(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】ビスホスホリル架橋スチルベン化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6568 20060101AFI20250703BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
C07F9/6568 CSP
G01N33/48 P
(21)【出願番号】P 2020203457
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂弘
(72)【発明者】
【氏名】多喜 正泰
(72)【発明者】
【氏名】王 軍威
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-056630(JP,A)
【文献】WANG, Chenguang et al.,“A photostable fluorescent marker for the superresolution live imaging of the dynamic structure of the mitochondrial cristae”,Proceedings of the National Academy of Sciences,2019年,Vol. 116,No. 32,p. 15817-15822,DOI: https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1905924116
【文献】WANG, Chenguang et al.,“Water‐Soluble Phospholo[3,2‐b]phosphole‐P,P′‐Dioxide‐Based Fluorescent Dyes with High Photostability”,Chemistry-An Asian Journal,2018年,Vol. 13,No. 12,p. 1616-1624,DOI: 10.1002/asia.201800533
【文献】WANG, Chenguang et al.,“Super-Photostable Phosphole-Based Dye for Multiple-Acquisition Stimulated Emission Depletion Imaging”,Journal of the American Chemical Society,2017年,Vol. 139,No. 30,p. 10374-10381,DOI: http://dx.doi.org/10.1021/jacs.7b04418
【文献】WANG, Chenguang et al.,“A Phosphole Oxide Based Fluorescent Dye with Exceptional Resistance to Photobleaching: A Practical Tool for Continuous Imaging in STED Microscopy”,Angewandte Chemie International Edition,2015年,Vol. 54,No. 50,p. 15213-15217,DOI: http://dx.doi.org/10.1002/anie.201507939
【文献】深澤愛子ら,ビスホスホリル架橋スチルベンを含む拡張π電子系の合成と物性,日本化学会講演予稿集,2009年,89(2),p.857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F9/6568
G01N33/48
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、
Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1及びR
2は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。ただし、R
1及びR
2は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
1及び/又はR
2はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
Y
1及びY
2は同一又は異なって、一般式(2):
【化2】
(Ar
3は置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
3は
置換若しくは非置換アルキル基、又はポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基を示す。
Y
3は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表される、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項2】
前記R
3が置換若しくは非置換アルキル基である、請求項1に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項3】
Ar
1が、置換若しくは非置換多環芳香族炭化水素環である、請求項1又は2に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、蛍光色素。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、細胞内小器官染色剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物、請求項4に記載の蛍光色素又は請求項5に記載の細胞内小器官染色剤を用いる、細胞内小器官の誘導放出抑制(STED)イメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
高い蛍光量子収率を有する蛍光性有機化合物は、有機EL素子の発光材料又は生体蛍光イメージングのための蛍光色素として重要であり、これまでに報告された例は、基礎研究及び応用の両面で枚挙に暇がない。
【0003】
しかしながら、従来から知られている蛍光性有機化合物の多くが、光照射を続けると徐々に分解し、退色してしまう。例えば、蛍光プローブとしては、耐光性を高めた色素群として、Alexa Fluor色素、ATTO色素等が有名であるが、これらを用いた場合でも、誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡で繰り返し観察することは困難である。このため、最先端の蛍光顕微鏡技術の観察対象が限定されているのが現状であり、蛍光色素の耐光性の向上が求められている。
【0004】
このような従来技術のなか、耐光性に優れた蛍光色素としては、特定の構造を有するホスホール化合物「MitoPB Yellow」も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】PNAS 2019, vol. 116, no. 32, 15817-15822.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡では、MitoPB Yellowの場合は、励起波長として波長660nmのSTEDレーザーを使用していたため、例えばミトコンドリア等の細胞内小器官に対する光毒性が認められていた。このため、励起波長をより長波長化し、細胞内小器官に対する光毒性を低減することが求められている。また、MitoPB Yellowは、既存の他の蛍光色素を凌駕する圧倒的な耐光性を示していたが、耐光性に対する要求特性はとどまることを知らず、MitoPB Yellowが光退色するほどの強力な光照射によっても光退色を低減できることが求められている。
【0007】
本発明は、上記のような従来の課題を解決しようとするものであり、細胞内小器官に対する光毒性を低減することができる長波長の励起波長を使用して細胞内小器官を染色することができ、且つ、MitoPB Yellowと比較してもさらに耐光性に優れた化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有する化合物は、細胞内小器官を染色することができ、且つ、耐光性に優れており、誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡に使用される強力なレーザー光を照射しても、吸収強度がほとんど低下しないことを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.一般式(1):
【0010】
【化1】
[式中、
Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1及びR
2は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R
1及びR
2は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
1及び/又はR
2はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
Y
1及びY
2は同一又は異なって、一般式(2):
【0011】
【化2】
(Ar
3は置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
3は水素原子又は有機基を示す。
Y
3は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表される、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0012】
項2.前記R3が置換若しくは非置換アルキル基である、項1に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0013】
項3.Ar1が、置換若しくは非置換多環芳香族炭化水素環である、項1又は2に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0014】
項4.項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、蛍光色素。
【0015】
項5.項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、細胞内小器官染色剤。
【0016】
項6.項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物、項4に記載の蛍光色素又は項5に記載の細胞内小器官染色剤を用いる、細胞内小器官の誘導放出抑制(STED)イメージング方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、吸収ピーク波長がMitoPB Yellowと比較して長波長化しており、例えば775nm等の長波長のSTEDレーザーを用いて細胞内小器官を染色することができる。このため、細胞内小器官に対する光毒性を低減することができ、且つ、吸収ピーク波長の長波長化が求められている耐光性の電子材料としても有用である。
【0018】
また、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、耐光性に極めて優れており、MitoPB Yellowが光退色するほどの強力な光照射によってもほとんど退色しない。
【0019】
このため、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡で細胞内小器官を繰り返し観察するのに適した蛍光色素である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例3のシス-PO-BphoxM及び実施例8のトランス-PS-BphoxC4について、各種溶媒中での紫外可視吸光スペクトル、蛍光スペクトル、絶対蛍光量子収率及び外観写真を示す。
