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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】細胞外電位計測プレート
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20250703BHJP
【FI】
G01N27/416 341M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021150280
(22)【出願日】2021-09-15
(65)【公開番号】P2023042881
(43)【公開日】2023-03-28
【審査請求日】2024-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅和
(72)【発明者】
【氏名】灘原 壮一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-523726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0270176(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1529814(CN,A)
【文献】特開2012-031617(JP,A)
【文献】特開2005-233641(JP,A)
【文献】特開平11-187865(JP,A)
【文献】国際公開第2009/093458(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017094(WO,A1)
【文献】特開平07-218510(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198621(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108977343(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外電位計測プレートであって、
細胞外電位を計測するための少なくとも1つの作用電極と、
参照電極と、
前記作用電極に対して、前記参照電極よりも近くに位置し、細胞に誘電泳動力を作用させる電圧が印加される少なくとも1つの一対の誘電泳動電極と、
細胞を含む細胞懸濁液が滴下される計測面と、
を備え、
前記作用電極が、前記一対の誘電泳動電極の間に位置し、
前記一対の誘電泳動電極が、前記計測面に配置されており、
前記細胞外電位計測プレートは、
前記一対の誘電泳動電極の表面全部を覆う絶縁膜、
をさらに備える、細胞外電位計測プレート。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞外電位計測プレートであって、
前記作用電極および前記参照電極が、前記計測面に配置されている、細胞外電位計測プレート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の細胞外電位計測プレートであって、
前記作用電極が、前記一対の誘電泳動電極の最短経路上に配置されている、細胞外電位計測プレート。
【請求項4】
請求項3に記載の細胞外電位計測プレートであって、
前記一対の誘電泳動電極のうち少なくとも一方は、前記作用電極に近づくに連れて幅が狭くなる形状を有する、細胞外電位計測プレート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の細胞外電位計測プレートであって、
前記計測面は、
前記一対の誘電泳動電極と前記参照電極との間を通り、前記参照電極および前記一対の誘電泳動電極を囲む環状の液滴制御領域を有し、
前記液滴制御領域の接触角は、前記液滴制御領域より内側の領域の接触角よりも大きい、細胞外電位計測プレート。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細胞外電位計測プレートであって、
複数の前記作用電極と、
複数の前記一対の誘電泳動電極と、
を備え、
各前記作用電極が、各前記一対の誘電泳動電極の間に配置される、細胞外電位計測プレート。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞外電位計測プレートであって、
