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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】電池状態推定方法及び電池状態推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20250703BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20250703BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20250703BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20250703BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20250703BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250703BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021135391
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030328
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-02-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山添 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】岩安 紀雄
(72)【発明者】
【氏名】小森 啓礼
(72)【発明者】
【氏名】吉野 知也
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096953(JP,A)
【文献】特開2017-067788(JP,A)
【文献】再公表特許第2012/098968(JP,A1)
【文献】特開2012-047580(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111007400(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112666474(CN,A)
【文献】再公表特許第2015/133103(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/367
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/389
G01R 31/392
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルマンフィルタ演算部、電池等価回路モデル記録部及びシステムノイズ共分散算出部を有する装置を用いて電池の状態を推定する方法であって、
前記カルマンフィルタ演算部が、前記電池に設置された電圧センサ、電流センサ及び温度センサの計測値と、前記電池等価回路モデル記録部に記録されている電池等価回路モデルと、を用いて、前記電池の充電率及び容量劣化率と、前記電流センサの電流オフセットと、前記電池等価回路モデルで設定されている前記電池の内部抵抗と、を逐次推定する工程と、
前記システムノイズ共分散算出部が、前記カルマンフィルタ演算部で用いる設定値であるシステムノイズ共分散値を、前記電池の充電時の推定に用いる場合と前記電池の放電時の推定に用いる場合とで変更する工程と、を含み、
前記システムノイズ共分散値は、前記電流オフセット及び前記内部抵抗のシステムノイズ共分散値を含み、
前記電流オフセット及び前記内部抵抗の前記システムノイズ共分散値は、放電時には、充電時に比べて小さくする、電池状態推定方法。
【請求項2】
カルマンフィルタ演算部、電池等価回路モデル記録部及びシステムノイズ共分散算出部を有し、電池の状態を推定する装置であって、
前記カルマンフィルタ演算部は、前記電池に設置された電圧センサ、電流センサ及び温度センサの計測値と、前記電池等価回路モデル記録部に記録されている電池等価回路モデルと、を用いて、前記電池の充電率及び容量劣化率と、前記電流センサの電流オフセットと、前記電池等価回路モデルで設定されている前記電池の内部抵抗と、を逐次推定し、
前記システムノイズ共分散算出部は、前記カルマンフィルタ演算部で用いる設定値であるシステムノイズ共分散値を、前記電池の充電時の推定に用いる場合と前記電池の放電時の推定に用いる場合とで変更し、
前記システムノイズ共分散値は、前記電流オフセット及び前記内部抵抗のシステムノイズ共分散値を含み、