【
図2】実施例4のランス-PO-Naphox(1,2)Mについて、各種溶媒中での紫外可視吸光スペクトル、蛍光スペクトル、絶対蛍光量子収率及び外観写真を示す。
【
図3】実施例1のトランス-PO-BphoxM及び比較例1のMito-PB yellow Mのアセトニトリル(MeCN)中での耐光性を示す。(a)比較例1のMito-PB yellow Mの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)比較例1のMito-PB yellow Mの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。(c)実施例1のトランス-PO-BphoxMの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(d)実施例1のトランス-PO-BphoxMの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図4】実施例3のシス-PO-BphoxM及び実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)Mのアセトニトリル(MeCN)中での耐光性を示す。(a)実施例3のシス-PO-BphoxMの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)実施例3のシス-PO-BphoxMの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。(c)実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)Mの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(d)実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)Mの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図5】実施例4のトランス-PO-Naphox(1,2)Mのアセトニトリル(MeCN)中での耐光性を示す。(a)実施例4のトランス-PO-Naphox(1,2)Mの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)実施例4のトランス-PO-Naphox(1,2)Mの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図6】実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)M及び比較例1のMito-PB yellow Mのジメチルスルホキシド/水混合溶媒(DMSO/H
2O)中での515±5nmの光を照射した場合の耐光性を示す。(a)比較例1のMito-PB yellow Mの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)比較例1のMito-PB yellow Mの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。(c)実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)Mの様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(d)実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)Mの所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図7】実施例3のシス-PO-BphoxMのジメチルスルホキシド/水混合溶媒(DMSO/H
2O)中での450±5nmの光を照射した場合の耐光性を示す。(a)照射強度2050W/m
2の光を照射した場合の様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)照射強度2050W/m
2の光を照射した場合の所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。(c)LEDライトの最大強度の97%の強度の光を照射した場合の様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(d)LEDライトの最大強度の97%の強度の光を照射した場合の所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図8】実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)Mのジメチルスルホキシド/水混合溶媒(DMSO/H
2O)中での450±5nmの光を照射した場合の耐光性を示す。(a)照射強度2050W/m
2の光を照射した場合の様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)照射強度2050W/m
2の光を照射した場合の所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。(c)LED光の最大強度の97%の強度の光を照射した場合の様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(d)LED光の最大強度の97%の強度の光を照射した場合の所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図9】比較例1のMito-PB ywllow Mのジメチルスルホキシド/水混合溶媒(DMSO/H
2O)中での450±5nmの光を照射した場合の耐光性を示す。(a)照射強度2050W/m
2の光を照射した場合の様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(b)照射強度2050W/m
2の光を照射した場合の所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。(c)LEDライトの最大強度の97%の強度の光を照射した場合の様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトル。(d)LEDライトの最大強度の97%の強度の光を照射した場合の所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)。
【
図10】実施例2のトランス-PO-BphoxA1/A2及び比較例2のMito Tracker Deep Redによる試験例6の細胞の蛍光イメージング写真である。
【
図11】実施例6のトランス-PO-NaphoxA1/A2及び比較例2のMito Tracker Deep Redによる試験例6の細胞の蛍光イメージング写真である。
【
図12】実施例2のトランス-PO-BphoxA1/A2による試験例7の細胞の蛍光イメージング写真である。
【
図13】実施例6のトランス-PO-NaphoxA1/A2による試験例7の細胞の蛍光イメージング写真である。
【
図14】実施例1のトランス-PO-BphoxM、実施例3のシス-PO-BphoxM、実施例4のトランス-PO-Naphox(1,2)M、実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)M及び実施例7のシス-PO-Naphox(2,3)Mによる試験例9の細胞の蛍光イメージング写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0022】
本明細書において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0023】
1.ビスホスホリル架橋スチルベン化合物
本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、一般式(1):
【0024】
【化3】
[式中、
Ar
1及びAr
2は同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1及びR
2は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R
1及びR
2は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
1及び/又はR
2はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
Y
1及びY
2は同一又は異なって、一般式(2):
【0025】
【化4】
(Ar
3は置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
3は有機基を示す。
Y
3は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表される化合物である。
【0026】
このビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する酸素原子及び環Ar3の位置によって、一般式(1A)及び(1B):
【0027】
【化5】
[式中、
Ar
1、Ar
2、Ar
3a及びAr
3bは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
R
1及びR
2は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R
1及びR
2は一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R
1及び/又はR
2はAr
2と一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
R
3は有機基を示す。
Y
3a及びY
3bは同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0028】
上記の一般式(1A)で表されるトランスビスホスホリル架橋スチルベン化合物と、一般式(1B)で表されるシスビスホスホリル架橋スチルベン化合物とは、いずれも、吸収ピーク波長がMitoPB Yellowと比較して長波長化しており、例えば775nm等の長波長のSTEDレーザーを用いて細胞内小器官を染色することができるために細胞内小器官に対する光毒性を低減することができるとともに、吸収ピーク波長の長波長化が求められている耐光性の電子材料としても有用である化合物であり、さらに、耐光性に極めて優れており、MitoPB Yellowが光退色するほどの強力な光照射によってもほとんど退色しない化合物である。
【0029】
このように、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、環Ar3に対して官能基である-OR3基が結合しているため、オルガネラ局在性や分散性を制御することが可能であり、様々な細胞内小器官と結合し、様々な細胞内小器官を染色することが可能である。この際、後述の実施例においても示されるように、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、細胞内小器官の所望の部位に選択的に存在するため、細胞内小器官の外観形状を把握するうえで有用である。例えば、R3がホスホニウム基を含む置換アルキル基の場合は、ミトコンドリア膜の染色剤として使用することが可能であり、また、R3がメチル基等のアルキル基の場合は、脂肪滴の染色剤として使用することが可能である。このため、細胞内小器官染色剤として使用することが可能であることから、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、生体内で誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡で繰り返し観察するのに適した化合物である。