2つの前記作用電極の間に、共通の配線で互いに電気的に接続された2つの前記誘電泳動電極が配置されている、細胞外電位計測プレート。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の細胞外電位計測プレートであって、
前記作用電極に対して、前記一対の誘電泳動電極よりも遠くに位置し、夾雑物に誘電泳動力を作用させる電圧が印加される一対の誘電泳動サブ電極、
をさらに備える、細胞外電位計測プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外電位計測プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電極により構成される電極アレイ(Micro-Electrode Array)を備えた細胞計測容器を用いて、細胞の活動により生じる細胞外電位を計測するシステムが知られている。当該システムでは、例えば、神経細胞の細胞外電位を計測することができる。従来の細胞計測容器の構造は、特許文献1などに記載されている。
【0003】
細胞計測容器の電極アレイは、作用電極と、参照電極とを含む。細胞外電位を計測するときには、まず、細胞を含む培養液(細胞懸濁液)が、作用電極の上に滴下される。すなわち、細胞懸濁液が、複数の作用電極を覆うように滴下される。細胞懸濁液の滴下後、液中の複数の細胞が、作用電極上に沈下し、細胞層を形成する。細胞層が形成された後、複数の作用電極および参照電極に接続された計測装置により、細胞層の細胞外電位が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2002-523726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作用電極上に細胞懸濁液が滴下された後、液滴内の細胞は液滴の底面全体に広がる。しかしながら、作用電極の大きさは、液滴の底面に対して極めて小さいため、大部分の細胞は、作用電極外に沈下することとなる。そうすると、大部分の細胞は、細胞外電位の計測に寄与しないため、細胞が無駄に消費されることとなる。IPS細胞などは、極めて高価なため、できるだけ細胞の使用量を少なくすることが望まれている。しかしながら、細胞懸濁液中の細胞数を少なくすると、作用電極上に充分な細胞が沈下しないことにより、細胞外電位の計測を有効に行うことが困難となる。
【0006】
本発明の目的は、細胞懸濁液中の細胞が少ない場合であっても、細胞外電位を有効に計測できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1態様は、細胞外電位計測プレートであって、細胞外電位を計測するための少なくとも1つの作用電極と、参照電極と、前記参照電極よりも前記作用電極に近い位置に配置され、細胞に誘電泳動力を作用させる電圧が印加される少なくとも1つの一対の誘電泳動電極と、細胞を含む細胞懸濁液が滴下される計測面と、を備え、前記作用電極が、前記一対の誘電泳動電極の間に位置し、前記一対の誘電泳動電極が、前記計測面に配置されており、前記細胞外電位計測プレートは、前記一対の誘電泳動電極の表面全部を覆う絶縁膜、をさらに備える。
【0008】
第2態様は、第1態様の細胞外電位計測プレートであって、前記作用電極および前記参照電極が、前記計測面に配置されている。
【0010】
態様は、第態様または第2態様の細胞外電位計測プレートであって、前記作用電極が、前記一対の誘電泳動電極の最短経路上に配置されている。
【0011】
態様は、第態様の細胞外電位計測プレートであって、前記一対の誘電泳動電極のうち少なくとも一方は、前記作用電極に近づくに連れて幅が狭くなる形状を有する。
【0013】
態様は、第態様から第態様のいずれか1つの細胞外電位計測プレートであって、前記計測面は、前記一対の誘電泳動電極と前記参照電極との間を通り、前記参照電極および前記一対の誘電泳動電極を囲む環状の液滴制御領域を有し、前記液滴制御領域の接触角は、前記液滴制御領域より内側の領域の接触角よりも大きい。
【0014】
態様は、第1態様から第態様のいずれか1つの細胞外電位計測プレートであって、複数の前記作用電極と、複数の前記一対の誘電泳動電極と、を備え、各前記作用電極が、各前記一対の誘電泳動電極の間に配置される。