前記電流オフセット及び前記内部抵抗の前記システムノイズ共分散値は、放電時には、充電時に比べて小さくする、電池状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池状態推定方法及び電池状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、電池(セル)の充電率(SOC)は、セルの充放電電流、端子電池及び表面温度を用いて推定する。
【0003】
例えば、充放電していない時のセル端子電圧(開回路電圧(OCV))とSOCとは、密接な関係があることから、OCVを計測してSOCに変換する方法がある。また、OCV、抵抗及び分極(抵抗及びコンデンサの並列接続)を用いたセル等価回路モデルを用いて、充放電中のセル端子電圧(閉回路電圧(CCV))からOCVを求めてSOCに変換する方法もある。他の方法としては、OCVの計測または算出をし、初期のSOCを求めた後、充放電電流を積算してSOCを演算する方法がある。
【0004】
これらのSOC推定では、電流及び電圧のセンシング誤差が大きいと、SOCの誤差が大きくなる。
【0005】
特許文献1には、二次電池の充放電電流及び端子電圧を検出し、電流オフセットを推定し、該電流オフセットにより検出された充放電電流を補正して二次電池の充電状態を推定する装置であって、所定の測定モデルにより二次電池の端子電圧を推定し、推定された端子電圧と、検出された端子電圧との誤差を用いて、推定された電流オフセットの第1補正値を算出し、第1補正値を用いて、推定された電流オフセットを補正するものが開示されている。また、特許文献1には、所定の測定モデルは、二次電池の分極電圧の等価回路モデルに基づくこと、拡張カルマンフィルタを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5616464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の二次電池の充電状態推定装置においては、電池が劣化した場合については考慮されていない。
【0008】
通常、電池が劣化すると、容量が減少し、電池の内部抵抗も大きくなるため、セル等価回路の抵抗、分極等の値も変動する。このため、従来法では、SOCの推定精度が低くなる。よって、充放電中における電池の劣化を考慮したSOCの推定については、精度の観点から改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、電池の充電時と放電時とで電流が異なる場合においても、高精度にSOCを推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電池状態推定方法は、カルマンフィルタ演算部、電池等価回路モデル記録部及びシステムノイズ共分散算出部を有する装置を用いて電池の状態を推定する方法であって、カルマンフィルタ演算部が、電池に設置された電圧センサ、電流センサ及び温度センサの計測値と、電池等価回路モデル記録部に記録されている電池等価回路モデルと、を用いて、電池の充電率及び容量劣化率と、電流センサの電流オフセットと、電池等価回路モデルで設定されている電池の内部抵抗と、を逐次推定する工程と、システムノイズ共分散算出部が、カルマンフィルタ演算部で用いる設定値であるシステムノイズ共分散値を、電池の充電時の推定に用いる場合と電池の放電時の推定に用いる場合とで変更する工程と、を含み、システムノイズ共分散値は、電流オフセット及び内部抵抗のシステムノイズ共分散値を含み、電流オフセット及び内部抵抗のシステムノイズ共分散値は、放電時には、充電時に比べて小さくする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電池の充電時と放電時とで電流が異なる場合においても、高精度にSOCを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1の電池状態推定装置を示す構成図である。
図2図1の状態推定部552を示す構成図である。
図3】CCVを算出する際に用いる電池等価回路モデルを示す回路構成図である。
図4】実施形態1の電池状態推定方法を示すフロー図である。
図5】実施形態2の電池状態推定装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の電池状態推定装置を示す構成図である。
【0015】
本図においては、電池状態推定装置500は、カルマンフィルタ演算部510、電池等価回路モデル記録部520、システムノイズ共分散算出部530及び電池劣化検知部540から構成されている。カルマンフィルタ演算部510は、状態推定部552及び誤差分散算出部554を含む。
【0016】