【0030】
また、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、電子供与基であるアミノ基又は置換アミノ基を有することで、環境応答性を付与するとともに、吸収ピーク波長の長波長化も達成することができ、細胞内小器官に対する光毒性を低減することができる。
【0031】
さらに、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、ビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有することにより、MitoPB Yellowが光退色するほどの強力な光照射によっても、吸収強度がほとんど低下しないほどの耐光性を付与することが可能である。
【0032】
一般式(1)、(1A)及び(1B)において、Ar1で示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。
【0033】
Ar1で示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0034】
一般式(1)、(1A)及び(1B)において、Ar1で示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0035】
Ar1で示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0036】
Ar1としては、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、置換又は非置換芳香族炭化水素環が好ましく、特に耐光性の観点から多環芳香族炭化水素環が好ましい。
【0037】
なお、Ar1が置換又は非置換多環芳香族炭化水素環である場合、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、一般式(1C)及び(1D):
【0038】
【化6】
[式中、Ar
2、Y
1、Y
2、R
1及びR
2は前記に同じである。
Ar
4は置換又は非置換芳香族炭化水素環を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物のいずれも採用できる。
【0039】
一般式(1C)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する酸素原子及び環Ar3の位置によって、一般式(1C1)及び(1C2):
【0040】
【化7】
[式中、Ar
2、Ar
3a、Ar
3b、Ar
4、R
1、R
2、R
3a、R
3b、Y
3a及びY
3bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0041】
また、一般式(1D)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する酸素原子及び環Ar3の位置によって、一般式(1D1)及び(1D2):
【0042】
【化8】
[式中、Ar
2、Ar
3a、Ar
3b、Ar
4、R
1、R
2、R
3a、R
3b、Y
3a及びY
3bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0043】
一般式(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、Ar4で示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。このうち、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、ベンゼン環が特に好ましい。
【0044】
Ar4で示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0045】
一般式(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、Ar4で示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0046】
Ar4で示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0047】
なお、Ar1が置換又は非置換単環芳香族炭化水素環である場合と比較すると、一般式(1C)、(1C1)又は(1C2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、吸収におけるε及び蛍光におけるΦFがさらに優れており、対象となる細胞内小器官をより強く且つより明瞭に発光させることが可能である。
【0048】
また、Ar1が置換又は非置換単環芳香族炭化水素環である場合と比較すると、一般式(1D)、(1D1)又は(1D2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、吸収ピーク波長及び蛍光ピーク波長をより長波長化することが可能である。
【0049】
以上から、Ar1の構造によって、光物性に多様性を持たせることが可能であり、要求物性に応じて、Ar1の構造を適宜調整することが好ましい。
【0050】
一般式(1)、(2)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、Ar2、Ar3、Ar3a及びAr3bで示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。このうち、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、ベンゼン環が特に好ましい。
【0051】
Ar2で示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0052】
一般式(1)、(2)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、Ar2、Ar3、Ar3a及びAr3bで示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0053】
Ar3、Ar3a及びAr3bで示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0054】
Ar3、Ar3a及びAr3bとしては、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、置換又は非置換芳香族炭化水素環が好ましく、置換又は非置換単環芳香族炭化水素環がより好ましい。
【0055】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、R1及びR2で示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のC1-10アルキル基(特にC1-6アルキル基)が挙げられる。
【0056】
R1及びR2で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0057】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、R1及びR2で示されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3-10シクロアルキル基(特にC4-8シクロアルキル基)が挙げられる。
【0058】
R1及びR2で示されるシクロアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0059】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)及び(1D2)において、R1及びR2で示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0060】
R1及びR2で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0061】
一般式(1)において、R1及びR2で示されるヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び縮環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、単環ヘテロアリール基としてピロリル基、チエニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基等が挙げられ、縮環ヘテロアリール基としてインドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0062】
R1及びR2で示されるヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、上記ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0063】
なかでも、R1及びR2としては、環境応答性を付与しやすく、吸収ピーク波長の長波長化しやすい観点から、置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基が好ましく、置換若しくは非置換アリール基がより好ましく、非置換アリール基がさらに好ましい。
【0064】
なお、R1及びR2は一緒になって、隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。つまり、-NR1R2で表される基が、
【0065】
【0066】
また、R1及び/又はR2はAr2と一緒になって、隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。つまり、Ar2-NR1R2で表される構造が、
【0067】
【0068】
この場合、Ar2において、-NR1R2で表される基が結合する置換位置は特に制限されない。
【0069】
一般式(2)において、R3で示される有機基としては、特に制限はなく、アルキル基、ポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基(-(C2H4O)mR7)等が挙げられる。
【0070】
一般式(2)において、R3で示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用できるが、染色対象によって適切な基を選択することが好ましい。
【0071】
R3で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすくなるように、官能基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、リン含有基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(-COOR8)、アミド基若しくはその誘導体基(-CONHR9)等が挙げられる。
【0072】
R3で示されるアルキル基の置換基としてのリン含有基としては、特に制限はなく、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点からは、一般式(3):