【0015】
態様は、第態様の細胞外電位計測プレートであって、2つの前記作用電極の間に、共通の配線で互いに電気的に接続された2つの前記誘電泳動電極が配置されている。
【0016】
態様は、第1態様から第態様のいずれか1つの細胞外電位計測プレートであって、前記作用電極に対して、前記一対の誘電泳動電極よりも遠くに位置し、夾雑物に誘電泳動力を作用させる電圧が印加される一対の誘電泳動サブ電極、をさらに備える
【発明の効果】
【0017】
第1態様の細胞外電位計測プレートによれば、一対の誘電泳動電極間に電圧を印加することにより、細胞を一対の誘電泳動電極の間に引きつけることができる。これにより、作用電極に細胞を捕集できるため、細胞が少ない場合であっても、細胞外電位を有効に計測できる。
態様の細胞外電位計測プレートによれば、計測面に配置された一対の誘電泳動電極により細胞を捕集できる。
第1態様の細胞外電位計測プレートによれば、一対の誘電泳動電極を絶縁膜で覆うことにより、一対の誘電泳動電極が液体と直接接することが抑制される。このため、一対の誘電泳動電極間に細胞を移動させるほどの高電圧を印加した場合でも、電極金属の電気分解を抑制できる。また、一対の誘電泳動電極を絶縁膜で覆うことにより、電極金属の劣化および摩耗を抑制できる。
【0018】
第2態様の細胞外電位計測プレートによれば、計測面に配置された作用電極および参照電極を用いて、細胞外電位を計測できる。
【0020】
態様の細胞外電位計測プレートによれば、作用電極上に細胞を効率的に捕集できる。
【0021】
態様の細胞外電位計測プレートによれば、作用電極に近くで強い電界を発生させることができるため、作用電極への細胞の捕集能力を向上できる。
【0023】
態様の細胞外電位計測プレートによれば、細胞懸濁液を計測面上に滴下したときに、液滴制御領域の内側に液滴を維持できる。この状態で、一対の誘電泳動電極間に電圧を印加することによって、細胞を作用電極上に効率的に捕集できる。
【0024】
態様の細胞外電位計測プレートによれば、作用電極に細胞を捕集できる。
【0025】
態様の細胞外電位計測プレートによれば、2つの誘電泳動電極を共通の配線で接続することにより、配線に必要なスペースを小さくすることができる。
【0026】
態様の細胞外電位計測プレートによれば、細胞懸濁液に夾雑物が含まれる場合に、一対の誘電泳動サブ電極に夾雑物を選択的に引き寄せる電圧を、一対の誘電泳動サブ電極に印加することによって、夾雑物を作用電極から遠ざけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態に係る細胞外電位計測プレートの概略斜視図である。
図2図1に示す細胞外電位計測プレートの計測面を示す上面図である。
図3図2に示すA-A線に沿う位置における細胞外電位計測プレートの断面の一部を示す図である。
図4】多数の細胞が作用電極上に捕集される様子を概念的に示す平面図である。
図5】誘電泳動電極の変形例を示す図である。
図6】誘電泳動電極のその他の変形例を示す図である。
図7】第2実施形態に係る細胞外電位計測プレートの計測面を示す上面図である。
図8】第3実施形態に係る細胞外電位計測プレートの計測面を示す上面図である。
図9】第4実施形態に係る細胞外電位計測プレートの計測面を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。また、作用電極20を通る上下方向に延びる軸を想定し、当該軸を中心とする回転方向を「周方向」と称する。
【0029】
<1. 第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る細胞外電位計測プレート1の概略斜視図である。図1以降の各図においては、作用電極20、誘電泳動電極41,42、参照電極31,32に接続されている配線については、一部のみを図示しており、詳細な構造を省略している。
【0030】
細胞外電位計測プレート1は、内部に細胞および培地を収容および保持するとともに、細胞外電位を計測するための容器である。細胞外電位計測プレート1は、底面に、細胞外電位計測プレート1内に収容された細胞または組織の電気的特性を計測するための電極を有している。
【0031】