カルマンフィルタ演算部510には、電池100(セル)の端子電圧CCV(閉回路電圧)を計測する電圧センサ200、電池100の充放電電流Iを計測する電流センサ300、及び電池100の温度Tを計測する温度センサ400からの計測値が入力される。状態推定部552は、これらの入力から、電池100のSOC(充電率)、SOH(容量劣化率)、電流センサ300の電流誤差オフセット値であるIo、及び電池等価回路モデル内の抵抗R0のそれぞれのゲインを逐次推定する。また、誤差分散算出部554は、ゲインの推定の際、誤差分散を推定する。なお、電池等価回路モデルは、「セル等価回路モデル」とも呼ぶ。
【0017】
カルマンフィルタ演算部510は、上記の推定値を用いて、電池100のSOC及びSOHを計算し出力する。
【0018】
図2は、図1のカルマンフィルタ演算部510の状態推定部552の構成を示したものである。
【0019】
図2に示すように、状態推定部は、SOC推定部511、SOH推定部512、Io推定部513、RoG推定部514、Q推定部515、CCV推定部516、Qのカルマンゲイン推定部521、SOCのカルマンゲイン推定部522、Ioのカルマンゲイン推定部523、及びRoGのカルマンゲイン推定部524を有する。ここで、Qは、セルの満充電容量である。RoGは、セルの等価回路モデルにおける内部抵抗である。
【0020】
状態推定部には、各センサからI、T及びVが入力される。そして、I、T及びVを用いて推定されたSOC、SOH、Io及びRoGが出力される。これらの推定に際しては、所定のカルマンゲインが推定され用いられる。
【0021】
SOC、SOH、Io及びRoGは、下記式(1)~(4)を用いて逐次計算して求める。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
【数3】
【0025】
【数4】
【0026】
ここで、Qiniは、セルの新品時の容量である。単位はAhである。また、GsocはSOCのカルマンゲイン、GqはQのカルマンゲイン、GioはIoのカルマンゲイン、GrogはRoGのカルマンゲインである。これらのカルマンゲインは、カルマンフィルタ演算部510(図1)で逐次算出される。また、tは電圧、電流、温度のセンシング周期またはSOC、SOH、Io、RoGの演算周期であり、例えば1秒毎だとt=1となる。
【0027】
図3は、CCVを算出する際に用いる電池等価回路モデルを示したものである。
【0028】
図1の電池等価回路モデル記録部520には、予めSOC、T毎に電池等価回路のパラメータとして、OCV、電池等価回路を構成する抵抗の値R0、R1、R2、及びコンデンサの時定数τ1、τ2のマップを記録しておく。そして、CCV推定部516に入力されるSOC、T及びRoGから電池パラメータを推定すると共に、入力される電流(I)及び電流オフセット(Io)からCCVを算出する。
【0029】
算出されたCCVと、電圧センサで電池端子電圧を計測した電圧(V)との差分ΔCCVを求め、上記式(1)~(4)を用いて、カルマンゲイン(Gsoc、Gq、Gio、Grog)を乗算した値をSOC、Q、Io、RoGにそれぞれ加えることにより、SOC、Q、Io、RoGを更新する。
【0030】
カルマンフィルタ演算部510(図1)で算出されるカルマンゲインGの算出式は、下記式(5)及び(6)のとおりである。
【0031】
【数5】
【0032】
【数6】
【0033】
式中、P^(k)は事前誤差共分散、P(k)は事後誤差共分散、A、bは状態を示す行列、Cは観測値を示す行列、σ は観測ノイズ共分散、σ はシステムノイズ共分散である。なお、事前、事後はそれぞれ、「最新のデータ」を利用する前(before)と後(after)を意味する。
【0034】
各状態のカルマンゲインは、誤差共分散と共に逐次計算される。また、システムノイズ共分散は、図1のシステムノイズ共分散算出部530で、SOC、Q、Io、RoGの状態推定値毎に算出される。観測ノイズ共分散は、電池端子電圧を電圧センサ200(図1)で計測する時の共分散値であり、カルマンフィルタ演算部510において用いる設定値である。
【0035】
このようにして、カルマンフィルタ演算部510によりSOC、SOH、Io、RoGを逐次推定する。
【0036】
しかしながら、電池の劣化に伴い、図3の電池等価回路モデル内のパラメータが変動するため、SOC及びSOHの推定精度が低下する。
【0037】
これを防ぐために、電池の劣化を検知して、図1のシステムノイズ共分散算出部530のシステムノイズ共分散値を変更するように計算式のパラメータを設定する。言い換えると、システムノイズ共分散算出部530は、電池の劣化に応じて、カルマンフィルタ演算部510で用いる設定値であるシステムノイズ共分散値を変更する。
【0038】
上記式(5)及び(6)から、システムノイズ共分散値が変われば、カルマンゲインGが変わることがわかる。
【0039】