-P+R4
nX1
(4-n)
- (3)
[式中、R4は同一又は異なって、置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
X1は同一又は異なって、ハロゲン原子を示す。
nは1~3の整数を示す。]
で表される基が好ましい。
【0073】
一般式(3)において、R4で示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0074】
R4で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0075】
一般式(3)において、R4で示されるヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び縮環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、単環ヘテロアリール基としてピロリル基、チエニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基等が挙げられ、縮環ヘテロアリール基としてインドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0076】
R4で示されるヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、上記ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0077】
なかでも、R4としては、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、置換若しくは非置換アリール基が好ましく、非置換アリール基がより好ましい。
【0078】
一般式(3)において、X1で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、塩素原子、臭素原子等がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0079】
一般式(3)において、nは、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、1~3の整数が好ましく、2又は3がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0080】
R3で示されるアルキル基の置換基としてのアルコキシカルボニル基(-COOR8)としては、R8としてアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含んでいれば特に限定なく使用することができ、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
【0081】
R3で示されるアルキル基の置換基としてのアミド基若しくはその誘導体基(-CONHR9)としては、R8として水素原子又はアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含んでいれば特に限定なく使用することができ、例えば、アミド基、N-メチルアミド基、N-エチルアミド基、N-n-プロピルアミド基、N-イソプロピルアミド基等が挙げられる。
【0082】
一般式(2)において、R3で示されるポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基(-(C2H4O)mR7)としては、R7として水素原子又はアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含み、mとして例えば1~100の整数を採用していれば特に限定なく使用することができ、例えば、-(C2H4O)mCH3を好ましく使用することができる。
【0083】
以上のような条件を満たすR3で示される有機基としては、具体的には、
【0084】
【化11】
[式中、R
8及びR
9は前記に同じである。Phはフェニル基を示す。kは5~15の整数を示す。mは2~100の整数を示す。]
等が挙げられる。
【0085】
上記のような条件を満たす一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物としては、例えば、
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【化15】
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物が挙げられる。なお、これらの式中、R
5及びR
6は、同一又は異なって、
【0090】
【化16】
[式中、Phはフェニル基を示す。mは1~100の整数を示す。]
等が挙げられる。特に、後述の実施例において示されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物が好ましい。
【0091】
2.ビスホスホリル架橋スチルベン化合物の製造方法
本発明のホスホール化合物の製造方法は特に制限されない。例えば、一般式(4A)又は(4B):
【0092】
【化17】
[式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3a、Ar
3b、R
1、R
2、Y
3a及びY
3bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を出発物質として、一般式(5):
R
3X
2 (5)
[式中、R
3は前記に同じである。X
2はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物と反応させることにより、得ることができる。
【0093】
なお、上記の一般式(4A)又は(4B)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、例えば、既報(Chem. Asian J., 13, 1616-1624 (2018))にしたがって合成することができる。
【0094】
一般式(5)において、X2で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、塩素原子、臭素原子等がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0095】
反応は、必要に応じて、塩基を使用することもできる。塩基としては、フッ化カリウム、フッ化セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等が挙げられ、本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、炭酸カリウムが好ましい。塩基を使用する場合の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、化合物(4A)又は化合物(4B)1モルに対して、2~30モルが好ましく、10~20モルがより好ましい。
【0096】
反応は、通常反応溶媒の存在下で行うことができる。使用できる反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド溶媒等が挙げられ、合成の容易さ、収率等の観点から、アミド溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミドがより好ましい。これらの反応溶媒は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0097】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、0~100℃が好ましく、10~70℃がより好ましい。反応時間は特に制限されず、反応が十分に進行する時間とすることが好ましい。
【0098】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることにより、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を得ることができる。
【0099】
なお、上記では、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物の一態様の合成方法の一例について記載したが、この製造方法に限定されることはなく、様々な合成方法で合成することができる。
【0100】
3.蛍光色素及び細胞内小器官染色剤
本発明の蛍光色素は、上記の本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する。
【0101】
本発明の蛍光色素は、ビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有するために耐光性に優れるとともに、R3に種々様々な反応性基を導入することが可能である。このため、細胞内小器官(特に、脂肪滴、ミトコンドリア、リソソーム、小胞体、細胞膜等)を染色する細胞内小器官染色剤(特に脂肪滴染色剤、ミトコンドリア染色剤等)として使用することが可能であり、本発明の蛍光色素は、生体内で誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡(特に誘導放出抑制(STED)顕微鏡)で繰り返し観察するのに適している。
【0102】
本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を細胞内小器官染色剤(特に脂肪滴染色剤、ミトコンドリア染色剤、リソソーム染色剤、小胞体染色剤、細胞膜染色剤等)に用いる場合は、本発明の細胞内小器官染色剤(特に脂肪滴染色剤、ミトコンドリア染色剤、リソソーム染色剤、小胞体染色剤、細胞膜染色剤等)は、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有しているが、培養液(Dulbecco’s modified Eagle’s medium;DMEM等)中に溶解させて溶液とすることが好ましく、耐光性をより向上させつつ、より強く細胞内小器官(特に、脂肪滴、ミトコンドリア、リソソーム、小胞体、細胞膜等)を染色する観点から、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物の含有量は、1~10000nmol/Lが好ましく、10~1000nmol/Lがより好ましい。
【0103】
本発明の細胞内小器官染色剤(特に脂肪滴染色剤、ミトコンドリア染色剤、リソソーム染色剤、小胞体染色剤、細胞膜染色剤等)は、上記のとおり、溶液の形態が好ましいが、生体内で観測する場合は、pHは5~11程度が好ましく、6.5~7.5程度がより好ましい。pHを調整するために、緩衝剤(ヘペス緩衝剤、トリス緩衝剤、トリシン-水酸化ナトリウム緩衝剤、リン酸系緩衝剤、リン酸緩衝生理食塩水等)等を併用することもできる。
【実施例】
【0104】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0105】
特に制限しない限り、全ての反応は、窒素雰囲気下で行った。特に制限しない限り、市販の溶媒及び試薬は、精製せずに使用した。ただし、無水トルエン、無水テトラヒドロフラン(THF)、無水ジメチルホルムアミド(DMF)及び無水CH2Cl2は、関東化学(株)から購入し、Glass Contour Solvent Systemsにより精製した。
【0106】
また、クロロ(N,N-ジエチルアミノ)(4-メトキシフェニル)ホスフィンと、以下の化合物(トランス-PO-B1、シス-PO-B1、トランス-PO-Na1及びシス-PO-Na1):
【0107】
【化18】