細胞外電位計測プレート1は、カップ状の凹部90を有する本体部9と、凹部90の底面を構成する計測面8とを有する。細胞外電位計測プレート1は、本体部9が1つの凹部90を有する有底円筒形の容器である。本体部9は、平板状の底部91と、底部91の縁部から上方に延びる側壁部92とを有する。底部91の上面が計測面8となっている。なお、細胞外電位計測プレート1は、複数の凹部90を有する、いわゆるマルチウェルプレートであってもよい。
【0032】
以下の説明では、計測面8と平行な方向を「水平方向」と称し、計測面8と直交する方向を「上下方向」と称する。なお、細胞外電位計測プレート1の使用時において、計測面8が水平方向と平行になることは必須ではない。
【0033】
細胞外電位計測プレート1は、計測面8が鉛直上向きとなるように、載置台等に載置される。そして、細胞を含む所定量の懸濁液(以下、「細胞懸濁液」と称する。)が、計測面8の上に滴下される。細胞懸濁液の滴下量は、例えば数μL(例えば4μL)程度である。細胞懸濁液が滴下された後、細胞外電位計測プレート1は、そのままの姿勢で一定時間放置される。この間に、滴下された細胞懸濁液中に含まれる細胞は、液中を沈下して、計測面8上においてシート状の細胞層を形成する。
【0034】
図2は、図1に示す細胞外電位計測プレート1の計測面8を示す上面図である。図3は、図2に示すA-A線に沿う位置における細胞外電位計測プレート1の断面の一部を示す図である。
【0035】
図2に示すように、細胞外電位計測プレート1の計測面8には、作用電極20と、一対の参照電極31,32と、一対の誘電泳動電極41,42とがそれぞれ配置されている。すなわち、作用電極20と、参照電極31,32と、誘電泳動電極41,42とは、凹部90内にそれぞれ配置されている。各電極は、例えば、Au、Pt、Ti、又は窒化チタン(TiN)やインジウム酸化スズ(InSnO)等の導電性化合物、又はTi/Al/Ti等の積層構によって構成され得る。
【0036】
作用電極20は、細胞外電位を計測するための電極である。上面視における作用電極20の形状は、正方形である。ただし、作用電極20の形状は、正方形に限定されるものではなく、長方形または丸形など、任意に選択し得る。
【0037】
参照電極31,32は、水平方向である第1方向d1に間隔をあけて配置されている。平面視において、参照電極31,32は、水平方向であって第1方向d1に直交する第2方向d2に延びる長方形である。参照電極31,32は、互いの長辺が向かい合う姿勢で配置されている。なお、参照電極31,32の形状は、長方形に限定されるものではなく、正方形状または丸形など、任意に選択し得る。また、参照電極31,32の形状は、周方向に沿った円弧状であってもよい。図示を省略するが、参照電極31,32は、配線によって電気的に接続されている。参照電極は、細胞外電位の計測時において、電位の基準点を与える電極である。なお、細胞外電位計測プレート1は、参照電極31,32のうち一方のみを備えていてもよい。
【0038】
誘電泳動電極41,42は、計測面8に滴下される細胞懸濁液中の細胞(または組織片)を、誘電泳動電極41,42間に引きつけるための電極である。誘電泳動電極41,42は、第1方向d1に間隔をあけて配置されている。
【0039】
第1方向d1において、作用電極20は、誘電泳動電極41,42の間に配置されている。誘電泳動電極41は、作用電極20に対して、参照電極31よりも近くに位置する。すなわち、作用電極20と誘電泳動電極41の間隔は、作用電極20と参照電極31の間隔よりも狭い。また、誘電泳動電極42は、作用電極20に対して、参照電極32よりも近くに位置する。すなわち、作用電極20と誘電泳動電極42の間隔は、作用電極20と参照電極32の間隔よりも狭い。
【0040】
作用電極20、参照電極31,32および誘電泳動電極41,42は、第1方向d1に配列されている。誘電泳動電極41は、第1方向d1において、作用電極20と参照電極31との間に配置されている。また、誘電泳動電極42は、第1方向d1において、作用電極20と参照電極32との間に配置されている。なお、参照電極31,32および誘電泳動電極41,42が、同じ方向(第1方向d1)に配列されることは必須ではない。例えば、参照電極31,32が第1方向d1に配列され、誘電泳動電極41,42が第1方向d1と交差する方向(例えば、第2方向d2)に配列されていてもよい。
【0041】