具体的には、電池劣化検知部540において、カルマンフィルタ演算部510で推定するSOHを使用する。SOHは、新品電池であれば通常100%であり、劣化すると90%、80%と値が下がっていく。このため、所定のSOHになった時にシステムノイズ共分散値を変えるようにする。システムノイズ共分散値については、特に、電池等価回路モデルに影響を与えるIo及びRoGのシステムノイズ共分散値を大きくすることで、カルマンゲインが大となる。これにより得られたカルマンゲインを用いて、電池等価回路モデルのパラメータの補正(変更)をする。これにより、電池が劣化した場合においても、高精度にSOC及びSOHを推定することが可能となる。
【0040】
まとめると、電池100の劣化は、電池100の容量(又はSOH)の減少、電池100の実際の内部抵抗の上昇又は電池100の実際の使用時間に対応する値で表されるものである。これらの値のいずれかがその初期値に対して所定量変化したときには、システムノイズ共分散算出部530がシステムノイズ共分散値を大きくする。
【0041】
なお、システムノイズ共分散値の変更の頻度は、所定の期間内に1回変更するだけでもよいが、推定値の精度を向上する観点から、SOHの低下に伴い、段階的に複数回システム共分散値を変更してもよい。また、本実施形態においては、カルマンフィルタ演算部510で推定したSOHを使用して電池劣化の検知をする例を示しているが、これに限定されるものではなく、他の方法で電池劣化を検知してもよい。例えば、充放電電流の変動と電圧の変動とを計測し、電池の内部抵抗を算出し、内部抵抗の増大により電池の劣化を検知してもよい。また、電池の実際の使用時間をカウントし、使用時間で電池の劣化を検知してもよい。ここで、使用時間は、電池の放電時間若しくは充電時間、又は放電時間及び充電時間の和を意味する。
【0042】
まとめると、電池の劣化は、電池の容量の減少、電池の実際の内部抵抗の上昇又は電池の実際の使用時間に対応する値で表されるものである。これらの値のいずれかがその初期値に対して所定量変化したときには、システムノイズ共分散算出部530がシステムノイズ共分散値を大きくする。
【0043】
図4は、本実施形態の電池状態推定方法を示すフロー図である。
【0044】
本図においては、カルマンフィルタ演算部が、電池に設置された電圧センサ、電流センサ及び温度センサの計測値を受信する(工程S11)。そして、カルマンフィルタ演算部が、それらの計測値と、電池等価回路モデル記録部に記録されている電池等価回路モデルと、を用いて、電池のSOC及びSOHと、電流センサのIoと、電池等価回路モデルで設定されている電池のRoGと、を逐次推定する(工程S12)。
【0045】
システムノイズ共分散算出部は、電池の劣化に応じて、カルマンフィルタ演算部で用いる設定値であるシステムノイズ共分散値を変更する(工程S13)。
【0046】
(実施形態2)
実施形態1では、システムノイズ共分散値を変更する条件として、電池の劣化に応じてとしたが、実施形態2では、電池への充電及び放電に基いてシステムノイズ共分散値を切替えることとしている。
【0047】
図5は、本実施形態の電池状態推定装置を示す構成図である。
【0048】
本図においては、電池状態推定装置500は、図1の電池劣化検知部540を有しない。その代わりに、システムノイズ共分散算出部530は、電池100の充電時の推定に用いる場合と放電時の推定に用いる場合とで、システムノイズ共分散値を変更するように構成されている。言い換えると、システムノイズ共分散算出部530は、電池100の充電時の推定に用いる場合と放電時の推定に用いる場合とで、システムノイズ共分散値を異なる値とするように構成されている。
【0049】
電池で駆動する家電品、電気自動車などでは、通常、充電電流よりも放電電流が大きい。そのため、上記式(1)より、放電時には電流オフセットIoの影響は小さくなる。また、カルマンゲインも小さくした方がSOCの誤差は小さくなる。
【0050】
具体的には、放電時には、充電時に比べて、Io及びRoGのシステムノイズ共分散値を小さくする。これにより、高精度にSOC及びSOHを推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
100:電池、200:電圧センサ、300:電流センサ、400:温度センサ、500:電池状態推定装置、510:カルマンフィルタ演算部、511:SOC推定部、512:SOH推定部、513:Io推定部、514:RoG推定部、515:Q推定部、516:CCV推定部、520:電池等価回路モデル記録部、521:Qのカルマンゲイン推定部、522:SOCのカルマンゲイン推定部、523:Ioのカルマンゲイン推定部、524:RoGのカルマンゲイン推定部、530:システムノイズ共分散算出部、540:電池劣化検知部、552:状態推定部、554:誤差分散算出部。
図1
図2
図3
図4
図5