は、既報(Chem. Asian J., 13, 1616-1624 (2018))にしたがって合成した。
【0108】
2-ブロモ-3-ヨードナフタレンは、既報(Synthesis, 2005, 5, 798-803)にしたがって合成した。
【0109】
1,2-エポキシ-6-ブロモヘキサンは、既報(Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 1727-1731)にしたがって合成した。
【0110】
(4-ブロモ-n-ブチル)トリフェニルホスホニウムブロミドは、既報(J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 6837-6843)にしたがい合成した。
【0111】
(10-ブロモ-n-デシル)トリフェニルホスホニウムブロミドは、既報(国際公開第2016/155679号)にしたがい合成した。
【0112】
合成例1:1,2-エポキシ-9-ブロモノナン
【0113】
【化19】
式中、m-CPBAはメタクロロ過安息香酸を示す。
【0114】
9-ブロモノン-1-エン(1.0g,4.87mmol)のジクロロメタン(8mL)中の溶液を攪拌しながら、メタクロロ過安息香酸(純度70%,1.8g,10.4mmol)のジクロロメタン(8mL)中の溶液を滴下した。その後、混合物を25℃で16時間攪拌し、メタクロロ過安息香酸を析出させた。反応物を濾過して白色沈殿を除去し、ジクロロメタン(DCM;20mL×2)で抽出し、飽和NaHCO3(20mL)、水(20mL)及びブライン(20mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/10)で精製し、無色油として1,2-エポキシ-9-ブロモノナンを得た(900mg,収率83%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 3.40 (t, J = 6.9 Hz, 2H), 2.93-2.87 (m, 1H), 2.77-2.72 (m, 1H), 2.46 (dd, J = 5.0, 2.7 Hz, 1H), 1.91-1.78 (m, 2H), 1.55-1.30 (m, 10H)。
【0115】
合成例2:2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン
【0116】
【0117】
窒素パージしたフラスコに2-ブロモ-3-ヨードナフタレン(5.4g,16.2mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド(PdCl2(PPh3)2;231mg,0.33mmol)、CuI(62mg,0.33mmol)、トリエチルアミン(Et3N;70mL)を加え、凍結脱気法で厳密に脱気した。トリメチルシリルアセチレン(2.47mL)をシリンジで添加し、室温で一晩撹拌した。混合物を濾過して不溶性化合物を除去し、濾液を減圧下で濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、黄色液体として2-ブロモ-3-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ナフタレンを得た(4.3g,収率86%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.05 (d, J = 19.9 Hz, 2H), 7.77-7.70 (m, 2H), 7.51-7.48 (m, 2H), 0.31 (s, 7H)。
【0118】
得られた2-ブロモ-3-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ナフタレン(4.2g,14.0mmol)のCH3OH /テトラヒドロフラン(1/1,v/v,140mL)溶液にK2CO3(5.8g,42.0mmol)を加え、室温で8時間撹拌した。 生成物をCH2Cl2(40mL)で抽出し、1M HCl(100mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させた。溶媒を減圧除去し、茶色の固体として2-ブロモ-3-エチニルナフタレンを得た(3.1g,収率97%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.08 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.80-7.71 (m, 2H), 7.56-7.48 (m, 2H), 3.40 (s, 1H)。
【0119】
2-ブロモ-4-クロロ-1-ヨードベンゼン(3.98g,12.5mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4;1.45g,13.0mmol)及びCuI(47.7mg,0.25mmol)のトリエチルアミン(150mL)懸濁液を脱気し、これに、上記で得られた2-ブロモ-3-エチニルナフタレン(2.9g,12.5mmol)を加えた。室温で一晩攪拌した後、混合物をトルエン(150mL)で希釈し、濾過して不溶性化合物を除去した。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、エタノールから再結晶して精製し、2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン(化合物1)を白色固体(4.4g,収率85%)として得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.12 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 7.84-7.77 (m, 1H), 7.76-7.72 (m, 1H), 7.66 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.57 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.54-7.49 (m, 2H), 7.31 (dd, J = 8.3, 2.0 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 134.98, 134.23, 133.97, 133.76, 132.47, 131.75, 131.24, 127.97, 127.80, 127.65, 127.08, 126.99, 126.03, 123.93, 122.17, 121.63, 93.61, 91.03。
【0120】
合成例3:トランス-PO-Na2及びシス-PO-Na2
【0121】
【0122】
合成例2で得られた2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン(化合物1;1.0g,2.38mmol)の無水テトラヒドロフラン(無水THF;20mL)溶液に、tert-ブチルリチウム(tBuLi)のn-ペンタン溶液(1.6M,6.1mL,9.7mmol)を-78℃で1.5時間かけて滴下した。得られた混合物を-78℃で0.5時間撹拌した後、0℃で30分保った。その後、再び-78℃まで冷却した後、PCl3(1.3mL,15mmol)を添加し、混合物を室温まで昇温させた。そのまま室温で17時間撹拌した後、混合物に水(1mL)を加えた。ついで、H2O2(30%,0.8mL)の水溶液を0℃で添加し、30分間撹拌した後、Na2SO3(10%,50mL)の水溶液を0℃で添加した。反応混合物を酢酸エチル(EtOAc;200mL)で抽出し、有機層を食塩水(30mL)で洗浄、無水Na2SO4による乾燥の後、濾過した。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/アセトン=1/10~1/1)で精製し、緑黄色固体としてトランス-PO-Na2を469mg(収率34%)、緑黄色固体としてシス-PO-Na2を540mg(39%)得た。
トランス-PO-Na2:
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.11 (dd, J = 11.5, 1.8 Hz, 1H), 7.84-7.72 (m, 7H), 7.60 (dt, J = 11.3, 1.4 Hz, 1H), 7.56-7.45 (m, 2H), 7.42-7.34 (m, 2H), 7.02-6.92 (m, 4H), 3.80 (d, J = 0.8 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 32.54, 32.32, 31.04, 30.82.
HRMS (ESI): m/z calcd. For C32H24ClO4P2: 569.0833 ([M+H]+); found: 569.0826。
シス-PO-Na2:
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.14 (dd, J = 11.5, 1.7 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 3.3 Hz, 1H), 7.80 (t, J = 8.2 Hz, 2H), 7.69-7.59 (m, 5H), 7.59-7.48 (m, 2H), 7.48-7.41 (m, 2H), 6.97-6.91 (m, 4H), 3.82 (d, J = 1.3 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 31.00 (d, J = 37.0 Hz), 29.78 (d, J = 37.0 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C32H24ClO4P2: 569.0833 ([M+H]+); found: 569.0827。
【0123】
実施例1:トランス-PO-BphoxM
【0124】
【0125】
トランス-PO-B1(0.5g,0.96mmol)、ジフェニルアミン(0.82g,4.86mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2;13mg,0.058mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’, 4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(Xphos;50mg,0.105mmol)、K2CO3(801mg,5.8mmol)を無水トルエン(60mL)に加え、窒素雰囲気下、80℃で20時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、ろ過により不溶性化合物を除去した。減圧下で溶媒を除去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/CH2Cl2=1/15-1/10)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-BphoxM(520mg,収率83%) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.80-7.68 (m, 4H), 7.64-7.57 (m, 1H), 7.45-7.35 (m, 2H), 7.33-7.30 (m, 2H), 7.29-7.21 (m, 5H), 7.09-7.03 (m, 6H), 7.00-6.95 (m, 5H), 3.83 (s, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 32.97.