図3に示すように、作用電極20、参照電極31,32、誘電泳動電極41,42の各表面は、シリコン酸化膜(SiOx膜)等の絶縁膜50によって覆われている。ただし、作用電極20のうち一部は、絶縁膜50に覆われておらず、外部に露出している。また、参照電極31,32の各表面の一部は、絶縁膜50に覆われておらず、外部にそれぞれ露出している。一方、誘電泳動電極41,42の表面全部は、絶縁膜50で完全に覆われており、外部に露出していない。
【0042】
図4は、多数の細胞cが作用電極20上に捕集される様子を概念的に示す平面図である。細胞層を形成する場合、まず、作用電極20および誘電泳動電極41,42上に、細胞懸濁液が滴下される。この状態では、図4上段に示すように、多数の細胞cが、液滴内で分散した状態で浮遊している。細胞懸濁液が滴下された後、誘電泳動電極41,42間に、細胞懸濁液中の細胞cの電気的特性に応じた交流電圧が印加される。これにより、多数の細胞cに、誘電泳動電極41,42間に引きつける誘電泳動力が作用する。そして、時間の経過により、図4下段に示すように、誘電泳動電極41,42間に引きつけられた細胞cが、沈下することによって作用電極20上に蓄積する。これにより、作用電極20上に細胞層が形成される。
【0043】
以上のように、細胞外電位計測プレート1によれば、細胞懸濁液中の細胞cが少ない場合であっても、誘電泳動電極41,42によって細胞cを作用電極20上に捕集できる。これにより、作用電極20上に細胞層を形成できるため、細胞外電位を適切かつ有効に計測できる。また、IPS細胞などの高価な細胞について細胞外電位を計測する場合に、細胞の消費量を削減できるため、計測にかかるコストを抑制できる。
【0044】
図2に示すように、作用電極20は、好ましくは、誘電泳動電極41,42の中央に配置されている。また、作用電極20は、好ましくは、誘電泳動電極41,42を結ぶ最短経路上に配置されている。これにより、作用電極20上の電界を大きくすることができるため、作用電極20上に細胞cを効率的に捕集できる。
【0045】
誘電泳動電極41,42が絶縁膜50で覆われているため、誘電泳動電極41,42が液体と接することが抑制される。これにより、誘電泳動電極41,42間に、細胞cを移動させるほどの高周波高電圧が印加された場合でも、電極金属の電気分解を抑制できる。また、誘電泳動電極41,42が絶縁膜50で覆われていることにより、電極金属の劣化および摩耗を抑制できる。
【0046】
図5は、誘電泳動電極41,42の変形例を示す図である。図6は、誘電泳動電極41,42のその他の変形例を示す図である。図5および図6に示すように、誘電泳動電極41,42は、作用電極20に近づくに連れて幅が狭くなる形状を有している。具体的には、図5に示す例では、誘電泳動電極41,42の先端が、尖形状である。また、図6に示す例では、誘電泳動電極41,42の先端が、円弧状である。いずれの場合であっても作用電極20の近くで強い電界を発生させることができるため、作用電極20への細胞cの捕集能力を高めることができる。
【0047】
図2に示すように、計測面8は、液滴の広がりを制御するための液滴制御領域60を有していてもよい。液滴制御領域60は、円環状を有している。ただし、液滴制御領域60の形状が、円環状であることは必須ではなく、角環状等であってもよい。図2に示すように、液滴制御領域60は、誘電泳動電極41と参照電極31との間、および、誘電泳動電極42と参照電極32との間に配置されている。作用電極20および誘電泳動電極41,42は、液滴制御領域60の内側の作用領域62に配置されている。また、参照電極31,32は、液滴制御領域60の外側の参照領域64に配置されている。
【0048】
液滴制御領域60の表面は、例えば、金(Au)で構成される。一方、作用領域62(ただし、作用電極20の露出部分を除く。)の表面は、絶縁膜50で構成されている。金(Au)の平面状表面の接触角は約80°である。また、絶縁膜50がシリコン酸化膜で構成されている場合、絶縁膜50の平面状表面の接触角は、30°未満である。このため、液滴制御領域60の接触角(約80°)は、作用領域62の接触角(30°未満)よりも大きい。
【0049】
