより、目標地点Eでの管理項目は新たな管理目標値Ca’近傍の値に維持される。
【0051】
また、抽出した後端値CLτが一部でも管理目標値Ca’の範囲を外れた場合、変更された管理目標値Ca’にてステップS344a~ステップS334を行う。これにより、制御テーブルには拡張前端値帯Wbもしくは拡張前端値帯Wsが設けられ、同様にして管理目標値Ca’の範囲内の後端値CLτが算出される。
【0052】
このようにして修正された制御テーブルは管理値設定装置50の記録部52に記録され、管理者が新たな管理目標値Ca’を入力することで、管理値設定装置50は変更された管理目標値Ca’に対応した設定値テーブルを抽出し設定値R(n)を出力する。これにより、目標地点Eでの管理項目は新たな管理目標値Ca’近傍の値に維持される。
【0053】
尚、水質情報、前端値Cu、後端値Cは常にモニタされている場合が多い、よって例えば既存の制御テーブルの水質値帯の範囲を超えた平均水質値Tが得られた場合、このデータを加味して制御テーブルを補充し、管理値設定装置50に送信するなどして自動で制御テーブルの更新を行うようにしても良い。
【0054】
以上のように、本発明に係る制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラムは、実際に運用中の管理系統での実測データを用いて制御テーブルを作成する。また、不足部分に関しては実測データを基にした演算により算出する。このため、管理系統を運用しながら測定データの取得を行うことができる。また、AI機器等の高価な装置を用いることなく制御テーブルの作成を行うことができる。さらに、制御テーブルの作成に必要なデータは基本的に管理系統で一般的にモニタリングしている項目であり、データの取得に際しては新規の設備は必要ない。このため、概ね既存の設備による対応が可能であり、導入コストを低く抑えることができる。
【0055】
また、この本発明に係る水質制御方法は、上記のように実際の管理系統での実測データから導出された制御テーブルに基づいて、薬剤投入地点Pにおける最適な水質管理項目(残塩濃度)の値が設定される。そして、水質制御部30がこの設定された水質管理項目の値となるように薬剤投入量を制御することで、薬剤投入地点Pから下流の遠く離れた目標地点Eでの水質管理項目(残塩濃度)を適切な管理目標値Caの近傍に維持することができる。
【0056】
尚、制御テーブルは基本的に他のコンピュータで演算し完成したものを管理値設定装置50に記録して使用する。また、管理値設定装置50はこの制御テーブルを必要に応じて参照するのみのため管理値設定装置50側に大きな演算負荷が生じることはない。このため、管理値設定装置50には複雑な演算が可能な高価な機器は必要なく、従来から薬剤投入量の制御で一般的に使用されている汎用PLC等の機器を用いることができる。そして、管理値設定装置50として汎用PLCが用いられている場合には、前述の設定ステップを行うプログラムと制御テーブルとを管理値設定装置50に入力することで、新たな設備を設けることなく、既存の設備のみで本発明に係る水質制御方法を導入することができる。また、管理値設定装置50を新たに導入する場合でも安価な機器を使用する事ができる。これにより、本発明の導入コストを極めて低く抑えることができる。
【0057】
そして、本発明に係る制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラム及び水質制御方法によれば、従来、管理者が経験に基づいて行っていた水質情報の変化に伴う水質管理項目の値(残塩濃度)の調整を管理値設定装置50及び水質制御部30が自動で行う。これにより、管理者の負担軽減と人件費の削減とを図ることができる。また、水質管理項目の値の調整は実際の管理系統での実測データに基づく制御テーブルをもとに行うため、従来の管理者による調整よりも適切な制御を行うことができる。さらに、この調整動作は予め設定された間隔で定期的に行うことができる。このため年間を通じて適切な管理を継続して行うことができる。
【0058】
尚、本例で示した制御テーブル成方法及び制御テーブル作成プログラム及び水質制御方法は一例であり、各ステップ及び処理の構成、順序、各データ等の取得方法、装置構成、動作等は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
30 水質制御部
32 管理値測定部
34 薬剤投入部
36 制御部
50 管理値設定装置
52 記録部
54 制御部
P 薬剤投入地点
E 目標地点
S306 後端値算出ステップ
S340 基本テーブル設定ステップ
【要約】
【課題】水質管理項目を適正値に維持する制御を低コストで行うことが可能な水質制御方法及び、これに用いる制御テーブルの作成方法及び制御テーブル作成プログラムを提供する。
【解決手段】この制御テーブルの作成方法及び制御テーブル作成プログラムは、実際に運用中の管理系統での実測データを用いて制御テーブルを作成する。また、不足部分に関しては実測データを基にした演算により算出する。このため、高価な装置を用いることなく制御テーブルの作成を行うことができる。また、制御テーブルの作成に必要なデータの取得は既存の設備による対応が可能であり、導入コストを低く抑えることができる。また、この水質制御方法は、管理値設定装置に大きな演算負荷が生じることはない。このため、管理値設定装置に既存の機器を用いることが可能となり、本発明の導入コストを低く抑えることができる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6