HRMS (ESI): m/z calcd. For C40H32NO4P2: 652.1801 ([M+H]+); found: 652.1793。
【0126】
実施例2:トランス-PO-BphoxA1/A2
【0127】
【0128】
実施例1で得られたトランス-PO-BphoxM(270mg,0.40mmol)の無水CH2Cl2(21mL)溶液に、BBr3(0.85mL,8.3mmol)を-78℃でゆっくり滴下した。-78℃で1時間撹拌した後、4時間かけてゆっくりと室温まで昇温した。水(5mL)を0℃で加え、混合物を酢酸エチル(EtOAc;20mL×2)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥後,粗生成物をカラムクロマトグラフィー(CH3OH/CH2Cl2=1/20)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-B2を得た(0.22g,収率88%)。
1H NMR (400 MHz, CH3OH-d4) δ 7.71-7.53 (m, 6H), 7.47-7.41 (m, 1H), 7.38 (dd, J = 7.4, 2.3 Hz, 1H), 7.35-7.25 (m, 5H), 7.21-7.04 (m, 8H), 6.96-6.91 (m, 4H).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C38H27NNaO4P2: 646.1308 ([M+Na]+); found: 646.1301。
【0129】
【0130】
上記で得られたトランス-PO-B2(30mg,0.048mmol)、(10-ブロモ-n-デシル)トリフェニルホスホニウムブロミド(27mg,0.048mmol)及びK2CO3(133mg,0.96mmol)を無水ジメチルホルムアミド(無水DMF;3.6mL)に加え、室温で12時間撹拌した。その後、エピブロモヒドリン(13.1mg,0.096mmol)を室温で添加し、混合物を50℃で14時間撹拌した。室温まで冷却後、水(20mL)を加え、CH2Cl2(20mL)で抽出した。有機層を水(20mL)で2回洗浄し、無水Na2SO4で乾燥後、濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH3OH/CH2Cl2=1/30-1/20)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-BphoxA1/A2を得た(15mg,収率27%)。
HRMS (ESI): m/z calcd. For C69H65NO5P3: 1080.4070 ([M-Br]+); found: 1080.4042。
【0131】
実施例3:シス-PO-BphoxM
【0132】
【0133】
原料化合物として、トランス-PO-B1の代わりに、シス-PO-B1を使用したこと以外は実施例1と同様に、シス-PO-BphoxM(収率78%) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.65-7.53 (m, 5H), 7.43 (d, J = 4.9 Hz, 2H), 7.35-7.20 (m, 7H), 7.10-7.02 (m, 6H), 7.00 (dd, J = 8.3, 2.2 Hz, 1H), 6.92 (d, J = 8.2 Hz, 4H), 3.82 (d, J = 0.6 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 31.69.
HRMS (ESI): m/z calcd. For C40H31NNaO4P2: 674.1621 ([M+Na]+); found: 674.1615。
【0134】
実施例4:トランス-PO-Naphox(1,2)M
【0135】
【0136】
トランス-PO-Na1(110mg,0.19mmol)、ジフェニルアミン(163mg,0.968mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2;2.6mg,0.0116mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’, 4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(Xphos;11mg,0.0232mmol)、及びK2CO3(160mg,1.16mmol)を無水トルエン(12mL)に加え、窒素雰囲気下、90℃で24時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、濾過により不溶性化合物を除去した。減圧下で溶媒を除去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/CH2Cl2=1/20-1/10)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-Naphox(1,2)M(120mg,収率88%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.96 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.92 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.85-7.72 (m, 5H), 7.52 (dd, J = 8.3, 2.8 Hz, 1H), 7.46-7.38 (m, 2H), 7.35-7.27 (m, 2H), 7.27-7.21 (m, 4H), 7.11-7.02 (m, 6H), 7.01-6.98 (m, 1H), 6.98-6.91 (m, 4H), 3.80 (d, J = 5.5 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 34.14 (d, J = 40.0 Hz), 32.96 (d, J = 39.9 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C44H34NO4P2: 702.1958 ([M+H]+); found: 702.1948。
【0137】
実施例5:トランス-PO-Naphox(2,3)M
【0138】
【0139】
合成例3で得られたトランス-PO-Na2(90mg,0.158mmol)、ジフェニルアミン(133mg,0.79mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2;2.1mg,0.0095mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’, 4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(Xphos;9mg,0.019mmol)、K2CO3(131mg,0.948mmol)を無水トルエン(10mL)に加え、窒素雰囲気下、90℃で24時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、濾過により不溶性化合物を除去した。減圧下で溶媒を除去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/CH2Cl2=1/15-1/10)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-Naphox(2,3)M(100mg,収率90%) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.08 (dd, J = 11.5, 1.9 Hz, 1H), 7.84-7.73 (m, 7H), 7.48 (dtd, J = 16.1, 7.0, 1.0 Hz, 2H), 7.35 (dt, J = 11.3, 2.0 Hz, 1H), 7.30-7.21 (m, 5H), 7.11-7.03 (m, 6H), 7.02-6.93 (m, 5H), 3.82 (d, J = 2.7 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 33.21 (d, J = 37.4 Hz), 31.35 (d, J = 37.3 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C44H34NO4P2: 702.1958 ([M+H]+); found: 702.1955。
【0140】
実施例6:トランス-PO-NaphoxA1/A2
【0141】
【0142】
実施例5で得られたトランス-PO-Naphox(2,3)M(90mg,0.128mmol)の無水CH2Cl2(8mL)溶液に、BBr3(0.28mL,2.56mmol)を-78℃でゆっくり滴下した。-78℃で1時間撹拌した後、4時間かけてゆっくりと室温まで昇温した。水(5mL)を0℃で加え、混合物を酢酸エチル(EtOAc;20mL×2)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(CH3OH/CH2Cl2=1/20)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-Na3を得た(80mg,収率92%)。
1H NMR (400 MHz, CH3OH-d4) δ8.19 (dd, J = 11.7, 1.9 Hz, 1H), 7.95-7.84 (m, 2H), 7.78 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 7.73-7.63 (m, 4H), 7.63-7.52 (m, 2H), 7.36-7.26 (m, 5H), 7.20 (dt, J = 11.4, 2.0 Hz, 1H), 7.16-7.03 (m, 7H), 6.98-6.91 (m, 4H).