液滴制御領域60の接触角を、作用領域62の接触角よりも大きくすることによって、作用領域62に液滴が滴下された場合に、液滴制御領域60よりも外側に液滴が広がることを抑制できる。この状態で、誘電泳動電極41,42によって細胞cに誘電泳動力を作用させることによって、作用電極20上に細胞層を有効に形成できる。
【0050】
参照領域64(ただし、参照電極31,32の露出部分を除く。)の平面状表面も、作用領域62と同様に、絶縁膜50で覆われている。このため、液滴制御領域60の接触角は、参照領域64の接触角よりも大きくなる。
【0051】
なお、液滴制御領域60の表面が、金(Au)で構成されることは必須ではない。すなわち、液滴制御領域60の接触角が、作用領域62の接触角よりも大きければ、液滴制御領域60の表面はどのような素材であってもよい。また、絶縁膜50の平面状表面の接触角が、底部91の平面状表面の接触角よりも大きい場合、液滴制御領域60を絶縁膜50で覆われた領域とし、作用領域62を絶縁膜50で覆われていない、底部91が露出した領域としてもよい。例えば、絶縁膜50が、感光性ポリイミド(接触角が約60°~約70°)で構成され、底部91が、石英ガラス(接触角が30°未満)で構成されている場合、絶縁膜50の接触角が、底部91の接触角よりも大きくなる。このとき、液滴制御領域60を絶縁膜50で覆われた領域とし、作用領域62を底部91が露出した領域とすることにより、液滴制御領域60の接触角を作用領域62の接触角よりも大きくすることができる。
【0052】
<2. 第2実施形態>
図7は、第2実施形態に係る細胞外電位計測プレート1Aの計測面8を示す上面図である。図7に示すように、細胞外電位計測プレート1Aは、参照電極31,32の間に、4つの作用電極20と、四対の誘電泳動電極41,42とを有している。すなわち、細胞外電位計測プレート1は、作用電極20と誘電泳動電極41,42の組合せを、4組備えている。4つの作用電極20は、第2方向d2に2行、第1方向d1に2列となるマトリクス状に配列されている。各作用電極20は、第1実施形態における作用電極20と同様に、第1方向d1において、一対の誘電泳動電極41,42の間に配置されている。
【0053】
細胞外電位計測プレート1Aによれば、計測面8上において、複数の作用電極20が分散して配置されているため、細胞外電位を異なる位置で計測できる。また、細胞懸濁液を滴下した後、各対の誘電泳動電極41,42間に所定の交流電圧を印加することにより、細胞cを各作用電極20上に捕集できる。したがって、細胞数が少ない場合でも、各作用電極20上に細胞層を形成できるため、細胞外電位を適切かつ有効に計測できる。
【0054】
また、細胞外電位計測プレート1Aによれば、各対の誘電泳動電極41,42間に異なる交流電圧を印加することによって、作用電極20毎に、電気的特性が異なる細胞c
を選択的に捕集できる。したがって、細胞懸濁液に含まれる細胞cのサイズまたは熟成度等の特性に応じて、一対の誘電泳動電極41,42毎に印加する交流電圧を適切に設定することによって、特性の異なる多数の細胞cを、各作用電極20上に選択的に分離できる。そして、分離した細胞cを、細胞外電位の計測結果に基づいて、評価できる。
【0055】
なお、作用電極20の数量は、4つに限定されるものではなく、2~3つ、または、5つ以上であってもよい。また、1つの作用電極20に対して、一対の誘電泳動電極41,42が設けられることは必須ではない。すなわち、2つ以上の作用電極20に対して、一対の誘電泳動電極41,42が設けられていてもよい。換言すると、一対の誘電泳動電極41,42の間に、複数の作用電極20が配置されていてもよい。
【0056】
<3. 第3実施形態>
図8は、第3実施形態に係る細胞外電位計測プレート1Bの計測面8を示す上面図である。細胞外電位計測プレート1Bは、細胞外電位計測プレート1Aと同様に、参照電極31,32の間に、4つの作用電極20と、四対の誘電泳動電極41,42とを備えている。ただし、第1方向d1に並ぶ2つの作用電極20,20の間に配置された誘電泳動電極42,42は、共通の配線44によって電気的に接続されている。このように、誘電泳動電極42,42が共通の配線44で接続されることにより、複数の誘電泳動電極42の配線に必要なスペースを小さくすることができる。また、共通の配線44を、電源またはGNDに接続することにより、2つの誘電泳動電極42,42の電位を制御することができる。このため、細胞外電位を計測するための計測装置の回路構成を単純化できる。