31P NMR (162 MHz, CH3OH-d4) δ 36.29 (d, J = 38.0 Hz), 34.71 (d, J = 38.4 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C42H30NO4P2: 673.1650 ([M+H]+); found: 674.1641。
【0143】
【0144】
得られたトランス-PO-Na3(30mg,0.0445mmol)、(10-ブロモデシル)トリフェニルホスホニウムブロミド(25mg,0.0445mmol)、及び K2CO3(123mg,0.89mmol)を無水ジメチルホルムアミド(無水DMF;3.6mL)に加え、室温で24時間撹拌した。その後、エピブロモヒドリン(12.2mg,0.089mmol)を室温で添加し、混合物を50℃で14時間撹拌した。室温まで冷却後、水(20mL)を加え、CH2Cl2(20mL)で抽出した。有機層を水(20mL)で2回洗浄し、無水Na2SO4で乾燥後、濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH3OH/CH2Cl2=1/30-1/10)で精製し、橙赤色固体としてトランス-PO-NaphoxA1/A2を得た(13mg,収率24%)。
HRMS (ESI): m/z calcd. For C73H67NO5P3: 1130.4227 ([M-Br]+); found: 1130.4229。
【0145】
実施例7:シス-PO-Naphox(2,3)M
【0146】
【0147】
原料化合物として、合成例3で得られたトランス-PO-Na2の代わりに、合成例3で得られたシス-PO-Na2を使用したこと以外は実施例5と同様に、シス-PO-Naphox(2,3)M(収率81%) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.10 (dd, J = 11.5, 1.8 Hz, 1H), 7.86-7.74 (m, 3H), 7.71-7.60 (m, 4H), 7.57-7.51 (m, 1H), 7.50-7.44 (m, 1H), 7.40-7.31 (m, 2H), 7.28-7.23 (m, 3H), 7.12-7.00 (m, 7H), 6.93 (ddd, J = 9.0, 2.3, 1.1 Hz, 4H), 3.83 (d, J = 3.8 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 31.72 (d, J = 37.5 Hz), 30.11 (d, J = 37.9 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C44H33NNaO4P2: 724.1777 ([M+Na]+); found: 724.1765。
【0148】
実施例8:トランス-PS-BphoxA1/A2
【0149】
【0150】
実施例1で得られたトランス-PO-BphoxM(40.0mg,0.061mmol)及びLawesson試薬(99mg,0.246mmol)の混合物の無水トルエン(5mL)中の溶液を20時間還流した。この溶液を室温まで冷却し、溶媒を減圧下で除去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/ヘキサン=1/2-1/1)で精製し、34g(収率81%)のトランス-PS-BphoxMと、8mg(収率19%)のシス-PS-BphoxMとを、橙色固体として得た。
トランス-PS-BphoxM:
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.86-7.74 (m, 4H), 7.60 (dd, J = 12.8, 7.1 Hz, 1H), 7.52-7.46 (m, 1H), 7.44-7.38 (m, 1H), 7.37-7.29 (m, 3H), 7.26-7.21 (m, 4H), 7.11-7.03 (m, 6H), 7.00-6.91 (m, 5H), 3.82 (s, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 37.47.
HRMS (ESI): m/z calcd. For C40H31NNaO2P2S2: 706.1164 ([M+Na]+); found: 706.1151。
シス-PS-BphoxM:
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.85-7.75 (m, 4H), 7.62-7.57 (m, 1H), 7.49 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.41 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.36-7.30 (m, 3H), 7.26-7.21 (m, 4H), 7.09-7.03 (m, 6H), 6.99-6.91 (m, 5H), 3.82 (s, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 36.91.
HRMS (ESI): m/z calcd. For C40H31NNaO2P2S2: 706.1164 ([M+Na]+); found: 706.1165。
【0151】
【0152】
上記で得られたトランス-PS-BphoxM(27mg,0.039mmol)の無水CH2Cl2(2mL)中の溶液に対して、BBr3(0.08mL,0.79mmol)を-78℃で滴下した。この溶液を-78℃で1時間攪拌した後、混合物をゆっくりと室温まで4時間で昇温した。0℃において、水(2mL)で反応をクエンチし、酢酸エチル(20mL×2)で抽出した。橙色の層を分離し、Na2SO4で乾燥した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(CH3OH/CH2Cl2=1/20)で精製し、橙赤色固体としてトランス-PS-B1を得た(20mg,収率79%)。
【0153】
【0154】
原料化合物として、トランス-PO-B2の代わりに、上記で得られたトランス-PS-B1を使用したこと以外は実施例2と同様に、トランス-PS-BphoxA1/A2(収率17%) を得た。
【0155】
比較例1:Mito-PB yellow M
【0156】
【0157】
比較例1のMito-PB yellow Mは、既報(PNAS, 2019, 116, 15817-15822)にしたがって合成した。
【0158】
比較例2:Mito Tracker Deep Red
市販のMito-Tracker Deep Redを、比較例2の化合物として使用した。
【0159】
試験例1:光物性
実施例3のシス-PO-BphoxM、実施例4のランス-PO-Naphox(1,2)M及び実施例8のトランス-PS-BphoxC4について、トルエン、ジクロロメタン(DCM)又はアセトニトリル(MeCN)中に溶解させた場合の紫外可視吸光スペクトル、蛍光スペクトル、絶対蛍光量子収率等の測定を行い。外観写真を撮影した。実施例3及び8の結果を
図1に、実施例4の結果を
図2に示し、各光物性データを表1に示す。
【0160】
【0161】
以上から、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、様々な溶媒中のいずれにおいても、可視光領域(特に450~550nm程度)の光を吸収することができ、また、溶媒によって様々な波長の蛍光を発することができた。特に、アセトニトリルのような極性溶媒中では蛍光が極めて小さかったことから、細胞質ではほとんど蛍光しないことが示唆されている。このため、リン脂質膜、脂肪滴等の疎水性組織を高いコントラストで染色することが可能であることが示唆されている。
【0162】
試験例2:耐光性(アセトニトリル中)
実施例1のトランス-PO-BphoxM、実施例3のシス-PO-BphoxM、実施例4のトランス-PO-Naphox(1,2)M、実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)M、及び比較例1のMito-PB yellow Mについて、25℃でアセトニトリル(MeCN)中に溶解させた。この際の濃度は、515nmにおける吸光度が同程度(0.1)になるように調整した。515±5nmの光を透過するバンドパスフィルターを備えたLEDライト(2050W/m
2)で、波長515±5nmの光を照射し、様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。実施例1及び比較例1の結果を
図3(a)及び(c)に、実施例3及び5の結果を
図4(a)及び(c)に、実施例4の結果を
図5(a)に示す。
【0163】
次に、各試料について、極大吸収波長における耐光性を評価した。具体的には、515±5nmの光を透過するバンドパスフィルターを備えたLEDライト(2050W/m
2)で、波長515±5nmの光を照射し、照射直後(0時間後)の極大吸収波長(実施例1は460nm、実施例3は487nm、実施例4は513nm、実施例5は482nm、比較例1は487nm)における吸光度(A
0)を1.00として、所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)を評価した。実施例1及び比較例1の結果を
図3(b)及び(d)に、実施例3及び5の結果を
図4(b)及び(d)に、実施例4の結果を
図5(b)に示す。
【0164】
この結果、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、Mito-PB yellowと比較して著しく優れた耐光性を有しており、吸光度はほとんど低下しなかった。
【0165】
試験例3:耐光性(DMSO/H
2
O中その1)
実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)M及び比較例1のMito-PB yellow Mについて、25℃でジメチルスルホキシド/水混合溶媒(体積比1:1)中に溶解させた。この際の濃度は、515nmにおける吸光度が同程度(0.1)になるように調整した。515±5nmの光を透過するバンドパスフィルターを備えたLEDライトで、波長515±5nmの光を、照射強度2050W/m
2で照射し、様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。比較例1の結果を6(a)に、実施例5の結果を
図6(c)に示す。
【0166】
次に、極大吸収波長における耐光性を評価した。具体的には、515±5nmの光を透過するバンドパスフィルターを備えたLEDライトで、波長515±5nmの光を、照射強度2050W/m
2で照射し、照射直後(0時間後)の極大吸収波長(実施例5は506nm、比較例1は473nm)における吸光度(A
0)を1.00として、所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)を評価した。比較例1の結果を
図6(b)に、実施例5の結果を
図6(d)に示す。
【0167】
試験例4:耐光性(DMSO/H
2
O中その2)
実施例3のシス-PO-BphoxM、実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)M及び比較例1のMito-PB ywllow Mについて、25℃でジメチルスルホキシド/水混合溶媒(体積比1:1)中に溶解させた。この際の濃度は、450nmにおける吸光度が同程度(0.1)になるように調整した。450±5nmの光を透過するバンドパスフィルターを備えたLEDライトで、波長450±5nmの光を、照射強度2050W/m
2又はLEDライトの最大強度の97%の強度で照射し、様々な時間経過後の紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。実施例3の照射強度2050W/m
2の結果を
図7(a)に、実施例3のLEDライトの最大強度の97%の強度の結果を
図7(c)に、実施例5の照射強度2050W/m
2の結果を
図8(a)に、実施例5のLED光の最大強度の97%の強度の結果を
図8(c)に、比較例1の照射強度2050W/m
2の結果を
図9(a)に、比較例1のLED光の最大強度の97%の強度の結果を
図9(c)に示す。
【0168】
次に、極大吸収波長における耐光性を評価した。具体的には、450±5nmの光を透過するバンドパスフィルターを備えたLEDライトで、波長450±5nmの光を、照射強度2050W/m
2又はLED光の最大強度の97%の強度で照射し、照射直後(0時間後)の極大吸収波長(実施例3は509nm、実施例5は504nm、比較例1は473nm)における吸光度(A
0)を1.00として、所定時間経過後の吸光度(A)の維持率(A/A
0)を評価した。実施例3の照射強度2050W/m
2の結果を
図7(b)に、実施例3のLED光の最大強度の97%の強度の結果を
図7(d)に、実施例5の照射強度2050W/m
2の結果を
図8(b)に、実施例5のLED光の最大強度の97%の強度の結果を
図8(d)に、比較例1の照射強度2050W/m
2の結果を
図9(b)に、比較例1のLED光の最大強度の97%の強度の結果を
図9(d)に示す。
【0169】
試験例5:細胞の調製(その1)
HeLa細胞(RIKEN Cell Bank,日本)を、37℃で、10%ウシ胎児血清(FBS,Gibco)及び1%抗生物質-抗真菌薬(AA,Sigma)を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM,Sigma)で、5体積%CO2インキュベーター中で24時間培養した。イメージングの3日前に、細胞(5×104)を、ガラスボトムディッシュに播種した。
【0170】
試験例6:細胞の蛍光イメージング(その1)
実施例2のトランス-PO-BphoxA1/A2の染色実験においては、500nMのトランス-PO-BphoxA1/A2、1%ジメチルスルホキシド及び0.1%PluonicF-127を含むDMEM培地中でHeLa細胞を、5体積%CO
2インキュベーター中で2時間37℃で培養した。細胞をDMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(-)で置換し、超解像顕微鏡TCS SP8 STED(ライカ製)を用いて観察した。この際、励起波長は470~540nmが好ましく、488~515nmが最適であり、550~750nmの範囲の蛍光シグナルを検出した。結果を
図10に示す。
【0171】
実施例6のトランス-PO-NaphoxA1/A2及び比較例2のMito Tracker Deep Redの染色実験においても、同様に行った。結果を
図10及び11に示す。
【0172】
試験例7:細胞の蛍光イメージング(その2)
実施例2のトランス-PO-BphoxA1/A2の染色実験においては、500nMのトランス-PO-BphoxA1/A2、1%ジメチルスルホキシド及び0.1%PluonicF-127を含むDMEM培地中でHeLa細胞を、5体積%CO2インキュベーター中で2時間37℃で培養した。細胞をDMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(-)で置換し、超解像顕微鏡TCS SP8 STED(ライカ製)を用いてイメージングを行った。
【0173】
共焦点イメージングは、超解像顕微鏡TCS SP8 STEDを用いて、励起波長は470~540nmが好ましく、488~515nmが最適であり、550~750nmの範囲の蛍光シグナルを検出した。一方、STEDイメージングは、超解像画像を得るために、775nmのSTEDレーザー(パルスレーザー)を使用し、550~750nmのシグナルを検出した。
【0174】
実施例6のトランス-PO-NaphoxA1/A2の染色実験においても同様に行った。
【0175】
実施例2のトランス-PO-BphoxA1/A2の結果を
図12に、実施例6のトランス-PO-NaphoxA1/A2の結果を
図13に示す。
【0176】
試験例8:細胞の調製(その2)
HeLa細胞(RIKEN Cell Bank,日本)をオレイン酸(400nM)で、5体積%CO2インキュベーター中で24時間処理し、培地入れ替えた。HeLa細胞(RIKEN Cell Bank,日本)を、37℃で、10%ウシ胎児血清(FBS,Gibco)及び1%抗生物質-抗真菌薬(AA,Sigma)を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM,Sigma)で、5体積%CO2インキュベーター中で24時間培養した。イメージングの3日前に、細胞(5×104)を、ガラスボトムディッシュに播種した。
【0177】
試験例9:細胞の蛍光イメージング(その3)
実施例1のトランス-PO-BphoxMの染色実験においては、500nMのトランス-PO-BphoxM、1%ジメチルスルホキシド及び0.1%PluonicF-127を含むDMEM培地中でHeLa細胞を、5体積%CO2インキュベーター中で2時間37℃で培養した。細胞をDMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(-)で置換し、超解像顕微鏡TCS SP8 STED及びFV-10(オリンパス製)を用いて観察した。この際、励起波長は470~540nmが好ましく、488~515nmが最適であり、550~750nmの範囲の蛍光シグナルを検出した。
【0178】
実施例3のシス-PO-BphoxM、実施例4のトランス-PO-Naphox(1,2)M、実施例5のトランス-PO-Naphox(2,3)M及び実施例7のシス-PO-Naphox(2,3)Mの染色実験においても、同様に行った。
【0179】
【0180】
この結果、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、R3を改変することにより脂肪滴及びミトコンドリアをそれぞれ選択的に染色することができた。