【0057】
<4.第4実施形態>
図9は、第4実施形態に係る細胞外電位計測プレート1Cの計測面8を示す上面図である。図9に示すように、細胞外電位計測プレート1Cの計測面8には、作用電極20、参照電極31,32、および誘電泳動電極41,42に加えて、一対の誘電泳動サブ電極71,72が配置されている。
【0058】
誘電泳動サブ電極71,72は、第1方向d1に離れて配置されている。上面視における誘電泳動サブ電極71,72の形状は、第2方向d2に延びる長方形状である。誘電泳動サブ電極71,72は、互いの長辺が第1方向d1において対向している。なお、誘電泳動サブ電極71,72の形状は、長方形以外であってもよい。誘電泳動サブ電極71,72は、誘電泳動電極41,42と同じ金属で構成され得る。また、誘電泳動サブ電極71,72の表面は、絶縁膜50で覆われている。
【0059】
誘電泳動サブ電極71は、作用電極20に対して参照電極31よりも近くに位置する。すなわち、作用電極20と誘電泳動サブ電極71の間隔は、作用電極20と参照電極31の間隔よりも狭い。また、誘電泳動サブ電極71は、作用電極20に対して誘電泳動電極41よりも遠くに位置する。すなわち、作用電極20と誘電泳動サブ電極71の間隔は、作用電極20と誘電泳動電極41の間隔よりも大きい。
【0060】
誘電泳動サブ電極72は、作用電極20に対して参照電極32よりも近くに位置する。また、誘電泳動サブ電極72は、作用電極20に対して誘電泳動電極42よりも遠くに位置する。
【0061】
作用電極20、参照電極31,32、誘電泳動電極41,42および誘電泳動サブ電極71,72は、第1方向d1に配列されている。誘電泳動サブ電極71,72は、第1方向d1において、参照電極31,32の間に位置する。誘電泳動サブ電極71は、第1方向d1において、参照電極31と誘電泳動電極41の間に位置する。また、誘電泳動サブ電極72は、第1方向d1において、参照電極32と誘電泳動電極42の間に位置する。作用電極20および誘電泳動電極41,42は、第1方向d1において、誘電泳動サブ電極71,72の間に配置されている。
【0062】
計測面8に滴下する細胞懸濁液に、目的とする細胞c以外の夾雑物(細菌類または組織片等)が含まれる場合、誘電泳動サブ電極71,72間には、当該夾雑物を特異的に引きつける交流電圧が印加される。これにより、夾雑物が誘電泳動サブ電極71,72に引き寄せられるため、夾雑物を作用電極20から遠ざけることができる。したがって、作用電極20上において、夾雑物が細胞層の形成を阻害することを抑制できるため、細胞外電位を有効に計測できる。
【0063】
第2方向d2において、誘電泳動サブ電極71,72の寸法は、誘電泳動電極41,42の寸法よりも大きい。このため、誘電泳動サブ電極71,72は、第2方向d2に広い範囲に電界を発生させることができる。したがって、夾雑物を有効に引き寄せることができる。
【0064】
誘電泳動サブ電極71,72の間隔は、誘電泳動電極41,42の間隔よりも大きい。このため、誘電泳動サブ電極71,72により、夾雑物を誘電泳動電極41,42の間の領域よりも外側に引き寄せることができる。
【0065】
なお、誘電泳動電極41,42および誘電泳動サブ電極71,72が、同じ方向(第1方向d1)に配列されることは必須ではない。例えば、誘電泳動電極41,42が第1方向d1に配列され、誘電泳動サブ電極71,72が第1方向d1と交差する方向(例えば、第2方向d2)に配列されていてもよい。
【0066】
また、参照電極31,32および誘電泳動サブ電極71、72が、同じ方向(第1方向d1)に配列されることは必須ではない。例えば、参照電極31,32が第1方向d1に配列され、誘電泳動サブ電極71,72が第1方向d1と交差する方向(例えば、第2方向d2)に配列されていてもよい。
【0067】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0068】
1,1A,1B,1C 細胞外電位計測プレート
8 計測面
20 作用電極
31,32 参照電極
41,42 誘電泳動電極
44 配線
50 絶縁膜
60 液滴制御領域
71,72 誘電泳動サブ電極
c 細胞

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9